1担保法制部会資料 17
担保法制部会資料 17
担保法制の見直しに関する中間試案のとりまとめに向けた検討(6)
目次
第1 別除権としての取扱い..................................................................................................2
第2 担保権実行手続中止命令に関する規律..........................................................................251 担保権実行手続中止命令の適用の有無..........................................................................2
2 担保権実行手続禁止命令 ..............................................................................................5
3 担保権実行手続中止命令等を発令することができる時期の終期 ...................................7
4 担保権者の利益を保護するための手段..........................................................................8
5 審尋の要否.................................................................................................................10106 担保権実行手続中止命令等が発令された場合の第三債務者の保護..............................11
7 担保権実行手続取消命令 ............................................................................................14
第3 倒産手続開始申立特約の効力 .....................................................................................17
第4 倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産に対する担保権の効力..............................22
1 倒産手続の開始後に生じた債権に対する担保権の効力 ...............................................22152 倒産手続の開始後に取得した動産に対する担保権の効力............................................31
第5 担保の目的である財産に係る費用の負担....................................................................33
第6 否認 ...........................................................................................................................36
第7 担保権消滅許可制度の適用.........................................................................................41
1 破産法上の担保権消滅許可制度の適用........................................................................41202 民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用 ........................................43
文献略語表 ...........................................................................................................................45 2担保法制部会資料 17
第1 別除権としての取扱い
破産手続及び再生手続において、新たな規定に係る担保権を有する者を別除権者(破産法
第2条第 10 項、民事再生法第 53 条)として、更生手続において、新たな規定に係る担保権
の被担保債権を有する者を更生担保権者(会社更生法第2条第 11 項)として、それぞれ扱う
ものとしてはどうか。5(説明)
本文は、現行法の譲渡担保権者や所有権留保売主1については、法律上明記されていない
ものの、その担保としての法的性質に着目して、破産・再生手続上は別除権者として、更
生手続上は更生担保権者として処遇されるべきとするのが通説2であることや、判例には、10所有権留保について再生手続上別除権として扱われることを前提とした判断をしたもの
(最判平成 22 年6月4日民集 64 巻4号 1107 頁)や、譲渡担保権者が更生手続上更生担
保権者として扱われるとしたもの(最判昭和 41 年4月 28 日民集 20 巻4号 900 頁)があ
ること等を踏まえ、新たな規定に係る担保権を有する者を別除権者又は更生担保権者とし
て扱うことを提案するものであり、部会資料8の第1の提案について特段の異論がなかっ15たことから、当該提案を維持するものである。
なお、本部会での審議において、この規定を設けるに当たっては、本文の内容(実質)
を規定においてどのように表現するかについて検討が必要ではないかという意見があった。
この点については、新たな規定に係る担保権の法律構成についてどのような規定とするか
等を踏まえ、法制的な観点から、検討する必要があると考えられる。20第2 担保権実行手続中止命令に関する規律
1 担保権実行手続中止命令の適用の有無
(1) 新たな規定に係る担保権の実行手続(私的実行手続を含む。以下(2)において同じ。)を民事再生法上の担保権実行手続中止命令(同法第 31 条)の対象としてはどうか。25(2) 新たな規定に係る担保権の実行手続を会社更生法、会社法及び外国倒産処理手続の承
認援助に関する法律に基づく担保権実行手続中止命令(会社更生法第 24 条、会社法第
516 条及び外国倒産処理手続の承認援助に関する法律第 27 条)の対象としてはどうか。
(説明)301 本文での提案
本文(1)は、新たな規定に係る担保権の実行手続を民事再生法第 31 条の担保権実行手続
中止命令(以下単に「中止命令」ということがある。
)の対象とすることを明示することを
提案するものである。部会資料8の第2、1の提案に特段の異論がなかったことから、当
該提案を維持するものである。351 担保権の被担保債権についても担保権者が有していることを前提とする。以下この(説明)において
同様。
2 道垣内・担保物権法 331 頁、山本(和)ほか・倒産法概説 132〜133 頁、148 頁、159 頁〔沖野眞
已〕参照 3担保法制部会資料 17
また、
更生手続、
特別清算手続及び承認援助手続に関しても、
会社更生法第 24 条第1項
第2号、会社法第 516 条及び外国倒産処理手続の承認援助に関する法律第 27 条において
それぞれ担保権の実行手続の中止命令に関する規定が設けられている。このうち、会社更
生法に基づく中止命令の趣旨は、更生手続開始申立てがされた場合において、更生債権者
等一般及び株式会社の利益の観点から担保権の実行を含む手続を中止させ、更生手続開始5決定の効果としての中止等に接続させることにあり、会社法に基づく中止命令の趣旨は、
清算株式会社の財産をより有利に換価するための時間的猶予を与えることにあり、
さらに、
承認援助手続における中止命令の趣旨は、外国手続の効力を日本国内でも適切に実現する
ことによって外国手続を援助する観点から、実効的な援助を行うことにある。これらの趣
旨は民事再生法に基づく中止命令とはそれぞれ異なるものの、新たな規定に係る担保権の10実行手続についても当てはまるものと考えられ、本部会での審議でも、新たな規定に係る
担保権の実行手続をこれらの中止命令の対象とすることを支持する意見があった一方、反
対する意見はなかった。このことから、本文(2)は、新たな規定に係る担保権の実行手続を
これらの中止命令の対象とすることを提案するものである。
2 実行手続の内容15(1) 本部会での審議では、民事再生法第 31 条に規定する「実行手続」は、一般に民事執行
法に基づく手続をいうものと解されていることから、新たな規定に係る担保権の実行方
法として私的実行を明文で規定し、それを中止命令の対象とするのであれば、その点を
規定上明らかにする必要があるのではないか、とりわけ、複数の債権を譲渡担保の目的
とした場合において、設定者の取立て等の権限を喪失させることが中止命令による中止20の対象に含まれるのかを明確にすべきではないか、という意見があった。
民事執行法に基づく実行手続に加えて私的実行を中止命令の対象とする規定を設ける
場合に、
どのような規定ぶりとすべきかは法制上の観点も踏まえ検討する必要があるが、
本文では、さしあたり実質を明確にする観点で、中止命令の対象である新たな規定に係
る担保権の実行手続に私的実行手続が含まれることを明確にしている。25また、将来債権を含む複数の債権を目的とする譲渡担保には、実行されるまでは設定
者が担保目的債権の取立権限3を有し、実行に当たって、担保権者が設定者の取立権限を
喪失させた上で第三債務者から目的債権を直接取り立てることによって被担保債権を回
収する類型がある。
このような類型における現行法の集合債権譲渡担保の構成としては、
1担保権の設定を受けたことについての債務者対抗要件の具備を留保しておき、実行段30階でこれを具備するものや、2目的債権の取立権限を設定者に付与し、第三債務者に対
しては、債務者対抗要件を具備した上で設定者に弁済するよう指示しておくものなどが
ある。1においては債務者対抗要件を具備することにより、2においては設定者に対す
る取立権限授与の解除と第三債務者に対するその通知(以後、担保権者に弁済すること
を求める通知)を発送することにより、担保権者は設定者の取立権限を失わせることに35なる。
中止命令等が設定者の取立権限の喪失前にされた場合については、設定者の取立権限
を喪失させること自体が禁じられるかどうかが問題になる。この点について、現行法上
3 取り立てた金銭の利用権限を含む。以下同じ。 4担保法制部会資料 17
の集合債権譲渡担保について、設定者による取立てなどによって担保の目的財産から離
脱する個別債権の担保価値を新たに流入する個別債権の担保価値が補償することによっ
て集合物としての担保価値を譲渡担保権者が摑取するものであり、中止命令はこの補償
関係を変更・制限するものではなく、譲渡担保権者が担保価値を自らの取立てによって
実現することを制限するものに過ぎないとして、対抗要件を具備する行為を禁止するも5のではないとの見解4がある。これに対し、対抗要件具備行為は実質的には担保権実行の
着手であり、これを禁止することによって債権譲渡担保に中止命令の実効性を確保する
ことができるとして肯定する見解5もある(なお、上記2においては設定者への取立権限
授与の解除及びその通知が禁じられるかが問題になるが、この点についても同様の対立
があると思われる。)。実務上は、対抗要件具備を禁止する旨の中止命令も発令されてい10るようであり6、この見解に立つと、担保権者は第三債務者との関係で債権者とは扱われ
ないから目的債権を取り立てる等することができず、他方で設定者は取立権限を失わな
いことになる。
いわゆる集合債権が担保の目的となっている場合に設定者が目的債権の取立権限を失
うと、設定者は事業を継続することができなくなることも多い。したがって、中止命令15が発令されたにもかかわらず、担保権者は債務者対抗要件の具備や取立権限の付与の解
除等によって設定者が有していた取立権限を喪失させることができるとすると、中止命
令の目的を達成することができなくなる場合が生ずる。倒産手続が開始された設定者が
目的債権を取り立て続けることによって担保権者が害されるおそれも考えられるが、こ
の点については中止命令の条件によって担保権者の利益を守る手段を設けられるのであ20れば、中止命令によって、債務者対抗要件の具備や取立権限の付与の解除も禁じられる
と考えるべきであると考えられるが、どのように考えるか7。
(2) また、所有権留保付売買契約の解除が中止命令の対象となるかも問題となる。
部会資料 16 の第6では、留保所有権の実行及び売買契約の解除を異なる制度として
併存させることを提案している。これは、所有権留保売主の解除権を制限するなどして25その地位を通常の売主よりも弱めることは契約当事者の合理的意思にも反すると考えら
れることや、売買契約の解除を認めたとしても直ちに留保所有権者が倒産手続において
有利な地位に立つものとはいえないこと等を根拠とするものである。
これと同様に考えれば、通常の売買契約の解除が中止命令の対象とならない以上、所
有権留保付売買契約の解除を中止命令の対象としないのが相当であるように思われる30(また、これは後記2の禁止命令についても同様であるように思われる。
)が、どのよう
4 伊藤(眞)
・集合債権譲渡担保と民事再生手続上の中止命令 457 頁。また、山本克己「判批」金法
1905 号 55 頁(2010)も、担保権実行手続中止命令において債権者対抗要件の具備行為を禁止するこ
とが許されるかどうかそれ自体が問題であるとする。
5 倉部・再建型倒産手続における諸問題 91 頁
6 鹿子木・手引 90 頁に掲載されている中止命令の主文例においては、
「第三債務者に対して申立人名義
の債権譲渡通知をし、申立人の代理人として債権譲渡通知をし、若しくは動産及び債権の譲渡の対抗要
件に関する民法の特例等に関する法律4条2項所定の通知をし、又は第三債務者の承諾を取得する等の
権利行使をしてはならない」という部分が含まれている。
7 なお、このように考えるとしてもこれを条文上明記することができるかどうかについては、更に検討
を要する。 5担保法制部会資料 17
に考えるか。
2 担保権実行手続禁止命令
(1) 再生手続において、新たな規定に係る担保権の【実行手続/私的実行手続】を実行手
続の開始前に発令される担保権実行手続禁止命令の対象としてはどうか。5(2) 新たな規定に係る担保権についての担保権実行手続中止命令及び担保権実行手続禁止
命令の要件は、現行の担保権実行手続中止命令(民事再生法第 31 条)と同様としてはど
うか。
(3) 更生手続、特別清算手続及び承認援助手続において同様の規定を設けるものとしては
どうか。10(4) 債権質権の【実行手続/直接取立てによる実行】をこれらの手続の対象としてはどう
か。
(説明)
1 担保権実行手続禁止命令の必要性15(1) 本文(1)は、新たな規定に係る担保権について、中止命令の対象とするとともに、再生
手続の申立てがあった後、実行の着手前の、担保の実行を禁止する旨の命令(担保権実
行手続禁止命令。以下単に「禁止命令」ということがある。
)の対象とすることを提案し
ている8。
これは、民事再生法第 31 条が規定する中止命令は、すでに継続し又は開始している20担保権の実行手続を中止するもので、担保権の実行を事前に禁止する効力を有するもの
ではないと解されている一方で、新たな規定に係る担保権のうち動産を目的とするもの
については実行の着手から短期間で終了すること、債権譲渡担保については一旦担保権
者が第三債務者に対して自分に弁済するように求める通知をしてしまうと、中止命令が
発令されたとしても第三債務者に送達されないことから発令後も担保権者に弁済がされ25る可能性があること、構成部分の変動する集合動産を目的とする場合については一旦実
行開始通知により担保目的物に関する設定者の処分権限が喪失されるとスムーズな事業
活動が困難であることによる。
(2) 上記のとおり、禁止命令は、実行の着手前に担保の実行を禁止する旨の命令であり、
そのタイミングにおいて中止命令と異なることとなるが、本部会での審議では、私的実30行において、何をもって実行の着手かは明らかではないことから、禁止命令と中止命令
とを区別して規定する必要はないのではないかという意見があった。
確かに、禁止命令は、その趣旨において中止命令と異なるものではなく、むしろ、既
存の担保権の実行について中止命令により可能とされていることを、新たな規定に係る
担保権の実行についても実現しようとするものである。35そうだとすれば、法制的な観点からも引き続き検討が必要であり、この(説明)の後
8 同様の立法提案をするものとして、赫・集合動産、将来債権譲渡担保の再生手続、更生手続における
取扱い 223 頁、清水・担保権実行の中止命令 233 頁、中島・動産・債権担保と倒産をめぐる立法的課
題 40 頁、倉部・再建型倒産手続における諸問題 90 頁など。 6担保法制部会資料 17
記(3)の禁止命令の対象の問題やこの(説明)の後記2の要件の問題とも関係するが、新
たな規定に係る担保権の実行手続(あるいは私的実行手続)については、禁止命令と中
止命令とを区別しない形で規定を設けることも考えられる。
(3) 新たな規定に係る担保権について禁止命令の対象とすることについては、典型担保権
の実行手続との均衡が問題になる。5この点については、新たな規定に係る担保権の私的実行については、前記のとおり、
極めて短期間に終了し、設定者が適切な対応を取る時間的な余裕がないという特殊性が
あることによって説明することが可能である。他方で、新たな規定に係る担保権の実行
について民事執行法の規定に基づく競売の方法を採る場合には、私的実行の場合と比べ
ると時間的猶予があり、その特殊性が必ずしも妥当しないことに鑑みれば、禁止命令の10対象は新たな規定に係る担保権の私的実行のみとし、新たな規定に係る担保権に基づく
民事執行法に基づく競売手続をその対象としないことも考えられる。
他方で、本部会での審議では、禁止命令を発令する時点ではどのような方法で担保権
実行がされるかわからないから、新たな規定に係る担保権に基づく私的実行のみならず
民事執行法に基づく競売手続も広く禁止命令の対象とすべきという意見があった。確か15に、競売手続が禁止命令の対象とされたとしても、中止命令と同様の要件によって判断
される以上、担保権者の保護に欠けるとは言い難いように思われるし、一度私的実行手
続に関する禁止命令が発令されたにもかかわらず、競売手続が開始された場合に再度中
止命令の申立てを行うのは煩雑であるから、新たな規定に係る担保権の実行手続一般を
その対象とするのが望ましいとも考えられる。20この点について、どのように考えるか。
2 担保権実行手続禁止命令の要件
本文(2)は、新たな規定に係る担保権についての中止命令及び禁止命令の要件を、現行の
中止命令の要件と同様とすることを提案するものである。
禁止命令については、中止命令より限定的に発令されるべきであり、より厳格な要件を25設けるべきという考え方もあるが、本部会での審議では、典型担保についての中止命令と
同じような実効性を持たせるために禁止命令を設けるのであり、現行の中止命令の要件と
異なる要件とする必要はないという意見があった。また、私的実行は何をもって開始され
たかが不明確であるため、中止命令と禁止命令の要件が異なるものとすると、そのいずれ
が適用されるかを巡って無用な紛争が生ずるようにも思われる。30そこで、本文(2)では、新たな規定に係る担保権についての禁止命令を含め、現行の中止
命令の要件と同様とすることを提案している。
3 会社更生法に基づく担保権実行手続禁止命令、特別清算手続における担保権実行手続禁
止命令及び承認援助手続における担保権実行手続禁止命令の必要性
本文(3)は、
更生手続、
特別清算手続及び承認援助手続においても、
会社更生法第 24 条第351項第2号、会社法第 516 条及び外国倒産処理手続の承認援助に関する法律第 27 条に基
づく担保権の実行手続の中止命令に加え、同様に禁止命令の規定を設けることを提案して
いる。
これは、新たな規定に係る担保権の私的実行が極めて短期間に終了し、設定者が適切な 7担保法制部会資料 17
対応を取る時間的な余裕がないという特殊性により中止命令の実効性が確保できないのは、
民事再生法に基づく中止命令の場合と同様であると考えられるためである。
4 債権質権を禁止命令の対象とすることの当否
債権質権については、質権者が第三債務者から直接取り立てる方式による実行が認めら
れているが、新たな規定に係る担保権のうち債権を目的とするものの実行方法はこれに倣5ったものである。このため、新たな規定に係る担保権について禁止命令を設けるのであれ
ば、債権質権についても同様に禁止命令の対象とすべきであると考えられる。
本文(4)は、このような考え方に基づいて、債権質権を禁止命令の対象とすることを提案
するものである。
債権質権を禁止命令の対象とする場合でも、その実行手続を広く禁止命令の対象とする10か、私的実行(担保権者による直接取立て)のみをその対象とするかについて議論があり
得るのは、新たな規定に係る担保権と同様である。
3 担保権実行手続中止命令等を発令することができる時期の終期
担保権実行手続中止命令又は前記2による禁止の命令のうち、新たな規定に係る担保権15の私的実行に係るものについては、被担保債権に係る債務が消滅する時までにしなければ
ならないものとしてはどうか。また、債権質権の取立てに係る担保権実行手続中止命令又
は前記2による禁止の命令についても同様の規定を設けるものとしてはどうか。
(説明)201 中止命令は、担保権実行の終了時までに発令することにより、実行手続の続行を停止す
るものである9ため、
中止命令を発令するためにはその実行が終了していないことが必要で
あるが、新たな規定に係る担保権の私的実行手続については、民事執行法に基づく実行手
続と異なり、その終了時期が明らかでなく、明確化の必要性が高い。
本文は、中止命令を発令することができるのは、担保権の換価価値が被担保債権に充当25されて担保権が消滅する時(すなわち、その後に設定者が被担保債権を弁済して担保権を
消滅させることができなくなる時)までであるという考え方に基づいて規定を設けること
を提案するものである。また、前記2において禁止命令の制度を設ける場合にも、これを
いつまで発令することができるかが問題になるが、この点についても中止命令と同様に考
えようとするものである。担保の目的物の換価価値が被担保債権に充当されて被担保債権30が消滅するまでは、設定者は目的財産に係る権利を確定的には失っておらず、それが事業
の継続に不可欠である場合には別除権協定を通じてこれを維持する余地がある一方、被担
保債権が消滅して担保権も消滅すると、もはや別除権協定を締結する余地もなくなるから
である。
部会資料8の第2、3において以上と実質的に同様の提案をしたところ、以上の考え方35を支持する意見が多数であったことから、その実質的な内容を維持するものである。
なお、
被担保債権が消滅した後も受戻権が存続するという考え方
(部会資料 15 の第5、
2の(説明)6を参照)を採った場合に、中止命令を発令することができる終期を被担保
9 園尾=小林・条解民事再生法 151 頁〔高田裕成〕 8担保法制部会資料 17
債権の消滅時とすべきか、受戻権の消滅時とすべきか(具体的には、清算金の提供や清算
金が生じない旨の通知がされた後でも、担保権者に対する引渡しが終了するまでは中止命
令を発令することができることとすべきか)が問題になる。別除権協定により事業の再生
に必要な重要な財産の逸出を防ぐことを可能にするという趣旨からすると、目的物を受け
戻す余地が残されている限りは中止命令を発令する可能性が残すという考え方があり得る5ようにも思われる。しかし、中止命令はあくまで担保権の実行手続の中止を命ずるもので
あることからすると、担保権が消滅した後に実行手続の中止命令を発令する余地を残すこ
とは困難であるように思われる。また、被担保債権消滅後に受戻権を存続させる必要があ
るとしても、被担保債権額相当額の支払をして初めて受け戻すことができるとすれば十分
であり、その支払がされていない段階で引渡しの請求を禁止するのは、担保権者の権利行10使の過度な制約であるようにも思われる10。
そこで、
本文では、
いずれの考え方を採るとし
ても、中止命令等を発令することができるのは被担保債権の消滅時までとすることを提案
している。
2 具体的に被担保債権が消滅するのは、帰属清算方式においては、清算金の支払若しくは
提供又は清算金が生じない旨の通知がされた時であり、処分清算方式においては、目的物15が第三者に処分された時である。債権譲渡担保については、帰属清算方式及び処分清算方
式による場合には担保権の目的が動産であった場合と同様になると考えられ、担保権者が
直接取り立てる方式での実行による場合には、
目的債権の取立てが終わる時と考えられる。
3 また、債権質についても、質権者による取立てにより実行される場合、その終了時期が
明らかでなく、同様に明確化する必要性が高いと考えられる。そこで、本文では、債権質20についても、同様に規定を整備することを提案している。
4 担保権者の利益を保護するための手段
担保権実行手続中止命令及び前記2による禁止の命令について、以下のいずれかのよう
な規定を設けてはどうか。25【案 17.2.4.1】新たな規定に係る担保権のうち、担保権の目的物が特定範囲によって特定さ
れ、特定範囲に、設定者に将来属すべきものを含むものに関する担保権実行手続中止命令
及び前記2による禁止の命令は、担保権者に不当な損害を及ぼさないために必要な条件を
付して発することができる。
【案 17.2.4.2】担保権実行手続中止命令及び前記2による禁止の命令は、担保権者に不当な30損害を及ぼさないために必要な条件を付して発することができる。
(説明)
1 集合動産譲渡担保及び集合債権譲渡担保に対する中止命令等における不当な損害
(1) 民事再生法第 31 条は、中止命令の要件として、
「競売申立人に不当な損害を及ぼすお3510 山本(健)ほか・動産譲渡担保権の私的実行250 頁は、被担保債権が消滅した後も現実の引渡しが
されるまで設定者に受戻権を認めるべき理由として、担保権者に具体的な不利益が生じないことを挙げ
ている。 9担保法制部会資料 17
それがないものと認める」ことを要件としている。これは、単なる損害ではなく、再生
手続の遂行に当たって担保権者が社会通念上受忍すべき犠牲の程度を超える損害がある
場合に中止を許さない趣旨であるとされている11。具体的には、担保権者自身の資金繰
りが悪化し、倒産の危険が生じるおそれがある場合12や、目的物の価値の下落により回
収額が大幅に減少するおそれがある場合13などが「不当な損害」を及ぼす場合に当たる5とされる。
(2) 動産や債権は、価値の変動が著しいという一般的特性があるため、これを目的とする
担保権の実行が遅れるとその減価が進むおそれがあるとの指摘がある14。また、集合動
産や集合債権を目的とする担保は、設定者による通常の営業の範囲内での処分や取立て
によって担保の目的財産が一定の範囲で消滅し、新たに集合物に加入する動産や発生す10る債権によってその消滅分が塡補される場合があるが、この填補が不十分であると、担
保権の目的財産の価値が減少することとなる。このように、集合動産や集合債権を目的
とする担保においては、
中止命令等が発令された場合に担保権者が負うリスクが大きい。
そこで、これらの実行に対する中止命令等の発令に当たって担保権者の利益をどのよう
に保護するかが問題となる。152 本文での提案について
(1) 以上を踏まえて、本文では、
(一定の担保権に関する)中止命令等は、担保権者に不当
な損害を及ぼさないために必要な条件を付して発することができるとすることを提案し
ている。担保権者に不当な損害を及ぼさないために必要な条件として、担保権者の優先
権を保障する措置を定めることを想定したものである15。この措置としては、保証金の20提供や代替担保、分別管理口座を開設させた上で、目的動産の処分代金/目的債権につ
いての取立てにより得た金銭を分別管理口座に入金させ
(同時に出金を制限し)、その口
座に係る預金債権に担保設定をすることなどが考えられるが、具体的場面においていか
なる措置をとるべきかは、倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産に対して担保権の
効力がどこまで及ぶかにも関連すると考えられ、そこでの検討を踏まえる必要がある。25【案 17.2.4.1】は、新たな規定に係る担保権のうち、担保権の目的物が特定範囲によ
って特定され、特定範囲に、設定者に将来属すべきものを含むものをその対象としてい
るが、これは、中止命令等が発令された場合に担保権者が負う担保目的物の消滅等のリ
スクは、
構成部分の変動する集合動産・集合債権譲渡担保において大きいことを踏まえ、
それらに対象を限定する趣旨である。30もっとも、構成部分の変動する集合動産・集合債権譲渡担保以外においても、担保目
11 才口=伊藤・新注釈(上)158 頁〔三森仁〕
、園尾=小林・条解民事再生法 150〜151 頁〔高田裕
成〕
12 松下・民事再生法入門 100 頁、才口=伊藤・新注釈(上)158 頁〔三森仁〕
13 伊藤(眞)
・破産法・民事再生法 848 頁、松下・民事再生法入門 100 頁、才口=伊藤・新注釈(上)
158 頁〔三森仁〕
14 小林(信)
・非典型担保権の倒産手続における処遇 205 頁
15 実務上は、中止命令の発令の申立てに当たり、再生債務者が具体的な条件を提示し、無条件での発令
がされると担保権者に不当な損害を及ぼすおそれがあるとしても、具体的にくろまるくろまるという条件を付せばそ
のようなおそれがないから、当該条件を付して中止命令を発するべきである、という主張をし、裁判所
はそれを踏まえて条件を付すことになると想定される。 10担保法制部会資料 17
的物の減価等のリスクはあり得る。この(説明)の前記1(2)のとおり、動産及び債権は
減価のリスクが大きく、それらを目的とする新たな規定に係る担保権においてそのよう
な減価のリスクが大きいし、動産質権や債権質権など、動産や債権を目的とする既存の
担保物権についても減価のリスクがあるように思われ、有価証券など動産及び債権以外
を目的とする担保物権についても同様である。さらに、不動産を目的とする担保物権に5ついても、減価のリスクがないとはいえない。
これらを踏まえ、
【案 17.2.4.2】では、対象を限定することなく、広く中止命令等につ
いて、担保権者に不当な損害を及ぼさないために必要な条件を付して発することができ
るとすることを提案している。
この条件の違反があった場合には、中止命令等が発令された前提を欠くことになるか10ら、これにより担保権者に不当な損害を及ぼすおそれが生じた場合には、裁判所は速や
かに中止命令を取り消すという運用が考えられる。
また、
以上の趣旨は後記7の担保権実行手続取消命令にも妥当すると考えられるから、
これについても同様の規定を設けることが想定される。
(2) これに加え、立法論として、中止命令等が発令された結果担保権者に損害が生じた場15合の「賠償請求権」を共益債権とするという提案も示されている。しかし、その前提と
して、当該請求権が実体法的にどのような請求権なのかを整理する必要があるように思
われる。再生債務者の行為による損害賠償請求権又は不当利得返還請求権が考えられる
16が、
中止命令等によって生じた損害が
「再生債務者の行為」
によって発生したといえる
かには疑問もあり、また、担保権者に不当な損害が生じた場合に再生債務者が利得を得20たといえるか、利得と担保権者の損失に因果関係があるかには疑問があるため、少なく
とも担保権者に不当な損害が生じた全てのケースについて、再生債務者の行為による損
害賠償請求権又は不当利得返還請求権の成立を認めるのは困難であると思われる。そう
すると、担保権者に不当な損害が生じた場合に、共益債権の行使という方法でその損害
を回復することができるようにするためには、前提として、中止命令等によって担保権25者が(不当な)損害を受けた場合における法定の請求権として、賠償(補償)請求権を
規定する必要があるようにも思われるが、このような法定の請求権を新たな規定に係る
担保権にのみ規定することができるかには疑問がある。また、本部会での審議では、中
止命令が発令された結果担保目的物が減価した場合において、その減価分が一般債権者
の利益となっていないにもかかわらず、担保権者の損害に係る請求権を共益債権化する30と、一般債権者の取り分が減少することから、常に共益債権化することは適切でないと
の意見が複数あった。
以上から、
本文においては共益債権化に関する提案をしていない。
5 審尋の要否
新たな規定に係る担保権の私的実行に対する担保権実行手続中止命令及び前記2による35禁止の命令は、あらかじめ担保権者の意見を聴くことなく発することができ、ただし、あ
16 なお、損害賠償請求権に該当するのであればこれを発生させる再生債務者の行為が再生手続開始後の
ものである場合、不当利得返還請求権に該当するのであればこれが再生手続開始後に発生した場合に
は、現行法においても共益債権と扱われる(民事再生法第 119 条第5号、第6号)。 11
担保法制部会資料 17
らかじめ担保権者の意見を聴くことなくこれらの命令を発したときは、裁判所は、発令の
後遅滞なく担保権者の意見を聴かなければならないものとしてはどうか。
(説明)
民事再生法第 31 条第2項は、中止命令を発令する場合には、担保権者の意見を聴かな5ければならないと定めている。しかしながら、新たな規定に係る担保権の私的実行は短時
間で終了する場合もあるから、禁止命令の発令に当たって担保権者の意見聴取の機会を設
けると、担保権者が禁止命令の申立てがあったことを知って実行手続を急ぐことにより、
その発令前に実行手続が終了するおそれがある。
そこで、本文は、新たな規定に係る担保権の私的実行(帰属清算方式、処分清算方式及10び直接取立方式)
については、
これに対する中止命令及び禁止命令を発令するに当たって、
担保権者からの事前に意見を聴取する必要はないものとし、ただし、事前に担保権者の意
見を聴取しなかった場合には、発令後に遅滞なくその意見を聴かなければならないとする
ことを提案している。
部会資料8の第2、5で提案した内容に反対する意見がなかったことから、提案の内容15を維持するものである。
6 担保権実行手続中止命令等が発令された場合の第三債務者の保護
債権を目的とする担保権(債権質権及び新たな規定に係る担保権)の実行に当たって担
保権者が取立権限を取得したが、その後に担保権実行手続中止命令又は前記2による禁止20の命令が発令された場合の第三債務者の保護に関して、以下のような考え方があるが、ど
のように考えるか。
【案 17.2.6.1】担保権実行手続中止命令又は禁止の命令が発令された場合にも、第三債務者
が担保権者に対して弁済することは妨げられないものとする。
【案 17.2.6.2】担保権実行手続中止命令又は禁止の命令が発令された場合において、第三債25務者がこれらが発令されたことを知っていたときは、担保権者に対する債務消滅行為の効
力を設定者に対抗することができないものとする。
【案 17.2.6.3】
担保権実行手続中止命令又は禁止の命令が発令されたときは、
第三債務者は、
担保権者に対する債務消滅行為の効力を設定者に対抗することができないものとした上で、
再生裁判所(裁判所書記官)は、第三債務者に対して、これらの命令が発令された旨等を30通知しなければならないものとする。
(説明)
1 第三債務者保護の必要性
債権を目的とする担保権の担保権者が、その債務者対抗要件(民法第 467 条に基づく債35権譲渡通知又は動産・債権譲渡特例法第4条第2項の通知)を具備するか、取立権限の授
与が解除されたこと等を通知した場合、担保権者は実行として目的債権を直接取り立てる
ことができるが、中止命令がその後に発令された場合には、担保権者は、目的債権の取立
てをすることができなくなる。しかし、債務者対抗要件又は取立権限授与の解除等の通知 12担保法制部会資料 17
を受けた第三債務者は、担保権者に対して弁済すべきであると認識しているのが通常であ
るから、第三債務者をどのように保護するかが問題となる(また、債務者対抗要件具備前
に中止命令が発令されても、担保権者がその後債務者対抗要件を具備することは禁止され
ないという見解を採ると、債務者対抗要件具備によって第三債務者は担保権者に対して弁
済すべきであると認識するにもかかわらず、担保権者は取立権限を有しないという事態が5生じ得ることとなり、第三者保護の問題が生ずる。)。
この点については、担保の実行としての取立てが禁止されるため、第三債務者が担保権
者に弁済した場合にはその弁済は無効であるとした上で、受領権者としての外観を有する
者に対する弁済(民法第 478 条)として保護されるとする見解がある17が、さらに、弁済
禁止の保全処分の効果
(民事再生法第 30 条第6項)
を類推し、
第三債務者は悪意である場10合は弁済の効力を主張することができない(善意であれば弁済による債務消滅を主張する
ことができる)
とする見解18も主張されている。
また、
中止命令は第三債務者に対して弁済
を禁止する効力を有するものではないとの指摘もある19(これに従えば、第三債務者が譲
渡担保権者に対して弁済をした場合には、第三債務者の主観的事情にかかわらず弁済とし
て有効なものであり、債務は消滅することになると考えられる。)。152 本文での提案
(1) 現行法の集合債権譲渡担保の実行に対して中止命令等が発令された場合について、譲
渡担保の設定に何ら関与していない第三債務者に二重払いのリスクを負わせ、そのリス
クにおいて再生債務者が利益を得ることは妥当でない。前記のとおり、現行法において
も、中止命令等には第三債務者に対する弁済禁止効を有しないという指摘もある。これ20らを踏まえ、第三債務者の保護の観点から、第三債務者が担保権者に弁済すれば免責さ
れるものとする考え方があり得、
【案 17.2.6.1】として提案している。中止命令等は、担
保権者が積極的に目的債権を取り立てることを禁ずるものであるが、第三債務者に対し
て弁済を禁止する効力を有しないことになる。
部会資料8の第2、6のとおり、このような考え方を採ると、第三債務者の保護は手25厚いものとなるが、中止命令等の効果は一定程度減殺されることになる。
(2) そこで、中止命令等が発令された場合において、第三債務者がその発令を知っていた
ときは、担保権者に対する債務消滅行為を設定者に対抗することができないとすること
が考えられる。これが【案 17.2.6.2】であり、現行法において、民事再生法第 30 条第6
項を類推適用して、第三債務者が悪意である場合には担保権者に対する債務消滅行為の30効力を対抗することができないとする考え方が主張されていることを参考にしたもので
ある。
受領権者の外観を有する者に対する弁済として扱われるための要件と比べた場合、
【案
17.2.6.2】
は、
第三債務者の無過失を要件としないこと、
弁済の効力を争う当事者が第三
債務者の悪意の立証責任を負担することの2点で、受領権者の外観を有する者に対する35弁済よりも第三債務者の保護が厚くなっているものということができる。
17 中森ほか・担保権の取扱い 51 頁〔赫高規発言〕
、52 頁〔小野憲一発言〕
18 伊藤(眞)
・破産法・民事再生法 851 頁の注 67
19 中森ほか・担保権の取扱い 51 頁〔赫高規発言〕
、52 頁〔山本克己発言〕参照 13担保法制部会資料 17
なお、設定者と第三債務者の利害のバランスのとり方としては、第三債務者の無過失
を要件としたうえで、第三債務者の悪意又は過失があったことの立証責任を設定者に負
担させることも考えられる。
(3) 担保目的財産の逸出を防ぐという中止命令等の趣旨を貫徹しようとすると、第三債務
者は、その主観的事情にかかわらず、担保権者に対する債務消滅行為の効力を設定者に5対抗することができないとすることが考えられる。もっとも、第三債務者が中止命令等
が発令された旨を知るのは困難であり、第三債務者に対する不利益が大きいと考えられ
る。
そこで、
中止命令を第三債務者等に送達することも考えられる20が、
第三債務者が多
数に上る場合の費用等を考慮すると、民事執行規則第 136 条第2項を参考に、再生裁判
所(裁判所書記官)が第三債務者に対して中止命令等が発令された旨を通知することと10することが考えられる21。以上を【案 17.2.6.3】として提案している。
もっとも、中止命令の通知にとどめるとしても、実行開始通知の前に中止命令等の通
知がされると第三債務者の混乱を招きかねないなどの問題が指摘されている22。また、
第三債務者に対する通知を行うことは、第三債務者が多数であると現実には困難な場合
があると考えられる上、倒産手続開始後に発生した債権も担保権の目的となり得るとい15う立場を採った場合には、第三債務者が特定されていない将来債権を目的とする担保権
においては、中止命令発令後に発生した目的債権の債務者に通知することは不可能であ
る23という問題がある。
(4) なお、部会資料8の第2、6においては、担保権者の取立権限の取得後、後記7の取
消命令がされた場合についても問題提起していたが、
取消命令が発令された場合、
(その20効果についても後記7のとおり議論があり得るが)少なくとも取立権限付与解除の効力
は取り消されると考えられ、中止命令や禁止命令があった場合とは前提となる法律関係
が異なると考えられることから、本項目においては中止命令及び禁止命令のみを対象と
する形とした(なお、本文では、前記2のとおり、中止命令及び禁止命令を区別せずに
規定する考え方があることを踏まえ、
「担保権実行手続中止命令又は禁止の命令」
という25書きぶりとしており、既に担保権者が取立権限を取得している場合でも禁止命令が発令
可能であることを示唆するものではない。)。
3 第三債務者による供託
【案 17.2.6.2】又は【案 17.2.6.3】を採ると、中止命令等の発令により、第三債務者は担
保権者に対して弁済して債務を免れることができない場合が生じる。後記7の取消命令の30制度を設けてこれが発令された場合には、設定者の受領権限が回復されるから設定者に対
して弁済することによってその債務を免れることができるが、中止命令又は禁止命令によ
20 山本(克)
・解釈論的検討 23 頁、中森ほか・担保権の取扱い 52 頁〔山本克己発言〕
21 中野=下村・民事執行法 160 頁注8は、破産手続開始決定により強制執行が停止した際には、民事
執行規則第 136 条第2項を類推適用して、執行裁判所の裁判所書記官が、差押債権者・第三債務者に対
し、手続が停止されたこと及び差押債権者は取立てができず第三債務者は支払をしてはならない旨を通
知する必要があるとする。
22 中森ほか・担保権の取扱い 53 頁〔小野憲一発言〕
23 もっとも、このような第三債務者は設定者が債権者であると認識して設定者に弁済するのが通常であ
ると考えられるため、通知がされなくても問題はないとも考えられる。 14担保法制部会資料 17
っては設定者の弁済受領権限が回復されるわけではないから、第三債務者は、設定者に対
して弁済して債務を免れることもできないことになる。このため、第三債務者が弁済によ
り債務を免れる利益を確保するため、第三債務者に供託することを認める規定を設けるこ
とが考えられる。同様の趣旨から債務者に供託権を認めたものとして、更生手続において
更生担保権に係る質権の目的である金銭債権の債務者に供託を認める会社更生法第 113 条5がある。
7 担保権実行手続取消命令
現行の担保権実行手続中止命令(民事再生法第 31 条)に加えて、次のような担保権実行
手続取消命令の規定を設けることについて、どのように考えるか。10(1) 裁判所は、
集合動産を目的とする担保権の実行開始通知がされた場合において、
【再生
債権者の一般の利益に適合し】、かつ、
【競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがない】
ときは、実行開始通知の効力を取り消すことができるものとすること
(2) 裁判所は、債権を目的とする担保権が設定された場合における設定者に対する取立権
限の付与が解除された場合において、
【再生債権者の一般の利益に適合し】
、かつ、
【競売15申立人に不当な損害を及ぼすおそれがない】ときは、取立権限の付与の解除の効力を取
り消すことができるものとすること
(説明)
1 中止命令の効果20(1) 新たな規定に係る担保権のうち集合動産を目的とするものが設定されている場合、設
定者は、実行開始通知がされることにより、集合物の構成部分であった動産の処分権限
を失うとすることを提案している(部会資料 16 第3、1の本文(3))
。この規定に基づい
て設定者が処分権限を失った後に中止命令が発令された場合には、中止命令は担保権の
実行手続を現状のまま凍結し、それ以上進行させないという効力を有するのみであると25されている24ことからすると、
担保権者はその後実行を進めることはできない
(例えば、
清算金を提供して引渡しを求めたり、設定者が受け戻す権利を消滅させたり、第三者に
処分したりすることはできなくなる)が、他方で設定者の処分権限が回復するわけでは
ないと考えられる。
(2) 新たな規定に係る担保権のうち債権を目的とする担保権について、設定者に取立権限30が与えられている場合に、設定者の取立権限が喪失させられた後に中止命令が発令され
ると、その内容は取立てを禁止するものになる。設定者がその反射的効果として取立権
限を回復するとの見解も主張されているが25、中止命令は担保権の実行手続を現状のま
ま凍結するものであるという理解を前提とすれば、いったん失われた設定者の取立権限
が回復するものではないと考えられ26、見解が分かれている。352 担保権実行手続取消命令の内容
24 才口=伊藤・新注釈(上)159 頁〔三森仁〕
25 小林(信)
・非典型担保権の倒産手続における処遇 234 頁
26 中森ほか・担保権の取扱い 40 頁〔中森亘発言、山本克己発言〕 15担保法制部会資料 17
(1) 前述のとおり、集合動産や集合債権を目的とする担保権の実行により設定者が集合物
の構成部分である個別動産の処分権限や目的債権の取立権限を失った後に中止命令が発
令された場合、少なくとも、これを回復する効果を有することが明らかであるとはいえ
ない。その結果、設定者は事業を継続することが事実上困難になり、別除権協定締結ま
での時間的猶予を与えるという中止命令の趣旨が達成されない可能性がある。そこで、5事業継続を可能とする観点から、本文では、設定者の処分権限や取立権限の消滅など、
担保権の実行によって既に生じた効果を取り消す「取消命令」の制度を設けるかどうか
について問題提起している。
(2) 取消命令の制度を設ける場合、集合動産を目的とする担保権については、実行開始通
知がされて設定者がその構成部分の処分権限をいったん喪失したとしても、その効果を10覆して設定者が処分権限を回復することができるとすることが考えられる。もっとも、
担保権者の利益についても考慮が必要であるから、担保権者の利益を保護するために条
件を付すること(前記4)は、取消命令についても適用することが考えられる。他方、
設定者が集合動産の構成部分の処分権限を回復することとのバランス上、取消命令の効
果発生後に集合物の構成部分となる動産に担保権の効力が及ぶとすることが必要である15ようにも思われる(取消命令の効果発生後に集合物の構成部分となる動産に担保権の効
力が及ばないとする場合でも、担保権者の利益を保護するための条件(前記4)として
代替担保等の提供をすることにより取消命令の発令を受けることも考えられなくはない
が、そのような代替担保の提供をしてまで取消命令の発令を受けることにどのような意
義があり得るか、検討する必要がある。したがって、倒産手続開始後の新規加入物には20そもそも担保権が及ばないという考え方を採る場合には、取消命令の制度を設けること
が可能か、検討が必要であるように思われる。)。
集合動産の構成部分についての設定者の処分権限が担保権者によって付与されたもの
であり、実行開始通知の到達によって処分権限が失われるのは、この通知に処分権付与
の解除が含まれているからであるという理解に立つと、取消命令は、事業の再生という25目的のために、処分権限付与の解除という担保権者の法律行為の効力を裁判所が取り消
すものであるという説明27が考えられる。
(3) 複数の債権を目的とする担保権については、取立権限の付与の解除によって目的債権
に関する設定者の取立権限が喪失したとしても、まだ担保権者が回収していない債権に
ついては、設定者の取立権限を回復させることが考えられる(既に担保権者が取り立て30た債権についてまで遡及的に設定者の取立権限を回復することは、第三債務者の利益を
不当に害する。)。この取消命令についても、取立権限の付与の解除の効力を裁判所が取
り消すものという説明が考えられる。この場合も、担保権者の利益についても考慮が必
要であるから、担保権者の利益を保護するために条件を付すること(前記4)は、取消
命令についても適用することが考えられ、設定者が取立権限を回復することとのバラン3527 このような説明からは、設定者は、実行開始通知前にもともと有していた処分権限をそのまま回復す
るのであり、例えば、
「通常の営業の範囲」で有していた処分権限に限定を加えて回復させることはで
きないと考えられる。担保権者の利益保護のために、一定の範囲内でのみ処分権限を回復することを実
現しようとすれば、それは前記4の条件を付すことが考えられる。 16担保法制部会資料 17
ス上、取消命令の効果発生後に発生する債権に担保権の効力が及ぶとすることが必要で
ある
(取消命令の効果発生後に発生する債権に担保権の効力が及ばないとする場合でも、
担保権者の利益を保護するための条件(前記4)として代替担保等の提供をすることに
より取消命令の発令を受けることも考えられなくはないが、そのような代替担保の提供
をしてまで取消命令の発令を受けることにどのような意義があり得るか、検討する必要5がある。したがって、倒産手続開始後の新規発生債権にはそもそも担保権が及ばないと
いう考え方を採る場合には、取消命令の制度を設けることが可能か、検討が必要である
ように思われる。)。
現行法の集合債権譲渡担保の構成としては、1担保権の設定を受けたことについての
債務者対抗要件の具備を留保しておき、実行段階でこれを具備するものや、2目的債権10の取立権限を設定者に付与し、第三債務者に対しては、債務者対抗要件を具備した上で
設定者に弁済するよう指示しておくものなどがあるが、2の場合において設定者に対し
て取立権限の付与がされているのはもちろん、1の場合でも、当事者間の合意によって
担保権設定がされているにもかかわらず設定者が取立権限を有する以上、設定者に取立
権限の付与がされていると考えられる。
この場合は、
債務者対抗要件の具備時において、15取立権限の付与を解除していると考えられ、本文は、この取立権限付与解除の効力を取
り消すことを意図するものである。
取立権限付与解除の効力を取り消すものである以上、特定債権の譲渡担保など、設定
者に対する取立権限付与がそもそもされていない場合は、取消命令の対象とならないこ
ととなる。20(4) 民事再生法第 31 条は、
「再生債権者の一般の利益に適合」
すること、
「競売申立人に不
当な損害を及ぼすおそれがない」ことを中止命令の要件としており、禁止命令について
も同様の要件を設けることが検討されている(前記2)
。取消命令についても、再生債権
者の利益になることや、担保権者の利益を不当に害しないことなどの要件を設ける必要
があると考えられるが、取消命令については一定程度進捗した実行手続の効力を覆す点25で担保権者に損害を与える程度としては大きいとも考えられることからすると、より要
件を厳格にすべきであるとも考えられる28。この点についてどのように考えるか。
(5) 現行法上の中止命令は、相当の期間を定めて、担保権の実行手続の中止を命ずるもの
である。もっとも、取消命令については、一定の法律行為を取り消すという性質上、相
当の期間を定めて発令することになじまないとも考えられるから、
本文では、
「相当の期30間を定めて」という文言は提案していない。
その場合、実行開始通知等の効力が一旦取り消された場合でも、再度実行開始通知等
がされてしまう可能性があるから、これを防ぐ観点からは、取消命令の申立てと併せて
前記2の禁止命令の申立てを行い、取消命令と禁止命令とが同時に発令されるという運
用が考えられる。35(6) 債権譲渡担保に関して取消命令が発令された場合において、第三債務者による弁済の
受領権原の所在も問題となる。この(説明)の前記(3)の2の類型だけでなく、1の類型
28 中森ほか・再生手続における譲渡担保に対する担保権実行手続中止命令 46 頁は、
「事業の再生のた
めに特に必要があると認めるとき」等の要件を設けるべきとする。 17担保法制部会資料 17
においても、担保権者と設定者との間では取立権限の付与がされており、本文の取消命
令はこの取立権限の付与の解除を取り消すものであると考えれば、いずれの類型におい
ても、取立権限の付与が解除される前の状態(すなわち、設定者に目的債権の取立権限
が付与されている状態)に戻ることとなると考えられる。そうすると、取立権限付与の
効果として、設定者は目的債権の取立てをすることができ、第三債務者から弁済を受領5することができる。
他方、担保権者が弁済を受領することができるかについては、担保権者による取立権
限の取得の効果が取り消されるとすると、担保権者には弁済受領権限がなく、第三債務
者が担保権者に弁済しても有効なものではないと考えるのが自然である。しかし、それ
では担保権者が弁済を受領することができると信じた第三債務者が害される。そこで、10中止命令や禁止命令に関する前記6の【案 17.2.6.2】又は【案 17.2.6.3】のように、(受領権者の外観を有する者に対する弁済と異なり)第三債務者の無過失を要件とせずに弁
済を有効とする仕組みや、取消命令が発令された旨の通知に関する規定を設けるかどう
かが問題となる。
(7) 取消命令をいつまで発令することができるかも問題となる。この点については、取消15命令もあくまで担保権実行に対して別除権協定の締結などのための時間的余裕を得るた
めのものであり、担保権が消滅してしまえばその目的は達成できないから、前記3の中
止命令や禁止命令と同様に、取消命令を発令できるのは被担保債権が消滅する時までで
あると考えられる。20第3 倒産手続開始申立特約の効力
(1) 設定者についての再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申立てを理由に新たな規定
に係る担保権の目的物を設定者に属しないものとし、又は属しないものとする権利を担保
権者に与える契約条項(新たな規定に係る担保権の目的財産を設定者の責任財産から逸出
させることになる契約条項)を無効とする旨の明文の規定を設けることとしてはどうか。25(2) 設定者についての倒産手続の開始の申立てを理由に設定者が新たな規定に係る担保権の
目的物の範囲に存する動産を処分等する権限や担保権の目的物の範囲に存する債権を取立
て等する権限を喪失させ、又は喪失させる権利を担保権者に与える契約条項を無効とする
旨の明文の規定を設けるかどうかについて、どのように考えるか。30(説明)
1 解除特約に関する判例
現行法の所有権留保売買契約やファイナンス・リース契約においては、設定者について
再生手続又は更生手続の開始の申立てがあった場合に特定の法的効果(解除権の発生、期
限の利益の喪失等)が発生する旨の特約が設けられることがある。その効力を認めると、35担保の目的である財産を、一債権者と債務者との間の事前の合意により、倒産手続開始前
に債務者の責任財産から逸出させ、倒産手続の中で債務者の事業等における当該財産の必
要性に応じた対応をする機会を失わせることとなり、事業の再生を図ろうとする倒産処理
手続の趣旨や目的に反するおそれがあるため、その効力が問題とされている。 18担保法制部会資料 17
最判昭和 57 年3月 30 日民集 36 巻3号 484 頁は、所有権留保売買契約において買主に
更生手続開始の申立ての原因となるべき事実が生じたことを売買契約の解除事由とする旨
の特約がされていた
(解除によって留保所有権を実行することを前提とする。)事案におい
て、このような特約は、利害関係人の利害を調整しつつ窮境にある株式会社の事業の維持
更生を図ろうとする更生手続の趣旨、
目的を害するものであるから無効であるとしている。5また、最判平成 20 年 12 月 16 日民集 62 巻 10 号 2561 頁は、いわゆるフルペイアウト方
式によるファイナンス・リース契約において、ユーザーについて再生手続開始の申立てが
あったことを契約の解除事由とする旨の特約による解除を認めることは、担保としての意
義を有するにとどまるリース物件を、一債権者と債務者との間の事前の合意により、再生
手続開始前に債務者の責任財産から逸出させ、再生手続の中で債務者の事業等におけるリ10ース物件の必要性に応じた対応をする機会を失わせることを認めることにほかならないか
ら、再生手続の趣旨、目的に反するとして、このような特約は無効であるとしている。
以上の判例や、部会資料8の第3の(説明)に記載の現行法の下における議論状況を踏
まえると、担保法制の見直しに当たっても、解除条項に限らず、設定者について倒産手続
の開始の申立て等があった場合に、目的物を設定者の責任財産から逸出させる等により、15倒産手続の中で管財人等がその必要性に応じた対応をする(例えば、再生手続において、
中止命令を申し立て、別除権協定の締結に向けて担保権者と協議する)機会を失わせるこ
ととなるような特約については、各手続の趣旨に照らして無効である旨を規定することが
考えられる。
2 新たな規定に係る担保権の目的財産を設定者の責任財産から逸出させることになる契約20条項
(1) 前記平成 20 年最判やこれに関する学説状況からすると、所有権留保売買契約におい
て、買主が再生手続又は更生手続開始の申立てをしたことを解除事由とする旨の約定は
無効と考えられる。
さらに、
前記平成 20 年最判の趣旨からすれば、
解除という構成ではなく、
再生手続又25は更生手続が申し立てられた場合に、設定者が担保の目的財産について中止命令等や担
保権消滅請求などの目的物の必要性に応じた対応をする機会を与えることなく、担保権
の目的物を設定者の財産から逸出させる条項の効力については、その効力を否定すべき
であると考えられる
(なお、
前記のとおり平成 20 年最判はファイナンス・リース契約に
関する事例であるが、
ファイナンス・リースに関しては別途検討を行うこととし、
以下、30本項では、
ファイナンス・リースを除く新たな規定に係る担保権を念頭に検討を行う。)。
具体的には、再生手続又は更生手続の開始の申立てがあると直ちに担保の目的物の確
定的な所有権が担保権者等に帰属することとなる条項や、担保権者の意思表示によって
一方的に目的物の確定的な所有権を担保権者等に帰属させることができるようになる条
項については、効力を否定すべきであると考えられる。例えば、前者に当たるものとし35ては、再生手続等の開始の申立てがあれば、担保の目的物の確定的な所有権が、担保権
者やあらかじめ指定された目的物の取得者に直ちに帰属することとなる条項が考えられ
る。また、後者に当たるものとしては、目的物の確定的な所有権の帰属が、担保権者の
意思表示によって生ずることとされている条項が考えられる(これは、留保所有権のみ 19担保法制部会資料 17
ならず、新たな規定に係る担保権全般についてあり得る条項である。)。
もっとも、現在提案されている、留保所有権を含む新たな規定に係る担保権の実行手
続としては、一定の通知及び清算金の提供などのプロセスを経ることが必要であり、こ
れらが強行規定であるとすれば、このプロセスを経ることなく、再生手続又は更生手続
の開始の申立てがあると直ちに担保の目的物の確定的な所有権が担保権者等に帰属する5こととなる条項や、担保権者が意思表示によって一方的に目的物の確定的な所有権を担
保権者等に帰属させることができるようになる条項の効力は、倒産法の観点を考慮する
までもなく、上記規律に反することを理由に否定されると考えられる(本部会での審議
では、上記の担保実行に関する規定は強行規定ではないかという意見が多くあった。)。
これに対し、実行手続に関する規定が任意規定であるとすると、上記のような合意の効10力を倒産法の観点から問題にすることとなり、上記最判の趣旨からするとその効力を否
定すべきことになる(その旨の明文の規定を設ける余地が生ずる。)。
(2) 所有権留保売買契約において、買主が破産手続開始の申立てをしたことを解除事由と
する特約の効力については、現行法において見解が分かれている。倒産解除特約の効力
は事業の再生に必要な資産を逸出させる点に問題があると考えれば、再生型倒産手続開15始の申立てを解除事由とする部分を無効とすることになる。これに対し、解除によって
売主に取戻権を発生させて特定債権者だけが完全な満足を受ける事態を防止する必要が
あること29、契約を履行するかどうかに関する管財人等の選択権を確保する必要がある
30ことを重視すると、破産手続においても解除特約の効力が問題になる。
他方で、担保目的譲渡がされた場合において、破産手続が開始したときは、新たな規20定に係る担保権が別除権と扱われる以上、担保権者は破産手続の外でこれを実行するこ
とができ、これが破産財団から逸出してもやむを得ないから、このような特約の効力は
否定することができないように思われる。
(3) 以上のような特約の効力を否定すべきと考える場合に、これを明文の規定とすべきか
どうかが問題となる。25いわゆる倒産解除特約の効力については、倒産法の改正作業の過程において明文の規
定を設けることも検討されたが、昭和 57 年最判の射程に関して、これが更生手続に限
定されるのか、再生手続を含む再建型倒産手続に及ぶのか、清算型の倒産手続にも及ぶ
のかなど理解が一定していないこと、再建型に限って効力の制限を設けるとしても要件
を明確にすることが困難であることから、明文の規定を設けることは見送られたとされ30ている。
他方、以上のとおり、倒産手続の開始の申立てによって担保の実行等に関する効果が
生ずることを定めた特約の効力が否定される場合があることには異論がないと思われ、
どのような特約の効力が否定されるかを明らかにすることは担保取引に関する予見可能
性を高めることに資すると考えられる。本部会での審議でも、規定を設けるべきとする35意見が多数だった。
そこで、本文(1)では、設定者についての再生手続開始の申立て又は更生手続開始の申
29 竹下・担保権と民事執行・倒産手続 311〜312 頁
30 山本(和)
・倒産手続における法律行為の効果の変容 1199 頁 20担保法制部会資料 17
立てを理由に新たな規定に係る担保権の目的物を設定者に属しないものとし、又は属し
ないものとする権利を担保権者に与える契約条項を無効とすることを提案している。こ
れは、前記(1)のとおり、判例を踏まえ効力を否定すべきと考えられる、設定者が担保の
目的財産について中止命令等や担保権消滅請求などの目的物の必要性に応じた対応をす
る機会を失わせる条項の効力を否定することを意図したものである。再生手続開始の申5立て又は更生手続開始の申立てを直接の解除事由等とする条項を意図したものであり、
例えば、それらの申立てを期限の利益喪失事由とし、それに伴う債務不履行を理由に解
除等を行うことを妨げるものではない。
本文(1)は、この(説明)の前記(1)の条項を広く対象とすることを意図したものである
が、前記のとおり、実行手続に関する規定が強行規定であれば、再生手続開始の申立て10又は更生手続開始の申立てがあると直ちに被担保債権を弁済して担保権を消滅させる権
利が消滅することとする条項や、担保権者が意思表示によって一方的に当該権利を消滅
させることができることとする条項については、倒産法の観点から無効とするまでもな
く無効であり、この対象とする必要がないという考え方もあり得る。また、部会資料8
の第3の(説明)のとおり、無効であるとされる条項を列挙するともにバスケットクロ15ーズを置くという方法もあり得る。規定を設けるに当たって、対象とする条項をどのよ
うに表現するかについては、これらのような考え方等も踏まえ、更に検討する必要があ
る。
本部会での審議では、禁止命令の制度が導入されることを前提とすると、効力を否定
すべきなのは、再生手続開始の申立て等を理由に自動的に新たな規定に係る担保権の目20的物を設定者に属しないものとする条項であって、そのような権利を担保権者に与える
契約条項は無効とする必要はないのではないかという意見があった。もっとも、前記第
2、1の(説明)2(2)に記載しているとおり、通常の売買の解除が禁止命令の対象とな
らないのと同様に、所有権留保付売買の解除は禁止命令によって制約されないと考える
のが相当であるように思われる。そうだとすれば、再生手続開始の申立て等を理由に自25動的に新たな規定に係る担保権の目的物を設定者に属しないものとする条項のみならず
そのような権利を担保権者に与える契約条項も、なお無効とする必要があると考えられ
る。
また、本文(1)では、対象を再生手続開始の申立て及び更生手続開始の申立てに限定し
ているが、これは、この(説明)の前記(2)のとおり、破産手続開始の申立てをしたこと30を解除事由とする特約の効力について現行法において見解が分かれていることを踏まえ、
そのような特約の効力についてはなお解釈に委ねるという趣旨で、規定を設けないとい
う趣旨である。
(4) 本部会での審議では、本文(1)のような規定を設ける場合でも、金融機関等が行う特定
金融取引の一括清算に関する法律(一括清算法)第4条が定める私的実行が本文(1)の規35定によって無効とされるべきではないという意見があった。
一括清算法第4条は、店頭デリバティブ取引に係る証拠金規制の関係で、当初証拠金
について相手方の破綻時に即時に担保権の実行が可能な様態で分別管理することが求め
られている一方で、当初証拠金を担保権の目的とする「担保権構成」が採られた場合に 21担保法制部会資料 17
おいて、会社更生法が適用されると、その実行が制限され、証拠金規制の要件を満たさ
なくなるおそれがあることに対応するための規定であるとされる31。具体的には、一括清算の約定をした基本契約書に基づき特定金融取引を行っていた金
融機関等又はその相手方に更生手続開始の申立てがあった場合において、担保権設定契
約(契約条項中において、当事者の一方に更生手続開始の申立てがあったときは担保権5者に弁済として担保権の目的財産を帰属させることができることを約定しているものに
限る)に基づく担保権を有するときは、担保目的財産(有価証券等)は、更生手続開始
の申立てがあった時に担保権者に帰属することが規定されている(同条第1項)。また、担保権設定契約(契約条項中において、当事者の一方に更生手続開始の申立て
があったときは担保権者に担保権の目的財産を処分させることができることを約定して10いるものに限る)についても同項の規定が準用され、更生手続開始の開始前に担保目的
財産の譲渡がされた場合には、担保目的財産は当該譲渡がされた時に第三者に帰属する
(同条第4項)。そもそも本文(1)のように新たな規定に係る担保権を対象として規定を設けるのであれ
ば、
一括清算法が適用対象とする当初証拠金に規定の効力が及ぶかは明らかではないが、15仮に及び得るとすれば、このような一括清算法の趣旨及び内容に鑑みて、規定の効力を
及ばないこととすることも考えられる。
以上について、どのように考えるか。
3 設定者の処分権限を喪失させる条項
(1) 構成部分の変動する集合動産を目的とする担保について、倒産手続の開始の申立てが20あった場合には、その時点で担保の目的の構成部分となっている動産の設定者の処分等
の権限の喪失事由とする旨の特約や、複数の債権を目的とする担保について、倒産手続
開始の申立てがあった場合には、既発生の債権の取立権限の喪失事由とする旨の特約の
有効性も問題となる。
まず、更生手続について検討すると、更生手続開始決定後においては、担保権者は、25更生会社(設定者)の財産の上に存する担保を更生手続外で行使することができず(会
社更生法第 47 条)
、また、更生手続開始の申立て後、開始決定前の段階でも、担保権実
行等の手続の中止命令等が可能とされているなど、更生手続において担保権者が設定者
の有する既存の動産を処分したり、債権の取立てをしたりすることができる場面は限定
されている。そして、更生手続開始の申立ての時点で特約により設定者の処分等の権限30が失われることとなれば、これによって設定者はキャッシュ・フローを得ることができ
なくなり、更生に支障が生じ得ることに加えて、上記のように設定者の処分等の権限を
喪失させたとしても、基本的に更生手続における権利行使が予定されている担保権者の
被担保債権の回収にとって有益ではないことからすると、更生手続開始の申立てによっ
て設定者の処分等の権限が失われる旨の特約の効力は、否定するのが適当であるように35思われる。
次に、再生手続については、担保権者は担保を別除権として再生手続によらずに行使
することができるが(民事再生法第 53 条)
、再生手続開始の申立てが設定者の処分等の
31 大野ほか・一括清算法改正の概要 14〜15 頁 22担保法制部会資料 17
権限の喪失事由になるとすると、実行前に中止命令の発令を受け、別除権協定を締結し
て担保目的物の受戻し
(民事再生法第 41 条第1項第9号)
を行うこと等により、
再生手
続開始後も担保の目的財産の流動性を維持することが困難になる。担保の目的である財
産の流動性を維持する余地をできるだけ残しておくことが適当であると考えるとすれば、
再生手続の開始の申立てのみを理由として設定者の処分等の権限を喪失させる特約につ5いても効力を否定することが適当であるように思われる。
破産手続開始の申立てによって設定者が集合動産の処分等の権限を失う旨の特約につ
いては、このような状況では設定者が営業を継続することを期待することができないた
め、担保権者の債権保全の必要性が高く、通常の営業の範囲内での処分権限の授権を認
めることはできないとして、
その有効性を認める見解がある32。
一方で、
このような特約10の効力を認めると、担保権者が目的物の処分権を有するのにその管理義務は破産管財人
が負担し、一般債権者の犠牲において担保権者を保護することになりかねないとして、
このような特約の効力を否定すべきであるとの見解がある33。
(2) 以上のような特約についても、
これを無効とする明文の規定を設けることができれば、
再生手続においては、上記第2、2の禁止命令の制度とあわせて、処分等の権限や取立15て等の権限の喪失により設定者の事業の継続が困難になることを防止することが可能と
なると考えられる。また、担保取引に関する予見可能性を高めることもできる。
他方で、本文(1)と異なり、このような特約の効力については判例法理が確立している
わけではなく、このような特約のみを取り出して無効とする明文の規定を設ける必要が
あるかについては、引き続き検討の必要がある。20そこで、本文(2)では設定者についての倒産手続の開始の申立てを理由に設定者が新た
な規定に係る担保権の目的物の範囲に存する動産を処分等する権限や担保権の目的物の
範囲に存する債権を取立て等する権限を喪失させ、又は喪失させる権利を担保権者に与
える契約条項について無効とする明文の規定を設けることについて、問題提起を行って
いる。25第4 倒産手続開始後に生じ、又は取得した財産に対する担保権の効力
1 倒産手続の開始後に生じた債権に対する担保権の効力
将来発生する債権を目的とする新たな規定に係る担保権の設定者について倒産手続が開
始された場合に、この担保権の効力が、管財人又は再生債務者を当事者とする契約上の地30位に基づいて倒産手続開始後に発生した債権に及ぶか否かについては次のような考え方が
あるが、どのように考えるか。また、将来発生する債権を目的とする新たな規定に係る担
保権のうち、目的債権の弁済又は対価として受けた金銭等の利用権限を設定者が有するか
どうかによって場合分けをし、異なる規律を適用する考え方について、どのように考える
か。35【案 17.4.1.1】 倒産手続が開始された後に発生した債権にも無制限に担保権の効力が及ぶ
(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ債権について、倒産手続の開始によっては、取立
32 中森ほか・担保権の取扱い 27 頁〔佐藤昌巳発言〕
33 中森ほか・担保権の取扱い 27〜28 頁〔小畑英一発言〕 23担保法制部会資料 17
権限を失わない。)。
【案 17.4.1.2】 倒産手続が開始された後に発生した債権には担保権の効力が及ぶが、優先
権を行使することができるのは、倒産手続開始時に発生していた債権の評価額を限度とす
る(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ債権について、倒産手続の開始によっては、取
立権限を失わない。)。5【案 17.4.1.3】 倒産手続が開始された後に発生した債権であっても、担保権者が担保権を
実行するまでに発生したものには、担保権の効力が及ぶ(なお、設定者は、担保権の効力
が及ぶ債権について、倒産手続の開始によっては、取立権限を失わない。)。
【案 17.4.1.4】 倒産手続開始後に発生した債権には、担保権の効力は及ばない(なお、設
定者は、担保権の効力が及ぶ既発生の債権について、倒産手続の開始によって取立権限を10失う。)。
(説明)
1 現行法における議論状況
現行法の将来債権譲渡担保については、設定者について倒産手続が開始した後に発生す15る債権に譲渡担保権が及ぶかどうかが、将来債権譲渡の効力や管財人のいわゆる第三者性
などについてどのように考えるかと関連して、議論されている。
判例(最判平成 13 年 11 月 22 日民集 55 巻6号 1056 頁、最判平成 19 年2月 15 日民集
61 巻1号 243 頁)は、将来発生すべき債権を目的とする譲渡担保設定契約が締結された
場合には、債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款のない限り、譲渡担保の目的とさ20れた債権が譲渡担保設定契約によって譲渡担保設定者から譲渡担保権者に確定的に譲渡さ
れているとしており、将来債権が集合的に譲渡担保の目的とされた場合には、動産と異な
って集合物概念を介さず、未発生のものを含めて個々の債権についての譲渡の効果は譲渡
担保設定契約の時点で確定的に生じていると理解されている34。
もっとも、設定者が譲渡することができるのは設定者が処分権を有する債権に限られる25ところ35、管財人等は設定者とは別個の法的地位に立つから、倒産手続開始後に管財人等
の下で発生した債権には設定者の処分権は及んでおらず、したがって譲渡担保権も及ばな
34 もっとも、譲渡担保の目的となった債権が譲渡担保権者に移転する時期については、目的債権が現実
に発生した時とする債権発生時説と譲渡担保契約が締結された時とする契約時説があり、平成 19 年最
判はこの問題について判断を留保しているとされている(増田稔・最判解民事篇平成 19 年度(上)133
頁、135 頁)
。また、譲渡担保の目的である債権は譲渡担保権者の下で発生するのか、いったん設定者
の下で発生した上で移転するのかについても、平成 19 年最判は立場を明らかにしていないと考えられ
る。
35 したがって、設定者以外の者を当事者とする契約に基づいて発生した債権には譲渡担保権は及ばな
い。ただし、その者が設定者から契約上の地位を承継していた場合には、その債権について設定者の処
分権限が及んでおり、譲渡担保権が及ぶという見解が主張されている。これは債権法改正の基本方針
3.1.4.02、民法(債権関係)の改正に関する中間試案第 18、4において示されていた考え方であり、小
林(信)
・将来債権譲渡 130 頁の「修正 E 説」として示されている考え方も同様の考え方であると考え
られる。これは設定者について倒産手続が開始した局面に限定されない、将来債権譲渡担保権の効力一
般に関する規律であり、
(倒産局面に限定しない一般的な効力に関するものとして)この規律を明文化
するかどうかも検討の必要がある。 24担保法制部会資料 17
いとする見解がある36。
これに対しては、
倒産債務者は財産の管理処分権を奪われるが、財産は依然として倒産債務者に帰属しており、倒産債務者がその後に発生した債権の債権者
であることには変わりがないという見解が有力である37。この考え方によれば、管財人等
を当事者とする契約から生じた債権についても譲渡担保権が及び得ることになる。
設定者について倒産手続が開始された後に発生した債権にも担保権の効力が及ぶことを5前提としつつ、当事者の合理的意思などを根拠として、担保権者が担保権を実行した場合
にはその後に発生した債権には譲渡担保の効力は及ばないという見解が主張されている38。
なお、将来債権の譲渡担保権の効力が法律上どの範囲の債権に及ぶと解するとしても、
設定契約において、ある事由(例えば、倒産手続の開始や実行の着手)が生じた後に発生
する債権に対して担保権の効力が及ばないことを合意した場合は、その効力が認められる10と考えられる(これは、担保の目的となる債権がどのように特定されていたかという問題
である。
)39。
2 担保権の効力が及ぶ範囲の制約
新たな規定に係る担保権について規定を設ける場合にも、担保権の効力が及ぶ範囲に制
限を設ける必要がないかが問題となる。15部会資料 16 の第7、5においては、目的債権を範囲によって特定した債権譲渡担保に
ついて、特別な規定を設けないことを提案している。これは、平時における実行の観点か
らは、あくまで個々の債権が一物としての「集合債権」を介することなく直接譲渡の対象
になることを前提として、
(動産に関する部会資料 16 の第3、2と異なり)担保権の効力
が及ぶ範囲の制約等を設けないことを提案したものである。20他方で、倒産手続開始後に発生した債権に担保の効力が及ぶとすると、目的債権の範囲
を取立権限授与の解除時や倒産手続開始時までに発生した債権に限定する合意がなかった
場合や、実行時に現に存する債権を譲渡の対象とする合意があったが担保権者が設定者に
ついての倒産手続開始後直ちに実行に着手しなかった場合には、倒産手続開始後に、再生
債務者又は管財人が倒産財団40から費用を投下して事業を継続したことによって発生した25債権にも担保の効力が及ぶことになる。これに対しては、この債権を発生させるための原
材料費や人件費等の費用は倒産財団が負担することになるにもかかわらず、その結果生じ
た債権が担保権者の債権の弁済に充当されてしまうことになるのは不合理であり、事業の
再生を妨げるとの指摘がある41。
3 本文における各案について30(1) 本文では、現行法の将来債権譲渡担保に関する学説の状況等を踏まえ、債権譲渡に関
する規定を新たに設け、債権質に関する規定を拡充するに当たって考え得る案をいくつ
36 小林(信)
・将来債権譲渡 133〜134 頁
37 山本(和)
・債権法改正と倒産法(上)16 頁、井上・金融取引から見た債権譲渡法制のあり方 77 頁
38 伊藤(眞)
・倒産処理手続と担保権 67 頁、伊藤(眞)
・集合債権譲渡担保と事業再生型倒産処理手続
5〜6頁、小林(信)
・非典型担保権の倒産手続における処遇 230 頁、赫・集合動産、将来債権譲渡担
保の再生手続、更生手続における取扱い 233 頁
39 山本(和)
・債権法改正と倒産法(上)18 頁
40 破産手続における破産財団、再生手続における再生債務者財産及び更生手続における更生会社財産を
総称していう。
41 伊藤(眞)
・倒産処理手続と担保権 65 頁、山本(和)
・債権法改正と倒産法(上)16 頁 25担保法制部会資料 17
か提示している。
【案 17.4.1.1】から【案 17.4.1.4】までの各案は、部会資料9の第1、
1において示した各案について、いずれの案を支持する意見もあったことから、それら
の案を維持するものである。
なお、各案は、あくまで担保権の効力が及ぶ範囲に関する規定の提案であって、担保
権の価値の評価とは異なるものとして提案している。例えば、更生手続においては、担5保権の目的財産の更生手続開始時における時価の範囲の被担保債権が更生担保権とされ
ることとなるから、担保権の目的財産の(時価)評価が重要となるが、その評価は、担
保権の効力が及ぶ範囲を前提として別途行われるべきものと考えられる42。
(2) 【案 17.4.1.1】は、現行法の将来債権譲渡担保権の効力は倒産後に設定者が無制限に
及ぶという見解に従い、将来債権を目的とする担保権(債権譲渡担保及び債権質)の効10力について新たに規定を設けるに当たっても、この立場に立って明文の規定を設けよう
とするものである。設定者に既発生の債権の取立権限が付与されている場合でも、新た
に発生する債権が担保の目的財産になるから、倒産手続の開始によって当然に設定者の
取立権限が失われるものとしなくても担保権者に不利益はない(担保権者は、設定者が
目的債権を取り立てることによって既存の担保目的財産が減少しても、新たに発生した15債権によって減少分が補填されるし、設定者の取立てによる不利益を回避する必要があ
れば、取立権限の付与を解除して実行することができる。)。このため、倒産手続開始に
よって設定者の取立権限が当然に失われることとはせず、別途担保権者が取立権限の付
与を解除するまでは、その流動性を維持することとしている。
この案に従うと、倒産手続の開始後に発生する債権についても無制限に担保権が及ぶ20から、ある時点において担保権者が既発生の債権及び将来発生する債権について取立権
限の付与を解除した場合には、それらの債権がいつ発生したか(倒産手続開始前である
か後であるか)にかかわらず、それらの全てについて、担保権者が取り立てることがで
きると考えられる。
本部会での審議では、プロジェクト・ファイナンスなどにおいて、担保目的債権を累25積的に把握することにより事業キャッシュ・フローを掴取する与信の類型が存在するこ
とに鑑みて、
【案 17.4.1.1】を支持する意見があった。
他方で、この案に対しては、倒産手続開始後に担保の目的となる債権を発生させるた
めのコストを倒産財団が負担することになるにもかかわらず、その結果生じた債権が担
保権者の債権の弁済に充当されてしまい、事業の再生を妨げるとの批判が当てはまる。30このため、
【案 17.4.1.1】を採るのであれば、新たな債権を発生させるための費用を担保
42 例えば、
【案 17.4.1.1】を採る場合には、更生手続開始時点で発生している債権に加え、更生手続開
始後に発生する債権についても担保権の効力が及ぶこととなるから、それを前提に評価がされることに
なる。もっとも、評価の問題として、更生手続開始後に発生する債権についてどのような方法で評価を
行うべきかという問題は別途存在することになる(例えば、山本(和)
・倒産手続と譲渡担保 10 頁は、
譲渡期間内の全ての債権に担保の効力が及ぶことを前提としても、
「譲渡担保においては設定者に対す
る取立授権を撤回することが担保権の実行だとして、更生手続開始や再生手続における中止命令によっ
てその実行ができなくなるとすれば、結局、担保権者が実質的に把握しているのは、取立授権が存在す
ることを前提とした評価にとどまるようにも思われ、それは結局、開始時の債権額とみる余地もあるよ
うに思われ〔る〕
」とする。 26担保法制部会資料 17
権者に負担させるなど、再生債務者の事業の再生を可能とするための措置を併せて講ず
ることが検討課題となる(後記第5を参照)43。
また、本部会での審議では、担保目的債権を累積的に把握することにより事業キャッ
シュ・フローを掴取する与信の類型についても、実質的な担保権の効力としては、平時
において、担保目的債権からの回収額のうち被担保債権の弁済に充てられている範囲に5及んでいるに過ぎないと考えられるから、再生型の倒産手続においては、担保目的債権
全体について担保権者の優先弁済権を確保する必要はなく、上記の範囲で確保すれば足
りるのではないかという意見があった。もっとも、平時における被担保債権の弁済は、
金銭消費貸借契約の約定に従って行われるものであり、その約定は、あくまで平時にお
ける被担保債権の弁済額として定められたものにすぎないから、借主が期限の利益を喪10失した場合にも同額又は同割合の範囲でのみ優先弁済権が確保されていれば足りるとい
うことを必ずしも意味しないように思われるし、期中の弁済額や弁済割合も必ずしも一
定ではなく、再生型の倒産手続が開始した場合に優先弁済権を確保すべき一定額や一定
割合を一律に決定することも困難であると思われる。
(3) 【案 17.4.1.2】は【案 17.4.1.1】と同様に、現行法の将来債権譲渡担保の効力は倒産手15続開始後に発生した債権にも及ぶこととしつつ、担保権者が優先弁済権を有する範囲を
限定し、倒産手続開始時点において現に存在した債権の価値を上限とするものである。
これは、倒産財団がコストを支出して発生させた債権が全て担保権者への優先弁済に充
てられると、事業再生の妨げとなり、また、一般債権者への弁済に充てられる責任財産
が減少するという問題が生ずることから、担保権者への弁済に充てられる価値を制限し20ようとするものである。
この案を採るとすれば、担保権者が直接の取立てなどの方法による実行により、倒産
手続開始時における評価額を超えた額を回収した場合には、倒産財団に対して清算義務
を負うこととなり、管財人等による請求を通じて、上限額を超える部分の返還が図られ
ることになる
(上限額となる、
倒産手続開始時における評価額について争いがある場合、25清算金の支払請求訴訟において判断がされることになる。)。
この案については、倒産手続開始時において存在している債権の価値の評価が円滑に
行われ得るかが問題となり得る。このような評価自体は、例えば会社更生法においては
更生担保権の評価として行われる作業であるが、当事者間で争いが生ずれば、常にこの
43 また、
【案 17.4.1.1】のような規律を設けるとしても、公序良俗に関する規定は当然に適用され得る
から、その適用によって担保権が及ぶ債権の範囲を制限するという対応も考えられる。判例も、
「契約
締結時における譲渡人の資産状況、右当時における譲渡人の営業等の推移に関する見込み、契約内容、
契約が締結された経緯等を総合的に考慮し、将来の一定期間内に発生すべき債権を目的とする債権譲渡
契約について、右期間の長さ等の契約内容が譲渡人の営業活動等に対して社会通念に照らし相当とされ
る範囲を著しく逸脱する制限を加え、又は他の債権者に不当な不利益を与えるものであるとみられるな
どの特段の事情の認められる場合には、右契約は公序良俗に反するなどとして、その効力の全部又は一
部が否定されることがある」としており(最判平成 11 年1月 29 日民集 53 巻1号 151 頁)
、いわゆる
倒産法的公序もこのような判断の中で考慮することができると考えられる。しかし、このような対応策
に対しては、解釈上は公序良俗のような一般条項に委ねざるを得ないとしても、立法的に解決するので
あれば、政策的観点も踏まえて、担保権が及ぶ債権の範囲について明確な規定を設けるべきであり、そ
のような制約を設けることなく無制限に担保権の効力が及ぶこととするのは不当であるとの再反論も可
能であると考えられる。 27担保法制部会資料 17
評価が必要になり、担保権の実行に要するコストが増加したり、予見可能性が低くなっ
たりするおそれがあるようにも思われる。
また、
倒産手続開始時に発生していた債権とはいかなる債権を意味するか、
すなわち、
どのような状態に至れば債権が「発生」していたと認められるのかという点も問題とな
り得る。例えば、毎月末に 10 個の売買目的物が引き渡され、その対価として、その翌月5末に 10 個分の代金が支払われるという契約について、その売買代金債権は当初の契約
時に発生するのか、売買代金債権に対応する給付が行われた時点で発生するのか、とい
う点が問題になるように思われる。この点については、例えば、倒産手続開始後に債務
者がコストを負担して納品することによって請求することができる代金債権は、
【案
17.4.1.2】
の趣旨から上限額に参入しないという考え方もあり得るように思われるが、ど10
のように考えるか。
さらに、
【案 17.4.1.3】及び【案 17.4.1.4】についても同様であるが、これらのような
規律とする場合、将来にわたる担保目的債権の累積の残高を基礎とする与信は困難にな
るから、これらのような規律とすることを検討するに当たっては、そのような与信手法
のニーズが現に存在するか、
存在するとしてどの程度存在するかの検討が必要となる(そ15
して、あくまで倒産法の観点からの制約である以上、そのような制約がされた場合にお
いても、倒産隔離された特別目的会社や信託等を用いるストラクチャードファイナンス
等においては依然としてそのような与信が可能であるとも考えられるから、そのような
ファイナンス以外で上記の与信手法のニーズが存在するか、という点が重要であるよう
に思われる44。)。20(4) 【案 17.4.1.3】は、現行法の将来債権譲渡担保について、倒産手続開始後も担保権の
効力が及ぶが、担保権者が実行すれば、その後に生じた債権には担保権が及ばないとい
う考え方に従い、債権譲渡担保や債権質について明文の規定を設けようとするものであ
る。なお、この考え方においても、
【案 17.4.1.1】と同様、設定者に取立権限が付与され
ている場合に、倒産手続の解除によって設定者が当然に取立権限を失うものとしなくて25も担保権者に不利益は及ばないから、設定者の取立権限は担保権者による実行まで存続
するものとしている。
本部会での審議では、担保権者の実行時期の選択権を保障しつつ、動産を目的とする
場合と同様の規律を設けるという観点から、
【案 17.4.1.3】を支持する意見があった。
この考え方については、
発生した債権に担保権が及ぶかどうかの分岐点となる
「実行」30の時点を具体的にどのように捉えるかが問題となる。債権を目的とする担保において、
実行までは設定者に取立権限が付与されている場合、その担保の実行は、取立権限を喪
44 井上・担保権者が把握するものと一般債権者に残すもの 91 頁〜92 頁は、プロジェクト・ファイナン
スや資産の流動化取引等のストラクチャードファイナンスにおいては、想定されない債権者が現れない
ように工夫がされることを指摘し、担保の時間的包括性(累積性)を法律によって制約するにしても、
これらのファイナンスにおいて利用される特別目的会社や信託について想定されない事態、すなわち倒
産場面において制約するにとどめることが望ましいとする。 28担保法制部会資料 17
失させる旨の設定者に対する意思表示45と、
第三債務者に対する請求46によってされると
考えられるが、そのいずれの時点を分岐点とするかという問題である。設定者に対する
意思表示と第三債務者に対する請求の時点は必ずしも一致しないし、また、これらの意
思表示又は通知も担保権の目的となった全債権について一律に行う必要はなく、一部分
について実行することも可能であるとすると
(部会資料 16 第7、
8のように、
集合債権5を目的とする担保の実行について特段の規定を設けないとすると、このような実行も可
能である。)、債権ごとにこれらの時点が異なるということも生じ得る。また、全部につ
いて実行しようとした場合でも、第三債務者に対する請求の到達時点は目的債権ごとに
異なり得る。したがって、
【案 17.4.1.3】を採るのであれば、集合債権を目的とする担保
権の実行について、個別の債権実行の集積と考えるのではなく、集合的に処理する方法10(集合動産を目的とする担保権の実行に関する部会資料 16 第3、1のように、一定の
基準時を設けて対象となる債権を確定するなど)を検討する必要がある。
また、担保権者が当初から取立権限を有している債権担保においては、
【案 17.4.1.3】
によれば倒産手続開始後いつまでに発生した債権に担保権の効力が及ぶのか
(あるいは、
当初から実行がされているから、倒産手続が開始されれば及ばないことになるのか)が15明確ではないという問題がある47。
(5) 【案 17.4.1.4】は、将来債権譲渡担保の効力は、倒産手続開始後に発生した債権には
及ばない(それとの均衡から、倒産手続開始時において設定者の取立権限も失われる)
とするものである。この考え方は、将来債権譲渡に関する現在の判例法理(及びこれを
踏まえて立案された民法第 466 条の6)とは必ずしも整合しないようにも思われる。し20かし、
【案 17.4.1.4】は、立法論としては、事業の再生などの政策目的を考慮し、現在の
判例法理とは異なる立場による規定を設けることも可能であるという考え方に基づいて
提示したものである。
本部会での審議では、倒産法的公序の観点や、労働者保護の観点から、この案を採る
べきという意見があった。25もっとも、債権質についてはともかく、債権譲渡担保は民法第 466 条以下の規定に従
って債権が譲渡されるという形式を採っているため、同様にこれらの規定が適用される
債権の真正譲渡に関する処理との整合性には留意が必要であるように思われる。将来債
権が真正譲渡された場合においては、譲受人について倒産手続が開始されても、その後
に譲渡の目的として特定された債権が発生すれば譲受人に移転するという理解が有力で30あり、倒産手続の開始の時点によって譲渡の効果の発生の有無が区別されるわけではな
い。このため、譲渡担保について【案 17.4.1.4】を採ることは真正譲渡との整合性をど
45 債務者対抗要件を具備していないケースと、具備した上で設定者に弁済するように第三債務者に指示
しているケースがあると思われるが、いずれにおいても、設定者と担保権者との間では取立権限の所在
に関する合意があるはずであり、この合意が解除されることが必要となる。
46 これは、第三債務者に対する債務者対抗要件としての通知(動産・債権譲渡特例法第4条第2項の通
知)とともにされる場合と、設定者への取立権限授与を解除した旨の通知(民法第 655 条)とともにさ
れる場合があると考えられる。
47 赫・集合動産、将来債権譲渡担保の再生手続、更生手続における取扱い 220 頁 29担保法制部会資料 17
のように説明するかが問題になるように思われる。
4 倒産法的公序による制限
本文では、主として債権の発生時期によって担保権の効力が及ぶ範囲を特定する考え方
をいくつか示したが、債権を目的とする担保権には、実行段階に至るまで設定者に取立権
限が付与されるものと担保権者が当初から取立権限を行使するものなど様々な類型があり、5また、目的となる債権の範囲の広狭によっても利害状況が異なりうるため、一律に発生時
期によって担保権の及ぶ範囲を画することは困難であるという批判もあり得る48。そこで、
発生時期によって一律に区別するのではなく、事業再生の可能性や弁済の平等化に反する
ような譲渡担保については、平時には公序違反ではないとしても、倒産手続の中では公序
良俗(倒産法的公序)の適用によって譲渡契約の効力が否定され得るという考え方に基づ10き、どのような内容の譲渡が倒産法的公序に反するかを明示するという規律の設け方も考
えられる49。一つの提案としては、
「将来債権の譲渡(譲渡担保)は、倒産手続開始後にお
いて、当該債権を発生させるための費用を不当に負担する場合、その他債権者一般の利益
を不当に害するものと認められる場合には、その効力の全部又は一部を及ぼすことはでき
ない」
とするものがある50。
もっとも、
倒産法的公序によって債権譲渡担保の効力が否定さ15れる場面を網羅的に掲げることは困難であり、また、
「不当に」などの評価的な要件を加え
ざるを得ないように思われるから、規定の明確性や予見可能性の確保という観点からは課
題があるように思われる51。
5 取立権限を有するかどうかによる場合分け
以上に対して、本部会での審議では、事業者の資金ニーズに応える多様な融資を可能と20するために、様々な類型のファイナンスに応じたオプションが用意されているべきという
意見や、債権譲渡担保の性質等に応じて異なるルールを規定することを支持する意見も見
られた。
そこで検討すると、将来発生する債権を目的とする新たな規定に係る担保権のうち、目
的債権の弁済又は対価として受けた金銭等の利用権限を設定者が有するかどうかによって25場合分けをすることが考えられるように思われる。目的債権について目的債権の弁済又は
48 赫・集合動産、将来債権譲渡担保の再生手続、更生手続における取扱い 220 頁
49 山本(和)
・倒産手続における法律行為の効果の変容 1197 頁
50 小林(信)
・倒産法における将来債権譲渡に関する規定の創設 326 頁、小林(信)ほか・将来財産に
対する譲渡担保権の法的倒産手続開始後の効力 148 頁。また、倒産場面を念頭に置いた固有の規定を設
けるのではなく、将来債権譲渡の効力が否定される場面を明文化する提案として示されたものである
が、将来債権の譲渡時において、譲渡期間にわたって原因関係を維持するために必要となると見積もら
れるコストを現在価値に割り引いた額と、譲渡期間にわたって譲渡人がその全ての事業を通じて得るこ
とが見積もられる純利益を現在価値に割り引いた額を比較し、前者が後者を上回る場合には将来債権譲
渡を無効とするか、譲受人の将来債権に対する排他的地位を否定する旨の規律を設けることを提案する
ものがある(井上・金融取引から見た債権譲渡法制のあり方 79 頁)。51 なお、現行法の解釈論として、倒産手続開始後に譲渡担保の効力が及んでいる動産が変化して発生す
る債権については担保の効力が及ぶが、新規に発生する債権が第三者資金の投入によって購入されたも
のによって生ずる場合には担保の効力は及ばないとの見解も主張されている。このような見解に従い、
その債権の発生の経緯や費用の負担者を考慮して担保の効力の及ぶ範囲を特定するという考え方もあり
得るが、このような考え方についても、要件を明確に規定することができるか、その要件の具体的な当
てはめが困難ではないかという問題がある。 30担保法制部会資料 17
対価として受けた金銭等の利用権限を設定者が有さず、随時目的債権から担保権者が被担
保債権の回収を行うという場合であれば、将来にわたる目的債権の累積の残高を基礎とし
て与信がされる余地がある一方で、一定の事由(債務不履行等)が生じるまでは設定者が
目的債権の弁済又は対価として受けた金銭等の利用権限を有し、当該利用権限の付与が解
除されて初めて目的債権から担保権者が回収を行うという場合においては、いつ利用権限5の付与が解除されるかは担保設定時には予測することができず、利用権限の付与が解除さ
れた以降の目的債権の累積の残高も予測することができないから、当該累積の残高を基礎
として与信がされるということは考えにくいという点で、違いがあるからである52。
このような観点から、例えば、目的債権の弁済又は対価として受けた金銭等の利用権限
を設定者が有する場合には【案 17.4.1.2】、【案 17.4.1.3】又は【案 17.4.1.4】の規律を適用10し53、当該利用権限を設定者が有しない場合には【案 17.4.1.1】の規律を適用するなどの考
え方があり得る。
もっとも、このような考え方については、債権譲渡担保における取立権限の授与につい
て、本来的には取立権限は担保権者に帰属しているところ、担保権者は債権的な合意によ
って設定者に対して利用権限を含む取立権限を授与しているにすぎないと考えるのであれ15ば、そのような債権的な合意によって担保権の効力の及ぶ範囲を異ならせることを理論的
に正当化することが可能かという問題があり得る。
また、目的債権の弁済又は対価として受けた金銭等の利用権限の有無による線引きが妥
当なのかという問題もある。例えば、実務上、目的債権の弁済として受けた金銭のうち一
部の金額についてのみ設定者に利用権限を与えるということがあり得るとすれば54、その20場合に、一部について設定者に利用権限があることをもって全体の目的債権に対する担保
権の効力が定まるのだとすると、それが適切かという問題もあり得る。
以上について、どのように考えるか。
52 ここで「取立権限」ではなく「目的債権の弁済又は対価として受けた金銭等の利用権限」としている
のは、第三債務者から担保目的債権の弁済を受領する等の権限と、弁済として受けた金銭等を利用する
権限の所在が分かれる場合があり得るためである。すなわち、設定者が担保目的債権の弁済を受領する
権限を有するが、それは担保権者に代わり受領しているにすぎず、弁済として受けた金銭等を利用する
ことはできない(担保権者に償還する義務を負う)場合や、反対に、担保権者が担保目的債権の弁済を
受領する権限を有するが、設定者に代わり受領しているにすぎず、弁済として受けた金銭等を利用する
ことはできない(設定者に償還する義務を負う)場合があり得る。このような場合において、本文に記
載したような与信の方法に関わるのは、弁済を受領する権限ではなく弁済として受けた金銭等を利用す
る権限であると考えられることから、目的債権の弁済又は対価として受けた金銭等の利用権限の有無に
よって場合分けすることを提案している。
53 これらの規律を適用する場合、この(説明)の前記3で議論した各案の問題点についても検討が必要
である。
54 本部会での審議では、設定者に取立権限が授与されている場合でも、目的債権のうち一定の割合につ
いては担保権者に支払われ、被担保債権に充当されている場合が多いのではないかという指摘があっ
た。もっとも、その担保権者への支払い及び被担保債権への充当が、契約において元本の分割弁済又は
利息の支払額として定められた一定の金額について行われているにすぎないとすれば、目的債権全体に
ついて設定者に利用権限があることを前提に、元本及び利息の弁済がされたに過ぎないと考えることが
できるように思われる。 31担保法制部会資料 17
2 倒産手続の開始後に取得した動産に対する担保権の効力
集合動産を目的財産とする担保権の設定者について倒産手続が開始された場合に、この
担保権の効力が、倒産手続開始後に管財人又は再生債務者が当事者となった契約に基づい
て取得した動産に及ぶか否かについては次のような考え方があるが、
どのように考えるか。
【案 17.4.2.1】倒産手続が開始された後に取得した動産には担保権の効力が及ぶが、優先権5を行使することができるのは、倒産手続開始時までに取得した動産の評価額を限度とする
(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ動産について、倒産手続の開始によっては、処分
権限を失わない。)。
【案 17.4.2.2】倒産手続が開始された後に取得した動産であっても、担保権者が担保権を実
行するまで(実行通知が設定者に到達するまで)に取得したものには、担保権の効力が及10ぶ(なお、設定者は、担保権の効力が及ぶ動産について、倒産手続の開始によっては、処
分権限を失わない。)。
【案 17.4.2.3】倒産手続開始後に取得した動産には、担保権の効力は及ばない(なお、設定
者は、担保権の効力が及ぶ動産について、倒産手続の開始によって処分権限を失う。)。15(説明)
1 現行法に関する理解
集合動産譲渡担保の設定者について倒産手続が開始された場合に、管財人や再生債務者
が取得する財産に担保権の効力が及ぶかどうかについては見解が分かれており、倒産手続
開始決定によって集合物は固定化し、その後の新規加入物には担保権は及ばないとする見20解、倒産手続開始後の新規加入物にも担保権は及び、譲渡担保権者による実行によって担
保目的物が固定されるという見解、倒産手続開始時の価値枠で固定するという見解などが
あるが、将来債権の譲渡と同様に、近時は倒産後の新規加入物にも担保権が及ぶという見
解が有力になっているとされている。
判例は、構成部分の変動する集合動産は目的物の範囲が特定される場合には「一個の集25合物として」譲渡担保の目的となるとしている。将来債権の譲渡と異なり、設定者が将来
取得する個々の動産の譲渡の効力を直接認めるものではないため、この「一個の集合物」
の譲渡の倒産手続開始後の効力は将来債権に比べて不明確であるが、倒産債務者の下で倒
産手続開始後に発生した債権に関する議論(前記1の(説明)(1))と同様に、管財人等の
地位についていわゆる第三者性を否定するのであれば、倒産手続開始によって当然に「固30定化」が生じ、その後の新規加入物に担保権が及ばなくなると解する理由は乏しいように
思われる。
2 担保権の効力が及ぶ範囲の制約の可否
新たな規定に係る担保権について規定を設ける場合にも、担保権の効力が及ぶ範囲に制
限を設ける必要がないかが問題となる。35部会資料 16 の第3、1では、担保を実行する旨の通知が設定者に到達した後に集合物
に加入した動産には、原則として担保権の効力は及ばず、また、同第3、2では、実行の
時点で存在する構成部分である動産全部について実行がされた後、特定範囲に新たな動産
が加入した場合でも、再度の実行をすることはできないとすることを提案している。 32担保法制部会資料 17
この考え方は、平時における担保権の効力が及ぶ範囲は、基本的に、担保を実行する旨
の通知が設定者に到達した時点で特定範囲に含まれている動産であるとするものである。
その上で、倒産手続開始後の新規加入物には理論上当然に担保の効力が及ばなくなると
いう立場を採らないとすると、新規加入物に担保権の効力が及ぶかどうかは、実質的な観
点から検討することになるが、その判断は債権に関する前記1と整合的なものとする必要5がある。本部会での審議では、規律の内容自体についても、債権及び動産に関する規律を
揃えるべきであるという意見が多かった。
まず、平時と同様に考えるとすれば、倒産手続が開始された後に取得した動産であって
も、担保権者が担保権を実行するまで(実行通知が設定者に到達するまで)に発生したも
のには、担保権の効力が及ぶとすることが考えられ、これを提案するのが【案 17.4.2.2】10である(もっとも、このように考えるとしても、設定者について破産手続が開始された場
合には、原則として事業は継続されず、新たに動産が集合物に加入することはないことに
鑑みると、設定者の破産管財人は破産手続開始時に集合物の構成部分となっている動産に
ついての処分権限を有しないこととすること
(後記
【案 17.4.2.3】)も考えられる。
他方で、
事業譲渡のために事業継続型の破産手続が取られ得ることに鑑みれば、下記の再生手続又15は更生手続と同様に考えることもあり得るし、破産手続においては新たな規定に係る担保
権は別除権として扱われることを前提とすれば(前記第1)
、平時と同様の規律としつつ、
あくまで担保権者による実行通知によって担保権の効力が及ぶ範囲を確定させるという考
え方もあり得る。)。
設定者について再生手続又は更生手続が開始された場合には、その後も事業が継続する20が、債権と同様に、管財人又は再生債務者が費用を投下して事業を継続したことによって
発生した動産に担保権の効力が及ぶと、一般債権者の負担の下で別除権者が利得を得るこ
とになって相当でないという問題がある。担保の実行への着手が行われない限り、設定者
は通常の営業の範囲内で個別の動産の処分権限を有するとすれば、必ずしも倒産手続開始
後に管財人又は再生債務者が費用を投下したことにより担保権者が把握する価値が増加す25るとはいえないが、その後の業績の回復によっては、管財人又は再生債務者の費用の投下
の結果として集合物の価格が倒産手続開始時から増加することが生じ得るからである。こ
の増加分を担保権者が把握することを回避しようとするのが、
【案 17.4.2.1】の、手続開始
後の新規加入物にも担保権は及ぶ一方で設定者も処分権限を失わないこととするが、担保
権者が把握することができる価値は倒産手続開始時の評価額を限度とするという案である。30また、現在では再生手続又は更生手続の開始によって「固定化」は生じないという見解
が有力であるとされるが、理論的には「固定化」が生じないとしても、政策的な理由から
立法論として異なる見解を採ることも可能であり、手続開始後に担保権者が把握する価値
が増加することを一切認めるべきでないとすれば、
【案 17.4.2.3】の、倒産手続の開始によ
って、その後の新規加入物には担保権が及ばなくなるとともに、設定者は個別動産の処分35権限を失うものとすることも考えられる。もっとも、手続開始によって設定者が集合物の
その時点での構成部分の処分権限を失うとすれば、事業の円滑な継続に支障が生ずるよう
にも思われる。また、更生手続においては、担保権者が担保権を実行することができない
ため、手続開始時の構成部分については設定者も担保権者も処分することができないこと 33担保法制部会資料 17
にならないかも問題になる。
【案 17.4.2.1】については、
【案 17.4.2.3】に関する上記の問
題点を回避することができるが、手続開始時点での価値を評価することの実務的な困難さ
が問題になり得る。
また、
【案 17.4.2.1】又は【案 17.4.2.3】の考え方を採った場合、
【案 17.4.2.2】を採る場
合と比較すると、与信時における担保価値の評価が低くなる可能性があると思われる55。5すなわち、手続開始時の担保目的物(の評価額)のみを担保権者が把握することができる
こととなるため、設定者が手続開始当初の手元資金を確保するために、担保目的物の残高
が減ったタイミングを選んで手続開始の申立てをする可能性があるためである。
他方で、
【案 17.4.2.2】を採る場合には、倒産財団が費用を支出して事業活動を継続した
結果取得した動産が担保権者への弁済に充てられてしまうという問題については、倒産手10続開始後の新規加入物に担保権が及ぶかどうかという問題ではなく、担保権者に対して担
保の目的である動産を発生するために要する費用の償還義務を負わせるという方法や、担
保権実行手続中止(禁止)命令、担保権消滅請求制度の活用などによって対処することが
考えられる。
以上を踏まえて、集合動産を目的とする担保権の設定者について倒産手続が開始された15場合における倒産手続開始後の新規加入物への担保権の効力について、どのように考える
か。
第5 担保の目的である財産に係る費用の負担
(前記第4、1において【案 17.4.1.1】を採ることを前提に)将来発生する債権を目的20として新たな規定に係る担保権が設定されている場合において、設定者について倒産手続
が開始された後に目的債権を発生させる費用を設定者が支出したときの規律については次
のような考え方があり得るが、どのように考えるか。
【案 17.5.1.1】
当該新たな規定に係る担保権が設定された債権のいずれかについて担保権の
実行(担保権者による取立てを含む。
)が行われた場合、当該債権の代価又は弁済として受25けた金銭等から、担保権者より先に設定者(管財人又は再生債務者)が当該費用の償還を
受けることができる。
【案 17.5.1.2】当該目的債権について担保権の実行(担保権者による取立てを含む。
)が行
われた場合、当該目的債権の代価又は弁済として受けた金銭等から、担保権者より先に設
定者(管財人又は再生債務者)が当該費用の償還を受けることができる。30(説明)
1 本項において取り上げる問題
55 もっとも、手続開始後の新規加入物に担保権の効力が及ぶ一方で設定者も倒産手続の開始によっては
処分権限を失わないこととし、担保の実行が行われた時点における担保目的物を担保権者が把握できる
場合であっても、手続開始後に事業の再建の観点から(手続開始前に比べて)担保目的物の残高が低調
に推移する可能性もあり、与信時において担保権者がそのような可能性を踏まえて担保目的物の評価を
しているのだとすれば、必ずしも担保価値の評価が低くならない可能性もあり、実際の担保権者の与信
判断については更に検討が必要である。 34担保法制部会資料 17
本項は、設定者について倒産手続が開始された後に、担保の目的財産について生じた費
用の負担について取り上げるものである。
「費用」の内容としては、1担保目的財産の維持・管理のために要する費用(担保の目
的財産が機械である場合のメンテナンスや修理等のための費用、動物である場合における
餌代、目的財産の保管費用など)56のほか、2集合動産・集合債権について、担保目的財産5を発生させるための費用(動産であれば取得・生産に要した代金等、債権であれば発生さ
せるために売却した商品の仕入れ費用など)が想定される57
。2の費用については、集合動
産・集合債権が担保の目的財産である場合に固有の問題であり、設定者についての倒産手
続開始後に集合物に加入した動産や発生した債権にも担保権の効力が及ぶという立場を採
った場合に問題となるが、1の費用は、集合動産や集合債権が担保の目的財産である場合10だけでなく、特定の財産が担保の目的財産である場合にも発生し得る58。
これらの費用が倒産財団から支出され、その結果担保の目的財産の価値が維持されたり
増大したりして担保権者の債権の弁済に充てられると、倒産財団(一般債権者)の負担に
おいて担保権者が目的財産の価値の維持や増加という利益を得ることになりかねない。そ
こで、倒産財団(一般債権者)が不当に損害を被らないよう、担保権の目的財産に係る費15用を担保権者に負担させるかどうかが問題になる59。
2 既存の目的財産の価値を維持するための費用
まず、1について、部会資料9の第2では、倒産手続開始後においても、設定者が担保
権の目的財産を使用・収益する権限を有している間は、その費用を設定者が負担するもの
とすることを提案した。20もっとも、本部会での審議では、この問題は従来から抵当権などの典型担保についても
議論されてきた問題であり、そもそも動産や債権を目的とする担保権を中心とする担保法
制の見直しに当たって、それについてのみ規律を設けることが妥当かどうかも問題になる
という意見が複数あった。確かに、1は集合動産や集合債権が担保の目的財産である場合
だけでなく、特定の財産が担保の目的財産である場合にも存在する問題であり、抵当権な25ど、不動産が担保の目的財産である場合にも生じ得る問題であることからすれば、不動産
が担保の目的財産である場合にあるべき規律を含めて議論がされる必要があると考えられ
る。
以上の観点から、本資料においては1について規定を置くことを提案していない。
3 新たな目的財産を生み出すための費用30次に、2については、部会資料9の第2において、担保の目的財産の流動性が失われて
いない段階(担保の目的財産が債権である場合には、設定者が債権を取り立てて回収した
56 主に動産について問題になると考えられるが、債権についても、例えば時効消滅を避けるための費用
などが考えられる。
57 このほか、3人件費や事務所を運営するための費用など事業を継続するための費用も問題になり得る
が、3の費用は事業を継続することを前提とすればいずれにしても必要になる費用であり、設定者が負
担すべきであると考えられる。
58 杉本ほか・動産債権担保権の実行、法的倒産手続における取扱い、及び所有権留保との関係 319 頁
〔藤澤発言〕
59 藤澤・アメリカ担保法と倒産法の交錯、藤澤・将来債権譲渡と譲渡人の倒産に関する一考察各参照 35担保法制部会資料 17
金銭を自ら利用することができる権限を失っていない段階。担保目的物が動産である場合
には、設定者が動産を処分し、得た金銭を自ら利用することができる権限をいまだ失って
いない段階。
)においては、目的財産を新たに生み出す費用は設定者に負担させ、流動性が
失われた段階(担保の目的財産が債権である場合には、設定者が債権を取り立てて回収し
た金銭を自ら利用することができる権限を失った段階。
担保目的物が動産である場合には、5設定者が動産を処分し、
得た金銭を自ら利用することができる権限を失った段階。)におい
ては、当該費用は担保権者に負担させることを提案した。
これに対して、本部会での審議では、その提案は倒産手続開始後に発生した財産等への
担保権の効力について部会資料9の第1、1の【案 9.1.1.1】
(=本資料第4、1の【案
17.4.1.1】
)を採る場合に適用することが考えられるが、それ以外の案を採る場合において10も適用することは適切ではないという意見が複数あった。確かに、例えば債権が担保目的
財産とされている場合に、その流動性が失われた段階において、担保目的財産となってい
る債権について倒産手続開始後に費用が投下されたかによって担保権者に費用負担をさせ
るかどうかが変わることとなれば、担保権者の予測可能性を害すると考えられるし、
【案
17.4.1.1】
以外の案を採る場合には、
流動性が失われる前の段階において、
新たに発生した15債権が担保目的財産となる一方で設定者が取立権限を有するという点において担保目的財
産への加入とそこからの離脱の均衡が図られており、また、流動性が失われた後には、新
たに発生した債権が担保目的財産とならなくなる一方で設定者が取立権限を有しなくなる
という形でその均衡が図られていると考えられる。これを踏まえ、本文においては、債権
について【案 17.4.1.1】を採ることを前提とした提案であることを明記する形とした。他20方で、動産については、前記第4、2において債権に関する【案 17.4.1.1】に対応する案
を提案していないことから、本文の記載の対象としていない。
また、部会資料9の第2の提案については、費用を「担保権者に負担させる」というこ
との趣旨について、優先弁済権が縮減されることを意味するに過ぎないのではないかとい
う意見があった。確かに、真正譲渡の場合であればともかく、担保目的譲渡がされた場合25において、純粋に担保権者が費用を負担する(=設定者が費用を支出した場合、その金額
の分、担保権者の被担保債権が減少する)と考えるのは、他の債権者はそのような負担を
負わないにもかかわらず、担保権者がそのような負担を負う理由がなく、適切でない。目
的財産が換価された場合において、被担保債権に先んじて費用の弁済に充てることとする
(設定者が費用を支出した場合であれば、
最終的に一般債権者への弁済の原資となる。)の30が適切である。この場合、例えば設定者が費用を支出していれば、被担保債権に先んじて
設定者が受けた費用相当額の金銭は、最終的に一般債権者(担保権者が有する被担保債権
のうち、担保権の行使によって弁済を受けることができない額がある場合には、担保権者
も含まれることになる。
)への弁済の原資となるから、実質としては、担保権者は費用額の
分優先弁済権を縮減されたこととなる。35そして、このような効果を規定するなら、規律の内容としては、担保権者の優先弁済権
が実現された場合において、設定者(管財人又は再生債務者)が費用相当額を担保権者に
先んじて確保できるということが考えられる。そこで、本文で提示した2つの案では、担
保権者による担保権の実行(担保権者による直接取立てを含む。
)が行われた場合に、債権 36担保法制部会資料 17
の代価又は弁済として受けた金銭等から、設定者(管財人又は再生債務者)が担保権者に
先んじて費用の償還を受けることができるという提案とした。
【案 17.5.1.1】は、発生させる費用を設定者が負担した債権に限らず、新たな規定に係
る担保権が設定された他の目的債権について担保権の実行が行われた場合にも、担保権者
に先んじた費用の償還を認めることを提案するものである。この案に従えば、設定者が支5出した費用がいずれの債権に係るものであるかを個別に検討する必要はないこととなる。
もっとも、集合債権が担保の目的とされた場合、個々の債権が個別に担保の目的財産に
なっているという理解を前提にすると、そもそも債権ごとに個別の担保権が設定されてい
るにもかかわらず、ある債権を発生させるために要した費用について、なぜ他の担保権の
目的債権の対価から優先して償還を受けることが可能なのかという点が理論的に問題とな10り得る。
そこで、集合債権については、個々の債権が個別に担保権の目的であるという立場を徹
底し、各債権の発生のために要した費用の負担についても債権ごとに考えていくことも考
えられる。
【案 17.5.1.2】はこの考え方に基づくものであり、発生させる費用を設定者が負
担した債権について担保権の実行が行われた場合のみ、優先して費用を償還することを認15めるものである。もっとも、この考え方については、多数の債権が担保権の目的となって
いる場合に、要した費用がいずれの債権に係るものであるかを個別に検討することに対し
ては、煩瑣に過ぎて実務上採り得ないとの批判があり得、
「債権を発生させる費用」をどの
ように算出することが可能かについて、検討が必要である。
以上について、どのように考えるか。20第6 否認
集合動産又は将来発生する複数の債権を目的とする担保権において、個別の動産や債権
等が次のような態様で担保権の目的の範囲に加入した場合、これを偏頗行為否認の対象と
する考え方があるが、どのように考えるか。この場合において、担保権者の主観的要件を25課すかについて、どのように考えるか。
【案 17.6.1.1】 通常の事業の範囲を超える動産又は債権の担保権の目的の範囲への加入
【案 17.6.1.2】 専ら担保権者に債権を回収させる目的で行われた動産又は債権の担保権
の目的の範囲への加入30(説明)
1 本項で取り上げる問題
現行法上、集合動産譲渡担保の設定者が、支払不能になった後や倒産手続開始申立て
後に、集合物にその構成部分となる動産を加入させた場合に、この加入させる行為が否
認の対象になるかどうかが問題とされている。本項は、集合動産を目的とする担保権に35ついて新たに規定を設けるに当たって、集合物に個別動産を加入させる行為のうちどの
ようなものが否認の対象になるかという問題を取り扱うものである。また、将来債権を
集合的に担保の目的にした場合にも同様の問題が生ずると考えられるため、これについ
ても本項において扱う。 37担保法制部会資料 17
2 動産の担保の目的の範囲への加入
(1) 現行法の集合動産譲渡担保については、集合物論を採ったとしても、集合物の構成
部分に担保の効力が及ぶのはそれが集合物の範囲に加入した時であり、担保の効力発
生が設定契約時に遡及するわけではないから、否認が成立する余地があるとする見解
がある60。具体的には、支払不能等の後に設定者の動産や債権等が担保の範囲に加入5した場合には、偏頗行為否認(破産法第 162 条第1項第1号、民事再生法第 127 条の
3第1項第1号、
会社更生法第 86 条の3第1号)
の対象となり得るとする。
ただし、
支払停止等の後に動産が担保の範囲に加入した場合であっても、集合物が流動性を失
わず、
その構成部分が入れ替わっているに過ぎない場合には、
有害性が否定される61。
(2) 集合動産を担保権の目的とした担保権者は継続的に新たな動産が担保権の目的の範10囲に加入することを期待して担保価値を評価しており、危機時期以前に担保権の設定
を行った場合にはこのような期待は不合理なものではない。それにもかかわらず、危
機時期以降に生じた新たな動産の加入が全て否認されるとすれば、担保権者の合理的
な期待に反する結果になる。他方で、担保権者の上記の期待はあくまで事業が合理的
に遂行されることを前提としたものであるから、設定者が担保権者を利するなどの目15的で、あえて合理的な事業遂行の範囲を超えて担保権の目的を増大させた場合などに
は、一般債権者が害されることになるから、否認の対象とする必要がある。
このような結論は、個別動産の集合物への加入も「担保の供与」に該当するが、通
常の営業の範囲における加入は否認の一般的要件である有害性又は不当性62を欠くと
解することによっても導くことができる。しかし、集合動産譲渡担保においては集合20物という一つの物が担保の目的であるとすると、個別動産を加入させる行為を「担保
の供与」と捉えることには疑問もある上63、明文の規定を設けずに否認の対象となる
かどうかを一般的要件に委ねることには明確性を欠くという批判があり得る64。そこ
で、集合動産・集合債権を担保の目的とした場合に関する新たな偏頗行為否認の規定
を整備することが考えられる。25(3) 本部会での審議では、担保の目的の範囲への動産の加入行為は事実行為に過ぎず、
否認の対象にならないのではないかという意見があった。確かに、法的効果を伴わな
い単なる事実行為は否認の対象とならないと考えられている65。これは、否認権があ
る行為の法的効力をなくさせる制度だからであると考えられる66。
60 伊藤(眞)
・債務者更生手続の研究 368 頁、伊藤(眞)
・破産法・民事再生法 579 頁、田原=山本・
注釈破産法(下)127 頁〔髙井章光〕
61 伊藤(眞)
・破産法・民事再生法 580 頁
62 伊藤(眞)
・破産法・民事再生法 580 頁は、有害性が否定されるとしているが、有害性は計数的な概
念であると考えると、ある加入が通常の営業の範囲におけるものか否かによって有害性の有無が変わる
とは考えにくく、むしろ、通常の営業の範囲における加入については、一般的要件である不当性が否定
されると整理することも考えられる。
63 安永・講義 428 頁
64 また、不当性の要件については、そもそも何が不当な行為かを個別に規定したものが、否認権の要件
を定める各規定であり、否認権の発生要件として当該要件に依拠することに対する批判も見られ(山本
(和)ほか・倒産法概説 280 頁〔沖野眞已〕)、このような観点からも批判があり得る。
65 竹下・大コンメ破産法 624 頁〔山本和彦〕
66 詐害行為取消権についてであるが、中田・債権総論 290 頁 38担保法制部会資料 17
他方で、個別動産を担保目的の範囲に加入させる行為は、それによって当該個別動
産に担保権の効力が及ぶという点において、
法的効果と結びついているといえるから、
これを否認の対象と考えることは可能であるように思われる(この(説明)の前記(1)
の、現行法において個別動産の集合物への加入を否認の対象とすることを可能とする
考え方も、加入した動産に担保権の効力が及ぶという点をもって否認の対象とするこ5とを認めていると考えられる。)。本文で提案している2つの案も、このような考え方
を前提とするものである。
(4) 【案 17.6.1.1】は、否認対象とすべき悪質性の高い行為を抽出するための方法とし
て、客観的にその取引が異常なものであることを要件とすることを意図したものであ
る。
具体的な要件としては引き続き検討が必要であるが、
差し当たり、
部会資料 13 の10第2、2(1)ア及び3(1)の表現と合わせて、
「通常の事業の範囲を超える」という文言を
用いている。これは、例えば在庫などの動産であれば、取引時点での事業の状況(売
上げの動向やその時点での在庫の量など)や新たに加入した分量等の様々な事情を考
慮して、取引が異常かどうかを判断するものである。
【案 17.6.1.2】は、問題状況が破産法第 71 条第1項第2号で相殺が禁止されている15場合と類似していることに鑑みて、
「専ら担保権者に債権を回収させる目的で動産を
担保権の目的の範囲に加入させた」ことを要件とすることを提案するものである。こ
の考え方は、破産法第 71 条第1項第2号における「専ら破産債権をもってする相殺
に供する目的」は客観的な事情をもとに推認されるものとされ、一般的に事業等の通
常の過程から突出した債権回収のための行為がある場合に当該目的が認定されると考20えられていること67からすれば、設定者の「専ら担保権者に債権を回収させる目的」
も、結局、主として動産や債権の加入が客観的に異常であることが立証されることに
よって推認されることになるように思われる。
これらの考え方以外に、部会資料9の第3においては、設定者が担保権者と通謀し
て他の債権者を害する意図をもってしたことを要件とする考え方を示したが、本部会25の審議では、要件が狭きに失するという意見が複数見られたため、本資料では提案し
ていない。
(5) この(説明)の前記(4)のとおり、
【案 17.6.1.1】は、担保の目的の範囲への加入が客
観的に通常の事業の範囲を超えること、
【案 17.6.1.2】は、担保の目的の範囲への加入
が専ら担保権者に債権を回収させる目的であることをそれぞれ否認の要件とするもの30ではあるが、
【案 17.6.1.2】における目的も結局主として動産や債権の加入が客観的に
異常であることが立証されることによって推認されるという意味では、これらの適用
対象は大部分において重なると考えられる。
これらの案のいずれを採るかによって、ある行為が否認の対象となるかどうかの違
いが生ずるとすれば、1担保の目的の範囲への加入が客観的には通常の事業の範囲を35超えるが、専ら担保権者に債権を回収させる目的が認められない場合又は2担保の目
的の範囲への加入が客観的には通常の事業の範囲を超えないが、専ら担保権者に債権
を回収させる目的は認められる場合であると考えられる。
67 伊藤(眞)
・破産法・民事再生法 519 頁、山本(和)ほか・倒産法概説 258〜259 頁〔沖野眞已〕 39担保法制部会資料 17
1としては、例えば、設定者が X 商品を A 倉庫及び B 倉庫の二箇所で保管してい
る場合において、A 倉庫内の X 商品のみが担保の目的とされているときに、通常であ
れば B 倉庫に搬入されるはずだった X 商品が誤って A 倉庫に搬入されてしまった場
合があり得る。この場合、A 倉庫への搬入は誤りであるから、専ら担保権者に債権を
回収させる目的は認められないが、通常 B 倉庫に搬入されるはずだった以上、A 倉庫5に搬入された分については、客観的には通常の事業の範囲を超えると考えるのが合理
的である。
また、このような場合に加えて、設定者が X 商品を A 倉庫及び B 倉庫の二箇所で
保管している場合において、
A 倉庫内の X 商品のみが担保の目的とされているときに、
B 倉庫に雨漏りが生じ X 商品の保管に適さなくなったため、通常 B 倉庫に搬入して10いた X 商品を A 倉庫に搬入した場合など、A 倉庫に搬入する合理的な理由がある場
合もこの類型に該当するかが問題となる。この場合、専ら担保権者に債権を回収させ
る目的が認められないのは明らかである一方で、通常の事業の範囲を超えるかどうか
については、考え方が分かれ得るように思われる。
2としては、本部会での審議において、以下のような例が挙げられた。すなわち、15C 倉庫内の Y 商品が担保の目的とされている場合に、
設定者が手元資金の調達のため
に Y 商品を通常の事業の範囲を超えて売却し、
C 倉庫内の Y 商品の数量が減少した場
合に、担保権者が設定者と交渉し、C 倉庫内の Y 商品の数量を通常の水準に戻すため
に設定者が多数の Y 商品を C 倉庫に搬入したという場合である。
この場合、
専ら担保
権者に債権を回収させる目的は、文言上認められそうに思われる一方で、通常の事業20の範囲を超えるといえるかについては、考え方が分かれ得るように思われる。もっと
も、このような場合には、この(説明)の後記(6)のとおり、そもそも有害性を欠くと
いう考え方もあり得、検討が必要である。
(6) 悪質性の高い行為を抽出するための要件に加えて、担保権の目的が危機時期の最初
の時点に比べて増大していることを要件とするという考え方もあり得る。危機時期に25なった後に担保権の目的の範囲に悪質性の高い形で新たな動産が加入しても、危機時
期の最初の時点に比べて担保の目的全体が減少しているのであれば(例えば、危機時
期の最初の時点で 100 万円分の在庫があり、その後 30 万円分の動産が集合物に加入
したが、50 万円分の在庫が流出したため、現在は 80 万円分となった。)、そもそも有
害性又は不当性がないために否認の対象とならないという考え方である。30しかし、当該仕入行為が否認の対象となるかどうかは当該行為の時点で判断するこ
とができるようにする必要があり、事後の担保権の目的からの流出の有無によって結
論が異なるのは妥当でない。
他方で、本部会での審議では、大幅な担保権の目的財産の減少があった場合に、そ
れを通常の水準に回復させる(治癒させる)目的で、担保目的財産への加入が行われ35た場合、それを否認の対象とすべきではないという意見があった。確かに、このよう
な場合には、否認の対象となるかが事後の流出の有無によって左右されるわけではな
いし、大幅な目的財産の減少とあわせて考えれば、必ずしも一般債権者の引当てが減
少し、担保権者の引当てが増加するという関係にはない。一定の範囲の財産を担保の 40担保法制部会資料 17
目的とするという集合動産譲渡担保の性質に鑑みると、個別の動産に着目するのでは
なく、
担保の目的全体の価値の変動という観点から否認の要件を検討する必要があり、
このような場合には、通常の事業の範囲を超えるなどの悪質性の高いものということ
はできず、仮にそのような要件に該当し得るとしても、有害性を欠いて否認の対象と
ならないと考えられる。53 債権の担保の目的の範囲への加入
債権については、譲渡担保の目的債権は譲渡担保設定契約によって担保権者に確定的
に譲渡されており、担保権者は、その発生時に当然に取得できるという判例68の考え方
を前提とすると、目的債権が発生した時点で「担保の供与」があったということは動産
の場合以上に難しいように思われ、債権を発生させる行為は否認の対象にならないとい10う考え方もあり得るように思われる。
しかし、担保権の目的債権をどの程度発生させるかどうかについては、設定者の作為
が介在する余地もあるため、一般債権者が害される事態も生じ得る。そこで、集合動産
を目的とする担保権と同様の基準により、担保権者の把握する担保価値を増加させる悪
質な行為を否認の対象とすべきであると考えられ、本文では、動産と同様に2つの案を15提示している。
また、債権についても、動産と同様に、担保の目的財産の価額が危機時期の最初の時
点に比べて増大していることを要件とするかどうかが問題になるが、
この点についても、
動産と同様に考えることが考えられるが、どうか。
4 債権者の主観的要件20偏頗行為否認に関する破産法第 162 条第1項第1号においては、破産者が支払不能で
あったこと等を債権者が知っていたことが要件とされている。
【案 17.6.1.1】及び【案
17.6.1.2】
を採る場合に、
このような債権者の主観を要件にするかどうかが問題となる。
破産法第 162 条第1項第1号がこのような主観的要件を課すこととしているのは、善
意の債権者を保護し、
取引の安定性を図ることにある69。
【案 17.6.1.1】
及び
【案 17.6.1.2】25のいずれを採る場合でも、加入行為自体は設定者のみで行うことができるものであり、
また、対象を悪質な加入行為に限定していることから、必ずしも取引の安全を図る必要
はないと考えれば、主観的要件を課さないことも考えられる。
他方で、担保権の目的の範囲への加入行為を実質的な「担保の供与」と考えるのであ
れば、通常の担保の供与においては主観的要件を課されることとのバランスの観点から3070、主観的要件を課すことも考えられる。
この点について、どのように考えるか。
68 最判平成 19 年 2 月 15 日民集 61 巻 1 号 243 頁
69 竹下・大コンメ破産法 654 頁〔山本和彦〕
70 主観的要件を課さないものとすると、危機時期において担保権設定契約を締結した場合には担保権者
が主観的要件を満たさない限り否認の対象とならないこととなるが、他方で、既に締結された担保権設
定契約に基づいて加入行為があった場合には、担保権者の主観を問うことなく否認の対象となることに
なる。 41担保法制部会資料 17
第7 担保権消滅許可制度の適用
1 破産法上の担保権消滅許可制度の適用
(1) 新たな規定に係る担保権について、破産法上の担保権消滅許可制度の適用の対象とし
てはどうか。
(2) 担保権消滅許可の申立てに対する対抗手段としての
「担保権の実行の申立て」
(破産法5第 187 条第1項)として、私的実行を認めるかどうかについて、次のような考え方があ
るが、どのように考えるか。
【案 17.7.1.1】対抗手段としての「担保権の実行の申立て」として私的実行を認め、その
帰属清算方式における評価額又は処分清算方式における処分価額についての要件を課さ
ない。10【案 17.7.1.2】対抗手段としての「担保権の実行の申立て」として私的実行を認めるが、
その帰属清算方式における評価額又は処分清算方式における処分価額は、担保権消滅許
可申立書に記載された売得金(破産法第 186 条第3項第2号)の額以上である必要があ
るとする。
【案 17.7.1.3】
対抗手段としての
「担保権の実行の申立て」
として私的実行を認めない(担15
保権者は、
競売手続の実行の申立てによるほか、
買受けの申出
(破産法第 188 条第1項)
により対抗することとする。)。
(説明)
1 本文(1)は、新たな規定に係る担保権が破産法上の担保権消滅許可制度の対象になること20を明示することを提案するものである。
部会資料9の第4、1において提案した内容について異論がなかったことから、その提
案を維持するものである。
2 新たな規定に係る担保権を破産法上の担保権消滅許可制度の適用対象とする場合、担保
権消滅許可の申立てに対する対抗手段としての
「担保権の実行の申立て」
(破産法第 187 条25第1項)として、私的実行を認めることとするかどうかの問題がある。
本文(2)の【案 17.7.1.1】は、対抗手段として私的実行を認め、また、帰属清算方式にお
ける評価額又は処分清算方式における処分価額について要件を課さないこととするもので
ある。これは、新たな規定に係る担保権が破産手続において別除権として取り扱われ、本
来破産手続外において行使することができる(私的実行を行うことも可能である)ことに30鑑みて、対抗手段として私的実行を認めるべきであるという考え方に基づくものである。
本部会での審議でも、担保権者としても破産管財人の協力を得て設定者の商流を用いて処
分することが合理的であれば、
任意の交渉により、
そのような処分に合意すると考えられ、
不合理に対抗手段をとることはないと考えられるから、このような規律としても問題は生
じないのではないかという意見があった。35他方で、帰属清算方式における評価額又は処分清算方式における処分価額について要件
を課さないこととすると、担保権消滅許可申立書に記載された売得金(破産法第 186 条第
3項第2号)の額よりも低い金額で、担保権者が私的実行を行うことが可能となり、任意
の交渉の場面でも、担保権者に過大な交渉力を与えることになるのではないかという意見 42担保法制部会資料 17
があった。このような考え方に基づき、帰属清算方式における評価額又は処分清算方式に
おける処分価額について、売得金以上の金額である必要があるとするのが、
【案 17.7.1.2】
である。
さらに、動産の場合、実務上財団組入れの割合が大きくなりやすく、担保権者が売得金
と同額で私的実行を行うことができるとすると適切ではないため、上乗せを求めるべきで5あるという意見があった。
もっとも、
この場合でも、
売得金を5%以上上回る額であれば、
担保権者自身による買受けの申出が可能である(破産法第 188 条)ことに鑑みると、私的
実行を担保権消滅許可の申立てに対する対抗手段としての「担保権の実行の申立て」とし
ては認めないのが端的であると考えられる。
このような考え方に基づくのが、
【案 17.7.1.3】
である。103 対抗手段として私的実行を認める場合において、担保権消滅許可の申立てに対抗するた
めには担保権者がどのような行為を行っている必要があるのかも問題になる。集合動産を
目的とする場合において実行開始通知が必要であるとすれば、この実行開始通知がされた
ことを証する書面(具体的には、その通知をした書面及びこれが到達したことを証する書
面)を提出することによって対抗手段とすることが、特定の動産を目的とする場合につい15ては、帰属清算の通知がされたことを証する書面(その通知をした書面及びこれが到達し
たことを証する書面)や第三者に処分したことを証する書面が考えられる。
債権を目的とする場合は、債務者からの取立てによる実行を念頭に置くと、1担保権の
設定を受けたことについての債務者対抗要件の具備を留保しておき、実行段階でこれを具
備する類型については、債務者対抗要件を具備したことを証する書面が、2目的債権の取20立権限を設定者に付与し、第三債務者に対しては、債務者対抗要件を具備した上で設定者
に弁済するよう指示しておく類型では、取立権限授与を解除したことを証する書面及びこ
れが設定者に到達したことを証する書面が「担保権の実行をしたことを証する書面」が考
えられる。
なお、本部会での審議では、競売による実行の場合であれば、申立てがされれば一定の25手続を経て一定の期間内に完了することが想定されるのに対して、私的実行の場合、例え
ば実行開始通知がされたとしてもいつ担保権者が実行するかが分からず、破産手続におけ
るスケジュールに影響する可能性があるという意見があった。
もっとも、担保権が別除権とされている以上、担保権者が破産手続においてどのような
タイミングで担保権の実行を行うかが分からないのは、担保権消滅許可の申立てがされた30場合に限った問題ではない。実際に、破産法において、別除権者が担保権の実行を急がな
い場合を念頭に、破産管財人は別除権の目的である財産の換価をすることができ、別除権
者はその換価を拒むことができないとされている(破産法第 184 条第2項)から、上記の
スケジュールの問題をもって、私的実行を担保権消滅許可の申立てに対する対抗手段とし
ての「担保権の実行の申立て」として認めないとしたり、私的実行における「担保権の実35行の申立て」に相当する行為として担保目的物の占有移転への着手等を要求したりする71
必要はないように思われる。
71 清水=栗本・動産及び債権を目的とする担保についての担保権消滅許可制度の適用 44 頁 43担保法制部会資料 17
2 民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度の適用
新たな規定に係る担保権について、民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度
の適用の対象とするものとしてはどうか。
(説明)51 本文は、現行法上譲渡担保などの非典型担保も担保権消滅許可制度の対象となる担保権
に含まれると解されていることを踏まえて、新たな規定に係る担保権が民事再生法及び会
社更生法上の担保権消滅許可制度の対象になることを明示することを提案するものである。
部会資料9の第4、2において提案した内容に異論がなかったことから、提案を維持す
るものである。102 民事再生法及び会社更生法上の担保権消滅許可制度においては、主に不動産に関する議
論として、担保権消滅における評価の基準としての処分価額がいかなる価額を意味するか
について見解が分かれており、競売価額とする見解、早期売却価額とする見解、市場価額
とする見解などが主張されている72。これと同様に、新たな規定に係る担保権について私
的実行を認めた場合に、処分価額がいかなる価額を意味するかも問題となる。まず、不動15産に関して、競売価額が処分価額を意味するという見解については、当該見解が、担保権
者が債務者倒産の場面で把握している資産の価値は、債務者の協力が得られなくても、担
保権者自らの一存で実現できる価値であることを前提としている73。新たな規定に係る担
保権についても、これと同様に考えるとすると、新たな規定に係る担保権については競売
価額と私的実行価額(これが、通常の市場価額を意味するのか、早期売却価額を意味する20のかについては議論があり得るが、新たな規定に係る担保権が再生手続においては別除権
として取り扱われることを踏まえつつ、とりわけ動産については、あくまで設定者の商流
により売却するのではなく、必ずしも販売ルートを有しない担保権者が私的実行により売
却するものであることに鑑みた価格であると考えられる。
)のいずれか高い方が処分価額
を意味するという考え方があり得る。25他方で、不動産に関して、早期売却価額が処分価額を意味するという見解については、
再生債務者の置かれた状況(再生計画がなければ破産に至る可能性が大きく、この場合直
ちに財産を処分し処分代金を債権者に分配する必要に迫られているとの状況)を根拠とし
ている74。
これと同様に考えるとすると、
新たな規定に係る担保権についても、
早期売却価
額が処分価額を意味するという考え方があり得る。もっとも、この考え方については、本30部会での審議では、動産における早期売却価額はかなり低いことから、適切ではないので
はないかという意見があった。
さらに、本部会での審議では、動産についてはネット・オーダーリー・リクイデーショ
ン・バリュー(必要経費差引後の通常処分価額)や、債権については額面金額から貸倒見
積高を差し引いた金額なども参考となり得るという意見があった。3572 才口=伊藤・新注釈(上)867〜868 頁〔木内道祥〕
、園尾=小林・条解民事再生法 809 頁〔泉路
代〕
73 山本(和)
・倒産法制の現代的課題9頁
74 園尾=小林・条解民事再生法 809 頁〔泉路代〕 44担保法制部会資料 17
いずれにしても、以上については、動産や債権の売却の実務をも踏まえた解釈がされる
べきであると考えられる。 45担保法制部会資料 17
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