1担保法制部会資料 33
担保法制の見直しに関する要綱案のとりまとめに向けた検討(5)
目次
第1 個別動産の利用権を担保の目的とする契約についての取扱い ...................................2
第2 普通預金を目的とする担保 .......................................................................................45第3 譲渡担保権の目的財産の設定者による処分権限について ..........................................4
第4 約定動産担保権と他の動産担保権との競合 ...............................................................7
1 約定動産担保権と先取特権との競合.............................................................................7
2 動産譲渡担保権等と他の約定動産担保権との競合 ........................................................9
3 牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権等の取扱い.....................................1010第5 動産譲渡登記における動産の特定方法等.................................................................14
第6 労働債権を有する者その他の一般債権者を保護するための規律..............................15 2第1 個別動産の利用権を担保の目的とする契約についての取扱い
1 ファイナンス・リース契約について、その定義や実体的効力等についての独自の規律は
設けないものとする。
2 動産の利用権の対価の支払債務を担保するため、当該利用権に担保権を設定する場合に
関する次のような規律を設けることについて、どのように考えるか。5(1) 利用権を目的とする譲渡担保権が設定された場合において、その被担保債権が、担保
権設定者が担保権者からその利用権を取得するための対価の支払義務に係る債権である
ときは、その担保権の設定は、民法第 467 条の規定に従った通知及び承諾がなくても、
第三者に対抗することができるものとする。
(2) (1)の譲渡担保権の私的実行においては、目的である利用権の評価額は、帰属清算の通10知等【又は第三者への処分】の時の目的動産の価額から利用期間が満了した時の当該目
的動産の見積価額を控除した額と推定する。
(3) (1)の契約について、所有権留保契約における倒産開始申立特約の効力に関する規律を
適用する。
(4) 当事者の一方が、その所有する動産について相手方のために一定期間(以下「利用期15間」という。
)の利用権を設定する一方、相手方は、当該動産を使用及び収益することが
できるかどうかにかかわらず、利用期間の全部に対応する利用権の対価を支払う義務を
負うこと、対価の支払の不履行があったときは、所有者は利用権を消滅させ、
(利用権の
負担の消滅による)当該動産の価格の増加をもって未払の対価の弁済に充てることが合
意された場合は、対価の支払義務を被担保債権とし、利用権を目的とする譲渡担保権が20設定されたものと推定する。
(説明)
1 ファイナンス・リース契約については、
担保目的としての性格を有することが指摘され、
判例においても、フルペイアウト方式のファイナンス・リース契約のリース料債権につき
別除権付更生債権に当たるものとの判断がされてきたところである。もっとも、ファイナ25ンス・リース契約とされる契約にも多種多様なものがあり得ることは、パブリック・コメ
ントにおいても意見として述べられている。したがって、ファイナンス・リース契約を定
義付け、ファイナンス・リース契約に適用される独自の規律を設けることは実際上困難で
ある。また、どのような取引が担保取引に該当し、どのような方法で実行するかや倒産法
上の扱いを検討するに当たっては、ファイナンス・リース契約とは何かという観点から検30討する必要はない。そこで、本文は、ファイナンス・リース契約について、定義規定を含
め、独自の規律を設けることはしないことを前提として示している。
2 他方で、動産の利用権に一定の財産的価値がある場合に、これを担保の目的として活用
することは考えられる。現行法上は、一般論として、動産の利用権を目的とする権利質権
又は譲渡担保権を設定することが可能である。このうち債権質権を利用するとすれば、利35用権が債権であると考えられることからすると、民法第 467 条に従った通知又は承諾が対
抗要件として必要であり、また、その実行は民事執行法に基づく実行手続によることとな
る。
このため、
私的実行を活用するためには、
譲渡担保権の設定によることが考えられる。
本文2では、動産の所有権ではなく動産の利用権が譲渡担保権の目的とされた場合につい
て、目的物を取得するための対価と牽連性のある担保権と同様の規定を設けようとするも40 3
のである。
なお、動産の利用権を譲渡担保権の目的とした場合でも、その利用権を行使する権限を
設定者に留保し、利用権の目的である動産を設定者が使用収益することもできると考えら
れる。
3 本文2(1)は、利用権を目的とする譲渡担保権の被担保債権が、当該利用権を取得するた5めの対価の支払義務に係る債権であるときは、民法第 467 条の規定に従った通知及び承諾
がなくても、譲渡担保権の設定を第三者に対抗することができることとするものである。
前記のとおり、動産利用権という債権を担保の目的とする譲渡担保については、民法の
債権譲渡の通知・承諾を要することになると考えられるが、被担保債権が動産の利用全体
の対価である限り、被担保債権と目的物との牽連性が強いと評価することができるから、10債務者対抗要件及び第三者対抗要件のいずれについても、通知及び承諾を不要とするもの
である。部会におけるこれまでの議論においても、動産を目的とする譲渡担保権や留保所
有権について、その代金債務等、目的物と被担保債権の牽連性がある場合には、引渡し等
特段の要件なくして対抗することができるとすることが議論された。本文2(1)はこれに対
応するものであり、動産の所有権ではなく利用権を取得した者が、その対価の支払義務を15担保するために当該利用権に担保権を設定した場合も、同様の趣旨が妥当すると考えられ
ることから、上記の規律を提案するものである。
4 本文2(2)は、利用権を目的とする譲渡担保権の私的実行について提案するものである。
権利質権ではなく譲渡担保権を利用することのメリットのひとつとして、私的実行が認め
られることが挙げられるが、私的実行の手続においては、目的となる財産権の評価がさま20ざまな段階で問題になる。しかし、動産の利用権についてはその評価が困難な場合があり
得るため、その評価額について、実行しようとする時の目的動産の価額から利用期間が満
了した時の当該目的動産の見積価額を控除した額などと推定する規律を設けることが考え
られる。
5 本文2(3)は、利用権を目的とする譲渡担保権の被担保債権が、当該利用権を取得するた25めの対価の支払義務に係る債権であるときは、設定者の再生手続開始の申立て等がされた
ことを解除事由とする特約についての取扱いについては、所有権留保契約における規律と
同様のものとすることを提案するものである。利用権者が利用権設定者のために、その利
用権を取得する対価の支払義務を被担保債権としてその利用権に担保権を設定している関
係は、所有権留保と類似しており、再生手続の申立てがされたことを解除事由とする特約30によって利用権そのものが再生債務者の財産から逸出すると再生が困難になる場合がある
ことは、上記のような譲渡担保権についても妥当するからである。
6 本文2(4)は、明示的に譲渡担保権の設定が合意されていない場合であっても、実質的に
利用権に担保権を設定したと考えられる取引について、譲渡担保権の設定を推定しようと
するものである。35契約当事者間において、当事者の一方が、その所有する動産について相手方のために一
定期間の利用権を設定する一方で、相手方は当該動産を使用及び収益することができるか
どうかにかかわらず、利用期間の全部に対応する対価を支払う義務を負うことを約し、そ
の対価の支払義務について不履行があった場合には、
動産の所有者は利用権を消滅させ(これによって、所有者が当該動産について有していた価値は、利用権の負担が消滅すること40 4
によって増加することになる)
、動産の価額の増加分をもって未払債権の弁済に充てるこ
とが合意されていた場合、実質的には、対価の支払義務を被担保債権とし、その利用権を
目的とする担保取引がされていたと解釈することができる。
そこで、
このような場合には、
譲渡担保権を設定したものと推定する規定を設けることを提案している。5第2 普通預金を目的とする担保
普通預金を目的とする担保について、特段の規定を置かないこととする。
(説明)
中間試案第 29 において問題提起していた点である。
普通預金を目的とする担保権については、その法的な取扱いが明らかになることで法的安10定性、予測可能性が確保されることは実務的に有益であるとする指摘がある。
他方で、現状においても、普通預金を目的とする担保権の設定が可能であること等につい
て大きな異論は見られないところであり、また、限定的な局面での活用(プロジェクトファ
イナンス等)に留まっていることから、規定を設けることへのニーズは必ずしも大きくない
という指摘もある。15また、普通預金口座の中には、個人の生活費決済のために用いられるものも存在し、普通
預金債権を目的とする担保権設定が可能であることが明確化されることによって担保権設定
が増えると、個人の生活への悪影響などの弊害が生じ得る。事業者の決済用口座への担保権
設定がされる場合、事業者の資金繰りに重大な影響を与え、事業継続や生活の維持等が困難
になる可能性もある。事業再生局面において、普通預金への担保設定により事業者の運転資20金の確保が困難になるおそれがあるとの指摘もある。
さらに、一般事業者の利用が増加すると、預金取扱金融機関の立場からは、犯罪による収
益の移転防止に関する法律に定める取引時確認や AML(アンチ・マネー・ローンダリング)
の観点からの預金者の実態把握に負担を生じる可能性もあるとの指摘もある。
このように、普通預金債権を目的とする担保に関する規律を明文化することについては25様々な問題点がある一方、現状において、明文化することのニーズは必ずしも大きくないと
考えられる。
そこで、本文では普通預金を目的とする担保について特段の規定を設けないことを提案し
ている。この提案に従えば、普通預金を目的とする担保の法的構成、その要件(支配の要件
を必要とするかどうか等)、その倒産手続における取扱い
(預金残高の増加が否認の対象とな30るか、倒産手続開始後の入金部分に対して担保の効力が及ぶかどうか等)等については、引
き続き解釈に委ねられることとなる。
第3 譲渡担保権の目的財産の設定者による処分権限について
譲渡担保権の目的財産についての設定者による担保目的以外の譲渡について、次のいずれ35かの規律とすることについてどのように考えるか。
【案 3.1】
(1) 設定者は、
【譲渡担保契約
(同一の財産について数個の譲渡担保権が設定されているとき
は、その全部又は一部の譲渡担保権者との間の譲渡担保契約)に別段の定めがある場合を
除き、
】譲渡担保契約の目的財産について有する権利を第三者に譲渡することができる。40 5
(2) (1)の譲渡担保契約における別段の定めによる制限は、善意で、かつ無過失の第三者に対
抗することができない。
(3) (1)の譲渡がされた場合、譲渡担保権の実行においては、原則として、当初の設定者に対
して通知及び清算金の提供等を行えば足りるものとしつつ、受戻権については譲渡を受け
た第三者についてもこれを行使することができる等の規律を設けるものとする。5【案 3.2】
設定者は、全ての譲渡担保権者の承諾を得なければ、譲渡担保権の目的財産について有す
る権利を第三者に譲渡することができないものとする。
(説明)
1 譲渡担保権の目的財産について、設定者が有する権利を第三者に譲渡することができるか10否かについては、部会資料 28 において原則無効とする案を提示し、部会資料 32 において、
譲渡担保権者に対抗することができない案を示したところである。
2(1) 【案 3.1】は、前回の部会において、第三者への譲渡につき譲渡担保権者に対抗するこ
とができないとする規律案について、このような譲渡を有効とした上で、実行手続との関
係では当初の設定者に対して実行通知や清算金の提供をすれば足りるとする制度設計が提15案されたことを踏まえたものである。
【案 3.1】は、質物について質権設定者が有する権利や抵当不動産について抵当権設定
者が有する権利と同様に、担保権の目的財産について設定者が有する権利は設定者が処分
可能であるという考え方に基づき、原則としてその処分を有効なものとして扱うものであ
る。20ただし、このような譲渡をすることが可能であるとしても、これによって譲渡担保権者
が目的物の所在場所を把握することができなくなるなるなど、担保権者にとって不利益が
生じ得ることを避けるため、譲渡担保契約において設定者による譲渡を制限する旨の定め
を設ける合意をする場合が考えられる。原則として譲渡することができる権利について、
当事者の意思表示によってその譲渡ができないものとする制度はあまり例がないことから25すると、譲渡担保権設定者による権利の譲渡を禁止する定めはあくまで債権的なものに過
ぎず、これに反する譲渡も有効であり、当事者間で期限の利益喪失の効果や債務不履行責
任が生ずるにとどまるとするのが自然である。しかし、動産譲渡担保権の目的物が動産で
ある場合に設定者の権利が譲渡されると、担保権を実行するまでに目的物の所在が移転さ
れるなどして追及効を実効的に行使することができないおそれも高い。このため、譲渡担30保権者が速やかに第三者に対して返還の請求をすることができないとすれば、譲渡担保権
者の権利が害されることになりかねない。
【案 3.1】のスミ付き括弧は、このような考慮か
ら、担保権者と設定者の合意により、設定者の権利を譲渡することができないものとする
こと(譲渡しても無効であること)を可能とするものである。複数の譲渡担保権が設定さ
れている場合には、そのうちひとつでもこの別段の定めがされている場合には、譲渡は無35効となり得ることとしている。
譲渡担保契約において上記の別段の定めが設けられている場合においても、譲渡を受け
た第三者(以下「第三取得者」という。
)が当該別段の定めがあることを知らなかった場合
等においては、第三取得者の保護を図る必要があることから、本文では、譲渡制限特約は
善意・無過失の第三取得者に対抗することができないものとしている。無過失を要求して40 6
いるのは、上記譲渡が、既に譲渡担保権が設定されている財産であることを前提とする譲
渡であり、第三取得者において譲渡制限の定めの有無について確認するなど一定の調査を
要求することとしても、大きな負担を課すとはいえないように考えられることによるもの
である。
(2) 実行との関係について5設定者が目的物についての設定者の権利を譲渡することができるとしても、譲渡担保権
者は、譲渡がされたことを認識することができないことが通常である。譲渡による担保権
者の不利益を回避する必要があるとの指摘に対応する必要がある。部会資料 32 において
提示した「対抗することができない」とする提案は複雑な法律関係を生じさせるとの指摘
が多かったことから、
【案 3.1】においては、これに代えて、特に担保権者の不利益が顕在10化することが多いと考えられる実行の場面において、譲渡担保権者に生じ得る不利益を回
避しようとするものである。具体的には、個別動産の動産譲渡担保契約及び個別債権の債
権譲渡担保契約について、以下のとおりとすることを提案している。
ア 動産譲渡担保権の実行について
(ア)
【案 3.1】を採用した場合、実行の際の清算金請求権は、目的物の客観的な価額と被15担保債権額の差額についての不当利得返還請求権としての性質を有すると考えられるた
め、実体的には第三取得者に帰属することとなると考えられる。しかし、設定者が第三
者にこのような譲渡をすることを譲渡担保権者が確実に把握する方法はなく、把握して
いない場合には、譲渡担保権者が第三取得者を相手方として清算金の有無及び額の通知
等をすることは不可能である。20そこで、清算金債権は第三取得者に帰属することを前提としつつ、動産譲渡担保権の
実行においては、譲渡担保契約の当事者である当初設定者を清算金債権者と扱えば足り
ることとすることが考えられる。具体的には、帰属清算方式及び処分清算方式による実
行の際の通知及び清算金の提供の相手方は当初設定者とし、当初設定者に対してした清
算金の支払によって清算金債権が消滅するものとする。この場合の清算金債権者は第三25取得者であることから、設定者は受領した清算金を第三取得者に支払うべきものと考え
られるが、この点の取扱いは、設定者と第三取得者との間で定められた契約によるか、
不当利得返還請求によることとなる。
清算金と目的動産の引渡しとの同時履行の抗弁権を第三取得者にも認めるべきかにつ
いて問題となるところ、譲渡担保権者としては、清算金を設定者又は第三取得者のいず30れに支払うかについては大きな利害を有しないこと、第三取得者は、実体的には清算金
の債権者であることからすると、第三取得者は、清算金の支払をするまでは目的物の引
渡しを拒絶する旨を主張することができると考えられる。もっとも、譲渡担保権者は当
初設定者に対して清算金の提供や支払をすれば、それが債務の本旨に従った弁済の提供
に当たるため、譲渡担保権者は、設定者に対する清算金の支払又は提供をすれば第三取35得者に対して目的物の引渡しを求めることができることになる。
(イ)第三取得者の権利義務
第三取得者は、譲渡担保契約上の地位の移転を受けた場合を除いて譲渡担保契約の当
事者としての地位には立たないものの、譲渡担保権の目的である動産についての権利を
取得することとなる。したがって、第三取得者が現れた場合には、譲渡担保契約から直40 7
接発生する債権的な権利義務は設定者になお帰属する一方で、目的物が譲渡担保権の負
担を有していることに伴う物権的な権利義務は第三取得者に帰属すると考えられる。そ
のため、例えば、受戻権は、第三取得者に帰属することとなる。
なお、実行のための引渡命令及び実行後の引渡命令を発令することができるかどうか
はこれらの引渡命令の制度設計によるものである。目的物の占有者に対してこれらを発5令することはできる、占有者一般に対する発令をすることはできないが第三取得者に対
して発令することはできる、当初の設定者に対してしか発令することができないなどの
立場が考えられるが、これは目的物についての真正譲渡の効力とは必ずしも結びつくも
のではない。
イ 債権譲渡担保権の実行について10債権譲渡担保の目的債権につき設定者が譲渡する場合についても動産譲渡担保権の実行
と基本的には同様と解される。
目的債権については債権譲渡担保権者に取立権限があり、第三取得者が現れた場合であ
っても、債権譲渡担保権者が行使することができることに変わりはない。
3 【案 3.2】について15【案 3.2】は、複雑な法律関係が生ずることを回避するため、設定者による譲渡について
原則として無効とし、譲渡担保権者が承諾した場合に限って有効とするものである。
譲渡担保権者が複数存在する場合に、設定者の譲渡につき承諾する者と承諾しない者が現
れた場合の取扱いが問題となる。この点については、最先順位の譲渡担保権者が承諾してい
れば有効とするという考え方もあり得るが、最先順位の譲渡担保権者が弁済を受けて後順位20の譲渡担保権者がの順位が上昇し、目的物の譲渡について承諾をしていなかった後順位の譲
渡担保権者が最先順位になることもあり得ることを考えると、全員の承諾を必要とすべきで
あると考えられる。
第4 約定動産担保権と他の動産担保権との競合251 約定動産担保権と先取特権との競合
約定動産担保権(動産質権、動産譲渡担保権及び留保所有権をいう。以下同じ。
)と先取
特権とが競合した場合の順位等を次のとおりとすることについて、どのように考えるか。
(1) 動産譲渡担保権者等(動産譲渡担保権及び留保所有権をいう。以下同じ。
)と先取特権
とが競合した場合の順位は、次のとおりとする。30【案 4.1.1】
(占有改定の方法により対抗要件を具備した動産譲渡担保権等を第1順位の動
産先取特権者との関係で劣後させない案)
動産譲渡担保権等を有する者(以下「動産譲渡担保権者等」という。
)は、どのような
方法で対抗要件を具備したかにかかわらず、第 330 条の規定による第1順位の先取特権
者(不動産の賃貸、旅館の宿泊及び運輸の先取特権者)と同一の権利を有する。35【案 4.1.2】
(占有改定の方法により対抗要件を具備した動産譲渡担保権等を第1順位の動
産先取特権者に劣後させる案)
ア 占有改定以外の引渡方法(現実の引渡し、簡易の引渡し、指図による占有移転又は動
産譲渡登記をいう。以下同じ。
)により対抗要件を具備した動産譲渡担保権者等は、第
1順位の動産先取特権者と同一の権利を有する。40 8
イ 占有改定の方法により対抗要件を具備した動産譲渡担保権者等は、
第1順位の先取特
権者に劣後し、第 330 条の規定による第2順位の先取特権者(動産の保存の先取特権
者)に優先する。
(2) (1)の場合において、第1順位の動産先取特権者のほかに約定動産担保権者(約定動産
担保権者を有する者をいう。以下同じ。
)が数人あるときは、各約定動産担保権者は、民5法第 332 条の規定に従ってこれらの者が弁済を受けるべき額の合計額について、後記2
及び3の規律による順序に従って弁済を受ける。
(説明)
1 これまでの部会では、1動産譲渡担保権同士の競合、2動産譲渡担保権と動産質権の競
合、3動産譲渡担保権と留保所有権の競合及び4動産譲渡担保権と動産先取特権の競合の10場面における優劣の基準について個別的に検討を行った。この第4の1から3までは、こ
れらの検討を踏まえ、約定動産担保権と他の動産担保権が競合する場合の順位について統
一的な基準を提案するものである。
2 本文1は、
約定動産担保権と先取特権とが競合する場合の順位等についての提案である。
動産譲渡担保権等は、動産譲渡担保権者等が目的である動産を現実に占有しているとは限15らないため、動産譲渡担保権等と第1順位の動産先取特権とが競合することがあり得る。
また、後順位の動産譲渡担保権等の設定も可能とされているため、複数の動産譲渡担保権
等と第1順位の動産先取特権が競合することもあり得る。本文(1)及び(2)は、約定動産担保
権と動産先取特権とが競合する場合の取扱いについて、1動産譲渡担保権等の順位付けを
行い、2約定動産担保権グループと動産先取特権グループを分けた上で、3約定動産担保20権グループが弁済を受けるべき額の合計額を算出し、4約定動産担保権グループ内の約定
動産担保権同士の優劣については、
本文2及び3の規律によることを提案するものである。
3 本文(1)は、
動産譲渡担保権等と先取特権とが競合した場合の順位についての提案である。
【案 4.1.1】と【案 4.1.2】は、いずれも動産譲渡担保権等を第1順位の動産先取特権と同
順位とすることを原則としつつ、占有改定の方法により対抗要件を具備した動産譲渡担保25権等を第1順位の動産先取特権に劣後させるかが異なっている(なお、占有改定劣後ルー
ルを採用することと、動産質権との関係でも当該ルールを適用することについては、後記
2の(説明)を参照)
。占有改定劣後ルールの根拠を、同一の目的動産について動産譲渡担
保権等を設定しようとする者に対する公示力の低さに求めるのであれば、その適用範囲を
約定動産担保権同士の競合の場合に限定する【案 4.1.1】を採ることが考えられる。これ30に対し、第1順位の動産先取特権が黙示の動産質権のような性質を有することを捉えて、
占有改定によって対抗要件を具備した譲渡担保権等が質権に劣後するのと同様に、第1順
位の動産先取特権にも劣後させる【案 4.1.2】を採ることも考えられる。この両案につい
て、どのように考えるか。
4 なお、
【案 4.1.1】及び【案 4.1.2】のいずれを採るかにかかわらず、動産譲渡担保権等35と動産保存の先取特権が競合する場合、原則として動産譲渡担保権等が優先することにな
るが、同時に民法第 330 条第2項後段も適用される。したがって、例えば動産譲渡担保権
等の目的動産について修理がされ、これによって目的動産の価値が維持され、又は増加し
た場合、これによって動産譲渡担保権者等も利益を受けるから、その修理をした者は動産
譲渡担保権者等のために物を保存した者に該当し、この者に対して動産譲渡担保権者等は40 9
優先権を行使することができないことになる。
5 同一の目的動産について同順位の先取特権者が数人あるときは、民法第 332 条の適用に
より、各先取特権者は、その債権額の割合に応じて弁済を受けることになるが、数個の約
定動産担保権と先取特権が競合する場合においては、約定動産担保権同士の優劣も問題と
なり、この場合の優劣については本文2及び3までの規律によって決することが相当であ5る。そこで、本文(2)では、約定動産担保権者と先取特権とが競合する場合において、約定
動産担保権者が数人あるときは、各約定動産担保権者は、同条の規定に従って約定担保権
者が弁済を受けるべき額の合計額(約定動産担保権グループ全体で弁済を受けるべき額の
合計額)を算出し、競合する約定動産担保権同士の優劣は本文2及び3の規律によること
を提案している。102 動産譲渡担保権等と他の約定動産担保権との競合
動産譲渡担保権等と他の約定動産担保権とが競合する場合の優劣の基準を次のとおりと
することについて、どのように考えるか。
(1) 占有改定により対抗要件を具備した動産譲渡担保権等の劣後(占有改定劣後ルール)15占有改定により対抗要件を具備した動産譲渡担保権等は、占有改定以外の方法により
対抗要件を具備した約定動産担保権等に劣後する。
(2) いずれも占有改定以外の方法により対抗要件を具備した動産譲渡担保権等と約定動産担
保権が競合した場合、又は占有改定により対抗要件を具備した動産譲渡担保権等同士が競合
した場合の順位20同一の動産についていずれも占有改定以外の方法により対抗要件を具備した動産譲渡
担保権等と他の約定動産担保権が互いに競合する場合には、その順位は、各約定動産譲
渡担保権の対抗要件が具備された時の前後による。同一の動産についていずれも占有改
定により対抗要件を具備した動産譲渡担保権等同士が競合する場合も、同様とする。
(3) 集合動産譲渡担保権等と個別動産を目的とする約定動産担保権が競合する場合の順位25同一の動産について、集合動産譲渡担保権等(集合動産譲渡担保権及び集合動産留保
所有権をいう。
)と個別動産を目的とする約定動産担保権とが競合する場合についても、
その順位は、(2)と同様の基準による。
(対抗要件具備時説)
(説明)
1 本文は、動産譲渡担保権等と他の約定動産担保権とが競合する場合の優劣の基準につい30ての提案である。
2 本文(1)は、占有改定による隠れた動産譲渡担保権等に対処するため、占有改定劣後ルー
ルを採用することを提案するものである。
部会資料 32 では、
占有改定の方法により対抗要
件を具備した動産譲渡担保権等を、占有改定以外の方法により対抗要件を具備した動産譲
渡担保権等に劣後させる「占有改定劣後ルール」(【案 10.1.1】
)と、動産譲渡登記を備え35た動産譲渡担保権を、動産譲渡登記以外の方法により対抗要件を具備した動産譲渡担保権
等に優先させる「完全登記優先ルール」(【案 10.1.2】
)を提案していた。完全登記優先ル
ールに対しては、前回の部会において、現実の引渡しや指図による占有移転のように外部
から認識可能な方法による引渡しを動産譲渡登記よりも劣後させる必要はないのではない
かとの意見があった。また、完全登記優先ルールを他の約定動産担保権との関係でも適用40 10
すると、動産譲渡登記によって対抗要件を具備することができない動産質権が動産譲渡登
記により対抗要件を具備した譲渡担保権に優先する余地がなくなるといった問題なども生
じる。そこで、本文(1)では、占有改定劣後ルールを採用することとしている。
占有改定劣後ルールを採用する場合には、その適用範囲が問題となる。占有改定の方法
により対抗要件を具備した動産譲渡担保権等の公示力の低さは、後に設定する動産譲渡担5保権等との関係のみならず、後に設定する動産質権との関係でも同様に問題となることか
ら、本文(1)では、動産質権との関係でも占有改定劣後ルールを適用することとしている。
3 本文(2)前段は、いずれも占有改定以外の方法により対抗要件を具備した動産譲渡担保権
等と約定動産担保権が競合した場合の順位を、対抗要件具備時の前後によることとするも
ので、これまでの部会資料から実質的に変更はない。10本文(2)後段は、占有改定の方法により対抗要件を具備した動産譲渡担保権等同士が競合
した場合について、対抗要件具備時の前後によって順位を定めるものである。
4 本文(3)は、集合動産譲渡担保権等と個別動産を目的とする約定動産担保権とが競合する
場合の優劣の基準についての提案である。部会資料 32 では、この優劣の基準を、集合動産
譲渡担保権の対抗要件具備時と個別動産が集合動産に加入した時のいずれか遅い時と、個15別動産譲渡担保権の対抗要件が具備された時の前後によること(加入時説)を提案してい
た。しかし、加入時説に対しては、前回の部会において、集合動産の特定範囲に属する前
に個別動産に譲渡担保権を設定することで実質的に集合動産譲渡担保権の価値を毀損する
ことが可能となり、集合動産譲渡担保権者を著しく害することなど理由に反対する意見が
多かった。
そこで、
本文(3)では、
優劣の基準を集合動産譲渡担保権等の対抗要件具備時(集20
合動産に現に属する動産全部の引渡しを受けた時)と、個別動産を目的とする約定動産担
保権の対抗要件具備時の前後によるとする立場(対抗要件具備時説)に改め、これにより
不都合が生じると考えられる場面は、本文3の規律により個別的に修正を行うこととして
いる。253 牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権等の取扱い
牽連性のある金銭債務の範囲とこれを担保する動産譲渡担保権等の取扱いを次のとおり
とすることについて、どのように考えるか。
(1) 牽連性のある金銭債務の範囲は、次のとおりとする。
(部会資料 32 第 10 の3(1)と同旨)30
ア 目的である動産の代金債務
イ 目的である動産の代金債務の債務者から委託を受けた者が当該代金債務を履行した
ことによって生ずるその者の当該債務者に対する求償権に係る債務
(2) 牽連性のある金銭債務(その利息、違約金、権利の実行の費用及び債務の不履行によ
って生じた損害の賠償を含む。以下同じ。
)のみを担保する動産譲渡担保権等は、目的で35ある動産の引渡しがなくても、第三者に対抗することができることとし、前記1及び2
の適用については、その成立の時に占有改定以外の方法により引渡しを受けたものとみ
なす。
(3) 前記1及び2にかかわらず、牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権等は、
当該金銭債務を担保する限度において、共益の費用の先取特権を除く他の先取特権又は40 11
約定動産担保権に優先する。ただし、次に掲げる時のうち最も早いもの以前に動産譲渡
担保権等の対抗要件(占有改定を含む。
)を具備した場合に限る。
ア 競合する個別動産譲渡担保権等の対抗要件(占有改定を除く。
)具備時
イ 競合する集合動産譲渡担保権等の対抗要件
(占有改定を除く。)具備時又は当該動産
が当該集合動産譲渡担保権等の目的である集合動産の特定範囲に属した時のいずれか5遅い時
ウ 競合する動産質権の設定時
エ 競合する第 330 条の規定による第1順位の先取特権の成立時
(説明)
1 本文は、牽連性のある金銭債務の範囲とこれを担保する動産譲渡担保権等の取扱いにつ10いての提案である。
2 本文(1)は、
部会資料 32 に引き続き、
牽連性のある金銭債務の範囲を1目的である動産の
代金債務と2目的である動産の代金債務の債務者から委託を受けた者が当該代金債務を履
行したことによって生ずるその者の当該債務者に対する求償権に係る債務に限定すること
を提案するものである。前回の部会では、2について、目的である動産の代金債務の全額15を支払った場合に限定する意見や、再融資に係る債務が対象となるように範囲を拡大する
意見があったが、前者については、一部を自己資金で支払い、残部のみ融資を受けるよう
な場合に融資に係る債務を適用から排除する必要はないと考えられること、後者について
は、借り入れた金銭がいったん責任財産に混入した場合や、何本かある貸金債務を一本に
まとめた場合等に優先させる金銭債務の範囲が明確にならないなどの問題があることから、20本文では採用していない。
3 本文(2)は、牽連性のある金銭債務のみを担保する動産譲渡担保権等については、特段の
要件なく、動産譲渡担保権等を第三者に対抗することができるとすることを提案するもの
である。これは、狭義の留保所有権を政策的に優遇し、第三者対抗要件を具備することな
く留保所有権を第三者に主張できるとするのであれば、これと同様の債務を担保する動産25譲渡担保権についても第三者対抗要件を不要とするのが一貫した取扱いと考えられること
による。
本文(2)の規律により引渡しなくして第三者に対抗することができる動産譲渡担保権等は、
本文(3)本文の規律が適用されれば他の約定動産担保権に優先するが、本文(3)ただし書の規
律によって優先しない場合には、他の約定動産担保権との優先劣後関係を定める必要があ30る。他の約定動産担保権との優先劣後関係は本文1及び2によって定まるが、これらの規
律においては対抗要件の具備やその種類によって優劣を決定しているところ、対抗要件を
不要とする上記の動産譲渡担保権等については、対抗要件の具備時の前後や種類によるこ
とはできない。
そこで、
前記1及び2の適用については、
このような動産譲渡担保権等は、
その成立時に、占有改定以外の方法で対抗要件を具備したこととみなすこととしている。35これにより、引渡しなくして第三者に対抗することができる動産譲渡担保権等について
は、1【案 4.1.1】を採るか【案 4.1.2】を採るかにかかわらず、第1順位の動産先取特権
と同一の権利を有する
(前記1(1))、2占有改定の方法により対抗要件を具備した動産譲渡
担保権等が先行していても、これに優先する(前記2(1))
、3成立の後に他の約定動産担保
権が設定され、その約定動産担保権が占有改定以外の方法で対抗要件を具備しても、これ40 12
に優先する(前記2(2))という効果が生ずる。
4 本文(3)は、牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権等の特別の優先ルールにつ
いての提案である。前回の部会では、牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権等
を、競合する約定動産担保権及び第1順位の動産先取特権に優先させることについて、i
いったん無担保で動産を売却しながら事後的に代金債務を担保するために設定された動産5譲渡担保権を全面的に保護する必要はなく、優先させるとしても時期的な限界を設けるべ
きではないか、ii不動産の売却代金を担保するために設定された抵当権には特別の優先が
認められていないこととのバランスを考慮すべきではないかとの意見があった。これらを
踏まえると、牽連性のある金銭債務を担保しているという一事をもって競合する他の約定
動産担保権や第1順位の動産先取特権に当然に優先させる効力を認めることは相当でなく、10他の約定動産担保権等を有する者が動産の担保価値を確定的に把握したと評価できる場合
には、特別の優先ルールの対象にはしないこととするのが相当と考えられる。そこで、本
文では、特別の優先ルールが適用されるための時期的限界を設けることとしている。具体
的には、他の約定動産担保権者や第1順位の動産先取特権者が動産の担保価値を確定的に
把握したと評価できる「次の1から4までの時のうち最も早いもの」以前に「牽連性のあ15る金銭債務を担保する動産譲渡担保権等の対抗要件を具備したこと」を要件としている。
なお、牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権等を政策的に保護するため、特別
の優先ルールの適用を受けるために必要となる当該動産譲渡担保権等の対抗要件は、占有
改定でも足りることとしている(本文(3)ただし書で「占有改定を含む。
」としている部分。
これにより、実質的には占有改定劣後ルールの適用を免れることになる。)。20特別の優先ルールが適用されるための時期的限界である「他の動産担保権者が動産の担
保価値を確定的に把握したと評価できる時」は、次の1から4までのいずれか最も早い時
としている。
1競合する個別動産譲渡担保権の対抗要件(占有改定を除く。
)具備時
2競合する集合動産譲渡担保権の対抗要件
(占有改定を除く。)具備時又は当該動産が当25該集合動産譲渡担保権の目的である集合動産の特定範囲に属した時のいずれか遅い時
3競合する動産質権の設定時
4競合する第 330 条の規定による第1順位の先取特権の成立時
1、3及び4は、約定動産担保権又は第1順位の動産先取特権を第三者に対抗できるよ
うになった時である。これに対し、2競合する担保権が集合動産譲渡担保権である場合に30あっては、
その時期的限界を対抗要件具備時ではなく、
「競合する集合動産譲渡担保権等の
対抗要件
(占有改定を除く。)具備時又は当該動産が当該集合動産譲渡担保権等の目的であ
る集合動産の特定範囲に属した時のいずれか遅い時」に修正している(加入時説の限定的
採用)
。これは、集合動産譲渡担保権等の対抗要件具備時を基準とすると、牽連性のある金
銭債務を担保する動産譲渡担保権が特別の優先ルールの適用を受ける範囲が大幅に狭まり、35保護に欠けることによる。
なお、1及び2の時期的限界となる「競合する動産譲渡担保権等の対抗要件具備時」の
「対抗要件」には、占有改定は含めないこととしている。これは、占有改定劣後ルールの
趣旨に鑑みて、占有改定の方法により対抗要件を具備した動産譲渡担保権等を優遇する必
要はないためである。40 13
以上から、本文(3)のルールが前記1及び2と比べて意味を持つのは、牽連性のある動産
譲渡担保権等は対抗要件として引渡しを要するものについても、1占有改定の方法によっ
て対抗要件を具備した動産譲渡担保権等が先行していても、被担保債権のうち牽連性があ
る限度では、占有改定を具備することによって先行する動産譲渡担保権等に優先すること
ができる
(原則どおりであれば、
占有改定同士であれば時間的に先行するものが優先する。)、52牽連性のある被担保債権を担保する限度では、占有改定を具備しておけば、その後に占
有改定以外の方法によって対抗要件を具備した担保権に優先することができる(占有改定
劣後ルールの例外)
、3対抗要件を具備しておけば、加入時ルールが例外的に適用される、
という点にある。
5 本文(2)及び(3)により、目的物と牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権等につ10いては、この(説明)の3及び4に記載したような点で有利に扱われることになる。
牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権等を有利に扱う実質的な理由としては、
1このような動産譲渡担保権等の目的物である動産は売主が売却したことによって買主の
財産を構成するに至ったのであるから、売主がその動産から優先的にその債権の弁済を受
けられるとすることが実質的公平にかなうこと、2既に他の担保権が設定されている場合15に売主の担保権が劣後することとすれば、売主はその売買代金債権を保全する手段を失う
こととなり、買主との取引を中止せざるを得ないこと、3競合する担保権者にとっても、
融資先である買主が代金を完済しないまま売主から目的物の引渡しを受けている可能性が
あることは想定すべきであることなどが挙げられる。
このような根拠に基づいて、牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権等を具体20的にどのように有利に扱うかについては政策的に判断するほかないが、本文では、ほかに
公示性の高い担保権が設定されていた場合に、これを覆してまで牽連性のある金銭債務を
担保する動産譲渡担保権等を優先させるのではなく、あくまで牽連性のある金銭債務を担
保する動産譲渡担保権等が先に成立した場合に、その優先権を確保することを容易にする
(通常、占有改定以外の方法による対抗要件具備が必要であるところ、その要件を緩和し25て、優先権を確保しやすくする)限度で優遇することとしている。他の担保権が占有改定
以外の方法で対抗要件を具備した場合、その担保権者としては自らの担保権の優先権を確
保するために可能なことは全て行っているため、それを覆すことになればその担保権者の
期待を害することになるからである。他方、他の担保権が占有改定による対抗要件を具備
したにとどまっているときは、占有改定劣後ルールの下では、当該担保権の優先権は確定30的に確保されているわけではなく、後から現れた担保権に劣後する場合があることを覚悟
せざるを得ない立場にあるし、これを回避したいのであれば登記をすることも可能である
ことから、このような担保権よりも牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権等を
有利に扱うことも不当ではない。
なお、牽連性のある金銭債務を担保する動産譲渡担保権等を上記のように優遇するとし35ても、同様に目的物と被担保債権との間に牽連性が認められる動産売買先取特権について
は、本文記載のような優遇がされるわけではない。この点の違いについては、動産譲渡担
保権等が約定担保物権であることに求めざるを得ないようにも思われるが、どのように考
えるか。40 14
第5 動産譲渡登記における動産の特定方法等
動産譲渡登記における動産の特定方法等を次のとおりとすることについて、どのように考
えるか。
1 動産の特定は、次に掲げる事項を明らかにすることにより行う。
1動産の種類52(動産の種類以外の)任意の方法により動産を特定する事項
2 上記1のうち2について、
登記官は審査せず、
申請事項をそのまま登記するものとする。
(説明)
1 本文の提案は、実体法上有効に譲渡担保権を設定するために目的物をどのように特定す
べきかではなく、動産譲渡登記をするための要件として目的物をどのように特定すべきか10について提案するものである。譲渡担保権を設定するための目的物の特定については、最
判昭和 54 年2月 15 日民集 33 巻1号 51 頁が「構成部分の変動する集合動産についても、
その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどなんらかの方法で目的物の範囲が特定さ
れる場合には、
(略)譲渡担保の目的となりうる」としており、この点を変更するものでは
ない。
この判例法理に照らして特定が不十分であれば譲渡担保権は有効に成立しないため、15譲渡登記がされても、その登記は対抗要件としての意味を有しない。
2 現行法上は、
(主に集合動産譲渡担保権を念頭に置いた)
動産譲渡登記における動産の特
定方法として、種類及び特質による方法と、種類及び保管場所の所在地による方法とがあ
るが(動産・債権譲渡登記規則第8条第1項)
、部会資料 30 では、種類及び動産の保管場
所の所在地に関して、これを要件とする現行の規律を維持しつつ、保管場所の特定を柔軟20化する運用上の見直しを行う案(【案 5.3.1】)と、
保管場所の所在地を必須の要件とせず、
種類のほか、任意の方法による特定を認める案(
【案 5.3.2】
)を提案した。部会では、任意
の方法による特定を認めると目的物の特定がされているかどうかが不明確になって取引の
安全が害されるおそれがあるなどとして、部会資料 30 の【案 5.3.1】を支持する意見もあ
った。しかし、顧客に貸与する多数の商品にまとめて譲渡担保権を設定する場合などのよ25うに所在場所による特定が困難な場合も想定される。
そして、
前記昭和 54 年最判は譲渡担
保権が有効に成立するための目的物の特定方法として所在場所を必須の要件としているわ
けではなく、他の方法による特定も許容しており、そのように特定された譲渡担保権も占
有改定の方法によれば対抗要件を具備することは可能である。今般の担保法制の見直しに
当たっては、
占有改定の方法によって対抗要件を具備した担保権の順位を劣後させるなど、30登記を相対的に優先することが検討されており、占有改定によって対抗要件を具備するこ
とはできるが、譲渡登記をすることはできない場面が広く生ずるのは適切ではない。
他方、部会資料 30 の【案 5.3.2】については、特定の有無が不明確になって取引の安全
に影響を及ぼすとの指摘があるが、
本文の提案は、
あくまで前記昭和 54 年最判に従って譲
渡担保権の目的物が特定されていることを前提に、譲渡登記をするための特定方法を広げ35るものに過ぎず、直ちに取引の安全に影響を及ぼすとか、過剰担保の問題が生ずるとはい
えないとも考えられる。
そこで、本文1では、部会資料 30 の【案 5.3.2】を採用し、1動産の種類と2任意の方
法による特定事項によって動産を特定することを提案している。
なお、
1動産の種類とは、
当該動産の性質・形態など、共通の点を持つものごとに分けたそれぞれの類型をいい、あ40 15
る程度の幅のある記載が許されるとされている。このような種類さえ記載されていない場
合には、昭和 54 年最判に照らしても目的物が特定されているとはいえないと考えられる
ため、種類については現行法と同様にこれを登記のための要件としている。
3 本文2は、以上を前提に、本文1の2について、登記官は審査を行わない(申請事項を
そのまま登記する)ことを確認するものである。これは、即日登記が求められる動産譲渡5登記において、形式的審査権限しか有しない登記官が、本文1の2の申請事項の内容につ
いて、実体法上求められる動産の特定を満たしているか(動産譲渡担保契約の目的たり得
る程度に動産の特定がされているか)を実質的に審査することは困難であるためである。
部会では、登記官が審査を行わないことにより、登記が事後的に無効と判断されることを
懸念する意見もあった。しかし、現状においても、このような判断リスクは存在している10し、占有改定においては完全に契約当事者の責任に委ねられている問題である。さらに、
これを軽減するために、本文12の「任意の方法により動産を特定する事項」として、実
務上の取扱いの集積のある「動産の特質」や「動産の所在」によって特定した上で登記を
申請することも可能であり、実務上大きな混乱は生じないとも思われるが、どのように考
えるか。15第6 労働債権を有する者その他の一般債権者を保護するための規律
労働債権を有する者その他の一般債権者を保護するために次の規律を設けることについて、
どのように考えるか。
1 集合動産譲渡担保権等又は集合債権譲渡担保権の実行により次に掲げる金額の合計額を20超える額において被担保債権が消滅した場合において、当該消滅の日から【1年】以内に
設定者について破産手続、再生手続、更生手続又は特別清算手続(以下「破産手続等」と
いう。
)の開始があったときは、譲渡担保権者等は、当該消滅した被担保債権の額から当該
合計額を控除した額に相当する金銭(以下「超過分の金銭」という。
)を破産財団、再生債
務者財産、更生会社財産又は清算株式会社の財産(以下「破産財団等」という。
)に組み入25れなければならない。
1 被担保債権の元本の額
2 譲渡担保権者等が利息、債務の不履行によって生じた遅延損害金その他の定期金を請
求する権利を有するときは、
その定期金から生ずる各金銭債権のうち、
帰属清算の通知、
処分清算譲渡又は民事執行手続における配当若しくは弁済金の交付の日前2年以内に生30じた分に相当する額
2 設定者についての破産手続等の開始後における集合動産譲渡担保権等又は集合債権譲渡
担保権の実行により超過分の金銭が生じたときは、譲渡担保権者等は、破産財団等に超過
分の金銭を組み入れなければならない。
3 1又は2の場合には、超過分の金銭の額に相当する金額の被担保債権は消滅しなかった35ものとみなす。
(説明)
1 部会資料 30 では、
雇用関係の先取特権を含む一般先取特権に、
譲渡担保権に対する一定
の優先権を認める案を提案していた。しかし、一般先取特権者に一定の優先権を認めた場
合、優先する一般先取特権者に配当するための手続をどのように設計するかという困難な40 16
問題が生ずる。特に私的実行において一般先取特権者への配当を実現することは、私的実
行を実施する担保権者への負担が大きくなりかねない上、例えば、1譲渡担保権の私的実
行時に譲渡担保権者において競合する一般先取特権者を適切に把握することや、2一般先
取特権者において譲渡担保権者の私的実行を適切に把握することが困難であるなど、優先
する一般先取特権者に適切に満足を得させることは手続的に容易でない。また、約定担保5権の設定時に存在しない債権が当該約定担保権の被担保債権に優先すると約定担保権者の
予測を不当に害するおそれがあるところ、担保権設定者が事業を継続している場合には当
該約定担保権の目的である財産以外の財産から一般債権の回収を図ることもなお期待し得
るから、上記のような担保権者の期待を不当に害するおそれのある制度設計をする必要性
は必ずしも高くない。そこで、本文では、設定者の総財産を対象として一般先取特権者を10含む多数の債権者に適切に配当等を実施でき、かつ、一般債権者の保護の必要性が高い場
面である法定の倒産手続(破産手続、再生手続、更生手続又は特別清算手続)が開始され
た場合に、担保権の優劣とは異なる方法で一般先取特権者をより厚く保護する規律を設け
ることを提案している。
2 集合動産又は集合債権を目的とする担保権は、設定者の特定範囲に属する財産を一括し15て担保の目的とするもので、かつ、対抗要件も簡易な占有改定等で足りるという他の約定
担保権にはない特殊性があり、目的となる動産又は債権の特定の仕方によっては、一般債
権者のための引当財産が著しく減少するおそれが指摘されている。例えば、労働債権につ
いてみると、破産手続との関係では一定の労働債権が財団債権とされ(破産法第 149 条)、財団債権にならない部分は優先的破産債権と扱われるが、譲渡担保権の実行により労働債20権への配当原資となる破産財団が著しく減少すると、これを優先的に取り扱う実質的意義
が失われるおそれがある。そのため、労働債権者その他の一般債権者の保護を図るための
方法として、その引当財産である破産財団等を確保するための規律を設けることが考えら
れる(労働債権を有する者は、当該規律により増加した破産財団から優先的に配当を受け
られることになる。)。25そこで、本文では、被担保債権の額が一定の範囲を超えた場合に、本来はその弁済に優
先的に充てられるはずの担保目的物の価額のうち、その超過分相当額を破産財団等に組み
入れることができるようにすることを提案している。
この破産財団等に組み入れるべき超過分の金銭の額は、後順位抵当権者の保護を目的と
する民法第 375 条を参考として、被担保債権の額から、1元本の額と2利息及び遅延損害30金等のうち実行時から遡って2年分を超える額の合計額を控除した額とすることを提案し
ている(部会資料 30 と同旨)。なお、破産財団等に組み入れられた超過分の金銭に対しては、後順位の約定担保権者も
優先弁済権を行使することができず、担保権の実行によって回収することができない額に
ついて一般債権者の立場で弁済を受けることができるに過ぎない。353 破産財団等に超過分相当額を組み入れる規律を適用すべき場面として、破産手続等の開
始前に譲渡担保権が実行された場合と、開始後に譲渡担保権が実行された場合の双方が考
えられる。このうち、本文2は破産手続等の開始後に譲渡担保権が実行された場合につい
て定めている。
他方、破産手続等の開始前に譲渡担保権が実行された場合については、そもそも設定者40 17
についてその後破産手続等が開始されるかどうかは不明であるため、組入れの規律を適用
するかどうかが問題になる。譲渡担保権が実行される場面では、設定者の経営状態が悪化
しており、その後破産手続等の開始に至ることも多いことからすると、当該規律の適用を
全面的に排除するのは、一般債権者保護の目的が達せられず適当でない。そこで、本文1
では、破産手続等の開始前に譲渡担保権を実行した場合であっても、その実行後一定期間5内に破産手続等の開始があったときは、当該規律を適用することとしている。このような
期間制限を設けた理由は、譲渡担保権後の実行後、相当期間内に破産手続等への移行がな
かった場合には、設定者の資金繰りがいったん回復したと考えられるため、その後の破産
手続等において超過分の金銭を破産財団等に組み入れる実質的理由に乏しいこと、他方で
期間制限を設けないと、
財団への組入れが生ずるのかどうかが長期間にわたって確定せず、10譲渡担保権者の地位が著しく不安定になることによる。この期間の長さをどのように設定
するかについては今後の検討課題であるが、短くしすぎると、一般債権者保護の目的が達
成されないこと、当該規律を免れるために譲渡担保権者が設定者に働きかけて破産手続等
の開始時期を意図的に遅らせるおそれもあることから、
「実行後1年以内」
とする案を提示
している。154 本文1又は2の規律により超過分の金銭が破産財団等に組み入れられた場合には、当該
超過分の金銭に対応する被担保債権の消滅はなかったものとするのが相当であるため、本
文3でその旨の提案をしている。譲渡担保権者は、消滅しなかったものとされた被担保債
権をもって、一般債権者の立場で破産手続等において配当等を受けることができる。20

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