技 術 戦 略 研 究 セ ン タ ー レ ポ ー ト
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
技術戦略研究センター
(TSC)Vol.T SC とは Technology Strategy Center
(技術戦略研究センター)
の略称です。7ロボッ
ト分野
(2.0領域)の技術戦略策定に向けて
2015年11月1章2章3章4章
ロボット技術
(2.0領域)
の概要............................................. 2
ロボット技術の置かれた状況................................................ 3
2-1 ロボット関連の公的支援プロジェクト... ...................................................... 3
2-2 技術開発動向
(国内・海外)
.................................................................. 6
2-3 産業競争力
(諸外国との比較)
............................................................... 7
ロボット分野
(2.0領域)
の技術課題....................................... 13
3-1 主要技術要素の体系........................................................................ 13
3-2 各用途の将来ロボット像..................................................................... 14
3-3 技術課題....................................................................................... 15
おわり
に... ..................................................................... 17
ロボッ
ト分野
(2.0領域)
の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
少子高齢化、
生産年齢人口の減少化に伴う製造業の国際競争
力の維持・向上や、
GDP 及び雇用のシェアを7割程度(注記)1
占めるサー
ビス産業
(第 3次産業)
の生産性の向上、インフラ老朽化など、課題先進国である
日本においてロボットを用いた課題解決の道筋をつくり
だし、
ロボッ
トの実用性を世界にアピールするこ
とは、
我が国の技
術的優位性を魅力ある製品・サービスに結びつけるこ
とにつなが
る。
また、
今後のロボッ
トの活用にあたっては、
人間の代替を目的と
するアプローチにと
どま
らず、
様々な場面において、
単機能ではなく複合機能を発揮するなど、
人間の能力を凌駕するロボッ
トの活躍が
期待される。
ロボットを用途
(ニーズ)
で区分する
と、
「産業用ロボッ
ト」
「フィールドロボット」
「サービスロボット」
の三つに大別される。
産業用ロボッ
トでは、
比較的簡単な
「く
り返し作業」
がその適用
先の中心であったが、
ここ10年ほどで
「知能化」
に対するニーズが
急速に高ま
ってお
り、
「よ
り高度な生産の自動化」
を目指す取組が望
まれるよう
になっている。
日本企業の競争力が高い分野であるため、
この強みを活用した方策の展開が期待される。 フィ
ール
ドロボッ
トでは、
災害現場で十分に活躍でき
るロボッ
トがな
いため、
一部機能でも使えるロボットをいち早く投入するこ
とが期待
されている。
サービスロボッ
トは、
「2005年日本国際博覧会
(愛知万博)
」前
後に注目を浴びたパフ
ォーマンス中心のヒューマノイドロボッ
トから、
サービス現場に投入可能なロボッ
トへというニーズ変化を受けた揺
籃期にある。
サービス産業の生産性向上、
医療介護サービス現場
における働き手の確保など、
ユーザニーズを的確に捉えるこ
とで爆
発的導入が期待されるこ
とから、
今後の拡大市場と
して注目される
用途である。
なお、
ヒューマノイドロボッ
トについては日本が技術優
位性を保っているため、
その技術力を活用した方策の展開が期待
される。
ここでは、
ロボッ
ト関連技術を成熟段階によって三つの領域(1【1.0領域】
すでに技術的に確立し社会への普及促進が図られる
べき段階、2【1.5領域】
技術的におおむね確立し実証実験等によ
りモデルを提示すべき段階、3【2.0領域】
ロボッ
トの利用分野を念
頭におきつつ人間の能力を超えること
を狙う先端要素技術開発を実
1 ロボット技術
(2.0領域)
の概要章施する段階)
に区分する。
上記のように、
ロボットが人間の能力を凌
駕すること
を狙う
ためには、
単なる現在のロボット関連技術の延長上
にと
どま
らない、
未知の領域と
も言える2.0領域の検討を進めることが必要である。
また、
ロボットの主要技術要素は、
従来
「センシング」
「制御」
「駆
動」
の三つに整理されてきた。
この3要素の重要性は2.0領域の検
討においても変わる
ものではないが、
今後、
ロボットが広範囲に活用
されるためには、
ロボッ
トの知能に当たる人工知能に関する技術も
併せて重要であるため、
今後は主要技術要素を、
人工知能を加え
た四つと考えるべきである。
したがって、
2.0領域のロボット分野の技
術戦略の検討においては、
ロボッ
トの各用途における
「人間の能力
を凌駕する
『将来ロボッ
ト像』」を明らかにし、
そのう
えで主要 4技
術要素(「人工知能」
「センシング」
「制御」
「駆動」)のそれぞれに
ついて、
獲得すべき先端技術を明らかにすることが望ま
しい。
なお、
人工知能に関しては、
その重要性に鑑み、
その概要を
「人
工知能分野の技術戦略策定に向けて
(TSC Foresight Vol.8)」に報告しているので参照されたい。
(注記) 1 内閣府
「国民経済計算確報
(平成 26年度)」27 ロボッ
ト分野
(2.0領域)
の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート(1)日本の動向
経済産業省をはじめとする関係省庁のロボッ
ト関連技術開発を
含むプロジェクト
を図1に示す。
経済産業省のプロジェク
トでは、
1980年代に、人間の脳を超え
て高速処理や大量処理を可能とする人工知能を目指した第 5 世
代コンピュータプロジェクト(1981-1990)
が実施され、
高度な機械
制御が可能となるエキスパートシステムや自然言語処理技術が開
発された。
1990年代には、
実世界の知能技術の研究開発を目指
したリ
アルワール
ド・コンピューティング・プロジェク
トが実施された。
その後、
2005年に開催された日本国際博覧会
(愛知万博)
以降、
次世代ロボッ
ト実用化プロジェクト
(2004-2005)、人間支援型ロボッ
2 ロボット技術の置かれた状況章2 -1 ロボット関連の公的支援プロジェクト
ト実用化基盤技術開発
(2005-2007)
、戦略的先端ロボッ
ト要素
技術開発プロジェクト(2006-2010)、生活支援ロボッ
ト実用化プロ
ジェクト(2009-2013)
など、
ロボッ
トの実用化に向けて、様々なロ
ボッ
ト分野のプロジェク
トが継続的に実施された。
また、
東日本大震
災以降、過酷環境下での災害現場に対応可能な耐久性のあるロボッ
ト開発を
目指して、
災害対応無人化システム研究開発プロジェクト
(2011-2012)
などが実施された。
内閣府のプロジェク
トでは、基礎研究から実用化を見据えた研
究開発までを約 5年で実施し、世界のトップを目指す最先端研究
開 発 支 援プログラム
(FIRST)
(2009-2013)、また、革 新 的な
科学技術イ
ノベーションの創出を目指し、
ハイ
リスク
・ハイイ
ンパク
トな挑戦的研究開発を推進する革新的研究開発推進プログラム
(ImPACT)
(2014-2018)
などが実施されている。
文部科学省のプロジェク
トでは、
国が定めた戦略目標の達成に
向けた課題解決型基礎研究を推進する、
戦略的創造研究推進事
業・総括実施型研究
(ERATO)
(2002 〜)、大学発新産業創出
拠点プロジェクト
(START)
(2012 〜)
などが実施されている。
1970 1980 1990 2000 2010 2020
経済産業省
内閣府
・最先端研究開発支援プログラム
(FIRST)
2009‐2013
・革新的研究開発推進プログラム
(ImPACT)
2014‐2018
・戦略的イノベーション創造プログラム
(SIP)
2014‐
総務省
・戦略的情報通信研究開発推進事業
(SCOPE)
(2002〜)
・I‐Challenge!
(ICTイノベーション創出チャレンジプログラム)
(2014〜)
文部科学省
・戦略的創造研究推進事業・総括実施型研究
(ERATO)
(2002〜)
・大学発新産業創出拠点プロジェクト
(START)
(2012〜)
・ロボティクス・スタートアップ挑戦人材応援プロジェクト
(2015〜)
・科学研究費助成事業
・大学間連携共同教育推進事業
・パターン情報処理システムの研究開発 1971‐1980
・第5世代コンピュータプロジェクト
(ICOT) 1981‐1990
・極限作業ロボットプロジェクト 1983‐1990・リアル・ワールド・
コンピューティング・プロジェクト
(RWCP) 1992‐2001
・ロボットの開発基盤となるソフトウェア上の基盤整備 2002‐2004
・次世代ロボット共通基盤開発 2005‐2007
・基盤ロボット技術活用型オープンイノベーション促進プロジェクト 2008‐2010
・次世代ロボット知能化技術開発プロジェクト 2007‐2011・人間協調・共存型ロボットシステム研究開発 1998‐2002
・基盤技術研究促進事業 2001‐2013
・次世代ロボット実用化プロジェクト 2004‐2005

人間支援型ロボット実用化基盤技術開発 2005‐2007
・戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト 2006‐2010
・生活支援ロボット実用化プロジェクト 2009‐2013
・ロボット活用型市場化適用技術開発 2015‐2019
・災害対応無人化システム研究開発プロジェクト 2011‐2012
・環境・医療分野の国際研究開発・実証プロジェクト 2012‐2015
・IT融合による新社会システムの開発・実証プロジェクト
(都市交通分野) 2012‐2013
・ロボット介護機器開発・導入促進事業 2013‐2017 (2015以降はAMED)
・インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト 2014‐2018
・情報大航海プロジェクト 2007‐2009
・次世代ロボット中核技術開発 2015‐2019
図 1 ロボッ
ト技術開発関連の国家プロジェク
トの経緯
出所 : 各種公開情報を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2015)3 7 ロボッ
ト分野
(2.0領域)
の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
図 3 人間型ロボッ
トの開発例
写真提供:国立研究開発法人産業技術総合研究所
(産総研)
働く人間型ロボット
「HRP-2」
実環境で働く
人間型ロボット「HRP-3 Promet MK-II」
働く人間型ロボット研究
開発用プラッ
トフォーム
「HRP-4」
人間に近い外観と動作性能を備えたロボット
「HRP-4C」
図1のう
ち、
NEDOが実施したロボット技術開発プロジェクト
を図2
に示す。
NEDOでは、
産業や生活に貢献するロボットの技術開発を
実施して
きた。
人間協調・共存型ロボットシステム研究開発
(1998-
2002)
では、
人並みの体格を有し、
狭い道での歩行が可能であり、
転倒回復動作ができて、
人と協調してモノ
を持ち運ぶこ
とが可能な
二腕二足歩行ロボット
「HRP-2」
を開発した
(製造科学技術セン
ター等)。
また、
基盤技術研究促進事業の中で行われた実環境で働く人間型ロボッ
ト基盤技術の研究開発
(2002-2006)
では、
上記の後継
機と
して雨天など実環境での作業に対応した
「HRP-3」
(川田工業等)を開発した。
その後、
産業技術統合研究所において、
音声等による人とのインタラクショ
ンを高度化した女性型ヒューマノイド
「HRP-
4C」
(2009)
が開発されている。
現在、
環境・医療分野の国際研究開発・実証プロジェクト
におい
て、
2014年から開始したロボッ
ト分野の国際研究開発・実証事業
では、
乗り物やはしごを用いて移動し、
災害時のバルブ締めやポン
プ交換などが可能な
「HRP-2改」
の開発に取り組んでいる
(産業
技術総合研究所)
(図 3)。図 2 NEDO のロボッ
ト技術開発
出所 :NEDO 作成
(2015)47
ロボッ
ト分野
(2.0領域)
の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト
(2006-2010)
では、
日立建機によ
り双腕仕様機
(アスタコNEO、
2012年に商品化)
が開
発された。
このアスタ
コNEOは、
13t 級油圧ショベル
と同等のパワー
を持つ主腕とそれを補助する副腕の組み合わせにより、
主腕でつか
んだ対象物を副腕で切るなど、
人の両腕のように複雑な作業に対応
するこ
とができ
る。
東日本大震災後、
宮城県の石巻市と南三陸町に
投入され、
瓦礫撤去のための解体作業や廃材の分別などの巧みな
動き
を必要とする作業に威力を発揮した
(図4)。 また、次世代ロボッ
ト知能化技術開発プロジェクト(2007-2011)
では、
ロボットミ
ドルウェアのプラッ
トフォームの普及を目指して、
OpenRTM-aistをベースと
した多数のRTコンポーネン
ト及び開発
ツール群が開発された。
例えば、
京都大学と国際レスキューシステム
研究機構
(IRS)
がRTミ
ドルウェア
(RTM)
を活用した災害対応ロボットの実証実験を行う
など、
積極的な活動を展開している
(産業技術
総合研究所等)。 生活支援ロボット実用化プロジェクト
(2009 -2013)
では、
世界初と
なる生活支援ロボット
の安全確保のための国際標準化
(ISO13482)
の提案を行い、
プロジェクト
で得られたデータ等をISOに提供するな
ど、
規格化に大きく貢献した。
更に、
「生活支援ロボット安全検証セン
ター」
(茨城県つくば市)
に同プロジェクト
で試験装置を整備するとと
もに、
認証のための安全性試験を実施しており、
これが世界初の同
規格の2件の認証事例
(いずれも同プロジェクト内で開発したロボット)となった。
今後は試験依頼を広く
受け入れるとともに、
他規格の提案
を展開することを目指す。(2)諸外国の動向
米国では、
2004年に国防高等研究計画局
(DARPA)
が始め
たロボットカーのGrand Challenge が有名である。
2007年には、
ロボットカーが標識や対向車を認識して応答するこ
とが可能な画像
認識機能を搭載し、
想定された総延長 96kmの市街地コースを自
律走行によ
り約 4時間で完走している。
その後、
2012年に災害救
助用のロボッ
ト競技大会であるDARPA Robotics Challenge が
新たに設定された。
2013年 12月、
この大会において、
東京大学発
ベンチャーであるSCHAFT が予選を1位で通過し技術力の高さ
を示し、
これを受けてGoogle
(米国)
が同社を買収している。
しか
し、
2015年 6月に開催された同2015年大会の決勝戦においては、
出場した25チームのう
ち2チームが棄権、
韓国科学技術院チーム
が優勝し、
日本から挑戦した5チームの中では産業技術総合研究所
「Team AIST-NEDO」
の10位が最高位だった。
また、
2011年に
製造業の復興促進のための国家ロボティク
スイニシアチブと
して、国立科学財団
(NSF)、国立衛生研究所
(NIH)、航空宇宙局
(NASA)
及び農務省
(USDA)
の4組織が、
次世代ロボッ
トの共同提案公募
(開発研究費7,000万
ドル)
を発表した。
一 方、欧 州では、第 6次 研 究 開 発 枠 組 計 画
(FP6)
(2002-
2006)
の中で、
ロボッ
トに関わる研究開発機関を連携させた。また、ネッ
トワーク
・プロジェク
トEURONにて研究ロー
ドマップが作
成され、欧州レベルでの研究資源の効率化など戦略的な研究開
発を目指した。第 7次研究開発枠組計画
(FP7)
(2007-2013)では、
Cognitive Systems and RoboticsをICT 分野のチャ
レンジ
領域の1つに選定し、
ロボッ
ト知能化技術に関する研究プロジェク
トに対して毎年約 2億ユーロを投資した。現在は
「Horizon2020」
(2014-2020)
において研究が実施されている。
また、
韓国ではユビキタスロボット
コンパニオンプロジェクト
(URC)
(2004 -2008)
が終了し、
その成果の実用化が進められたが、新
規市場創出までには至らなかった。
その後、
知識経済部が中心となり、
2013年から10年間の
「ロボット未来戦略」
を発表した。
中国では、
依然、
ロボッ
ト開発への期待が高く、国家中長期科学
技術発展規画綱要
(2006 -2020)
の先端技術 8分野の中で、
知的
ロボットの研究開発を推進している。
図 4 アスタコNEO
出所 :NEDO Web サイト
(2014)5 7 ロボッ
ト分野
(2.0領域)
の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
近年のロボット技術開発及び製品開発例を表1に示す。
2 -2 技術開発動向(国内・海外)
自律二足歩行ロボット
「ASIMO」
(2000〜)
本田技研工業
写真提供:本田技研工業株式会社
人型での本格的な自律二足歩行を実現したロボット。
新型ASIMOは、
「人と
共存、
協調して社会の中で役に立つロボット」
の実現を目指したステップとし
て開発された。
体に装着することで、
身体機能を改善・拡張補助することができる世界初の
サイボーグ型ロボッ
ト。
装着者の皮膚表面に貼り付けられたセンサで微弱な生
体電位信号を読み取り制御することにより、
装着者の筋肉の動きと一体的に関
節を動かすことができる。
障害者の身体機能改善、
自立支援、
介護支援、
作業
支援、
レスキュー活動支援などを目指している。
「癒しの動物型ロボット」
として開発されたセラピーロボット。
長さ57cm,重
さ約2.7kgで、
タテゴトアザラシの仔をモデルにした、
ぬいぐるみのような外
観をしている。
アニマルセラピーと同様の効果が得られるとされ、
2002年に
ギネスブックから世界一の癒しロボットとして認定されている。
マサチューセッツ工科大学のバイオミメティックロボット研究所によって開
発された4本脚チーター型ロボット。
独自に開発された高いトルク密度電気
モータ−と、
それを制御するアンプリファイアー、
そして、
生物的なしくみを模
した脚によって、
時速約22kmで自立走行し、
高さ約30cmの障害物を飛び越
えることを実現している。
災害時に消防隊員に代わって現地調査をする災害対応ロボット。
被災した有
害物質を取り扱う工場の調査、
化学プラントの化学物質漏洩、
爆発事故調
査などを行う。
掃除機能とコミュニケーション機能を搭載した掃除用ロボット。
音声認識エ
ンジンを搭載して、
自分の状況
(充電量、
ダストボックスの状態など)
や部屋
の状況などにより気分が変化し、
言葉や光、
ダンスを組み合わせたさまざま
なリアクションをする。
薬剤や検体の院内搬送が、
看護師や検体技師の本来業務の大きな阻害の要
因であることに着目し、
走行誘導用ラインや軌道を要せずに、
病院内の搬
送経路を設定できる。
エレベータと連動して自動乗降し、
他階層への搬送も
可能にする。
病院内の作業負荷の軽減及び危険作業から開放される。
ルー
フに設置された360度の画像やレーザー照射による距離情報から3D解
析を行って、
自動車の搭乗者が操作することなく目的地まで自動的に運転す
る。
道路事情、
車両や人などを認識し、
障害物を回避することによって、交通事故を低減させる効果が見込まれる。
感情認識機能
(音声の高低等により、
人の情動を認識する機能)
を持った人
型ロボット。
人工知能を搭載した高さ120cm程度のロボットで、
喜びや悲しみ
の感情を表現することができる。
ロボットスーツ
「HAL」
(2004〜)
サイバーダイン
写真提供:サイバーダイン株式会社
セラピーロボット
「パロ」
(2005〜)
産業技術総合研究所
写真提供:国立研究開発法人
産業技術総合研究所
(産総研)
チーター型ロボット
「Cheetah」
(2009〜)
マサチューセッツ工科大学
災害対応ロボット
「Quince」 (2009〜)
千葉工業大学・東北大学等
写真提供:千葉工業大学
掃除用ロボット
「ココロボ」
(2012)
シャープ写真提供:
シャープ株式会社
病院内自律搬送ロボット
「HOSPI」
(2013〜)
パナソニック
出所:パナソニックWebサイト
「Google Car」
(2014〜)
Google・
スタンフォード大学
人型ロボット
「Pepper」
(2015〜)
ソフトバンク
出所 : 各種公開情報を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2014)
表 1 近年のロボッ
ト技術開発及び製品開発例67
ロボッ
ト分野
(2.0領域)
の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
また、
主要4技術要素(「人工知能」
「センシン
グ」
「制御」
「駆動」)に関する技術開発動向は以下のとおりである。(1)人工知能
脳型人工知能のディ
ープラーニング(DL)の研究開発が活発化
しており、
DLによ
る音声認識や画像認識の認識率が向上している。
今後、
DLの研究成果が一層期待される。(2)センシング
人の目
を超える高分解能、
高感度を実現し、
暗闇でも見ることができるイメージセンサの開発が行われている。
触覚センサはウェア
ラブル
機器に適したフ
レキシブルな
ものが開発されている。(3)制御
複数のロボットによ
る協調動作や、
産業用ロボット
のティーチン
グを簡
単化するための自動化プロ
グラミン
グな
どの制御方法の開発が行われ
ている。
また、
モータの駆動系を制御するサーボ方式や、
駆動力を制
御するトルクサーボな
どが開発されており、
人に危害を加えにくい制御
法も実用化され始めている。
今後は、
更に開発効率を上げるためのソフトウェア(ミ
ドルウェアやライブラリーなど)の技術開発が必要である。(4)駆動
現状ではモータ駆動のアクチュエータが主流であるが、より効率的
で強力なパワーを発揮でき
る人工筋肉が注目
されている。
柔軟性の
ある人工筋肉は、ウェアラ
ブル機器のア
クチュエータに適している。(1)市場規模
1産業用ロボット
(製造分野)
経済産業省の調査
(2013年7月公表)
によると、
産業用ロボットの世界市場は、
金額ベースで直近5年間に約60% 成長した。
2011年
の市場規模は8,497百万
ドルであり、うち日本企業のシェアは50.2%
である。
電子部品実装機を含む広義の世界市場は約13,369百万ドルであり、
日本企業のシェアは57.3%になっている。
日本市場は直近
5年間に台数ベースで約25% 縮小したものの、
2011年時点では全
体と
して世界最大市場の地位を維持している。
今後の施策等により2020年には国内市場が約2倍に成長することが見込まれる。
2 -3 産業競争力
(諸外国との比較)
一方、
中国市場は直近5年間で約4倍に拡大し、
台数ベースで日
本市場に迫る規模に成長している状況にある。
世界的な産業用ロボッ
トの市場拡大により、
日本からの産業用ロボット輸出額は、
直近5
年間で約80%増加した。
中国市場の台頭により、ドイ
ツ、
韓国は中国
への輸出額を直近5年間で10倍以上に増やしており、
同じ
く4倍以
上に増やした日本を含めて、
中国市場での競争激化が見込まれる。
世界中で稼働している産業用ロボット
のう
ち、
日本国内で稼働して
いる
ものの割合は、
直近10年間で約48%から約27%に低下してい
る。
台数ベースでも5.4万台
(15.0%)
の減少と
なっている。
一方、韓国は5.5%
(4.1万台)
から10.8%
(12.4万台)
に、
中国は0.2%(0.2万台)
から6.4%
(7.4万台)
に、ドイ
ツは13.1%
(9.9万台)
から13.6%
(15.7万台)
に増加している。
直近9年間の製造業従業員1万人当たり
の産業用ロボットの利用台数は、
我が国が340台程度で横ばい
に留ま
っているのに対し、
韓国は126台から347台に、
中国は1台か
ら21台に、ドイ
ツは172台から261台に増加している。2フィ
ール
ドロボット及びサービスロボット
(サービス分野)
2012年における我が国のロボッ
ト産業の市場規模は、
製造分野
(産業用ロボット)を除く
と約2,000億円
(ロボッ
ト技術利用製品を含む)であ
り、
サービス分野のみで約600億円程度と
なっている
(経済
産業省、
2013年7月公表)。2020年にはその約20倍に成長するこ
とが見込まれる。
世界ロボッ
ト連盟
(IFR)の「World Robotics 2013 - Service
Robots」
によると、
2012年の世界のサービスロボッ
ト販売額は約34億ドル
(軍事、
農業用を含む)となっている。
医療用
(手術・治療)が1,495百万
ドル
(前年比10% 増、
業務用サービスロボット
の4割)
を占
めており、
物流用AGV
(Automated Guided Vehicles)
の約196
百万
ドルとともに、
今後の市場拡大が有望視されている。(2)主な推進企業・機関等
(ロボット用途別)
1産業用ロボット
我が国の主要メーカーには、安川電機、川崎重工業、
ファナッ
ク、
三菱電機などがあり、
メーカー同士の競合が激しい。
海外ではKUKA(
ドイツ)、ABB(スイス)などがある。2フィ
ール
ドロボット
我が国では、
建設・土木機械メーカーのコマツや東急建設などがあり、大学・研究機関には、
東北大学や千葉工業大学、
IRSなどが
ある。
海外では軍事用ロボット
を転用することが多く、アイ
ロボット(米国)
や、イントラ(フラ
ンス)、KHG(ドイツ)などがある。7 7 ロボッ
ト分野
(2.0領域)
の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
3サービスロボット
国内外ともに、
中小・ベンチャー企業
(サイバーダイ
ン等)
やソフトウェア系企業が中心である。(3)主な推進企業・機関等
(主要技術要素別)
ロボッ
トの主要4技術要素の技術開発を推進している主な企業・
機関等を表2に示す。(4)学術水準、
論文・特許件数
ロボッ
トの主要技術要素のう
ち、
「センシング」と「制御」
における
代表的な技術について、
論文と特許の発表動向分析を行った結果
を示す。
センシ
ング分野における
日本の論文数上位機関の数は、
視覚セン
サでは上位16機関中に2機関であるが、
触覚センサでは上位14機
関中に6機関、
加速度センサでは上位10機関中に6機関である。一方、
センサ分野における
日本の特許数上位機関の数は、
視覚センサ
では上位10機関中に8機関、
触覚センサでは上位15機関中に6機
関、
加速度センサでは上位15機関中に10機関と、
いずれも我が国
が先進的な技術力を有していることがわかる。
また、
駆動分野の人工筋肉における
日本の論文数上位機関の数
は上位12機関中に4機関、
日本の特許数上位機関の数は10機関
中4機関と
なっており、
センシング分野と同様に、
我が国が高い技術
を有していることがわかる。
センシング
出所:各種公表資料を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2014)
表 2 主な推進企業・機関等
(主要技術要素別)87
ロボッ
ト分野
(2.0領域)
の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
1センシングa)視覚センサ
(三次元距離センサシステム)
三次元距離センサシステムに関する論文の発表数は増加傾向に
ある
(図5)。全1,281件
(調査時点)
のう
ち日本からの発表数は106件(8.3%)
であり、米国の401件
(31.3%)、中国の157件
(12.3%)
に次いで3位である。
国内外ともに特定の機関からの発表が多い傾
向にはなく、
中国や韓国、
欧米の大学や研究所、
日本の大学
(東北
大学、
東京大学)
の発表が拮抗している
(表3)。 また、
2000年〜 2014年までの米国への関連特許出願数の年推移(上位10機関)
をみる
と、
全5,248件
(調査時点)
のう
ち、
キヤノンが210件、
SONYが129件、
本田技研工業が85件な
ど、
多く
の日本
企業が上位に含まれる
(図6)。199119921993199419951996199719981999200020012002200320042005200620072008200920102011201220132014データベース:Web of Science Core Collection
検索ワード:three dimensional vision system
出所 :NEDO 技術戦略研究センター作成
(2014)
表 3 三次元距離センサシステムに関する
機関別の論文発表数ランキング(注記) 2
(注記) 2 AU: オーストラリア, CA:カナダ , CN: 中国 ,
DE:ドイツ , ES:スペイン , GB: 英国 , IT: イタリア,
JP:日本 , KR: 韓国 , NZ: ニュージーランド ,
SE:スウェーデン , US:アメリカ
図 5 三次元距離センサシステムに関する論文発表数の年推移
出所 :NEDO 技術戦略研究センター作成
(2014)
図6 米国特許出願数上位10機関の出願数年推移
(三次元距離センサシステム)
出所 : ロボット要素技術に関する特許出願動向調査
(NEDO, 2014)9 7 ロボッ
ト分野
(2.0領域)
の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポートb)触覚センサ
触覚センサに関する論文の発表数は、
2010年代中頃から増加し
ている
(図7)。全検索結果901件
(調査時点)
の国別発表数は日本
が260件で1位、
米国が次いで168件と
なっている。
国内では、
東京
大学、
東北大学、
名古屋大学等からの発表が多い
(表4)。 また、
2000年〜 2014年に世界各国へ出願された関連特許の機
関別件数
(上位15機関)
の年推移をみる
と、
総件数2,758件のう
ち、
京セラ、
ソニー、
パナソニック、
本田技研工業等、
多く
の日本企業が
上位に位置している
(図8)。データベース:Web of Science Core Collection
検索ワード:tactile‐sensor
出所 :NEDO 技術戦略研究センター作成
(2014)
図 7 触覚センサに関する論文発表数の年推移
出所 :NEDO 技術戦略研究センター作成
(2014)
表 4 触覚センサに関する機関別の
論文発表数ランキング
図 8 世界特許出願数上位 15機関の出願数年推移
(触覚センサ)
出所 : ロボット要素技術に関する特許出願動向調査
(NEDO, 2014)107
ロボッ
ト分野
(2.0領域)
の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポートc)加速度センサ
加速度センサに関する論文数は、
2012年頃から増加傾向である
(図9)
。検索結果471件
(調査時点)
の国別発表数は日本が111
件で1位であり、
ドイ
ツ、
中国がこれに続く。国内では、
石巻専修大
学、
慶應義塾大学等からの発表が比較的多い
(表5)。 また、
2000年〜 2014年に世界各国に出願された加速度センサ
関連特許の機関別件数
(上位15機関)
の年推移をみる
と、
総件数
4,623件のう
ち、
パナソニック、
日立製作所、
ソニー、
三菱電機、
デン
ソー等、
多く
の日本企業が上位を占めており、
我が国が世界トッ
プレ
ベルの技術力を有していることがう
かがえる
(図10)。データベース:Web of Science Core Collection
検索ワード:acceleration‐sensor199119921993199419951996199719981999200020012002200320042005200620072008200920102011201220132014
出所 :NEDO 技術戦略研究センター作成
(2014)
図 9 加速度センサに関する論文発表数の年推移
出所 :NEDO 技術戦略研究センター作成
(2014)
表 5 加速度センサに関する機関別の
論文発表数ランキング
図 10 世界特許出願数上位 15機関の出願数年推移
(加速度センサ)
出所 : ロボット要素技術に関する特許出願動向調査
(NEDO, 2014)11 7 ロボッ
ト分野
(2.0領域)
の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
2駆動a)人工筋肉
人工筋肉に関する論文の発表数は2000年代中盤から急増している(図11)。検索件数596件
(調査時点)
の論文のう
ち、
日本の発表
は116件であり、
151件の米国に次いで2位である。
また、
3位は70
件の韓国である。
国内外ともに、
特定の機関からの発表が多い傾向
にはない。
日本からは九州工業大学、
大阪大学、
信州大学、
東京工
業大学が上位に位置する
(表6)。 2000年〜 2014年の米国における関連特許出願数の年推移(上位10社)
をみる
と、
全7,167件のう
ち、
本田技研工業が122件、安川電機が110件、
セイ
コーエプソンが89件など、
日本企業が上位に
含まれる
(図12)。データベース:Web of Science Core Collection
検索ワード:artificial muscle199119921993199419951996199719981999200020012002200320042005200620072008200920102011201220132014
出所 :NEDO 技術戦略研究センター作成
(2014)
図 11 人工筋肉に関する論文発表数の年推移
出所 :NEDO 技術戦略研究センター作成
(2014)
表 6 人工筋肉に関する機関別の
論文発表数ランキング
図 12 米国特許出願数上位 10機関の出願数年推移
(人工筋肉)
出所 : ロボット要素技術に関する特許出願状況調査
(NEDO, 2014)127
ロボッ
ト分野
(2.0領域)
の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
前述のとおり、
ロボットを「情報を検知することをトリ
ガーと
し、
必要
に応じ外界に物理的な力を及ぼす一連の技術」
と捉える
と、
ロボット
の主要技術要素は以下の四つに整理できる。(1)情報を検知する
「センシン
グ」(2)検知した情報をもとに高度・有用な情報を出力・生成する
「人
工知能」(3)処理された情報を基づいた精緻な
「制御」(4)外界に力を及ぼす
「駆動」
また、(1)センシ
ングは、
視覚センサ、
聴覚センサ、
触覚センサ、温度センサ、
嗅覚センサ、
化学物質センサ、
筋電位センサ、
脳信号セ
ンサ、
ジャイロセンサ等に、(2)人工知能は、
データ・知識型人工知能、
脳型人工知能、
音声認識・画像認識や自動プログラミングなどの知
能化モジュール等に、(3)制御は、
多数ロボット
の協調連携制御、柔軟関節制御、
ロボット安全制御、ミドルウェア等に、(4)駆動は、
軽量
ロボット材料、
人工筋肉を含むアクチュエータ、
マニピュ
レータ、
柔軟
関節ロボット等に細分化される。 3 ロボット分野
(2.0領域)の技術課題章3 -1 主要技術要素の体系13 7 ロボッ
ト分野
(2.0領域)
の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
産業用ロボッ
ト、フィ
ール
ドロボッ
ト、
サービスロボッ
トのそれぞれに
ついて、
人間の能力を超える2.0領域の将来ロボット像を以下に示す
(表7)。(1)
2.0領域の産業用ロボット
今後、
労働力人口の減少が見込まれる中で、
人手のかかる単純
作業については、
その高速化を、
また、
単純作業にと
どま
らず職人
技と
もいえる複雑な作業についても、
熟練工の高齢化に伴い彼らの
能力を補完するため、
ロボット
に担わせるこ
とが必要と
なってくる
と考
えられる。
そこで、
職人の動作をロボットが観察・認識し、
動作分析
するこ
とによ
って、
自ら学習して再現するこ
とのでき
る自律型ロボットの開発が有効である。こう
した自律型ロボット
は、
製造現場に限らず、
サービス産業など幅広い用途と
しての活用が期待される。
3 -2 各用途の将来ロボット像(2)2.0領域のフィール
ドロボット
噴火、
地震な
どの災害に見舞われることの多い我が国においては、
災害時にいち早く
生存者の位置を確認し、
救出することがよ
り一層重
要と
なる。
このため、
遠隔操作でロボットを災害現場に派遣し、
瓦礫
や土砂等に埋もれてしま
った見えない場所にある生存者・心肺停止
者の早期の発見・確認を可能にするな
ど、
自由に操れる遠隔操作が
可能なタイプのロボット開発が必要である。
具体的には、
生存者・心
肺停止を、
センシング技術な
どを活用すること
によ
り認識でき
るロボット
の開発が期待される。(3)2.0領域のサービスロボット
今後、
高齢化率の増加が見込まれる中で、
高齢者の介護サービス
や高齢者支援は、
作業内容が過酷なだけに、
ロボット
に担わせること
が望ま
しい。
介護サービスや高齢者支援ができる
ロボット
では、
人間ら
しい会話によ
る意味理解ができ、
環境状況が理解でき、
介護者や高
齢者の指示に基づく
動作・行動ができ、
環境・空間を認識し、
理解
し、
判断しながら行動できる
と、
人が行う介護や支援に近づくこ
とができる。
このようなロボッ
トが開発される
と、
家事ロボッ
トやサービス業で
の作業な
ども十分に行うことができることから、
大き
な産業にな
り得る。
分野 フィールドロボッ
ト サービスロボット将来
ロボット像・人工知能
・画像認識
・視覚、
電磁波、
化学的知覚
(臭覚)
センサ
・直観的・
スマート遠隔操作
・操作知識蓄積技術・人とロボットのインタフェース・コンプライアンス制御
・地震、
噴火などの災害時にお
ける瓦礫や土砂など見えない
場所にある生存者・心肺停止
者の早期発見と確認
高感度なセンサを搭載し、
自由
に操れる遠隔操作ロボットの
実現・人工知能
・学習機能
・音声/画像認識
・環境・空間認識
・自然言語処理・理解
・軽量/柔軟アクチュエータ・人工筋肉・関節
・動作、
行動、
人間関係セン
シングとデータ蓄積・コンプライアンス制御
・高齢化社会における高齢者の
介護サービスや支援
・障害者の自律支援
生活支援ロボッ
ト、
人に寄り添う
ウェアラブルロボッ
トの実現
必要となる
要素技術
産業用ロボット・
人工知能
・画像/音声認識・力触覚、
臭覚センサ
・ティーチングレスソフトウェア
・データベースの整備
・汎用的なRTM・トルク計測可能モータ・コンプライアンス制御
・労働力・熟練工の減少による
人手・技能不足の解消
・単純作業の高速化・人と共存する生産
ティーチングレスロボット、
人の
技能を学ぶ自律型ロボットの
実現
出所 :NEDO 技術戦略研究センター作成
(2015)
表 7 2.0領域のロボッ
ト像と要素技術147
ロボッ
ト分野
(2.0領域)
の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
将来ロボット
像を実現するための技術課題を図13及び図14に示す。(1)人工知能
人と
ロボットの相互作用を実現するヒューマン・ロボット
・インタラクショ
ン技術、
ロボッ
トが環境や状況に適応することを可能とする環境
適応制御、
そして、クラウ
ド型知能と
ローカル型知能が協調することによ
り、
ロボットが自ら行動して学習することを可能とする知能協調シ
ステム
を実現することが課題である。(2)センシング
外乱などのノ
イズを取り除くことができ
る、
屋外で使用可能な電磁
波センサの開発が必要である。
また、
嗅覚センサについては、
検知
可能な人体
(生存者、
心肺停止者)
から放出される臭気源を特定するこ
とや、
現状では応答性が遅いため、
高速での検出を行えるようにすることが課題である。
加えて、
小型光ファイバジャイロ
と、
これら
を光ファイバネット
ワークで
結び、
各々の光ファイバジャイロから生成するデータ
を光ファイバによってやりと
りする、
いわばロボット
の神経網に対応するセンシン
グシステム
の開発が課題である。(3)制御
人間の腕・手・指・物体を画像認識技術によ
って判別すること、
また、
判別した腕・手・指や物体の動き
を認識し、
作業内容・作業量・作
業時間な
どの物理量を計測することが課題である。
3 -3 技術課題 (4)
駆動
(アクチュエータ)
人工筋肉は、
高分子材料による
ものやカーボンナノチューブによるものが開発されているが、
現状では高電圧駆動のものが主流で
ある。
サービスや労働の生産性向上や、
高齢者や要介護者のQOL
(Quality of Life)
の改善といった大きなニーズに応えるウェアラブ
ルロボット
を実現するために、
人の装着に適した低電圧、
低電力によるものが必要である。
また、
静電力、
電磁力、
流体力によ
る高出力軽
量のア
クチュエータの開発が課題である。(5)OS・ミドルウェア
OS・ミドルウェアについては、
人工知能によ
る認識・推論、
行動
計画や自律制御などの高次のアプリ
ケーションを開発するための環
境・ツール
(ロボッ
トの動きなどのシミュ
レーションソフトウェアなど)を将来のロボットイ
ンテグレーション開発に対応させるために、
汎用性
を高め、
継続的に改良するこ
とが課題と
なる。(6)安全・安心のための評価・標準化
ロボットの利用が広がる
と予期せぬ事故のリ
スクが高ま
るため、評価や試験によ
って、
潜在的な事故のリ
スク
を最小にするための評価・
試験手法の確立が課題と
なる。
また、
ロボットが収集する
と思われる
個人情報の保護も課題である。
更に、
機能の安全基準を確立し、標準化すること
によ
って安全・安心を達成できるよう
にする課題も
ある。
OS・ミドルウ
ェアや各機能ブロックの標準化が確立する
と、
ロボット
の開発・商品化が効率的に行うことがで
き、
利用拡大につながる
もの
と思われる。
これらの標準化をすること
も課題である。
図 13 人間の動作を再現する技術
出所 : 各種公開情報を基に NEDO 技術戦略研究センター作成
(2014)15 7 ロボッ
ト分野
(2.0領域)
の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
知能・認識・学習・
センシング
機構・駆動
(アクチュエータ)・制御
視覚 部分的に隠れた状態
(オクルージョン)
や輪郭が切り出せない
形状の物体は判別が困難。
精密性 人間と同等のサイズ
・重量で、
力強さ
(出力)
と器用さ
(動作
の精密さ)
を両立させることは困難。
安心安全評価・
標準
リスク評価 ロボッ
トの活用の場が広がることによって生じる、
予期し得ぬ
潜在的な事故のリスクを顕在化させ、
評価する手法が不十分。
上記以外の
他分野から
転用される技術等
エネルギー源 軽量で長持ちするエネルギー源
(蓄電池等)
が必要。
軽量化・高強度化
重量が重く、
動くためにパワーが必要
(躯体を軽量化できると
モーター等のアクチュエータを小型化できるため、
さらに軽量
化が進み好循環)。また、
ロボット
アームやロボット自体が重い
と急停止しにくいため、
衝突時の衝撃が大きく危険。
通信 距離の制約なしに
(場所によっては電波が届かない・使えな
い場合もある)
ロボットを遠隔操作したり、
複数のロボットを
自律的に協調させたりすることが必要。
耐環境性 水中、
高温環境、
放射線、
有毒環境など、
極限環境下で作業す
る際のシールド機構、
耐熱材料、
耐腐食材料などの他分野か
らの転用・改善を検討することが必要。
試験法 被験者による安全性等の評価試験にかかる時間を
(制度的な
対応も含めて)
短縮することが必要。
制度 ロボットが収集する個人情報の保護、
あるいはロボットによる
個人情報収集
(撮影等)
に関するルールの検討が不十分。
OS・ミ
ドルウ
ェア 開発/
インテグ
レーシ
ョン
環境
インターフェイス
認識・推論や自律制御などの高次のアプリケーション開発に
リソースを集中するための開発/インテグレーション環境・
ツール
(実際にロボットを製作・使用しなくてもソフトウェア
の動きをチェックできるシミュレータ、
使い勝手が良く
一定程
度標準化されたOS・ミドルウェア・プログラミング言語等)
を、
将来の要素技術の発展に対応させることが必要。
異なるOSのロボットどうしが対話する場合、
あるいはロボット
に新たなモジュールを搭載する場合など、
ロボット及びモ
ジュールのインター
フェイスを標準化することが必要。
応答性 現在の剛性の高い機構は柔軟な動きに不向き。
他方、
人工筋
肉は細かい位置決め作業などに不向き。
柔軟性 複雑形状物や柔軟形状物など、
日常的に人間が扱うものを事
前に情報を得ること無く適切に扱うことが必要。
モジュール化 マニピュレータやハンド等については、
都度専用開発ではな
く、
できる限りモジュール化することが必要。
しろまる音源定位、
音源分離、
分離音の
音声認識の3つの技術要素が
あるが、
何らかの条件設定が
必要となっている。
しろまるハードウェアの制約もあり、多様な物体の触覚を実現するこ
とは困難な状況にある。
しろまるディープラーニング技術によ
り、
人や物体などの画像認識の
性能、
音声認識の性能が向上し
ている。
しろまる人工筋肉に使われている圧電
素子や高分子材料などは研究
段階のものが多く、
一般に販売
できる製品となっているものは
限られている。
しろまる非線形制御を用いたシステムで
は、
アーム型ロボットなどの決
まった動きに対応できる。
しろまるRTミドルウェア、ROS(ロボット
を構成する機器の制御)、ORiN
(ロボットそのものの制御)、OpenEL
(モータ等の共通イン
ターフェイス)
等、
様々な階層向
けのミドルウェアが存在する
が、
汎用的なものは無い。
しろまる生活支援ロボットの安全性に
関する国際規格ISO13482が発
行されている。
しろまる小型のリチウムイオン電池は長
寿命に対応していない。
しろまるロボットアームにカーボン素材
を使用する場合には、
接合技
術等の更なる開発が必要。
しろまるロボットを介した情報漏えいな
どの対応については、
本格的な
検討がなされていない。
しろまる群制御により、
環境に応じて自
己組織化するロボットは研究
途上にある。
視覚 逆光や暗闇など、
特定の環境下では物体を認識できない場合
がある。
また、
狭い場所での自動走行などの際には、
従来より
も高速に画像処理することが必要。
聴覚 雑音の中から必要な音を拾い出すことは困難。
聴覚 複数者が同時に話している際に特定の声を聞き分けることは
困難。
触覚 柔軟物等の多様な物体を触覚によって認識することは困難。
知能・学習 屋内外問わず、
複数の周辺環境データを統合し、
状況に応じて
周辺環境を柔軟に
(地図がなく
ても)
認識することが必要。
コアテク
ノロジー
その他の技術
主な課題 最近の研究動向
周囲の状況に関する
情報をロボットに取
り込むための技術
ロボットが外部に働
きかけを行うための
装置に関する技術
ロボッ
トを動かすため
の基盤的なソフトウェア等に関する技術
ロボットを安心安全
に普及させるための
技術・手法等
図 14 ロボッ
トの各要素技術の主な課題と研究動向
出所 : NEDO 技術戦略研究センター作成
(2014)167
ロボッ
ト分野
(2.0領域)
の技術戦略策定に向けて
技術戦略研究センターレポート
ロボット技術は、
今後期待される
「超スマー
ト社会」
の実現に向け
た共通基盤技術である。
今後のロボッ
トの活用にあたっては、
人間
の代替を目的とするこ
とにと
どま
らず、
様々な場面において単機能で
はな
く複合機能を発揮するなど、
人間の能力を凌駕するロボッ
トの
活躍が期待される。
そのためには、
現在のロボッ
ト技術の単なる延
長にとどま
らない
『2.0領域』
(ロボットの利用分野を念頭におきつつ、
人間の能力を超えることを狙う先端要素技術開発を実施する段階)
の技術開発を進めることが必要である。
用途別の2.0領域のロボッ
ト像と
して、
「産業用ロボッ
ト」
では労
働力・熟練工の減少によ
る人手・技能不足の解消などの問題を解
決するための自律型ロボットの実現、
「フィール
ドロボット」
では地震、
噴火などの災害時における瓦礫や土砂などに存在する生存者の早
期発見のための高感度センサを搭載した遠隔操作ロボッ
トの実現、
「サービスロボット」
では高齢化社会における高齢者の介護サービス
や障害者の自律を支援するための人に寄り添う
ウェアラブルロボットの実現などが挙げられる。
これらを実現するために、
次世代の脳型人工知能とデータ
・知識
融合型人工知能の基礎研究とともに、
革新的なロボットイ
ンテグレーショ
ン技術、
センサと人工知能技術を連携したスーパーセンシング、
新原理によ
る人工筋肉を中心と
した軽量でソフトなアクチュエータの
技術開発の一層の推進が期待される。
4 おわりに章
本資料は技術戦略研究センターの解釈によるものです。
掲載されているコンテンツの無断
複製、
転送、
改変、
修正、
追加などの行為を禁止します。
引用を行う際は、
必ず出典を明記
願います。17 7

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /