IEA TCP WIND Task 25 – Fact Sheet
風力発電がCO2排出量に与える影響
図1. 風力発電による排出削減効果の例。風力発電の発電電力量 1 kWh あた
りのCO2排出削減量。緑色のグラフは風力発電により主にガス火力を削減し
た事例、青色は主に石炭火力を削減した事例。
(出典: Holttinen et al., 2014)
風力発電によって従来型電源で消費される燃料を削減することができ、その結果、CO2排出量の削
減につながります。風力発電が需給調整を必要とするのは事実であり、電力系統の需給調整のため
に従来型電源の出力を増減することで効率が低下するのではないかという懸念もあります。しかし
これまでの研究によると、従来型電源の出力制御の増加による排出量は、発電電力量の総量や燃料
使用量を削減することによる便益に比べ、小さいことが明らかになっています。
ファクトシートNo.5風力発電はどのようにしてCO2
排出量を減らすのか?
風力発電は、運転中にCO2を排出し
ない再生可能エネルギーです。火力発
電と比較して、ライフサイクルにおけ
るCO2排出量は非常に少なく済みます。
風力発電が発電することによって従来
型電源による電力量を削減することが
でき、燃料使用量やCO2、NOX、SOX、
微粒子の排出量を削減することができ
ます。
どのような電源の発電電力量や燃料
を削減できるかは、時間帯だけでなく
その電源の運用コストに依存します。
各時間帯では、最も運用コストの高い
電源(通常、火力発電)が削減されます。
削減される燃料が石炭である場合、天
然ガスを削減する場合よりも排出量削
減の便益が大きくなります。風力発電
のCO2排出量削減効果を表す研究事例
を図 1 に示します。
風力発電の変動はCO2排出量を増やすか?
風力発電のシェアが高くなると需給調整のために火
力発電の出力変化が急峻になり、起動と停止の頻度が
高くなります。これは、電力系統全体の変動、すなわ
ち風力発電と需要との変動を補完するために、時々
刻々と変化する給電指令に応答することを意味します。
火力発電が起動したり出力を増減したり部分負荷運
転したりすると、連続定格運転した場合に比べて効率
が低下し、その結果、CO2などの排出量が多くなりま
す。
詳しい研究によると、風力発電が大量に導入された
電力系統でも、需給調整が増えることによる追加的な
排出量はさほど多くないことがわかっています。石炭
やガスで発電された電力量を削減し、燃料の使用量や
排出量を減らす効果は、従来型電源の変動によって生
じる排出量増加よりも格段に大きいものとなります。
例えば、年間消費電力量の33%を風力と太陽光エネ
ルギーで賄う場合、需給調整のために増加する排出量
は、燃料使用量が減少したことによる排出量削減の2%
未満です。(出典: Lew et al., 2013) (図2, 3)。
風力発電
1 kWhあたりの
CO2排出削減量[g]統計値
Valentino
et al.
2012年
イリノイ
統計値NREL2012年
米国
西部系統
統計値
Holttinen
2001年
北欧系統
統計値SEAI2014年
アイル
ランド
持続可能
エネルギー
規制局
2012年
アイル
ランド
実証値
Di Cosmo
et al.
2014年
アイル
ランド
実証値Amoret al.
2014年
オンタリオ
実証値
Cullen
2013年
テキサス
実証値
Kaffine
et al.
2007〜
09年
テキサス
変動性電源
大量導入時の
エネルギーシステムの
設計と運用
IEA TCP WIND Task 25 – Fact Sheet
参考文献
• Holttinen, H. et al. (2019). Design and operation of
power systems with large amounts of wind
power. Final summary report, IEA WIND Task 25,
Phase four 2015–2017.
https://community.ieawind.org/task25/ourlibrary
• Holttinen, H, Kiviluoma, J, Pineda, I, McCann, J, et al.
(2015) Reduction of CO2 emissions due to wind
energy - methods and issues in estimating operational
emission reductions. IEEE Power & Energy Society
General Meeting, 26 - 30 July 2015, Denver, USA: IEEE.
Proceedings. doi:10.1109/PESGM.2015.7286288
• Lew, D. et al. (2013). The Western Wind and Solar
Integration Study Phase 2. NREL/TP-5500-55588.
National Renewable Energy Laboratory.
https://www.nrel.gov/docs/fy13osti/55588.pdf
• SEAI (2014). Quantifying Ireland’s Fuel and CO2
Emissions Savings from Renewable Electricity in
2012. www.seai.ie/News_Events/Press_Releases/
2014/245m-of-fossil-fuel- savings-from-use-of-renewable-
electricity-in-2012.html
以下のウェブサイト(英語)も参照下さい。
https://community.ieawind.org/task25
下記のファクトシートもご覧下さい。
No.1「風力・太陽光発電の系統連系」
No.2「風力・太陽光発電大量導入時の需給調整」
No.4「電化(エレクトリフィケーション)」
No.7「風力発電と電力貯蔵」
図2. 運用コストと排出量の大部分は化石燃料の使用に起因する。変動性再生可能エネルギー(VRE)の導入率が高い場合で
も、出力変化や起動停止のコストは年間コストの1%未満となる。米国西部系統の運用コストを1年間分シミュレーション
した例で、風力と太陽光の導入率は最大33%。(出典: Lew, et al., 2013)
どのようにして需給調整による排出量の増加分
を減らせるか?
電力系統に占める風力・太陽光発電のシェアが増え
ると予想される場合、新規の火力発電の「柔軟性」を
向上することが重要になります。柔軟性を向上させる
ことで、需給調整のための選択肢が増えるため、電力
系統全体の運用コストや排出量を減らすことができま
す。連系線による電力取引を利用することで、近接エ
リアと柔軟性を共有することが可能です。風力発電所
や太陽光発電所は高速応答できる柔軟性を提供するこ
とが可能です。もう一つの新しい柔軟性は需要側から
提供されるものであり、これはデマンドレスポンスと
呼ばれます。
図3. 変動性再生可能エネルギーに対応するために従来型電
源の出力を増減することによるCO2排出量の増加は、再生
可能エネルギーの増加による CO2、NOx、SO2 の全体的
な削減量と比較して非常に小さい。
(出典: WWSIS2, 2013)
将来の低炭素エネルギーシステムの排出削減
CO2排出量の8割以上の削減を達成するためには、
第1段階として発電部門において化石燃料を削減する
ことよりも、更にコストがかかる可能性があります。
脱炭素化をより進めるためは、運輸や熱供給などの他
のエネルギー部門の電化(エレクトリフィケーション)
が必要なことを意味します。これによって、新しい電
力消費の形態が生まれるでしょう。
2020年4月(日本語翻訳版: 2020年9月)
1.17〜1.35億t
0.675〜1.035億t
0.36〜0.63億t
無視できる
135〜180万t
135〜180万t
再生可能エネルギーの
増加による削減効果
需給調整の増加による
増減
年間運用コスト
[10億ドル]
再エネなし
シナリオ
系統増強
計画委員会
シナリオ
高風力 高太陽光
シナリオ
風力+
太陽光
再エネなし
シナリオ
系統増強
計画委員会
シナリオ
高風力
シナリオ
高太陽光
シナリオ
風力+
太陽光
シナリオ
高位予測
低位予測
内訳
出力変化(保守費)
起動(燃料費)
起動(保守費)
保守費
燃料費
ファクトシートについて
このファクトシートは、18ヶ国間の共同研究であるIEA Wind Task
25 (国際エネルギー機関風力エネルギー技術協力プログラム第25部
会)の取り組みを基に作成されています。この部会の発足時のビジョン
は、世界中の電力系統の中で経済的に実現可能な形で風力発電のシェ
アを増加するための情報を提供することでした。IEA Wind Task 25
はその後、風力発電や太陽光発電が電力系統・エネルギーシステムに
与える影響を分析・評価するための方法論を更に進展させることに注
力しています。
本翻訳書は,国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機
構(NEDO)「風力発電等技術研究開発/風力発電高度実用化研究開発/
風車運用高度化技術研究開発」事業の一環として,IEA Wind国内委員
会の承認のもと作成されたものです。翻訳: 京都大学特任教授 安田 陽

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