侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会 (第2回) 第1 日 時 令和7年10月17日(金) 自 午後3時34分 至 午後5時11分 第2 場 所 法務省大会議室 第3 議 題 1 ヒアリング 2 その他 第4 議 事 (次のとおり) 議 事 しろまる猪股参事官 ただ今から、侮辱罪の施行状況に関する刑事検討会の第2回会議を開催いたします。 しろまる橋爪座長 本日は、皆様御多用中のところ、御出席いただきまして誠にありがとうございます。 本日、佐藤委員は、所用のため欠席されています。 まず、事務当局から、本日の配布資料について説明をお願いいたします。 しろまる猪股参事官 本日、ヒアリング関係の資料として、ヒアリング出席者名簿とヒアリング出席者の説明資料をお配りしております。 しろまる橋爪座長 それでは、議事に入りたいと存じます。 まず、第1回会議において趙委員から山本委員に対する御要望がございましたが、本日、山本委員から御説明いただける事項がございましたら、お願いいたします。 しろまる山本委員 第1回会議において、趙委員から、国会議員及び地方議会議員が被害者となった事件について、どのような言動であったのかについて、説明の御要望がございました。 第1回会議において御説明したとおり、警察庁では、改正刑法が施行された令和4年7月7日以降に発生して本年6月30日までに全国警察で検挙した事件を対象として調査を行っており、国会議員及び地方議会議員が被害者となった事件については、合計11件検挙しております。このうちの2件については、第1回会議配布資料5「侮辱罪の事例集」の126番と151番に具体的な言動等が掲載されておりますので、御確認いただければと思います。その他の事件については、被害者の要望等を踏まえ、警察において事件広報していないことから詳細は差し控えさせていただきますが、コミュニティサイトなどにおいて「馬鹿」や「クズ」などと投稿したり、「犯罪者」や「嘘つき」などと罵ったりしたものがほとんどとなっております。もっとも、侮辱罪に該当するか否かについては、個別の事案ごとに具体的な事実関係に即して判断されるべきものであって、警察におきましては、こうした文言のみを捉えて検挙しているわけではございませんので、この点御留意いただければと思います。 しろまる橋爪座長 ただ今の山本委員からの御説明について、何か御質問はございますでしょうか。よろしいですか。 それでは、本日は、第1回会議で申し上げたとおり、ヒアリングを行うこととしたいと存じます。 第1回会議におきまして、委員の方々から、いわゆるプロバイダ責任制限法の改正内容及び同法改正後の発信者情報開示の手続、さらに、インターネット上の誹謗中傷に関する被害の実態の推移等に関する資料やヒアリングの御要望を頂戴いたしました。私の方で、これらの御要望も踏まえ、ヒアリング出席者名簿に記載されているお二人の対象者を選定し、そのお二人にも皆様方から頂戴した御要望をお伝えしております。 本日は、ヒアリング出席者名簿記載のお二人からヒアリングを行うということでよろしいでしょうか。 (一同異議なし) しろまる橋爪座長 ありがとうございます。進行としましては、ヒアリング出席者名簿に記載の順に、お一人ずつ、20分程度お話を伺った後、20分程度委員の皆様からの御質問にお答えいただくという流れで進めたく存じます。 それでは、ヒアリングを始めさせていただきます。 まず、お一人目は、違法・有害情報相談センターの上沼紫野様です。 上沼様、座長を務めている橋爪でございます。本日は、御多用中のところ、ヒアリングに御出席いただきまして誠にありがとうございます。上沼様から20分程度お話を伺い、その後20分程度、委員から質問があれば御回答をお願いしたく存じます。 それでは、よろしくお願い申し上げます。 しろまる上沼参考人 ただ今御紹介にあずかりました、違法・有害情報相談センターのセンター長の上沼と申します。お手元の資料に基づき、当センターに寄せられた相談について御説明させていただこうと思います。なお、本日お配りしている資料の後ろの方のページに記載している事例については、個別の事例の若干詳細な内容にわたるものになっておりますので、非公表としていただきたいと思います。また、本日、資料に基づいて具体的事例についても御説明はいたしますが、その細かい内容に言及している部分についても非公表としていただければと思います。 (スライド2枚目) まず、違法・有害情報相談センターの概要についてです。当センターは、総務省からの受託事業でして、相談者は一般利用者がほとんどです。ですので、本日御説明する内容は、一般インターネットユーザーからの御相談に関するものと思っていただければと思います。また、当センターは、相談に対して、いわゆる情報流通プラットフォーム対処法に基づく対応方法を助言する機関であり、削除請求の代行等は行っておりません。 (スライド3枚目) 当センターの組織図です。センター長である私自身、弁護士ですが、このほかに、法務アドバイザーとして弁護士が3人おり、判断が難しい内容については、その弁護士からの助言を受けて相談員が対応するという形をとっております。なお、御相談については、ウェブページ上のフォームによって受け付けており、基本は電話等では受けておりません。インターネット上のサーバシステムに回答を書いて、それを相談者が御覧になるという対応になっています。 (スライド4枚目) 活動状況についてです。当センターでは、年に2回、違法・有害情報相談センター推進協議会を開催し、関係相談機関との情報共有を実施し、最新事例の共有や対応方法についての意見交換を行っています。また、研修・講演等も行っていますが、一般ユーザー向けの研修については、多くの御要望があるため、こちらを引き受けてこちらを引き受けないというわけにいかないので、申し訳ないですが一律にお断りさせていただいております。ですので、基本的には、人権擁護に携わる各地方の法務局又は学校関係者や教育委員会等、御相談を受ける側の方々向けの研修を行っています。このような研修において、名誉毀損や誹謗中傷のトレンドなどについてもお話をさせていただいています。 (スライド5枚目) 相談件数の推移についてです。相談件数は、基本的に右肩上がりになっております。コロナ禍の頃に少し件数が少なくなったりはしていますが、令和5年、令和6年と、高止まりというか、高い状態で推移している状況です。 (スライド6枚目) 相談者の属性は、基本的には、個人ユーザーがほとんどで、たまに個人事業主の方などから御相談があるという状況です。あと、法務局の人権擁護担当の方や消費生活センターの方からたまに御相談を頂くことがございます。 (スライド7枚目) 権利侵害の対象、つまり、被害の対象ということですが、こちらについても70%近くが一般人になっております。 (スライド8枚目) こちらの資料を見ると、権利侵害対象者の年代は、若い方が多いということが分かります。 (スライド9枚目) 認知経路については、こちらの資料を見ていただければ分かりますが、意外と、警察から当センターを御紹介いただいて、相談にいらっしゃる方が多く、インターネットの問題で警察に御相談に行くユーザーの方が多いのかなという印象を持っております。また、総務省が作成している「インターネット上の書き込みなどに関する相談・通報窓口のご案内」という相談先のフローチャートがあるのですが、相談機関連絡会等で、それをお配りするなどしているので、その影響で当センターへの御相談が増えている可能性もあると思っております。 (スライド10枚目) 相談内容の内訳は、誹謗中傷に関するものが62%となっております。ただ、このデータは、複数回答ありで、かつ、御本人の申告に基づいて分類しているものである点に御留意ください。実際の相談内容を詳しく見ると必ずしも誹謗中傷には当たらない場合もあるとは思いますが、こちらのデータでは、少なくとも、御本人が誹謗中傷に当たると申告したものが62%あるということが分かります。 相談内容の内訳の推移を口頭で補足させていただきます。既に公表されている資料に記載されているデータですが、誹謗中傷関係に分類されている相談の件数は、令和3年が約2,500件、令和4年が約2,700件、令和5年が約3,700件、令和6年が、先ほど御説明したとおり、4,000件近くとなっております。先ほどスライド5枚目で見たとおり、令和4年は、前後の年に比べて少し相談件数が少ないのですが、誹謗中傷関係の件数は増えています。令和4年に侮辱罪の法定刑引上げの法改正がありましたけれども、この件数の増加が必ずしも法改正と連動しているかどうかはこちらでは正確には把握できておりません。というのは、令和5年度からカテゴリ等の修正や集計方法の変更などもあり、統計の連続性が必ずしも確保されていないからです。とはいえ、令和5年、令和6年について誹謗中傷関係の相談が多いことは間違いないとは言えると思います。 (スライド11枚目) どのような対応を求める相談が多いかについては、インターネット上の情報を削除したいという御相談が圧倒的に多いです。あとは、発信者の特定方法を知りたいという御相談もあります。私どもは、インターネット上の情報を削除したいという御相談を受けた場合には、対象のサイトを見て、どういう形で削除フォームが掲載されているかなどを確認した上で、ここから削除の請求をしてくださいといった形で御回答をするのですが、発信者の特定方法を知りたいという御相談だと、一般論はお答えできるものの、具体的には最終的に裁判をしなければいけない場合がほとんどなので、基本的に、弁護士に御相談くださいという形でお返しすることになります。 (スライド12枚目) 権利侵害の書き込みが行われた場所として申告されているのは、やはりSNSが多いということになっております。 (スライド13枚目) SNSの中でもどこが多いかというと、こちらは多分御想像のとおり、Xが多く、続いて、Meta、Googleといった順番になっております。 (スライド14枚目) 典型的な相談例をお持ちしました。多いのは、自分の画像や映像が許可なく掲載されているので削除したい、掲示板に誹謗中傷が繰り返し書き込まれていて、コピーサイトにも拡散しているので削除対応をしたい、地図サイト上の店舗の口コミに誹謗中傷が書き込まれている、SNSで自分が人の悪口を書いたら自分の誹謗中傷が書き込まれてしまった、自分の撮影した写真が知らないところでコピーされて使われている、以前の交際相手が交際当時の写真を投稿しているというリベンジポルノのようなものも含めた御相談です。そのほか、割と多いのは、ログイン時のパスワード、メールアドレスを忘れて、自分のアカウントや投稿した記事が消せなくなってしまったというものです。また、過去に自分が逮捕された際の報道記事が掲載されたままで困りますという御相談もあります。最近は元の新聞記事などは消えていることが多いのですが、そこからコピーしたものが他のサイトで掲載されたままになっていて困るという御相談が多いです。あとは、著作物の違法アップロードに関する御相談も割と多いです。いわゆる晒しサイトに自分の名前等が載せられて困りますというものも典型例としてあります。 【具体的事例の紹介】 いわゆる晒し系サイトには、お金を払えば削除するといったことが書かれていることがあって、その削除料を払った方がいいかという御相談もよく来ます。当センターとしては削除料を払うことを基本的にはお勧めしていないのですが、御本人がどうしても削除したいと思うと、お支払いになってしまうことはあります。実際に削除料を払ったのだけど削除されませんといった御相談を受けることもあります。 当センターでは、インターネット上に個人情報や誹謗中傷が書き込まれている事案で、その内容が悪質な場合は、警察への相談方法も案内しています。また、同じ内容の書き込みがいわゆるコピーサイトに拡散されている場合は、当センターでコピーサイトも探した上で削除方法をお知らせすることも行っており、その場合、作業量が増えることになります。 最後に、権利侵害の対象者が18歳未満の青少年で、その生命又は身体に危険があるなど迅速な救済が必要な場合には、「青少年案件情報提供スキーム」と称しておりますが、協力事業社等に当センターから情報提供をすることがあります。 当センターからの御説明は、以上です。 しろまる橋爪座長 ありがとうございました。それでは、御質問のある方は挙手をお願いいたします。 しろまる趙委員 令和5年から誹謗中傷の相談案件が増えているというお話がありましたが、その要因としてどういうことが考えられるのか、そもそも誹謗中傷の案件自体が増えたということなのか、案件数は変わらないけれども相談が増えたということなのか、分かる範囲で教えていただければと思います。 しろまる上沼参考人 私どもは相談を受けて認知する立場なので、実際の被害の件数がどのぐらいかというのは分からないのですが、先ほど御説明したとおり、相談件数自体は、令和4年がちょっと下がってはいるものの、右肩上がりで増加しています。その中で、誹謗中傷関係の相談は必ず高い割合になっていますので、全体の中で件数が多い方であることは間違いないと思います。ただ、先ほど御説明したとおり、令和5年以降はカテゴリの修正もあり、その影響もあるかなとは思っています。もっとも、誹謗中傷被害についての各種のキャンペーンや、被害者が取り得る対応方法について例えば総務省などがいろいろなキャンペーンをしたことによって、以前と比べて、被害者の方が、自分の置かれている状況は被害と言っていいんだと思える状況になってきていると思われます。その結果、御相談に来る方が増えているのは間違いないのではないかと考えております。 しろまる趙委員 侮辱罪の法定刑の引上げの法改正が相談件数の多寡や相談内容に影響しているかどうかはいかがでしょうか。 しろまる上沼参考人 「侮辱」という言葉を、当センターへの相談の際に使われる方は余りおらず、「誹謗中傷」という言葉をお使いになる方が多いので、はっきりとは分からないのですが、ただ、侮辱罪の法改正がされましたという広報もかなりされていましたので、それによって、今まで泣き寝入りするしかなかった方が、泣き寝入りしなくてもいいと思われて、相談されるに至っている可能性はあるとは思っています。 しろまる柴田委員 相談内容の内訳に関して、頂いた資料では、令和6年のものについては、スライドの10枚目に詳細な数字が記載されたデータがあるのですが、先ほど口頭で御説明いただいた令和3年、4年、5年についてもこうしたデータを頂けないでしょうか。 しろまる上沼参考人 令和3年、4年、5年についても、公表データではあるので、後で補足的に資料をお送りすることは可能だと思います。 しろまる橋爪座長 資料の追加という形で御対応いただけるということで、よろしくお願い申し上げます。 ほかに御質問はございませんでしょうか。 しろまる田山委員 いろいろな事例を御紹介いただいたのですが、個人情報や画像の削除をしたいという相談がかなり多いという印象を受けました。その中で、画像や写真を消してほしい、あるいは個人情報を消してほしいというものを伴わない、純粋な言葉による誹謗中傷というのはどのぐらいの割合があるのか分かるデータはございますでしょうか。 しろまる上沼参考人 誹謗中傷関係の相談だけの件数は特にデータを取っていないのですが、体感としては、個人情報を削除したいという相談に誹謗中傷が伴う形で御申告される方が多いように思います。 しろまる田山委員 ありがとうございます。刑事事件に当たり得るようなものに関しては警察につなぐといったアドバイスもなさっているということでしたが、誹謗中傷関係の相談について警察につなぐという御対応をされることもあるということなんでしょうか。それとも、もう少し具体的な事情があるときにつなぐことが多いのか、そのあたりの実務的な感覚も教えていただけると有り難いです。 しろまる上沼参考人 誹謗中傷の場合は、御本人が警察に相談したいと言っている場合にはつなぎますが、御本人が希望されていない場合に、当センターからお勧めすることはしておりません。当センターから警察への御相談をお勧めするのは、脅迫的文言が使われている場合や、詐欺的な内容であって、情報流通プラットフォーム対処法による開示請求の対象とはならず、同法では対応できない場合などです。 しろまる橋爪座長 上沼先生のお話は、誹謗中傷として申告する方は、併せてプライバシー情報やリベンジポルノについても申告することが多いということだと理解いたしました。資料10枚目にある相談内容の内訳は複数回答可で分類したものと伺ったのですが、統計として、専ら誹謗中傷のみで申告されている件数は明らかにならないでしょうか。 しろまる上沼参考人 委託元である総務省にも確認した上で、追加でデータをお出しできるようであれば御提供するようにいたします。 しろまる橋爪座長 ありがとうございます。ほかに御質問はいかがでしょうか。 しろまる猪股参事官 違法・有害情報相談センターに対する相談の近年のトレンドや傾向はあるでしょうか。トレンドや傾向をどのようにお感じになっているのかということでも結構ですので、お教えいただけると有り難く思います。 しろまる上沼参考人 報道があったトピックについて相談件数が伸びる傾向にあります。例えば、少し前に、グーグルマップのクチコミへの書込み事案についての報道があった時には、グーグルマップ上の店舗からの名誉毀損の御相談が増えたり、その前に、破産者マップについて報道された際には破産者マップへの書込みに関する御相談が増えたりといった印象です。ただ、資料10枚目にあるように、誹謗中傷やプライバシー侵害の2つは、常に多いというのが変わらない傾向ではあります。 しろまる趙委員 違法・有害情報相談センターでは、相談者の手続を支援するということだったかと思いますが、アドバイスをするに当たって、例えば、開示請求など民事上の手続について、ここが使いにくいのではないかとか、あるいは最近の法改正によってここが使い勝手が良くなったであるとか、何か感じられていることがあれば教えていただけますでしょうか。 しろまる上沼参考人 民事上の手続については、基本的には弁護士への相談をお勧めするので、その後のことは余り分からないのですが、近年は、むしろ発信者情報の開示請求を受けたという、いわゆる被疑者の側からの御相談が増えた印象はあります。そのことからすると、開示請求の件数が増えている、つまり請求しやすくなったという傾向があると思います。 しろまる笹倉委員 資料9枚目の「他機関からの紹介等・認知経路の詳細」によると、紹介をした他機関として最も多いのは警察であるとのことですが、警察から違法・有害情報相談センターへ紹介される場合としては、どういう事案が多いのでしょうか。 しろまる上沼参考人 名誉毀損や誹謗中傷を削除したいという御相談については、警察から当センターに御紹介いただくことも多いです。ただ、たまに、当センターに相談されても対応ができない御相談内容の場合もあり、改めて警察に行くことをお勧めする場合もなくはないです。 しろまる笹倉委員 今おっしゃった、むしろ警察で対応してもらいたいというのは、例えば、どのような場合なのか、差し支えなければ教えていただけますか。 しろまる上沼参考人 相談内容が詐欺の被害と思われるようなものは、発信者情報開示の対象にならないので、警察で対応していただくしかないというものがあります。 しろまる長戸委員 詐欺と思われるもので警察に対応してもらいたいというのは、例えば、何万円分のビットコインを支払えば個人情報をサイトから削除してやるとか、そういったものでしょうか。 しろまる上沼参考人 最近だと、例えば、ロマンス詐欺のような話などです。ビットコインを払えば消してやるなどの被害についての相談は、当センターとしては、それを詐欺としては取り扱っておらず、いわゆる晒し系サイトの被害として分類しています。 しろまる長戸委員 ロマンス詐欺のほかに、明らかに詐欺と思われる相談事例はありますでしょうか。 しろまる上沼参考人 いわゆる投資詐欺のようなものがあったように記憶しています。また、詐欺ではないものの、脅迫と思われるもの、例えば、「お金を送らないと写真をさらす。」と言っているものなどが結構あったりしますが、そういったものはやはり警察で対応してもらった方がいいのではないかとは思います。 しろまる橋爪座長 ほかにはいかがでしょうか。特になければ、これで質疑応答は終了とさせていただきます。 上沼様、本日は、貴重なお話を頂きまして、誠にありがとうございました。厚く御礼申し上げます。本日お話しいただいた内容につきましては、今後の検討に活用してまいりたいと存じます。 それでは、ここで10分ほど休憩したいと思います。再開は、午後4時25分といたします。 (休 憩) しろまる橋爪座長 それでは、休憩前に引き続き、ヒアリングを行います。 お二人目は、東京大学教授の宍戸常寿様でございます。本日は、御多用のところをお越しいただきまして誠にありがとうございます。 まず、宍戸先生から20分程度お話を伺い、その後20分程度、委員から質問があれば御回答をお願いしたく存じます。 それでは、よろしくお願い申し上げます。 しろまる宍戸参考人 御紹介にあずかりました東京大学の宍戸でございます。私は、憲法及び情報法を研究している立場で、今回、お招きを頂いたものと考えております。このような場で意見陳述の機会を頂きましたことに厚く御礼を申し上げたいと思います。 (スライド1枚目) 資料は、お手元にスライドの形で御用意しておりますけれども、インターネット上の誹謗中傷対策と侮辱罪について、憲法及び情報法の観点から、若干お話をさせていただきたいと思います。 (スライド3枚目) スライド2枚目の「概要」は飛ばしまして、次でございます。 「はじめに」で、これはやや自己紹介的なものになりますが、誹謗中傷あるいは広く人格権を侵害するのではないかという観点からの表現活動の在り方は、SNS時代以前は、マスメディアの報道との関係でよく問題になってきたところでございます。これにつきましては、新聞、放送、雑誌の関係者の方々が集まって議論する場である「マスコミ倫理懇談会全国協議会」がございます。私は、そちらで、メディア判例の最も重要な類型としての名誉・プライバシー侵害をめぐる裁判例について、検討する機会がございます。また、朝日新聞社の「報道と人権委員会」等でも具体的にこの種の問題を検討してきた経緯がございます。 他方、SNS時代に入り、非常に多くのユーザーが表現の自由あるいは様々な活動の自由をインターネット上で享受する一方、違法・有害情報の流通の問題に対してどう対処するかが非常に大きな課題となってまいりました。この点、政府の検討で申しますと、電気通信事業を所管する総務省において様々な検討が行われると同時に、電気通信事業者、すなわち民間の側においても、この種の問題に対する対応としていろいろな検討が行われてまいりました。私自身は、後でお話をいたしますが、プロバイダ責任制限法を情報流通プラットフォーム対処法に改正する検討や、民間における権利侵害投稿への対応の検討などに関わってきたところでございます。 また、警察庁で運用されているインターネット・ホットラインセンターのガイドラインの検討や、法務省人権擁護局の取組との関係で必要な検討を行った商事法務研究会の「インターネット上の誹謗中傷を巡る法的問題に関する検討会」にも関わってまいりました。 本日、そうした観点から、刑事法の緻密な御議論にどこまで堪え得るのかというところはございますが、お話をさせていただきたいと思います。 (スライド4枚目) これは憲法の教科書的なお話ですが、表現の自由と「誹謗中傷」の関係についてお話をさせていただきたいと思います。 最高裁判例でも認められているところですが、表現の自由は、立憲民主政における重要な権利であり、講学上は、アメリカの判例に倣って人権カタログの中でも優越的地位が保障されるべきものだと考えられ、我が国の法制又は実務上も、表現の自由に対しては十分な配慮が図られてきたということであろうかと思います。他方、人格権は、憲法上明文で保障されていませんが、憲法第13条が個人の尊重を定め幸福追求権を保障することから、当然に保障されるべきものだといえるわけでして、判例上も、例えば、最高裁昭和61年6月11日大法廷判決の北方ジャーナル事件判決において、人格権としての名誉の保護が憲法、民法上の重要な権利として考えられているところです。 このような前提からしますと、表現の自由及び名誉又は名誉を含む人格権はいずれも重要な権利であり、本日の議論との関係では、侮辱罪又は名誉毀損罪の運用において、その両者の調整が問題になります。 この点、刑事司法の分野においては刑法第230条、第231条の緻密な解釈と運用がありますが、これを憲法の観点から見ますと、誹謗中傷等として処罰されるような表現行為は、いわゆる低価値表現という位置付けを与えられてまいりました。具体的に申しますと、刑法で伝統的に処罰の対象とされてきたようなわいせつあるいは名誉毀損などの表現は、表現の自由の濫用である、あるいは表現の自由の範囲を逸脱するものであると考えて、右上の図のように、表現の自由の保障が広くある中で、名誉毀損等に当たるとそこは言わば保障の対象から当然にくり抜かれるというイメージで、かつては議論がされてきたところがございます。 ただし、表現の自由の民主主義社会における意義に対する理解が深まった今日においては、このような考え方、つまり、法律上このような表現行為は処罰に値するのだ、処罰するのが当然なのだ、憲法上保障されていないのだということを前提に議論をすると、言わば法律で憲法上の表現の自由の範囲を決めるということになってしまうのではないかと考えられます。言い換えますと、本来憲法の観点から見て保護に値する表現が、法律によって規制の対象とされてしまう可能性があるのではないかと考えられるようになってまいりました。つまり、法律及びその解釈において規制の対象とすべきであると考えられる表現の中にも、憲法的な観点から考えると憲法上保護に値する表現が含まれている可能性があることを前提に、どう議論を組み立てるかということになるわけです。このことを示しているのが右下の図です。黒丸が幾つかありますが、一番上の方にある、表現の自由の保障がそもそも一見して及びそうもないというものから、真ん中の方にある、表現の自由の保障のコアに近い、憲法上の価値が高い表現までいろいろあり、この黒丸一個一個について、本当は緻密に考えていかなければいけないはずだということになるわけです。 (スライド5枚目) そこで、このような表現の自由と、保護法益、この場合でいうと名誉の保護をうまく調整しながら法律の解釈、適用を考える上では、憲法上、大きく二つの解釈手法があると考えられます。 第1は、表現を規制する法律の適用に当たって、個別の表現行為に即してその表現行為によって失われる利益、すなわち保護法益と、表現の利益とを比較衡量する方法です。例えば、純然たる私人の私的な行為に対して、非常に強い言葉で、言わば民主主義に貢献する価値もないような形でただただ侮辱する、人身攻撃をするといったものは、個別に見てみると、表現の自由として保障すべき価値は低く、他方失われる利益は大きい、したがって、これについては名誉毀損罪あるいは侮辱罪を適用しても憲法上許され、適用上合憲であるだろう。逆に、公人、すなわち公務員、政治家等の公共的な活動に対して、やや言葉が強いのかもしれないけれども、民主主義のプロセスの中であり得る政治的な応酬だったり批判の文脈の中で出てくるような表現については、表現の自由との関係では保障される価値が高く、他方で失われる利益は、例えば反論可能性があることなどによって小さいのだとか考えるとすると、個別の比較衡量で、そのような場合には処罰をすべきでない、あるいは、憲法上そのように考えられるといったように、一つ一つ個別に比較衡量をして考えるというやり方です。 このようなやり方は、個別の事案の解決における実質的な妥当性を確保するという点において優れているわけですが、反面、その時々の法適用者の判断が適正であるかどうかということに依存するところが大きいものです。憲法学者の観点からしますと、このような個別的な比較衡量、いわゆるアドホックバランシングの手法は、表現をこれから行おうとする者にとって行動の指針を十分明確に示すことができないのではないか、萎縮効果が働くといった問題がないのかといったことが懸念されます。 第2の調整の手法として考えられるのは、表現の自由と表現を規制する法律の法益等を、アドホックにではなくて、逆にあらかじめ抽象的に比較衡量して、表現を規制する法律の概念の定義ないし解釈を明確化した上で、個別の表現行為に適用するという方法です。これは第1の方法の言わば裏側でして、法適用を受ける前の表現者にとって行動の指針、予測可能性を担保するという意味では優れているものです。しかし、個別的な比較衡量の上で保護されるべき表現を過不足なく定義ないし解釈の段階で確定することは、現実に考えてみますと、困難が伴うところです。 その上で、憲法学者としては、例えば、定義付け衡量という言い方をしますが、個別的比較衡量で保護されるべき表現がこぼれ落ちないように、表現の自由に配慮して抽象的な線引きをすべきであると考えたがるわけです。しかし、そのように考えると、そのように定義をした結果として、個別的な事案において、法的な責任を追及されても仕方がないのではないかという表現行為についても、その定義から外れる結果、個別の事案の解決における実質的妥当性が揺らぐという問題があります。また、逆に、処罰の適正な範囲をあらかじめ確保すべきだということで抽象的に定めると、表現の自由の観点から見て保護されるべきものが処罰の対象になってしまうといったことが起きるのではないかという難しさを抱えるわけです。 (スライド6枚目) そこで、実務的には、刑法第230条の2に名誉毀損に関する真実性の証明の規定があり、これについては、判例上、いわゆる誤信相当性の法理、すなわち、表現者の側で摘示した事実が真実であることの証明ができなかった場合においても、確実な資料、根拠に照らして真実と誤信するに相当の理由がある場合には、法的責任を認めないという考え方が確立していると理解しております。 また、民事における、事実を摘示しない、いわゆる意見論評型の名誉毀損についても、当該意見論評の前提となる事実があると考えられる場合には、それが刑法第230条の2に相当するような判断、すなわち、前提事実が重要な部分において真実であることの証明があるのであれば、人身攻撃にわたるなどの表現としての域を超えるものでない限りは免責すべきであるといういわゆる日本型公正の論評の法理が確立していると思います。 総合して見ますと、これらは、表現者の予測可能性あるいは法適用の明確性をある程度担保しつつ、同時に具体的な事案解決における実質的な妥当性を確保する手法として機能してきていると思います。先ほど、「マスコミ倫理懇談会」のお話をしましたが、そこで見ていますと、メディアによる名誉毀損をめぐる民事訴訟においては、まず、この記事は事実摘示型の名誉毀損なのか、意見論評型の名誉毀損なのかが争われ、意見論評型である場合には前提事実とは何かが争われ、またそのとり方をめぐって、名誉毀損の責任を追及する側としない側で、それぞれが自己が有利になるように、これが前提事実であると考えられるべきだという議論をして、裁判所が判断をすることになります。そして、その前提事実あるいは摘示事実について真実性の証明があるか、真実性の証明に奏功しない場合には、表現者の側で真実を誤信する相当の理由があるか、すなわち、確実な資料、根拠を提示できるかどうか、実質的には、当該記事により損なわれる社会的評価の内容、性質、程度に相応した程度の裏付け取材がなされたと評価できるかどうかの判断によって決着がつくということが確立してきております。裁判がそのようになっていれば、逆に言いますと、メディアの側においては、それを前提に、これだけの記事を出すにはこういう裏付け取材が必要なはずだという準備をし、それができないなら報道をやめるとか表現を変えるとかいったように、裁判所の判断あるいは法適用、法解釈の在り方が現実の表現者の行動パターンに影響を与えるという関係にあります。 (スライド7枚目) 若干前提が長くなって恐縮ですが、インターネット上の誹謗中傷対策の現状について、これまで申し上げたことも踏まえてお話をさせていただければと思います。 インターネット上の誹謗中傷の現状につきましては、この検討会の第1回や本日の会議の前半のヒアリングでもいろいろお話があったかと思いますが、非常に多くのものがあり、とりわけ2020年のコロナ禍における様々な事案や世論の高まりなども考え合わせてみますと、侮辱罪の法定刑を引き上げて、インターネット上の誹謗中傷行為は許されないのだという姿勢を示したことは、後述する様々な官民の取組の中の重要な一部であり、法定刑を引き上げたことは適切であったのではないかと、まず概括的に考えております。 今申し上げたインターネット上の誹謗中傷へのその他の取組としては、先ほど申し上げた商事法務研究会の「インターネット上の誹謗中傷を巡る法的問題に関する有識者検討会」における検討がございます。これは、人権救済としての削除要請の実効性の向上を高める前提として、法的問題の整理を行ったものです。例えば、海外のSNS事業者等に削除要請に応えていただくためには、要請の対象となっているのは、日本法上、裁判になった場合にはあなたたちが責任を負うか、違法であって発信者が法的な責任を負うと言われるようなものだから削除した方がいいですよといった、言わば説得をすることになりますので、そういった説得に資するよう、民事裁判例の検討等によって日本法の運用を言語化したわけです。 (スライド8枚目) その検討結果の取りまとめの目次の概括です。特に、「1 インターネット上の投稿等の削除の判断基準」の部分が非常に分厚く、問題となる人格権、人格的利益ごとに具体的に類型化をし、その侵害が不法行為として民事責任を問われるものか、あるいは、不法行為の前の段階で人格権、人格的利益の侵害として削除の対象となるか、どのような場合であれば削除されるかといったことについて検討したものであり、この検討会でも御参考になる部分があるのではないかと思っております。 (スライド9枚目) また、行政的な取組としては、電気通信分野を所管する総務省において、2020年9月に、「インターネット上の誹謗中傷への対応に関する政策パッケージ」という、リテラシー等を含む取組の体系を示しましたが、特にその中で重要なものとして、右上の「3.発信者情報開示に関する取組」にあるとおり、プロバイダ責任制限法における発信者情報開示命令制度の見直しが行われました。 (スライド10枚目) さらに、この度、プロバイダ責任制限法が、情報流通プラットフォーム対処法へと改正され、大規模なプラットフォーム事業者について行政規律が導入されました。これは、被害者とされる方からプラットフォーム事業者に対し、特定のSNS上の投稿について削除要請があった場合、削除対応を迅速に行う、具体的には、1週間以内に対応を判断し、削除ができないときにはその理由についても通知しなければならないとするものです。もっとも、逆に、プラットフォーム事業者が、権利侵害情報を安易に削除することになると、日本国内の表現の自由との関係で問題もありますので、運用状況の透明化を併せて求めるという行政規律が導入されたところです。 (スライド11枚目・12枚目) とりわけ重要なポイントは、情報流通プラットフォーム対処法は、大規模なプラットフォーム事業者がユーザーの投稿を削除することができる場合として、自ら策定・公表している削除基準に従う場合、あるいは、他人の権利を不当に侵害する情報の送信を防止する義務が当該事業者にあると考えられる場合といった形で定めているところ、まず、そのような透明化の規律を置いて、そして、他人の権利を不当に侵害する情報の送信を防止する義務がある場合、すなわち、情報を流通させ、又は、広告する行為が他人の権利・利益を侵害する場合とは具体的にどのような場合かを、例示としてではありますが、ガイドラインとして明確化した点です。 これが一般に、「違法情報ガイドライン」と呼ばれるものであり、本日の議論との関係では、名誉権及び名誉感情について該当の記載をお示ししております。これは、大規模なプラットフォーム事業者の方に見ていただき、納得して使っていただく必要があるものですので、例えば、名誉感情侵害で損害賠償責任を負うのはどういう場合かについての判例なども紹介をしているところです。 その他、違法・有害情報への対応ということで、違法・有害情報相談センター等の活動の基礎になるような各種のガイドラインの改訂、あるいは、セーファー・インターネット協会による誹謗中傷ホットラインの運用等も行われておりますが、これらについては時間の関係上、省略をさせていただきたいと思います。 (スライド13枚目) ここまで申し上げたことと併せて、私の考えを申し上げたいと思います。 まず、侮辱罪について、これ自体は刑罰として正義にかなって行使されるべきものでありますが、ここで申し上げたいのは、その機能についてもお考えおきいただくのがよいのではないかということです。侮辱罪の罰則が、現実には悪質性の高い事案においてのみ適用されるということは、刑罰の謙抑性という観点からも妥当なことであるだろうと思いますが、刑事司法の外側において、侮辱罪あるいは侮辱罪の解釈が、投稿者による投稿や通信事業者による削除等の行為規範としての機能を有していることも紛れもない事実であろうかと思います。なればこそ、侮辱罪の法定刑の引上げがインターネット上の誹謗中傷対策として、一つの有効性があると考えられたわけでございます。 実際にも、このような法定刑の引上げ、また、それに伴って、前回会議で事務当局から示されたインターネット上の誹謗中傷に対する法執行の事例は、それを見る通信事業者にとっては、削除などを行う正当性とインセンティブを与えるものであり、象徴的にではあるかもしれませんが、インターネット上の誹謗中傷の抑制に資するところが大きいと考えております。他方、どのような表現が侮辱罪として処罰されるのかが明確化されると同時に、その処罰範囲が適正であることも、インターネット利用者の表現の自由の観点から求められることは申すまでもないことです。 このような観点からは、インターネット上の誹謗中傷への対策としては、侮辱罪の更なる厳罰化を進めるといった刑事的な取組は御検討に値するとは思いますが、同時に、もともとその適用範囲が限られる、執行コストがかかるというところから、当然、その適用が行き届かないところがあるということは当たり前のことであり、恐らくは、行政上、民事上の取組が前提になってのことであるだろうと思います。他方で、そうした行政上の取組、民事上の取組にとって、余りにひどいものは刑事罰が最後に控えているよということが非常に重要であり、刑事的な取組が後押しするという関係にあるのだろうと思います。 したがいまして、インターネット上の誹謗中傷対策という観点から見ますと、この検討会で御議論いただく侮辱罪の法定刑引上げ後の見直しに当たっては刑事上の取組と、行政上、民事上のそれぞれの取組、また、それらの相互作用について不断に検討をされた上で、刑事司法における正義という観点から侮辱罪の役割はここである、だからこうしようということも併せて御検討いただくのがよろしいのではないかと考えております。 私からの意見陳述は以上でございます。御清聴ありがとうございました。 しろまる橋爪座長 ありがとうございました。 それでは、御質問のある方は、挙手をお願いいたします。 しろまる柴田委員 今回のお話は、刑法における一般予防の効果を正面から指摘しているものではないと思うのですが、基本的には、刑法の役割として一般予防の効果があって、刑事法の区切りで見れば、侮辱罪の法定刑を引き上げたにもかかわらず犯罪件数が減っていないということになると、一般予防効果として不十分だという判断にならざるを得ないのではないかと思ってしまうのですが、そうした考え方について先生の御意見を頂きたいと思います。 しろまる宍戸参考人 一般予防効果という言葉を使わなかったのは、私が素人だからですが、あえて申し上げますと、こういう行為はだめだよ、処罰に値するんだよという意味での一般予防と、これだけの行為をしたら違法なものとしてこれだけの処罰をされるんだよと、だからやめた方がいいよねという、悪いこととは知りながら比較衡量をして、やはりやろう、やめようといったことを考えるという二つの側面が含まれているのかなと思います。そして、これまでは、インターネット上の表現についての括弧つきの「匿名性」があることとの関係で、あるいは周りの表現者がそういう表現をいっぱいしているよねということで、言わば相場感がぶれると言いますか、そもそも自らがやっているような表現が誹謗中傷であり、したがって侮辱罪の処罰対象になるということが分かっていなかったところが、今般、法定刑が引き上げられて、法執行の事例が具体的に一定の件数出てきたことによって、人々が言わば気づき始めた段階なのだろうと思います。そして、この問題は、法令の規定がこうだから、あるいは法定刑を引き上げたからというだけではなくて、今のインターネットの構造を考えますと、事業者あるいは人権擁護機関の取組等を含めて、普及啓発や発信が必要な部分があると思います。まだそれが染み届いていないというか、まだそうした普及啓発等をやっている段階だというのが私の認識です。 その上で、それが行き届いたけれどもなお、つまり法令の規定や法定刑を知った上で比較衡量した結果、このぐらいならばもしかすると訴追されないかもしれないし、訴追されても軽いんだからやってやれとして行われる行為が多いと思われるときには、法定刑を更にもう一段引き上げるということになるんだろうと思います。そのタイミングなのかどうなのかは、こういう場で更に御議論いただくべきかと、私は問題を捉えております。 しろまる柴田委員 ありがとうございます。法定刑引上げから3年後の見直しということで今回この検討会が開催されているのですが、先生の御意見ですと、3年では経過を見る期間としては足りなくて、もうちょっと時間を置いてからでないと、結果あるいは効果を評価することができないというお立場と理解してよろしいですか。 しろまる宍戸参考人 私自身の個人的な意見としては、第1回会議での侮辱罪の事例の公表などを見て、人々がどう対応していくか、あるいは、事業者等も含めてどう取組をしていくか、そうしたことが明らかとなって初めて、法定刑のもう一段階の引上げが必要かどうかを議論するのに適切な状況がそろうのではないかな、今はちょっとまだ早いかなと思っております。ただ、これについては様々御意見があろうかと思います。 しろまる柴田委員 もう1点、この検討会は、刑事法という区切りですが、先生の最後の御意見は、法定刑の引上げが十分だったかどうかを検討するには、刑事法だけに限らずもっと多角的な評価が必要だということでよろしいんですよね。 しろまる宍戸参考人 そこは、部分と全体の相互作用みたいなところがあるだろうと思います。本来法務省でお考えになる以上のことを余り考え過ぎて、言わば刑事司法の正義という観点からの問題が抜け落ちるようだとおかしいのであって、いろいろな問題をそれぞれ所管するところで考え、その積み上げてきたものを総合してどう考えるかは、国会、内閣を含めてお考えになるべきところだろうと思います。 ただ、他方で、この検討会での御議論の影響、あるいはその前提としての侮辱罪の法定刑引上げの効果は、現実に刑事司法の外側で現れていると私は認識しています。そのことを副次的にでもお考えいただいた上で御判断、評価をされたり、必要な情報を集められるのがよろしいのではないかということです。 しろまる趙委員 処罰範囲の明確化という観点から、名誉毀損罪の刑法第230条の2の特例の話や、民事法の公正な論評の法理の御説明を頂きました。侮辱罪においては、このような処罰範囲を限定する規定が現状置かれておらず、改正法の附帯決議においても検討することということで掲げられているわけですが、憲法上価値のある言動だけれども、少し侮辱にも当たり得るような、そういうものについて処罰範囲を限定するという観点から、侮辱罪においても処罰範囲を限定する、公正な論評の法理のような考え方を当てはめるような規定を設ける必要があるかどうか、そのあたりについての先生の御意見をお聞かせいただけますでしょうか。 しろまる宍戸参考人 まず、憲法研究者の素朴な感覚としては、刑法第230条の2が名誉毀損罪についてあるように、侮辱罪についても、同条を適用し得るということが法文上明らかになっていることは望ましいことだと思います。他方で、刑法第230条の2のみでは、表現の自由と名誉の保護のバランスとしては、少なくとも憲法研究者としては、十分ではないと思うところがあり、誤信相当性の法理や公正な論評の法理といった裁判所の御解釈が更にあって、それでまあまあいい感じになっているなと捉えている部分があります。そのことに照らすと、法律で書けることと書き切れないことがあるのだろうとも思います。 第2に、判例上それが明確になるということも期待したいわけですが、民事ですと、当事者が訴訟を起こされますので、ハードケースがどんどん生じ、それについて裁判所が判断し、判例の運用が明確化されてくる、その意味でメディアは安心して行動するといったことがあったわけです。他方、刑事では、検察官が、適用されるかどうかの判断が難しいハードケースを好んで取り上げて、判例を作るために訴追することは、刑罰の謙抑性の観点から見て、考えにくいと思います。逆に言うと、裁判所において判例法理を明確に打ち出すことも非常に難しい、刑事司法の枠内ではそういう事案が上がってこないというところがあるわけです。 そうだとすると、例えば、こうした検討の場などにおいて、民事における名誉毀損又は意見論評型の名誉毀損に関する判例を、刑事においても参照できるところは採用していくといった相場感が、広く法曹、あるいは事業者も含めた官民の間で形成されてくることが最も大事ではないかと私は思っております。 しろまる趙委員 日頃刑事弁護をする側から見て思ったこととして、刑事でなかなかそういう事例が裁判所に上がってこない一つの要因として、もちろん捜査機関がそうしたぎりぎりの事案を訴追しないということはあるとは思いますが、一方で、問われる刑罰が罰金ということになると、問われた側としても、払って終わりにしてしまうことで、司法の場に出てこないということも一方であるのかなと思いました。 もう1点、確認なのですが、スライドの13枚目の最後のところに、「刑事的な取組は、適用範囲の限定性や執行コストから行政・民事上の取組を前提にする」と書かれているものの、その下に「報告したような行政・民事上の取組を、刑事的な取組は後押しする」と書かれており、これが、読み方によっては、刑事的な取組を率先すれば、それが行政・民事上の取組をより後押しするかのようにも読めなくもないんですが、そういう意味ではないということでいいのでしょうか。 しろまる宍戸参考人 先生がお見通しのとおり、両者の記載を併せてという趣旨です。 しろまる嶋矢委員 令和4年の法定刑の引上げについて、民事、行政との関係性なども踏まえて妥当な機能を営むものではないかという御説明は、大変参考になりました。表現の自由と法定刑の改正という観点からお伺いさせていただきたいのですが、表現の自由との関係では、どのような行為が処罰されるのかは特に重要になってくると思われるところですけれども、さらに、どの程度の刑が規定されるかも、表現の自由との関係では重要な考慮すべき要素だということになってまいりますでしょうか。 しろまる宍戸参考人 そこは考え方の筋道が何パターンかあると思いますが、結論において、先生御指摘のとおりだと思います。 例えば、一つのやり方として、表現の自由は、どのような行為が法的な責任を負う違法な行為であるかという点に関わるもので、法定刑が重過ぎるかというのは罪刑の均衡の問題、憲法の条文で言うと第31条又は第36条の問題だと考える筋道もあろうかと思います。古い判例ですが、最高裁昭和49年11月6日大法廷判決のいわゆる猿払事件の筋立てからすると、そのような議論のやり方もあり得るところでございます。 他方で、その事件と同じ国家公務員法上の政治的行為の禁止及び処罰に関する平成24年12月7日の二つの最高裁判決においては、これは法定刑の重さそれ自体を正面から取り上げているわけではありませんが、禁止と処罰を一体として捉えて、それが比例原則の観点から見て憲法第21条との関係で許容される、されないという議論をしているという観点から見ますと、比例原則の中で、法定刑が厳しいか、緩やかかも一つの考慮要素になり得るのだろうと思います。 更に実質的に申しますと、現在の表現の自由の保障をめぐる議論は、当該規制に伴う正当な表現に対する萎縮効果の問題を考慮するわけです。そのときに、法定刑が科料なのか罰金なのか、一定の身体の拘束まであり得るのか、そういうことは考えにくいですけれども死刑まであり得るのかというのは、萎縮に実質的に大きな影響を与えるだろうと思います。他方で、萎縮という観点から見ますと、例えば、法定刑が3年から4年に引き上げられることがそんなに萎縮に大きな影響があるのかといった議論にもなってきます。 したがいまして、表現の自由との関係で法定刑の厳緩は影響があるだろうと思いますが、同時にそれが決定打になるのかは、むしろ、何を禁止されるのか、表現行為の制限として示されるのかということとの相関で決まってくるのだろうと思っております。 しろまる橋爪座長 ほかはいかがでしょうか。 質問がないようですので、これで終了とさせていただきます。 宍戸先生におかれましては、御多用のところ、ヒアリングにお越しいただきまして、また貴重なお話を頂きまして、誠にありがとうございました。本日お話しいただいた内容につきましては、今後の検討にぜひ活用してまいりたいと存じます。 本日予定しておりました議事につきましては、これで終了いたしました。 本日の会議の議事につきましては、原則としては、発言者名を明らかにした議事録を作成するとともに、説明資料等につきましても公表することにさせていただきたいと存じます。もっとも、ヒアリングの際、上沼様の御発言や資料のうち、プライバシー等に関わる部分については非公表としてもらいたい旨の御要望がございました。また、それ以外の部分につきましても、御発言内容を改めて確認した上で、プライバシー保護等の観点から非公表とすべき発言等がある場合には、該当部分を非公表としたいと考えております。その具体的な範囲や議事録の記載方法につきましては、発言者との調整もございますので、座長である私に御一任いただけますでしょうか。 (一同異議なし) ありがとうございます。それでは、そのようにさせていただきます。 本日の会議はここまでといたします。 次回の予定につきまして、事務当局の方から御説明をお願いいたします。 しろまる猪股参事官 次回の第3回会議は、令和7年11月4日火曜日午前9時15分を予定しており、本日に引き続き、ヒアリングを実施する予定です。詳細につきましては、別途御案内いたします。 しろまる橋爪座長 本日はこれにて閉会といたします。どうもありがとうございました。 -了-

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