1関係者ヒアリング結果概要
1 日時
令和5年12月25日(月)13時00分〜14時40分
2 場所
オンライン
3 対象者
一般財団法人 ダイバーシティ研究所
代表理事 田村 太郎 氏
一般社団法人 多文化人材活躍支援センター
代表理事 山路 健造 氏
特定非営利活動法人 国際活動市民中心(CINGA)
理事 新居 みどり 氏
認定NPO法人 難民支援協会
代表理事 石川 えり 氏
理事 赤阪 むつみ 氏
4 対応者
出入国在留管理庁政策課外国人施策推進室 平林室長 ほか
5 内容
(円滑なコミュニケーションと社会参加のための日本語教育等の取組)
しろまる 日本語教育に係る体制整備事業は各地域で非常に力強く行われている。言
語を学ぶことができない人たちをなくすという面では、日本語教育の空白地
域をなくすための動きは進んできている。
しろまる 一方、外国人の言語保障という面で考えると、言語の習得は時間のかかる
ものであるので、文化庁又は文部科学省が行う施策が、3年や5年といった
一定期間で終わってしまう可能性があるならば、自治体では政策を実行しづ
らいという意見が多くみられる。
しろまる 今こそ、国が言語保障政策を行うと明確かつ力強く打ち出すことが重要で
ある。
しろまる 本当に言語保障政策を行っていくのであれば、もろ刃の剣ではあるが、モ
チベーション付けのためにも在留資格の更新の際に言語力を問うていくとい
うことにもつながってくると思う。
しろまる 地域で日本語教育や外国人の生活支援等の仕事を行っている者として、在
留期間の更新の際に言語力を問うていくようになっていくことは仕方がない
と思っており、言語を学ぶことを本人の意思だけに任せてしまうのは少し無
責任であると感じている。日本語学習の機会を提供し、学びを継続できる環 2境を保障していく必要があると考えている。
しろまる まとめると、現在体制整備事業で行っている地域日本語教育に対して、
しっかりと継続的に国としてもお金を出し続けていくということを明確にす
ることが第一、続いて学習環境を作り、多くの人たちが日本語を学ぶことが
できる次の段階に進んでいく、最後に日本語能力と在留資格と結びつけてい
くという考えである。ただし、これは他国においても非常に議論のあった
テーマであるし、家族滞在の人にまで在留資格等と日本語能力を結びつけて
いくのは問題ではないか等、様々な意見があるだろう。
しろまる 日本語を学んでから働く外国人ばかりではないので、働きながら学べるよ
うにしていくという議論を深めていく必要がある。
しろまる 日本語教室にお金をつけるのではなく、日本語学習者にお金をつけるとい
う方向に持って行かないと、言語保障や日本語教育へのアクセスの保障につ
ながらないのではないかと考えている。
しろまる これからの議論における視点として、施策の提供者側ではなく、あくまで
も外国人住民側の状態変化にKPIを置き、例えば日本語教育へのアクセス
をどう保障していくのかということが重要である。
しろまる 日本入国時に既にある程度日本語を習得している外国人もいれば、難民申
請者のように日本語が全く分からない状態で入国する外国人もいる。難民申
請者の日本語習得スキームにおいては基本的に公的支援がなく、市町村等が
実施している日本語教室が一番の入り口になっている。入国時に日本語能力
がない外国人がライフステージに合わせ、どのように日本語を習得していく
のかということを視点の中に入れていく必要があるだろう。
しろまる 生活オリエンテーションについて言うと、ドイツの生活オリエンテーショ
ンでは、ドイツが連邦制であることや男女平等等、ドイツの制度や理念を学
んでおり、生活オリエンテーションとして日本人がイメージするごみ出しの
仕方等はドイツ語教育の教材を通して身に付けていくそうだ。
しろまる 外国人住民の出身国によっては、女の子には教育を受けさせる必要がない
からといって学校に行かせなかったり、女性が家の外に出ることを夫から禁
止されていたりというような例があり、児童相談所等から寄せられる相談も
非常に多い。
しろまる このような問題は日本の価値観と、出身国の価値観の不一致により生じて
いる。どのようなものを生活オリエンテーションとして考えるのかという枠
組みを提示する必要がある。この点は、今後しっかりと議論しなくてはなら
ない。
しろまる 国際活動市民中心では、来年度の本格実施を目指して、エスニックコミュニ
ティの方々とのオリエンテーションを入国前と入国後に行うプログラムを、 3今年度の1月からトライアルとして実施予定である。自治体や国レベルで行
う生活オリエンテーションに加え、それだけでは漏れてしまう国ごとや地域
ごとの文化性を踏まえたオリエンテーションも行うことが大切だと考えてい
る。
〇 日本語教師として仕事をしている方々の大半は留学生教育を行っていると
ころ、留学生教育をそのまま生活領域や就労領域の日本語教育に持ち込むの
は無理があるのではないか。
しろまる 言語の習得を外国人個人の権利として保障すると国が打ち出していくこと
によって、企業や日本語教師、その他関係者も、自分たちを取り巻く状況が
クリアになると思う。
(外国人に対する情報発信・外国人向けの相談体制の強化)
しろまる 学校や病院、公的な機関などでの多言語情報提供の在り方が、自治体に
よってバラバラである。言語保障の裏返しとも言えるが、特定の場面では必
ず翻訳や通訳をつけることを保障し、情報や施策を提供する側が多言語環境
を整える必要性をしっかり認識しなくてはならない。
しろまる 例えば、日本語が分かる子どもが、通訳のために学校を休んで親の通院に
同行する例があるが、これは基本的人権の観点からも問題である。米国のよ
うに法律で禁止するべきとは言わないが、少なくとも家族が通訳しているか
ら、通訳の準備は不用だという感覚は修正していかなくてはならない。
しろまる 様々な施策で、それぞれ多言語化するということは言われるが、その基準
となるような考え方の整理やガイドラインの打ち出し、権利の保障などが必
要だ。情報の保障の観点で、多言語に関して通訳、翻訳を保障していくとい
う考え方を外国人との共生社会の実現に向けたロードマップ(以下「ロード
マップ」という)のビジョンなどに組み込んだ方がよいのかもしれない。
しろまる 外国人相談センターに関して、一元的相談窓口に係る交付金制度は、新し
く相談窓口を作るには大変便利だが、元々相談対応に取り組んでいた外国人
が多い自治体が窓口を拡充するのには使い勝手がよくない。相談対応の質が
求められている今、地域の外国人の状況に合わせた形でバリエーションを確
保しやすい交付金にしていただきたい。
しろまる 外国人の少ない地域では、相談先が少ないため、日本語ができる特定の同
国人に相談が集中してしまい、疲弊してしまうという散在地域ならではの問
題が生じている。ウクライナ避難民でも同じ問題が見られる。
しろまる 相談や情報提供を1回で終わらせないことが重要である。ウェブサイトを
見て全て分かってくれというのは不十分で、電話相談や対面相談が必須に
なってくるだろう。 4しろまる 難民支援協会が支援している外国人の中には在留資格のない人もいるが、
例えば新型コロナウイルス感染症流行の際の、マスクの提供やワクチンの接
種などのような、在留資格がない人も使える情報も必要である。
しろまる 一方で、在留資格のない外国人は多くの福祉的なサービスや保険等が使え
ないなど、オーバーステイの外国人が使える制度的なリソースが非常に少な
いのも課題だと思っている。
しろまる 国際活動市民中心では、相談員のための相談室という事業をやっている。こ
こでは全国の一元的相談窓口の方や社会福祉協議会のケースワーカーの方から
の電話相談に対応している。技能実習機構及び外国人相談室で業務を行った経
験がある行政書士かつ社会福祉士のスタッフが相談に応じており、年間約400件
の利用がある。
しろまる 外国人に係る全ての相談を一元的相談窓口等で対応するのは難しいため、相
談員が相談できる場所が、例えばFRESCの中などにできればいいと思う。
そのためには厚生労働省でいうと現行の労働領域だけではなく、厚生領域の部
署もFRESCに関わっていくことが必要であると考えている。
しろまる ミャンマーに関して入管庁は緊急避難措置を行っているが、後にアフガニス
タンやスーダンも対象となったなど、入管庁の施策に係る情報もいろいろと変
わっていくため、日本人ですら把握が難しい。何がいつ変わるかも分からない
中で、相談員が相談できる場所というのは重要だと考える。
しろまる 自治体も国も、様々な契約が入札方式となっており、特に翻訳に関しては一
般入札である。そのため、近頃は翻訳の質の低下が著しく、翻訳に対する専門
知識が非常に軽視されていると感じている。
しろまる やさしい日本語自体は反対ではないが、やさしい日本語化しているから多言
語化しなくてよいというものではないと考えている。
しろまる 次年度以降、多言語による情報発信及び相談体制の強化における専門性やク
オリティの確保を、ロードマップに書かれているそれぞれの施策の中で意識し
ていく必要がある。
(ライフステージ・ライフサイクルに応じた支援)
しろまる 就労は人が生きていく上で非常に大切な事柄であるが、NPOや市民活動
組織等は、より緊急性の高い問題にリソースを割かねばならないため、外国
人から転職の相談を受けたとしてもハローワークを案内せざるを得ない。
しろまる 外国人雇用サービスセンターは機能していると思うが、全てのハローワー
クで外国人の仕事探しや労働基準法違反事案等、あらゆる問題に対応可能か
と考えると、マンパワー的にも機能的にも厳しいのではないか。
しろまる 例えば在留資格も能力も持っている外国人が転職するときや、職場に疑問 5を感じたときなどのちょっとした相談にも対応できるようにすることが重要。
そのためにも、ハローワークに人員を充てたり研修をしたりという点検をし
なければ、将来的に大きな問題が起こると感じている。
しろまる そのためには外国人支援コーディネーターや一元的相談窓口とハローワー
クを密に連携させる、更に言うならば、外国人支援コーディネーターをハ
ローワークに配置することも検討に値すると考えている。
しろまる 日本人の配偶者や家族滞在の人、難民申請中の人など、様々な外国人が多
様な背景を持ちながら就労を希望している。ロードマップにおいて、留学生
のための就労についてははっきりと書かれているが、今後はこれらの多様な
方々が就労を希望しているということを理解してもらえるような表現をして
いただければよいかと思う。
しろまる 「ライフステージ・ライフサイクルに応じた支援」がロードマップの重点
事項の一つに盛り込まれているのは非常に心強い。
しろまる 土葬の国から来た方が火葬されて関係者がショックを受けたり、故人にお
金がなく、行政が無縁仏に入れてお骨を持ち帰れないことに知人がショック
を受けたりという話もあり、埋葬やお墓というところでも様々な習慣に配慮
した情報提供、支援が必要だと感じている。
しろまる 妊娠期から安全な出産の確保、乳幼児のケアまで途切れのない支援がライ
フステージ、ライフサイクルの観点から必要になってくると思っているが、
在留資格のない外国人でもどういった制度が使えるのかという観点からの支
援が必要だと思っている。
しろまる 親子に在留資格がない場合、支援が受けられないために幼稚園へのアクセ
スが難しかったり、高校受験はできても教育費無償化の対象から外れたりと、
就学前、未就学の子どもや高等教育を受ける段階の子どもの教育へのアクセ
スに課題を感じている。
しろまる 技術の進歩、特にリモートで様々なことができるようになった結果、従来
の日本の制度と現実が合わなくなっている。
しろまる 例えば、母国の授業をオンラインで受けられるようになってきた今、日本
の学校に行かないことを不就学と呼んでよいのか、一方で学校は授業だけで
なく集団生活の学習や保健といった機能を持っているので、そもそも学校に
行かないことが適切なのかといった問題である。
しろまる また、民泊の管理のアルバイトをしている外国人もいるが、彼らは母国に
いるオーナーから指示を受けて働き、報酬も本国の銀行口座に入金されてい
るようだ。結果、政府として就労時間の管理も所得の捕捉もできなくなって
いる。加えて外国人本人にとっても業務中にけがをした際に労災を受けられ
ない、賃金トラブルが生じたとしても何の証明もないといった問題もある。 6しろまる オンライン診療で母国の医者の診察を受け、薬を送ってもらうことも、場
合によっては日本の薬事法違反で犯罪となることもある。
しろまる これら技術の進歩に伴って生じている課題を、現在のロードマップ期間中
に、それぞれの施策ごとに洗い出すことが必要だと考えている。
しろまる ウクライナ避難民に関して言うと、子どもたちは午前中に日本の学校に行
き、午後はウクライナの授業を受け、日本語教室にも行かなくてはならず、
大変疲弊している状況にあると感じる。
しろまる また、ウクライナは大学進学率が約82%と非常に高く、専門的な知識を
持った人が多いのだが、母国で医者や弁護士をしていた人たちですら、日本
でその能力を活かす仕事に就けていない。海外でのキャリアと日本でのキャ
リアをどう結びつけるかというのは大きな課題であろう。
(共生社会の基盤整備に向けた取組)
しろまる 地方自治体における多文化共生推進政策の検討や、地域の日本語教育や外
国人相談センターについて等の相談を受けるときに最も重要なのはエビデン
スとなる数字である。
しろまる 具体的にはその地域に住む外国人について、国籍、在留資格、年代別で組
み合わせたデータである。現在公開されている統計資料では全ての自治体に
ついてこれらの情報が公開されているわけではない。
しろまる これら統計について、入管庁からの視点だけでなく、現場である自治体の
役場や議会を動かすためには何が必要なのかという視点も持って作成して
いっていただきたいと思っている。また、受入環境調整担当官が市区町村を
訪問する際に、統計データの読み方や在留資格についての説明を行うような
機会があるとよいと思う。
しろまる 一方で、外国人の知られたくない権利も守らなくてはならないため、デー
タの活用と権利への配慮の両方を考える必要がある。
しろまる 啓発活動に関して言うと、官民連携で外国人との共生を目指していくネッ
トワーク会議等を設け、経済団体や大学など様々な機関が、啓発月間に外国
人との共生社会を作るための発信をしていけるような取組があると、より啓
発活動が効果的となるだろう。
しろまる 政府から差別禁止などを更に発信してくれると非常に心強い。
しろまる 難民の認定に関して、規範的要素に関する明確化については文書が公開さ
れているが、今後も様々な明確化に関する文書を公表していただきたい。そ
の上で、それらがどのように活用されていくのか、バージョンアップされて
いくのか、どれだけの人がその情報にリーチできたのか、研修を実施し、ど
の分野のどのぐらいの人にリーチできて、どのような変化が起きてきたのか
といったKPIの設定が考えられるだろう。また、KPIが何を目指してい 7くのかが明確化されていくと、ロードマップの目指すところがより明確化さ
れるだろう。
しろまる 自治体の人が難民申請者に在日大使館に相談すればいいではないかと簡単
に言ってしまう例がある。しかし、難民にとって、在日大使館は迫害の主体
である可能性もあるわけで、当事者でないと想像のつかない配慮の必要な事
柄がある。このようなヒアリング等を通じて、いろいろなステークホルダー
への配慮について考え、一つ一つできるところから共に取り組んでいくこと
が重要と考える。
(外国人の孤独・孤立の状況)
しろまる 外国人相談の現場でも孤独、孤立に係る相談は多い。
しろまる 留学生では、日本語学校よりも大学に留学している外国人からの相談が多
い。日本語学校はみな外国人同士であり、アルバイトも忙しいことから孤独
を感じる機会は少ないようだが、大学等に行くと日本人の学生と自分たちと
いう関係になり、友達ができなくて孤独を感じるようだ。
しろまる また、就職後の相談も多い。本人が寂しいからという理由で相談しに来る
のではなく、企業の方としてお会いする中で、実は自分は外国人で友達がで
きなくてすごく寂しいのだという相談になることが多い。働いている人たち
も強く孤独感を感じているのが実態だ。
しろまる 日系ブラジル人などに見られる高齢者の孤立も見逃せない。年金がなかっ
たり額がとても少なかったりといった場合や、介護保険料を納めてきたが介
護保険制度の利用の仕方がよく分からないという場合もある。
しろまる また、シングルマザーの問題もある。本人が望む、望まないに関わらず日
本で出産し、それを機に孤立してしまうというケースは様々なところで見聞
きするところである。妊娠、出産又はシングルマザーになっていく前後の孤
立は相当深刻だと思っている。
しろまる 難民申請者に関して言うと、来日後まもなく持ち金が非常に少なくホーム
レス状態になる話もある。新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着き、国
境を越えた人の移動の制限が緩和され、難民申請者が増えていく中、政府の
セーフティネットの確保が大切ではないかと思っている。
しろまる タイ人の孤立を防ぐためにサワディー佐賀というタイ人のグループを作っ
たが、その前は学校が違うとタイ人同士でもなかなか会う機会がないという
問題があった。
しろまる 新型コロナウイルス感染症流行の影響から対面で会うことがなかなかでき
ず、サワディー佐賀で新しく地域に来た留学生を把握できなかった結果、留
学生が孤立してしまうケースもあった。 8しろまる 日本人の配偶者がなかなか同胞の人と話す機会がなく、ずっと日本語しか
話していないというケースもあり、日本語をどこで学ぶかという問題も含め
て課題だと思っている。
しろまる 日本語教室の価値は言語保障だけでなく、孤独・孤立の防止というところ
にもある。配偶者でも高齢者でも、勉強を主目的とせずともなんとなく集ま
り、日本語であれ母語であれおしゃべりができる場となる。
しろまる 子ども食堂やフードバンクなどには外国人も来ているが、そこで主催者が
外国人から何かを相談されたときに、どうしたらいいか分からないことがあ
る。そこで地域に日本語教室などがあれば、そこにつなぐことで、次に相談
センター等様々な組織へとつながっていく。外国人を主たる対象としていな
い活動をしている人たちでも、外国人を支援している組織とつながることで、
困っている外国人が様々な支援を受けられるようになるのではないかと考え
ている。

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