令和2年3月27日
法 務 省
刑事施設における性犯罪者処遇プログラム受講者の再犯等に関する分析結果について
法務省矯正局においては,平成18年5月から特別改善指導の一つとして性犯罪再
犯防止指導を実施しているところ,その効果を検証し,プログラムの充実について検
討する上で参考とするため,受講者の出所後の再犯状況に関する分析を行いました。
概要については別紙のとおり
(参考資料)
参考資料1:刑事施設における性犯罪者処遇プログラム受講者の再犯等に関する
分析結果
参考資料2:刑事施設における特別改善指導 性犯罪再犯防止指導
令 和 2 年 3 月
法 務 省 矯 正 局 成 人 矯 正 課
矯正研修所効果検証センター
【概要】
1 対象者
平成 24 年 1 月 1 日から平成 26 年 12 月 31 日までの間に刑事施設を出所した
者のうち,性犯罪者調査におけるリスク及びニーズ調査で指導を受講すること
が必要とされた者 1,980 名。うち,受講群は 1,444 名,比較対照群は 324 名。
なお,両群の同質性確保のため,同指導を受講していないが,比較対照群と
しては不適当な者 212 名を除外している。
2 再犯情報
出所後 3 年以内にじゃっ起された事件のうち,犯行年月日が最も早いものを
「全再犯」とし,犯行年月日が最も早い性犯罪を「性犯罪再犯」とした。
3 分析方法
全対象者,受刑に係る罪名別,被害者が 13 歳未満の者,判定された指導密度
別それぞれについて,受講群,比較対照群別に全再犯及び性犯罪再犯の再犯率
を算出した。両群の再犯率の差について検定を行い,指導の効果について,両
群の再犯リスクの程度の差を統制した比較分析1
を行った。
4 結果
(1)指導による再犯の抑止効果が確認されたもの(統計的に有意傾向のものを
含む。)ア 全対象者の全再犯
再犯率は,受講群が 27.3%,比較対照群が 38.0%であり,統計的に有意に2受講群の方が比較対照群よりも低かった。
指導の効果については,受講群は比較対照群よりも,再犯の可能性が
0.79 倍に抑えられることが確認された。1Cox の比例ハザードモデルによる回帰分析を行った。2有意水準は 5%とした。
イ 全対象者の性犯罪再犯
再犯率は,受講群が 15.0%,比較対照群が 22.5%であり,統計的に有意
に受講群の方が比較対照群よりも低かった。
指導の効果については,受講群は比較対照群よりも,再犯の可能性が
0.75 倍に抑えられることが確認された。
ウ 強姦事犯者の全再犯
再犯率は,受講群が 21.9%,比較対照群が 34.2%であり,統計的に有意
に受講群の方が比較対照群よりも低かった。
指導の効果については,受講群は比較対照群よりも,再犯の可能性が
0.61 倍に抑えられることが確認された。
エ 強姦事犯者の性犯罪再犯
再犯率は,受講群が 9.4%,比較対照群が 16.4%であり,受講群と比較
対照群の再犯率の差に 10%水準で有意傾向が認められた。
指導の効果については,受講群の方が比較対照群よりも再犯が抑止さ
れる方向に 10%水準で有意傾向が認められた。
オ 中密度判定者の全再犯
再犯率は,受講群が 19.4%,比較対照群が 34.3%であり,統計的に有意
に受講群の方が比較対照群よりも低かった。
指導の効果については,受講群は比較対照群よりも,再犯の可能性が
0.53 倍に抑えられることが確認された。
カ 中密度判定者の性犯罪再犯
再犯率は,受講群が 10.3%,比較対照群が 18.6%であり,統計的に有意
に受講群の方が比較対照群よりも低かった。
指導の効果については,受講群は比較対照群よりも,再犯の可能性が
0.56 倍に抑えられることが確認された。
キ 高密度判定者(A指標者3
)の性犯罪再犯
再犯率は,受講群が 14.5%,比較対照群が 32.6%であり,統計的に有意
に受講群の方が比較対照群よりも低かった。3「A指標」は,犯罪傾向が進んでいない者であることを意味する。
指導の効果については,受講群は比較対照群よりも,再犯の可能性が
0.43 倍に抑えられることが確認された。
ク 高密度判定者(m指定なしの者4
)の性犯罪再犯
再犯率は,受講群が 23.4%,比較対照群が 32.0%であり,受講群と比較
対照群の再犯率の差に 10%水準で有意傾向が認められた。
指導の効果については,受講群の方が比較対照群よりも再犯が抑止され
る方向に 10%水準で有意傾向が認められた。
(2)指導による再犯の抑止効果について統計的な裏付けが得られなかったもの
ア 強制わいせつ事犯者の全再犯
再犯率は,受講群が 29.7%,比較対照群が 25.0%であった。
イ 強制わいせつ事犯者の性犯罪再犯
再犯率は,受講群が 18.1%,比較対照群が 18.5%であった。
ウ 迷惑行為防止条例違反事犯者の全再犯
再犯率は,受講群が 63.0%,比較対照群が 56.1%であった。
エ 迷惑行為防止条例違反事犯者の性犯罪再犯
再犯率は,受講群が 48.1%,比較対照群が 43.9%であった。
オ 被害者が 13 歳未満の者の全再犯
再犯率は,受講群が 27.5%,比較対照群が 36.1%であった。
カ 被害者が 13 歳未満の者の性犯罪再犯
再犯率は,受講群が 16.5%,比較対照群が 15.7%であった。
キ 高密度判定者の全再犯
再犯率は,受講群が 44.6%,比較対照群が 47.3%であった。
ク 高密度判定者の性犯罪再犯
再犯率は,受講群が 24.9%,比較対照群が 30.5%であった。
ケ 高密度判定者(A指標者)の全再犯
再犯率は,受講群が 30.8%,比較対照群が 46.5%であり,受講群と比較
対照群の再犯率の差に 10%水準で有意傾向が認められた。
指導の効果については確認できなかった。4符号「m」は,医療を主として行う刑事施設等に収容する必要はないが,精神医療上の配慮を要
する者であることを意味する。
コ 高密度判定者(m指定なしの者)の全再犯
再犯率は,受講群が 42.6%,比較対照群が 47.6%であった。
(3)十分なサンプルサイズが確保できなかったため,指導の効果についての比
較分析を行わなかったもの
ア 児童福祉法違反等事犯者の全再犯
再犯率は,受講群が 12.5%,比較対照群が 16.7%であった。
イ 児童福祉法違反等事犯者の性犯罪再犯
再犯率は,受講群が 4.5%,比較対照群が 8.3%であった。
ウ 低密度判定者の全再犯
再犯率は,受講群が 4.2%,比較対照群が 9.5%であった。
エ 低密度判定者の性犯罪再犯
再犯率は,受講群が 1.6%,比較対照群が 4.8%であった。
5 考察
(1)全対象者,中密度判定者及び強姦事犯者において,指導による全再犯及び
性犯罪再犯の抑止効果が確認された。効果的な指導に向けた取組が成果につ
ながったと考えられる。
(2)高密度判定者の中でも,犯罪傾向が進んでいない者や精神医療上の配慮を
特に要しない者については指導の効果が確認された一方,再犯リスクや問題
性が特に大きい者に対する効果的な指導について検討が必要であることが示
唆された。
(3)強制わいせつ及び迷惑行為防止条例違反事犯者において,指導の効果につ
いて統計的な裏付けが得られず,これらの者に対する指導の在り方について
検討を要する。
これらの者に対する指導の充実が,
被害者が 13 歳未満の者に
対する指導の充実にもつながることが期待される。
刑事施設における
性犯罪者処遇プログラム受講者の再犯等に関する分析結果
令 和 2 年 3 月
法 務 省 矯 正 局 成 人 矯 正 課
矯正研修所効果検証センター
指導による全再犯及び性犯罪再犯の抑止効果が確認された
今後の
課題27.338.0
受講群 比較対照群全対象者における分析結果
全再犯
受講群の
再犯可能性は
0.79倍に
抑えられた15.022.5
受講群 比較対照群(%)受講群の
再犯可能性は
0.75倍に
抑えられた
性犯罪再犯(%)9.416.4受講群 比較対照群21.934.2
受講群 比較対照群
強姦事犯者の全再犯 強姦事犯者の性犯罪再犯
受講群の
再犯可能性は
0.61倍に
抑えられた
受講が再犯を
抑止する方向に
統計的に
有意傾向(%)23.432.0受講群 比較対照群14.532.6
受講群 比較対照群
高密度判定者のうち
犯罪傾向が進んでいない者の
性犯罪再犯
高密度判定者のうち
精神医療上の配慮を特に
要しない者の性犯罪再犯
受講群の再犯可能性は
0.43倍に抑えられた
受講が再犯を抑止する
方向に統計的に有意傾向(%)(%)19.434.3
受講群 比較対照群10.318.6
受講群 比較対照群
中 密 度 判 定 者
全再犯 性犯罪再犯
受講群の再犯可能性は
0.56倍に抑えられた
受講群の再犯可能性は
0.53倍に抑えられた
(%) (%)
性犯罪再犯防止指導の再犯抑止効果の検証のため,同指導対象者の再犯状況に関する分析を行った。
・対象者:平成24年1月1日から平成26年12月31日までの間に刑事施設を出所した者のうち,性犯罪者調査において
指導の受講が必要とされた者から,受講群1,444名,比較対照群324名を割り当てた。
・再犯情報:出所後3年以内にじゃっ起された事件のうち,犯行年月日が最も早いものを「全再犯」とし,犯行年月
日が最も早い性犯罪を「性犯罪再犯」とした。
・方法:全対象者,受刑に係る罪名別,判定された指導密度別等それぞれに,受講群,比較対照群別に全再犯及び
性犯罪再犯の再犯率を算出した。両群の再犯率の差について検定を行い,指導の効果について再犯リスクの程度の
差を統制した上で比較分析(Coxの比例ハザードモデルによる回帰分析)を行った。(%)(注記)各グラフの縦軸:再犯率
・強制わいせつ及び迷惑行為防止条例違反事犯者に対する効果的な指導の在り方について,検討が
必要である。
・高密度判定者の中でも,再犯リスクや問題性が特に大きい群について,そのリスクや問題性に応
じた指導の充実化を検討する必要がある。
(注記)低密度判定者については,標本数が少なかったことから,指導効果についての比較分析は行っていない。受刑に係る罪名別の分析結果判定された指導密度別の分析結果
概 要
(注記)強制わいせつ・迷惑行為防止条例違反事犯者においては,指導効果について統計的な裏付けは得られなかった。
(注記)児童福祉法違反等事犯者については,標本数が少なかったことから,指導効果についての比較分析は行っていない。
(注記)高密度判定者全体では,指導効果について統計的な裏付けは
得られなかったが,以下の群では指導効果が認められた。
参考資料1
しかく 指導の目標
強制わいせつ,強制性交等その他これに類する犯罪又は自己の性的好奇心を満たす
目的をもって人の生命若しくは身体を害する犯罪につながる自己の問題性を認識させ,
その改善を図るとともに,再犯しないための具体的な方法を習得させる。
くろまる 対象者 性犯罪の要因となる認知の偏り,自己統制力の不足等がある者
くろまる 指導者 刑事施設の職員(法務教官,法務技官,刑務官),処遇カウンセラー
(性犯担当。認知行動療法等の技法に通じた臨床心理士等)
くろまる 指導方法 グループワーク及び個別に取り組む課題を中心とし,必要に応じカウン
セリングその他の個別対応を行う。
くろまる 実施頻度等 1単元100分,週1回又は2回,標準実施期間: 4〜9か月(注記)
性犯罪再犯防止指導
地域社会とともに
開かれた矯正へ
刑事施設における特別改善指導
項目 方法 指導内容 高密度 中密度 低密度
オリエンテーション 講義
・指導の構造,実施目的について理解させる。
・性犯罪につながる問題性を助長するおそれがある行動について説明し,自己規制するよう方向
付ける。
・対象者の不安の軽減を図る。
準備プログラム グループワーク ・受講の心構えを養い,参加の動機付けを高めさせる。 必修 必修 ―
本科
第1科
自己統制
グループワーク
個別課題
・事件につながった要因について幅広く検討し,特定させる。
・事件につながった要因が再発することを防ぐための介入計画
(自己統制計画)を作成させる。
・効果的な介入に必要なスキルを身に付けさせる。
必修 必修
必修
(凝縮版)
第2科
認知の歪みと
変容方法
グループワーク
個別課題
・認知が行動に与える影響について理解させる。
・偏った認知を修正し,適応的な思考スタイルを身に付けさせる。
・認知の再構成の過程を自己統制計画に組み込ませる。
必修 選択 ―
第3科
対人関係と
親密性
グループワーク
個別課題
・望ましい対人関係について理解させる。
・対人関係に係る本人の問題性を改善させ,必要なスキルを身に
付けさせる。
必修 選択 ―
第4科
感情統制
グループワーク
個別課題
・感情が行動に与える影響について理解させる。
・感情統制の機制を理解させ,必要なスキルを身に付けさせる。
必修 選択 ―
第5科
共感と
被害者理解
グループワーク
個別課題
・他者への共感性を高めさせる。
・共感性の出現を促す。
必修 選択 ―
メンテナンス
個別指導
グループワーク
・知識やスキルを復習させ,再犯しない生活を続ける決意を再確認させる。
・作成した自己統制計画の見直しをさせる。
・社会内処遇への円滑な導入を図る。
カリキュラム
(注記) 再犯リスク,問題性の程度,プログラ
ムとの適合性等に応じて,高密度(9か
月)・中密度(7か月)・低密度(4か
月)のいずれかのプログラムを実施
《認知行動療法》
問題行動(性犯罪)の背景にある自ら
の認知(物事の考え方,とらえ方)の歪
みに気付かせ,これを変化させること等
によって,問題行動を改善させようとす
る方法
参考資料2

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