おんちゃんが教えてくれたこと
埼玉県 草加市立草加中学校 3年
齋田 凜奈(さいた りんな)
私には、障害者の叔父がいます。私が小学6年生の時まで、一緒に住んでいま
した。私の母の兄なので、
「おんちゃん」と呼ばれています。おんちゃんは、生
まれつき言葉が話せない障害を持っています。
手話ができる訳では無く、
普段は
彼の独自のジェスチャーを使って自分の気持ちを伝えています。
私は小学校3年生の時から、祖父母の家でおんちゃんと一緒に暮らしていま
す。
おんちゃんと暮らし始めた最初の頃は、
特におんちゃんを特別扱いすること
も無く、平和な日々を過ごしていました。おんちゃんの知能は、だいたい5歳く
らいで、少しわがままなところもありますが、暴力的では無く、優しい人で、私
は大好きでした。おんちゃんは、お菓子が大好物で、また、私の兄弟がゲームを
しているところを観ることが大好きでした。
無邪気な笑顔を見ると、
心がほっこ
りしていました。
しかし、
私が小学校高学年になった頃、
おんちゃんが家族の一人であることが
急に嫌になってきました。
以前、
私とおんちゃんが外で一緒に歩いているところ
を友達に見られたことがあります。その時、私は「障害者の隣を歩きたくない。
恥ずかしい。
」と思いました。今、考えてみると、きっとその時から私の心には
障害者への差別意識があったと思います。
私達を目撃した友達は、
おんちゃんに
ついて聞いてきたりはしませんでしたが、
私はそれ以来、
おんちゃんを避けるよ
うになりました。
おんちゃんが私に何か伝えようとしても無視したり、
八つ当た
りしたり、大好きなテレビゲームも観せなくなりました。おんちゃんは、よく本
屋に行っていたので、
私が本屋に行く時は、
遭遇しないかハラハラしていました。
私が中学1年生になった時、おんちゃんが障害者用の施設に入ることが決ま
りました。それまでは、祖父と祖母が身のまわりの世話をしていたのですが、二
人共もう80歳を超えて、体力的に世話が難しくなったからです。私は内心、お
んちゃんと離れることが嬉しかったです。
友達には、
おんちゃんのことは内緒に
していた訳ではありませんでしたが、何となく知られたく無い気持ちがあって
黙っていました。
第 42 回全国中学生人権作文コンテスト
法務大臣政務官 賞
おんちゃんがいない生活にすっかり慣れた、
中学2年生の春休み。
おんちゃん
のいる施設から連絡が来ました。最近、食欲が無く、一日に一食も食べ物を食べ
ていないというのです。
すぐに病院に行って色々な検査をしました。
おんちゃん
は、末期のぼうこうガンでした。家族全員、衝撃を受けました。余命は1ヶ月か
ら2ヶ月と診断されました。
入院する病院を探す間、
少しの間おんちゃんは家で
過ごすことになりました。
私が目にしたおんちゃんは、
本当につらそうでした。
想像以上でした。一日中、嘔吐をして、食べても全て吐いてしまいました。どん
な言葉をかければよいのか分からず、私はまたおんちゃんから逃げました。
入院する病院が決まって、入院する2、3日前のこと。その日、私は友達と遅
くまで遊んで、いつもより遅い時間に帰宅しました。手を洗って、私が少しくつ
ろいでいた時、母が私に言いました。
「おんちゃんが、あなたがいつも着ている洋服を指差して、
『まだ帰ってこな
いの?』って心配してたんだよ。ずっと待ってたの。」その瞬間、
私は涙があふれそうになりました。
私はおんちゃんにひどいことを
たくさんしたのに、
おんちゃんは、
私のことをこんなにも想ってくれていたので
す。嬉しい、ごめんなさい、ありがとう。言葉にならない感情でいっぱいになり
ました。
その後、
おんちゃんの入院生活が始まりました。
日に日に弱々しくなっていく
姿を見るのは悲しかったですが、
私は逃げませんでした。
1週間に1回はお見舞
いに行き、優しい言葉をかけ、おんちゃんの手を握りました。彼が私にしてくれ
たように。
余命宣告を受けた2ヶ月後の、ある日の夜。おんちゃんは、息を引き取りまし
た。亡くなった顔は、とても穏やかで、微笑んでいる様にも見えました。苦しま
ずに逝けたのかなという気持ちと、おんちゃんがいなくなった悲しみが一気に
あふれ出して、
私は泣きました。
いつも冷たい態度をとって本当にごめんなさい。
私は、おんちゃんが大好きでした。
障害者だからといって、
差別をすることは絶対に許されません。
障害者の方達
は、
私達と同じひとりの人間です。
私も少し前までは、
差別をするひとりでした。
でも、おんちゃんが私に教えてくれました。見た目や能力が違っていても、人は
皆「心」を持っていて、平等なのだということ。その違いを互いに認め合い、尊
重し、
手と手を取り合えたのなら、
きっとこの世界に差別は無くなると思います。
人と違うことは当たり前で、決して悪いことでは無いのです。私は、おんちゃん
のように優しい人になりたいです。