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技 術 戦 略 研 究 セ ン タ ー レ ポ ー ト
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
技術戦略研究センター
(TSC)Vol.T SC とは Technology Strategy Center(技術戦略研究センター)
の略称です。1章2章3章4章
電力貯蔵技術の概要...................................................... 2
1-1 再生可能エネルギーの導入状況 ......................................................... 2
1-2 太陽光発電·風力発電等の導入拡大に伴う電力系統上の諸問題と対策 ......... 3
電力貯蔵技術の置かれた状況 ................................................ 6
2-1 電力貯蔵システムの市場規模 ·シ
ェア...................................................... 6
2-2 特許·論文の動向 ........................................................................... 6
2-3 国内外の取組状況 ........................................................................... 9
2-4 電力貯蔵システムの効果算定例......................................................... 10
電力貯蔵分野の技術課題 ...................................................... 11
3-1 電力貯蔵の技術体系 ..................................................................... 11
3-2 電力貯蔵の技術課題 ..................................................................... 13
おわり
に ..................................................................... 1320電力貯蔵分野の
技術戦略策定に向けて
2017年7月
電力貯蔵分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
我が国では、
2011年3月の東日本大震災以降、
エネル
ギーをめ
ぐる環境が大きく変化している。
特に、
発電時に二
酸化炭素
(CO2)
を排出しないエネルギーと
して再生可能
エネルギーの導入量が急速に増えている。
一方、
気象条件により出力が大きく変動する変動性再生
可能エネルギーである太陽光発電や風力発電等の導入拡
大は、
電力供給上の諸問題を引き起こす懸念があり、
電力
貯蔵技術はその対策の1つと
して注目
されている。
1 電力貯蔵技術の概要章1 -1 再生可能エネルギーの導入状況
我が国では、
地球温暖化対策やエネルギー安定供給等
の観点から、
2003年以降、
新エネルギー(注記)1
間の競争を促
しつつ、
電気事業者に新エネルギー等を電源とする電気
の一定割合以上の利用を義務付けるRPS
(Renewables
Portfolio Standard)
制度や、
2009年の太陽光発電の余
剰電力買取制度を背景に、
再生可能エネルギーの導入が
徐々に進んできた。
2011年3月の東日本大震災と東京電力福島第1原子力
発電所事故は、
これら再生可能エネルギーの導入機運を
一層高め、
我が国のエネルギーを取り巻く
環境に大き
な変
化を及ぼした。
2014年4月に策定されたエネルギー基本
計画に再生可能エネルギーの導入加速が明記されるとともに、
この方針に基づき2015年7月に決定された長期エネル
ギー需給見通しでは、
2030年時点の総発電量に占める再
生可能エネルギーの割合が22 〜 24%程度と
された。
これ
は2008年の長期エネルギー需給見通しにおいて示された
2030年時点の総発電量に占める再生可能エネルギーの
割合14%を大きく上回り、
2009年に再計算された最大導入
ケースの19%
と比較して
も高い割合と
なっている。
また、
2015年12月のCOP21におけるパリ協定採択等を
踏ま
え、
2016年4月に策定されたエネルギー · 環境イ
ノベーショ
ン戦略では、
省エネルギー·蓄エネルギー·創エネルギー
等の分野で研究開発をより重点的 · 集中的に進めるべき技
術が特定された。
そして、
2050年の目標に向けて、
低炭素
化に向けた取組が進展しつつある。
図1
に、
再生可能エネルギーの導入推移を示す。
図から
導入が進みつつある状況が分かるが、
特に2012年7月の
固定価格買取制度
(FIT:Feed-in Tariff)
の開始以降、
太陽光発電の導入拡大が急速に進んでいる。
我が国においては、
電力、
ガス、
熱などのエネルギーに
ついて、安定供給性
(Energy Security)
、経済効率性
(Economic Efficiency)
、環境性
(Environment)
、安全性(Safety)、いわゆる3E+Sの実現が求められている。とり
わけ、
省エネルギー、
創エネルギーの両分野で3E+Sの実
現に大き
な貢献が期待されている電力システムにおいては、
既存のエネルギー需要の電化や新たな電力需要の創出等
に伴い、
電力システム改革によ
る発電事業者、
小売事業者
の増加と、
再生可能エネルギー普及拡大によ
る電源の多様
化、
分散化が、
今後ますます進む
と考え
られる。
(注記)1 風力、
太陽光、
地熱
(熱水を著しく減少させないもの)、水力
(1,000kW以下の
ものであって、
水路式の発電及びダム式の従属発電)、バイオマス
(廃棄物発電
及び燃料電池による発電のうちのバイオマス成分を含む)220
電力貯蔵分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
図 1 再生可能エネルギー発電の導入推移
*RPS 制度 :
「Renewables Portfolio Standard」
の略称。 「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法
(平成 14年法律第 62号)」の通称。
出所:総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会再生可能エネルギー導入促進関連制度
改革小委員会
(第 10回)
資料
(経済産業省、平成 29年 1月25日)
再生可能エネルギーの中でも、
変動性再生可能エネル
ギーである太陽光発電や風力発電等は、
気象条件によって出力が変動する。
これらの導入拡大に伴い電力需給上
の問題が懸念されている。
図 2 余剰電力発生イメージ
出所:新エネルギー小委員会 系統ワーキンググループ第 3回資料 9
(資源エネルギー庁 , 2014)
に NEDO 技術戦略研究センター追記
(2017)
(1)懸念される問題
1 余剰電力の発生
電力需要の小さい季節 · 時間帯に変動性再生可能エネ
ルギーの発電電力が大きくなる気象条件がそろうと、
調整
可能な他の電源の発電出力を抑制しても供給が需要を上
回る状態、
すなわち余剰電力が発生する
(図2)。太陽光
発電では特に4 〜 5月の昼間帯、
風力発電では冬期の夜
間に発生頻度が高いと予想されている。1 -2太陽光発電、風力発電等の導入拡大
に伴う電力系統上の諸問題と対策
太陽光
風力
火力電源(最低出力)
原子力、地熱、水力等
0時 12時 24時MW揚水発電
揚水動力
火力等
で供給
需要曲線
余剰電力が発生する
太陽光
風力
バイオマス
地熱
中小水力2003万kW
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,00002004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 年度
年平均伸び率5%年平均伸び率9%年平均伸び率29%余剰電力買取制度 固定価格買取制度
RPS*制度3 20 電力貯蔵分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
2みかけの需要の変動対応力不足(ダックカーブ問題)
変動性再生可能エネルギーは、
朝夕等の
「みかけの需
(注記)2」の変動速度が大きく、
従来発電機の出力上げ/下
げ変化速度の限界を超過する問題が生じる。
その際の電
力の需要と供給のバラ
ンスを描いたカーブが
「ア
ヒル」
の形
に似ていることから、
この問題は一般に
「ダック
カーブ問題」
と呼ばれる。 ダックカーブ問題は、
太陽光発電導入量の増加に伴って
顕著になる。
既に米国カリフォルニアやイタリ
ア等では顕著
化しており、
日本でも九州等で同様の問題が起こ
り始めて
いる
(図3)。3周波数調整能力の不足
変動性再生可能エネルギーは気象条件によ
って出力が
変動しやすいため、
電力系統の周波数を乱す要因と
なる。
電力系統の周波数の大き
な変動は、
大規模停電を引き起
こす要因にな
り得るため、
適正な周波数を維持する必要
がある。
我が国では、
基準周波数
(50Hz / 60Hz)
を維
持することが規定されており(図4)、主に火力発電や水力
発電で変動する周波数を調整してきた。
しかし、
優先給電
ルールの下では、
再生可能エネルギーの発電量が増加し
た場合に、
周波数調整を受け持つ火力発電の出力を抑制
する必要が生じ、
火力発電の運転台数が抑制されるため、
周波数調整能力の確保が大き
な課題と
なる。
なお、
数秒から数分の短い周期の変動は、
電力系統に
広く
大量に分布した再生可能エネルギーの出力変動が互
いに打ち消し合う
「ならし効果」
がある。
したがって、
このならし効果を考慮して周波数調整能力を確保することが重要となる。 図 4 周波数維持・変動のイメージ
出所:NEDO 技術戦略研究センター作成
(2017)
需要 供給
需要
供給
需要
供給
需要=供給
(基準周波数を維持)
需要<供給
(周波数が上昇) 需要>供給
(周波数が低下)
(注記)2 需要家がもつ太陽光発電や燃料電池などの自家発電量や蓄電池やヒートポン
プによる蓄電量などを足し合わせ、
それをトータルの電力需要から差し引いた
需要。
系統運用者はこの需要量を、
常に発電量とバランスさせるよう電力シス
テム全体の需給調整を行っている。
図 3 九州本土の需給運用の状況
(2017年 4月30日)
出所:九州電力
「2017年度 経営計画の概要
〔詳細版〕」(注記)
(注記) http://www.kyuden.co.jp/var/rev0/0076/5472/iyr09lk3.pdf
0時 6時 12時 18時 24時
需要
揚水発電
揚水発電
揚水動力
太陽光
火力等
原子力、
水力、
地熱
太陽光出力
565万kW
(需要の73%)
1,200
1,0008006004002000万kW
夕方にかけての太陽光出力減に対応
して、
揚水動力の停止や火力発電所の
増出力で的確に対応
昼間の太陽光出力増に対して、
揚水動
力の活用や火力発電所の抑制・停止
により対応420
電力貯蔵分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート(2)主な対策 (1)
に挙げた諸問題に対しては、
電力系統の発電側から
需要家側に至る全ての箇所で、
需給調整の観点から様々
な対策が考え
られる。表1に主な対策を示す。
発電側、
送配電側の対応策と
しては、
既存技術に加え、
火力発電や水力発電等の集中型電源調整能力向上や再
生可能エネルギーの発電出力予測精度の向上、
電力貯蔵
システムによ
る需給調整、
再生可能エネルギーの発電出力
制御
(利用可能量超過分の抑制)、広域連系線を用いた
広域需給運用な
どが挙げられる。
需要家側では、蓄電池や電気自動車 (EV: Electric
Vehicle、
プラ
グイ
ンハイブリッドを含む)、
時間的に変化する
電力価格や報酬などに応じて需要家が自らの電力使用量
を増減させるデマンドレスポンス
(DR: Demand Response)
などの技術が電力システム全体の需給調整力 ( 柔軟性 :
flexibilityともいう)の向上に重要な役割を果たす(注記)3 (注記)4。 様々な対策の中で、
「電力貯蔵システムの充放電」
は、
発電·送電·需要の全ての領域で適用可能な対策である。
表2に、
主な電力貯蔵技術を示す。
表2に示した方式のう
ち、
蓄電池は、
複数の電池技術か
ら構成され、
汎用性が高く、様々な箇所·装置·機器に使用
されている。
(注記)3 荻本和彦:低炭素社会における電力システム,
IEEJ 雑誌, Vol.129, No.1, 特集解説,pp.16-19 (2009)
(注記)4 池上貴志,
岩船由美子,
荻本和彦 : 電力需給調整力確保に向けた家庭内機器最
適運転計画モデルの開発,
IEEJ 論文誌, Vol.130-B, No.10
(2010)
出所:NEDO 技術戦略研究センター作成 (2016)
出所:NEDO 技術戦略研究センター作成
(2016)
表 1 変動性再生可能エネルギー電源導入拡大によって生じる電力需給上の問題への対策
表 2 主な電力貯蔵技術
対策メニュー(個別技術)
発電側
大規模発電側 分散型電源側
集中型電源の調整能力向上
再エネの出力予測精度向上
デマンドレスポンス(DR)電力貯蔵システムの充放電
再エネ発電の出力制御
(抑制)
広域需給運用
送電・配電側 需要家側
圧縮空気貯蔵
(CAES:Compressed Air Energy Strage)
液化空気貯蔵
(LAES:Liquid Air Energy Storage)
超電導電力貯蔵
(SMES:Superconducting Magnetic Energy Storage)
電気二重層キャパシタ
(EDLC:Electric Double Layer Capacitor)
フライホイール
蓄電池
・ナトリウム硫黄電池
・レドックスフロー電池
・ニッケル水素電池
・リチウムイオン電池
・鉛蓄電池
揚水式水力
水素化 (Power to Gas)5 20 電力貯蔵分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート 長期エネルギー需給見通しでは2030 年時点の日本
における太陽光発電、風力発電の導入量はそれぞれ
64GW、
10GWと見込まれている。NEDO 技術戦略研
究センターの試算では、
1-2で述べた変動性再生可能
エネルギーの導入拡大に伴う電力需給上の問題に対し
て、対策を講じなかった場合の太陽光発電及び風力発
電の年間出力抑制量は約3,000GWh
(発電量の約3%)
となる。
2 電力貯蔵技術の置かれた状況章
(1)特許
2010年以降、
電力貯蔵システムに関連する特許出願
件数が急増している。国別では特に中国の件数増加が
著しい
(図 5)
。方式別では蓄電池に関連する特許出願
件数の伸びが著しい
(図 6)。日本の方式別特許出願件
数は、
蓄電池が最も多く、次いでキャパシタ
と水素化が多い(図7)。また、
蓄電池の特許出願件数を国別にみる
と、
2010年以降、
中国の件数増加が著しく、
近年は日本が2
番目である
(図 8)。2 -1 電力貯蔵システムの市場規模 ·シ
ェア
2 -2 特許 · 論文の動向
図 5 電力貯蔵システムの特許出願件数の推移
(国別)
注 ) 2015年の値は未確定値
出所:Thomson InnovationTM
での検索結果を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2017)
4,500
4,000
3,500
3,000
2,500
2,000
1,500
1,0005000
特許出願件数[件]
出願年
中国
日本
韓国
米国
ドイツ2010201120122013201420152007200620052004200320022001200020082009620
電力貯蔵分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
図 7 日本における電力貯蔵システムの特許出願件数の推移
(方式別)
注 ) 2015年の値は未確定値
出所:Thomson InnovationTM
での検索結果を基に NEDO 技術戦略研究センター作成 (2017)
図 8 蓄電池に関する特許出願件数の推移
(国別)
注 ) 2015年の値は未確定値
出所:Thomson InnovationTM
での検索結果を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2017)
図 6 電力貯蔵システムの特許出願件数の推移
(方式別)
注 ) 2015年の値は未確定値
出所:Thomson InnovationTM
での検索結果を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2017)
2,000
1,800
1,600
1,400
1,200
1,0008006004002000400350300250200150100500
特許出願件数
(蓄電池)
[件]
特許出願件数
(蓄電池以外)
[件]
蓄電池
キャパシタ
フライホイール
水素化SMES出願年2010201120122013201420152007200620052004200320022001200020082009
特許出願件数[件]
中国
日本
韓国
米国
ドイツ
4,000
3,500
3,000
2,500
2,000
1,500
1,0005000
出願年2010201120122013201420152007200620052004200320022001200020082009
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,00001,200
1,0008006004002000特許出願件数
(蓄電池)
[件]
蓄電池
揚水式水力
フライホイールSMESキャパシタ
水素化
圧縮空気
液化空気
出願年2010201120122013201420152007200620052004200320022001200020082009
特許出願件数(蓄電池以外)
[件]7 20 電力貯蔵分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
図 10 電力貯蔵システムの論文発表件数の推移
(方式別)
出所:Web of ScienceTM
での検索結果を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2017)
図 9 電力貯蔵システムの論文発表件数の推移
(国別)
出所:Web of ScienceTM
での検索結果を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2017)
(2)論文
2010年以降、
電力貯蔵システムに関連する発表論文
数が急増している。
国別では特に米国と中国の件数増加
が著しい
(図 9)
。方式別では蓄電池に関連する発表論
文件数の伸びが著しい
(図 10)。日本の方式別発表論文
件数は、
2011年以降、蓄電池が増加している
(図 11)。また、
蓄電池の発表論文件数を国別にみる
と、
中国、米国が多い
(図12)。発表論文件数[件]
発行年
中国
米国
韓国
ドイツ
英国
オーストラリア
日本
3,000
2,500
2,000
1,500
1,00050002010201120122013201420152007200620052004200320022001200020082009
蓄電池
揚水式水力
フライホイールSMESキャパシタ
水素化
圧縮空気
液化空気
発表論文件数
(蓄電池)
[件]
発表論文件数(蓄電池以外)
[件]
発行年2010201120122013201420152007200620052004200320022001200020082009
2,000
1,600
1,200800400020016012080400820 電力貯蔵分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、
各国で電力貯蔵
システムに関する研究開発及び実証試験が行われている。
米国では、米国エネルギー省
(DOE: Department of
Energy)
のエネルギーオフィス
(OE: Office of Energy)が所管するエネルギー貯蔵プログラムにおいて、
蓄電池、
キャ
パシタ、
フラ
イホイール等の様々な貯蔵技術を対象に研究
開発が行われている。
この取組には、
貯蔵技術自体に加え
図 12 電力貯蔵システムにおける蓄電池に関する発表論文件数の推移
(国別)
出所:Web of ScienceTM
での検索結果を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2017)
図 11 日本における電力貯蔵システムの発表論文件数の推移
(方式別)
出所:Web of ScienceTM
での検索結果を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2017)
2 -3 国内外の取組状況
て、
貯蔵システムとして機能させるために必要なパワーエレクト
ロニク
スや制御のほか、
貯蔵システム最適化のためのソフトウェアツールの開発も含まれている。 ドイ
ツでは、
2050年までに電力の80%を再生可能エネル
ギーで賄うこと
を目標と
して、
連邦経済技術省
(BMWi)、連邦環境省
(BMUB)、連邦教育研究省
(BMBF)
の3省
共同のエネルギー貯蔵システムに関する研究プログラムを
実施中である。
日本では、
系統用蓄電池の実証試験と
して、レドック
スフ
ロー電池
(北海道電力、
南早来変電所)
や、
リチウムイオン
蓄電池
揚水式水力
フライホイールSMESキャパシタ
水素化60402003020100
発表論文件数[
(蓄電池)件]発表論文件数(蓄電池以外)[件]
発行年 2010201120122013201420152007200620052004200320022001200020082009発表論文件数[件]
中国
米国
韓国
日本
ドイツ6005004003002001000発行年20102011201220132014201520072006200520042003200220012000200820099 20 電力貯蔵分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
太陽光・風力発電抑制率[%]3.503.002.502.001.501.000.500.00
周波数調整用蓄電池導入量 [GW]
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
電力貯蔵技術が生む効果については、
各所で定量的な
検討が行われている。
一例と
して、
NEDO 技術戦略研究
セン
ターが行った、
2030年における周波数調整用蓄電池
によ
る燃料費削減効果及び太陽光・風力発電特性率の
改善効果の試算例を示す。
周波数調整用蓄電池が導入
された2030年の日本の電力システム
を対象に、
経済融通、
需給調整力、
再生可能エネルギーの出力制御を考慮して、
単位時間ごと
に日本全体の火力発電用燃料費が最小となるよう需給の最適化計算を実施した。
表3に計算で用いた
諸条件を、
図13、
図14に計算結果を示す。
図13から、蓄電池量が増加するにつれて、
日本全体の燃料費削減額が
大きくなることが分かる。
燃料費削減の理由と
しては、
変動
対応に備えて部分負荷
(定格運転に比べる
と効率が低い
状態)
で運転していたLNG 火力発電を定格で運転できるこ
と、
及び LNG 火力発電が分担していた変動対応機能をバッテリ
ーが分担することで、
運転休止せざる
を得なかった
発電単価の安い石炭火力を定格で運転することができるこ
とが挙げられる。
また、
図14から、
蓄電池量が増加するに
つれて、
太陽光・風力発電抑制率が改善されていることが
分かる。
2 -4 電力貯蔵システムの効果算定例
電池
(東北電力西仙台変電所、
南相馬変電所)、ナトリウム硫黄電池
(九州電力豊前蓄電池変電所)
などの大規模
実証が行われているほか、
圧縮空気やフライホイールの研
究開発も行われている。
電力貯蔵に関する法制度面では、
2020年に電力供給
量の33%を再生可能エネルギー
とする
目標を掲げる米国カリフォルニア州において、
再生可能エネルギー導入拡大に
伴う電力系統上の問題に対応するため、
州法で州内の電
力会社3社に対して、
2020年までに3社合計1.3GWの電
力貯蔵設備導入を義務付けている例がある。 図 14 周波数調整用蓄電池による太陽光・風力発電抑制率
の改善効果試算結果
(太陽光64GW、
風力10GW)
出所:各種資料を基に NEDO 技術戦略研究センター作成 (2016)
年間燃料費削減額[億円]400350300250200150100500周波数調整用蓄電池導入量 [GW]
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3
図 13 周波数調整用蓄電池による燃料費削減効果試算結果
(太陽光64GW、
風力10GW)
出所:各種資料を基に NEDO 技術戦略研究センター作成 (2016)
目的関数
電力需給カーブ
電源構成
電力系統構成
周波数調整設備
再生可能エネルギー
導入量
再生可能エネルギー
出力予測精度
周波数調整用
蓄電池導入量
2030年の日本全体の火力発電用燃料費の最小化
100%予測どおりに発電すると仮定
0GW, 0.3GW, 1.5GW, 3GWの4ケース
太陽光 64GW、
風力 10GW
(長期エネルギー需給見通し)
日本全体10エリアのうち、
9エリア間の連系線を考慮
(増強計画含む)
2030年の電源構成
(長期エネルギー需給見通し、
経済産業省、
平成27年7月)
2013年実績ベース
火力発電、
水力発電、
揚水式水力、
蓄電池
表 3 周波数調整用蓄電池の導入効果試算で用いた条件
出所:NEDO 技術戦略研究センター作成 (2016)1020
電力貯蔵分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
電力貯蔵技術の各方式について、
表 4に原理及び特
徴を示す。
3 -1 電力貯蔵の技術体系
3 電力貯蔵分野の技術課題章表 4 電力貯蔵技術の原理及び特徴
出所:各種公表資料を基に NEDO 技術戦略研究センター作成 (2017)
原理
特徴(×ばつ:短所)
〇大容量、
省スペース化可能
〇レアアースを使用せず低コスト
〇自己放電しない
方式
ナトリウム
硫黄電池
レドックス
フロー電池
正極が硫黄、
負極がナトリウム、
電解質は固体電解質ベータアルミナセラミックス
リチウム
イオン電池
鉛電池
揚水式水力
水素化
空気
(圧縮・液化)×ばつ可燃材のため、
取り扱いに注意が必要
〇セルとタンクを離した設置が可能
〇サイクル寿命が長く、
不規則な充放電操作への耐久性が高い
〇SOC
(State of Charge:充電残量)×ばつ電流損失あり
〇長寿命
〇高速充放電が可能
〇危険物の取扱い不要
〇有害金属を使用せずリサイクルが容易
負極活物質が金属水素化物(MH)、
正極活物質がニッケル酸化物
(オキシ水酸化ニッケル)×ばつ高コスト
〇長寿命
〇高速充放電が可能
〇エネルギー密度及び充放電効率が高い
〇自己放電が小さい
正極材がリチウム含有金属酸化物
(コバルト酸リチウム等)×ばつ過放電、
過充電に弱い
〇過充電に強く出力が高い
〇広い温度範囲
(5〜50°C)
で動作
〇比較的安価
〇使用実績豊富
〇国内のリサイクル体制が確立
負極が鉛(Pb)、
正極が二酸化鉛
(PbO2)、電解液は希硫酸
(H2SO4)×ばつ定期的なSOCリセットが必要
〇他の電力貯蔵技術と比較して容量が大きい
〇貯蔵容量は数時間
(8時間程度)
までが一般的
〇交流電力系統と親和性が高い
上池、
下池 ×ばつ容量単価が極めて高い
〇時間応答性に優れる
発電電動機を系統電力によって電動機として駆動し、
これと同軸に連結したフライホイール
(はずみ車)
を高速回転させて回転
運動エネルギーを蓄積
4〜8MPa×ばつ回転体の軽量化、
強度向上が必要 ×ばつ高コスト
11 20
電力貯蔵分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
表5に電力貯蔵技術の各方式のコストやエネルギー密度
等の定量的な比較を示す。ここでは、
電力を各方式に応じ
た貯蔵形態に変換した後、
再び電力と
して取り
出す場合の
設備コストやサイクル効率を示しているが、
水素化の設備コスト
(千円/kWh)
については電力を水素に変換するところ
までのコストであり、
貯蔵及び電力と
して取り
出すと
ころは考
慮していない。
また、
図15に各方式の出力·放電時間を、図16に各用途に必要な出力·放電時間を示す。
表5において、
設備コストは方式によ
って大き
な幅があり、
同方式内でも規模や設置環境によ
って幅がある。
方式によって、
適した設置環境や用途、
エネルギー密度、
サイクル
効率が異なるため、
コス
ト比較は容易ではないが、
近年は
表 5 電力貯蔵技術の比較
出所:各種公表資料を基にNEDO 技術戦略研究センター作成 (2017)
方式
ユニット容量
100kWhMWh10MWh
100MWh分時日月GWh需給調整
時間幅
設備
コスト
[千円 /kWh]
設備
コスト
[千円 /kW]
エネルギー
密度
[Wh/L]
サイクル
効率[%]蓄電池
揚水式水力
水素化
(Power to Gas)
圧縮空気貯蔵
(CAES)
(注記)地中式
フライホイール
超電導電力貯蔵
(SMES)
液化空気貯蔵
(LAES)
電気二重層キャパシタ
(ELDC)
32-682
28-47
48-96
( 変換のみ )7-1429-58
858-968
77,000
1,100
33-385
55-506
55-83
55-165
99-209
14-55
14-57
14-57
20-400
0.1-0.2600(200barの圧縮水素)2-6-
20-80610-20
75-95
50-85
22-50
27-70
55-85
90-95
90-95
90-95
くろまる
くろまる
くろまる くろまる
くろまる
くろまる くろまる くろまる くろまる くろまる
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くろまる
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図 15 電力貯蔵技術の各方式の出力 · 放電時間
出所:各種資料を基に NEDO 技術戦略研究センター作成 (2017)1GW100MW10MW1MW
100kW10kW1kW
出力
放電時間
ミリ秒 秒 分 時間 日 週 月 季節
揚水式水力SMESCAES・LAES
蓄電池フライホイール電気二重層キャパシタ水素化
図 16 各用途に必要な出力 · 放電時間
出所:各種資料を基に NEDO 技術戦略研究センター作成 (2017)
余剰電力対応
(大規模)
余剰電力対応
(中小規模)周波数調整みかけの需要変動対応1GW
100MW10MW1MW
100kW10kW1kW
出力
放電時間
ミリ秒 秒 分 時間 日 週 月 季節1220
電力貯蔵分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
表5、
図15から分かるよう
に、
電力貯蔵技術は、
方式によって貯蔵容量、
コス
ト、
エネルギー密度、
効率等の特徴
に幅がある。
このう
ち、
コス
トや効率は改善していくべき共
通課題である。
各技術の性能向上や低コス
ト化は重要な課題であるが、
これらに加えて、
電力貯蔵技術に特有の課題は、
用途に応
じた適切な方式の選択である。
用途によ
っては、
複数の電
力貯蔵方式が競合する場合があり、
最適な選択を行う
ため
のシステム的な検討が必要である。
具体的には、
電力シス
テム全体における各方式の価値を評価するためのモデル
化や価値の定量的評価手法を構築することが必要である。
3 -2 電力貯蔵の技術課題
4 おわりに章
電力貯蔵技術の各方式には、長所 · 短所がある。今
後、
電力システムにおいて、
3E+Sを実現していく
ために
は、
各方式の短所を改善して選択の幅を広げるこ
とが必
要である。 さらに、
どこに、
どの方式を導入すればシステムの最適
化が図れるのかということ
も併せて考えていかなければな
らない。
これらの対応を行うためには、フィージビリティ
スタディ(FS)や先導研究等によ
り検証を行いつつ最適な方式を
探るとと
もに、
その産業化や国際展開について検討するこ
とが重要である。
また、
既存の技術とは異なる新しい技術
の開発も進めるべきである。
蓄電池の技術開発が急速に進んでおり、
普及ととも
にコストは大きく低下する傾向にある。
図15及び図16より、
水素化
や揚水式水力は出力が10MW 以上と大きく、
放電時間も
時間レベル以上と長いため、
みかけの需要変動対応や余
剰電力対応に活用するこ
とが可能であり、
送電〜発電側
への設置が適している。
一方、
蓄電池は放電時間が日· 時
間レベル以下であるが、
構成に柔軟性があり、
数kW 〜百
MWの出力に対応でき
るため、
周波数調整や中小規模の
余剰電力対応に活用することがで
き、
需要側〜発電側で幅広く
利用可能である。
13 20
TSC Foresight Vol.20 電力貯蔵分野 作成メンバー
しかく センター長 川合 知二
しかく センター次長 矢島 秀浩
しかく エネルギーシステム・水素ユニットくろまる 本書に関する問い合わせ先
電話 044-520-5150
(技術戦略研究センター)
くろまる 本書は以下URL よりダウンロードできます。
http://www.nedo.go.jp/library/foresight.html
本資料は技術戦略研究センターの解釈によるものです。
掲載されているコンテンツの無断複製、
転送、
改変、
修正、
追加などの行為を禁止します。
引用を行う際は、
必ず出典を明記願います。
技術戦略研究センターレポート
2017年 7月14 日発行
電力貯蔵分野の技術戦略策定に向けて
Vol. 20・ユニッ
ト長・統括研究員・主任研究員・研究員・フェロー
(2017年3月まで)・フェロー 矢部 彰
渡邊 重信
板倉 賢司
梅田 信雄
西 順也
川上 博司
小笠原有香
増田 美幸
山下 尚人
荻本 和彦
黒沢 厚志 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
技術戦略研究センター
(TSC)
(2016年3月まで)
(2015年6月まで)
(2017年6月まで)
国立大学法人東京大学 生産技術研究所 人間・社会系部門
エネルギー工学連携研究センター 特任教授
一般財団法人エネルギー総合工学研究所
プロジェク
ト試験研究部 部長

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