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外国法調査報告書 -イギリス及びフランス-
1 調査の目的と対象
本報告書は、
「児童虐待の防止等を図り、児童の権利利益を擁護する観点から親権に係る制度
の見直しについて検討」
1するための参考として、
イギリス法2及びフランス法について調査し、
報告するものである。
上のような調査目的からすれば、調査の対象となるべき領域は、児童虐待との関係において
問題となる親権の規律についてということになるが、イギリス及びフランスにおいて、児童虐
待の場合にだけ適用されるような、親権に関する法制度が存在するわけではない。虐待を受け
た児童の保護は、より広い射程を持つ、保護を要する児童を対象とする法制度3のなかで扱われ
るため、
本調査では、
このような意味における児童保護法制における親権の規律を対象とする4。児童の保護については、イギリス、フランスの両国ともに、司法の関与なしに、行政機関に
よって児童の保護を行う制度を有する。どちらの国においても、行政単独での児童の保護は、
緊急に暫定的な措置がとられる場合を除いて、親権者の同意を得て行われ、この同意が得られ
ないときには、司法の関与が求められることになる5。以下では、行政のみによる児童保護は原
則として対象とせず、親権者からの同意が得られない場合、したがって司法の関与がある場合
を中心的に扱うこととする6。
なお、児童保護法制の対象とされるのは原則として7未成年者であるが、イギリス及びフラン1児童虐待の防止等に関する法律及び児童福祉法の一部を改正する法律(平成 19 年法律第 73 号)附則第2
条第1項参照。2正確には、以下で「イギリス法」として扱う児童保護法制は、連合王国のうちイングランド及びウェール
ズの法域におけるそれである。3以下では「児童保護法制」という。
4 イギリス法上、日本の「親権」に一応対応するといえる概念は「親責任」であるが、本報告書では、イギ
リス法を説明する部分では「親責任」の語を使い、その他の部分では親権と親責任を併記することはせず、
便宜上「親権」の語を使うこととする。
5 フランスでは、在宅での支援による方法又は家庭から引き離しての里親又は施設への委託の方法で児童を
保護する措置(2005 年 12 月 31 日時点で効力を有する措置)のうち、行政による保護と司法判断による保
護との割合はそれぞれ 23%と 77%であったとされ(Oned,Troisième Rapport Annuel au Parlement et au
Gouvernement del’Observatoire National de l’Enfance en Danger,2007,p.47)
、日本と比べて司法判断に
よる児童保護の割合が高いのが特徴である(ただし、これらの保護措置は、児童虐待がある場合にとられた
ものに限られないことは本文で先述したとおりである)。6
行政による児童の保護の局面における親権者との関係は、どちらの国についても概ね次のようにまとめる
ことができる。すなわち、里親委託、施設入所等の保護措置はそれらを遂行する行政機関と親権者との合意
に基づいて行われる。
措置の継続中に対象となっている児童に関わる事柄について判断することが必要にな
ったとき、例えば、学校の選択や重大な医療行為の判断等を要するときには、措置はあくまでも親権者との
合意に基づいているのであるから、
これらの個別の行為についても親権者の意向に即して行うことを要する。
ただし、日常的な衣食住に関する決定等は、逐一親権者の同意を得て行わなければならないわけではない。
そのような、
児童と同居して日々の現実の世話を行うことに必然的に伴ってくるような重大でない日常的な
事柄については、
現に子どもを預かって世話をする者が自らの判断で行いうるということが親権法中に一般
的なルールとして明定されているからである
(フランス民法 373 条の 4、
イギリス 1989 年児童法 3 条 5 項)。7 フランスでは、未成年解放(476 条から 487 条)された 18 歳未満の子どもは対象外となるが、逆に、21
歳までの若年成年者を対象とする、
未成年者に対するのと同様の保護制度
(成年年齢の 21 歳から 18 歳への2スの成年年齢は 18 歳である。
以下では、フランス、イギリスの順に、
(1)制度の概要、
(2)親権の制限又は調整、(3)裁判所の関与のあり方、
(4)親権者がいない未成年者の公的主体による保護、
(5)現行法制
の問題点について説明を加え、最後に、現地調査の概略及び参考文献を掲げる。
2.フランス
(1)制度の概要
児童保護法制のうち、児童の保護を目的とする親権の規律の中心となるのは、民法中の「育
成扶助」制度である。他に、親権者から親権自体又はその行使を失わせる制度として、
「親権の
取上げ」と「親権の委譲」が関係する。同意に基づく行政機関レベルでの支援が上手く進まな
いときには、裁判所の関与のもとに、これらの制度が用いられることになる。
以下では、
まず、
前提となる親権及びその行使に関する一般的なルールを説明し、次に、これらの制度の概略及
び民法上のその他の関連する条文を一覧したうえで、関係する機関、民法以外の関係する法令
について簡単に説明する。
1) 民法の関係部分の概要
1 親権の性質と内容
親権については、民法の第9章(民法 371 条から 387 条まで)に規定されている8。
「親
(autorité parentale)
」は、
「子の利益を目的とする権利及び義務の総体」
(民法 371 条の 1、1
項9)であり、
「子をその安全、健康及び精神において保護し、かつ、子の教育を保障しその発
達を可能とする」という目的のために、父母に帰属するとされる(同 2 項)
。この目的は、親権
法全体を支配し、親権の制限の根拠となるものとして、重要である。
親権は、
父母に与えられた特権ではなく、
上の目的のために与えられた職務であり、
通常は、
次のような内容をもつものと整理される10。
第一は、子どもの保護の職務である。上記目的のうちの「安全、健康及び精神において保護」
するという側面に対応し、要するに子どもの物質及び精神面での全ての必要ということに帰す
る。この職務を果たすために、親権者には、医療的決定、子と他者との関係の監督、食べ物や
引き下げに伴って導入されたもの)がある。イギリスでは、後述する保護の主要な方法のうち、ケア命令及
びスーパービジョン命令の対象となるのは原則として 17 歳の児童までであり、8 条命令の対象となるのは
原則として 16 歳の児童までである。なお、本報告書では、
「児童」、「子ども」、「子」、「未成年者」の語を、
特に定義して使い分けることはしていない。8親権法は、
「親権」
の語を puissance paternelle から autorité parentale へと変更した 1970 年の改正以降、
1987 年、1993 年と改正を重ね、2002 年の改正によって現在の骨格が整えられるに至った。その後、2007
年には児童保護に関する立法(2007 年 3 月 5 日の法律)により育成扶助制度が改正を受けている。
9本文の以下の部分のうちフランス法を扱う部分においては、フランス民法の条文は条数のみで引用する。
フランス民法の条文の訳出に際しては、法務大臣官房司法法制調査部編『フランス民法典-家族・相続関係-』(法曹会、1978 年)
、及び本報告書の末尾引用の[田中、2007]を参考とさせていただいた。10親権の内容に関する本文の以下の記述は、後掲 Terré et Fenouillet,n1011-1013 に依拠している。3衣服の選択等の、多様な特権が認められる。親権者は、医療契約の締結等の法律行為を行うこ
とと薬を飲む等の事実行為を行うことの両方の権利義務を有する。ただし、未成年者の健康に
関わる権限については、個別の特別法で制限されていることも多い。さらに、一般的に、医療
従事者は、未成年者の健康に重大な帰結がもたらされる危険があるときには、親権者の拒否に
かかわらず、不可欠の治療を行うものとされている(患者の権利に関する 2002 年 3 月 4 日の
法律 L1111 条の 4)。第二は、教育の職務である。2002 年の改正法は、教育を、親権の目的であると位置づけた。
先述した親権の目的のうち「教育を保障しその発達を可能とする」という側面に対応するもの
である。教育は親権の目的とされたといっても、教育の権利と義務が親権の重要な特権である
ことには変わりがない。親は、知的側面、及び精神、職業、市民社会、政治、宗教等に関わる
教育の義務を負う。この職務には、先の保護の場合と同様に、教育機関への子どもの登録等の
法律行為と宿題の手伝いや授業への助言等の事実行為とが含まれる11。
第三は、居所の指定である。未成年者の居所を定める権利かつ義務であり、監護(garde)の
権利として言及されることもある12。
「子は、父母の許可なしに家族の家を去ることができな
い。」(371 条の 3)という条文がこの権利義務を定めるものである。同条では、
「子は、法律が
定める必要な場合においてのみ、その家から引き離されうる」とされているが、これは、子の
家庭からの引き離しは、親が子を留め置いておく権限に対する極めて例外的な措置であること
を示している。この例外にあたる主要な場面は、育成扶助により子が家族の家から引き離され
る場合(375 条の 3)又は司法判断により子が第三者に預けられる場合(373 条の 3、380 条等)
である。このように、居所の指定は親権の本質的な特権と捉えられているが、その理由は、一
方で住居の選択が実際上は大なり小なり子どもの生活を規定するからであり、他方で子どもと
の共同生活が子どもとの愛情的、知的なつながりにとって本質的だからである13。
以上のような内容を有する親権を行使するときに、
「両親は、子の年齢及び成熟度に応じて、
子に関する決定に子を参加させる」ことが求められる(371 条の 1)。なお、いわゆる未成年者の財産の管理の側面は、規定の上では親権と別立ての制度となって
いるが、親権を行使する者は原則として未成年者の財産の管理に関わる権限を有することにな
る(382 条、383 条)
。したがって、親権者は、親権の行使を失った場合には、未成年者の財産11なお、宗教の選択はしばしば微妙な問題を生じさせる。宗教の選択は、教育の職務の一部として親が決定
できるとされるが、それが日常的な行為であると性質づけられることはなく、そのため、父母は宗教の選択
に関する決定権限を共同で行使しなければならない(後述する 372 条の 2 による)
。父母の合意が得られな
いときには、裁判所で微妙で困難な判断がなされることになる(373 条の 2 の 7、373 条の 2 の 11)。12
「監護(garde)
」という語の使用方法には注意が必要である。2002 年の改正の前までは、親権は「監護、
監督及び教育の権利及び義務」であると規定されていたため、監護という用語は未成年者の生活態様を定め
る一般的な権限として理解されていた。ところが、2002 年改正法はこの用語を廃止し、監護の権利及び義
務は、本文で述べた保護及び教育の職務として具体化して規定されるに至った。その結果、今日では本文に
記したとおり、監護の語は正確には居所の指定の側面だけを指すこととなったが、時には旧来の含意で用い
られることもある。13このような子どもとの共同生活に関わる親の権限は、
近時の欧州人権条約 8 条の家族生活を尊重される権
利の解釈によっても裏書きされている。4管理権限を失うこととなるという関係にある。もっとも、上記のとおり、子どもの保護や教育
のために必要となる契約の締結権限は、ここでいう財産管理とは別の権限として位置づけられ
ている。
2 親権の行使に関する一般的なルール
親権の帰属については、父母の関係がどのようであるかにかかわらず、すなわち、父母が婚
姻しているか否か、婚姻等が解消しているか否か、別居しているか否かにかかわらず、父及び
母による共同親権が原則となる(373 条の 2)
。そして、共同親権者である父母は、共同で親権
を行使する(372 条 1 項)
。ただし、子の身上に関する日常的行為(acte usuels)については、
親権者の一方が他方の意思に反して単独で行った場合であっても、善意の第三者との関係では
他方と一致しての行為とみなされる (372 条の 2)。逆に言えば、日常的行為とはいえない重大
な事項については、相手方が善意であったとしても、一方親権者が他方に無断で行った行為が
有効とされるさけではない。
両親が離別(離婚、カップルの解消、別居を含む)する場合にも、父母の両方が親権者であ
り続けるのが原則であることは上に述べたとおりである。この場合には、子どもの居所につい
て、両親の居所の間を交代で行き来する形態(交換居所(résidence alternée)
)と、両親の居
所のどちらかに通常の居所を定める形態のどちらかが選ばれる(373 条の 2 の 9、1 項)
。どち
らの形態にするかは、父母による約定を裁判所が許可するか、両親の一方又は検察官の申立に
より裁判官が決することになる(373 条の 2 の 7 から 373 条の 2 の 9)
。どちらの居所の形態が
とられたとしても、親権は共同行使であるから、親権に関する決定には父母の合意が必要であ
る。子の身上に関する「日常的行為」については、先述の規定により、父母の一方が単独で行
うことができるが、日常的行為の範囲を超える重要な事柄について父母が合意に至らない場合
には、結局、父母の一方によって裁判官に申し立てがなされることになる。これに関連して、
父母の双方は、他方と子との関係を尊重する義務を負い、これを実効ならしめるため、父母の
それぞれは、
居所を変更するときには、
そのことを他方に知らせなければならない
(373 条の 2、
2 項、3 項)。これに対し、離別の後に、親権の行使が一方に委ねられることもある。このような単独での
親権の行使は、裁判官の判断によって認められるものとされており、裁判官は、
「例外的に、子
の利益がそれを命じる場合には」
、親権の行使を父母の一方に委ねることができる(373 条の 2
の 1、1 項)
。親権の行使が父母の一方に委ねられると、当該一方の親は、重大な事項について
も、他方の同意を得ずに単独で行うことができる。この場合であっても、他方の親は「子の養
育及び教育を監督する権利及び義務」を保持し、子の生活に関する重大な選択については通知
を受ける。
また、
他方の親は、
原則として訪問及び宿泊の権利を有する
(373 条の 2 の 1、
2 項)。親権の行使については、他に、日本の民法にはない規定として、子どもが第三者に預けられ
た場合についての規定がある14。子どもが第三者に預けられたとき(confier l’enfant )には、親権14前記注6で言及した規定である。5は引き続きその父母によって行使されるが、子を預かる者は、その監督及び教育に関するすべ
ての日常的行為を遂行するものとされる(373 条の 4)
。子を預かっている者は、日常的行為の
範囲に属する事柄については、親権者の同意を得ることなく、単独で行うことができることに
なる。
3 親権の制限に関する制度の概要
親権の制限ないし調整については項を改めて詳述するが、ここでその概略を示しておく。民
法には、
「育成扶助」
「委譲」
「取上げ」の三つが規定されている。
・育成扶助:児童虐待への対応において中心的な位置を占める制度であり、子どもが危険な状
態にあるときに、裁判官の命令により、子ども及びその家族に対して、支援を行うものであ
る。具体的には、子どもを家庭から引き離して第三者(個人、施設、県の児童社会扶助機関
等)に委ねる、子どもを在宅させたまま専門家が助言・支援を行う等の措置がとられる。育
成扶助の制度は、親権を制限するためのものではなく、措置が行われている間も親権者の親
権は維持されるが、親権者は現に子どもを預かる者及び助言・支援を行う者との間で一定の
調整又は制限に服することになる。育成扶助は、緊急時への対応に用いられることも予定さ
れている。
育成扶助では親権者が親権を保持するのに対して、親権者が親権又はその行使を失う効果を
もつ制度として、親権の委譲と親権の取上げがある。
・親権の委譲: 親権の委譲は、裁判官の判決により、親権の行使が第三者に移されるものであ
る。親権の全部の委譲と一部の委譲があり、また、親権者からの申立による場合(任意的委
譲)と第三者からの申立による場合(強制的委譲)とがある。児童虐待の場面で問題となる
のは、主に親権の「全部」の「強制的」な委譲である。
・親権の取上げ:親権自体を親から奪うものである。
大審裁判所の刑事又は民事の判決により、
親権の行使にとどまらず、親権自体を、全面的に又は部分的に取り上げるものである。
4 その他
他に、民法上の関係する制度として、まず、子どもに関わる社会保障給付金が子どものため
に有効に使われていない場合に、裁判官が当該給付金を受領する者を定めて適切な利用を図る
措置がある。管轄するのは、子どもの保護を専門とする少年係裁判官である(375 条の 9 の 1、
395 条の 9 の 2)
。また、
「遺棄宣告」を挙げることができる。この宣告は、育成扶助等によっ
て里親、施設、児童社会扶助機関他に受け入れられた子に対して、親が 1 年以上の間明らかに
無関心である場合に、それが親の深刻な苦境による場合を除いて、大審裁判所によって宣言さ
れるものであり(350 条 1 項)
、対象となった子は、同宣告によって、完全養子の対象となりう
ることになる(347 条 3 号)。なお、
以上のような親権及びその行使に関わる制度の手続面は、
新民事訴訟法 1181 条以下に
よって規律されている。
2)諸制度の利用状況
育成扶助、
委譲、
取上げの利用実績は下表の通りとなっている。
この表に挙げられた件数は、6それぞれの制度の利用の総数を示しているため、児童虐待が行われている事例だけが含まれて
いるわけではないが、育成扶助の利用が中心となっていることがわかる。親権の取上げの件数
は、数は多くない。
【育成扶助・委譲・取上げの件数(2006 年)】件数
育成扶助(AEMO(在宅支援)) 143455
うち新規 64108
育成扶助(託置) 127329
うち新規 39759
育成扶助(調査措置) 58717
うち新規 49908
うち社会調査 21145
うち育成指導付調査 29540
12 月 31 日時点での育成扶助対象未成年者数 217884
育成扶助に対する不服申立 2953
親権の委譲 3469
親権の全部取上げ 284
(Annuaire statistique de la justice,éd.2008 より抜粋)
3) 関係する機関
児童保護に関係する主な機関は次の通りである。
まず、親権の行使について一般的に判断する権限を有するのが家事事件裁判官である。家事
事件裁判官は、1993 年に創設された専門の裁判官であり、婚姻、離別、親権の行使の調整等を
管轄する。父母の離別の後にどのように親権が行使されるべきかを定めるほか、親権の委譲を
判断する。育成扶助を管轄するのは別の専門裁判官である少年係裁判官である。少年係裁判官
は、少年ないし児童を専門とする裁判官として、少年非行と育成扶助を担当する。
行政において、児童保護を管轄するのは県である。県は、児童に関わる社会扶助及び社会事
業を担当する児童社会扶助機関(Aide sociale à l’enfance(ASE))を置かなければならない。本
調査の対象分野との関係では、この機関の二つの役割が重要である。まず、行政レベルでの児
童保護を担当し、
親権者との合意に基づいて児童を保護する直接的な活動を遂行する。
他方で、
育成扶助等の方法により司法を通じて児童の保護が図られる場合において、裁判所は、子ども
の施設入所、里親委託、子ども及び家族に対する助言・指導等を委託するが、その際に、多く
の場合に受け皿となるのが県の児童社会扶助機関である。74) 民法以外の関係法令
1 刑法
フランスでは、未成年者を危険な状態に陥らせること自体が犯罪として刑法に規定されてい
る。具体的には、直系尊属、親権を行使する者等が 15 歳未満の者に食料又はケアを与えずにそ
の健康を危殆化させること15、及び、未成年者の父母が法的義務の履行を怠ることにより当該
未成年者の健康、安全、精神又は教育を著しく危殆化すること16が犯罪とされる。さらに、暴
力行為や強姦等の一般の犯罪についても、被害者の年齢が 15 歳未満であることを理由とする、
又は、加害者が被害者に対して尊属であるもしくは親権その他の権限を有する等を理由とする
刑の加重規定が存在する17。本調査では刑事処分の詳細を扱うことができないが、子どもが虐
待の被害を受けている場合には、
民法に基づく親権行使に対する介入又は行政的な保護措置は、
刑事処分とともに働きうるものであるということは注意を要する。
2 家族社会事業法
家族、高齢者、障害者等に対する様々な社会扶助ないし社会事業及びそれらを遂行する機関
等について定めるのが家族社会事業法である。先述のとおり、児童虐待への対応においては、
県の児童社会扶助機関が、行政的保護の場面のみならず、司法による民法に基づく親権への関
与の場面においても、
重要な役割を果たすが、
同機関の位置づけ及びその業務内容については、
同法に詳細な定めがある。主として関係するのは、社会扶助及び社会事業について定める第 2
編の第 2 章「児童」と題される部分である。司法判断によって育成扶助措置がなされる場合に
おける家族の権利(223 条の1から 223 条の 8)18、育成扶助措置によって家族から引き離され
た未成年者の保護の方法(227 条の1から 227 条の 12)
、そのような未成年者の養育にかかる
費用の負担(228 条の1から 228 条の 6)等が規定されている。司法判断によって親権が取り
上げられた後に対象となった子どもを養子とする場合の手続もまた、
同法に含まれている(224条の 1 から 225 条の 20 までに規定される国家の被後見子及び養子に関わる部分である)
。これ
らの部分では、家族社会事業法の規定と民法の規定が相互に対応して定められている点が注目
される19。
さらに、
家族社会事業法は、
行政による児童に対する社会扶助
(L221 条の 1 から 221
条の 9)の根拠となり、行政機関が司法機関に通報しなければならない場合についても定める
(L223 条の 2)
。児童が虐待をされるその他の事情によって危険な状態にある場合の通報、情
報収集等についての定めもある(L226 条の 1 から L226 条の 13)。15
刑法 227 条の 15(法定刑は 7 年の懲役及び 10 万ユーロの罰金。被害者を死亡させたときには 30 年の懲
役(同法 227 条の 16)))。16
刑法 227 条の 17(法定刑は 2 年の懲役及び 3 万ユーロの罰金)。17
その他の犯罪については、後掲[松井・才村 2004、38‐39 頁]を参照。18具体的には、家族の権利として、育成扶助の手続において意見を述べる権利や定期的に児童の状況につい
て報告を受ける権利等が定められている。19例えば、家族社会事業法 223 条の 3 の 1 は、少年係裁判官が育成扶助措置をとる際に、訪問権の頻度や
態様を施設長と親権者との協議によらしめることができることを内容とする民法 375 条の 7、5 項を受けて
いる。8(2)親権の制限又は調整
次に、親権の行使が適切でないときに、子どもを保護するために、親権に関してどのように
法的な介入がなされるのかを、より立ち入って見ていきたい。
1) 親権の制限又は調整の重層性
先に概観したとおり、フランスの民法には、親権の制限又は調整に関わる制度が多数用意さ
れているが、それらの制度による柔軟かつ多様な親権の規律を可能としているのは、それを支
える基本的な考え方や概念の複層性である。そこで、具体的な制度ごとの説明に入る前に、そ
のような基本的な考え方や概念を簡単に整理しておくのが便宜である。鍵となるのは、親権の
帰属と親権の行使との区別、及び、親権者が行う子どもに関する行為のなかでの日常的行為と
日常的行為を超える範囲の行為(
「重要な行為」
)との区別である。これらの区別の組み合わせ
により、親権の制限又は調整の態様は、親権者に対する影響の大きい順に、次の三段階に整理
ができる。
1 親権自体を喪失する場合
対応する制度は「取上げ」であり、取上げがなされれば、親権者は親権を行使できないだ
けではなく、親権そのものを失うことになる。養子(実親子関係を断絶する完全養子)への
同意権も失われるため、親子関係の断絶につながる重大な効果を持つ措置である。
2 親権を行使することができなくなる場合
親権者は、一定の要件のもとで、親権自体を保持するが、その行使ができないとされる場
合がある。この場合には、他の何者かが親権を行使することになり、その者が、対象となる
子どもに関する日常的な行為のみならず、重要な行為についても、親権者の同意を得ること
なく遂行することができることになる。親権の「委譲」は、このような効果を有する制度で
ある。親権を行使することができなくなる場合であっても、養子への同意権は元の親権者が
有する。
3 親権及びその行使を維持するが子と同居できなくなる場合
親権者に親権及びその行使を保持させつつ、司法判断によって、子どもが第三者に預けら
れる場合である。この場合には、親権者は、親権及びその行使を制限されるものではない。
しかし、同時に、子どもを預かる第三者は子どもに関する日常的な行為を行なうことができ
るとされる。
日常的な行為は親権者の同意を得ることなく第三者が遂行できるのであるから、
親権者は事実上の制約を受けているともいえる。育成扶助措置によって子どもが施設等に預
けられたときには、親権者は基本的にこのような地位に置かれることになる。
2) 育成扶助
1 目的及び要件
育成扶助制度は、子どもが危険な状態にあるときに、裁判所の命令により、子ども及びその
家庭に対して在宅支援を行う、又は子どもを家庭から引き離して施設、里親等に預ける等の措
置を行うものである。その目的は、親権を制限することにあるというよりも、子どもが危険な9状態にあるときに、家族及び当該子どもを支援することによって、子どもを保護することにあ
る。子どもが家庭から引き離される場合であっても、家庭復帰を目指すことが前提とされる。
裁判官が、命令を行う段階にとどまらず、個々の事案に長期にわたって継続的に関与するのが
特徴である。
育成扶助の要件は、
「未成年者の健康、安全もしくは精神が危険な状態にある場合、又は、教
育の条件もしくは身体、愛着、知的及び社会的な発達が著しく損なわれている場合」
(民法 375
条)である。この要件は、親権の目的が「子をその安全、健康及び精神において保護し、かつ、
子の教育を保障しその発達を可能とする」ことに存することに対応するものであるが、親権者
の親権行使の態様の適否ではなく、もっぱら未成年者の状態の側から規定されている。育成扶
助は、父もしくは母、子どもを預かる個人もしくはサービス機関、後見人、未成年者自身、又
は検察官の申立により、少年係裁判官によって命じられる。職権によることも認められる。裁
判官による命令ではあるが、裁判官は、常に、とられる措置に対して家族の同意を得るように
努めなければならない(375 条の 1、2 項)
。子どもの利益を厳密に考慮して裁判しなければな
らないことも条文上に明示されている(同条同項(2004 年に挿入))。
2 措置の内容及びその他の裁判官による判断の対象事項
育成扶助として命じられる措置は、未成年者を家庭に留めたまま本人及びその家族に支援を
与えていくものと(ここでは「在宅援助」の措置と呼ぶ)
、未成年者を家庭から離して施設等に
預けるものとに大別される。未成年者はできる限りその現状に留めおかれるべきであるとして
在宅援助が優先的な位置づけを与えられ、家庭から引き離しての措置は未成年者の保護のため
に必要なときという条件に服する。裁判官は、仮の命令として、これらの措置を命じることも
できる。先述のとおり、居所指定権に裏づけられる同居生活は親権の本質的な部分であるとさ
れ、それを失わせる措置は、法律で定められた例外的な場合にのみ許されるとされるが、育成
扶助における託置措置は、その例外的な場合の一つである。
在宅援助20は、未成年者をその現在の環境に留めつつ、当該未成年者の家族が遭遇する物質
又は精神的な困難を克服するために、家族に援助及び助言を行う措置である。援助及び助言を
現実に担当するのは、育成扶助を行う資格を与えられている専門家又は機関であり、具体的に
担当する者は裁判官が命令中で指名する。援助及び助言を担当する者は、子の成長を継続的に
観察し、裁判官に定期的に報告しなければならない(375 条の 2、1 項)。未成年者をその置かれる現在の環境から引き離して施設等に預ける措置は、
「託置
(placement)
」と呼ばれる21。裁判官が、未成年者の保護のために必要だと認めるときに、
未成年者を施設等に委ねることを決定する(375 条の 3)
。未成年者を委ねる相手方は次のよ
うに具体的に定められており、これは限定列挙であると解されている。
・託置の相手方(375 条の 3)20厳密には、未成年者を育成扶助の手続き時点での環境に留めての支援であり、AEMO(Action éducative
en milieu ouvert)と略称される。21受け入れ措置(mesure d’accueil)と呼ばれることもある。101号 親の他方
2号 家族の他の構成員又は信頼に値する第三者
3号 県の児童社会扶助機関
4号 日中又は他の態様で未成年者を受け入れる機関又は施設
5号 一般又は専門の、保健又は教育の機関又は施設
このうち、現実の適用例として大部分を占めるのが3号の委託である。この場合には、裁
判官は、児童社会扶助機関を有する県に未成年者を託置し、託置を受けた児童社会扶助機関
が、未成年者を里親に委託する又は施設に入所させる。このように、未成年者の里親委託及
び施設の入所は、裁判官によって直接になされるのではなく、県の担当部局を通じてなされ
ることが多い。ただし、裁判官が、施設等を直接に指定して託置する場合もある(根拠条文
は4号及び5号となる)
。5 号所定の施設等としては、病院、教育機関等が想定され、4 号所
定の施設等は、より一般的な未成年者の受け入れを専門とする施設等である。施設の運営主
体は民営、県営、国営など様々であるが、その資金的基礎は多くの場合、県の財政にある。
1号及び2号は父母の片方又は個人に直接に子どもを託する場合だが、児童虐待があるよう
な事例ではほとんど用いられない。里親への委託は裁判所から直接なされるのではなく、県
の児童社会扶助機関を通じて(すなわち3号を根拠に)行われる22。
裁判官は、在宅援助又は託置を命じると共に、次のような、具体的な決定を行うことがで
きる。
・対象となった未成年者に対し、保健又は教育関係の施設に定期的に通うこと、職業活動を
行うこと等を特定して義務づけることができる(375 条の2、3 項(在宅援助の場合)
、375
条の 4、2 項(託置の場合))。
・託置がなされるとき、父母は子との通信の権利ならびに訪問及び宿泊の権利を保持する。
裁判官はそれらの権利の態様を定める。その際に、受入れ施設等の指定する第三者の立会
いのもとにのみ行使されるべきことを定めることもできる。未成年者の利益のために必要
なときには、それらの権利の全部又は一部を一時的に停止することもできる。
(375 条の 7、
2 項)。・託置において、父母が訪問及び宿泊の権利を保持するときに、裁判官は訪問及び宿泊の頻
度等を決定することができる。また、自ら決定するのではなく、それらの権利の行使の条
件について子どもを預かる者と親権者との間で協議して定めるものとすることができる。
この場合であっても、当事者が合意に達することができないときには、申立により裁判官
が判断することができる(375 条の 7、5 項)。22
在宅援助と託置の他に、2007 年の改正で新たに設けられた措置の類型として、一時的宿泊付きの在宅援
助(375 条の 2、2 項)がある。在宅援助を基本としつつも、必要に応じて、裁判官の許可を得て、一時的
に宿泊を伴う援助を行う方法である。この類型は、実務で実践されていた新しい援助方法に法的基礎づけが
与えられたものであり、育成扶助においては、裁判官と受託する専門機関との協働によって、様々な援助方
法が模索されていることが伺える。11・託置の場合に、裁判官は、子どもの利益を考慮し、受入れの態様を定めることができる。特
に、子どもの利益のために必要であるか、それをしなければ危険があると認められる場合に
は、子どもの受入れ場所を秘匿することを決定することができる(375 条の 7、6 項)23・裁判官は、
託置において子どもを預かっている施設等と親権者との調整に関わる判断も行う。
後述のとおり、子どもを預かる施設等は、子どもに関する日常的な行為に含まれないような
重大な事項を遂行することは認められていないが、そのような行為を行う必要があるときに
は、
個別の行為について許可を求めることができる。
裁判官は、
後述の一定の要件のもとに、
これを許可する(375 条の 7、2 項)。・育成扶助の措置の期間中、裁判官は何時でも、職権により又は申立によって、育成扶助に関
する諸決定を変更することができる(375 条の 6)
。裁判官は、1年に一度措置されている未
成年者の状況の報告を受けることとなっており(375 条 5 項)
、報告を受けて、措置の内容自
体又は措置に伴ってなされた具体的な決定を変更することもある24。
育成扶助措置の期間は、裁判官が個々に定める。機関又は施設によって遂行される育成措置
の場合には、この期間は2年を超えることができない。措置は、理由を付した裁判によって、
更新可能である(375 条、3 項)
。実際には、6 ヶ月又は1年の期間で措置を命じ、状況に応じ
て更新を行っていくことが多いということである。ただし、2007 年の改正において、2 年の期
間制限に例外が設けられ、親が深刻な困難を抱えているために親の責任を果たすことに継続的
な支障があるような場合には、機関又は施設によって遂行される受入れの措置を、2 年を超え
る期間を定めて命ずることができるとされる(375 条、4 項)
。子どもに関係性、愛情面及び地
理面での継続性を保障するためである。
3 親権の状況
育成扶助措置がなされても、
親権者は、
親権の行使又は親権自体を失わず、
親権を保持する。
これは、親権の委譲及び親権の取上げとは異なる、育成扶助の重要な特色である。ただし、
この場合の親権は、
「育成扶助措置の適用と相反しない」限りで認められるという制限に服する
(375 条の 7)
。具体的には、次のような形で親権の行使が調整されることになる。
親権者は親権を保持しているので、子どもが施設又は里親等に預けられている場合であって
も、当該子どもに関する事項の決定を行う権限を有する。したがって、施設等は、親権者の意
向に従って、それらの事項を遂行しなければならないのが原則である。もっとも、現実には、
日常的行為とそれを超える重要な行為とで、取り扱いが異なる。なぜなら、子どもを預かって
いる施設等は、一般的に子どもを預かる者が有する権限と同じ権限を行使できる結果、預かっ
ている子どもの監督及び育成に関するすべての日常的行為を行うことができるからである(37323
子どもの受入れ場所を秘匿するためには、
本文に掲げた裁判所の判断を求めなければならないのであって、
行政的な保護においては、受入れ場所を秘匿することは許されていない。24本文で掲げた他に、裁判官は、一時的宿泊付きの在宅援助の措置中に、在宅援助を提供する機関と親権者
との間で宿泊について意見の相違が生じたときには、申立を受けて判断をすることができる(375 条の 2、
3 項))。12条の 4)
。ここで、日常的行為とは、考える必要のない決定を意味しており、監護、教育方針等
に関して、日常生活の中で一般的に行われるような事柄を指す。行政上の申請、学校生活上の
日常的事柄、公園に行くこと、遠足に行くこと、医療機関で定期健診や日常的な治療を受ける
こと等である。
重要な行為(例えば、学校の選択、選択の余地のある重大な医療行為、ピアスをする等の日
常的行為ではない事柄)
については、
施設等が親権者の意向に反して遂行することは許されず、
これらの行為をする必要があるときには、原則として育成扶助よりも強力な方法(委譲、取上
げ)を利用することが考えられることになる。ただし、例外的に、個別に裁判官の許可を得る
ことによって、重要な行為を行うことができる場合がある。すなわち、親権者に濫用的もしく
は不当な拒否又は怠慢が存し、子どもの利益のために正当であると認められれば、施設等は、
個別の重要な行為についてそれが必要であるとの証明を行うことによって、裁判官の許可を得
て、遂行することができるのである(375 条の 7)
。親権者が親権を保持するという原則の例外
に当たるため、厳格な要件が定められているが、育成扶助の実務のなかで、医療行為のような
日常的な行為の範囲を超える行為を全く行うことができなかったことによる不便さを解消する
ために、2007 年の改正で新たに設けられた手続きである。
親権者は子どもに関わる決定を行う権限を保持するといっても、託置がなされたときには、
子どもが親権者から引き離されるために、その決定を行うことが事実上困難になることが想定
される。この点、実務においては、それらの決定を可能とするために、
親権者に通信簿を送る、
医療機関に親権者を同行させる等の配慮がなされるのが通常であるという。親権者は、他に、
交流、訪問及び宿泊の権利(民法 375 条の 7、4 項)を持つとされ、これらは例外的な場合に
一時的に停止されることがありうるにすぎない。
このように、育成扶助においては、親権が制限される程度は緩やかであり25、家庭復帰を目
指すという制度の趣旨に対応しているものといえる。
より重大な親権の制限が必要な場合には、
親権の委譲又は取上げという次の段階の制度の利用が考えられるべきことになる。
3) 委譲
親権の「委譲」とは、親権自体は父又は母に留めつつ、その行使を父及び母以外の第三者に
移転するものである。親権は放棄も譲渡もできないのが原則であるが、その例外として、判
決によってのみ行うことが認められる、親権の行使のいわば「譲渡」である。委譲は判決によ
らなければならないため、委譲する者と委譲を受ける者の合意だけに基づく任意の委譲はあり
えないが、
「委譲」には、親権者たる父母が申し立てるという意味での「任意の委譲」と、親権
の委譲を受けようとする者が申し立てる「強制委譲」とがある。管轄するのは、育成扶助と異
なり、家事事件裁判官である。
任意委譲は、典型的には、父母が海外赴任をするために祖父母に子どもを預けるようなとき
に、祖父母が子どもに関する事柄について個別に父母の同意を求めることなく遂行できるよう25育成扶助では親権が保持されることから、親権者は、養子への同意の権限、婚姻同意の権限、裁判官の許
可を得て未成年解放を行う権限、財産管理権を失うこともない。13にするために用いられる26。児童虐待が関係するような場面で適用が考えられるのは、強制委
譲の方である27。子を既に受け入れている個人、施設、県の児童社会扶助機関等は、両親が子
に無関心である、又は、両親が親権を行使することが不可能である場合には、親権の委譲を受
けることを裁判所に申し立てることができる(377 条 2 項)
。なお、育成扶助の対象となってい
る子について委譲を行おうとするときには、少年係裁判官の意見が考慮されなければならない
(377 条 3 項)。委譲の判決がなされた場合には、その効果として、委譲を受けた者は、親権の行使権限を取
得し、したがって、子どもに関わる日常の行為だけでなく、重大な行為にわたる事柄も、親権
者の意向と関係なく、自ら決定し遂行することができることになる。なお、委譲は親権の一部
分についても行うことができるとされており(一部委譲)
、その場合には、委譲された部分は委
譲を受けた者が行使し、残りの部分は親権者が行使することになる。一部委譲の場合には、裁
判官が委譲されるべき部分を決定する。日常的行為と重大な行為との区別によって指定する、
健康に関わる事項、学校に関わる事項、宗教に関すること、又は特定された医療行為に関する
部分だけを指定する等の方法で、裁判官が柔軟に細かく定める。
委譲は、親権者が親権を行使できなくなるという面だけを捉えれば、親権の取上げと効果を
共通にする。しかし、親権の委譲においてはあくまでも親権自体は失われておらず、かつ、効
果は時限的であることが想定されている28。また、委譲がなされても、養子に対する同意権は
移転しない(377 条の 3)のも、取上げとの重要な相違である29。
4) 取上げ
1 取上げの要件
取上げは、親権の行使ではなく、親権自体を失わせる制度である。全部の取上げと一部の取
上げ(379 条の 1)があるが、全部の取上げが原則型である。
大審裁判所での 3 名の裁判官による判決によってなされ、刑事判決による場合と民事判決に
よる場合とがある。まず、刑事判決による場合であるが、父母が「子の身上に対して犯された
重罪もしくは軽罪の正犯、共同正犯もしくは共犯として、又はその子によって犯された重罪も
しくは軽罪の共同正犯もしくは共犯として有罪判決を受ける」ときに、
「刑事判決の明示の条項
によって」親権を取り上げられうる(378 条 1 項)
。取り上げが必ず行われるべきとされている
わけではないが、有罪判決が性的虐待によるものである場合には、特則に基づき、親権の取上26任意の委譲は、第三者に対する他に、子どもを預かる認可を受けている施設又は県の児童社会扶助機関に
対して行うこともできる(377 条 1 項)。27
もっとも、実際には、児童虐待のあるような事例で委譲制度が用いられることはあまりないとのことであ
る(現地調査での Cicile-Delfosse 教授の指摘による)。28
委譲は環境の変化が生じたために正当と認められるときには、
いつでも裁判所の判決をもって終了させる
ことができるとされる(377 条の 2、1 項、2 項)
。なお、取上げも、返還請求の制度がある(381 条)ため、
必ずしも無期限ではないが、原則として時限的なものであることが想定されているわけではない。29なお、本文で説明したものの他に、近時の改正において、委譲者が親権の行使を失わずに、委譲を受けた
者と親権の行使を共有する新たな類型の委譲が創設された(2002 年の改正によって導入された制度であり
「délégation partagé(共有委譲(仮訳))」と称される)
。再婚カップルあるいは同性カップルでの利用を主
に念頭においたものであり、児童虐待との関係では重要性が低いと考えられる。14げが必ずなされなければならないとされる(刑法 222 条の 31 の 1、227 条の 28 の 2(2005 年
の改正により挿入))。兄弟のうちの一人に性的虐待があるときに、他の兄弟について親権を取
り上げることもある(刑法 227 条の 28 の 2、2 項)。民事の場合には、親権の取上げは、検察官、家族の構成員又は子の後見人の申立による(378
条の 1、3 項)
。二種類の要件が定められているが、その第一は「父母が、アルコールの常習的
な過剰摂取又は麻薬使用、
明らかな不行跡又は不法な行動、
世話の懈怠又は指導の不足により、
子どもの安全、
健康又は精神を明らかに危険にさらしている」
ときである
(378 条の 1、
1 項)。ただし、子どもの状態が危険であれば必ず取上げがなされるというわけではなく、子どもに利
益があると認められる場合に限ってなされるということである。この要件に該当するのは、す
ぐにでも子どもが死んでしまうような急迫の危険が存するときであり、具体的な適用例として
は、親権者がその子を殴打する、監禁する、売春させる等の場合が挙げられ、多くはニュース
になるような酷い事例であるという30。
民事判決による取上げがなされうる第二の場合は、育成扶助の措置がとられている子どもに
ついて、その父母が、保持している親権、通信ならびに訪問の権利(375 条の 7)を行使する
こと及び義務を履行することを2年以上故意に怠ったときである(378 条の 1、2 項)。
2 全部取上げの効果
親権の取上げの効果は、
「親権に結合した財産上ならびに身上の全ての属性に当然に及ぶ」
(379 条 1 項)とされ、取上げによって、親権とともに、養子同意の権限、婚姻同意の権限、
民法 1384 条所定の不法行為責任が失われる。扶養の面では、子が親権者に対して負う扶養義
務はなくなるが(379 条 2 項)
、親から子に対する扶養義務及び養育費用支払義務(203 条)は
存続する。相続関係は取上げによって影響を受けない31。
親権の取上げが言い渡されたときには、判決に反対の定めがない限り、対象となっている子
どもに未成年の兄弟姉妹があれば、それらの子と親権者との関係にも親権の取上げの効果が及
ぶ。
親権が取り上げられた後の子どもの処遇については、他方の親が親権の行使を失っていなけ
れば、原則として32、当該他方の親が子どもに対する親権を単独で行使することになる。他方
の親が死亡し又は親権の行使を失っているときには、裁判所は、対象となった子どもを、親族30親権の取上げがなされた悲惨な事例の一例として、
飲酒依存状態の親が冬季に子を連れて飲酒を続けてい
たところ、
子が冷たい飲み物の中に繰り返し手を入れて遊んでいるうちに指1本を失ってしまった事件があ
るという(現地調査での Cicile-Delfosse 教授との面談において紹介された事例である)。31
なお、親権を取り上げられた父母が子どもとの交流又は訪問の権利を有するかについては規定がない(育
成扶助では、父母が通信及び訪問の権利を有することが明文で定められている(375 条の 7、2 項))。現実
には親権を取り上げられた父母が交流又は訪問の権利を与えられることはほとんどないだろうが、
純粋論理
的には、そのような父母が交流又は訪問の権利を持つことがあり得ないとまでは解されていないという。交
流又は訪問の権利は親権自体とは区別される権利であると位置づけられており、
親権の有無とはかかわりな
くなく、それらの権利が与えられるべきか否かが裁判所によって判断されるからである(現地調査での
Cicile-Delfosse 教授の指摘による)。32
親権を取り上げられた親の他方の親が親権の行使を有する場合であっても、裁判所は、他方の親が死亡し
又は親権の行使を失っている場合と同様の内容の決定をすることができる(380 条 2 項)。15
等の第三者に仮に委ねてその者に後見の申立をさせるか、県の児童社会扶助機関に委ねなけれ
ばならない(380 条、1 項)
。子どもが児童社会扶助機関に委ねられると、当該子どもは国家の
被後見子とされ(家族社会事業法 L224 条の 4、4 項)
、多くの場合には養子となる(347 条2号)。
3 権利回復の請求
親権を取り上げられた父母は、新たな状況が生じていることを証明して、剥奪された権利の
回復を求めることができる。ただし、この訴えは、親権取上げの判決が確定した後 1 年を経過
しなければ提起できず、かつ、訴えが棄却された後に再度回復の請求を行うにはさらに 1 年経
過することを要する。さらに、回復の請求は、子が養子縁組のために託置されたときには、託
置以後には受理されない(381 条、2 項)。4 一部取上げ
裁判所は、親権の全部の取上げに代えて、親権の一部分の属性に対象をしぼって取上げを言
い渡すことができる。対象となる部分は、個々の事件で裁判所が特定する。一部取上げは 1996
年の改正において期待されて導入されたが、あまり使われていない。その理由としては、一つ
には、一部取上げをすることが想定される典型的場面である現実の監護に関わる部分だけの取
上げに着目すると、実は、実質的にその部分を制限することは育成扶助でも可能であるという
ことが挙げられる。また、そもそも取上げは重大な効果を有し、手続の重さもそれに対応して
いるにもかかわらず、効果を一部にとどめるということは、裁判所にとって、中途半端で使い
難いのではないかとの指摘もある。ただし、一部取上げの活用例として、仮にそのような申立
があれば、扶養義務だけを失くすために用いるということも考えられるという。
5) 育成扶助・委譲・取上げの相互関係
児童が虐待されているときには、性的虐待等の特に深刻な事例を除いては、まずは育成扶助
が用いられる。育成扶助は、親権者に親権を維持させたまま、裁判官の継続的関与のもとに、
在宅で支援を行うか、子どもを家庭から引き離して施設等に預けつつその家庭復帰を目指すも
ので、そのような目的に合致する限度で、最低限の決定権限等が子どもを預かる者らに認めら
れている。
育成扶助措置がなされているが、家庭復帰の見込みのもとでの親権者との信頼関係が崩れた
ときには、次のような要件にしたがって、
委譲、
遺棄宣言、
取上げ等が考えられることになる。
すなわち、親の明白な無関心が続けば、裁判によって親権が子ども預かる施設、里親等に委譲
される理由となり(377 条 2 項)
、明白な無関心が1年以上継続すれば、原則として遺棄宣言が
可能となる(350 条 1 項)
。親が交流、訪問、宿泊等の育成扶助中に保持する権利を2年以上継
続的に行使しない又は義務を果たさないときには、親権の取上げの事由になる(378 条の 1、2項)。このうち、遺棄宣言又は親権の取上げの言い渡しがなされた場合には、対象となった子ど
もは、父母による同意によらずに、養子となりうることになる(347 条参照)。委譲と育成扶助を比べれば、育成扶助では未成年者が第三者等に預けられる場合であっても
親が親権を保持し、裁判官が関与して継続的に親権の行使を調整するのに対して、委譲では、16親権の行使が親から子どもを預かる者等に移転するという違いがある。委譲と取上げは、親が
親権を行使できなくなる効果を有する点では共通であるが、親の側から失われるのが親権の行
使にとどまるのか、親権自体なのかという違いがある。また、委譲は一時的な何らかの状況に
対応するために親権を移すものの状況が変われば親に親権が戻されることを想定した時限的な
ものと解されるのに対して、取上げは、権利の回復請求の制度はあるものの、一時的ではない
ことが特徴とされる。親権が取り上げられるときには、養子による親子関係の切断につながる
ことが多いというように、取上げは重大な効果を伴う最後の手段と捉えられている。手続的に
も、育成扶助は少年係裁判官の、委譲は家事事件裁判官の単独事件であるのに対して、取上げ
は大審裁判所の合議事件であるという相違がある33。
(3)裁判所の関与のあり方
親権制限を柔軟に行おうというとき、問題となるのは実体法の側面ばかりではない。特に、
日本では、家庭裁判所が何をどこまで立ち入って判断すべきかについて問題提起がなされてい
る。そこで、育成扶助の手続はどのようになっているか、育成扶助措置について裁判官は何を
どこまで判断するのかという点及び児童保護のための緊急の介入局面においてどのように裁判
所の関与が求められるのかに着目して、フランスにおける裁判所の関与のあり方を見ていく。
1) 育成扶助の裁判手続及び判断の内容
先述のとおり、育成扶助は少年係裁判官の単独事件とされる。裁判官は、育成扶助の対象と
なる子の親、及び当該子が弁識能力を備えているときには子自身を召喚し聴聞したうえで、命
令を発する(新民事訴訟法 1182 条)
。命令中には、対象となる子が 375 条 1 項に規定される育
成扶助の要件を充たす状況にあることの説明、とられる措置の内容及び期間、通信及び宿泊権
その他の事項について決定する場合にはその内容が記載される。
在宅援助措置がとられる場合には、助言及び支援を実際に遂行する委託先(当該分野のサー
ビスを専門とする個人、民間の機関、県の児童社会扶助機関等)を裁判官が定める。裁判官は
委託先となりうる専門家や機関の特性等をよく把握しており、事案に応じて適切な委託先を選
択するという。子ども及びその家族に対して、具体的にどのような助言及び支援をどのように
行うのかについては、裁判官が詳細を決める場合もあれば、細部を定めずに委託する場合もあ
る。委託先が県の児童社会扶助機関であるときには、同機関は児童社会扶助に専門性を有する
ことから詳細を定めない傾向があることが指摘されるが、地域によっても、裁判官と受託する
諸機関との関係性の内容や程度等を反映して運用に差異があるという。要するに、具体的な助
言及び支援にどの程度裁判官が立ち入るかについては、制度的には定まっておらず、裁判官の
裁量に任されているということである。
託置の場合には、裁判官が、受け入れ先となる個人、入所施設、医療施設等を特定して直接
に指定する場合もあれば、国(管轄するのは司法省の青少年保護局)
、県(同じく児童社会扶助33対象となる子が養子の対象となる点で親権の取上げと同様の効果を有する遺棄宣告を管轄するのも、
やは
り大審裁判所である。17機関)
、民間の専門機関に委託をし、その機関が具体的な受け入れ先(施設や里親等)を決める
場合もある。
育成扶助では、裁判官が、当初の命令発布だけに単発的に関わるのではなく、措置の間継続
的に関与していく。裁判官は、対象となった子ども及び家族の状況について定期的に報告を受
け、必要に応じてさらなる決定を行う。例えば、交流及び宿泊の権利の行使について定め又は
変更する、子どもを受け入れている者が重大な行為を行うことを許可する、相談支援の担当者
を変更する、入所施設を変更する等の決定である。裁判官はいわば自らが下した育成措置の決
定の効果がどのようであるかを自ら見届けるのであり、個別の判決を行う限りで事案に関わり
をもつのを原則とする通常の裁判官の働き方とは異なっている。このような育成扶助の対象と
なった子どもに対する裁判官の継続的な関わりについては、民法だけではなく、家族社会事業
法上も明らかとされている34。
以上のように、育成扶助では裁判官が個別事案の具体的な状況を考慮して、実に様々な決定
を行うわけだが、それを可能とする背景として少なくとも次の二点が指摘できる。一つは、育
成扶助の手続においては、離婚の手続等でも用いられる比較的簡単な調査である「社会調査」
に加えて、裁判所内又は外部の専門機関による
「育成指導付調査」
が可能であることである(新民事訴訟法 1183 条)
。育成指導付調査では、子ども及び両親の生い立ち、心理的精神的側面等
を含めた深い調査がなされる。なお、調査の結果は、当事者にも開示される。さらに、少年係
裁判官は、子どもの受入れ先となる施設等の情報に精通しており、また、県の児童社会扶助機
関と密接な関係を保っているのが通常であるという35。裁判官ごとの個性、相手方の機関又は
その地域の県の児童社会扶助機関の傾向等にも左右されるようであるが、裁判官と関係機関と
の連携関係の裏づけがあるということが、育成扶助制度の鍵となっているといえそうである。
なお、育成扶助の命令に対しては、不服申立が可能である(375 条の 1、1 項36)。2) 緊急の場面での育成扶助
子どもの保護のために急を要する場合については、上記のような原則的な手続とは異なる方
法で育成扶助措置をとることが認められている。裁判官又は共和国検事は、特に緊急を要する
場合には、聴聞期日を入れずに、暫定的な育成扶助措置をとることができる。裁判官による場
合にはその期間は 15 日以内とされ(新民事訴訟法 1184 条 2 項)
、検事による場合には8日以
内に少年係裁判官に申し立て、措置の継続、変更等を決定してもらわなければならない(375
条の 5)
。検事は、状況に応じて、この暫定的な措置の間の、両親の交流、訪問又は宿泊の権利
の態様及び頻度を定めることができる(375 条の 5、2 項)。34
家族社会事業法には、育成扶助措置により個人又は施設に預けられた児童の保護について、
「民法 375 条
の 3 及び 375 条の 5 の適用により個人又は施設に未成年者が預けられた場合には、未成年者は、県会議長
と少年係裁判官との共同の保護のもとに置かれる」と規定されている(L227 条の 2)。35
Salvary 家事事件裁判官との面談調査によれば、両親の離婚等の際に子どもを第三者に預ける判断は家事
事件裁判官も行うことができるが、
家事事件裁判官は子どもの預け先となりうる施設その他の第三者の情報
に通じていないことが多いため、そのような必要があれば、事件を少年係裁判官による育成扶助措置に回す
のが通常であるとのことであった。36親、未成年者自身だけでなく、祖父母や伯父等の利害関係人からの不服申立も認められる。18このほかに、行政が、裁判官又は検事の関与なしに、親権者の同意を得ずに、緊急に児童を
保護する方法もある。この場合に、行政は、共和国検事に措置をとったことを通知しなければ
ならず、さらに、行政による保護措置に対して 5 日以内に親権者他の同意権者の同意が得られ
ないときには、上記の 375 条の 5 の適用のために、司法当局に申立をしなければならない(家
族社会事業法 L223 条の 2、2 項、5 項)。(4)親権者がいない未成年者の公的主体による保護
親権者の死亡又は親権者が親権を取り上げられたことにより、親権者を有しない未成年者に
ついて、日本の未成年後見制度のような、私人が親権者の代替機能を果たす方式によることな
く、公的主体の責任において、親権者に代わって子どもの利益を確保する方法がありうる。フ
ランス法には、次のような二種類の対応方法が存在する37。
まず、
「国の被後見子」の制度である。国の被後見子とは、裁判所の関与なしに38、行政によ
ってなされる「後見」である。養子の前提をなす措置であり、国の被後見子については、遅滞
なく養子の計画が立てられなければならず、養子が妥当でないと判断される場合にはその理由
が明らかにされなければならないとされる(家族社会事業法 L225 条の 1)
。知事が後見人とな
り、
実際には知事は後見を健康社会事業機関の長に委託する。
民法に規定される後見と異なり、
後見裁判官及び後見監督は関係しない(同法 L224 条の 1、1 項)
。家族会は設けられ、民法上
の一般の後見法で家族会に付与されるのと同じ属性を与えられるが
(同法 L224 条の 1、
2 項)、国の被後見子の家族会は、知事、上記の長の指名する者らで構成される行政的な色彩の強い組
織である(同法 L224 条の 2)
。未成年者が国の被後見子となるのは、親権の取上げの判決が言
い渡されたとき、遺棄宣言がなされたときの他に、子どもが生まれながらに親を持たない又は
子どもの親が知れないとき、親が知られているが養子への同意権を有する親がその子を国の被
後見子とするために児童社会扶助機関に預けて 2 ヶ月が経過したとき等である(同法 L224 条
の 4)。国の被後見子と区別されるものとして、国による未成年後見がある(411 条)39。すなわち、
後見が引き続き空席である場合には、後見裁判官40は、それを児童社会扶助機関を有する公共
団体である県に付託する。県は、さらに後見裁判官が定めるところに従って、後見を行う者と
して、公証人、子どもが入所する教育等の公的施設、もしくは資格を有する個人又は団体を指
名する。指名された者は、身上及び財産に関して国の名において後見を行う(1974 年 11 月 6
日のデクレ 2 条)。国による後見では、通常の後見のような家族会及び後見監督が構成される
ことはなく(411 条 2 項及び同デクレ 3 条)、指名された者は、財産に対しては、司法監督に37本文の以下の説明は、Terré et Fenouillet,n 1132 に依拠している。38ただし、国の被後見子の措置に対しては、大審裁判所への不服申立が認められる(家族社会事業法 L224
条の 8)。39
国による後見は民法上の後見法中の一般的な制度であって、対象とされるのは未成年者に限られない。401964 年に設けられた後見の監督を任務とする専門の裁判官である。19服する法的管理者の権限をもつ(同デクレ 4 条)41。
(5)現行法制の問題点
行政保護と司法保護とをそれぞれどのように意義づけ、両者の機能分担をどのように考える
のかについては、なお評価が分かれているように見受けられる。
2007 年の改正では、行政保護を優先し、司法保護が真に必要とされる事例においてのみ用い
られるようにする方向が目指された。これに対しては、特に深刻ではない事例が直接に裁判所
に持ち込まれるのではなく、一度は合意に基づく行政的な保護が試みられるようになる点で、
積極的に評価できるとする見解がある一方で、実体的にも手続的にも当事者の権利保障が確保
されている司法判断の意義を重視する立場からは、必ずしも高い評価がなされていない。
背景には、
より一般的に、
司法判断の有する意味に対する評価の違いがあるように思われる。
現地調査では、まず、弁護士から、親権の神聖性に対する介入としての司法判断の重要性が説
かれ、上記改正の示す方向に対する懸念が表明された42。また、法学者からは、育成扶助措置
中に行政機関が重大な行為にわたる事項を裁判所の許可を得ずに行ってしまっている「違法状
態」が常態となっていること、育成扶助措置が途中での司法判断を経ることなく長期にわたっ
て継続しがちであることに対して批判がなされた43。これに対して、育成扶助措置の実務を担
当する児童社会扶助機関又は具体的な援助を担当するソーシャルワーカーの間では、これらの
問題意識は必ずしも共有されていないように思われた44。行政保護と司法保護との関係につい
ては、財政上の問題の影響も無視できず、今後も制度の改善の模索が続くものと予想される。
司法保護の内容に関しては、育成扶助が中心的に用いられている現状に対して、法学者から
強い懸念が示された。育成扶助は親権の取上げに比べて効果が強力でないため、裁判官も使い
やすいであろうが、家庭復帰が見込めない事例を中途半端に育成扶助措置として継続し、子ど
もをどっちつかずの状態に留めておくことは妥当ではなく、より積極的に親権の取上げがなさ
れるべきであるというのである45。
3.イギリス
(1)制度の概要
イギリス法における日本の親権に対応する概念は「親責任」である。親責任については、主
に 1989 年児童法に定められている。同法は、児童に関する包括的な立法で、それまで個々に41このような二種類の国が関わる後見の相互関係については、
国の被後見子となった子に対して一般の未成
年後見が開始することはないと考えられるものの(390 条)
、そもそもどのような場合にどちらの後見が適
用されるのかについては、調査が及ばなかった。42現地調査での Attias 弁護士との面談調査による。43現地調査での Cicile-Delfosse 教授との面談調査による。44本文で述べたところは、あくまでも現地調査での Val-de-Marne 県での面談調査から受けた印象というこ
とである。45現地調査での Cicile-Delfosse 教授との面談調査による。20発展してきた様々な法を承継し、親と子の権利義務関係に関わる私法面と児童の保護のための
国家の関与に関わる公法的側面とを統合するものである46。
1) 親責任の性質と内容
1989 年児童法は、従前に用いられていた「親の権利や義務」という用語に代えて、「親責任
(parental responsibility)」という新しい概念を導入した47。同法 3 条 1 項は、「この法律で
「親責任」とは子の親がその子及びその財産との関係で法に基づいて持つ全ての権利、義務、
責任及び権限を意味する」と規定する。この新概念を基礎づける理念の第一は、親が有するの
は権利ではなく責任であるという考え方であり、
子どもの権利の重視を背景とするといわれる。
さらに、親責任概念は、子どもを育てる第一の責任は親にあるのであって、国家ではないとい
う理念に支えられている。
親責任はどのような具体的な内容を有するのかについては、児童法では明らかにされておら
ず、制定法や個々の判例によって導かれるべきものとされている。親責任の具体的内容を定め
ない理由は、一方で、親責任とは何であり、何であるべきかを述べることを控えることで家族
のプライバシーを尊重するためであるといわれるが、他方で、そもそも親の義務の内容は様々
な必要性や状況に合わせるべく変化し、子の成熟性に応じて多様でなければならないため、立
法的に列挙することは不可能だというのが立法者たる法律委員会の立場であった。もっとも、
学説は親責任を基礎にしてどのような法的請求が可能なのかを明らかとするために親責任の内
容の具体化を試みている48。
まず、親責任に含まれる権利として、一般的に次のような事項が列挙される。子を物理的に
「占有」すること、子どもの養育についてコントロール又は指示をすること、教育をコントロ
ールすること、しつけ49、宗教の選択、財産の管理、司法手続きにおいて子を代表すること、
医療措置に同意すること、婚姻又はシビルパートナーシップに同意すること50、子と交流する
こと、名前の選択である。その他に、契約を結ぶ、子の他国への移民を禁ずる、パスポートの
発給を認める又は拒否する等の権利を有し、子の遺産を管理する権利と共に葬儀を執り行う義
務を有するとされる。
次に、親責任には、子どもをケアする義務が含まれるとされる。子どもの健康の発展を確保
し、その福祉を保護し促進する義務である。親はこの義務を怠って子どもを害せば、後述のケ
ア命令を受けることになるほか、
不法行為責任も免れない。
さらに、
子が罪を犯した場合には、46後掲の[英国保健省・林 1995]には、1989 年児童法の条文訳が掲載されている。ただし、同法はその後に
何回か改正されていることに注意を要する。47この新しい概念の導入は、
スコットランドやオーストラリアにも影響を与えたが、
スコットランドの 1995
年児童法は、
親責任の内容及び子どもの年齢が上がるにつれて親責任の範囲が縮減することを具体的に定め
ている等の点で、イングランド・ウェールズの 1989 年児童法よりも優れているとも評される。48後掲 Masson et al.,n17-013-n17-028.49しつけについては、
欧州人権条約を背景として、
体罰を禁止又は制限する立法に向けて論議が続いており、
2004 年の児童法改正では一定の成果が見られたが、親責任にしつけが含まれること自体は否定されていな
い(詳しくは、後掲 Lowe&Douglas,pp.384-387)。50婚姻への同意権は、制定法に根拠を有するが(1989 年児童法附則 12 条、5 項で改正を受けた Marriage
Act1949
附則 2)、裁判所は親が拒否をした場合であってもそれを覆すことができるとされる。21原則として、子の裁判手続きに参加する、罰金を払う等の責任を負う51。
2) 1989 年児童法上の親責任に関する規定の概要52
児童法の関係する部分の構成としては、第2編が主に私人間の権利義務関係に関わり、第 3
編から第5編までが子どもの保護のために国家が関与する公法的側面に関わる。ただし、第2
編の8条に定められた裁判所命令(以下では「8条命令」という)は、公的機関が児童を保護
しようとする場合にも発動されうるものであり53、私人間の関係に限られないより一般的な性
格を有する。以下では、編別の順にその内容を概観する。
第1編には子どもの養育や財産に関して裁判所が判断を行う場合の諸原則が定められている。
子の福祉が最重要の指導原理として考慮されるべきこと(1 条 1 項)
、手続の遅れは子の福祉を
害するということ、裁判所の命令はそれをするのが子にとって望ましいときにのみされるべき
こと(1 条 5 項)という原則である。さらに、1条3項には8条命令や公的機関による児童保
護のための命令を審理する際に考慮すべき要素が具体的に記されており(子どもの福祉リスト
と称される)
、その第一として、子どもの年齢及び理解力に応じて、子どもの希望及び感情を考
慮することが挙げられている。
第2編の中心をなす8条は、裁判所が家族に関わる様々な紛争の処理のなかで、子どもに関
する居所、交流その他の事柄について命令できる権限を規定している。私人間での紛争の場合
と共に、公的機関が子どものケアに関与するときにも機能しうる重要な命令類型である。8条
命令は次の4種からなる。交流命令は、子どもとの接触交流を図ること及びその仕方を命令す
るものである。禁止命令は、親が親責任を果たすために遂行する事柄のうち特定の種類の事項
について、裁判所の同意なくしては誰も行うことができないとする命令で、裁判所が親責任の
行使の一部を実質的に制限するものである。居所命令は、子どもが誰と住むかを定めるもので
ある。特定事項命令は、親責任の種々の側面に関して、実際に起きている又は起きそうな特定
の問題を解決するために具体的な指示を与える命令であり、例えば、教育の態様、医療措置、
海外への連れ出し、姓の変更等が命令の対象となる。
第3編から第5編までは、子どもの保護のために公的措置がとられる場合に関わる。第3編
は、親責任を有する者からの同意を得て児童保護措置がとられる場合を扱っている54。これに
対して、第4編と第5編は同意によらずに、強制的に措置がとられる場合を定めているため、
特に、親責任との関係が問題となる。第4編は裁判所の命令によって、地方当局が子どもを保
護する手続を定める。重要なのは 31 条であり、同条には、児童を地方当局が受け入れて里親委
託、施設入所等の方法で保護するケア命令と、地方当局が児童を指導、監督するスーパービジ
ョン命令とが規定されている(両者を合わせて「31 条命令」といわれる)
。ケア命令により児51親責任の具体的な内容として「扶養」が挙げられるのが一般的であるが、扶養の義務は親責任の有無と対
応しないと解されているため、本文では親権の内容として掲げることはしていない。
52以下では、1989 年児童法からの条文の引用は、原則として条数のみによる。531989 年児童法 31 条は、
公的機関からケア命令やスーパービジョン命令の申立を受けた裁判所はそれらに
代わって 8 条命令を下すこともできると規定する。54第 3 編のうち、
行政が親権者の同意を得て児童を里親委託、
施設入所等の方法で保護する根拠となる条文
が 20 条である。22童が地方当局に受け入れられる場合には、命令で定められた地方当局が親責任を取得する。親
が有する親責任と併存することになるため、関係を調整する条文が用意されている(後述)
。31
条命令は暫定的に命じることも可能である(38 条)
。第5編には、より緊急性が高い場合にと
られる手段として、子どもを緊急に一時的に保護するための緊急保護命令(44 条)
、ポリース・
プロテクション(46 条)等が定められている。
3)諸制度の利用状況
上記のような様々な命令が、児童保護のための国家介入がなされる場面において、どの程度
利用されているかを示したのが下の表である。緊急保護命令を除けば、31条命令が主たる位
置を占め、なかでも、ケア命令が最も中心的な手段とされている。8条命令のうち、居所命令
も割合が高い。なお、先にも触れたとおり、31条命令の申立を受けた裁判所は、31条命令
に代えて8条命令を発布することもできる55。
【ケア命令等の公法事件56の件数(2005 年)】申立て 取下げ 棄却 命令なし 認容
ケア命令 13,498 307 15 250 7,051
ケア命令の取消し 1,508 175 33 26 826
緊急保護命令 2,736 339 58 32 2,261
スーパービジョン命令 897 52 0 10 2,641
スーパービジョン命令の取消 53 10 1 0 49
8条命令(居所命令) 1,214 79 14 4 2,580
8条命令(交流命令) 1,020 78 20 39 1,562
8条命令(禁止命令) 51 5 0 0 219
8条命令(特定事項命令) 163 12 4 0 145
(Judicial Statistics 2005 から抜粋)
注)上記の表中の「命令なし」とは、根拠事実は裏づけられたが、命令を下さない方が子どもの
福祉に適うと判断される場合(1 条 5 項)の対応をいう。
(2)親責任の制限又は調整
次に、児童虐待が行われる等を理由として親責任の行使が制限され又はその行使が何らかの
調整に服する場合に着目して、より詳細にイギリス法の状況を見ていく。個々の命令等がなさ
れる場合に親の責任がどうなるのかが問題となるが、それらを扱う前に、親責任を誰が有し、
一般的にその行使についてどのようなルールが定められているかを扱っておきたい。親責任を
有する者は、一般的に、その対象となる児童に対して下された命令と両立しない態様で行動す
る権利を有しないことが条文上明示されている。そのうえで、各命令について、誰が親責任を
有するか、複数の者が親責任を有するときにその相互関係はどうなるかについて個別に定めら
れている。55表中で、8 条命令の認容件数がその申立件数よりも多い場合があるのは本文に掲げた理由によると考えら
れる。しかし、そもそも公法事件で 8 条命令が申し立てられるのはどのような場合なのかについては、調査
が及ばなかった。56地方当局からの申立を中心とする事件が公法事件に分類される。231)親責任の行使に関する総則的規定
まず、父母又はそれ以外の私人が親責任を持つのは次のような場合である。子の出生時に婚
姻している父母は、それぞれ親責任を持つ(2 条 1 項)
。父母が婚姻していないときには、母は
当然に親責任を有するが、父は、裁判所の命令、母との文書による合意又は母と共に出生登録
を行うことによって、親責任を取得することができる(2 条 2 項、4 条 1 項)
。親責任を持つこ
とができる私人は、子の父母に限られない。子の親の片方と再婚をした相手方(いわゆる継親)
は、当該子の両方の親から同意を得て親責任を取得することができ、同意が得られないときに
は裁判所の命令を求めることができる(4A条57)
。また、一般的に、親でない私人は居所命令
を得れば、命令の継続する間、親責任を有する。居所命令による親責任の取得は、ケア命令と
共通する場面で問題となりうるものであるため、次項以降で改めて扱う。なお、父母以外の者
が親責任を取得しても、父母が親責任を失うわけではない。親責任を有する者は、後に他の者
が親責任を有することとなっても、それだけで親責任を失うことはないとされているからであ
る(2 条 6 項)。親責任の行使方法は次のように定められている。まず、一人の子どもについて複数の者が親
責任を有するときには、共同での行使は要求されず、それぞれが単独で親責任を果たすために
行動できるのが原則である。ただし、制定法によって、一定の行為類型について他の親責任を
有する者の同意を得て行為をなすべきことが規定されることがある(2 条 7 項)
。このように、
親責任を有する者(以下では「親責任者」ということもある)は誰でも単独でそれを行使でき
るのが条文に定められた原則であるが、この原則は判例による修正を受けている。判例は、学
校の選択、
姓の変更、
割礼、
予防接種といった長期的な影響をもたらす重要な決定を行うには、
他の親責任者に相談する必要があるとする。例えば、子どもと同居している親責任者が、他の
親責任者の意向を確かめることなく、単独で当該子どもの学校を決めることは許されない。
親責任者の行動は、1989 年児童法に基づく裁判所の命令によって制約を受けることも、明示
的に定められている。親責任者は、
「当該児童に対してなされた命令と両立しない仕方で行動す
る権利はない」
(2 条 8 項)
。例えば、親の一方が居所命令を得てその子と同居している場合に
は、他方の親は、子どもを、居所命令を得ている親の住居から通っている学校で認められない
ような髪型にさせることはできないが、週末にスポーツに連れ出すことは(命令と両立するの
で)行ってよいといった具合である。
フランスと同じように、日本にない規定として、子どもを現に預かっている者が一定範囲の
行為を行うことができる旨の条文がある。親責任を有しないが子どもを現に世話している者に
は、子どもの福祉を保護し促進するために、状況に応じて相当の行為を行うことが許される(3
条 5 項)。児童の日々の世話に必要な最低限の権限を与えたものである。
児童虐待との関係では、
親権者からの同意を得て地方当局が児童を保護し、里親に委託した場合に、里親の権限の根拠572002 年の養子及び児童法によって挿入された規定である。片親と継親とが婚姻していないときには、継
親が当該親と共に居所命令を申し立てることによって、親責任を得ることができる。24となる規定として重要である58。相当の行為であるか否かは、求められている行為の緊急性及
び重大性、ならびに親責任者に相談することがどの程度実際的かに応じて個々に判断される。
例えば、事故で負傷したときの医療処置への同意は日々の世話に直接関わる事項なので「相当
の行為」に含まれるが、選択の余地のある大きな手術への同意は含まれない。居所を変更して
子どもをイングランド及びウェールズ外の地域へ連れ出すこと、パスポートの取得、姓の変更
等も行うことは許されない。
2)ケア命令
ケア命令は、同意を基礎とする行政的な保護措置では限界があるときに、地方当局が裁判所
に申立てをし、強制的に保護措置を行うものである。命令がなされると、対象となった児童は
申し立てをした地方当局の責任のもとに置かれ、多くは家庭から分離されて里親に委託される
又は施設に入所することになる59。
ケア命令は、国家による家庭への強制介入であると位置づけられ、その要件は厳格かつ詳細
に定められている。
「児童が重大な危害を現に被っているか、又は被りそうであ」ることが要件
とされるが、その状態が、命令がなされなければ与えられるものと想定されるケアが、当該児
童に対して親が与えるよう合理的に期待されるようなケアには当たらないこと、又は当該児童
がその親のコントロールを超えていることに起因するものであることが求められる
(31 条 2 項)。この要件に含まれている個々の語の解釈もまた条文に定められている。
「危害」とは、不当な扱
い、もしくは健康又は発達の侵害を、
「発達」とは、身体的、知的、情緒的、社会的又は行動的
発達を、
「健康」とは、身体的又は精神的健康を意味し、
「不当な扱い」とは、性的虐待及び身
体的でない種類の不当な扱いを含むとされる(31 条 9 項)
。危害が「重大」であるか否かが子
の健康又は発達によって判断されるときには、その健康又は発達は、同様の子に対して合理的
に期待されるようなものと比較されるものとされる(31 条 10 項)。ケア命令の要件は、
親の側の意図又は行為ではなく子の側の状態が基準とされており、
また、
合理的に期待される客観的な水準を問うことによって、親によって与えられるケアや子どもの
健康、発達の程度について、道徳的又は恣意的な判断がなされないように定められている。
ケア命令がなされると、対象児童を受け入れた地方当局に親責任が付与され、地方当局と親
とが共に親責任者となる(33 条 3 項 a 号)
。親の有する親責任は維持されるため(前掲 2 条 6項)、子どもが地方当局のケアのもとにあっても、親はなお子どもの福祉を保護促進するために
その状況において合理的なことをなす権限を保持し(33 条 5 項)
、その財産に対する制定法下
のその他の親の権利、義務、権限、責任を維持する(33 条 9 項)
。例えば、教育や医療措置に
ついて決定することが考えられる。他方で、ケア命令の間は、地方当局は、子の福祉を保護し
促進するために必要な限りで、親が親責任を行使する範囲を決定できるが(33 条 3 項)
、宗教
の変更、養子への同意、姓の変更、国外への連れ出し、後見人の選任をする権限はないとされ58例えば、同意に基づく行政的保護によって里親に預けられている児童を酒に酔った親が深夜に引き取ろ
うとしても里親がそれを拒めるのは、現に世話をする者の権限に関する本文に挙げた条文による。59ケア命令によって地方当局に受け入れられた児童の措置としては里親委託が中心を占める。25る(33 条 6 項、7 項)
。これらの規定からは、具体的に、どのように地方当局と親の親責任の
行使が調整されるのかは理解しがたい。しかし、地方当局が親責任の行使についてコントロー
ルできるということであり、明文上の例外事項を除けば、地方当局が親責任者としての権限を
全面的に単独で行使することも可能であると考えられる。逆に、それだけの重大な介入である
ことを前提として「重大な危害」という厳格な要件が設定されているのである。面会について
は、別に、その重要性を反映した定めが置かれている。地方当局は、ケアに付された児童とそ
の親との面会を許すのが原則であり、拒む場合には裁判所へ申立をする必要がある。緊急の場
合で子の福祉のために必要なときには裁判所の許可を得ずに面会の拒否ができるが、それが許
される期間は 7 日以内に限られる(34 条)。ケア命令は原則として対象児童が 18 歳に至るまで継続する(91 条 12 項)
。ただし、何者か
が居所命令を得た場合、養子又は養子のための託置命令がなされたときには、終了する(91 条
1 項及び 2002 年養子及び児童法 39 条 1 項、46 条 2 項 b 号)。3)スーパービジョン命令
ケア命令と同様に地方当局の申立に応じてなされる裁判所命令であり、監督者(地方当局又
は保護観察官)が、児童に対して、助言及び援助を行なうことを内容とするものである(35
条 1 項 a 号)
。要件は、ケア命令と同じである。
スーパービジョン命令がなされても、
地方当局及び監督者に親責任が与えられることはない。
しかし、親責任者は 1989 年児童法に基づく命令と両立しない仕方で行動する権利はないため
(前掲 2 条 8 項)
、監督者が行う助言及び指導を妨げることはできない。監督者は、助言及び指
導として、児童に対して住む場所の指定や活動への参加を指示できる(附則 3、2 項)
。親責任
者は、監督者に求められたときには子の住所を監督者に知らせなければならず、監督者による
児童の訪問を許さなければならない
(附則 3 条 8 項 2 号)。これに反して親責任者が監督者の訪
問を拒むときには、監督者は住居に立ち入って児童を探すための令状を申し立て、警察の援助
を受けることができる(102 条 6 項 b 号)。スーパービジョン命令には、監督者が、対象児童の親責任者に対して、児童に対する指導へ
の協力や親責任者自身の一定の活動への参加を要求できる旨を定めることができるが、これら
の要求を命令に含めるためには、
対象となる親責任者の同意が必要とされる
(附則 3 条、
3 項)。スーパービジョン命令は短期間であることが予定されており、原則として1年間又はそれよ
り短い期間で発令され、延長される場合であっても、最長で当初の命令の開始時点から3年間
に限られる(附則 3 条 6 項)。4)緊急介入の場合
1 緊急保護命令(44〜45 条)
緊急に申立人が用意した収容場所へ児童を移動すること又は児童の現所在場所(例えば病院
等)からの引き離しを防止することを目的としてとられる、短期間の措置である。これらの対
応をしなければ、子どもが重大な危害を受けることが見込まれると信じるべき相当の理由があ
ることが要件とされる。申立により裁判所が命令する。申立人は、ほとんどの場合、地方当局26である。命令によって申立人に親責任が与えられるが、その親責任は命令の目的と期間に応じ
た限定的な範囲でのみ行使されるべきものとされる。
期間は、命令で定められる最長8日の期間で、最長7日間の延長が 1 回だけ認められる。
親責任者等は、
これに対して取り消しの申立ができるが、
命令発布から 72 時間経過以降であ
ることを要し、また、命令発布の手続において弁論期日の通知を受けた又は弁論期日に出席し
た者はこの申立権を有しない。
2 ポリース・プロテクション(46 条)
裁判所の関与なく警察官がとる緊急の児童の保護手段であり、期間は 72 時間である60。目的
(安全な場所への移動又は安全な場所からの引き離しの防止)及び要件は緊急保護命令と同じ
である。ポリース・プロテクションが用いられるのは、一般的に、家出、シンナー遊び、棄児
の場合等である。時には、家庭紛争に立ち会った官吏が不衛生な環境にいる児童を見つけて行
うこともある。捜索する権限は伴っておらず、児童を現認したときに保護できるにとどまる。
この手段をとった警察官は、親責任を与えられることはないが、特にこの方法で子どもが保
護される期間の長さに鑑みて、子どもの福祉を保護し促進するために、状況に応じた相当な行
為を行うことができる(46 条 9 項b号)
。児童を連れ去る親の権限は一時的に停止される。単
期間の時限的措置なので、子どもの連れ去りを防ぐこと以上に、親の権限と矛盾するような行
為が行われることは想定されていないとのことである。ポリース・プロテクションがなされた
ときには、親に通知がされるのはもちろんであるが、同時に、地方当局にも通知がなされ、当
該地方当局が必要に応じてケア命令の申立等を行うことになる。
5)8条命令
離婚後の両親間の争いなど親責任の行使に関わる私人間の紛争を解決するために裁判所が判
断をする基本となる命令であるが、地方当局からの申立を主とする公法事件でも用いられる。
ケア命令との関係で重要なのは、地方当局からのケア命令の申立に対して、裁判所が、対象児
童を地方当局のケアに付するのではなく、親族等の第三者を指定して居所命令を発する場合で
ある。その場合には、児童は当該第三者と同居することになり、その者に親責任が与えられる
(12 条 2 項)
。ただし、養子への同意権、後見人の指名権はない(12 条 3 項)
。また、居所命
令が効力を有する間は、誰であっても、親責任者全ての同意又は裁判所の許可なくして、子ど
もの姓を変えること及び子どもを連合王国の外に連れ出すことはできない(13 条 1 項)
。親と
居所命令を得て子どもと同居する者のどちらも、他方の同意を得ずにこれらの行為を行うこと
ができないということになる。
6)命令相互の関係について
以上に説明してきた命令等の相互関係については、
各命令等の説明のなかでも少し触れたが、
ここにまとめておきたい。
なお、
31条命令の暫定的命令についても合わせてここで説明する。
緊急保護命令は、児童の安全な場所への移動又は安全な場所からの引き離しを目的とする、601989 年児童法の前には8日間まで認められていたのが短縮されたものである。27あくまでも短期間の措置であり、必要があればその間にケア命令の申立がなされることが予定
されている。児童の家庭からの引き離し等は、裁判所の関与による緊急保護命令によってなさ
れるべきであり、緊急保護命令の取得が現実的でない場合を除いてポリース・プロテクション
は用いられるべきではないとされる(判例)
。したがって、緊急保護命令が既に出されていると
きには、警察官は、差し迫った必要がなければ、ポリース・プロテクションの権限を行使して
はならない61。
31条命令と8条命令とは適用場面が競合する。
裁判所は、
31条命令の申立手続において、
適当と認めるときには、職権により、8条命令を行うことができる。31条命令自体に代えて
8条命令を行うことが考えられるが、
他にも、
31条命令の審理手続中の暫定的な処置として、
次回期日までの期間について、居所命令を出して対象児童を親戚のもとに預け、同時に親との
面会等を交流命令、禁止命令又は暫定的スーパービジョン命令でコントロールする等の用いら
れ方もありうる(38 条 3 項参照)。31条命令は暫定的な命令として行うこともできる。ケア命令又はスーパービジョン命令が
申し立てられたが審理が延期されている場合、又は、31条命令の審理手続において命令の必
要性を判断するために児童の状況等の調査の指示
(37 条 1 項)
がなされるときに利用される(38条 1 項)
。31条命令のための要件(31 条 2 項)を充たす状況にあると考える「合理的根拠」
がある場合に限って行うことができる。期間は、最長で8週間である。暫定的な命令が継続し
ている間に、同意に基づく援助サービスが奏効し、児童の家庭復帰が実現し、本命令には進ま
ずに済むことも多いという。
(3)裁判所の関与のあり方
以下では、裁判所の関与の程度が問題とされ、又はその関与の仕方に特徴がある三つ側面に
着目して、裁判所が児童の保護にどこまでどのように関与するのかを紹介する。
1)緊急保護の手続
上記のとおり、児童を緊急に保護する場合であっても裁判所の関与によることが重視されて
おり、緊急保護命令の利用が原則だとされている。緊急保護命令の手続は、次のように相対的
に簡易なものとされている。管轄するのは治安判事裁判所であり、単独裁判官での審理も可能
である。場合によっては、裁判所書記官の判断により、相手方たる対象児童の親等に対して通
知をせずに審理及び決定を行うこともできる。ただし、先述のとおり、通知を受けず、弁論期
日に出席しなかった場合には、親等は命令発布から72時間経過以降は緊急保護命令に対して
取消しの申立ができる。緊急保護の要件を充たすことの証明は、厳密な証拠則には支配されな
いものの、申立人は、要件を充たすことを示す具体的な根拠を提出しなければならない。多く
の場合には、申立人たる地方当局において当該家族を担当し家族に直接的に接しているソーシ61もっとも、近時の実証的研究(Masson, JM. 'Emergency Intervention to Protect Children: Using and
Avoiding Legal Controls', Child & Family Law Quarterly, (pp. 75-96), 2005)では、ロンドンのある地域
での緊急保護命令の申立とポリース・プロテクションの件数がそれぞれ 3,333 件、
4,500 件
(2002 年の実績)
であったことが紹介され、
緊急保護場面での裁判所の関与を実効化するには、
なお課題があるとされている。28ャルワーカーからの報告が用いられる。裁判所は、具体的な理由を付して決定を行わなければ
ならない(判例)。2)ケア命令における裁判所と地方当局との関係
まず、31条命令は家庭に対する強制的な国家介入の場面であるため、裁判所の関与を要す
ることは当然の前提とされ、先述の「重大な危害」の要件の存否が裁判所によって判断される
ことになる62。ケア命令の審理手続には、民事の証拠則が適用され、申立者が証明の責任を負
う。
ケア命令の審理手続においては、対象児童に与えられるべきケアの内容も考慮されるが、裁
判所は、交流権に関わる問題を除いて、ケアの具体的な態様について定める権限を持たない。
ケアの内容は、地方当局がケアプランと称する文書を裁判所に提出することによって示し、裁
判所は、当該プランを審査したうえで、命令をするか棄却するかのどちらかを判断する。裁判
所がケアプランの内容を訂正することはできない。ただし、裁判所は、ケア命令の代わりに居
所命令を下し、例えば母子共に一定の施設に入る等の一定の条件を付すことによって、ケアプ
ランと異なる態様での児童の保護を図ることは可能である。このように、裁判所がケアに付さ
れる児童の具体的なケアの態様について判断を行わないことは、非常に重視されている原則で
ある。その背後には、児童の具体的な日々のケアに専門性を持つのは裁判所ではなくむしろ地
方当局であるという考え方がある。さらに、ケア命令が下された後に、裁判所がケアプランの
履行について監督を行うことも認められていない。
3)高等法院の固有裁判権
高等法院は、国親思想に基づく権限として、広く子どもに利害関係を持つ者からの申立によ
り、
又は職権によって、
子どもの利益のために、
子どもに関わる事項を決定することができる。
歴史的に形成されてきた権限であるが、
1989 年児童法では一定の整理を施されて 100 条に規定
された。
この権限を根拠として、伝統的に、高等法院は子どもに対する医療措置への親による同意不
同意を覆えす決定をすることができると解されている。これまでに判断の対象となった事項と
しては、MMR ワクチン接種、血液輸血、不妊処置、生命に関わる疼痛緩和処置等があり、申
立の経緯としては、地方当局の教育心理士が不妊措置を回避するために申し立てる例、児童自
身が申し立てる例等がある。判断基準は、特定の医療行為に対する親の同意又は不同意が理由
のあるものであるかどうかではなく、子どもの最善の利益は何かである。もっとも、限界例で
はその適用には困難があることが指摘されている63。62重大な危害の要件を充たす場合にのみ、かつ裁判所の命令によって、国家介入が許されることは、不介入
の哲学によって支えられる 1989 年児童法を貫く根本原則だとされている(後掲 Lowe & Douglas,p.697)。63
例えば、余命 2 年強と予想された生後 18 ヶ月の子に、結果の見込みが良好である肝臓移植の大手術をす
るか否かについて、その親が、当該子が既に大きな手術を一度しており、さらに手術をするよりは、短くと
も苦痛の少ない人生を送らせることを望んで拒否したのを尊重した裁判例があり、
評価が分かれているとい
う。29(4)親責任者がいない未成年者の公的主体による保護
まず、確認しなければならないのは、イギリスにおいては、親責任を喪失させる制度が存在
しないため、親責任者が死亡した場合を除いて、親責任者又はその行使者がいないという状況
は生じないということである。それでは、フランスや日本において、親権の取上げ又は喪失の
後に親権者を欠くために後見が開始される場合に対応するような事態は、イギリス法において
どのように扱われているのだろうか。既に述べたとおり、ケア命令がなされるときには、親責
任者は親責任を保持しつつもその大部分を実質的には行使できなくなるが、その場合には、親
責任の行使の補完はケア命令を申し立てた地方当局が行うことが制度的に予定されている。も
はや親責任者に親責任を保持させることが不当であると地方当局が判断するに至ったときにど
うなるのかは問題であるが、その段階に至れば、子どもを養子にすること、すなわち、子ども
に新たな親責任者を与えることが想定されているものと考えられる。したがって、生存してい
る父母が実質的には親責任を行使せず、代わって公的主体が親責任に含まれる権利義務及び責
任のほとんどを行うという態様は、イギリスではケア命令の形で実現されているということが
できる。
父母が死亡したために親責任者がいない状況になったときには未成年後見が開始されるが、
未成年後見においては、地方当局等の公的主体が未成年後見人に就任することは認められてい
ない。父母のいない児童に対して地方当局が正当な権限を得ることに対する実務的な要請は高
く、立法が待たれている64。
(5)現行法制の問題点
現地での面談調査によれば、現行の法制については概ね問題がないものと捉えられているの
ではないかということであった65。ただし、改善の余地がないということではなく、1989 年児
童法は最近にも次のような改正を受けている。
2004 年に新設された
「独立監督官
(Independent
Reviewing Officers)
」の制度であり、裁判所からも行政からも独立した第三者機関である独立
監督官が、地方当局が同意に基づいて及びケア命令によって受け入れている児童に対してケア
プランを着実に遂行しているかどうか、児童の権利が守られているか等を監督することを内容
とする(2002 年養子及び児童法 118 条によって改正された 1989 年児童法 26 条)
。制度開始か
らあまり時間を経ていないため、その評価は定まっていないとのことであるが、この改正から
は、ケアプランの内容の適否及びその遂行過程に裁判所が関与しないことが大原則とされてい
る枠組みにおいて、行政によるケアプランの適切な履行をどのように確保するかがなお課題と
されていることが伺える。この課題が重要であるのは、履行が確保されなければ子どもの利益
又は権利が損なわれるおそれがあるからであることは当然であるが、他方で、子どもの利益又
は権利を確保するために定められたケアプランが守られないのであれば、そもそもそれを前提64後掲 Lowe & Douglas,p.443。65現地調査での Lowe 教授及び Douglas 教授との面談調査による。独立監督官を導入した最近の改正につ
いても、同じ面談調査から示唆を得たところである。30になされる国家介入の正当性が問われかねないということもある66。
4 まとめに代えて
イギリスとフランスの児童保護法制は、枠組みが大きく異なっており、そして、本報告書で
は必ずしも十分に明らかにできなかったが、その基礎となる理念には相当な違いが存するもの
と想定される。しかし、同時に、それにもかかわらず、どちらの国においても、現実に児童の
世話をする者は日常的行為の範囲内に限っては独自に遂行することが可能であるとされること、
国家介入の要件が子どもの状態を基準に定められていること、裁判所の関与のあり方と行政機
関との関係について自覚的に調整が図られていること、親子関係自体が否定されるような最終
段階に至るまで失われない親権のいわば中核的部分が意識的に選別されて制度化されているこ
となどの共通点が認められることが興味深い。
比較法的知見を参照しつつも、日本においてあるべき理念について議論を尽くし、具体的か
つ現実的な立法案に結びつけることが肝要である。66後掲 Masson et al.,n.21-039.31【現地調査の概要】
本報告書は、後掲の参考文献を参照したほか、児童虐待防止のための親権制度研究会から派遣
された現地調査(2009 年 9 月 11 日〜22 日、於・フランス及びイギリス)に基づいて執筆されて
いる。現地調査において、面談調査に応じていただいた方々は次のとおりである*。
○しろまるフランス
Michèle Creoff (Directeur générale ajointe,Pôle enfance et famille,Direction général des
services départementaux,Conseil Général du Val-de-Marne)
Pauline de Saint Hilaire(Adjointe de la responsable du pôle juridique et judiciaire, La
Défenseur des Enfants)
Laurence Hudry(Chargée de mission au Service Réclamations, La Défenseur des Enfants)
Laurent Leveneur (Professeur de droit privé,Université Panthéon-Assas,Paris )
Marie-Laure Cicile-Delfosse (Professeur de droit privé,Faculté de droit de Rennes)
Dominique Attias (Avocat à la Cour)
Gaby Taub (Correspondante territoriale,La Défenseur des Enfants)
Dominique Salvary (Juge aux Affaires Familiales, Tribunal de grande instance de Paris)
Hervé Hamon, (Président du tribunal pour enfants, Tribunal de grande instance de Paris)
(順番は、面談の日程順による)
○しろまるイギリス
Nigel Lowe (Professor of Law, Cardiff Law School, University of Wales)
Gillian Douglas (Professor of Law, Cardiff Law School, University of Wales)
※(注記)Isabelle Konuma さん (Maître de conférences, Institut National des Langues et Civilisations
Orientales) には、フランスでの面談調査の際の通訳及び質問項目の翻訳の労をおとりいただきま
した。
また、
Vincent Hubault 氏
(Chef de bureau des Méthodes et de l’Action Éducative, Direction
de la Protection Judiciaire de la Jeunesse,Ministère de la Justice)及び南方暁教授(新潟大学実
務法学研究科)には、フランス及びイギリスでの面談の設定をご仲介いただきました。ここに記し
て、感謝いたします。
【参考文献】
○しろまるフランス
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éd.,2009,Dunod.
J.-M Lhuillier.,Aide Sociale a l'Enfance;Guide Pratique.,9e éd.,2009,Berger-Levrault.
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96 頁
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菊池緑「フランスの里親制度(III)」『里親制度の国際比較』72 頁(2004)
松井一郎・才村純『ドイツ・フランスの児童虐待防止制度の視察報告書 フランス共和国編』(子どもの虹情報研修センター、2004)
岩瀬徹ほか『児童虐待への法的介入』平成 17 年度〜平成 18 年度科学研究費補助金(基盤(B))研究成果報告書(
「第3章 フランスにおける児童虐待への法的対応」
〔町野・水留〕)(2007)
田中通裕「フランスの親権法」民商 136 巻 4・5 号 465 頁(2007)
澤野和博「フランス 医療における同意と未成年者の保護」
『子どもの医療と法』239 頁(尚学社、
2008)
○しろまるイギリス
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英国保健省編、林茂男他監訳『英国の児童ケア:その新しい展開』
(中央法規出版、1995)
峯本耕治『子どもを虐待から守る制度と介入手法』
(明石書店、2001)
許末恵「イギリスの里親制度(II)」『里親制度の国際比較』30 頁(ミネルヴァ書房、2004)
川田昇『親権と子の利益』
(信山社、2005)
許末恵「英国における親責任をめぐる法規制について」民商 136 巻 4・5 号 99 頁(2007)※(注記)
大久保香織他「英国における児童虐待防止制度の実情について」家月 61 巻 8 号 49 頁(2009)
その他に、※(注記)を記した論文に引用された参考文献
2009 年 1 月
(東北大学大学院法学研究科・准教授 久保野 恵美子)