法制審議会第196回会議配布資料 民3-3
民事執行・民事保全・倒産及び家事
事件等に関する手続(IT化関係)
の見直しに関する中間試案の補足説明
民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等
に関する手続(IT化関係)の見直しに関
する中間試案の補足説明
この文書は、法制審議会民事執行、民事保全、倒産及び家事事件等に関する手
続(IT化関係)部会が令和4年8月5日に決定した「民事執行・民事保全・倒
産及び家事事件等に関する手続の見直しに関する中間試案」の全文を掲載した上
で、項目ごとに説明を加える「(補足説明)」欄を付したものである。この「(補
足説明)」欄は、いずれも同部会における審議の対象とされたものではなく、専
ら事務当局(法務省民事局参事官室)の文責において、中間試案の内容を理解し
ていただく一助とする趣旨で記載したものである。
令和4年8月
法務省民事局参事官室
はじめに
近年の科学技術の進展により、ITの利用が国民にとって身近な存在になったこ
とを踏まえ、利用者の目線に立って裁判手続の利便性を向上させることが重要な課
題となっている。
民事訴訟手続については、令和4年2月、法制審議会第194回会議において、
民事訴訟手続を全面的にIT化することを内容とする「民事訴訟法(IT化関係)
等の改正に関する要綱」が取りまとめられた。その後、同年3月に同要綱に基づい
て民事訴訟法等の一部を改正する法律案が国会に提出され、同年5月18日、民事
訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)が成立した。この法改正
によって、民事訴訟手続は全面的にIT化されることとなる。
他方で、裁判手続には民事訴訟手続以外にも、民事執行、民事保全、倒産及び家
事事件の手続などといった重要な民事・家事関係の裁判手続があり、これらの裁判
手続についてもIT化を進めることは、重要な課題である。令和3年6月に閣議決
定された「成長戦略フォローアップ工程表」及び「規制改革実施計画」においては、
家事事件手続及び民事保全、執行、倒産手続等のIT化に関する検討を継続し、令
和4年度中に一定の結論を得ることとされ、同年12月に閣議決定された「デジタ
ル社会の実現に向けた重点計画」においては、令和5年の通常国会に必要な法案を
提出することとされた。
このような状況を踏まえ、令和4年2月、上記の法制審議会第194回会議にお
いて、法務大臣から、近年における情報通信技術の進展等の社会経済情勢の変化へ
の対応を図るとともに、時代に即して、民事執行手続、民事保全手続、倒産手続、
家事事件手続といった民事・家事関係の裁判手続をより一層、適正かつ迅速なもの
とし、国民に利用しやすくするという観点から、これらの手続に係る申立書等のオ
ンライン提出、事件記録の電子化、情報通信技術を活用した各種期日の実現など法
制度の見直しについて諮問がされ
(第120号)、その調査審議のため、民事執行・
民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続(IT化関係)部会(部会長・山本和
彦一橋大学大学院教授)が設置された。
部会は、令和4年4月から調査審議を開始し、同年8月の第8回会議において、
「民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続の見直しに関する中間試
案」を取りまとめ、これを事務当局である法務省民事局(参事官室)において公表
し、意見募集手続を行うこととされた。
今後、本試案に対して寄せられた意見を踏まえ、部会において、要綱案の取りま
とめに向けて、引き続き審議を行うことが予定されている。
なお、この補足説明は、本試案の内容の理解に資するため、部会での審議状況を
踏まえ、本試案の各項目について、その趣旨等を補足的に説明するものであり、事
務当局である法務省民事局(参事官室)の責任において作成したものである。
用語の定義
令和4年改正法 民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律第48号)
部会 民事執行・民事保全・倒産及び家事事件等に関する手続(IT化関係)部会
民執法 民事執行法
民執規則 民事執行規則
民保法 民事保全法
民再法 民事再生法
非訟法 非訟事件手続法
民調法 民事調停法
民調規則 民事調停規則
特定調停法 特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律
労審法 労働審判法
人訴法 人事訴訟法
人訴規則 人事訴訟規則
家事法 家事事件手続法
家事規則 家事事件手続規則
ハーグ条約実施法 国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約の実施に関する法律
※(注記) 中間試案又は補足説明中で掲げている現行法の規定は、いずれも令和4年改正法による改
正後のものである(令和4年改正法の内容は、別添の「参照条文(民事訴訟法等の一部を改正
する法律(令和4年法律第48号)による改正後の条文)」と題する資料及び法務省ホームペ
ージ(https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00293.html)に掲載している新旧対照条文参
照)。
目次
第1 民事執行........................................................... 1
1 裁判所に対する申立て等............................................. 1
2 提出された書面等及び記録媒体の電子化............................... 5
3 裁判書及び調書等の電子化.......................................... 11
4 期日におけるウェブ会議及び電話会議の利用.......................... 11
5 売却及び配当...................................................... 18
6 電子化された事件記録の閲覧等...................................... 22
7 送達等............................................................ 25
8 債務名義の正本の提出・執行文の付与................................ 28
9 執行官と民事執行の手続のIT化.................................... 31
10 その他.......................................................... 32
第2 民事保全.......................................................... 34
1 裁判所に対する申立て等............................................ 34
2 提出された書面等及び記録媒体の電子化.............................. 35
3 裁判書及び調書等の電子化.......................................... 37
4 期日におけるウェブ会議及び電話会議の利用.......................... 38
5 電子化された事件記録の閲覧等...................................... 40
6 送達.............................................................. 42
7 その他............................................................ 43
第3 破産手続.......................................................... 45
1 裁判所に対する申立て等............................................ 45
2 提出された書面等及び記録媒体の電子化.............................. 51
3 裁判書及び調書等の電子化.......................................... 55
4 期日におけるウェブ会議及び電話会議の利用.......................... 55
5 電子化された事件記録の閲覧等...................................... 59
6 送達.............................................................. 61
7 公告.............................................................. 62
8 その他............................................................ 64
第4 民事再生、会社更生、特別清算及び外国倒産処理手続の承認援助の手続.. 65
第5 非訟事件.......................................................... 66
1 裁判所に対する申立て等............................................ 66
2 提出された書面等及び記録媒体の電子化.............................. 69
3 裁判書及び調書等の電子化.......................................... 74
4 期日におけるウェブ会議又は電話会議の利用.......................... 75
5 和解調書の送達又は送付............................................ 76
6 電子化された事件記録の閲覧等...................................... 78
7 送達等............................................................ 81
8 公示催告事件における公告.......................................... 82
9 その他............................................................ 83
第6 民事調停.......................................................... 85
1 裁判所に対する申立て等............................................ 85
2 提出された書面等及び記録媒体の電子化.............................. 86
3 裁判書及び調書等の電子化.......................................... 87
4 期日におけるウェブ会議又は電話会議の利用.......................... 88
5 調停調書の送達又は送付............................................ 88
6 事件記録の閲覧等.................................................. 89
7 送達等............................................................ 91
8 その他............................................................ 92
第7 労働審判.......................................................... 93
1 裁判所に対する申立て等............................................ 93
2 提出された書面等及び記録媒体の電子化.............................. 94
3 裁判書及び調書等の電子化.......................................... 96
4 期日におけるウェブ会議又は電話会議の利用.......................... 97
5 調停調書等の送達又は送付.......................................... 98
6 電子化された事件記録の閲覧等..................................... 100
7 送達等........................................................... 101
8 その他........................................................... 101
第8 人事訴訟......................................................... 102
1 裁判所に対する申立て等........................................... 103
2 提出された書面等及び記録媒体の電子化............................. 104
3 裁判書等及び報告書の電子化....................................... 109
4 期日におけるウェブ会議及び電話会議の利用......................... 110
5 和解調書等の送達................................................. 113
6 電子化された訴訟記録の閲覧等..................................... 114
7 送達............................................................. 119
8 その他........................................................... 119
第9 家事事件......................................................... 120
1 裁判所に対する申立て等........................................... 120
2 提出された書面等及び記録媒体の電子化............................. 123
3 裁判書等及び報告書の電子化....................................... 132
4 期日におけるウェブ会議及び電話会議の利用......................... 133
5 当事者双方が受諾書を提出する方法による調停....................... 137
6 調停調書の送達又は送付........................................... 138
7 電子化された事件記録の閲覧等..................................... 139
8 送達等........................................................... 144
9 その他........................................................... 146
第10 子の返還申立事件の手続(ハーグ条約実施法)..................... 147
第11 その他......................................................... 1481(前注) 本試案では、特段の断りがない限り、民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年
法律第48号)による改正後の民事訴訟法を指して、
「民訴法」の用語を用いている。
第1 民事執行
1 裁判所に対する申立て等
(1) インターネットを用いてする申立て等の可否
民事執行の手続において裁判所(執行官を除く。以下1及び2において同
じ。)に対して行う申立てその他の申述(以下「申立て等」という。)につ
いては、民訴法第132条の10の規定を準用し、全ての裁判所に対し、一
般的に、インターネット(電子情報処理組織)を用いてすることができるも
のとする。
(注) 申立て等をインターネットを用いてする際の方法としては、システム上のフォーマ
ット入力の方式を検討すべきとの考え方がある。
(補足説明)
1 令和4年改正法による民訴法改正及び現行の民執法
(1) 令和4年改正法による民訴法改正
令和4年改正法により、
民訴法においては、
民事訴訟手続において、
全ての裁判所に対
する申立て等について一般的にインターネットを用いてすることができるとされている
(民訴法第132条の10)。
(2) 現行の民執法
現行の民執法においては、
民事執行の手続における申立て等のうち、
最高裁判所の定め
る裁判所に対してするものについては、
最高裁判所規則で定めるところにより、
インター
ネットを用いてすることができるとされている(同法第19条の2)。
2 インターネットによる申立て等の可否(試案の1(1))
試案の1(1)は、民事執行の手続において裁判所に対して行う申立て等についても、手続
の利便性を向上するとともに、
迅速な手続を実現する観点から、
民訴法第132条の10の
規定を準用し、全ての裁判所に対し、一般的に、インターネット(電子情報処理組織)を用
いてすることができるものとすることを提案している。
なお、
民事執行の手続において裁判所に対して行う申立て等としては、
強制執行の申立て
のほか、
債権者等による配当要求
(民執法第51条等)
や債権執行における第三債務者の陳
述(同法第147条)、第三者からの情報取得手続における情報の提供(同法第208条)
などがある。
また、ここでいう「裁判所」には「裁判所書記官」も含まれる(民訴法第132条の102における「裁判所」は、裁判所書記官等を含むものとして定義されている。)ので、試案の
1(1)は、裁判所書記官に対して行う申立て等も、一般的にインターネットを用いてするこ
とができることとすることも提案している。なお、執行官に対して行う申立て等について
は、試案の9で取り上げている。
3 インターネットによる申立て等の方法(試案の(注))
民事執行の手続における申立て等をインターネットを用いてすることを可能とした場合
には、
それは、
今後構築される裁判所のシステムを通じて行うことが想定されている。
その
ため、
インターネットによる申立て等の具体的な方法については、
システムの具体的な内容
も踏まえて検討されることとなる。
部会においては、インターネットによる申立て等の具体的な方法についても議論がされ、
申立て等に係るデータ(例えば、PDF化されたデータ)をアップロードする方法のほか
に、利用者の便宜のため、
例えば、システム上、申立て等に利用することができる定型的な
フォームを用意し、当該フォームに必要事項を入力することにより申立て等をすることが
できるような仕組みを導入すべきであるとの意見があった。
このような議論は、
今後の検討
に際しても参考になると思われることから、試案の(注)では、このような考え方があった
ことを記載している。
(2) インターネットを用いてする申立て等の義務付け
ア 委任を受けた代理人等
民事執行の手続において、民訴法第132条の11の規定を準用し、民
事訴訟手続においてインターネットを用いて申立て等をしなければならな
い委任を受けた代理人等は、裁判所に対して行う申立て等をインターネッ
トを用いてしなければならないものとする。
イ 管理人等
【甲案】
強制管理の手続における管理人等の民事執行の手続において裁判所か
ら選任された者は、当該選任を受けた民事執行の手続において裁判所に
対して行う申立て等をインターネットを用いてしなければならないもの
とする。
【乙案】
強制管理の手続における管理人等の民事執行の手続において裁判所か
ら選任された者について、特段の規律を設けないものとする。3(補足説明)
1 検討の必要性及び令和4年改正法による民訴法改正
申立て等がインターネットを用いてされることにより、関係者間における情報のやり取
りがより円滑なものとなり、
効率的なものとなることが期待される。
また、
インターネット
を用いて申立て等がされると、
その内容は、
スキャン等の作業を要せずに、
そのまま電子的
な事件記録とすることが可能となり、
書面管理等のコストを削減でき、
さらには、
手続の迅
速化・効率化が図られることとなって、
手続に関する社会全体のコストが削減されることと
なる。
このような観点からすれば、
可能な限り、
その申立て等がインターネットを用いてさ
れることが望ましいと考えられる。
令和4年改正法により、
民訴法においては、
1委任を受けた訴訟代理人
(同法第54条第
1項ただし書の許可を得て訴訟代理人となったものを除く。)、
2国の利害に関係のある訴
訟についての法務大臣の権限等に関する法律の規定による指定を受けた者及び3地方自治
法第153条第1項の規定による委任を受けた職員は、裁判所に対して申立て等を行う場
合には、
インターネットを用いてしなければならないこととされた
(民訴法第132条の1
1)。これは、これらの者は職務として民事訴訟手続に関与するものであるから、手続の迅
速化・効率化に率先して取り組むことを期待することができ、また、一般に、インターネッ
トによる申立て等に対応する能力を十分に有していると考えられたことなどによる。他方
で、
委任を受けた訴訟代理人等以外の者については、
インターネットを用いて申立て等をす
ることを義務付けることとはされていない。委任を受けた訴訟代理人等以外の者にインタ
ーネットを用いた申立て等を義務付けることとすると、
現状では、
これに十分に対応するこ
とができない者が一定数存在するものと考えられ、これらの者の裁判を受ける権利にも影
響を及ぼすことが危惧されたためである。
部会においては、
民訴法改正の趣旨を踏まえつつ、
民事執行の手続においても、
インター
ネットによる申立て等の義務付けに関する規律を設けることが検討されている。
2 委任を受けた代理人等(試案の1(2)ア)
試案の1(2)アでは、民事執行の手続においても、令和4年改正法による民訴法改正の考
え方が妥当すると考えられることから、
民訴法第132条の11の規定を準用し、
民事訴訟
手続と同様に、
民事執行の手続における委任を受けた代理人等について、
インターネットに
よる申立て等を義務付けることを提案し、
他方で、
それ以外の者については、
インターネッ
トを用いて申立て等をすることを義務付けることは提案していない
(ただし、
管理人等及び
他の考え方については、試案の1(2)イ及び(後注)参照)。
3 管理人等(試案の1(2)イ)
(1) 議論の状況等4民事執行の手続においては、
裁判所から選任された者が手続に関与することがある。具体的には、評価人(民執法第58条第1項)、管理人(同法第94条第1項)及び保管人
(同法第116条第1項)
がこれに当たり、
これらの者について、
インターネットによる
申立て等を義務付けるかどうかが問題となり得る。
部会においては、
民事執行の手続のIT化を進めるためには、
これらの者に対してイン
ターネットによる申立て等を義務付ける必要性があるとの意見もあった。
他方で、
委任を
受けた代理人等と異なり、
弁護士等に限らず、
様々な背景を有する者が選任されることも
あり得ることや、インターネットを利用することができることがこれらの者等に選任さ
れる際の一種の資格となることは妥当ではないこと、管理人等に就任する者がインター
ネットを利用することができる者であれば、法律上特段義務付けなくともインターネッ
トを利用して申立て等をすることが期待されることなどの理由から、インターネットに
よる申立て等の義務付けを行うことは相当でないという意見もあった。
(2) 甲案
甲案は、
上記の意見を踏まえ、
管理人等の民事執行の手続において裁判所から選任され
た者について、その選任された者として関与する手続においてはインターネットによる
申立て等を義務付けるものとすることを提案するものである。
なお、
この甲案は、
裁判所から選任された者が、
その選任された者として関与する手続
において申立て等をする際にインターネットの利用を義務付けるものであり、その選任
された手続以外の手続でのインターネットの利用を義務付けるものではない。
(3) 乙案
乙案は、
上記の意見を踏まえ、
特段の規律を設けない
(インターネットによる申立て等
を義務付けない)ものとすることを提案するものである。
(後注) 本文の考え方のほか、民事執行の手続における申立て等については、インター
ネットを用いて申立て等をすることが困難であると認められる者を除き、
全ての者
が、
インターネットを用いてこれをしなければならないものとするとの考え方があ
る。
(補足説明)
前記のとおり、試案の1(2)ア及びイの甲案は、委任を受けた代理人等や、裁判所から選任
された者
(管理人等)
に対してインターネットによる申立て等を義務付けることを提案するも
のであるが、
それ以外の者については、
インターネットを用いて申立て等をすることができる
ようにしているものの、これを義務付けることとはしないものである。
他方で、
部会では、
これとは別に、
民事執行の手続において申立て等を行う全ての者につい
て、
原則としてインターネットによる申立て等を義務付けた上で、
インターネットによる申立5て等に対応することが困難である者に限り、例外的に書面による申立て等を認めることとす
べきであるとの考え方もあり、試案の(後注)は、この考え方を記載するものである。
この考え方は、
民事執行の手続については、
類型化可能な申立て等が多いため、
システムを
使いやすいものとすることにより、ほとんどの者がインターネットによる申立て等に対応す
ることが可能であると考えられること、例外的にそのような申立て等に対応することが難し
い者については、
例外として書面による申立てを認めることとすれば、
そのような者の手続保
障に欠けるところはないと考えられること等をその根拠とするものである。
ただし、
この考え方に対しては、
民事訴訟手続と区別する合理的な理由がなく、
委任を受け
た代理人等以外の者にインターネットを用いた申立て等を義務付けることとすると、現状で
は、
これに十分に対応することができない者が一定数存在するものと考えられ、
これらの者の
裁判を受ける権利にも影響を及ぼすことが危惧されるために、
反対する意見があることは、前記のとおりである。
2 提出された書面等及び記録媒体の電子化
(1) 提出された書面等及び記録媒体の電子化の対象事件等
(注)のいずれかの考え方を採用した上で、裁判所に提出された書面等(民
訴法第132条の10第1項に規定する書面等をいう。以下同じ。)及び記
録媒体(電磁的記録を記録した記録媒体をいう。以下同じ。)につき、下記
(2)の電子化のルールを適用し、裁判所書記官において提出された書面等及
び記録媒体を裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイル(以下単
に「ファイル」という。)に記録しなければならないものとする。
(注) 裁判所に提出された書面等及び記録媒体について、法律上、全ての事件につき下記
(2)の電子化のルールを適用するとの考え方
(A案)
と、
電子化を目指しつつも、
民事
執行の手続の特性を考慮し、
裁判所の判断で電子化することが可能であることを前提
とした上で、法律の定めとしては、一定の範囲で、下記(2)の電子化のルールを適用
するとの考え方(B案)がある。
A案の中には、全ての事件につき、下記(2)の電子化のルールをそのまま適用する
との考え方(A-1案)のほかに、申立て等以外の書面等及び記録媒体のルールであ
る下記(2)2の電子化をしない場合の要件につき「ファイルに記録することにつき困
難な事情があるとき」に代えて、民事執行の手続の特性を考慮し、より柔軟な運用を
可能とする要件を置いた上で、下記(2)の電子化のルールを適用するとの考え方があ
る(A-2案)。
B案の中には、1法律上、下記(2)の電子化のルールを適用する事件を一定の範囲
のものとする考え方(B-1案)、2一定の基準を定めて下記(2)の電子化のルール
を適用する
(電子化の意義を踏まえて一定の基準を定めて法律上電子化しなければな6らないものとする)考え方(B-2案)、3当事者を含む利害関係を有する者の申出
があった場合に下記(2)の電子化のルールを適用する(当事者を含む利害関係を有す
る者の申出があった場合に電子化しなければならないものとする)
考え方
(B-3案)
がある。
(補足説明)
1 現行の民執法及び令和4年改正法による民訴法改正
(1) 現行の民執法
現行の民執法の下では、
事件記録は書面により管理されており、
裁判所に提出された書
面等や記録媒体(以下、これらを併せて単に「書面等」という。)については、これらを
そのまま編てつすることにより事件記録が作成されている。
(2) 令和4年改正法による民訴法改正
令和4年改正法により、
民訴法においては、
裁判所書記官は、
書面等が提出された場合
には、その内容を裁判所の使用に係る電子計算機に備えられたファイル(裁判所のサーバ)に記録し、
これを電子化しなければならないなどとしている
(民訴法第132条の1
2及び第132条の13)。これは、提出された書面等をファイルに記録することによ
り、
インターネットを用いて裁判所外からこれを閲覧することや、
インターネットを用い
てこれを送達することなどを可能とし、当事者の利便性を向上させること等を目的とす
るものである。
2 提出書面等及び記録媒体の電子化(試案の2(1))
民事執行の手続においても、
民事訴訟手続と同様に、
利便性向上の観点から、
裁判所に提
出された書面等をファイルに記録し、
これを電子化することとすることが考えられ、
部会で
は、
その電子化をすることにつき積極的な意見が出された。
他方で、
民事訴訟と異なり対立
構造にない民事執行の手続では、提出した書面等を電子化してもインターネットを通じた
閲覧等が想定されない局面が相当程度存在し、そのような局面でも、裁判所書記官(裁判
所)において一律に全ての書面等を電子化するコストをかけなければならないとすること
には疑問があるなどとして、
将来的には、
提出された書面等を含む事件記録の全面電子化を
目指すとしても、民事訴訟手続における電子化のルールを全ての事件に直ちに適用するこ
と等に慎重な意見もあった。
民事執行の手続についても、基本的に、試案の2(2)の電子化のルールを適用し、提出さ
れた書面等を電子化していくことが考えられるが、その具体的な規律については、試案の
(注)のとおり、検討することが考えられ、試案の2(1)は、このことについて記載するも
のである。73 各案の内容(試案の(注))
試案の(注)は、提出された書面等の電子化のルールを適用する事件等の範囲について、
想定される具体的な考え方の例を提示するものである
(なお、
適用される電子化のルールの
具体的な内容については、試案の2(2)で取り上げている。)。
(1) A案(全ての事件について電子化のルールを適用する考え方)
前記のとおり、
提出された書面等を電子化することにより、
インターネットを通じた事
件記録の閲覧等をすることが可能となり、申立債権者や債務者の利便性の向上が図られ
る等のメリットがある。
このようなメリットを最大化する観点からは、
民事執行の手続に
おいても、
裁判所に提出された全ての書面等について、
電子化のルールを適用することが
望ましいとの考え方がある。試案の(注)では、このような考え方をA案として記載して
いる。
一方で、
このような考え方の中でも、
適用すべき電子化のルールの内容をどのように考
えるかによって、異なる考え方があり得る。具体的には、まず、1民事訴訟手続における
のと同様の電子化のルールを適用する考え方(A-1案)がある。
そのほか、2申立て等以外の書面等の電子化のルールである試案の2(2)2の電子化を
しない場合の要件につき
「ファイルを記録することにつき困難な事情があるとき」
に代え
て、
民事執行の手続の特性を考慮し、
より柔軟な運用を可能とする要件を置いた上で、試案の2(2)の電子化のルールを適用するとの考え方がある(A-2案)。これは、民事執
行の手続において申立て等以外で裁判所に提出される書面等には種々雑多なものが含ま
れるものであるため、その電子化について柔軟な運用を可能とすることを意図するもの
である。
(2) B案(一定の範囲で電子化のルールを適用する考え方)
民事執行の手続は、民事訴訟手続のような当事者対立構造が採られていないこと等と
の関係で、全ての事件における全ての提出書面等につき電子的な閲覧等のニーズがある
とは限らないため、
電子化のルールを全ての事件につき当然に適用するのではなく、
一定
の範囲で適用するとの考え方もある。試案の(注)では、このような考え方をB案として
記載している。なお、B案は、電子化のルールが適用されないものについて、裁判所書記
官の裁量により電子化することもできることを前提としている。
B案の中には、1法律上、試案の2(2)の電子化のルールを適用する事件を一定の範囲
のものとする考え方(B-1案)と、2一定の基準を定めて試案の2(2)の電子化のルー
ルを適用する(電子化の意義を踏まえて事件類型以外の一定の基準を定めて法律上電子
化しなければならないものとする)考え方(B-2案)、3当事者を含む利害関係を有す
る者の申出があった場合に試案の2(2)の電子化のルールを適用する(当事者を含む利害
関係を有する者の申出があった場合に電子化しなければならないものとする)
考え方(B-3案)がある。8B-1案は、
コストに比しても電子化のニーズが高い事件類型については、
電子化のル
ールを適用し、
他方で、
コストに比して電子化のニーズが高いとはいえない事件類型につ
いては、
裁判所の裁量で適宜電子化することとするものである。
もっとも、
この案につい
ては、事件類型を適切に抽出することが可能であるかが課題となる。
B-2案は、
一定の事件類型かどうかに関係なく、
必要に応じて、
電子化することを担
保するために、電子化の意義を踏まえて一定の基準を定めて電子化のルールを適用する
との考え方である。
例えば、
インターネットによる記録の閲覧等を認める必要があると認
められるときは、
電子化のルールを適用するといったことが考えられるが、
その基準を適
切に定めることができるのかなどが課題となる。
B-3案は、当事者を含む利害関係を有する者の申出があった場合に試案の2(2)の電
子化のルールを適用する考え方である。
これは、
提出書面等の電子化によるメリットのう
ち大きなものは、
インターネットを利用した閲覧等を可能とすることであるが、
そのメリ
ットがどの事件で必要であるかどうかは、
基本的には、
事件ごとの利用者の判断であって
一律の線引きは困難と思われることや、
一律に、
電磁的記録で提出されたもののほか、提出された書面等をその都度電子化する作業を要求することにより生ずる負担等を考慮す
るものである。
この案については、
提出された書面等を含む事件記録の電子化のメリット
は、オンラインによる閲覧等が可能となるという当事者を含む利害関係を有する者が享
受するものだけではなく、記録の管理や保管の効率化といったより公益的な観点による
ものも想定されるところ、提出された書面等を電子化しなければならないかどうかを閲
覧等の請求ができる者
(当事者を含む利害関係を有する者)
の申出にかからしめることに
より、これらの者のニーズのみによることになることが、制度として合理的といえるか、
といった指摘がある。
そのほか、試案の(注)のB-1案とB-3案は矛盾するものではなく、例えば、電子
化のルールを当然に適用する事件を一定の範囲のものとしつつ、そのような事件以外の
事件については当事者を含む利害関係を有する者の申出があった場合に電子化するとい
う考え方もあり得る。
(2) 提出された書面等及び記録媒体の電子化のルール
民訴法第132条の12及び第132条の13と同様に、裁判所に提出さ
れた書面等及び記録媒体の電子化のルールとして、次のような規律を設ける
ものとする。
1 申立て等が書面等により行われたときは、裁判所書記官は、当該書面等
に記載された事項をファイルに記録しなければならない。ただし、当該事
項をファイルに記録することにつき困難な事情があるときは、この限りで
ない。92 裁判所書記官は、1の申立て等に係る書面等のほか、民事執行の手続に
おいて裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記載され、又は記録され
ている事項をファイルに記録しなければならない。ただし、当該事項をフ
ァイルに記録することにつき困難な事情があるときは、この限りでない。
3 裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記載され、又は記録されてい
る事項のうち、次のものについては、1及び2の規律にかかわらず、ファ
イルに記録することを要しない。
i 第三者の閲覧等の制限の申立てがあった営業秘密(不正競争防止法第
2条第6項に規定する営業秘密をいう。以下同じ。)のうち特に必要が
あるもの
ii 秘匿決定の申立てがあった場合における秘匿事項の届出(民訴法第1
33条第2項の規定による届出をいう。以下同じ。)に係る事項
iii 当事者の閲覧等の制限の申立て又は当事者の閲覧等の制限の決定があ
った閲覧等の制限がされるべき事項のうち必要があるもの
(注) 民訴法第92条第9項及び第10項、第133条の2第5項及び第6項並びに第1
33条の3第2項と同様に、
インターネットを用いた提出によりファイルに記録され
た電子化された事件記録のうち、
1第三者の閲覧等の制限の申立てがあった営業秘密
のうち特に必要がある部分又は2当事者の閲覧等の制限の申立て若しくは当事者の
閲覧等の制限の決定があった閲覧等の制限がされるべき事項が記録された部分は、その内容を書面に出力し、又はこれを他の記録媒体に記録するとともに、当該部分を電
子化された事件記録から消去する措置その他の当該部分の安全管理のために必要か
つ適切なものとして最高裁判所規則で定める措置を講ずることができるものとする。
(補足説明)
1 令和4年改正法による民訴法の改正
令和4年改正法により、民訴法は、民事訴訟手続では、申立て等に係る書面等のほか、裁
判所に対して提出された書面等及び記録媒体については、
これらに記載され、
又は記録され
た事項をファイルに記録しなければならないとしている(民訴法第132条の12第1項
及び第132条の13)。
他方で、ファイルに記録することの例外(その書面等や記録媒体のまま記録とすること)
についても定められており、当該事項をファイルに記録することにつき困難な事情がある
場合には、
ファイルに記録することを要しないこととされている
(民訴法第132条の12
第1項ただし書及び第132条の13ただし書)。ここでいう、
困難な事情がある場合とし
ては、
例えば、
提出されたものが建築図面であり、
的確に電子化することが困難であるとき
や、
書籍が一冊提出されており、
その内容を全て電子化して記録することが困難であるとき10が該当し、物理的にこれをファイルに記録することが困難であるときが想定されている。
また、
次の各事項については、
ファイルに記録することなく、
書面等や記録媒体のまま保
管し、
他の記録と別に管理することを可能とするため、
ファイルに記録することを要しない
こととされている。
1 民訴法第92条第1項の申立て
(第三者閲覧等の制限の申立て)
があった営業秘密のう
ち特に必要があるもの(同法第132条の12第1項第1号及び第132条の13第1号)2 民訴法第133条第1項の申立て
(秘匿決定の申立て)
があった場合における同条第2
項の秘匿事項の届出に係る事項(同法第132条の12第1項第2号及び第132条の
13第2号)
3 民訴法第133条の2第2項の申立て
(当事者の閲覧等の制限の申立て)
又は同法第1
33条の3第1項の規定による決定
(当事者の閲覧等の制限の決定)
があった閲覧等の制
限がされるべき事項
(秘匿事項等)
のうち必要があるもの
(同法第132条の12第1項
第3号並びに第132条の13第3号及び第4号)
2 提出された書面等及び記録媒体の電子化のルール(試案の2(2))
試案の2(2)は、民事執行の手続においても、民事訴訟手続と同様の電子化のルールを適
用することを提案するものである(ただし、試案の2(1)の(注)のとおり、民事執行の手
続においてより柔軟な運用を可能とするため、
一定の修正を施す考え方
(A-2案)
がある
ことは前記のとおりである。)。
なお、試案の2(2)1及び2の「ファイルに記録することにつき困難な事情があるとき」
とは、
前記における民訴法におけるものと同様に、
物理的にこれをファイルに記録すること
が困難であるときを想定している。
3 ファイルに記録された事項に係る安全管理措置(試案の(注))
(1) 令和4年改正法による民訴法の改正
前記のとおり、
民訴法は、
裁判所に提出された書面等のうち、
営業秘密や秘匿事項等が
記載された部分については、
ファイルへの記録を要しないこととしているが、
裁判所に対
し、
書面等ではなく、
インターネットにより電子データが提出され、
それがファイルに記
録された場合においても、
同様の観点から、
ファイルに記録された営業秘密や秘匿事項等
に係る部分について、
書面に出力してこれを訴訟記録として保管し、
ファイルに記録され
た部分は当該ファイルから消去する等の措置をとることができることとしている(民訴
法第92条第9項及び第10項、第133条の2第5項及び第6項並びに第133条の
3第2項)。
(2) 試案の(注)の提案11試案の(注)は、民事執行の手続においても、民事訴訟手続と同様に、ファイルに記録
された営業秘密や秘匿事項等に係る部分について、このような措置をとることができる
こととすることを提案している。
3 裁判書及び調書等の電子化
裁判官が作成する裁判書並びに裁判所書記官が作成する調書及び配当表等に
ついて、書面による作成に代えて、最高裁判所規則で定めるところにより、電
磁的記録により作成するものとする。
(補足説明)
令和4年改正法により、
民訴法においては、
裁判所が作成する判決書や裁判所書記官が作成
する調書等について、
電磁的記録によりこれを作成することとされている
(同法第160条第
1項及び第252条第1項)。
民事執行の手続においても、裁判所は、裁判書や交付計算書(民執法第84条第2項)を作
成することがあり、また、裁判所書記官は、物件明細書(同法第62条第1項)や配当表(同
法第85条第5項)を作成することがある。これらについては、現行の民執法上、書面で作成
することが前提とされているが、試案の3は、民事訴訟手続と同様に、これらについても電磁
的記録により作成するものとする
(電磁的記録がいわゆる原本となる)
ことを提案するもので
ある。
なお、試案の2(1)では、一定の範囲で、試案の2(2)の電子化のルールを適用しないことも
検討しているが、試案の3の提案は、仮に、一定の範囲で、試案の2(2)の電子化のルールを
適用しないとしても、それとは関係なく、裁判書や調書等は、一律に、電磁的記録により作成
することを提案するものである。
また、電磁的記録により作成された裁判書等は、当該電磁的記録がいわゆる原本となるが、
例えば、
そのような裁判がされたことを証明する文書の交付を請求することは可能である(試案の6参照)。
4 期日におけるウェブ会議及び電話会議の利用
(1) 口頭弁論の期日
口頭弁論の期日について、民訴法第87条の2第1項及び第3項の規定を
準用し、裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判
所規則で定めるところにより、映像と音声の送受信により相手の状態を相互
に認識しながら通話をすることができる方法(以下「ウェブ会議」という。)
を当事者に利用させることができるものとする。12(補足説明)
民事執行の手続においても、任意で、口頭弁論の期日を開くことができる(任意的口頭弁論
の原則。民執法第4条参照)。
ところで、
令和4年改正法により、
民訴法においては、
当事者の利便性を向上するとともに、
迅速かつ効率的な手続を実現する観点から、
口頭弁論の期日につき、
裁判所が相当と認めると
きは、当事者の意見を聴いて、当事者が現実に出頭することなく、ウェブ会議により参加する
方法で手続を行うことが認められている(同法第87条の2第1項。ただし、電話会議による
参加は認められていない。)。
試案の4(1)は、民事執行の手続においても、上記の民事訴訟と同様のルールにより、口頭
弁論の期日につき、
ウェブ会議を利用することができるものとする
(民訴法と同様の規律とす
る)ことを提案するものである。
なお、試案の4(1)は、裁判所において、口頭弁論の期日が開かれ、その期日に裁判所(裁
判官)
が現実に在廷していることを前提に、
現実に出頭していない当事者がその期日に関与す
ることを認めるものであり、
当事者が裁判所におけるその期日に現実に出頭して、
手続に関与
することを妨げるものではない。
(2) 審尋の期日
1 審尋の期日について、民訴法第87条の2第2項及び第3項の規定を準
用し、裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判
所規則で定めるところにより、ウェブ会議及び音声の送受信により同時に
通話をすることができる方法(以下「電話会議」という。)を当事者に利
用させることができるものとする。
2 参考人等の審尋について、民訴法第187条第3項及び第4項の規定を
準用し、裁判所は、相当と認めるときは、最高裁判所規則で定めるところ
により、ウェブ会議により参考人又は当事者を審尋することができるもの
とするとともに、当事者双方に異議がないときは、電話会議により参考人
又は当事者を審尋することができるものとする。
(補足説明)
民事執行の手続においても、民事訴訟手続と同様に、裁判所が必要と認めるときに、審尋が
されることがある(民執法第5条参照)。
令和4年改正法により、民訴法においては、当事者の利便性を向上するとともに、迅速かつ
効率的な手続を実現する観点から、
(口頭弁論に代わる)審尋の期日につき、裁判所が相当と
認めるときは、当事者の意見を聴いて、当事者が現実に出頭することなく、ウェブ会議又は電
話会議により参加する方法で手続を行うことが認められている(同法第87条の2第2項)。13また、証拠調べとしての参考人等の審尋についても、裁判所は、相当と認めるときは、ウェブ
会議により現実に出頭していない参考人や当事者を審尋することができる(当事者双方に異
議がないときは、電話会議によることも認められる)とされている(同法第187条第3項及
び第4項)。
試案の4(2)は、民事執行の手続においても、上記の民事訴訟と同様のルールにより、審尋
の期日における手続や参考人等の審尋につき、ウェブ会議や電話会議を利用することができ
るものとする(民訴法と同様の規律とする)ことを提案するものである。
なお、口頭弁論の期日におけるのと同様に、試案の4(2)は、当事者等が裁判所における審
尋の期日に現実に出頭して手続に関与することを妨げるものではない。
(3) 売却決定期日及び配当期日
(前注) ここでは、売却決定期日及び配当期日があることを前提としているが、後記5の
とおり、売却決定期日及び配当期日を廃止するとの考え方もある。
【甲案】
1 裁判所は、相当と認めるときは、最高裁判所規則で定めるところによ
り、ウェブ会議及び電話会議によって、売却決定期日及び配当期日にお
ける手続を行うことができるものとする。
2 1の期日に出頭しないでその手続に関与した者は、その期日に出頭し
たものとみなすものとする。
【乙案】
1 裁判所は、相当と認めるときは、最高裁判所規則で定めるところによ
り、ウェブ会議によって、売却決定期日及び配当期日における手続を行
うことができるものとし、電話会議の利用は認めないものとする。
2 甲案2と同じ。
(注) ウェブ会議(又は電話会議)により手続を行うことを決定するに当たり、関係人の
意見を聴くことを要件とすべきであるとする考え方がある。
(補足説明)
1 売却決定期日等におけるウェブ会議・電話会議の利用(試案の4(3))
民事執行の手続においては、
不動産の売却の許可又は不許可の決定は、
売却決定期日にお
いて言い渡さなければならないものとされており
(民執法第69条)、売却の許可又は不許
可に関し利害関係を有する者は、当該期日において意見を陳述することができることとさ
れている(同法第70条)。また、不動産の売却代金の配当に当たっては、配当期日を指定
し、当該期日において配当表を作成することとされており(同法第85条第5項)、配当表
の記載に不服のある債権者及び債務者は、
配当期日において、
配当異議の申出をすることが14できることとされている(同法第89条第1項)。
現行の民執法上、
これらの期日について、
ウェブ会議や電話会議を用いて手続を行うこと
は認められていないが、
当事者の利便性を向上する等の観点から、
口頭弁論の期日や審尋の
期日と同様に、ウェブ会議や電話会議を用いて当該期日に出頭することを認めることが考
えられる。
もっとも、
部会においては、
期日において執行裁判所が審尋等を行うことも想定
されること
(同法第85条第4項参照)
等からすると、
映像を伴わない電話会議によること
は認めるべきではないとの意見もあった。
そこで、試案の4(3)では、売却決定期日及び配当期日について、ウェブ会議及び電話会
議による手続を認める案を甲案、
ウェブ会議を利用することを認めるが、
電話会議を利用す
ることは認めない案を乙案として、両案を併記している。
なお、
(前注)にあるとおり、売却決定期日及び配当期日を廃止すべきとの考え方もある
が、この点については、試案の5の(後注)で取り上げることとし、ここでは、これらの期
日を維持することをひとまずの前提としている。
2 ウェブ会議・電話会議により手続を行うための必要的意見聴取の要否(試案の(注))
民訴法においては、
口頭弁論の期日においてウェブ会議を利用する場合には、
当事者の意
見を聴くこととされており
(同法第87条の2第1項)、審尋の期日や弁論準備手続の期日
におけるウェブ会議又は電話会議の利用についても、
同様とされている
(同条第2項、
同法
第170条第3項)。そのため、民事執行の手続において、売却決定期日や配当期日につい
てウェブ会議等の利用を認める場合についても、関係人からの意見聴取を要件とすべきで
あるとの考え方がある。試案の(注)は、このような考え方を記載するものである。
このような考え方をとった場合には、どのような者について意見聴取を必要とするかど
うかについて検討する必要がある。例えば、これらの期日に出頭することが想定される者
(売却決定期日については民執規則第37条に列挙されている者が、配当期日については
民執法第85条第1項に規定されている債権者及び債務者が、
それぞれ考えられる。)につ
いて、
その意見を聴くべきこととすることが考えられるが、
その全てから意見を聴く必要が
あるかや、債権者が多数に及ぶ場合等にそのような取扱いをすることが支障なく行えるの
かどうかについては、検討する必要がある。
部会では、
ウェブ会議等の実施に関する関係人の意向については、
裁判所の相当性判断の
中で適宜考慮すればよく、関係人からの意見聴取を独立の要件とする必要はないとの意見
もあった。
(4) 財産開示期日
ア 申立人のウェブ会議・電話会議による参加
【甲案】151 裁判所は、相当と認めるときは、最高裁判所規則で定めるところに
より、財産開示期日においては、ウェブ会議及び電話会議によって、
申立人を財産開示期日の手続に関与させることができるものとする。
2 1の期日に出頭しないでその手続に関与した申立人は、その期日に
出頭したものとみなすものとする。
【乙案】
1 裁判所は、相当と認めるときは、最高裁判所規則で定めるところに
より、財産開示期日においては、ウェブ会議によって、申立人を財産
開示期日の手続に関与させることができるものとし、電話会議の利用
は認めないものとする。
2 甲案2と同じ。
(注) 申立人のウェブ会議(又は電話会議)による手続参加を認めるに当たり、関係人
(申立人及び債務者(開示義務者)の双方又は申立人のみ)の意見を聴くことを要
件とすべきであるとする考え方がある。
イ 債務者(開示義務者)のウェブ会議による陳述
財産開示期日においては、ウェブ会議を利用して、債務者(開示義務者)
が財産について陳述をすることができるものとすることとし、その具体的
な規律の内容を以下のとおりとする。
1 裁判所は、財産開示期日において、次に掲げる場合であって、相当と
認めるときは、最高裁判所規則で定めるところにより、ウェブ会議によ
って、債務者から陳述を聴取することができる。
a 債務者の住所、年齢又は心身の状態その他の事情により、債務者が
執行裁判所に出頭することが困難であると認める場合
b 事案の性質、債務者の年齢又は心身の状態、債務者と申立人本人又
はその法定代理人との関係その他の事情により、債務者が執行裁判所
及び申立人が在席する場所において陳述するときは圧迫を受け精神の
平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合
c 申立人に異議がない場合
2 1の規律により債務者が陳述をした場合には、
財産開示期日に出頭し、
当該期日において陳述をしたものとみなす。
(注) 本文とは別に、本文イ1bの事由がある場合に、ウェブ会議の利用を認めること
を否定する考え方がある。
(補足説明)161 申立人のウェブ会議・電話会議による参加等(試案の4(4)ア)
(1) 申立人のウェブ会議・電話会議による参加(試案の4(4)ア)
民事執行の手続においては、
債務者の財産の開示に関する手続
(財産開示手続)
が設け
られており、この手続においては、執行裁判所は、債務者(開示義務者)に対してその者
の財産に関する陳述をさせるための期日である財産開示期日を指定し、申立人及び債務
者を呼び出すこととされている(民執法第198条第1項及び第2項)。他方で、
現行の民執法においては、
申立人がウェブ会議や電話会議により財産開示期日
に出頭することは認められていない。部会では、売却決定期日及び配当期日(試案の4
(3))と同様に、利便性の向上等の観点から、ウェブ会議や電話会議の利用を認めるべき
との意見がある。
試案の4(4)アは、以上を踏まえ、財産開示期日における申立人の手続参加について、
売却決定期日等と同様に、
ウェブ会議及び電話会議によることを認める案を甲案、
ウェブ
会議によることのみを認める案を乙案として、両案を併記している。
申立人の利便性を向上させる観点からは、電話会議の利用も認める甲案をとることが
考えられるが、
他方で、
債務者についてはウェブ会議の利用のみを認めることとのバラン
ス等を考慮して、乙案をとり、電話会議の利用を認めないことも考えられる。
(2) 必要的意見聴取(試案の4(4)アの(注))財産開示期日についてウェブ会議や電話会議の利用を認めることとする場合には、売
却決定期日や配当期日におけるのと同様に、関係人からの意見聴取を要件とすべきかど
うかも問題となる。
この場合においては、申立人及び債務者の双方からの意見聴取を要件とする考え方と、
申立人からの意見聴取のみを要件とする(債務者からの意見聴取は法律上の要件とはし
ないものとする)
考え方の双方があり得る。
債務者からの意見聴取を必要とすべきかどう
かは、
そのような手続を設ける必要性
(債務者に、
申立人がウェブ会議や電話会議により
出席することについて意見を述べる法律上の利益があるかどうか)の観点から検討すべ
きものと考えられる。
2 債務者(開示義務者)のウェブ会議による陳述等(試案の4(4)イ)
(1) 債務者(開示義務者)のウェブ会議による陳述(試案の4(4)イ)
ア 民事執行の手続においては、財産開示手続において、債務者(開示義務者)は、財産
開示期日に出頭し、
財産に関して陳述をしなければならないこととされている
(民執法
第199条第1項)
。他方で、現行の民執法では、債務者がウェブ会議や電話会議を利
用して陳述をすることは認められていない。
財産開示期日においては、
適切に財産の開示が行なわれるように、
裁判官の面前で債
務者が陳述をする必要があるが、
証人尋問においても、
一定の要件の下で、
ウェブ会議17の利用が認められている。
そこで、
試案の4(4)イは、
債務者の陳述方法について柔軟な方法をとる余地を認め、
手続の迅速化を図る観点から、
民事訴訟手続における証人尋問と同様に、
一定の要件の
下で、ウェブ会議の利用を認めることを提案するものである。なお、この提案では、証
人尋問と同様に、電話会議の利用は認めていない。
また、試案の4(4)イにおいて「債務者」とあるのは、民執法第198条第2項に規
定する債務者
(債務者に法定代理人がある場合には当該法定代理人、
債務者が法人であ
る場合にはその代表者)を指す趣旨である。
イ 試案の4(4)イ1において、ウェブ会議の利用を認める具体的な要件は、次のいずれ
かの場合であって、
裁判所が相当と認めるときである。
いずれも、
証人尋問におけるウ
ェブ会議の利用の要件
(民訴法第204条)
を参考としたものであり、
これと同様の要
件を設けることとしている。
1 債務者の住所、
年齢又は心身の状態その他の事情により、
債務者が執行裁判所に
出頭することが困難であると認める場合
2 事案の性質、
債務者の年齢又は心身の状態、
債務者と申立人本人又はその法定代
理人との関係その他の事情により、債務者が執行裁判所及び申立人が在席する場
所において陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがある
と認める場合
3 申立人に異議がない場合
ウ また、
試案の4(4)イ2は、
ウェブ会議により関与した債務者は、
当該期日に出頭し、
陳述をしたものとみなされることを提案しており、
これによれば、
期日の不出頭や不陳
述による制裁(民執法第213条第1項)は受けないこととなる。
(2) 試案の4(4)イ1bとは別の考え方(試案の(注))試案の4(4)イ1bでは、債務者が執行裁判所及び申立人が在席する場所において陳述
するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合であって、
相当と認めるときにも、
ウェブ会議の利用を認めている
(この要件は、
民訴法第204条
第2号を参考としたものである。)。
これに対し、
部会では、
既に債務名義が存在し、
債務者は強制執行を受けるべき立場に
ある者であるし、
財産開示期日の性質上、
当該期日において陳述する債務者には一定の精
神的緊張が伴うことは避けられないものであり、それを避けるためにウェブ会議の利用
は認めるべきではないなどの理由から、
上記の場合には、
ウェブ会議を認めるべきではな
い(試案の4(4)イ1bについては、これを要件とすべきではない)との意見がある。そ
こで、試案の(注)は、このような考え方を記載するものである。
なお、この考え方に対しては、同様の要件を定める民訴法においては、例えば、証人が
当事者本人又はその法定代理人が行った犯罪により被害を被ったものである場合等が想18定されているところであり、当該要件は単に精神的緊張を伴うことのみで充足されるも
のではなく、
当該要件を設けても、
その解釈によって適切に事案に対応することは可能で
あるとの指摘などがあり、試案の本文では、上記の場合(試案の4(4)イ1b)にもウェ
ブ会議の利用を認めることを提案している。
(後注) 入札期日や開札期日、競り売り期日といった民執規則上の期日についても、ウ
ェブ会議や電話会議による手続を認めるとの考え方がある。
(補足説明)
民事執行の手続においては、
民執法に規定が設けられている期日のほか、
民執規則に規定が
設けられている期日がある。
具体的には、
入札期日
(民執規則第35条第1項)
や開札期日(同規則第46条第1項)、競り売り期日(同規則第50条第1項)がこれに当たる。
試案の(後注)は、これらの期日においても、売却決定期日や配当期日等と同様に、利便性
の向上等の観点から、ウェブ会議や電話会議による手続を認めるとの考え方を記載するもの
である。
このような考え方について検討するに当たっては、
期日において予定されている手続
がウェブ会議等の利用に適するかという問題や、これらの期日についてウェブ会議等の利用
を認めるニーズがあるかという点を検討する必要があると考えられる
(部会では、
動産執行に
おける競り売り期日についてウェブ会議等の利用を認めると、直ちに代金を支払うことが困
難となるおそれがある(民執規則第118条第1項参照)との指摘や、実務上、不動産競売に
ついては、そもそも入札期日や競り売り期日が指定されることはほとんどないとの指摘もあ
った。)。
5 売却及び配当
(1) 売却決定期日を経ない売却
売却決定期日において売却の許可又は不許可の決定を行う仕組みとは別
に、売却の許可又は不許可に関する意見を陳述するための一定の期間を設定
することにより、売却決定期日を経ることなく売却をする仕組みを設けるこ
ととし、その具体的な内容を以下のとおりとする。
1 裁判所書記官は、売却を実施させる旨の処分と同時に、売却決定期日を
指定し、又は、売却の許可若しくは不許可に関する意見を陳述すべき期間
(以下「意見陳述期間」という。)及び売却の許可若しくは不許可の決定
をする日(以下「売却決定の日」という。)を指定する。
2 1において売却決定期日を指定した場合には、当該期日において売却の
許可又は不許可の決定をする。
3 1において意見陳述期間及び売却決定の日を指定した場合には、当該売19却決定の日に売却の許可又は不許可の決定をするが、当該決定に対する執
行抗告期間は、民執法第10条第2項の規定にかかわらず、当該売却決定
の日から起算する。
(注) 1で指定した意見陳述期間や売却決定の日については、現行の民執規則において公
告及び差押債権者等への通知をすべきものとされている売却決定期日の日時・場所等
(同規則第36条、第37条)と同様に、公告及び通知をすべきものとする。
(補足説明)
1 期日を経ることなく売却又は配当を行う仕組みの導入
現行の民執法においては、不動産の売却の許可又は不許可に関し利害関係を有する者は、
売却決定期日において意見を陳述することができることとされており
(同法第70条)、執
行裁判所は、
当該意見も踏まえつつ、
売却決定期日において、
売却の許可又は不許可の決定
(以下「売却決定」という。)を言い渡すこととされている(同法第69条)。また、配当
表の記載に不服のある債権者又は債務者は、配当期日において配当異議の申出をすること
ができることとされている(同法第89条第1項)。
部会では、
関係者の手続関与の方法をより柔軟なものとし、
手続関与に伴う負担を軽減す
る観点から、
売却決定期日や配当期日に代えて、
売却の許可又は不許可に関する意見を陳述
し、
又は配当異議の申出をするための期間を指定し、
当該期間内にいつでも意見陳述又は配
当異議の申出をすることができることとすることにより、売却決定期日や配当期日を経る
ことなく、
売却や配当をすることができる仕組みを設けることが検討されている
(以下、売却決定期日や配当期日を指定する方式を総称して
「期日方式」
といい、
意見陳述や配当異議
の申出をするための期間を設けることにより、期日を経ずに売却又は配当を行う方式を総
称して「期間方式」という。)。
試案の5(1)は、このうち、売却決定期日を経ることなく売却を行う仕組みを導入するこ
とを提案している(配当期日を経ることなく配当を行う仕組みについては、試案の5(2)で
取り上げている。)。
2 売却決定期日を経ない売却(試案の5(1)・(注))
(1) 意見陳述期間の指定等(試案の5(1)1及び2)
現行の民執法における期日方式では、
裁判所書記官は、
売却を実施させる旨の処分と同
時に、
売却決定期日を指定することとされている
(民執法第64条第4項)。試案の5(1)
1では、
売却決定期日又は意見を陳述すべき期間
(意見陳述期間)
を選択的に指定すべき
こととしている。
また、
期日方式においては、
売却決定は、
売却決定期日において言い渡すこととされて
いるため(民執法第69条。試案の(1)2)、売却決定期日が指定されれば、売却決定が20される日も自動的に明らかになるが、
期間方式を採る場合には、
売却決定は期日外でされ
ることとなるため、いつ決定が行われるかは必ずしも明確でない。そこで、試案の5(1)
1では、意見陳述期間を指定する場合には、売却決定をすべき日(売却決定の日)も併せ
て指定することとし、その日に売却決定をすることとしている。
(2) 売却決定に対する執行抗告(試案の5(1)3)
期日方式においては、
売却決定は、
言渡しの時に告知の効力を生ずることとされ、
その
時から執行抗告期間が起算されることとなる(民執法第10条第2項、民執規則第54
条)。
これに対し、
期間方式を採る場合には、
執行抗告期間の起算日をどのように考えるかが
問題となる。
この点について、
売却決定を差押債権者等に通知すべきこととし、
民執法第
10条第2項の原則どおり決定の告知の日から起算することとすることも考えられる
が、このような考え方を採る場合には、執行抗告期間の起算日が区々となることとなり、
画一的な処理が困難となる。売却決定の日をあらかじめ指定することとし(試案の5(1)
1)、これを公告・通知することとすれば(試案の(注))、債権者等にとって売却決定
がされる日は明らかであるから、その日以降に決定書の閲覧等を行うことにより決定の
内容を確認し、執行抗告を行うことは可能であると考えられる。
そこで、試案の5(1)3では、期間方式を採った場合における売却決定に対する執行抗
告期間は、当該売却決定の日から起算するものとすることを提案している。
(3) 意見陳述期間の公告等(試案の(注))
期日方式では、
売却決定期日を指定する場合には、
当該期日を開く日時及び場所等を公
告するとともに、
差押債権者等に対して通知しなければならないこととされている
(民執
規則第36条第1項第2号、第37条)。
期間方式を採る場合であっても、債権者に対し同様の手続保障を図る必要があると考
えられることから、試案の(注)では、指定された意見陳述期間や売却決定の日について
は、売却決定期日と同様に、公告及び通知をすべきことを提案している。
(2) 配当期日を経ない配当
配当期日を経て配当を実施する仕組みとは別に、配当異議の申出をするた
めの一定の期間を設定することにより、配当期日を経ることなく配当を実施
する仕組みを設けることとし、その具体的な内容を以下のとおりとする。
1 裁判所は、配当期日の指定に代えて、配当異議の申出をすべき期間(以
下「異議申出期間」という。)を指定することができる。
2 民執法第85条第1項の規定による配当の順位・額等の決定及び配当表
の作成は、配当期日を指定した場合には、当該配当期日において行うが、
異議申出期間を指定した場合には、当該期間に先立ち、期日外において行21う。
3 1において異議申出期間を指定した場合には、当該指定に係る裁判書及
び2において作成した配当表を民執法第85条第1項に規定する債権者
及び債務者に送達又は送付しなければならない。
4 配当異議の申出は、配当期日を指定した場合には、当該配当期日におい
て、1において異議申出期間を指定した場合には、当該期間内に、これを
行わなければならない。
(補足説明)
1 異議申出期間の指定等(試案の5(2)1及び4)
試案の5(2)1及び4では、期間方式を採る場合には、裁判所は、配当期日の指定に代え
て、配当異議の申出をすべき期間(異議申出期間)を指定することとし、この場合には、配
当異議の申出は当該期間内にしなければならないこととしている。
2 配当表の作成等(試案の5(2)2及び3)
異議申出期間を指定する場合には、当該期間内に配当異議の申出をすることの前提とし
て、
当該期間の開始に先立ち、
配当表が作成され、
債権者及び債務者に対しその内容を了知
する機会が与えられていなければならないと考えられる。
そこで、試案の5(2)2及び3では、期間方式を採る場合には、異議申出期間に先立ち配
当表を作成し、これを債権者及び債務者に送達又は送付しなければならないこととしてい
る。
なお、
債権者及び債務者に対する通知の方法としては、
期日方式における配当期日の呼出
しが呼出状の送達等により行われること
(民執法第15条の2及び第85条第3項)
との平
仄から、送達を要することとする考え方がある。一方で、期間方式は、配当異議の申出がさ
れる可能性が低いと考えられる事案において、より簡易な手続により配当を行うために活
用されることが想定されるとすると、通知の方法としてもより簡易な手続を認めることが
相当であり、送付することで足りるものとする考え方もある。試案の5(2)3においては、
差し当たり「送達又は送付」と記載し、送付も可能である案を提示している。
3 その他の論点
期日方式においては、
配当期日が指定された場合には、
裁判所書記官は、
各債権者に対し
て計算書を提出するよう催告することとされている
(民執規則第60条)。期間方式をとっ
た場合にも、
配当表を作成するのに先立って、
計算書の提出の催告を行うこととすることも
考えられる。
また、
配当の順位及び額については、
配当期日において全ての債権者間に合意が成立した22場合には、
その合意の内容を配当表に記載することとされているが
(民執法第85条第1項
ただし書及び第6項)、期間方式を採る場合に、この手続をどのようにするかについても、
論点となり得る。
以上のほか、部会においては、期日方式とは別途期間方式を設けることとする場合には、
期日方式と期間方式の選択に当たり、債権者や債務者の意見を聴くこととすべきであると
の意見もあった。
(後注) 本文(1)及び(2)に掲げた考え方とは別に、売却決定期日及び配当期日を指定する
仕組みを廃止し、
期日を経ることなく売却又は配当を行う仕組みのみとする考え方が
ある。
(補足説明)
期間方式の導入を契機として、
手続を簡明にする観点等から、
売却及び配当について、
期日
方式を廃止し、期間方式のみとすべきであるとの考え方がある。試案の(後注)は、このよう
な考え方を記載するものである。
この論点については、
期間方式の導入後においても、
なお期日方式が必要となるような事案
がないかの検討が必要になるものと考えられる。例えば、配当については、実務上、配当期日
における配当表の作成及び配当異議の申出に先立ち、
配当表の原案が作成され、
債権者及び債
務者に対してこれについて意見を述べる機会が与えられた上で、それを踏まえて配当表の作
成等をする運用がされていることもあるとされる。
期間方式の導入後においても、
配当表の作
成に先立ってその原案についての意見を聴くことにより、配当についての手続を慎重に行う
必要がある事案もあるとすれば、
期日方式を存続することも考えられるが、
一方で、
このよう
な事案についても期間方式において十分に対応可能であるとすれば、
期日方式を廃止し、
期間
方式のみとすることも考えられる。
6 電子化された事件記録の閲覧等
電子化された事件記録についても請求の主体に係る民執法第17条の規律を
基本的に維持し、利害関係を有する者は、電子化された事件記録について、最
高裁判所規則で定めるところにより、閲覧、複写(ダウンロード)、事件記録
に記録されている事項の内容を証明した文書若しくは電磁的記録の交付若しく
は提供又は事件に関する事項を証明した文書若しくは電磁的記録の交付若しく
は提供(以下この6において「閲覧等」という。)の請求をすることができる
ものとする。
(注1) 電子化された事件記録の閲覧等の具体的な方法について、次のような規律を設ける
ものとする。231 利害関係を有する者は、裁判所設置端末及び裁判所外端末を用いた閲覧等を請求す
ることができる。
2 当事者(申立債権者及び債務者)は、いつでも事件の係属中に裁判所外端末を用い
た閲覧又は複写をすることができる。
(注2) 一定の債権者(例えば、配当要求をした債権者)も、
(注1)2の当事者と同様に、
いつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧又は複写をすることができるもの
とするとの考え方がある。
(補足説明)
1 電子化された事件記録の閲覧等
民事執行の手続において、インターネットを用いて申立て等をすることを認めることと
した場合には(試案の1(1))、インターネットを用いてされた申立て等については、当該
申立て等に係る電磁的記録
(電子データ)
はそのまま事件記録となることが想定される。また、書面等が提出された場合に、当該書面等を裁判所のファイル(サーバ)に記録すること
とし
(試案の2)、裁判官が作成する裁判書や裁判所書記官が作成する調書についても電磁
的記録により作成することとした場合には
(試案の3)、ファイルに記録された電磁的記録
が事件記録となる。これらの電子化された事件記録の閲覧等に関する規律が問題となる。
なお、
執行官が執行機関となる場合における事件記録の閲覧等については、
試案の9で取
り上げている。
2 閲覧等の請求の主体(試案の6)
民執法第17条は、
執行裁判所の行う民事執行について、
利害関係を有する者は、
事件記
録の閲覧等の請求をすることができることとしている。
これは、
電子化されていない事件記
録についての規律であるが、
電子化された事件記録についても、
この請求の主体に関する規
律を変更すべき理由はないことから、
試案の6では、
基本的に、
請求の主体に係る民執法第
17条の規律を基本的に維持することとしている。
3 請求の具体的な内容(試案の6及び(注))
(1) 請求の内容(試案の6)
ア 令和4年改正法により、民訴法においては、電子化された訴訟記録(電磁的訴訟記
録)については、その閲覧、複写(電子情報処理組織(インターネット)を用いて、自
己の端末に当該電磁的記録を記録(ダウンロード)すること)、訴訟記録の内容の証明
書等
(訴訟記録に記録されている事項の全部又は一部を記載した書面であって、
その内
容が訴訟記録に記録されている内容と同一であることを裁判所書記官が証明した書面
又は電磁的記録)
や訴訟に関する事項の証明書等
(確定証明書等)
の交付等を請求する24ことができることとされている(民訴法第91条の2及び第91条の3)。これは、電
子化されていない訴訟記録
(非電磁的訴訟記録)
の閲覧・謄写及びその正本の交付並び
に訴訟に関する証明書の交付等
(民訴法第91条及び第91条の3)
に対応するもので
ある。
イ 試案の6は、
民事執行の手続における電子化された事件記録についても、
請求するこ
とができる内容につき、上記と同様の規律とすることを提案するものである。
(2) 閲覧等の方法(試案の(注1))
ア 民訴法においては、
電子化された訴訟記録の閲覧等の具体的な方法については、
最高
裁判所規則に委任することとされている(民訴法第91条の2及び第91条の3)。
今後、
最高裁規則の内容は検討されることとなるが、
法制審議会では、
そのことにつ
いても議論がされており、「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱」では、
最高裁判所規則において、
1何人も、
裁判所設置端末を用いた閲覧を請求することがで
き、
2当事者及び利害関係を疎明した第三者は、
裁判所設置端末及び裁判所外端末を用
いた閲覧等を請求することができ、
3当事者は、
いつでも事件の係属中に裁判所外端末
を用いた閲覧又は複写をすることができるという内容の規律を設けるとの考え方が示
されている(同要綱第10の1の(注))。
これは、1裁判所に設置された端末で電子化された訴訟記録の閲覧をすることがで
きることを基本としつつ、
2当事者及び利害関係を有する第三者については、
利便性向
上の観点から、インターネットを利用して裁判所外端末により閲覧等をすることを可
能とし、
3その中でも当事者は、
形式的に定まるものであり、
利害関係の有無の判断等
の必要がないため、事件の係属中はいつでも(例えば、いわゆる時間外であっても)裁
判所外端末による閲覧又は複写を可能とするものである。
イ 試案の(注1)は、民事執行の手続における閲覧等の具体的な内容について、民事訴
訟と同様の規律とすることを提案するものである。
具体的には、
上記アの1から3までの規律に則して、
利害関係を有する者は、
裁判所
設置端末及び裁判所外端末を用いた閲覧等を請求することができることとし
(なお、民事執行の手続においては、もともと事件記録の閲覧の請求をすることができるのが利
害関係を有する者に限られているため
(民執法第17条)、上記アの1と2の違いは問
題とならない。)、民事執行の手続において当事者の立場にあり、形式的に定まる申立
債権者及び債務者については、事件の係属中いつでも裁判所外端末により閲覧又は複
写をすることができることとしている。
(3) 債権者の閲覧等の方法(試案の(注2))
部会においては、
申立債権者や債務者のほかに、
当該債務者に対して債権を有する他の
債権者も、
その手続において配当等を受けることがあり得るのであり、
強い利害を有する
ことから、事件の係属中いつでも閲覧又は複写をすることができることとすべきである25との考え方が検討されている。試案の(注2)では、そのような考え方を記載している。
もっとも、
申立債権者や債務者は、
申立てによって形式的に定まるが、
当該債務者に債
権を有するかどうかは形式的に定まるものではなく、その請求の時期によっても変わり
得るものであり、仮に、試案の(注1)2による閲覧等を認めるとしても、どのようにし
てその資格を認めるのかが問題となる。試案の(注2)では、配当要求をした債権者であ
れば、
配当要求の有無で形式的に判断することができるとも考えられるため、
そのような
閲覧等を認めることが検討される一つの例として挙げている。
また、
配当要求をした債権
者以外にも債権者が存在するが、
例えば、
債権者として一度閲覧等を認めた者も、
その後
は、試案の(注1)2による閲覧等を認めることも考えられる。ただし、配当要求をした
債権者や一度閲覧等を認められた債権者について、その後に債権を失った場合にどのよ
うに考えるのかが問題となる。
7 送達等
(1) 電磁的記録の送達
民事執行の手続における電磁的記録の送達について、民訴法第109条か
ら第109条の4までの規定を準用するものとする。
(注) 本文の考え方を基礎とした上で、申立債権者や送達を受ける第三債務者の利益等に
配慮しつつ、
電子情報処理組織による送達の活用の在り方について検討すべきとの考
え方がある。
(補足説明)
1 電磁的記録の送達
(1) 検討の必要性
前記のとおり、
民事執行の手続において、
インターネットを用いて申立て等をすること
を認めることとした場合には(試案の1(1))、インターネットを用いてされた申立て等
については、当該申立て等に係る電磁的記録(電子データ)はそのまま事件記録となる。
また、
書面等が提出された場合に、
当該書面等に記載され、
又は記録された事項を裁判所
のファイル(サーバ)に記録することとし(試案の2)、裁判官が作成する裁判書や裁判
所書記官が作成する調書についても電磁的記録により作成することとした場合には(試
案の3)、ファイルに記録された電磁的記録が事件記録となる。
これらのファイルに記録
された電磁的記録を送達するための規律が必要となる。
(2) 令和4年改正法による民訴法改正
令和4年改正法により、民訴法においては、電磁的記録の送達について、概要、以下の
ような規律が設けられている(民訴法第109条から第109条の4まで)。
1 電磁的記録の送達は、
送達の対象となる電磁的記録
(送達すべき電磁的記録)
を出26力することにより作成した書面の郵送等により行う。
2 1にかかわらず、
送達を受けるべき者が電子情報処理組織
(インターネット)
を用
いた方法による送達を受ける旨の届出をしている場合には、
裁判所書記官が、
送達す
べき電磁的記録の閲覧又は記録
(ダウンロード)
をすることができる状態に置き、送達を受けるべき者に対し、
インターネットを用いて、
その旨を通知する方法
(通知の
具体的な方法については最高裁判所規則に委任されているが、電子メールを送信す
る方法が定められることが想定されている。)により、
電磁的記録の送達を行うこと
ができる。なお、上記通知は、送達を受けるべき者が届け出た連絡先に対して行う。
送達を受けるべき者は、当該届出の際に、送達受取人を届け出ることもできる。
3 2の方法による送達は、送達を受けるべき者が送達すべき電磁的記録を閲覧した
時、ダウンロードした時又は2の通知が発出されてから1週間を経過した時のいず
れか早い時にその効力を生ずる。
ただし、
送達を受けるべき者がその責めに帰するこ
とができない事由により閲覧又はダウンロードをすることができない期間は、1週
間という期間に算入しない。
4 インターネットによる申立て等が義務付けられた者は2の届出をしなければならず(民訴法第132条の11第2項参照)、その者が届出をしていない場合であって
も、2の方法による送達をすることができる。この場合に、2の方法をとるときに
は、その者に通知をすることを要しない。
(3) 提案の内容
試案の7(1)は、民事執行の手続における電磁的記録の送達についても、民事訴訟と同
様の規律とするために、民訴法第109条から第109条の4までの規定を準用するこ
とを提案している。
2 電子情報処理組織による送達の活用に当たっての検討課題(試案の(注))
部会では、特に、差押命令を(電磁的記録の送達の方法のうち)電子情報処理組織による
送達の方法によりすることを念頭に、送達を受けるべき者が閲覧等をしない場合における
送達の効力発生までの期間を民事訴訟手続と同様に1週間とすると、申立債権者の利益を
害するおそれがあり、
その期間をこれよりも短くすべきであるとの意見や、
システム送達を
受ける旨の届出がされている場合に書類による送達を行うかシステム送達を行うかについ
て申立債権者に選択を認めるなどといった方策を検討することも考えられるとの考え方も
示された。
他方で、前記の期間を短くすることなどについては、送達を受ける第三債務者の立場か
ら、対応が困難であるとの指摘や、システム送達を受ける旨の届出がされている場合には、
書類による送達を行い得ないものとすべきであるとの意見もあった。
このような意見もあったが、
法律上、
民訴法に比して前記の期間を短くすることについて27は第三債務者の負担が大きくなり、
これを正当化する理由を見出すことは難しい。
また、民訴法では、
送達を確実に行うこと等を確保するため、
システム送達を受ける旨の届出がされ
ていても、裁判所(裁判所書記官)において、電磁的記録を出力した書面を送達する方法を
とることができることとしており、
差押えのケースにおいて、
システム送達を受ける旨の届
出があったからといって、法律上、書面による送達を否定することは難しいように思われ
る。
そのため、
これまでにあった指摘については、
法律上の手当をするというよりは、
それら
の指摘を踏まえつつ、
運用上の工夫をすることにより対処することが考えられる。
いずれに
しても、
システム送達が実施され、
第三債務者がそれを閲覧又はダウンロードをすることに
より、書類の送達よりも速やかに送達がされるケースもあり得ると思われること等を踏ま
え、実務上の活用の方法につき引き続き検討することが考えられる。
そこで、試案の(注)は、本文の考え方を基礎とした上で、申立債権者や送達を受ける第
三債務者の利益等に配慮しつつ、電子情報処理組織による送達の活用の在り方について検
討すべきとの考え方があることを明記している。
(2) 公示送達
民事執行の手続における公示送達について、民訴法第111条の規定を準
用するものとする。
(補足説明)
令和4年改正法により、
民訴法においては、
利便性を向上し、
公示送達を実質化する観点か
ら、公示送達につきインターネットを用いた方法を導入することとされている。具体的には、
1必要な事項を不特定多数の者が閲覧することができる状態に置く措置をとるとともに(具
体的な措置の内容は最高裁判所規則で定めることとされているが、裁判所のウェブサイトに
掲載することを定めることが想定されている。)、
2当該事項を裁判所の掲示場に掲示し、又は裁判所設置端末で閲覧することができる状態に置く措置をとることによって公示送達をす
ることとされている(同法第111条)。
試案の7(2)は、民事執行の手続における公示送達についても、民事訴訟と同様の規律とす
るために、民訴法第111条の規定を準用することを提案している。
(後注) 民事執行の手続における公告の方法を見直し、裁判所の掲示場に掲示し、又は裁
判所設置端末を使用して閲覧することができるようにすることに加えて、
公告事項又
はその要旨を裁判所のウェブサイトで公示する方法を導入するとの考え方がある。
(補足説明)28民事執行の手続においては、
関係者に対する周知の方法として、
公告が定められているもの
がある
(強制競売の開始決定がされた旨及び配当要求の終期の公告
(民執法第49条第2項)、不動産執行における売却すべき不動産の表示、売却基準価額並びに売却の日時及び場所の公
告(同法第64条第5項)等)。公告の方法は、民執規則において定められており、公告事項
を記載した書面を裁判所の掲示場等に掲示して行うこととされている(同規則第4条第1
項)。
試案の(後注)は、民事執行の手続における公告について、情報の周知方法としての効果を
向上させる観点から、
民事訴訟手続における公示送達と同様に、
インターネットを用いた方法
(裁判所のウェブサイトに掲載する方法)を導入する考え方を記載するものである。
8 債務名義の正本の提出・執行文の付与
(1) 債務名義の正本提出に関する規律の見直し
債務名義が裁判所において電磁的記録により作成されたものである場合
には、強制執行は、当該債務名義に係る電磁的記録自体に基づいて実施する
こととし、債務名義を証明する文書の提出は不要とするものとする。
(注) 本文に掲げるもののほか、民事執行の手続において裁判の正本を提出することとさ
れている場合において、当該裁判に係る裁判書が電磁的記録により作成されたとき
(強制執行を停止させる裁判が電磁的記録により作成された場合等)についても、本
文の規律と同様に、当該裁判を証明する文書の提出を不要とするものとする。
(補足説明)
1 債務名義の正本提出に関する規律の見直し(試案の8(1))
現行の民執法においては、
強制執行は、
原則として、
執行文の付された債務名義の正本に
基づいて実施することとされており
(同法第25条)、強制執行の開始を申し立てる申立債
権者は、執行裁判所に対し、債務名義の正本を提出する必要がある。
しかし、債務名義が裁判所のファイル(サーバ)
に記録されたものである場合(電子判決
書や和解を記録した電子調書等が債務名義となる場合)
については、
申立債権者に当該債務
名義の正本の提出を求めなくとも、
裁判所のシステムが構築されることに伴い、
執行裁判所
がシステムを通じることにより直接その存在・内容を確認することが可能となることが見
込まれる。
そこで、試案の8(1)は、申立債権者の利便性を向上する観点から、裁判所のファイルに
記録された債務名義については、
強制執行の申立てに当たり、
その正本の提出を不要とする
ことを提案するものである。
2 その他の裁判の正本提出に関する規律の見直し(試案の(注))29民事執行の手続においては、
強制執行の開始の場面以外にも、
債務名義を取り消す旨を記
載した執行力のある裁判の正本を提出して強制執行の停止を申し立てる場合(民執法第3
9条第1項第1号)など、裁判の正本を提出することが手続の要件となっている場面があ
る。
試案の(注)は、これらについても、本文と同様に、当該裁判が裁判所により電磁的記録
により作成された場合には、その正本の提出を不要とすることを提案している。
(2) 執行文に関する規律の見直し
ア 単純執行文
【甲案】
現行法上、強制執行の実施に当たり単純執行文の付与が必要となるケ
ースでも、債務名義が裁判所において電磁的記録により作成されたもの
である場合には、単純執行文の付与を不要とするものとする。
【乙案】
債務名義が裁判所において電磁的記録により作成されたものである場
合においても、現行法と同様に、単純執行文の付与を必要とするものと
する。
(注) 甲案をとる場合には、
債務名義が裁判所において書面により作成されたものであ
る場合にも、単純執行文の付与を不要とする考え方もある。
イ 特殊執行文
現行法上、強制執行の実施に当たり特殊執行文が必要となるケースにつ
いては、債務名義が裁判所において電磁的記録により作成されたものであ
る場合においても、現行法と同様に、特殊執行文の付与を必要とするもの
とする。
(補足説明)
1 執行文の制度
現行の民執法においては、
強制執行は、
原則として、
執行文の付された債務名義の正本に
基づいて実施することとされており(同法第25条)
、この執行文は、事件記録の存する裁
判所の裁判所書記官等が、
債権者が債務者に対して強制執行をすることができる場合に、申立てに基づき付与することとされている(同法第26条)。
執行文は、講学上、単純執行文と特殊執行文に分かれる。特殊執行文は、民執法第27条
が規定する、
請求が債権者の証明すべき事実の到来に係る場合における執行文
(条件成就執
行文)
及び債務名義に表示された当事者以外の者を債権者又は債務者とする執行文
(承継執30行文)がこれに当たる。単純執行文は、このような特殊執行文以外の執行文を指す。
現行の民執法において執行文の制度が採られているのは、強制執行の基礎となる債務名
義が執行力を有するものであるかどうかを執行機関とは異なる機関が判断することとする
ことにより、執行機関の負担を軽減し、もって迅速な強制執行を実現する趣旨であるとこ
ろ、民事執行の手続のIT化に伴い、執行裁判所と債務名義作成機関(執行文付与機関)と
の間の役割分担について、これまでの規律を見直すべきかどうかが問題となる。
2 単純執行文に関する規律の見直し(試案の8(2)ア、(注))
(1) 電子的な債務名義に基づく強制執行における単純執行文の要否(試案の8(2)ア)
ア 甲案(単純執行文を不要とする考え方)
前記のとおり、
裁判所において電磁的記録により作成され、
裁判所のファイルに記録
された債務名義については、
裁判所のシステムが構築されることに伴い、
執行裁判所が
システムを通じることにより直接その存在・内容を確認することが可能となる。
そのた
め、特殊執行文の付与が問題とならないような複雑な要件判断を伴わないと考えられ
るケースについては、執行裁判所がシステムを通じて債務名義に係る事件の記録等を
確認し、
執行力の有無を判断することとしても、
執行裁判所にとって過度な負担となる
ことはなく、民事執行の手続の迅速性を損なうことはないとも考えられる。
甲案は、
このような考え方に基づき、
裁判所において電磁的記録により作成され、裁判所のファイルに記録された債務名義について、単純執行文の付与を不要とするもの
である。
イ 乙案(単純執行文を必要とする考え方)
裁判所のシステムが整備された場合であっても、
執行裁判所が、
債務名義に係る事件
の記録等を自ら確認し、執行力の有無を判断しなければならないこととすることが適
切であるかどうかは、別途検討する必要があると思われる。
現行法では、
執行力の判断は、
例えば、
判決が債務名義である場合には訴訟が係属し
ていた裁判所の裁判所書記官が判断することとし、
執行裁判所は、
その判断をしないこ
ととしているが、このような役割分担を直ちに変更すべきだけの合理的な理由はない
との指摘も考えられる。
また、
単純執行文の付与には異議の申立てができるが、
これま
で執行文の付与等に関する異議の手続が果たしていた役割をどの機関がどのように担
うべきかという点など、検討すべき課題についての指摘もある。
乙案は、
このような観点から、
現行法の考え方を維持し、
裁判所において電磁的記録
により作成され、裁判所のファイルに記録された債務名義に基づく強制執行において
も、単純執行文の付与を必要とするものである(なお、乙案をとった場合であっても、
単純執行文の付与の申立てをインターネットを用いてすることができ、執行文の付与
が電磁的記録の作成によりされるなど、単純執行文の付与の手続が電子化されること31を前提としている。)。
(2) 電磁的記録でない債務名義における単純執行文の是非(試案の(注))
前記のとおり、試案の8(2)アは、債務名義が裁判所において電磁的記録により作成さ
れ、裁判所のファイルに記録されたものである場合における単純執行文の要否について
検討するものであり、
これ以外の債務名義については、
単純執行文の付与を必要とするこ
とを前提としている。
もっとも、
現行法における書面により作成された債務名義の中にも
単純執行文の付与が必要とされていないものもあるため
(少額訴訟における確定判決(民執法第25条ただし書)や、給付を命ずる家事審判(家事法第75条)等)、今般の検討
を契機として、
書面により作成された債務名義を含む全ての債務名義について、
単純執行
文の付与を不要とする取扱いに統一する考え方もあり得る。試案の(注)は、このような
考え方を記載するものである。
なお、
給付を命ずる家事審判においては、
現行法上、
単純執行文の付与は必要とされて
いないが、確定証明書により当該審判が確定したことを証明する必要はある。このよう
に、
裁判所において電磁的記録により作成され、
裁判所のファイルに記録された債務名義
以外の債務名義について単純執行文の付与を不要とした場合であっても、
(単純執行文に
代えて)債務名義作成機関の発行する証明書の提出が求められることがあり得ることを
前提としている。
3 特殊執行文に関する規律の見直し(試案の8(2)イ)
特殊執行文については、
その付与に当たって実体的な判断が必要となるため、
特殊執行文
が必要なケースにおける執行力の有無を執行裁判所が判断すべきものとすることは、民事
執行の手続の迅速性を損なうおそれがあると考えられる。
また、
執行裁判所によってその判
断が区々となり、法的安定性を損なう可能性も否定することができないように思われる。
試案の8(2)イは、このような観点から、債務名義が裁判所のファイルに記録されたもの
である場合について、
(このような場合に単純執行文の付与を不要とすることとした場合で
あっても)
現行法における書面により作成された債務名義と同様に、
特殊執行文の付与を必
要とすることを提案している。
なお、
試案は、
単純執行文におけるのと同様に、
特殊執行文の付与の申立てをインターネ
ットを用いてすることができ、
執行文の付与が電磁的記録の作成によりされるなど、
特殊執
行文の付与の手続が電子化されることは前提としている。
9 執行官と民事執行の手続のIT化
執行官が執行機関となる場合における民事執行の手続について、執行裁判所
が執行機関となる場合におけるのと同様にIT化するものとする。
(注) いずれの民事執行の手続においても、執行官に対する申立て等については、執行裁判32所に対する申立て等に関する規律(前記1及び2)と同様とするものとする。
(補足説明)
1 執行官が執行機関となる場合における民事執行の手続(試案の9)
民事執行の手続においては、
執行官が執行機関となる手続がある。
具体的には、
動産執行
(民執法第122条)や不動産の引渡(明渡)執行(同法第168条)、担保権の実行とし
ての動産競売(同法第190条)がある。これらの手続においては、執行官に対して直接申
立てがされる。
試案の9は、
これらの手続についても、
裁判所が執行機関となる手続と同様にIT化する
こととし、同様の規律とすることを提案するものである。
例えば、
執行官が執行機関となる場合につき、
執行官法第17条及び第18条は、
当事者
その他の利害関係人は、
事件記録の閲覧等を求めることができるとするが、
試案の6と同様
に、電子化された事件記録につき裁判所設置端末や裁判所外設置端末により閲覧などを求
めることができることとする。
2 執行官に対する申立て等(試案の(注))
民事執行の手続には、執行官が執行機関となる場合と裁判所が執行機関となる場合とが
あるが、執行官は、いずれの手続においても、役割を果たすことがあり、いずれの手続の中
でも、執行官に対して申立て等が行われる場合がある。
試案の
(注)
では、
いずれの手続においても、
裁判所に対する申立て等
(試案の1及び2)
と同様の規律とすることを提案している。
例えば、
執行官に対する申立て等はインターネッ
トを用いてすることができるとしつつ、民事訴訟手続においてインターネットを用いて申
立て等をしなければならない委任を受けた代理人等はそのインターネットの利用が義務付
けられることとなる。
10 その他
(注1) システムを使った電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べの申出や、書
面の提出に代えて電磁的記録をファイルに記録する方法による陳述、ウェブ会議による
裁判所外の尋問など、ITを活用した証拠調べ手続について、民事訴訟手続と同様の規
律を設けるものとする。
(注2) 費用額確定処分の申立ての期限について、民事訴訟手続と同様の規律を設けるもの
とする。
(注3) 民執法第91条第1項に基づき配当留保供託がされた場合において、長期間にわた
り供託事由を解消するための手続がとられないままとなっている事案を解消するため
の方策(例えば、供託から一定期間が経過した際には裁判所から債権者に対して状況を33届け出るよう催告することとし、届出がないときは供託を終了して他の債権者に配当等
を実施する制度の導入等)について検討すべきとの考え方がある。
(注4) 民訴法の改正を踏まえて裁判官の権限のうち定型的な判断事項等を裁判所書記官の
権限とする見直しなど実務上必要な見直しがないのか検討すべきとの考え方がある。
(補足説明)
1 証拠調べの手続(試案の(注1))
令和4年改正法により、
民訴法においては、
電磁的記録に記録された情報の内容に係る証
拠調べの規定
(同法第231条の2、
第231条の3)
や尋問に代わる電磁的記録の提出に
関する規定
(同法第205条第2項)
が整備されたほか、
裁判所外における証拠調べについ
て、ウェブ会議を利用することができることとされている(同法第185条第3項)。
試案の(注1)は、民事執行の手続において証拠調べを行う場合に、民訴法におけるIT
を活用した証拠調べの規律と同様の規律を適用することを提案するものである。
2 費用額確定処分の申立ての期限(試案の(注2))
令和4年改正法により、
民訴法においては、
訴訟費用の額が長期にわたって確定されない
事態を防ぐため、訴訟費用の額の確定の申立てに10年の期間制限を設けることとしてい
る(同法第71条第2項)。
民事執行の手続における手続費用についても、その額が長期にわたって確定されない事
態を防ぐ必要があると考えられることから、試案の(注2)では、民事執行の手続における
手続費用の額の確定の申立てについて、民事訴訟手続と同様に10年の期間制限を設ける
ことを提案している。
3 配当留保供託の取扱い(試案の(注3))
現行の民執法においては、
配当等を受けるべき債権者の債権について、
直ちに配当等を実
施することができない事由がある場合等には、その配当等の額に相当する金銭を供託しな
ければならないこととされている(いわゆる配当留保供託。民執法第91条)。
この供託については、
事後的に供託の事由が消滅したときに、
供託金について追加配当等
を実施することとされているが(同法第92条)、部会では、債権者が必要な手続を行わな
いために、
長期間にわたっていつまでも追加配当等を実施することができず、
他の債権者等
が追加配当等を受けることできないという事態が生じており、このような事態を解消する
ための方策を検討する必要があるとの指摘があった。
そこで、
試案の
(注3)
では、
そのような考え方を記載している。
具体的な方策としては、
例えば、
配当留保供託がされてから一定期間が経過した場合に、
裁判所から当該供託に係る
債権者への催告により、
供託を継続するための届出をさせることとし、
届出がないときは供34託を終了して他の債権者に配当等を実施する制度を導入すること等が考えられるが、どの
ような規律を設けることが相当であるかについては、引き続き検討する必要がある。
4 その他(試案の(注4))
これまでに掲げたもののほか、部会では、例えば、民訴法において期日の変更・取消しが
裁判所から裁判長の権限とされたことを踏まえ、
売却決定期日の変更・取消しを裁判所書記
官の権限とすることなど、
これまでに掲げた論点のほか、
民訴法の内容も踏まえつつ、
実務
上見直しをすべき点がないか検討すべきであるとの指摘があった。
試案の(注4)は、この点について記載するものであり、今後、民訴法の内容を踏まえつ
つ、
実務上見直しをすべき点の指摘が具体的にあれば、
その指摘を踏まえて検討することも
考えられる。
第2 民事保全
1 裁判所に対する申立て等
(1) インターネットを用いてする申立て等の可否
民事保全の手続において裁判所に対して行う申立て等については、民訴法
第132条の10の規定を準用し、全ての裁判所に対し、一般的に、インタ
ーネット(電子情報処理組織)を用いてすることができるものとする。
(補足説明)
現行の民保法においては、
民事保全の手続における申立て等のうち、
最高裁判所の定める裁
判所に対してするものについては、
最高裁判所規則で定めるところにより、
インターネットを
用いてすることができるとされている(同法第6条の3)。
試案の1(1)は、民事保全の手続における申立て等についても、手続の利便性を向上すると
ともに、
迅速な手続を実現する観点から、
民訴法第132条の10の規定を準用し、
全ての裁
判所に対し、一般的に、インターネット(電子情報処理組織)を用いてすることができるもの
とすることを提案している。
なお、
民事保全の手続において裁判所に対して行う申立て等としては、
保全命令の申立ての
ほか、
保全異議の申立て
(民保法第26条)
及び保全取消しの申立て
(同法第37条第3項等)
などがある。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の1(1)の(補足説明)参照。
(2) インターネットを用いてする申立て等の義務付け
民事保全の手続において、民訴法第132条の11の規定を準用し、民事
訴訟手続においてインターネットを用いて申立て等をしなければならない35委任を受けた代理人等は、裁判所に対して行う申立て等をインターネットを
用いてしなければならないものとする。
(補足説明)
試案の1(2)では、民事保全の手続においても、令和4年改正法による民訴法改正の考え方
が妥当すると考えられることから、
民訴法第132条の11の規定を準用し、
民事訴訟手続と
同様に、
民事保全の手続における委任を受けた代理人等について、
インターネットによる申立
て等を義務付けることを提案し、
他方で、
それ以外の者については、
インターネットを用いて
申立て等をすることを義務付けることは提案していない。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の1(2)アの(補足説明)参照。
2 提出された書面等及び記録媒体の電子化
(1) 提出された書面等及び記録媒体の電子化の対象事件等
(注)のいずれかの考え方を採用した上で、裁判所に提出された書面等及び
記録媒体につき、
下記(2)の電子化のルールを適用し、
裁判所書記官において
提出された書面等及び記録媒体をファイルに記録しなければならないもの
とする。
(注) 裁判所に提出された書面等及び記録媒体について、法律上、全ての事件につき下記
(2)の電子化のルールを適用するとの考え方
(A案)
と、
電子化を目指しつつも、
民事
保全の手続の特性を考慮し、
裁判所の判断で電子化することが可能であることを前提
とした上で、法律の定めとしては、一定の範囲で、下記(2)の電子化のルールを適用
するとの考え方(B案)がある。
A案の中には、全ての事件につき、下記(2)の電子化のルールをそのまま適用する
との考え方(A-1案)のほかに、申立て等以外の書面等及び記録媒体のルールであ
る下記(2)2の電子化をしない場合の要件につき「ファイルに記録することにつき困
難な事情があるとき」に代えて、民事保全の手続の特性を考慮し、より柔軟な運用を
可能とする要件を置いた上で、下記(2)の電子化のルールを適用するとの考え方があ
る(A-2案)。
B案の中には、1法律上、下記(2)の電子化のルールを適用する事件を一定の範囲
のものとする考え方(B-1案)、2一定の基準を定めて下記(2)の電子化のルール
を適用する
(電子化の意義を踏まえて一定の基準を定めて法律上電子化しなければな
らないものとする)考え方(B-2案)、3当事者を含む利害関係を有する者の申出
があった場合に下記(2)の電子化のルールを適用する(当事者を含む利害関係を有す
る者の申出があった場合に電子化しなければならないものとする)
考え方
(B-3案)
がある。36(補足説明)
現行の民保法の下では、
事件記録は書面により管理されており、
裁判所に提出された書面等
については、これらをそのまま編てつすることにより、事件記録が作成されている。
民事保全の手続においても、
民事訴訟手続と同様に、
利便性向上の観点から、
裁判所に提出
された書面等をファイルに記録し、これを電子化することとすることが考えられ、部会では、
その電子化をすることにつき積極的な意見が出された。
他方で、
部会では、
民事保全の手続で
は、申立てがあった場合は、基本的に、債務者の審尋をすることなく、速やかに保全命令が発
令される必要があり、
提出された書面等を一律に電子化しなければならないものとすると、民事保全事件全体で保全命令の発令が遅れる可能性がある一方、保全命令が発令された後に保
全異議又は保全取消しの申立てがされて事件記録全体を改めて参照しなければならなくなる
といった事案は、保全事件全体のうち、あまり多くないとの指摘もあった。
民事保全の手続についても、基本的に、試案の2(2)の電子化のルールを適用し、提出され
た書面等を電子化していくことが考えられるが、その具体的な規律については、試案の(注)
のとおり、検討することが考えられ、試案の2(1)は、このことについて記載するものであ
る。
試案の(注)の具体的な説明などその他の説明については、試案の第1の2(1)の(補足説
明)参照。
(2) 提出された書面等及び記録媒体の電子化のルール
民訴法第132条の12及び第132条の13と同様に、裁判所に提出さ
れた書面等及び記録媒体の電子化のルールとして、次のような規律を設ける
ものとする。
1 申立て等が書面等により行われたときは、裁判所書記官は、当該書面等
に記載された事項をファイルに記録しなければならない。ただし、当該事
項をファイルに記録することにつき困難な事情があるときは、この限りで
ない。
2 裁判所書記官は、1の申立て等に係る書面等のほか、民事保全の手続に
おいて裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記載され、又は記録され
ている事項をファイルに記録しなければならない。ただし、当該事項をフ
ァイルに記録することにつき困難な事情があるときは、この限りでない。
3 裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記載され、又は記録されてい
る事項のうち、次のものについては、1及び2の規律にかかわらず、ファ
イルに記録することを要しない。
i 第三者の閲覧等の制限の申立てがあった営業秘密のうち特に必要があ37るもの
ii 秘匿決定の申立てがあった場合における秘匿事項の届出に係る事項
iii 当事者の閲覧等の制限の申立て又は当事者の閲覧等の制限の決定があ
った閲覧等の制限がされるべき事項のうち必要があるもの
(注) 民訴法第92条第9項及び第10項、第133条の2第5項及び第6項並びに第1
33条の3第2項と同様に、
インターネットを用いた提出によりファイルに記録され
た電子化された事件記録のうち、
1第三者の閲覧等の制限の申立てがあった営業秘密
のうち特に必要がある部分又は2当事者の閲覧等の制限の申立て若しくは当事者の
閲覧等の制限の決定があった閲覧等の制限がされるべき事項が記録された部分は、その内容を書面に出力し、又はこれを他の記録媒体に記録するとともに、当該部分を電
子化された事件記録から消去する措置その他の当該部分の安全管理のために必要か
つ適切なものとして最高裁判所規則で定める措置を講ずることができるものとする。
(補足説明)
1 提出書面等及び記録媒体の電子化のルール
試案の2(2)は、民事保全の手続においても、民事訴訟手続と同様の電子化のルールを適
用することを提案するものである(ただし、試案の2(1)の(注)のとおり、民事保全の手
続においてより柔軟な運用を可能とするため、一定の修正を施す考え方(A-2案)があ
る。)。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の2(2)の(補足説明)参照。
2 ファイルに記録された事項に係る安全管理措置(試案の(注))
試案の(注)は、民事保全の手続においても、民事訴訟手続と同様に、ファイルに記録さ
れた営業秘密や秘匿事項等に係る部分について、書面に出力してこれを事件記録として保
管し、ファイルに記録された部分は当該ファイルから消去するなどの措置をとることがで
きることとすることを提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の2(2)の(補足説明)参照。
3 裁判書及び調書等の電子化
裁判官が作成する裁判書及び裁判所書記官が作成する調書等について、書面
による作成に代えて、最高裁判所規則で定めるところにより、電磁的記録によ
り作成するものとする。
(補足説明)
民訴法においては、
裁判所が作成する判決書や裁判所書記官が作成する調書等について、電38
磁的記録によりこれを作成することとされている(同法第160条第1項及び第252条第
1項)。
民事保全の手続においても、
裁判所は裁判書を作成することがあり、
また、
裁判所書記官は
調書を作成することがある。
これらについては、
現行の民保法上、
書面で作成することが前提
とされている。
試案の3は、
民事訴訟手続と同様に、
これらについても電磁的記録により作成するものとす
ることを提案するものである。
なお、民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の3の(補足説明)参照。
4 期日におけるウェブ会議及び電話会議の利用
(1) 口頭弁論の期日
口頭弁論の期日について、民訴法第87条の2第1項及び第3項の規定を
準用し、裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判
所規則で定めるところにより、ウェブ会議を当事者に利用させることができ
るものとする。
(補足説明)
民事保全の手続においても、
任意で、
口頭弁論の期日を開くことができる
(任意的口頭弁論
の原則。民保法第3条参照)。
試案の4(1)は、民事保全の手続においても、民事訴訟と同様のルールにより、口頭弁論の
期日につき、
ウェブ会議を利用することができるものとする
(民訴法と同様の規律とする)ことを提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の4(1)の(補足説明)参照。
(2) 審尋の期日
1 審尋の期日について、民訴法第87条の2第2項及び第3項の規定を準
用し、裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判
所規則で定めるところにより、ウェブ会議及び電話会議を当事者に利用さ
せることができるものとする。
2 参考人等の審尋について、民訴法第187条第3項及び第4項の規定を
準用し、裁判所は、相当と認めるときは、最高裁判所規則で定めるところ
により、ウェブ会議により参考人又は当事者を審尋することができるもの
とするとともに、当事者双方に異議がないときは、電話会議により参考人
又は当事者を審尋することができるものとする。39(補足説明)
民事保全の手続においても、審尋がされることがある(民保法第23条第4項参照)。
試案の4(2)は、
民事保全の手続においても、
民事訴訟と同様のルールにより、
審尋につき、
ウェブ会議や電話会議を利用することができるものとする
(民訴法と同様の規律とする)
こと
を提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の4(2)の(補足説明)参照。
(3) 仮の地位を定める仮処分命令における債務者が立ち会うことができる審尋
の期日
【甲案】
裁判所は、相当と認めるときは、債務者の意見を聴いて、最高裁判所規
則で定めるところにより、ウェブ会議によって、民保法第23条第4項所
定の仮の地位を定める仮処分命令における債務者が立ち会うことができる
審尋の期日における手続を行うことができるものとし、電話会議の利用は
認めないものとする。
【乙案】
甲案に記載している特段の規律は設けないものとする。
(補足説明)
保全命令の申立てに関する審理において、債務者の審尋を行うかは裁判所の裁量に委ねら
れているが、
その例外として、
仮の地位を定める仮処分命令については、
口頭弁論又は債務者
が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、これを発することができないものとされ
ている(民保法第23条第4項本文。ただし、同項ただし書において、その期日を経ることに
より仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでない
ものとされている。)。
部会においては、
仮の地位を定める仮処分が、
暫定的にではあれ、
権利関係を実現させる効
果を生じさせることから、
仮の地位を定める仮処分命令における審尋の期日について、
ウェブ
会議の利用は認めるが、
電話会議の利用は認めるべきではないとの意見があった。
他方で、債務者審尋の期日は、
債務者に陳述の機会を保障しようとするものであり、
債務者において出頭
又はウェブ会議によって審尋の期日に関与することができない場合には、債務者が電話会議
により陳述することを認めることが望ましいなどの理由から、仮の地位を定める仮処分命令
における債務者審尋の期日についても、電話会議の利用を否定すべきではないとの意見もあ
った。
試案の4(3)では、仮の地位を定める仮処分命令における債務者が立ち会うことができる審
尋の期日について、試案の4(2)とは異なり、ウェブ会議を利用することを認めるが、電話会40議を利用することは認めない案を甲案、そのような特段の規律を設けず、試案の4(2)の規律
を適用する案を乙案として、両案を併記している。
(4) 保全異議、保全取消し及び保全抗告の審尋期日
【甲案】
裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規
則で定めるところにより、ウェブ会議によって、保全異議、保全取消し及
び保全抗告の審尋期日における手続を行うことができるものとし、電話会
議の利用は認めないものとする。
【乙案】
甲案に記載している特段の規律は設けないものとする。
(補足説明)
民保法は、
裁判所は、
口頭弁論又は当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日を経なけ
れば、
保全異議、
保全取消し及び保全抗告の申立てについての決定をすることができないもの
としている(民保法第29条、第40条第1項及び第41条第4項)。
部会では、
これらの審尋期日は当事者双方に立会権があること等を理由に、
これらの審尋期
日について、
ウェブ会議の利用を認めるが、
電話会議の利用は認めるべきではないこととする
意見があったが、
他方で、
民事訴訟においても民訴法第87条第2項所定の
(口頭弁論に代わ
る)審尋についても電話会議の利用が認められており(同法第87条の2第2項)、民事保全
の手続の迅速性の観点からも、
これらの審尋期日においても、
電話会議を利用することを否定
することはできないとする意見もあった。
そこで、試案の4(4)では、保全異議等の審尋の期日について、試案の4(2)とは異なり、ウ
ェブ会議を利用することを認めるが、
電話会議を利用することは認めない案を甲案、
そのよう
な特段の規律を設けず、
試案の4(2)の規律を適用する案を乙案として、
両案を併記している。
5 電子化された事件記録の閲覧等
電子化された事件記録についても請求の主体及び債権者以外の者の請求の時
期に係る民保法第5条の規律を基本的に維持し、次のような規律を設けるもの
とする。
利害関係を有する者は、電子化された事件記録について、最高裁判所規則で
定めるところにより、閲覧、複写(ダウンロード)、事件記録に記録されてい
る事項の内容を証明した文書若しくは電磁的記録の交付若しくは提供又は事件
に関する事項を証明した文書若しくは電磁的記録の交付若しくは提供(以下こ
の5において「閲覧等」という。)の請求をすることができる。ただし、債権41者以外の者にあっては、保全命令の申立てに関し口頭弁論若しくは債務者を呼
び出す審尋の期日の指定があり、又は債務者に対する保全命令の送達があるま
での間は、この限りでない。
(注) 電子化された事件記録の閲覧等の具体的な方法について、次のような規律を設けるも
のとする。
1 利害関係を有する者は、裁判所設置端末及び裁判所外端末を用いた閲覧等を請求す
ることができる。
2 当事者(申立債権者及び債務者)は、いつでも事件の係属中に裁判所外端末を用い
た閲覧又は複写をすることができる。
(補足説明)
1 電子化された事件記録の閲覧等
民事保全の手続において、インターネットを用いて申立て等をすることを認めることと
した場合には(試案の1(1))、インターネットを用いてされた申立て等については、当該
申立て等に係る電磁的記録
(電子データ)
はそのまま事件記録となることが想定される。また、書面等が提出された場合に、当該書面等を裁判所のファイル(サーバ)に記録すること
とし
(試案の2)、裁判官が作成する裁判書や裁判所書記官が作成する調書についても電磁
的記録により作成することとした場合には
(試案の3)、ファイルに記録された電磁的記録
が事件記録となる。これらの電子化された事件記録の閲覧等に関する規律が問題となる。
2 閲覧等の請求の主体及び債権者以外の者の請求の時期(試案の5)
民保法第5条は、
保全命令に関する手続について、
利害関係を有する者は、
事件記録の閲
覧等の請求をすることができることとしている。また、同条は、債権者以外の者は、保全命
令の申立てに関し口頭弁論若しくは債務者を呼び出す審尋の期日の指定があり、又は債務
者に対する保全命令の送達があるまでの間は、閲覧等の請求をすることができないとして
いる。
これらは、
電子化されていない事件記録についての規律であるが、
電子化された事件
記録についても、この請求の主体や債権者以外の者の請求の時期に係る規律を変更すべき
理由はないことから、
試案の5の本文では、
基本的に、
請求の主体や債権者以外の者の請求
の時期に係る民保法第5条の考え方を基本的に維持することとしている。
3 請求の具体的な内容(試案の5及び(注))
(1) 請求の内容(試案の5)
試案の5の本文は、
民事保全の手続における電子化された事件記録についても、
請求す
ることができる内容につき、民事訴訟と同様の規律とすることを提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の6の(補足説明)参照。42(2) 閲覧等の方法(試案の(注))
試案の(注)は、「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱」を踏まえて、具
体的な閲覧等の方法につき提案をしている。
要綱の説明その他の説明については、
試案の
第1の6の(補足説明)参照。
なお、
部会では、
破産手続や家事事件手続における事件記録の閲覧等について、
裁判所
外端末を用いて閲覧等をすることができるのは当事者的な立場にある者のみに限るべき
との指摘があり(試案の第3の5の(注3)及び第9の7(1)の(注3)参照)、民事保
全の手続についても、試案の(注)1とは異なり、非公開の手続についての規律を統一す
るとの観点から、裁判所外端末を用いて閲覧等をすることができるのは当事者に限るべ
きとの意見もあった。他方で、仮に、破産手続や家事事件手続において、裁判所外端末を
用いて閲覧等をすることができるのを当事者的な立場にある者に限ることとする場合で
あっても、
その後に本案訴訟の提起が予定されている民事保全の手続において、
民事訴訟
手続とは異なる規律とし、破産手続や家事事件手続と同様の規律とする必要性や相当性
が問題となると考えられることから、この意見は、試案に記載されていない。
6 送達
(1) 電磁的記録の送達
民事保全の手続における電磁的記録の送達について、民訴法第109条か
ら第109条の4までの規定を準用するものとする。
(補足説明)
試案の6(1)は、民事保全の手続における電磁的記録の送達についても、民事訴訟と同様の
規律とするために、民訴法第109条から第109条の4までの規定を準用することを提案
している。民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の7(1)の(補足説明)参照。
なお、
保全命令の送達は、
保全執行に関する手続であることから、
試案の7の
(注3)
参照。
(2) 公示送達
民事保全の手続における公示送達について、民訴法第111条の規定を準
用するものとする。
(補足説明)
試案の6(2)は、民事保全の手続における公示送達についても、民事訴訟と同様の規律とす
るために、
民訴法第111条の規定を準用することを提案している。
民事訴訟の説明その他の
説明については、試案の第1の7(2)の(補足説明)参照。437 その他
(注1) システムを使った電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べの申出や、書
面の提出に代えて電磁的記録をファイルに記録する方法による陳述、ウェブ会議による
裁判所外の尋問など、ITを活用した証拠調べ手続について、民事訴訟手続と同様の規
律を設けるものとする。
(注2) 費用額確定処分の申立ての期限について、民事訴訟手続と同様の規律を設けるもの
とする。
(注3) 保全執行に関する手続については民事執行の手続と同様にIT化するものとする。
(注4) 本案の訴えの提起又はその係属を証する書面(民保法第37条第1項)については、
保全命令を発した裁判所において本案の訴えの提起又はその係属を裁判所のシステム
を通じて確認することとして、起訴命令を発せられた債権者による提出を不要とするも
のとする。
(注5) 和解を記載した調書は、当事者に送達しなければならないものとする(現行におい
て実費精算する取扱いがなされている郵便費用を、申立ての手数料に組み込み一本化す
ることと併せて実現するものとする。)。
(注6) 民訴法の改正を踏まえて裁判官の権限のうち定型的な判断事項等を裁判所書記官の
権限とする見直しなど実務上必要な見直しがないのか検討すべきとの考え方がある。
(補足説明)
1 証拠調べの手続(試案の(注1))
試案の(注1)は、民事保全の手続において証拠調べを行う場合に、民訴法におけるIT
を活用した証拠調べの規律と同様の規律を適用することを提案するものである。民事訴訟
の説明その他の説明については、試案の第1の10の(注1)の(補足説明)参照。
2 費用額確定処分の申立ての期限(試案の(注2))
民事保全の手続における手続費用についても、その額が長期にわたって確定されない事
態を防ぐ必要があると考えられることから、試案の(注2)では、民事保全の手続における
手続費用の額の確定の申立てについて、民事訴訟手続と同様に10年の期間制限を設ける
ことを提案している。民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の10の(注
2)の(補足説明)参照。
3 保全執行に関する手続(試案の(注3))
保全執行に関する手続
(民保法第43条以下)
については、
民事執行の手続と共通する点
も多く、民保法第46条は、民執法の規定を保全執行について個別に準用している。
試案の(注3)は、保全執行の手続についても、民事執行の手続と同様にIT化すること44を提案するものである。
例えば、
民事執行の手続における電磁的記録の送達については、
申立債権者や送達を受け
る第三債務者の利益等に配慮しつつ、電子情報処理組織による送達の活用の在り方につい
て検討すべきとの考え方があるが(試案の第1の7(1)の(注)参照)、この論点について
の検討は、保全執行の手続における仮差押命令の送達についても妥当するものと考えられ
る。
また、民事執行の手続のIT化については、債務名義の正本提出に関する規律の見直し
(試案の第1の8(1)の本文参照)や裁判を証明する文書の提出を不要とすること(試案の
第1の8(1)の(注)参照)が提案されており、保全執行の手続においても、保全命令の正
本(民保法第43条第1項)や裁判を証明する文書の正本(例えば、担保を立てることを保
全執行の続行の条件とする旨の裁判(同法第44条第2項)や保全執行を停止させる裁判
(同法第46条において準用する民執法第39条)
がある。)の提出を不要とすることが考
えられる。
4 本案の訴えの提起又はその係属を証する書面の提出(試案の(注4))
民保法は、保全命令を発した裁判所は、債務者の申立てにより、債権者に対し、相当と認
める一定の期間内に、
本案の訴えを提起するとともにその提起を証する書面を提出し、
既に
本案の訴えを提起しているときはその係属を証する書面を提出すべきことを命じなければ
ならず
(民保法第37条第1項)、債権者が同項の規定により定められた期間内に同項の書
面を提出しなかったときは、
裁判所は、
債務者の申立てにより、
保全命令を取り消さなけれ
ばならないこととしている(同条第3項)。
しかし、
本案の訴えの訴訟記録は電子化されており、
債権者に本案の訴えの提起又はその
係属を証する書面の提出を求めなくとも、
裁判所のシステムが構築されることに伴い、
保全
命令を発した裁判所がシステムを通じることにより本案の訴えの訴訟記録を直接確認する
ことが可能となることが見込まれる。
そこで、試案の(注4)は、債権者の利便性を向上する観点から、本案の訴えの提起又は
係属を証する書面の提出を不要とすることを提案するものである。
これに対し、家事調停の申立て、労働審判の申立て、仲裁手続開始の手続、
公害紛争処理
法第42条の12第1項に規定する責任裁定の申請も、本案の訴えの提起とみなされる場
合があるが(民保法第37条第5項参照)、保全命令を発した裁判所において、債権者が提
起した事件の記録の内容をシステムによって確認することができない場合には、現行法と
同様に、本案の訴えの提起又は係属を証する書面の提出を求める必要があると考えられる。
5 和解調書の送達(試案の(注5))
現行の民保法下においては、
和解を記載した調書については、
職権で送達する旨の規定は45なく、当事者からの申請を待って送達することとされている。
試案の(注5)は、民事訴訟手続と同様に、民事保全の手続における和解調書について
も、当事者からの送達申請によらずに送達しなければならないものとすることを提案する
ものである(この提案が、郵便費用を申立ての手数料に組み込み一本化することと併せて
実現することを提案するものであることは、他の手続における和解調書(及び調停調書)
の送達に係る提案と同様である。)。
民事訴訟の説明その他の説明については、
試案の第5
の5の(補足説明)参照。
なお、
他の手続においては、
送達のほかに、
送付をすることも許容することにつき検討を
しているため、
部会では、
他の手続との関係を考慮し、
送付をすることも許容するのか検討
すべきではないかとの指摘もあった。
6 その他(試案の(注6))
部会では、
これまでに掲げた論点のほか、
民訴法の内容を踏まえつつ、
実務上見直しをす
べき点がないか検討すべきであるとの指摘があった。試案の(注6)は、この点について記
載するものであり、
今後、
民訴法の内容を踏まえつつ、
実務上見直しをすべき点の指摘が具
体的にあれば、その指摘を踏まえて検討することも考えられる。
第3 破産手続
1 裁判所に対する申立て等
(1) インターネットを用いてする申立て等の可否
破産手続等(破産法第2条第1項に規定する破産手続及び破産法第12章
に規定する免責・復権に係る手続をいう。以下同じ。)において裁判所に対
して行う申立て等については、民訴法第132条の10の規定を準用し、全
ての裁判所に対し、一般的に、インターネット(電子情報処理組織)を用い
てすることができるものとする。
(注) 申立て等をインターネットを用いてする際の方法としては、システム上のフォーマ
ット入力の方式を検討すべきとの考え方がある。
(補足説明)
1 インターネットを用いてする申立て等の可否(試案の1(1))
現行の破産法においては、
破産手続等における申立て等のうち、
最高裁判所の定める裁判
所に対してするものについては、
最高裁判所規則で定めるところにより、
インターネットを
用いてすることができるとされている(同法第8条の4)。
試案の1(1)は、破産手続等における申立て等についても、手続の利便性を向上するとと
もに、
迅速な手続を実現する観点から、
民訴法第132条の10の規定を準用し、
全ての裁46判所に対し、一般的に、インターネット(電子情報処理組織)を用いてすることができるも
のとすることを提案している。
なお、破産手続等における申立て等としては、例えば、破産手続開始の申立て(破産法第
18条第1項等)、破産債権者による債権届出(同法第111条)や債権調査における異議
(同法第118条第1項)
のほか、
破産管財人の職務行為に関する許可の申立て
(同法第7
8条第2項)や報告(同法第157条)などが含まれる。
また、申立て等を行う「破産手続等」とは、試案の1(1)記載のとおり、破産法第2条第
1項に規定する破産手続及び同法第12章の規定による免責・復権の手続をいう
(同法第3
条参照)。否認の請求(同法第174条第1項)、役員責任査定決定の申立て(同法第17
8条第1項)などの手続を含むものであることを前提としている。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の1(1)の(補足説明)参照。
2 インターネットによる申立て等の方法(試案の(注))
破産手続等における申立て等をインターネットを用いてすることを可能とした場合に
は、それは、今後構築される裁判所のシステムを通じてこれを行うことが想定されている。
そのため、
インターネットによる申立て等の具体的な方法については、
システムの具体的な
内容も踏まえて検討されることとなる。
部会においては、
申立て等をする者の利便性の向上や、
その後のデジタル情報の利用によ
る効率化・迅速化のため、
債権届出などの申立て等については、
フォーマット入力方式で申
立て等ができるようにすることなどについても検討すべきであるとの意見があった。この
ような議論は、今後の検討に際しても参考になると思われることから、試案の(注)では、
このような考え方があったことを記載している。
(2) インターネットを用いてする申立て等の義務付け
ア 委任を受けた代理人等
破産手続等において、民訴法第132条の11の規定を準用し、民事訴
訟手続においてインターネットを用いて申立て等をしなければならない委
任を受けた代理人等は、裁判所に対して行う申立て等をインターネットを
用いてしなければならないものとする。
イ 破産管財人等
破産管財人等(破産管財人及び保全管理人をいう。以下同じ。)は、当
該選任を受けた破産手続等において裁判所に対して行う申立て等をインタ
ーネットを用いてしなければならないものとする。47(補足説明)
1 委任を受けた代理人等(試案の1(2)ア)
試案の1(2)アでは、破産手続等においても、令和4年改正法による民訴法改正の考え方
が妥当すると考えられることから、
民訴法第132条の11の規定を準用し、
民事訴訟手続
と同様に、
破産手続等における委任を受けた代理人等について、
インターネットによる申立
て等を義務付けることを提案し、
他方で、
それ以外の者については、
インターネットを用い
て申立て等をすることを義務付けることは提案していない(ただし、破産管財人等及び債権
届出についての他の考え方については、試案の1(2)イ及び(後注)参照)。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の1(2)アの(補足説明)参照。
2 破産管財人等(試案の1(2)イ)
破産手続等においては、
裁判所とは異なる独立の手続機関として、
破産管財人が設けられ
ている。
破産管財人は、
破産財団に属する財産の管理処分権を専属的に有し
(破産法第78
条第1項)、様々な手続上の権限・義務を有しており、その行う申立て等は、職務行為に関
する許可の申立て(同条第2項)や裁判所に対する認否書、財産目録等及び報告書の提出
(同法第117条第3項、
第153条第2項及び第157条第1項)
など幅広い。
このよう
な破産管財人の行う職務の重要性や幅広さに鑑みると、破産手続等の迅速化・効率化のた
め、
破産管財人の行う申立て等について、
インターネットを用いてすることを義務付ける必
要があると思われる。そして、保全管理人についても、基本的に、破産管財人と同様の検討
が妥当するものと思われる。
試案の1(2)イは、このような観点から、破産管財人等が、当該選任を受けた破産手続等
における申立て等を行うに当たっては、インターネットを用いてすることを義務付けるこ
とを提案するものである。
ところで、
破産管財人等にインターネットの利用を義務付けるとしても、
その義務の意味
合いがどのようなものとなるかは、
別途検討する必要がある。
すなわち、
その義務に違反し
てされた申立て等の適法性自体が問題となるとの整理があり得る一方、その義務は破産管
財人等の職務上の義務であるとすると、
その義務違反は、
当該申立て等の適法性に影響を与
えるものではなく、
裁判所による監督の対象となるものであり、
破産管財人等を解任するか
どうかの考慮要素になるものにすぎないとの整理もある。
また、試案の1(2)イは、破産管財人等が、当該選任を受けた破産手続等における申立て
等を行うに当たっては、
インターネットを用いてすることを義務付けるものであり、
それ以
外の手続、
例えば、
破産に関連する民事訴訟において、
その申立て等をインターネットを用
いてすることを義務付けるものではない。
部会では、
破産管財人等については、
自らが破産
に関する民事訴訟における申立て等をする場合についてもインターネットを用いてするこ
とを義務付けるべきであるとの意見があった。
もっとも、
民事訴訟においては、
委任を受け48た訴訟代理人等についてのみ義務化をしていることもあり、
試案では、
そのような規律を提
案していない。
なお、
民事訴訟手続においては、
申立て等につきインターネットを用いてしなければなら
ないものとされている者については、インターネットを利用した送達を受ける旨の届出を
しなければならないものとされており、このような者に対するインターネットを利用した
送達は、
届出をしない場合であってもすることができるなどとされている
(民訴法第132
条の11第2項及び第109条の4)。試案の1(2)イは、破産手続等においては、破産管
財人等についても、インターネットを利用した送達を受ける旨の届出をしなければならな
いものとすることを想定している。
そのほか、試案の1(2)イのとおり法制化をするに際しては、破産管財人等と同様の役割
を果たす破産管財人代理
(同法第77条)
及び保全管理人代理
(同法第95条)
についても、
同様の規律を設けることが考えられる。
(後注) 本文の考え方のほか、債権届出については、破産手続において自認債権制度(民
事再生法第101条第3項参照)
を設けるなど破産債権者による債権届出がなくとも
破産手続において破産債権があるものとして扱うことができる制度、
債権届出を容易
にする制度及び債権届出をサポートする制度を創設した上で、
インターネットを用い
て申立て等をすることが困難であると認められる者を除き、全ての者が、インターネ
ットを用いてこれをしなければならないものとするとの考え方がある。
(補足説明)
1 試案の(後注)の考え方
破産手続に参加しようとする破産債権者は、裁判所に債権届出を提出しなければならな
いものとされている(破産法第111条第1項)。債権届出の提出は、多数の破産債権者に
よって行われ、また、画一的な処理になじむものであり、手続の円滑な進行を図るため、イ
ンターネットを用いて行われることが望ましいことから、
債権届出の提出については、
債権
届出を容易にする制度(例えば、フォーマット入力の方式)を導入することを前提に、全て
の者につき、インターネットを用いてしなければならないものとすべきであるとの考え方
がある。
この考え方については、
債権届出につき、
一律にインターネットを用いてしなければなら
ないものとすると、
インターネットを利用することができない者について、
債権届出をする
ことができなくなるとの懸念があるものの、
上記の考え方は、
インターネットを利用するこ
とができない者については、そのサポート制度(例えば、代理委員の制度(破産法第110条)など)
を拡充することで対応することができること、
サポート制度を前提としてもなお
インターネットを利用できない者については、義務化の対象外とすることもあり得ること、49破産手続において自認債権制度
(民再法第101条第3項参照)
を設けるなど破産債権者に
よる債権届出がなくとも破産手続において破産債権があるものとして扱うことができる制
度を設けることで保護を図ることができることなどをその前提としている。
試案の(後注)は、以上の考え方を記載するものである。
2 試案の(後注)に反対する意見等
試案の
(後注)
の考え方に対しては、
債権届出についてのみそのような義務付けをするこ
とは、民事訴訟手続において訴訟代理人等による申立て等に限って義務付けをしているこ
ととの整合性がとれないという意見や、
労働者において、
使用者の倒産といった精神的苦痛
が生じる中で、インターネットを利用しない限り届出をすることができないこととすると、
それ自体がハードルとなり、届出を断念しなければならなくなる可能性があるとの意見が
ある。
また、
一定の者につき例外を設けるとしても、
その者を具体的に定義することは困難であ
るとの指摘や、債権届出に係るシステムが使いやすいものとなるのであれば義務付けをし
なくともインターネットを用いた債権届出がされることとなり、義務化をする必要はない
との指摘もある。
以上の点のほか、
破産手続において自認債権制度を設けることについては、
債権届出を提
出していない破産債権者の破産手続への参加を認め、権利の上に眠るものは保護しないと
の原則に対する例外を認めることとなるため、慎重な検討を要するとの指摘がある。また、
再生手続において自認債権制度が認められているのは、再生債権について認否をすること
とされている再生債務者において、
届出がない再生債権につき、
その存在を知っているにも
かかわらず、
当該再生債権につき再生債権者表に記載されず、
再生計画の定めの対象ともな
らないために、責任を免れる(民再法第178条第1項)ものとすることは、公平に反する
との考慮によるものであるが、
破産手続においては、
破産者ではなく破産管財人が破産債権
の認否をすることとされており
(破産法第117条及び第121条)、破産手続において自
認債権制度を設けることを検討するに当たっては、このような現行法の立法趣旨等を考慮
する必要があるとの指摘がある。
(3) 破産管財人と債権届出
【甲案】
破産債権者が多数に上るケースにおいて、破産管財人が、裁判所の決定
を得て、次のような債権届出に関する事務を行うことができる規律を設け
るものとする。
1 破産債権者は、破産管財人に対して、債権届出をすることができる。
2 破産管財人は、裁判所に対して、1の規律により受けた債権届出を届50け出る。
【乙案】
破産管財人が破産債権者から債権届出書を受け取り、これを裁判所に提
出することについては、今後の実務上の解釈及び運用に委ねることとし、
特段の規律を設けないものとする。
(補足説明)
1 破産管財人が債権届出に関する事務を行う制度を設ける考え方(甲案)
破産手続に参加しようとする破産債権者は、
債権届出期間内に、
法定の事項を裁判所に届
け出なければならないこととされている
(破産法第111条第1項)
が、
破産債権者が多数
に上るような事案において、
破産管財人による破産債権の認否の便宜を図り、
手続をより円
滑なものとする観点から、破産管財人を債権届出の提出先とすることを認めることが考え
られる。また、現行法の下においても、破産管財人が債権者から債権届出書を受け取り、こ
れを裁判所に提出するといった運用上の実例がある(破産管財人への直送などと呼ばれて
いる。)。
ただし、
破産債権の届出は、
破産手続等に参加するという手続上の効力に加えて、
破産債
権に係る時効の完成猶予の効果
(民法第147条第1項第4号)
を有するものであり、
破産
管財人が飽くまでも裁判所とは別個の手続機関であることを踏まえると、破産管財人に対
する債権届出の提出をもって、
債権届出が裁判所に提出されたものと同視し、
これらの効果
を認めることはできないのではないかとの指摘がある。
また、
これらの法律上の効果の問題
とは別に、
破産管財人において、
債権届出の受領時点を適切に管理し、
証明することができ
るのかという問題がある。
以上を考慮し、甲案は、破産債権者が多数に上るケースにおいて、破産管財人が、裁判所
の決定を得て、
債権届出に関する事務を行うことができる規律を設けるものとし、
その具体
的な内容としては、
1破産債権者は、
破産管財人に対して、
債権届出をすることができると
するとともに、
2破産管財人は、
裁判所に対して、
1の規律により受けた債権届出を届け出
るものとしている。
なお、
甲案をとる場合には、
その法的構成等につき検討をする必要があるほか、
破産管財
人の役割の内容が現行法と異なることとなるため、破産管財人がどのような法的地位にな
るのか、どのような責任を負うこととなるのかなどにつき検討する必要がある。
法的構成等の関係で、
参考となる制度としては、
債権者が自ら裁判所に債権届出を提出せ
ずとも、
別の者がこれに準ずる届出等をすれば、
債権者が債権届出をしたものと同様の効果
が認められている制度がある。
例えば、
小規模個人再生において再生債務者が提出した債権
者一覧表に記載されている再生債権者は、債権者一覧表に記載されている再生債権につい
ては、
別途再生債権についての届出をした場合を除き、
債権届出期間の初日に、
債権者一覧51表の記載内容と同一の内容で再生債権の届出をしたものとみなすものとされている(民再
法第221条第3項及び第225条)。また、
金融機関等の更生手続の特例等に関する法律
では、
金融機関等の更生手続において、
預金保険機構が作成し、
裁判所に提出した預金者表
に記載された預金等債権については、
別途、
預金者等が債権届出をした場合を除き、
債権届
出があったものとみなす制度等が設けられている(同法第393条等)。
2 特段の規律を設けない考え方(乙案)
甲案のとおり、
法律上、
破産管財人が債権届出を受け取ることをその職務とすることにつ
いては、
破産管財人の役割の内容が現行法と異なることとなるため、
破産管財人がどのよう
な法的地位になるのか、どのような責任を負うこととなるのかなどにつき検討する必要が
あるが、そのような検討については慎重に行うべきとの考え方もある。
乙案は、以上を考慮し、破産管財人が債権届出の受領及び提出の事務を取り扱うことは、
実務上の解釈及び運用に委ね、特段の規律を設けないものとするものである。
なお、
前記のとおり、
現行法の下においても、
破産管財人が債権者から債権届出書を受け
取り、
これを裁判所に提出するといった運用上の実例があるが、
乙案は、
このような実務上
の取扱い自体を否定するものではない。
2 提出された書面等及び記録媒体の電子化
(1) 提出された書面等及び記録媒体の電子化の対象事件等
(注)のいずれかの考え方を採用した上で、裁判所に提出された書面等及び
記録媒体につき、
下記(2)の電子化のルールを適用し、
裁判所書記官において
提出された書面等及び記録媒体をファイルに記録しなければならないもの
とする。
(注) 裁判所に提出された書面等及び記録媒体について、法律上、全ての事件につき下記
(2)の電子化のルールを適用するとの考え方
(A案)
と、
電子化を目指しつつも、
破産
手続等の特性を考慮し、
裁判所の判断で電子化することが可能であることを前提とし
た上で、法律の定めとしては、一定の範囲で、下記(2)の電子化のルールを適用する
との考え方(B案)がある。
A案の中には、全ての事件につき、下記(2)の電子化のルールをそのまま適用する
との考え方(A-1案)のほかに、申立て等以外の書面等及び記録媒体のルールであ
る下記(2)ア2の電子化をしない場合の要件につき「ファイルに記録することにつき
困難な事情があるとき」に代えて、破産手続等の特性を考慮し、より柔軟な運用を可
能とする要件を置いた上で、下記(2)の電子化のルールを適用するとの考え方がある
(A-2案)。
B案の中には、1法律上、下記(2)の電子化のルールを適用する事件を一定の範囲52のものとする考え方(B-1案)、2一定の基準を定めて下記(2)の電子化のルール
を適用する
(電子化の意義を踏まえて一定の基準を定めて法律上電子化しなければな
らないものとする)考え方(B-2案)、3当事者を含む利害関係人の申出があった
場合に下記(2)の電子化のルールを適用する(当事者を含む利害関係人の申出があっ
た場合に電子化しなければならないものとする)考え方(B-3案)がある。
(補足説明)
現行の破産法の下では、
破産手続等の記録は書面により管理されており、
裁判所に提出され
た書面等については、これらをそのまま編てつすることにより、事件記録が作成されている。
破産手続等においても、
民事訴訟手続と同様に、
利便性向上の観点から、
裁判所に提出され
た書面等をファイルに記録し、
これを電子化することとすることが考えられ、
部会では、
その
電子化をすることにつき積極的な意見が出された。
他方で、
部会では、
関係人から裁判所に提
出された書面等を裁判所書記官において全て電子化しなければならないものとすると、裁判
所における事務処理の負担が過剰なものとなり、
かえって、
破産手続等の適切な進行を妨げる
という事態が生じ得るとの指摘や、民事訴訟手続のような当事者対立構造が採られていない
こと等との関係で、全ての事件における全ての提出書面等につき電子的な閲覧等のニーズが
あるとは限らないとの指摘もある。
破産手続等についても、基本的に、試案の2(2)の電子化のルールを適用し、提出された書
面等を電子化していくことが考えられるが、その具体的な規律については、試案の(注)のと
おり、検討することが考えられ、試案の2(1)は、このことについて記載するものである。
試案の(注)の具体的な説明などその他の説明については、試案の第1の2(1)の(補足説
明)参照。
なお、試案の(注)のB-1案に関して、例えば、一定規模以上の法人については、類型的
に債権者が多数に上ることが想定され、およそ同時廃止により破産手続が終了することが考
えられず、このような法人を破産者とする事件については、ここでいう「一定の事件」とすべ
きといった意見も考えられる。
また、試案の(注)のB-2案に関しては、破産者の属性(法人や自然人であるか)や、想
定される債権者の数、
同時廃止であるかどうかなどを踏まえて、
インターネットによる記録の
閲覧等を認める必要があると認めるときは、電子化のルールを適用するといった意見も考え
られる。
他方で、
同時廃止事件などでも、
過去に経験した破産事件の手続の経過や内容を確認
するために事件記録の閲覧等をしたい場合や、
過去の破産事件を統計として用いる場合、
免責
手続において免責についての意見申述を行うために破産債権者が記録を閲覧したい場合等に
は、記録を電子化するニーズがあるとの指摘もある。
(2) 提出された書面等及び記録媒体の電子化のルール53ア 民事訴訟と同様のルール
民訴法第132条の12及び第132条の13と同様に、裁判所に提出
された書面等及び記録媒体の電子化のルールとして、次のような規律を設
けるものとする。
1 申立て等が書面等により行われたときは、裁判所書記官は、当該書面
等に記載された事項をファイルに記録しなければならない。ただし、当
該事項をファイルに記録することにつき困難な事情があるときは、この
限りでない。
2 裁判所書記官は、1の申立て等に係る書面等のほか、破産手続等にお
いて裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記載され、又は記録され
ている事項をファイルに記録しなければならない。ただし、当該事項を
ファイルに記録することにつき困難な事情があるときは、この限りでな
い。
3 裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記載され、又は記録されて
いる事項のうち、次のものについては、1及び2の規律にかかわらず、
ファイルに記録することを要しない。
i 第三者の閲覧等の制限の申立てがあった営業秘密のうち特に必要が
あるもの
ii 秘匿決定の申立てがあった場合における秘匿事項の届出に係る事項
iii 当事者の閲覧等の制限の申立て又は当事者の閲覧等の制限の決定が
あった閲覧等の制限がされるべき事項のうち必要があるもの
(注) 民訴法第92条第9項及び第10項、
第133条の2第5項及び第6項並びに第
133条の3第2項と同様に、
インターネットを用いた提出によりファイルに記録
された電子化された事件記録のうち、
1第三者の閲覧等の制限の申立てがあった営
業秘密のうち特に必要がある部分又は2当事者の閲覧等の制限の申立て若しくは
当事者の閲覧等の制限の決定があった閲覧等の制限がされるべき事項が記録され
た部分は、
その内容を書面に出力し、
又はこれを他の記録媒体に記録するとともに、
当該部分を電子化された事件記録から消去する措置その他の当該部分の安全管理
のために必要かつ適切なものとして最高裁判所規則で定める措置を講ずることが
できるものとする。
イ 破産法特有のルール
【甲案】
書面等又は記録媒体の提出とともに、破産法第12条第1項が規定す
る支障部分の閲覧等の制限の申立てがされた場合において、当該支障部54分が記載され、又は記録された部分のうち特に必要があるものについて
は、ア1及び2の規律にかかわらず、ファイルに記録することを要しな
いものとする。
【乙案】
甲案に記載している特段の規律は設けないものとする。
(注) 甲案を採用する場合には、
インターネットを用いた提出によりファイルに記録さ
れた電子化された事件記録のうち、
本文の甲案に掲げる支障部分についても、
裁判
所が特に必要があると認めるときは、
その内容を書面に出力し、
又はこれを他の記
録媒体に記録するとともに、
当該部分を電子化された事件記録から消去する措置そ
の他の当該部分の安全管理のために必要かつ適切なものとして最高裁判所規則で
定める措置を講ずることができるものとする。
(補足説明)
1 提出書面等及び記録媒体の電子化のルール(試案の2(2)ア)
試案の2(2)アは、破産手続等においても、民事訴訟手続と同様の電子化のルールを適用
することを提案するものである(ただし、試案の2(1)の(注)のとおり、破産手続等にお
いてより柔軟な運用を可能とするため、一定の修正を施す考え方(A-2案)がある。)。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の2(2)の(補足説明)参照。
2 ファイルに記録された事項に係る安全管理措置(試案の2(2)アの(注))
試案の2(2)アの(注)は、破産手続等においても、民事訴訟手続と同様に、ファイルに
記録された営業秘密や秘匿事項等に係る部分について、書面に出力してこれを事件記録と
して保管し、ファイルに記録された部分は当該ファイルから消去するなどの措置をとるこ
とができることとすることを提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の2(2)の(補足説明)参照。
3 支障部分の電子化の例外(試案の2(2)イ及び(注))
破産手続等においては、破産管財人等が裁判所の許可を得るために裁判所に提出した文
書等や、
破産管財人等が作成した報告に係る文書等につき、
破産財団の管理又は換価に著し
い支障を生ずるおそれがある部分
(支障部分)
の記載についても閲覧等の制限をすることが
できるものとされている
(破産法第12条)。このような支障部分が記載された書面等につ
いても、
営業秘密や秘匿事項等と同様に、
書面等の電子化の例外を設け、
別途紙媒体等での
管理を可能とすることが考えられる。
甲案は、
このような考え方をとることを提案するもの
である。
また、仮に、甲案をとる場合には、インターネットを利用して提出されたものについて55も、
甲案に掲げる支障部分については、
ファイルにそのまま記録するのではなく、
紙に出力
するなどの安全管理措置をとることができる規律を設けることが考えられ、
試案の
(注)では、そのことを提案している。
他方で、紙媒体で保管されている記録の閲覧等の請求は、裁判所に赴いて行うこととな
る。
当該破産管財人等は支障部分につき閲覧等の請求をすることができるものの、
当該破産
管財人等は、裁判所に赴き、その紙媒体を閲覧しなければならないこととなり、それでは、
不便を強いるとの指摘もある。
また、
民事訴訟の場合に比しても、
その例外の範囲が広くな
り過ぎるとの指摘もあるし、
そもそも、
支障部分の記載につき、
紙媒体等で保管することを
認める必要はなく、システム上の適切な管理に委ねることで足りるとの意見もある。乙案
は、
このような意見を踏まえ、
上記の支障部分につき、
電子化の例外についての特段の規律
を設けないとの考え方をとることを提案するものである。
3 裁判書及び調書等の電子化
裁判官が作成する裁判書並びに裁判所書記官が作成する調書及び破産債権者
表等について、書面による作成に代えて、最高裁判所規則で定めるところによ
り、電磁的記録により作成するものとする。
(補足説明)
民訴法においては、
裁判所が作成する判決書や裁判所書記官が作成する調書等について、電磁的記録によりこれを作成することとされている(同法第160条第1項及び第252条第
1項)。
破産手続等においても、裁判所は、裁判書を作成することがあり、また、裁判所書記官は、
調書(破産規則第4条)のほかに、破産債権者表(破産法第115条第1項)などを作成する
ことがある。これらについては、現行の破産法上、書面で作成することが前提とされている。
試案の3は、
民事訴訟手続と同様に、
これらについても電磁的記録により作成するものとす
ることを提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の3の(補足説明)参照。
4 期日におけるウェブ会議及び電話会議の利用
(1) 口頭弁論の期日
口頭弁論の期日について、民訴法第87条の2第1項及び第3項の規定を
準用し、裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判
所規則で定めるところにより、ウェブ会議を当事者に利用させることができ
るものとする。56(補足説明)
破産手続等においても、
任意で、
口頭弁論の期日を開くことができる
(任意的口頭弁論の原
則。破産法第8条参照)。
試案の4(1)は、破産手続等においても、民事訴訟と同様のルールにより、口頭弁論の期日
につき、
ウェブ会議を利用することができるものとする
(民訴法と同様の規律とする)
ことを
提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の4(1)の(補足説明)参照。
(2) 審尋の期日
1 審尋の期日について、民訴法第87条の2第2項及び第3項の規定を準
用し、裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判
所規則で定めるところにより、ウェブ会議及び電話会議を当事者に利用さ
せることができるものとする。
2 参考人等の審尋について、民訴法第187条第3項及び第4項の規定を
準用し、裁判所は、相当と認めるときは、最高裁判所規則で定めるところ
により、ウェブ会議により参考人又は当事者を審尋することができるもの
とするとともに、当事者双方に異議がないときは、電話会議により参考人
又は当事者を審尋することができるものとする。
(補足説明)
破産手続等においても、審尋がされることがある。
試案の4(2)は、破産手続等においても、民事訴訟と同様のルールにより、審尋につき、ウ
ェブ会議や電話会議を利用することができるものとする
(民訴法と同様の規律とする)
ことを
提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の4(2)の(補足説明)参照。
(3) 債権調査期日
1 裁判所は、
相当と認めるときは、
最高裁判所規則で定めるところにより、
ウェブ会議によって、破産管財人、破産者又は届出をした破産債権者を債
権調査期日の手続に関与させることができるものとする。
2 1の期日に出頭しないでウェブ会議により手続に関与した者は、その期
日に出頭したものとみなすものとする。
(注) ウェブ会議を利用することを決定する際に、一定の者(例えば、破産者及び破産管
財人)の意見を聴かなければならないものとするとの規律は設けないものとする。57(補足説明)
1 ウェブ会議による債権調査期日
裁判所は、
破産手続開始の決定と同時に、
破産債権の調査をするための期間又は期日を定
めることとされている
(破産法第31条第1項第3号)。破産債権の調査をするための期日
(債権調査期日)
には一般調査期日と特別調査期日とがあり、
破産管財人及び破産者は当該
期日に出頭しなければならないものとされており
(同法第121条第3項及び第8項)、届
出をした破産債権者は、当該期日に出頭して届出があった他の破産債権について異議を述
べることができるものとされている(同条第2項及び第122条第2項)。
現行の破産法において、
これらの期日につき、
ウェブ会議を用いて手続を行うことは認め
られていないが、
当事者の利便性を向上する観点から、
口頭弁論の期日と同様に、
ウェブ会
議を用いて当該期日の手続に参加することを認めることが考えられる。
試案の4(3)では、債権調査期日について、ウェブ会議を利用することができるものとす
ることを提案するものである。
2 ウェブ会議により手続を行うための必要的意見聴取の要否(試案の(注))
民訴法においては、
口頭弁論の期日においてウェブ会議を利用する場合には、
当事者の意
見を聴くこととされている(同法第87条の2第1項)。そこで、債権調査期日においてウ
ェブ会議を利用することを決定する場合においても、
同様に、
裁判所において、
一定の者の
意見を聴かなければならないものとすることが考えられる。
もっとも、
破産債権者が多数に上る場合において、
法律上、
常に全ての届出をした破産債
権者の意見を聴かなければならないものとすることは、ウェブ会議による債権調査期日の
実施を困難にするおそれがある。また、債権調査期日は、破産管財人において、
届出があっ
た破産債権について認否を行い、
届出をした破産債権者や破産者において、
届出がされた破
産債権について異議を述べるなどして、
破産債権の調査を行う手続であるところ、
他の関係
者のウェブ会議による参加を認めても、
破産者、
破産管財人、
届出をした破産債権者等の権
利行使を困難にするものではないと思われる。
さらに、
裁判所による意見聴取を必要的なも
のとしなくとも、
裁判所において、
個別に寄せられた意見を考慮して、
ウェブ会議の利用の
可否を判断することが否定されるものではない。
そこで、試案の(注)は、このような考え方に基づき、債権調査期日にウェブ会議を利用
することを決定するに当たって、
裁判所において、
破産者、
破産管財人等の一定の者からの
意見聴取につき、特段の規律を設けないことを提案するものである。
(4) 債権者集会の期日
1 裁判所は、
相当と認めるときは、
最高裁判所規則で定めるところにより、
ウェブ会議によって、破産管財人、破産者又は届出をした破産債権者を債58権者集会の期日の手続に関与させることができるものとする。
2 1の期日に出頭しないでウェブ会議により手続に関与した者は、その期
日に出頭したものとみなすものとする。
(注) ウェブ会議を利用することを決定する際に、一定の者(例えば、破産者、破産管財
人及び破産債権者)
の意見を聴かなければならないものとするとの規律は設けないも
のとする。
(補足説明)
1 ウェブ会議による債権者集会の期日
裁判所は、
原則として、
破産手続開始の決定と同時に破産者の財産状況を報告するために
招集する債権者集会
(財産状況報告集会)
の期日を定めなければならず
(破産法第31条第
1項第2号)、また、破産管財人等からの申立てがあった場合には、債権者集会を招集しな
ければならないものとされている(同法第135条第1項)。さらに、裁判所は、申立てが
ない場合においても、
相当と認めるときは、
債権者集会を招集することができることとされ
ている(同条第2項)。この債権者集会の期日においても、債権調査期日と同様に、利便性
向上の観点から、
裁判所が相当と認める場合には、
ウェブ会議による手続を認めることが考
えられる。
試案の4(4)は、このような考え方を記載するものである。
2 ウェブ会議により手続を行うための必要的意見聴取の要否(試案の(注))
債権者集会の期日は、
破産管財人、
破産者及び届出をした破産債権者を呼び出さなければ
ならないものとされており
(破産法第136条第1項)、債権者集会の期日の手続をウェブ
会議により行うことを決定するに当たり、これらの者の意見を聴かなければならないもの
とすることが考えられる。
もっとも、
債権調査期日におけるものと同様に、
破産債権者が多数に上る場合に、
全ての
届出をした破産債権者の意見を聴くことは、現実的には困難であるとの指摘がある。また、
債権者集会の期日における手続は、主に破産管財人や破産者による報告や説明が行われる
ことが想定されるものであり、
破産管財人及び破産者において、
届出をした破産債権者の参
加の方法に特に意見を述べる法律上の利益はないと考えられる。
以上のほか、
債権調査期日と債権者集会の期日とが同じ日時に指定され、
両期日が同時に
行われることがあるという現在の実務の運用を踏まえると、一方の期日においてウェブ会
議を利用することにつき意見聴取を必要的なものとしないのであれば、他方の期日におい
てウェブ会議を利用することについても、意見聴取を必要的なものとしないことが整合的
であるとの考え方もある。
試案の(注)は、これらの考え方に基づき、債権者集会の期日にウェブ会議を利用するに59当たって、裁判所において、破産者、破産管財人、破産債権者等の一定の者からの意見聴取
につき、特段の規律を設けないことを提案するものである。
5 電子化された事件記録の閲覧等
電子化された事件記録についても請求の主体に係る破産法第11条の規律を
基本的に維持し、次のような規律を設けるものとする。
1 利害関係人は、電子化された事件記録について、最高裁判所規則で定める
ところにより、閲覧、複写(ダウンロード)、事件記録に記録されている事
項の内容を証明した文書若しくは電磁的記録の交付若しくは提供又は事件
に関する事項を証明した文書若しくは電磁的記録の交付若しくは提供(以下
この5において「閲覧等」という。)の請求をすることができる。
2 破産法第11条第4項各号に掲げる者は、当該各号に定める命令、保全処
分又は裁判のいずれかがあるまでの間は、閲覧等の請求をすることができな
い。
ただし、
当該者が破産手続開始の申立人である場合は、
この限りでない。
(注1) 電子化された事件記録の閲覧等の具体的な方法について、次のような規律を設ける
ものとする。
1 利害関係人は、裁判所設置端末及び裁判所外端末を用いた閲覧等を請求することが
できる。
2 申立人、破産者(債務者)及び破産管財人等は、いつでも事件の係属中に裁判所外
端末を用いた閲覧又は複写をすることができる。
(注2) 一定の債権者(例えば、債権届出をした破産債権者)も、(注1)2の申立人等と
同様に、いつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧又は複写をすることができ
るものとするとの考え方がある。
(注3) (注1)の1及び(注2)の考え方とは別に、裁判所外端末を用いて閲覧等をする
ことができるのは申立人、破産者(債務者)及び破産管財人等に限るものとすべきとの
考え方がある。
(補足説明)
1 電子化された事件記録の閲覧等
破産手続等において、インターネットを用いて申立て等をすることを認めることとした
場合(試案の1(1))において、インターネットを用いてされた申立て等については、当該
申立て等に係る電磁的記録
(電子データ)
はそのまま事件記録となることが想定される。また、書面等が提出された場合に、当該書面等を裁判所のファイル(サーバ)に記録すること
とし
(試案の2)、裁判官が作成する裁判書や裁判所書記官が作成する調書についても電磁
的記録により作成することとした場合には
(試案の3)、ファイルに記録された電磁的記録60が事件記録となる。これらの電子化された事件記録の閲覧等に関する規律が問題となる。
2 閲覧等の請求の主体及び申立人以外の請求の時期(試案の5)
破産法第11条は、
破産手続等について、
利害関係人は、
閲覧等の請求をすることができ
ることとしている。
これらは、
電子化されていない事件記録についての規律であるが、
電子
化された事件記録についても、この請求の主体に係る規律を変更すべき理由はないことか
ら、
試案の5では、
基本的に、
請求の主体に係る破産法第11条の考え方を維持することと
している。
また、
破産法第11条は、
破産手続開始の申立人以外の者による閲覧等につき、
同条第4
項各号に定める命令、保全処分又は裁判があるまでの間はすることができないものとして
いるところ、
この点についても、
電子化された事件記録の閲覧等において異なる規律を設け
る理由はないことから、
試案の5では、
閲覧等の請求の時期に係る破産法第11条の考え方
を維持することとしている。
なお、破産法第11条は、閲覧等の請求の客体を「この法律(この法律において準用する
他の法律を含む。)の規定に基づき、裁判所に提出され、又は裁判所が作成した文書その他
の物件」としているが、この規律についても、特段変更すべき理由はなく、維持することを
想定している。
3 請求の具体的な内容
(1) 請求の内容(試案の5)
試案の5は、
破産手続等における電子化された事件記録についても、
その請求すること
ができる内容につき、民事訴訟と同様の規律とすることを提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の6の(補足説明)参照。
(2) 閲覧等の方法(試案の(注1))
試案の(注1)は、「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱」を踏まえて、
具体的な閲覧等の内容につき提案をしている。
試案の(注1)1では、申立人、破産者(債務者)及び破産管財人等のほか、債権者を
含めた記録の閲覧等をすることができる利害関係人
(破産法第11条)
は、
裁判所設置端
末に加えて、裁判所外端末を用いて閲覧等を請求することができるとしている。
また、試案の(注1)2では、破産手続等における当事者的な立場にある申立人(申立
債権者を含む。)、破産者(債務者)及び破産管財人等は、いつでも(いわゆる時間外で
も)裁判所外端末を用いた閲覧又は複写をすることができるとしている。
要綱の説明その他の説明については、試案の第1の6の(補足説明)参照。
(3) 債権者の閲覧又は複写(試案の(注2))
部会においては、
申立人、
破産者
(債務者)
及び破産管財人等のほかに、
破産債権者は、61破産手続において強い利害関係を有することから、
その利便性のため、
事件の係属中いつ
でも裁判所外端末を用いて閲覧又は複写をすることができるものとするとの考え方が検
討されている。試案の(注2)では、そのような考え方を記載している。
もっとも、
申立人や破産者は、
申立てにおいて形式的に定まるが、
当該破産者に債権を
有するかどうかは形式的に定まるものではなく、その請求の時期によっても変わり得る
ものであり、
仮に、
いつでも閲覧等を認めるとしても、
どのようにその資格を認めるのか
が問題となる。試案の(注2)では、債権届出をした破産債権者であれば、債権届出の有
無で形式的に判断することができると考えられるため、いつでも閲覧等を認めることが
検討される一例として挙げられている。
また、
届出をした破産債権者以外にも債権者があ
るが、例えば、債権者として一度閲覧等を認めた者も、その後は、いつでも閲覧等を認め
ることも考えられる。
ただし、
債権届出をした破産債権者や一度閲覧等を認められた債権
者について、その後に債権を失った場合にどのように考えるのかが問題となる。
(4) 債権者の閲覧等に対する別の考え方(試案の(注3))
前記のとおり、試案の(注1)1は、債権者を含む利害関係人は、裁判所外端末(債権
者が使用する端末など)を用いた閲覧等を請求することができるとし、試案の(注2)の
とおり、債権者は事件の係属中いつでも閲覧又は複写をすることができるものとすると
の考え方が検討されている。
他方で、試案の(注1)1及び(注2)の考え方とは別に、破産者のプライバシー保護
等の観点から、裁判所外端末を用いて電子化された事件記録の閲覧等の請求をすること
ができる者の範囲についても申立人、
破産者及び破産管財人等に限定し、
例えば、
債権者
による裁判所外端末を用いた閲覧等を認めないものとすべきであるとの考え方がある。
そのため、試案の(注3)では、この考え方を記載している。
もっとも、
破産手続等には、
一般の破産債権者など多様な利害関係人が存在し、
そのよ
うな利害関係人につき、裁判所外端末による電子化された事件記録の閲覧等の請求を一
律に否定することが相当であるかが問題となり、試案の(注1)及び(注2)の考えを支
持し、(注3)の考え方をとることについては反対の意見がある。
6 送達
(前注) 破産手続等では通知がされることがあるが、ここでは、送達は、通知の方法の一つ
であり、送達がされれば、通知がされたものと評価されることを前提としている。
(1) 電磁的記録の送達
破産手続等における電磁的記録の送達について、民訴法第109条から第
109条の4までの規定を準用するものとする。62(補足説明)
1 送達と通知との関係((前注))
破産手続等においては、
破産手続開始決定等に関する公告事項の通知
(破産法第32条第
3項)
など、
各場面において裁判所による通知がされることがあるところ、
破産手続等にお
ける通知は、
相当と認める方法によることができる
(破産規則第12条、
民事訴訟規則第4
条第1項)
ものとされており、
送達がされた場合には、
通知もされたものと評価されるもの
と考えられる。
(前注)では、本試案では、そのことを前提としていることを確認的に記載
している。例えば、この考え方を前提に、試案の6(1)のとおり電磁的記録の送達を導入す
ると、電磁的記録の送達がされれば、通知がされたことになるため、通知も、インターネッ
トを利用してすることが可能になる。
2 電磁的記録の送達(試案の6(1))
試案の6(1)は、破産手続等における電磁的記録の送達についても、民事訴訟と同様の規
律とするために、民訴法第109条から第109条の4までの規定を準用することを提案
している。民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の7(1)の(補足説明)参
照。
(2) 公示送達
破産手続等における公示送達について、民訴法第111条の規定を準用す
るものとする。
(補足説明)
試案の6(2)は、破産手続等における公示送達についても、民事訴訟と同様の規律とするた
めに、
民訴法第111条の規定を準用することを提案している。
民事訴訟の説明その他の説明
については、試案の第1の7(2)の(補足説明)参照。
7 公告
【甲案】
破産手続等における公告において、官報への掲載に加えて、裁判所のウェ
ブサイトに掲載する方法をとらなければならないものとする。
【乙案】
破産手続等における公告において、(官報への掲載に加えて、)裁判所の
ウェブサイトに掲載する方法をとらなければならないものとはしない(甲案
のような特段の規律は設けない)ものとする。
(注1) 破産手続等における公告は、裁判所のウェブサイトに掲載する方法によりするもの63とし、官報への掲載を廃止すべきとの考え方がある。
(注2) 個人破産者については、公告の在り方を見直し、官報への掲載を廃止するなど裁判
所外において破産の事実を公示しないこと(例えば、裁判所の掲示場への掲示や裁判所
設置端末での閲覧のみとすること)などを検討すべきとの考え方があるが、他方で、破
産手続等における公告の効果や意義を踏まえて、裁判所外において公示しないこととす
るなどの見直しに慎重な考え方もある。
(補足説明)
1 現行の破産法における公告について
破産手続等においては、破産手続開始の決定(破産法第32条第1項)、包括的禁止命令
(同法第26条第1項)、保全管理命令の決定(同法第92条第1項)、免責についての意
見申述期間の決定
(同法第251条第1項)
等がされたときには、
一定の事項を公告しなけ
ればならないものとされている。
また、
破産法の規定により送達をしなければならない場合
には、公告をもってこれに代えることができることとされている(同法第10条第3項本
文)。さらに、破産手続開始の決定の公告がされる前は、破産手続開始の決定がされたこと
を知らなかった(善意)と推定され、公告がされた後は、破産手続開始の決定がされたこと
を知っていた(悪意)と推定されるとの効果も、公告にはある(同法第51条)。
そして、
現行の破産法においては、
破産手続等における公告は、
官報に掲載してすること
とされている(破産法第10条第1項)。
2 裁判所のウェブサイト掲載の是非(試案の7)
甲案は、
破産手続等のIT化に伴い、
広く利害関係人に公告事項を知らしめるために、公告の方法についても、インターネットを利用する方法を導入することが考えられるとして、
破産手続等における公告の方法として、
現行の官報に掲載してする方法に加えて、
裁判所の
ウェブサイトに掲載する方法によってすることを提案するものである。
なお、
甲案を採用する場合には、
官報掲載とウェブサイト掲載との関係について検討する
必要があり、具体的には、
公告の開始時期につき、両者に優劣を付けず、両方の掲載がされ
た時(いずれか遅い方の掲載がされた時)とする考え方のほか、官報掲載を基本とし、ウェ
ブサイト掲載を従たるものと位置付け、官報掲載の開始時とする考え方があり得る。
乙案は、これに対し、
現在でも、官報はインターネットで見ることができるのであり、イ
ンターネットを利用する観点から、
官報の方法に加えて、
裁判所のウェブサイトに掲載する
方法をとるまでの必要はないとする考え方である。
3 ウェブサイト掲載と官報の廃止(試案の(注1))
部会では、試案の7の甲案及び乙案とは別の考えとして、公告の効力を早期に発生させ、64破産手続の迅速化を図るべく、
破産手続等の公告は、
官報による掲載を廃止し、
ウェブサイ
ト掲載のみをすることを検討すべきとの考え方があり、試案の(注1)では、この考え方を
記載している。もっとも、
民事訴訟での公示送達や、これまでの部会での議論は、基本的に
は、
従前されていた取扱いに加えて、
インターネットの利用を認め、
その利便性の向上を図
ろうとするものであり、
従前の取扱いを完全に止めることについては、
公告の果たす機能と
の関係で、
その許容性につき別途の検討が必要となると思われる
(例えば、
ウェブサイトの
みとすることは、必要な情報の収集につきインターネットの利用を義務付けることとなり
かねないが、許容されるのかなど。)。
4 個人破産者のプライバシーの保護等と公告(試案の(注2))
部会では、
個人破産者のプライバシー保護の観点から、
公告の在り方を見直し、
官報への
掲載を廃止するなど裁判所外において破産の事実を公示しないこと
(例えば、
裁判所の掲示
場への掲示や裁判所設置端末での閲覧のみとすること)などの方法を検討すべきであると
の考え方があり、試案の(注2)では、この考え方を記載している。なお、試案の(注2)
では、
検討すべき方策として、
例えば、
裁判所の掲示場への掲示や裁判所設置端末での閲覧
のみとする案が例示されているが、試案の(注2)は、このような方法に限らず、広く様々
な案を検討すべきとの意見を含意するものであり、
部会では、
広く公告の在り方につき検討
すべきとの意見もある。
他方で、
部会では、
破産手続等における公告の効果や意義を踏まえて、
裁判所外において
公示しないこととするなどの見直しに慎重な考え方もある。前記のとおり公告には善意又
は悪意の推定の効果があり、
その効果は実務上重要な意味があるが、
官報での掲載がされな
いなど裁判所外における公示がされないと、
その仕組みに影響を及ぼし得るとの指摘や、与信管理業務を行う者は官報への掲載を通じて直接又は間接にその情報を得ており、その仕
組みが設けられないと実務上大きな影響があるとの指摘のほか、個人破産者のプライバシ
ー等の問題は、
プライバシー法制が担う問題であるとの指摘などがあった。
また、
配当等が
ない同時廃止事件に限定して公告を見直すといったことについても、免責の効果は通知が
されない債権者にも及び、
その公告には、
免責についての意見申述の機会を保障する意味が
あるとの指摘もあった。
8 その他
(注1) システムを使った電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べの申出や、書
面の提出に代えて電磁的記録をファイルに記録する方法による陳述、ウェブ会議による
裁判所外の尋問など、ITを活用した証拠調べ手続について、民事訴訟手続と同様の規
律を設けるものとする。
(注2) 費用額確定処分の申立ての期限について、民事訴訟手続と同様の規律を設けるもの65とする。
(注3) 民訴法の改正を踏まえて裁判官の権限のうち定型的な判断事項等を裁判所書記官の
権限とする見直しなど実務上必要な見直しがないのか検討すべきとの考え方がある。
(補足説明)
1 証拠調べの手続(試案の(注1))
試案の(注1)は、破産手続等において証拠調べを行う場合に、民訴法におけるITを活
用した証拠調べの規律と同様の規律を適用することを提案するものである。民事訴訟の説
明その他の説明については、試案の第1の10の(注1)の(補足説明)参照。
2 費用額確定処分の申立ての期限(試案の(注2))
破産手続等における手続費用についても、その額が長期にわたって確定されない事態を
防ぐ必要があると考えられることから、試案の(注2)では、破産手続等における手続費用
の額の確定の申立てについて、民事訴訟手続と同様に10年の期間制限を設けることを提
案している。民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の10の(注2)の(補
足説明)参照。
3 その他(試案の(注3))
部会では、
これまでに掲げた論点のほか、
民訴法の内容を踏まえつつ、
実務上見直しをす
べき点がないか検討すべきであるとの指摘があった。試案の(注3)は、この点について記
載するものであり、
今後、
民訴法の内容を踏まえつつ、
実務上見直しをすべき点の指摘が具
体的にあれば、その指摘を踏まえて検討することも考えられる。
第4 民事再生、会社更生、特別清算及び外国倒産処理手続の承認援助の手続
再生手続(民事再生法)、更生手続(会社更生法)、特別清算の手続(会社法)
及び承認援助手続(外国倒産処理手続の承認援助に関する法律)について、第3
の破産手続等の各項目と同様の項目につき、これと同様にIT化するものとす
る。
(補足説明)
現行の倒産手続としては、
試案の第3で検討した破産手続等のほか、
再建型の手続である再
生手続(民事再生法)及び更生手続(会社更生法)がある。また、そのほかに、会社の清算の
特別手続である特別清算の手続
(会社法)
があり、
外国の倒産手続について我が国内で必要な
処分を行うための承認援助手続
(外国倒産処理手続の承認援助に関する法律)
がある。
試案の
第4は、
これらの破産手続等以外の倒産手続について、
試案の第3の各項目と同様の項目につ66き、これと同様にIT化することを提案するものである。
例えば、試案の第3の1(1)においては、破産手続等における申立て等につき、インターネ
ットを用いてすることを可能とすることを提案しているところ、再生手続等の他の倒産手続
における申立て等についても、
同様に、
インターネットを用いてすることを可能とすることが
考えられる。
また、試案の第3の1(2)においては、民事訴訟手続においてインターネットを用いて申立
て等をしなければならない委任を受けた代理人等のほか、
破産管財人等についても、
裁判所に
対して行う申立て等につき、インターネットを用いてしなければならないものとすることを
提案しているが、
再生手続における管財人など、
倒産手続において裁判所に選任され、
破産管
財人と同様の役割を果たすものについても、
破産管財人等と同様に、
裁判所に対して行う申立
て等につき、インターネットを用いてしなければならないものとすることが考えられる。
さらに、部会では、試案の第3の1(3)で検討をしている「破産管財人と債権届出」との関
係で、
再生手続においても、
甲案と同様に、
裁判所が選任をした管財人にも債権届出に関する
事務を行わせることが考えられるとの指摘があった。
また、
このことと別の問題として、
再生
手続における再生債務者が債権届出に関する事務を行うことについても議論があった。部会
では、
再生債務者代理人が債権者から債権届出書を受け取り、
これを裁判所に提出するといっ
た運用上の実例がある(再生債務者への直送などと呼ばれている。)との紹介があり、そのよ
うな実例を踏まえて、再生債務者代理人が債権届出に関する事務を行うことについて検討す
ることも考えられる。
第5 非訟事件
(補足説明)
「第5 非訟事件」は、非訟法第2編「非訟事件の手続の通則」が適用される「非訟事件」
の手続を見直すものである。
非訟法第2編が適用されるものとしては、
非訟法第3編以下に規定がある民事非訟事件(非訟法第3編参照)、公示催告事件(非訟法第4編参照)、過料事件(非訟法第5編参照)のほ
か、
会社法第868条以下に規定がある会社非訟事件
(例えば、
会社法所定の株式の価格の決
定に係る事件等)、借地借家法に規定がある借地非訟事件などがある。
1 裁判所に対する申立て等
(1) インターネットを用いてする申立て等の可否
非訟事件の手続において裁判所に対して行う申立て等については、民訴法
第132条の10の規定を準用し、全ての裁判所に対し、一般的に、インタ
ーネット(電子情報処理組織)を用いてすることができるものとする。67(補足説明)
現行の非訟法においては、
非訟事件の手続における申立て等のうち、
最高裁判所の定める裁
判所に対してするものについては、
最高裁判所規則で定めるところにより、
インターネットを
用いてすることができることとされている(同法第42条)。
試案の1(1)は、非訟事件の手続における申立て等についても、手続の利便性を向上すると
ともに、
迅速な手続を実現する観点から、
民訴法第132条の10の規定を準用し、
全ての裁
判所に対し、一般的に、インターネット(電子情報処理組織)を用いてすることができるもの
とすることを提案している。
なお、
非訟事件の手続における申立て等としては、
各種非訟事件の申立てや、
公示催告事件
における権利を争う旨の申述(非訟法第105条第2項参照)などがある。そのほか、裁判所
に対する報告も、
その他の申述に該当し、
ここでいう申立て等に含まれるものと整理されるも
のと考えられる。
ただし、
現行法の体系では、
既に個別法において書面のみではなく電磁的記
録の提出を許容しているものがある(例えば、会社法第306条第5項では、検査役は、書面
又は法務省令で定める電磁的記録を提供して報告しなければならないとされている。)。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の1(1)の(補足説明)参照。
(2) インターネットを用いてする申立て等の義務付け
ア 委任を受けた手続代理人等
非訟事件の手続において、民訴法第132条の11の規定を準用し、民
事訴訟手続においてインターネットを用いて申立て等をしなければならな
い委任を受けた手続代理人等は、裁判所に対して行う申立て等をインター
ネットを用いてしなければならないものとする。
イ 非訟事件の手続において裁判所から選任された者
【甲案】
非訟事件の手続において裁判所から選任された者は、その選任された
者として関与する非訟事件の手続においては、裁判所に対して行う申立
て等をインターネットを用いてしなければならないものとする。
【乙案】
非訟事件の手続において裁判所から選任された者について、特段の規
律を設けないものとする。
(補足説明)
1 委任を受けた手続代理人等(試案の1(2)ア)68試案の1(2)アでは、非訟事件の手続においても、令和4年改正法による民訴法改正の考
え方が妥当すると考えられることから、
民訴法第132条の11の規定を準用し、
民事訴訟
手続と同様に、
非訟事件の手続における委任を受けた手続代理人等について、
インターネッ
トによる申立て等を義務付けることを提案し、
他方で、
それ以外の者については、
インター
ネットを用いて申立て等をすることを義務付けることは提案していない。
なお、
民事訴訟手
続において民訴法第54条第1項ただし書の許可を得て訴訟代理人となったもの(いわゆ
る許可代理人)は義務化の対象から除外されている(民訴法第132条の11第1項第1号)のと同様に、
非訟事件の手続においても非訟法第22条第1項ただし書の許可を受けた
手続代理人は義務化の対象から除外されることを前提としている。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の1(2)アの(補足説明)参照。
2 非訟事件の手続において裁判所から選任された者(試案の1(2)イ)
(1) 議論の状況等
非訟事件の手続においては、裁判所が清算人や仮代表取締役などを選任することがあ
る。
部会においては、
非訟事件の手続のIT化を進めるためには、
これらの者に対してイ
ンターネットによる申立て等を義務付ける必要があるとの意見もあった。
他方で、
非訟事
件には多くの種類があり、裁判所から選任される者の属性も多様であって法律専門職で
ある場合もそうでない場合もあることや、
例えば、
株式会社の清算人については、
取締役
など会社法第478条第1項各号に掲げられた者が就任するが、これらの清算人となる
者がないときに裁判所が清算人を選任するところ、裁判所から選任された清算人にはイ
ンターネットによる申立てが義務付けされ、裁判所から選任されることなく就任した清
算人には義務付けがされないこととの関係を合理的に説明することが困難であるとの指
摘もある。また、法律上、特段の義務付けをしなくとも、インターネットを利用すること
ができる者であれば、インターネットを利用して申立て等をすることを期待することが
できるとの指摘もある。
(2) 甲案
甲案は、
上記の意見を踏まえ、
非訟事件の手続において裁判所から選任された者につい
て、その選任された者として関与する手続においてはインターネットによる申立て等を
義務付けるものとすることを提案するものである。
なお、
この甲案は、
裁判所から選任された者が、
その選任された者として関与する手続
において申立て等をする際にインターネットの利用を義務付けるものであり、その選任
された手続以外の手続でのインターネットの利用を義務付けるものではない。
(3) 乙案
乙案は、
上記の意見を踏まえ、
特段の規律を設けない
(インターネットによる申立て等
を義務付けない)ものとすることを提案するものである。692 提出された書面等及び記録媒体の電子化
(1) 提出された書面等及び記録媒体の電子化の対象事件等
(注)のいずれかの考え方を採用した上で、裁判所に提出された書面等及び
記録媒体につき、
下記(2)の電子化のルールを適用し、
裁判所書記官において
提出された書面等及び記録媒体をファイルに記録しなければならないもの
とする。
(注) 裁判所に提出された書面等及び記録媒体について、法律上、全ての事件につき下記
(2)の電子化のルールを適用するとの考え方
(A案)
と、
電子化を目指しつつも、
非訟
事件の特性を考慮し、
裁判所の判断で電子化することが可能であることを前提とした
上で、法律の定めとしては、一定の範囲で、下記(2)の電子化のルールを適用すると
の考え方(B案)がある。
A案の中には、全ての事件につき、下記(2)の電子化のルールをそのまま適用する
との考え方(A-1案)のほかに、申立て等以外の書面等及び記録媒体のルールであ
る下記(2)ア2の電子化をしない場合の要件につき「ファイルに記録することにつき
困難な事情があるとき」に代えて、非訟事件の特性を考慮し、より柔軟な運用を可能
とする要件を置いた上で、
下記(2)の電子化のルールを適用するとの考え方がある(A-2案)。
B案の中には、1法律上、下記(2)の電子化のルールを適用する事件を一定の範囲
のものとする考え方(B-1案)、2一定の基準を定めて下記(2)の電子化のルール
を適用する
(電子化の意義を踏まえて一定の基準を定めて法律上電子化しなければな
らないものとする)考え方(B-2案)、3当事者又は利害関係を疎明した第三者の
申出があった場合に下記(2)の電子化のルールを適用する(当事者又は利害関係を疎
明した第三者の申出があった場合に電子化しなければならないものとする)考え方
(B-3案)がある。
(補足説明)
現行の非訟法の下では、
非訟事件の記録は書面により管理されており、
裁判所に提出された
書面等については、これらをそのまま編てつすることにより、事件記録が作成されている。
非訟事件の手続においても、
民事訴訟手続と同様に、
利便性向上の観点から、
裁判所に提出
された書面等をファイルに記録し、これを電子化することとすることが考えられ、部会では、
その電子化をすることにつき積極的な意見が出された。
他方で、
部会では、
非訟事件の手続に
は、
多様な手続があり、
借地非訟事件の手続のように当事者対立構造で民事訴訟と同様に当事
者が相手の主張や立証を踏まえて自身の主張や立証を積み重ねることが予定されているもの
もあれば、民法第582条の規定による鑑定人の選任事件のように裁判所が後見的に関与し、70民事訴訟と異なり主張や立証の積み重ねが予定されていないものもあり、事件記録の閲覧等
の頻度等や意味などについても、それぞれの手続ごとに違いがあるとの指摘もある。
非訟事件の手続についても、基本的に、試案の2(2)の電子化のルールを適用し、提出され
た書面等を電子化していくことが考えられるが、その具体的な規律については、試案の(注)
のとおり、
検討することが考えられ、
試案の2(1)は、
このことについて記載するものである。
試案の(注)の具体的な説明などその他の説明については、試案の第1の2(1)の(補足説
明)参照。
(2) 提出された書面等及び記録媒体の電子化のルール
ア 民事訴訟と同様のルール
民訴法第132条の12及び第132条の13と同様に、裁判所に提出
された書面等及び記録媒体の電子化のルールとして、次のような規律を設
けるものとする。
1 申立て等が書面等により行われたときは、裁判所書記官は、当該書面
等に記載された事項をファイルに記録しなければならない。ただし、当
該事項をファイルに記録することにつき困難な事情があるときは、この
限りでない。
2 裁判所書記官は、1の申立て等に係る書面等のほか、非訟事件の手続
において裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記載され、又は記録
されている事項をファイルに記録しなければならない。ただし、当該事
項をファイルに記録することにつき困難な事情があるときは、この限り
でない。
3 裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記載され、又は記録されて
いる事項のうち、秘匿決定の申立てがあった場合における秘匿事項の届
出に係る事項については、1及び2の規律にかかわらず、ファイルに記
録することを要しない。
イ 非訟法特有のルール
【甲案】
非訟事件の手続において裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記
載され、又は記録されている事項のうち、他の者が知ることにより当事
者又は第三者に著しい損害を与えるおそれがあり、かつ、裁判所が特に
必要があると認めるものについては、ファイルに記録することを要しな
いものとする。
【乙案】71甲案に記載している特段の規律は設けないものとする。
(注) 甲案を採用する場合には、
インターネットを用いた提出によりファイルに記録さ
れた電子化された事件記録のうち、
他の者が知ることにより当事者又は第三者に著
しい損害を与えるおそれがあり、
かつ、
裁判所が特に必要があると認めるものにつ
いては、その内容を書面に出力し、又はこれを他の記録媒体に記録するとともに、
当該部分を電子化された事件記録から消去する措置その他の当該部分の安全管理
のために必要かつ適切なものとして最高裁判所規則で定める措置を講ずることが
できるものとする。
(補足説明)
1 提出書面等及び記録媒体の電子化のルール(試案の2(2)ア)
(1) 民事訴訟と同様のルール
試案の2(2)アは、非訟事件の手続においても、民事訴訟手続と同様の電子化のルール
(下記(補足説明)(2)のとおり、その一部を除く。)を適用することを提案するもので
ある(ただし、試案の2(1)の(注)のとおり、非訟事件の手続においてより柔軟な運用
を可能とするため、一定の修正を施す考え方(A-2案)がある。)。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の2(2)の(補足説明)参照。
(2) 民事訴訟のルールのうち非訟事件の手続に設けないもの
ア 民訴法においては、
閲覧等の制限の申立てのあった営業秘密や秘匿事項等、
秘匿性の
高い事項部分については、ファイルに記録しなければならないものとする対象から除
外されている(第132条の12第1項各号及び第132条の13各号)。そして、こ
れに対応するものとして、
例えば、
民事執行の手続に関する試案の第1の2(2)3では、
次の各事項につき、ファイルに記録することを要しないとしている。
i 第三者の閲覧等の制限の申立てがあった営業秘密のうち特に必要があるもの
ii 秘匿決定の申立てがあった場合における秘匿事項の届出に係る事項
iii 当事者の閲覧等の制限の申立て又は当事者の閲覧等の制限の決定があった閲覧等
の制限がされるべき事項のうち必要があるもの
以上のうち、iのルールは民訴法第92条第1項により第三者による閲覧等の制限
がされることを、iiのルールは民訴法第133条第1項及び第2項により届出がされ、
第133条の2第1項によりその届出につき閲覧等の制限がされることを、iiiのルー
ルは民訴法第133条の2第2項及び第133条の3により当事者による閲覧等の制
限がされることを、
それぞれ前提に、
その趣旨をより実効化する観点などから、
ファイ
ルに記録することを要しないものとしている。
もっとも、
非訟法は、
民訴法の上記の規定のうち民訴法第133条及び第133条の
2第1項の規定は準用している
(非訟法第42条の2)
が、
民訴法第92条や第13372条の2第2項及び第133条の3は、準用していない。非訟法は、民訴法と異なり、そ
の閲覧等は、裁判所の許可がある場合に限って認めており(非訟法第32条)、民訴法
第92条や第133条の2第2項及び第133条の3と同様に秘匿すべきケースは、
裁判所の許可をしないことにより対応することが可能であり、これらの規定は準用す
るのが相当でないためである(民訴法第133条及び第133条の2第1項の規定を
準用するのは、住所や氏名等の記載の省略を認めるためである。)。
そのため、
上記のルールのうち、
「ii 秘匿決定の申立てがあった場合における秘匿
事項の届出に係る事項」につきファイルに記録することを要しないとすることについ
ては、非訟法にも同様の規律を設けることができるが、他方で、
「i 第三者の閲覧等
の制限の申立てがあった営業秘密のうち特に必要があるもの」
及び
「iii 当事者の閲覧
等の制限の申立て又は当事者の閲覧等の制限の決定があった閲覧等の制限がされるべ
き事項のうち必要があるもの」につきファイルに記録することを要しないとすること
については、非訟法に同様の規律を設けることはできない。
試案の2(2)ア3が秘匿事項の届出についてのみ言及するのは、そのためである。も
っとも、このこととの関係で、非訟法特有のルールを設けるのかが、試案の2(2)イで
検討されている。
イ また、
民訴法には、
インターネットにより電子データが提出され、
それがファイルに
記録された場合に、民訴法第92条第1項の規定により閲覧等が制限される営業秘密
や、
同法第133条の2第2項の規定により閲覧等が制限される秘匿事項等につき、書面に出力してこれを訴訟記録として保管し、ファイルに記録された部分は当該ファイ
ルから消去する等の措置をとることができることとしている(民訴法第92条第9項
及び第10項、
第133条の2第5項及び第6項並びに第133条の3第2項)。そし
て、これに対応するものとして、例えば、民事執行の手続では、試案の第1の2(2)の
(注)
において、
民事訴訟と同様に、
ファイルに記録された事項に係る安全管理措置を
とることができるとすることを提案している。もっとも、前記のとおり、非訟法は、民
訴法第92条や第133条の2第2項は、
準用していない。
そのため、
同様の規律を設
けることはできず、試案(2)アでは、試案の第1の2(2)の(注)と同様の提案をしてい
ない。もっとも、このこととの関係で、非訟法特有のルールを設けるのかが、試案(2)
イの(注)で検討されている。
2 非訟法特有のルール(試案の2(2)イ及び(注))
(1) 議論の前提となる非訟法における閲覧等のルール
非訟事件の手続では、
裁判所の許可がなければ、
閲覧等の請求をすることはできず、例えば、当事者がその許可の申立てをした場合において、閲覧等を認めることにより(他の)当事者又は第三者に著しい損害を及ぼすおそれがあるときは、
裁判所はその許可をし73ない(非訟法第32条第1項から第4項まで参照)。
(2) 甲案
ア 甲案は、
非訟事件の手続における記録の閲覧等の規律も踏まえ、
他の者が知ることに
より当事者又は第三者に著しい損害を与えるおそれがあり、
かつ、
裁判所が特に必要が
あると認めるものについては、
その情報が他に漏れることをより防止する観点から、提出された書面等については、
ファイルに記録することなく、
そのまま、
紙媒体等により
保管することも認めることを提案するものである。
なお、
非訟事件の手続においては、
裁判所が閲覧等の許否を職権で判断することとさ
れており(当事者等による閲覧等の制限の申出といったものは法律上要件とされてい
ない)、裁判所は、自己の判断で、当事者や第三者による閲覧等の許可の申立てを却下
し、その者による閲覧等を制限することができる。そのため、甲案は、これに対応し、
当事者等からの閲覧等の制限の申出の有無を要件とすることはできないから、その有
無に関係なく、裁判所は、ファイルに記録しない措置をとることができるとしている。
また、
そのこととも関連するが、
甲案は、
現実に当事者等から裁判所に対する閲覧等の
許可を求める申立てがされ、その申立てを却下する決定がされていなくとも、裁判所
が、その判断で、ファイルに記録しない措置をとることができるとしている。しかし、
当事者等からの閲覧等の制限の申出もなく、
また、
現実に裁判所に対する閲覧等の許可
を求める申立てがないまま、
裁判所に書面等が提出されるごとに、
事件の内容を踏まえ
てファイルに記録しない措置をとるかどうかを判断しなければならないとすれば現実
には困難を伴うし、ファイルに記録するか否かについて裁判所の裁量の範囲が広くな
りすぎるとの懸念がある。また、非訟事件の手続では、例えば、当事者又は第三者であ
るAに対しては閲覧等の許可をしないが、別の当事者又は第三者であるBに対しては
閲覧等の許可をすることがあるが、
甲案では、
一部の当事者又は第三者との関係でも閲
覧等の許可の申立てを却下すべきケースであれば、ファイルに記録しない措置をとる
ことを認めており、
上記のケースでは、
閲覧等が認められるBも、
インターネットを利
用した閲覧等が制限される。
そのため、
甲案では、
ファイルに記録しない措置をとる範
囲を適切に限定し、
当該措置の必要性が明確であるケースに限って、
これをとることと
するために、
「特に必要がある」と認める場合に限り、この措置をとることとしている
(もっとも、
このようにしても、
前記の懸念が払拭できないとの意見があり、
後記の乙
案が提示されている。)。
イ また、
仮に、
甲案をとる場合には、
インターネットを利用して提出されたものについ
ても、
甲案でファイルに記録しない事項と同様の事項については、
ファイルにそのまま
記録するのではなく、紙に出力するなどの安全管理措置をとることができる規律を設
けることが考えられ、試案の(注)では、そのことを提案している。
(3) 乙案74乙案は、甲案のような規律を設けないものとすることを提案している。
前記(補足説明)(2)のとおり、甲案については、当事者等から閲覧等の制限の申出もな
く、また、現実に裁判所に対する閲覧等の許可を求める申立てがないケースでも、ファイ
ルに記録しない措置をとることができるとしており、その範囲が広くなりすぎるし、事件
記録の全体を網羅的に把握し、適宜、そのような措置をとることは困難を伴うとの指摘が
ある。また、甲案では、関係者の一部の者との関係で閲覧等の制限をすべきケースでも、
ファイルに記録しない措置をとることを認めるものであるが、そうすると、本来は、閲覧
等が認められる者までも、インターネットを利用した閲覧等が制限されることとなる。甲
案は、その適用される範囲を限定的なものとするために「特に必要がある」と認める場合
に限り、この措置をとることとしているが、当事者等の申出等がないまま、そのような措
置をとることを認めている以上、それに伴う懸念を払拭することはできないとも考えられ
る。また、閲覧等が認められる者がインターネットを利用した閲覧等が制限されることに
は変わりがないとの意見も考えられる。加えて、そもそも事件記録の電子化は、システム
の構築を適切にすることによりファイルに記録された情報を適切に管理することを前提
としており、非訟法第32条第3項に当たる事情があったとしても、特に閲覧等の制限や
秘匿の申立てがされ、その旨の決定がされている営業秘密等と同様の扱いとし、敢えて電
子化の範囲から除くまでの事情はないのではないかといった意見も考えられる。以上のこ
とから、乙案が提示されている。
3 裁判書及び調書等の電子化
裁判官が作成する裁判書及び裁判所書記官が作成する調書等について、書面
による作成に代えて、最高裁判所規則で定めるところにより、電磁的記録によ
り作成するものとする。
(補足説明)
民訴法においては、
裁判所が作成する判決書や裁判所書記官が作成する調書等について、電磁的記録によりこれを作成することとされている(同法第160条第1項及び第252条第
1項)。
非訟事件の手続においても、
裁判所は裁判書を作成することがあり、
また、
裁判所書記官は
調書を作成することがある。
これらについては、
現行の非訟法上、
書面で作成することが前提
とされている。
試案の3は、
民事訴訟手続と同様に、
これらについても電磁的記録により作成するものとす
ることを提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の3の(補足説明)参照。754 期日におけるウェブ会議又は電話会議の利用
(1) 当事者の期日参加
(いわゆる遠隔地要件を削除し、)裁判所は、相当と認めるときは、当事
者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、ウェブ会議又は
電話会議によって、
非訟事件の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)を行うことができるものとする。
(補足説明)
現行の非訟法第47条第1項は、当事者が遠隔地に居住しているときその他相当と認める
ときは、
当事者双方が現実に出頭していない場合でも、
ウェブ会議又は電話会議を用いて非訟
事件の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)をすることができると規定している。
他方で、
令和4年改正法により、
民訴法では、
弁論準備手続期日などウェブ会議又は電話会
議によって期日における手続を行う際の要件について、
当事者が遠隔地に居住しており、
裁判
所への出頭が困難であるような場合でなくても、
事案の内容等に鑑み、
ウェブ会議又は電話会
議の利用を認めても差し支えない事案はあることを理由に、
遠隔地の要件を削除し、
裁判所が
相当と認めるときに、
ウェブ会議又は電話会議の利用を認めるとしている
(民訴法第170条
第3項)。
試案の4(1)は、非訟事件の手続においても、同様の理由から、非訟事件の手続の期日への
当事者の参加について、遠隔地要件を削除し、裁判所は、相当と認めるときは、
ウェブ会議又
は電話会議によって、期日における手続(証拠調べを除く。)を行うことができるものとする
ことを提案するものである。
(2) 専門委員の期日における意見聴取
(いわゆる遠隔地要件を削除し、)裁判所は、相当と認めるときは、当事
者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、ウェブ会議又は
電話会議によって、専門委員に非訟法第33条第1項の意見を述べさせるこ
とができるものとする。
(注) 期日において意見等を述べることができる専門家等につき、専門委員と同様に、ウ
ェブ会議又は電話会議によって意見を述べることができるものとする。
(補足説明)
1 専門委員の期日における意見聴取(試案の4(2))
現行の非訟法第33条第4項は、専門委員が遠隔地に居住しているときその他相当と認
めるときは、
当事者の意見を聴いて、
ウェブ会議又は電話会議を用いて専門委員に意見を述
べさせることができると規定している。76令和4年改正法により、
民訴法では、
専門委員を手続に関与させる場合において、
事案の
内容等に応じてウェブ会議や電話会議を適切に活用すれば、訴訟手続の適正に支障を来す
ことはないと考えられ、
専門委員が遠隔地に居住している場合など、
裁判所への出頭が困難
である場合等にその利用を限定すべき必要性は乏しいものと考えられることを理由に、遠
隔地の要件を削除し、
裁判所が相当と認めるときに、
ウェブ会議又は電話会議の利用を認め
るとしている(民訴法第92条の3)。
試案の4(2)は、非訟事件の手続においても、専門委員が遠隔地に居住している場合でな
くても、ウェブ会議や電話会議の利用を認めて差し支えない事案があるものと考えられる
ことを理由に、
非訟事件の手続の期日における専門委員の意見聴取について、
遠隔地要件を
削除し、裁判所は、相当と認めるときは、ウェブ会議又は電話会議によって、専門委員に非
訟法第33条第1項の意見を述べさせることができるものとすることを提案するものであ
る。
2 他の専門家等(試案の(注))
非訟事件の中には、専門委員の他にも専門的な立場の者が口頭で意見を述べることとさ
れているものがある。それらの者が専門委員と同様に口頭での意見を期日において述べる
こととされているケースでは、
同様に、
ウェブ会議又は電話会議を利用した意見の陳述を可
能とすることが考えられる。
試案の(注)では、専門家等につき、専門委員と同様に、ウェブ会議又は電話会議によっ
て意見を述べることができるものとすることを提案しており、
今後、
この提案に沿って検討
を進めることが考えられる。
5 和解調書の送達又は送付
【甲案】
和解を記載した調書は、当事者に送達しなければならないものとする。
【乙案】
和解を記載した調書は、当事者に送達又は送付しなければならないものと
する。
(注) 甲案、乙案のいずれについても、現行において実費精算する取扱いがなされている郵
便費用を、申立ての手数料に組み込み一本化することと併せて実現することを提案する
ものである。
(補足説明)
1 和解調書の送達又は送付(試案の5)
(1) 現行の非訟法及び令和4年改正法による民訴法改正77現行の非訟法には、和解を記載した調書については、職権で送達する旨の規定はなく、
当事者からの申請を待って送達することとされている。
他方で、
令和4年改正法により、
民訴法では、
和解が訴訟終了効を有するものであると
ころ、
同様に訴訟終了効を有する判決は送達されていること、
また、
債務名義となる和解
調書は強制執行をするために送達が必要であることから、和解調書を職権によって送達
するとされている(民訴法第267条第2項)。
(2) 甲案
甲案は、
民訴法の改正を踏まえ、
和解を記載した調書は、
当事者に送達しなければなら
ないものとするものである。
(3) 乙案
乙案は、民訴法の規定を踏まえつつも、非訟事件では、
(民事訴訟における判決に相当
する)終局決定であっても、相当と認める方法で告知をすれば足りることとされており、
決定書を送付する方法によって告知することでも足りること等を理由に、和解を記載し
た調書は、当事者に送達又は送付しなければならないものとするものである。
なお、
乙案は、
送達又は送付のいずれの方法をとるかどうかは、
非訟事件における終局
決定の告知と同様に、
裁判所の判断に委ねるものである。
もっとも、
裁判所の判断と言っ
ても、部会では、当事者に希望がある場合にはそれを考慮して、判断すべき(例えば、和
解調書に基づき強制執行をするためには、和解調書が送達されていることが必要となる
が、
強制執行のために当事者が送達を希望するケースでは、
その希望を踏まえて判断すべ
き)との指摘がある。
2 郵便費用(試案の(注))
試案の(注)は、試案の5の提案が、現行においては手数料以外の費用(民事訴訟費用等
に関する法律第11条第1項第1号)として実費精算の取扱いによるものと整理されてい
る郵便費用について、申立ての手数料に組み込み一本化することと併せて提案するもので
あることについて記載している。
民事訴訟における郵便費用については、
従前、
実費精算す
る取扱いがされていたところ、民事訴訟法の改正により電磁的記録の送達が導入されるこ
とにより郵便費用の低減が見込まれることを踏まえ、実費精算の負担から当事者及び裁判
所を解放するとともに、
規律の簡明化を図る観点から、
手数料への一本化を行う改正が行わ
れている。現在、部会において電磁的記録の送達の導入が検討されている各手続について、
民事訴訟と同様に郵便費用の手数料への一本化を行うこと
(具体的には、
手続ごとの郵便利
用の実情、電磁的記録の送達が導入されることとなった場合に見込まれる変化などを踏ま
え、適正な手数料の設定ができるか)について、関係機関と協議しつつ、法務省において検
討しているところである。
部会においては、
郵便費用を申立ての手数料に組み込み一本化す
るに当たっては、
その額の設定に当たって、
できる限り利用者への負担に配慮すべきとの意78見があった。
6 電子化された事件記録の閲覧等
(1) 原則
電子化された事件記録についても請求の主体及び裁判所の許可に係る非訟
法第32条第1項の規律を基本的に維持し、当事者又は利害関係を疎明した
第三者は、裁判所の許可を得て、電子化された事件記録について、最高裁判
所規則で定めるところにより、閲覧、複写(ダウンロード)、事件記録に記
録されている事項の内容を証明した文書若しくは電磁的記録の交付若しくは
提供又は事件に関する事項を証明した文書若しくは電磁的記録の交付若しく
は提供(以下この6において「閲覧等」という。)の請求をすることができ
るものとする。
(注1) 電子化された事件記録の閲覧等の具体的な方法について、次のような規律を設け
るものとする。
1 当事者又は利害関係を疎明した第三者は、
裁判所設置端末及び裁判所外端末を用
いた閲覧等の請求をすることができる。
2 当事者は、
いつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧又は複写をするこ
とができる。
(注2) 当事者がいつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧又は複写をすること
ができる
((注1)2)
ようにするための閲覧又は複写の許可の在り方として、
例えば、
同一の当事者が一度閲覧又は複写の許可を得た部分を再度閲覧又は複写する場合に
は別途の許可を不要とするとの考え方や、
閲覧又は複写を許可する部分の特定に関し
一定の場合には今後提出されるものも含めた範囲の指定を可能とする
(事前の許可を
可能とする)との考え方がある。
(注3) 裁判所の許可を得ることなく記録の閲覧等を認めている事件類型(借地非訟事件
など)や資料については、これが電子化された場合には、民事訴訟と同様の方法によ
る閲覧等を認めるものとする。
(補足説明)
1 電子化された事件記録の閲覧等
非訟事件の手続において、インターネットを用いて申立て等をすることを認めることと
した場合には(試案の1(1))、インターネットを用いてされた申立て等については、当該
申立て等に係る電磁的記録
(電子データ)
はそのまま事件記録となることが想定される。また、書面等が提出された場合に、当該書面等を裁判所のファイル(サーバ)に記録すること
とし
(試案の2)、裁判官が作成する裁判書や裁判所書記官が作成する調書についても電磁79的記録により作成することとした場合には
(試案の3)、ファイルに記録された電磁的記録
が事件記録となる。これらの電子化された事件記録の閲覧等に関する規律が問題となる。
2 閲覧等の請求の主体及び裁判所の許可(試案の6(1))
非訟法第32条は、非訟事件の手続等について、当事者及び利害関係を疎明した第三者
は、裁判所の許可を得て、
閲覧等の請求をすることができることとしている。これらは、電
子化されていない事件記録についての規律であるが、
電子化された事件記録についても、この請求の主体や裁判所の許可に係る規律を変更すべき理由はないことから、試案の6(1)で
は、請求の主体及び裁判所の許可に係る非訟法第32条の考え方を基本的に維持すること
としている。
3 請求の具体的な内容(試案の6(1)及び(注1))
(1) 請求の内容(試案の6(1))
試案の6(1)は、非訟事件における電子化された事件記録についても、その請求するこ
とができる内容につき、民事訴訟と同様の規律とすることを提案するものである。
民事訴訟その他の説明については、試案の第1の6の(補足説明)参照。
(2) 閲覧等の方法(試案の(注1))
試案の(注1)は、「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱」を踏まえて、
具体的な閲覧等の方法につき提案をしている。
要綱の説明その他の説明については、
試案
の第1の6の(補足説明)参照。
4 許可の在り方(試案の(注2))
現在の実務では、当事者等は閲覧等の請求をするごとにその許可の申立てをし、裁判所
は、
閲覧等を許可する部分を特定してその許可をしていることとの関係で、
当事者がいつで
も事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧又は複写をすることができる(試案の(注1)
2)ための許可の在り方が問題となる。
そこで、試案の(注2)では、非訟法第32条における裁判所の許可の規律を維持するこ
とを前提に、許可の在り方について検討することを提案している。
検討をする内容としては、
例えば、
同一の当事者が一度閲覧又は複写の許可を得た部分を
再度閲覧又は複写する場合には別途の許可を不要とするとの考え方や、閲覧又は複写を許
可する部分の特定に関し一定の場合には今後提出されるものも含めた範囲の指定を可能と
する(事前の許可を可能とする)との考え方がある。
5 個別の規律がある事件等(試案の(注3))
非訟事件の中には、
裁判所の許可を得ることなく、
事件記録の閲覧等を認める事件類型が80ある。例えば、次のような事件類型がある。
○しろまる 借地非訟事件(借地借家法第46条)
○しろまる 公示催告事件(非訟法第112条等)
また、
特定の資料につき、
裁判所の許可を得ることなく、
事件記録の閲覧等を認める事件
類型がある。例えば、次のようなものがある。
○しろまる 解散命令における報告又は計算に関する資料(会社法第906条)
このような事件記録及び資料については、
電子化した際には、
同じく裁判所の許可を要し
ないこととされている民事訴訟と同様の方法により閲覧等を認めることが考えられる。
そこで、試案の(注3)は、裁判所の許可を得ることなく記録の閲覧等を認めている事件
類型や資料については、
これが電子化された場合には、
民事訴訟と同様の方法による閲覧等
を認めるものとすることを提案している。
なお、
ここでの提案は、
飽くまでも閲覧等の方法
に関する提案であり、
記録の閲覧等の主体については、
現行法と同様の取扱いを維持するこ
とを前提としている
(例えば、
借地非訟事件は、
当事者及び利害関係を疎明した第三者につ
いて記録の閲覧等を認めているが、
これを、
民事訴訟と同様に何人についても記録の閲覧を
認めることに改める趣旨ではない。)。
(2) 自己の提出した書面等及び裁判書等
1 当事者は、電子化された事件記録中当該当事者が提出したものに係る事
項については、裁判所の許可を得ないで、裁判所書記官に対し、閲覧等の
請求をすることができるものとする。
2 当事者は、電子裁判書については、裁判所の許可を得ないで、裁判所書
記官に対し、閲覧等の請求をすることができるものとする。裁判を受ける
者が当該裁判があった後に請求する場合も、同様とするものとする。
3 当事者は、事件に関する事項を証明した文書又は電磁的記録について
は、裁判所の許可を得ないで、裁判所書記官に対し、その交付又は提供の
請求をすることができるものとする。裁判を受ける者が当該裁判があった
後に請求する場合も、同様とするものとする。
(注) 当事者は、電子化されていない事件記録中当該当事者が提出したものに係る事項に
ついては、裁判所の許可を得ないで、裁判所書記官に対し、閲覧等の請求をすること
ができるものとする。
(補足説明)
1 自己の提出したものの閲覧等(試案の6(2)1及び(注))
非訟法第32条第1項から第3項までは、当事者であっても、裁判所の許可がなければ、
閲覧等をすることができず、
裁判所は、
裁判所に対する閲覧等の許可を求める申立てがあっ81ても、
(他の)当事者又は第三者に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときには、こ
れを許可しないことができることとしている。
もっとも、
当事者が自ら提出した資料については、
当事者はその内容を既に知っているこ
とから、
それを閲覧等することについて、
上記の不許可事由が存在しないと考えられ、
許可
制を維持する理由はない。
そこで、試案の6(2)1及び(注)は、当事者は、電子化された事件記録又は電子化され
ていない事件記録中当該当事者が提出したものに係る事項については、裁判所の許可を得
ないで、裁判所書記官に対し、閲覧等の請求をすることができるものとしている。
2 裁判書(試案の6(2)2)
非訟法第32条第5項は、
当事者及び裁判を受ける者
(当該裁判があった後に請求する場
合に限る。)は、裁判書の正本、謄本及び抄本については、当事者は、裁判所の許可を得な
いで、裁判所書記官に対し、その交付を請求することができるとしている。これは、当事者
及び当該裁判を受ける者は、
裁判書の内容を当然に知ることができるとするものであり、そうであれば、閲覧の請求を含めて、裁判所の許可を要するとする必要はない。
そこで、試案の6(2)2は、当事者及び当該裁判を受ける者は、電子裁判書については、
裁判所の許可を得ないで、
裁判所書記官に対し、
閲覧等の請求をすることができるものとす
ることを提案している。
3 証明書等(試案の6(2)3)
試案の6(2)3は、
非訟法第32条第5項の規定と同様に、
当事者及び裁判を受ける者(当該裁判があった後に請求する場合に限る。)は、
事件に関する事項を証明する文書又は電磁
的記録については、
裁判所の許可を得ないで、
裁判所書記官に対し、
その交付又は提供の請
求をすることができるものとすることを提案している。
7 送達等
(1) 電磁的記録の送達
非訟事件の手続における電磁的記録の送達について、民訴法第109条か
ら第109条の4までの規定を準用するものとする。
(補足説明)
試案の7(1)は、非訟事件の手続における電磁的記録の送達についても、民事訴訟と同様の
規律とするために、民訴法第109条から第109条の4までの規定を準用することを提案
している。民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の7(1)の(補足説明)参照。82(2) 公示送達
非訟事件の手続における公示送達について、民訴法第111条の規定を準
用するものとする。
(補足説明)
試案の7(2)は、非訟事件の手続における公示送達についても、民事訴訟と同様の規律とす
るために、
民訴法第111条の規定を準用することを提案している。
民事訴訟の説明その他の
説明については、試案の第1の7(2)の(補足説明)参照。
8 公示催告事件における公告
(1) 裁判所設置端末の利用
公示催告事件についての公告において、現行法で認められている裁判所の
掲示場への掲示に代えて、裁判所に設置された端末で閲覧することができる
ようにする措置をとることができるものとする。
(補足説明)
1 公示催告事件
公示催告とは、
裁判所が行う公の催告であり、
不特定又は不分明の相手方に対して、
一定
の期間内に裁判所に権利の届出をするよう催告し、
もしその届出をしないときには、
当該権
利につき失権の効力を生ずる旨の警告が付けられたものをいう。
例えば、
権利の登記の抹消
について登記義務者が行方不明の場合に公示催告をした上で登記を抹消するためにするも
のや手形等の有価証券を盗取され、
又は紛失等をした場合に、
当該有価証券を所持していな
くても権利を行使することができるように、
権利と証券との結び付きを解いて、
当該有価証
券を無効と宣言するためにするものがある。
2 裁判所に設置された端末の利用(試案の8(1))
現行の非訟法では、
公示催告についての公告は、
公示催告の内容について、
裁判所の掲示
場への掲示及び官報への掲載をすることとされている(非訟法第102条第1項)。
他方で、
令和4年改正法により、
民事訴訟における公示送達では、
従前の裁判所の掲示場
への掲示に代えて、裁判所設置端末で閲覧することができるようにする措置をとることが
できるものとしている(民訴法第111条)。
公示催告は裁判所が行う公示であるところ、民事訴訟手続における公示送達も裁判所が
行う公示である点では同様であることから、
公示催告事件における公告においても、
同様に
することが考えられる。
そこで、試案の8(1)は、公示催告事件についての公告において、裁判所の掲示場への掲83示に代えて、裁判所設置端末で閲覧することができるようにする措置をとることができる
ものとすることを提案するものである。
(2) 裁判所のウェブサイト掲載
【甲案】
公示催告事件についての公告において、裁判所の掲示場又は裁判所設置
端末等への掲示、及び官報への掲載に加えて、裁判所のウェブサイトに掲
載する方法をとらなければならないものとする。
【乙案】
公示催告事件についての公告については、裁判所の掲示場又は裁判所設
置端末等への掲示、及び官報への掲載によるものとし、裁判所のウェブサ
イトに掲載する方法をとならなければならないとの規律は設けないものと
する。
(補足説明)
1 民事訴訟の公示送達におけるインターネット(裁判所のウェブサイト掲載)の利用
令和4年改正法により、
民事訴訟手続における公示送達では、
裁判所の掲示場の掲示又は
裁判所に設置された端末で閲覧することができるようにすることに加え、インターネット
により不特定多数の者に対して公示する措置(具体的には、裁判所のウェブサイトへの掲
載)をとることとされている(民訴法第111条)。
2 公示催告事件の公告における裁判所のウェブサイト掲載
公示催告事件の公告においても、インターネットを利用して不特定多数の者に対して公
示する措置をとることを検討することが考えられる。
甲案は、
以上の点から、
公示催告事件についての公告において、
裁判所の掲示場又は裁判
所設置端末等への掲示、
及び官報への掲載に加えて、
裁判所のウェブサイトに掲載する方法
をとらなければならないものとすることを提案するものである。
乙案は、インターネットを利用して不特定多数の者に対して公示することが必要である
としても、既に、官報自体がインターネットを利用して見ることができるので、それと別
に、
裁判所のウェブサイトに掲載する方法をとる必要はないとして、
裁判所のウェブサイト
に掲載する方法をとらなければならないとの規律は設けないことを提案するものである。
9 その他
(注1) システムを使った電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べの申出や、書
面の提出に代えて電磁的記録をファイルに記録する方法による陳述、ウェブ会議による84裁判所外の尋問など、ITを活用した証拠調べ手続について、民事訴訟手続と同様の規
律を設けるものとする。
(注2) 費用額確定の申立ての期限や、申立て手数料の納付がない場合の納付命令の裁判所
書記官の権限について民事訴訟手続と同様の規律を設けるものとするほか、申立て手数
料を納付しないことを理由とする申立書却下に対して申立て手数料を納付しないまま
した即時抗告は原裁判所において却下しなければならないとの規律を設けるものとす
る。
(注3) 民訴法の改正を踏まえて裁判官の権限のうち定型的な判断事項を裁判所書記官の権
限とする見直しなど実務上必要な見直しがないのか検討すべきとの考え方がある。
(補足説明)
1 証拠調べの手続(試案の(注1))
試案の(注1)は、非訟事件の手続において証拠調べを行う場合に、民訴法におけるIT
を活用した証拠調べの規律と同様の規律を適用することを提案するものである。民事訴訟
の説明その他の説明については、試案の第1の10の(注1)の(補足説明)参照。
2 費用額確定処分の申立ての期限と納付命令等(試案の(注2))
非訟事件の手続における手続費用についても、その額が長期にわたって確定されない事
態を防ぐ必要があると考えられることから、試案の(注2)では、非訟事件の手続における
手続費用の額の確定の申立てについて、民事訴訟手続と同様に10年の期間制限を設ける
ことを提案している。民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の10の(注
2)の(補足説明)参照。
また、
令和4年改正法により、
民訴法においては、
訴えの提起の手数料の納付がない場合
に関し、
この場合の納付命令を裁判所書記官の権限とすること及びその者
(訴えの提起をす
る者)において相当と認める訴訟の目的の価額に応じて算出される手数料を納付しないま
ました申立書却下に対する即時抗告は原裁判所が却下しなければならないものとすること
など(同法第137条の2)につき規律が設けられている。
試案の(注2)は、非訟事件の手続においても、申立て手数料の納付がない場合の納付命
令を裁判所書記官の権限とすること、
また、
申立て手数料
(民事訴訟費用等に関する法律第
3条第1項、
別表第1の16の項)
を納付しないことを理由とする申立書却下に対して手数
料を納付しないまました即時抗告を原裁判所において却下しなければならないものとする
規律を設けることを提案している。
3 その他(試案の(注3))
部会では、
これまでに掲げた論点のほか、
民訴法の内容を踏まえつつ、
実務上見直しをす85べき点がないか検討すべきであるとの指摘があった。試案の(注3)は、この点について記
載するものであり、
今後、
民訴法の内容を踏まえつつ、
実務上見直しをすべき点の指摘が具
体的にあれば、その指摘を踏まえて検討することも考えられる。
第6 民事調停
1 裁判所に対する申立て等
(1) インターネットを用いてする申立て等の可否
民事調停の手続において裁判所に対して行う申立て等については、(非訟
法を準用することにより)民訴法第132条の10の規定を準用し、全ての
裁判所に対し、一般的に、インターネット(電子情報処理組織)を用いてす
ることができるものとする。
(補足説明)
現行の民調法においては、
民事調停の手続における申立て等のうち、
最高裁判所の定める裁
判所に対してするものについては、
最高裁判所規則で定めるところにより、
インターネットを
用いてすることができることとされている(同法第22条及び非訟法第42条)。
試案の1(1)は、民事調停の手続における申立て等(民事調停の申立てなどがこれに含まれ
る。)についても、手続の利便性を向上するとともに、迅速な手続を実現する観点から、民訴
法第132条の10の規定を準用し、全ての裁判所に対し、一般的に、インターネット(電子
情報処理組織)を用いてすることができるものとすることを提案している。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の1(1)の(補足説明)参照。
(2) インターネットを用いてする申立て等の義務付け
民事調停の手続において、(非訟法を準用することにより)民訴法第13
2条の11の規定を準用し、民事訴訟手続においてインターネットを用いて
申立て等をしなければならない委任を受けた代理人等は、裁判所に対して行
う申立て等をインターネットを用いてしなければならないものとする。
(補足説明)
試案の1(2)では、民事調停の手続においても、令和4年改正法による民訴法改正の考え方
が妥当すると考えられることから、
民訴法第132条の11の規定を準用し、
民事訴訟手続と
同様に、
民事調停の手続における委任を受けた代理人等について、
インターネットによる申立
て等を義務付けることを提案し、
他方で、
それ以外の者については、
インターネットを用いて
申立て等をすることを義務付けることは提案していない。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の1(2)アの(補足説明)参照。862 提出された書面等及び記録媒体の電子化
(1) 提出された書面等及び記録媒体の電子化の対象事件等
裁判所に提出された書面等及び記録媒体につき、下記(2)の電子化のルー
ルを適用し、裁判所書記官において提出された書面等及び記録媒体をファイ
ルに記録しなければならないものとする。
(補足説明)
現行の民調法の下では、
事件記録は書面により管理されており、
裁判所に提出された書面等
については、これらをそのまま編てつすることにより、事件記録が作成されている。
民事調停の手続は、民事訴訟手続と同様に、当事者対立構造にあることから、試案の2(1)
では、全ての民事調停事件において、試案の2(2)の電子化のルールを適用し、裁判所に提出
された書面等をファイルに記録して電子化をすることを提案している。
これにより、
民事訴訟
と同様に、
当事者の一方が、
他方当事者の提出した書面等につき、
インターネットを用いて閲
覧等すること等が可能となる。
民事訴訟の説明については、試案の第1の2(1)の(補足説明)参照。
(2) 提出された書面等及び記録媒体の電子化のルール
民訴法第132条の12及び第132条の13と同様に、裁判所に提出さ
れた書面等及び記録媒体の電子化のルールとして、次のような規律を設ける
ものとする。
1 申立て等が書面等により行われたときは、裁判所書記官は、当該書面等
に記載された事項をファイルに記録しなければならない。ただし、当該事
項をファイルに記録することにつき困難な事情があるときは、この限りで
ない。
2 裁判所書記官は、1の申立て等に係る書面等のほか、民事調停の手続に
おいて裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記載され、又は記録され
ている事項をファイルに記録しなければならない。ただし、当該事項をフ
ァイルに記録することにつき困難な事情があるときは、この限りでない。
3 裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記載され、又は記録されてい
る事項のうち、次のものについては、1及び2の規律にかかわらず、ファ
イルに記録することを要しない。
i 第三者の閲覧等の制限の申立てがあった営業秘密のうち特に必要があ
るもの
ii 秘匿決定の申立てがあった場合における秘匿事項の届出に係る事項87iii 当事者の閲覧等の制限の申立て又は当事者の閲覧等の制限の決定があ
った閲覧等の制限がされるべき事項のうち必要があるもの
(注) 民訴法第92条第9項及び第10項、第133条の2第5項及び第6項並びに第1
33条の3第2項と同様に、
インターネットを用いた提出によりファイルに記録され
た電子化された事件記録のうち、
1第三者の閲覧等の制限の申立てがあった営業秘密
のうち特に必要がある部分又は2当事者の閲覧等の制限の申立て若しくは当事者の
閲覧等の制限の決定があった閲覧等の制限がされるべき事項が記録された部分は、その内容を書面に出力し、又はこれを他の記録媒体に記録するとともに、当該部分を電
子化された事件記録から消去する措置その他の当該部分の安全管理のために必要か
つ適切なものとして最高裁判所規則で定める措置を講ずることができるものとする。
(補足説明)
1 提出書面等及び記録媒体の電子化のルール
試案の2(2)は、民事調停の手続においても、民事訴訟手続と同様の電子化のルールを適
用することを提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、
試案の第1の
2(2)の(補足説明)参照。
ところで、民事訴訟のルールは、第三者秘匿制度(民訴法第92条)を前提に、その制度
によって閲覧等の制限がされるもののうち特に必要なものにつき、その対象となる情報を
より厳格に管理する観点から、紙媒体等で保管することを許容している(試案の2(2)3i
がこれに相当するルールである)。現行の民調法は、民訴法第92条の規定を準用せず、第
三者秘匿制度を設けていないが、
この試案では、
同条の規定を準用し、
第三者秘匿制度を設
けることを提案しており、試案の2(2)3iの提案は、このことを前提としている。
2 ファイルに記録された事項に係る安全管理措置(試案の(注))
試案の(注)は、民事調停の手続においても、民事訴訟手続と同様に、ファイルに記録さ
れた営業秘密や秘匿事項等に係る部分について、書面に出力してこれを事件記録として保
管し、ファイルに記録された部分は当該ファイルから消去するなどの措置をとることがで
きることとすることを提案するものである。
なお、
現行の民調法は、
民訴法第92条の規定
を準用していないが、試案の(注)は、同条の規定を準用し、第三者秘匿制度を設けること
を前提としている。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の2(2)の(補足説明)参照。
3 裁判書及び調書等の電子化
裁判官が作成する裁判書及び裁判所書記官が作成する調書等について、書面
による作成に代えて、最高裁判所規則で定めるところにより、電磁的記録によ88り作成するものとする。
(補足説明)
民訴法においては、
裁判所が作成する判決書や裁判所書記官が作成する調書等について、電磁的記録によりこれを作成することとされている(同法第160条第1項及び第252条第
1項)。
民事調停の手続においても、
裁判所は裁判書を作成することがあり、
また、
裁判所書記官は
調書を作成することがある。
これらについては、
現行の民調法上、
書面で作成することが前提
とされている。
試案の3は、
民事訴訟手続と同様に、
これらについても電磁的記録により作成するものとす
ることを提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の3の(補足説明)参照。
4 期日におけるウェブ会議又は電話会議の利用
(いわゆる遠隔地要件を削除し、)裁判所は、相当と認めるときは、当事者
の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、ウェブ会議又は電話
会議によって、民事調停の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)を行
うことができるものとする。
(補足説明)
民調法第22条が準用する非訟法第47条第1項は、当事者が遠隔地に居住しているとき
その他相当と認めるときは、
当事者双方が現実に出頭していない場合でも、
ウェブ会議又は電
話会議を用いて非訟事件の手続の期日における手続
(証拠調べを除く。)をすることができる
と規定している。
試案の4は、
非訟事件の手続と同様の理由から、
民事調停の手続の期日への当事者の参加に
ついて、遠隔地要件を削除し、裁判所は、相当と認めるときは、ウェブ会議又は電話会議によ
って、期日における手続(証拠調べを除く。)を行うことができるものとすることを提案する
ものである。
5 調停調書の送達又は送付
【甲案】
調停における合意を記載した調書は、当事者に送達しなければならないも
のとする。
【乙案】
調停における合意を記載した調書は、当事者に送達又は送付しなければな89らないものとする。
(注) 甲案、乙案のいずれについても、現行において実費精算する取扱いがなされている郵
便費用を、申立ての手数料に組み込み一本化することと併せて実現することを提案する
ものである。
(補足説明)
民調法には、調停における合意を記載した調書については、職権で送達する旨の規定はな
く、当事者からの申請を待って送達することとされている。他方で、民訴法では、和解が訴訟
終了効を有するものであるところ、
同様に訴訟終了効を有する判決は送達されていること、また、
債務名義となる和解調書は強制執行をするために送達が必要であることから、
和解調書を
職権によって送達するとされている(民訴法第267条第2項)。
甲案は、
民訴法の規定を踏まえ、
調停における合意を記載した調書は、
当事者に送達しなけ
ればならないものとするものである。
乙案は、民訴法の規定を踏まえつつも、民事調停の手続では、
(民事訴訟における判決に相
当する)終局決定(例えば、調停に代わる決定)であっても、相当と認める方法で告知をすれ
ば足りることとされており、決定書を送付する方法によって告知することでも足りること等
を理由に、
調停における合意を記載した調書は、
当事者に送達又は送付しなければならないも
のとするものである。
なお、
乙案は、
送達又は送付のいずれの方法をとるかどうかは、
非訟事件における終局決定
の告知と同様に、裁判所の判断に委ねるものである。もっとも、裁判所の判断と言っても、部
会では、当事者に希望がある場合にはそれを考慮して、判断すべき(例えば、調停調書に基づ
き強制執行をするためには、
調停調書が送達されていることが必要となるが、
強制執行のため
に当事者が送達を希望するケースでは、その希望を踏まえて判断すべき)との指摘がある。
また、
本文の提案が、
郵便費用を申立ての手数料に組み込み一本化することと併せて実現す
ることを提案するものであることは、
他の手続における和解調書
(調停調書)
の送達又は送付
に係る提案と同様である(試案の(注))。その説明については、試案の第5の5の(補足説
明)参照。
6 事件記録の閲覧等
(1) 電子化された事件記録の閲覧等
電子化された事件記録についても請求の主体に係る民調法第12条の6第
1項の規律を基本的に維持し、当事者又は利害関係を疎明した第三者は、電
子化された事件記録について、
最高裁判所規則で定めるところにより、
閲覧、
複写(ダウンロード)、事件記録に記録されている事項の内容を証明した文
書若しくは電磁的記録の交付若しくは提供又は事件に関する事項を証明した90文書若しくは電磁的記録の交付若しくは提供
(以下この(1)において
「閲覧等」
という。)の請求をすることができるものとする。
(注) 電子化された事件記録の閲覧等の具体的な方法について、次のような規律を設ける
ものとする。
1 当事者及び利害関係を疎明した第三者は、
裁判所設置端末及び裁判所外端末を用
いた閲覧等を請求することができる。
2 当事者は、
いつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧又は複写をするこ
とができる。
(補足説明)
1 電子化された事件記録の閲覧等
民事調停の手続において、インターネットを用いて申立て等をすることを認めることと
した場合には(試案の1(1))、インターネットを用いてされた申立て等については、当該
申立て等に係る電磁的記録
(電子データ)
はそのまま事件記録となることが想定される。また、書面等が提出された場合に、当該書面等を裁判所のファイル(サーバ)に記録すること
とし
(試案の2)、裁判官が作成する裁判書や裁判所書記官が作成する調書についても電磁
的記録により作成することとした場合には
(試案の3)、ファイルに記録された電磁的記録
が事件記録となる。これらの電子化された事件記録の閲覧等に関する規律が問題となる。
2 閲覧等の請求の主体(試案の6(1))
民調法第12条の6は、
民事調停について、
当事者及び利害関係を疎明した第三者は、事件記録の閲覧等の請求をすることができることとしている。
これは、
電子化されていない事
件記録についての規律であるが、
電子化された事件記録についても、
この請求の主体に係る
規律を変更すべき理由はないことから、試案の6(1)では、基本的に、請求の主体に係る民
調法第12条の6の考え方を維持することとしている。
3 請求の具体的な内容(試案の6(1)及び(注))
試案の6(1)は、民事調停の手続における電子化された事件記録についても、その請求す
ることができる内容につき、民事訴訟と同様の規律とすることを提案するものである。
また、試案の(注)は、
「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱」を踏まえて、
具体的な閲覧等の方法につき提案をしている。
民事訴訟の説明、要綱の説明その他の説明については、試案の第1の6の(補足説明)参
照。
(2) 秘密保護のための閲覧等の制限91民事調停の手続における電子化された事件記録及び電子化されていない
事件記録について、民訴法第92条第1項から第8項までの規定を準用する
ものとする。
(補足説明)
現行の民調法は、
民訴法第92条の規定を準用しておらず、
第三者の閲覧等を制限する規律
を設けていない(民調法第12条の6第2項参照)。
そのため、当事者の重大なプライバシー
や営業秘密等が記載された部分について、利害関係を疎明した第三者による閲覧等が制限さ
れることはない。他方で、
民訴法では、民訴法第92条の規定を前提に、電子化のルールの規定(民訴法第132条の12第1項第1号等)
を設けており、
民事調停における事件記録の電
子化を検討する(試案の2参照)に際しては、民訴法第92条の準用の可否が問題となる。
民訴法第92条の第三者の閲覧等の制限の規定は、
民事訴訟では、
自己の主張を裏付ける資
料を提出しない場合には敗訴のリスクを負うため、敗訴しないために要保護性のある秘密を
公開しなければならないとの弊害を避けるため、要保護性のある秘密が第三者に知られるこ
とを避けつつ、適正な審理を実施するために設けられたものである。
他方、
民事調停手続においては、
当事者は、
自己の主張を裏付ける資料を提出しない場合に
民事訴訟のように敗訴のリスクを負うものではないが、
民事調停を利用する者は、
調停の申立
てにおいて、
紛争の要点に関する証拠書類があるときは、
その写しを添付しなければならない
とされている(民調規則第3条)。そして、民事調停には、民事訴訟にはない特徴(例えば、
経験が豊富な民事調停委員により構成された調停委員会の助言や見解を得て、話合いによる
簡易・迅速な解決を図ることができるなど)
があり、
第三者閲覧制限をすることができないこ
とが、この制度の利用を妨げるのは相当でないとの意見も考えられる。
そこで、試案の6(2)では、民事調停の手続においても、民訴法第92条第1項から第8項
までの規定を準用するものとすることを提案している。
7 送達等
(1) 電磁的記録の送達
民事調停の手続における電磁的記録の送達について、(非訟法を準用する
ことにより)民訴法第109条から第109条の4までの規定を準用するも
のとする。
(補足説明)
試案の7(1)は、民事調停の手続における電磁的記録の送達についても、非訟事件の手続と
同様に、
民事訴訟と同様の規律とするために、
民訴法第109条から第109条の4までの規
定を準用することを提案している。92民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の7(1)の(補足説明)参照。
(2) 公示送達
民事調停の手続における公示送達について、(非訟法を準用することによ
り)民訴法第111条の規定を準用するものとする。
(補足説明)
試案の7(2)は、民事調停の手続における公示送達についても、非訟事件の手続と同様に、
民事訴訟と同様の規律とするために、民訴法第111条の規定を準用することを提案してい
る。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の7(2)の(補足説明)参照。
8 その他
(注1) システムを使った電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べの申出や、書
面の提出に代えて電磁的記録をファイルに記録する方法による陳述、ウェブ会議による
裁判所外の尋問など、ITを活用した証拠調べ手続について、民事訴訟手続と同様の規
律を設けるものとする。
(注2) 費用額確定の申立ての期限や、申立て手数料の納付がない場合の納付命令の裁判所
書記官の権限について民事訴訟手続と同様の規律を設けるものとするほか、申立て手数
料を納付しないことを理由とする申立書却下に対して申立て手数料を納付しないまま
した即時抗告は原裁判所において却下しなければならないとの規律を設けるものとす
る。
(注3) 特定調停における手続については、民事調停の手続のIT化及び破産手続のIT化
を踏まえて、IT化をするものとする。
(注4) 民訴法の改正を踏まえて裁判官の権限のうち定型的な判断事項を裁判所書記官の権
限とする見直しなど実務上必要な見直しがないのか検討すべきとの考え方がある。
(補足説明)
1 証拠調べの手続(試案の(注1))
試案の(注1)は、民事調停の手続において証拠調べを行う場合に、民訴法におけるIT
を活用した証拠調べの規律と同様の規律を適用する考え方を記載するものである。民事訴
訟の説明その他の説明については、試案の第1の10(注1)の(補足説明)参照。
2 費用額確定処分の申立ての期限と納付命令等(試案の(注2))
民事調停の手続における手続費用についても、その額が長期にわたって確定されない事93態を防ぐ必要があると考えられることから、試案の(注2)では、民事調停の手続における
手続費用の額の確定の申立てについて、民事訴訟手続と同様に10年の期間制限を設ける
ことを提案している。民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の10の(注
2)の(補足説明)参照。
また、試案の(注2)は、非訟事件の手続と同様に、民事調停の手続においても、申立て
手数料の納付がない場合の納付命令を裁判所書記官の権限とすること、
また、
申立て手数料
(民事訴訟費用等に関する法律第3条第1項、
別表第1の16の項)
を納付しないことを理
由とする申立書却下に対して手数料を納付しないまました即時抗告を原裁判所において却
下しなければならないものとする規律を設けることを提案している。民事訴訟及び非訟事
件の手続の説明その他の説明については、試案の第5の9の(注2)の(補足説明)参照。
3 特定調停における手続(試案の(注3))
特定調停法第3条の規定による特定調停の手続は、債務の返済ができなくなるおそれの
ある債務者
(特定債務者)
の経済的再生を図るため、
特定債務者が負っている金銭債務に係
る利害関係の調整を行うことを目的とする手続であり、民調法の特例として定められたも
のである(特定調停法第1条及び第22条参照)。
特定調停法は、
民調法の特則を定めるものであるものの、
その機能は、
いわゆる債務整理
に利用されるものであり、
破産法等の手続と類似する側面を持つ
(例えば、
通常の民事調停
は、申立人と相手方の二者間の紛争を想定しているが、特定調停においては、相手方(債権
者等)が複数となることが少なくない。)。
そのため、
特定調停のIT化においては、
民事調停のIT化に加えて、
破産手続のIT化
を踏まえて検討することが考えられる。例えば、提出書面等の電子化のルールについては、
破産手続等と同様とすることが考えられる。
試案の(注3)は、特定調停における手続については、民事調停のIT化及び破産手続の
IT化を踏まえて、IT化をするものとすることを提案するものである。
4 その他(試案の(注4))
部会では、
民訴法の内容を踏まえつつ、
実務上見直しをすべき点がないか検討すべきであ
るとの指摘があった。
試案の(注4)は、この点について記載するものであり、今後、民訴法の内容を踏まえつ
つ、
実務上見直しをすべき点の指摘が具体的にあれば、
その指摘を踏まえて検討することも
考えられる。
第7 労働審判
1 裁判所に対する申立て等94(1) インターネットを用いてする申立て等の可否
労働審判手続において裁判所に対して行う申立て等については、(非訟法
を準用することにより)民訴法第132条の10の規定を準用し、全ての裁
判所に対し、一般的に、インターネット(電子情報処理組織)を用いてする
ことができるものとする。
(補足説明)
現行の労審法においては、
労働審判手続における申立て等のうち、
最高裁判所の定める裁判
所に対してするものについては、
最高裁判所規則で定めるところにより、
インターネットを用
いてすることができることとされている(同法第29条第1項及び非訟法第42条)。
試案の1(1)は、労働審判手続における申立て等(労働審判手続の申立て(労審法第5条)
などがこれに含まれる。)
についても、手続の利便性を向上するとともに、迅速な手続を実現
する観点から、民訴法第132条の10の規定を準用し、全ての裁判所に対し、
一般的に、イ
ンターネット(電子情報処理組織)を用いてすることができるものとすることを提案してい
る。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の1(1)の(補足説明)参照。
(2) インターネットを用いてする申立て等の義務付け
労働審判手続において、(非訟法を準用することにより)民訴法第132
条の11の規定を準用し、民事訴訟手続においてインターネットを用いて申
立て等をしなければならない委任を受けた代理人等は、裁判所に対して行う
申立て等をインターネットを用いてしなければならないものとする。
(補足説明)
試案の1(2)では、労働審判手続においても、令和4年改正法による民訴法改正の考え方が
妥当すると考えられることから、
民訴法第132条の11の規定を準用し、
民事訴訟手続と同
様に、
労働審判手続における委任を受けた代理人等について、
インターネットによる申立て等
を義務付けることを提案し、
他方で、
それ以外の者については、
インターネットを用いて申立
て等をすることを義務付けることは提案していない。
なお、
ここで義務付けがされる委任を受
けた代理人には、労審法第4条第1項ただし書の規定による許可を受けて代理人となった者
は含まれない。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の1(2)アの(補足説明)参照。
2 提出された書面等及び記録媒体の電子化
(1) 提出された書面等及び記録媒体の電子化の対象事件等95裁判所に提出された書面等及び記録媒体につき、下記(2)の電子化のルー
ルを適用し、裁判所書記官において提出された書面等及び記録媒体をファイ
ルに記録しなければならないものとする。
(補足説明)
現行の労審法の下では、
事件記録は書面により管理されており、
裁判所に提出された書面等
については、これらをそのまま編てつすることにより、事件記録が作成されている。
労働審判手続は、民事訴訟手続と同様に、当事者対立構造にあることから、試案の2(1)で
は、全ての労働審判事件において、試案の2(2)の電子化のルールを適用し、裁判所に提出さ
れた書面等をファイルに記録して電子化をすることを提案している。
これにより、
民事訴訟と
同様に、
当事者の一方が、
他方当事者の提出した書面等につき、
インターネットを用いて閲覧
等すること等が可能となる。
民事訴訟の説明については、試案の第1の2(1)の(補足説明)参照。
(2) 提出された書面等及び記録媒体の電子化のルール
民訴法第132条の12及び第132条の13と同様に、裁判所に提出さ
れた書面等及び記録媒体の電子化のルールとして、次のような規律を設ける
ものとする。
1 申立て等が書面等により行われたときは、裁判所書記官は、当該書面等
に記載された事項をファイルに記録しなければならない。ただし、当該事
項をファイルに記録することにつき困難な事情があるときは、この限りで
ない。
2 裁判所書記官は、1の申立て等に係る書面等のほか、労働審判手続にお
いて裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記載され、又は記録されて
いる事項をファイルに記録しなければならない。ただし、当該事項をファ
イルに記録することにつき困難な事情があるときは、この限りでない。
3 裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記載され、又は記録されてい
る事項のうち、次のものについては、1及び2の規律にかかわらず、ファ
イルに記録することを要しない。
i 第三者の閲覧等の制限の申立てがあった営業秘密のうち特に必要があ
るもの
ii 秘匿決定の申立てがあった場合における秘匿事項の届出に係る事項
iii 当事者の閲覧等の制限の申立て又は当事者の閲覧等の制限の決定があ
った閲覧等の制限がされるべき事項のうち必要があるもの
(注) 民訴法第92条第9項及び第10項、第133条の2第5項及び第6項並びに第19633条の3第2項と同様に、
インターネットを用いた提出によりファイルに記録され
た電子化された事件記録のうち、
1第三者の閲覧等の制限の申立てがあった営業秘密
のうち特に必要がある部分又は2当事者の閲覧等の制限の申立て若しくは当事者の
閲覧等の制限の決定があった閲覧等の制限がされるべき事項が記録された部分は、その内容を書面に出力し、又はこれを他の記録媒体に記録するとともに、当該部分を電
子化された事件記録から消去する措置その他の当該部分の安全管理のために必要か
つ適切なものとして最高裁判所規則で定める措置を講ずることができるものとする。
(補足説明)
1 提出書面等及び記録媒体の電子化のルール(試案の2(2))
試案の2(2)は、労働審判手続においても、民事訴訟手続と同様の電子化のルールを適用
することを提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、
試案の第1の2
(2)の(補足説明)参照。
なお、試案の2(2)3iは民訴法第92条の規定(第三者秘匿制度の規定)を、同3ii・
iiiは同法第133条から第133条の3までの規定
(当事者秘匿制度の規定)
を準用するこ
とを前提としているが、労審法は、既に、民訴法第92条を準用し(労審法第26条第2項)、
民訴法第133条から第133条の3までの規定を準用している
(労審法第28条の
2)。また、試案の2(2)3iにおける「営業秘密」は、不正競争防止法第2条第6項に規
定する営業秘密であることは、試案第1の2(2)3iのとおりである。
2 ファイルに記録された事項に係る安全管理措置(試案の(注))
試案の(注)は、労働審判手続においても、民事訴訟手続と同様に、ファイルに記録され
た営業秘密や秘匿事項等に係る部分について、書面に出力してこれを事件記録として保管
し、ファイルに記録された部分は当該ファイルから消去するなどの措置をとることができ
ることとすることを提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、
試案の
第1の2(2)の(補足説明)参照。
なお、労審法は、前記のとおり、既に、民訴法第92条を準用し(労審法第26条第2項)、
民訴法第133条から第133条の3までの規定を準用している
(労審法第28条の
2)。また、試案の(注)における「営業秘密」は、不正競争防止法第2条第6項に規定す
る営業秘密であることは、試案の第1の2(2)3iのとおりである。
3 裁判書及び調書等の電子化
労働審判委員会が作成する審判書、裁判官が作成する裁判書及び裁判所書記
官が作成する調書等について、書面による作成に代えて、最高裁判所規則で定
めるところにより、電磁的記録により作成するものとする。97(補足説明)
民訴法においては、
裁判所が作成する判決書や裁判所書記官が作成する調書等について、電磁的記録によりこれを作成することとされている(同法第160条第1項及び第252条第
1項)。
労働審判手続においても、
裁判所は裁判書を作成することがあり、
また、
裁判所書記官は調
書を作成することがある。
これらについては、
現行の労審法上、
書面で作成することが前提と
されている。
試案の3は、
民事訴訟手続と同様に、
これらについても電磁的記録により作成するものとす
ることを提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の3の(補足説明)参照。
4 期日におけるウェブ会議又は電話会議の利用
(いわゆる遠隔地要件を削除し、)裁判所は、相当と認めるときは、当事者
の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、ウェブ会議又は電話
会議によって、労働審判手続の期日における手続(証拠調べを除く。)を行う
ことができるものとする。
(注) 労働審判手続の証拠調べにおけるウェブ会議又は電話会議の利用については、後記8
で取り上げている証拠調べの規律が優先的に適用されることを前提としている(民事訴
訟手続と同様の規律とする場合には、証人尋問はウェブ会議を利用することができるが
電話会議を利用することはできず、証拠調べとしての参考人等の審尋(民訴法第187
条第3項及び第4項参照)は原則としてウェブ会議を利用することができるが、当事者
に異議がないときは電話会議を利用することができることとなる。)。
(補足説明)
1 遠隔地要件の廃止について
労審法第29条第1項が準用する非訟法第47条第1項は、当事者が遠隔地に居住して
いるときその他相当と認めるときは、
当事者双方が現実に出頭していない場合でも、
ウェブ
会議又は電話会議を用いて労働審判手続の期日における手続
(証拠調べを除く。)をするこ
とができると規定している。
試案の4は、
非訟事件の手続と同様の理由から、
労働審判手続の期日への当事者の参加に
ついて、遠隔地要件を削除し、裁判所は、相当と認めるときは、ウェブ会議又は電話会議に
よって、期日における手続(証拠調べを除く。)を行うことができるものとすることを提案
するものである。
部会においては、現行法よりもウェブ会議又は電話会議を利用することができる場面が98広がることによって労働審判手続が3回以内の期日で審理が終わらない事件が増えること
がないかどうかを考慮する必要があり、
この点については、
ウェブ会議を利用した手続の運
用が開始されており、実務の実情を踏まえた検討が必要であるとの意見があった。
2 証拠調べの規律との優先関係(試案の(注))
労審法第29条第1項が準用する非訟法第47条第1項は、ウェブ会議又は電話会議に
よって「期日における手続(証拠調べを除く。)を行うことができる」と規定しており、証
拠調べにおけるウェブ会議又は電話会議の利用については、非訟法第47条第1項の規律
ではなく、証拠調べの規律によるものとしている。
労働審判手続における証拠調べの規律は、
後記8で取り上げているが、
労働審判手続にお
いても、
証拠調べにおけるウェブ会議又は電話会議の利用については、
証拠調べの規律が優
先的に適用されることを前提としている。
そのため、
労働審判手続における証拠調べの規律
を民事訴訟手続と同様の規律とする場合には、証人尋問においてはウェブ会議を利用する
ことはできるが電話会議を利用することはできないことになる。
また、
証拠調べとしての参
考人等の審尋
(民訴法第187条第3項及び第4項参照)
は原則としてウェブ会議のみを利
用することができ、電話会議の利用は当事者に異議がないときに限られることになる。
試案の(注)では、上記のことを確認するために記載している。
5 調停調書等の送達又は送付
(1) 調停における合意を記載した調書
【甲案】
調停における合意を記載した調書は、当事者に送達しなければならない
ものとする。
【乙案】
調停における合意を記載した調書は、当事者に送達又は送付しなければ
ならないものとする。
(注) 甲案、乙案のいずれについても、現行において実費精算する取扱いがなされている
郵便費用を、
申立ての手数料に組み込み一本化することと併せて実現することを提案
するものである。
(補足説明)
労審法第29条第2項の規定は、民事調停の規定を準用しており、労働審判手続において
は、調停の合意をすることができ、その調停における合意を記載した調書が作成される。
試案の5(1)は、民事調停の手続と同様の理由から、本文において、甲案及び乙案の両案を
併記し、試案の(注)において、申立ての手数料の提案をしている。その説明については、試99案の第6の5の(補足説明)参照。部会では、郵便費用を申立ての手数料に組み込み一本化す
るに当たっては、
労働審判手続の実情として、
労働者が申立人側に立つことがほとんどである
ことも踏まえ、
本文の甲案、
乙案のいずれによる場合であっても、
申立人の経済的負担が現状
より増えることがないようにする必要がある(試案の5(2)の審判書に代わる調書の送達又は
送付についても同様)との意見があった。
(2) 審判書に代わる調書
【甲案】
審判書に代わる調書は、当事者に送達しなければならないものとする。
【乙案】
審判書に代わる調書は、当事者に送達又は送付しなければならないもの
とする。
(注) 甲案、乙案のいずれについても、現行において実費精算する取扱いがなされている
郵便費用を、
申立ての手数料に組み込み一本化することと併せて実現することを提案
するものである。
(補足説明)
労働審判では、労働審判委員会は、相当と認めるときは、審判書の作成に代えて、全ての当
事者が出頭する期日において、
労働審判の主文等を口頭で告知する方法で、
審判をすることが
でき、
審判の効力はその告知の時から生ずる
(不服申立ての起算点もこの告知の時である。労審法第20条第6項及び第21条第1項)。また、この方法により労働審判が行われたとき
は、審判書に代わる調書が作成される。
労審法には、
審判書について当事者に送達しなければならないとの規定はある
(同法第20
条第4項)が、審判書に代わる調書について当事者に送達しなければならないとの規定はな
く、その送達は、当事者の送達申請によってされている。もっとも、審判書に代わる調書につ
いても、
基本的には、
その内容を当事者において的確に了知するために、
これを送達又は送付
することが考えられる。
甲案は、
以上を踏まえ、
審判書の送達と同様に、
審判書に代わる調書についても当事者に送
達しなければならないものとすることを提案している。
乙案は、
労審法が準用する非訟法においては、
一般的に、
裁判は必ず送達をしなければなら
ないものではなく、
送付によっても足りることや、
審判書が作成される審判の不服申立ての起
算点はその送達時である
(労審法第21条第1項)
のに対し、
前記のとおり審判書に代わる調
書が作成される審判の不服申立ての起算点は告知時であることから、審判書に代わる調書は、
当事者に送達又は送付しなければならないものとすることを提案している。
なお、
本文の提案が、
郵便費用を申立ての手数料に組み込み一本化することと併せて実現す100ることを提案するものであることは、
他の手続における和解調書
(調停調書)
の送達又は送付
に係る提案と同様である。その説明については、試案の第5の5の(補足説明)参照。部会で
は、
郵便費用を申立ての手数料に組み込み一本化するに当たっては、
労働審判手続の実情とし
て、
労働者が申立人側に立つことがほとんどであることも踏まえ、
本文の甲案、
乙案のいずれ
による場合であっても、申立人の経済的負担が現状より増えることがないようにする必要が
あるとの意見があった。
6 電子化された事件記録の閲覧等
電子化された事件記録についても請求の主体に係る労審法第26条第1項の
規律を基本的に維持し、当事者及び利害関係を疎明した第三者は、電子化され
た事件記録について、最高裁判所規則で定めるところにより、閲覧、複写(ダ
ウンロード)、事件記録に記録されている事項の内容を証明した文書若しくは
電磁的記録の交付若しくは提供又は事件に関する事項を証明した文書若しくは
電磁的記録の交付若しくは提供(以下この6において「閲覧等」という。)の
請求をすることができるものとする。
(注) 電子化された事件記録の閲覧等の具体的な方法について、次のような規律を設けるも
のとする。
1 当事者及び利害関係を疎明した第三者は、裁判所設置端末及び裁判所外端末を用い
た閲覧等を請求することができる。
2 当事者は、いつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧又は複写をすること
ができる。
(補足説明)
1 電子化された事件記録の閲覧等
労働審判手続において、インターネットを用いて申立て等をすることを認めることとし
た場合には(試案の1(1))、インターネットを用いてされた申立て等については、当該申
立て等に係る電磁的記録(電子データ)はそのまま事件記録となることが想定される。ま
た、書面等が提出された場合に、当該書面等を裁判所のファイル(サーバ)に記録すること
とし
(試案の2)、裁判官が作成する裁判書や裁判所書記官が作成する調書についても電磁
的記録により作成することとした場合には
(試案の3)、ファイルに記録された電磁的記録
が事件記録となる。これらの電子化された事件記録の閲覧等に関する規律が問題となる。
2 閲覧等の請求の主体(試案の6)
労審法第26条第1項は、
労働審判手続について、
当事者及び利害関係を疎明した第三者
は、
事件記録の閲覧等の請求をすることができることとしている。
これは、
電子化されてい101ない事件記録についての規律であるが、
電子化された事件記録についても、
この請求の主体
に係る規律を変更すべき理由はないことから、
試案の6では、
基本的に、
請求の主体に係る
労審法第26条の考え方を基本的に維持することとしている。
3 請求の具体的な内容(試案の6及び(注))
試案の6は、
労働審判手続における電子化された事件記録についても、
請求することがで
きる内容につき、民事訴訟と同様の規律とすることを提案するものである。
また、試案の(注)は、
「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱」を踏まえて、
具体的な閲覧等の方法につき提案をしている。
民事訴訟の説明、要綱の説明その他の説明については、試案の第1の6の(補足説明)参
照。
7 送達等
労働審判手続における電磁的記録の送達について、(非訟法を準用すること
により)民訴法第109条から第109条の4までの規定を準用するものとす
る。
(注) 労働審判手続における公示送達について、
(非訟法を準用することにより)
民訴法第1
11条の規定を準用するものとする。
(補足説明)
試案の7は、労働審判手続における電磁的記録の送達についても、非訟事件の手続と同様
に、
民事訴訟と同様の規律とするために、
民訴法第109条から第109条の4までの規定を
準用することを提案している。
また、試案の(注)は、労働審判手続における公示送達についても、非訟事件の手続と同様
に、
民事訴訟と同様の規律とするために、
民訴法第111条の規定を準用することを提案して
いる。
なお、
労働審判事件においては、
審判書の送達については公示送達をすることができな
いとされているところ
(労審法第20条第5項)、この規律を変更する必要はないと思われる
が、他の場面において、公示送達を用いることが否定されているものではない。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の7(1)の(補足説明)参照。
8 その他
(注1) ウェブ会議・電話会議を利用する参考人等の審尋、システムを使った電磁的記録に
記録された情報の内容に係る証拠調べの申出や書面の提出に代えて電磁的記録をファ
イルに記録する方法による陳述など、ITを活用した証拠調べ手続について、民事訴訟
手続と同様の規律を設けるものとする。102(注2) 費用額確定の申立ての期限や、申立て手数料の納付がない場合の納付命令の裁判所
書記官の権限について民事訴訟手続と同様の規律を設けるものとするほか、申立て手数
料を納付しないことを理由とする申立書却下に対して申立て手数料を納付しないまま
した即時抗告は原裁判所において却下しなければならないとの規律を設けるものとす
る。
(注3) 民訴法の改正を踏まえて裁判官の権限のうち定型的な判断事項を裁判所書記官の権
限とする見直しなど実務上必要な見直しがないのか検討すべきとの考え方がある。
(補足説明)
1 証拠調べの手続(試案の(注1))
試案の(注1)は、労働審判手続において証拠調べを行う場合に、民訴法におけるITを
活用した証拠調べの規律と同様の規律を適用する考え方を記載するものである。民事訴訟
の説明その他の説明については、試案の第1の10の(注1)の(補足説明)参照。
2 費用額確定処分の申立ての期限と納付命令等(試案の(注2))
労働審判手続における手続費用についても、その額が長期にわたって確定されない事態
を防ぐ必要があると考えられることから、試案の(注2)では、労働審判手続における手続
費用の額の確定の申立てについて、民事訴訟手続と同様に10年の期間制限を設けること
を提案している。民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の10の(注2)の
(補足説明)参照。
また、試案の(注2)は、非訟事件の手続と同様に、労働審判手続においても、申立て手
数料の納付がない場合の納付命令を裁判所書記官の権限とすること、また、申立て手数料
(民事訴訟費用等に関する法律第3条第1項、
別表第1の16の項)
を納付しないことを理
由とする申立書却下に対して手数料を納付しないまました即時抗告を原裁判所において却
下しなければならないものとする規律を設けることを提案している。民事訴訟及び非訟事
件の手続の説明その他の説明については、試案の第5の9の(注2)の(補足説明)参照。
3 その他(試案の(注3))
部会では、
これまでに掲げた論点のほか、
民訴法の内容を踏まえつつ、
実務上見直しをす
べき点がないか検討すべきであるとの指摘があった。
試案の(注3)は、この点について記載するものであり、今後、民訴法の内容を踏まえつ
つ、実務上見直しをすべき点の指摘が具体的にあれば、その指摘を踏まえて検討すること
も考えられる。
第8 人事訴訟1031 裁判所に対する申立て等
(1) インターネットを用いてする申立て等の可否
人事訴訟に関する手続において裁判所に対して行う申立て等については、
民訴法第132条の10の規定を適用し、全ての裁判所に対し、一般的に、
インターネット
(電子情報処理組織)
を用いてすることができるものとする。
(補足説明)
試案の1(1)は、手続の利便性を向上するとともに、迅速な手続を実現する観点から、特段
の規定がない限り民訴法が適用される人事訴訟に関する手続にも、民訴法第132条の10
の規定を適用し、全ての裁判所に対し、一般的に、インターネット(電子情報処理組織)を用
いてすることができるものとすることを提案している。
なお、
令和4年改正法により、
現行の人訴法では、
改正後の民訴法第132条の10の適用
の是非につき別途検討するため、
特別の定めとして、
人訴法第16条の4の規定
(令和4年改
正法による改正前の民訴法第132条の10と同内容の規定)
を置き、
改正後の民訴法第13
2条の10の適用は除外している(令和4年改正法による改正後の人訴法第29条)。
また、
ここでいう
「申立て等」
は、
民訴法第132条の10における
「申立て等」
と同じく、
申立てその他の申述であり、裁判所(裁判所書記官等を含む。)に対する当事者その他の者の
陳述をいう。
一方で、
例えば、
事実の調査において書面等が提出される場合はこれには含まれ
ないと解され、
家庭裁判所調査官が事実の調査の結果を報告する調査報告書
(人訴法第34条
第3項)を電磁的記録によって作成することについては、後記試案の3で取り上げている。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の1(1)の(補足説明)参照。
(2) インターネットを用いてする申立て等の義務付け
人事訴訟に関する手続において、
民訴法第132条の11の規定を適用し、
民事訴訟手続においてインターネットを用いて申立て等をしなければならな
い委任を受けた訴訟代理人等は、裁判所に対して行う申立て等をインターネ
ットを用いてしなければならないものとする。
(補足説明)
1 委任を受けた訴訟代理人等
試案の1(2)では、人事訴訟に関する手続においても、令和4年改正法による民訴法改正
の考え方が妥当すると考えられることから、
民訴法第132条の11の規定を適用し、
民事
訴訟手続においてインターネットを用いて申立て等をしなければならない委任を受けた訴
訟代理人等は、裁判所に対して行う申立て等をインターネットを用いてしなければならな
いものとすることを提案し、
他方で、
それ以外の者については、
インターネットを用いてし104なければならないものとすることは提案していない。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の1(2)アの(補足説明)参照。
2 その他
部会においては、試案の1(2)で記載した者のほかに、行為能力の制限を受けた者につき
裁判長が代理人に選任した弁護士
(人訴法第13条第2項及び第3項)
がインターネットを
用いて申立て等をしなければならないものとするかどうかについても検討された。裁判長
が訴訟代理人に選任した弁護士は、
当事者本人が選任する者ではないから、
「委任を受けた
訴訟代理人」に該当しないとの整理が考えられ、学説上は、その法的性格は、法定代理人で
あるとする見解があるが、法定代理人については民訴法においてインターネットの利用が
義務付けられていないこと等を踏まえ、
試案においては、
裁判長が手続代理人に選任した弁
護士がインターネットを用いて申立て等をしなければならないものとするとの提案はして
いない。
そのほか、
部会においては、
人事訴訟に関する手続で当事者となることがある検察官(人訴法第12条第3項)が申立て等をインターネットによってしなければならないものとす
ることにつき検討すべきとの指摘があった。
2 提出された書面等及び記録媒体の電子化
(1) 民事訴訟のルールの適用
裁判所に提出された書面等及び記録媒体について、民訴法第132条の1
2及び第132条の13の規定を適用し、次のような規律を設けるものとす
る(書面等及び記録媒体については、事実の調査に係るものを含むものとす
る。)。
1 申立て等が書面等により行われたときは、裁判所書記官は、当該書面等
に記載された事項をファイルに記録しなければならない。ただし、当該事
項をファイルに記録することにつき困難な事情があるときは、この限りで
ない。
2 裁判所書記官は、1の申立て等に係る書面等のほか、人事訴訟に関する
手続において裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記載され、又は記
録されている事項をファイルに記録しなければならない。ただし、当該事
項をファイルに記録することにつき困難な事情があるときは、この限りで
ない。
3 裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記載され、又は記録されてい
る事項のうち、次のものについては、1及び2の規律にかかわらず、ファ
イルに記録することを要しない。105i 第三者の閲覧等の制限の申立てがあった営業秘密のうち特に必要があ
るもの
ii 秘匿決定の申立てがあった場合における秘匿事項の届出に係る事項
iii 当事者の閲覧等の制限の申立て又は当事者の閲覧等の制限の決定があ
った閲覧等の制限がされるべき事項のうち必要があるもの
(注) 民訴法第92条第9項及び第10項、第133条の2第5項及び第6項並びに第1
33条の3第2項の規定を適用し、
インターネットを用いた提出によりファイルに記
録された電子化された訴訟記録のうち、
1第三者の閲覧等の制限の申立てがあった営
業秘密のうち特に必要がある部分又は2当事者の閲覧等の制限の申立て若しくは当
事者の閲覧等の制限の決定があった閲覧等の制限がされるべき事項が記録された部
分は、その内容を書面に出力し、又はこれを他の記録媒体に記録するとともに、当該
部分を電子化された訴訟記録から消去する措置その他の当該部分の安全管理のため
に必要かつ適切なものとして最高裁判所規則で定める措置を講ずることができるも
のとする。
(補足説明)
1 提出書面等及び記録媒体の電子化に関する民事訴訟のルールの適用(試案の2(1))
現行の人訴法の下では、
人事訴訟の訴訟記録は書面により管理されており、
裁判所に提出
された書面等については、
これらをそのまま編てつすることにより、
訴訟記録が作成されて
いる。
試案の2(1)は、人事訴訟に関する手続において裁判所に提出された書面等の電子化につ
いても、
令和4年改正法による民訴法改正と同様の観点から、
民訴法第132条の12及び
第132条の13の規定を適用することを提案するものである。
民事訴訟の説明については、試案の第1の2(1)及び(2)の(補足説明)参照。
2 ファイルに記録された事項に係る安全管理措置(試案の(注))
試案の(注)は、人事訴訟の手続においても、民事訴訟手続と同様に、ファイルに記録さ
れた営業秘密や秘匿事項等に係る部分について、書面に出力してこれを訴訟記録として保
管し、ファイルに記録された部分は当該ファイルから消去するなどの措置をとることがで
きることとすることを提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の2(2)の(補足説明)参照。
(2) 人訴法特有のルール(事実の調査に係る提出書面等の電子化の例外)
【甲案】
事実の調査において裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記載さ106れ、又は記録されている事項のうち、次のいずれかのものであり、かつ、
裁判所が特に必要があると認めるものについては、当該事項をファイルに
記録することを要しないものとする。
1 他の者が知ることにより子(当事者間に成年に達しない子がある場合
におけるその子をいう。)の利益を害するおそれがある事項
2 他の者が知ることにより当事者又は第三者の私生活又は業務の平穏を
害するおそれがある事項
3 明らかにされることにより、その者が社会生活を営むのに著しい支障
を生じ、又はその名誉を著しく害するおそれがある当事者又は第三者の
私生活についての重大な秘密
【乙案】
甲案に記載している特段の規律は設けないものとする。
(注) 甲案を採用する場合には、事実の調査に係るインターネットを用いた提出によりフ
ァイルに記録された電子化された訴訟記録のうち、
本文の甲案に掲げる1から3まで
の事項についても、裁判所が特に必要があると認めるときは、その内容を書面に出力
し、又はこれを他の記録媒体に記録するとともに、当該部分を電子化された訴訟記録
から消去する措置その他の当該部分の安全管理のために必要かつ適切なものとして
最高裁判所規則で定める措置を講ずることができるものとする。
(補足説明)
1 事実の調査と試案の2(1)との関係
人事訴訟では、
親権者の指定や子の監護に関する処分、
財産の分与に関する処分といった
附帯処分につき事実の調査をすることができる。
事実の調査とは、
いわゆる厳格な証明であ
る証拠調べとは異なり、
自由な証明による資料収集方法である。
例えば、
家庭裁判所調査官
による調査(人訴法第34条)のほか、裁判所による審問(人訴法第33条第4項等)、官
庁等に対する調査嘱託や関係人の預金等に関する報告
(人訴規則第21条)
がある。
この調
査において、書面等や記録媒体が裁判所に提出されることがある。
前記試案の2(1)及びその(注)は、この事実の調査において提出される書面等や記録媒
体にも適用されることを前提としている。
もっとも、試案の2(1)3のルールのうち、iiは、書面等により民訴法第133条第2項
の規定による秘匿事項の届出があった場合に、その書面等に記載された秘匿事項について
(同法第132条の12第1項第2号及び第132条の13第2号参照)、紙媒体等により
保管をすることを可能とするものであるが、秘匿事項の届出は事実の調査として提出され
るものではないので、このiiのルールが事実の調査において提出されるものに適用される
場面はないことになる。107さらに、試案の2(1)3のルールのうち、iiiは、民訴法第133条の2及び第133条の
3の規定により当事者の閲覧等の制限がされることになる秘匿事項等について(同法第1
32条の12第1項第3号、
第132条の13第3号及び第4号参照)、紙媒体等により保
管をすることを可能とするものであるが、人事訴訟における訴訟記録のうち事実の調査に
係る部分(事実調査部分)
は、もともと、人訴法第35条の規定により当事者の閲覧等を制
限することが可能となっていたことから、
令和4年改正法による改正後の人訴法では、
民訴
法第133条の2及び第133条の3の規定は適用されないこととなっている(人訴法第
35条第8項)。そのため、事実調査部分については、試案の2(1)3のルールのうちiiiは
適用される場面はない。同様に、試案の2(1)の(注)のルールのうち民訴法第133条の
2第5項及び第6項並びに第133条の3第2項の規定の適用部分は、事実調査部分に適
用される場面はない。
以上のとおり、事実調査部分に関しては、秘匿事項等について、試案の2(1)3ii及びの
iii、さらに同(注)の民事訴訟のルールの適用される場面がないことから、人訴法特有のル
ールを設けるのかが問題となる。
2 甲案及び(注)
(1) 甲案の提案
ア 甲案は、
事実の調査において裁判所に提出された書面等や記録媒体については、
人訴
法第35条第2項各号を踏まえ、閲覧等が制限される対象となり得るような事項につ
いては、ファイルに記録しなければならないとする対象から除外する規律を設けるこ
とを提案するものである。
事実の調査は、
性質上人間関係の機微に触れる事柄も多く、
閲覧等を通じて他に知ら
れることによって関係者の人間関係や、ひいては子の福祉に反する事態が生じるおそ
れがあることなどから、事実調査部分の閲覧等については裁判所の許可が必要とされ
ており(後記試案の6参照)、人訴法第35条第2項各号は、このような観点から、当
事者であっても閲覧等が制限され得る場合を規定しているのであって、こういったお
それを防止するための記録の管理については、
配慮が必要とも考えられる。
加えて、閲覧等が制限され得るような部分は、電子化によって裁判所外端末からのオンラインに
よる閲覧等を可能とする必要性は相対的に小さいということができ、これを電子化す
るメリットは限定されるという考え方があり得る。
そこで、
甲案は、
人訴法第35条第2項各号を踏まえて、
1から3までの事項につい
ては、ファイルに記録しなければならないとする対象から除外することとしている。
イ 甲案は、
飽くまでも、
1から3までの事項についてファイルに記録することを要しな
いとするものであり、
例えば、
書面の一部に1から3までの事項があるケースでは、その事項の部分はファイルに記録することを要しないが、それを除く書面の部分はファ108イルに記録しなければならない。
ウ なお、
人事訴訟に関する手続においては、
事実の調査部分につき、
裁判所が職権で閲
覧等の許否を判断することとされており(当事者等による閲覧等の制限の申出といっ
たものはその閲覧等の制限の要件とされていない)、
裁判所は、自己の判断で、
当事者
や第三者による閲覧等の許可の申立てを却下し、その者による閲覧等を制限すること
ができる。そのため、甲案は、これに対応し、閲覧等の制限の申出の有無に関係なく、
裁判所は、
ファイルに記録しない措置をとることができるとしている。
また、
そのこと
とも関連するが、
甲案は、
現実に当事者等から裁判所に対する閲覧等の許可の申立てが
され、その申立てを却下する決定がされていなくとも、裁判所が、その判断で、ファイ
ルに記録しない措置をとることができるとしている。
しかし、
部会においては、
当事者
等から閲覧等の制限の申出もなく(試案の(1)3のルールは当事者等の申立てがあるこ
とを前提とする。)、また、現実に裁判所に対する閲覧等の許可の申立てもないまま、
裁判所に書面等が提出されるごとに、
事件の内容を踏まえて、
ファイルに記録しない措
置をとる必要があるかどうかを判断しなければならないとすれば現実には困難を伴う
し、ファイルに記録するか否かについて裁判所の裁量の範囲が広くなりすぎるとの懸
念が指摘された。
また、
閲覧等の許可の申立てを行った者ごとに許否の判断は異なり得
るため、
甲案では、
例えば、
当事者又は第三者であるAとの関係では閲覧等をすること
により1から3までの事情があり、
閲覧等の制限をすべきケースで、
ファイルに記録し
ない措置をとると、
閲覧等が認められる別の当事者又は第三者であるBも、
インターネ
ットを利用した閲覧等が制限されることとなるが、
それが相当かという問題もある。そのため、
甲案では、
ファイルに記録しない措置をとる範囲を適切に限定し、
当該措置の
必要性が明確であるケースに限って、これをとることとするために、「特に必要があ
る」と認める場合に限り、
この措置をとることとしている(もっとも、このようにして
も、前記の懸念が払拭できないとの意見があり、後記の乙案が提示されている。)。
(2) 試案の(注)
試案の(注)では、甲案をとる場合には、甲案と同様の理由により、インターネットを
用いてファイルに記録された事実の調査に係る電磁的記録のうち、本文の甲案の1から
3までの事項について、
裁判所が特に必要があると認めるときは、
書面に出力してこれを
訴訟記録として保管し、ファイルに記録された部分を当該ファイルから消去するなどの
安全管理措置をとることができるものとすることを提案している。
3 乙案
乙案は、甲案のような規律を設けないものとすることを提案している。
前記
(補足説明)
2のとおり、
甲案については、
当事者等から閲覧等の制限の申出もなく、
また、
現実に裁判所に対する閲覧等の許可の申立てがないケースでも、
ファイルに記録しな109い措置をとることができるとしており、
その範囲が広くなりすぎるし、
裁判所に書面等が提
出されるごとに、
事件の内容を踏まえて、
そのような措置をとるかを判断しなければならな
いとすれば現実には困難を伴うとの懸念が指摘されている。
また、
甲案では、
関係者の一部
の者との関係で閲覧等の制限をすべきケースでも、ファイルに記録しない措置をとること
を認めるものであるが、そうすると、本来は、閲覧等が認められる者までも、インターネッ
トを利用した閲覧等が制限されることとなる。
甲案は、
その適用される範囲を限定的なもの
とするために、
「特に必要がある」
と認める場合に限り、
この措置をとることとしているが、
当事者等の申出等がないまま、
そのような措置をとることを認めている以上、
それに伴う懸
念を払拭することはできないとも考えられる。
また、
閲覧等が認められる者によるインター
ネットを利用した閲覧等が制限されることには変わりがないとの意見も考えられる。加え
て、
そもそも、
事件記録の電子化は、
システムの構築を適切にすることによりファイルに記
録された情報を適切に管理することを前提としており、人訴法第35条第2項各号に当た
る事情があったとしても、
特に閲覧等の制限や秘匿の申立てがされ、
その旨の決定がされて
いる営業秘密等と同様の扱いとし、敢えて電子化の範囲から除くまでの事情はないのでは
ないかといった指摘があった。
そのほか、
訴訟記録の電子化のメリットはインターネットを
利用した閲覧等の便宜のみではなく、
保管コストの削減等も考えられ、
事実調査部分の閲覧
等の規律が異なるからといって、その電子化について人事訴訟の訴訟記録一般と異なる規
律を設けるべきではないとの意見があった。以上のことから、乙案が提示されている。
3 裁判書等及び報告書の電子化
(1) 裁判書及び調書等の電子化
裁判官が作成する裁判書及び裁判所書記官が作成する調書等について、民
訴法の規定を適用し、書面による作成に代えて、最高裁判所規則で定めると
ころにより、電磁的記録により作成するものとする。
(補足説明)
民訴法においては、
裁判所が作成する判決書や裁判所書記官が作成する調書等について、電磁的記録によりこれを作成することとされている(同法第160条第1項及び第252条第
1項)。
人事訴訟に関する手続において裁判官が作成する判決書等の裁判書や裁判所書記官が作成
する調書については、現行の人訴法上、書面で作成することが前提とされている。
試案の3(1)は、民事訴訟手続と同様に、これらについても電磁的記録により作成するもの
とすることを提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の3の(補足説明)参照。110(2) 家庭裁判所調査官の報告書の電子化
家庭裁判所調査官は、事実の調査の結果の書面による報告(人訴法第34
条第3項参照)に代えて、最高裁判所規則で定めることにより、当該書面に
記載すべき事項をファイルに記録する方法又は当該事項を記録した記録媒
体を提出する方法により報告を行うことができるものとする。
(補足説明)
人事訴訟の手続においては、裁判所は、家庭裁判所調査官に事実の調査をさせることがで
き、
家庭裁判所調査官は、
その事実の調査の結果を書面又は口頭で裁判所に報告するものとさ
れている(人訴法第34条第3項)。試案の3(2)は、この調査結果の報告について、現行の
方法に加え、調査報告書を書面に代えて電磁的記録により作成する方法を認めることを提案
するものである。
部会においては、この家庭裁判所調査官の調査報告書を電磁的記録によって作成するもの
とすることにつき、当事者がより迅速に閲覧等を行うことができるようになるとの観点から、
賛成する意見があった。
他方で、
他の専門家等が裁判所に対し説明をしたり意見を述べたりす
る際に、
電磁的記録による方法が認められるものも、
書面による方法を排除はしていないこと
(例えば、
民訴法第92条の2第2項及び第215条第2項)
などを考慮し、
現行法の方法に
加えて、調査報告書を電磁的記録によって作成することを認めるものとしている。
なお、
仮に、
書面や電磁的記録を記録した記録媒体によって調査報告書が作成・提出された
場合の電子化(ファイルへの記録)については、試案の2の規律によることとなる。
4 期日におけるウェブ会議及び電話会議の利用
(1) 当事者の陳述を聴く審問期日
【甲案】
裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規
則で定めるところにより、ウェブ会議及び電話会議によって、当事者の陳
述を聴く審問期日における手続を行うことができるものとする。
【乙案】
裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規
則で定めるところにより、ウェブ会議によって、当事者の陳述を聴く審問
期日における手続を行うことができるものとし、電話会議の利用は認めな
いものとする。
(注) 乙案を原則としつつ、当事者双方に異議がない場合には、電話会議によって、当事
者の陳述を聴く審問期日における手続を行うこともできるものとするとの考え方が
ある。111(補足説明)
1 概要
民訴法においては、
当事者の利便性を向上させるとともに、
迅速かつ効率的な手続を実現
する観点から、
口頭弁論の期日について、
ウェブ会議を用いて手続を行う
(ウェブ会議によ
る当事者の出頭を許容する)こととされ(同法第87条の2第1項)、審尋の期日における
手続についても、
ウェブ会議及び電話会議を用いることができることとされている
(同条第
2項)。これらの規定は、令和4年改正法による改正により、人事訴訟にも適用されること
とされているので、
人事訴訟のこれらの期日においても、
ウェブ会議及び電話会議の利用が
実現することとなる。
また、
令和4年改正法による改正後の民訴法の弁論準備手続期日にお
けるウェブ会議及び電話会議の利用に関する規定も、
令和4年改正法により、
人事訴訟に適
用される。
他方で、
人訴法第33条第4項所定の審問の期日
(事実の調査として当事者の陳述を聴く
ための審問の期日)
については、
現行の人訴法上、
これをウェブ会議や電話会議を用いてす
ることを可能とする明文の規定はない。試案の4(1)は、この審問の期日に関するウェブ会
議や電話会議の利用について検討するものである。
2 各案の内容等
(1) 甲案
甲案は、人事訴訟の手続における事実の調査として当事者の陳述を聴くための審問の
期日をウェブ会議及び電話会議により実施することができるものとすることを提案する
ものである。
甲案の理由としては、人訴法は、附帯処分等につき、厳格な証拠調べとは別に、柔軟な
運用を図るために、自由な証明による資料収集方法としての事実の調査を認めているの
であり、事実の調査としての審問期日の実施方法に証拠調べのような厳格な要件を課す
理由はないことや、人事訴訟の手続における審問の期日において当事者の陳述を聴取す
る場合に他の当事者に立会権があるとされたのは、実質的には訴訟における口頭弁論に
類似することから、対審的手続によって他の当事者に立会権と反論権を保障する必要が
あると考えられたからとされるが、
そのことが、
電話会議による実施を認めない理由にな
るものではないことなどが挙げられる。
また、
家事事件手続において、
当事者の陳述を聴くための審問期日に電話会議の利用が
認められていること
(家事法第54条及び第69条)
との関係で、
人事訴訟の審問でこれ
と異なる規律とする理由はないのではないかといった意見や、ウェブ会議に対応するこ
とが困難な当事者の利便性が損なわれるのではないかといった意見があった
(ただし、家事事件の手続における審問期日についても、見直しの意見がある。試案第9の4(1))。112(2) 乙案
乙案は、当事者の陳述を聴くための審問の期日について、ウェブ会議の利用は認める
が、原則として電話会議の利用を認めないものとすることを提案するものである。
乙案の理由としては、
当事者の陳述を聴くための審問の期日については、
上記のとおり
他の当事者に立会権があることや、ここでの審問期日は、附帯処分等の裁判に当たって、
裁判所が(証拠調べによらない方法で)心証をとる必要がある場合になされるものであ
り、証拠調べに近い機能を有しているのであるから、ウェブ会議の利用は認めるとして
も、電話会議の利用を認めることは相当とはいえないことなどが挙げられる。
(3) 試案の(注)
部会においては、乙案を原則としつつ、例えば、民訴法における参考人等の審尋(民訴
法第187条)
と同様に、
当事者双方に異議がないケースでは、
電話会議を認める折衷的
な案も考えられるとの指摘もあったことから、試案の(注)では、この考え方を記載して
いる。
この考え方については、
甲案を支持する立場から反対する意見があったほか、
一方
当事者から電話会議の利用に異議があった場合に、ウェブ会議に対応することが困難な
当事者が出頭せざるを得なくなり、その利便性が損なわれるのではないかといった意見
があった。
(4) その他(第三者の審問)
甲案、
乙案及び
(注)
で検討をしている当事者の陳述を聴くための審問の期日とは異な
り、
事実の調査として当事者以外の第三者の陳述を聴くケースもある。
このケースについ
ては、
当事者には立会権がなく、
基本的に、
ウェブ会議や電話会議の利用を含めたその方
法については、裁判所の判断に委ねられるものと解される。
(2) 参与員の立会い
家庭裁判所は、人訴法第9条第1項の規定により参与員を審理又は和解の
試みに立ち会わせる場合において、相当と認めるときは、当事者の意見を聴
いて、最高裁判所規則で定めるところにより、ウェブ会議又は電話会議によ
って、参与員に審理又は和解の試みに立ち会わせ、当該期日における行為を
行わせることができるものとする。
(注) 本文と異なり、ウェブ会議によって、参与員に審理又は和解の試みに立ち会わせる
ことができるものとし、電話会議の利用は認めないものとするとの考え方がある。
(補足説明)
人事訴訟の手続においては、
家庭裁判所は、
必要があると認めるときは、
参与員を審理又は
和解の試みに立ち会わせて事件につきその意見を聴くことができるとされている(人訴法第
9条第1項)。これは、参与員が意見を述べるためには、審理又は和解の期日に立ち会うこと113を要求するものであり、
参与員は、
期日において意見を述べる必要はなく、
期日に立ち会った
上で、別途、期日外で裁判官に対して意見を述べることが想定されている。また、参与員は、
立ち会った審理及び和解の試みにおいて当事者等に対して発問をすることなどができると解
されている(人訴規則第8条参照)。なお、人事訴訟においては、従前、弁論準備手続におい
てはウェブ会議及び電話会議の利用が可能であったが、
令和4年改正法により、
人事訴訟にお
いても、口頭弁論において当事者の期日への参加につきウェブ会議の利用が可能となるとと
もに、和解期日において当事者の期日への参加につきウェブ会議及び電話会議の利用が可能
となっている。
試案の4(2)は、このような参与員の期日の手続への立会いについて、ウェブ会議や電話会
議の利用を認め、ウェブ会議や電話会議によって当該期日における行為を行わせることがで
きるものとすることを提案するものである。
これに対し、試案の(注)は、参与員の期日への立会いについて、ウェブ会議の利用は認め
るが、
電話会議の利用は認めないことを提案するものである。
部会においては、
参与員が期日
に立ち会うことについては、
当事者の様子を観察することに意義があり、
また、
参与員の顔が
見える方法によることによる当事者に対する説得力の観点から、電話会議の利用は認めるべ
きではないとの意見もあった。
5 和解調書等の送達
人事訴訟に関する手続について、民訴法第267条第2項を適用し、和解又
は請求の放棄若しくは認諾を記載した調書は、当事者に送達しなければならな
いものとする。
(注) 本文は、現行において実費精算する取扱いがなされている郵便費用を、申立ての手数
料に組み込み一本化することと併せて実現することを提案するものである。
(補足説明)
人事訴訟に関する手続においては、
現行の人訴法下において、
判決書は送達しなければなら
ないとされているが(人訴法第29条、民訴法第255条第1項)、和解調書については送達
をしなければならないとする規定はなく、
和解調書を債務名義として強制執行をする場合(民執法第29条)
など送達が必要な場合は、
実務上、
当事者の送達申請によって送達がなされて
いる。
試案の5は、
民訴法においては、
和解調書について当事者からの送達申請によらずに送達し
なければならないものとすることとされたこと
(同法第267条第2項)
を踏まえ、
人事訴訟
に関する手続における和解調書についても、同様に当事者からの送達申請によらずに送達し
なければならないものとすることを提案するものである。
なお、
本文の提案が、
郵便費用を申立ての手数料に組み込み一本化することと併せて実現す114ることを提案するものであることは、
他の手続における和解調書
(及び調停調書)
の送達に係
る提案と同様である(試案の(注))。その説明については、試案の第5の5の(補足説明)
参照。
6 電子化された訴訟記録の閲覧等
(1) 電子化された訴訟記録(事実調査部分を除く。)の閲覧等
電子化された訴訟記録(事実調査部分を除く。)の閲覧等に関し、民訴法
第91条の2及び第91条の3の規定を適用し、次のような規律を設けるも
のとする。
1 何人も、裁判所書記官に対し、最高裁判所規則で定めるところにより、
電子化された訴訟記録の閲覧を請求することができる。
2 当事者及び利害関係を疎明した第三者は、裁判所書記官に対し、電子化
された訴訟記録について、
最高裁判所規則で定めるところにより、
複写(ダウンロード)、訴訟記録に記録されている事項の内容を証明した文書若し
くは電磁的記録の交付若しくは提供又は訴訟に関する事項を証明する文
書若しくは電磁的記録の交付若しくは提供の請求をすることができる。
(注) 電子化された訴訟記録の閲覧等の具体的な方法について、次のような規律を設ける
ものとする。
1 何人も、裁判所設置端末を用いた閲覧を請求することができる。
2 当事者及び利害関係を疎明した第三者は、
裁判所設置端末及び裁判所外端末を用
いた閲覧等を請求することができる。
3 当事者は、
いつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧又は複写をするこ
とができる。
(補足説明)
1 電子化された訴訟記録(事実調査部分を除く。)の閲覧等(試案の6(1))
人事訴訟の訴訟記録は、
現行の人訴法上、
裁判所に提出された書面等や裁判所において作
成された裁判書等の書面によって構成され、
保管されており、
その閲覧等
(事実調査部分を
除く。)については、民訴法における電子化されていない訴訟記録(非電磁的訴訟記録)の
閲覧等に関する規定(同法第91条及び第92条(第9項及び第10項を除く。))が適用
される(人訴法第29条第2項参照)。
民事訴訟手続においては、電子化された訴訟記録については、その閲覧・複写(電子情報
処理組織
(インターネット)
を用いて、
自己の端末に当該電磁的記録を記録
(ダウンロード)
すること)、訴訟記録に記録されている事項の全部又は一部を記載した書面であって、
その
内容が訴訟記録に記録されている内容と同一であることを裁判所書記官が証明した書面115や、
訴訟に関する事項の証明書の交付等を請求することができることとされている
(民訴法
第91条の2及び第91条の3)。これは、電子化されていない訴訟記録(非電磁的訴訟記録)の閲覧・謄写及びその正本の交付並びに訴訟に関する証明書の交付等
(民訴法第91条
及び第91条の3)に対応するものである。
試案の6(1)は、人事訴訟の手続においても、訴訟記録の電子化(前記試案の2・3)に
伴い、
電子化された訴訟記録のうち事実調査部分を除く部分について、
民訴法第91条の2
及び第91条の3の規定を適用することを提案するものである。
2 具体的な閲覧等の方法(試案の(注))
「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱」では、最高裁判所規則において、1
何人も、
裁判所設置端末を用いた閲覧を請求することができ、
2当事者及び利害関係を疎明
した第三者は、
裁判所設置端末及び裁判所外端末を用いた閲覧等を請求することができ、3当事者は、いつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧又は複写をすることができ
るという内容の規律を設けるとの考え方が示されている(同要綱第10の1の(注))。
試案の6(1)の(注)は、人事訴訟の手続においても、この要綱と同様の内容とすること
を提案するものである。なお、部会においては、試案の(注)2とは異なり、裁判所外端末
を用いて閲覧等をすることができるのを当事者に限るべきとの考え方についても議論され
たが、
基本的に公開の口頭弁論期日において手続が行われる人事訴訟において、
民事訴訟手
続と異なる規律とする必要はないのではないかとの意見があったことから、この考え方は
試案に記載されていない。
(2) 事実の調査に係る部分の閲覧等
ア 原則
電子化された訴訟記録中事実の調査に係る部分の閲覧等の請求について
は、請求の主体及び裁判所の許可に係る人訴法第35条の規律を基本的に
維持し、次のような規律を設けるものとする。
1 当事者は、裁判所が人訴法第35条第2項の規定により許可したとき
に限り、電子化された訴訟記録中事実の調査に係る部分について、最高
裁判所規則で定めるところにより、閲覧、複写(ダウンロード)又はそ
の部分に記録されている事項の内容を証明した文書若しくは電磁的記録
の交付若しくは提供(以下この(2)において「閲覧等」という。)の請求
をすることができる。
2 利害関係を疎明した第三者は、裁判所が人訴法第35条第3項の規定
により許可したときに限り、電子化された訴訟記録中事実の調査に係る
部分について、最高裁判所規則で定めるところにより、閲覧等の請求を116することができる。
(注1)電子化された訴訟記録中事実の調査に係る部分の閲覧等の具体的な方法につい
て、次のような規律を設けるものとする。
1 当事者及び利害関係を疎明した第三者は、
裁判所設置端末及び裁判所外端末を
用いた閲覧等を請求することができる。
2 当事者は、
いつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧又は複写をする
ことができる。
(注2) 本文のとおり、法律上、裁判所の閲覧等に許可を要するとの規律を維持した上
で、
当事者がいつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧又は複写をするこ
とができる((注1)2)ようにするための閲覧又は複写の許可の在り方として、
例えば、
同一の当事者が一度閲覧又は複写の許可を得た部分を再度閲覧又は複写す
る場合には別途の許可を不要とするとの考え方や、
閲覧又は複写を許可する部分の
特定
(人訴規則第25条参照)
に関し一定の場合には今後提出されるものも含めた
範囲の指定を可能とする
(将来的な閲覧等を見越して、
一定範囲のものについては、
あらかじめ許可を得られるようにして、
都度許可を得なくてもよいこととする)との考え方がある。ここでいう「一定の場合」としては、例えば、訴訟代理人が相手
方等に閲覧等させても問題ないと判断した上で提出する資料を相手方等が閲覧等
する場合に、このような取扱いを可能とする考え方がある。
イ 自己の提出したものの閲覧等の請求
当事者は、電子化された訴訟記録中事実の調査に係る部分のうち当該当
事者が提出したものに係る事項については、裁判所の許可を得ないで、裁
判所書記官に対し、閲覧等の請求をすることができるものとする。
(注1) 当事者は、
電子化されていない訴訟記録中当該当事者が提出したものに係る事
項については、裁判所の許可を得ないで、裁判所書記官に対し、閲覧等の請求をす
ることができるものとする。
(注2) 本文のほか、
訴訟代理人が相手方等に閲覧等させても問題ないと判断した上で
提出する資料を相手方等が閲覧等する場合についても、裁判所の許可を得ないで、
裁判所書記官に対し、
閲覧等の請求をすることができるものとするとの考え方があ
る。
(補足説明)
1 原則
(1) 電子化された訴訟記録中事実の調査に係る部分の閲覧等の請求(試案の6(2))
人事訴訟の訴訟記録のうち、附帯処分等の審理のためになされる事実の調査に係る部117分(事実調査部分)の閲覧等の請求については、現行の人訴法上、裁判所の許可を要する
ものとされており、
その主体は、
当事者及び利害関係を疎明した第三者に限定されている
(人訴法第35条)。これは、
事実の調査は、
性質上人間関係の機微に触れる事柄も多く、
閲覧等を通じて他に知られることによって関係者の人間関係や、ひいては子の福祉に反
する事態が生じるおそれ、
また、
後に記録の閲覧等がされることをおそれて関係者が事実
の調査に対する協力を躊躇するおそれがあるため、閲覧等について一般の訴訟記録より
慎重な考慮が必要とされるからであるとされる。
そして、
電子化された訴訟記録の閲覧等
についても、基本的に、この規律を変更する理由はない。
試案の6(2)アは、この規律を基本的に維持し、電子化された訴訟記録一般について、
試案の6(1)及びその(注)の提案がとられても、事実調査部分については、当事者又は
利害関係を疎明した第三者は、
裁判所の許可を得た上で、
最高裁判所規則に定めるところ
による閲覧、
複写
(ダウンロード)
及び事件に関する事項を証明する文書又は電磁的記録
の交付の請求を可能とすることを提案するものである。
(2) 電子化された事実調査部分の具体的な閲覧等の方法(試案の(注1)・(注2))
ア 人事訴訟の手続における事実調査部分の記録については、試案6(1)の(注)2と同
様に、当事者及び利害関係を疎明した第三者は裁判所設置端末及び裁判所外端末を用
いた閲覧等を請求することができるとし、
同3と同様に、
当事者はいつでも事件の係属
中に裁判所外端末を用いた閲覧又は複写をすることができるものとすることを提案し
ている(試案の(注1))。
イ もっとも、当事者がいつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧又は複写を
することができるものとした場合には、閲覧等に裁判所の許可を要することとの関係
で、
その許可の運用上の在り方が問題となる。
現在の実務では、
当事者等は閲覧等の請
求をするごとにその許可の申立てをし、
裁判所は、
当事者からこの許可の申立てがある
度に、閲覧等を許可する部分を特定してその許可をしているが(人訴規則第25条参
照)、このような取扱いを前提とすると、当事者は、
いつでも裁判所外端末を用いた閲
覧又は複写をすることはできないことになる。
部会においては、当事者がいつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧又は
複写をすることができるという訴訟記録の電子化のメリットを活かすため、閲覧の申
立てごとではなく申立ての対象ごとに許可の効力を考えることのほか、将来的な提出
分を含めて事前に包括的な許可をすることや、許可をする部分の特定の範囲を拡げる
ことが考えられるとの意見があった。
許可の効力については、
例えば、
同一の当事者が
一度閲覧又は複写の許可を得た部分を再度閲覧又は複写する場合には別途の許可は不
要であるとの考え方があった。
また、
事前の包括的な許可については、
閲覧又は複写を
許可する部分の特定
(人訴規則第25条参照)
に関し一定の場合には今後提出されるも
のも含めた範囲の指定を可能とする
(将来的な閲覧等を見越して、
一定の範囲のものに118ついては、
あらかじめ許可を得られるようにして、
都度許可を得なくてもよいこととす
る)との考え方がある。この考え方に関し、部会においては、例えば、家事事件の記録
の閲覧又は複写に関する議論と同様(試案の第9の7(1)の(注2)参照)に、訴訟代
理人が相手方等に閲覧等させても問題ないと判断した上で提出する資料を相手方等が
閲覧等する場合に、
このような、
今後提出されるものも含めた範囲の指定を可能とする
(将来的な閲覧等を見越して、
一定範囲のものについては、
あらかじめ許可を得られる
ようにして、
都度許可を得なくてもよいこととする)
取扱いをすることが考えられると
の意見があった。
試案の(注2)は、こうした議論を踏まえ、
当事者がいつでも事件の係属中に裁判所
外端末を用いた閲覧又は複写をすることができるようにするための閲覧等の許可の在
り方についての考え方を記載したものである。なお、
この(注2)は飽くまで運用につ
いての考え方を記載したものであり、法律上の規律の導入については、後記(補足説
明)2(2)(試案の6(2)イ(注2))を参照。
2 自己の提出したものの閲覧等の請求(試案の6(2)イ・(注))
(1) 自己の提出したものの閲覧等の請求(試案の6(2)イ及び(注1))
ア 前記のとおり、
事実調査部分の閲覧等については、
現行の人訴法上、
裁判所の許可を
要するものとされているが、
当事者は、
自ら裁判所に提出した資料については、
既に見
ていて、
その内容を閲覧等することについて弊害はなく、
基本的には、
人訴法第35条
第2項各号が定める不許可事由は存在しない。
そこで、試案の6(2)イでは、当事者は、電子化された訴訟記録の事実調査部分中、
当該当事者が提出したものに係る事項については、
裁判所の許可を得ないで、
裁判所書
記官に対し、その閲覧等を請求することができるものとすることを提案している。
この規律は、
当事者が、
自ら裁判所のシステムに記録したものと、
自らが提出した書
面等の内容を裁判所書記官が裁判所のファイルに記録したもののいずれについても、
閲覧等する請求については、裁判所の許可を要しないとするものである。
イ また、
当事者が提出した書面等が、
裁判所のファイルに記録されない場合も想定され
ているが、
そのようなケースでも、
当該当事者が自ら提出した書面等の閲覧等をする場
合の裁判所の許可の要否につき、訴訟記録が裁判所のファイルに記録されている場合
と区別する理由はない。
そこで、試案の(注1)は、電子化されていない訴訟記録についても、当事者は、当
該当事者が提出したものに係る部分については、
裁判所の許可を得ないで、
裁判所書記
官に対し、その閲覧等を請求することができるものとすることを提案している。
(2) 許可を不要とする範囲の拡大((注2))
部会においては、
家事事件の記録の閲覧等に関する議論と同様
(試案第9の7(2)の(注1192)参照)、訴訟代理人が相手方等に閲覧等をさせても問題ないと判断した資料を相手方
等が閲覧等することについては、
法律上、
閲覧等に許可を不要とすることも考えられるの
ではないかとの指摘があったため、このような考え方について、試案の(注2)に記載し
ている。
もっとも、
この指摘に対しては、
裁判所が許可の判断をすることとされているこ
とについて、
その規律の例外として裁判所の許可なく可能とするかどうかを、
訴訟代理人
の判断で決められることが相当かという点が問題となり、
部会では、
法律上、
許可を不要
とすることは困難であり、前記6(1)アの(注2)にあるとおり運用上の問題として対応
すべきとの意見がある。
7 送達
(1) 電磁的記録の送達
人事訴訟に関する手続における電磁的記録の送達について、民訴法第10
9条から第109条の4までの規定を適用するものとする。
(補足説明)
試案の7(1)は、人事訴訟に関する手続における電磁的記録の送達についても、民事訴訟と
同様の規律とするために、民訴法第109条から第109条の4までの規定を準用すること
を提案している。
民事訴訟の説明その他の説明については、
試案の第1の7(1)の
(補足説明)
参照。
(2) 公示送達
人事訴訟に関する手続における公示送達について、民訴法第111条の規
定を適用するものとする。
(補足説明)
試案の7(2)は、人事訴訟に関する手続における公示送達についても、民事訴訟と同様の規
律とするために、
民訴法第111条の規定を準用することを提案している。
民事訴訟の説明そ
の他の説明については、試案の第1の7(2)の(補足説明)参照。
なお、部会においては、公示送達においてインターネットを利用して表示する情報につい
て、
人事訴訟に関する手続における公示送達にインターネットを利用する場合については、特にプライバシーに配慮する必要があるといった観点から、通常のキーワード検索では公示事
項として表示する情報が引き出されないような方法をとることも考えられるとの意見もあっ
た。
8 その他120(注1) システムを使った電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べの申出や、書
面の提出に代えて電磁的記録をファイルに記録する方法による陳述、ウェブ会議による
裁判所外の尋問など、ITを活用した証拠調べ手続について、民訴法の規定を適用する
ものとする。
(注2) 費用額確定の申立ての期限について民訴法第71条第2項を適用するものとする。
(注3) 民訴法の改正を踏まえて裁判官の権限のうち定型的な判断事項を裁判所書記官の権
限とする見直しなど実務上必要な見直しがないのか検討すべきとの考え方がある。
(補足説明)
1 証拠調べの手続(試案の(注1))
試案の(注1)は、人事訴訟に関する手続において証拠調べを行う場合に、民訴法におけ
るITを活用した証拠調べの規律と同様の規律を適用することを提案するものである。民
事訴訟その他の説明については、試案の第1の10の(注1)の(補足説明)参照。
2 費用額確定処分の申立ての期限(試案の(注2))
人事訴訟に関する手続における手続費用についても、その額が長期にわたって確定され
ない事態を防ぐ必要があると考えられることから、試案の(注2)では、人事訴訟に関する
手続における手続費用の額の確定の申立てについて、民事訴訟手続と同様に10年の期間
制限を設けることを提案している。
民事訴訟の説明その他の説明については、
試案の第1の
10の(注2)の(補足説明)参照。
3 その他(試案の(注3))
これまでに掲げたもののほか、
部会では、
民訴法の内容を踏まえつつ、
実務上見直しをす
べき点がないか検討すべきであるとの指摘があった。
試案の(注3)は、この点について記載するものであり、今後、民訴法の内容を踏まえつ
つ、
実務上見直しをすべき点の指摘が具体的にあれば、
その指摘を踏まえて検討することも
考えられる。
第9 家事事件
1 裁判所に対する申立て等
(1) インターネットを用いてする申立て等の可否
家事事件の手続において裁判所に対して行う申立て等については、民訴法
第132条の10の規定を準用し、全ての裁判所に対し、一般的に、インタ
ーネット(電子情報処理組織)を用いてすることができるものとする。
(注)申立て等をインターネットを用いてする際の方法としては、システム上のフォーマ121ット入力の方式を検討すべきとの考え方がある。
(補足説明)
1 インターネットを用いてする申立て等の可否(試案の1(1))
現行の家事法においては、
家事事件の手続における申立て等のうち、
最高裁判所の定める
裁判所に対してするものについては、
最高裁判所規則で定めるところにより、
インターネッ
トを用いてすることができることとされている(家事法第38条)。
試案の1(1)は、家事事件の手続における申立て等についても、手続の利便性を向上する
とともに、
迅速な手続を実現する観点から、
民訴法第132条の10の規定を準用し、
全て
の裁判所に対し、一般的に、インターネット(電子情報処理組織)を用いてすることができ
るものとすることを提案している。
なお、家事事件の手続における「申立て等」としては、例えば、家事審判の申立て(家事
法第49条)や家事調停の申立て(同法第255条)
があるほか、後見の事務の報告書や財
産目録の提出(民法第863条第1項参照)も「その他の申述」として「申立て等」に含ま
れるものと考えられる。他方で、裁判所、裁判官や裁判所書記官が作成するものは含まれ
ず、家庭裁判所調査官が事実の調査の結果を報告する調査報告書(家事法第58条第3項)
もこれに含まれないと解されるが、これらを電磁的記録によって作成することについては、
後記試案の3で検討することとしている。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の1(1)の(補足説明)参照。
2 インターネットを用いてする申立て等の方法(試案の(注))
インターネットによる申立て等を可能とした場合には、今後構築される裁判所のシステ
ムを通じてこれを行うことが想定されているが、
具体的な方法については、
システムの具体
的な内容も踏まえて検討されることとなる。
部会においては、
申立て等をインターネットを用いてする際の方法としては、
システム上
のフォーマット入力の方式を検討すべきとの考え方があるため、試案の(注)は、このよう
な考え方について記載している。
なお、フォーマット入力の方式を検討すべきとの考え方の中にも、本人申立てを想定し
て、申立て等に必要な事項を入力しやすいシステムの構築によって利用者の利便性を高め、
事件処理の迅速化、
効率化にも資するとの観点から、
幅広くその方式を検討すべきとの考え
方のほか、例えば、現在の実務において定型の申立書式が用いられているような事件類型
(例えば、
相続放棄の申述受理の事件や子の氏の変更事件)
につき、
導入すべきとの考え方
もある。
(2) インターネットを用いてする申立て等の義務付け122ア 委任を受けた手続代理人等
家事事件の手続において、民訴法第132条の11の規定を準用し、民
事訴訟手続においてインターネットを用いて申立て等をしなければならな
い委任を受けた手続代理人等は、裁判所に対して行う申立て等をインター
ネットを用いてしなければならないものとする。
イ 家事事件の手続において裁判所から選任された者
【甲案】
家事事件の手続において裁判所から選任された者は、その選任された
者として関与する家事事件の手続においては、裁判所に対して行う申立
て等をインターネットを用いてしなければならないものとする。
【乙案】
家事事件の手続において裁判所から選任された者について、特段の規
律を設けないものとする。
(補足説明)
1 委任を受けた手続代理人等(試案の1(2)ア)
試案の1(2)アでは、家事事件の手続においても、令和4年改正法による民訴法改正の考
え方が妥当すると考えられることから、
民訴法第132条の11の規定を準用し、
民事訴訟
手続と同様に、
委任を受けた手続代理人等について、
インターネットによる申立て等を義務
付けることを提案し、
他方で、
それ以外の者については、
インターネットを用いて申立て等
をすることを義務付けることは提案していない
(ただし、
裁判所から選任された者について
は、試案の1(2)イ参照)。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の1(2)アの(補足説明)参照。
2 家事事件の手続において裁判所から選任された者(試案の1(2)イ)
(1) 議論の状況等
試案の1(2)イは、家事事件の手続によって裁判所から選任された者、例えば、成年後
見人、保佐人及び補助人、
さらには未成年後見人のほか、相続財産の管理人(民法等の一
部を改正する法律(令和3年法律第24号)による民法改正後の相続財産の清算人を含む)、
不在者財産管理人等が、
その選任された者として関与する家事事件の手続において
裁判所に申立て等をする場合について、申立て等をインターネットによることを義務付
けるかどうかについて検討するものである。
(2) 甲案
甲案は、
上記のような家事事件において裁判所から選任された者は、
その選任された者123として関与する家事事件の手続においては、申立て等をインターネットによらなければ
ならないものとすることを提案するものである。
部会においては、
甲案を支持する立場から、
IT化を進展させるためには、
裁判所に選
任された者についてはインターネットを利用した申立て等を原則義務付けることとすべ
きであり、それが困難な者については例外的な規律を設けることとすればよいとの意見
があった。
(3) 乙案
乙案は、
家事事件の手続において裁判所から選任された者について、
法律上、
申立て等
をインターネットによることを義務付けることはしないものとすることを提案するもの
である。
部会においては、
成年後見人等には、
親族や市民後見人などが選任されているケースも
相当数あることなどを念頭に、
甲案に反対し乙案をとるべきとする意見や、
甲案を採用し
た場合には、
選任の際に、
インターネットによる申立て等に対応できるかどうかが考慮さ
れることになり、
そのような考慮は、
それぞれの制度趣旨に沿ったものとはいえないので
はないかといった意見があった。また、仮に、甲案を採用した上で、インターネットによ
る申立て等が困難な者については例外規定を設けるとしても、例外とされる場合を具体
的に法律で規定しなければ、そのような懸念を払拭することはできないとの指摘があっ
た。
3 その他
部会においては、試案の1(2)で記載した者の他に、行為能力の制限を受けた者につき裁
判長が代理人に選任した弁護士
(家事法第23条第2項)
がインターネットを用いて申立て
等をしなければならないものとするかどうかについても検討されたが、人訴法第13条第
2項所定の裁判所が選任した代理人と同様の理由から、
試案においては、
裁判長が手続代理
人に選任した弁護士にインターネットを用いて申立て等をしなければならないものとする
との提案はしていない。
そのほか、
部会においては、
申立人等となることがある検察官
(民法第7条及び第25条
第1項等参照)やその他家事事件の申立てをする資格を有する公的機関が申立て等をイン
ターネットによってしなければならないこととすることにつき検討すべきとの指摘があっ
た。
2 提出された書面等及び記録媒体の電子化
(1) 提出された書面等及び記録媒体の電子化の対象事件等
【甲案】
家事調停事件及び別表第2に掲げる事項の家事審判事件については、下124記(2)の電子化のルールを適用し、
裁判所書記官において提出された書面等
及び記録媒体をファイルに記録しなければならないものとするが、その余
の家事事件については、ファイルに記録するかどうかは、裁判所の適切な
運用に委ねるものとする。
【乙案】
全ての家事事件において、当事者又は利害関係を疎明した第三者の申出
があったときは、
下記(2)の電子化のルールを適用し、
裁判所書記官におい
て提出された書面等及び記録媒体をファイルに記録しなければならないも
のとする。
【丙案】
全ての家事事件について、
下記(2)の電子化のルールを適用し、
裁判所書
記官において提出された書面等及び記録媒体をファイルに記録しなければ
ならないものとする。
(注1) 甲案を採用する場合に、別表第1に掲げる事項についての家事審判事件について
は、本文のとおり、電子化をするかどうかは個々の裁判所の適切な運用に委ねるとす
る考え方(甲-1案)のほか、一定のものについては、法律上の定めとして、同様に
電子化しなければならないとするとの考え方がある。
具体的には、
次のとおりである。
1 別表第1に掲げる事項についての家事審判事件のうちの電子化のメリット等が
高いと考えられる一定の事件類型にも下記(2)の電子化のルールを適用するとの案
(甲-2案)
2 別表第1に掲げる事項についての家事審判事件は、
電子化のメリット等が特に高
くないと認めるものを除いて、下記(2)の電子化のルールを適用するとの案(甲-
3案)
(注2) 丙案を採用する場合について、本文のとおり下記(2)の電子化のルールをそのま
ま適用するとの考え方(丙-1案)のほかに、申立て等以外の書面等及び記録媒体の
ルールである下記(2)ア2の電子化をしない場合の要件につき「ファイルに記録する
ことにつき困難な事情があるとき」に代えて、家事事件の手続の特性を考慮し、より
柔軟な運用を可能とする要件を置いた上で、下記(2)の電子化のルールを適用すると
の考え方(丙-2案)がある。
(補足説明)
1 概要
現行の家事法の下では、
家事事件の記録は書面により管理されており、
裁判所に提出され
た書面等については、これらをそのまま編てつすることにより、事件記録が作成されてい
る。125家事事件の手続においても、
民事訴訟手続と同様に、
利便性向上の観点から、
裁判所に提
出された書面等をファイルに記録し、
これを電子化することとすることが考えられ、
部会で
は、その電子化をすることにつき積極的な意見が出された。他方で、将来的には、提出され
た書面等を含む事件記録の全面電子化を目指すとしても、IT化を進める過渡期において
は、
IT技術・環境の進展状況等も踏まえ、
提出された書面等を裁判所において電子化する
コストなどに比して、
電子化のメリットが高くないと考えられるケースについては、
提出さ
れる書面等の全てを必ず電子化しなければならないとするのではなく、必要に応じて電子
化することでよいのではないかとの意見もあった。
2 各案の内容等
(1) 甲案
ア 甲案(甲-1案)
は、家事事件のうち、民事訴訟と同様に当事者等の対立構造がある
ことが想定される事件、
具体的には、
家事調停事件及び別表第2に掲げる事項について
の家事審判事件について、提出された書面等を電子化しなければならないとし、他方
で、
その余の家事事件については、
電子化するかどうかは、
裁判所の適切な運用に委ね
るものである。
事件記録の電子化のメリットの一つとして、
電子化された事件記録について、
インタ
ーネットを用いた閲覧等を可能とすることにより、当事者等の事件記録へのアクセス
を容易にすることが挙げられるが、
このようなメリットは、
典型的には、
複数の当事者
等が、それぞれの主張等を記載した書面やその裏付けとなる資料を裁判所に提出しつ
つ、
これらを踏まえて審理や協議が進められていく過程において、
相互に他の当事者等
が提出した書面や資料を確認する場面で顕在化するものであり、当事者等の対立構造
があることが想定される家事調停事件や別表第2に掲げる事項についての家事審判事
件においては、民事訴訟と同様に妥当するものであると考えられる。
他方で、例えば、別表第1に掲げる事項についての家事審判事件には、単発的な申
請・許可型の事件(典型例としては、子の氏の変更についての許可の申立て、相続放棄
の申述受理など)
が多く含まれている。
このような事件では、
申立人等の当事者や第三
者から、
事件記録中の提出書面等の閲覧等の申請がされるケースは少なく、
インターネ
ットを利用してこれにアクセスするニーズは乏しく、裁判所の審理に当たっても家事
調停事件及び別表第2に掲げる事項についての家事審判事件のように何度も記録を見
返すといったことが想定されないのではないかとも考えられる(裁判書等を電磁的記
録によって作成することについては、
後記3で別途提案しているところ、
このような単
発的な申請・許可型の事件においては、
裁判書等についてインターネットを利用して閲
覧やダウンロード、
その裁判があったことの証明の発行をすることができれば、
当事者
等から提出された書面等それ自体を電子化しなくとも当事者等の利便性を損なわない126とも考えられる。)。甲案は、このような事件については、添付書類を含む提出書面等
については、
これを電子化するコスト等と比較して、
そのメリットが高いといえないの
ではないかとの観点から、
電子化するかどうかは、
裁判所の適切な運用に委ねるもので
ある。
イ 他方で、部会においては、別表第1に掲げる事項についての家事審判事件について
も、
より具体的な事件類型ごとに、
提出書面等を電子化しなければならないものとする
かを検討することが必要ではないかとの意見もあったため、
その考え方について、
試案
の(注1)に記載している。
甲-2案は、別表第1に掲げる事項についての家事審判事件の中でも提出された書
面等の電子化のメリットが高いと考えられる事件類型を個別に特定し、提出された書
面等を電子化しなければならないとの規律を設けようとするものである。
例えば、
実質
的には当事者等が対立構造にある親権の停止事件などは、当事者等のインターネット
を用いた閲覧等を可能にする観点から、提出された書面等の電子化のメリットが高い
事件として考えられるし、長期的に継続して事件の管理が必要となる成年後見等の関
係の事件については、事件関係者からのインターネットを用いた閲覧等を可能とする
ほか、
記録の管理コスト等の観点からも、
提出された書面等を含む事件記録の電子化の
メリットが高いとの考え方がある。
甲-2案は、
このような事件類型については、
法律
上、提出された書面等を電子化しなければならないとするものである。
甲-3案は、別表第1に掲げる事項についての家事審判事件の中でも当事者等から
提出された書面等の電子化のメリットが高くないと考えられる事件類型を個別に特定
し、
その電子化を要しないとの規律を設けようとするものである。
例えば、
前記のよう
な単発的な申請・許可型の事件
(典型例としては、
子の氏の変更についての許可の申立
て、相続放棄の申述受理など)では、裁判書については、インターネットを用いた閲覧
やダウンロードを可能とすることにより利便性が向上すると考えられるため、電子化
する
(裁判書を電磁的記録により作成する)
必要性が高いといえるが、
その裁判のため
に提出される資料
(例えば、
戸籍謄本など)
を電子化してオンライン閲覧等を可能とす
るといった必要性は高くないとも考えられる。
甲-3案は、
このように提出された書面
等の電子化のメリット等が特に高くないと認められる事件類型については、
法律上、提出された書面等を電子化しなくてもよいが、それ以外の事件類型では電子化しなけれ
ばならないとするものである。
甲-2案と甲-3案とは、
実質的には、
提出された書面等を電子化しなければならな
いものとする事件類型について、結論として大きな違いは生じないとも考えられるが、
出発点をどのように見るのかで、その発想が異なる。
また、
これらの案における具体的な事件類型
(甲-2案においては提出された書面等
を電子化しなければならないものとする事件類型、甲-3案においては提出された書127面等を電子化しなくてもよいとする事件類型)
の法律上の定め方については、
具体的な
事件類型を法律で定めるのではなく、改正後の家事法下におけるインターネットを用
いた提出や閲覧等の利用状況等を踏まえて継続的な検討がより柔軟に可能となるよ
う、具体的な事件類型は最高裁判所の定めに委ねるべきとの意見もある。
(2) 乙案
乙案は、
全ての家事事件において、
当事者又は利害関係を疎明した第三者
(閲覧等の請
求をすることができる者)
の申出があった場合に、
提出された書面等の電子化をしなけれ
ばならないものとするものである。
乙案によれば、裁判所外端末から提出された書面等に係る記録の閲覧等をしたいと希
望する当事者又は利害関係を疎明した第三者は、
その電子化の申出をした上で、
当該書面
等をインターネットを利用して閲覧等をすることができることとなる。
この案は、
提出さ
れた書面等を電子化するメリットについて、甲案のように事件類型ごとにその有無や程
度を想定し、
法律上、
提出された書面等を電子化しなければならない事件類型に関する規
律を置くのではなく、個別の事件ごとにそのメリットの有無や程度は異なり得るとの考
え方に立ち、個別の事件において当事者又は利害関係を疎明した第三者にそのニーズが
ある場合には、
提出された書面等の電子化のメリットが大きいものと考えて、
これをしな
ければならないとする考え方をとるものである。
ただし、
この案については、
提出された書面等を含む事件記録の電子化を行う意義とし
ては、当事者又は利害関係を疎明した第三者がインターネットを用いた閲覧等が可能と
なるというだけではなく、記録の管理や保管の効率化といったより公益的な観点も含ま
れるところ、提出された書面等を電子化しなければならないかどうかを閲覧等の請求が
できる者
(当事者又は利害関係を疎明した第三者)
の申出にかからしめることにより、これらの者のニーズのみによることになることが、
制度として合理的といえるか、
といった
指摘がある。
なお、
乙案では、
当事者又は利害関係を疎明した第三者
(閲覧等の請求をすることがで
きる者)の申出があった場合に提出された書面等を電子化しなければならないとしてい
るが、家事審判事件では、当事者(利害関係参加人を含む。)と利害関係を疎明した第三
者とでは、
家事法上、
その閲覧等の請求が許可される要件につき、
当事者は原則として許
可するものとされているが、利害関係を疎明した第三者は相当と認める場合に許可する
ことができるとされているなど差異を設けていることから、
当事者
(利害関係参加人を含
む。)の申出があった場合のみを対象とするとの考え方もある。
(3) 丙案
丙案(丙-1案)は、全ての家事事件につき一律に、提出された書面等を電子化しなけ
ればならないとするものである。
部会においては、個別に提出された書面等について、その電子化のコストなどに比し128て、
その書面等の手続上の位置付けなどから、
そのメリットが高くないと考えられるもの
(例えば、
添付書類として戸籍謄本等が大量に提出された場合などを想定すると、
添付書
類によって申立てに係る身分関係が確認されれば、その後は当該書類を参照する機会に
乏しいものと考えられる。)については、これを電子化しないことを可能とするために、
試案の2(2)アの電子化をしない場合の「ファイルに記録することにつき困難な事情があ
るとき」
との要件に代えて、
より柔軟な運用を可能とする要件を設けることとすれば、丙案をとることとした場合に懸念される提出された書面等の電子化のコストの問題は軽減
されるのではないかとの意見もあったため、
このような考え方を丙―2案として、
試案の
(注2)に記載している。
(2) 提出された書面等及び記録媒体の電子化のルール
ア 民事訴訟と同様のルール
民訴法第132条の12及び第132条の13と同様に、裁判所に提出
された書面等及び記録媒体の電子化のルールとして、次のような規律を設
けるものとする。
1 申立て等が書面等により行われたときは、裁判所書記官は、当該書面
等に記載された事項をファイルに記録しなければならない。ただし、当
該事項をファイルに記録することにつき困難な事情があるときは、この
限りでない。
2 裁判所書記官は、1の申立て等に係る書面等のほか、家事事件の手続
において裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記載され、又は記録
されている事項をファイルに記録しなければならない。ただし、当該事
項をファイルに記録することにつき困難な事情があるときは、この限り
でない。
3 裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記載され、又は記録されて
いる事項のうち、秘匿決定の申立てがあった場合における秘匿事項の届
出に係る事項については、1及び2の規律にかかわらず、ファイルに記
録することを要しない。
イ 家事法特有のルール
【甲案】
家事事件の手続において裁判所に提出された書面等又は記録媒体に記
載され、又は記録されている事項のうち、次のいずれかのものであり、
かつ、裁判所が特に必要があると認めるものについては、ファイルに記
録することを要しないものとする。1291 他の者が知ることにより事件の関係人である未成年者の利益を害す
るおそれ又は当事者若しくは第三者の私生活若しくは業務の平穏を害
するおそれがある事項
2 明らかにされることにより、その者が社会生活を営むのに著しい支
障を生じ、又はその者の名誉を著しく害するおそれがある当事者又は
第三者の私生活についての重大な秘密
3 事件の性質、審理の状況、記録の内容等に照らして、他の者が知る
ことを不適当とする特別の事情がある事項
【乙案】
甲案に記載している特段の規律は設けないものとする。
(注) 甲案を採用する場合には、
インターネットを用いた提出によりファイルに記録さ
れた電子化された事件記録のうち、
本文の甲案に掲げる1から3までの事項につい
ても、裁判所が特に必要があると認めるときは、その内容を書面に出力し、又はこ
れを他の記録媒体に記録するとともに、
当該部分を電子化された事件記録から消去
する措置その他の当該部分の安全管理のために必要かつ適切なものとして最高裁
判所規則で定める措置を講ずることができるものとする。
(補足説明)
1 民事訴訟と同様のルール(試案の2(2)ア)
試案の2(2)アは、家事事件の手続においても、民事訴訟手続と同様の電子化のルールを
適用することを提案するものである(ただし、1及び2につき試案の2(1)の(注)丙-2
案のとおり、
家事事件の手続においてより柔軟な運用を可能とするため、
若干の修正を施す
考え方もあることは前記のとおりである。)。
ただし、
民事訴訟手続においては、
民訴法第92条の規定を前提に営業秘密の一部や、同法第133条の2第2項及び第133条の3の規定を前提に氏名・住所等の秘匿事項や推
知事項の一部につき紙媒体での保管を許容するルールがあるが、
もともと、
家事法第47条
及び第254条の規定により当事者の閲覧等を制限することが可能となっていたことか
ら、
令和4年改正法による改正後の家事法では、
民訴法第92条や同法第133条の2第2
項及び第133条の3の適用や準用をしていないため、それらのルールは用いていない。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の2(2)の(補足説明)参照。
2 電子化の例外及び安全管理措置に関する家事法特有のルール(試案の2(2)イ)
(1) 概要(議論の端緒等)
民訴法においては、閲覧等の制限の申立てなどがあった営業秘密や秘匿事項等につい
ては、電子化の対象から除外されている。しかし、家事法は、民訴法において電子化の対130象から除外されている事項に関する規律のうち、営業秘密についての第三者の閲覧等制限(同法第92条第1項、
第132条の12第1項第1号及び第132条の13第1号参
照)、秘匿事項届出部分以外の秘匿事項等についての秘匿対象者以外の者の閲覧等制限
(同法第133条の2第2項、第132条の12第1項第3号及び第132条の13第
3号参照)
及び送達をすべき場所等の調査嘱託の結果についての第三者の閲覧等制限(同法第133条の3、第132条の13第4号参照)の規律を準用していない。これは、家事事件においては、事件記録の内容に手続に関係する者のプライバシーに関わる情報が
含まれ、その秘密を保持する必要がある場合があるなどの考慮から、事件記録の閲覧は、
現行法上、一般的に、裁判所の許可を要するものとされ、その主体は、当事者及び利害関
係を有する第三者に限定されており
(家事法第47条及び第254条等)、閲覧等による
弊害への対処としてはこの許可制度によることで足りるためである。
試案の2(2)イは、これを踏まえ、家事事件の記録について、上記の閲覧等の許可制度
において、
閲覧等が制限され得るような事項につき、
電子化しなければならないものとす
る対象から除外する旨の規律を設けることについて検討するものである。
(2) 甲案と(注)
ア 甲案は、
家事法第47条第4項を参考に、
特にその情報の管理が問題となる事項につ
き、ファイルに記録しなければならないものとする対象から除外する旨の規律を設け
ることを提案するものである。
家事法においては、事件の種別により当事者が閲覧等を認められない場合の要件が
異なっている
(同法第47条第4項、
第108条、
第254条第3項及び第289条第
6項参照)。しかし、
閲覧等の弊害のおそれがある場合を具体的に規定している同法第
47条第4項に掲げるようなものは、
特に情報の管理に留意を有する事項であり、
ファ
イルに記録された事件記録としてインターネットを用いた閲覧及びダウンロード等に
供することが不相当であるとも考えられるし、
家事審判事件だけでなく、
家事調停事件
等の手続においても、閲覧等が相当と認められないとして不許可になり得るものであ
ると考えられる。
そのため、
頻繁に閲覧等に供されるようなことはなく、
当事者の閲覧
等の便宜の観点からインターネットを用いた閲覧及びダウンロードに供する必要性も
乏しいと考えられる。
甲案は、
そのような事項について、
当事者等が裁判所に提出した
書面を必要に応じて紙媒体で保管することも許容され得る規定を設けることとするも
のである。
なお、
甲案は、
飽くまでも、
1から3までの事項についてファイルに記録することを
要しないとするものであり、
例えば、
書面の一部に1から3までの事項があるケースで
は、
その事項の部分はファイルに記録することを要しないが、
それを除く書面の部分は
ファイルに記録しなければならない。
また、
家事事件の手続においては、
裁判所が閲覧等の許否を職権で判断することとさ131れており(当事者等による閲覧等の制限の申出といったものは法律上要件とされてい
ない)、裁判所は、自己の判断で、当事者や第三者による閲覧等の許可の申立てを却下
し、その者による閲覧等を制限することができる。そのため、甲案は、これに対応し、
当事者等からの閲覧等の制限の申出の有無を要件とすることはできないから、その有
無に関係なく、裁判所は、ファイルに記録しない措置をとることができるとしている。
また、
そのこととも関連するが、
甲案は、
現実に当事者等から裁判所に対する閲覧等の
許可の申立てがされ、
その申立てを却下する決定がされていなくとも、
裁判所が、
その
判断で、
ファイルに記録しない措置をとることができるとしている。
しかし、
部会にお
いては、
当事者等から閲覧等の制限の申出もなく、
また、
現実に裁判所に対する閲覧等
の許可の申立てがないまま、
裁判所に書面等が提出されるごとに、
事件の内容を踏まえ
て、ファイルに記録しない措置をとる必要があるかどうかを判断しなければならない
とすれば現実には困難を伴うし、ファイルに記録するか否かについて裁判所の裁量の
範囲が広くなりすぎるとの懸念が指摘された。
また、
家事審判事件においては当事者と
利害関係を疎明した第三者とでは閲覧等の許否の要件が異なるほか 、家事事件全般に
おいて、
閲覧等の許可の申立てを行った者ごとに許否の判断は異なり得るため、
甲案で
は、
例えば、
当事者又は第三者Aとの関係では閲覧等をすることにより1から3までの
事情があり、
閲覧等の制限をすべきケースで、
ファイルに記録しない措置をとると、閲覧等が認められる別の当事者又は第三者Bも、インターネットを利用した閲覧等が制
限されることとなるが、それが相当かという問題もある。そのため、甲案では、ファイ
ルに記録しない措置をとる範囲を適切に限定し、当該措置の必要性が明確であるケー
スに限って、これをとることとするために、「特に必要がある」と認める場合に限り、
この措置をとることとしている
(もっとも、
このようにしても、
前記の懸念が払拭でき
ないとの意見があり、後記の乙案が提示されている。)。
イ 試案の(注)では、甲案をとる場合には、甲案と同様の理由により、インターネット
を用いてファイルに記録された電磁的記録のうち、本文の甲案の1から3までの事項
について、裁判所が特に必要があると認めるときは書面に出力してこれを事件記録と
して保管し、ファイルに記録された部分を当該ファイルから消去するなどの安全管理
措置をとることができるものとすることを提案している。
(3) 乙案
乙案は、甲案のような規律を設けないものとすることを提案している。
甲案については、
当事者等から閲覧等の制限の申出もなく、
また、
現実に裁判所に対す
る閲覧等の許可の申立てがないケースでも、ファイルに記録しない措置をとることがで
きるとしており、
その範囲が広くなりすぎるし、
裁判所に書面等が提出されるごとに、事件の内容を踏まえて、そのような措置をとるかを判断しなければならないとすれば現実
には困難を伴うとの懸念が指摘されている。
また、
甲案では、
関係者の一部の者との関係132で閲覧等の制限をすべきケースでも、ファイルに記録しない措置をとることを認めるも
のであるが、そうすると、
本来は、閲覧等が認められる者までも、インターネットを利用
した閲覧等が制限されることとなる。
甲案は、
その適用される範囲を限定的なものとする
ために、
「特に必要がある」と認める場合に限り、この措置をとることとしているが、当
事者等の申出等がないまま、
そのような措置をとることを認めている以上、
それに伴う懸
念を払拭することはできないとも考えられる。
また、
閲覧等が認められる者によるインタ
ーネットを利用した閲覧等が制限されることには変わりがないとの意見も考えられる。
加えて、
そもそも、
事件記録の電子化は、
システムの構築を適切にすることによりファイ
ルに記録された情報を適切に管理することを前提としており、家事法第47条第4項に
当たる事情があったとしても、
特に閲覧等の制限や秘匿の申立てがされ、
その旨の決定が
されている営業秘密等と同様の扱いとし、敢えて電子化の範囲から除くまでの事情はな
いのではないかといった指摘があった。
そのほか、
事件記録の電子化のメリットはインタ
ーネットを利用した閲覧等の便宜のみではなく、保管コストの削減等も考えられるとの
意見があった。
さらに、
家事調停事件など家事審判事件以外の事件では、
閲覧等の許可の
要件に関する規律は家事法第47条第4項とは異なるものとされているなか、家事事件
全般につき、この規定を参考にして、規律を設けることには問題があるとの指摘もあっ
た。以上のことから、乙案が提示されている。
3 裁判書等及び報告書の電子化
(1) 裁判書及び調書等の電子化
裁判官が作成する審判書その他の裁判書及び裁判所書記官が作成する調書
等について、書面による作成に代えて、最高裁判所規則で定めるところによ
り、電磁的記録により作成するものとする。
(補足説明)
民訴法においては、裁判所が作成する判決書や裁判所書記官が作成する調書等につい
て、
電磁的記録によりこれを作成することとされている
(同法第160条第1項及び第2
52条第1項)。
家事事件の手続においても、
裁判所は裁判書を作成することがあり、
また、
裁判所書記
官は調書を作成することがある。
これらについては、
現行の家事法上、
書面で作成するこ
とが前提とされている。
試案の3(1)は、
民事訴訟手続と同様に、
これらについても電磁的記録により作成するもの
とすることを提案するものである。
民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の3の(補足説明)参照。133(2) 家庭裁判所調査官の報告書の電子化
家庭裁判所調査官は、事実の調査の結果の書面による報告(家事法第58
条第3項参照)に代えて、最高裁判所規則で定めることにより、当該書面に
記載すべき事項をファイルに記録する方法又は当該事項を記録した記録媒
体を提出する方法により報告を行うことができるものとする。
(補足説明)
家事事件の手続において、裁判所は、家庭裁判所調査官に事実の調査をさせることができ、
家庭裁判所調査官は、その事実の調査の結果を書面又は口頭で裁判所に報告するものとされ
ている(家事法第58条第3項)。試案の3(2)は、この調査結果の報告について、現行の方
法に加え、調査報告書を書面に代えて電磁的記録により作成する方法を認めることを提案す
るものである。
なお、
部会においては、
この家庭裁判所調査官の調査報告書を電磁的記録によって作成する
ものとすることにつき、当事者がより迅速に閲覧等を行うことができるようになるとの観点
から、
賛成する意見があった。
他方で、
他の専門家等が裁判所に対し説明をしたり意見を述べ
たりする際に、
電磁的記録による方法が認められるものも、
書面による方法を排除はしていな
いこと(例えば、民訴法第92条の2第2項及び第215条第2項)などを考慮し、現行法の
方法に加えて、調査報告書を電磁的記録によって作成することを認めるものとしている。
なお、
仮に、
書面や電磁的記録を記録した記録媒体によって調査報告書が作成・提出された
場合の電子化(ファイルへの記録)については、試案の2の規律によることとなる。
4 期日におけるウェブ会議及び電話会議の利用
(1) 当事者の期日参加等
ア 遠隔地要件の削除
(いわゆる遠隔地要件を削除し、)裁判所は、相当と認めるときは、当
事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、ウェブ会議
又は電話会議によって、家事事件の手続の期日における手続(証拠調べを
除く。)を行うことができるものとする。
イ 当事者が立会権を有する審問期日
【甲案】
裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所
規則で定めるところにより、当事者が立会権を有する審問期日における
手続についても、ウェブ会議及び電話会議によって、その審問期日にお
ける手続を行うことができるものとする。
【乙案】134裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所
規則で定めるところにより、当事者が立会権を有する審問期日における
手続については、ウェブ会議によって、その審問期日における手続を行
うことができるものとし、電話会議の利用は認めないものとする。
(注) 乙案を原則としつつ、当事者双方に異議がない場合には、電話会議によって、当
事者が立会権を有する審問期日における手続を行うこともできるものとするとの
考え方がある。
(補足説明)
1 遠隔地要件の削除(試案の4(1)ア)
現行の家事法第54条は、当事者が遠隔地に居住しているときその他相当と認めるとき
は、
当事者双方が現実に出頭していない場合でも、
ウェブ会議及び電話会議を用いて家事事
件の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)をすることができると規定している。な
お、
民訴法では、
口頭弁論期日、
弁論準備手続期日などといった期日の種類ごとにウェブ会
議や電話会議の規定を置いているが、
家事事件では、
前記のとおり証拠調べを除き、
期日一
般につき規定を置いている。
民訴法においては、ウェブ会議及び電話会議によって期日における手続を行う際の要件
として、
「当事者が遠隔地に居住しているとき」
といった規定が設けられていたものについ
ては、当事者にとって出頭が困難な場合は遠隔地に居住している場合に限られないことな
どから、このいわゆる遠隔地要件を削除することとされた。
試案の4(1)アは、これを踏まえ、家事法第54条が規定する家事事件の期日の手続(証
拠調べを除く。)についてのウェブ会議及び電話会議の利用に関しても、
遠隔地の要件を削
除することを提案するものである。
2 当事者が立会権を有する審問期日(試案の4(1)イ・(注))
(1) 概要
現行の家事法では、遺産分割の審判事件など別表第2に掲げる事項についての家事審
判の手続や、別表第1に掲げる事項の中でも推定相続人廃除の審判事件の手続において、
審問の期日を開いて当事者の陳述を聴くことにより事実の調査をするときは、当事者は
これに立ち会うことできるとされている(家事法第69条及び第188条第4項)。ま
た、現行の家事法では、この期日においても、電話会議を利用することができる。なお、
証拠調べである当事者尋問では、
電話会議を用いることができないこととされており、反対尋問(審問期日では、反対尋問の権利自体は法令上認められていない。)等の必要があ
るケースなどでは、
当事者は、
その申出をすることができることとされている
(家事法第
54条第1項及び第56条参照)。135部会においては、
他の当事者が立ち会うことができる審問の期日について、
ウェブ会議
による実施を原則とし、電話会議による実施を原則として認めないこととすべきとの意
見があった。試案の4(1)イは、この点について検討するものである。
(2) 甲案
甲案は、
現行の家事法の規律を維持し、
他の当事者が立ち会うことができる審問の期日
についても、
ウェブ会議及び電話会議の利用を認めるものである。
その理由としては、現行の規律による支障は指摘されておらず、
これを変更するだけの理由がないことや、
審問
の期日といっても、
民事訴訟における弁論準備手続と同様に、
単に言い分のみを確認する
ものもあること、電話会議であれば対応できるがウェブ会議に十分対応できる環境を備
えていない当事者もいると思われることなどが挙げられる。
また、
別表第2に掲げる事項
についての家事審判などの手続において、他の当事者に立会権を認める家事法第69条
本文は、
不意打ち防止のための規定であり、
裁判所が当事者の陳述を聴取し、
裁判の認定
資料を収集する場面における公平公正を担保したものであるなどとされているところ、
不意打ち防止という趣旨との関係で、電話会議の利用を認めないとする理由はないので
はないかとの指摘もある。
(3) 乙案と(注)
ア 乙案は、
現行の家事法の規律を改め、
他の当事者が立会権を有する審問期日について
は、ウェブ会議の利用は認めるが、電話会議の利用を認めないこととするものである。
乙案の理由としては、
当事者に立会権があることや、
審問の期日において裁判官が心
証をとることがあることを前提として、証拠調べに近い機能を有する場合がある以上、
ウェブ会議の利用は認めるとしても、電話会議の利用を認めることは相当とはいえな
いとの考え方がある。
イ また、部会においては、乙案を原則としつつ、例えば、民訴法における参考人等の審
尋(民訴法第187条)と同様に、当事者双方に異議がないケースでは、電話会議を認
める折衷的な案も考えられるとの指摘もあったことから、試案の(注)では、この考え
方を記載している。
(2) 参与員の立会い
裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則
で定めるところにより、ウェブ会議又は電話会議によって、参与員に家事審
判の手続の期日に立ち会わせ、当該期日における行為を行わせることができ
るものとする。
(注) 本文と異なり、ウェブ会議によって、参与員に家事審判の手続の期日に立ち会わせ
ることができるものとし、電話会議の利用は認めないものとするとの考え方がある。136(補足説明)
家事審判事件の手続においては、
裁判所は、
参与員の意見を聴いて、
審判をすることとされ
ており、
参与員を家事審判の手続の期日に立ち会わせることができる
(家事法第40条第1項
及び第2項)。なお、家事審判事件の手続においては、人事訴訟と異なり、意見を述べるに際
して、立会いは、必要的なものではなく、立ち会わなくても、意見を述べることができる。
試案の4(2)は、このような参与員の家事審判手続の期日への立会いについて、ウェブ会議
及び電話会議の利用を認めることを提案するものである。
また、
部会においては、
参与員が期日に立ち会うことについては、
当事者の様子を観察する
ことに意義があり、
また、
参与員の顔が見える方法によることによる当事者に対する説得力の
観点から、
電話会議の利用は認めるべきではないとの意見もあった。
そのため、
参与員の期日
への参加について、
ウェブ会議の利用は認めるが、
電話会議の利用は認めないとの考え方につ
いて、試案の(注)で記載している。
(3) 家庭裁判所調査官及び裁判所技官の期日参加等
1 裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規
則で定めるところにより、裁判所及び当事者が家庭裁判所調査官との間で
ウェブ会議又は電話会議によって、家庭裁判所調査官に家事事件の手続の
期日に立ち会わせることができるものとするとともに、当該期日において
家事法第59条第2項(同法第258条第1項において準用する場合を含
む。)の意見を述べさせることができるものとする。
2 前記1の規律は、裁判所技官の期日への立会い及び意見の陳述について
準用するものとする。
(注1) 本文と異なり、裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁
判所規則で定めるところにより、ウェブ会議によって、家庭裁判所調査官及び裁判所
技官に期日参加等をさせることができるものとし、
電話会議の利用は認めないものと
するとの考え方がある。
(注2) ウェブ会議又は電話会議を利用して、当該調停委員会を組織していない家事調停
委員から意見を聴取することができるものとする。
(補足説明)
1 家庭裁判所調査官及び裁判所技官の期日参加等
家事事件では、家庭裁判所調査官や裁判所技官が期日に立ち会って意見を述べるなどす
ることがある
(家事法第59条及び第60条第2項)。裁判所が選任した専門家等が当事者
や利害関係人とは異なる第三者的な立場で手続に関与する場合の期日への参加方法につい
ては、例えば、民事訴訟手続においては、専門委員が、ウェブ会議及び電話会議で期日に参137加し、
専門的な知見に基づく説明をしたり、
当事者等に対して発問をしたりすることが認め
られている(民訴法第92条の3)。
試案の4(3)は、家事事件における家庭裁判所調査官や裁判所技官の期日への参加につい
て、ウェブ会議及び電話会議によることができるものとすることを提案するものである。
他方で、
部会においては、
これらの者が期日に立ち会うことについては、
当事者の様子を
観察することに意義があり、
また、
期日における意見聴取等については、
これらの者の顔が
見える方法によることによる当事者に対する説得力の観点から、電話会議の利用は認める
べきではないとの意見もあった。
そのため、
これらの者の期日への参加について、
ウェブ会
議の利用は認めるが、電話会議の利用は認めないとの考え方について、試案の(注)で記載
している。
もっとも、試案の(注)のような考え方については、例えば、家庭裁判所調査官や裁判所
技官は、無方式の事実の調査をすることができ、期日以外でも、特に方法に制約はなく、当
事者等の事情等を聴くことができる(電話による事情の聴取も当然に許されると解される)
こととの整合性等について検討する必要があると考えられる。
2 調停委員会を組織していない家事調停委員からの意見聴取
家事事件では、調停委員会を組織していない家事調停委員から意見の聴取をすることが
できるとされており(家事法第264条第1項)、試案の4(3)の(注2)は、この意見聴
取もウェブ会議及び電話会議を利用してすることができるとすることを提案するものであ
る。
なお、
この提案をとり法制化するに際しては、
現行の家事法でも、
調停委員会を組織して
いない家事調停委員は、
調停委員会に出席して意見を述べることとされているが
(家事法第
264条第3項)、期日においてすることが必要とはされておらず、
この意見の聴取の方法
に特段の制約はないので、
ウェブ会議及び電話会議の利用についても、
特段の規定がなくと
も認められるとの整理も考えられる。
5 当事者双方が受諾書を提出する方法による調停
当事者双方が出頭することが困難であると認められる場合において、当事者
双方があらかじめ調停委員会(裁判官又は家事調停官のみで家事調停の手続を
行う場合にあっては、その裁判官又は家事調停官)から調停が成立すべき日時
を定めて提示された調停条項案を受諾する旨の書面を提出し、その日時が経過
したときは、
その日時に、
当事者間に合意が成立したものとみなすものとする。
(補足説明)
令和4年改正法においては、離婚調停事件等においてウェブ会議を利用して調停により離138婚又は離縁を成立させることを可能とする規律を導入することとされた。
他方で、家事法第270条第1項は、改正前の民訴法第264条における受諾和解と同様、
当事者の一方が出頭することが困難な場合の調停条項案の書面による受諾に関する規律を置
いているが、
当事者双方が出頭することが困難な場合には、
この方法により調停を成立させる
ことができない。
試案の5は、
この調停条項案の書面による受諾について、
令和4年改正法による改正後の民
訴法第264条における受諾和解と同様、当事者の双方が出頭することが困難な場合の調停
条項案の書面による受諾に関する規律を設けることを提案するものである。
なお、家事調停事件においては、現行法下では、当事者間に事実上合意が成立しているが、
双方が出頭するのが困難であるようなケースについて、調停に代わる審判によって対応され
ているケースもあると思われるが、その場合は、当事者全員が異議申立権の放棄をしない限
り、
確定まで少なくとも二週間の期間を要するところ、
試案の5の規律による場合には、
調停
委員会が定めた調停が成立すべき日時に調停が成立したものとみなされることになる。
6 調停調書の送達又は送付
【甲案】
調停における合意を記載した調書は、当事者に送達しなければならないも
のとする。
【乙案】
調停における合意を記載した調書は、当事者に送達又は送付しなければな
らないものとする。
(注) 甲案、乙案のいずれについても、現行において実費精算する取扱いがなされている郵
便費用を、申立ての手数料に組み込み一本化することと併せて実現することを提案する
ものである。
(補足説明)
1 概要
現行の家事法には、成立した調停調書を当事者に送達や送付しなければならないとの規
定はなく、
調停調書を債務名義として強制執行をする場合
(民執法第29条)
など送達が必
要な場合は、実務上、当事者の送達申請によって送達することとされている。試案の6は、
民訴法においては、和解調書について当事者からの送達申請によらずに送達しなければな
らないものとすることとされたこと
(同法第267条第2項)
を踏まえ、
家事調停における
成立した調停調書について、
送達の申請がなくとも、
職権で、
送達や送付しなければならな
いものとすることについて検討するものである。1392 各案の内容等
(1) 甲案
甲案は、
家事調停における成立した調停調書についても、
民事訴訟手続の和解調書と同
様に、送達をしなければならないとするものである。
(2) 乙案
乙案は、
家事調停における成立した調停調書については、
送達又は送付しなければなら
ないとする規律とするものである。
家事事件の手続においては、
民事訴訟における判決とは異なり、
審判書についても必要
的に送達するものとはされていないこと(家事法第67条、第74条及び第256条参照)や、
調停調書には、
調停条項の内容からして債務名義とならないものもあり得るとこ
ろ、
送達は受送達者との関係で一定の時間を要し、
一律に送達によるべきものとした場合
には届出期間のある戸籍関係の届出等の関係で簡易迅速な処理の要請に反する場合も生
じ得ると考えられること等を理由とする。
なお、
乙案は、
送達又は送付のいずれの方法を
とるかどうかは、裁判所の判断に委ねるものである。もっとも、裁判所の判断と言って
も、部会では、当事者に希望がある場合にはそれを考慮して、判断すべき(例えば、調停
調書に基づき強制執行をするためには、調停調書が送達されていることが必要となるが、
強制執行のために当事者が送達を希望するケースでは、その希望を踏まえて判断すべき)
との指摘がある。
ただし、
このような考え方に対し、
部会においては、
民事訴訟手続における和解調書に
も、
和解条項の内容からして債務名義とならないものもあり得ると考えられるが、
民訴法
において、和解調書は一律に送達する扱いとしたこととの関係に留意すべきであるとの
指摘もあった。
(3) 試案の(注)
なお、
本文の提案が、
郵便費用を申立ての手数料に組み込み一本化することと併せて実現
することを提案するものであることは、
他の手続における和解調書
(調停調書)
の送達又は
送付に係る提案と同様である
(試案の
(注))。
その説明については、
試案の第5の5の(補足説明)参照。
7 電子化された事件記録の閲覧等
(1) 原則
電子化された事件記録についても請求の主体及び裁判所の許可に係る家事
法第47条第1項及び第254条第1項の規律を基本的に維持し、当事者又
は利害関係を疎明した第三者は、電子化された事件記録について、裁判所の
許可を得て、最高裁判所規則で定めるところにより、閲覧、複写(ダウンロ
ード)、事件記録に記録されている事項の内容を証明した文書若しくは電磁140的記録の交付若しくは提供又は事件に関する事項を証明した文書若しくは電
磁的記録の交付若しくは提供(以下この7において「閲覧等」という。)の
請求をすることができるものとする。
(注1) 電子化された事件記録の閲覧等の具体的な方法について、次のような規律を設け
るものとする。
1 当事者及び利害関係を疎明した第三者は、
裁判所設置端末及び裁判所外端末を用
いた閲覧等を請求することができる。
2 当事者は、
いつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧又は複写をするこ
とができる。
(注2) 本文のとおり、
法律上、
裁判所の閲覧等に許可を要するとの規律を維持した上で、
当事者がいつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧又は複写をすることが
できる((注1)2)ようにするための閲覧又は複写の許可の在り方として、例えば、
同一の当事者が一度閲覧又は複写の許可を得た部分を再度閲覧又は複写する場合に
は別途の許可を不要とするとの考え方や、閲覧又は複写を許可する部分の特定(家事
規則第35条参照)
に関し一定の場合には今後提出されるものも含めた範囲の指定を
可能とする(将来的な閲覧等を見越して、一定範囲のものについては、あらかじめ許
可を得られるようにして、
都度許可を得なくてもよいこととする)
との考え方がある。
ここでいう「一定の場合」としては、例えば、手続代理人が相手方等に閲覧等させて
も問題ないと判断した上で提出する資料を相手方等が閲覧等する場合に、
このような
取扱いを可能とする考え方がある。
(注3) (注1)の1につき裁判所外端末を用いて閲覧等をすることができるのは当事者
及び審判を受ける者となるべき者のみに限るとすべきとの考え方がある。
(補足説明)
1 請求の主体及び裁判所の許可と電子化された事件記録の閲覧等(試案の7(1))
家事事件の記録についても、その電子化が検討されており(前記試案の2・3)、電子化
された事件記録の閲覧等に関する規律が問題となる。
現行の家事法上、
事件記録の閲覧等には、
裁判所の許可を要するものとされており、
その
主体は、
当事者又は利害関係を疎明した第三者に限定されている
(家事法第47条及び第2
54条)。これは、家事事件の記録には、手続に関係する者のプライバシーに関わる情報が
含まれているため、その秘密を保持する必要があること、加えて、家事調停事件において
は、
他方当事者を感情的に非難する書面等が含まれることがあり、
当事者であっても原則と
して閲覧等が許可されるとすると、
当事者の感情をいたずらに刺激し、
円満かつ自主的な話
合いという調停手続の機能を損なうおそれがあるとの観点からとされている。
このような規律は、
電子化された事件記録においても、
変更する理由はないことから、試141
案の7(1)は、基本的に、請求の主体や裁判所の許可に係る家事法第47条及び第254条
の考え方を維持することとしている。
2 請求の具体的な内容(試案の7(1)及び(注1)から(注3)まで)
(1) 請求の内容(試案の7(1))
試案の7(1)は、家事事件における電子化された事件記録についても、請求することが
できる内容につき、
民事訴訟と同様の規律とすることを提案するものである。
民事訴訟の
説明その他の説明については、試案の第1の6の(補足説明)参照。
(2) 閲覧等の方法(試案の(注1))
試案の(注1)は、「民事訴訟法(IT化関係)等の改正に関する要綱」を踏まえて、
具体的な閲覧等の方法につき提案をしている。
要綱の説明その他の説明については、試案の第1の6の(補足説明)参照。
(3) 許可の在り方(試案の(注2))
試案の
(注1)
の2のとおり、
当事者がいつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた
閲覧又は複写をすることができるものとした場合には、閲覧等に裁判所の許可を要する
こととの関係で、
その許可の運用上の在り方が問題となる。
現在の実務では、
当事者等は
閲覧等の請求をするごとにその許可の申立てをし、
裁判所は、
当事者からこの許可の申立
てがある度に、
閲覧等を許可する部分を特定してその許可をしているが、
このような取扱
いを前提とすると、
当事者は、
いつでも裁判所外端末を用いた閲覧又は複写をすることは
できないことになる。
部会においては、当事者がいつでも事件の係属中に裁判所外端末を用いた閲覧又は複
写をすることができるという記録の電子化のメリットを活かすため、閲覧の申立てごと
ではなく申立ての対象ごとに許可の効力を考えることのほか、将来的な提出分を含めて
事前に包括的な許可をすることや、許可をする部分の特定の範囲を拡げることが考えら
れるとの意見があった。
例えば、
許可の効力については、
同一の当事者が一度閲覧又は複
写の許可を得た部分を再度閲覧又は複写する場合には別途の許可は不要であるとの考え
方があった。
また、
事前の包括的な許可については、
閲覧又は複写を許可する部分の特定
に関し一定の場合には今後提出されるものも含めた範囲の指定を可能とする(将来的な
閲覧等を見越して、一定の範囲のものについては、あらかじめ許可を得られるようにし
て、都度許可を得なくてもよいこととする)との考え方がある。この考え方に関し、部会
においては、家事事件のうち、特に、離婚調停事件や、遺産分割事件など対立する当事者
が想定される事件において、
当事者双方に手続代理人が選任されている場合などには、民事訴訟と同様に、
一方の当事者が裁判所に書面等を提出するとともに、
他方の当事者に事
前にその書面等を直接送付することがあるが、
このようなケースを念頭に、
一方の当事者
が裁判所にオンラインで資料等を提出した際に、その相手方がその提出された資料を適142時に閲覧等できるといったことが可能な仕組みが望ましいとの意見があった。
そこで、例えば、手続代理人が相手方等に閲覧等させても問題ないと判断した上で提出する資料を
相手方等が閲覧等する場合に、
裁判所の許可の在り方として、
このような、
今後提出され
るものも含めた範囲の指定を可能とする
(将来的な閲覧等を見越して、
一定範囲のものに
ついては、あらかじめ許可を得られるようにして、都度許可を得なくてもよいこととす
る)取扱いをすることが考えられる。
試案の(注2)は、こうした議論を踏まえ、当事者がいつでも事件の係属中に裁判所外
端末を用いた閲覧又は複写をすることができるようにするための閲覧等の許可の在り方
についての考え方を記載したものである。なお、この(注2)は飽くまで運用についての
考え方を記載したものであり、法律上の規律の導入については、試案の(2)の(注2)を
参照。
(4) 裁判所外端末の利用についての別の考え方(試案の(注3))
部会においては、試案の(注1)の1について、プライバシー等に関する情報が拡散す
ること等を懸念し、
裁判所外端末を用いた閲覧等は、
当事者及び審判を受ける者となるべ
き者(審判の名宛て人となる者)のみに限定して認めるべきであるとの意見もあった。
もっとも、
家事事件の手続においては、
当該事件に利害関係を有する多様な関係者が存
在する場合があり、試案の(注3)のような考え方をとるとすると、そのような者は、閲
覧等は認められても、
裁判所外端末を用いた閲覧等ができないこととなるが、
それは相当
ではないのではないかといった意見がある。
(2) 自己の提出した書面等及び裁判書等
1 当事者は、電子化された事件記録中当該当事者が提出したものに係る事
項については、裁判所の許可を得ないで、裁判所書記官に対し、閲覧等の
請求をすることができるものとする。
2 当事者は、電子審判書その他の電子裁判書については、裁判所の許可を
得ないで、裁判所書記官に対し、閲覧等の請求をすることができるものと
する。審判を受ける者が当該審判があった後に請求する場合も、同様とす
るものとする。
3 当事者は、事件に関する事項を証明した文書又は電磁的記録について
は、裁判所の許可を得ないで、裁判所書記官に対し、その交付又は提供の
請求をすることができるものとする。審判を受ける者が当該審判があった
後に請求する場合も、同様とするものとする。
4 当事者は、調停における合意を記載した調書及び調停が終了した際の調
書については、裁判所の許可を得ないで、裁判所書記官に対し、閲覧等の
請求をすることができるものとする。143(注1) 当事者は、電子化されていない事件記録中当該当事者が提出したものに係る事項
については、裁判所の許可を得ないで、裁判所書記官に対し、閲覧等の請求をするこ
とができるものとする。
(注2) 本文のほか、手続代理人が相手方等に閲覧等をさせても問題ないと判断した上で
提出する資料を相手方等が閲覧等する場合についても、裁判所の許可を得ないで、裁
判所書記官に対し、閲覧等の請求をすることができるものとするとの考え方がある。
(補足説明)
1 自己の提出したものの閲覧等の請求(試案の7(2)1・(注1))
家事事件の記録の閲覧等については、
現行法上、
裁判所の許可を要するものとされている
が、
当事者が自ら提出した資料については、
その当事者はその内容を既に知っており、
その
内容を閲覧等することについて弊害はないといえ、
基本的には、
閲覧等が不許可となること
はないと考えられる。
そこで、試案の7(2)1では、当事者は、電子化された事件記録中、当該当事者が提出し
たものに係る事項
(当事者が、
自らインターネットを利用して裁判所のファイルに記録する
方法で提出したものと、自ら提出した書面等の内容を裁判所書記官が裁判所のファイルに
記録したものの両方が含まれる。)については、裁判所の許可を得ないで、裁判所書記官に
対し、その閲覧等を請求することができるものとすることを提案している。
また、
当事者が提出した書面等が、
裁判所のファイルに記録されないこともあり、
そのよ
うなケースでも、当該当事者が自ら提出した書面等の閲覧等をする場合の裁判所の許可の
要否につき、それが裁判所のファイルに記録されている場合と区別する理由はない。
そこで、試案の(注1)は、電子化されていない事件記録についても、当事者は、当該当
事者が提出したものについては、
裁判所の許可を得ないで、
裁判所書記官に対し、
その閲覧
等を請求することができるものとすることを提案している。
2 審判書等(試案の7(2)2)
家事法第47条第6項及び第254条第4項第1号は、
当事者及び審判を受ける者
(当該
審判があった後に請求する場合に限る。)は、審判書等の裁判書の正本、謄本及び抄本につ
いては、
裁判所の許可を得ないで、
裁判所書記官に対し、
その交付を請求することができる
としている。
これは、
当事者及び当該審判を受ける者は、
審判書等の内容を当然に知ること
ができるとするものであり、
そうであれば、
閲覧の請求を含めて、
裁判所の許可を要すると
する必要はない。
そこで、試案の7(2)2は、当事者及び当該審判を受ける者は、電子審判書等の電子裁判書(審判書等の裁判書を電磁的記録によって作成することとする提案については、
試案の3
(1)参照)については、裁判所の許可を得ないで、裁判所書記官に対し、閲覧等の請求をす144ることができるものとすることを提案している。
3 証明書等(試案の7(2)3)
試案の7(2)3は、家事法第47条第6項及び第254条第4項第3号の規定と同様に、
当事者及び審判を受ける者(当該審判があった後に請求する場合に限る。)は、事件に関す
る事項を証明する文書又は電磁的記録については、
裁判所の許可を得ないで、
裁判所書記官
に対し、その交付又は提供の請求をすることができるものとすることを提案している。
4 調停調書等(試案の7(2)4)
家事法第254条第4項第2号は、
当事者は、
調停調書及び調停が終了した際の調書につ
いては、裁判所の許可を得ることなくその正本等の交付を請求することができるとしてい
ることから、
試案の7(2)4は、
当事者は、
電磁的記録によって作成されたこれらの調書(調書を電磁的記録によって作成することとする提案については、試案の3(1)参照)について
は、
裁判所の許可を得ないで、
裁判所書記官に対し、
閲覧等の請求をすることができるもの
とすることを提案している。
5 許可を不要とする範囲の拡大(試案の(注2))
前記のとおり、
家事事件のうち、
離婚調停事件や、
遺産分割事件など対立する当事者が想
定される事件において、
当事者双方に手続代理人が選任されている場合などには、
民事訴訟
と同様に、
一方の当事者が裁判所に書面等を提出するとともに、
他方の当事者に事前にその
書面等を直接送付することがあるが、
こういったケースでは、
法律上、
手続代理人が相手方
等に閲覧等させても問題ないと判断した上で提出する資料を相手方等が閲覧等する場合に
ついては、閲覧等に裁判所の許可を不要とすることも考えられるのではないかとの指摘が
あった。
そのため、
このような考え方について、
試案の
(注2)
に記載している。
もっとも、
この指摘に対しては、
裁判所が許可の判断をすることとされていることについて、
その規律
の例外として裁判所の許可なく可能とするかどうかを、手続代理人の判断で決められるこ
とが相当かという点が問題となり、部会では、法律上、許可を不要とすることは困難であ
り、前記試案の7(1)の(注2)にあるとおり運用上の問題として対応すべきとの意見があ
る。
8 送達等
(前注) 家事事件の手続では、
送付、
相当な方法による告知又は通知がされることがあるが、
送達はここでいう送付、相当な方法による告知及び通知の方法の一つであり、送達がさ
れれば、送付、相当な方法による告知及び通知がされたものと評価されることを前提と
している。145(1) 電磁的記録の送達
家事事件の手続における電磁的記録の送達について、民訴法第109条か
ら第109条の4までの規定を準用するものとする。
(補足説明)
試案の8(1)は、家事事件の手続における電磁的記録の送達についても、民事訴訟と同様の
規律とするために、民訴法第109条から第109条の4までの規定を準用することを提案
している。民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の7(1)の(補足説明)参照。
(2) 公示送達
家事事件の手続における公示送達について、民訴法第111条の規定を準
用するものとする。
(補足説明)
試案の8(2)は、家事事件の手続における公示送達についても、民事訴訟と同様の規律とす
るために、
民訴法第111条の規定を準用することを提案している。
民事訴訟の説明その他の
説明については、試案の第1の7(2)の(補足説明)参照。
なお、
公示送達にインターネットを利用する場合については、
特にプライバシーに配慮する
必要があるといった観点については、人事訴訟の手続の場合と同様(試案の第8の7(2))、
引き続き検討することが考えられる。
(後注1) 家事事件の手続において裁判所が行う公告について、最高裁判所規則で認められ
ている裁判所の掲示場への掲示に代えて、裁判所設置端末で閲覧することができるよう
にする措置をとることができるものとする。
(後注2) (後注1)を前提とした上で、裁判所の掲示場又は裁判所設置端末等への掲示、
及び官報への掲載に加えて、裁判所のウェブサイトに掲載する方法をとらなければなら
ないものとするとの考え方がある。
(補足説明)
家事事件の手続においては、
裁判所が行う関係者に対する周知の方法として、
公告が定めら
れているものがある(失踪の宣告の事件における公告(家事法第148条第3項)、相続人の
不存在の事件における相続財産の清算人の選任等の公告(民法第952条)など)。公告の方
法は、家事規則によって定められており、特別の定めがある場合を除き、裁判所の掲示場その
他裁判所内の公衆の見やすい場所に掲示し、
かつ、
官報に掲載する方法によってすることとさ146れている(同規則第4条第1項)。試案の(後注1)及び(後注2)は、その現在の方法を見
直すことについて検討するものである。
試案の(後注1)は、現行の家事規則に規定されている方法のうち、裁判所の掲示場への掲
示について、
民事訴訟手続における公示送達と同様に、
これに代えて裁判所設置端末で閲覧す
ることもできるようにすることを提案するものである。
試案の(後注2)は、裁判所の掲示場への掲示又は裁判所設置端末等での閲覧の方法をとる
こと及び官報への掲載に加えて、
情報の周知方法としての効果を向上させる観点から、
これも
民事訴訟手続における公示送達と同様に、裁判所のウェブサイトに掲載する方法といったイ
ンターネットを利用する方法をとらなければならないものとする考え方を提示している。も
っとも、民事訴訟手続における公示送達と異なり、上記のとおり、裁判所の掲示場等への掲示
に加えて、官報に掲載することが必要とされているところ、部会においては、官報もインター
ネットを利用して見ることもできるのであり、
官報を利用している公告については、
他に特段
のウェブ掲載は不要との考え方がある。
9 その他
(注1) システムを使った電磁的記録に記録された情報の内容に係る証拠調べの申出や、書
面の提出に代えて電磁的記録をファイルに記録する方法による陳述、ウェブ会議による
裁判所外の尋問など、ITを活用した証拠調べ手続について、民事訴訟手続と同様の規
律を設けるものとする。
(注2) 費用額確定の申立ての期限や、申立て手数料の納付がない場合の納付命令の裁判所
書記官の権限について民事訴訟手続と同様の規律を設けるものとするほか、申立て手数
料を納付しないことを理由とする申立書却下に対して申立て手数料を納付しないまま
した即時抗告は原裁判所において却下しなければならないとの規律を設けるものとす
る。
(注3) 民訴法の改正を踏まえて裁判官の権限のうち定型的な判断事項を裁判所書記官の権
限とする見直しなど実務上必要な見直しがないのか検討すべきとの考え方がある。
(補足説明)
1 証拠調べの手続(試案の(注1))
試案の(注1)は、家事事件の手続において証拠調べを行う場合に、民訴法におけるIT
を活用した証拠調べの規律と同様の規律を適用する考え方を記載するものである。民事訴
訟の説明その他の説明については、試案の第1の10の(注1)の(補足説明)参照。
2 費用額確定処分の申立ての期限と納付命令等(試案の(注2))
家事事件の手続における手続費用についても、その額が長期にわたって確定されない事147態を防ぐ必要があると考えられることから、試案の(注2)では、家事事件の手続における
手続費用の額の確定の申立てについて、民事訴訟手続と同様に10年の期間制限を設ける
ことを提案している。民事訴訟の説明その他の説明については、試案の第1の10の(注
2)の(補足説明)参照。
また、試案の(注2)は、家事事件の手続においても、申立て手数料の納付がない場合の
納付命令を裁判所書記官の権限とすること、
また、
申立て手数料
(民事訴訟費用等に関する
法律第3条第1項、
別表第1の16の項)
を納付しないことを理由とする申立書却下に対し
て手数料を納付しないまました即時抗告を原裁判所において却下しなければならないもの
とする規律を設けることを提案している。
民事訴訟の説明その他の説明については、
非訟事
件の手続における納付命令等に関する提案についての説明(試案の第5の9の(注2)の
(補足説明))参照。
3 その他(試案の(注3))
部会では、
民訴法の内容も踏まえつつ、
実務上見直しをすべき点がないか検討すべきであ
るとの指摘があった。
試案の(注3)は、この点について記載するものであり、今後、民訴法の内容を踏まえつ
つ、
実務上見直しをすべき点の指摘が具体的にあれば、
その指摘を踏まえて検討することも
考えられる。
第10 子の返還申立事件の手続(ハーグ条約実施法)
子の返還申立事件の手続(ハーグ条約実施法)について、第9の家事事件に関
する検討を踏まえ、基本的に、これと同様にIT化するものとする。
(補足説明)
子の返還申立事件の審理等については、
ハーグ条約実施法に規律が置かれており、
その手続
のIT化については、
家事事件の手続のIT化に関する検討
(試案第9)
が基本的に妥当する
ものと考えられる。
そこで、
試案の第10では、
子の返還申立事件の手続については、
家事事件の手続のIT化
に関する検討(試案の第9)を踏まえて検討することを提案している。部会においては、提出
された書面等の電子化について、別表第2に掲げる事項についての家事審判事件に準じて取
り扱うことになるのではないかとの指摘があった。
なお、
子の返還申立事件は、
和解により終
結するケースがあり、
当事者双方が受諾書を提出する方法による和解の規律は、
令和4年改正
法によって導入されている(ハーグ条約実施法第100条第1項が民訴法第264条第2項
を準用)。他方で、和解調書の送達又は送付については、現行法では規律が置かれておらず、
家事事件における調停調書の送達又は送付
(試案の第9の6)
に関する検討を踏まえて検討す148ることが考えられる。
また、
ITを活用して外国からの手続参加を認めることについては、
学説上、
国際法上も問
題はないという考え方がある一方で、
外国の主権との関係で慎重な考え方もあるため、
試案の
第10では、
外国からの手続参加が認められることを前提とはしていない。
これに対し、
部会
では、
国際条約に基づく手続であること等に鑑み、
外国からの手続参加を認めることについて
国際法上の問題は生じないのではないかとの意見や、これを認める実務上のニーズは高いと
いう指摘もあった。
第11 その他
(注) 仲裁法所定の裁判手続等他の民事・家事関係の裁判手続についても、第1から第10ま
での規律を踏まえて、IT化を検討する。
(補足説明)
試案の第1から第10までにおいて検討した各裁判手続のほか、
民事・家事関係の裁判手続
には、例えば仲裁手続に関して裁判所が行う手続(仲裁法)などがあるが、これらの手続につ
いても、これまでの検討を踏まえ、同様にIT化することが考えられる。試案の(注)は、そ
の旨記載するものである。