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2024年1月23日
法務大臣 小 泉 龍 司 殿
関東交通犯罪遺族の会(通称:あいの会)
代表理事 小 沢 樹 里
要望書
私どもは一般社団法人関東交通犯罪遺族の会(通称:あいの会)です。交通
事故により大切な家族を亡くしました。
現在の自動車運転死傷行為等処罰法において、過失運転致死傷罪と危険運転
致死傷罪の間には、法定刑、とりわけ刑の上限に大きな開きがあります。
また、本来危険運転致死傷罪の構成要件に該当すると思えるような事案であ
っても、事案が矮小化され、同罪に該当しないとして検察官が過失運転致死罪
で起訴したり、あるいは危険運転致死罪で起訴しても裁判所が過失運転致死罪
に認定落ちして判決を下したりするケースが多々見られます。そこで、以下の
ように要望させて頂きます。
1 要望の趣旨
(1) 過失運転致死傷罪の法定刑を引き上げてください。
(2) 重大な危険且つ悪質な事案について取りこぼしがないよう危険運転致死
傷罪の構成要件を今よりも広く、且つ分かり易く改正してください。
(3) 制御困難高速度類型(法2条2号)の事案に対し、直線道路であるからと
いって一律に起訴をためらったり、起訴して高裁で敗訴したりしても、
安易に上告を断念したりしないでください。
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2 要望の理由
(1)について
亀岡暴走無免許居眠り事故(2012 年)、職業ドライバーによる関越自動車
道バス事故(2012 年)、軽井沢スキーバス転落事故(2016 年)など、現在の
法律では危険運転致死傷罪に該当はしないものの、重大な危険性があり、且
つ悪質で、多数の死傷者が出る事案があります。
これらの悲惨な事案であっても、法律上は、危険運転致死傷罪に該当しな
い以上、過失運転致死傷罪の最大7年でしか裁くことができません。
しかし、これらの事案が持つ危険性や悪質性は、危険運転致死傷罪と何ら
変わりがありません。ですので、できれば、危険運転致死傷罪で裁くことが
できるよう法改正をすべきですが、ただ、今すぐに改正に至ることが難しい
としても、これをこのまま放置しておくことは司法への信頼を失わせること
になります。
さらに、これらの事案は、危険性や悪質性が高いというだけでなく、多数
の被害者が深刻な身体的苦痛や精神的苦痛を負っているのですから、結果も
重大で、その後の生活において大きな困難に直面しています。
にも関わらず、最大で7年の刑期でしか裁くことができないという現在の
法律は、国民の規範意識とかけ離れています。
私たちの社会では交通事故が発生することは避けられませんが、運転者の
重大な過失による事故を減少させるためには、
法的な抑止力が欠かせません。
交通事故ゼロを目指すためには、軽微な過失事犯から重大な過失犯まで、全
てのケースに対して適切な刑罰が与えられることが重要です。刑罰の重さが
高まれば、運転者はより慎重かつ責任ある運転を心がけると思います。その
結果、交通ルールの順守と安全運転が促進され、交通事故の減少につながる
ことが期待されます。
よって、被害者の権利の保護、抑止力を高め交通事故ゼロを目指すため、
要望書の趣旨(1)のとおり、要望します。
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(2)について
危険運転致死傷罪については、構成要件と現実の乖離が明らかになってき
ました。同罪での起訴は本当に難しいと思います。本来であればもっと簡単
に捜査ができ、他方、法律を守る私たちも容易に理解できるような書きぶり
すべきです。
例えば、
同罪に当たるかどうかについて、
アルコールの影響による類型(法2条1号)では、飲酒検知の数値だけで一律に、制限困難が高速度類型(法2
条2号)では、制限速度の倍の速度で走行しただけで一律に、殊更赤無視の類
型(法2条7号)では、故意に赤信号で交差点に入っただけで、同罪が成立す
るよう、構成要件を誰でもわかるように単純化すべきです。また、これが罪
刑法定主義に最も沿うものです。
そうでなければ、非常に捜査が長期にわたり、その間、多くの遺族が苦し
み続けることになります。
平成13年に危険運転致死傷罪が作られたときの命の重みを改めて考える
時がきていると思います。
よって、要望書の趣旨(2)のとおり、要望します。
(3)について
制御困難な高速度類型(法2条2号)については、現在の東京高裁及び名古
屋高裁の裁判例では、直線道路である限り、一般道であっても、仮に時速1
20km以上を出していても、さらに極端に言えば、時速300km以上を出し
ていても、衝突の瞬間までに車線に沿って走行していれば制御できていたと
して、危険運転致死傷罪に当たらないとされています。あまりも非常識な判
断ではないでしょうか。
そもそも高速度による事故というものは制御できていないから事故を起こ
します。それまで車線に沿って走行していても、あまりにも高速度のため、
通常の人であっても直ちに危険を認知したり、判断したり、咄嗟に急制動を
かけたりすることが非常に難しく、そのため制御困難になって事故を起こす
のです。法文も、単に「制御困難」としか書かれておらず、上記高裁が示唆
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するように、カーブやアップダウンなど路面の状況、道路状況、車の性能に
照らし車線を逸脱するような速度と限定的には書かれてありません。
直線道路における同類型の危険運転致死傷罪については、高裁の判断が示
されているだけで、最高裁の判断が示されたことがありません。理由は、裁
判所に責任があるのではなく、高裁の敗訴判決で諦めてしまい最高裁まで上
告しない検察官に責任があります。
よって、最高裁において常識的な判断を出してもらえるよう、直線道路で
あっても起訴し、高裁で敗訴しても最高裁まで上告してくれるよう指導して
頂きたく、要望の趣旨(3)のとおり、要望します。

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