法制審議会第193回会議配布資料 刑3
FATF(金融活動作業部会)
対日相互審査報告書(2021年8月)の概要について
対日相互審査報告書(2021 年8月)の概要について
1 審査基準
FATF による第4次相互審査においては,
〇 制度の有効性(Immediate Outcome (IO),11 項目)
〇 法令等整備状況(Technical Compliance (TC),40 項目)
について審査が行われる。
このうち,制度の有効性は,下記【表1】の 11 項目についての制度の有
効性について審査を行うものであり,評価が高い方から順に,
〇 HE(High)
〇 SE(Substantial)
〇 ME(Moderate)
〇 LE(Low)
の4段階により評価される。
なお,制度の有効性が評価される 11 項目のうち,マネー・ローンダリン
グ 罪 の 法 定 刑 に 関 係 す る 項 目 は , IO. 7 ( ML investigation and
prosecution(マネロン捜査と起訴))である。
【表1-制度の有効性の評価項目】
また,法令等整備状況は,
1 マネロン/テロ資金リスクの評価
2 国際協力
3 金融機関等の監督
4 金融機関等によるマネロン/テロ資金対策
5 法人等の悪用防止
6 疑わしい取引に関する情報等の活用
7 マネロン捜査と起訴
8 没収
9 テロ資金の捜査と起訴
10 テロリストの資産凍結,NPOの悪用防止
11 大量破壊兵器拡散に関与する者の資産凍結-1- 〇 FATF 勧告(40 の勧告)が法令の形で実現されているか否か
を審査するものであり,各項目について,評価が高い方から順に,
〇 C(compliant)
〇 LC(largely compliant)
〇 PC(partially compliant)
〇 NC(non compliant)
の4段階により評価される。
40 の勧告のうち,
マネー・ローンダリング罪の法定刑に関係する項目は,
勧告3(Money laundering offence(マネー・ローンダリング罪))であ
る。
勧告3については,下記【表2】の審査基準が設けられている。
【表2-勧告3の基準の内容】
基準3.1 マネロンは,麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約(ウ
ィーン条約)及び国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約(パレルモ条
約)に則り,犯罪化されなければならない(ウィーン条約3条(1)(b)&(c)及び
パレルモ条約6条(1)参照)。
基準3.2 マネロンの前提犯罪は,できる限り広範な前提犯罪を含む観点から,あらゆ
る重大犯罪を対象としなければならない。前提犯罪には,少なくとも,指定さ
れた各犯罪類型に属する一連の犯罪を含まなければならない。
基準3.3 しきい値方式,又はしきい値方式を含む組み合わせ方式のいずれを採用して
も,少なくとも,前提犯罪には次のいずれかの犯罪が含まれなければならな
い。
(a) 国内法において重大犯罪の類型にある犯罪;又は
(b) 長期1年超の拘禁に処される犯罪;又は
(c) (法制度上,法定刑に短期を設けている国においては)短期6月超の
拘禁に処される犯罪;
基準3.4 マネロン罪は,その価値に関わらず,直接的又は間接的に犯罪収益となるあ
らゆる種類の財産を含まなければならない。
基準3.5 財産が犯罪収益であることを立証する場合,前提犯罪で有罪判決を受けてい
ることを必要とすべきではない。
基準3.6 外国で行われた前提犯罪であっても,当該行為が行われた外国の法令によれ
ば罪に当たり,かつ,仮に当該行為が国内で行われたとすれば前提犯罪となる
場合には,マネロンの前提犯罪に含まれなければならない。
基準3.7 国内法の基本原則に反しない限り,前提犯罪を犯した者にマネロン罪を適用
しなければならない。
基準3.8 マネロン罪を証明するために求められる故意又は認識は,客観的な事実の状
況から推認することができるようにすべきである。-2- 2 報告書の概要
対日相互審査報告書(2021 年8月)は,大別すると,
〇 Executive Summary(3〜14 頁)
〇 制度の有効性に関して記載した Chapter1〜Chapter8(17〜183 頁)
〇 法令等整備状況について記載した TECHNICAL COMPLIANCE
(185〜287 頁)
の各パートから構成される。
報告書のうち,マネー・ローンダリング罪の法定刑に関連する以下の3
つのパートについて,仮訳を資料1から3までとして添付する。
〇 Executive Summary (P3〜14) ......添付資料1
〇 Chapter 3. LEGAL SYSTEMS AND OPERATIONAL ISSUES
Immediate Outcome 7(ML investigation and prosecution) (P53〜
55,68〜82) ......添付資料2
〇 TECHNICAL COMPLIANCE
Recommendation 3 - Money laundering offence (P190〜194)
......添付資料3
(注1)報告書は FATF の責任により作成されたものであり,日本政府の見解を示すも
のではない。報告書(英文)は,FATF 事務局のホームページにおいて閲覧するこ
とができる(https://www.fatf-gafi.org/media/fatf/documents/reports/mer4/M
utual-Evaluation-Report-Japan-2021.pdf)。
基準3.9 マネロン罪の有罪判決を受けた自然人に対して,罪の程度に見合い,かつ,
抑止力のある制裁が科されなければならない。
基準3.10 法人に対して,刑事上の責任及び制裁措置,又は(国内の基本原則上)それ
が不可能な場合には民事上若しくは行政上の責任及び制裁が科されるべきであ
る。法人に関して,刑事上,民事上又は行政上の責任のうち少なくとも一つよ
り多くの責任を問うことができる国においては,刑事,民事又は行政手続が並
行して行われることが妨げられてはならない。当該措置によって,自然人の刑
事責任が減殺されるべきではない。全ての制裁措置は,罪の程度に見合い,か
つ,抑止力のあるものでなければならない。
基準3.11 国内法の基本原則上認められない場合を除き,マネロン罪に参加し,これに
関与又は共謀し,これに係る未遂の罪を犯し,これを幇助及び教唆し,これを
援助し,及びこれについて助言することを含む,適切な共犯が設けられなけれ
ばならない。-3- (注2)添付資料1は財務省ホームページ(https://www.mof.go.jp/policy/internat
ional_policy/convention/fatf/fatfhoudou_20210830_1.html)に掲載されている
「対日相互審査報告書の概要(仮訳・未定稿)」を引用するものであり,添付資
料2・添付資料3は法務省刑事局による仮訳である。
なお,必要に応じ,仮訳語の後に[ ]を付して原文の用語を併記しているほ
か,報告書の原文の引用条文などの誤りもそのまま仮訳を行っている。
(注3)添付資料1から3までのうち,マネー・ローンダリング罪の法定刑に関して言
及がなされている部分を赤枠で囲って表示している。-4- 添付資料1
概要
1. 本報告書は、現地審査(2019 年 10 月 29 日〜11 月 15 日)時点で、日本で実
施されているマネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策(以下、AML/CFT)
の措置をまとめたものである。この報告書は、日本の FATF40 の勧告の遵守状況
の水準と日本の AML/CFT 制度の有効性の水準を分析し、同制度をどのように強
化できるかについての勧告を提供する。
主な評価結果
a) 日本は、これまで実施してきた多くの分析に基づいてマネー・ローンダ
リング(以下、マネロン)とテロ資金供与の主要なリスクをよく理解し
ている。一方、国のリスク評価やその他の評価について、多くの面でさ
らに改善させることができる余地がある。テロ資金供与リスクの評価と
理解は、テロ対策の専門家からはよく示されているが、テロ資金供与対
策を担う他の日本の行政当局の職員には及んでいない。AML/CFT のた
めの国の政策と戦略において日本は、暗号資産に関するリスクを含め、
リスクの高いいくつかの分野に対処しようとしている。しかしながら、
それらの政策と戦略は AML/CFT の活動に的を絞ったものではない。
AML/CFT の実施面では、
ほとんどの法執行機関の間で概ね良好な協力
が行われているが、AML/CFT 政策の策定のため、より一層の連携が求
められる。
b) 大規模銀行(より高いリスクを有する金融機関として認識されているグ
ローバルなシステム上重要な銀行
(GSIB)等)を含む一定数の金融機関
及び資金移動業者は、マネロン・テロ資金供与リスクについて適切な理
解を有している。その他の金融機関においては、自らのマネロン・テロ
資金供与リスクの理解が限定的である。金融機関がマネロン・テロ資金
供与リスクについて限定的な理解しか有していない場合、金融機関のリ
スクベース・アプローチ
(以下、RBA)の適用に直接的な影響を及ぼす。
このような金融機関は、最近導入・変更された AML/CFT に係る義務に
ついて十分な理解を有しておらず、これらの新しい義務を履行するため
の明確な期限を設定していない。
指定非金融業者及び職業専門家
(以下、
DNFBPs)は、マネロン・テロ資金供与リスクや AML/CFT に係る義務
について低いレベルの理解しか有していない。暗号資産交換業者は、暗
号資産取引に関連する犯罪リスクについて一般的な知識を有し、基本的
な AML/CFT に係る義務を実施している。
疑わしい取引の届出の総件数
(年ベース)は増加傾向にあるところ、疑わしい取引の届出の大部分は
金融分野からのものであり、暗号資産交換業者の届出の実績も良いが、-5- 添付資料1
全体的にみて、疑わしい取引の届出は、基本的な類型や疑わしい取引の
参考事例を参照して提出されている傾向がある。
また、
特定のマネロン・
テロ資金供与リスクに直面している一部の DNFBPs を含め、全ての
DNFBPs が、疑わしい取引の届出義務の対象になっているわけではな
い。
c) 金融監督当局間でリスクの理解に差はあるものの、主要なリスクに関す
る理解は適切である。金融庁は、金融セクターの規制・監督の主たる当
局であるが、
2018 年以降、
リスク理解に資する関連施策を実施し、
リス
ク理解を改善させている。
RBA の適用は、
金融庁も含め依然として初期
段階にあるものの、AML/CFT に係る監督の深度は徐々に改善しつつあ
る。金融庁は、特定の金融機関との間で対話を行った場合、その後、緊
密なフォローアップの取組を実施していることを示した。金融庁を含む
金融監督当局は、金融機関に対する効果的かつ抑止力のある一連の制裁
措置を活用していない。日本は、暗号資産交換業者セクターに対し、対
象を絞り適時な法令及び監督対応を実施した。不備の認められる暗号資
産交換業者に対して迅速かつ強固な対応を行ってきたことは認められ
るものの、マネロン・テロ資金供与リスクに基づく監督上の措置は改善
する必要がある。 DNFBPs の監督当局は、マネロン・テロ資金供与リ
スクの理解が限定的であり、
リスクベースによる AML/CFT に係る監督
を実施していない。
d) 日本は、全ての金融機関と DNFBPs が 実質的支配者情報を保持する
ことを義務付けられ、当局が実質的支配者情報を入手可能とするシステ
ムを実施することに向けて重要なステップを踏み出した。しかしなが
ら、法人について、正確かつ最新の実質的支配者情報はまだ一様に得ら
れていない。国内外の信託、特に信託会社によって設立されていない、
あるいは管理されていない信託の透明性に関しては、課題がある。法執
行機関は、より複雑な法的構造を有する実質的支配者情報を備えるため
に必要な手段を有していないようであり、法人や法的取極めに関連する
リスクは十分に理解されていない。
e) 金融インテリジェンス情報や関連情報は、
マネロン、
関連する前提犯罪、
及び潜在的なテロ資金供与事案を捜査するために、広く作成され、アク
セスされ、定期的に活用されている。これは、日本の法執行機関が自ら
作成するインテリジェンス情報と、資金情報機関(FIU:警察庁犯罪収
益移転防止対策室(以下、JAFIC))が作成する広範囲で質の高いイン
テリジェンス情報に基づいている。
JAFIC は、
複雑な金融捜査に付加価
値を与えている。法執行機関は、被疑者を特定し、被疑者間のつながり
を理解するために金融情報を活用する傾向にあるが、資産の追跡のため
の活用については更なる強化が求められる。
f) 日本の法執行機関が追求するマネロンの捜査は、
いくつかの重要なリス
ク分野に沿ったものである。日本の法執行機関は、それほど複雑ではな
いマネロン事案の捜査に豊富な経験を有するとともに、
特定の組織犯罪
を対象とした複雑な事案や外国の前提犯罪が絡むマネロンにおける複
雑な事案の捜査を行った経験も少なからずある。
国境を越えた又は国内-6- 添付資料1
での薬物の違法取引の大規模なマネロン事案の捜査には特に課題があ
る。マネロン罪で起訴された事案は全て有罪判決を得ているが、総合的
なリスクプロファイルに沿ってマネロン罪を起訴しているのは、ある程
度にしか過ぎない。マネロン罪に適用される法定刑は、日本で最も頻繁
に犯罪収益を生み出している前提犯罪に適用される法定刑よりも低い
水準にある。実際には、マネロン罪で有罪判決を受けた自然人に適用さ
れる制裁は、概して言えば、適用できる刑の範囲の下限にとどまってい
る。執行猶予判決と罰金が頻繁に科されている。
g) 資産の拘束と没収については、詐欺事案に関してはよく示されている
が、その他のいくつかの高リスクのマネロン前提犯罪に関しては示され
ていない。日本は、大量の金地金の押収を除き、犯罪に用いられた道具
の没収には概ね成功的なアプローチで行っている。前提犯罪とマネロン
に係る起訴猶予の全体的なレベルから見て、
犯罪収益や犯罪に用いられ
た道具、相当価値のある財産の没収に関して課題がある。国境を越えた
現金密輸のリスクがあるにもかかわらず、日本は、虚偽又は無申告での
現金の国境を越えた移動についての効果的な検知と没収を行っている
ことを示していない。
h) 日本は適時かつ建設的な国際協力を行っている。
刑事共助要請に応える
ための国内プロセスはうまく機能している。日本は、他国・地域から資
産の送還を受けた経験は少ないものの、同等の価値を持つ財産を国内で
没収するための支援を他国に行っている。日本の犯罪人引渡しのための
司法上の枠組みは強化されるべきであるが、日本は、他国からの犯罪人
引渡し要請を実行できる能力があることを示している。
日本は、
監督や、
マネロン及び前提犯罪の捜査を含む AML/CFT に関する情報交換のた
めに、日常的に他の形態の国際協力を適時に活用している。
i) 日本の法執行機関は、幅広い情報源からの情報や金融インテリジェンス
情報を活用して、
潜在的なテロ資金供与を効果的に捜査・阻止している。
しかしながら、テロ資金提供処罰法の不備と、起訴に対する保守的なア
プローチ(IO.7 参照)が、日本が潜在的なテロ資金供与を起訴し、その
ような行為を抑止力ある形で処罰する能力を制約している。日本は、リ
スクのある非営利団体(以下、NPO 等)についての理解が十分ではな
く、
そのため、
NPO 等の テロ資金供与対策のための予防的措置を強化
するために、
当局がターゲットを絞ったアウトリーチを行うことができ
ない。このため、日本の NPO 等は、知らず知らずのうちに、テロ資金
供与の活動に巻き込まれる危険性がある。
j) 日本は、金融制裁の対象者の指定・履行手続に遅れがあるものの、最近
行われた、対象を指定するための行政手続の見直しにより、その遅れは
大幅に短縮された。
包括的な輸出入規制や日本による制裁対象の国内指
定(独自指定)を含む、北朝鮮による大量破壊兵器の拡散を対象とした
複数の他の措置は、
対象を特定した金融制裁の実施における遅れをある
程度緩和している。これは、日本の文脈から見て特に重要である。もっ
とも、
対象を特定した金融制裁を遅滞なく実施するために金融機関や暗
号資産交換業者、DNFBPs に対してスクリーニングを行う義務が課せ-7- 添付資料1
られているものの、
金融機関や暗号資産交換業者、
DNFBPs による対象
を特定した金融制裁の実施は不十分である。当局は、大量破壊兵器との
闘いに関連するインテリジェンス及び法執行機関の活動において良好
な省庁間の協力と連携を示しており、
意図せず制裁回避を助長する特定
のリスクを有する個別の民間セクターに対し、効果的かつ積極的な働き
かけを行っている。
リスクと全体像
2. 日本により特定されている主なマネロンリスクは、暴力団員、その関係者、
及び薬物の違法取引、窃盗、高利貸し、賭博、売春を含む他の関連団体の活動、
主に違法な送金・資金移転を通じた外国人が関与する取引、電話やインターネッ
トを使った金銭の支払の強要から銀行口座の盗用まで、異なるタイプの特殊な詐
欺に関するものである。テロ資金供与については、イラク・レバントのイスラム
国(ISIL)、アルカイダ、及び他の組織関わっている「イスラム過激派」や外国
人戦闘員の活動が主なリスクとして特定されている。日本によるリスク評価と同
様に、全体として実際のテロ資金供与リスクは相対的に低いと思われる。
遵守状況と有効性の全体的な水準
3. 日本は 2011 年及び 2014 年に AML/CFT 法制を大幅に改正し、
実質的支配者
情報の確認・検証義務の導入、顧客管理措置の範囲を継続的な顧客管理や取引モ
ニタリングに拡大、外国の重要な公的地位を有する者(PEPs)との取引に対する
強化した顧客管理措置、高リスク国が関与するコルレス銀行取引における検証の
厳格化等を行った。金融監督当局は、2018 年及び 2019 年に、金融機関に対して
強制力のあるガイドラインを採択し、これは、金融機関によるマネロン・テロ資
金供与リスクを低減する措置の実施を向上させるために重要なステップとなった。
日本は、2016 年に暗号資産交換業者に対する登録、規制、監督を行う措置を導入
した。
4. いくつかの技術的な不備が指摘されており、それらは有効性の面で課題であ
る。一部の DNFBPs に疑わしい取引の届出義務が課されていないことを含め、
DNFBPs が講じる特定の予防的措置には不備がある。また、マネロン罪に対する
罰則やテロ資金供与罪の実体的要件、法人や法的取極めの透明性、対象を特定し
た金融制裁の制度、テロ資金供与に悪用されるリスクがある NPO 等に適用され
る制度において、その抑止力に影響を及ぼす技術的な不備事項がある。
5. 日本は、マネロン・テロ資金供与リスクの評価と国内連携、金融インテリジ
ェンスとその他の情報の収集と活用、国際協力に関して、"substantial level of
effectiveness"を達成している。また、金融機関及び DNFBPs の監督、金融機関
及び DNFBPs による予防的措置の実施、法人・法的取極めの悪用防止、犯罪収益
又は等価値の資産の没収、マネロン・テロ資金供与の捜査・訴追、テロ資金供与
に係る予防的措置、
テロリズムや拡散金融に対する金融制裁に係る分野において、
"moderate level of effectiveness"を示している。-8- 添付資料1
リスク評価、連携、政策策定(第 2 章;IO.1:R.1, 2, 33, 34)
6. 日本は、これまで実施してきた多くの分析に基づいて、主要なマネロンとテ
ロ資金供与のリスク要素をよく理解している。しかしながら、クロスボーダーの
リスクを含めて日本経済を取り巻く広範なリスクの理解を深めること、疑わしい
取引の届出に加えて法執行機関や独立した情報源から得られる追加の情報を活用
すること、脅威や脆弱性へのフォーカスを増やすことを含め、国のリスク評価や
その他の評価について、多くの面でさらに改善させることができる余地がある。
民間セクターの企業は、国のリスク評価やその他の評価の結果を認識している。
7. AML/CFT のための国の政策と戦略において、日本は暗号資産に関するリス
クを含め、日本にとってリスクの高いいくつかの分野に対処しようとしている。
他のいくつかの重要なリスク分野(例えば、組織犯罪グループ「暴力団」、金の
密輸、薬物の違法取引)については、国が強固なリスク低減策や措置を講じてい
るが、これらの政策は犯罪者や違法な商品や資産の取引に焦点を当てており、
AML の活動に的を絞ったものではない。他方、主要な当局は、特定されたリスク
に対応すべく、その活動や優先的課題の一部を調整する措置を講じている。
8. 日本が直面しているテロリズムやテロ資金供与のリスクは相対的に低いこと
を踏まえれば、テロ資金供与リスクの評価と理解は、テロ対策の専門家からはよ
く示されている。しかしながら、この理解のレベルは、テロ資金供与対策を担う
他の日本の行政当局の職員には及んでいない。テロ資金供与の訴追、対象を特定
した金融制裁、及びテロ資金供与リスクに対処する必要のある NPO 等セクター
への支援に関しては不十分な点が存在するが、
テロ資金供与対策の政策や活動は、
よりリスクにフォーカスしたものである。
9. AML/CFT の実施面における多くの法執行機関間の協力や連携は概ね良好で
あるが、
AML/CFT に係る政策の策定のための協力・連携には改善の余地がある。
10. 日本の当局は、
大量破壊兵器の拡散対策に関するインテリジェンスや法の執
行について、良好な省庁間協力・連携が行われていることを示した。
金融インテリジェンス、マネロン捜査、訴追、没収(第 3 章:IO.6, 7,
8:R.1, 3, 4, 29-32)
11. 法執行機関は、マネロンや関連する前提犯罪、潜在的なテロ資金供与の事案
を捜査するため金融インテリジェンスや関連する情報を広く生み出し活用してお
り、資産の追跡のためにもある程度、情報を生み出し活用している。JAFIC によ
る金融インテリジェンス情報の分析と配信、及び法執行機関の金融捜査チームへ
の継続的な支援は、有効性に大きく貢献している。JAFIC の情報は、すべての法
執行機関における金融インテリジェンスの最初の段階の情報源として活用されて
おり、
かなりの数の事件が JAFIC のデータを端緒に捜査が開始され、
遂げられて
いる。JAFIC は複雑な金融捜査に付加価値を与えている。法執行機関は、被疑者
を特定し、被疑者間のつながりを理解するために、金融インテリジェンス情報を
積極的に活用している。しかしながら、資産の特定と追跡については、関連する
すべての犯罪類型を対象とすることを含め、さらに発展させ、優先して取り組む
必要がある。
12. 国内及び国境を跨ぐ薬物の違法取引を除き、
日本の法執行機関が追求するマ
ネロン捜査は、国のリスク評価やその他のリスク評価で特定された、いくつかの-9- 添付資料1
重要なリスク分野に沿ったものである。追求されているマネロン事案の大半は、
第三者によるマネロン(サードパーティー・マネー・ローンダリング)はなく、
自己によるマネロン(セルフ・ローンダリング)である。法執行機関は、国際協
力による支援を受けて、外国の前提犯罪に関する捜査を少なからず行った経験を
示した。
法執行機関は、
それほど複雑ではない マネロン事案の捜査に豊富な経験
を持っている。法執行機関は、対象を特定して、特に組織犯罪に対象を特定して
強力に捜査の焦点を当てて対応していることを示した。しかしながら、複雑な詐
欺、大規模な外国の前提犯罪に関する利益獲得段階を含む資金の移動及び薬物関
連犯罪の収益の流れには、十分な焦点が当てられていないように見える。検察庁
が、非常に軽微な犯罪であることを理由に、マネロン事案の多数を起訴猶予処分
としていることは、この懸念を強める。
13. マネロン罪で起訴された事案は全て有罪判決を得ているが、
総合的なリスク
プロファイルに沿ってマネロン罪を起訴しているのは、
ある程度にしか過ぎない。
起訴に至ったマネロン事案の割合(30%)は、日本のマネロンリスクを考慮する
と完全には正当化されないと考えられるが、しかしながら、他の経済犯罪の起訴
率と同程度の割合である。かなり大多数の事案における執行猶予付きの判決を含
め、マネロン罪に対しては低い刑罰が適用されているが、これは日本の状況と司
法制度に沿ったものである。
14. 没収が行われていることは、詐欺事件に関しては十分に示されているが、そ
の他の高リスクのマネロンの前提犯罪に関しては示されていない。法執行機関や
検察官は、犯罪収益の剥奪に相応の力点を置いているようであり、日本は、資産
を回復するための、概ね包括的な有罪判決に基づく没収制度を有している。起訴
猶予となった前提犯罪、マネロン罪の全体的なレベルから、犯罪収益や犯罪に用
いられた道具、相当価値のある財産の没収にいくつかの課題がある。日本は、差
し押さえられた大量の金地金に関するものではないが、犯罪に用いられた道具の
没収については、概ね成功的なアプローチを追求している。国境を越えた現金密
輸のリスクがあるにもかかわらず、日本は、虚偽又は無申告の国境を跨いだ現金
又は持参人払い式の譲渡可能支払手段の移動に対し、没収が効果的に行われてい
ることを示していない。
テロ資金供与と拡散金融(第 4 章;IO.9, 10, 11; R.1, 4, 5-8, 30, 31,39)15. 日本は、疑わしい活動を阻止するために様々な手段を効果的に用いて、テロ
資金供与の可能性のある事案を積極的に捜査している。国境を跨いだテロ資金供
与の潜在的な事案は種々の情報源から発見され、過去にテロリストの活動に関係
のあった若しくは活動の疑いのある国内グループの資金は注意深く監視されてい
る。当局は、他の犯罪を活用することにより、ある程度対応できているものの、
テロ資金提供処罰法の不備により、同法でカバーされないテロ資金供与活動への
捜査は制限されている。
16. テロ資金供与対策を含んだ包括的な国のテロ対策戦略又は単独のテロ資金
供与対策戦略は存在しないものの、地方や国の機関は効果的に連携・協力してい
る。金融機関、暗号資産交換業者、DNFBPs に対して行われたアウトリーチが限
定的であったため、それら金融機関等のテロ資金供与リスクへの理解は限られて
いる。-10- 添付資料1
17. 日本では、テロ資金供与リスクが低いとはいえ存在するものの、テロ資金供
与事案の起訴事例がない。特定の攻撃とのリンクがなければテロリスト又はテロ
組織への資金提供は犯罪ではないというテロ資金提供処罰法の不備は、テロ資金
供与罪の起訴が行われる可能性を狭めている。これらの不備や、起訴についての
日本の保守的なアプローチ
(マネロン捜査と起訴に関する IO.7 を参照)
に照らせ
ば、特定のテロ攻撃に直接資金を提供したことが明確な事案の場合を除き、日本
が抑止力のある制裁を伴った有罪判決を得ることはできないように思われる。
18. 日本は、関連する国連安保理決議に沿って資産を凍結するために、指定され
た個人又は団体との支払いを禁止する法令の組み合わせを通じて、国連安保理決
議 1267/1373 号に基づいて、対象を特定した金融制裁を実施している。対象の指
定は、
必要な手続のために遅れを伴っており、
実施までに約 1〜3 週間を要してい
る。金融機関や暗号資産交換業者に制裁対象リストを基にスクリーニングする義
務が課せられているとともに、日本で指定の効力が発生する前に対象の指定につ
いて金融機関等に対して連絡する仕組みがあることは、指定が発効するまでの遅
れを僅かながら抑制している。指定の実施は大幅に遅れていたが、最近行われた
手続の変更により、その後に行われる対象者の指定は 2〜5 日に短縮された。
19. 資産凍結対象の指定実施の遅れ及び第三者に資産が保有されている場合の
対象を特定した金融制裁の適用に関する不確実性、並びに、法的枠組みの複雑さ
があるにもかかわらず、日本では、これまで、国連安保理決議第 1267 号に基づ
いて資産が凍結されてきた。凍結された資産の金額は限られ、資産凍結の実施か
ら時間も経過しているが、これは日本のリスクプロファイルと矛盾するものでは
ない。
20. 日本では、NPO 等セクターに関するテロ資金供与リスクについての理解が
十分ではなく、テロ資金供与に悪用されるリスクがある一部の NPO 等に対し、
リスクに基づいた具体的措置を講じていない。複数の日本の NPO 等がリスクの
高い地域で重要な活動を行っており、日本の当局による NPO 等セクターへの効
果的なアウトリーチやガイダンスを早急に強化する必要がある。
会計報告を含む、
NPO 等の運営における説明責任、健全性、国民の信頼を促進するための包括的
な仕組みは、日本におけるテロ資金供与対策の具体的措置の欠如を緩和するのに
役立っている。
21. テロリズムに係る対象を指定した金融制裁と同様に、日本は、対象に指定さ
れた個人及び団体との支払の禁止を通じて、遅れを伴いつつ拡散金融に係る対象
を指定した金融制裁を実施している。関連する国連安保理決議に基づく最近の指
定は、平均して 5〜10 日を要していたが、最近、この指定の効力発生に至るまで
の遅延を 2〜5 日に短縮する新しいプロセスが導入された。テロ資金供与に関す
る対象者を指定した金融制裁の制度とは異なり、拡散金融に係る制度は、当初、
資本規制を目的として作られた法律に依拠しているほか、仮に将来的に日本の居
住者が指定された場合に対処できないという不備があり、また、資産凍結の対象
となるべきあらゆる形態の資金又はその他資産への適用等一部の分野において、
その枠組みの対象範囲が不明確である。
22. もっとも、日本は、国連の制裁リストに掲載された個人及び団体のうちかな
りの数の個人・団体を国連による対象の指定に先行して独自に制裁対象に指定し
ており、
また、
北朝鮮が関与する資金又は物品の移転の全般的な禁止が実施され、
強力に執行されている。金融機関や暗号資産交換業者に対する制裁に係るスクリ-11- 添付資料1
ーニング義務とともに、対象の指定の効力が日本国内で発生する前に金融機関等
に対して連絡する仕組みもある。
日本は、
自国を取り巻くリスクや状況に沿って、
北朝鮮及びイラン関連の金融資産を凍結している。当局による対象を絞ったアウ
トリーチは、貿易金融、保険、海運、漁業を含む、リスクのあるセクターの理解
を後押ししている。しかしながら、財務省および金融庁による監督によって、金
融機関による対象を指定した金融制裁(国連による指定に先立ってなされた日本
の単独の指定に関することを含む)の実施に関連した多くの不備が確認されてお
り、実施の程度及び監督の有効性について懸念が生じている。
予防的措置(第 5 章;IO.4;R.9-23)
23. 大規模銀行(より高いリスクを有するとされている GSIB 等)を含む一定数
の金融機関及び資金移動業者は、マネロン・テロ資金供与リスクについて適切な
理解を有している。その他の金融機関は、自らのマネロン・テロ資金供与リスク
の理解がまだ限定的である。一定数の金融機関は、自らのリスク評価を開始して
いるが、その他の金融機関はリスクに基づいた低減措置を適用していない。これ
らの金融機関は、継続的顧客管理、取引モニタリング、実質的支配者の確認・検
証等の、最近導入・変更された義務について、十分な理解を有していない。これ
らの金融機関は、AML/CFT の枠組みや取組を強化する必要があるとの一般的な
認識は有しているが、
新たな義務を履行するための明確な期限は設定していない。
24. 年間の疑わしい取引の届出の総件数は増加傾向にある。
届出の大部分は金融
分野によるもので、三分の一は大規模銀行によるものであるが、FIU(JAFIC)
のガイダンスに基づく基本的な類型や疑わしい取引の参考事例を参照したもので
ある。
25. 暗号資産交換業者は、
2017 年以降、
登録義務が課されており、
AML/CFT 目
的で規制・監督されている。暗号資産交換業者は、暗号資産取引に関連する犯罪
のリスクについて一般的な知識を有する。テロ資金供与リスクの理解は概して限
定的である。 暗号資産交換業者は、基本的な AML/CFT に係る義務を実施する
傾向があるが、一般に、自らのリスク応じた低減措置や、厳格な顧客管理措置又
は特定の顧客管理措置の適用について、この業種に特有なリスクに則した方針を
定めていない。一定数の暗号資産交換業者は、顧客の本人確認のために厳格な措
置を適用している。暗号資産交換業者の疑わしい取引の届出は、2017 年以降顕著
に増加しているが、
これは、
主に FIU
(JAFIC)と日本暗号資産取引業協会
(JVCEA)
が共同で行った一連の啓発活動やガイダンスの結果である。
26. DNFBPs は、
マネロン・テロ資金供与リスクについて、
低いレベルの理解し
か有していないが、北朝鮮に関連する業務のリスクや、最近の事案から金の密輸
に係るリスクについては、一般的に認識している。DNFBPs は、主に顧客の本人
確認及び顧客が暴力団の構成員・関係者でない旨の確認といった、基本的な
AML/CFT に係る予防的措置の適用に留まっている。また、全ての DNFBPs が、
実質的支配者の概念に関する明確な理解があるわけではない。制裁者リストとの
照合や高リスク国リストとの照合は、主に顧客が通常の取引形態や属性から逸脱
した場合のみ実施されている。
27. 全ての DNFBPs が、疑わしい取引の届出義務の対象になっているわけでは
ない。
届出義務が課されている DNFBP セクターにおいて、
ある程度のマネロン・-12- 添付資料1
テロ資金供与リスクに直面していると認識された分野も含め、届出のレべルは低
い。
監督(第 6 章;IO.3;R.14, 26-28, 34, 35)
28. 金融監督当局は、
主要株主及び金融機関の経営陣に対して標準的な適格性審
査(フィット・アンド・プロパー・レビュー)を行っているが、実質的支配者の
検証には課題がある(下記「透明性と実質的支配者」を参照)。無登録・無免許
の金融機関の検知は、当局及び第三者から収集された情報に基づいて行われる。
当局は、無免許事業者を検知した場合その事業を停止するよう要請し、事業者が
従わない場合にはその措置を公表することで、経営陣の評判・評価に対して然る
べき結果等をもたらす。
29. 異なる金融監督当局間におけるマネロン・テロ資金供与リスクの理解の程度
には差がある。金融庁は、AML/CFT の監督において主導的な役割を果たしてお
り、最近、AML/CFT 専任チームの設置と強制力のある AML/CFT ガイドライン
(2018 年)により、AML/CFT リスクの理解と監督を強化した。
30. 金融庁による AML/CFT に係るリスクベースの監督は、まだ初期段階にあ
るが、徐々に改善しつつある。金融機関に対する初歩的な(initial)リスク評価は
実施されているが、現段階では RBA は主に固有リスクに主眼を置かれて実施さ
れている。他の金融監督当局によるリスクベースによる監督の導入及びリスクの
理解は、金融庁と比して、更に初期段階にある。
31. AML/CFT に係る監督は大規模銀行と暗号資産交換業者に焦点を当てて実
施されており、これは RBA の観点から適切である。しかし、 AML/CFT を対象
とする金融機関へのオンサイト検査数は限定的である。3メガバンクに対する監
督の焦点は、継続的なオフサイト・モニタリング及び金融機関との頻繁な面談を
含む「通年検査」に基づいている。その他の金融機関については、定期報告と、
必要に応じて AML/CFT に特化したオンサイト/オフサイトの検査やヒアリング
を行うという監督手法が取られており、これは適切である。
32. 金融庁は、
金融機関との個別の対話においては緊密なフォローアッププロセ
スがあることを示した。しかし、金融分野全体に対しては同様の対応が行われて
おらず、金融監督当局が課している AML/CFT に係る義務について、金融機関が
速やかにかつ完全に遵守するための明確かつ規範的な対応完了期限が示されてい
ない。
33. 金融庁を含む金融監督当局は、
銀行を含む金融機関に対する効果的かつ抑止
的な一連の制裁措置を活用していない。
34. 暗号資産交換業者の監督機関である金融庁は、
取締役及び役員に対して適格
性審査を行っている。日本は無登録業者を特定し、措置を講じることに成功して
いる。金融庁の暗号資産交換業者監督のための専任チームは、一定のマネロン・
テロ資金供与リスクを含め、暗号資産に係るエコシステム(暗号資産分野におい
て相互に関係する構成要素)
やサービス・商品に対する高度な理解を有している。
35. 日本は暗号資産交換業者セクターに対し、
対象を絞り適時に監督上の対応を
行ってきた。マネロン・テロ資金供与リスクに基づく監督の実施は改善の必要が
ある。顧客保護が多くの行政処分対象案件に関係していたため、他の金融機関に-13- 添付資料1
対して行われた処分より厳格なアプローチである業務停止命令を含む処分が科せ
られた事例が多くある。
36. DNFBPs の監督当局は、
監督対象者の許認可・登録の際に、
基本的な適格性
審査を行っている。これらの監督当局は、監督業種に係るマネロン・テロ資金供
与リスクについて基本的な理解を有しており、
それは主に 国のリスク評価の結論
に基づいている。一般的に、監督当局は、 リスクベースでの AML/CFT 監督を
行っていない。いくつかの DNFBPs の監督当局は、AML/CFT の部分を含む一
般的な義務の履行管理を行っている。いくつかの法令は、監督対象である事業者
に対して、AML/CFT の実施に関する年次報告書の提出を求めている。監督対象
である事業者に対する罰則の適用は非常に限られており、主に、年次報告書を提
出しないことに対して行われている。
透明性と実質的支配者(第 7 章;IO.5;R.24, 25)
37. 日本は、法人が悪用される可能性についてある程度理解しているが、この理
解は深度を欠いており、様々な種類の法人に関連する脆弱性についての十分な理
解が示されていない。
法的取極めの悪用に関連するリスクについての理解はない。
法執行機関の間では、捜査に役立つ基本情報や実質的支配者情報の情報源につい
て、ある程度の理解が不足しているようである。
38. 日本は、金融機関、暗号資産交換業者、及び大半の DNFBPs に実質的支配
者情報の収集と検証を求め、公証人が新しく設立される会社の実質的支配者情報
をチェックするようにする等、実質的支配者情報を確実に利用可能にするために
いくつかの重要な措置を講じている。しかし、これらの措置はまだ完全には実施
されておらず、金融機関、暗号資産交換業者、DNFBPs による監督や予防的措置
の適用に不備があるため(上記の「監督」及び「予防的措置」を参照)、全ての
事案で適切かつ正確な実質的支配者情報が利用できるわけではない。日本が金融
捜査の一環として実質的支配者情報を利用したケースは非常に少なく、ほとんど
全ての事案が、前提犯罪の捜査の一環として引き起こされた、単一の法人または
法的取極めに関わるものである。これが、法人が悪用されている方法についての
日本の限られた理解によるものなのか、利用可能な実質的支配者情報の不足によ
るものなのか、あるいはトレーニング不足等の他の理由によるものなのかは明ら
かではない。
39. 会社についての基本情報は、株主に関する詳細な情報を含めて、会社自身か
ら入手可能であり、法人登記からも基本的な情報が得られる。しかし、会社が保
有する情報を適時に入手できるかどうかは明らかではない。基本情報の提供を怠
った場合の罰則は、一貫して適用されていない。
国際協力(第 8 章;IO.2;R.36-40)
40. 日本の国際協力は、リスクに応じて実施されており、公式・非公式の両方の
チャネルを通じて、概して適時で質の高いものとなっている。関係当局は、国際
協力を優先事項として扱っている。日本は、公式・非公式の国際協力を支援する
ための、概ね包括的な法的・制度的枠組みを有している。 犯罪人引渡しを含め、
刑事共助のための法的な枠組みと取決めがあり、AML/CFT 関連当局がパートナ
ーたる外国当局との正式な協力を求め、
提供することを可能にしている。
加えて、-14- 添付資料1
FIU,法執行機関、金融監督者間の情報交換を含む他の形態の国際協力は、日本
では十分に支援され、日常的に利用されている。
41. 特に、
マネロン事件の捜査や資産の追跡のための正式な刑事共助の活用の程
度、AML/CFT の監督事項における金融庁の国際協力については、依然としてい
くつかの改善が必要である。同様に、国際的なパートナーとの刑事共助によらな
い協力形態を強化するために、さらなる努力がなされるべきである。
優先して取り組むべき行動
日本は、以下に取り組むべきである。
a) 金融機関、
暗号資産交換業者、
DNFBPs が AML/CFT に係る義務を理解
し、
適時かつ効果的な方法でこれらの義務を導入・実施するようにする。
これらにおいては、事業者ごとのリスク評価の導入・実施、リスクベー
スでの継続的な顧客管理、取引のモニタリング、資産凍結措置の実施、
実質的支配者情報の収集と保持を優先する。
b) 前提犯罪の捜査の早い段階でマネロンについて検討することや、より広
範な犯罪、特にハイエンドな犯罪収益の入手につながる高リスクの犯罪
類型についての第三者によるマネロン(サードパーティー・マネー・ロ
ーンダリング)を優先することを含め、より重大な前提犯罪を対象とし
たマネロン罪の適用を増やす。
c) 警察庁、法務省、検察庁の間で、検察庁の訴追裁量の適用を再検討する
ことを含め、重大なマネロン事案の捜査・訴追の優先度を高めることに
合意し、マネロン事案の起訴率を改善するための措置を探求し、マネロ
ン事案の訴追を優先させる政策を実施する。
d) マネロン罪の法定刑の上限を、少なくとも日本で犯罪収益を最も頻繁に
生み出す重大な前提犯罪と同水準に引き上げる。
e) 優先リスク分野について、資産の追跡捜査、保全措置及び没収をより優
先的に行う。また、犯罪に用いられた道具及び密輸された現金又は持参
人払い式の譲渡可能支払手段をより一貫して没収する。
f) リスクベースでの AML/CFT 監督を強化する。これには、特定事業者に
おいて実施されている予防的措置の評価のためのオフサイト・モニタリ
ングとオンサイト検査の組み合わせについて、その頻度及び包括性を強
化することや、金融機関、DNFBPs、暗号資産交換業者による義務履行
における肯定的な効果を確保するために、抑止力のある行政処分と是正
措置が適用されることを含む。
g) テロ行為との関連性がない場合に、個々のテロリスト又はテロ組織の資
金供与が犯罪化されることを確実にし、勧告 5 の分析で明らかになった
日本のテロ資金供与の犯罪化に関するその他の技術的欠陥を是正するこ
とを確実にするために、拘束力があり強制力のある方法を採用するか、
テロ資金提供処罰法を改正する。-15- 添付資料1
h) 対象者を指定した金融制裁を遅滞なく実施するために必要な更なる改善
がなされ、対象者を指定した金融制裁を実施するための全ての自然人及
び法人に係る義務が明確であり FATF基準に沿ったものであることを確
保する。
i) テロ資金供与に悪用されるリスクがある NPO 等、特にリスクの高い地
域で活動している NPO 等についての完全な理解を確保するとともに、
リスクに見合ったアウトリーチ、ガイダンス提供、モニタリング又は監
督を行う。
j) リスク評価の方法を引き続き改善し、マネロン・テロ資金供与リスクの
より包括的な理解を促進する。これには、クロスボーダー・リスクや、
法人・法的取極めに関連するリスクに特に焦点を当てることを含む。
k) 法人及び法的取極めに関する基本情報や実質的支配者情報が、日本の規
制・監督・捜査の枠組みの一部として確立されるようにすることを確保
する。
有効性と法令等整備状況の評価
表 1.有効性の評価
IO.1 IO.2 IO.3 IO.4 IO.5 IO.6 IO.7 IO.8 IO.9 IO.10 IO.11
SE SE ME ME ME SE ME ME ME ME ME
注:有効性の評価は、High-HE、Substantial-SE、Moderate-ME、Low-LE。
表 2.法令等整備状況の評価
R.1 R.2 R.3 R.4 R.5 R.6 R.7 R.8 R.9 R.10
LC PC LC LC PC PC PC NC C LC
R.11 R.12 R.13 R.14 R.15 R.16 R.17 R.18 R.19 R.20
LC PC LC LC LC LC N/A LC LC LC
R.21 R.22 R.23 R.24 R.25 R.26 R.27 R.28 R.29 R.30
C PC PC PC PC LC LC PC C C
R.31 R.32 R.33 R.34 R.35 R.36 R.37 R.38 R.39 R.40
LC LC LC LC LC LC LC LC LC LC
注:法令等整備状況の評価は、C-適合、LC-概ね適合、PC-一部適合、NC-不適合。-16- 添付資料2
第3章 法制度と運用上の問題
主な評価結果と勧告事項
主な評価結果
マネロン捜査と起訴(IO 7)
a) 日本の法的・制度的枠組みは、マネロンの前提犯罪となる環境犯罪にお
けるわずかな隙間や法執行機関による潜入捜査の範囲に関するものを除
き、国際基準に沿ったものとなっている。この点については、日本のリ
スクプロファイルを考慮して、有効性にある程度の影響を与えている。
b) 法執行機関は、経済犯罪や組織犯罪グループに関連する前提犯罪及びマ
ネロン捜査を優先事項としており、これは主なリスクにある程度、合致
している。しかし、複雑な詐欺、大規模な外国の前提犯罪、薬物関連犯
罪、その他環境犯罪等による犯罪からの収益といった、ハイエンドな犯
罪収益[high-end profit taking levels]に十分な焦点が当てられているかどう
かは不明確である。日本では起訴猶予となるマネロン事案の多くは非常
に軽微な犯罪に関するものであることが、この懸念を強めている。
c) 大規模な国境を越えたマネロン事案や国内の薬物の違法取引に関する捜
査について、特に課題が認められる。
d) 法執行機関は、相当数の複雑ではないマネロン事案と、複雑な外国の前
提犯罪に関する経験に照らし、マネロンの捜査能力・スキルがあること
を示した。
e) マネロン事案のほとんどが前提犯罪と共に捜査・起訴される。単体とし
てのマネロン事案や法人によるマネロン事案についての捜査・起訴は限
定的である。
f) これまで起訴されたマネロン事案は全て有罪判決を獲得している。しか
し、当局が総合的なリスクプロファイルに沿ってマネロンを起訴してい
るのは、ある程度にしか過ぎない。
g) マネロンに適用される懲役刑は、日本で最も頻繁に犯罪収益を生み出し
ている前提犯罪に適用される懲役刑より低い水準にある。このように、
当局は、これらの重大犯罪から利益を得ている犯罪者に対する罪の程度
に見合い、かつ抑止力のある制裁を欠いている。
h) 実務上、マネロンで有罪判決を受けた自然人に適用される制裁は、通常、
マネロンに適用できる刑の範囲内の軽い方のものである。執行猶予が付
されたり、罰金が科されていることが多い。-17- 添付資料2
こうしたことは、マネロン罪に適用されている制裁や法定刑の上限の有
効性と抑止効果についての懸念を生じさせるが、日本の事情や司法制度
には沿ったものである。
勧告事項
マネロン捜査と起訴(IO 7)
日本は、以下に取り組むべきである。
a) マネロン罪の法定刑の上限を、少なくとも日本で犯罪収益を最
も頻繁に生み出す重大な前提犯罪と同水準に引き上げる。
b) 前提犯罪の捜査の初期段階におけるマネロン事案の検討や、よ
り広範な犯罪、特にリスクが高い犯罪類型に関する第三者によ
るマネロンに優先順位を付けることを含め、より重大な前提犯
罪を対象とした、マネロン罪の適用を増やす。複雑な詐欺、大
規模な外国の前提犯罪、薬物関連犯罪や環境犯罪などその他の
前提犯罪からの収益を含むハイエンドな犯罪収益のマネロンの
捜査の活用を増やす。
c) 日本のリスクプロファイルに沿って、法人及び外国の前提犯罪
に基づくマネロン事案を追うことを優先付ける。
d) 検察庁の起訴裁量の行使のあり方の再検討、マネロン事案の起
訴を優先付ける政策の実施を含め、法務省と検察庁との間で、
マネロン事案の起訴の優先順位付けを強化し、マネロン事案の
起訴率を改善するための方策を追求し、実施する。
e) 検察庁に送致されたマネロン事案のうち約20%で証明度が満た
されていないとの検察庁による懸念に組織的に対処するため、
検察庁とその他法執行機関が協力することを要求する。
f) 検察庁が、判決の時点で、犯罪の重大性を反映した適切な判決(つ
まり範囲内でより重い刑)を積極的に求めるよう、ガイドラインを
作成する。
g) 明らかに不十分な判決に対して、定期的に上訴することを真剣に検
討する。-18- 添付資料2
IO 7(マネロン捜査及び起訴)
176. 日本の法的・制度的枠組みは、前提犯罪としての環境犯罪の範囲、法執行
機関の権限や抑止力のある刑罰の不足に関する僅かな隙間を除き、国際基準にあ
る程度適合していることを示している(TC Annex, R.3及びR.31を参照)。これ
らの隙間は、同枠組みの有効性にある程度、影響を及ぼしている。国際基準を遵
守し、日本のリスクプロファイルを考慮すると、これらの隙間を埋める必要があ
る。
177. 検察庁及び日本の全ての法執行機関は、マネロン罪及び関連する前提犯罪
の捜査に関する統計を収集している。法務省は、起訴・有罪判決の詳細な統計と
代表的なケーススタディを有しているが、守秘義務上の懸念があるため、事件の
詳細を提供することにやや消極的であるようだ。マネロン罪による起訴の結果に
ついては、利用可能なデータに若干の欠落がある。審査団は、マネロン事案及び
前提犯罪の捜査に関するデータや統計、多数のマネロン事案の検討を通じ、どの
程度捜査が行われているか、行為者が起訴されているか、効果的で罪の程度に見
合っており、かつ抑止力のある制裁の対象となっているかを踏まえて結論を出し
た。
マネロンの特定・捜査
178. 日本のほとんどの法執行機関及び検察庁は、マネロン事案を捜査する権限
を有しているが、実際には警察庁及び都道府県警察がマネロン事案を捜査する主
たる法執行機関であり、マネロン事案の約98%を捜査している。検察庁は、一般
的に、全犯罪について第二次捜査機関であるが、独自捜査を行う権限を有する。
検察庁では、汚職や脱税など高度な法的専門性や捜査手法が求められるホワイト
カラー犯罪や、その他の犯罪の捜査を行っている。警察以外の法執行機関によっ
てマネロン事案が特定された場合、警察庁又は都道府県警察に事件が移されるこ
とが最も多い。これは、警察の捜査の専門性に加え、全国各地に所在していると
いう点を考慮したものである。
179. マネロン事案の捜査を実施する上で、警察庁及び都道府県警察が重要な役
割を果たしていることは強みである。全ての法執行機関は、疑わしい取引の届出
の分析のためにJAFICに要請することを含め、FIUの情報に直接アクセスするこ
とができる。全ての法執行機関は、捜査の支援のため、多くの豊富な金融情報や
その他の情報源にアクセスできる(IO 6を参照)。マネロン捜査の情報源には、
現場の捜査員、前提犯罪捜査、一般市民、JAFIC、各種政府データベース、その
他の当局からの情報が含まれる。警察は、相当数のマネロン事案について、合同
捜査(都道府県警察間)を実施している。警察庁では、被疑者の申告所得の捜査
のため、マネロン事案の捜査の進展につながる可能性のある税務記録の提出を国
税庁に要求できる(IO 6を参照)が、実際にはほとんど行われていない。
表3.6.都道府県警察間での共同捜査により終結したマネロン事件– 2014-2018
2014 2015 2016 2017 2018 合計
終結した全マネロン事案数 293 381 380 353 504 1,911
合同捜査で終結したマネロン事案数 33 23 28 20 31 135
出典:警察庁-19- 添付資料2
180. 法執行機関は、マネロンを捜査するのに十分な能力とスキルを有している。
捜査員は、金融捜査に関する研修を受けており、JAFICや各所属機関から十分な
情報の支援を受けている。警察庁及び都道府県警察には、経済犯罪の専門捜査官
が配置されており、全国の複雑な金融捜査において警察機関を補佐している。捜
査官は、マネロン事案の捜査手法や犯罪収益の追跡に関する研修を受けている。
181. 捜査手法については、通信傍受を含む様々な捜査手法を積極的に活用して
いることが法執行機関から示された。前提犯罪に関する捜査では、コントロール
ド・デリバリーの実施が可能である。
182. 法執行機関は、研修、直接の経験及び専門捜査員の配置に基づき、マネロ
ン事案を捜査する能力・スキルを有することを明らかにした。法執行機関は、よ
り複雑ではないマネロン事案捜査に関する広範な経験と、外国の前提犯罪を含む
複雑な捜査に関する一定の経験を示した。
表3.7.法執行機関から検察官に送致されたマネロン事案
2014 2015 2016 2017 2018 合計
検察官への送致 93 407 310 329 440 1579
起訴 134 134 144 102 126 640
出典:警察庁、検察庁
183. 法執行機関は、(i)疑わしい取引の届出、情報機関からの報告書、オー
プンソースインテリジェンス情報又は海外のインテリジェンス情報などの金融イ
ンテリジェンス情報と分析、(ii)前提犯罪に関する進行中の捜査の二つの主な情
報源を通じて、マネロン事案を特定している。警察は、犯罪収益を生み出す犯罪
の捜査において、金融捜査を日常的に行っていることを確認している。
184. 法執行機関は、特に組織犯罪に捜査の焦点を当てていることを示した。し
かし、資金の流れには十分な焦点が当てられていないようである。その結果、当
局は全体としての犯罪性及び関連するリスクの程度を十分に認識できる立場にな
い可能性がある。利用可能な金融インテリジェンス情報に関する包括的で機関横
断的な分析がないため、特に、複雑な犯罪行為に関する捜査の機会が見逃されて
いる可能性がある。その一例として、大規模な金密輸と関連する消費税詐欺
[consumption tax fraud]に関連したマネロン事案の進展が見られないことが挙げら
れる(特定されたマネロン/テロ資金供与リスクに対処するための国内政策を参
照)。
マネロン事案の捜査・起訴、脅威・リスクプロファイルとの整合性、国のAML
政策
捜査
185. 日本の法執行機関が実施したマネロン事案の捜査は、国内及び国境を越え
た薬物の違法取引を除き、国別危険度調査及びその他のリスク評価で特に高リス
クと特定された幾つかの主要なリスクプロファイルと合致したものである(IO 1
を参照)。日本は、捜査を行っているマネロン事案が、日本の脅威やリスクプロ
ファイル、国内のAML/CFT政策とある程度一致していることを明らかにした。
国別危険度調査は、(i)暴力団、(ii)日本にいる外国人、(iii)特殊詐欺グル
ープなど、マネロンに関する三つの主要な脅威を特定した。暴力団の類型には、-20- 添付資料2
薬物の違法取引の一部が含まれているが、これらの各類型に関するマネロン額の
マネロン総額に対する割合を示す関連統計がないため、これらのマネロン事案の
脅威が顕在化している実態を評価することは困難である。しかし、複雑な詐欺、
大規模な外国の前提犯罪、薬物関連犯罪、環境犯罪などその他の前提犯罪からの
収益といった、ハイエンドな犯罪収益に十分な焦点が当てられているかどうかは
依然として明らかではない。
186. 金融捜査は、警察庁及び都道府県警察が優先的に行っており、国別危険度
調査で特定された三つのリスクに沿ってリソースが割り当てられている。他の法
執行機関は、金融捜査を同程度には優先的に行っていない。他方、例えば、海上
保安庁において、前提犯罪の捜査に金融インテリジェンス情報を用いたものの、
マネロン事案の結果につながらなかったという幾つかの注目すべき事例があった。
これは、海上保安庁が、主に自組織が担当する前提犯罪の捜査を行うことから、
検察庁又は他の関係当局に対し潜在的なマネロン捜査について注意喚起する必要
性の検討をせずにいたことによる。
187. 国内組織犯罪(暴力団)–法執行機関は、薬物の違法取引・譲渡、詐欺、
恐喝、脅迫、売春、賭博を含む様々な利得行為に関連する多くの暴力団関連のマ
ネロン事案を取り扱った。警察庁及び都道府県警察は、全国各地の暴力団関係事
件の金融捜査やこれら国内グループに関連するマネロン事案に重点を置いている
ことを示した。最も大きな課題は、これらの組織犯罪グループにおける上位の利
益獲得段階のマネロン事案の捜査を完遂することにあると思われる。当局は、国
税庁が犯罪収益を特定する能力がない中で、警察庁の情報を活用することにより、
暴力団個人やそれに関連する事業からの適正な課税の確保を図るため、警察庁と
の連携を強化していることを強調している。
ボックス 3.4 - 暴力団組長による、高利貸しによる犯罪収益の隠匿
主犯が暴力団の組長であった高利貸し事件の捜査において、関係者の自宅
の捜索を行った結果、現金1447万円(約141,572米ドル)相当が発見さ
れ、差し押さえられた。捜査の結果、高利貸しによる犯罪収益と混和した
資産が自宅内に隠匿されていたことが明らかになり、組織的犯罪処罰法違
反(犯罪収益等隠匿)で組長が逮捕された。差し押さえられた現金は没収
された。(2018年10月)
ボックス 3.5 偽造在留カードの不正販売による犯罪収益の隠匿
不法残留の外国人が偽造在留カードを外国人に販売し、第三者の銀
行口座に6万円(約578米ドル)をカード代として支払わせている
ことが判明した。犯罪者は、出入国管理及び難民認定法違反(在留
カードの偽造・提供)及び組織的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠
匿)により逮捕された。これにより、外国人の不法滞在を助長して
きたシステムが解体された。(2014年6月)-21- 添付資料2
表3.8 暴力団に関連するマネロン捜査及び金額
警察庁により捜査終
結した暴力団が関与
するマネロン事案
終結させた事件に関与
する人数
マネロンに関する概算
額(円)
マネロンに関する概算額
(米ドル相当額)
2014 60 83 162,759,705 1億5600万ドル
2015 94 177 301,635,864 2億9000万ドル
2016 76 132 558,721,764 5億3800万ドル
2017 50 72 207,581,919 2億ドル
2018 65 100 627,005,442 6億300万ドル
2019(1-6) 29 46 56,940,925 5480万ドル
出典:警察庁
188. 特殊詐欺 –法執行機関は、「特殊詐欺」と分類される、より複雑な詐欺問
題に関連するマネロン事案を相当数、取り扱った。特殊詐欺に関するマネロン事
案には、国際犯罪グループや国内組織犯罪が含まれることが多い。特に、2017年
には、高額のマネロン事案があったことが注目される。
表3.9.各種詐欺に関するマネロン捜査
前提犯罪 2014 2015 2016 2017 2018
詐欺 79 102 103 102 162
電子計算機使用詐欺 13 9 9 24 26
窃盗 85 127 156 136 191
出資法及び貸金業法違反 23 31 31 21 28
売春防止法違反 10 12 11 6 12
風俗適正化法違反 16 19 9 7 4
わいせつ物頒布等 12 8 13 6 8
常習賭博及び賭博場開帳図利 6 15 16 6 7
その他 60 68 40 55 73
合計 304 391 388 363 511
出典:警察庁
注:マネロン罪は複数の前提犯罪を含んでいる可能性があるため、総数はマネロン罪の終結
件数と一致しない。
表3.10.特殊詐欺に関連するマネロン事件
警察庁が終結させた特殊詐欺
事件のマネロン
終結させた事件に関与
する人数
マネロンに関する
概算額(円)
マネロンに関する概
算額(米ドル相当額)2014 19 23 128,525,960 123万ドル
2015 34 68 107,069,670 103万ドル
2016 37 88 376,312,097 362万ドル
2017 36 61 9,897,507,449 953万ドル
2018 75 124 496,509,122 478万ドル
2019 51 60 210,461,512 203万ドル
出典:警察庁-22- 添付資料2
189. 日本における外国人犯罪 –法執行機関は、この分類におけるリスク、特に
複雑な詐欺、幾つかの薬物関係及び密輸事件に関連する非常に多くのマネロン事
案を取り扱った。これらの事件の多くは、外国の関係当局との情報共有による支
援を受けている(IO 2を参照)。
表3.11.外国人に関連するマネロン事件
警察庁が終結させた外国人
が関与するマネロン
終結させた事件に関与
する人数
マネロンに関する
概算額(円)
マネロンに関する概
算額(米ドル相当額)2014 37 51 55,227,888 531,885ドル
2015 35 52 118,868,544 114万ドル
2016 35 76 392,567,898 378万ドル
2017 28 38 15,850,827 152,665ドル
2018 48 61 97,892,034 942,772ドル
2019 38 41 82,571,424 795,223ドル
出典:警察庁
190. ハイエンド[high-end]のマネロン (多くの場合、複雑な構造を持った多
額の収益) - 日本の法執行機関は、多額の収益に関する事案を扱うこともあるが、
一般的には、複雑な構造を含むハイエンドのマネロン事案を特定することができ
なかった。薬物、詐欺、組織犯罪、その他の前提犯罪に関する複雑で国際的な事
案が捜査されたことはほとんどない。
ボックス 3.6 - 不法残留外国人の職場の摘発による犯罪収益隠匿の発覚
ある外国人は、多数の不法残留外国人を雇用した上、農業に従事さ
せ、売り上げた農産物の代金を第三者の銀行口座に振り込んだ。同
外国人は、出入国管理及び難民認定法違反(不法就労助長)と組織
的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)により有罪判決を受けた。同
判決において、被告人には懲役4年が言い渡されたが、2年間その
執行を猶予され、200万円(19,260米ドル)の罰金に処せられ、相
当額の財産の没収として2320万円(223,433米ドル)の追徴がなさ
れた。(2018年1月)-23- 添付資料2
191. 薬物犯罪 - 薬物犯罪は、日本の全ての前提犯罪の中で最も収益性の高い類
型の一つであると思われる。法執行機関は、暴力団関係の国内薬物犯罪に関連す
るマネロン事案を扱っていることを多数示したが、犯罪関連企業の利益獲得段階
に関する事案の捜査数は比較的少数であった。(外国の犯罪グループが関与する)
大規模な薬物の違法取引に関連するマネロン事案はわずかである。最大の課題は、
国境を越えた薬物取引に係る大規模マネロン事案の捜査である。これは、これら
の大規模な薬物の違法取引に係る犯罪収益の流れや、犯罪関連企業の利益獲得段
階[profit taking levels]に関するマネロン事案を捜査するために必要なインテリジ
ェンス情報が不足していることが一因である。このように、大規模な薬物の違法
取引に関連したマネロン事案は比較的少ない。
192. 密輸– 特定の期間における金密輸及び関連する租税詐欺[tax fraud](特定
されたマネロン/テロ資金供与リスクに対処するための国内政策を参照)は非常
に重大な脅威であり、前提犯罪で有罪判決を受けた事案は多数あったにもかかわ
らず、金密輸及び関連する租税詐欺に関連するマネロンの事例はなかった。その
他の密輸事案に関連するマネロン事案は極めて少ない。野生動植物の違法取引に
関連したマネロン事案がない点が最も特筆すべき事項であり、これはマネロンの
前提犯罪として捉える範囲にギャップがあることに起因する。
193. 現金を用いたマネロン - 日本のマネロン捜査の多くは、現金を用いたマネ
ロンに関するものである。これは、日本が非常に現金社会であることと、国内の
ボックス 3.7 - 日本人男性による国際ビジネスメール詐欺に関連する犯罪収益
の隠匿
企業の取締役であった日本人男性らは、彼らの国内の法人口座に,
詐欺的なビジネスEメールにより欺かれた詐欺被害者である米国の
農業関連企業から、7800万円(約751,000米ドル)の資金を入金さ
せて受領した。日本人男性の属する犯行グループは、同資金を同口
座に入金するため、銀行員に対して同資金が適法な事業収益である
かのように虚偽の説明を行い、仮装した。また、同グループは、通
常の預金取引を装って口座から同資金を引き出した。本件は、組織
的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿など)として検挙された。
(2018年7月)
ボックス 3.8 暴力団組長による高利貸しにおける犯罪収益の隠匿
主犯が暴力団組長であった高利貸し事案を捜査する過程で、関係者の
自宅の捜索を行った結果、1447万円(約139,000米ドル)相当の現金が
発見され、差し押さえられた。捜査の結果、高利貸しからの犯罪収益
が混和した資産が家の中に隠匿されていたことが明らかになり、組織
的犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)で組長が逮捕された。差し押さ
えられた現金の没収(1447万円)に加えて、被告人には懲役2年・執
行猶予4年と、300万円の罰金(約28,892米ドル)が言い渡された。
(2018年10月)-24- 添付資料2
組織犯罪グループが現金を常用している状況を反映している。警察庁及び都道府
県警察は、多様な犯罪主体が現金を用いたマネロンを行っていることを深く理解
していること、様々な捜査手法(上記の事例を参照)に裏打ちされるように、こ
の分野における捜査能力があることを明らかにした。
194. 脱税 – 国税庁又はその他の当局が、法執行機関に対し、租税犯罪に係る前
提犯罪を、マネロン事案捜査のために紹介した事例はない。近時の金密輸に関連
した消費税詐欺が非常に大きな問題となっているにもかかわらず、である。税関
では、国境で金密輸を摘発した後、その全体像を解明し、個々の金の密輸事案を
関係する法執行機関に紹介するため、関係政府機関と緊密に連携している。日本
では、租税犯罪の割合は高くないが、現金社会であることの重要性に鑑みると、
マネロンによる起訴が行われていないことは、リスクプロファイルと一致しない。
第三者によるマネロン事案や海外犯罪収益のマネロン事案の捜査は、優先すべき
犯罪類型であるにもかかわらず十分に焦点が当てられていない。
表3.12.終結した刑事事件及びマネロン事件
2014 2015 2016 2017 2018
終結した刑事事件 370 568 357 484 337 066 327 081 309 409
終結したマネロン事件 300 389 388 361 511
マネロンに係る起訴1 43 34 48 50 19
マネロンに係る有罪判決 43 34 48 50 19
出典:警察庁
起訴
195. マネロン事案の起訴状況は、マネロンの捜査が質・量ともに適切であり、
マネロン事案を検討する検察官や裁判所の能力・経験が良好であるにもかかわら
ず、ある程度しかリスクプロファイルに沿っていない。
196. マネロンの起訴における実効性に係る問題点は、マネロン事案の起訴を含
む日本の司法制度における、被疑者に対する起訴を「猶予」する制度的なアプロ
ーチから生じている。法執行機関における捜査が終結(「処理」)し、検察庁に
送致されたマネロン事案の約50%は、起訴するに足りる十分な証拠があるにもか
かわらず、検察庁の裁量により「起訴を猶予」されている。統計によると、過去
5年間で、法執行機関が検察庁に送致したマネロン事案の起訴率は約30%である。
これらの数字は、日本の他の経済犯罪と並んでいる。捜査が終結したマネロン事
案の約20〜25%は、証拠不十分を理由として不起訴となっている。
197. 検察庁は、刑事訴訟法第248条に基づき、起訴に対して起訴猶予の裁量権
を行使するための明確な基準を有しており、これは、大多数の種類の犯罪に対し
て適用されることが予定されている手続である。刑事訴訟法第248条によれば、
「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴
追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。」とされている。日
本の捜査当局は、マネロンによる起訴が猶予されている事件の多くは、軽微な犯
1 データには、「没収あり」の事件のみが含まれる。また、当年の全てのマネロンを網羅するわけではない。-25- 添付資料2
罪であることを強調している。日本は、そのような事案の過半数が、当罰性を欠
いている、他の犯罪を誘発するリスクがない、隠匿に係る方法が高度なものでな
いものであることを示す数値を引用した。検察庁は、幾つかの要素を組み合わせ
て考慮することにより、起訴猶予としている。法務省は、被疑者が再犯に及んだ
場合は、起訴猶予処分となったことが、その後の起訴に悪い要素として作用する
としている。法務省は、起訴猶予とされた事件の中に、組織犯罪グループの関係
者が含まれることはほとんどないことを確認した。
198. 他の種類の犯罪との比較において、マネロン事案に係る起訴猶予の実態を
理解することが重要である。不起訴となったマネロン捜査の大多数は、日本の犯
罪のほぼ全範囲に適用されているアプローチに沿ったものである。この課題は、
前回の相互審査報告書で特定されたものである。
199. 検察庁は、終結したマネロン事案のうち、約20〜25%が証拠不十分によ
り不起訴となったと報告した。この点は、マネロン事案捜査の大多数が非常に軽
微であるために、より複雑なマネロン事案の捜査リソースや専門知識が削減され
る可能性について、特に懸念される。しかし、検察庁と法執行機関は、証拠の概
要の質を向上するためのギャップを埋めるための戦略や活動を行わず、マネロン
事案の捜査終結前に、証拠の収集量を向上させるための定期的な支援も行ってこ
なかった。法執行機関によるこれまでの経験及びスキルを考慮すると、証拠の概
要の質の向上に係るギャップについては、体系的なアプローチを行うことによっ
て対応できると思われる。
200. 検察庁の全般的な起訴方針、とりわけ刑事訴訟法第248条の機械的な運用
がマネロン事案に適用されることの実際上の効果として、マネロン事案に関する
質の高い捜査が行われた場合であっても起訴の割合が一貫して低いことが挙げら
れる。これは、主として、証拠の概要の質によるものではないようである。
201. 審査団は、マネロンが犯罪を行う企業からの「利益獲得」を促進する犯罪
類型であることを考慮すると、起訴猶予の適用はシステムの有効性にある程度影
響を与えると指摘した。しかし、ここでは、起訴や刑事罰などに対する社会認識
という日本の実態を考慮に入れると、ある程度のバランスが取れているといえる。
202. 特に北朝鮮への資金の送金に関連した外為法違反について、起訴率が非常
に高い点は注目に値する。外為法違反(FEFTA違反)は、刑事訴訟法第248条に
基づく検察庁の裁量の対象外となっている。
203. 特定の前提犯罪やマネロン事案の捜査において、関係機関の間で良好な協
力・調整が行われている。起訴決定に関し、刑事訴訟法第248条に基づく検察庁
の一貫した権限行使は、マネロン事案の起訴に関する警察庁との調整・協力の欠
如を反映しているように思われる。
204. 裁判まで進んだマネロン事件の有罪率は100%である。これは、証拠の概
要の質の高さと、検察官のスキルと経験の強さを表している。
205. 正確な数値は不明であるが、依然として自白を証拠とする事件が多数存在
し、簡素化された手続で裁判が行われていることも事実である。マネロン事案の
起訴における自白への過度の依存の問題は、2008年の相互審査でも強調された
(191節-194節を参照)。日本は、自白以外の方法による証拠収集を促進するた
め、2016年以降、制度改革を実施している。特に重要な分野としては、合意制度、
刑事免責制度の導入、通信傍受の対象犯罪の拡大を含む三つの分野である。審査
団は、これらの改革によって自白への過度の依存がある程度軽減したと判断した
が、これらの改革によってマネロン事案の実施に当たり、どの程度の改善が見ら-26- 添付資料2
れたかを示すデータは示されなかった。しかし、マネロン事案の起訴に当たり、
自白へ過度に依存し続けることは、組織犯罪の起訴に際して困難を来す可能性が
ある。なぜならば、法執行機関の報告によれば、暴力団幹部は自白しない傾向が
あるからである。
マネロン事案の種類
206. 日本の法執行機関は、前提犯罪の捜査と並行してマネロン事案を捜査する
優れた能力を示した。捜査対象となったマネロン事案の大多数は、第三者による
マネロン事案ではなく、自己によるマネロンによるものである。しかし、日本の
当局は、終結した大部分のマネロン事案について、起訴猶予とすることにつき、
正当化されるとしている。このことは、法執行機関は、より重大な刑罰につなが
る犯罪ではなく、非常に軽微な犯罪に関連するマネロン事案を大量に処理してい
ることを示唆している。審査団は、日本では、より重大なマネロン事案が犠牲と
なっているのではないかと引き続き懸念している。
207. 海外の前提犯罪をベースにしたマネロン -法執行機関は、海外の前提犯罪
に関する捜査実績を示した。これらの活動は、海外のFIU及び警察当局との協力
や、捜査共助要請によって支えられている。
208. 「プロ」の第三者によるマネロン又は単体としてのマネロン - 単体として
のマネロン事案の捜査・起訴は、前提犯罪に関与した者か、いわゆる「プロ」の
第三者によるマネロン事案であるか否かを問わず、限定的である。警察は、日本
の犯罪事情というコンテクストを幾つか指摘した上で、多くの犯罪類型との関係
では、このことは特筆すべき点ではないと強調した。しかし、国際犯罪(特に薬
物の違法取引)が生み出す多くの利益の程度に鑑みると、ギャップがあると考え
る。
209. 日本の当局は、マネロンに関する不透明な企業構造の利用に関する捜査実
績を示した。マネロンに係る法人の起訴に関する当局の経験は限定的である。
ボックス3.9 外国における詐欺による犯罪収益の隠匿
ナイジェリア国籍の被告人は、日本人共犯者と共謀の上、マレーシ
アの熱帯魚養殖会社、パキスタンの中古二輪車の輸入・販売会社等
を設立し、総額1390万円(約133,867米ドル)を日本の銀行口座に
振り込んだ。被告人は、詐欺によって受け取った金員であることを
知りながら、銀行員に対し、金員を「コンサルティング料」等とし
て受け取ったと告げて、犯罪収益を隠匿した。被告人は有罪判決を
受け、懲役3年・執行猶予4年の言い渡しを受けた。(2016年1月)-27-
添付資料2
制裁の実効性、比例性及び抑止力
210. マネロンに適用可能な制裁は、罪の程度に完全に見合ったものではなく、
マネロン罪が利益を生み出す性質を考慮すると、十分な実効性や抑止力もない。
R. 3(TC Annexを参照)に記載されているように、マネロンの刑罰は、自然人に
も法人にも適用可能であるが、自然人の場合、マネロン罪の法定刑は5年以下の
懲役である。法人の場合、罰金は50万円から300万円(約4,082ユーロ〜24,495ユ
ーロ、又は4,563米ドル〜27,380米ドル)である。これは、日本で最も深刻な犯罪
収益を生み出す他の多くの前提犯罪の刑罰よりも低いものとなっている。マネロ
ン事案を犯した自然人に適用されうる懲役刑は、詐欺、窃盗、不正取引、相場操
縦、業務上横領などの前提犯罪が10年以下の懲役刑とされていることに比べても
低い。2008年の相互審査(200節を参照)で述べたように、300万円(約28,892米
ドル)以下の罰金では抑止力があるとは思われないが、近年、このような懸念に
対応するための措置は採られていない。
211. マネロン罪の有罪判決に適用された量刑の統合的なデータは入手できなか
った。量刑データは、マネロン犯罪が没収・追徴の判決を受けた場合にのみ入手
可能であり、これは平均的なマネロン罪の年間有罪判決の30%に相当する。表3.7
では、年間平均128件のマネロン罪の起訴・有罪判決を示しているが、マネロン
に対して没収又は追徴が行われた事件(表3.13及び3.14)についていえば、年間
平均39件のマネロン罪の起訴・有罪判決を示している。
212. マネロン事例を検討した結果、犯罪組織や国際的要素が絡む重大な事件
(以下の例を参照)であるにもかかわらず、しばしば起訴を猶予されている事例
の存在が特定されている。実効性のある制裁が適用されていないことや、マネロ
ン罪に対する法定刑の上限が適用されていないことへの懸念が依然として存在し
ている。
ボックス 3.10 組織犯罪グループによる不正行為による収益の収受の摘発
暴力団員は、指定する場所に売春婦を住まわせ、インターネット上
のホームページを通じて不特定の男性客を勧誘し、売春の対価とし
て手数料を徴収することを業とした。被告人は、その暴力団員か
ら、約6か月間にわたって、総額1277万円(約123,000米ドル)の
収益を受け取った。被告人は懲役3年、罰金100万円(約9,630米ド
ル)に処せられ、約1277万円(約122,985米ドル)を追徴された。
(2014年1月)-28- 添付資料2
ボックス 3.11 –組織犯罪グループが受領した上納金を犯罪収益であるとして摘発暴力団組長が、上納金として800万円(約77,046米ドル)受け取っ
たが、これは、建設会社関係者2名により総合建設業者から脅し取
られた約4276万円(約411,810米ドル)の一部であった。組織的犯
罪処罰法第11条に基づき、被告人は、懲役2年・執行猶予3年の判
決を宣告され、800万円(約77,045米ドル)を追徴された。(2017
年1月)
ボックス 3.12 前提犯罪に関与していない者による犯罪収益の収受
公的医療機関の会計担当者が、同医療機関の銀行口座から現金を引
き出して総額約1314万円(約126,548米ドル)を横領した。同経理
担当者の関係者である被告人は、不正流用によって得た金員である
ことを知りながら、同経理担当者から、約188万円(約18,105米ド
ル)を受領した。被告人は、犯罪収益の収受により有罪判決を受
け、懲役1年6月・執行猶予4年、罰金50万円(約4,815米ドル)に
処せられた。(2012年7月)
ボックス 3.13 ケーススタディ 7.3-8:不法就労助長行為により得られた
犯罪収益の隠匿
被告人は、在留期間を過ぎて日本に滞在していた外国人を農業従事
者として雇い、その身元を隠すために別の個人の名前で作物を売っ
ていた。本件については、出入国管理及び難民認定法違反(不法就
労助長)と組織的犯罪処罰法(犯罪収益等隠匿)が適用され、被告
人は、懲役2年・執行猶予3年、罰金100万円(約9,631米ドル)に
処せられ、約320万円(約30,818米ドル)を没収され、約72万円
(約6,934米ドル)を追徴された。(2017年11月)-29- 添付資料2
213. マネロン罪の自然人に対する量刑は、法定刑の水準が比較的低い中で、懲
役刑については概して低〜中程度の範囲、罰金については広範囲にわたっている。
マネロン罪の量刑に利用できるデータは不完全であり、量刑の記録には幾らかの
矛盾がある。
214. 日本から提供された統計によると、2014年から2018年の間にマネロン事
案(のうち、没収・追徴命令があった事案)で有罪判決を受けた者は194人であ
る。これらの者のうち、懲役刑の判決を受けたが執行猶予が付されなかった者の
割合は平均34%だけだった。懲役刑の判決を受けたこれらのマネロン罪全体の
66%で執行猶予が付されており、また罰金(懲役刑以外)刑は平均70%の事件で
適用された。
表3.13.マネロンの有罪人員(没収・追徴があった場合)
2014 2015 2016 2017 2018 合計
有罪判決 43 34 48 50 19 194
懲役刑執行(執行猶予なし) 9 (21%) 9 (26%) 20 (42%) 19 (38%) 9 (47%) 66 (34%)
執行猶予付懲役刑 34 (79%) 25 (74%) 28 (58%) 31 (62%) 10 (53%) 128 (66%)
罰金(懲役刑なし) 32 (74%) 26 (76%) 37 (77%) 28 (56%) 14 (74%) 137 (70%)
出典:検察庁 - (注)本表は、マネロン罪に関する没収・追徴が宣告された事案を基に作成してい
るため、2014年から2018年までのマネロン罪に係る組織的犯罪処罰法違反に対する総件数を示し
ていない。
表3.14. マネロン罪の有罪判決(没収・追徴命令があった
場合)の科刑状況
懲役刑(執行猶予の有無を問わない)
人数
2014 2015 2016 2017 2018 平均 %
1年未満 5 0 1 0 0 3%
1〜2年 8 7 12 4 4 18%
2〜3年 19 17 20 18 10 44%
3〜4年 9 8 10 17 2 24%
4〜5年 0 1 2 8 2 7%
5年 1 1 2 3 1 4%
合計 42 34 47 50 19
出典:検察庁
表3.15. マネロン罪の有罪判決(没収・追徴命令があった場合)の科刑状況
罰金 人数
2014 2015 2016 2017 2018 平均 %
50万円未満(約5000米ドル) 2 1 4 2 0 6%
50万円〜100万円(約5000ドル〜10,000ドル) 9 2 9 9 3 22%
100万円〜150万円(約10,000ドル〜15,000ドル) 8 8 10 5 4 25%
150万円〜200万円(約15,000ドル〜20,000ドル) 2 1 2 2 0 5%-30- 添付資料2
罰金 人数
200万円〜250万円(約20,000ドル〜25,000ドル) 2 4 6 2 6 14%
250万円〜300万円(約25,000ドル〜30,000ドル) 4 2 0 2 0 6%
300万円〜50万円(約30,000ドル〜50,000ドル) 4 4 3 4 1 11%
500万円以上(約50,000米ドル以上) 2 5 4 3 1 11%
合計 33 27 38 29 15
出典:検察庁
215. 日本の当局は、適用された制裁による抑止力の不十分さの理由として、
様々な社会的実態を強調する。これには、重大犯罪で有罪判決が出たことによる
無形の社会的影響も含まれる。これらは無形的なものであるとはいえ、ある程度
は肯定的に捉える必要がある。こうした無形の影響は、日本の実態において幾ら
か重視されたが、審査団は、より上位の犯罪者、組織犯罪や外国人犯罪者に対し
ては、こうした無形の影響による抑止力はより少ないのではないかとの懸念を抱
いている。
216. ケーススタディによると、自己によるマネロンについては、マネロンと前
提犯罪が同時に審理され、全体としての情状を考慮の上、刑は併せて科されてい
る。前提犯罪の法定刑は、マネロン罪より重い範囲を含むことから、前提犯罪と
マネロン罪をいずれも有罪とした上で併せて5年以上の同時判決が下された事例
も、少数ながら存在する。
217. 実務上、日本の裁判所では、マネロン罪についての量刑ガイダンスがない
ようである。このようなガイダンスは、様々な社会的事態と、重大なマネロン罪
に対する、罪の程度に見合った、実効的で、抑止力のある量刑を確保する上で有
用であると考えられる。
ボックス3.14–没収及び懲役刑を含む判決
被告人は、複数の共犯者と共謀の上、偽りの警察官の身分証明書を提示し
て、銀行カードを詐取し,並びに銀行カード及び現金を窃取し、これらのカ
ードを利用して現金をATMから引き出した。そして、被告人は、空港におい
て、2個の手荷物にそれぞれ現金を隠匿し、(2092万円/201,000米ドルと
1600万円/154,000米ドル)、タイ行きの飛行機に手荷物として預け入れよう
とした。しかし、同所において警察官に摘発され、公印不正使用、詐欺(特
殊詐欺)、窃盗及び組織的犯罪処罰法違反により起訴された。警察は、現金
(合計3692万円/355,567米ドル)の没収のための起訴前保全命令を取得し、
執行された。また、検察庁は、他国に犯罪収益の移転を企図した行為につ
き、犯罪収益の隠匿の未遂であるとの積極的な解釈に基づき起訴し、懲役9
年及び押収した現金の没収を求刑した。その結果、被告人は裁判所により多
数の犯罪で有罪判決を受け、6年4か月の懲役刑と3692万円の没収を言い渡
された。(2019年7月)-31- 添付資料2
代替措置の使用
218. 日本は、マネロン捜査を進めたが正当な理由で有罪判決の確保が不可能な
場合について、他の代替可能な刑事司法上の措置の適用を示さなかった。
ボックス3.15 知的財産権侵害物品の販売から利益を受け取った法人を明るみ
に出す
中古品の販売や輸出入の事業を営む法人及び当該法人の代表取締役
は、商標権を侵害する類似商標を用いた偽ブランド品の売上金が混
和した犯罪収益を、借名口座に入金することにより収受した。この
事件では、法人に100万円(9,630米ドル)の罰金が科され、代表取
締役には懲役2年・執行猶予3年、100万円の罰金及び犯罪収益約
100万円の没収・追徴が言い渡された。(2014年5月)
IO.7の全体的な結論
日本の法執行機関は、マネロンの追跡をある程度まで優先しており、特に、重大な
詐欺や組織犯罪、及び関連する薬物事案に焦点を当てている。法執行機関は、優れ
た金融捜査を行い、また起訴する能力を有している。しかし、終結したマネロン事
案の過半は非常に軽微な事件に関連したものとなっており、起訴猶予となってい
る。マネロン事案の捜査のかなりの部分は、起訴に足りる十分な証拠を収集してお
らず、また、複雑なマネロン事案を実施する上では種々の課題がある。公判請求さ
れるマネロン事案については完全な有罪率を有し、法人に対するマネロン事案の起
訴も行われている。しかしながら、多数のマネロン事案では、執行猶予も含め非常
に低い刑が科されている。日本は、マネロン事案に対する起訴・有罪判決のレベル
が、脅威、リスクプロファイル及びAML/CFT政策にある程度においてのみ沿ってい
ることを実証した。
日本は、IO.7について、"moderate level of effectiveness"を達成していると評価される。-32- 添付資料3
勧告3 - マネー・ローンダリング罪
第3回相互審査報告書では、日本は関連する基準について、「概ね適合」している
[largely compliant]と評価された(157 節〜210 節)。主な不備は、マネー・ローンダ
リングに関する共謀が犯罪化されていないこと、不法資金による合法的債務への支払い
が犯罪化されていないこと、刑事制裁が罪の程度に見合っていないこと、一部法人に対
する刑事制裁には抑止力が欠けることであった。前回の審査以降、日本はマネー・ロ
ーンダリング罪に関する多くの改正を行っている。
基準3.1
日本におけるマネロン罪の定義は広い。犯罪収益の取得又は処分につき事実を仮装
した者、又は犯罪収益を隠匿した者には、懲役又は罰金もしくはその両方が科せられ
る(組織的犯罪処罰法第10条)。同罪の処罰範囲には、財産の真の性質、供給源、所
在、処分、移動、権利・所有を隠匿することを含むと広く解釈されている。薬物犯罪に
よる収益にも類似の犯罪が適用される(麻薬特例法第6条)。
組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法における犯罪収益には、犯罪収益の取得・保有・
利用により得た財産が含まれる。犯罪収益に由来する財産は、以下のように定義され
る(組織的犯罪処罰法第2条第3項、麻薬特例法第2条)。
犯罪収益として取得し、又は犯罪収益の対価として得た財産。
犯罪収益の保有又は処分に基づき得た財産。犯罪収益の転換と利用は、処分に含
まれる。
主観的要素については、自然人が当該犯罪を故意に実行したことを証明する必要が
ある。
基準3.2
犯罪収益とは、財産上の不正な利益を得る目的で犯した組織的犯罪処罰法が規定す
る犯罪行為によって生じた財産と定義されている(組織的犯罪処罰法第2条第2
項)。法定刑に4年以上の自由刑が定められている犯罪によって生じた財産も犯罪収
益に含まれる(組織的犯罪処罰法第2条第2項ロ)。
マネロンの前提犯罪には、あらゆるカテゴリーの重大犯罪が含まれる。環境犯罪に
ついては、前提犯罪の範囲に若干の隙間があり、これは、日本のリスクや状況を考慮
すると特筆すべきである。また、追加的主観的要素[additional intentional element]を証
明する必要があるのか、若干の疑問が残っている。-33- 添付資料3
組織的犯罪集団及びその不
当利得行為への関与
組織的犯罪処罰法 – 第10条(第3条第1項第1号〜第15号の
前提犯罪を参照)
テロ行為(テロ資金供与を
含む)
組織的犯罪処罰法 – 別表第2(第32号) / 第2条第4号
公衆等脅迫目的の資金等の提供等の処罰に関する法律第5条
(第三者テロ資金提供)へのリンク。
テログループの行為 - 公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資
金等の提供等の処罰に関する法律
第6条の2/別表第1第1号
人身取引及び移民の密輸 組織的犯罪処罰法(別表第1第8号)
性的搾取(児童に対する性
的搾取も含む)
13歳以上の個人を対象とする性的搾取行為 - 組織的犯罪処
罰法第6条の2/ 別表第3カ/刑法第176条〜第178条
売春も対象となっている模様(組織的犯罪処罰法第2条第2
項ロ)
麻薬及び向精神薬の不正取引麻薬特例法第2条第4項
武器の不正取引 組織的犯罪処罰法別表第2(第2条を参照)、第22号
盗品等の不正取引 刑法第256条第2項 – 組織的犯罪処罰法第2条第2項第1号
イに基づく前提犯罪
腐敗及び贈収賄 贈収賄 – 組織的犯罪処罰法(別表第1第2号及び第5号、第
7条の2。第2条第3項イ及びロを参照)
汚職犯罪には、背任(刑法第247条)及び業務上横領(刑法第
253条)が含まれる。
詐欺 組織的犯罪処罰法第3条第14号
通貨偽造 刑法第148条・第149条・第153条
商品の偽造及び不正コピー 特許法第196条及び第196条の2、商標法第78条及び第78条の
2、著作権法第119条
環境犯罪 一部の環境犯罪は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律第25
条、鉱業法第147条、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保
存に関する法律第57条の2、
及び森林法第198条によって犯罪
化されている。
日本は、
違法伐採、
違法漁業、
野生生物の不正取引等その他の
環境犯罪が前提犯罪に含まれていることを実証しなかった。
殺人及び重大な傷害 刑法第199条・第204条
誘拐、監禁及び人質をとる
行為
誘拐 – 組織的犯罪処罰法(別表第1第6号)
強盗又は窃盗 刑法第235条及び第236条
密輸
(関税・内国消費税に関
するものを含む)
関税法第108条の4、第109条、第110条
税犯罪(直接税、間接税に
関連するもの)
所得税法第238条、法人税法第159条、消費税法第64条
恐喝 刑法第12条
偽造 刑法第155条第1項及び第2項、第156条(第155条第1項及び
第2項により処断すべきものに限る)、第159条第1項及び第2項海賊行為 海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律第3条第
1項〜第3項及び第4条
インサイダー取引及び相場
操縦
金融商品取引法第159条、第166条、第197条の2第13号 – 法
定刑に基づき前提犯罪に分類される。-34- 添付資料3
基準3.3
日本では、
長期4年以上の懲役若しくは禁錮の刑が定められている全ての罪を前提犯
罪とするしきい値方式を含む複合的なアプローチを採用している。
基準3.4
日本のマネロン罪は、犯罪行為により直接得た財産だけでなく、犯罪行為によって間
接的に得られた財産もカバーしている。組織的犯罪処罰法は、犯罪収益に由来するあら
ゆる財産を犯罪収益と定義しているため、間接的な犯罪収益も犯罪収益とされている。
基準3.5
ある財産が犯罪収益であることを認定するために、
行為者を前提犯罪で起訴すること、
又は前提犯罪について有罪判決が出されていることは必要ない。
マネロン罪にいう犯罪
収益と認定するには、前提犯罪が行われたことが確認され、当該収益が前提犯罪に関連
していると認識されていれば足りる。
第3回対日相互審査報告書でも言及されているよ
うに、この点については多くの裁判例が報告されている。
基準3.6
前提犯罪は、日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内で行われたとしたな
らば前提犯罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む(組織的
犯罪処罰法第2条第1号)。もっとも、この考えが麻薬や向精神薬の違法薬物取引の前
提犯罪にまで適用されるかは不明である。麻薬特例法における前提犯罪は、規制薬物と
しての物品の輸入等の罪を除き、
日本国外においてそのような罪を犯した全ての者に適
用される(麻薬特例法第10条、刑法第2条)。
基準3.7
判例では、
マネロン罪は前提犯罪を行った者に対しても適用できることが示されてお
り、自己によるマネロンは犯罪化されている。
基準3.8
裁判例では、マネロン罪の成立に必要な故意や知情性等の主観的要素は、客観的事実
から推認できることが確認されている。
基準3.9
マネロン罪の性質に応じて様々な刑罰が適用される。
ホワイトカラー犯罪を含む重大な犯罪については、10年以下の懲役(刑法第246条第-35- 添付資料3
1項(詐欺))、7年以下の懲役(刑法第197条第1項(受託収賄))に処するものとさ
れている。
犯罪収益の隠匿又は仮装については、5年以下の懲役刑若しくは300万円1
(23,756ユ
ーロ/28,892米ドル)以下の罰金に処し、又はこれを併科するものとされている(組織
的犯罪処罰法第10条)。
マネロン罪の予備については、2年以下の懲役又は50万円(3,959ユーロ/4,815米ド
ル)以下の罰金が科される(組織的犯罪処罰法第10条第3項)。
情を知って犯罪収益を収受した者については、3年以下の懲役若しくは100万円
(7,919ユーロ/9,631米ドル)以下の罰金に処し、又はこれを併科するものとされてい
る(組織的犯罪処罰法第11条)。
麻薬及び向精神薬の違法取引のロンダリングに関する犯罪を犯す意図を有していた
場合には、2年以下の懲役又は50万円(3,959ユーロ/4,815米ドル)以下の罰金が科さ
れる。
多くの前提犯罪に対する刑罰と比較すると、
自然人に適用されるマネロン罪の刑罰は、
罪の程度に見合っておらず、抑止力を欠く。
基準3.10
自然人が法人のために[on behalf of]マネロン罪を行った場合、当該法人は犯罪を行
った自然人と同様の処罰を受ける(組織的犯罪処罰法第17条、麻薬特例法第15条)。法
人に適用される刑罰(50万円から300万円の罰金〔3,959〜23,756ユーロ/4,815〜28,892
米ドル〕)は抑止力を欠く。
これまで、マネロンについて、法人を相手とした民事訴訟が提起された例は確認され
ていない。
法人の代表者、法人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人の業務に関してマ
ネロン罪を犯した場合には、行為者を罰するほか、その法人に対しても罰金刑が科せら
れる。
基準3.11
参加 – 2人以上が共同して犯罪を実行した場合、両者とも正犯とみなされ、処罰の
対象となる
(刑法第60条。
第8条参照)。刑法が対象としているその他の共犯形態
[other
elements of complicity]には、組織的犯罪処罰法及び麻薬特例法におけるマネロン罪など
の幇助[accessory]も含まれる。共犯は刑法の第1編「総則」に規定されており、他の法1本文書全体を通して用いられた為替レートは、2021 年1月 14 日のもの(1円=0.00963074 米ドル=
0.00791857 ユーロ)である。-36- 添付資料3
令によって罰せられる犯罪にも適用される(刑法第8条)。マネロンの共犯者に対して
は、原則として、組織的犯罪処罰法又は麻薬特例法に基づく罰則の規定に加えて、刑法
に基づく共犯規定が適用される。どの規定を適用するかについて裁判官に裁量はない。
犯罪行為への関与又は共謀 – 犯罪収益を用いた事業経営支配、犯罪収益の取得又は
処分に関する事実の仮装、犯罪収益の隠匿、犯罪収益の発生の原因に関する事実の仮装
といった犯罪を構成する行為を1人以上の人物と共同で行うことを計画している者に
ついては、全員が犯罪を行ったものとして処罰される。犯罪行為に着手する前に自首し
た者については、その刑が減軽されるか免除される(組織的犯罪処罰法第6条の2、別
表第4)。マネロン罪の他の要素(犯罪収益の隠匿又は取得若しくは処分に関する事実
の仮装)に関する共謀も対象となる(組織的犯罪処罰法第6条、第10条第3項、麻薬特
例法第6条第3項)。
未遂 - 犯罪収益の隠匿の未遂行為は犯罪化されている(組織的犯罪処罰法第10条第
2項、麻薬特例法第6条第2項)が、他の形態のマネロン罪(犯罪収益の収受や犯罪収
益を用いた事業経営支配など)の未遂は犯罪化されていない。
幇助及び教唆 – 犯罪行為を幇助・教唆することは刑法によって犯罪化されている。
犯罪行為を教唆した者(教唆者を教唆した者を含む)は正犯として処罰される(刑法第
61条、第62条、第8条を参照)。幇助犯も処罰される。
援助 – 援助については、犯罪の予備行為(犯罪を行う準備をしているが、まだ犯罪
行為に着手していない状態)として部分的に犯罪化されているようである。犯罪収益の
収受又は犯罪収益を用いた事業経営支配の予備行為は犯罪化されていない。
犯罪行為への助言 – 犯罪行為への助言の一部は教唆として扱われる。これは、他者
を教唆し、犯罪を行うことを決断させること、及び犯罪を行わせたことを含む。他者を
教唆する行為には助言も含まれるようである。
評価と結論
日本はほとんどの基準を満たしている。しかし、一部の環境犯罪を前提犯罪としてい
ない点において不備が存在する。また、現行の刑罰は罪の程度に見合っておらず、抑止
力を欠く。
勧告3は「概ね適合」と評価されている。-37-

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /