平成30年度簡裁訴訟代理等能力認定考査
考 査 問 題
< 注 意 >
1 別に配布した解答用紙の該当欄に,受験地,受験番号及び氏名を必ず
記入してください。
2 考査時間は,2時間です。
3 考査問題は,記述式です。
4 問題の解答は,所定の解答用紙に記入してください。解答用紙への解
答の記入は,黒インクの万年筆又はボールペン(インクが消せるものを
除く。
)を使用してください。解答用紙の解答欄に受験者の氏名又は特
定人の答案であると判断される記載がある場合には,その解答用紙の答
案は,採点されません。また,解答用紙の筆記可能線の外側に解答をし
た場合には,当該筆記可能線の外側に記載された部分は,採点されませ
ん。
5 解答用紙に受験地,受験番号及び氏名を記載しなかった場合は,採点
されません(考査時間終了後,これらを記載することは,認められませ
ん。)。
6 解答用紙は,書き損じても,補充しません。
7 不正行為があった場合には,その解答は無効とします。
8 考査問題に関する質問には,一切お答えしません。
9 考査問題は,考査時間終了後,持ち帰ることができます。
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第1問 (別紙1)記載の〔Xの言い分〕及び〔Yの言い分〕に基づき,以下の小問(1)
から小問(6)までに答えなさい。
なお,附帯請求については考慮しないものとし,物件目録及び登記目録について
は記載することを要しない。
小問(1) XがYに対して訴えを提起する場合における適切な訴訟物を解答用紙の第1
欄(1)に記載しなさい。
小問(2) 小問(1)の訴えに係る訴訟(以下「本件訴訟」という。)において,訴状に記
載すべき請求の趣旨(付随的申立てを含む。)を解答用紙の第1欄(2)に記載し
なさい。
小問(3) 本件訴訟の口頭弁論において,〔Xの言い分〕及び〔Yの言い分〕が全て主
張された場合に,Xの主張する請求原因の要件事実を解答用紙の第1欄(3)に記
載しなさい。
なお,いわゆる「よって書き」は,記載することを要しない。また,記載に当
たっては,次の【記載例】のように,1要件事実ごとに適宜番号等を付して整理
して記載し,
2請求原因が複数ある場合には請求原因ごとに分けた上で,
3要件
事実のうち同一のものについては,
適宜,
他の請求原因の要件事実の記載を引用
して記載すること(以下,小問(4)及び小問(5)において同じ。)。
【記載例】
請求原因1
1 Aは,Bとの間で,平成○しろまる○しろまる年○しろまる月○しろまる日,甲土地を,賃料月額 10 万円で賃
貸するとの合意をした。
2 ......
請求原因2
1 請求原因1の1と同じ。
2 ......
小問(4) 本件訴訟の口頭弁論において,〔Xの言い分〕及び〔Yの言い分〕が全て主
張された場合に,Yの主張する抗弁の要件事実を解答用紙の第1欄(4)に記載し
なさい。
なお,記載に当たっては,抗弁が複数ある場合には抗弁ごとに分けて記載し,
小問(3)において解答した請求原因が複数ある場合にはそれぞれどの請求原因に
対する抗弁かを明記して記載すること。
小問(5) 本件訴訟の口頭弁論において,〔Xの言い分〕及び〔Yの言い分〕が全て主
張された場合に,Xの主張する再抗弁の要件事実を解答用紙の第1欄(5)に記載
しなさい。
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なお,
記載に当たっては,
再抗弁が複数ある場合には再抗弁ごとに分けて記載
し,小問(4)において解答した抗弁が複数ある場合にはそれぞれどの抗弁に対す
る再抗弁かを明記して記載すること。
小問(6) 本件訴訟において,裁判所から和解勧試があり,XY間において,XがYか
ら和解当日(平成 30 年6月4日とする。)に甲土地を代金 40 万円で買い受け,
XがYに対して平成 30 年6月 12 日に 40 万円を支払うのと引換えに,YがXに
対して甲土地の引渡し及び所有権移転登記手続を行うとの内容の和解をするこ
ととなった。
この和解内容に基づいて作成した(別紙2)の和解条項案のうち, 1 及
び 2 に入る適切な和解条項を解答用紙の第1欄(6)に記載しなさい。
第2問 第1問記載の設例において,司法書士P(簡裁訴訟代理等関係業務を行うのに必
要な能力を有する旨の法務大臣の認定を受けているものとする。)は,Xの訴訟代
理人として,Y及びZを共同被告とし,Yに対する請求とともに,Zに対する無権
代理人の責任に基づく 25 万円の損害賠償の請求をする訴えを簡易裁判所に提起し
た。この場合に関する以下の小問(1)から小問(3)までに答えなさい。
小問(1) Y及びZに対する請求についての裁判所の判断が区々にならないようにする
ために,Xの訴訟代理人であるPは,どのような訴訟行為をすればよいか,解
答用紙の第2欄(1)に記載しなさい。
小問(2) Zの所在が不明であるときは,Zに対する訴状等の訴訟関係書類の送達は,
どのような送達方法によって行われることとなるか。また,この送達方法が採
られた場合に,Zが口頭弁論の期日に出頭しなかったときにおける,Zに対す
る請求に係る請求原因事実の立証の要否及びその理由について,解答用紙の第
2欄(2)に記載しなさい。
小問(3) 仮に〔Xの言い分〕の下線部中の丙絵画の売買代金額が 30 万円ではなく,150
万円であった場合において,〔Yの言い分〕が判明しているときは,Pは,X
の訴訟代理人として下線部の事実に基づく主張をすることはできるか。主張の
可否及びその理由を解答用紙の第2欄(3)に記載しなさい。
第3問 第1問記載の設例において,Xは,Y及びZを共同被告とし,Yに対する請求と
ともに,Zに対する無権代理人の責任に基づく 25 万円の損害賠償の請求をする訴
えを提起した。Yの訴訟代理人としてYから事件を受任していた司法書士Q(簡裁
訴訟代理等関係業務を行うのに必要な能力を有する旨の法務大臣の認定を受けてい
るものとする。)は,共同被告Zから,「私は,本件売買契約に先立って,Yから
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本件売買契約についての代理権をきちんともらっている。その旨を記載した準備書
面を書いてほしい。」として裁判所提出書類の作成を依頼された。この場合におい
て,Qは,Zから上記依頼を受任することができるか。その結論及び理由を解答用
紙の第3欄に記載しなさい。
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(別紙1)
〔Xの言い分〕
1 Yから買い受けたT県所在の甲土地
(本件全期間を通じ,
固定資産税評価額は 50 万円
であるものとする。)のことで,Yとトラブルになっています。
甲土地は,私が以前から所有している乙土地に隣接している土地ですが,袋地になっ
ており,乙土地を通らなければ公道まで行けない関係にあります。
2 私は,平成 30 年1月 22 日,Yの子であるZから,「私の父であるYが甲土地を手放
したいと考えており,Xに買ってもらえないか聞いてほしいと頼まれているのだが,買
わないか。」との話を持ち掛けられました。
Zの話によれば,
Yの父親Aが平成 29 年9月1日に死亡し,
唯一の相続人であるYが
甲土地を相続し,これを原因とする所有権の移転の登記を経たのですが,Yは,袋地で
活用しづらい土地であるにもかかわらず,固定資産税だけを払い続けるのは大変だと考
え,甲土地を手放す気になったようです。
3 私は,甲土地を取得すれば,乙土地と合わせて土地を広く活用することができるよう
になりますので,これは良い話だと思いました。そこで,Yから甲土地を買い受けるこ
ととし,Zとの間で,代金等の売買条件について交渉しました。
なお,Zの話によれば,Yは,遠方のS県に住んでおり,交通費を出してT県に来て
までXと交渉する程の価値が甲土地にないことから,Zが,甲土地の売却についての交
渉から契約まで全てを任せられているとのことでした。
4 その後,Zとの間で交渉を重ね,売買条件の協議が整いました。
私は,平成 30 年3月1日,Yの代理人であるZとの間で,売買代金 50 万円,代金支
払と引渡し及び登記手続を引換えに行うこととし,
その日を同月 30 日とする約定で,甲土地を買い受ける旨の売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結しました。
5 Yは,Zに対して甲土地を賃貸することについての代理権を与えていたにすぎず,売
却することについての代理権は与えていないと主張しているようです。
しかし,私は,本件売買契約の際,Zから,YがZに対して甲土地の売買に関する一
切の件を委任する旨を記載した平成30年2月1日付けの委任状及びこの委任状に押され
ていたYのはんこの印鑑登録証明書をもらっています。私は,Zが本件売買契約につい
ての代理権を有しているものと信頼して本件売買契約を締結したのですから,保護され
るべきではないでしょうか。
6 仮にZが本件売買契約を締結した時点で本件売買契約についての代理権を有していな
かったとしても,私は,平成 30 年3月3日に,Yに対し,甲土地の売却について御礼の
電話をかけたところ,Yは,「甲土地を買ってくれてありがとう。」と感謝の言葉を述
べており,本件売買契約を了承しています。
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7 私は,まとまったお金が入ったので,約束の日よりも前でしたが,平成 30 年3月 15
日,Yに対して,売買代金 50 万円のうち 25 万円を本件売買契約時に指定された口座に
振り込んで支払いました。
残りの売買代金 25 万円について,私は,平成 28 年 10 月 10 日,Aに対し,丙絵画を
売買代金 30 万円で売り,
これを引き渡していたにもかかわらず,
その代金が未回収であ
ったことを思い出しました。そこで,私は,平成 30 年3月 28 日,Aの相続人であるY
に対し,内容証明郵便をもって,上記丙絵画の売買契約に基づく代金債権と本件売買契
約に基づく残りの代金債権とを相殺すると通知しました。
この通知は,
同月 30 日にYに
届いています。
8 しかし,Yは,甲土地の引渡しをせず,また,本件売買契約を原因とする所有権移転
登記手続にも応じてくれません。
以上のとおりですから,私は,Yに対し,本件売買契約に基づき,甲土地の引渡し及
び所有権移転登記手続をすることを求めます。
〔Yの言い分〕
1 Xから,甲土地を買ったから,早く引き渡せ,早く登記を移せなどと言われて,困っ
ています。
2 甲土地は,
Xが所有している乙土地の裏手に隣接している土地で,
袋地になっており,
乙土地を通らなければ公道まで行けない関係にあることは,Xの言うとおりです。
しかし,甲土地は,それなりのまとまった広さがある土地で,竹が植えられており,
春になると,筍を採ることができます。
3 甲土地は,私の父であるAが所有していましたが,Aは,平成 29 年9月1日に亡くな
りました。母は早くに亡くなっており,一人っ子である私が甲土地を相続し,これを原
因とする所有権の移転の登記を経ました。
もっとも,私は,遠方のS県に住んでいるため,甲土地まで行く機会が少なく,その
ままでは甲土地に竹が生い茂ってしまうことになることから,Xに甲土地を借りて使っ
てもらえると良いと考えました。
そこで,私は,平成 30 年1月頃,T県に住んでいる私の子であるZに対し,Xに甲土
地を借りてもらえないか交渉するよう頼みました。
4 Xは,
私の代理人であるZから,
平成 30 年3月1日に甲土地を買ったと主張していま
す。
しかし,私は,Zに対して,甲土地を賃貸することについての代理権は与えています
が,甲土地を売却することについての代理権を与えたことはありません。
Xの主張によれば,Xは,本件売買契約の際に,Zから,私がZに対して甲土地の売
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買に関する一切の件を委任する旨が記載された委任状を受け取ったとのことですが,こ
の委任状は,私がZに対して甲土地を賃貸することについての代理権を与えた際に渡し
たものが書き換えられたものです。
Xが持っている委任状を見せてもらいましたが,
「売
買」という文字の部分には消し跡があり,また,「売買」という文字が他の文字とは明
らかに字体が異なっていましたので,
私がZに渡した委任状の
「賃貸」
という文字が
「売
買」という文字に書き換えられたものだと思います。
また,Xが持っている私の印鑑登録証明書は,私がZに対し,甲土地を賃貸すること
についての代理権を与えた際,委任状とともに渡したものです。
なお,Xは,私に対して,確認しようと思えばすぐにできたのに,本件売買契約につ
いて直接連絡して確認することもありませんでした。
5 Xは,平成 30 年3月3日に,私に対して「甲土地を売ってくれてありがとう。」とい
う電話をかけてきましたが,私は,Xに甲土地を売った覚えがありませんでしたので,
「あなたに売った覚えはない。」と言って,電話を切りました。
6 Xは,
平成 30 年3月 15 日に,
私に対して売買代金 25 万円を支払ったと言っています
が,私は,1円も受け取っていません。Xが振り込んだ預金口座は,私が保有している
ものではありません。Xは,Zにだまされたのではないでしょうか。
仮にXと私との間で売買契約に基づく何らかの権利義務関係が生ずるとしても,
私は,
売買代金を一切受け取っていませんので,売買代金が支払われるまでは,Xの請求に応
じるつもりはありません。
また,Xから,平成 30 年3月 30 日に,丙絵画の売買契約に基づく代金債権と本件売
買契約に基づく代金債権とを相殺するとの通知が内容証明郵便で届きました。しかし,
XとAとの間で丙絵画の売買契約があったとの事実は知りませんし,丙絵画も見たこと
がありません。Xが勝手に話を作っているだけだと思います。
7 以上のとおりですから,私は,Xの不当な請求に応じる必要はないと思います。
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(別紙2)
和解条項案
1 被告は,原告に対し,本日,甲土地を代金 40 万円で売り,原告はこれを買い受ける。
2 原告は,被告に対し, 1 。
3 被告は,原告に対し, 略 甲土地
を引き渡す。
4 被告は,原告に対し, 2 。ただ
し,登記手続に要する費用は原告の負担とする。
5 原告は,その余の請求を放棄する。
6 原告及び被告は,原告と被告との間には,本和解条項に定めるほか,何らの債権債務
のないことを相互に確認する。
7 訴訟費用は各自の負担とする。