52 人権の擁護
経済社会理事会
(各種機能委員会等
(社会開発委員会等))国連人権諸条約の
委員会
人権理事会
(各種作業部会、
各種特別手続等)
国連人権
高等弁務官
事務所
(事務局)
くろまる諮問委員会
本会議
国連総会
第3委員会
(社会開発・人権)
5.国際社会における人権擁護
「すべての者のために人権及
び基本的自由を尊重するよう
に助長奨励すること」は、国
際連合(国連)の重要な目的
の一つであり、国連では、
様々な枠組みを設けて、人権
の保障に取り組んできました。
冷戦が終結し、グローバル化
が進む現在、改めて、人権の
尊重が平和の基盤であるとい
うことが、世界の共通認識となっており、国際社会全体で人権問題に
取り組もうとする機運が高まってきています。
昭和20年(1945年)に発足した国連は、約70年の歳月を経て、
世界の190か国以上が加盟する大きな国際機関となりました。
国連には、人権の擁護・促進のための様々な機関が設置されており、
国際社会における人権保障の枠組みの中で大きな役割を担っています。
国際連合❶ 人権の擁護 531345
世界人権宣言は、基本的人権尊重の原則を定めたものであり、初めて
人権保障の目標や基準を国際的にうたった画期的なものです。これに
より、世界の人権を守る動きは大きく進んでいます。
世界人権宣言❷ 国連を作ろうという考えは、第二次世界大戦の惨禍の中で生まれました。そし
て、昭和20年(1945年)10月24日に51か国の加盟国により、
「国際の平和
及び安全を維持...人種、性、言語又は宗教による差別なくすべての者のために
人権及び基本的自由を尊重するように助長奨励する」
(国連憲章第1条)こと等
を目的として国連が発足し、令和5年(2023年)3月現在では193か国が国
連に加盟しています。国連には、経済、社会、文化等の特定の分野で活動する
様々な機関がありますが、人権の分野においても、人権関係条約等が定める人権
の保障を確保するための機関が設置されています。平成18年(2006年)3月
には、国連が世界の人権問題により効果的に対処するために、経済社会理事会の
下部組織であったそれまでの人権委員会に代わって、人権理事会が設立されまし
た。これに伴い、全国連加盟国の人権状況を普遍的に審査する枠組みとして、
「UPR(普遍的・定期的レビュー)
」が制度化されました。
20世紀には、世界を巻き込んだ戦争が二度も起こり、特に第二次世界大戦中
においては、特定の人種の迫害、大量虐殺等、人権の侵害や抑圧が横行しまし
た。かつては、人権問題はそれぞれの国の国内問題と考えられていましたが、こ
のような経験から、人権問題は国際社会全体に関わる問題であり、人権の保障が
世界平和の基礎であるという考え方が主流になってきました。
そこで、昭和23年(1948年)12月10日、国連第3回総会において、
「すべ
ての人民とすべての国とが達成すべき共通の基準」として、
「世界人権宣言」が
採択されました。世界人権宣言は、すべての人々が持っている市民的、政治的、
経済的、文化的分野にわたる多くの権利を内容とし、前文と30の条文から成っ
ています。
国連は、世界人権宣言が採択された12月10日を「人権
デー(Human Rights Day)」と定めています。また、法
務省の人権擁護機関では、毎年12月4日から同月10日の1
週間を「人権週間」と定めています(47ページ参照)。
さん か2特集 人権擁護に関する世論調査
54 人権の擁護
「ビジネスと人権」
に関する我が国の取組
資料
企業活動のグローバル化が進む中、
投資家、
市民社会、
消費者等において、企業に対して人権尊重を求める意識が高まっています。
平成23年
(2011年)
の第
17回国連人権理事会においては、
人権を保護する国家の義務や人権を尊重する
企業の責任、
ビジネス関連の人権侵害に関する救済へのアクセスについての原則
を示した
「ビジネスと人権に関する指導原則:国連
「保護、
尊重及び救済」
枠組み
の実施」が全会一致で支持されました。また、企業が「持続可能な開発目標
(SDGs
(Sustainable Development Goals))」
に取り組む上で、
人権を尊重
した行動をとることを求められています。
このような
「ビジネスと人権」
に対する国内外の関心の高まりを受けて、
政府
は、
企業活動に関連する我が国の法制度や施策等の現状把握、
経済界や労働界
等との議論やパブリックコメント等を経て、
令和2年10月に「『ビジネスと人権』
に関する行動計画」
を策定しました。
行動計画では、
企業活動における人権尊重の促進を図るため、
今後政府が取り
組む施策が記載されているほか、
企業に対し、
人権デュー・ディ
リジェンス
(企業活動における人権への影響の特定、
予防・軽
減、
対処、
情報提供を行うこと)
導入への期待が表明されてい
ます。
また、
行動計画の周知、
人権デュー・ディリジェンスに関
する啓発については、
全府省庁で実施していくこととされてい
ます。
パンフレット
「世界人権宣言70周年」
世界人権宣言啓発書画
この書画は、
書道家小木太法さんとブラジルの画家オタビオ・ロスさん
が世界人権宣言に示された人類の英知に感動し、
その感動を芸術的に
表現しようとしたものです。
こ ぎ たい ほう
人権の擁護 55
法務省の人権擁護機関においても、
企業関係者等を対象に、
行動計画に基づく
企業行動が国際社会を含む社会全体の人権の保護・促進に貢献し、
企業価値の
向上に寄与することへの理解を促進するとともに、
人権的視点に立った企業活動
を促すため、
各種取組を実施しています。
令和4年度には、
企業等を対象とした
人権研修用の動画として
「今企業に求められる
『ビジネスと人権』
への対応」
を作
成しました。
また、
令和3年度に開設した特設サイト
「Myじんけん宣言」
につい
ても、
インターネット動画広告等による周知を行い、
企業等に参加を呼び掛けて
います(「Myじんけん宣言」
とは、
企業・団体及び個人が、
人権を尊重する行動
をとることを宣言する投稿型コンテンツです。
特設サイトでは、
400を超える企
業等の方々が、
自らの人権尊重に対する決意等を
「Myじんけん宣言」
として表明
しています。)。さらに、
企業等が自ら研修を実施するための啓発資料
「今企業に
求められる
『ビジネスと人権』
への対応」
を公表しているほか、
全国の法務局・地
方法務局において、
企業等からの要望に応じて、
法務局職員や人権擁護委員を派
遣して人権研修を実施したり、
企業内で問題となることの多い人権課題をテーマ
とした啓発教材
「企業と人権〜職場からつくる人権尊重社会」
の冊子の配布や動
画の配信を行ったりするなど、
「ビジネスと人権」
に取り組む企業等を支援する
取組を実施しています。
詳しくは、
お近くの法務局・地方法務局又はその支局にお
尋ねください。1345
「今企業に求められる
『ビジネスと人権』
への対応」
(冊子・動画)
「My じんけん宣言」
特設サイト2特集 人権擁護に関する世論調査
56 人権の擁護
A規約は、労働の権利、社会保障についての権利、教育及び文化活動に関する
権利等のいわゆる社会権を主として規定したものです。
社会権とは、人権の保障を名実共に充実したものとするためには、国家が個人
の生活の保障に一定程度の責任を果たすべきであるという認識に立って、国の施
策により個人に認められている権利です。
我が国は、昭和54年(1979年)6月に、この規約を批准しました。
世界人権宣言で規定された権利に法的な拘束力を持たせるため、ニつ
の国際人権規約が採択され、その後も個別の人権保障のための条約と
して様々な条約が採択されています。これらの条約が保障する権利の
内容を周知し、理解を深めていくことが一人一人の人権を守ることに
つながります。
主要な人権関係条約❸ 世界人権宣言が採択された後、この宣言で規定された権利に法的な拘束力を持
たせるため、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」と「市民的及
び政治的権利に関する国際規約」の二つの国際人権規約が起草され、昭和41年
(1966年)の国連総会において全会一致で採択されました。
この二つの国際人権規約は、最も基本的かつ包括的な条約として人権保障のた
めの国際的基準となっています。これに加え、人権に関連する諸条約としては、
人種差別撤廃条約、女子差別撤廃条約、拷問等禁止条約、児童の権利条約、強制
失踪条約、障害者権利条約等があります。また、地域的な人権条約としては、欧
州人権条約、米州人権条約、アフリカ人権憲章等があります。
近年、人権擁護のための世界の取組は盛んになっており、我が国も、国際的に
重要な役割を果たすことが期待されています。
経済的、
社会的及び文化的権利に関する国際規約
(A規約)
人権の擁護 57
B規約は、人は生まれながらにして自由であるという基本的考えの下、個人の
生活を公権力の干渉や妨害から保護するという観点に立った権利、つまり自由権
的権利を中心に規定しています。
具体的には、表現の自由、移動の自由、身体の自由、宗教の自由、集会・結社
の自由に加え、参政権が規定されています。締約国は、全ての個人に対して、い
かなる差別もなしにこれらの権利が尊重され、確保されることを義務として負っ
ています。
我が国は、昭和54年
(1979年)
6月に、
A規約と共にこの規約を批准しました。
市民的及び政治的権利に関する国際規約
(B規約)
人種、民族に対する差別は依然として存在し、このような差別を撤廃するため
には、各国に対し、差別を撤廃するための具体的な措置の履行を義務付ける国際
文書を作成することが必要とされ、昭和40年(1965年)の国連総会におい
て、この条約が採択されました。
人種差別撤廃条約は、締約国が人権及び基本的自由の十分かつ平等な享有を確
保するため、あらゆる人種間の理解を促進する政策を全ての適当な方法により遅
滞なく実施すること等を内容としています。
我が国は、平成7年(1995年)12月に、この条約に加入しました。
あらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約
(人種差別撤廃条約)
全ての人間は、そもそも生まれながらに自由かつ平等であることから、男女も
個人として等しく尊重されるべきであるとの基本的理念を実現すべく、昭和54
年(1979年)の国連総会において、この条約が採択されました。
女性であるとの理由のみによって生き方を制約されることなく、個人として男
性と平等な権利・機会・責任を享受できる、完全な男女平等
を実現することを目的として、遅滞なく措置をとることが、
締約国には求められています。
我が国は、昭和60年(1985年)6月に、この条約を批
准しました。
女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約
(女子差別撤廃条約)13452特集 人権擁護に関する世論調査
58 人権の擁護
世界には、貧しさや飢え、戦争等で苦しんでいるこど
もたちがたくさんいます。そのような現実を踏まえ、こ
どもの人権や自由を尊重し、こどもに対する保護と援助
を進めることを目指して、平成元年(1989年)の国連
総会においてこの条約が採択されました。この条約は、
18歳未満の全ての人の基本的人権の尊重を促進すること
を目的としています。
我が国は、平成6年(1994年)4月
に、この条約を批准しました。
児童の権利に関する条約
(児童の権利条約)
拉致を含む強制失踪が犯罪として処罰されるべきものであることを国際社会
において確認するとともに、将来にわたって同様の犯罪が繰り返されることを
抑止する意義を持つこの条約は、平成18年(2006年)に国連総会で採択され
ました。拉致を含む強制失踪を犯罪として定め、その処罰の枠
組みの確保及び予防に向け締約国がとるべき措置等について規
定するものです。
我が国は、平成21年(2009年)7月に、この条約を批准
しました。
強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約
(強制失踪条約)
拷問の禁止については、世界人権宣言及びB規約等において既に規定されてい
ました。しかし、1970年代に、一部の国の軍事独裁政権による拷問と見られる
行為に対し国際的な非難が高まったことを背景に、拷問を実効的に禁止する新た
な国際文書を作成する必要性が強く認識されるようになり、昭和59年(1984
年)の国連総会において、この条約が採択されました。本条約は「拷問」を公務
員等が情報収集等のために身体的、精神的な重い苦痛を故意に与える行為と定義
し、各締約国が拷問を刑法上の犯罪とするとともに、そのような犯罪人の引渡し
等について規定しています。
我が国は、平成11年(1999年)6月に、この条約に加入しました。
拷問及び他の残虐な、
非人道的な又は品位を傷つける
取扱い又は刑罰に関する条約
(拷問等禁止条約)
パンフレット
「よくわかる!こどもの権利条約」
人権の擁護 59
(写真提供 UN/DPI)
名 称
採択年月日
(上)
発効年月日
(下)
締結国・地域・機関数1経済的、社会的及び文化的権
利に関する国際規約
1966年12月16日
1976. 1. 32市民的及び政治的権利に関す
る国際規約
1966年12月16日
1976. 3.233あらゆる形態の人種差別の撤
廃に関する国際条約
1965年12月21日
1969. 1. 44女子に対するあらゆる形態の
差別の撤廃に関する条約
1979年12月18日
1981. 9. 35拷問及び他の残虐な、非人道
的な又は品位を傷つける取扱
い又は刑罰に関する条約
1984年12月10日
1987. 6.26
6 児童の権利に関する条約
1989年11月20日
1990. 9. 27強制失踪からのすべての者の
保護に関する国際条約
2006年12月20日
2010年12月23日
ニューヨークの国連本部で
「経済的、社会的及び文化的
権利に関する国際規約(A規約)」
に調印する園田外務大臣
[昭和53年(1978年)当時]
障害者の権利に関する条約 2006年12月13日
2008. 5. 38172(2021年8月現在)
173(2020年10月現在)
182(2020年10月現在)
189(2020年10月現在)
171(2020年10月現在)
196(2021年11月現在)
71(2023年7月現在)
185(2022年6月現在)
障害者の権利に関する条約
(障害者権利条約) 1345 依然として障害のある人が人権侵害に直面している状況を改善するため、法
的拘束力を有する新たな文書を作成する必要性が強く認識されるようになり、
平成18年(2006年)の国連総会においてこの条約が採択されました。
この条約は、障害のある人の人権・基本的自由の享有の確保等を目的とし、
障害に基づくあらゆる差別の禁止や、障害のある人の社会への参加・包容の促
進、条約実施の監視枠組みの設置等の、障害のある人の権利実現のために締約
国がとるべき措置等について規定しています。
我が国は、平成26年(2014年)1月に、この条約を批准しました。
我が国が締結している主要な人権関係条約
資料2特集 人権擁護に関する世論調査

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