1社会・経済問題に対処し,国家的・国際的な法の支配及び市民参
加を推進するために犯罪防止・刑事司法をより広い国際連合のアジェ
ンダへ統合することに関するドーハ宣言
我々,加盟国の国家元首,政府首脳,閣僚及び代表らは,
法の支配を支持し,
国内及び国際的レベルにおいてあらゆる種類・性質の犯罪を防止し,
これらに対処するとともに,我々の刑事司法制度が効果的,公正,人道的かつ説明責任の
あるものであることを確保し,すべての人々に司法へのアクセスを提供し,あらゆる層で
効果的で説明責任のある,公平かつ包摂的な機関を構築し,そして,人間の尊厳の原理及
びすべての人権及び基本的自由に対する普遍的な尊重と遵守を支持する共通のコミットメ
ントを再確認するために,2015年4月12日から19日までの間,ドーハにおける第
13回国際連合犯罪防止刑事司法会議に参集し,
これらの目的達成に向けて次のとおり宣言する。
1.我々は,犯罪防止及び刑事司法の分野における新たな傾向と課題を特定するために
国家,政府間組織及び各種の職業及び学問を代表する個人専門家の間で調査研究並び
に法令,政策及びプログラム策定についての意見及び経験を交換するための,最も大
きく,多様性を有する国際的フォーラムの一つとしての国際連合犯罪防止刑事司法会
議の60年にわたる伝統と,その継続した重要な役割を確認する。我々は,この会議
の,犯罪防止および刑事司法に関する法令及び政策の発展並びに新たな傾向及び課題
の特定に果たしてきた特別かつ重要な貢献を確認する。
2.我々は,犯罪防止と刑事司法に関する課題の分野横断的性格,及び,それが故にこ
れらの課題を,制度全般にわたる調整を強化するためにも国際連合のより広いアジェ
ンダに統合する必要があることを再確認する。我々は,これまでの当会議の勧告を考
慮に入れ,かつこれらに基づいた国内的及び国際的な犯罪防止・刑事司法に関する政
策の企画・実現に関する犯罪防止刑事司法委員会の今後の貢献を期待する。
3.我々は,効果的,公正,人道的かつ説明責任のある犯罪防止及び刑事司法の制度と
これを担う諸機関が,法の支配の中心的な構成要素であることを認識する。我々は,2あらゆる種類・性質の犯罪,暴力,腐敗及びテロリズムに対処するための全体的かつ
包括的な取組を行うこと,そしてこれらの取組を,社会・経済発展,貧困の根絶,文
化的多様性の尊重,社会平和及び社会包摂のためのより広いプログラムあるいは措置
とともに整合的で一貫性のある方法で実施することを誓約する。
4.我々は,持続可能な開発と法の支配は強い関連性を持ち,相互に補強しあう関係に
あることを確認する。それゆえ,我々は,国連総会により合意される世界規模の持続
可能な開発目標を設定することを目的としたポスト2015年開発アジェンダのため
の包括的かつ透明性のある政府間の対話プロセスを歓迎し,また,他のインプットも
併せて検討されることを認識するとともに,持続可能な開発目標をポスト2015年
開発アジェンダに統合する主たる基盤として,持続可能な開発目標に関する国連総会
のオープン・ワーキング・グループの提言を確認する。この文脈において,我々は,
すべての人々に司法へのアクセスを提供し,効果的で説明責任のある,包括的な機関
をあらゆるレベルにおいて構築する人間中心のアプローチに焦点を当て,持続可能な
開発のために,平和で,腐敗のない,包括的な社会の形成を促進することの重要性を
再度強調する。
5.我々は,効果的,公正,人道的かつ説明責任のある犯罪防止及び刑事司法制度と,
これを担う諸機関を支持する決意と政治的意思を再確認し,国家主権及び領土の不可
侵性の原理を最大限に尊重しつつ,
かつ,
人間の尊厳,
すべての人権及びすべての人々,
特にその地位の如何に関わらず,多様かつ悪質な形態の差別に苦しむ社会的弱者を含
む,犯罪の被害者,刑事司法制度の対象となる人々の基本的自由を擁護し,あらゆる
種類の不寛容又は差別を動機とする犯罪を防止し,これらに対処する加盟各国の責務
を認識しながら,社会のあらゆる部門による効果的な参加及び包摂を奨励し,これに
よる,より広範な国際連合のアジェンダの発展に必要な条件の整備を奨励する。この
目的のために,我々は,次の努力をする。
(a) 犯罪の原因及びその発生を助長する条件を含めた証拠及びその他の要素をすべて考
慮に入れた総合的・包括的な国家的犯罪防止刑事司法政策及びプログラムを定めると
ともに,国際法上の義務に従い,かつ犯罪防止及び刑事司法に関する国際連合の基準
及び準則を考慮に入れ,法の支配及び人権及び基本的自由の保護を任務とする公務員
に対し適切な訓練を確保すること
(b) すべての人々に対し,管轄権を有する,独立した,不偏不党な,法によって設立さ
れた審判機関による,不当に遅滞することのない公正な裁判を受ける権利,適正手続
による保護の下で司法にアクセスする権利,そして,必要に応じて弁護人及び通訳人3を依頼する権利を保障し,領事関係に関するウィーン条約 1に基づく関係諸権利を保
障すること,暴力行為を防止し,これに対処するために相当な注意をすること,そし
て,あらゆる形態の拷問等(拷問及び他の残虐な,非人道的な又は品位を傷つける取
扱い又は刑罰)を防止,訴追,処罰し,不処罰問題をなくすための効果的な立法的,
行政的,司法的措置を講じること
(c) 刑事司法制度における法律扶助へのアクセスに関する国際連合の理念と指針 2の趣
旨に従い,充分な資力のない人の場合,あるいは法的公正の観点から必要とされる場
合について,必要に応じてこの分野における国家的計画を策定することをも含め,刑
事手続における有効な法律扶助へのアクセスを拡大するために法律扶助に関する政策
の見直し及び改善を行うこと,そして,すべての事項に関しあらゆる形態の効果的な
法律扶助へのアクセスを提供し,保障する能力を涵養すること
(d) 腐敗の防止に関する国際連合条約 3に従って,
腐敗を防止し,
これに対処するととも
に,行政の透明性を強化し,我々の刑事司法制度の廉潔性と説明責任を向上させるこ
とを目的とする施策を実施するためにあらゆる努力を尽くすこと
(e)児童の権利に関する条約 4及びこれに付属する2つの選択議定書 5を含めた関連する
国際規約における締約国の義務と整合性を保ち,あらゆる形態の暴力,搾取及び虐待
から児童を守ることの重要性を認識し,犯罪防止及び刑事司法の分野における児童に
対する暴力の根絶に関する国際連合モデル戦略及び実務手法 6の関連条項を考慮に入
れつつ,我々の刑事司法改革への取組に児童及び青少年に関する事項を組み入れるこ
と,そして,児童に対する自由の剥奪は最後の手段として必要最小限の期間に限定し
て利用されるべきとする理念と一致し,児童の最善の利益を図ることに焦点を当てた
包括的かつ児童に配慮した司法政策を策定して実施し,刑事司法制度の対象となった
児童及びその他の法的手続を必要とする状態に置かれた児童を,特に彼らの処遇及び
社会復帰の面で保護すること。この点につき,我々は,自由を剥奪された児童に関す
る世界的研究の成果に期待する
(f) 女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約 7及びその選択議定書 8に基づ
1 国際連合・条約集第596巻第8638号
2 総会決議67/187,別添
3 国際連合・条約集第2349巻第42146号
4 同・第1577巻第27531号
5 同・第2171巻及び第2173巻第27531号
6 総会決議69/194,別添
7 国際連合・条約集第1249巻第20378号4く締約国の義務に従い,かつ,犯罪防止及び刑事司法の分野における女性に対する暴
力の根絶に関する国際連合モデル戦略及び実務手法の改訂版 9及びジェンダーに関連
した女性及び女児の殺害に関する国際連合総会の諸決議を考慮に入れ,ジェンダーに
関連した女性及び女児の殺害を含めたあらゆる形態の暴力行為からの女性及び女児の
十分な保護を促進するための国家的な戦略及び計画を策定し,実施することにより,
我々の刑事司法制度内においてジェンダーの視点を主流化すること
(g) 女性被拘禁者の処遇及び女性犯罪者に対する非拘禁措置に関する国際連合規則(バ
ンコク・ルールズ)10を考慮に入れ,我々の犯罪防止,刑事司法及び犯罪者処遇に関
する政策と不可分一体のものとして,女子犯罪者の更生及び社会復帰を含めた,ジェ
ンダーの特性に応じた措置を促進すること
(h) 幹部,管理職その他のレベルにおいて,刑事司法制度及びこれを担う機関における
女性の昇進を促す適切かつ効果的な国家的戦略及び計画を策定し,実施すること
(i) 少数派に属する個人や原住民のために,
ジェンダーの平等をも含めた,
すべての人々
に対する法の下の平等を,特に他の政府機関,関連性を有する市民社会の構成員及び
マスメディアとの包括的な連携を通じて,また,これらの人々の中から刑事司法機関
が職員を採用することを促進することを通じて,強化すること
(j) 教育,作業,医療,更生,社会復帰及び再犯防止に焦点を当てた受刑者のための施策
を実施・促進し,受刑者の家族に対する支援に関する施策の発展強化を検討し,適切
と認められる場合には拘禁刑の代替措置を利用することを促進・奨励し,そして,社
会復帰の成功を支える修復的司法その他の手続を点検し,又は改善すること
(k) 適切と認められる場合には,起訴前勾留を削減し,非拘禁による制裁の利用を促進
し,可能な限りにおいて法律扶助へのアクセスを改善するための刑事政策及び実務手
法の見直しを行うことを含む適切な刑事司法改革を通じて,刑務所の過剰収容問題に
対する取組を強化すること
(l) 関連する国際的な合意文書に従い,
かつ,
国際連合の犯罪防止及び刑事司法に関する
基準及び準則を考慮に入れつつ,腐敗やテロリズムを含むあらゆる犯罪に対する刑事
司法的対処の枠組みの中において,被害者及び証人の認知,保護,並びにこれらに対
8 同・第2131巻第20378号
9 総会決議65/228,別添
10 総会決議65/229,別添5する支援及び援助についての効果的な措置を採用すること
(m) 適切な場合には,国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特
に女性及び児童)の取引を防止し,抑止し及び処罰するための議定書 11の関連条項に
従い,かつ,人身取引に対処する国際連合世界行動計画 12を考慮に入れつつ,他人を
売春させる搾取その他の形態の性的搾取,強制労働もしくは役務,奴隷もしくは奴隷
に類似する扱い,苦役,又は臓器摘出を含む搾取を目的としたあらゆる形態の人身取
引を防止し,これに対処するための,被害者を重視したアプローチを実施し,また,
人身取引の被害者に社会的・法的支援を提供するにあたってその障害となりうる要因
を克服するため,必要に応じ,地域機関,国際機関及び民間団体と連携すること
(n) 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約 13及びこれを補足する陸路,海路及
び空路により移民を密入国させることの防止に関する議定書 14の締約国の義務,すな
わち,同議定書の下,移民が密輸の客体となったという事実のみによって刑事訴追を
受けないようにすることを含む義務並びにその他の国際的な合意文書に従って,密輸
された移民,特に女子及び児童並びに保護者のいない移民児童の人権を保護する効果
的な取組を実施し,また,更なる人命の喪失を防止し,犯人を処罰するためのあらゆ
る可能な努力を尽くすこと
(o) すべての移民,移民労働者及びその家族に対する暴力を根絶するための効果的な取
組を実施し,また,これらの集団に対する暴力行為を伴う犯罪を防止し,これに対処
するために必要なあらゆる法的,行政的措置を講じること
(p) その種類を問わず,差別を動機とする犯罪の被害についてさらに研究を進め,デー
タを収集し,また,この種の犯罪を防止し,犯人を処罰し,被害者に支援を提供する
ことを可能にする効果的な法令及び政策についての情報及び経験を交換すること
(q) その種類を問わず,差別を動機とするヘイト・クライムを認知し,理解し,抑止し
そして捜査する能力を向上させ,被害者コミュニティへの効果的な関与を支援し,市
民と刑事司法機関との間の信頼と協調関係を築くための専門的な研修を,刑事司法専
門家に提供することを検討すること
11 国際連合・条約集第2237巻第39574号
12 総会決議64/293
13 国際連合・条約集第2225巻第39574号
14 同・第2241巻39574号6(r) 特に啓発活動を実施し,教材や教育プログラムを策定するとともに,適切な場合に
は,差別に対処する法律の立法・執行を検討することを通じて,人種主義,宗教的不
寛容,外国人嫌悪及びジェンダーに関連する差別を含めたあらゆる形態の差別を根絶
するための国家的・国際的な取組を強化すること
(s) その職務の故に,特に犯罪組織やテロリスト等から,また,紛争状態あるいは紛争
後の状態において,脅迫,嫌がらせ及び暴力を受ける一定の危険に曝されるジャーナ
リスト及びメディア関係者に対する暴力行為で,我々の管轄権の及ぶものにつき,適
時に事案を特定して手続を進めるための適切な国内手続を通じてこれらを防止・対処
し,また,国内法及び適用される国際法に従って不偏不党の,迅速かつ効果的な捜査
の実施によって,その責任を果たすこと
(t) 犯罪対策の効果をより良く測定・評価し,国家的,地域的,国際的なレベルで,犯
罪防止及び刑事司法プログラムの効果を向上させるため,国際的なレベルにおいて犯
罪及び刑事司法に関する統計情報及び分析的研究の入手可能性及び質を向上させるた
めのツール及び手法の開発及び利用を強化すること
6. 我々は,被拘禁者処遇最低基準規則についての政府間専門家会合の作業を歓迎し,2
015年3月2日から5日まで南アフリカ・ケープタウンにて開催された会合におい
て専門家グループが完成させた被拘禁者処遇最低基準規則の改訂草案に留意し,犯罪
防止刑事司法委員会によるこの改定草案の審議とこれに基づく行動に期待する。
7. 我々は,文化的アイデンティティを尊重しつつ,すべての児童及び青少年に対する文
盲の根絶を含めた教育が,犯罪及び腐敗の防止並びに法の支配及び人権を支える法遵
守の文化の促進にとって重要であることを強調する。この点につき,我々は犯罪防止
に向けた取組における青少年の参加が果たす重要な役割も重視する。
それが故に,
我々
は以下の努力を行う。
(a) 国内法に従い,あらゆる形態の暴力,嫌がらせ,いじめ,性的虐待及び薬物乱用か
らの児童の保護を含め,地域に支えられた,安全で前向き,かつ安心な,学校におけ
る学習環境を創造すること
(b) 我々の国内における教育制度に犯罪防止,刑事司法及びその他の法の支配の観点を
取り入れること
(c) 特に青少年及び若年成人の教育及び雇用の機会を増大させることに重点を置きつつ,7犯罪防止及び刑事司法に関する戦略を関連するすべての社会・経済政策及びプログラ
ム,特に青少年に影響を与えるものに統合すること
(d) すべての人々に対し,技術的・専門的技能に関するものを含めた教育の機会を提供
し,また,すべての人々のための生涯学習能力を推進させること
8. 我々は,犯罪防止を強化し,刑事司法制度が効果的,公正,人道的で説明責任のある
ものであることを確保し,かつ,究極的にはすべての犯罪を防止し,これに対処する
ことに向けた我々の取組の基礎として,
国際協力を強化することを努力する。
我々は,
締約国に対し,国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約及びその付属議定書,
腐敗の防止に関する国際連合条約,薬物関連3条約,並びにテロ防止に関する条約と
付属議定書を履行し,より効果的に活用することを奨励し,これらを締結していない
加盟国に対し,批准もしくは加盟を検討することを要請する。我々は,テロリズムに
対処するためにとられるいかなる措置も,国際法上のすべての義務に従ったものでな
ければならないことを強調する。我々は,虐待と陵辱の人生を強いられた多数の個人
に対する組織的な搾取を阻止するために,
国際協力をさらに強化することを努力する。
故に我々は次のことに励む。
(a) 適当な場合において国内法を現代化・強化する努力並びに特に逃亡犯罪人引渡し,
司法共助,犯罪収益の移転,受刑者移送などの刑事分野における国際協力のための強
力かつ効果的な中央当局の発展の促進を目的として,刑事司法に従事する公務員の合
同トレーニング及びその能力向上を図ることを通じて,各国の刑事司法制度の能力を
さらに向上させるための国際的・地域的協力を促進・強化し,また,適切と認められ
る場合には,二国間もしくは地域的な協定を締結し,さらに,情報及びコミュニケー
ションのプラットフォームを最大限活用しながら,情報共有と司法共助を強化するた
めの権限ある当局間で,可能な場合には直接の連絡を促進するために,適切な場合に
は,世界的なバーチャル・ネットワークを促進することなどにより,情報交換及び優
れた運用や知識の共有のための法執行機関,中央当局,検察官,裁判官,弁護士及び
法律扶助を提供する者らの専門的ネットワークの開発を継続すること
(b) 刑事に関する国際協力,テロ資金供与,テロ目的でのインターネットの使用,テロ
リストによる文化的遺産の破壊及び身代金目的もしくは強奪目的の誘拐に関するもの
を含めたあらゆる形態・性質のテロリズムを,人権及び基本的自由に従って防止・対
処すること,並びに,テロリズムの拡散を助長する諸要因に対処することを目的とし
た刑事司法に従事する公務員のための能力強化プログラム及び研修の実施を引き続き
支援し,また,場合によっては国際的な組織犯罪,薬物に関する違法な活動,資金洗8浄及びテロ資金供与の間に現に存在し,台頭しまたは潜在する相互の結びつきに対抗
すべく,これらの犯罪に対する刑事司法的対処を強化する観点から,特に効果的な情
報交換,経験及びベスト・プラクティスの共有を通じて,互いに協力し,さらには共
同の取組をすることが適当と認められる分野について検討し,さらなる分析を行い,
これを特定すること
(c) テロリスト集団が身代金の支払いから利益を得ることを防止することを目的とした
国家レベル及び国際的レベルにおける効果的な手段を講じること
(d) 国連薬物・犯罪事務所が提供しているような,高度に実務的で,かつ時宜にかなっ
た情報共有,適当な場合には,ロジ面での支援,能力強化活動を通じるなどして,外
国人テロ戦闘員による脅威に対処するための国際的,地域的,準地域的及び二国間の
各レベルにおける協力を強化すること,また,外国人テロ戦闘員を特定するためのベ
スト・プラクティスを共有し,採用すること,外国人テロ戦闘員が加盟国に出入国し
または通過することを防止すること,外国人テロ戦闘員に対する資金供与,外国人テ
ロ戦闘員の動員,雇い入れ及び組織化を防止すること,テロリズムを助長する暴力的
過激主義に対処すること,過激思想を矯正するプログラムを実施する努力を強化する
こと,そして,テロ行為への資金供与,計画,準備もしくは実行または支援を行った
者が国際法に基づく義務及び適用される国内法に従って処罰されることを確保すること(e) 腐敗及び腐敗から生じた資産の海外移転及び洗浄を発見し,防止し,これに対処す
る効果的な手段を講じること,腐敗の防止に関する国際連合条約,特にその第 5 章に
従って,そのような資産の特定,凍結もしくは差押並びにその回復と返還を支援する
ために国際協力と加盟国への支援を強化すること,
そして,
この点につき,
国連薬物・
犯罪事務所及び世界銀行の奪われた財産の回復
(StAR)
イニシアティブの実施を通じ
て蓄積された経験と知識を活用しつつ,財産回復手続を迅速化し,より成功率の高い
ものとするために,
司法共助を改善する革新的な手法についての議論を継続すること。
(f) あらゆる違法な資金の流れを防止し,これに対処するとともに,特にその越境面に
おいて,詐欺並びに租税犯罪及び企業犯罪を含む経済・金融犯罪に対するより効果的
な手法をとる喫緊の必要性を強調する戦略を策定させること
(g) 資金洗浄をより効果的に防止し,これに対処する手続を強化し,適切な場合にはこ
れを採用し,また,適切かつ国内法に従って行い得る場合の有罪判決を前提としない
没収を含めた将来の没収を行い,また,没収された財産の透明性のある処分を行うこ9とを目的とした,説明のつかない金銭その他の財産で,安全な逃避先において発見さ
れたものを含む犯罪収益の特定,追跡,凍結,差押及び回復を行う手段を強化すること(h) 凍結,差押もしくは没収された財産で犯罪収益であるものにつき,その価値及び状
態を管理保存するための適切な仕組みを発展させこれを運用すること,及び,刑事に
おける国際協力を強化し,また,没収を目的とする民事及び行政手続について互いに
類似の協力を行う方策を模索すること
(i)適当な場合には,関連する議定書に従い,あらゆる必要な法的・行政的措置を通じ,
また,国家レベルでの機関相互の協力と強調,二国間,地域及び多国間のより緊密な
協力を強化することを通じて,人身取引及び移民の密入国の犯罪を防止し,対処する
適切な措置を講じるとともに,被害者及びこれらの犯罪の対象となってきた者を保護
すること
(j) 人身取引及び移民の密入国に関する犯罪を捜査し,
訴追するに際し,
これらの犯罪に
より得られた収益を追跡し,凍結し,没収することを目的に金融捜査を同時に並行し
て行うこと,これらの犯罪を資金洗浄罪の前提犯罪として構成することを検討し,ま
た,関係機関同士の連携と情報共有を強化すること
(k) 銃器の不正な使用及び爆発物の不正な製造を根絶するための啓蒙活動を含めて,銃
器,その部分,構成部分及び弾薬並びに爆発物の不正製造及び取引を防止し,これに
対処する効果的な措置を,
それが適切と認められる場合には発展させ,
採用すること,
国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する銃器並びにその部品及び構
成部分並びに弾薬の不正な製造及び取引の防止に関する議定書 15の締約国に対し,同
議定書の実施の強化,特にマーキング及び記録保存の技術を含めた利用可能なツール
の使用を検討することによる強化を行うよう奨励すること,銃器の不法取引について
の刑事事件捜査を強化するために銃器及び可能な場合には,その部品及び構成部分の
追跡調査を促進すること,小型武器行動計画 16の実施を支援すること,また,この問
題及びその関連事項についての地域的・国際的レベルにおける既存の合意文書が果た
す役割について留意すること
(l) 共同かつ共通の責任の原理に立脚しつつ,
より効果的な司法及び法執行機関同士の二
15 前出第2326巻第39574号
16 「あらゆる種類の小型武器及び軽量兵器の不法取引に関する国際連合会議報告書」20
01年7月9日〜20日於ニューヨーク(A/CONF.192/15)第IV章第24段落10国間,地域的及び国際的な協力を含む包括的かつ均衡の取れた手法により,世界的な
薬物問題に対処する我々の取組を強化すること,薬物の不法製造及び取引並びにこれ
らに関連する犯罪活動への犯罪組織の関与に対処すること,そして,薬物取引に伴う
暴力を減少させるための手段を講じること
(m) 国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約の締約国会議による同条約及び付
属議定書の実施状況の効果的かつ効率的な審査を支援するための適切かつ効果的なひ
とつ又は複数の仕組みに関するあらゆる選択肢を引き続き探究すること
(n) 他の国と協定の作成を検討するに当たっては,刑事に関する国際共助についてのモ
デル条約を,これらが国際協力を実施するに当たって重要なツールとなることを念頭
に置いて参照するよう加盟各国に促すこと,また,犯罪防止刑事司法委員会に対し,
加盟各国からのインプットを受けて改訂する必要のある国際連合モデル条約を特定す
る取組を継続するよう奨励すること
9. 我々は,新たに出現する形態の犯罪を防止し,これらに対処する我々の取組を強化する
に当たり,経済的,社会的及び技術的発展の利益が積極的な力となることを確保するため
の努力をする。我々は,これらの犯罪によりもたらされ,増大・台頭してくる脅威に適切
に対処する責務を自覚する。故に我々は次のような努力をする。
(a) 司法機関及び法執行機関の能力強化を含め,包括的な犯罪防止策及び刑事司法的対
処を発展させ,これを実施すること,また,国内法に従い,
「重大犯罪」に関する国際
的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約の適用範囲を考慮に入れながら,必要な場
合には,新たに出現し,変化する形態の犯罪につき,国家的・地域的・国際的レベル
で,効果的にこれらを防止し,対処する立法的・行政的措置を講じること
(b) 安全かつ強靭なサイバー環境を作り上げるために設計される特別な手法を探求する
こと,なりすましや人身取引を目的とする勧誘に特に注意を払い,かつ児童らをオン
ラインでの搾取及び虐待から保護しつつ,インターネットを利用して敢行される犯罪
行為を防止し,これに対処すること,被害者の特定,また,児童ポルノ,特に児童へ
の性的虐待の画像をインターネットから除去するなどの手段による被害者の保護を目
的とするものを含めて,国家的・国際的レベルでの法執行機関同士の協力を強化する
こと,コンピューターネットワークの安全性を向上させ,関連するインフラの完全性
を保護すること,そして,あらゆる形態のサイバー犯罪の防止,発見,捜査及び訴追
を含む,国家機関のサイバー犯罪対処能力を強化するための長期にわたる技術援助及
び能力開発を提供する努力をすること。さらに,我々は,サイバー犯罪の問題点とこ11れに対する加盟国の対応に関する包括的な研究を行う,結論を予断しない形で各国か
らの幅広い参加と議論を歓迎する政府間専門家グループの活動に留意し,この専門家
グループがその作業を基に,既存のサイバー犯罪への対処法を強化し,また,新たな
国家的・国際的な法的その他の対策を提案するための方策を検討する観点から,国の
法制,ベスト・プラクティス,技術支援及び国際協力について,引き続き情報交換を
行うよう勧告することを検討するよう,犯罪防止刑事司法委員会に促す
(c) 文化財の不法取引につき,このような犯罪に対処するための,可能な限り広範囲に
及ぶ国際協力を提供する目的で,包括的な犯罪防止及び刑事司法的対処策を強化し,
実行すること,適切な場合には,1970年の文化財の不法な輸出,輸入及び所有権
譲渡の禁止及び防止に関する条約 17を含む国際合意文書に基づく我々の約束に従い,
かつ,文化財不法取引及びその他の関連犯罪についての犯罪防止及び刑事司法的対処
に関する国際ガイドライン 18を考慮に入れながら,文化財不法取引に対処するための
国内法制の見直しと強化を行うこと,文化財の不法取引,特に組織犯罪集団及びテロ
リスト組織が関与するものについての情報及び統計データの収集と共有を行うこと,
そして,国際連合教育科学文化機関(UNESCO)
,国際刑事警察機構(ICPO)
及びその他の所轄国際機関との緊密な連携の下に,これらの機関の任務の遂行に伴う
活動相互間の調整を視野に入れつつ,動産の形態をとる人々の文化的遺産を侵害する
犯罪の防止のためのモデル条約 19及びこの分野における国際基準と規約の利用可能性
と改良につきさらに検討すること
(d) 革新的な手法を用いて,都市型犯罪及びギャング関連の暴力が特定の人々及び特定
の場所に及ぼす影響に対処し,社会的包摂及び雇用の機会を増大させ,かつ思春期の
少年及び若年成人の社会復帰の促進を目指すため,都市型犯罪とギャングにより敢行
される犯罪を含めたいくつかの国及び地域においてみられるその他の形態の組織犯罪
との繋がりについてさらに研究を行い,加盟国間で,及び関連する国際機関・地域機
関との間で,効果的な犯罪防止及び刑事司法プログラム及び政策について経験及び情
報の交換を行うこと
(e) 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約 20によって保護の対象
とされている動植物を含む野生動植物,木材及び木材加工品,並びに有害廃棄物の不
17 国際連合・条約集第823巻第11806号
18 総会決議69/196別添
19 1990年8月27日〜9月7日開催のハバナにおける第8回国際連合犯罪防止・犯罪
者処遇会議・事務局作成報告書(国際連合出版物販売番号E.91.IV.2)第I章B.
1項,別添
20 国際連合・条約集第993巻第14537号12法取引など,環境に影響を及ぼす犯罪の深刻な問題を,これらと結びついた国際的な
組織犯罪,汚職及び資金洗浄への対応に焦点を当てた立法,国際協力,能力開発,刑
事司法的対処及び法執行機関の活動を強化することにより防止し,これらに対処する
ための効果的な措置を講じること
(f) 我々の法執行機関及び司法機関が,
互いに緊密に協力・連携してこれらの新たに出現
してくる犯罪の形態に適切に対応する専門性と技術的能力を備えていることを確保し,
かつ,これら機関に必要な財政上,組織制度上の支援を提供すること
(g) より効果的に犯罪を防止し,これに対処し,法の支配を強化する視点から,地域的・
世界的レベルにおいて多様な影響を及ぼす,その他の形態で展開する国際的な組織犯
罪に関する情報及び実務の分析と交換を継続すること。これらには,場合に応じて,
原油及び石油製品の密輸,貴金属・宝石類の不法取引,不法な鉱物採取,商標付商品
の偽造,人間の臓器,血液,人体組織の売買,海賊行為及び海上で敢行される組織犯
罪 21が含まれ得る。
10. 我々は,犯罪及びその被害の危険に曝されている人々を含めて,社会を構成する人々
すべての参加を得て,我々の犯罪防止の取組をより効果的なものとし,また,刑事司法
制度に対する人々の信頼と信用を醸成するために犯罪防止及び刑事司法における対話と
参加のプロセスを発展させ,これを実施することを支援する。我々は,国のレベル及び
地方のレベルにおいて犯罪防止のための戦略と刑事司法政策を発展させ,実施すること
に向けて,あらゆるレベルで主導的な役割と責務を果たすべきことを自覚する。また,
我々は,このような戦略の有効性と公正さを向上させるため,国際連合犯罪防止刑事司
法プログラムネットワーク機関を含めた,市民社会,民間部門,学界,メディアその他
のすべての利害関係者が犯罪防止政策の発展と実行に寄与することを確保するための措
置を講じるべきことを確認する。故に,我々は次の努力を尽くす。
(a) 都市型犯罪を含めた犯罪及び暴力の防止に焦点を当てた,社会経済の開発を促進する
包括的な政策及びプログラムを策定してこれらを実施すること,また,このような取
組について,特に社会政策をもって犯罪及び暴力を削減することに成功した施策やプ
ログラムについての経験及び関連情報の交換を通じて,他の加盟国を支援すること
(b) 教育プログラムによって支えられ,かつ,平等,団結及び正義を促進する経済・社会
政策を伴った,法の支配に基づく基本的な価値を広める啓蒙的プログラムを策定する
こと,そして,若者に対し,彼らを積極的な変革の担い手として位置づけ,手を差し
21 犯罪防止刑事司法委員会が決議22/6で定義したところによる13伸べること
(c) 犯罪の社会的・経済的原因に対処するため,
市民社会の支援を求めるとともに,
家族,
学校,宗教的・文化的施設,コミュニティ団体及び民間セクターに焦点を当てて,こ
れらのもつ潜在能力を最大限に活用する犯罪防止に向けた我々の努力と取組を強化し,
文化的独自性を尊重しつつ,特に児童や若年層に重点を置いた人権保護と法の支配を
土台にした法遵守の文化を広めていくこと
(d) 啓発活動,被害の防止,市民,関係機関及び市民社会の間の協力の増大並びに修復的
司法の促進によるものを含め,対話と地域参加の仕組を通じた社会的紛争の調整及び
解決を促進すること
(e) 刑事司法制度のあらゆる分野において,腐敗を防止し,人権の尊重を推進し,また,
専門的能力と監督機能を強化することにより,刑事司法に対する公共の信頼を向上さ
せ,これにより刑事司法がすべての個人にとってアクセス可能で,そのニーズと権利
保護の要請に応えるものであることを確保すること
(f) 公の治安についての課題を特定するためのものを含む犯罪防止及び刑事司法の強化及
び市民参加の促進に向けた政策やプログラムの策定に際して,新旧の情報通信技術の
活用の可能性を探求すること
(g) 市民参加を拡大する観点から犯罪防止及び刑事司法の分野において電子政府システム
の改良を促進すること,警察とその担当地域の住民との間の協力と連帯を推進し,地
域警察活動についてのベスト・プラクティスを共有し,情報を交換するための新たな
技術の活用を促進すること
(h) あらゆる形態・性質の犯罪を防止し,これらに対処するに当たって,官民連携を強化
すること
(i) 法の内容が公共にアクセス可能なものであることを確保し,適切な場合には,刑事裁
判の公開性を向上させること
(j) 犯罪及び腐敗について報告し,情報提供を継続することを一般市民,特に犯罪被害者
に対して奨励する仕組みを新たに,または既存の実務を基に創設し,また,内部告発
者や証人を保護する手段を講じ,これを実施すること14(k) 地域の主体的な取組の支援及び連携,また,司法へのアクセスについて全ての人の権
利としての意識を喚起することを含め,これを保障することに市民が積極的に参加す
ることの強化,さらに,社会的活動の機会の創造や,犯罪者の社会への再統合と社会
復帰の支援を含む犯罪防止及び犯罪者処遇に市民が参加することの強化を検討するこ
と。これらに関して,社会復帰のための政策やプログラム及び官民連携についてのベ
スト・プラクティスの共有や情報交換を推奨すること。
(l) 犯罪防止,被害者や刑務所出所者を含む社会的弱者のための社会的包摂プログラムや
就労支援への民間の参加を奨励すること
(m) 犯罪学並びに法科学及び矯正科学の研究のための能力を構築・維持し,また,関連す
る政策,プログラム及びプロジェクトの設計と実施に最新の科学的専門知識を活かす
こと
11. 我々は,
この宣言に記載された目標を達成し,
国際協力を強化し,
法の支配を擁護し,
また,我々の犯罪防止及び刑事司法制度が効果的,公正,人道的かつ説明責任のあるも
のであることを確保するための取組を継続するに当たり,適切で,長期にわたり,持続
可能かつ効果的な技術支援と能力強化についての政策とプログラムの重要性を再確認す
る。故に我々は,次のことに努力を傾注する。
(a) 加盟国の要請に応じ,かつ当該加盟国の特定のニーズと優先課題の分析評価に基づい
て,国連薬物・犯罪事務所との緊密な連携の下にあらゆる形態・性質の犯罪を防止し
これに対処する効果的なプログラムの策定と実施を支援するため,十分,堅実かつ予
測可能性のある資金提供を引き続き行うこと
(b) 国連薬物・犯罪事務所,国際連合犯罪防止刑事司法プログラムネットワーク機関並び
にその他すべての国際連合機関及び国際機関・地域機関に対し,各自の任務の遂行に
当たり,加盟各国と引き続き協調・協力して,研究及び研修プログラムの策定・実施
を含む取組を通じて,国家レベル,地域レベル,世界レベルにおける課題に対する効
果的な対応策を提供し,かつ,犯罪防止と刑事司法への市民参加の効果を向上させる
よう呼びかける。
12. 我々は,国際連合薬物犯罪事務所が,犯罪防止及び刑事司法の分野において我々が希
求する目標の達成及びこの宣言の条項の実施についての不可欠のパートナーであり続
けることを再確認する。1513. 我々は,
2020年に第14回犯罪防止刑事司法会議を開催するとの日本政府の申し出を,
感謝をもって歓迎する。
14. 我々は,カタール国民及びカタール政府に対し,その温かく親切なもてなしと,第 13
回会議のために提供された素晴らしい施設について,心からの謝意を表明する。