難民と認定した事例等について
1 「難民」の定義
出入国管理及び難民認定法では,
「難民」の定義について,
「難民の地位に関す
る条約(以下「難民条約」という。
)第1条の規定又は難民の地位に関する議定書
(以下「議定書」という。
)第1条の規定により難民条約の適用を受ける難民をい
う。
」と規定しています(入管法2条3号の2)。これら難民条約及び議定書上の難民(以下「条約難民」という。
)の定義は,
「人
種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理
由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍
国の外にいる者であって,国籍国の保護を受けることができないもの又はそのよう
な恐怖を有するために国籍国の保護を受けることを望まないもの,及び,常居所を
有していた国の外にいる無国籍者であって,当該常居所を有していた国に帰ること
ができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰
ることを望まないもの」となっています((注記))。2 難民該当性の判断
申請者が申し立てる「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖」
に係る本人の供述や提出資料等の証拠に不自然,不合理な点がないか,出身国等に
係る客観的情報と整合するか否か等の観点から,申請者の申立ての信ぴょう性を判
断した上で,その内容が条約難民の定義に該当するか否かの難民該当性を評価して
います。
3 「条約難民としての認定」と「人道配慮による在留許可」
条約難民に該当するものとは認められないものの,国際的保護を必要とする者等
については,個々の事案ごとに諸般の事情を勘案した上で,人道上の観点から我が
国での在留を配慮するものとして,在留特別許可や在留資格変更許可を行うなどの
法制度の運用を行っています。
我が国では,
「条約難民としての認定」のほか,こうした「人道配慮による在留
許可」により,保護を行っているところです。
(注記) 閣議了解等に基づいて受け入れている「定住難民」
(昭和53年から平成17
年まではインドシナ難民,平成22年以降は第三国定住難民)は,
「条約難民」
とは異なります。
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1難民と認定した事例及びその判断のポイント
1 迫害理由として「宗教」を申し立てるもの
【事例1】
(概要)
申請者は,本国において,宗教Aの武装グループからの勧誘を拒否し,脅
迫を受けたことから,帰国した場合,当該武装グループから迫害を受けるお
それがあるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国では,いまだ内戦が続いており,武装集団の実
質的な支配下にある地域では,これら集団の宗教や厳格な解釈を共有してい
ない個人は,重大な人権侵害に晒されていると認められる。
申請者の申立てによれば,申請者は,宗教Aの武装グループへの勧誘を拒
否したことにより,2回にわたり身柄を拘束されて暴行を受けており,その
後に父が殺害され,脅迫文が送付されているのであるから,申請者が当該武
装グループに特定され標的とされている可能性が高く,
上記国情に照らせば,
帰国した場合,当該武装グループから迫害を受けるおそれがあり,また,本
国政府による効果的な保護が期待できない状況であると認められる。
したがって,申請者は,
「宗教」を理由に迫害を受けるおそれがあるとい
う十分に理由のある恐怖を有する者と認められ,条約難民に該当すると認め
られた。
【事例2】
(概要)
本邦において,宗教Aから宗教Bに改宗したことから,帰国した場合,本
国政府から迫害を受けるおそれがあるとして難民認定申請を行ったものであ
る。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国では,宗教Aから改宗したB教徒は背教者とみ
なされ,一部の改宗者は,攻撃や嫌がらせ,脅迫的な見張り,逮捕,拘留,
拷問等を受けていることが認められる。
申請者の申立てや証拠によれば,申請者は,宗教Aを嫌悪しているだけで
なく,厳格な同教社会を批判し,その文化・生活・習慣等に従わない姿勢を
示していることなどからすると,帰国した場合,宗教Aを信仰していないこ
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とが周囲に容易に明らかとなり,背教者とみなされ,過酷な圧力などを受け
る可能性が十分にある。
また,
本国では,
A教徒である父親の子どもはA教徒とみなされるところ,
申請者は,A教徒である夫との間にもうけた子に対し,宗教Aの教義を教え
ることなく生活をさせていることからすると,子とともに帰国した場合,宗
教Aの教義やそれに基づく生活様式を子が全く知らないことが周囲に容易に
明らかとなり,申請者は自身の子に宗教Aを棄教させた者とみなされ,やは
り過酷な圧力などを受ける可能性が十分にある。
したがって,申請者は,
「宗教」を理由に迫害を受けるおそれがあるとい
う十分に理由のある恐怖を有する者と認められ,条約難民に該当すると認め
られた。
2 迫害理由として「政治的意見」を申し立てるもの
【事例3】
(概要)
申請者は,本国において,反政府武装組織を名乗る者らから同組織への加
入を要求され,これを拒否したところ,暴行を受け,強制的に加入させられ
たこと,その後,同組織から逃亡したため,同組織から裏切り者として行方
を追われていることから,帰国した場合,同組織から迫害を受けるおそれが
あるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,
本国では,
反政府武装組織による人権侵害が横行し,
組織からの脱退を試みた者が処刑されていることが認められる。また,本国
政府とこれら武装組織とは,対立する一方で,軍事面では一部協力関係にあ
るという特殊な関係性を有していることが認められる。
申請者の申立てや証拠によれば,申請者は,反政府武装組織から逃亡した
ことにより,同組織に裏切り者として認識され,行方を追われて標的にされ
ていると認められ,上記国情に照らせば,帰国した場合,同組織から迫害を
受けるおそれがあり,また,本国政府による効果的な保護が期待できない状
況であると認められる。
したがって,申請者は,
「政治的意見」を理由に迫害を受けるおそれがあ
るという十分に理由のある恐怖を有する者と認められ,条約難民に該当する
と認められた。
【事例4】
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(概要)
申請者は,本国において,国家奉仕として,軍事訓練に従事した際に,同
訓練施設の職員から暴行等を受けたり,その後も役所に配属されて,低賃金
の奉仕に従事させられたため,国家奉仕からの復員を申請したが,許可が見
込めず,本国を出国したところ,来日後,自宅に警察が訪れ,母が連行され
たことから,帰国した場合,本国政府から迫害を受けるおそれがあるとして
難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国では独立以来,一党独裁体制が続いており,国
会も召集されず,憲法も履行されていない上,独立した司法制度もなく,組
織的な人権侵害が広範に行われていること,国家奉仕と呼ばれる軍事訓練や
民間事業を含めた国への奉仕プログラムへの参加が義務とされており,これ
に参加しない者や逃亡した者は,逮捕,拷問され,最悪の場合,死刑に処せ
られる可能性があることが認められる。
申請者の申立てや証拠によれば,申請者は,本国において,約11年間に
わたり国家奉仕に従事しており,復員の見通しが立たなかったために本国を
出国したところ,その後,母が警察に連行されているのであるから,申請者
が本国政府から奉仕プログラムの逃亡者であると認識されていることは明ら
かであり,上記国情に照らせば,帰国した場合,本国政府から迫害を受ける
おそれがあると認められる。
したがって,申請者は,
「政治的意見」を理由に迫害を受けるおそれがあ
るという十分に理由のある恐怖を有する者と認められ,条約難民に該当する
と認められた。
【事例5】
(概要)
申請者は,本国において,政党Aの党員として献金活動を行ったり,大統
領の当選に反対するデモに参加したほか,クーデター首謀者等の反政府勢力
が潜むとされていたB国に行き来するなどしたところ,与党の青年組織であ
るCのメンバーから警告や脅迫を受けた上,申請者が営んでいた雑貨店の従
業員がCに殺害されたこと,また,本国出国後に召喚状が発出されたことか
ら,帰国した場合,Cに殺害されたり,警察に逮捕されたりするおそれがあ
るとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国においては,Cによる反体制派に対する恣意的
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な逮捕や暴力,
超法規的殺人等の重大な人権侵害が本国全域で横行しており,
また,Cは,治安部隊と協力関係にあり,本国政府による実行性のある取締
りがほとんど行われていない状況であることが認められる。
申請者の申立てや証拠によれば,申請者は,政治活動等を理由に反政府勢
力との結びつきを疑われたため,Cから警告を受けているところ,これまで
Cから直接危害を加えられたことはないものの,Cから再三にわたって訪問
を受け,警告の内容も次第に過激化し,殺害の脅迫を受けるまでに至っており,上記国情に照らせば,
帰国した場合,
Cから迫害を受けるおそれがあり,
また,
本国政府による効果的な保護が期待できない状況であると認められる。
したがって,申請者は,
「政治的意見」を理由に迫害を受けるおそれがあ
るという十分に理由のある恐怖を有する者と認められ,条約難民に該当する
と認められた。
【事例6】
(概要)
申請者は,本国において,政府職員として働いていたところ,反政府武装
勢力であるAから,B国及び本国政府に対し,Aに関する情報を報告してい
ると疑われ,Aを差出人とする脅迫状が届いたことから,帰国した場合,A
から迫害を受けるおそれがあるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,Aは,政府役人及び政府又は国際社会を支持してい
ると見なされる者を攻撃の標的としていると認められ,また,本国国内は,
厳しい治安情勢が続いており,Aを始めとする反政府武装勢力が依然として
根強い勢力を保ち,国軍,警察,政府関係機関及び国連機関等への攻撃や誘
拐等を繰り返していることが認められる。
申請者の申立てや証拠によれば,申請者は,本国において,政府職員とし
て働いていたことを理由に,AからB国及び本国政府の協力者と見なされ,
Aから脅迫を受けているところ,上記国情に照らせば,帰国した場合,Aか
ら迫害を受けるおそれがあり,また,本国政府による効果的な保護が期待で
きない状況であると認められる。
したがって,申請者は,
「政治的意見」を理由に迫害を受けるおそれがあ
るという十分に理由のある恐怖を有する者と認められ,条約難民に該当する
と認められた。
3 迫害理由として「政治的意見」及び「特定の社会的集団の構成員であるこ
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と」を申し立てるもの
【事例7】
(概要)
申請者は,本国において,所属する女性協会に関連して,本国政府に敵対
する活動をしたとの嫌疑により,警察に連行されて性的暴行を受けたこと,
保釈された際の文書により出頭すべき時に出頭しなければならなかったが,
出頭していないこと,来日後に自身に対する指名手配書が本国の母の元に届
いたこと,欠席裁判により禁固15年の刑の判決が出されたことから,帰国
した場合,本国政府から迫害を受けるおそれがあるとして難民認定申請を
行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国における政治的自由はかなり制限されており,
公然と政府に反対した者はその政治的見解を理由に監視下に置かれ,嫌がら
せや逮捕・拘留されるリスクが高いことが認められる。
申請者の申立てや証拠によれば,申請者は,本国で反政府的な人権活動家
としての逮捕歴を有し,かつ,有罪判決を受けていることが認められ,上記
国情に照らせば,帰国した場合,本国政府から迫害を受けるおそれがあると
認められる。
したがって,申請者は,
「特定の社会的集団の構成員であること」及び「政
治的意見」を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖
を有する者と認められ,条約難民に該当すると認められた。
4 迫害理由として「特定の社会的集団の構成員であること」を申し立てるもの(1)同性愛
【事例8】
(概要)
申請者は,本国において,特定・不特定の同性と同性愛行為に及んだとこ
ろ,警察に逮捕され,2年間収監された上,保釈中に出国したことから,帰
国した場合,警察に逮捕されるおそれがあるとして難民認定申請を行ったも
のである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,
本国では,
刑法で暴力等を伴わない同性愛行為を行っ
た者を禁固刑に処すると規定しており,実際に,同性愛行為の容疑で投獄さ
れた事例が報告されていることが認められる。
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申請者の申立ては,申請者が同性に対して興味を抱くようになった経緯や
同性愛行為を理由に逮捕されて収監されるなどした状況が,自然かつ合理的
であって,国情にも合致することから信ぴょう性が認められ,上記国情を踏
まえれば,
帰国した場合,
本国政府に逮捕されるおそれがあると認められる。
したがって,申請者は,同性愛指向という人格又は自己同一性に密接に関
わり,変更することが困難な特性を有し,かつ,本国の法律で同性愛行為が
違法とされ,実際に逮捕,収監後の保釈中に出国しているのであるから,
「特
定の社会的集団の構成員であること」を理由に迫害を受けるおそれがあると
いう十分に理由のある恐怖を有する者と認められ,条約難民に該当すると認
められた。
(2)人権・人道支援
【事例9】
(概要)
申請者は,本国において,性暴力被害者の支援や調査,性暴力の防止活動
を行うNGO団体のメンバーとして,被害女性の支援活動を行っていたとこ
ろ,警察官から同団体の事務所を襲撃されて拘留された上,性的暴行を受け
たこと,拘留先から逃亡したため,警察に捜索されていることから,帰国し
た場合,警察から迫害を受けるおそれがあるとして難民認定申請を行ったも
のである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国では,警察や政府軍の兵士が性的暴力に関与し
ているほか,治安部隊による虐待の被害者に関する報告又は支援を行ったN
GOが,嫌がらせ,殴打,脅迫及び恣意的な逮捕,拘留の対象とされている
ことが認められ,また,性暴力の被害者支援の調査をしていた女性が何者か
から脅迫され被害に遭ったにもかかわらず,警察が保護を与えなかったとい
う報告もあることが認められる。
申請者の申立てや証拠によれば,申請者が所属するNGO団体の活動内容
として,性的暴行の加害者である警察を起訴することが含まれていること,
申請者は,警察に身柄拘束された際に逃亡しているところ,その後も警察が
自宅を訪れていることから,申請者は,警察から標的とされている可能性が
高く,上記国情に照らせば,帰国した場合,警察から迫害を受けるおそれが
あると認められる。
したがって,申請者は,
「特定の社会的集団の構成員であること」を理由
に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する者と認め
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られ,条約難民に該当すると認められた。
【事例10】
(概要)
申請者は,本国において,NGO組織から資金援助を受け,自宅で主に女
児を対象とした教育センターを開設したところ,同センターを手伝っていた
従兄弟が反政府武装組織Aの一員に殺害されたこと,同センター閉鎖後,A
からの脅迫はなくなったものの,自身のパソコンが盗まれ,女性の地位向上
や教育を普及するための支援活動への協力がAに露見し,再びAから脅迫さ
れたことから,帰国した場合,Aから迫害を受けるおそれがあるとして難民
認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,Aは,政府や市民社会においてある程度の指導的な
役割を得た女性を攻撃の標的としていると認められ,また,国土の相当部分
がAの影響下にあり,
本国の治安は,
不安定な状態であることが認められる。
申請者の申立てや証拠によれば,申請者は,孤児支援を行うNGOの援助
を受けて自宅で生徒の多くが女児である学校を開設し,教師として教育を
行っていたほか,
本国の教育支援のために渡航する者の招へい人になるなど,
教育の普及を促すための支援活動に従事したことを理由に,Aから脅迫を受
けたとしているところ,上記国情に照らせば,帰国した場合,Aから迫害を
受けるおそれがあり,また,本国政府による効果的な保護が期待できない状
況であると認められる。
したがって,申請者は,
「特定の社会的集団の構成員であること」を理由
に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する者と認め
られ,条約難民に該当すると認められた。
【事例11】
(概要)
申請者は,本国において,複数の人道支援団体に所属し,同団体の運営マ
ネージャーや広報担当,国内外の人道支援団体との連絡調整,人道支援の立
案及び実行等の活動を行っていたところ,反政府武装組織Aから当該活動を
妨害され,度々尋問や拘束を受けたことから,帰国した場合,Aから迫害を
受けるおそれがあるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国において,人道支援団体に所属する活動家がA
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から暴行や身柄の拘束等の危害を受けていると認められ,また,本国では,
各地で本国政府と反政府勢力との間で戦闘が継続し,国内は混迷を極めてい
ると認められる。
申請者の申立てや証拠によれば,申請者は取材を受けて発言した内容がA
から反A的であるとして拘束されているほか,上記団体がAから尋問を受け
た際,同団体のマネージャーである申請者及びアシスタントのみが連行され
ていること,申請者の活動仲間である人道支援団体のメンバーがAに拘束さ
れた際,申請者がAと交渉の上,誓約書を提出していることからすれば,申
請者はAから人道支援団体の主要メンバーであると認識されており,標的に
される可能性は高いと認められ,上記国情に照らせば,帰国した場合,Aか
ら迫害を受けるおそれがあり,また,本国政府による効果的な保護が期待で
きない状況であると認められる。
したがって,申請者は,
「特定の社会的集団の構成員であること」を理由
に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する者と認め
られ,条約難民に該当すると認められた。
(3)家族
【事例12】
(概要)
申請者は,本国において,父が慈善活動を行う団体のメンバーとして貧困
者に食事を与えるなどの慈善活動をしていたところ,父と一緒にいた際に,
政府側のイデオロギーを持つ団体Aから襲撃を受け,父が殺害され,自身も
足に銃弾を受けるなどしたことから,帰国した場合,父の子であり,上記事
件の目撃者であることを理由に,Aから殺害されるおそれがあるとして難民
認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国では内戦が続いているが,政府側の優位が決定
的となっており,主要都市のほとんどは政府側の支配下にあることが認めら
れ,政府側勢力によって,広範かつ組織的に,民間人への攻撃や市民の恣意
的な逮捕,殺害などの人権侵害が行われていることが認められる。
申請者の申立てや証拠によれば,申請者は,父と共にAから銃撃を受けて
いるところ,当該事件後,Aは,事件について話さないよう周辺住民らを脅
迫し,被害者の葬式を行うことも禁止したなどとされており,Aが事件の隠
蔽を図っている様子がうかがえる。また,父が殺害された理由は必ずしも判
然としないものの,父が地域で知られた慈善活動団体のディレクターという
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特異な地位であったことを踏まえれば,その活動に起因してAから標的とさ
れた可能性は十分にあり,そうであれば,上記事件の当事者であることに加
え,慈善団体のディレクターであった父の子であることもAから標的とされ
る理由であると認められ,上記国情に照らせば,帰国した場合,Aから迫害
を受けるおそれがあり,また,本国政府による効果的な保護が期待できない
状況であると認められる。
したがって,申請者は,
「特定の社会的集団の構成員であること」を理由
に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する者と認め
られ,条約難民に該当すると認められた。
【事例13】
(概要)
申請者は,本国において,資産家であった祖父の影響で,祖父の息子であ
る父と叔父は人々の尊敬を集めており,父は宗教指導者として,また,叔父
は民兵組織の指揮官として,それぞれ地域の人々に対して大きな影響力を持
つ存在であったところ,叔父は,過激派組織Aから地域の支配に協力するよ
う要求され,これを拒否したところ,Aに殺害され,父もAから協力するよ
う脅迫を受け,その後に海外に逃亡したこと,また,申請者も父や叔父と同
様に,Aに協力する意思を有していないことから,帰国した場合,父から協
力を得るための手段として,Aから標的とされるおそれがあるとして難民認
定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国において,Aは,近年,攻勢を強めその勢力を
拡大させており,また,Aは,Aへの協力を拒んだ者などAと直接敵対関係
となった者のほか,その家族も標的としている状況が認められる。
申請者の申立てによれば,申請者は,地域で影響力を持つ有力者の子であ
り,父と同じく有力者であった叔父はAに殺害され,父も現在,Aから協力
を求められ捜索されている状況にあるところ,Aは,敵対者本人のほかその
家族も標的としており,また,父の協力を得るという目的に照らし,Aの関
心が子である申請者に向かうのは自然であって,有力者の家族であることを
理由にAから標的とされる可能性は十分にある。これらの事情を踏まえ,上
記国情に照らせば,
帰国した場合,
Aから迫害を受けるおそれがあり,
また,
本国政府による効果的な保護が期待できない状況であると認められる。
したがって,申請者は,
「特定の社会的集団の構成員であること」を理由
に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する者と認め
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られ,条約難民に該当すると認められた。
5 UNHCR以外の国連機関の保護が終了した者
【事例14】
(概要)
申請者は,常居所であるA国において,兵役に就くべきところ,A国軍が
一般国民を殺害しているため,兵役を忌避し,徴兵局に出頭することなく逃
亡したことから,A国に帰還した場合,A国政府に迫害を受けるおそれがあ
るとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,A国では,戦闘により国連機関BのA国における事
業に深刻な影響を与えており,国連機関Cも,A国への帰還には慎重を来す
よう国際社会に要請している。また,A国に居住する者がA国以外の国連機
関Bの活動地域への避難が続いているが,その多くが一時的な滞在を認めら
れているにすぎず,その受け入れを拒否されるケースもあることが認められ
る。
申請者の申立てや証拠によれば,申請者は,国連機関Bの活動地域である
A国に常居所を有し,A国軍が一般国民を殺害している状況により,兵役を
忌避しているとしているところ,上記のようなA国の情勢に照らせば,A国
に帰還し,強制的に兵役に参加させられることにより,生命,身体の危機に
さらされる可能性があり,また,申請者がA国以外の国連機関Bの活動地域
へ移動することも現実的でないと認められる。
したがって,申請者は,A国における身の危険への恐怖から国連機関Bの
活動地域から離れざるを得なかったのであり,事実上,国連機関Bの保護が
受けられなくなったといえるのであるから,国連機関Bの保護が終止した者
であると認められ,条約難民に該当すると認められた。
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2難民と認定しなかった事例及びその判断のポイント
1 迫害理由として「人種」を申し立てるもの
【事例1】
(概要)
申請者は,民族Aであるところ,本国において,あらゆる場所で民族Aが
使用する言語を話せなかったり,民族Bから民族Aの使用する言語を話さな
いよう言われたりするなど,民族Aは権利を侵害され,不当な扱いを受けて
いることを申し立て,帰国した場合,本国政府を含む民族Bから差別的な扱
いを受けるおそれがあるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国では,民族Aが使用する言語による教育やテレ
ビ及びラジオ放送が認容されるなど,当該言語を保護する動きが認められ,
本国政府は民族Aの人権保障に取り組んでいることが認められる。
申請者の申し立てる事情は,迫害とまでは認められず,上記国情に照らせ
ば,帰国した場合,民族Aであることのみを理由とした迫害のおそれは認め
られないことから,条約難民の要件である迫害を受けるおそれがあるとは認
められないとして「不認定」とされた。
【事例2】
(概要)
申請者は,民族Aであるところ,本国において,民族Aの使用する言語を
勉強する権利が奪われたり,民族Aの日を祝うことができないなど,民族A
が差別を受けているとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国では,近年,少数民族問題を所管する省が新設
され,民族Aの出身者が大臣に就任したほか,本国政府と民族Aの武装組織
との間で停戦協定が締結されるなど,本国政府が民族Aとの融和を促進して
いることが認められる。
申請者の申立ては,本国で民族Aが差別を受けているというものであると
ころ,上記国情に照らせば,民族Aであることのみを理由とした迫害のおそ
れは認められないことから,条約難民の要件である迫害を受けるおそれがあ
るとは認められないとして「不認定」とされた。
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2 迫害理由として「宗教」を申し立てるもの
【事例3】
(概要)
申請者は,宗教Aを信仰しているところ,本国において,近隣に住む宗教
Bの信者から,宗教Bを信仰するよう強要されたことや商売上の不利益を
被ったことから,帰国した場合,同様の被害に遭うおそれがあるとして難民
認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国政府は宗教Aの人々をめぐる状況の改善に取り
組んでおり,また,本国政府当局が私人による違法行為を取り締まっている
ことが認められる。
申請者の申立てによれば,申請者と同様に宗教Aを信仰している家族は,
本国で問題なく生活しており,上記国情に照らせば,宗教Aを信仰している
ことのみをもって迫害を受けるおそれは認められないことから,条約難民の
要件である迫害を受けるおそれがあるとは認められないとして「不認定」と
された。
【事例4】
(概要)
申請者は,宗教Aから宗教Bに改宗したところ,本国において,宗教Aの
信者である知人や親戚から暴行及び脅迫を受けたことから,帰国した場合,
宗教Aの信者である知人や親戚から殺害されるおそれがあるとして難民認定
申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国では,信教の自由が認められ,他人を改宗させ
ること及び他人の宗教を妨害する行為が禁止されており,また,本国政府当
局が私人による違法行為を取り締まっていることが認められる。
申請者の申立てによれば,申請者を迫害するのは,宗教Aの信者である知
人や親戚であるというところ,上記国情に照らせば,本国政府当局がこうし
た私人による違法行為を放置,助長するような特別な事情があるとは認めら
れないことから,条約難民の要件である迫害を受けるおそれがあるとは認め
られないとして「不認定」とされた。
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3 迫害理由として「政治的意見」を申し立てるもの
【事例5】
(概要)
申請者は,本邦において,フェイスブック上の反政府的な記事や動画にコ
メントをしたことから,帰国した場合,本国政府当局に逮捕されるおそれが
あるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
申請者は,自身の申立ての裏付けとなる証拠を合理的な理由なく提出して
いないことに加え,自ら本邦にある本国政府機関に赴くことについて何の問
題もない旨述べるなど,本国政府から迫害を受けるおそれを有している者と
して不自然な供述をしていることから,申請者の申立てには信ぴょう性が認
められないとして「不認定」とされた。
【事例6】
(概要)
申請者は,本国において,申請者を含む政党Aの関係者が,政党Bの関係
者から政党Bの事務所及び公共施設を破壊した罪や地域全体を恐怖に陥れた
とするでっち上げの事件で訴えられ,申請者に対しても逮捕状が発付された
ことから,帰国した場合,警察に逮捕され,投獄されるおそれがあるとして
難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国では,数多くの偽造文書が横行していることが
認められるほか,本国政府当局が政党Bの関係者による違法行為を取り締
まっていることが認められる。
申請者から提出された逮捕状の写しには,具体的な罪名の記載がなく,逮
捕状の体裁として不自然な点がある上,申請者の供述によれば,逮捕状の写
しの入手経緯は不明であり,罪名や上記事件の現況も分からない旨述べるな
ど,逮捕状が発付されている者の言動として極めて不自然な供述をしている
ことから,申請者の申立てには,信ぴょう性が認められないとして「不認
定」とされた。
【事例7】
(概要)
申請者は,本国において,憲法改正を求めるデモに度々参加したこと,デ
- 4 -
モに参加した際に警察に写真を撮影され,監視されるようになったことか
ら,帰国した場合,本国政府に逮捕されるおそれがあるとして難民認定申請
を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国では,民主化運動の指導者が率いる政党が政権
与党となり,政治活動や言論に対する規制が大幅に緩和されるなど,本国情
勢に大きな変化が認められる。
申請者の申立てによれば,申請者は,本国で参加したいずれのデモにおい
ても,多数の参加者の一人として参加したにすぎず,本国政府当局から身柄
拘束等をされたことがないこと,申請者は,デモ参加後に,何ら問題なく自
己名義旅券の発給及び出国手続を受けていることに加え,本国の政府若しく
は地方公共団体の機関又はこれらに準ずる機関の推薦を受けて技能実習生と
して本邦に入国しており,上記国情も踏まえれば,条約難民の要件である迫
害を受けるおそれがあるとは認められないとして「不認定」とされた。
【事例8】
(概要)
申請者は,本国において,反政府組織Aの熱心な支持者として同組織のデ
モに度々参加したところ,妻が自宅を訪れた警察官から,デモに参加した者
は逃がさない旨警告されたことから,帰国した場合,警察に逮捕され,投獄
されるおそれがあるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国政府が問題視しているのは,指導的立場にある
者及び暴力的な抗議活動に参加したAの構成員であると認められる。
申請者の申立てによれば,申請者及び家族は,警察官から身柄拘束等をさ
れたことはないこと,申請者は,何ら問題なく自己名義旅券の発給及び本国
の出国手続を受けていること,申請者の家族は,申請者が本国を出国して以
降,本国政府官憲から接触を受けていないこと,また,申請者は,Aの支持
者にすぎず,構成員でないことに加え,その活動内容は,穏健な態様で目立
つような活動ではなかった旨自認しており,上記国情に照らし,申請者の活
動が本国政府から問題視される態様のものであったとは認められないことか
ら,条約難民の要件である迫害を受けるおそれがあるとは認められないとし
て「不認定」とされた。
- 5 -
【事例9】
(概要)
申請者は,本国において,政党Aが主催する選挙パレードに参加したこと
から,帰国した場合,本国政府当局に逮捕されるおそれがあるとして難民認
定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
申請者の申立てによれば,申請者は,上記パレードに多数の参加者の一人
として参加したにすぎず,これを理由に本国政府官憲に接触を持たれたこと
はないこと,申請者は,上記事情後に何ら問題なく自己名義旅券の更新及び
本国の出国手続を受けていることから,条約難民の要件である迫害を受ける
おそれがあるとは認められないとして「不認定」とされた。
【事例10】
(概要)
申請者は,本国において,野党の支持者として政治活動を行ったところ,
対立政党である与党の関係者から脅迫や暴行を受けたことから,帰国した場
合,与党の関係者から迫害を受けるおそれがあるとして難民認定申請を行っ
たものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国政府は,いずれの政党に所属しているかに関わ
らず,治安機関に対し,違法行為を適切に訴追するよう命令するとともに,
本国政府当局が政党関係者による違法行為に対し,与野党問わず,取締りを
行っていることが認められる。
申請者の申立てによれば,申請者を迫害するのは,本国政府ではなく,与
党の関係者であるというところ,上記国情に照らせば,本国政府当局が与党
関係者による違法行為を放置,助長するような特別な事情があるとは認めら
れないことから,条約難民の要件である迫害を受けるおそれがあるとは認め
られないとして「不認定」とされた。
【事例11】
(概要)
申請者は,本国において,政党Aの党員から,入党するか寄附金を支払う
よう要求されたが,これを断ったため,政党Aの党員から殺害の脅迫を受け
たことから,帰国した場合,政党Aの党員から迫害を受けるおそれがあると
- 6 -
して難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国政府当局が政党Aの関係者による違法行為を取
り締まっていることが認められる。
申請者の申立てによれば,これまで政党Aの党員から身体的危害を加えら
れたことはないこと,来日後も二度にわたり一時帰国しており,その間も問
題は生じていないこと,申請者の主張する迫害主体は,政党Aの党員であっ
て,上記国情に照らせば,本国政府当局が政党Aの党員による違法行為を放
置,助長するような特別な事情があるとは認められないことから,条約難民
の要件である迫害を受けるおそれがあるとは認められないとして「不認定」
とされた。
4 その他の申立て
(1)知人,近隣住民,マフィア等とのトラブルを申し立てるもの
【事例12】
(概要)
申請者は,本国において,債権者との間に借金をめぐる問題が生じている
ことから,帰国した場合,債権者から迫害を受けるおそれがあるとして難民
認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
申請者の申立ては,借金を理由として,債権者から迫害を受けるおそれが
あるというものであり,難民条約上のいずれの迫害の理由にも該当しないと
して「不認定」とされた。
【事例13】
(概要)
申請者は,本国において,ソーラーパネルの売買をめぐり,当該売買の関
係者から脅迫を受けたことを申し立て,帰国した場合,売買関係者から迫害
を受けるおそれがあるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
申請者の申立ては,商売上のトラブルを理由として,取引関係者から迫害
を受けるおそれがあるというものであり,難民条約上のいずれの迫害の理由
にも該当しないとして「不認定」とされた。
- 7 -
【事例14】
(概要)
申請者は,本邦において,マフィアの違法薬物密売の協力依頼を断ったた
め,マフィアから暴行を加えられた上,本邦から帰国したマフィアの関係者
から本国の家族が脅迫を受けたことから,帰国した場合,マフィアから迫害
を受けるおそれがあるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
申請者の申立ては,違法薬物密売の協力依頼に応じなかったことを理由と
して,マフィアから迫害を受けるおそれがあるというものであり,難民条約
上のいずれの迫害の理由にも該当しないとして「不認定」とされた。
(2)本国の治安情勢に対する不安を申し立てるもの
【事例15】
(概要)
申請者は,本国において,反政府武装組織Aと政府軍との戦闘が起きてお
り,居住地域の治安が悪化していることから,帰国した場合,当該戦闘に巻
き込まれるおそれがあるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
申請者の申立ては,本国の治安情勢に対する不安を述べているにすぎず,
申請者に係る個別具体的な迫害事情もないことから,条約難民の要件である
いずれの迫害の理由にも該当しないとして「不認定」とされた。
【事例16】
(概要)
申請者は,本国において,麻薬密売組織のメンバーであり,麻薬の使用者
であったところ,地元の地区長及び警察官から,麻薬常習者及び密売人のリ
ストに申請者が登載されているとして,警察署への出頭を命じられたにもか
かわらず,出頭しなかったことから,帰国した場合,警察に殺害されるおそ
れがあるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
申請者は,薬物犯罪を理由とする訴追または処罰から逃れてきた者であ
り,条約難民の要件であるいずれの迫害の理由にも該当しないとして「不認
定」とされた。
- 8 -
(3)親族間のトラブルを申し立てるもの
【事例17】
(概要)
申請者は,本国において,叔父との間に,亡父の遺産相続の問題が生じて
いることを申し立て,帰国した場合,叔父から殺害されるおそれがあるとし
て難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
申請者の申立ては,遺産相続を理由として,叔父から殺害されるおそれが
あるというものであり,難民条約上のいずれの迫害の理由にも該当しないと
して「不認定」とされた。
【事例18】
(概要)
申請者は,本国において,夫の浮気が原因で夫婦喧嘩になった際,夫から
暴力を振るわれたことから,帰国した場合,夫から暴力を振るわれるおそれ
があるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
申請者の申立ては,夫の浮気を原因とする夫婦喧嘩を理由として,夫から
暴力を振るわれるおそれがあるというものであり,難民条約上のいずれの迫
害の理由にも該当しないとして「不認定」とされた。
(4)家族が難民認定申請していることを申し立てるもの
【事例19】
(概要)
申請者は,両親が難民であるから,自身も難民であるとして難民認定申請
を行ったものである。
(判断のポイント)
申請者の両親が条約難民に該当するとは認められないことから,申請者に
ついても,条約難民に該当するとは認められないとして「不認定」とされ
た。
(5)本邦で稼働することを希望するもの
【事例20】
(概要)
- 9 -
申請者は,本邦で稼働したいとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
申請者の申立ては,本邦で稼働を希望するというものであり,難民条約上
の迫害に該当する事情を申し立てていないとして「不認定」とされた。
(6)個人的な事情を申し立てるもの
【事例21】
(概要)
申請者は,本邦において,足の痛みの治療を受けたいとして難民認定申請
を行ったものである。
(判断のポイント)
申請者の申立ては,本邦で足の痛みの治療を希望するというものであり,
難民条約上の迫害に該当する事情を申し立てていないとして「不認定」とさ
れた。
【事例22】
(概要)
申請者は,本邦での生活に慣れていること,身体障害者である親族の世話
をする必要があるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
申請者の申立ては,本邦における在留の長期化や親族の介護を理由として
本邦に在留を希望するというものであり,難民条約上の迫害に該当する事情
を申し立てていないとして「不認定」とされた。
(7)カーストを申し立てるもの
【事例23】
(概要)
申請者は,本国において,カーストの異なる者と結婚したため,配偶者の
家族から侮辱され,家を追い出されたことから,帰国した場合,配偶者の家
族から迫害を受けるおそれがあるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国では,カーストや民族による差別を禁止し,公
平に扱う取組みが認められる上,本国政府当局が私人による違法行為を取り
締まっていることが認められる。
- 10 -
申請者の申立てによれば,申請者の主張する迫害主体は,配偶者の家族で
あって,上記国情に照らせば,本国政府当局がこうした私人による違法行為
を放置,助長するような特別な事情があるとは認められないことから,条約
難民の要件である迫害を受けるおそれがあるとは認められないとして「不認
定」とされた。
(8)兵役忌避を申し立てるもの
【事例24】
(概要)
申請者は,兵役を忌避しているところ,本国において,徴兵の義務が課せ
られており,代替役務の制度も認められていないことから,帰国した場合,
兵役忌避者として処罰されるおそれがあるとして難民認定申請を行ったもの
である。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国では,兵役忌避者に科せられている刑罰が不相
当に過重なものであるとは認められない。
一般的に国民に兵役の義務を課し,兵役義務を履行しない者を処罰するこ
と自体は,兵役忌避者が不相当に過重な刑罰を科されているといった事情が
ない限りは,国家の正当な権利であり,上記国情に照らし,そうした事情が
あるとは認められないことから,条約難民の要件である迫害を受けるおそれ
があるとは認められないとして「不認定」とされた。
(9)複数回申請
【事例25】
(概要)
申請者は,今次3回目の難民認定申請であるところ,これまでの難民認定
手続と同様に,本国において,所属していた軍を無断で脱退したことから,
帰国した場合,本国政府から迫害を受けるおそれがあるとして難民認定申請
を行ったものである。
(判断のポイント)
申請者の申立ては,過去の難民認定申請における申立てと同旨であり,同
申請に対する不認定処分に係る取消訴訟において判示されているとおり,難
民該当性が認められないとして「不認定」とされた。
- 1 -
3人道配慮により在留許可を行った事例及びその判断のポイント
1 紛争待避機会として在留許可を付与した事例
【事例1】
(概要)
申請者は,宗教AのB派を信仰しているところ,本国において,政府の関
係者の大半は宗教AのC派や宗教Dを信仰しており,宗教AのB派を信仰す
る者は嫌がらせを受けることから,帰国した場合,本国政府から迫害を受け
るおそれがあるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
出身国情報によれば,本国において,B派を信仰する者はA教徒の約7割
を占めていることが認められる。
申請者の申立てによれば,申請者は,これまでB派を信仰していることを
理由に本国政府から危害を加えられたことはない上,自己名義旅券の発給を
受けて問題なく本国を出国していること,また,上記国情も踏まえれば,条
約難民の要件である迫害を受けるおそれがあるとは認められないとして「不
認定」とされた。
しかし,出身国情報によれば,本国では,内戦が続いており,内戦の激戦
地であった地域が政府軍によって制圧され,激しい戦闘は収まったものの,
いまだ戦闘は継続しており,不安定な情勢は変わっておらず,治安が改善す
る見通しが立っていないと認められる。また,国連機関Eからも国情が安定
するまでは本国への送還を中止するよう勧告がなされていることから,こう
した状況が改善するまでの間,人道上の観点から我が国での在留を認める必
要があると判断された。
【事例2】
(概要)
申請者は,宗教AのB派を信仰しているところ,本国において,宗教Aの
C派の武装組織であるDが勢力を広げており,地元の町がDの攻撃を受けた
際,経営していた店を襲撃されたことから,帰国した場合,Dに殺害された
り,内戦に巻き込まれて命を落とすおそれがあるとして難民認定申請を行っ
- 2 -
たものである。
(判断のポイント)
申請者の申立てによれば,申請者が経営していた店がDから襲撃を受けた
というものの,申請者の店が個別に標的とされたわけではない上,他に申請
者がDから特別に標的とされるような事情があるとも認められないことか
ら,条約難民の要件である迫害を受けるおそれがあるとは認められないとし
て「不認定」とされた。
しかし,出身国情報によれば,本国では,本国政府と反政府勢力との間で
内戦が続き,全土で治安及び人道状況は著しく悪化していることが認められ
ることに加え,申請者は,E国等で一定期間居住していたものの,安定的な
在留上の地位を得ていたわけではなく,申請者が現在もE国等から庇護を受
けられる状況にあるとは言い難いことから,帰国した場合,内戦に巻き込ま
れる可能性を否定できず,こうした状況が改善するまでの間,人道上の観点
から我が国での在留を認める必要があると判断された。
2 その他の本国事情
【事例3】
(概要)
申請者は,本国において,テロが多発していること,本国政府による過
激派組織Aの掃討作戦が行われていることから,帰国した場合,テロやA
掃討作戦に巻き込まれるおそれがあるとして難民認定申請を行ったもので
ある。
(判断のポイント)
申請者の申立ては,
本国の治安情勢に対する不安を述べているにすぎず,
申請者に係る個別具体的な迫害事情は特段見受けられないことから,申請
者の主張は,条約難民の要件であるいずれの迫害の理由にも該当しないと
して「不認定」とされた。
しかし,出身国情報によれば,申請者の出身地であるBでは,依然とし
てAによるテロ事件が多発しており,危険な地域であると認められる上,
Bなどの紛争地域から逃亡した者は,他の地域への受け入れを制限されて
いる状況が認められることから,B出身である申請者が帰国した場合,A
によるテロに巻き込まれる可能性が否定できず,人道上の配慮から我が国
- 3 -
での在留を認める必要があると判断された。
【事例4】
(概要)
申請者は,本国において,NGOが所有するA財団のメンバーとして読み
書きのできない女性に対する教育活動を行っていたところ,それが反政府武
装組織に知られ,脅迫を受けたことなどから,帰国した場合,反政府武装組
織から迫害を受けるおそれがあるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
申請者の申立ては,本国で居住していた特定地域において,反政府武装組
織の脅威があるというものであり,上記地域以外の地域への避難可能性が認
められることなどから,条約難民の要件である迫害を受けるおそれがあると
は認められないとして「不認定」とされた。
出身国情報によれば,本国では,女性は法律,経済の両面で差別に直面し
ており,特に離婚女性は家族から排斥されるため,法的保護を含む支援を受
けられないことが多いとされている。他方で,依然として,反政府武装組織
による女子教育への侵害が行われており,教育機関等を狙ったテロ事件が発
生していることが認められる。
申請者は,同国人夫との間に3人の子をもうけたが,同夫とは離婚状態に
あり,申請者が自活しながら3人の就学児童を監護養育する必要があるとこ
ろ,上記の国情に照らせば,子とともに帰国した場合,申請者に本国での教
職経験があるとしても,再び教師として安定した雇用機会が得られるとは限
らず,申請者が必要な支援を受けて3人の子を十分に養育できるだけの生活
環境を整えることができるとは言い難いことから,こうした状況が改善され
るまでの間,人道上の配慮から我が国での在留を認める必要があると判断さ
れた。
【事例5】
(概要)
申請者は,母が難民であるから,自身も難民であるとして難民認定申請を
行ったものである。
(判断のポイント)
- 4 -
母が条約難民に該当するとは認められないことから,申請者についても,
条約難民に該当するとは認められないとして「不認定」とされた。
出身国情報によれば,本国では,女子教育へのアクセスが制限・欠如して
いることに加え,反政府武装組織による女子教育への侵害が行われており,
教育機関等を狙ったテロ事件が発生していることが認められる。
他方,子女である申請者は幼少期に来日してから約10年余り本邦に在留
し,本邦の教育機関において義務教育を修了した者であるから,その人格は
本邦の社会環境や教育環境によって形成されてきたというべきであり,本邦
への定着性が認められる。
これらの事情を総合的に勘案すれば,申請者が帰国した場合に被る不利益
は深刻かつ重大であるというべきであり,人道上の配慮から我が国での在留
を認める必要があると判断された。
3 本邦事情
【事例6】
(概要)
申請者は,前回の難民認定手続と同様に,本国において,父の遺産を狙う
者から殺害されるおそれがあるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
申請者の申立ては,前回の難民認定申請における申立てと同旨であること
から,難民該当性が認められないとして「不認定」とされた。
しかしながら,申請者は,日本人と婚姻しており,その婚姻経緯や生活状
況に関する夫婦の供述内容は概ね一致し,提出された資料からも,夫婦が同
居し,相互扶助をしていることが認められる上,既に夫婦間に日本人実子が
出生しており,婚姻の安定性・継続性が認められることから,人道上の配慮
から我が国での在留を認める必要があると判断された。
【事例7】
(概要)
申請者は,前回の難民認定手続と同様に,本国において,政党Aのメンバ
ーとして活動していたところ,本国の大統領選挙の際,政党Bが派遣した軍
隊や警察に催涙ガスなどを撒かれたことから,帰国した場合,本国政府から
- 5 -
迫害を受けるおそれがあるとして難民認定申請を行ったものである。
(判断のポイント)
申請者の申立ては,前回の難民認定申請における申立てと同旨であること
から,難民該当性が認められないとして「不認定」とされた。
しかしながら,申請者は,日本人と婚姻しており,その婚姻経緯や生活状
況に関する夫婦の供述内容は概ね一致し,提出された資料からも,夫婦が同
居し,相互扶助をしていることが認められる上,既に夫婦間に日本人実子が
出生しており,婚姻の安定性・継続性が認められることから,人道上の配慮
から我が国での在留を認める必要があると判断された。

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