第一の一(暴行・脅迫要件、心神喪失・抗拒不能要件の改正)について
【条 文 案】
幹事 長谷川桂子
「次の事由その他の事由により、性に関する自由な意思の決定若しくは伝達又は意
思の実現に妨げがある状況であることに乗じて、性交等をした者は、強制性交等の罪
とし、5年以上の有期懲役に処するものとする。」
【例示列挙】
・ 暴行、脅迫、威迫又は威圧を用いて
・ 逮捕又は監禁を用いて
・ 欺罔又は偽計を用いて
・ 不意打ちを用いて
・ 教育、雇用、スポーツ、医療、宗教その他の権力を有し、又は信頼を得る地位を濫用し・ 指導を受ける関係、指揮命令を受ける関係に乗じて
・ 睡眠、酩酊、驚がく、恐怖、狼狽又は困惑に乗じて
・ アルコール又は薬物の影響にあることに乗じて
・ 行為の相手方又は行為の性的意味について錯誤に陥っていることに乗じて
・ 精神的障害、知的障害その他の事由により行為の性的意味についての理解又は性に関
する判断能力が乏しいことに乗じて
・ 障害又は疾病により身体の制御に妨げがあることに乗じて
・ 継続的な身体的又は心理的虐待を受けている状況に乗じて
【説明】
B案の構造で、包括的要件について、私案を提示するものです。
1 「性に関する」
「性的行為に関する」もありうると思います。
2 「意思の決定若しくは伝達又は意思の実現」
意思に反した性交等が行われてしまうのは、性行為等をするかどうかの意思決定から
性行為を行うまでのプロセスが、加害者によって歪まされている場合であるところ、こ
のプロセスを3段階で追いました。
前回たたき台のA-2案は「形成・表明・実現」の3段階とする点で基本的な考え方
は共通しているかと思います。
3 「性に関する自由な意思」
前回たたき台A-2案では「拒絶する意思」と表現されていましたが、「拒絶する意
思」では、なお、意に反した性行為を強いられる者は抵抗、拒絶をすることを前提とす
るようにも解釈しえます。処罰されるべき意思に反した性行為、には、拒絶の意思以前
に、同意不同意を形成することすら困難な、昏睡状態や酩酊による判断能力の低下した
状態で性行為をされてしまう場合も含みます。
保護法益からしても性行為等をするか否かは、本来自由意思に基づき行われるべきも
のです。
その意味で、性犯罪は、性行為等をするかどうかの意思決定から性行為等を行うまで
のプロセスが、加害者によって歪まされているものでありますので、「拒絶する意思」
ではなく、「性に関する自由な意思」といたしました。
4 「決定」
前回たたき台A-2案は「形成」と表現されていました。民事法の領域で、人が自分
の意思を決めることは「意思決定」の語を使っていること、「意思形成」に比べて一般
人になじみがあるのではないかと思われることから「決定」としています。
5 「伝達」
「表示」と迷いましたが、「表示」は必ずしも相手方に伝わることを意味しませんの
で、「伝達」としました。前回たたき台A-2案の「表明」も同じ問題があると考えます。
相手に伝わることも含む、「伝達」よりもふさわしい用語があれば、その用語とするこ
とも考えられます。
6 「意思の実現」
第6回会議では「意思に従った行動」を提案しましたが、意思に従い相手を払いのけ
る行動ができても結果の回避ができない場合も想定されますので、「意思の実現」の方
が救済範囲が適切となるかも知れません。
7 「妨げ」
前回たたき台 A-2案では、「困難」の語を使っていましたが、1「困難」の語は不
可能に近い困難を想起させること、2現在の暴行脅迫要件の程度が、定義としては「犯
行を著しく困難にする」と解釈されつつ、具体的事案においては緩和されていることか
ら、「妨げ」としています。「支障がある」とすることも考えられます。
8 「指導を受ける関係、指揮命令を受ける関係」
地位関係性の例示列挙を試みたものです。
「就労上、業務上又は学業上利益を与え又
は不利益を与えることができる関係」でもよいかも知れません。
9 「驚がく、恐怖、狼狽」
盗犯防止法第1条第2項に、「恐怖、驚愕、狼狽」が並記されているので、この3つ
は並記しうると考えます。
以 上

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