相手と自分、両者を守る
兵庫県 加西市立泉中学校 3年
小篠 誌織(おざさ しおり)
「じゃあ、本当のお母さんじゃないってことなの。
」私が、私自身のことに
ついて友達に伝えると、大抵、このような言葉が一番初めに返ってきます。
その度に、私は体の熱が一気に冷めるような気持ちになります。
養子縁組という言葉は、多くの人が聞いたことがあると思います。養子縁
組とは、血縁関係のない人の間に法的に親子関係を持つことです。婿養子な
どという言葉なら、聞いたことがあるはずです。私は、普通養子縁組ではな
く「特別養子縁組」という制度で、産まれてすぐに今の両親に迎えられまし
た。特別養子縁組は、産みの親との法的な親子関係を解消し、新しい両親と
戸籍上、実の親子関係を結ぶことです。
私を産んでくれた母は体が弱く、シングルマザーでもあったようです。私
を育てたくても、育てられる状況ではありませんでした。私がまだ幼い頃、
母からそのことを聞きました。当時の私はそれほど深く理解しておらず、
「私
にはお母さんが二人いるんだな」というような軽い解釈をしていました。
私が小学校3年生の頃でしょうか。私は友達に初めてそのことを伝えまし
た。すると友達は、
「じゃあ、今のお母さんは本当のお母さんじゃないの」と
言うのです。私は頭の中が真っ白になり、上手く答えられなかったのを覚え
ています。また別の子には「産んでくれたお母さんに捨てられた」という言
葉を受けました。そのとき、私はショックを受けました。今となっては、相手
に悪気はなく、
深く考えて言った言葉ではないことは分かりますが、
当時は、
「なんで養子に出されたんだろう。私はいらない子だったのかな」と深く悩
み、悲しく苦しい気持ちでした。
それから何日か経ち、私は母に特別養子縁組について尋ねました。そこで
初めて、私を養子に出したのは、産んでくれた母が、私にできる精一杯の愛
だったと分かりました。幸せな環境で育ってほしいという、母の想いだった
のです。それを知って、気持ちが楽になるのと同時に、考えが大きく変わり
ました。
第 42 回全国中学生人権作文コンテスト
内閣総理大臣 賞
母と、産んでくれたもう一人の母。どちらも私にとっての「本当のお母さ
ん」であり、私を想ってくれる大切な存在です。
今、
私は小学校からずっと一緒にいる友達には、
そのことを伝えています。
全員が理解してくれていて、今では、共に遊び学べる仲間です。一方で、中学
校になって新しくできた友達には、このことを言うことができていません。
一度話をしかけたとき、やはり、
「本当のお母さんじゃないんだ」と言われ、
その瞬間に上手く答えることができませんでした。
そんなとき、私を支えてくれた言葉が「無理に言わなくてもいい」という
ものでした。すべてを今言う必要はなく、自分が傷つかないよう心を守る手
段として、
「言わない選択」があるのです。自分自身に強制するのではなく、
本当に伝えたい、
と思ったタイミングで、
上手く伝えられなくてもいいから、
少しずつ理解してもらえるように努力していくのです。
私は、小さい頃からずっと、特別養子縁組というものが、どういうものな
のか考えてきました。私には母が二人いる。母も、私を産んでくれた母も、本
当のお母さんで、私を愛してくれています。特別養子縁組というものにとて
も悩むこともありました。
しかし、
今では私にとっての誇りでもあるのです。
私には、私を大切にしてくれる二人の母がいるのですから。
「人権を守る」これは、相手の人権を守ること。そして、自分自身の人権を
守ることでもあるのではないでしょうか。相手のことを知って、色々な方向
から見て、自分で考えて理解する。これが、相手の人権を守ることだと考え
ます。そして、自分自身について伝え、時には無理に言わずに、タイミングを
計ったり、相手に少しでも自分について理解してもらえるように自分なりに
努める。これが、自分自身の人権を守ることです。
私は、相手と自分、両方を守れる人間になりたいです。人は、平面的な存在
ではありません。必ず立体であり、それが球体であるか、立方体であるか、角
錐であるか、または円柱か八面体か、人それぞれです。それらを人が勝手に
決めつけたり、一方の面から平面的に捉えることが、相手を傷つけることに
つながるのだと思います。だから、相手を守るには、様々な方向から見て形
を捉え、理解する必要があるのだと思います。また、自分自身の形を理解し
て、相手にも理解してもらえるように工夫することが、自分自身を守ること
につながるのではないでしょうか。
相手と自分を守るために、私は一歩を踏み出しました。私の一歩が、誰か
の一歩につながることを信じています。