死刑制度に関する政府世論調査結果についての会長談話


本年2月21日、死刑制度に対する意識調査を含む「基本的法制度に関する世論調査」の結果が公表された。


当連合会は、「死刑制度に関する政府世論調査に対する意見書」(2024年1月19日付け)において、本世論調査に関し、質問の追加等を提言したところであるが、いずれも採用されなかった。政府は、死刑制度に関する世論を更に幅広く、かつ正確に把握するという観点から、調査内容等の見直しを進めていくべきである。


今回の調査結果によれば、死刑制度に関し、「死刑は廃止すべきである」と回答した人の割合が16.5%(前回調査9.0%)、「死刑もやむを得ない」と回答した人の割合が83.1%(前回調査80.8%)となっている。今回から調査方法が個別面接聴取法から郵送法に変わり、「わからない・一概に言えない」の回答分類がなくなっていることなどから、前回調査の数値と単純に比較することはできない。しかしながら、「死刑は廃止すべきである」と回答した人の割合が、前回調査と比べて、約1.8倍にまで増加していることは注目に値する。


とはいえ、この両者の数字だけに着目すると、国民の大半が死刑制度の存置に賛成しているかのように見える。しかし、「死刑もやむを得ない」と回答した人の中には、死刑制度を積極的に支持するのではなく、まさに「やむを得ない」と考えている人が含まれている。「死刑もやむを得ない」と回答した人(83.1%)のうち、「状況が変われば、将来的には、死刑を廃止してもよい」と回答した人の割合は34.4%にも上っている(「将来も死刑を廃止しない」は64.2%)。これに「死刑は廃止すべきである」とする人の割合(16.5%)を加えると、将来の死刑制度の廃止を容認している人の割合は全体の45.1%(×ばつ34.4%+16.5%)となり、「将来も死刑を廃止しない」の53.4%(×ばつ64.2%)に迫るものとなる。


したがって、「死刑は廃止すべきである」(16.5%)と「死刑もやむを得ない」(83.1%)という回答比率をもって、国民の死刑制度に関する賛否の態度を表していると評価することは不適切である。


また、国民各界及び各層の有識者の参加を得て設立された「日本の死刑制度について考える懇話会」(座長:井田良(中央大学大学院教授、前法制審議会会長))は、2024年11月13日、その報告書において、「現行の日本の死刑制度とその現在の運用の在り方は、放置することの許されない数多くの問題を伴っており、現状のままに存続させてはならない」、「世論調査において国民の多くが死刑制度の存置をやむを得ないと答えているとしても、......(そのことは)死刑制度を何らの改革・改善も行わず、現在のような形のまま存続させることの理由となるものではない」との認識の下、「早急に、国会及び内閣の下に死刑制度に関する根本的な検討を任務とする公的な会議体を設置すること」を提言した。


いまや死刑制度の廃止は国際的な潮流となっており、国連自由権規約委員会も「第7回日本定期報告審査に係る総括所見」(2022年11月30日)において、「死刑の廃止を検討し、必要に応じて、死刑廃止に向けた世論を喚起するための適切な啓発措置を通じて、死刑廃止の必要性について国民に周知すること」を勧告している。


したがって、政府は、世論調査の結果を表層的に捉えて死刑制度の廃止に関する国民的議論を回避するのではなく、死刑制度に関する情報公開を進め、国民的議論を喚起する施策を講ずるべきである。


当連合会は、2016年10月7日、第59回人権擁護大会において、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択して以降、国に対し、死刑制度を廃止する立法措置を講ずるよう求めてきたところであるが、まずは早急に同懇話会が提言するような公的な会議体を設置し、同会議体の下で、現行の死刑制度に関する情報を集約しつつ、広く様々な人々の意見を聴き、国際的な情勢も踏まえながら、1年ないし2年といった短期間において集中的に検討を行い、死刑制度の廃止に向けた立法措置を講ずることを求める。また、死刑再審無罪が確定した「袴田事件」などの死刑再審事件においては死刑執行による人権侵害が顕著であることは論を俟たず、死刑制度の廃止についての結論が出るまでの間、死刑の執行を停止することを求める。



2025年(令和7年)3月18日

日本弁護士連合会
会長 渕上 玲子

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