2024年6月20日(木) サンシャイン計画50周年記念シンポジウム(於:ベルサール六本木)
これからの再生可能エネルギー:地熱発電
〜 内容 〜
1.はじめに-地熱発電の必要性と意義ほか-
2.在来型地熱発電
3.我が国の地熱発電の政策
4.次世代型地熱発電
5.おわりに-まとめ-
三菱マテリアル株式会社
再生可能エネルギー事業部
有木和春
岩手県八幡平市 安比地熱発電所 14,900kWe
2024年3月1日営業運転開始(安比地熱(株)写真提供) 2はじめに -地熱発電の必要性と意義-
1. 火山国日本の足元に豊富に賦存する純国産エネルギーであり(2,347 万kW、世界第 3
位)、 輸入燃料が不要なため日本のエネルギー自給率を向上させ、エネルギー安全保障
に貢献。
2. 昼夜・天候に左右されず、ベースロードを担う安定電源。
3. 温室効果ガス排出量の少ないクリーンな再生可能エネルギーであり、地球温暖化防止に貢
献。
4. 長寿命かつ高い設備利用率の、長期的視点で経済的な再生可能エネルギー。
5. 我が国の世界最高水準の地熱発電設備は世界No.1の技術とシェアを誇る輸出産業。
6. 地熱資源を有する山間地など立地地域の振興に貢献ができ、地震や台風等の自然災害
に強い分散型電源。
7. 熱利用(ハウス栽培や養殖事業)によるエネルギーの多段階利用が可能。
<備考>赤色文字:"我が国の地熱発電"の特長、 青色文字:"地熱発電"の特長、 黒色文字:再生可能エネルギーの特長
<出典>「日本地熱協会(2023):地熱発電開発促進のための政策要望(令和5年度).」を一部修正.
https://www.chinetsukyokai.com/news/70.html
1.はじめに 3地熱資源および地熱発電事業の特性
サイレンサ
気水分離器
生産井 還元井
冷却塔
送電線
還元井へ
復水器
タービン
発電機
蒸気
地熱貯留層
【地熱資源の特性】
1地下資源、偏在性、開放系
⇒探査技術および評価技術が重要
2エネルギーの質、再生可能(持続性)
⇒生産管理技術が重要
<出典>「與良三男(1979):地熱開発の常識.昭和53年度地熱開発技術講習会テキスト,地熱資源開発促進センター.」を一部修正
【地熱発電事業の特性】
地熱発電事業は,"地下の地熱資源開発"と"発電所建設・操業(電力
供給)"という2つの特徴を持つ。
1地熱発電は地熱資源のあるところで行わなければならない。
2地熱発電の一番難しいところは,資源の実態の把握である。
3資本費が大きく、資源調査開始から発電所操業開始までのリードタイ
ムが長い。
4政策の影響が大きい。
5特殊な環境問題(温泉,自然公園)。
地熱の3要素
1水の流れ。
2水を温める熱源(マグマや
貫入岩体)。
3岩石にできた断裂の間に熱
水が貯まり、流動している場
所(地熱貯留層)。
1.はじめに 4地熱発電設備容量の推移および固定価格買取制度における運転開始件数と発電設備容量
<出典>「火力原子力発電技術協会(2023、2024):地熱発電の現状と動向(2022年版・2023年
版).」より作成。
2.在来型地熱発電 5我が国の主な地熱発電所
 2023年3月現在、1MW以上の
地熱発電所。 小規模も含めると設
備容量は計50万kW。
 我が国の地熱発電のポテンシャル
は2,347万kWあるものの、開発・
建設中も含めて、約3%の約60万
kWしか利用されていない。
 日本の主要な地熱地域は、火山
が多く地熱資源が豊富な東北地
方と九州地方。北海道も地熱資源
が豊富であるが、送電網のない山
岳地などが主でほとんど未開発。25MW1.9MW
1MW以上
9.5MW50MW28.8MW
46.2MW30MW7.5MW
23.5MW30MW27.5MW5MW5MW2MW14.5MW30MW1.6MW30MW5MW
110MW2MW安比地熱発電所 14.9MW
南茅部地熱発電所 6.5MW
2MW 森バイナリー発電所
2MW 南阿蘇湯の谷地熱発電所
2MW 中尾地熱発電所
<出典>「日本地熱協会ホームページ 地熱発電
に関する情報 日本の地熱発電所
https://www.chinetsukyokai.com
/information/nihon.html」に加筆.
2.在来型地熱発電 6助成金交付および出資・債務保証
実績(2012年以降)
地熱資源ポテンシャル調査実施地域
(データ公開済みの地域のみ表示)
<出典>小泉暁人(2024):JOGMEC地熱事
業の取組みについて.地熱発電・熱水
活用研究会.
2.在来型地熱発電
2012年度以降の地熱資源の調査・開発地域
-独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の支援 - 7地熱発電の課題および地熱開発事業者の取り組み
地熱発電開発の現場においては、下記の困難な課題に直面し、その対応に時間や資金を費やして
おり、苦戦しているのが実態。
1. 地下資源開発のリスク。
2. 合意形成の困難。
3. 社会的規制(温泉法、自然公園法、森林法等)の問題。
4. 系統接続の困難。
<出典>日本地熱協会(2023):地熱発電開発促進のための政策要望(令和5年度).」を一部修正
⇒地熱開発事業者の取組み(事業性の確保とリードタイム短縮が重要)。
 地下資源である地熱資源を効率よく調査・開発するための努力(技術力向上)。
 温泉事業者、自然保護関係者を含めた地域の方々、自治体および許認可手続き関係者を含
めたステークホルダーのご理解を得るための努力(温泉モニタリング、自然環境の有識者の指導を
仰ぐ、情報共有)。
 規制緩和・制度改革などの要望・活動(日本地熱協会の政策要望・関係省庁との協議)。
 地熱発電コストを抑制するための努力(掘削工事契約形態工夫、事業者間の協力 他)。
 リードタイム短縮のための努力(関係機関と共に許認可手続きの短縮)。
2.在来型地熱発電 8 JOGMECおよびNEDOが開発している探査技術
DAS-VSP法の活用。
 掘削工事における掘進率向上。例えば、PDCビッ
トの活用。
 JOGMECが技術開発している透水性改善技術の
活用。
 経験豊富な地熱先進国のコンサルティング会社に
よる知見・第三者評価の活用。
 地熱貯留層評価・管理に重要な技術である地熱
貯留層シミュレーションの習得。
 人材確保・育成
【備考】
・DAS-VSP:「Distributed Acoustic Sensing - Vertical
Seismic Profiling」の略称
・PDCビット:「Polycrystalline Diamond Compact (多結晶
ダイヤモンド焼結体)ビット」の略称
DAS-VSP法
DAS を坑井内受振器として設置。地表より発振を行う
弾性波探査(VSP)においてこれを利用する調査法。
耐熱性の高い光ファイバケーブルを使用することで、 地
熱井近傍の稠密VSP観測が可能となる。
VSP: Vertical SeismicProfiling
SSP: Surface SeismicProfiling
3次元VSP
イメージング範囲
3次元SSP
イメージング範囲
速度構造
<出典>青木直史(2020)坑井近傍探査技術の開発.令和元年
度地熱統括部事業成果報告会.光ファイバケ
|ブル
2.在来型地熱発電
地熱開発事業者の取り組み:
地熱資源の調査・開発 ー技術力向上ー 9三菱マテリアルテクノ(株)写真提供
地熱開発事業者の取り組み:
地域の方々のご理解を得るための対応 -温泉モニタリング、説明会・協議会-
地元のご理解
地元のご理解 地表探査
地表探査 調査井掘削
調査井掘削 噴気テスト
噴気テスト
調 査 段 階
<出典>「有木和春(2022):我が国の地熱発電の現状と展望-産業としての地熱発電の現場から-.第10回地熱シンポジウム in 東京.
2.在来型地熱発電
温泉
モニタリング 10•••••。ヤマネ
<出典>松岡一英(2018):安比地熱発電所設置計画における前倒し環境調査について.
日本地熱協会技術部会,平成29年度JGA-NEDO情報交換会.
2.在来型地熱発電
地熱開発事業者の取り組み:
環境保全措置(回避・低減・代償)-安比地熱発電所の事例- 11我が国の地熱発電の政策:第6次エネルギー基本計画(2021年10月)3 JOGMEC 202120303.我が国の地熱発電の政策 12次世代型地熱発電:超臨界地熱発電
2021 62050<出典>国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構ホームページより
https://www.nedo.go.jp/activities/ZZJP_100145.html
本事業は、次世代のイノベーション技術として
注目される超臨界地熱資源を対象とした地熱
発電技術の研究開発を実施し、より一層の地
熱発電の導入拡大を促進することを目的とす
る。次世代型では、在来型よりも深部に存在
するといわれている超臨界状態(またはそれに
準ずる状態)の水を利用することで、地熱発
電容量のさらなる増大を目指す。
4.次世代型地熱発電
NEDO 超臨界地熱発電技術研究開発
<出典>内閣官房ほか(2021) :2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略.
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ggs/pdf/green_honbun.pdf 13次世代型地熱発電:EGS =Enhanced/Engineered Geothermal System(地熱増産システム)
貯留層造成型EGS1
(高温岩体発電)
地下が高温で自然の
熱水系が存在しない
地域において高温の岩
体がある場合、その岩
体を破砕し、人工注
水によって蒸気または
熱水を取り出して発電
に利用するシステムを
高温岩体発電という。
冷却設備
発電機
タービン
水の注入
(注入井)
高温蒸気の
噴出(生産井)
貯留層造成型EGS2 Uループ方式
高温かつ適切な地
層形成がなされて
いても蒸気が存在
しないために開発
を行えなかった地
域において、配管
に水を注入すること
により蒸気を人工
的に発生させて発
電をする技術。
<出典>海江田秀志(2008):高温岩体を
利用した地熱発電開発,金沢大
学特別講演.2008年2月8日.
4.次世代型地熱発電 14おわりに –まとめ-
1. 2012年以降、固定価格買取制度(FIT制度)施行をはじめ、規制・制度改革、
JOGMECによる先導的地熱資源調査、経済的支援、技術開発、ガイドライン策定等が行
われ、地熱発電を取り巻く事業環境は改善され、新規事業者も多数参入し、多くの地熱調
査・開発が実施されている。
2. しかし、現状は、本格的な資源調査が不要でリードタイムの短い小・中規模案件が先行。地
熱発電導入拡大のため、今後、大規模案件の調査・開発を加速することが重要である。
3. 更に、JOGMEC先導的資源量調査の調査内容の拡充による新規案件(特に、有望な地
熱資源が豊富に存在し、一定の規制緩和の進んだ自然公園内)の発掘を期待している。
4. 地熱開発事業者は、地熱資源開発リスクを抑制するための更なる研鑽が求められるとともに、
引き続き、ステークホルダーの理解を得ながら、関係省庁・関係機関(経済産業省、環境
省、林野庁、JOGMEC、NEDO、AIST等)と共に地熱発電導入拡大を目指していきたい。
5. 次世代型地熱発電であるEGSと超臨界地熱発電の早期実用化およびそれらの技術開発
で得られた技術の在来型地熱発電への活用により、地熱発電導入の飛躍的な拡大を期待
し、目指していきたい。
<出典>「有木和春(2022):我が国の地熱発電の現状と展望-産業としての地熱発電の現場から-.第10回地
熱シンポジウム in 東京.」を加筆修正。
5.おわりに

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