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北海道発グローバルスタートアップ!エッジAI・画像解析技術で新たな価値創出へ/AWL株式会社

AWL株式会社は、エッジAI技術とコンピュータビジョン・画像解析映像解析の技術を持った企業です。北海道で2016年に創業、現在20カ国以上の多国籍メンバーが在籍して、大きく成長。北海道大学の技術を活用したスタートアップとして、「大学発ベンチャー表彰2024」ではNEDO理事長賞を獲得されました。

“AWLが起こすイノベーションは、私が生きている間は唯一無二だと思う”と語る北出社長にどのようにして技術と出会い、多国籍のメンバーが集うスタートアップとなったのか、AWLの創業時からこれまでの成長の軌跡について伺いました。

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    AWL株式会社 代表取締役社長兼CEO 北出宗治 氏
  1. 1.身近にあるエッジAI
  2. 2.課題を解決するために創業
  3. 3.創業時から社内はグローバル
  4. 4.北海道という地域特性を追い風に
  5. 5.AWLの現在地と将来に向けて
  6. 6.NEDOのスタートアップ支援の活用
  7. 7.読者へのメッセージ

1.身近にあるエッジAI

-貴社が取り組まれているエッジAI技術について教えてください。

我々は「エッジデバイス」というネットワーク端末機器へ組み込むタイプの映像解析AI技術に取り組んでいます。人間でいう「目」の部分をリアル空間で実装していく、補う技術です。

-具体的にはどのような用途で利用されているのでしょうか。

大きく2つあります。まず防犯カメラです。一説には、防犯カメラは今や日本国内に約650万台設置されており、主な用途は事件や事故などの際の証拠保存のみと言われています。こうした防犯カメラの映像をエッジAI技術を活用することによって、個人情報を取得せずにリアルタイムに分析し、数値化したりアラートを出したりすることができるため、大きなイノベーションになるだろうと思いました。そこで防犯カメラをAI化するプロダクトとして生まれたのが「AWLBOX」です。

もう1つが、電子掲示板などのデジタルサイネージ。デジタルサイネージが今、非常に増えている理由としては、大幅なコスト削減につながるからです。紙の広告は印刷して運び、飾ったあとは捨ててしまうため無駄になります。また、人力での貼り替えコストもかかります。これをデジタルサイネージにすれば、印刷や輸送、廃棄作業が不要になり、貼り替えも一斉にデジタルで可能です。さらに、デジタルサイネージに内蔵されているカメラや外付けのカメラにAI映像解析技術を組み込んで、受け手の性別や年齢、視聴時間をリアルタイムで判別し、受け手によって広告表示分けできるようなことができれば大きく価値が出るだろうということで、デジタルサイネージをAI化するプロダクトとして「AWL Lite」を作りました。

この2つ以外にも、例えばドローン、ドライブレコーダー、銀行のATMなどのように、個別デバイスに応じた開発を行い、それぞれに適したソリューションを提供しています。

2.課題を解決するために創業

-AWLという社名はユニークですが、どのような思いが込められているのでしょうか。

AWLというのは、AIとOWLを組み合わせた造語です。OWLはフクロウの英語名で、フクロウは私の出身地・北海道に住むアイヌの人々の守り神です。そこで、このフクロウに着目し、我々はフクロウのように人間を見守り寄り添い、より人間が豊かに暮らせるようなパートナーとして、そばにいるためのAIを提供するという考え方から、フクロウとAIを合わせて「AWL」という社名にしました。

また、我々は北海道大学発ベンチャーとして、北海道大学の調和系工学研究室(川村秀憲教授)から出てきています。この研究室は戦後からAIの研究をしており、リアル空間において人間とAIがいかに調和するか、協調するかということを研究しているので、その流れも汲んでいます。

-創業に至ったきっかけとして、北海道大学の調和系工学研究室の川村教授とはどのような出会いがあったのでしょうか。

川村教授は、2015年に株式会社サッポロドラッグストアー(以下、サツドラ)の富山社長から紹介してもらいました。

当時、私は個人会社でコンサルティングなどを請け負っており、大手企業からAIを使って何かできないかと相談を受けていました。それまで私はインターネット系の仕事をずっとやってきて、AIについては多少の知識はあったものの、ビジネスへの実用化はまだ無理ではないかと考えていたので、相談に対して提案できることが思いつかず困っていました。同時期にサツドラのECサイトの立ち上げをお手伝いしていたので、ある日、サツドラの富山社長に「AIの提案を求められていて困っているんですよ。誰か良い人知りませんかね?」と相談したところ、ベストパーソンがいると。それが川村教授でした。

川村教授から、これからはまさにAIの時代がくる、しかもそのAIはクラウド上のAIではなく、リアル空間にAIを実装した時に本当の社会変革や大きなインパクトがあるという話を伺い、私自身もリアル空間にAI実装することの可能性にわくわくしました。そこで、AIのビジネス化に本腰を入れて取り組みたいと思ったのです。

大手企業にAIを活用した提案をしたところ、「ぜひやりたい」とのことで、受け皿となる会社が必要となったのでAWLを設立しました。

-サツドラの仲介を受けて出会われたのですね。サツドラからは出資も頂いているようですが、どのような関係なのですか。

2016年6月にAWLを作って、2017年6月にサツドラの子会社になりました。会社設立から1年後に子会社化することは滅多にないことです。リアル空間のAI化事業を進めるには、データや実証現場が必要です。受託事業で売り上げはあったものの、会社としての実績も信頼も乏しい状況で、データや実証現場不足を全部解決できる最善の手段は、サツドラの傘下に入ることでした。

-サツドラではどのようなプロダクトに取り組まれたのでしょうか。

最初はシフトの最適化や配送ルートの最適化、需要予測など、AIを活用したさまざまな取り組みを行いました。その中の1つのテーマがAIカメラの低コスト化でした。当時、テスト導入していた他社AIカメラに対し「PoCとしては良いものの、200店舗に広げるには高額すぎて導入が困難。月額数万円まで下げたら投資対効果が合ってくるので、低コストのAIカメラを何か考えて欲しい」という課題をいただきました。その時に、クラウドサーバーでのデータ処理ではなく、エッジによる映像解析しかないという考えが生まれました。

当時はまだエッジAIデバイスがなく、自作で製作して取り組んでいました。求められる課題やコストを実現するためには、今までのアーキテクトでは無理だというところからスタートしたので、技術ベースで開発するのではなく、課題に対応するためにはどうしたらよいかを起点に取り組んでいきました。そういった知見を溜めながら、受託で食いつなぎつつ再投資、再投資でやってきたのが創業初期でした。

3.創業時から社内はグローバル

-会社のメンバーも増えて、現在では20か国以上のメンバーが働いていらっしゃると伺って驚きました。海外人材の採用ということで苦労されている点もあるのではないでしょうか。

海外人材の採用という点で、我々は2つの強みがあります。1点目はまず、AWLの起点となった調和系工学研究室がある北海道大学で、海外留学生をAI人材として取り込めたことです。2016年の創業時はAI人材がほとんどおらず、いても高給で無名のスタートアップでは採用できませんでした。一方で北海道大学には各国の将来を担う人材として、国費で留学してくるような優秀な人材が、調和系工学研究室だけでなく他の研究室にもいました。最先端のAI研究開発のAWLの募集を出すと、多くの応募がありました。最先端の研究開発や商品企画に携われること、日本語が必須ではないことが留学生コミュニティで広まり、口コミで全国のAI人材がどんどん来てくれるようになりました。

ただ、海外人材に来てもらうだけでは不十分で、マネジメントが必要でした。そこで2点目の強みとなったのが、海外人材のマネジメント経験があり、英語での管理業務も可能な土田CHRO(Chief Human Resource Officer)がいたことです。創業当初から海外人材とともに開発体制を立ち上げたこと、海外人材のマネジメントが可能な土田CHROがいたこと、この2つの両輪があったので、現在の多様性ある開発体制や社風を築くことができたのだと思います。創業当初からこのような採用の形がベースとなっているため、いわゆる人材採用エージェントを使ってエンジニアを採用することはほとんどありませんでした。

-創業当初から社内の共通言語は英語でということなのですね。

そうですね。例えば、日本語が共通言語だったものを、途中で英語に転換するのはなかなか難しいと思いますが、我々は最初から海外人材も多くいる体制でチャレンジしているので、そこまで抵抗がありませんでした。

会社を2016年に設立後、ベトナムのメンバーが初期段階より基幹メンバーとしてAI研究開発を一緒に進めてきていたこともあり、英語での一体運営が自然にできていました。このため、日本国内の開発側も同じように「最初から社内の共通言語は英語」と割り切ったオペレーションでやっていたので、この点のハードルは比較的低かったと思います。ただ、他の国内企業さんと同様に、英語で社内コミュニケーションを取る苦労はたくさんありますね。

-英語でのコミュニケーションにはどんな大変なことがありましたか?

例えば賃金改定の面では、海外人材の交渉の強さやマネジメントの考え方の違いがやはり驚いたところです。ただ、我々は外国人の課長職、部長職、執行役員までいるので、日本人だけで閉じず、外国人マネジメント職も育てながら対応していくことで解消できています。ただ、やはり海外人材は日本人に比べて自己主張が強かったり、開発のやり方にもギャップがあったりしますので、今でも結構苦戦しています。

4.北海道という地域特性を追い風に

-北海道大学の留学生の皆さんは、全員がAIの研究で来ているということではないかと思います。他大学のAI人材にもアプローチされているのでしょうか。

北海道大学にはAIやロボティクス、データサイエンスなどの分野で世界中から留学生が来ていますが、より多くの優秀なAI人材の採用が必要です。そこでハノイ工科大学と繋がりの中で、AIの講師と一緒に子会社のAWLベトナムを設立しました。ハノイ工科大学の研究室を卒業したOBやこれから卒業する学生にアプローチし、採用を広げることに成功しています。さらに、全国の留学生やインド工科大学を中心とした世界のトップ校からも積極的に採用を行っています。これにより、多様なバックグラウンドを持つ優秀なAI人材を確保し、グローバルな視点での研究開発を進めることができています。

基本は日本に来て欲しいのですが、特にベトナムやインドは現地採用も、広く行っています。

-東京と北海道の本社2拠点体制とのことで、開発は北海道が主体と伺いました。北海道で働く海外メンバーは、北海道という地域をどう感じているのでしょうか。

海外人材が北海道大学を選んだ理由として、もちろん研究テーマが合致していたというのもあると思いますが、合わせてウィンタースポーツが好きだとか、自然が好きだとか、東京はビジーだとか、北海道にそもそも興味がある方が多いです。北海道が好きで留学し、卒業して自国に帰っても期待するような仕事がない、だが最先端のAI研究開発に携われる仕事は東京や他国にしかないからやむなく行かないといけない、と考えていた留学生たちに対し、北海道でできるAIの仕事がある、かつニアショア的な受託開発ではなく、ソリューションも企画でき、何よりこれから来るであろうエッジAIに携われる仕事だ、と魅力を説明すると、かなりのAWLを選んでもらえます。

北海道は都会と自然とのバランスが非常に良く、また北海道大学を中心にグローバルなカルチャーみたいなもの根付いており、海外人材にとっての魅力になっているのではないかと思います。

-実際、海外人材が日本で生活をするのは苦労もあるのではないかと思います。何かサポートなどはされているのでしょうか。

海外人材のビザや日常生活について、会社としてもサポートできるのは我々の強みかと思います。また社内には海外人材の先輩方がいるので、例えば週末一緒にスキーに行くとか、キャンプに行くとか、何かちょっと馴染みやすい土壌があるのも心強いのではないかと。

日本人の社員も札幌近辺に住んでいる人が多く、社員がさまざまな場所に住んでいる都心とは違う形で社内全体に見渡しがききます。社員たちが同じ地域に住んでいるためマネジメントしやすいのが我々の一つの特徴で、海外人材も北海道に定着しやすいということが段々とわかってきました。

5.AWLの現在地と将来に向けて

-今後の市場展開に向けてどこにフォーカスされますか。現在の課題や狙いなどはあるのでしょうか。

今、エッジAIという市場がようやく立ち上がりつつあるところです。様々なデバイスをAI化することで新しい価値が生まれ、AI化したデバイスへのニーズが生まれていきます。PoCにとどまらないキラーソリューションが今、ようやく出始めたところだと思っています。

そして5年先、10年先には、どのデバイスにもAWLが入って個別最適化、精度劣化対策ができるようになることを目指します。具体的には、例えば防犯カメラは20,000種類以上あると言われますが、設置する高さや季節によっても光の入り方が異なります。状況によってAIの精度にばらつきが出てしまう個別最適化の対策と、時間と経過とともに例えば店舗のレイアウトが変わる、従業員のユニフォームが変わるなど設置環境が変わることによる精度劣化の対策がエッジAI特有の難しさです。我々は精度劣化の対策に特化した研究開発と特許の取得もしてきています。個別最適化と精度劣化対策のための低コストの再学習は非常に難しく、デバイスの種類は無尽蔵に存在します。これらの課題に対応するためには、ミドルウェアとしての標準仕様が不可欠です。我々はエッジAIのグローバル標準仕様を確立し、市場の拡大を目指していきます。

-事業としても、会社としても大きくなっていくのでしょうか。

一旦、ステイだと考えています。本当はどんどん拡大していきたいところですが、まずは黒字化を目指して収支合わせに取り組んでいます。今時点は、ぐっとこらえています。

6.NEDOのスタートアップ支援の活用

-2024年度には貴社はNEDOのスタートアップ支援事業「ディープテック・スタートアップ支援事業(以下、DTSU事業)」にも採択されています。活用にあたっての他制度との検討や、応募にあたって気を付けた点などはありましたか。

やはりDTSU事業は支援金額の規模が違います。我々が本当にやりたいことを全て自己資金で調達してやるのはかなり大変という中で、500万円、1000万といった補助金では全然足りない。しかしDTSU事業は上限5億円から25億円までと多額の補助を受けることができるので、我々のニーズに合っていました。

応募にあたっては、我々の思いを短い時間で丁寧に伝えるにはどうしたらよいかをとても意識しました。我々は3度目の挑戦で採択されましたが、2度不採択になっています。その時、審査の過程で反省したのは、審査委員に全然正しく伝わってないということ。我々の考えていることと審査員の理解度のギャップを痛感し、もっと伝える努力やストーリー立てなどを社内で磨き上げた結果、社内の理解も深まり、私自身もより説明がシャープになったと思います。2度落ちて3度目で採択されたというのは、プロセスとしてはすごく良かったと思います。

7.読者へのメッセージ

-これからスタートアップの起業を考えている方へアドバイスなどありますか。

“起業”と“スタートアップ”はイコールではないということを、まずは知ってもらいたいと思っています。スタートアップは一つの戦略であって、本当にスタートアップとして適しているか検討する間は、できるだけローリスク・ローリターンで小さく起業して、やはりハイリスク・ハイリターンのスタートアップで急成長しなければ駄目となった時、その時点から調達すべきと思います。起業と同時に大規模に調達してしまうのはやめた方が良いでしょう。

-スタートアップは急成長するための形ということでしょうか。

ファイナンス戦略としてのスタートアップという考え方はあると思いますが、そんなにうまくいかないのが実際かと思います。AWLも最初は資金ゼロから少しずつ受託で黒字を出し、初めての調達が2020年で設立から4年後です。それまで一切調達していません。だから、それまではスタートアップではなかった。今、もし起業とスタートアップの意味を混同して考えているのであれば、別物であることをまず整理して欲しいですね。

-北出社長にとってのスタートアップ“AWL”とは

これは絶対にビジネス化できると内面から確信していて、その戦略としてファイナンスがあります。AWLは研究開発がビジネスの軸なので、参入障壁を築いて技術を確立するためには資金が必要、だから調達して一気に開発を進める、そのハイリスク・ハイリターンの戦略がスタートアップと呼ばれる、という順番なのです。私はスタートアップをやりたいと思っているわけではありません。調達せずにうまくいくのであれば、そんなに調達していなかったかもしれません。しかし我々がやっているのは競争なので、他社より早くやらないといけない。人もお金もないのに1位になりますというのは無理な話なので、競争で勝つためにできる限りの調達をする、という戦略論なのです。

AWLで起こそうとしているようなイノベーションは、多分もう私が生きている間にはないと思っています。そのくらい信じて今、まさにAWLで取り組んでやっています。

スタートアップはAWLが最初で最後だという覚悟です。

最終更新日:2024年11月1日

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