1戸籍法部会資料 8
戸籍法等の改正に関する要綱案の取りまとめに向けた検討(1)
第1 氏名の振り仮名(仮称。以下同じ。
)の戸籍の記載事項化に関する事項
1 戸籍の記載事項への追加
1 戸籍法第13条に規定する戸籍の記載事項に「氏名の振り仮名」を追加す
る。
2 戸籍法第13条に次の規定を設ける。
氏名の振り仮名に用いる文字及び記号の種類は法務省令でこれを定める。
(補足説明)
1 これまでの議論の整理
氏名の振り仮名を戸籍の記載事項とするに当たり、戸籍法第13条第1号に
規定する「氏名」とは別個のものと位置付けた上、その表記を平仮名又は片仮
名のいずれかに定めることが相当であるとされた。
そこで、中間試案(以下「試案」という。
)第1の1において、平仮名表記と
する案と片仮名表記とする案を提案していた。
2 パブリック・コメントの概要
団体、個人ともに、片仮名表記を支持する意見が多かった。
平仮名表記を支持する意見は、通常、日本語を表記する際には漢字と平仮名
が用いられること、片仮名には似た文字(
「ソ」と「ン」、「ス」と「ヌ」など)
があることなどを理由とするものであり、片仮名表記を支持する意見は、外国
又は外来語に起源を有する者の振り仮名については片仮名表記の方がなじみや
すいこと、既に金融機関等の民間企業で片仮名が用いられていることなどを理
由とするものであった。
3 検討
(1) 用語について
試案においては、
「氏名を平仮名(片仮名)で表記したもの」という用語を
用いていたところ、
民事執行規則第31条の2第1項第1号イにおいて、
「差
押債権者の氏名(振り仮名を付す。
)又は名称及び住所」と規定されているこ
とから、これを参考に「氏名の振り仮名」という用語を用いることを提案し
ている。
(2) 平仮名表記又は片仮名表記
氏名の振り仮名が戸籍の記載事項として登録・公証されることとなった場
合には、行政機関や民間企業等において、本人確認事項の一つとして活用さ
れることが想定されるところ、現状として、金融機関を始めとする民間企業2において片仮名が用いられていることを考慮すると、片仮名表記とすること
が相当であると思われるが、どのように考えるか。
なお、パブリック・コメントにおいて指摘されたとおり、片仮名には似た
文字があることから、氏名の振り仮名を収集する場面における誤認を防ぐた
めの方策については、
運用面において検討を要する事項であると考えられる。
(3) 規定の方法
試案第1の1においては、戸籍法第13条に「氏名を平仮名で表記したも
の」又は「氏名を片仮名で表記したもの」のいずれかの規定を設けることを
提案していた。もっとも、試案第1の1(注)に記載のとおり、氏名の振り
仮名には、平仮名又は片仮名のほか、記号も含めることを想定していること
から、その表記に用いる文字及び記号の種類については、合わせて法務省令
で規定することを提案している。
2 氏名の振り仮名の許容性及び氏名との関連性
氏名の振り仮名の許容性及び氏名との関連性に関する審査について、次のい
ずれかの案によるものとする。
【甲案】戸籍法には規定を設けず、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法
の一般原則による(注)。【乙案】戸籍法に次のような規定を設ける。
氏名の振り仮名は、氏名に用いられる文字に通常用いられる音訓に
よらなければならない。
(注)
【甲案】について法令に規定することも考えられる。
(補足説明)
1 これまでの議論の整理
【甲案】は、権利濫用の法理、公序良俗の法理等の法の一般原則により審査
することとするものであり、部会においては【甲案】を支持する意見が多かっ
た。
他方で、氏名の振り仮名の許容性の審査においては、1氏名の振り仮名自体
の許容性
(氏名の振り仮名を単独で見た際の許容性)
と、
2氏名との関連性(氏名とその振り仮名を照らし合わせた際の許容性)という2つの観点があるもの
と考えられるところ、
【甲案】だけでは、2の観点からの審査に支障を来すおそ
れがあるとの見方もあることから、試案第1の2においては、
【甲案】に加え、
2の観点からの審査基準を明記するものとして、2つの案を提案していた。
2 パブリック・コメントの概要
試案において提示した3つの案の中では、
【甲案】
を支持する意見が最も多か
った。
【甲案】を支持する意見は、社会通念に照らして許されない名前でない限
りは、親などの命名権行使の自由は尊重されるべきであること、国民の自己決3定権を極力尊重すべきであることなどを理由とするものであり、
【甲案】
以外の
案を支持する意見は、子の名に使える文字と同様に制限すべきであること、命
名等の自由を強調し過ぎるべきではないことなどを理由とするものであった。
また、試案において提示した案のほかに、文字の音訓(又は慣用)以外は認
めるべきではないとする意見が多数寄せられた。その理由としては、主に、本
来の漢字の読みや意味と異なるものを登録することは、漢字の音読み・訓読み
など、伝統文化に根差した漢字本来の読み方が誤って伝わることにもなりかね
ず、日本語の文化が失われかねないなどというものであった。
そのほか、振り仮名を含む氏名は個人のアイデンティティの根幹であること
などを理由として、現に戸籍に記載されている者に係る氏名の振り仮名につい
ては、これを認めるべきであるとする意見が複数寄せられた。
3 検討
(1) 本文の規律
これまでの議論及びパブリック・コメントにおいて支持の多かった
【甲案】
に加え、試案第1の2の【乙案】及び【丙案】を基礎に、パブリック・コメ
ントにおいて特に多く寄せられた文字の音訓(又は慣用)以外は認めるべき
ではないとする意見を踏まえ、新たな案として【乙案】を提案している。
【乙案】における「通常用いられる音訓」は、氏名に用いられる文字の読
み方として、社会において慣用されている音訓による読み方を意味するもの
であり、常用漢字表に掲載された音訓に限られるものではなく、各種漢和辞
典等に掲載されている名乗り訓などもこれに含まれるものと考えられるが、
その他にどのような読み方によるものが含まれるかについては、引き続き検
討する必要がある。
(2) 漢字とその振り仮名に関する具体例
以下の具体例について、本文の各規律を適用すると氏名の振り仮名として
許容されるか否かを踏まえ、本文の各規律の内容について検討する必要があ
るものと考えられる。
ア 頼朝の「朝」を「とも」と読ませて利用するなど、本来的な音訓ではな
いいわゆる「名乗り訓」を利用する読み方
イ 心(こころ)を「こ」、「ここ」と読ませて利用するなど、本来的な音訓
の一部を利用する読み方
ウ 陽葵と書いて「ひまり」(「向日葵(ひまわり)
」からその一部を利用)、奏和と書いて「かなと」(「大和(やまと)
」の「和」の字を「と」として利
用)と読ませるなど、熟字訓の一部を利用する読み方
エ 咲里と書いて
「えみり」
と読ませて利用するなど、
「咲」
の字の
「わらう」、「えむ」という意味と古い時代の訓(エ、エム)を活用する読み方
オ 海を「まりん」
、騎士を「ないと」
、月を「るな」と読ませるなど、漢字
の意味と外来語・外国語の意味や発音とを関連付ける読み方4カ 陽葵と書いて「ひなた」
、星を「ひかる」と読ませるなど、漢字の意味や
読み方から連想されるイメージに基づく読み方
キ 高を「ひくし」と読ませるなど、通常の読み方や意味とは反対の意味の
読み方
ク 太郎を「じろう」と読ませるなど、読み違い(書き違い)かどうか判然
としない読み方
ケ 太郎を「ジョージ」と読ませるなど、漢字の意味や読み方からは連想す
ることができない読み方
コ 人の名前としては違和感のあるキャラクターの名前を読み方として付け
るもの
サ 鈴木を「さとう」と読ませるなど、別人と誤解されるおそれのある読み方(3) 現に戸籍に記載されている者に係る氏名の振り仮名
氏名の振り仮名の許容性及び氏名との関連性に関する審査について、本文
の【乙案】を採用する場合には、現に戸籍に記載されている者に係る氏名の
振り仮名については、現に使用しているものである限り、基本的にこれを認
める必要があるものと考えられる(権利濫用に該当するものや公序良俗に反
するものについては、現に使用しているものであったとしてもこれを認める
べきではないと考えられる。
)が、どのように考えるか。
なお、届出(申出)に当たっては、現に使用しているものであることを証
する書面を提出しなければならないとの規律を設けることが考えられる。
第2 氏名の振り仮名の変更に関する事項
1 氏又は名の変更に伴わない場合の規律
戸籍法に次のような規律を設ける。
1 やむを得ない事由によって氏の振り仮名を変更しようとするときは、戸籍
の筆頭に記載した者及びその配偶者は、家庭裁判所の許可を得て、その旨を
届け出なければならない。
2 正当な事由によって名の振り仮名を変更しようとする者は、家庭裁判所の
許可を得て、その旨を届け出なければならない。
(補足説明)
1 これまでの議論の整理
氏名の振り仮名のみの変更に当たり、家庭裁判所の許可を不要とすれば、戸
籍窓口において変更の要件を審査することとなること、
氏又は名の変更手続(戸籍法第107条又は第107条の2)と異なるものとすると混乱が生じること
が懸念されることなどから、氏又は名の変更手続と同様に、家庭裁判所の許可
を要することとすべきとされた。5他方で、成年に達した時から1年以内に届け出る場合など、一定の場合に限
り、例外的に、家庭裁判所の許可を不要とし、届け出ることのみで氏名の振り
仮名を変更することを認めるべきであるとの意見もあった。
そこで、試案第3の1において、氏名の振り仮名の変更に当たり家庭裁判所
の許可を要することとした上で、
例外規定を設けない案
(試案第3の1
【甲案】)と、成年に達した時から1年以内に届け出る場合など、法務省令で定める一定
の場合に限り、家庭裁判所の許可を不要とし、届け出ることのみで氏名の振り
仮名を変更することができるとする例外規定を設ける案
(試案第3の1
【乙案】)を提案していた。
2 パブリック・コメントの概要
例外規定を設けるか否かは別として、氏名の振り仮名の変更に当たり家庭裁
判所の許可を要することとすることについては、団体、個人とも、賛成の意見
が多かった。
例外規定については、特に個人の意見として、これを設けるべきであるとす
る意見の方が多かった。
例外規定を設けるべきではないとする意見としては、氏名の振り仮名の変更
を求める理由・動機の判断は家庭裁判所において審理すべきであること、戸籍
窓口における負担が大きいことなどを理由とするものであった。
他方で、例外規定を設けるべきであるとする意見としては、氏名との関連性
が認められる範囲内での変更であれば大きな問題は生じないと考えられること、
性別違和を持つ人を念頭に、成年に達した時期に、必要であれば自分にふさわ
しいと思える名の振り仮名に変更しやすい制度とすべきことなどを理由とする
ものであった。
3 検討
(1) 家庭裁判所の許可
これまでの議論及びパブリック・コメントの意見を踏まえると、例外規定
を設けるか否かは別として、氏名の振り仮名の変更に当たり家庭裁判所の許
可を要することとすることについては、概ね異論がないと考えられることか
ら、試案第3の1【甲案】と同様の規律を提案している。
(2) 変更の要件
ア 自ら届け出た氏名の振り仮名を変更する場合
試案第3の1(注1)において、成年に達した者が自ら氏名の振り仮名
を届け出た(申し出た)後、これを変更しようとする場合には、その変更
の許否はより厳しく審査されるべきものとすることも考えられることを示
したところ、パブリック・コメントにおいては、要件や審査基準が明確に
定められなければ判断に困難をきたす懸念があるとの意見や、具体的事例
における判断の問題にすぎず、そのような規定を設ける必要はないという
意見など、消極的な意見が寄せられた。6成年に達した者が自ら氏名の振り仮名を届け出た(申し出た)後、これ
を変更しようとする場合、家庭裁判所における変更許可の審理において、
当該事情をも考慮した上で、個別の事情に応じて判断されることが考えら
れ、規律を設ける必要はないとも考えられるが、どのように考えるか。
イ 氏の振り仮名の変更の要件
試案第3の1(注2)において、氏の振り仮名の変更の要件について、
氏の変更(戸籍法第107条第1項)よりも緩和し、
「やむを得ない事由」
に代えて「正当な事由」とする案も考えられることを示したところ、氏の
振り仮名が頻繁に変更されることを制度的に抑止できればよいとして、こ
れに賛成する意見があった一方で、氏の変更と氏の振り仮名の変更の要件
は同様であるべきとして、これに反対する意見もあった。
氏の振り仮名については、今般の法制化を機に、氏と同様に、本人確認
事項の一つとして活用されることが想定されるものであるところ、氏とそ
の振り仮名とで、変更の要件に差異を設ける合理的な理由及び必要性を見
出すことができないのであれば、氏の変更と同様に、氏の振り仮名につい
ても、
「やむを得ない事由」を変更の要件とすることが考えられるが、どの
ように考えるか。
(3) 氏の振り仮名に係る例外規定の要否
民法第791条第4項において、
子の氏の変更につき、
「前三項の規定によ
り氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から一年以内に戸籍法の定める
ところにより届け出ることによって、
従前の氏に復することができる。」と規
定されており、氏に係る例外規定は、民法第791条第4項の規定を参考と
するものである。もっとも、同条の場合には、復する氏が従前の氏に制限さ
れているのであって、変更後の氏の振り仮名を自由に決定することができる
とするのは相当でないようにも考えられる。
また、民法第790条において、嫡出子は父母の氏を称し、嫡出でない子
は母の氏を称することとされていることから、帰化の際に新たに氏を定めた
者など、一部を除き、氏は父母及びその先祖から受け継がれるものであり、
氏の振り仮名もまた、
父母と同じものを用いている場合が多いと考えられる。
このような氏及びその振り仮名の性質に照らしても、変更後の氏の振り仮名
を自由に決定することができるとするのは相当でないように考えられる。
そこで、氏の振り仮名に係る例外規定については、これを設けないことと
することが考えられるが、どのように考えるか。
なお、民法第791条第4項により子が従前の氏に復する場合には、当該
従前の氏の振り仮名として戸籍に記載された振り仮名が子の氏の振り仮名に
なると考えられる。
(4) 名の振り仮名に係る例外規定の要否
これまでの議論では、氏名は、社会において個人を識別する機能を有する7ものであり、氏名の振り仮名もまた、同様の機能を有するものであるとの指
摘があり、こうした観点から、家庭裁判所による審査を経ることなく、氏名
の振り仮名の変更を認めることには否定的であるとの意見が複数あった。
名の振り仮名については、今般の法制化を機に、名と同様に、本人確認事
項の一つとして活用されることが想定されるものであり、期間や回数の制約
を設けるとしても、成年に達したことを契機として名の振り仮名の変更を自
由に認めることについて、相応の理由及び必要性を見出すことができないの
であれば、名の振り仮名に係る例外規定を設けないこととすることが考えら
れるが、どのように考えるか。
2 氏又は名の変更に伴う場合の規律
戸籍法第107条及び第107条の2の規律を次のように改める。
1 戸籍法第107条第1項の規定により氏を変更しようとするときは、家庭
裁判所の許可を得た変更後の氏及びその振り仮名を届け出なければならない。
2 戸籍法第107条第2項の規定により外国人配偶者の称している氏に変更
しようとするときは、婚姻の日から6か月以内に限り、家庭裁判所の許可を
得ないで、その旨及び変更後の氏の振り仮名を届け出ることができる。
3 戸籍法第107条の2の規定により名を変更しようとする者は、家庭裁判
所の許可を得た変更後の名及びその振り仮名を届け出なければならない。
(補足説明)
1 これまでの議論の整理
氏名の振り仮名については、家庭裁判所の許可を不要とし、氏又は名の変更
の許可を得た後、氏又は名の変更の届出時にこれらの振り仮名の届出をすれば
足りるとすることも検討されたが、戸籍窓口において、氏名の振り仮名が相当
でないものであるとして、その届出が受理されない場合には、再度、氏名の振
り仮名の変更について家庭裁判所の許可を得る必要があることなどを理由に、
氏又は名とこれらの振り仮名について、併せて家庭裁判所の許可を得ることと
するのが相当であるとされた。
2 パブリック・コメントの概要
団体、個人とも、賛成の意見が多かった。なお、反対の意見の理由は、届出
のみで変更を可能とすべきというものであった。
3 検討
上記1のとおり、氏又は名の変更の届出時にこれらの振り仮名の届出をすれ
ば足りるとした場合には支障が生じ得ることから、試案第3の2と同様の規律
を提案している。
以 上