発表者名 和田 健太郎
団体名 国立研究開発法人物質・材料研究機構
発表日 2024年7月18日
競争的な水素サプライチェーン構築に向けた技術開発事業/
共通基盤整備に係る技術開発/
中空試験片を用いた低温高圧水素環境での材料特性評価に係る研究開発
NEDO水素・燃料電池成果報告会2024
発表No.B1-6
連絡先:和田 健太郎
国立研究開発法人物質・材料研究機構
WADA.Kentaro@nims.go.jp
事業概要
1. 期間
開始 :2023年6月
終了(予定):2028年3月
2. 最終目標
-253°C〜室温の幅広い温度域の高圧水素ガス環境において材料特性データを取得し、液化水素関連
機器の設計・製造に関わる国内事業者に、それらのデータを水素利用機器の開発や設計に活用できる
形で提供する。
3.成果・進捗概要
(1)中空試験片を用いた極低温・高圧水素ガス中SSRTの試験時間短縮による試験高効率化のための試験
システムとプロトコルの開発・最適化
−253°C〜室温、および、最高105 MPaの水素・ヘリウムガス環境下で低ひずみ速度引張(SSRT)を実施する
ための既存設備を改造し、作業手順を見直すことにより、従来3日かかっていた試験時間を2日に短縮した。
(2)評価対象材料と評価項目の決定ならびに試験結果の妥当性検討のための委員会の開催
産業ニーズに沿った評価対象材料候補を選定し、高圧水素環境下材料特性評価委員会を2回開催して候補材料を
決定した。
(3)高圧水素ガス環境におけるSSRT特性の温度依存性評価
評価試験をより安全に実施するため、既存設備への安全対策を行った。また、上記委員会の承認を得たため、
対象材料の手配に着手した。2 【背景】
水素社会の実現のためには、効率的かつ安価な大規模水素の製造・輸送・貯蔵が必要であるが、そのサプ
ライチェーンには液化水素によるサプライチェーン構築が大きく期待されている。一方、液化水素は貯蔵
温度が−253°Cと非常に低く、貯槽や配管類に使用される材料は過酷な極低温環境に曝される。加えて、
高圧水素ガスが材料に触れることにより材料特性が劣化する現象である水素脆化への懸念もあることから、
低温度から極低温度の温度範囲において材料が水素に曝された場合の材料特性を明らかにすることが、液
化水素関連機器の開発・設計・製造において不可欠である。
【課題・意義】
しかしながら、その材料特性データは測定が容易ではなく、特に-253〜-45°Cの高圧水素ガス環境下で
公開されている材料特性データはほとんど存在していないのが実情であり、この領域において高い信頼性
のある材料特性データが求められている。
【目的】
本事業においては中空試験片材料評価設備を用いて、さまざまな金属材料を対象にこの領域でのSSRT、
疲労特性などの材料特性データを取得し、液化水素関連機器の開発・設計・製造に資することによって、
安全な水素社会の実現に寄与するものである。31.事業の位置付け・必要性 41中空試験片を用いた極低温・高圧水素ガス中 SSRT の試験時間短縮による試験高効率
化のための試験システムとプロトコルの開発・最適化
冷却・昇温時間を短縮するためのクライオスタット構造の最適化検討や試験治具の改良、試験プロトコ
ルの最適化などを講じることにより、-253°Cでの高圧水素ガス環境中 SSRT に要する時間を 3 日から 2
日へ短縮する。
2評価対象材料と評価項目の決定ならびに試験結果の妥当性検討のための委員会の開催
外部有識者からなる高圧水素環境下材料特性評価委員会を構成し、評価対象材料と試験項目について議
論を行い、評価対象材料およびデータ取得計画が産業ニーズに沿うものであることを確認する。材料特性
データの取得後は、同委員会に結果を報告し、試験結果の妥当性についても議論を行う。
3高圧水素ガス環境における SSRT 特性の温度依存性評価
2024〜2025 年度において、-253°C〜室温の高圧水素ガス環境中における信頼性の高い材料特性デー
タを戦略的に取得する。温度、圧力等の試験条件は、各部材が曝される実環境を配慮して定める。得られ
たデータは2の委員会での評価を経て、必要により2026年度以降により細かい条件下での材料特性データ
を取得を行う。
2 .研究開発マネジメントについて -研究開発の実施内容と目標- 54高圧水素ガス環境における疲労特性の温度依存性評価(参考)
2024〜2025 年度に評価した SSRT 特性を基に、疲労特性を取得すべき材料を検討し、高圧水素環境下
材料特性評価委員会に諮る。それに基づき、2026〜2027 年度にかけて、 -253°C〜室温の温度範囲にお
いて、疲労寿命および疲労限度を評価する。
5データ公開方法の検討
取得したデータの公開方法を検討し、材料特性データ公開方針案を作成する。案は2の委員会に諮り決
定する。方針案の作成にあたっては、国内産業の開発力強化、国際競争力強化に資する観点からの配慮を
行う。
注)本技術開発事業の研究開発項目I「大規模水素サプライチェーンの構築に係る技術開発」で
東京大学が実施している「大型液化水素貯槽実現に向けた極低温・水素環境下材料信頼性
評価法確立および社会受容のための実大試験」との連携を行う。
2 .研究開発マネジメントについて -研究開発の内容と目標- 6中空試験片方式 (提案方式)
中実試験片方式
しろまる 試験機がコンパクトで試験効率を高めやすい→
試験コストの低減が可能
しろまる 試験片外側の環境に制限がなく、伝導冷却や浸
漬冷却などの多様な冷却方式を適用可能
→ 高効率な冷却を実現可能
しろさんかく 新しい試験方式であるため、試験データの蓄積
が必要
しろまる 過去に多くのデータが取得されており、結果
の比較が容易
しろさんかく 試験機が大がかりとなることから、試験手順
が煩雑で高コストになりがち。特に極低温の
試験を実現するためには技術的課題が多い1 mm中空表面
縦研磨後
2 .研究開発マネジメントについて -中空試験片方式- 72 .研究開発マネジメントについて -研究開発スケジュール- 82 .研究開発マネジメントについて -実施体制- 93.研究開発成果について -試験作業プロトコルの最適化検討-
従来用いてきた試験作業プロトコルを適用した場合、20 K直上での高圧水素ガス中試験を実施
するのに約3日間要する。これを2日間に短縮するため、試験の信頼性や安全性を損なわないこ
とを客観的に保証しつつ、作業手順を見直す。0501001502002503000.0 6.0 12.0 18.0 24.0 30.0 36.0 42.0 48.0 54.0
試験片温度(K)
試験開始後の時間(hr)
冷却(RT→20 K)
・・・5 時間 待機時間(温調の安定)
・・・1 時間以上
SSRT試験
・・・5 時間
昇温(20 K→273 K)
・・・39 時間
冷却開始〜昇温終了 ・・・50 時間
1日目
13:00
試験片取付け
計装の確認
1日目
14:00
ガス置換・昇圧
リークチェック
1日目
15:30
冷却開始
2日目9:00温調微調整
2日目
10:00
試験開始
2日目
15:00
試験終了
昇温開始
4日目9:00クライオスタット開放
試験片取外し
4日目
12:00
(注記) 冷却・昇温プロファイルは実際のデータ
従来の試験作業プロトコル 103.研究開発成果について -試験時間短縮のための試験プロトコル改善-
1日目
13:00
試験片取付け
計装の確認
1日目
14:00
ガス置換・昇圧
リークチェック
1日目
15:30
冷却開始
2日目9:00温調微調整
2日目
10:00
試験開始
2日目
15:00
試験終了
昇温開始
3日目9:00クライオスタット開放
試験片取外し
3日目
12:00
昇温時間を18時間に短縮
作業手順の見直しにより、効率化・信頼性向上
改善後の試験作業プロトコル
3日目
13:00
次の試験片取付け
計装の確認0501001502002503000.0 6.0 12.0 18.0 24.0 30.0 36.0 42.0 48.0
試験片温度(K)
試験開始後の時間(hr)
改善後の1サイクル時間 ・・・47時間 ≒ 2日間
18時間(210 K)でクライオスタット開放した場合の懸念
 摺動部の凍結により,荷重測定精度が低下
 治具部の凍結により,試験片の取付け不良の発生
 治具部の凍結により,試験片が固着
 試験片交換時における凍傷
 試験片への霜付着による錆や腐食の発生
→クライオスタット解放時,水分の侵入を
最小化するための措置を実施
液体酸素生成
液体窒素生成
氷付着
18時間90 K77 K
273 K
試験作業プロトコルの改善における技術的課題 11水素ガスが漏洩した場合に安全に排気するための設備を設置
3.研究開発成果について -安全対策- 123.研究開発成果について -評価対象材料の選定-
民間企業へのヒアリング結果から、水素サプライチェーンへの適用を前提に、以下の金属材料を本事業に
おいて測定対象とすることを材料特性評価委員会に提案し、承認。
しろまるLNGで使用が認められている材料(材料が法令、指針等の基準で例示されている):
-高圧ガス保安法
・オーステナイト系ステンレス鋳鋼
(SCS13A(SUS304相当), SCS14A(SUS316相当), SCS16A(SUS316L相当))
・9%Ni鋼
-日本ガス協会 LNG地上式貯槽指針
・インバー合金(Fe-36%Ni)
しろまる海外では使用が認められているが国内では基準で例示されていない材料:
・SUS304N1, SUS316LN (N含有オーステナイト系ステンレス鋼)
しろまる材料メーカーが開発し提案している新しい材料:
・STH®2(15%Cr-7%Ni-9%Mn-N)低Cr低Ni省Mo型オーステナイト系ステンレス鋼
https://stainless.nipponsteel.com/news/2021/20210623.php
しろまる以上の評価の基準となる
・SUS316L 133.研究開発成果について -データ公開方法の検討-
基本的な考え方を整理中:
1.論文発表
2.公開 (国内限定。NIMSデータシートのイメージ。
pdfファイル/印刷物 配付管理 )
3.(将来的には)グリーンイノベーション基金事業でNIMSが
準備しているデータベースに含めることも検討する。 14材料開発を改善・加速するための新たな手法やツー
ルに関する研究を掲載。
方法論、モデリング、ハイスループット実験、マテ
リアルズ・インフォマティクス(MI)、プロセ
ス・インフォマティクス(PI)、人工知能(AI)、
データベースなど
1. 安全保障貿易管理の取扱い: 論文発表(公知の情報化)
2. 1.のあと、無料公開 (閲覧のみ、DL不可、ユーザーは海外も含まれる)
3.研究開発成果について -NIMS構造材料データシートの例- 15口頭発表
「中空試験片を用いた水素環境での材料特性評価試験方法」軽金属学会 第131回シンポジウム
(2024年1月19日)
特許
なし
論文
なし
3.研究開発成果について -成果発表、特許、論文-
【実用化・事業化】
・本事業を通じて、高圧/低温度領域での耐水素特性について信頼性の高いデータを取得
→国内産業育成、競争力強化につなげ、水素社会の実現に寄与
【課題】
・データの提供方法の検討
【波及効果】
・中空試験片法による耐水素特性評価法の拡大。
・新規参入の促進、競争による水素インフラのコスト削減。
・測定方法標準化への取り組み。164.今後の見通しについて

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /