1『盛土等防災マニュアル』
I 総説
I·1 目的
令和3年7月に静岡県熱海市において発生した土石流災害では、多くの貴い生命や財産が失われ、上流部の盛
土が崩落したことが被害の甚大化につながったとされている。このほか、全国各地で人為的に行われる違法な盛
土や不適切な工法の盛土の崩落による人的・物的被害が確認される等、
宅地造成、
特定盛土等又は土石の堆積(以下「盛土等」という。)による災害の防止が喫緊の課題となっていることを踏まえ、盛土等による災害から国民
の生命・身体を守るため、従来の「宅地造成等規制法(昭和36年法律第191号)」の法律名を「宅地造成及び特定
盛土等規制法(昭和36年法律第191号)」(以下「盛土規制法」という。)に改正し、宅地、農地、森林等の土地
の用途にかかわらず、危険な盛土等を全国一律の基準で包括的に規制することとした。
盛土規制法は、危険な盛土等を包括的に規制するものであり、盛土等に伴う災害の防止に向けた措置として、
隙間のない規制のための基礎調査の実施のほか、盛土等の安全性の確保のための許可基準や検査の実施、責任の
所在の明確化及び実効性のある罰則が規定され、関連するガイドライン、マニュアル等を示している。
盛土規制法では、都道府県知事(指定都市又は中核市の区域内の土地については、それぞれ指定都市又は中核
市の長。以下同じ。)が、宅地、農地、森林等の土地の用途にかかわらず、盛土等により人家等に被害を及ぼし
うる区域を宅地造成等工事規制区域及び特定盛土等規制区域(以下「規制区域」という。)として指定し、当該
規制区域内で行われる盛土等を都道府県知事の許可の対象とするとともに、宅地造成の際に行われる盛土や切土
だけでなく、単なる土捨て行為や土石の一時的な堆積についても規制の対象とすることにより、隙間のない規制
となっている。
本マニュアルは、盛土等又は都市計画法(昭和43年法律第100号)の許可を必要とする開発行為に伴う崖崩れ、
土砂の流出等による災害及び地盤の沈下、溢水等の障害を防止するために、盛土、切土、のり面の保護工及びそ
の他地表面の措置、擁壁、崖面崩壊防止施設、軟弱地盤の対策、排水の処理等についての基本的な考え方及び設
計・施工上留意すべき点を整理したものである。
これにより、上記の災害及び障害を防止するとともに、許可等の事務手続の迅速化及び適正化を図り、もって
各種事業等の円滑な実施に資することを目的とする。
I·2 対象範囲
本マニュアルは、盛土規制法の許可等を必要とする盛土等及び都市計画法の許可を必要とする開発行為(以下
「開発事業等」という。)を対象とし、開発事業等を実施する者(以下「開発事業者等」という。)が開発事業
等を実施する際及び行政担当者が開発事業等を審査する際の参考に供するものである。
なお、都市計画法の許可を必要とする開発行為で、盛土規制法の対象とならないものについて本マニュアルを
参考とする場合には、盛土規制法と都市計画法では技術的基準が異なることを踏まえ、過剰な対策とならないよ
うに注意が必要である。
I·3 取扱い方針
開発事業等の実施に当たっては、本マニュアルに示す基本的な考え方及び留意事項を踏まえた上で、さらに開
発事業等を実施する地区(以下「開発事業等実施地区」という。)の気象、地形、地質、地質構造、土質、環境
等の自然条件、開発事業等の内容、土地利用状況等の社会条件に留意して、個々具体的に必要な防災措置を検討
するものとする。特に、山地・森林等では地形や地下構造が複雑な上、雨水や地下水の流出過程も複雑である。
さらに、山地斜面は、土質や植生等の多様な要因の影響を受けて、微妙なバランスの上で安定性が保たれている
場合もある。このような山地・森林の場が有する複雑性・脆弱性や渓流・集水地形といった特性、残土処分場や
太陽光発電施設等の多様な開発形態を考慮した防災措置が必要である。
防災措置の検討に当たっては、必要な性能が確保されるよう、設計・施工の各段階で情報を共有し、現地での
施工性等も考慮して全体の整合を図ることとする。また、将来にわたり開発事業等実施地区の安全性が確保され
るよう、施設等の維持管理も含めて十分に検討することが必要である。
これらを踏まえ、規制区域や行為にかかわらず人命に危害を及ぼすおそれがあることから、盛土、切土又は土
別添5 2石の堆積いずれの行為においても安全確保に関する基準は区域にかかわらず基本的に同一とする。
I·4 関連指針等
本マニュアルに示されていない事項については、一般的に認められている他の技術的指針等を参考にするもの
とする。
II 開発事業等実施地区の選定及び開発事業等の際に必要な調査
II·1 開発事業等実施地区の選定
開発事業等実施地区の選定に当たっては、あらかじめ法令等による行為規制、地形・地質・地盤条件等の土地
条件、過去の災害記録、各種公表された災害危険想定地域の関係資料等について必要な情報を収集し、防災上の
観点からこれについて十分に検討することが必要である。
特に、山地・森林を開発事業等実施地区に選定する場合、山地・森林の場が有する複雑性・脆弱性や渓流・集
水地形等の特性を踏まえた災害の要因となりうる情報の整理が必要である。
II·2 開発事業等の際に必要な調査
開発事業等の実施に当たっては、気象、地形、地質、地質構造、土質、環境、土地利用状況等に関する調査を
行い、開発事業等実施地区(必要に応じてその周辺地区を含む。)の状況を十分に把握することが必要である。
特に、山地・森林での計画に当たっては、複雑性・脆弱性等に留意する必要があるため、盛土等を行う基礎地
盤のみならず、周辺の自然斜面についても、より綿密な調査を実施し、現地状況を十分に把握することが必要で
ある。
III 開発事業等における防災措置に関する基本的留意事項
開発事業等における防災措置は、基本的に次の各事項に留意して行うものとする。
1) 開発事業等の実施に当たっては、開発事業等実施地区の気象、地形、地質、地質構造、土質、環境、土
地利用状況等について必要な調査を行い、その結果を踏まえて適切な措置を講ずること。なお、開発事業
等実施地区外からの地表水や地下水の流入を起因とした災害も想定されるため、必要に応じて開発事業等
実施地区周辺も含めて調査を行うこと。
2) 開発事業等における防災措置の検討に当たっては、開発事業等全体の設計・施工計画との整合性に留意
すること。また、山地・森林の場が有する特性に留意した検討を行うこと。
3) 工事施工中における濁水、土砂の流出等による災害及び障害を防止するために必要な措置を先行して講
ずること。
4) 他の法令等による行為規制が行われている地区で開発事業等を実施する場合には、関係諸機関と調整、
協議等を行うこと。
IV 耐震対策
IV·1 耐震対策の基本目標
開発事業等において造成される土地、地盤、土木構造物等(以下「造成宅地及び農地等」という。)の耐震対
策においては、造成宅地及び農地等又は当該造成宅地及び農地等を敷地とする建築物等の供用期間中に1〜2度
程度発生する確率を持つ一般的な地震(中地震)の地震動に際しては、造成宅地及び農地等の機能に重大な支障
が生じず、また、発生確率は低いが直下型又は海溝型巨大地震に起因するさらに高レベルの地震(以下「大地震」
という。)の地震動に際しては、人命、造成宅地及び農地等の存続に重大な影響を与えないことを耐震対策の基
本的な目標とする。
IV·2 耐震対策検討の基本的な考え方
開発事業等の実施に当たっては、開発事業等における土地利用計画、周辺の土地利用状況、当該地方公共団体
が定める地域防災計画等を勘案するとともに、原地盤、盛土材料等に関する調査結果に基づき、耐震対策の必要
性、必要な範囲、耐震対策の目標等を具体的に検討することが必要である。
また、耐震対策の検討は、開発事業等の基本計画作成の段階から、調査、設計及び施工の各段階に応じて適切
に行うことが大切である。 3IV·3 耐震設計の基本的な考え方
開発事業等において耐震対策の必要な施設については、当該施設の要求性能等に応じて、適切な耐震設計を行
わなければならない。
盛土のり面、盛土全体、擁壁及び崖面崩壊防止施設の安定性に関する検討においては震度法により、地盤の液
状化判定に関する検討においては簡易法により、それぞれ設計を行うことを標準とし、必要に応じて動的解析法
による耐震設計を行う。
V 盛土
V·1 原地盤及び周辺地盤の把握
盛土の設計に際しては、地形・地質調査等を行って盛土の基礎地盤の安定性を検討することが必要である。
特に、盛土の安定性に多大な影響を及ぼす軟弱地盤、傾斜地盤、山地・森林の場が有する複雑性・脆弱性が懸
念される地盤については、入念に調査する。また、渓流・集水地形等において、流水、湧水及び地下水の流入、
遮断が懸念される場合は、周辺地盤も適宜調査する。これらの調査を通じて盛土のり面の安定性のみならず、基
礎地盤及び周辺地盤を含めた盛土全体の安定性について検討することが必要である。
V·2 排水施設等
排水施設は、地下水排除工及び盛土内排水層により完全に地下水の排除ができるように計画することを基本と
する。
V·2·1 地下水排除工
盛土崩壊の多くが湧水、地下水、降雨等の浸透水を原因とするものであること、また盛土内の地下水が地震時
の滑動崩落の要因となることから、次の各事項に留意して盛土内に十分な地下水排除工を設置し、基礎地盤から
の湧水や地下水の上昇を防ぐことにより、盛土の安定を図るものとする。特に山地・森林では、谷部等において
浸透水が集中しやすいため、現地踏査等によって、原地盤及び周辺地盤の水文状況を適切に把握することが必要
である。
1)暗渠排水工
暗渠排水工は、原地盤の谷部や湧水等の顕著な箇所等を対象に樹枝状に設置することを基本とする。
2)基盤排水層
基盤排水層は、透水性が高い材料を用い、主に谷埋め盛土におけるのり尻部及び谷底部、湧水等の顕著な
箇所等を対象に設置することを基本とする。
3)暗渠流末の処理
暗渠排水工の流末は、維持管理や点検が行えるように、マス、マンホール、かご工等で保護を行うことを
基本とする。
4)施工時の仮設排水対策
施工時における中央縦排水は、暗渠排水工と併用せず、別系統の排水管を設置することを基本とする。ま
た、中央縦排水に土砂が入らないように縦排水管の口元は十分な保護を行うことを基本とする。
V·2·2 盛土内排水層
盛土内に地下水排除工を設置する場合に、あわせて盛土内に水平排水層を設置して地下水の上昇を防ぐととも
に、降雨による浸透水を速やかに排除して、盛土の安定を図ることが必要である。
水平排水層は、透水性が高い材料を用い、盛土のり面の小段ごとに設置することを基本とする。
V·3 盛土のり面の検討
V·3·1 盛土のり面の勾配
盛土のり面の勾配は、のり高、盛土材料の種類等に応じて適切に設定し、原則として30度以下とする。なお、
次のような場合には、盛土のり面の安定性の検討を十分に行った上で勾配を決定する必要がある。
1)のり高が特に大きい場合
2)盛土が地山からの流水、湧水及び地下水の影響を受けやすい場合
3)盛土箇所の原地盤が不安定な場合 44)盛土が崩壊すると隣接物に重大な影響を与えるおそれがある場合
5)腹付け盛土となる場合
6)締固め難い材料を盛土に用いる場合
V·3·2 盛土のり面の安定性の検討
盛土のり面の安定性の検討に当たっては、次の各事項に十分留意する必要がある。ただし、のり面勾配等の決
定に当たっては、安定計算の結果に加え、近隣又は類似土質条件の施工実績、災害事例等を十分参照した上で総
合的に検討することが大切である。
1)安定計算
盛土のり面の安定性については、円弧滑り面法により検討することを標準とする。また、円弧滑り面法の
うち簡便なフェレニウス式(簡便法)によることを標準とするが、現地状況等に応じて他の適切な安定計算
式を用いる。
2)設計土質定数
安定計算に用いる粘着力(c)及び内部摩擦角(φ)の設定は、盛土に使用する土を用いて、現場含水比及
び現場の締固め度に近い状態で供試体を作成し、せん断試験を行うことにより求めることを原則とする。
3)間げき水圧
盛土の施工に際しては、適切に地下水排除工等を設けることにより、盛土内に間げき水圧が発生しないよ
うにすることが原則である。
しかし、計画地区内における地下水位又は間げき水圧の推定は未知な点が多く、これらはのり面の安全性
に大きく影響を及ぼす。このため、地下水及び降雨時の浸透水の集中により間げき水圧が上昇することが懸
念される盛土では、間げき水圧を考慮した安定計算により盛土のり面の安定性を検討することが望ましい。
また、渓流等においては、高さ15メートル超の盛土は間げき水圧を考慮した安定計算を標準とする。安定計
算に当たっては、盛土の下部又は側方からの浸透水による水圧を間げき水圧(u)とし、必要に応じて、雨
水の浸透によって形成される地下水による間げき水圧及び盛土施工に伴って発生する過剰間げき水圧を考
慮する。
また、これらの間げき水圧は、現地の状況等を踏まえ、適切に推定することが望ましい。
なお、十分締固めた盛土では液状化等による盛土の強度低下は生じにくいが、渓流等における高さ15メー
トル超の盛土や火山灰質土等の締固め難い材料を用いる盛土については液状化現象等を考慮し、液状化判定
等を実施する。
4)最小安全率
盛土のり面の安定に必要な最小安全率(Fs)は、
盛土施工直後において、
Fs≧1.5であることを標準とする。
また、地震時の安定性を検討する場合の安全率は、大地震時にFs≧1.0とすることを標準とする。なお、大
地震時の安定計算に必要な水平震度は、
0.25に建築基準法施行令第88条第1項に規定するZの数値を乗じて得
た数値とする。
V·3·3 盛土のり面の形状
盛土のり面の形状は、気象、地盤条件、盛土材料、盛土の安定性、施工性、経済性、維持管理等を考慮して合
理的に設計するものとする。
なお、のり高が小さい場合には、のり面の勾配を単一とし、のり高が大きい場合には、のり高5メートル程度
ごとに小段を設けることを原則とする。小段幅は1〜2メートルとすることが一般的である。
また、この場合、二つの小段にはさまれた部分は単一勾配とし、地表水が集中しないように適切に小段に排水
勾配を設ける必要がある。
V·4 盛土全体の安定性の検討
盛土全体の安定性を検討する場合は、造成する盛土の規模が、次に該当する場合である。
1)谷埋め型大規模盛土造成地
盛土をする土地の面積が3,000平方メートル以上であり、かつ、盛土をすることにより、当該盛土をする
土地の地下水位が盛土をする前の地盤面の高さを超え、盛土の内部に侵入することが想定されるもの。 52)腹付け型大規模盛土造成地
盛土をする前の地盤面が水平面に対し20度以上の角度をなし、かつ、盛土の高さが5メートル以上となる
もの。
検討に当たっては、次の各事項に十分留意する必要がある。ただし、安定計算の結果のみを重視して盛土形状
を決定することは避け、近隣又は類似土質条件の施工実績、災害事例等を十分参照することが大切である。
1安定計算
谷埋め型大規模盛土の安定性については、二次元の分割法により検討することを標準とする。ただし、渓
流等における盛土は「V・5 渓流等における盛土の基本的な考え方」を参照すること。
腹付け型大規模盛土の安定性については、二次元の分割法のうち簡便法により検討することを標準とす
る。
2設計土質定数
安定計算に用いる粘着力(c)及び内部摩擦角(φ)の設定は、盛土に使用する土を用いて、現場含水比
及び現場の締固め度に近い状態で供試体を作成し、せん断試験を行うことにより求めることを原則とする。
3間げき水圧
盛土の施工に際しては、適切に地下水排除工等を設けることにより、盛土内に間げき水圧が発生しないよ
うにすることが原則である。
しかし、
計画地区内における地下水位又は間げき水圧の推定は未知な点が多く、
これらはのり面の安定性に大きく影響を及ぼす。このため、地下水及び降雨時の浸透水の集中により間げき
水圧が上昇することが懸念される盛土では、間げき水圧を考慮した安定計算により盛土のり面の安定性を検
討することが望ましい。安定計算に当たっては、盛土の下部又は側方からの浸透水による水圧を間げき水圧
(u)とし、必要に応じて、雨水の浸透によって形成される地下水による間げき水圧及び盛土施工に伴って
発生する過剰間げき水圧を考慮する。
また、これらの間げき水圧は、現地の状況等を踏まえ、適切に推定することが望ましい。
なお、十分締固めた盛土では液状化等による盛土の強度低下は生じにくいが、渓流等における高さ15メー
トル超の盛土や火山灰質土等の締固め難い材料を用いる盛土については液状化判定等を実施すること。
4最小安全率
盛土のり面の安定に必要な最小安全率(Fs)は、盛土施工直後において、Fs≧1.5であることを標準とす
る。
また、地震時の安定性を検討する場合の安全率は、大地震時にFs≧1.0とすることを標準とする。なお、
大地震時の安定計算に必要な水平震度は、0.25に建築基準法施行令第88条第1項に規定するZの数値を乗じ
て得た数値とする。
V·5 渓流等における盛土の基本的な考え方
渓流等における盛土は、盛土内にまで地下水が上昇しやすく、崩壊発生時に渓流を流下し大規模な災害となり
うることから、慎重な計画が必要であり、極力避ける必要がある。やむを得ず、渓流等に対し盛土を行う場合に
は、原地盤及び周辺地盤の地形、地質、土質、湧水、地下水等の現地状況を調査し、土砂の流出に対する盛土の
安全性や盛土周辺からの地表水や地下水等に対する盛土の安定性等の検討を行い、通常の盛土の規定に加え、次
の措置を講ずる必要がある。なお、渓流等に限らず、湧水やその痕跡が確認される場合においても、渓流等にお
ける盛土と同様な措置を講ずる必要がある。
ここで、渓流等の範囲とは、渓床勾配10度以上の勾配を呈し、0次谷を含む一連の谷地形であり、その底部の
中心線からの距離が25メートル以内の範囲を基本とする。なお、自治体は地形・地質条件に応じて渓流等の範囲
を拡大・縮小することが可能である。また、自治体は開発事業者等に対し、範囲設定の考え方を明確にする必要
がある。
1)盛土高
盛土の高さは15メートル以下を基本とし、「V・3 盛土のり面の検討」に示す安定計算等の措置を行う。
ただし、盛土の高さが15メートルを超える場合は、次のとおりとする。
1 より詳細な地質調査、盛土材料調査、土質試験等を行った上で二次元の安定計算を実施し、基礎地盤を
含む盛土の安定性を確保しなければならない。
2 間げき水圧を考慮した安定計算を標準とする。(「V・3・2 盛土のり面の安定性の検討」を参照)
3 液状化判定等を実施する。(「V・3・2 盛土のり面の安定性の検討」を参照) 64 大規模な盛土は、二次元の安定計算に加え、三次元の変形解析や浸透流解析等(以下「三次元解析」と
いう。)により多角的に検証を行うことが望ましい。ただし、三次元解析を行う場合には、より綿密な調
査によって解析条件を適切に設定しなければその精度が担保されないこと、結果の評価には高度な技術的
判断を要することに留意する必要があることや、綿密な調査の結果等から二次元の変形解析や浸透流解析
等(以下「二次元解析」という。)での評価が適当な場合には、二次元解析を適用する。
2)のり面処理
1 のり面の下部については、湧水等を確認するとともに、その影響を十分に検討し、必要に応じて、擁壁
等の構造物を検討するものとする。
2 のり面は、必ず植生等によって処理するものとし、裸地で残してはならない。
3 のり面の末端が流水に接触する場合には、のり面は、盛土の高さにかかわらず、豪雨時に想定される水
位に対し十分安全を確保できる高さまで構造物で処理しなければならない。
3)排水施設
盛土を行う土地に流入する渓流等の流水は、盛土内に浸透しないように、原則として開水路によって処理
し、地山からの湧水のみ暗渠排水工にて処理するものとする。また、渓流を埋め立てる場合には、本川、支
川をとわず在来の渓床に必ず暗渠排水工を設ければならない。
4)工事中及び工事完了後の防災
工事中の土砂の流出や河川汚濁を防止するため、防災ダムや沈泥池等を設ける必要がある。また、工事完
了後の土砂の流出を防止するため沈砂池を設けなければならない。防災ダムは、工事中に土砂の流出がない
場合には、工事完了後、沈砂池として利用できる。
V·6 盛土の施工上の留意事項
盛土の施工に当たっては、次の各事項に留意することが大切である。
1)原地盤の処理
盛土の基礎となる原地盤の状態は、現場によって様々であるので、現地踏査、土質調査等によって原地盤
の適切な把握を行うことが必要である。
調査の結果、軟弱地盤として対策工が必要な場合は、「X 軟弱地盤対策」により適切に処理するものと
する。山地・森林における複雑性・脆弱性が懸念される地盤の場合には、脆弱な地盤を排除する等、適切に
基盤面を処理するものとする。また、渓流等の湧水や地下水が懸念される地盤の場合には、「V・5 渓流
等における盛土の基本的な考え方」により適切に処理するものとする。普通地盤の場合には盛土完成後の有
害な沈下を防ぎ、盛土と基礎地盤のなじみをよくしたり、初期の盛土作業を円滑にしたりするために次のよ
うな原地盤の処理を行うものとする。
1 伐開除根を行う。
2 暗渠排水工及び基盤排水層を単独又はあわせて設置し排水を図る。
3 極端な凹凸及び段差はできるだけ平坦にかき均す。
なお、既設の盛土に新しく腹付けして盛土を行う場合にも同様な配慮が必要であるほか、既設の盛土の安
定に関しても十分な注意を払うことが必要である。
2)傾斜地盤上の盛土
盛土基礎地盤の表土は十分に除去するとともに、勾配が15度(約1:4.0)程度以上の傾斜地盤上に盛土を
行う場合には、盛土の滑動及び沈下が生じないように、原則として段切りを行うことが必要である。
また、谷地形等で地下水位が高くなる箇所における傾斜地盤上の盛土では、勾配にかかわらず段切りを行
うことが望ましい。
3)盛土材料
盛土材料の搬入に当たっては、土質、含水比等の盛土材料の性質が計画と逸脱していないこと等、盛土材
料として適切か確認する必要がある。また、切土からの流用土又は付近の土取場からの採取土を使用する場
合には、これらの現地発生材の性質を十分把握するとともに、次のような点を踏まえて適切な対策を行い、
品質の良い盛土を築造する。
1 岩塊、玉石等を多量に含む材料は、盛土下部に用いる等、使用する場所に注意する。
2 頁岩、
泥岩等のスレーキングしやすい材料は用いないことを原則とするが、
やむを得ず使用する場合は、
その影響及び対策を十分検討する。 73 吸水性、圧縮性が高い腐植土等の材料を含まないようにする。
4 高含水比粘性土については、5)に述べる含水量調節及び安定処理により入念に施工する。
5 比較的細砂で粒径のそろった砂は、地下水が存在する場合に液状化するおそれがあるので、十分な注意
が必要である。
なお、廃棄物の処理及び清掃に関する法律等の他法令の規制に照らして盛土材料としての使用が適当では
ない物質を含まないようにしなければばらない。
4)敷均し
盛土の施工に当たっては、1回の敷均し厚さ(まき出し厚さ)をおおむね0.30メートル以下に設定し、均
等かつ所定の厚さ以内に敷均す。
5)含水量調節及び安定処理
盛土の締固めは、盛土材料の最適含水比付近で施工することが望ましいので、実際の含水比がこれと著し
く異なる場合には、バッ気又は散水を行って、その含水量を調節する。
また、盛土材料の品質によっては、盛土の締固めに先立ち、化学的な安定処理等を行う。
6)締固め
盛土の締固めに当たっては、所定の品質の盛土を仕上げるため、盛土材料、工法等に応じた適切な締固め
を行う。
特に盛土と切土の接合部は、地盤支持力が不連続になったり、盛土部に湧水、浸透水等が集まり盛土が軟
化して完成後仕上げ面に段違いを生じたり、地震時には滑り面になったりするおそれもあることから、十分
な締固めを行う必要がある。
7)防災小堤
盛土施工中の造成面ののり肩には、造成面からのり面への地表水の流下を防止するため、必要に応じて、
防災小堤を設置する。
V·7 盛土の維持管理
土地の所有者、管理者又は占有者は、盛土に伴う災害が生じないよう適切な維持管理により、土地の保全に努
める必要がある。維持管理に当たっては、盛土の変状や湧水等の発生状況について定期的に確認することが望ま
しい。また、必要に応じて地下水観測や排水施設の機能回復等の措置を行うことが有効である。これらのことか
ら、工事主又は工事施行者は、維持管理方法について施工段階から考えることが重要である。
なお、災害の防止のため必要があると認める場合においては、都道府県知事はその土地の所有者、管理者、占
有者、工事主又は工事施行者に対し、盛土規制法に基づき、災害の防止のため必要な措置をとることを勧告でき
る。
VI 切土
VI·1 切土のり面の勾配
切土のり面の勾配は、のり高、のり面の土質等に応じて適切に設定するものとし、その崖面は、原則として擁
壁(これにより難い場合は「IX 崖面崩壊防止施設」)で覆わなければならない。
ただし、次表に示すのり面は、擁壁等の設置を要しない。
なお、次のような場合には、切土のり面の安定性の検討を十分に行った上で勾配を決定する必要がある。
1)のり高が特に大きい場合
2)のり面が割れ目の多い岩、流れ盤、風化の速い岩、侵食に弱い土質、崩積土等である場合
3)のり面に湧水等が多い場合
4)のり面又は崖の上端に続く地盤面に雨水が浸透しやすい場合 8表 切土のり面の勾配(擁壁等の設置を要しない場合)
のり高 崖の上端からの垂直距離
のり面の土質 1H≦5m 2H>5m
軟岩
(風化の著しいものは除く)
80度 以下
(約1:0.2)
60度 以下
(約1:0.6)
風化の著しい岩 50度 以下
(約1:0.9)
40度 以下
(約1:1.2)
砂利、まさ土、関東ローム、硬質粘土、
その他これらに類するもの
45度 以下
(約1:1.0)
35度 以下
(約1:1.5)
VI·2 切土のり面の安定性の検討
切土のり面の安定性の検討に当たっては、安定計算に必要な数値を土質試験等により的確に求めることが困難
な場合が多いので、一般に次の事項を総合的に検討した上で、のり面の安定性を確保するよう配慮する必要があ
る。
1)のり高が特に大きい場合
地山は一般に複雑な地層構成をなしていることが多いので、のり高が大きくなるに伴って不安定要因が増
してくる。したがって、のり高が特に大きい場合には、地山の状況に応じて次の2)〜7)の各事項につい
て検討を加え、できれば余裕のあるのり面勾配にする等、のり面の安定化を図るよう配慮する必要がある。
2)のり面が割れ目の多い岩又は流れ盤である場合
地山には、地質構造上、割れ目が発達していることが多く、切土した際にこれらの割れ目に沿って崩壊が
発生しやすい。したがって、割れ目の発達程度、岩の破砕の度合、地層の傾斜等について調査・検討を行い、
周辺の既設のり面の施工実績等も勘案の上、のり面の勾配を決定する必要がある。
特に、のり面が流れ盤の場合には、滑りに対して十分留意し、のり面の勾配を決定することが大切である。
3)のり面が風化の速い岩である場合
のり面が風化の速い岩である場合は、掘削時には硬く安定したのり面であっても、切土後の時間の経過と
ともに表層から風化が進み、崩壊が発生しやすくなるおそれがある。したがって、このような場合には、の
り面保護工により風化を抑制する等の配慮が必要である。
4)のり面が侵食に弱い土質である場合
砂質土からなるのり面は、表面流水による侵食に特に弱く、落石、崩壊及び土砂の流出が生じる場合が多
いので、地山の固結度及び粒度に応じた適切なのり面勾配とするとともに、のり面全体の排水等に十分配慮
する必要がある。
5)のり面が崩積土等である場合
崖すい等の固結度の低い崩積土からなる地山において、自然状態よりも急な勾配で切土をした場合には、
のり面が不安定となって崩壊が発生するおそれがあるので、安定性の検討を十分に行い、適切なのり面勾配
を設定する必要がある。
6)のり面に湧水等が多い場合
湧水の多い箇所又は地下水位の高い箇所を切土する場合には、のり面が不安定になりやすいので、のり面
勾配を緩くしたり、湧水の軽減及び地下水位の低下のためののり面排水工を検討したりする必要がある。
7)のり面又は崖の上端に続く地盤面に雨水が浸透しやすい場合
切土によるのり面又は崖の上端に続く地盤面に砂層、礫層等の透水性が高い地層又は破砕帯が露出するよ
うな場合には、切土後に雨水が浸透しやすくなり、崩壊の危険性が高くなるので、のり面を不透水性材料で
覆う等の浸透防止対策を検討する必要がある。
VI·3 切土のり面の形状
切土のり面の形状には、単一勾配ののり面及び土質により勾配を変化させたのり面があるが、その採用に当た
っては、のり面の土質状況を十分に勘案し、適切な形状とする必要がある。
なお、のり高が大きい切土のり面では、のり高5メートル程度ごとに幅1〜2メートルの小段を設けることが
一般的である。 9VI·4 切土の施工上の留意事項
切土の施工に当たっては、事前の調査のみでは地山の状況を十分に把握できないことが多いので、施工中にお
ける土質及び地下水の状況の変化には特に注意を払い、必要に応じてのり面勾配を変更する等、適切な対応を図
るものとする。
なお、次のような場合には、施工中に滑り等が生じないよう留意することが大切である。
1)岩盤の上を風化土が覆っている場合
2)小断層、急速に風化の進む岩及び浮石がある場合
3)土質が層状に変化している場合
4)湧水が多い場合
5)表面はく離が生じやすい土質の場合
6)積雪・寒冷地域の場合
VI·5 切土のり面の維持管理
土地の所有者、管理者又は占有者は、切土のり面における災害が生じないよう適切な維持管理により、土地の
保全に努める必要がある。
なお、災害の防止のため必要があると認める場合においては、都道府県知事はその土地の所有者、管理者、占
有者、工事主又は工事施行者に対し、盛土規制法に基づき、災害の防止のため必要な措置をとることを勧告でき
る。
VII のり面保護工及びその他の地表面の措置
VII·1 のり面保護工及びその他の地表面の措置の基本的な考え方
開発事業等により土地の造成を行う場合、裸地となることで侵食や洗堀が生じ、これらの拡大により崩壊が発
生することが懸念される。このため、のり面その他の地表面にかかわらず、のり面保護工により保護する必要が
ある。
開発事業等に伴って生じる崖面については、擁壁(これにより難い場合は、「IX 崖面崩壊防止施設」)で覆
うことを原則としつつ、擁壁等で覆わない場合には、その崖面が風化、侵食等により不安定化することを抑制す
るため、のり面緑化工又は構造物によるのり面保護工等で崖面を保護するものとする。
また、開発事業等に伴って生じる崖面以外の地表面についても、侵食等により不安定化することを抑制するた
め、のり面緑化工等により地表面を保護するものとする。
VII·2 のり面保護工の種類
のり面保護工の種類としては、のり面緑化工、構造物によるのり面保護工及びのり面排水工がある。
VII·3 のり面保護工の選定
のり面保護工は、のり面の勾配、土質、気象条件、保護工の特性、将来の維持管理等について総合的に検討し、
経済性・施工性にすぐれた工法を選定するものとする。
工法の選定に当たっては、次の各事項に留意することが大切である。
1)植生可能なのり面では、植生の被覆効果及び根系の緊縛効果がのり面の安定性向上に寄与することに着目
し、のり面緑化工の選定を基本とする。ただし、植生に適さないのり面又はのり面緑化工では安定性が確保
できないのり面においては、構造物によるのり面保護工を選定する。
2)のり面緑化工及び構造物によるのり面保護工では、一般にのり面排水工が併設される。
3)同一のり面においても、土質及び地下水の状態は必ずしも一様でない場合が多いので、それぞれの条件に
適した工法を選定する必要がある。
VII·4 のり面緑化工の設計・施工上の留意事項
のり面緑化工の成否は、植物の生育いかんによるため、その設計・施工に当たっては、次の各事項に留意する
ことが大切である。
1)のり面緑化工の完成に必要な施工場所の立地条件を調査すること
2)のり面の勾配は、なるべく40度(約1:1.2)より緩くすること 103)のり面の土質は、植物の生育に適した土壌とすること
4)植物の種類は、活着性がよく、生育の早いものを選定すること
5)施工時期は、なるべく春期とし、発芽に必要な温度・水分が得られる範囲で、可能な限り早い時期とする
こと
6)発芽・生育を円滑に行うため、条件に応じた適切な補助工法を併用すること
7)日光の当たらない場所等植物の生育の困難な場所は避けること
VII·5 構造物によるのり面保護工の設計・施工上の留意事項
構造物によるのり面保護工の設計・施工に当たっては、のり面の勾配、土質、湧水の有無等について十分に検
討することが大切である。
VII·6 のり面排水工の設計・施工上の留意事項
のり面排水工の設計・施工に当たっては、次の各事項に留意することが大切である。
1)湧水及び地下水の状況を把握するため、事前に十分な調査を行うこと
2)崖の上端に続く地表面には、その崖の反対方向に雨水その他の地表水が流れるよう、地盤に勾配を付する
こと。ただし、崖の反対方向へ地盤の勾配を付することが困難な場合は、のり面へ雨水その他の地表水が入
らないように、適切に排水施設を設置すること
3)のり面を流下する地表水は、のり肩及び小段に排水溝を設けて排除すること
4)浸透水は、地下の排水施設により速やかに地表の排水溝に導き排除すること
5)のり面排水工の流末は、十分な排水能力のある排水施設に接続すること
VII·7 崖面以外の地表面に講ずる措置
開発事業等に伴って生じる地表面は、裸地となることにより、風化、雨水等による侵食や洗掘が生じやすい。
侵食や洗掘が進行した場合、崩壊が生じる可能性がある。このため崖面以外の地表面についても、侵食や洗堀を
防止するため、排水施設等の設置により適切に排水を行うとともに、植生工等により地表面を保護する必要があ
る。
特に、
太陽光発電施設等の施設が設置される地盤については、
施設の設置に伴う雨水の流出量の増大等が生じ、
侵食を生じやすくなることが想定されるため、十分な検討を行うことが大切である。
なお、次の各事項に該当するものは、地表面の保護を要さない。
1)排水勾配を付した盛土又は切土の上面
2)道路の路面の部分その他の地表面を保護する必要がないことが明らかなもの
3)農地等で植物の生育が確保される地表面
VIII 擁壁
VIII·1 擁壁の基本的な考え方
開発事業等において、次のような「崖」が生じた場合には、崖面の崩壊を防ぐため、原則としてその崖面を擁
壁で覆わなければならない。
1)盛土をした土地の部分に生ずる高さが1メートルを超える「崖」
2)切土をした土地の部分に生ずる高さが2メートルを超える「崖」
3)盛土と切土とを同時にした土地の部分に生ずる高さが2メートルを超える「崖」
ただし、切土をした土地の部分に生ずることとなる崖の部分で、「VI・1 切土のり面の勾配」の表に該当する
崖面については、擁壁を設置しなくてもよい。また、対象の崖面において、基礎地盤の支持力が小さく擁壁設置
後に壁体に変状が生じてその機能及び性能の維持が困難となる場合や、地下水や浸透水等を排除する必要がある
場合等、擁壁の適用に問題がある場合、擁壁に代えて、「IX 崖面崩壊防止施設」を適用する。
VIII·2 擁壁の種類及び選定
擁壁は、材料、形状等により、鉄筋コンクリート造、無筋コンクリート造、練積み造等に分類される。
擁壁の選定に当たっては、開発事業等実施地区の適用法令、設置箇所の自然条件、施工条件、周辺の状況等を
十分に調査するとともに、関係する技術基準等を考慮し、擁壁に求められる安全性を確保できるものを選定しな 11ければならない。
VIII·3 擁壁の設計及び施工
VIII·3·1 擁壁の設計・施工上の一般的留意事項
擁壁の設計・施工に当たっては、擁壁に求められる性能に応じて、擁壁自体の安全性はもとより擁壁を含めた
地盤及び斜面全体の安全性についても総合的に検討することが必要である。
また、擁壁の基礎地盤が不安定な場合には、必要に応じて基礎処理等の対策を講じなければならない。
VIII·3·2 鉄筋コンクリート造等擁壁の設計及び施工
VIII·3·2·1 鉄筋コンクリート造等擁壁の設計上の一般的留意事項
鉄筋コンクリート造又は無筋コンクリート造擁壁(以下「鉄筋コンクリート造等擁壁」という。)の設計に当
たっては、土質条件、荷重条件等の設計条件を的確に設定した上で常時及び地震時における擁壁の要求性能を満
足するように、次の各事項についての安全性を検討するものとする。
1)土圧、水圧、自重等(以下「土圧等」という。)によって擁壁が破壊されないこと
2)土圧等によって擁壁が転倒しないこと
3)土圧等によって擁壁の基礎が滑らないこと
4)土圧等によって擁壁が沈下しないこと
VIII3·2·2 鉄筋コンクリート造等擁壁に作用する土圧等の考え方
1)擁壁に作用する土圧は、擁壁背面の地盤の状況にあわせて算出するものとし、次の各事項に留意する。
1 盛土部に設置される擁壁は、裏込め地盤が均一であるとして土圧を算定できる。
2 切土部に設置される擁壁は、切土面の位置及び勾配、のり面の粗度、湧水及び地下水の状況等に応じて、
適切な土圧の算定方法を検討しなければならない。
3 地震時土圧を試行くさび法によって算定する場合は、土くさびに水平方向の地震時慣性力を作用させる
方法を用い、土圧公式を用いる場合においては、岡部・物部式によることを標準とする。
2)擁壁背面の地盤面上にある建築物、工作物、積雪等の積載荷重は、擁壁設置箇所の実状に応じて適切に設
定するものとする。
3)設計に用いる地震時荷重は、1)3で述べた地震時土圧による荷重、又は擁壁の自重に起因する地震時慣
性力に常時の土圧を加えた荷重のうち大きい方とする。
VIII·3·2·3 鉄筋コンクリート造等擁壁の底版と基礎地盤との摩擦係数
擁壁底版と基礎地盤との摩擦係数は、原則として土質試験結果に基づき、次式により求める。
μ=tanφ(φ:基礎地盤の内部摩擦角)
ただし、基礎地盤が土の場合は、0.6を超えないものとする。
なお、土質試験がなされない場合には、盛土規制法施行令別表第三の値を用いることができる。
VIII·3·2·4 鉄筋コンクリート造等擁壁の施工上の留意事項
鉄筋コンクリート造等擁壁の施工に当たっては、次の各事項に留意することが大切である。
1)地盤(地耐力等)
土質試験等により基礎地盤が設計条件を満足することを確認する。
2)鉄筋の継手及び定着
主筋の継手部の重ね長さ及び末端部の定着処理を適切に行う。
3)伸縮継目及び隅角部の補強
伸縮継目は適正な位置に設け、隅角部は確実に補強する。
4)コンクリート打設、打継ぎ、養生等
コンクリートは、密実かつ均質で十分な強度を有するよう、打設、打継ぎ、養生等を適切に行う。
5)擁壁背面の埋め戻し
擁壁背面の裏込め土の埋め戻しは、所定のコンクリート強度が確認されてから行う。また、沈下等が生じ
ないように十分に締固める。 126)排水
擁壁背面の排水をよくするため、透水層、水抜き穴等を適切な位置に設ける。
7)その他
崖又は他の擁壁の上部に近接して設置される擁壁については、下部の崖又は擁壁に影響を与えないよう十
分注意する。
VIII·3·2·5 鉄筋コンクリート造等擁壁の基礎工の設計
鉄筋コンクリート造等擁壁の基礎は、直接基礎とすることを原則とする。また、直接基礎は良質な支持層上に
設けることを原則とするが、軟弱地盤等で必要地耐力が期待できない場合は、地盤の安定処理又は置換によって
築造した改良地盤に直接基礎を設ける。また、直接基礎によることが困難な場合は、杭基礎を考慮する。
VIII·3·3 練積み造擁壁の設計及び施工
VIII·3·3·1 練積み造擁壁の設計上の留意事項
間知石練積み造擁壁その他の練積み造擁壁の構造は、勾配、背面の土質、高さ、擁壁の厚さ、根入れ深さ等に
応じて適切に設計するものとする。
ただし、原則として地上高さは5メートルを限度とする。
なお、擁壁を岩盤に接着して設置する場合を除き、擁壁には、鉄筋コンクリート造又は無筋コンクリート造で、
擁壁の滑り及び沈下に対して安全である基礎を設けるものとする。
また、崖の状況等により、はらみ出しその他の破壊のおそれがあるときには、適当な間隔に鉄筋コンクリート
造の控え壁を設ける等の措置を講ずる必要がある。
VIII·3·3·2 練積み造擁壁の施工上の留意事項
練積み造擁壁の施工に当たっては、次の各事項に留意することが大切である。
1)丁張り
擁壁の勾配及び裏込めコンクリート厚等を正確に確保するため、表丁張り及び裏丁張りを設置する。
2)裏込めコンクリート及び透水層
裏込めコンクリート及び透水層の厚さが不足しないよう、
組積み各段の厚さを明示した施工図を作成する。
3)抜型枠
裏込めコンクリートが透水層内に流入してその機能を損なわないよう、抜型枠を使用する。
4)組積み
組積材(間知石等の石材)は、組積み前に十分水洗いをする。また、擁壁の一体性を確保するため、芋目
地ができないよう組積みをする。
5)施工積高
1日の工程は、積み過ぎにより擁壁が前面にせり出さない程度にとどめる。
6)水抜き穴の保護
コンクリートで水抜き穴を閉塞しないよう注意し、また、透水管の長さは、透水層に深く入り過ぎないよ
うにする。
7)コンクリート打設
胴込めコンクリート及び裏込めコンクリートの打設に当たっては、コンクリー卜と組積材とが一体化する
よう十分締固める。
8)擁壁背面の埋め戻し
擁壁背面の埋め戻し土は胴込めコンクリート及び裏込めコンクリートが安定してから施工するものとし、
十分に締固めを行い、常に組積みと並行して施工する。
9)養生
胴込めコンクリート及び裏込めコンクリートは、打設後直ちに養生シート等で覆い、十分養生する。
10)その他
崖又は他の擁壁の上部に近接して設置される擁壁については、下部の崖又は擁壁に影響を与えないよう十
分注意する。 13IX 崖面崩壊防止施設
IX·1 崖面崩壊防止施設の基本的な考え方
崖面崩壊防止施設は、地盤の変動が生じた場合においても崖面と密着した状態を保持することができ、地下水
を有効に排除することが可能な構造を有する。本施設は、対象の崖面において、基礎地盤の支持力が小さく不同
沈下等により擁壁設置後に壁体に変状が生じてその機能及び性能の維持が困難となる場合や、地下水や浸透水等
を排除する必要がある場合等、擁壁の適用に問題がある場合、擁壁に代えて設置する。ただし、住宅建築物を建
築する宅地の地盤に用いられる擁壁の代替施設としては利用できない。
崖面崩壊防止施設は、擁壁と同様に、土圧等により損壊、転倒、滑動又は沈下しない構造とする。また、崖面
崩壊防止施設の設置に当たっては、大量の土砂等を固定することやその他の工作物の基礎とすること等で過大な
土圧が発生する場合や、保全対象に近接すること等で重要な施設に位置付けられる場合等は、適用性を慎重に判
断する必要がある。
IX·2 崖面崩壊防止施設の種類及び選定
崖面崩壊防止施設の工種は、鋼製枠工や大型かご枠工、ジオテキスタイル補強土壁工等がある。
崖面崩壊防止施設の選定に当たっては、開発事業等実施地区の適用法令、設置箇所の自然条件、施工条件、周
辺の状況等を十分に調査するとともに、関係する技術基準等を考慮し、崖面崩壊防止施設に求められる安定性を
確保できるものを選定しなければならない。また、その構造上、過大な土圧が発生する場合や、保全対象に近接
すること等で重要な施設に位置付けられる場合等は適用性が低いことに注意が必要である。
特に、設置箇所と保全対象との位置関係等について調査し、必要な強度、耐久性等について十分な検討が必要
である。
IX·3 崖面崩壊防止施設の設計・施工上の留意事項
崖面崩壊防止施設の設計・施工に当たっては、
崖面崩壊防止施設の種類によって設計方法や材料が異なるため、
選定した崖面崩壊防止施設に応じた安定性の検討が必要である。また、必要に応じて、崖面崩壊防止施設自体の
安定性はもとより崖面崩壊防止施設を含めた地盤面全体の安定性についても総合的に検討する。
崖面崩壊防止施設自体の安定性については、土質条件、荷重条件等の設計条件を的確に設定した上で常時及び
地震時における崖面崩壊防止施設の要求性能を満足するように、次の各事項についての安定性を検討するものと
する。
1)土圧等によって崖面崩壊防止施設が損壊しないこと
2)土圧等によって崖面崩壊防止施設が転倒しないこと
3)土圧等によって崖面崩壊防止施設の基礎が滑らないこと
4)土圧等によって崖面崩壊防止施設が沈下しないこと
山地・森林等で設置する場合は、山地・森林の場が有する特性に考慮した設計・施工を行う必要がある。
X 軟弱地盤対策
X·1 軟弱地盤の概念
軟弱地盤は、盛土及び構造物の荷重により大きな沈下を生じ、盛土端部が滑り、地盤が側方に移動する等の変
形が著しく、開発事業等において十分注意する必要がある地盤である。
なお、地震時に液状化が発生するおそれがある砂質地盤については一種の軟弱地盤と考えられ、必要に応じて
別途検討するものとする。
X·2 軟弱地盤の分布及び特徴
X·2·1 軟弱地盤の分布
軟弱地盤は、一般に、河川沿いの平野部、海岸沿いの平坦な土地、湖沼、谷等に分布する場合が多い。
また、軟弱地盤は、地下水位が高く冠水等の障害が起こりやすいので、土地利用状況からみると低平な水田又
は荒地になっていることが多い。
X·2·2 軟弱地盤の特徴
軟弱地盤を構成する土層は、ここ数千年の間に堆積したものが多い。 14また、軟弱地盤はその地形的分布、土質等から、泥炭質地盤、粘土質地盤及び砂質地盤に大別できる。
しかし、同質の地盤であっても、その土質の性状等の特徴は、軟弱地盤の生成された環境によって大きく異な
ることが一般的である。
X·3 軟弱地盤対策の検討手順
軟弱地盤の分布が予想される箇所で開発事業等を行う場合、あるいは開発事業等に伴う事前の調査ボーリング
の結果から地層に粘土等の存在が明らかになった場合には、標準貫入試験、スクリューウエイト貫入試験、コー
ン貫入試験等の調査を行って、軟弱地盤であるかどうかを判定する。
その結果、軟弱地盤と判定された場合には、さらに沈下量、沈下時間、安定性等について検討を行い、適切な
対策を講ずるものとする。
X·4 軟弱地盤の判定に必要な調査
軟弱地盤の判定は、標準貫入試験、スクリューウエイト貫入試験、コーン貫入試験等の結果に基づき行うもの
とする。
これらの試験等による判定が困難な場合には、必要に応じて土質試験を行い判定するものとする。
X·5 軟弱地盤の判定の目安
軟弱地盤の判定の目安は、地表面下10メートルまでの地盤に次のような土層の存在が認められる場合とする。
1)有機質土・高有機質土
2)粘性土で、標準貫入試験で得られるN値が2以下、スクリューウエイト貫入試験において100kg以下の荷重
で自沈するもの、又はオランダ式二重管コーン貫入試験におけるコーン指数(qc)が4kgf/cm2
以下のもの
3)砂質土で、標準貫入試験で得られるN値が10以下、スクリューウエイト貫入試験において半回転数(Nsw)
が50以下のもの、又はオランダ式二重管コーン貫入試験におけるコーン指数(qc)が40kgf/cm2
以下のもの
なお、軟弱地盤の判定に当たって土質試験結果が得られている場合には、そのデータも参考にする。
X·6 軟弱地盤対策の検討
X・6·1 軟弱地盤対策の基本的な考え方
軟弱地盤対策に当たっては、地盤の条件、土地利用計画、施工条件、環境条件等を踏まえて、沈下計算及び安
定計算を行い、隣接地も含めた造成上の問題点を総合的に検討する。
その結果、盛土、構造物等に対する影響がある場合は、対策工の検討を行うものとする。
X·6·2 沈下量、沈下速度等の検討
軟弱地盤において開発事業等を実施する場合には、圧密沈下が長期間にわたり、将来的に重大な影響を及ぼす
おそれもあるので、盛土、構造物の荷重等による圧密沈下量及び圧密沈下速度を検討するとともに、許容残留沈
下量を満足するのに要する時間を設計段階で把握しておく必要がある。
X·6·3 許容残留沈下量
軟弱地盤において開発事業等を実施する場合には、残留沈下によって家屋及び構造物に影響を及ぼさないよう
にしなければならない。
許容残留沈下量の設定に当たっては、事業計画及び地盤条件を十分考慮し、家屋及び構造物の構造、重要性及
び工事費、土地の処分時期等を総合的に評価した上で適切な値を定める必要がある。
X·6·4 沈下量の計算方法
盛土荷重による軟弱地盤の沈下量の計算には、通常、次の方法が用いられている。
1)間げき比(eo)を主とした式
2)圧縮指数(cc)を使用した式
3)体積圧縮係数(mv)を使用した式 15X·6·5 沈下時間の計算方法
盛土荷重による軟弱地盤の沈下時間の計算は、一般に、次式に示す一次圧密解析法によって行われる。
t= D2
/Cv·Tv
ここに、
t :任意の平均圧密度(Ū )に達するのに要する時間(日)
D :圧密層の最大排水距離(cm)
D=H/2(両面排水条件)、
D=H(片面排水条件)
H :圧密層厚(cm)
Cv :圧密係数(cm2
/日)(圧密試験により求める。)
Tv :平均圧密度(Ū )に応じた時間係数(通常は次表に示す値を用いる。)
Ū =圧密層全体のある時間における沈下量の平均値/圧密層全体の全沈下量の平均値
表 平均圧密度(Ū )と時間係数(Tv)の関係
Ū 0.10 0.20 0.30 0.40 0.50 0.60 0.70 0.80 0.90 0.95 1.00
Tv 0.008 0.031 0.071 0.126 0.197 0.287 0.403 0.567 0.848 1.128 ∞
X·6·6 沈下の検討における留意事項
沈下の検討に当たっては、次の各事項に留意する必要がある。
1)計算値と現場における沈下との対応
2)二次圧密等の長期沈下
3)広域地盤沈下
X·6·7 軟弱地盤上の盛土のり面付近の安定
軟弱地盤に盛土を行う場合には、施工中、施工直後及び完成後の将来にわたり、常にその安定性を確保してお
くことが大切である。
X·6·8 安定計算の方法
盛土端部の安定は、単一の円弧滑り面を想定した全応力法による計算に基づいて検討することを標準とする。
ただし、安定計算の結果のみを重視することなく、近隣又は類似土質条件の施工実績、災害事例等を十分参考
にすることが大切である。
X·6·9 安定計算における留意事項
盛土端部の安定計算に当たっては、次の各事項に留意する必要がある。
1)軟弱層基盤の傾斜
2)地盤強度の低下
3)テンションクラック
4)滑り面(臨界円)の位置
5)盛土材料の強度の評価
X·6·10 軟弱地盤上の盛土端部の安全率
盛土端部の底部破壊については常時の安定性を確保するとともに、最小安全率(Fs)は、大地震時にFs≧1.0
とすることを標準とする。
X·6·11 盛土周辺地盤への影響検討
軟弱地盤上に盛土を行う際に、隣接地に家屋若しくは重要な構造物がある場合又は盛土端部の安定計算によっ
て求められた安全率に十分な余裕のない場合には、周辺地盤への影響について詳細な検討を行うとともに、必要
に応じて試験盛土により沈下及び側方変位の性状を把握して、適切な対策を講ずることが大切である。 16X·7 軟弱地盤対策と土地利用計画等
軟弱地盤対策を検討する場合には、土地利用計画、各構造物の設計上の対応等を考慮するとともに、安全性、
経済性、効果等を勘案して、適切な対策を選定する必要がある。
なお、その際には、開発事業等の計画から設計、施工及び維持管理までの全般にわたる開発事業等の流れを念
頭において検討することが大切である。
X·8 軟弱地盤対策工の選定
X·8·1 対策工の選定の基本的な考え方
対策工の選定に当たっては、軟弱地盤の性状、土地利用計画、工期・工程、施工環境、経済性、施工実績等の
諸条件を総合的に検討することが必要である。
X·8·2 対策工の目的及び種類
対策工には、その目的によって、沈下対策を主とする工法、安定対策を主とする工法、沈下及び安定の両者に
対して効果を期待する工法等がある。
X·8·3 対策工の選定手順
対策工の選定に当たっては、まず、その必要性及び目的を明確にし、地盤、施工等に関する諸条件を考慮して、
いくつかの対策工案を抽出する。
次に、それらの対策工について詳細な比較検討を行うとともに、総合的な判断に基づいて最適な工法を決定す
る。
X·8·4 対策工の選定上の留意事項
対策工の選定に当たっては、次の諸条件を十分に考慮することが大切である。
1)地盤条件(土質、軟弱層厚、成層状態、基盤の傾斜等)
2)土地条件(土地利用、施設配置、盛土厚等)
3)施工条件(用地、工費、工期、材料、施工深度等)
4)環境条件(周辺環境、隣接地への影響等)
X·8·5 周辺への影響防止
軟弱地盤上の盛土の施工に伴う周辺環境への影響については、事前に十分な調査・検討を行い、いかなる場合
においても周辺施設に重大な影響を及ぼすことのないよう万全の対策をとることが大切である。
X·9 軟弱地盤対策の各工法の設計及び施工
X·9·1 対策工の設計・施工上の留意事項
対策工の設計に当たっては、その特徴を十分理解するとともに、軟弱地盤の性質を的確に把握することが大切
である。
また、施工に際しても、かく乱等により地盤の性状を著しく変化させ、設計時の条件と異なった状態とならな
いように十分留意する必要がある。
X·9·2 各工法の目的及び特徴
X·9·2·1 表層処理工法
表層処理工法は、軟弱地盤上の地表水の排除、盛土内の水位低下、施工機械のトラフィカビリティの確保、軟
弱地盤上の盛土又は構造物の支持力確保等を目的として用いる。
X·9·2·2 置換工法
置換工法は、盛土端部の安定を短期間に確保する場合、盛土層が薄く建物荷重や交通荷重による沈下が大きな
問題となる場合等において、軟弱土を良質材に置き換える工法である。 17X·9·2·3 押え盛土工法
押え盛土工法は、盛土端部の安定確保及び側方地盤の変形の軽減を目的とする工法であり、用地に余裕がある
場合及び施工時の変状に対する応急対策として用いる。
X·9·2·4 緩速載荷工法
緩速載荷工法は、盛土端部の安定確保及び側方地盤の変形の抑制を目的として、地盤の変形等を計測しながら
盛土を施工する工法である。
X·9·2·5 載荷重工法
載荷重工法は、圧密沈下を促進して残留沈下を軽減する目的で用いる工法である。
X·9·2·6 バーチカルドレーン工法
バーチカルドレーン工法は、圧密沈下の促進及び地盤の強度増加を目的として用いる工法である。
X·9·2·7 締固め工法
締固め工法は、盛土端部の安定を図ることを目的とする工法であり、主にサンドコンパクションパイル工法が
用いられている。
X·9·2·8 固結工法
固結工法は、
盛土端部若しくは盛土全体の安定確保又は構造物基礎地盤の改良を目的として用いる工法である。
X·10 軟弱地盤における施工管理
X·10·1 施工管理の基本的な考え方
軟弱地盤における工事の実施に当たっては、常に地盤の挙動を監視し、異常が発見された場合には、早急にそ
の原因を究明して適切な対応を図るとともに、施工の推渉に応じて施工計画、工法及び設計の修正又は変更を行
うことが大切である。
X·10·2 施工管理の内容
軟弱地盤における施工管理では、軟弱地盤の性状、施工条件、工期等を十分勘案した施工計画を立て、現場計
測を主体として地盤の安定及び沈下を管理することが大切である。
X·10·3 計測管理の目的
計測管理は、軟弱地盤の沈下量、側方変位量、強度等の経時変化を測定し、その結果に基づき盛土の安定管理
と沈下管理を行うことを目的とする。
X·10·4 安定管理の留意事項
安定管理においては、盛土施工中、盛土の立上げ速度を適切に管理して、基礎地盤の著しい変形及び滑りを未
然に防止し、常に安定した状態を保持することが大切である。
X·10·5 沈下管理の留意事項
沈下管理においては、動態観測により得た実測沈下量に基づき、設計時に見込んだ沈下量を修正して盛土量を
管理するとともに、施工後に継続して生じる沈下量を推定し、残留沈下量の適否を確認することが大切である。
X·10·6 現場計測の方法
現場計測に当たっては、盛土の規模、工期、設計段階において予測された問題点等の諸条件を考慮して、計測
項目、計器の種類及び配置、測定時間及び頻度等を決定することが大切である。
また、計測管理に役立つよう、測定結果を速やかに整理することも大切である。 18X·10·7 盛土工の施工管理及び施工上の留意事項
盛土工の施工管理は、盛土の品質管理試験によることを標準とし、また、盛土工の施工に当たっては、次の各
事項に十分留意することが大切である。
1)準備排水及び施工中の盛土面の排水
2)盛土作業
3)盛土端部の処理
X·10·8 環境管理
工事中の環境管理は、施工管理と一体として行うとともに、次の各事項に留意して適切な処置を講じ、工事が
円滑に進められるようにすることが大切である。
1)盛土に伴う周辺地盤の変位
2)建設機械による騒音・振動
3)土砂流出による水質汚濁
X·10·9 試験盛土の目的
試験盛土は、設計値と試験盛土による実測データとを比較し、実測データが設計時の考え方に適合しているか
等を検討することにより、合理的な設計・施工方法を見出すことを主目的とする。
X·10·10 試験盛土の方法
試験盛土の方法は、試験の目的、盛土の規模、軟弱層の特性、対策工の種類等によって異なり、一律に定めら
れないが、
盛土施工に伴う軟弱地盤の挙動及び土性の変化等を詳細に把握できる方法を用いることが大切である。
X·11 地盤の液状化
X·11·1 液状化対策の基本
開発事業等に際しては、開発事業等実施地区及びその周辺域において、地震時の液状化現象により悪影響が生
じることを防止・軽減するため、液状化に対する検討を行い、適切な対策を行う必要がある。
X·11·2 液状化地盤の確認・調査
開発事業等に際しては、あらかじめ既存資料等により液状化地盤の分布状況を確認するものとする。
また、土地利用計画等を踏まえ、必要に応じて地盤調査、土質試験等を行い、開発事業等実施地区及びその周
辺域の液状化地盤の分布、液状化発生の可能性に関する判定等を行うものとする。
さらに、液状化が発生すると、周辺地形等の条件によっては地盤が側方流動することがあるため、地盤調査及
び土質試験のほか、周辺地形等の調査も必要になる。
X·11·3 液状化地盤の判定
液状化地盤の判定は、標準貫入試験、スクリューウエイト貫入試験、コーン貫入試験等の地盤調査結果、細粒
分含有率試験結果、地下水位の測定結果等を用いて行うことを標準とする。
また、必要に応じて判定結果に基づく液状化地盤の分布を示した地図(液状化マップ)を作成する。
X·11·4 液状化対策工法の検討
開発事業等実施地区又はその周辺域に液状化地盤が存在する場合には、地震時における地盤の液状化に伴う被
害及び悪影響の範囲並びに程度に関する十分な検討に基づき、土地利用計画、経済性、構造物等の重要性等を総
合的に勘案して対策工の必要性及びその範囲並びに程度について検討し、適切な対策工を選定するものとする。
また、地盤の液状化による被害又は悪影響が著しい場合には、土地利用計画を再検討することも必要である。
なお、液状化対策は実施の時期として、開発事業等の実施段階で行う場合とその後の建築物等の建設段階で行
う場合があり、対策の方針として、液状化の発生そのものを抑制する方法と液状化の発生を前提に建築物等の基
礎構造で対応する方法、さらに、それぞれを併用する方法があるため、最も適切な対応方法について十分な検討
が必要である。 19XI 自然斜面等への配慮
山地・森林等では地形や地下構造が複雑な上、雨水や地下水の流出過程も複雑である。さらに、山地斜面は、
土質や植生等の多様な要因の影響を受けて、微妙なバランスの上で安定性が保たれている場合もある。山地・森
林等における開発事業等に際しては、このような山地・森林等の場が有する複雑性や脆弱性を考慮した対応が必
要であり、盛土等により造成される地盤面のみならず、地形改変により周辺の自然斜面が不安定化する等の影響
を十分に調査し、自然斜面と盛土等を含めた全体の安定を考慮する必要がある。
特に、盛土等が周辺の雨水や地下水の流出過程の改変を引き起こすことや、流域界を越えて地下水が流入する
可能性があることに留意が必要である。
また、山地・森林、丘陵地等における開発事業等に際しては、土砂災害に関する法指定区域等に十分留意して、
適正な土地利用を図る等、開発事業等実施地区の安全を確保する。また、関係部局との相互の連携を充実させる
ものとする。
XII 治水・排水対策
XII·1 治水・排水対策の基本
XII·1·1 治水・排水対策の基本的な考え方
開発事業等においては、開発事業等実施地区及び周辺に溢水等の被害が生じないよう、当該地区内の雨水・地
表水や地下水並びに当該地区外から流入する雨水・地表水や地下水を安全に流下させるための治水・排水対策を
実施するものとする。
XII·1·2 治水・排水対策の種類
治水・排水対策は、開発事業等実施地区内の雨水(当該地区外から流入する雨水・地下水も含む。)を適切に
排出し、盛土のり面及び切土のり面の侵食、崩壊、地盤面の冠水等の被害を防止するための排水対策と開発事業
等に伴う流出形態の変化等による開発事業等実施地区及び下流域の洪水被害を防止するための治水対策に大別さ
れる。
治水対策は、さらに下流河川等の改修による対策と流出抑制施設による対策に分けられる。
XII·2 開発事業等実施地区内の排水施設
XII·2·1 排水施設の配置
開発事業等実施地区内の一般に次に掲げる箇所においては、排水施設の設置を検討しなければならない。
1)盛土のり面及び切土のり面(擁壁又は崖面崩壊防止施設で覆われたものを含む。)の下端
2)のり面周辺から流入し又はのり面を流下する地表水等を処理するために必要な箇所
3)道路又は道路となるべき土地の両側及び交差部
4)湧水又は湧水のおそれがある箇所
5)盛土が施工される箇所の地盤で地表水の集中する流路又は湧水箇所
6)渓流等の地表水や地下水が流入する箇所
7)排水施設が集水した地表水等を支障なく排水するために必要な箇所
8)その他、地表水等を速やかに排除する必要のある箇所
XII·2·2 排水施設の規模
排水施設の規模は、降雨強度、排水面積、地形・地質、土地利用計画等に基づいて算定した雨水等の計画流出
量を安全に排除できるよう決定する。
なお、開発事業等実施地区内に流出抑制施設として浸透施設等を設置した場合には、必要に応じて、その効果
を見込んで、排水施設の規模を定めることができる。
XII·2·3 排水施設の設計・施工上の留意事項
排水施設の設計・施工に当たっては、計画流出量を安全に排出する能力を有し、将来にわたりその機能が確保
されるよう、構造上及び維持管理上十分な配慮をする必要がある。
なお、地表面が不浸透性の材料で覆われるような太陽光発電施設の開発等においては、想定以上の排水により
周辺斜面を不安定化させるおそれがあることから、
排水施設の計画に係る流出係数の設定には注意が必要である。 20XII·3 開発事業等に伴う下流河川等の治水対策
XII·3·1 治水対策の基本的な考え方
開発事業等においては、事業等実施に伴う開発事業等実施地区下流の洪水被害を防止するため、治水対策を検
討することが必要である。
治水対策は、地域の自然及び社会条件、下流河川等及び周辺の状況、技術的及び経済的条件等を勘案し、当該
下流河川等の管理者との調整に基づき、安全で合理的かつ効果的な規模及び方法で実施しなければならない。
XII·3·2 治水対策の種類
開発事業等に伴い必要となる治水対策は、河川等の改修により河道の流下能力を増大させる方法、流出抑制施
設により洪水流出量を調節する方法及び両者の併用による方法に大別される。
XII·3·3 河川改修
XII·3·3·1 河川改修の設計上の留意事項
開発事業等に伴い必要となる河川等の改修に当たっては、当該河川等の特性、周辺の土地利用状況、下流河川
等の改修状況等を勘案し、次の各事項に十分留意して設計することが必要である。
1)当該水系の下流において現に実施されている河川改修事業と整合のとれた規模及び形態とすること
2)開発事業等による影響が下流に及んで、洪水被害を増大させることのないよう必要な改修区間を設定する
こと
3)河川等の管理者と十分調整を行うこと
XII·3·3·2 流量計算
河川等の改修計画の策定に当たっては、次の各事項を検討し、対象とする洪水の流量を設定する。
1)計画高水流量の算定
河川改修計画に必要となる計画高水流量は、一般に合理式を用いて算定する。
2)流出係数
合理式において用いる流出係数の値は、流域の地質、植生状況、将来における流域の土地利用状況等を考
慮して決定する。
3)平均降雨強度
合理式において用いる洪水到達時間内の平均降雨強度は、原則として、確率別降雨継続時間-降雨強度曲
線により求める。
また、河川改修計画の降雨確率については、当該水系の下流において現に実施されている河川改修事業と
整合のとれたものとなるように設定する。
XII·3·3·3 改修断面の決定
改修断面は、計画高水流量を安全に処理できるよう決定するものとする。
XII·3·4 調節(整)池
XII·3·4·1 調節(整)池の位置付け
調節(整)池は、開発事業等に伴い河川等の流域の流出機構が変化して、当該河川等の流量を著しく増加させ
る場合に、洪水調節のための施設として設置されるものである。
調節(整)池は、治水・排水対策において河川管理施設、下水道施設等として恒久的に管理される調節池及び
下流河川改修に代わる暫定的施設とされる調整池がある。
XII·3·4·2 調節(整)池設置のために必要な調査
調節(整)池の洪水調節容量、構造、堤体の構造及び施工方法等の検討に際しては、降雨特性、地盤の特性、
堤体の材料等について十分調査することが大切である。
XII·3·4·3 調節(整)池の設置位置
調節(整)池の設置位置を決定する際には、地形及び地質並びに河川及び沢の特性、基礎地盤等について十分 21に把握しておくことが大切である。
XII·3·4·4 洪水調節方式
調節(整)池の洪水調節方式は、原則として自然放流方式とする。
XII·3·4·5 調節(整)池の計画
調節池の計画については、「防災調節池技術基準(案)」により、調整池の計画については、「大規模宅地開
発に伴う調整池技術基準(案)」によることを原則とする。
XII·3·4·6 調節(整)池の構造
調節池の構造については、「防災調節池技術基準(案)」により、調整池の構造については、「大規模宅地開
発に伴う調整池技術基準(案)」によることを原則とする。
XII·3·4·7 堤高
調節(整)池の堤高は、高さ15メートル未満とすることを原則とする。
XII·3·4·8 堤体の施工
堤体の施工については、調節池の場合は「防災調節池技術基準(案)」により、調整池の場合は「大規模宅地
開発に伴う調整池技術基準(案)」によることを原則とする。
XII·3·4·9 下流河川等への接続
下流河川等への接続については、土地利用、周辺の開発状況、地形等を勘案の上、下流の人家、道路等への被
害が生じないように配慮するものとする。
特に、洪水吐き末端には減勢工を設けて、洪水吐きから放流される流水のエネルギーを減勢処理する必要があ
る。
XII·3·4·10 調節(整)池の多目的利用
調節(整)池は、公園、運動場施設等として多目的に利用できる。
なお、多目的利用に当たっては、原則として「宅地開発に伴い設置される洪水調節(整)池の多目的利用指針
(案)」によるものとする。
XII·3·4·11 維持管理
完成後の堤体の安定及び調節(整)池の機能を確保するため、維持管理を十分に行う必要がある。
XII·3·5 オンサイト貯留施設
XII·3·5·1 オンサイト貯留施設の設置
オンサイト貯留施設は、土地利用計画に配慮し貯留時においても利用者の安全が確保できるとともに、流出抑
制機能の継続性及び良好な維持管理が可能な場所に設置するものとする。
XII·3·5·2 オンサイト貯留施設の計画及び設計
オンサイト貯留施設の計画及び設計については、「流域貯留施設等技術指針(案)」によることを原則とする。
XII·3·5·3 オンサイト貯留施設の維持管理
オンサイト貯留施設の維持管理は、設置場所の土地利用、施設の構造等に応じて適切に行うものとする。
XII·3·6 浸透型施設
XII·3·6·1 浸透型施設の選定
開発事業等において用いる浸透型施設には、井戸法による施設及び拡水法による施設がある。
開発事業等において浸透型施設を設置する場合は、設計浸透量が確実に浸透するよう、施設の種類及び構造を 22選定することが必要である。
また、造成宅地及び農地等としての安全性の観点から斜面等の地形について調査し、浸透型施設の設置可能な
範囲を設定する。
さらに、浸透型施設は地下水の涵養、低水流量の保全等の水循環を保全する機能を有するため、このような効
果にも配慮して計画することが大切である。
ただし、浸透型施設の設置に当たっては、土壌内の水分量の増加が盛土又は斜面の崩壊を引き起こすおそれが
あることを踏まえ、盛土又は斜面全体の安定性について事前に十分な検討を行い、災害の防止上支障がないこと
を確認する必要がある。
なお、
浸透型施設のうち拡水法及び井戸法による施設の調査、
計画、設計、
施工及び維持管理については、
「宅
地開発に伴い設置される浸透施設等設置技術指針」によることを原則とする。
XII·3·6·2 地盤の浸透能力の評価
地盤調査、現地浸透試験等の結果をもとに、浸透可能範囲における地形区分面ごとの浸透能力の評価を行うと
ともに、浸透能力マップ等にとりまとめる。
現地浸透試験の方法、浸透能力の評価手法及び浸透能カマップの作成法は、「宅地開発に伴い設置される浸透
施設等設置技術指針」によることを原則とする。
XII·3·6·3 浸透型施設の構造、施工及び維持管理
浸透型施設は、地質構成、集水区域、設置場所の土地利用等を配慮して、浸透機能が効果的に発揮できる構造
形式を選定し、確実な施工を行うとともに、浸透機能を継続的に保持するために必要な維持管理を適切に行わな
ければならない。
XII·4 治水・排水対策における環境対策の基本的な考え方
開発事業等における治水・排水対策の検討に当たっては、土地利用計画等を勘案した上で、水循環、水辺の景
観、生態系等の水に係る環境を保全するよう努めることが望ましい。
XIII 工事施工中の防災措置
XIII·1 工事施工中の防災措置の基本的な考え方
開発事業等においては、一般に、広範囲にわたって地形、植生状況等を改変するので、工事施工中の崖崩れ、
土砂の流出等による災害を防止することが重要である。したがって、気象、地質、土質、周辺環境等を考慮して、
適切な防災工法の選択、施工時期の選定、工程に関する配慮等、必要な防災措置を工事に先行して講ずるととも
に、防災体制の確立等の総合的な対策により、工事施工中の災害の発生を未然に防止することが大切である。
XIII·2 工事施工中の仮の防災調整池等
工事施工中においては、急激な出水、濁水及び土砂の流出が生じないよう、周辺の土地利用状況、造成規模、
施工時期等を勘案し、必要な箇所については、濁水等を一時的に滞留させ、あわせて土砂を沈澱させる機能等を
有する施設を設置することが大切である。
XIII·3 簡易な土砂流出防止工(流土止め工)
周辺状況、工事現場状況等により、開発事業等実施地区外へ土砂を流出させないようにするため、仮の防災調
整池等によらず、ふとんかご等の簡易な土砂流出防止工(流土止め工)を用いる場合には、地形、地質状況等を
十分に検討した上で、その配置及び形状を決定することが大切である。
XIII·4 仮排水工
工事施工中の排水については、開発事業等実施地区外への無秩序な流出をできるだけ防ぐとともに、当該地区
内への流入及び直接降雨については、のり面の流下を避け、かつ、地下浸透が少ないように、速やかに仮の防災
調整池等へ導くことが大切である。 23XIII·5 のり面からの土砂流出等の防止対策
人家、鉄道、道路等に隣接する重要な箇所には、工事施工中、のり面からの土砂の流出等による災害を防止す
るために柵工等の対策施設を設けることが大切である。
XIII·6 表土等を仮置きする場合の措置
工事施工中に、表土等の掘削土を開発事業等実施地区内に仮置きするような場合には、降雨によりこれらの仮
置き土が流出したり、濁水の原因となったりしないように適切な措置を講ずることが大切である。
XIII·7 工事に伴う騒音・振動等の対策
工事現場周辺の生活環境に影響を及ぼし、住民への身体的・精神的影響が大きいと考えられる次の各事項につ
いては、適用法令を遵守するとともに、十分にその対策を講ずる必要がある。
1)騒音
2)振動
3)水質汚濁、塵埃及び交通問題
XIV その他の留意事項
XIV·1 注意すべきその他の地盤
開発事業等実施地区内に、その工学的特徴について十分に配慮しなければならないような地盤が存在する場合
には、その安全性等について十分な調査・検討を行うことが必要である。
XIV·2 建設副産物に対する基本的な考え方
開発事業等に伴う建設副産物は、その発生を抑制することが原則であるが、やむを得ない場合は、積極的に再
利用又は再資源化を推進することにより資源の有効な利用確保を図るとともに、適正処理の徹底を行うことが重
要である。また、他の建設工事で発生した建設発生土を有効利用することは、建設発生土の需要を拡大し、不法
な盛土等の発生の防止を図る上でも重要である。
XIV·3 建設発生土の搬出先の明確化
建設発生土の取扱いについては、不法な盛土等の発生及び建設発生土の不適正な利用等を防止する観点から、
搬出先の適正確保と資源としての有効活用を一体的に図っていくことが建設発生土の不適正処理の防止に効果的
である。
公共工事においては、工事の発注段階で建設発生土の搬出先を指定する等の指定利用等の徹底を図ることが重
要である。その他、継続的に大規模な建設工事を発注している民間発注者においては、公共工事の発注者と同様
に、指定利用等の取組の実施や、それが困難な場合でも元請業者により建設発生土の適正処理が行われることを
確認することが重要である。
また、公共及び民間工事において、元請業者は資源の有効な利用の促進に関する法律等に基づく再生資源利用
促進計画制度により、建設発生土を一定規模以上搬出する建設工事について搬出先の明確化を図るものとする。
XIV·4 環境に対する配慮
開発事業等における防災措置の実施に当たっては、周辺景観との調和に配慮するとともに、開発事業等実施地
区及び周辺の自然環境の保全に努めるものとする。
XV 施工管理と検査
XV·1 施工管理
XV·1·1 施工管理の基本的な考え方
工事の実施に当たっては、所定の工期内に安全かつ効率的に工事を進め、所要の品質を確保し、許可の内容に
適合するよう完成させるため、適切な施工管理を行うことが大切である。
特に、工事中を含め、災害の防止のための施工管理が重要である。 24XV·1·2 施工管理上の留意事項
開発事業等実施地区における災害を防止するために必要な施工管理は、気象、地形、地質等の自然条件、開発
事業等実施地区の規模、資金計画等を考慮した上で、施工時期及び工程の調整、防災体制の確立等をあわせた総
合的な対策を立て適切に行うことが大切である。
施工管理における主な留意事項は次のとおりである。
1)常に工事の進捗状況を把握し、計画と対比しながら必要な対策をとること
2)各工種間の相互調整を図り、不良箇所が発生したり、手戻りとなったりしないよう注意すること
3)定期的及び必要に応じて測定、試験等を行い、災害防止のため必要な措置を確実かつ効率的に行うこと
4)降雨予測等の気象情報に注意するとともに、自然現象の変化に適切に対応して、可能な限り事前に災害防
止対策を施すよう努めること
5)工事の経過、計画変更、対策の内容等について図面・写真等の関係図書を整備し、工事の内容を明らかに
しておくこと
6)工事の進捗に応じ、適切に検査及び定期報告を実施する必要があるため、検査時期及び工程の調整を綿密
に行うこと
7)その他、開発事業等実施地区周辺への配慮も行うこと
XV·2 検査・定期報告
XV·2·1 検査・定期報告の基本的な考え方
検査は、開発事業等が盛土規制法又は都市計画法の許可の内容に適合し、適正に施工されていることを確認す
るため、盛土及び切土工事の各段階で行う中間検査と工事完了時に行う完了検査を行うものとする。また、工事
完了時までの3か月ごとに定期報告を行うものとする。
XV·2·2 検査・定期報告の方法
検査は、一般に、設計・施工についての図面・写真等の関係図書による審査、目的物の目視及び検測により行
われる。また、必要に応じて破壊検査が考慮される場合がある。
XV·2·2·1 中間検査
中間検査は、施工後に確認することのできない箇所について行うものであり、盛土及び切土の安定性にかかわ
る重要な検査となる。また、中間検査の結果により是正対策が必要と判断される場合は、是正後に改めて再検査
を実施し、検査完了後に次の施工工程に進む必要がある。
中間検査の対象となる特定工程は、
盛土及び切土における暗渠排水等の排水施設を設置する工事の工程であり、
その他各自治体が条例で定める特定工程についても対象とする。
XV·2·2·2 完了検査
完了検査は当該工事が開発事業等の許可の内容に適合していることを判定するものであり、本検査においては
盛土及び切土の安定及び機能に影響を及ぼすことのないことを確認する必要がある。
XV·2·2·3 定期報告
定期報告は、工事完了時までの3か月ごとに、工事の進捗状況等について定期報告書を用いて報告を行う。ま
た、定期報告の結果により対策が必要と判断される場合は、対策に応じる必要がある。
定期報告の対象となる報告事項は、報告の時点における盛土又は切土の高さ、面積及び土量、並びに擁壁等に
関する工事の進捗状況であり、その他各自治体が条例で定める報告事項についても対象とする。
XV·2·3 検査・定期報告に当たっての留意事項
検査・定期報告は、工事の施工全般に対して効率的かつ確実に行い、その実施に当たっては、特に、次の各事
項に留意することが大切である。
1)開発事業者等(工事の施工者)に、工事内容、出来形等について裏付けとなる関係図書を整備させること
2)検査に当たっては、工事の責任者等工事内容の説明できる者に立会いを求めること
3)工事の途中において行う中間検査は、進渉状況、工程等を考慮して適切な時期に行うこと 254)検査・定期報告の結果、不適当な箇所がある場合には、速やかに必要な対策を講じさせ、再度、検査・確
認を行うこと
XVI 土石の堆積
XVI·1 土石の堆積の定義
土石の堆積とは、盛土規制法で指定される規制区域において行われる、一定期間を経過した後に除却すること
を前提とした、土石を一時的に堆積する行為である。
なお、土石の堆積の許可期間は最大5年とする。
XVI·2 土石の堆積の基本的な考え方
土石の堆積は、行為の性質上、締固め等の盛土の崩壊防止に資する技術的基準を適用することは適当ではない
ことを踏まえ、崩壊時に周辺の保全対象に影響を及ぼさないよう空地や措置を設けることを基本とする。
堆積箇所の選定に当たっては、法令等による行為規制、自然条件、施工条件、周辺の状況等を十分に調査する
とともに、関係する技術基準等を考慮し、周辺への安全性を確保できるよう検討する必要がある。
土石を堆積する土地(空地を含む)の地盤の勾配は10分の1以下とする。ただし、堆積した土石の崩壊が生じ
ないよう設計する場合はこの限りではない。また、地表水等の浸透による緩み等が生じない措置が必要である。
土石の堆積形状は、周辺の安全確保を目的とし、次のいずれかによる周辺の安全確保及び柵等の設置が必要で
ある。
1)堆積する土石の高さが5メートル以下の場合、当該高さを超える幅の空地の設置
2)堆積する土石の高さが5メートル超の場合、当該高さの2倍を超える幅の空地の設置
なお、これらの措置については、鋼矢板等その他必要な措置に代えることができる。
また、雨水その他の地表水により土石の崩壊が生じないよう、適切な排水措置等が必要である。
XVI·3 土石の堆積の設計・施工上の留意事項
土石の堆積の設計・施工に当たっては、次の各事項に留意することが大切である。
1)原地盤の処理
堆積の基礎となる原地盤の状態は、現場によって様々であるので、現地踏査、土質調査等によって原地盤
の適切な把握を行うこと。
2)計画
周辺の安全確保が可能な堆積形状や空地、土石の崩壊に伴う流出を防止する措置を計画すること。
雨水その他の地表水により土石の崩壊が生じないよう、適切な排水措置等を行い、堆積した土石の安定を
図ること。
堆積する土石の安全な運搬経路を確保すること。
3)土石の受け入れ
堆積する土石を受け入れる際には、土石が計画の材質であることを確認すること。
XVI·4 堆積した土石の崩壊やそれに伴う流出を防止する措置
XVI·4·1 定義
堆積した土石の崩壊やそれに伴う流出を防止する措置とは、空地を設けない場合や土石を堆積する土地(空地
を含む)の地盤の勾配が10分の1を超える場合において、堆積した土石の流出等を防止することを目的とした措
置である。
XVI·4·2 種類と選定
堆積した土石の崩壊やそれに伴う流出を防止する代表的な措置として、次のものが挙げられる。
1)地盤の勾配が10分の1を超える場合の措置
土石の堆積を行う面(鋼板等を使用したものであって、勾配が10分の1以下であるものに限る。)を有す
る堅固な構造物を設置する措置その他の堆積した土石の崩壊を防止すること。
措置の選定に当たっては、設置箇所の自然条件、施工条件、周辺の状況等を十分に調査するとともに、堆
積する土石の土圧等に十分に耐えうる措置を選定しなければならない。 262)空地を設けない場合の措置
1 堆積した土石の周囲にその高さを超える鋼矢板又はこれに類する施設を設置すること。
2 堆積した土石の斜面の勾配を土質に応じた安定を保つことができる角度以下とし、堆積した土石を防水
性のシートで覆うこと等により、雨水その他の地表水が侵入することを防ぐこと。
XVI·4·3 設計・施工方法
堆積した土石の崩壊やそれに伴う流出を防止する措置の設計・施工に当たっては、土石の最大堆積時に発生す
る土圧等に対して、堆積した土石の崩壊やそれに伴う流出を防止する措置に求められる性能に応じた安全性の検
討が必要である。
XVI·4·4 検査方法
堆積した土石の崩壊やそれに伴う流出を防止する措置の施工完了時には、適切な施工がされているか検査を実
施する。検査方法は各基準に準拠したものとする。
XVI·5 土石の堆積の検査・定期報告
土石の堆積が許可時の最大形状内に収まっていること、堆積した土石の崩壊やそれに伴う流出を防止する措置
等が適正に施工されていること、堆積行為が計画どおりに運用されていることを確認するため、工事完了時まで
3か月ごとに定期的に報告を行わせる必要がある。また、堆積した土石の崩壊やそれに伴う流出を防止する措置
の設置完了時には検査を行う必要がある。
定期報告は、一般に、設計・施工についての図面・写真等の関係図書の提出により行われる。
検査・定期報告は、工事の施工全般とその後の運用に対して効率的かつ確実に行い、その実施に当たっては、
特に次の各事項に留意することが大切である。
1)堆積事業者(工事の施工者)に、工事内容、堆積形状について裏付けとなる関係図書を整備させること
2)堆積した土石の崩壊やそれに伴う流出を防止する措置の検査に当たっては、工事の責任者等工事内容の説
明できる者に立会いを求めること
3)堆積した土石の運用状況を正確に報告させ、計画から逸脱していないかを確認すること
4)土石の除却完了時には、完了確認を実施すること
5)検査・定期報告の結果、不適当な箇所がある場合には、速やかに必要な対策を講じさせ、再度、検査・確
認を求めること

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