1章2章3章4章12地熱発電分野の
技術戦略策定に向けて
2016年6月
地熱発電技術の概要...................................................... 2
地熱発電技術の置かれた状況.......................................... 5
2-1 我が国における地熱発電開発の経緯 ................................................... 5
2-2 各国の取組状況 .............................................................................. 8
2-3 産業競争力 ................................................................................. 11
地熱発電分野の技術課題................................................ 14
3-1 地熱発電技術の体系 ..................................................................... 14
3-2 技術課題 .................................................................................... 20
おわりに..................................................................... 27
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
地熱発電は、
地球内部に蓄えられた熱エネルギーを利用した発電
技術であり、
現在実用化している地熱発電
(以下
「従来型地熱発電」
という。)では、
天然の地熱貯留層を掘りあて、
高温・高圧の水蒸気・
熱水を取り出して発電を行う。
取り出した水蒸気・熱水資源を電気
に変換する技術には、
噴出した水蒸気をそのまま利用する蒸気発電
と、
水よりも低沸点の媒体に熱交換することによって低温域の熱源
を利用できるバイナリー・サイクル発電
(以下
「バイナリー発電」という。)がある。
1913年に世界初のラルデレロ地熱発電所
(イタリア)
が商用運転
を開始して以降、
地熱発電は徐々に導入が進められ、
1970年代のオ
イルショック等を経て、
世界における導入量は1980年代以降に急拡
大した。
図1に示すように、
2012年時点での世界の累積設備容量は
約11GW、
年間発電量は約68TWhであり、
再生可能エネルギー発
電技術の中では水力、
風力、
バイオマス
(廃棄物発電を含む)、太陽
光に次いで導入が進められている。
国際エネルギー機関
(International Energy Agency、
以下
「IEA」
と い う。)Energy Technology Perspectives 2010(ETP2010)
のブルーマップシナリオ(注記)1
における再生可能エネルギーを野心的
に導入したケース
(BLUE Hi-REN)
では、図2(右図)
に示すよう
に、
2050年には地熱発電による年間発電量が1,411TWhに達す
ると試算されており、
増加率は図2
(左図)
に示した2011年実績の
69TWhに比して約20倍となる。
この倍率は太陽光発電の約150倍
(61TWhから9,274TWh)
に比べると低いものの、
風力発電の約19倍(434TWhから8,193TWh)
やバイオマス発電の約6倍
(424TWh
から2,488TWh)
よりも高く見込まれている。また、
2050年時点
の地熱発電設備容量は200GWと推算されており、
その内訳には現
在の主流となっている蒸気発電
(flash plants)
及びバイナリー発電(binary plants)
のみならず、
EGSの大幅な増加が盛り込まれ
ている。
ここでいうEGSとは、
増進型地熱システム
(Enhanced
Geothermal System)
を表し、
水蒸気・熱水の生産量が低下した
地熱貯留層に水を補給
(涵養)
して生産量の回復を図る技術や人工
的に地熱貯留層を拡大・造成する技術など、
非従来型地熱発電技術
(の一部)
を示している。
非従来型地熱発電技術には図3に示すような種類があり、
水蒸気・熱水の生産量が低下した地熱貯留層に水を補給
(涵養)
して生産量
1 地熱発電技術の概要章の回復を図る技術
(本紙ではこれをType1と記す。
以下同様。)、人工的に貯留層を改善・造成する技術
(Type2及びType3)
といった
上述の各技術のほかにも、
より深部の熱資源を活用する技術
(Type4
及びType5)
なども含まれる。
また、
同図に示したものよりも更に
深部のマグマの熱資源を利用するコンセプト
(Type6)
もある。各技術の定義は世界的にも確立されていないことから、
本紙では個々
の技術を明確に区分するため、
天然の地熱貯留層を掘りあてて利
用するものを従来型地熱発電、
それ以外の人工的に貯留層構造を
改善・造成するものや地中深部の地熱資源を活用するものといっ
た非従来型地熱発電を総じてEGS
(Engineered / Enhanced
Geothermal System)
と呼び、
各技術を涵養型EGS、
能力増進型
EGS、
高温岩体発電のように区別して記載することとする。
地熱発電は、
太陽光発電や風力発電と異なり、
電力を安定的に供
給できることからベースロード電源となりうる発電技術である。我が国では、
1966年に我が国初の松川地熱発電所
(岩手県)
が運転を
開始して以降、
1996年まで設備容量が増加した。
しかし、
1998年の
八丈島地熱発電所
(東京都)
以降、
我が国の地熱発電所の新設は停滞
した。
2011年の東北地方太平洋沖地震
(東日本大震災)
以降、
地熱発電
は重要な再生可能エネルギーとして再び注目を浴びており、
更には
固定価格買取制度
(Feed-in Tariff、
以下
「FIT」
という。)において
地熱発電に高い売電価格が保証されたことを受け、
また、
国立公園
内の地熱資源開発に係る規制が緩和されたことを受け、
多数の新規
案件
(従来型地熱発電)
が動き始めている。
その大半は調査・探査段
階であり、
これらの案件が実際に導入されるためには種々の検討が
必要であるが、
各案件の導入を着実に進めるためには、
地熱発電が
抱える(1)開発リスク、(2)減衰リスク、(3)経済性、(4)社会受容性
に関する課題を解決することが重要である。
また、
将来にわたって
我が国の地熱発電導入量を拡大していくためには、(5)導入可能量
に関する課題を解決する必要がある。
導入量の飛躍的な増大には、
非従来型地熱発電
(EGS)
技術の適用がブレイクスルーとなりうる
ことから、
従来型地熱発電技術に関する取組はもちろんのこと、非従来型地熱発電
(EGS)
技術についても着実に技術開発を進めるこ
とが期待される。
(注記) 1
2050年までにエネルギー由来の世界の CO2 排出量を2005年レベルに比較して半
減させるという目標のもと策定されたシナリオ。212
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
図1 世界における地熱発電設備容量及び発電量の推移
出所:
IEA Geothermal Implementing Agreement, Annual Report 2012
(OECD/IEA, 2014)
を基にNEDO 技術戦略研究センター作成
(2015)
図2 再生可能エネルギー発電に占める地熱発電量の現状と将来予測
出所:
IEA World Energy Outlook 2013
(OECD/IEA, 2013)
、IEA Energy Technology Perspectives 2010
(OECD/IEA, 2010)
、IEA Technology Roadmap
Geothermal Heat and Power
(OECD/IEA, 2011)
を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2015)
(出所:IEA Technology Roadmap
Geothermal Heat and Power)3 12 地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
図3 本紙における非従来型地熱発電
(EGS)
技術の分類及びこれまでの技術開発プロジェク
トの例
出所:
産業技術総合研究所作成資料を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2015)412
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
我が国では、
1966年に日本初の商用地熱発電所となる松川地熱発
電所
(岩手県)
が運転を開始して以来、
いくつかの段階を経て地熱
2 地熱発電技術の
置かれた状況章2 -1 我が国における地熱発電開発の経緯
発電の導入量を拡大してきた。
2013年度末時点の発電設備容量は約
515MW、
年間発電量は約2.6TWh
(日本の総発電量の約0.3%に相当)である。
我が国における地熱発電開発は図4及び以下に示すように第1期
から第5期までの5段階に大別される。
また、
我が国における地熱発
電の累積設備容量及び国の関連予算の推移を図5に示すとともに、
これまでの公的資金による主な地熱資源調査及び地熱技術開発関連
事業の推移を図6に示す。
図4 我が国の地熱発電開発の変遷
出所:
NEDO 技術戦略研究センター作成
(2016)
図5 我が国における地熱発電の累積設備容量及び関連予算の推移
出所:地熱発電の現状と動向 2014年
(火力原子力発電技術協会 , 2015)
を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2016)
設備容量5 12 地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
【第1期:創始期
(1960年代〜 1970年代初頭)】1966年の松川地熱発電所に続き、
いくつかの小規模な地熱発電所
の開発が進められた時期である。
この時期の各プロジェクトはパイ
ロット事業としての意味合いが強く、
国の支援を得つつ10MWク
ラスの地熱発電所
(蒸気発電)
が導入された。
【第2期:発展期
(1970年代中期〜 1980年代初頭)】第1期に建設した地熱発電所の成功を受け、
大規模化による経済
性の向上が図られた時期であり、
50MWクラスの大規模な発電所の
導入が進められた。
【第3期:成熟期
(1980年代中期〜 1990年代中期)】大規模な地熱発電所
(蒸気発電)
の経験が蓄積し、
様々な箇所で
新規開発が進められた時期である。
その一方で、
地熱貯留層の熱資
源量等に関する評価が十分ではなかった地熱発電所では貯留層の減
衰問題が深刻化し始めた。
また、
当時は利用することができなかっ
た、
より低温の地熱資源や水資源の無い高温岩体の熱エネルギーを
活用するため、
新たな地熱発電技術としてバイナリー発電や高温岩
体発電の技術開発が始められた。
【第4期:停滞期
(1990年代後期〜 2000年代)】魅力的な新規開発地点及び政策支援の減少等により、
新規導入が
停滞した時期である。
【第5期:再始動期
(2010年代〜)】2011年の東北地方太平洋沖地震
(東日本大震災)
以降、
再生可能
エネルギーの重要性が再認識され、
地熱利用関連の公的支援が大幅
に増額された時期である。
国立公園内の地熱資源開発に関する規制
が緩和されたことに加え、
事業開発段階に応じた調査支援、
出資、
債務保証及び各種技術開発が2012年から再開されたことに伴い、
複数の大規模案件の検討が進行し始めている。
図7に示すように、
2014年時点で約380MWの調査・開発段階の案件と約520MWの
地元調整段階の案件が進行中である。
図6 我が国における主な地熱資源調査及び地熱技術開発関連事業の推移
出所:
高温岩体発電システムの技術開発
(要素技術の開発)
事後評価報告書
(NEDO, 2003)
を参考に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2016)
西暦 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
昭和・平成 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26
資源調査関連
探査技術関連
掘削技術関連
生産技術関連
新タイプ発電関連
全国地熱基礎調査
全国地熱資源総合調査
深部地熱資源調査
仙台・栗駒地域調査
高密度MT法
断裂型貯留層探査法開発
逸水対策技術
MWDシステム開発
低温熱水還元
熱水の地下還元メカニズム
バイナリーサイクル発電
高温岩体発電技術
(要素技術)
エネルギー・環境新技術先導プログラム
(一部)
貯留層変動探査法開発地熱発電技術研究開発
硫化水素除去技術
炭酸カルシウム付着防止
熱水の最適生産手法
可採量増大技術
深部地熱資源採取技術
トータルフロー発電プラント深層熱水
S55 〜 H4
S48 〜 S58
H4 〜 12
S55 〜 63
S59 〜 63
S63 〜 H8
H9 〜 14
H25 〜
S61 〜 H2
H3 〜 13
S56 〜 63
S57 〜 H1
S58 〜 60
S59 〜 60
S60 〜 63
H1 〜 6
H4 〜 13
S55 〜 H12
S55 〜 57
S60 〜 H14
H26 〜
S55 〜 60612
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
図7 進行中の地熱発電案件
(2014年時点)
出所:総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 新エネルギー小委員会
(第 7回)
配布資料
(経済産業省 , 2014)7 12 地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート-(1)
各国の地熱発電の導入状況
地熱発電は、
その資源が火山地帯等に偏在するため、
導入を進め
ている国が限定的となっている。
2015年時点の国別累積設備容量
(図8及び表1)
は米国が最も多く、
次いでフィリピン、
インドネシア、
メキシコ、
ニュージーランド、
イタリア、
アイスランド、
ケニア、日本と続いている。
また、
直近5年間の国別の設備容量増加量は、表2に示すようにケニア
(392MW)、米国
(352MW)、トルコ
(306MW)、ニュージーランド
(243MW)、インドネシア
(143MW)
の順であり、
特に、
ケニア及びトルコの増加率が著しい。
2 -2 各国の取組状況
(注記) 2 2014年末時点の設備容量実績に2015年の稼働見込みが加算された数値。
図8 各国の地熱発電設備容量と発電量
(2015年)
(注記)2
出所:
Geothermal Power Generation in the World 2010‐2014 Update Report
(Proceedings of World Geothermal
Congress 2015)
を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2015)812
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
(注記) 3
設備容量については、
2014年末時点の設備容量実績に2015年の稼働見込みが加算された数値。(2)各国のEGSに関する取組状況
(表2)
地熱発電の導入が進んでいる米国では、
世界各国の中で最も積極
的にEGSに関する取組が行われている。
デザートピーク、
ニューベ
リー等で能力増進型EGS、
脆性域高温岩体発電の実証事業が実施さ
れており、
化学刺激や水圧刺激等の坑井刺激によって生産能力を改
善する取組が進められている。
また、
ガイザースでは、
貯留層の減
衰対策として涵養型EGS技術が導入されており、
一定の効果を上
げている。
オーストラリア、
フランス、
ドイツ、
韓国においては、
周辺が活火
山帯ではないことから従来型地熱発電の設備容量は少ないが、
地下
の熱資源を活用すべく、
脆性域高温岩体発電の実証事業等が進めら
れている。
オーストラリアでは、
1990年代に地下約5kmの位置に高温層が
存在することが確認されて以降、
地熱利用への期待が高まってお
り、
クーパーベイズン、
パララナ等で脆性域高温岩体発電に相当す
る技術の実証事業
(循環試験及び発電試験)
が行われた。
現在もいく
つかの実証事業が進行中であるが、
商用段階には至っていない。
フランスでは、
ソルツにおいて1987年から調査が始められ、1995年に天然の熱貯留層に水圧破砕を施すことによって、
既存熱貯留層
の能力増進
(能力増進型EGS又は脆性域高温岩体発電に相当)
に成
功し、
その後の循環試験を経て、
2008年からバイナリー発電での運
用が行われている。
スイスでは、
バーゼルにおいて水圧破砕による新たな熱貯留層造成(脆性域高温岩体発電に相当)
を試みたが、
その際に微小地震が発
生したために一時計画を中止していた。
その後、
住民投票によって
計画続行の意思決定がなされ、
事業は再開されたものの、
当初想定
したほどの熱エネルギーが回収できなかったことから事業は中断し
ている。
また、
ザンクトガレン等の他地域で新たな実証事業の検討
が開始されている。
一方、
アイスランドでは、IDDP(The Iceland Deep Drilling
Project)
と呼ばれる、
従来型地熱発電が利用する熱資源よりも高
温な地下深部の地熱資源を利用するための実証事業が民間電力会
社3社
(HS Orka hf、Landsvirkjun、Reykjavik Energy)
と、
アイ
スランドエネルギー庁
(Orkustofnun)
によって実施されている。
IDDPでは、
日本で考えられているものと水の起源は異なるものの、
超臨界地熱流体の利用を目指していることから、
超臨界地熱発電に
表1 各国の地熱資源及び地熱発電の状況(注記)3
ポテンシャル
(資源量)
【MW】
累積設備容量
(2015年)
2010年からの
設備容量増加量
設備容量 /
ポテンシャル
【%】
EGS 関連研究開発実施状況
順位 【MW】 順位 【MW】
米国 30,000 1 3,450 2 352 12 涵養型 EGS、能力増進型 EGS、脆性域高温岩体
フィ
リピン 6,000 2 1,870 ‐34 31 −
インドネシア 27,790 3 1,340 5 143 5 −
メキシコ 6,000 4 1,017 59 17 −
ニュージーランド 3,650 5 1,005 4 243 28 −
イタリア 3,267 6 916 74 28 涵養型 EGS
アイスランド 5,800 7 665 90 11 延性域高温岩体、超臨界地熱発電
ケニア 7,000 8 594 1 392 8 −
日本 23,470 9 519 ‐16 2
涵養型 EGS、能力増進型 EGS、延性域高温岩体、
超臨界地熱発電
トルコ 4,500 10 397 3 306 9 −
ドイツ − 27 20 − 能力増進型 EGS/ 脆性域高温岩体
フランス − 16 − − 能力増進型 EGS/ 脆性域高温岩体
オーストラリア − 1 1 − 脆性域高温岩体
韓国 − 0 − − 脆性域高温岩体
スイス − − − − 脆性域高温岩体
出所:
Geothermal Power Generation in the World 2010‐2014 Update Report
(Proceedings of World Geothermal Congress 2015)
等を参考にNEDO 技術戦略研究センター作成
(2015)9 12 地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
類似した地熱利用技術と考えられる。
日本では、
過去に肘折、
雄勝において脆性域高温岩体発電の要素
技術開発及び実フィールドでの検証実験が行われたことに加え、現在、
石油天然ガス・金属鉱物資源機構
(以下
「JOGMEC」
という。)の事業において涵養型EGSの技術開発プロジェクトが行われてい
る。
また、
世界に先駆けて、
超臨界地熱発電等の延性域地盤の地熱
利用に関する取組が検討されている。
上記のように、
各国でEGSに関する実証事業等が進められてお
り、
地下構造把握、
坑井刺激、
微小地震対策等の技術開発が継続的
に実施されているが、
ブレイクスルーとなる革新的な技術開発成果
は未だ見出されていない。
また、
これまでの実証事業は技術的に実
現可能かどうかの検証を目的とするものが多く、
経済性をも考慮し
た検証を目的とした事例は少ない。
表2 非従来型地熱発電
(EGS)
技術開発に対する各国の取組状況
涵養型 EGS 能力増進型 EGS
高温岩体発電
(脆性域)
高温岩体発電
(延性域)
超臨界地熱発電 マグマ発電
米国
にじゅうまる
実証事業あり
e.g.ガイザース
(生活排水を注水)
にじゅうまる
実証事業あり
e.g.デザートピーク
にじゅうまる
実証事業あり
e.g. ×ばつ ×ばつ ×ばつ ×ばつ にじゅうまる
実証事業あり
e.g×ばつ ×ばつ ×ばつ にじゅうまる
実証事業あり
e.g×ばつ ×ばつ ×ばつ にじゅうまる
実証事業あり
e.g×ばつ ×ばつ ×ばつ ×ばつ にじゅうまる
実証事業あり
e.g. ×ばつ ×ばつ ×ばつ ×ばつ ×ばつ ×ばつ にじゅうまる*
実証事業あり
(IDDP)
e.g×ばつ ×ばつ にじゅうまる
実証事業あり
e.g. ×ばつ ×ばつ ×ばつ
日本
にじゅうまる
実証事業あり
e.g. 柳津西山
しろまる
民間企業での
取組例あり
しろまる
実証事業あり
e.g. 肘折、
雄勝
しろさんかく
NEDOエネルギー・
環境新技術先導
プログラム等
しろさんかく×ばつ
にじゅうまる:実施中、
しろまる:過去に実施、
しろさんかく×ばつ:未実施・未検討* マグマ付近に存在する超臨界流体を取り出す取組のため、
ここでは超臨界地熱発電に分類しているが、本紙で定義した超臨界地熱発電とは水蒸気・熱水の起源が異なる。
また、
2015年時
点では発電には至っておらず、水蒸気を噴出させるところまでに留まる。
出所:NEDO 技術戦略研究センター作成
(2015)1012
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート(1)市場規模及び日系企業のシェア
蒸気発電及びバイナリー発電タービン・発電機の世界市場規模
(2013年)
は、
図9に示すようにそれぞれ約410億円、
約314億円で
ある。
世界の再生可能エネルギーの導入拡大傾向を反映して、
市場
規模は今後拡大する見通しが示されており、
2020年時点では蒸気発
電が約1,000億円、
バイナリー発電が約400億円に達すると予測さ
れている。
その中で我が国の蒸気発電タービン・発電機の市場シェアは高
く、
図10
(左図)
に示すように日系企業
(東芝、
富士電機、
三菱日立
パワーシステムズ)
が世界市場の約85%を占めている。
一方、
バイ
ナリー発電については図10
(右図)
に示すように約88%を米国系企業(Ormat Technologies、
Atlas Copco Mafi-Trench等)
が占め、
日系企業
(川崎重工業、
神戸製鋼所等)
のシェアは1%程度である。
図11は地熱発電タービン・発電機市場の企業国籍別シェアの推
移を調査した結果である。
2009年における日系企業のシェアは約
91%であったが、
地熱発電全体に占めるバイナリー発電の割合が伸
びた影響により、
当該市場におけるシェアは低下傾向にあり、2013年時点で約49%となっている。
2 -3 産業競争力
図9 蒸気発電
(左図)
及びバイナリー発電
(右図)
の年間市場規模の推移と予測
出所:2014電力・エネルギーシステム新市場
(富士経済 , 2014)
を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2016)
図10 蒸気発電
(左図)
及びバイナリー発電
(右図)
タービン・発電機市場の企業国籍別シ
ェア
(2013年実績、
売上高基準)
出所:平成 26年度日本企業の国際競争ポジションに関する情報収集
(NEDO, 2014)
11 12
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート(2)技術開発動向
(特許・論文)
1特許出願動向
特許庁の調査結果
(図12)
によると、
地熱発電技術に関する要素
技術区分別の2005年から2010年までの特許出願件数は各技術とも
に数十件程度と少ない。
ただし、
出願人国籍別には米国籍及び日本
国籍の企業等からの出願が多い傾向にある。
図12 地熱発電に関する要素技術区分別出願人国籍別の出願件数
(日米欧中韓への出願、
優先権主張年:2005 〜 2010年)
出所:平成 24年度グリーンイノベーション分野の特許出願動向調査
(特許庁 , 2012)
図11 地熱発電タービン・発電機市場の企業国籍別シ
ェアの推移
(売上高基準)
出所:平成 26年度日本企業の国際競争ポジションに関する情報収集
(NEDO, 2014)1212
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
2論文発表動向
国際地熱学会
(International Geothermal Association、以下「IGA」
という。)では、
IGAが関係するワークショップや国際会
議等における発表論文のデータベースを作成している。
当該データ
ベース収録論文数の発表年推移をみると緩やかな増加傾向にあるこ
とから、
地熱発電技術に関する研究開発は各国で着実に進められて
いることが伺える。
また、
図13に示すように、
IGAが主催する世界最大の地熱利用技
術に関する国際会議World Geothermal Congress
(以下
「WGC」
という。)の2015年大会
(WGC2015)
におけるEGSに関する発表
論文は全64件であり、
それらの発表者所属機関国籍別の論文数はア
イスランドが12件と最も多く、
次いでオーストラリアが10件、
ドイ
ツが8件、
フランス、
スイス、
米国が6件であった。
アイスランドの
論文数が多いのは、
上記IDDPに関する論文が多かったことによる
ものである。
その他の国々の論文は、
各国がそれぞれ実施している
EGSに関する研究開発や実証に関するものであり、
日本からは、過去に肘折、
雄勝で行われた脆性域高温岩体発電の実証事業に関する
レビューや、
現在検討され始めている超臨界地熱発電等に関する論
文が発表された。
図13 WGC2015におけるEGS技術に係る論文の発表者所属機関国籍別の件数及び比率
出所:Proceedings of World Geothermal Congress 2015を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2015)
13 12
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート(1)従来型地熱発電技術
地熱発電は、
地球内部に蓄えられた熱エネルギーを利用した発電
技術である。
地球中心部の温度は約6000°Cであり、
地下深くになる
ほど温度は上昇する。
一般に、
火山がない場所では100m深くなる
毎に地中温度は約3°C上昇し、
10km程度の深さで200 〜 300°Cの高
温となる。
これに対して、
火山帯では2 〜 3km程度の深さであって
も200 〜 300°Cの温度に達するため、
一般に地熱発電は火山帯が適
地とされる。
図14に示すように、
表層の雨水等に由来する水分がマグマだまり
の近くで加熱され、
上記のような高温の地層のキャップロック(注記)4下部等に蓄えられた場所を地熱貯留層といい、
従来型地熱発電は天然
の地熱貯留層
(又は地上の未利用熱)
の水蒸気・熱水を利用して発
電を行うものである。
1蒸気発電及びバイナリー発電
地熱貯留層から取り出した水蒸気・熱水資源を電気に変換する技
術には、
噴出した水蒸気をそのまま利用する蒸気発電と、
より低温
域の熱源を利用できるバイナリー発電があり、
これらは得られる地
熱資源の温度や汽水比
(水蒸気と熱水の比率)
等に応じて使い分け
られる。
利用する地熱資源に高温水蒸気の割合が多い場合には、
噴出した
水蒸気をそのまま活用してタービンを駆動させる蒸気発電が適用さ
れることが多い。
一方、
より低温で熱水の割合が多い場合には、地熱資源のもつ熱エネルギーを水よりも低沸点の媒体に熱交換し、その媒体の蒸気を用いてタービンを駆動させるバイナリー発電が適用
される。
設備のコストが高いこと、
発電機自体の消費電力が比較的
多いこと、
低温の熱源を利用しているために効率が低いこと等の影
響により、
図15に示すようにバイナリー発電は蒸気発電に比べて
高コストである。
ただし、
低温域の熱源を利用できることなどから、
近年の導入量は増加傾向にある。
なお、
バイナリー発電では、
主に炭化水素ガスや不活性ガスを熱
媒体として用いた
(オーガニック)
ランキンサイクル方式が主流と
なっている。
3 地熱発電分野の技術課題章3 -1 地熱発電技術の体系
(注記) 4
透水性の低い地層。通常、地中の水蒸気・熱水は地層内の隙間を通って地表に抜
けていくが、
キャップロックがあることによってこれらの熱資源が地上に逃げずに貯
留される。
図14 地熱資源の概念図
出所:地熱資源開発の現状
(経済産業省 , 2012)1412
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
2小規模地熱発電
(バイナリー発電及びトータルフロー発電)
地下の熱資源を新たに開発するものに加え、
温泉や既設発電所等
の未利用熱を利用することも可能である。
これらの熱資源は、
新規
の資源開発に費用がかからないことから、
初期コストを削減し、かつ投資リスクを低減することができる。
しかし、
地熱貯留層の熱エ
ネルギーを直接利用する蒸気発電及び
(大規模な)
バイナリー発電
よりも規模が小さくならざるを得ず、
変換効率の低下や所内電力量
の増加(注記)5
を余儀なくされることから、
現状では経済性が低く、
商用
化に向けては更なる低コスト化が必要と考えられている。
温泉の余剰熱を利用した地熱発電は温泉発電と呼ばれ、
その件数
は近年増加傾向にある。
温泉発電では一般に100°C以下の源泉の熱
を利用して発電を行う。
また、
新規掘削を伴わないことから社会受
容性が高く、
温泉事業者、
熱水供給事業者、
自治体等が推進主体と
なる点が特徴である。
温泉の余剰熱を用いた発電の導入ポテンシャ
ルは、
全国の温泉全体で約720MWとされている。
そのほかの未利用熱源としては、
既存地熱発電所の未利用坑井の
水蒸気・熱水や還元熱水がある。
地熱発電所では、
複数の坑井から
得られた水蒸気を合流してタービンに流入させるが、
圧力の低い掘
削井又は圧力が減衰した既設の坑井等、
熱源の圧力がタービンへの
流入圧力に満たない坑井は利用されていないことが多い。
また、蒸気発電型地熱発電所の気水分離器で分離された熱水は、
ダブルフ
ラッシュ型などの設備が適用されている場合を除いて、
そのまま地
下に還元される。
バイナリー発電等の低温熱回収技術を用いること
により、
これらの未利用熱から電気を得ることができるが、
現在は
未利用熱の二次利用に伴うスケール析出等の懸念から、
これらの熱
資源はほとんど利用されていない。
日本の地熱発電所の還元熱水を
利用する発電の導入ポテンシャルは15 〜 19MWとされている。
なお、
このような未利用熱を熱源とするバイナリー発電の方式と
しては、
上述のランキンサイクル方式のほかに、
アンモニアと水の
混合流体を低沸点媒体として用いるカリーナサイクル方式がある。
本方式は、
理論上、
ランキンサイクル方式よりも低温の熱源が利用
でき、
かつ変換効率も高いとされている。
そのほか、
小規模な熱資
源を利用する技術として、
水蒸気・熱水混合流体を直接活用可能な
トータルフロー発電がある。
(注記) 5 一般に、所内動力に発電量の 15 〜 30%程度が使用される。
図15 蒸気発電
(Flash plants)
とバイナリー発電
(Binary plants)
の設備コストの比較
出所:Renewable Power Generation Costs in 2014
(IRENA, 2015)
15 12
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート(2)非従来型地熱発電技術
上述のように、
従来型地熱発電は天然の地熱貯留層の水蒸気・熱
水資源を利用するものである。
これに対して、
近年、
人工的に地熱
貯留層の構造を改善・造成する技術、
地下深部の地熱資源を活用す
る技術の開発が各国で進められており、
将来技術としての期待が高
まっている。
本紙では、
これらの技術を総じて非従来型地熱発電と
呼ぶ。
非従来型地熱発電の中には、
高温の岩体に人工的に水を圧入して
亀裂を発生させ、
新たに地熱貯留層を造成する高温岩体発電や、水蒸気・熱水の生産量が低下した地熱貯留層に水を圧入して生産量の
回復を図る技術
(Enhanced Geothermal System:増進型地熱シ
ステム)
などがある。
また、
火山下部のマグマ起源岩体内の熱資源
を活用する発電のコンセプトも存在する。
上記の各技術の名称や定義は世界的にも厳密には定められてお
らず、
また、
これらの地熱関連技術全般を総称して、
Engineered
Geothermal Systemと呼ぶ場合もあることから、
本紙では個々の
技術を明確に区分するため、
天然の地熱貯留層を掘りあてて利用す
るものを従来型地熱発電、
人工的に貯留層構造を改善・造成するよ
うな非従来型地熱発電を総じてEGS
(Engineered / Enhanced
Geothermal System)
と呼ぶこととした。
本紙における非在来型
発電技術の区分を
(図3及び)
図16に示すとともに、
各発電方式の特
徴を以下に記す。
図16 本紙における各地熱発電技術の区分
(概念図)
出所:NEDO 技術戦略研究センター作成
(2015)1612
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
1涵養
(かんよう)
型 EGS
(EGS Type1)
涵養とは、
地表の水が地下の地層
(帯水層又は貯留層)
に浸透す
る現象のことをいう。
涵養型EGSは、
涵養井を用いて人工的に涵養
を行うことにより、
生産井からの水蒸気・熱水資源の生産量を回復
(又は向上)
させるための技術である。
地熱発電では、
生産井から取り出した水蒸気・熱水は発電に用
いられた後、
還元井を通して地中に戻される。
しかし、
発電の過程
で水蒸気・熱水の一部が空気中に放出されること及び生産井付近
の地熱貯留層を急速に冷やしてしまわないために、
生産井から少し
離れた場所に水を還元することから、
取り出した全ての水が生産井
付近の地熱貯留層に戻されるわけではない。
地熱発電が再生可能エ
ネルギーであるためには、
水の出入りがバランスすることが必要で
あり、
理想的な地熱発電所では還元井からの還元水と自然の涵養に
よって、
このバランスがとられている。
地下の地熱資源量の評価が十分ではなく、
過度に大規模な設備を
設置した場合や事後的に地熱貯留層の状態が変化した場合など、水の出入りのバランスが崩れると地熱資源の減衰につながる。
涵養型
EGSは、
このような減衰した地熱貯留層からの水蒸気・熱水生産量
の回復を目的として開発が進められている技術である。
また、
涵養
型EGSは、
既設生産井における貯留層の減衰率低減に加え、
新設地
熱発電所の開発リスク低減にも寄与すると考えられる。
涵養型EGSの技術課題は、
如何にして地熱貯留層の構造を正確
に把握し、
理想的な涵養状態をつくることができるかという点にあ
る。
涵養井の位置や貯留層内の構造によっては、
涵養した水が目標
とする地熱貯留層に届かない可能性や、
コールドスウィープ(注記)6
を引
き起こす可能性があることから、
地熱貯留層の構造等を精緻に把握
する技術が重要となる。
2能力増進型EGS
(EGS Type2)
人工的に水を注入するだけでなく、
高圧水の注入等によって坑井
刺激を行い、
地熱貯留層の透水性改善や周辺の貯留層との連結を実
現する技術の開発が世界各国で進められている。
本紙では、
当該技
術を涵養型EGSと区別し、
能力増進型EGSとして整理した。
能力
増進型EGSには、
地熱発電所の新設時における天然の地熱貯留構
造の改良や地熱貯留層そのものの拡大といった効果が期待されるほ
か、
既存の地熱発電所に当該技術を適用することにより、
減衰した
地熱貯留層における水蒸気・熱水の生産性向上にも寄与できると考
えられている。
本技術の実用化に向けては、
坑井刺激の技術や、
高精度な天然亀
裂の状態評価、
アコースティック・エミッション観測等を用いた亀
裂進展評価などの各種評価技術が重要となる。
3高温岩体発電
くろまる脆性域高温岩体発電
(EGS Type3)
地熱発電は、
3つの要素、1熱源
(十分な温度か)
、2貯留構造
(キャップロックがあるか、
貯留層として活用できる亀裂があるか、
水の流路があるか等)、3水
(十分な水があるか、
供給源があるか)
の全てが揃わなければ実現しえない。
高温岩体発電では、
高温の岩体に人工的に水を圧入して亀裂を発
生させることによって、
新たに地熱貯留層を造成し、
地熱発電に必
要となる熱源、
貯留構造、
水の3つの要素のうち、
貯留構造を人工的
につくり、
水を外部から供給する。
このため、
これまで地熱発電の
実施が困難であった場所でも地熱発電を行うことが可能となる。また、
天然の地熱貯留層を利用する従来型地熱発電よりも開発リスク
(注記) 6
還元井から還元した低温の水が十分に熱せられないままに生産井側に流れ、生産
井周辺の水蒸気・熱水資源を冷却する現象。
図17 涵養型EGSのイメージ
出所:
地熱発電技術研究事業に関する資料
(JOGMEC, 2013)
掲載図を参考に NEDO 技
術戦略研究センター作成
(2016)
図18 能力増進型EGSのイメージ
出所:
地熱発電技術研究事業に関する資料
(JOGMEC, 2013)
掲載図を参考に NEDO 技
術戦略研究センター作成
(2016)
17 12
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
を低減できる可能性もある。
通常、
岩盤の自重の影響により、
地表面から深くなるほど岩盤に
は高い圧力がかかるため、
一定の深さ以深は水が浸透し難い岩盤
(以下
「基盤岩」
という。)になると考えられている。
従来型地熱発電
は基盤岩よりも浅い場所にある天然の地熱資源を利用するのに対し
て、
高温岩体発電では低透水性の基盤岩内に人工的に地熱貯留層を
造成する。
貯留層を造成する岩盤を基盤岩とするのは、
均質で透水
性が低い岩盤でないと、
水を注入した際に周囲に水が漏れ出るおそ
れがあるためである。
高温岩体発電の日本国内の導入ポテンシャルは、天然の地熱
貯留層の利用を想定した従来型地熱発電の導入ポテンシャル
(23,476MW(注記)7)よりも多いと考えられており、
NEDOが国内の特
定の地点を対象として行った調査結果を基にした推定では、
3km以
浅の場合に29,000MW程度、
5km以浅の場合に127,000MW程度
と見込まれている。
これまで海外を含めて複数箇所で実フィールドでの検証実験が行
われており、
我が国においても、
1980年代から2000年代にかけて、
肘折、
雄勝などで検証実験が行われたが、
逸水や得られる熱量の課
題などから、
実用化には至っていない。
くろまる延性域高温岩体発電
(EGS Type4)
近年、
我が国の研究者から、
上記の高温岩体発電よりも更に深部
の延性域の岩体を対象とした高温岩体発電のコンセプトが提案され
ている。
岩石は飴と同様に温度によって性質が変化し、
比較的低温の岩石
は荷重による破壊時に脆性的な性質
(力を加えると割れる)
を示す
が、
高温になると延性的な性質
(力を加えても割れず、
高温の飴の
ように伸びる)
を示す。
そのため、
マグマ
(溶融した高温の岩石)
(注記)8
の深度に近づくにつれて岩石の力学的な性質は脆性から延性に変化
し、
また、
脆性と延性の境界となる深度域が存在する。
この深度を
境に岩石の力学的な性質が大きく変化し、
更には必要となる技術開
発項目も異なることから、
本紙では、
この境界よりも浅部の岩体の
熱源を対象とする高温岩体発電を脆性域高温岩体発電、
深部の岩体
の熱源を対象とするものを延性域高温岩体発電と区別した。
延性域の岩体は振動を周囲に伝え難いため、
亀裂形成時の微小振
動の抑制につながるとともに、
延性域岩体の冷却等によって造成した(脆性の岩石となっている)
地熱貯留層の周囲を延性域の岩石が
おおうことにより、
逸水をほぼ皆無にできることから、
水の回収率
を抜本的に向上できると考えられている。
ただし、
延性域の岩盤の
掘削や開発を行った例は世界的にもほとんどなく、
技術的なハード
ルは高いといえる。
(注記) 7
産業技術総合研究所作成資料
(2011)
より。
(注記) 8
マグマの融点は圧力や岩石の組成によって変化する。珪長質マグマにおいては、
水分を含む場合には 600°C以上、無水の場合は 800°C程度である。
図19 従来型地熱発電と高温岩体発電の比較
(概念図)
出所:
高温岩体発電システムの技術開発
(要素技術の開発)
事後評価報告書
(NEDO, 2003)
図20
従来型地熱発電と高温岩体発電
(及び涵養型 / 能力増進型EGS)が利用可能とする地熱資源範囲の違い
(概念図)
出所:NEDO 技術戦略研究センター作成
(2015)1812
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
4超臨界地熱発電
(EGS Type5)
プレートテクトニクスにおけるプレート沈み込み帯の近傍では、
地下に引き込まれたプレートに含まれる海水に起因する水分が超臨
界状態となって地下に存在すると考えられており、
近年、
東北大学、
産業技術総合研究所らの研究者によって、
この熱水資源を発電に利
用するコンセプトが提唱されている。
本紙では便宜上、
これを超臨
界地熱発電と呼ぶ。
当該発電技術で利用する地熱資源は、
より高温(注記)9
であるためエネ
ルギー密度が高く、
また引き込まれたプレートに含まれる海水の量
は相当量に達すると見込まれているため、
地熱資源としてのポテン
シャルは極めて大きいと推測されている。
しかし、
実際に超臨界水
が存在するかどうか、
また、
どの程度のポテンシャルがあるかが現
時点では未確認であるため、
まずはこのような超臨界状態の資源の
存在を確認する必要がある。
加えて、
当該技術の実用化にあたって
は、
高温・高圧環境下での掘削技術や坑井技術などが必要となる。
5マグマ発電
(EGS Type6)
マグマ発電は、
マグマの熱資源を利用する地熱発電である。
極め
て高温の熱資源を利用するため、
取扱が非常に難しいと考えられて
おり、
現時点ではコンセプト段階に留まっている。
マグマ発電においては、
マグマ内部に人工的な地熱貯留層を造成
することは困難であるため、
同軸管を用いて地上から水を注入し、
地下深部においてマグマがもつ熱との熱交換を行う方式
(同軸熱交
換方式)
の適用が想定されている。
同軸熱交換方式は、
掘削が一カ
所で済み、
貯留層の構造等の影響を受けにくいという点では開発リ
スクを低減させることが可能である一方、
伝導による熱交換が主体
となり、
熱交換に比較的長い時間を要するため、
安定的に熱エネル
ギーを回収できるかどうかという点に懸念がある。
また、
技術的な
課題としては超臨界発電と同様に高温対策等が考えられる。
(注記) 9
温度の目安としては、従来型蒸気発電で 200°C〜 300°C、高温岩体発電で 300°C
〜 400°C、超臨界地熱発電で 400°C〜 500°C程度。
19 12
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
地熱発電においては、
利用する熱資源の種類に応じて適用される
技術が異なるため、
解決すべき課題もそれぞれ異なるが、
共通する
要素として、(1)開発リスクの低減、(2)減衰リスクの低減、(3)経
済性の向上、(4)社会受容性の向上、(5)導入可能量の増加が挙げら
れる。
なお、
スケール付着(注記)10
や腐食は、(2)及び(3)に関連する課題で
ある。(1)開発リスクの低減
地熱発電事業における最大の開発リスクは
「掘ってみないとわか
らない」
ことである。
前述したとおり、
地熱発電においては1熱源、
2貯留構造、
3水の全ての要素が揃う必要があるが、
これらの条件が
揃っているかどうかを確かめるためには、
事前調査から調査井掘削、
噴気試験、
資源量評価等の一連の調査・開発プロセスが必要であり、
水蒸気・熱水が得られなかった場合には、
この期間の費用
(図21に示
すように調査井掘削までの調査段階で初期費用全体の約8%、
生産井・還元井等の本掘削まで含めると約25%(注記)11)は無駄になるリスクがあ
る。
このようなリスクが生じる理由として、
地熱貯留層の構造把握の
困難さが挙げられる。
地下構造を把握する技術は、
これまで石油・天
然ガス資源開発の中で大きく発展してきた。
石油・天然ガス資源は堆
積岩中のキャップロック
(透水性の低い地層)
の下部に蓄えられてお
り、
地熱資源もそういった地層の下部に貯留されているため、
地熱貯
留層の把握においても、
石油・天然ガス資源開発の技術が多く利用さ
れている。
ただし、
石油資源開発と地熱資源開発の大きな違いは、地熱資源を開発する場合には地下の亀裂構造を把握することが必要と
なる点にある
(図22)。地熱資源は地下の薄い亀裂
(数cm 〜数m程度)の中に存在しており、
地熱貯留層内の資源を獲得するためには、
このような亀裂に坑井を掘りあてる必要がある。
したがって、
地熱資
源掘削には石油・天然ガス掘削よりもより高度な地下構造把握技術
が必要となるが、
現行技術では、
それらを精緻に把握することは困難
である。
そのため、
この課題を克服する新技術が開発されれば、
開発
リスク及びコストを抜本的に低下させることが可能となる。
また、
その他にも、
初期投資が多額であること、
図23及び表3に示
すようにリードタイムが長いことも開発リスクを高める要因となっ
ている。
3 -2 技術課題
(注記) 10
地中の水蒸気・熱水は二酸化ケイ素
(SiO2)
や炭酸カルシウム
(CaCO3)
など様々
な成分を含んでおり、
これらが温度の低下により折出し、生産井や配管、
タービン
等に付着する。
スケール付着によって井戸が閉塞すると、継続的に浚渫
(しゅんせつ)工事や井戸の追加掘削が必要になるため、事業性の圧迫につながる。
(注記) 11
調達価格等算定委員会
(第 3回)
配布資料
(経済産業省 , 2012)
よりNEDO 技術
戦略研究センター推算。30MW のモデルプラントにおいて、初期費用は 258億円
であり、
その内訳は調査・探査費が 20億円
(約 8%)、アセスメント・開発費が 44
億円
(約 17%)
、建設費が 194億円
(約 75%)。図21 地熱発電の開発リスク
(イメージ)
と各開発段階の事業費概算
出所:
NEDO 技術戦略研究センター作成
(2016)
(金額出所:調達価格等算定委員会
(第 3回)
配布資料
(経済産業省 , 2012)2012
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
図23 地熱発電の開発ステップと所要期間
出所:総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 新エネルギー小委員会
(第 1回)
配布資料
(経済産業省 , 2014)
図22 貯留層構造に関する評価技術高度化のイメージ
出所:NEDO 技術戦略研究センター作成
(2015)
21 12
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート(2)減衰リスクの低減
地熱発電所においては、
運転開始後の水蒸気・熱水生産量の減少
や還元能力の低下によって、
発電量の低下
(減衰)
を余儀なくされる
ことがあり、
発電事業者にとっての大きな課題となってきた。
この
原因には、
主に1地熱貯留層の減衰及び2坑井の経年変化が挙げら
れる。
水蒸気・熱水の生産量を再度増加させるためには、
新たな生産井
の追加掘削等を行う必要が生じ、
それに伴う費用が発生する。
また、
スケール付着等の影響により排熱水の還元能力が低下した場合も同
様に、
還元井の追加掘削等が必要となる。
なお、
地熱資源の減衰やスケール付着の程度は、
地熱貯留層や還
元層等の性質によってさまざまである。
1地熱貯留層の減衰
図24に示すように、
地熱貯留層内の資源量に対して過度に大きな
発電設備を設置した場合、
貯留層内の水蒸気・熱水量は生産と供給
のバランスがとれなくなることによって減衰し、
圧力の低下、
温度
の低下、
貯留層内沸騰・過熱化(注記)12
等が発生する。
地熱発電導入量が
急速に増加した1980年代から1990年代には設備の大型化が進んだ
一方で、
地熱貯留層の評価技術が確立されていなかったために、このような減衰問題が深刻化した。
一部の発電所については操業後に
適切な発電出力に変更するなどの対策をとることによって安定した
発電が可能となっている事例もあるが、
図25から読み取れるよう
に、
2013年度の日本全体の発電量は最大発電量時
(1997年度)
の約
69%に低下している。
貯留層の減衰を防ぐためには、
開発段階に適
切な資源量評価を行い、
資源量に見合った規模の発電設備を設置す
ることが重要である。
なお、
地熱貯留層の減衰要因には、
貯留層内にスケールが蓄積す
ることによって内部に閉塞が発生することに起因するものもある。
(注記) 12
水分が少なくなり、貯留層内の温度が過度に上昇する現象。水蒸気・熱水が強酸
性化するなどの弊害も発生する。
表3 各再生可能エネルギー発電のリードタイムの比較
電源 計画〜稼働の期間 参考情報
一般水力 5年程度
直近7年間に稼働した発電所
(サンプルプラント、
4基)
について、
立地決定の表明から運
転開始の年までの期間。
新規電源開発地点と
して電源開発基本計画
(H15年廃止)
に組み
入れられた年からプラン
トの運転開始の年までの平均的な期間も同程度。
小水力 2 〜 3年程度
関連事業者へのインタビュー及びNEDO 導入ガイドブック等により、
1水利権使用許可申
請2環境影響評価、
系統連系協議、
3電気事業法・建築基準法に係る手続き業務4建設
工事、
5使用前安全管理検査等を合わせて2 〜 3年程度。
(注記)
流量調査から必要な
「新規設置」
なのか、
そのデータは既にあり使用可能なのか、
地元
地権者との交渉の要・不要及びそれに係る期間、
環境調査の要・不要など、
色々な要
素があり一概には言えない点に留意。
地熱
9 〜 13年程度 関連事業者へのインタビューによれば、
机上検討、
予備調査を除き、
1資源量調査
(これま
でNEDO 等が一定程度まで実施)、2許認可手続き・地元調査、
3建設
(3 〜 4年)
を併
せて9 〜 13年程度。
陸上風力 4 〜 5年程度
関連事業者へのインタビュー及びNEDO 導入ガイドブック等より、
1風況調査2環境影響
評価、
系統連系協議、
3電気事業法・建築基準法に係る手続き業務4建設工事、
5使用
前安全管理検査を併せて4 〜 5年程度。
洋上風力 ー 実用化に至っていないため不明。
バイオマス
(木質専焼)
3 〜 4年程度
関連事業者へのインタビュー及びNEDO 導入ガイドブック等によれば、1環境影響評価、
系統連系協議、
2廃掃法上の手続き業務、
3電気事業法・建築基準法に係る手続き業務、
4建設工事、
5使用前安全管理検査を併せて3 〜 4年程度。
バイオマス
(木質混焼)
1年半程度
関連事業者へのインタビューによれば、
事業スキームの枠組み、
設備検討、
建設工事
(7ヶ
月〜 11ヶ月)
で、
計1年半程度。
(注記)既設石炭火力プラン
トへの増設のため工事計画届け等が不要。
太陽光住宅
(住宅用)
2 〜 3ヶ月程度 契約手続き、
補助金申請、
設置工事、
系統接続等を合わせて2 〜 3ヶ月程度。
太陽光
(メガソーラー)
1年前後
関連事業者へのインタビュー及びNEDO 導入ガイドブック等より、
1系統連系協議、2電気事業法
(・建築基準法)
の手続き業務3建設工事、4使用前安全管理検査を併せて1
年前後。
出所:調達価格等算定委員会
(第 2回)
配付資料
(経済産業省 , 2012)2212
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
図24 貯留層減衰の原因
(概念図)
出所:
「貯留層変動探査法開発」・「高温岩体発電システムの技術開発
(要素技術の開発)」(事後評価)
2件合同分科会 資料 5‐1‐2
(NEDO, 2003)
図25 我が国の地熱発電所の発電量・発電時間及び稼働時間あたり発電量の推移
出所:地熱発電の現状と動向 2014年
(火力原子力発電技術協会 , 2015)
を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2016)
23 12
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
2坑井の経年変化
地熱貯留層内の水蒸気・熱水資源は様々な鉱物等に由来する化学
成分を含んでいるため、
発電設備の運転を継続するにつれて、
これら
の成分が井戸の内表面等に析出・付着する場合がある
(図26)。これ
により、
生産井の水蒸気・熱水生産能力、
還元井においては還元水の
還元能力が低下し、
発電量の低下につながることがある。(3)経済性の向上
我が国における地熱発電の発電コストは、
現在普及している蒸気
発電型で10.9円/kWh(注記)13とされており、
実際の売電価格においては、
これに(1)に記した開発リスクの高さが考慮(注記)14
される。
また、
開発地
点によっても経済性は大きく異なる。
地熱発電の経済性は地熱資源温度、
掘削深度及び設備の発電容量
等に大きく依存する。
図27は地熱資源の温度と設備単価の関係であ
り、
利用できる水蒸気・熱水の温度が高いほど設備単価が下がる傾向
にあることがわかる。
また、
設備の発電容量が大きいほど発電コスト
が低下する傾向にあることも知られている。
ただし、
設置可能な設備
容量は得られる地熱資源量に依存するため、
事業者が自由に設定でき
るものではない。
加えて、
図28からも読み取れるように、
世界的にも蒸気発電やバ
イナリー発電などの従来型地熱発電は既に成熟した技術とされてお
り、
(特にタービン・発電機部分については)
技術開発によるコスト
低減はあまり期待されていない。
むしろ、
上述のとおり地熱発電の経
済性は地熱資源の質や場所に大きく影響されるため、
地熱資源開発の
困難度によって発電コストは上昇する傾向にある。
地熱発電の場合には、(1)に記したように他の再生可能エネルギー
発電に比べて開発リスクが高いことから、
この低減に向けた取組が重
要であり、
経済性の向上には革新的な低コスト掘削技術やEGS等の
新技術によるブレイクスルーが必要と考えられる。
(注記) 13
長期エネルギー需給見通し小委員会に対する発電コスト等の検証に関する報告
(経済産業省 , 2015)
に記載されている政策経費を除いた地熱発電の発電コスト。
(注記) 14
地熱発電においては、FIT による買取価格の前提条件として、調査費及び開発リス
クを鑑み税引き前 IRR を13%としており、他の再生可能エネルギー発電よりも高
い事業報酬が設定されている
(10kW 以上の太陽光発電では 6%、20kW 以上の
風力発電では 8%)。図26 スケールが付着した配管断面の例
出所:NEDO 技術戦略研究センター撮影
(2014)
図27 水蒸気・熱水温度と設備単価の関係
出所:Renewable Power Generation Costs in 2014
(IRENA, 2015)2412
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート(4)社会受容性の向上
地熱資源には地域偏在性があり、
主に火山に近い場所に多くの導
入ポテンシャルを有する。
一方、
これらの地域は国立公園に指定され
た景勝地であることが多く、
導入ポテンシャルがある地域の約8割が
国立公園内に賦存する、
又は温泉地として地熱資源が活用されている
ことが多いなど、
地熱発電の導入にあたっては自然環境や地元産業と
の共存をいかに図っていくかが重要となる。
国立公園内の地熱資源の活用については、
2012年及び2015年の規
制緩和により、
図29に示すように地熱資源の約7割が利用可能となっ
たが、
新たに開発が認められた地域については優良案件に限るとされ
ており、
環境や景観に配慮した地熱発電とするための技術と工夫が必
要である。
地熱発電の温泉への影響に関しては、
我が国においてはこれまで
に明確な影響があったという事例の報告は無いが、
地熱開発が温泉に
影響しないように対策を講じることが重要である。
具体的には、
地熱
貯留層と温泉帯水層がどの程度連結されているかを確認することな
どによって、
温泉への影響を回避できると考えられている。
これらの
課題は技術開発のみでは解決しえないが、
技術開発を通じてその確度
を高め、
社会受容性の向上に寄与することは可能と考えられる。(5)導入可能量の増加
上述のとおり、国内の地熱発電の2015年度時点の導入量は約
515MWであり、導入ポテンシャルは23,476MWに及ぶが、環境
保護地区の制約や経済性の制約を加味すると大幅に少なくなり、図30に示す2009年の試算では、
ある程度の経済性
(発電コスト22円/
kWh以下)
が見込まれる地点の合計は950MWとされている。
この
ことから、
より一層の導入拡大のためには、
経済的にも導入可能な場
所を増やしていくことが必要といえる。
例えば、
国立公園の第2種及び第3種地域の導入ポテンシャルは
7,621MWであり、
自然公園外及び普通地域の導入ポテンシャルの
6,100MWを上回ることから、
これらの地域における案件が増加する
ことにより導入可能量の増加が期待できる。
また、
高温岩体発電や超
臨界地熱発電等、
これまでの天然熱水系とは異なる地熱資源を活用可
能とする技術が実用化できれば、
導入可能量は大幅に増加すると考え
られる。
(注記) 15
本資料における地熱発電は従来型地熱発電を対象としている。
図28 各種電源の発電コスト
(LCOE)
低減の見通し(注記)15
出所:Renewable Power Generation Costs in 2014
(IRENA, 2015)
25 12
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
図29 国立・国定公園内の地熱開発の規制状況
(イメージ)
出所: 「国立・国定公園内における地熱開発の取扱いについて」
に係る通知文書
(環境省 , 2012, 2015)
及び調達価格等算定委員会
(第 1回)
配布資料
(経済産業省 , 2012)を参考に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2016)
図30 地熱開発地点毎の発電コストの違い
(従来型地熱発電)
出所:
「地熱発電開発促進調査結果に基づく開発可能資源量について
(NEDO)」、地熱発電に関する研究会
(第 3回)
配付資料
(経済産業省 , 2009)2612
地熱発電分野の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
地熱発電は太陽光発電や風力発電のように天候に左右されない
ため、
ベースロード電源となりうる発電技術である。
また、
出力が
安定しており、
太陽光発電及び風力発電の大量導入に際して課題と
なっている不安定な出力変動が無いことから、
経済合理性が認めら
れる範囲で導入が進められるべき再生可能エネルギーである。
我が国においては、
2000年代の停滞期を経て、
再度、
地熱発電の
導入拡大に向けた取組が進められている。
我が国の蒸気タービン・
発電機をはじめとした地熱発電関連の技術水準は世界トップクラ
スであることから、
その技術力を活用した取組が期待される。
また、
今後の導入量の拡大に向けては、
地熱資源の開発リスク及び減衰リ
スクを低減させるための技術や、
経済性の向上及び社会受容性の向
上に資する技術の開発が求められている。
我が国における地熱発電の設備容量は約515MWであるが、
政策
支援や各種技術開発による従来型地熱発電の導入拡大支援に加え、
涵養型EGS及び能力増進型EGSの適用も地熱発電の導入量拡大に
貢献できる可能性がある。
また、
将来の更なる地熱発電の導入拡大
には、
これまで利用できなかった新たな地熱資源を利用可能とする
ことも必要と考えられることから、
地熱発電導入量の飛躍的な増大
には、
非従来型地熱発電
(EGS)
を中心とした新技術によるブレイ
クスルーが期待される。
しかし、
これらの新技術については世界的
にも未だ商用段階にはなく、
実現可能かどうかの見定めが行われて
いる状況にあるため、
基礎的な知見の獲得を着実に進めていくこと
が望まれる。
4 おわりに章本資料は技術戦略研究センターの解釈によるものです。掲載されているコンテンツの無断
複製、転送、改変、修正、追加などの行為を禁止します。引用を行う際は、必ず出典を明記
願います。
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