1令和5年3月22日
法 務 省
相続登記の申請義務化の施行に向けたマスタープラン
第1 はじめに
社会問題となっている所有者不明土地の発生を予防するため、民法等の一部を改正
する法律(令和3年法律第 24 号。以下「一部改正法」という。)により不動産登記法(平成 16
年法律第 123 号。以下「法」という。)が改正され、令和6年4月1日から、相続登記の申
請が義務化される。
本マスタープランは、相続登記の申請義務化に伴う新制度が、所有者不明土地問題
の解決に効果的につながることが期待される一方、幅広い国民層に相当大きな影響を
及ぼすものであることから、相続登記の申請義務化の施行1年前の現段階において、
法務省として、新制度の開始に向けた環境整備策や予定している運用上の取扱い等を
明らかにすることにより、国民に新制度の十分な理解と適切な対応を促すことを目的
とするものである。
第2 本マスタープランの前提(一部改正法で規定された新しいルール)
1 相続登記の申請義務化の概要
(1) 相続等により不動産を取得した相続人は、自己のために相続の開始があったこ
とを知り、
かつ、
当該不動産を取得したことを知った日から3年以内に、
相続登記
を申請しなければならない(法第 76 条の2第1項)。
(2) 遺産分割により不動産を取得した相続人についても、遺産分割の日から3年以
内に、相続登記を申請しなければならない(法第 76 条の2第1項前段、第2項、第 76
条の3第4項)。
(3) 正当な理由がないのに、上記(1)又は(2)の申請を怠ったときは、10 万円以下の過
料の適用対象になる(法第 164 条)。
(4) 相続登記の申請義務化は、令和6年4月1日から施行される。
(5) 令和6年4月1日より前に開始した相続によって不動産を取得した場合であっ
ても、相続登記をしていない場合には、相続登記の申請義務の対象となる。ただ
し、3年間の猶予期間が設けられており、猶予期間中に相続登記を行えば、過料 2の適用対象となることはない(一部改正法附則第5条第6項)。
2 相続人申告登記制度の概要
相続登記の申請義務を履行するための簡易な方法として、相続人申告登記という
制度が新設された。相続人申告登記の申出をした者は、上記1(1)の申請義務を履行
したものとみなされる(法第 76 条の3第1項、第2項)。もっとも、上記1(2)の申請
義務(遺産分割後の申請義務)については相続人申告登記の申出によって履行する
ことはできない(法第 76 条の3第2項括弧書)。
第3 相続登記の申請義務化に向けて進める環境整備
相続登記の申請義務化は、国民に新たな負担を課すものであるため、令和6年4月
からの円滑な新制度開始に向けて、国民の負担軽減のための環境整備をあらかじめ進
めていくことが重要である。このような環境整備策として、次の1から4までの取組
を進め、国民目線に立ったその他の方策も順次講ずるものとする。
1 相続登記を促進するため、令和4年4月1日から、1評価額が 100 万円以下の土
地に係る相続登記の申請や、2相続により土地を取得した者が相続登記をせずに死
亡した場合の当該相続登記の申請については、その登録免許税の免税措置が講じら
れている(免税期間は令和7年3月 31 日まで)(租税特別措置法(昭和 32 年法律第 26
号)第 84 条の2の3)。この免税措置について、国民への周知・広報を引き続き実施
し、比較的価値の低い土地や数代にわたって相続登記が放置された土地について、
相続登記の申請を積極的に促す。
2 相続登記の申請手続に係る国民の不安を解消し負担を軽減する観点から、相続登
記の申請のために必要な準備や申請書の記載方法等を利用者目線で分かりやすくま
とめた
「登記申請手続のご案内」
(登記手続ハンドブック)
を法務省で作成して、令和4年 12 月から法務局ホームページで公開している。今後も、
遺言の有無など相続
手続の違いを踏まえ、登記手続ハンドブックの類型化や内容の充実を図ったり、典
型的な相続のケースにおいて通常想定される必要な対応を示したりする
(別紙参照)
など、引き続き、登記申請手続についてきめ細やかな情報発信を進める。
3 相続登記の申請義務化への対応として登記申請を検討する国民の増加が見込まれ
ることを踏まえ、
全国の法務局・地方法務局で、電話・ウェブ会議・対面の各方式を
用いた相続登記の手続案内を効果的に実施する。 3また、
司法書士・土地家屋調査士を始めとする専門資格者及びその団体と連携し、
国民に対し、相続登記その他の登記申請に関する相談先等の情報を提供する。
4 上記第2の2の相続人申告登記は、相続登記の申請義務を自ら速やかに履行したい
と考える国民にとって、簡便な手続として選択肢になるものであり、利便性の高い手続と
なるよう、令和6年4月1日の施行に向けて準備を進める。
相続人申告登記は、対象となる不動産を特定した上で、1所有権の登記名義人につ
いて相続が開始した旨及び2自らがその相続人である旨を申し出ることによって、相続登
記の申請義務を履行したものとみなす制度であり、申出がされた場合には、登記官が所
要の審査をした上で、登記簿に、申出をした者の氏名、住所等を職権で登記する(申出に
係る登録免許税は、非課税)。
相続人申告登記は、相続人が複数存在する場合でも、他の相続人の関与なく単独
で行うことが可能であって、例えば、相続登記の申請義務の履行期限が迫っている
場合などに、その義務を果たすための簡易な方法として利用可能である。もっとも、
相続人申告登記は、
相続登記とは異なり、
相続人の氏名、
住所等の公示に特化した登
記であり、不動産についての権利関係を公示するものではないから、効果が限定的
であることに留意を要する。
相続人申告登記は、相続登記の申請義務を履行する簡易な方法として、相続人本
人であっても容易に申し出ることができるよう、その申出手続は、申出の真正を確
保しつつ、相続登記の申請手続と比べて簡略化したものとする。その具体の手続等
を規定する法務省令及び通達は追って公表する予定であるが、その基本的方向性と
して、次の(1)から(3)までのとおりとする。
(1) 相続人申告登記の申出は、書面による方法(管轄法務局の窓口に提出する方法
又は管轄法務局に郵送する方法)と、管轄法務局宛てにオンラインで送信する方
法を認める。
オンラインによる申出は、
Web ブラウザ上での負担の軽い手続を可能
とし、単純な相続の事案では、オンライン上で申出を完結することができるもの
とする。
(2) 申出をする本人の意思確認の方法として、書面による申出の場合の提出書面に
対する押印や、オンラインによる申出の場合の提供情報に対する電子署名の付与
は不要とし、それに代わる負担の軽減された確認方法を用いることとする。
(3) 申出に必要となる基本的な添付情報は、次のアからウまでのとおりであるが、 4行政間の情報連携等を効果的に用いることにより、可能な限り、添付省略や写し
(コピー)等の提供で足りる取扱いを認めることとする。
ア 申出をする者の本人確認情報
イ 相続があったことを証する情報
戸籍関係書類として、申出をする者が登記簿上の所有者(被相続人)の相続人
であることを確認することができる範囲で足りるものとし、
相続登記の申請手続
とは異なり、
被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍関係書類までは要しない
こととする。
さらに、
今後運用が開始されることになる戸籍電子証明書の活用により、
戸籍
関係書類の提出を不要とする方策についても、速やかに検討を進める。
ウ 申出をする者の住所を証する情報
申出をする者が、申出の際に、その生年月日等の検索用情報(登記官において
住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という。)から情報を
取得するために必要な情報)
を法務局に提供して、
登記官が住基ネットとの連携
によりその住所を確認することができる場合には、
住民票の写しの提供を不要と
することとする。
第4 相続登記の申請義務化の運用方針の決定
相続登記の申請義務化に伴う運用の在り方については、国民に自発的な申請を可能
な限り促しつつ、新制度に関する予見可能性の確保と不安の解消を図るよう、法務局
における運用の透明性及び公平性を十分に確保する。そのような観点から、今後、具
体の運用や手続を規定する法務省令及び通達を早期に定めて公表することとするが、
運用の方針として、以下のとおりとする。
1 過料通知及びこれに先立つ催告
登記官は、相続登記の申請義務に違反したことにより過料に処せられるべき者が
あることを職務上知ったときは、遅滞なく、管轄地方裁判所にその事件を通知する
ものとする(以下「過料通知」という。)。過料通知を受けた管轄地方裁判所は、過
料決定に関する判断を行うことになる。
ただし、登記官が過料通知を行うのは、過料に処せられるべき要件を充足すると
合理的に判断される場合に限るものとする。具体的には、登記官が過料通知を行う 5のは、申請義務に違反した者に対し、相当の期間を定めてその申請をすべき旨を催
告したにもかかわらず、正当な理由なく、その申請がされないときに限ることとし、
また、当該催告に応じて登記の申請がされた場合には、それ以前の正当な理由の有
無にかかわらず、過料通知は行わないものとする。
2 登記官による相続登記の申請義務に違反した者の把握方法
登記官が行う催告の前提となる、相続登記の申請義務に違反した者の把握は、運
用の統一性・公平性とともに国民の納得感を確保する観点から、登記官が登記申請
の審査の過程等で把握した情報により行うこととする。
登記官による相続登記の申請義務違反の把握の端緒としては、例えば、次のよう
な場合が想定される。
(1) 相続人が遺言書を添付して遺言内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の
登記を申請した場合において、当該遺言書に他の不動産の所有権についても当
該相続人に遺贈し、又は承継させる旨が記載されていたとき。
(2) 相続人が遺産分割協議書を添付して協議の内容に基づき特定の不動産の所有
権の移転の登記を申請した場合において、当該遺産分割協議書に他の不動産の
所有権についても当該相続人が取得する旨が記載されていたとき。
3 「正当な理由」があると認められる場合
(1) 上記1の催告をしたにもかかわらず、当該催告に係る登記の申請が相当の期
間内にされない場合であっても、当該登記の申請をしないことに「正当な理由」
があると認められるときには、過料通知は行わない。
「正当な理由」の有無は、登記官が、個別の事案における具体的な事情に応じ
て判断するものとし、上記1の催告手続においては、
「正当な理由」の有無やそ
の内容について申告することを求めるものとする。
(2) 一般的に、
例えば、
次のアからオまでのような事情がある場合には、
相続登記
の申請をしていないことにつき「正当な理由」があると考えられる。もっとも、
「正当な理由」
があると認められるのは、
これらの場合に限定されるものではな
いため、
「正当な理由」についての判断は、登記官において、相続登記の申請義
務を負う者の具体的事情を丁寧に確認した上で行うものとする。
ア 数次相続が発生して相続人が極めて多数に上り、
かつ、
戸籍関係書類等の収
集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合 6イ 遺言の有効性や遺産の範囲等が争われているために不動産の帰属主体が明
らかにならない場合
ウ 相続登記の申請義務を負う者自身に重病等の事情がある場合
エ 相続登記の申請義務を負う者がDV被害者等であり、
その生命・身体に危害
が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合
オ 相続登記の申請義務を負う者が経済的に困窮しているために登記に要する
費用を負担する能力がない場合
第5 相続登記の申請義務化に向けた周知・広報
相続登記の申請義務化に向けては、負担軽減のための環境整備策を含めた制度の内
容や具体的ルールについて、関連する制度改正(例えば、令和5年4月から始まる具
体的相続分による遺産分割の期間制限)等と併せ、国民一般に分かりやすく十分な周
知を、引き続き図ることが重要である。
法務省では、
これまでも、1法務局・地方自治体の窓口や、
法務省ホームページ、パンフレット、動画等を用いた情報提供のほか、2地方自治体や専門資格者団体等と連
携した説明会・相談会の開催等を進めてきたところであるが、新制度開始1年前の現
時点で、国民の認知・理解が十分に進んでいる状況にはない。
今後、国民各層の認知度を一層向上させるため、従前の取組から一歩進めて、国民
の幅広い層に必要な情報が確実に届けられるよう、住民に身近な各地の地方自治体、
公共的団体(自治会等)、各種資格者団体、福祉団体及び経済団体等とも連携し、一段
ときめ細やかな、幅広い周知・広報に取り組む。
その観点から、政府を挙げた省庁横断的な広報対応や、関係機関・団体の幅広いサ
ポートを得た周知活動、国民各層の年齢・環境に応じて多様な広報ツール・手法を用
いた情報発信等について、法務省を挙げて、国民の理解の増進と協力の確保に全力で
取り組んでいく。
以 上
相続登記の申請義務化に伴う必要な対応(令和6年4月1日より前に相続開始)
不動産を相続したことを
知っている
(遺言なし)
ケース1
相続した不動産の有無や、相続した不動産がどれだけあるか
分からない場合、所有不動産記録証明書により把握することが可能
(令和8年4月までに施行)申請義務あり
申請義務
あり
必要な対応3
遺言の内容に基づく所有権移転登記
【権利移転の公示の効果あり】
(注記)令和9年3月31日まで
ケース2
遺言により不動産を取得したこと
を知っている
ケース1-1
相続人の間で遺産分割が
まとまっている
必要な対応1
遺産分割の結果に基づく相続登記
【権利移転の公示の効果あり】
(注記)令和9年3月31日まで
必要な対応2
相続人申告登記
【権利移転の公示の効果なし】
(各相続人が単独で申出)
(注記)令和9年3月31日まで
ケース1-2
当分の間、遺産分割を
行う予定はない
遺産分割がまとまりそうに
ない(争いがある)
必要な対応(追加)
(相続人申告登記後に
遺産分割がまとまった場合)
遺産分割の結果に
基づく相続登記
【権利移転の公示の効果あり】
(注記)遺産分割の日から
3年以内
ケース1-3
(注記)民法改正により、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、原則として、具体的相続分を考
慮せず、法定相続分又は指定相続分により行うこととされた。
(注)このフロー図は、不動産の相続に関する典型的なケースにおいて、通常想定される対応を示したものである。
別紙
相続登記の申請義務化に伴う必要な対応(令和6年4月1日以降に相続開始)
不動産を相続したことを
知っている
(遺言なし)
ケース1
(注記)民法改正により、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、原則として、具体的相続分を考
慮せず、法定相続分又は指定相続分により行うこととされた。
(注)このフロー図は、不動産の相続に関する典型的なケースにおいて、通常想定される対応を示したものである。
相続した不動産の有無や、相続した不動産がどれだけあるか
分からない場合、所有不動産記録証明書により把握することが可能
(令和8年4月までに施行)申請義務あり
申請義務
あり
必要な対応3
遺言の内容に基づく所有権移転登記
【権利移転の公示の効果あり】
(注記)遺言により不動産を取得したことを知った日から3年以内
遺言により不動産を取得したこと
を知っている
相続人の間で遺産分割が
まとまっている
必要な対応1
遺産分割の結果に基づく相続登記
【権利移転の公示の効果あり】
(注記)不動産の相続を知った日から3年以内
必要な対応2
相続人申告登記
【権利移転の公示の効果なし】
(各相続人が単独で申出)
(注記)不動産の相続を知った日
から3年以内
当分の間、遺産分割を
行う予定はない
遺産分割がまとまりそうに
ない(争いがある)
必要な対応(追加)
(相続人申告登記後に
遺産分割がまとまった場合)
遺産分割の結果に
基づく相続登記
【権利移転の公示の効果あり】
(注記)遺産分割の日から
3年以内
ケース2
ケース1-2
ケース1-3
ケース1-1

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