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法務行政の透明化-公文書管理
2020年10月1日
委員 篠 塚 力
1 問題の所在
(1) 不合理な「特定の検察幹部の勤務延長制度」がなぜ唐突に法案化したのか。
東京高検検事長職が余人をもって代えがたいような役職ではなく,また,「特定
の検察幹部の勤務延長制度」が検察の独立を侵すおそれがある不合理な制度と
して,世論さらには元検事総長を含む検察 OB からも強い批判を浴びるものであっ
たことは,すでに明らかになっている。
平成30年8月から検討中の検察官の勤務延長の法案に関して,なぜ,この
ような不合理な「特定の検察幹部の勤務延長制度」が,令和元年12月から令
和2年1月にかけて,唐突に盛り込まれ成案となったのか,誰が主導したのか,な
ぜ,このような法務行政の「暴走」が内部で止められなかったのか。検察OBの
中に強い反対がありながら,現役の検察官や法務省幹部から全く反対がないなど
ということはあり得ないのではないか。
このような「暴走」を防ぎ,国民に対する説明責任を果たす制度がまさに公文
書管理制度である。
今回のような事態を招いた一因は,法務行政における公文書
管理において,公文書管理法に従った運用がなされなかったことが考えられる。
法務省の傷ついた信頼を回復するためには,その経緯も含めた意思決定の過
程を検証し,どこに誤りがあったかを明らかにして,再発防止策を策定しなければ
ならない。
(2) 「勤務延長制度(国交法第81条の3)の検察官への適用について」という文
書の不自然さ
検察庁法改正案策定経緯文書(令和2年7月22日 法務省刑事局)によ
れば,「特定の検察幹部の勤務延長制度」へ道を開く同文書は,令和2年1月
16日以降に作成され,法務事務次官まで了解したとされる。しかし,同文書に
は,作成日付及び作成者の記載がない。いつ誰が作成したかは文書からは読み
取れないし,法務省における「特定の検察幹部の勤務延長制度」へ道を開く経緯
も含めた意思決定に至る過程を合理的に跡付け,又は検証することができない。
このような文書が作成されるとは,単なる定年延長から「特定の検察幹部の勤
務延長制度」へ道を開く,特に重大な公文書として,公文書管理法の目的に照ら
して,考えがたいことである。
2 公文書管理の目的とその重み
公文書管理法(平成21年法律第66号)の第一条から
○しろまる 公文書等が,健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源として,主
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権者である国民が主体的に利用し得るものである
○しろまる 国民主権の理念にのっとり,公文書等の管理に関する基本的事項を定めること
等により,行政文書等の適正な管理,歴史公文書等の適切な保存及び利用等
を図り,
○しろまる 国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明す
る責務が全うされるようにすることを目的とする
3 法に従って,公文書にはどのような項目を記載しなければならなかったか
【公文書管理法 第二章行政文書の管理 第一節 文書の作成 第四条】
○しろまる行政機関の職員は,第一条の目的の達成に資するため,当該行政機関における
経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を
合理的に跡付け,又は検証することができるよう,処理に係る事案が軽微なものであ
る場合を除き,次に掲げる事項その他の事項について,文書を作成しなければなら
ない。
一 法令の制定又は改廃及びその経緯
二 前号に定めるもののほか,閣議,関係行政機関の長で構成される会議又は省
議(これらに準ずるものを含む。)の決定又は了解及びその経緯
三 複数の行政機関による申合せ又は他の行政機関若しくは地方公共団体に対
して示す基準の設定及びその経緯
五 職員の人事に関する事項
【行政文書の管理に関するガイドライン】
〈第3 作成 文書主義の原則〉
○しろまる 例えば,法令の制定や閣議案件については,最終的には行政機関の長が決定
するが,その立案経緯・過程に応じ,最終的な決定内容のみならず,主管局長
や主管課長における経緯・過程について,文書を作成することが必要である。
○しろまる 各職員が,文書作成に関し上記の判断を適切に行うことができるよう,日常的な
文書管理の実施についての実質的な責任者である「文書管理者の指示に従
い」,行うこととしている。文書管理者は,法第1条の目的が達成できるよう,個
々の文書の作成について,職員に日常的に指示する必要がある。
〈第4・16頁 整理〉
保存期間
(4) 1-(1)の保存期間の設定及び保存期間表においては,法第2条第6項の
歴史公文書等に該当するとされた行政文書にあっては,1年以上の保存期間
を定めるものとする。
(5) 1-(1)の保存期間の設定及び保存期間表においては,歴史公文書等に該
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当しないものであっても,行政が適正かつ効率的に運営され,国民に説明する
責務が全うされるよう,意思決定過程や事務及び事業の実績の合理的な跡付
けや検証に必要となる行政文書については,原則として1年以上の保存期間
を定めるものとする。
19頁 (設定例1)個々の行政文書を作成した際,件名(名称)を付するととも
に,ヘッダーに保存期間及び保存期間の満了する日を設定。
保存期間:1年←≪保存期間≫
保存期間満了日:2014年3月31日
(平成 26 年 3 月 31 日)↑≪保存期間の満了する日≫
事 務 連 絡
2012 年 6 月 1 日
(平成 24 年 6 月 1 日)
○しろまる○しろまる○しろまる○しろまる 殿
○しろまる○しろまる省○しろまる○しろまる局○しろまる○しろまる課長
○しろまる○しろまる会議の開催について←≪名称≫
4 平成30年の管理体制の強化後に発生した不祥事であること
(1) 行政文書の管理に関するガイドライン(平成 23 年 4 月 1 日内閣総理大臣決
定)第2 管理体制
1 総括文書管理者
(1) ○しろまる○しろまる省に総括文書管理者1名を置く。
(2) 総括文書管理者は,官房長をもって充てる。
2 公文書監理官
大臣官房に置く公文書監理官は,総括文書管理者の職務を助け,及び公
文書管理に係る通報の処理に関する事務を行うものとする。
3 副総括文書管理者
(1) ○しろまる○しろまる省に副総括文書管理者1名を置く。
(2) 副総括文書管理者は,○しろまる○しろまる課長をもって充てる。
(3) 副総括文書管理者は,1-(3)-1〜6に掲げる事務について総括
文書管理者及
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び公文書監理官を補佐するものとする。
4 文書管理者(文書管理の実施責任者)
(2) 公文書管理の適 正の確保のための取組について-平成3 0年7月20日
行政文書の管理の在り方等に関する閣僚会議
【2.取組の方向性】
文書管理の状況を常にチェックする体制を構築して文書管理のPDCAサイ
クルを確立するとともに,これまでのともすれば各府省任せの文書管理から,政府
全体で共通・一貫した文書管理へと考え方の転換を図り,文書管理の実務を根
底から立て直すことを目指す。
このため,内閣府は,各府省の実態を的確に把握した上で,電子的な行政文書
管理の分野等において積極的に各府省統一のルール策定を進め,内閣府に,
いわゆる「政府CRO(Chief Record Officer)」を設け,ルールに基づく各府省
の取組状況のチェックを行う。各府省においてもいわゆる「各府省CRO
(ChiefRecord Officer)」を新設し,各府省内のガバナンスを強化する。
その上で,公文書管理の取組の人事評価への反映や,特に悪質な事案には重
い懲戒処分が行われることを含めた不適正な公文書管理に対する懲戒処分の明
確化といった人事制度面の取組を進める。
これらにより,日常の業務遂行が自然と的確な行政文書の作成・保存につなが
る仕組みを早急に構築し,公文書管理のあるべき姿を定め,実施できることから順
次,実行に移していく。
設置された独立公文書管理監(政府CRO)は,最高検の検察官である。
「特定の検察幹部の勤務延長制度」を法改正案に盛り込んだ経緯を,以上のコ
ンプライアンスの方針に照らしても,検討していかなければならない。
以上
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法務行政の透明化その2〜公文書管理と刑事司法の課題
〜刑事確定訴訟記録法の法改正及び運用改善の必要性について
2020年10月1日
委員 篠 塚 力
刑事確定訴訟記録法の制度及び運用には改善すべき点が多い
1 閲覧対象から除外されている記録の矛盾
現行法では,保存期間満了後の記録は「再審保存記録」,「特別処分記録」,
「刑事参考記録」になって,閲覧請求の対象から外れています。
⇒「新しい記録は閲覧請求の対象となり,古い記録は対象とならない」というのでは
公文書管理法の取り扱いと真逆となります。「再審保存記録」,「特別処分記
録」,「刑事参考記録」も開示・閲覧請求の対象とすべきです。
2 期間制限の矛盾・閲覧制限の不合理
現行法では事件終結後3年経過したことが閲覧できない理由とされています。
⇒古い記録の方が閲覧しにくいのは不合理です。その他の閲覧できない理由も含
め,閲覧できない理由を合理化する必要があります。
3 謄写権が認められていない不合理
現行法では確定記録のコピーは国民の権利となっていません。
⇒書き写しはできるのに,コピーを認めないのは不合理です。
4 民事裁判の判決及び記録との不統一
民事裁判の判決は永久保存となっています。それ以外の重要な記録も逐次国立
公文書館に移管されています。
⇒歴史的意義は刑事事件の記録も変わらないはずです。
刑事事件の記録の中で歴
史的に重要な記録は国立公文書館で永久保存すべきです。
5 永久保存とする判断基準の不存在
現在は検察官等が刑事事件の記録について保管期間を超えて保管すべきかどう
かを判断し,どのような記録を保管すべきかについて具体的な基準はありません。
⇒法務大臣が,日本近現代史や刑事政策・刑事法制,犯罪現象などに関する専門
的知識を有する研究者,ジャーナリスト,弁護士などの有識者によって組織される諮
問会議の意見を聞いて,どのような刑事事件の記録を永久保存するか基準を作るべ
きです。外交記録「公開」については、規則や公開推進委員会があるところ、刑
事記録の「保存」について、類似の規則や委員会をつくることも考えられるのでは
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ないでしょうか。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000169835.pdf
https://www.mofa.go.jp/mofaj/public/suishiniinkai.html
その他詳細は,日弁連の「刑事確定訴訟記録の保管,保存及び閲覧等に関する
法改正及び運用改善に関する意見書」をご参照ください。
意見書
https://www.nichibenren.or.jp/library/pdf/document/opinion/2020/opinion_200910.pdf意見書要旨
https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2020/200910.html
以上