インフラ経営の実践による
ストック効果の分析のための
ガイダンス
令和6年5月
国土交通省総合政策局
改訂履歴
版 改定年月 改定内容
1.0(初版) 令和6年5月 -
目 次
1. はじめに.................................................................................................... 1-1
1.1 インフラ経営とは.............................................................................................. 1-1
1.2 ガイダンスの趣旨............................................................................................. 1-1
1.3 ガイダンスの利用者と使い方.............................................................................. 1-1
1.4 ガイダンスで着目するインフラ経営の効果と現行の事業評価の関係性 ....................... 1-2
2. ストック効果の分析 ...................................................................................... 2-1
2.1 分析の基本的な考え方..................................................................................... 2-1
2.2 統計分析手法の紹介 ....................................................................................... 2-2
2.2.1 差の差法(Difference in Differences)の概要................................................................... 2-2
2.2.2 処置群、対照群の設定方法........................................................................................ 2-3
2.2.3 推定式.................................................................................................................... 2-4
2.2.4 分析結果の取扱いに関する注意点.............................................................................. 2-5
2.2.5 参考:英国における政策の事後評価・経済分析の取組 .................................................... 2-5
3. 活用する地価データの紹介 .......................................................................... 3-1
3.1 地価データを採用する理由 ............................................................................... 3-1
3.2 様々な地価データのメリット・デメリット................................................................... 3-1
3.3 固定資産税路線価を利用する際の留意点............................................................ 3-2
3.4 ストック効果分析のための地価データの整備方法(パネルデータの整備方法)............. 3-3
4. ビッグデータを用いた地価変化の補足分析...................................................... 4-1
4.1 補足分析の目的.............................................................................................. 4-1
4.2 ビッグデータの定義と主要なデータ類型............................................................... 4-1
4.3 補足分析の手順.............................................................................................. 4-2
4.4 ビッグデータを取り扱う際の基本的な留意事項 ...................................................... 4-3
4.5 本ガイダンスの効果分析事例で用いるビッグデータの紹介 ...................................... 4-5
4.5.1 概要 ....................................................................................................................... 4-5
4.5.2 効果分析事例で扱う各ビッグデータの利用上の特記・留意事項 ........................................ 4-5
5. 効果分析事例 ............................................................................................ 5-1
5.1 対象事業と分析方針 ........................................................................................ 5-1
5.2 分析対象の事業一覧 ....................................................................................... 5-1
5.3 姫路市 大手前エリア ....................................................................................... 5-2
5.3.1 事業概要................................................................................................................. 5-2
5.3.2 地価データによる分析 ............................................................................................... 5-4
5.3.3 ビッグデータによる分析.............................................................................................. 5-7
5.4 岡崎市 乙川リバーフロント地区........................................................................ 5-15
5.4.1 事業概要................................................................................................................5-15
5.4.2 地価データによる分析 ..............................................................................................5-17
5.4.3 ビッグデータによる分析.............................................................................................5-20
5.5 福岡市 市営水上公園・県営天神中央公園 ........................................................ 5-28
5.5.1 事業概要................................................................................................................5-28
5.5.2 地価データによる分析 ..............................................................................................5-30
5.5.3 ビッグデータによる分析.............................................................................................5-33
5.6 松山市 花園町通り ........................................................................................ 5-41
5.6.1 事業概要................................................................................................................5-41
5.6.2 地価データによる分析 ..............................................................................................5-44
5.6.3 ビッグデータによる分析.............................................................................................5-47
5.7 新潟市 信濃川やすらぎ堤(萬代橋〜八千代橋、右岸側)...................................... 5-50
5.7.1 事業概要................................................................................................................5-50
5.7.2 地価データによる分析 ..............................................................................................5-52
5.7.3 ビッグデータによる分析.............................................................................................5-55
6. ストック効果最大化のための考察の考え方 ....................................................... 6-1
6.1 対照群に対して処置群の地価が有意に高いケース ................................................ 6-1
6.2 対照群に対して処置群の地価が有意に高くないケース ........................................... 6-2
7. 今後の本ガイダンスの活用に向けて ............................................................... 7-1
7.1 分析補助とその方針......................................................................................... 7-1
7.2 ご相談・お問い合わせ先 ................................................................................... 7-1
7.3 今後の予定 .................................................................................................... 7-1
8. 【参考】ロジックモデルを用いた効果波及過程の確認 ......................................... 8-1
8.1 ロジックモデルの考え方(例).............................................................................. 8-1
8.2 ロジックモデル作成例 ....................................................................................... 8-2 1-11. はじめに
1.1 インフラ経営とは
人口減少が進み、厳しい財政状況が続く中で、国民の生活に必要不可欠なインフラの持続可能性を高
めるためには、インフラを国民が保有する「資産」として捉え、「インフラ経営」を効果的に実践することが必
要となってくる。この考え方は、第 5 次社会資本整備重点計画(令和 3 年 5 月閣議決定)で示した概念で
あり、インフラのストック効果を最大化させる観点から、整備・維持管理・利活用の各段階において、工夫を
凝らした新たな取組を実施することにより、インフラの潜在力を引き出すとともに、インフラによる新たな価
値を創造し、持続可能性を高める基本的な考え方・方針を明示した。
具体的には、産学官・地域住民がインフラの効率的・効果的な整備・維持管理・利活用という「経営」に
参画し、DX・新技術の活用、多面的な利活用等あらゆる創意工夫により、防災・減災、地域経済の活性
化、生活空間の快適性等のインフラの価値・効果を中長期的に創出し、または高める取組を指す。このよ
うなインフラ経営の考え方を浸透させ、各地域で実践することにより、持続可能な社会の実現に向けた諸
課題の解決に貢献することが期待される。
1.2 ガイダンスの趣旨
「インフラ経営」を実践し、促進していくことの重要性は上述の通りであるが、他方で、その効果をどのよ
うに評価し、振り返り、今後のアクションを決定していくかについての指針は未だ存在しない。今後、インフ
ラに関わる主体(例えば、産学官・地域住民など)が「インフラ経営」を実践していく上で、関連プロジェクト
を含む取組が地域に対してどのような効果を有しているのかを客観的・定量的に把握することは、当該プ
ロジェクトの目指す方向性にどの程度合致しているかを確認し、関連プロジェクトの関係者が教訓や知見
を得ることに繋がり、また、国民に対する行政の説明責任や EBPM(Evidence Based Policy Making:証拠
に基づく政策立案)の観点からも重要である。
このような状況に鑑み、今般、国土交通省では、インフラ経営の実践に関わるステークホルダーがプロ
ジェクトの効果を事後的に検証し、客観的な判断のもと、次なるアクションを講じるための指針を示すことと
した。本ガイダンスはそのための具体策であり、効果的なインフラ経営の実践とその更なる普及を企図し
たものである。ガイダンスの作成においては、政策の事後的な効果検証として英国で実施されている
Evaluation(事後的な検証としてのインパクト分析)を参考とした。英国の取組については「2.2.5 参考:英
国における政策の事後評価・経済分析の取組」で紹介する。
そこで、本ガイダンスでは分析のターゲットとする「インフラ経営の効果」の生活の質の向上効果に着目
し、当該効果を発揮したプロジェクトにおける分析方法を解説することとし、ガイダンスを構成している。な
お、他のインフラ経営の効果の分析手法の検討と本ガイダンスの改訂を、今後継続していく。
1.3 ガイダンスの利用者と使い方
本ガイダンスは、まちづくり事業等を所管する自治体職員、国土交通省の地方整備局職員等を主な対
象にしている。ただし、実際の効果分析を行うためには、統計的な解析・検定を行うプログラムや GIS(地
理空間情報システム)を用いた分析が必要とされる等、高度な専門的・技術的知見を要する。これらの解
説までも本ガイダンスの対象とすることは、「インフラ経営」の効果分析を手引きするという本ガイダンスの
趣旨からやや外れ、また、内容や構成が複雑になることで、却って利用者の利便性を損ねるものと考えら 1-2れる。
そこで、専門的・技術的な分析手法に関する解説は最小限度に留め、分析方法の基本的な考え方、対
応方針、大きな流れについて理解を促す構成としている。したがって、専門的・技術的知見を要する箇所
も含めた一連の効果の確認プロセスを、本ガイダンス利用者が独力で完結することは、比較的難易度が
高いものと予想される。このため、効果の確認の中で適宜、有識者から助言を得ることや、外部へ業務委
託することも想定される。このような場合において、本ガイダンスが果たす役割は、当該有識者や外部委
託業者とのコミュニケーションツールとしての機能である。すなわち、本ガイダンスの対象となる「インフラ経
営」の実践プロジェクトが、どのような成果を目指していくのか、あるいは、効果の確認ステップや作業量が
どのくらいであるのか、そして、その確認結果を踏まえてどのように改善策を講じていくのか、これらについ
てあらかじめプロジェクトのステークホルダーが共通認識を得ておくことで、コンサルティングが効率的か
つ効果的になされることを期待するものである。また、効果の確認プロセス全体の流れを見通すことで、プ
ロジェクトに関わる関係者の作業分担が円滑かつ公平になされるという効果も期待される。
なお、外部からの手を借りず、独力で効果の確認を試みる場合も当然あろう。そのようなケースも考慮し、
特に技術的知見を要する箇所については、参考となる文献や書籍を脚注で紹介している。適宜参考にさ
れたい。また、本ガイダンスを自治体職員、地方整備局職員等が活用される際において、国土交通省総
合政策局社会資本整備政策課が支援を行う予定である。この点については、「7. 今後の本ガイダンスの
活用に向けて」において詳述する。
1.4 ガイダンスで着目するインフラ経営の効果と現行の事業評価の関係性
現行の事業評価における便益および効果と本ガイダンスで取り扱う「インフラ経営の実践によるストック
効果」の概念の違いを図 1-1 に示す。現行の事業評価における便益の計測は、投資額と比較することで
費用便益比を算出することが目的であることから、公共投資のみに着眼した計測を行う。一方、インフラ経
営の実践によるストック効果の計測では、公共投資のみならず公共投資をトリガーとして生じた民間や自
治体による関連投資や関連するソフト事業による影響を含めた効果を計測する。この包括的な効果を計
測することでインフラ経営の実践が地域に効果をもたらしているかを確認することに分析の主眼をおくこと
が本ガイダンスにおける効果計測の位置づけである。
図 1-1 本ガイダンスによる効果計測のターゲット 2-12. ストック効果の分析
2.1 分析の基本的な考え方
インフラ経営に基づくにぎわいの創出効果を分析するにあたり、本ガイダンスでは、「地価の変化」に着
目する。この前提として、「インフラ経営の実践に基づくにぎわいの創出等の効果」が、最終的には地価に
帰着するものと仮定している。例えば、インフラ経営によって地域の魅力が高まり、来訪者が増加し、そし
て様々な消費活動が活発化することで地価の上昇につながるといった波及経路が考えられる。本ガイダ
ンスでは、こういった地価上昇が人々の満足度(効用)向上の帰結先であるとした上で「地価」を用いた分
析の手順を示す。実際、この仮定は、経済学の分野で提唱されている 1
もので、「キャピタリゼーション仮説2」と呼称される。すなわち、施設の整備等によってインフラの質が高まり、例えば土地などから得られる収
益が増加することにより、土地の資産価値である地価を上昇させるといった過程を想定したものである。こ
のような仮定を用い、インフラ経営に基づく政策・事業の実践によるストック効果が地価に反映される結果
として分析を講じる。
また、「地価の変化」を補足的に説明するために、地価の変化に至る「地域の魅力向上」「来訪者増加」
「消費活動の活性化」について、後述する「ビッグデータ」を用いた要因分析の事例も併せて説明する。
「ビッグデータ」による要因分析の具体的な手法については、「4.ビッグデータを用いた地価変化の補足分
析」を参考とされたい。「ビッグデータ」を用いた要因分析はあくまで「地価の変化」を補足的に説明するた
めに行われるものであり、ビッグデータの購入の推奨を意図するものではない。
図 2-1 に本分析の基本的な考え方を示す。インフラ経営の考え方に基づき公共投資のみならず民間
による関連投資とも連携した地域のにぎわい創出に取り組む事例を対象に、統計分析の手法を活用した
インフラ経営による地価変化の分析方法を示す。そのうえで、分析結果を基に、インフラ経営によるストッ
ク効果を最大化するためのレッスン(知見・教訓)を蓄積する際の考え方を示す。また、ここでのストック効
果を最大化するためのレッスンとは、単にインフラ経営による成功例を蓄積することのみならず、失敗例か
ら得られる知見・教訓を蓄積することも指す。つまり、インフラ経営の実践により、統計学的な有意性が確
認され地価が上昇している場合 3
は、「インフラ経営として、どのような施策の組み合わせが地価の変化に
効果的であったか、地価変化に対して公共投資(ハード整備)がトリガー要素として機能しているか、更な
る地価向上のための施策は検討可能か」等に関するレッスンを蓄積する。一方、地価が有意に上昇して
いない場合は、「地価の上昇が見られない、地価の変化が無い要因は何か、その要因に対して追加的な
対策は可能か、インフラ経営の観点から、ソフト的な対応は十分だったか」等についてレッスンを蓄積する。1国土技術政策総合研究所「外部経済評価の解説(案)」(平成16年6月)2キャピタリゼーション仮説とは投資の便益が全て地価に帰着するという考え方。 出典:土地区画整理事
業における費用便益分析マニュアル(案),国土交通省 都市・地域整備局(平成 21 年 7 月)3ここでは、直感的なわかりやすさを優先し、「地価が上昇」との表現を用いたが、本ガイダンスで示す分析
事例では、「2.2.1」で述べる「差の差法(Difference in Differences)」を用いた分析を実施しているため、厳
密には、「処置群における地価の伸び率が対照群における地価の伸び率より高い(もしくは低い)」との表
現が正確である。以降の文章においても「有意に地価が高い(または低い)」といった表現を用いるが、これ
は、「処置群における地価の伸び率が対照群における地価の伸び率より高い(もしくは低い)」との意であ
る。なお、統計学的有意性の詳細は、別途統計に関する書籍を参照いただきたい。 2-2図 2-1 分析の基本的な考え方
2.2 統計分析手法の紹介
2.2.1 差の差法(Difference in Differences)の概要
本ガイダンスでは、ストック効果の分析にあたり、統計分析手法の一つである「差の差法:Difference in
Differences(以降、DID 法)4
」を用いる。このような統計分析手法の利用の目的は、「政策による因果効
果を抽出」するためである。単に、地価データの政策実施前後の比較のみでは、例えば、地域や国全体
の景気動向による影響など政策と関係ない要素が含まれることから、政策による効果であるのか、経済
全体のトレンドによるものなのか等を識別することが出来ない。
DID 法は、簡易的に政策による効果を抽出する手法として、近年、事後的な政策効果分析を行う際に
活用が進んでいる手法 5
であり、英国では交通政策に関する事後的な経済効果分析の手法の一つとし
て DID 法を示している 6
。DID 法では、まず地域を処置群(政策の影響がある地域)と対照群(政策の影
響がない地域)に分ける。そして、図 2-2 に示すように、処置群の前後の差から対照群の前後の差を差
し引くことで、トレンドの影響を取り除き、政策の因果効果を計測する。ただし、処置群、対照群は以下の
2 つの仮定を満たす必要がある。
 平行トレンド仮定:もし仮に政策が行われなかった場合、処置群、対照群の地価は平行したトレン
ドを描くこと。
 共通ショック仮定:政策実施前後の間に、地価に影響を与える「別のイベント」は起きていない、も
しくは起きているとしたら 2 群に対して同じように作用していること。4入門解説は,例えば,中室牧子・津川友介:原因と結果の経済学,ダイヤモンド社,2017.等を参照5例えば,岡本千草,佐藤泰裕:九州新幹線が都市集積の地価に与える影響の分析,P32-33,自動車交
通研究 環境と政策 2020.など6UK Department for Transport: Transport Analysis Guidance, TAG unit E-1 Evaluation
(https://www.gov.uk/government/publications/tag-unit-e-1-evaluation) 2-3図 2-2 DID 法の概念図
2.2.2 処置群、対照群の設定方法
政策を実施する地域において、上述した 2 つの仮定(平行トレンド仮定と共通ショック仮定)を念頭に、
政策の影響がある地域を処置群、無い地域を対照群として設定する。ここでは、既往の様々な分析事例
で活用されている考え方 7
を紹介する。図 2-3 に示すように、処置群は政策の影響がある半径 Xm 以内
に含まれる地価データとし、対照群は政策の影響がない X〜Ym の地価データを対象とする。
図 2-3 処置群および対照群の設定方法の例
処置群と対照群は、政策の影響範囲がどの程度まで広がっているかを考え設定する必要がある。図7例えば,高野佳佑:高速道路開業と雇用水準の変化,事例で学ぶ経済・政策分析のための GIS 入門
(河端瑞貴編著),P138-152,2022.
対照群
例えば、処置群は、政策の影響がある����m
以内の地点を対象とし,対照群は政策の
影響がない����〜��mの地点を対象とする。
政策実施箇所
処置群
��m
��m 2-42-4 に具体的な検討例を示す。政策実施箇所から半径 100m 単位でバッファを設けて、各距離帯別の
地価データの平均値を算出し、その時系列変化を図化すると、半径 200m 以内の地価は政策実施後、
半径 200m 以上の地価の変化に比べて上昇傾向が見られる。この場合、処置群を半径 200m 以内、対
照群を半径 200m 以上で設定し分析を試みる価値はあると考えられる。
ただし、ここでは単純に円形を前提に整理しているが、地域の状況に応じて、政策の影響範囲を見定
めたうえで特性反映した処置群と対照群の設定が望ましい。本ガイダンスにおける地価データの分析に
おいても、この試行を実施しているため、参考とされたい。
図 2-4 政策実施場所からの半径 100m 毎の平均地価の時系列推移(例)
2.2.3 推定式
DID 法による政策効果分析のための推定式を以下に示す。推定は統計解析ソフト 8
等を用いることで
比較的容易に可能である。また、推定方法については、多くの書籍が出版(例えば、松浦(2021)9
等)さ
れていることから各書籍を参照いただきたい。なお、推定式にはいくつかのタイプがあるが、ここでは片
側対数型を採用しており左辺は自然対数を用いている点に留意されたい。8例えば,Stata(https://www.lightstone.co.jp/stata/)や R 言語による解析等9松浦寿幸:Stata によるデータ分析入門 第 3 版 〜経済分析の基礎から因果推論まで〜,東京図書,
2021.050,000
100,000
150,000
200,000
250,000
H19路線価 H21路線価 H24路線価 H27路線価 H30路線価 R3路線価
(円/m2)
0〜100m
100〜200m
200〜300m
300〜400m
400〜500m
500〜600m
600〜700m
700〜800m
800〜900m
900〜1000m
1000m〜
�������������������� = ���� + � � ��������������������
����
��
+ � ����������������
����
+ � ����������������
����
+ �������
政策の因果効果
定数 年次ダミーに関
するパラメータ
路線ダミーに関
するパラメータ
政策実施 2-52.2.4 分析結果の取扱いに関する注意点
DID 法は、対照群の地価トレンドに対して処置群の地価トレンドが有意に高いかどうかを分析する手法
である。その効果は、純粋な新規の誘発需要(例えば、これまで家で過ごしていた方が街に出るケース
等)のみならず、他の地域から来訪者や事業者を奪い取った結果、生じる可能性もある。そのため、本分
析結果を用いて、社会全体の効用が上がったと判断するのは難しい。事業実施地域周辺は地価上昇に
よる効用増加の恩恵を受ける一方で、来訪者や事業者が吸い取られる地域では、逆に、地価下落によ
る効用減少の事態を生じている可能性もあることに注意が必要である。本分析で分かることは、政策を展
開した地域で効果が生じているかどうかである。
インフラ経営の効果のうち、にぎわいの創出等を実践する地域の多くは、商業地域であるものと推察さ
れる。地価は商業地域と住宅地域で時系列的な推移が異なる傾向があることから、処置群・対照群内に、
商業地と住宅地がなるべく混在しない方が望ましい。また、政策を実施した処置群に対して、対照群より
居住者が移り住むことで地価が上昇する現象等、対照群の経済活動が処置群に影響を及ぼすことも想
定される。仮に、このような現象が見られる場合は、処置群と対照群の間に緩衝帯と呼ばれる分析対象
外のエリアを設定し分析するなどの工夫が必要である。
2.2.5 参考:英国における政策の事後評価・経済分析の取組
英国では交通政策に関する事後的な経済効果分析の手法の一つとして DID 法を挙げている旨を
「2.2.1 差の差法(Difference in Differences)の概要」で示したが、本項にて英国政府の取組を紹介する。
英国は政府をあげて各政策分野の事後評価 10
・経済分析の取組を強化しており、政府全体の事後評価
の指針を「Magenta Book」として文書化している。インフラ分野でも、事後評価のガイドライン(交通分析
ガイダンスとして事後評価のガイダンスを作成)を拡充するなど、政府のみならず自治体の政策に対して
も、有益なエビデンスを提供できるよう、経済分析の手法開発・検証、職員の教育を促進している。
図 2-5 英国政府による各政策分野の事後評価・経済分析の取組と体系 1110ここでの事後評価とは、「便益や費用の事後検証」のみならず、地域に及ぼしている影響を幅広く効果と
して計測することも含む概念である。11英国運輸省および Evaluation Task Force へのヒアリング結果に基づき作成 3-13. 活用する地価データの紹介
3.1 地価データを採用する理由
「2.1 分析の基本的な考え方」で示したように、本ガイダンスでは、インフラ経営の考え方に基づく政策・
事業の実践によるストック効果が地価に帰着するものと考え、地価に着目した分析を行う。本ガイダンスで
対象とする政策は、道路空間再編や親水空間整備等、まちの中の比較的狭域なエリアの整備であること
から、分析に求められるデータも細かい空間スケール(粒度)で整備されている必要がある。我が国の地
価データは、後述するように細かい空間スケールで豊富にデータが整備されているとともに行政によるデ
ータは比較的容易にデータ入手可能であることから、実証分析を行う上で非常に有効である。
3.2 様々な地価データのメリット・デメリット
我が国で整備されている地価データは、大きく「(不動産鑑定士による)評価額データ」と「市場取引価
格データ」に分けられる(表 3-1 参照)。評価額データは、行政による調査結果であり、公示地価、基準地
価、相続税路線価、固定資産税路線価がある。一方、市場取引価格データは、不動産取引価格情報、
REINS Market information、LIFUL HOME’S データセット等があり、主に民間が保有するデータである。
本来、政策実施による地価変化の分析を行う際に望ましいのは市場取引価格データである。理由は、評
価額データは不動産鑑定士による鑑定バイアスが含まれるためである。ただし、市場取引価格データは
サンプルが少ない点、取引された地点の価格のみである点が分析上のデメリットとなる。そのため、本分
析では評価額データの利用を基本とし、本ガイダンスでは評価額データの中でも「固定資産税路線価」の
利用を推奨する。評価額の中でも特にデータが豊富であること、市町村でデータ保有しており自治体の
職員の利用が比較的容易であること、が理由である。ただし、固定資産税路線価においても表 3-1 に示
すデメリットがあるため、評価額データの選択における注意点として認識されたい。
表 3-1 地価データのメリット・デメリット 3-23.3 固定資産税路線価を利用する際の留意点
 固定資産税路線価は、「固定資産評価基準(総務省告示)」をもとに市区町村単位で評価を行って
いるデータであり、各市町村が保有しているデータである。
 評価の際は、図 3-1 で示すように、用途地域の状況類似地区ごとに算出された「標準宅地の適正な
時価」に基づき設定される。「標準宅地の適正な時価」は、地価公示価格(公示地価・基準地価)およ
び不動産鑑定士による鑑定評価から求められた価格等を活用し、これらの価格の 7 割を目途に評価
を行っている。
 つまり、路線単位の非常に豊富なデータである一方、各路線の沿道環境を詳細に反映した地価デ
ータではなく、あくまで標準宅地等をもとに設定された地価である点に留意が必要である。
 また、前年 1 月 1 日時点の公示地価に基づき標準宅地価格を設定していることから、例えば、R3 年
固定資産税路線価は、R2 年 1 月 1 日の公示地価に基づき設定されていることになる点に留意が必
要である。
 無論、各路線の沿道環境を詳細に反映した地価データの利用が望ましいものの、そのようなデータ
は存在しないことから、本ガイダンスでは上記の留意点をふまえたうえで、固定資産税路線価の利用
を推奨する。
図 3-1 固定資産税路線価の評価方法 1212出典:固定資産評価基準(総務省告示)、固定資産税評価額の評価方法(不動産鑑定の知識) 3-33.4 ストック効果分析のための地価データの整備方法(パネルデータ 13の整備方法)
固定資産税路線価は、年度単位で整備されているが、路線単位のデータを時系列的に接続したデー
タセットになっていない。地価を用いた効果の事後検証を行うためには、地価のパネルデータ化(路線別
地価データの時系列変化をデータセットとして整備)が必要であることから、ここでは、そのデータ整備方
法を示す。なお、本データ整備のためには、GIS の利用環境が必要である。固定資産税路線価は最も古
いデータは 2006 年度が基本であり、以降 3 年ごとのシェープ(shp)ファイル 14
を使用することができる。各
路線には路線 No(フィールド名:ROSEN_N)が付与されているが、管理主体の変更等に伴う路線の統合
や分割、新規路線の追加や路線の廃止によって、必ずしも全ての年次で継続的にデータを取得出来る
わけではない。そのため予め対象地における路線状況を確認し、必要に応じてデータの加工を行う必要
がある。また、地域によっては、ある年次で路線 No が大幅に振り替わっている場合があり、その場合は路
線 No での接続が出来ない。仮に、路線 No の大幅な振替が確認された場合は、GIS ソフトを使用し、位
置情報に基づく接続を行う必要がある。具体的な手順(案)は以下の通りである。なお、本手順以外にも
適切な作業方法が存在する場合もあるため、適宜、効率的な手順を採用いただきたい。
【GIS ソフトを使用した路線の接続方法(案)】(1) STEP1
GIS 機能を使用し、接続したい 2 時点(以降基準年・接続先年と表記)のそれぞれのラインデータに
対して重心をプロットする。
図 3-2 基準年(H21) 図 3-3 接続先年(H24)
(2) STEP2
基準年のライン重心に対し、最も近接する接続先年のライン重心との距離を算出する。13パネルデータの詳細な解説は、例えば、北村行伸:パネルデータの意義とその活用-なぜパネルデータ
が必要になったのか,日本労働研究雑誌,No.551/June.2006.を参照。
(https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2006/06/pdf/006-016.pdf)14シェープファイルとは、GIS データのフォーマットの一つで、病院等の目標物や道路や建物等の位置や
形状、属性情報を持つベクターデータ(ポイント・ライン・ポリゴン)である。 3-4図 3-4 基準年-接続先年への接続
表 3-2 接続用データ例・・・(注記)接続可=1、接続不可=0 のフラグ
H21-No
最寄り
H24-No
距離(km)Flag(注記)
00400770 00400770 0.2 1
00400800 00401360 31 0
00310320 00401360 0.2 1
(3) STEP3
最も近接するライン重心までの距離が任意に設定した基準値以下(例えば 10m など)の場合、その
路線同士を接続する。
(4) 留意点
路線が分割された場合や、複数路線が統合された場合は重心の位置が大きくずれるため接続不可
である。道路の両側でそれぞれ路線価が設定されている場合、2 時点間の微少な座標のズレによって
接続先の路線価が反対側の路線になってしまう可能性がある。
接続先年の同位置に
路線価が存在しない 4-14. ビッグデータを用いた地価変化の補足分析
4.1 補足分析の目的
地価データを用いた統計分析により、政策実施により地価が上昇・減少したかどうかは分かるが、なぜ
地価が上昇・減少したかについて考察することは難しい。そこで本項では、地価変化の要因を考察する際
に有効となるビッグデータの特徴と利用上の留意点を示す。なお、本ガイダンスの対象外とするが、ビッグ
データそのものを統計的に分析することで政策による因果効果を分析することも有効である。例えば、表
4-1 に示すように学術分野では様々な検討がなされていることから、分析を試行する場合は参考にしてい
ただきたい。
表 4-1 ビッグデータを用いた統計分析の参考文献
4.2 ビッグデータの定義と主要なデータ類型
ビッグデータとは、人が全体を把握することが困難なほど膨大なデータ群であり、Volume(量) 、
Variety(多様性)、Velocity(即時性または頻度)、Veracity(正確性)、Value(価値)の 5 つの特徴があると
言われている 15
。ビッグデータの主要なデータ類型を表 4-2 に示す。それぞれのデータがもつ特性を勘
案しながら、分析対象とする事例への適用可否を検討することが重要である。なぜならば、ある事例にお
いて有用なビッグデータが必ずしも他の事例においても有用であるとは限らないためである。特に、インフ
ラ経営の実践による「政策目的」によってもビッグデータの適合性や有用性は変化しうる。したがって、分
析の都度、事業の特性、および、インフラ経営の政策目的とデータの特性とを突き合わせ、その適合を検
討することが肝要である。15出典:「ビッグデータの実践的な利活用への手引」 国土交通省総合政策局(総合交通体系) 4-2表 4-2 ビッグデータの主たる類型 16
4.3 補足分析の手順
地価変化の補足分析を行うためには、地価変化の要因となる指標(ここではパフォーマンス指標と呼ぶ)
を明確にしたうえで、どのようなビッグデータを活用するかを検討する必要がある。
パフォーマンス指標を設定する際には、「8【参考】ロジックモデルを用いた効果波及過程の確認」を参
考にハード整備・ソフト施策(イベント等)の実施による効果の波及過程をロジックモデルとして作成するこ
とが有効である。表 4-3 に本ガイダンスの分析事例におけるパフォーマンス指標の設定例を示す。
表 4-3 パフォーマンス指標の例
表 4-3 で設定したパフォーマンス指標の集計・分析にあたり利用可能なビッグデータ例について、その
特徴と留意点を表 4-4 に示す。16出典:株式会社ナウキャスト HP(https://nowcast.co.jp/concept/alternativedata/type/) 4-3表 4-4 パフォーマンス指標算出に必要なビッグデータ例 17
なお、民間データホルダー独自の付帯情報のサービス提供を受けられるため、これらを活用することで、
より精度の高い分析が可能となる。例えば、消費者購買データ、位置情報データであれば、性別、年齢、
居住地などの取得対象者の情報がプライバシー保護のための処理がされた上で利用できる。位置情報
について、データの利用目的と取得方法の適合性は表 4-5 を参考とされたい。
表 4-5 取得したい位置情報データとデータ取得方法の適合性 18
取得方法
利用目的
携帯電話との接続時に計測 直接人を計測
通信キャリア系 アプリベンダー系
Wi-Fi
ビーコン センサー カメラ
市域全域や他地域との比
較など広い範囲で網羅的
な分析を行う。
にじゅうまる×ばつ ×ばつ ×ばつ
主要スポットで実測に近
い値を把握する。
しろさんかく しろさんかくにじゅうまる にじゅうまる
屋内、地下を分析する。 しろさんかく しろさんかくにじゅうまる にじゅうまる
市外からの来訪者の居住
地を分析する。
にじゅうまる×ばつ ×ばつ ×ばつ
凡例 ×ばつ:データ取得不可 にじゅうまるしろさんかく:データ取得可能かつ精度が高い順
4.4 ビッグデータを取り扱う際の基本的な留意事項
ビッグデータを取り扱う際の基本的な留意事項を以下に挙げる。17これらのデータはすべて、プライバシー保護のために、民間データホルダーにより個人識別を不可とす
る処理を経て提供される。18国土交通省政策統括官「地域課題解決のための人流データ利活用の手引き」を参考に作成 4-4 サンプルサイズが十分に確保されている必要がある。民間データホルダーの取得可能なサンプル
サイズは日々変動するため、長期間のデータを取得する際は留意すること 19。 表 4-4 で記載している通り、民間データホルダーによるビッグデータは自社顧客のみをデータ取得
の対象とする等の代表性の問題が存在することから 20
、特定のデータのみに依存した分析では、観
測対象のバイアス(偏り)の影響を受け、公平、適正な分析とならない場合がある。バイアスが極力
少ないデータを採用すること、ビッグデータのみに依存せずに公的統計と組み合わせた多角的な
分析をすること、などの対策を取ることが望ましい。また、バイアスが生じるような場合でも、拡大推
計の手法によっては、より実態に近い分析が可能となる場合がある。民間データホルダーとは、バイ
アスの実態を確認するとともに、その解決方法について十分に協議をすること。
 すべてのサンプルデータを集計し、考察のためのグラフ化などのビジュアライズする作業は、人的リ
ソースおよび PC 等マシンリソースにおける負荷が高い。作業負荷の低減のために、民間データホ
ルダーに集計作業を業務委託することも可能だが、そのコストはネックとなる。民間データホルダー
が用意している既存の製品パッケージを利用すると、カスタマイズする場合と比較して安価である。
 収益性の低下、事業継続性の問題により、民間データホルダーによるビッグデータの提供が中止と
なる可能性がある。データ分析後も長期間のモニタリングを予定する場合には留意する場合がある。
 取得するデータの母集団(例えば、アプリに由来するデータであれば、アプリのアクティブユーザー
数など)およびサンプルサイズが計測期間によって大きく増減する場合は、統計的な処理を施し、
その増減を補正する必要がある。
 「消費者購買データ」を取扱う場合においては、その期間の物価変動を考慮する必要がある。総務
省統計局「消費者物価指数」等を利用し、その変動推移を確認すること。
また、地価データを用いた分析とビッグデータを用いた分析とを照らし合わせる際には、特に注意が必
要である。具体的には、以下の点に留意すべきである。
 地価の増減が、必ずしもビッグデータによって測定した要素の増減によって引き起こされていると
は限らない。例えば、消費統計(クレジットカード決済)を例に取ると、決済額の増加は、「地域の消
費額の増価」の代理指標であり、通常、「決済額の増加⇒消費額の増加⇒エリアとしての魅力向上
⇒地価上昇」といったロジックで、地価上昇に反映されていることが想定される。しかしながら、反対
に、「地価上昇⇒地域ブランドの向上⇒地代・テナント料の上昇⇒商品価格への転嫁による販売
単価上昇⇒決済額増加」といった「逆の因果」も存在する。こういった双方向の因果関係は、例示
したものにとどまらずケースによって多岐にわたるため、都度慎重に検討される必要がある。
 インフラ経営の実践と同時に、インフラ経営とは全く無関係の再開発がなされていたり、社会経済
情勢の変化が存在していたりする場合、そもそもビッグデータにより計測した指標の増減に「インフ
ラ経営の実践による効果」がどこまで反映されているのか、注意深い観察が必要である。
したがって、上記 2 点の留意事項が払拭できない場合において、ビッグデータにより計測した指標の増
減が、地価増減の要因としてどの程度の説明力を持つのかは慎重に判断されなければならない。この問
題に対して、統計的な観点から対処を施すとなると、データ取得費用や分析を講じる手間といった莫大な
コストがかかるうえ、比較的難易度も高い。そこで、本ガイダンスにおいては、「8【参考】ロジックモデルを19統計学に従った「許容誤差」「信頼度」の設定により、必要なサンプルサイズの推定が可能である。20出典:EBPM 推進委員会データ利活用ワーキンググループ「取りまとめ」 R3.6.23 4-5用いた効果波及過程の確認」において詳述する「ロジックモデル」等を用いた因果関係の説明を想定し
ている。「インフラ経営」実践による効果の波及先とその因果関係を事前に整理・特定しておき、少なくとも
定性的な面から説明が加えられることが重要である。
4.5 本ガイダンスの効果分析事例で用いるビッグデータの紹介
4.5.1 概要
表 4-4 のデータ種別のうち、本ガイダンスにおける効果分析事例では、「経済活動活発化」の分析に
「消費統計(クレジットカード決済)データ」を、「賑わい創出」の分析に「位置情報データ(GPS データ)」
を採用する。
今回の分析で用いるデータの概要を表 4-6 に示す。なお、非採用の他データ種別の利用について、
否定する、または、非推奨とする意図はない。ビッグデータを用いた分析において、具体の実証デザイ
ンについて明確な規定はない。例えば、「インフラ経営実践後の振り返りと今後の施策検討」という文脈
であれば、綿密かつ正確な分析範囲と年次設定、および「4.4 ビッグデータを取り扱う際の基本的な留意
事項」に従えば、単純な前後比較であっても、十分に有意義な検討が可能であると思われる。
表 4-6 本ガイダンスの効果分析事例で用いるビッグデータの概要
視点 内容 パフォーマンス指標 利用するビッグデータ データ提供元
経済活動
活発化
個人向け商
業活動の活
発化
エリア内における消費金額消費統計
(クレジットカード決済)データ
(株)ナウキャスト
観光業の活
発化
他エリア在住者による消
費金額
消費統計
(クレジットカード決済)データ
(株)ナウキャスト
賑わい
創出
人流の増加 滞留者数、通行者数 通信キャリアによる位置情報データ (株)ナウキャスト 21
アプリベンダーによる位置情報データジオテクノロジーズ(株)
4.5.2 効果分析事例で扱う各ビッグデータの利用上の特記・留意事項
「5 効果分析事例」で扱う各ビッグデータの利用上の特記・留意事項を示す。「4.4 ビッグデータを取り
扱う際の基本的な留意事項」に加えて、各データの詳細な特性をふまえたうえで分析結果を解釈する必
要がある。
(1) 消費統計(クレジットカード決済)データ
 クレジットカード会社「ジェーシービー」の統計加工されたクレジット決済のみの消費データであ
る。実際の消費は現金や IC カードによる決済も存在するが、本分析で用いるデータには、その
ような決済は含まれない。21株式会社ナウキャストより KDDI 株式会社の位置情報解析ツール KDDI Location Analyzer (KLA) のラ
イセンスを提供いただき、国土交通省にて必要なデータを抽出した。KLA についての詳細は Web サイト
https://k-locationanalyzer.com/ を参照されたい。 4-6 後述の表 5-1 分析対象 No.1-3 のみを分析の対象としている。
 決済場所について、町丁目単位でデータが分析できることもあり、後述の地価データ分析の処
置群と比較して広い範囲である。
 事業の進捗に応じた 3 時点の代表月を指定し、各月の合計金額を分析している。代表月の選
定には、「1当該エリアにおいて、伝統的な祭り等、インフラ経営との関連性が低いイベントが少
ないこと」「2第一時点は極力ハード整備前であること」「3季節変動を除去するため、3 時点共
通の月とすること」の 3 点を考慮している。
 利用したデータには、店舗所在地が該当エリアにある場合の EC 消費も含まれる。
(2) 通信キャリアによる位置情報データ
 KDDI 株式会社が提供するサービスの KDDI Location Analyzer(KLA)を利用している。
 計測対象の延べ端末台数ではなく、全人口に対するユーザーの割合から拡大推計した人口数
の集計データを取得している。
 データの取得が可能な期間が H30.1 以降であることから、解析に利用するデータにおいて、
H29.12 以前は取得の対象外としている。
 地価データによる分析で設定される処置群とほぼ同等のエリア内のデータを取得している。処
置群が複数設定されている場合は、CASE2 を採用している。
 データは国内居住者に限られており、海外からの渡航者は含まれていない。22
(3) アプリベンダーによる位置情報データ
 ジオテクノロジーズ株式会社が提供する人流データを利用している。
 表 5-1 の分析対象 No.1-3 のみを対象としている。
 データの取得が可能な期間が R3.1 以降であることから、解析に利用するデータにおいて、
R2.12 以前は取得の対象外としている。
 地価データによる分析で設定される処置群とほぼ同等のエリア内のデータを取得している。
 事業の進捗に応じた 2 時点の代表日を指定している。代表日の選定には、「1当該エリアにお
いて、伝統的な祭り等、インフラ経営との関連性が低いイベントがないこと」「2季節変動を除去
するため、共通の月とすること」「3共通の曜日とすること」「4気象条件(最高気温・最低気温、
日照時間など)が極力類似している日とすること」の 4 点を考慮している。22KLA ではオプションのサービスを利用することで、海外からの渡航者のデータ解析をすることが可能。 5-15. 効果分析事例
5.1 対象事業と分析方針
本ガイダンスでは、インフラ経営の考え方に基づいた実践(整備・管理・運営)を行っている事例を対象
として効果分析を行う。今回のガイダンスにおいて対象とする事業は、「道路空間再編事業」、「親水空間
整備事業」、「都市公園事業」の 3 分野である。各事業について、インフラ経営を実践することで地価にど
の様な変化を及ぼしているかについて DID 法を用いて分析する。
図 5-1 分析対象とするインフラ経営の実践事例
5.2 分析対象の事業一覧
本ガイダンスでは、都市再生整備計画の活用や、公共空間をオープンに活用する規制緩和制度である
「道路占用許可の特例」、「河川敷地の占用許可」、「都市公園占用許可」関連制度を活用する等官民連
携によりハード・ソフト双方の取組を組み合わせながら賑わいを創出する事業に関する事例を分析対象と
している。具体的には、表 5-1 に示す 5 つの事例を対象に実証分析を行った。なお、本ガイダンスにおけ
る実証分析結果は試行的なものであり、確定的な数値を算出しているものではない点に留意すること。
表 5-1 分析対象の事業一覧
No. 市町村 対象地 適用した特例
1 姫路市 大手前エリア 道路占用許可の特例
2 岡崎市 乙川リバーフロント地区 河川敷地の占用許可、都市公園占用許可
3 福岡市 市営水上公園、県営天神中央公園 都市公園占用許可
4 松山市 花園町通り 道路占用許可の特例
5 新潟市 信濃川やすらぎ堤(右岸側) 河川敷地の占用許可 5-25.3 姫路市 大手前エリア
5.3.1 事業概要 23
(1) 背景・経緯
姫路城と姫路駅を結ぶ大手前通りは、昭和 63 年に実施したシンボルロード整備事業で整備された
姫路の顔となる道路である。しかし、整備から四半世紀が経過し、道路附属物施設や舗装等の老朽化
が散見されるようになり、歩行者・自転車の通行上の支障があった。そのため、駅周辺の都市機能強化
や、世界文化遺産に登録された姫路城を活かした地区の魅力向上に向け、大手前通りにおいても歩
行者の回遊性向上や賑わい創出のための施策が求められていた。
このような状況を踏まえ、平成 26 年に有識者、商業者、各種団体、交通事業者、自治会、議員、警
察等からなる「大手前通り再整備検討懇話会」が開催され、大手前通りの再整備に向けた検討が開始
された。その後、平成 28 年度より工事に着手、平成 30 年度には一部供用(南工区)が開始された。ま
た、令和元年度には、工事全体が完了し、全工区供用が開始された。
(2) コンセプト・インフラ経営としてのポイント
大手前通り再整備事業は、「歩いて楽しい、大好きなお城への道」を整備コンセプトとしている。整備
区間を姫路駅側から「外曲輪・おもてなしゾーン」、「商業賑わい・活用ゾーン」、「中曲輪・城前庭ゾー
ン」の3つのゾーンに分けて、それぞれ変化を持たせている。ゾーンごとに活用イメージと活用方針を設
定することで、姫路駅から姫路城への繋がりやお城に相応しい風格を考慮しつつ、歩いて楽しい賑わ
いのある質の高い都市空間を創出した点が本事業の特徴である。
さらに、大手前通りでは、歩行空間が持つ「憩いの場としての機能」にも着目した取組が展開されて
いる。2019 年および 2020 年には、社会実験「ミチミチ」を実施し、ストリートファニチャー、植栽のあるベ
ンチ・カウンター、靴を脱いでくつろげるスポットの設置などにより歩行空間利活用の可能性について検
証している。加えて、2021 年には、大手前通りを「歩行者利便性増進道路」(ほこみち)に指定(2022 年
には常設指定)し、更なる利活用を促すなど、ソフト施策も柔軟に組み合わせながら歩行空間利活用を
推進している点が本事業のインフラ経営としてのポイントである。
また、これらの取組と並行して、歩行者優先の居心地が良く歩きたくなるまちなかを目指して、「姫路
市ウォーカブル推進計画」(2021 年 3 月)が策定されている。同計画では、長期的な目標として、道路と
沿道建物が一体的に活用され、エリアの魅力がまちなかににじみ出していくことを掲げられている。大
手前通りもこのにじみ出しのターゲットエリアであり、大手前通りを起点として隣接する商業エリア等へ
通行人が流れ、回遊性の向上を目指すこととされている。地域住民も含めた幅広い多様な主体が関わ
り、公共空間を効果的に利活用していくという点でもインフラ経営として特筆すべき本取組である。23参考文献:
・国土交通省道路局「多様なニーズに応える道路の事例集」 https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-
council/diverse_needs/pdf/jireishu.pdf
・姫路市「大手前通り再整備事業「歩いて楽しい、大好きなお城への道」〜「ひと」が集い「まち」とつながる
大手前通り〜」 https://www.city.himeji.lg.jp/shisei/cmsfiles/contents/0000000/118/seibigaiyou.pdf
・姫路市「姫路市ウォーカブル推進計画」 https://www.city.himeji.lg.jp/shisei/0000017111.html 5-3図 5-2 大手前通り、姫路駅、姫路城の位置関係
図 5-3 大手前通り整備事業、ソフト施策概要 5-45.3.2 地価データによる分析
(1) 地価データの整理
「3.4 ストック効果分析のための地価データの整備方法(パネルデータの整備方法)」で示した方法に
基づいて事業実施箇所から 100m おきにバッファをとり分析のためのデータベースを整備した。
STEP1:
事業実施箇所を設定する(図内赤色のリンクを事業実施箇所として設定)。
図 5-4 事業実施箇所
STEP2:
事業実施箇所から 100m ごとのバッファを作成し、距離帯ごとに路線をグループ分け。
図 5-5 事業実施箇所からのバッファ図 図 5-6 距離帯ごとの路線図
STEP3:
H19 から R3 まで継続してデータを取得できているサンプルを対象として、距離帯ごとに平均路線価
(算術平均)の時系列推移を確認。なお、姫路市は H19 から R3 で路線 No の大幅な振替が確認され
なかったことから、路線 No をもとにパネルデータを整備した。
(2) 分析条件
推定式
推定式は、「2.2.3 推定式」で示した通り以下を用いる。 5-5【推定式】
�������������������� = ���� + � ��������������������
����
+ � ����������������
����
+ � ����������������
����
+ ������������
������������ :時点����の路線����の路線価
���� :事業実施個所〜100 以内のとき「1」、それ以外のとき「0」をとるダミー
�������� :年次ダミー(���� = H19, H21, H27, H30, R3) (注記)基準年は H24 で設定
�������� :路線ダミー
整備年次の設定
本事業では、基礎調査を H25 に開始しており、南工区の再整備工事が H29.3〜H30.9、北工区の
再整備事業が H30.9〜R2.3 であることから、整備前の基準年を H24 とし、その後の H27、H30、R3 で
の地価変化に着目した分析を行った。
処置群および対照群の設定
「2.2.2処置群、対照群の設定方法」の考え方に基づいて処置群および対照群を設定する。本事業で
は以下で示す CASE1 での設定を行ったうえで、現地調査結果をふまえ CASE2 についても検討を行
った。
 CASE1:大手前通りを処置群(100m 同心円内)とし、対照群は事業実施箇所から 100〜1,000m
の範囲で設定。
 CASE2:現地調査結果をふまえ、以下の理由により大手前通り以北および以南を対象から排除
した。
 大手前通り以北:大手前通り周辺の沿道環境と大きく異なるため。また、H27 に完了した姫路
城改修等の影響が排除しきれないため。
 大手前通り以南:大手前再整備とは別途の姫路駅前再開発がされているため。
図 5-7 処置群と対照群の設定(左:CASE1,右:CASE2)
設定した処置群と対照群の平均地価の推移は図 5-8 の通りである。CASE1、CASE2 ともに平行ト
レンド仮定は満たしているものと考える。共通ショック仮定については対照群と処置群の片方について
のみ地価に対して大きな影響を与えるような事業は無いものと判断した。なお、このような処置群と対
処置群
対照群
処置群
対照群 5-6照群の設定は、適宜、有識者に相談することも有効である。
図 5-8 処置群および対照群の平均路線価の推移(左:CASE1,右:CASE2)
(3) 分析結果
分析結果は表 5-2 の通りである。ここでのβが事業の効果となる。CASE1、2 ともに整備前を H24 と
した場合、H27 時点では負に有意な値、H30 年では有意ではない値、R3 で正に有意な値となっている
ことから、整備後の R3 時点で対照群に対して処置群の地価が CASE1 の場合は 5.11%(パラメータ値
0.0511)、CASE2 の場合は 3.4%(パラメータ値:0.0340)有意に高いことを示している。現地調査をふま
えると処置群と対照群の設定については CASE1 よりも CASE2 の方が望ましいことから、分析結果とし
ては「R3 時点で 3.4%有意に高い」結果が現地特性を反映しているものと考え、結果を図 5-9 に図示
する。このように地価が有意に高くなっている要因として、地域において今後につながるインフラ経営の
工夫点等がないか考察するとともに、この効果発現の維持もしくは更なる向上に向けた取組として考え
られるものは無いかについて考察することが有効である。
なお、処置群と対照群の設定方法に唯一の設定が存在するわけではない。現地特性をふまえて想
定される他の設定方法があれば、適宜分析を行い、推定されるパラメータにどの程度の幅が存在する
かを確認することも重要である。本分析の目的は、一意の解を得ることが目的ではなく、分析結果を踏
まえてインフラ経営の実践による効果の発現状況を分析担当者が理解・解釈し関係者に共有するとと
もにストック効果最大化に資するレッスンを蓄積することにある。このことを念頭に、分析に取り組んでい
ただきたい。
表 5-2 分析(推定)結果
H27 H30 R3
case1 β
(t 値)
-0.00786**
(-2.50)
0.0108
(1.62)
0.0511***
(3.20)
case2 β
(t 値)
-0.00539*
(-1.95)
0.00380
(0.91)
0.0340***
(4.21)
p<0.1:*,p<0.05:**,p<0.01:***
基準年:H24 南工区:H30.9 供用 北工区:R2.3 供用 5-7図 5-9 分析結果の捉え方
5.3.3 ビッグデータによる分析
前述の地価データ分析を補足することを目的に、ビッグデータを用いた分析の事例を以下に示す。
(1) 経済活動活発化(消費金額)の分析
データ取得対象時点
「5.4.1 事業概要」で示された整備年次およびイベント等の開催状況を考慮し、以下 3 時点の代表
月として選定している。
 第 1 時点:H28.9 ハード整備が開始される H29.3 月以前
 第 2 時点:R1.9 ハード整備途中(図 5-3 における南工区が完了、北工区が施工中。)
社会実験「ミチミチ」24
の 2 回目実施前
 第 3 時点:R5.9 ハード整備完了(R2.3)後、ミチミチ 2 回目終了後。
個人向け商業活動の活発化(エリア内における消費金額)の確認
図 5-10 に、大手前通りを含む周辺地区における消費統計(クレジットカード決済)の推移を、H28.9
基準(第 1 時点:H28.9 を 1.00 とした時の相対値)で示している。また、参考として全国の消費者物価
指数(生鮮食品を除く総合)25
の数値も併記している。全国の物価の上昇以上に、ハード整備前の第
1 時点と比較して消費統計(クレジットカード決済)が第 2 時点、第 3 時点ともに上昇していることがわ
かる。一方、第 2 時点と比較して第 3 時点の決済額が減少しているが、以降で簡単な傾向分析をして
いる。24社会実験「ミチミチ」が、1R1.11.2〜R1.11.30、2R2.12.5〜R4.1.14 の計 2 回実施されている。25総務省統計局「2020 年基準 消費者物価指数 全国 2024 年(令和 6 年)1 月分」 5-8図 5-10 大手前通り周辺地区 消費統計(クレジットカード決済)推移(H28.9 基準)
インフラ経営による「賑わい創出と関連が深い業種別」26
の決済額の推移を、H28.9 基準(第 1 時点:
H28.9 を 1.00 とした時の相対値)と比較した値と各時点の決済額の業種別割合を図 5-11 に示す。両
図により以下の傾向が確認される。
 「織物・衣服・身の回り品小売業」以外の「賑わい創出と関連が深い業種」について、ハード整
備前の第 1 時点と比較して第 2 時点、第 3 時点ともに上昇している。特に、外食および娯楽の
伸びが大きい。外食について、H28 通年に対する全国の推移値は R1 で 1.07、R5 で 1.60 で
ある 27
。こちらも、全国の推移値と比較すると、当該地区の伸びは非常に大きいものと言える。
 第 2 時点と比較して第 3 時点が減少した「賑わい創出と関連が深い業種」は、各種商品小売
業 および 織物・衣服・身の回り品小売業 である。この 2 つの業種は決済額全体の割合が比
較的大きく、図 5-10 で第 2 時点と比較し第 3 時点の決済額が減少している要因となりえる。も
っとも、各種商品小売業の H28.9 に対する全国の推移値は R1.9 で 1.14、R5.9 で 0.99 であり28、全国の推移値と比較すると当該地区の増加分は十分に大きい。他方、織物・衣服・身の回
り品小売業の H28.9 に対する全国の推移値は R1.9 で 1.09、R5.9 で 0.73 であり、全国の推移
値と比較すると R5 年度における当該地区の減少分が大きい。26図 5-11 左図においては、自動車小売業、機械器具小売業、医薬品・化粧品小売業など、住民の支出
が大半を占めると想定される小売業を対象外としている。これらは図 5-11 右図で「その他」に含めている。27一般社団法人日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査 令和 5 年(2023 年)」年間結果報告
をもとに国土交通省算出。なお、年次ではなく、暦年の数字である。28経済産業省「商業動態統計調査」月報をもとに国土交通省算出
2.00 1.90
1.02 1.080.001.002.003.00
R1年9月 R5年9月
決済金額合計
参考:消費者物価指数(生鮮食品を除く総合) 5-9図 5-11 消費統計(クレジットカード決済) 大手前通り周辺地区 (左:業種別推移、右:業種別割合)
また、年齢(10 歳階級)別の H28.9 基準(第 1 時点:H28.9 を 1.00 とした時の相対値)と比較した値
と各時点の決済額の年齢(10 歳階級)別割合を図 5-12 に示す。以下の傾向が確認される。
 年齢別すべてにおいて、ハード整備前の第 1 時点と比較して第 2 時点、第 3 時点ともに上昇
している。特に、20 代、30 代、70 代の伸びが大きく、また、年齢別割合も上昇している。
 一方、40 代、50 代、60 代は第 2 時点と比較して第 3 時点の決済額が減少している。これらの
年齢は決済額に占める割合が比較的大きく、図 5-10 で第 2 時点と比較して第 3 時点の決済
額が減少している要因となり得る。
図 5-12 消費統計(クレジットカード決済) 大手前通り周辺地区 (左:年齢別推移、右:年齢別割合)
観光業の活発化(他エリア在住者による消費金額)の確認
図 5-9 で示される決済額の推移のうち、クレジットカードユーザーの居住地別の推移と各時点の居
住地別割合を図 5-13 に示す。左図は H28.9 基準(第 1 時点:H28.9 を 1.00 とした時の相対値)であ
る。九州・沖縄を除くほぼすべての地域において、ハード整備前の第 1 時点と比較して第 2 時点、第
3 時点ともに上昇している。また、居住地別割合が大きい地域は兵庫県内、関東地方、近畿地方(兵
5-10
庫県除く)であるが、兵庫県内および近畿地方(兵庫県除く)は第 2 時点と比較して第 3 時点では微
減である。関東地方は増加傾向にある。
図 5-13 消費統計(クレジットカード決済) 大手前通り周辺地区 (左:居住地推移、右:居住地割合)
「他エリア在住者による消費金額」の推移を明確化するために、図 5-13 において兵庫県内および
近畿地方(兵庫県除く)以外の地区を、「その他」とし、図 5-14 で示した。図 5-14 によると、兵庫県内
および近畿地方(兵庫県除く)以外の地区の「他エリア在住者」は第 2 時点、第 3 時点と決済額が増加
していることを確認できる。また、「他エリア在住者」の割合は小さく、それに従い決済額全体への影響
は小さいことも確認できる。
図 5-14 消費統計(クレジットカード決済) 大手前通り周辺地区
(左:居住地エリア別推移、右:居住地エリア別割合)
消費金額分析のまとめ
 ハード整備前と比較して、クレジットカードの決済額が増加していることを確認している。一方、
第 2 時点と比較して、パンデミック後の第 3 時点においては決済額が減少しており、上記の分
5-11
析ではその要因となりうる事項をピックアップした。
 クレジットカードユーザーの居住地別の決済額では、「他エリア在住者」による決済額が増加し
ている。
 40 歳未満および 70 代の決済金額が上昇している。
 居住地別のシェアは県内が圧倒的である。第 1 時点と比較して、第 2 時点、第 3 時点ともに増
加している。他方、関東地方等他地域在住者の消費金額は、九州・沖縄を除くほぼすべての
地域で第 2 時点、第 3 時点ともに上昇している。
 業種別消費額では外食、娯楽が特に大きく上昇している。業種別割合が高い各種商品小売
業についても、全国の推移と比較すると上昇している。
以上より、インフラ経営の取組を実施後、当該エリアの消費活動が活発化していることを確認した。
なお、今回選定した時点はその代表月の集計データであり、ハード整備後の増加傾向が継続されて
いるかについては、より多くの期間の分析を要する。
(2) 賑わいの創出(滞留者数・通行者数)の分析
推移(H30.1〜R5.12)
地価データ分析で処置群として設定した、姫路市大手前通り地区の滞留者数、歩行者数(通行者
数)について、ハード整備中の H30(2018).1 から、全面供用が開始された R2(2020).3 を経て、R5
(2023).12 までの 5 年分の推移を図 5-15 に示す。実線は滞留者数、歩行者数(通行者数)の拡大推
計値であり、破線は季節変動を除去するための 12 か月後方移動平均値(12MA)である。なお、滞留
者は「該当エリアに 15 分以上滞留した人」の延べ人数である。R2(2020).3(グラフ中の赤点線)以降の
全面供用直後にパンデミックの影響で急激な減少が生じているが、その後は滞留者数・歩行者数(通
行者数)ともに増加傾向であることが確認できる。とくに R4(2022).8(グラフ中の緑点線)のほこみち常
時指定以降は増加傾向が顕著である。ただし、パンデミック以前の水準には至っていない。
図 5-15 大手前通り 処置群 滞留者推移(左)、歩行者数推移(右)
滞留者数
(人) (人)
5-12
滞留時間の傾向
姫路市大手前通り地区の滞留時間割合について、3 時点分を図 5-16 に示す。60 分以上滞留した
人口の割合が大きくなっていることから、滞留の長時間化を確認できる。なお、データ仕様により取得
可能の期間が H30 年 1 月以降となることを踏まえ、時点を以下の通り指定している。ハード整備開始
前である H29(2017).3 以前のデータが入手されていないことに注意が必要である。
 第 1 時点:H30(2018).6 ハード整備中
 第 2 時点:R2(2021).6 全面供用開始(R2.3)後
 第 3 時点:R5(2023).6 ほこみち常時指定後、最新年
図 5-16 大手前通り 処置群 滞留時間別割合
来訪者の居住地割合
姫路市大手前通り地区を来訪した人物の居住地別延べ人数および割合 29
について、H30、R3、R5
の 3 年間の通年分を集計した結果を図 5-17 に示す。図中の数字は姫路市、兵庫県内(姫路市除く)、
近畿(兵庫県除く)の 3 地区それぞれが占める割合である。
R3 においてはパンデミックの影響もあるためか、H30 と比較して他エリア在住者の来訪者数が減少
し、姫路市在住者(青枠)の割合が若干増加したことを確認できる。しかしながら、割合の傾向につい
ては 3 時点ともに大きな変動は生じていない。また、完全供用後の R5 の滞留者数は、一部の供用が
開始された H30 の水準に達していない。29当該エリアに 15 分以上滞留した人物の延べ人数計測値から拡大推計を行ったデータ。
19% 19% 18%
24% 23% 20%
58% 58% 62%0%20%40%60%80%100%
2018.6 2021.6 2023.6
15分以上30分未満 30分以上60分未満 60分以上
5-13
図 5-17 大手前通り 処置群 滞留者の居住地別延べ人数および割合
人流の比較
賑わいの状況を局所的に確認するため、人流データ(滞留者、通行者)を地図上にプロットし比較し
ている。以下の例では、「姫路市以外の在住者」の、「車両通行以外(滞留者、通行者)」 をプロットし
ている。なお、代表日の選定基準は、「4.5.2(3)アプリベンダーによる位置情報データ」を参照されたい。
図 5-18 平日夜間帯 18:00〜19:00 の人流(滞留、通行)の比較(左:R5.9.14(月) 右:R4.9.12(月))
上記より、以下の様子がわかる。
 データ総数は R4.9.12 の方が多く、大手前通り・姫路駅付近に集中している。
 R5.9.14 はデータ総数が少ないが、大手前通り沿い以外の東西エリアに人流が分散している。
このように、局所的な賑わいの分析については、人流データが参考になるため、エリアごとの傾向確
認と対策検討をする際の参考とされたい。
0 2,000,000 4,000,000 6,000,000 8,000,000 10,000,000 12,000,000H30R3R5北海道 東北 関東 中部
姫路市 兵庫県内(姫路市除く) 近畿(兵庫県除く) 中国
四国 九州・沖縄
64% 23%
69% 23%
64% 22%
(人)
5-14
滞留者数・通行者数分析のまとめ
R2(2020).3 以降の全面供用直後にパンデミックの影響で急激な減少が生じたが、その後、滞留人
口、通行者数はともに増加傾向にあり、また、滞留者の長時間化も確認されていることから、インフラ
経営の各段階を経て、当該エリアの経済活動が活発化していることを確認した。
一方、他エリア在住者の来訪者数および割合については、供用開始前と比較して大きな変動を確
認できていない。他エリア在住者の増加を目指す場合、その誘致の対策が必要になる。
(3) ビッグデータによる分析結果のまとめ
ビッグデータによる分析によって得られた結果のまとめは以下の表 5-3 の通り。インフラ経営の取組
を実施後、当該エリアの経済活動の活発化および賑わいの創出の両者にて、一定の成果を確認した。
これらの結果が、前述の地価データ分析結果 R3 時点で処置群の地価の伸び率が対照群と比較して
3.4%有意に高い)として現れている可能性がある。特に、R4.8 のほこみち常時指定以降に滞留人口、
通行人口が増加しており、ハード整備のみならずソフト施策によって当該エリアの賑わいが創出された
可能性がある。一方、「他エリア在住者の来訪者に増加が見えない」、「消費金額、来訪者数ともにパン
デミック以前の水準に達していない」といった傾向も確認した。データで得られた細かな指標を元とした
対策も有効である。
表 5-3 姫路市 大手前通り ビッグデータによる分析のまとめ
視点 内容 パフォーマンス指標 結果
経済活動
活発化
個 人 向 け 商 業 活
動の活発化
エリア内における消費金額 ハード整備開始前と比較して上昇。
特に「外食」・「娯楽」の伸びが大きい。
観光業の活発化 他エリア在住者による消費金額 兵庫県外在住者の消費金額が上昇。
他エリア在住者による来訪者数 傾向に大きな変動は確認されない。
賑わい創出 人流の増加 滞留人口、通行人口 R2.3 以降の全面供用後は増加傾向。
特に R4.8 のほこみち常時指定以降は
増加傾向が顕著。
滞留時間の増加 滞留時間別割合 滞留の長時間化を確認。
5-15
5.4 岡崎市 乙川リバーフロント地区
5.4.1 事業概要 30
(1) 背景・経緯
岡崎市の中心市街地を東西に流れる一級河川乙川の周辺は、公園や各種の観光資源、商業業務
資源等が集積しており、かつては西三河の中心と言われるほどに栄えた地域であった。しかし、時代の
流れと共に、商店街の役割や観光資源の相対的な価値が変化するにつれ、街は縮小していき、この地
域を訪れる人も少なくなっていた。また、中心市街地では全国でも珍しいと言われるほどの広大なスケ
ールをもつ乙川、そして岡崎城にかけての清流と豊かな水辺空間は、岡崎市の象徴であり、市民が誇
りとする貴重な財産である。この広大な空間を、より市民が楽しみ、憩える場所として活用することは、過
去長らく議論されてきた。
このような背景を踏まえ、平成 25 年、民間シンクタンクである「岡崎活性化本部」において、乙川リバ
ーフロント地区に関わりの深い方々や観光の専門家も加わった「乙川リバーフロント部会」が設置され、
上記課題の解決に向けた整備方針の作成作業等がなされた。さらに、平成 27 年には、乙川リバーフロ
ント地区がかわまちづくり支援制度に登録されたほか、ワークショップやフォーラムを通じた市民提案が
実施され、「公民連携まちづくり基本構想」が策定された。その後、河川空間活用の社会実験である
「おとがワ!ンダーランド」等の実施も経て、平成 29 年度末に「乙川リバーフロント地区公民連携まちづ
くり基本計画[QURUWA(くるわ)戦略]」が策定されることとなった。
(2) コンセプト・インフラ経営としてのポイント
「QURUWA 戦略」では、公共空間拠点を繋ぐまちの主要回遊動線を「QURUWA」と名付け、主要回
遊動線上の約 300m 区間の公的不動産を積極的に活用した 12 の QURUWA プロジェクトにより、既
存集客拠点と新たな集客拠点とを順次繋ぐことで、まちの回遊を実現することとされている。また、戦略
の最終的な目標としては、「市民の暮らしの質の向上」「敷地単位ではなくエリアの価値向上」の2点が
掲げられている。
本戦略の特徴は、「民間主導」による公民連携まちづくりを推進している点である。公民連携による公
共サービスの質・量を高めるには、民間主体の発意・参画を求めていくことが必要との認識のもと、公共
投資をパブリックマインドを持つ民間の呼び込みや、民間投資の誘発につなげるとともに、地域の稼ぐ
力を高めるため、地元企業のビジネスチャンスを創出し、地域経済の活性化を推進している。この理念
は、QURUWA プロジェクトのひとつ、「リノベーションまちづくり事業」として具体化されている。これは、
他の QURUWA プロジェクトと連動し、空き家・空き店等の遊休不動産と、その周辺の道路や公園等の
公共空間を一体的に活用し都市型産業を創出するものである。
そして、この取組を後押しするため開催されているのが「リノベーションスクール」である。さまざまな領30参考文献:
・岡崎市「都市再生整備計画(第7回変更) 乙川リバーフロント地区 QURUWA 戦略地区(地方再生コ
ンパクトシティ)」 https://www.city.okazaki.lg.jp/1300/1303/1325/p018551_d/fil/rf-tosisaisei-7.pdf
・岡崎市「乙川かわまちづくり計画書」
https://www.city.okazaki.lg.jp/1550/1567/452000/p021150_d/fil/otogawakawamachiplan.pdf
・岡崎市「乙川リバーフロント地区公民連携まちづくり基本計画 ―QURUWA 戦略 ―」
https://www.city.okazaki.lg.jp/1100/1184/1176/p022685_d/fil/190326_Qsenryaku.pdf
5-16
域を超えたクリエイティブな人材と短期のユニットワークを行うというものであり、同取組を通じて数々の
新規事業が創出されている。従前は個人が参加する形式であったが、現在は企業が取り組む『事業版』
リノベーションスクールへと発展している。このように意欲のある民間事業者を丁寧に育ててきたからこ
そ、歩いて楽しい道路空間が創出されつつあり、また、それがさらなる意欲のある事業者の登場につな
がり、さらなるにぎわいの創出につながる、といった好循環が生まれてきている。本戦略におけるインフ
ラ経営のポイントとしては、乙川や公的不動産といったハードの利活用もさることながら、このような積極
的な民間連携も注目すべき点として挙げられる。
図 5-19 乙川リバーフロント地区における主要事業とその位置関係 3131出典:岡崎市「QURUWA 戦略に基づくかわまちづくりエリア方針〜おとがわエリアビジョン〜」
5-17
図 5-20 QURUWA 戦略、ソフト施策概要
5.4.2 地価データによる分析
(1) 地価データの整理
「3.4 ストック効果分析のための地価データの整備方法(パネルデータの整備方法)」で示した方法を
基本に乙川リバーフロント地区内、地区の外周〜500m、500〜1,000m に区分し地価データを整備した。
STEP1:
事業実施箇所を乙川リバーフロント地区で設定する。
図 5-21 事業実施個所
STEP2:
5-18
事業実施箇所から 500m、及び 1,000m のバッファを作成し、距離帯ごとに路線をグループ分け。
図 5-22 事業実施箇所からのバッファ図 図 5-23 距離帯ごとの路線図
STEP3:
H18 から R3 まで継続してデータを取得できているサンプルを対象として、距離帯ごとに平均路線価
(算術平均)の時系列推移を確認。なお、岡崎市は H21 から H24 で路線 No の大幅な振替が確認され
たことから、H21-H24 については位置情報、その他の年次については路線 No をもとにパネルデータを
整備した。
(2) 分析条件
推定式
推定式は、「2.2.3 推定式」で示した通り以下を用いる。
【推定式】
�������������������� = ���� + � ��������������������
����
+ � ����������������
����
+ � ����������������
����
+ ������������
������������ :時点����の路線����の路線価
���� :乙川リバーフロント地区内のとき「1」、それ以外のとき「0」をとるダミー
�������� :年次ダミー(���� = H18, H21, H27, H30, R3) (注記)基準年は H24 で設定
�������� :路線ダミー
整備年次の設定
乙川リバーフロント地区整備計画の策定及びおとがわプロジェクトの発足が H27 であることから、整
備前の基準年を H24 とし、その後の H27、H30、R3 での地価変化に着目した分析を行った。
処置群および対照群の設定
「2.2.2処置群、対照群の設定方法」の考え方に基づいて処置群および対照群を設定する。本事業で
は以下で示す CASE1 での設定を行ったうえで、現地調査結果をふまえ CASE2 についても検討を行
った。
 CASE1:「QURUWA 戦略」対象地域を処置群として、同心円上に対照群として設定。
 CASE2:現地調査結果をふまえ、主だった整備は 1籠田公園 2中央緑道 3人道橋 4
5-19
乙川沿道(護岸整備)など限られた範囲であることが判明(コロナにより一部事業は中止)したこ
とから処置群の範囲を狭めた。また、乙川以南については、東岡崎駅を軸とした開発がなされ
ており、その影響が排除できないため対照群から除外した。
図 5-24 処置群と対照群の設定(左:CASE1,右:CASE2)
設定した処置群と対照群の平均地価の推移は図 5-25 の通りである。CASE1,CASE2 ともに平行ト
レンド仮定は満たしているものと考える。共通ショック仮定については対照群と処置群の片方について
のみ地価に対して大きな影響を与えるような事業は無いものと判断した。なお、このような処置群と対
照群の設定は、適宜、有識者に相談することも有効である。
図 5-25 処置群および対照群の平均路線価推移(左:CASE1,右:CASE2)
(3) 分析結果
分析結果は表 5-4 の通りである。ここでのβが事業の効果となる。CASE1 と CASE2 の両方の結果を
示している。CASE1、2 ともに整備前を H24 とした場合、CASE1 では H27 時点で有意に負の値、H30
で有意に正の値、R3 では有意な値ではない結果となっている。一方、CASE2 では H27 時点では有意
でない値、H30 年および R3 で正に有意な値となっている。現地調査をふまえると処置群と対照群の設
定については CASE1 よりも CASE2 の方が望ましいため、分析結果としては CASE2 の方が現地特性
を反映した結果になっているものと考える。つまり、本事業の整備により H30 時点で対照群に対して処
置群の地価が 3.56%(パラメータ値:0.0356)有意に高くなっており、R3 時点では 2.46%(パラメータ値
0.0246)有意に高くなっていることが分かる。このように地価が有意に高くなる要因として、地域において
今後につながるインフラ経営の工夫点等がないか考察するとともに、この効果発現の維持もしくは更な010,000
20,000
30,000
40,000
50,000
60,000
70,000
80,000
90,000
100,000
H18路線価 H21路線価 H24路線価 H27路線価 H30路線価 R3路線価
(円/m2)
処置群
対照群010,000
20,000
30,000
40,000
50,000
60,000
70,000
80,000
90,000
100,000
H18路線価 H21路線価 H24路線価 H27路線価 H30路線価 R3路線価
(円/m2)
処置群
対照群
基準年:H24
乙川河川緑地整備:
R2.3完了
中央緑道:R3.3供用
乙川プロジェクト:
H27.3発足
処置群
対照群
処置群
対照群
5-20
る向上に向けた取り組みとして考えられるものは無いかについて考察することが重要である。
なお、処置群と対照群の設定方法に唯一の設定が存在するわけではない。現地特性をふまえて想
定される他の設定方法があれば、適宜分析を行い、推定されるパラメータにどの程度の幅が存在する
かを確認することも重要である。本分析の目的は、一意の解を得ることが目的ではなく、分析結果をふ
まえてインフラ経営の実践による効果の発現状況を分析担当者が理解・解釈し関係者に共有するとと
もにストック効果最大化に資するレッスンを蓄積することにある。このことを念頭に、分析に取り組んでい
ただきたい。
表 5-4 分析(推定)結果
H27 H30 R3
case1 β
(t 値)
-0.00919***
(-6.14)
0.00578**
(2.37)
-0.00300
(-1.01)
case2 β
(t 値)
0.00703
(1.46)
0.0356***
(8.28)
0.0246***
(4.76)
p<0.1:*,p<0.05:**,p<0.01:***
図 5-26 分析結果の捉え方
5.4.3 ビッグデータによる分析
前述の地価データ分析を補足することを目的に、ビッグデータを用いた分析の事例を以下に示す。
(1) 経済活動活発化(消費金額)の分析
データ取得対象時点
「5.5.1 事業概要」で示された整備年次およびイベント等の開催状況を考慮し、以下 3 時点の代表
月として選定している。
 第 1 時点:H28.6 ハード整備途中、社会実験「おとがワ!ンダーランド」(H28.7〜)の実施前
基準年:H24 乙川プロジェクト:H27.3 発足 乙川河川緑地整備:R2.3 完了
中央緑道:R3.3 供用
5-21
 第 2 時点:R1.6 ハード整備途中、供用開始前
 第 3 時点:R5.6 ハード整備完了(R3.3)後
個人向け商業活動の活発化(エリア内における消費金額)の確認
図 5-27 に、乙川リバーフロント地区を含む周辺地区における消費統計(クレジットカード決済)の推
移を、H28.6 基準(第 1 時点:H28.6 を 1.00 とした時の相対値)で示している。また、参考として全国の
消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の数値も併記している。全国の物価の上昇以上に、ハード整
備前の第 1 時点と比較して消費統計(クレジットカード決済)が第 2 時点、第 3 時点ともに上昇してい
ることがわかる。一方、第 2 時点と比較して第 3 時点の決済額が減少しているが、以降で簡単な傾向
分析をしている。
図 5-27 岡崎市 乙川リバーフロント周辺地区 消費統計(クレジットカード決済)推移(H28.6 基準)
次に、インフラ経営による「賑わい創出と関連が深い業種別」32
の決済額の推移を、H28.6 基準(第
1 時点:H28.6 を 1.00 とした時の相対値)と比較した値と各時点の決済額の業種別割合を図 5-28 に
示す。以下の傾向が確認される。
 当該エリアのクレジットカード決済の 8 割強を「各種商品小売業」が占めており、消費統計(ク
レジットカード決済)推移は「各種商品小売業」の傾向に従う部分が大きい。
 上記から、「各種商品小売業」に着目すると、第 1 時点と比較して第 2 時点、第 3 時点ともに
その決済額は増加している。しかし、第 3 時点では図 5-27 で示した物価上昇率との差がわ
ずかであることから、決済額の増加は物価上昇に起因している可能性がある。
 飲食料品小売業、外食については、第 2 時点、第 3 時点と決済額が大きく増加していることを
確認できる。このうち飲食料品小売業について、H28.6 に対する全国の推移値は R1.6 で 1.03、
R5.6 で 1.10 である 33
。全国の推移値と比較すると、当該地区の伸びは非常に大きいものと言
える。また、外食について、H28 通年に対する全国の推移値は R1 で 1.07、R5 で 1.60 である34。こちらも、全国の推移値と比較すると、当該地区の伸びは非常に大きいと言える。なお、飲32図 5-28 においては、自動車小売業、機械器具小売業、医薬品・化粧品小売業など、住民の支出が大
半を占めると想定される小売業を対象外としている。これらは右図で「その他」に含めている。33経済産業省「商業動態統計調査」月報をもとに国土交通省算出34一般社団法人日本フードサービス協会「外食産業市場動向調査 令和 5 年(2023 年)」年間結果報告
をもとに国土交通省算出。なお、年次ではなく、暦年の数字である。1.191.131.021.070.900.951.001.051.101.151.201.25
R1.6 R5.6
決済金額合計 参考:消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)
5-22
食料品小売業、外食、ともに業種別割合が小さく、決済額全体を増加するまでには及ばない。
図 5-28 消費統計(クレジットカード決済) 乙川リバーフロント周辺地区
(左:業種別推移、右:業種別割合)
また、年齢(10 歳階級)別の H28.6 基準(第 1 時点:H28.6 を 1.00 とした時の相対値)と比較した値
と、各時点の決済額の年齢(10 歳階級)別割合を図 5-29 に示す。以下の傾向が確認される。
 20 代、70 代については、ハード整備前の第 1 時点と比較して第 2 時点、第 3 時点と決済額
が増加している。特に、70 代の伸びが大きい。
 30 代、40 代、50 代の割合が大きく、このうち 30 代および 50 代は、第 1 時点比較して各時点
で決済額が増加している。他方、40 代の第 3 時点は第 1 時点と比較して決済額が減少して
いる。
図 5-29 消費統計(クレジットカード決済) 乙川リバーフロント周辺地区
(左:年齢別推移、右:年齢別割合)
観光業の活発化(他エリア在住者による消費金額)の確認
図 5-27 で示される決済額の推移のうち、クレジットカードユーザーの居住地別の推移と各時点の居
住地別割合を図 5-30 に示す。左図は H28.6 基準(第 1 時点:H28.6 を 1.00 とした時の相対値)であ
5-23
る。ハード整備前の第 1 時点と比較して第 2 時点、第 3 時点ともに上昇しているのは、関東、愛知県
内、中部(愛知県除く)であり、他の地方については第 2 時点、第 3 時点のいずれか、または両時点
において、第 1 時点と比較して減少傾向にある。一方、愛知県内の居住地者による決済額の割合が
増加傾向にあることがわかる。また、第 3 時点においては東北地方の減少幅が大きいが、これは福島
県在住の決済額の減少が要因であることを補足する。
図 5-30 消費統計(クレジットカード決済) 乙川リバーフロント周辺地区
(左:居住地別推移、右:居住地別割合)
「他エリア在住者による消費金額」の推移を明確化するために、図 5-30 において愛知県内および
中部地方(愛知県除く)以外の地区を、図 5-31 にて「その他」とした。愛知県内および中部地方(愛知
県除く)以外の地区の「他エリア在住者」は第 2 時点では増加したが、第 3 時点では減少している。
図 5-31 消費統計(クレジットカード決済) 乙川リバーフロント周辺地区
(左:居住地 エリア別推移、右:居住地 エリア別割合)
消費金額分析のまとめ
賑わいを創出するインフラ経営の取組において、ハード整備前と比較して、クレジットカードの決済
5-24
額が増加していることを確認した。ただし、ハード整備途中である R1.6 と比較して、ハード整備完了・
供用開始後の R5.6 においては、決済額が減少しており、その要因となりうる要素がいくつか確認され
た。特にクレジットカードユーザーの居住地別の決済額では、「他エリア在住者」による決済額はハー
ド整備前と比較して減少しており、観光業の活発化を確認できない結果であった。
その他、特徴として以下が挙げられる。
 ハード整備途中でソフト施策開始前の時期である H28.6 と比較して、ソフト施策開始後の R1.6
およびハード整備完了・供用開始後の R5.6 において、クレジットカードの決済額が増加してい
ることを確認している。ただし、ハード整備中の第 2 時点と比較してハード整備完了かつ一定
のソフト施策を実施した第 3 時点においては、決済額が減少しており、その要因となりうる事項
をピックアップした。
 40 歳未満および 70 代の決済金額が上昇している。
 居住地別の決済額では、関東地方、愛知県内、中部地方(愛知県除く)の在住者が増加して
いる。一方、愛知県内、中部地方(愛知県除く)以外の在住者の総額は、H28.6 と比較して
R5.6 は減少している。
 業種別消費額では、飲食料品小売業および外食について、第 2 時点、第 3 時点と決済額が
大きく増加している。飲食料品小売業・外食の当該地区の伸びは、全国の推移値と比較する
非常に大きい。
なお、今回選定した時点はその代表月の集計データであり、ハード整備後の増加傾向が継続され
ているかについては、より多くの期間の分析を要する。
(2) 賑わいの創出(滞留者数・通行者数)の分析
推移(H30.1〜R5.12)
地価データ分析で処置群として設定した、岡崎市乙川リバーフロント地区の滞留者数、歩行者数
(通行者数)について、ハード整備中の H30(2018).1 から、全面供用が開始された R3(2021).3 を経
て、R5(2023).12 までの 5 年分の推移を図 5-32 に示す。実線は滞留者数、歩行者数(通行者数)の
拡大推計値であり、破線は季節変動を除去するための 12 か月後方移動平均値(12MA)である。なお、
滞留者は「該当エリアに 15 分以上滞留した人」の延べ人数である。パンデミックの影響による落ち込
みが確認されるが、R3(2021).3(グラフ中の赤点線)以降の全面供用後においては、滞留者数・歩行
者数(通行者数)ともに増加傾向であることが確認できる。ただし、パンデミック以前の水準には至って
いない。
5-25
図 5-32 乙川リバーフロント周辺地区 処置群 滞留者推移(左)、歩行者数推移(右)
滞留時間の傾向
岡崎市乙川リバーフロント地区の滞留時間割合について、3 時点分を図 5-33 に示す。なお、デー
タ仕様により取得可能の期間が H30 年 1 月以降となることを踏まえ、時点を以下の通り指定している。
ハード整備開始前である H27(2015).11 以前のデータが入手されていないことに注意。
 第 1 時点:H30(2018).6 ハード整備中
 第 2 時点:R2(2021).6 ハード整備中、一部供用開始後(籠田公園、人道橋)
 第 3 時点:R5(2023).6 ハード整備完了、供用開始後(中央緑道)
パンデミック後の R2(2021).6 では滞留時間が短時間化しているが、R5(2023).6 においては
H30(2018).6 と同等の傾向になっている。
図 5-33 乙川リバーフロント地区 処置群 滞留時間別割合
17% 18% 17%
17% 22% 18%
65% 60% 65%0%20%40%60%80%100%
2018.6 2021.6 2023.6
15分以上30分未満 30分以上60分未満 60分以上
滞留者数
(人) (人)
5-26
来訪者の居住地割合
乙川リバーフロント地区を来訪した人物の居住地別延べ人数および割合 35
について、R1、R3、R5
の 3 年間の通年分を集計した結果を図 5-34 に示す。図中の白抜きの数字は岡崎市、愛知県内(岡
崎市除く)の 2 地区それぞれが占める割合である。
R3 においてはパンデミックの影響もあるためか、R1 と比較して他エリア在住者の来訪者数が減少
し、岡崎市在住者(橙色枠)の割合が若干増加したことを確認できる。しかしながら、割合の傾向につ
いては 3 時点ともに大きな変動は生じていない。また、完全供用後の R5 の滞留者数は、ハード整備
中の R1 の水準に達していない。その他、関東地方(灰色枠)の割合が 1%⇒1%⇒3%と増加傾向にあ
る(図中黒数字)。
図 5-34 乙川リバーフロント地区 処置群 来訪者の居住地別延べ人数および割合
滞留者数・通行者数分析のまとめ
R3(2021).3 以降の全面供用後に、滞留人口、通行者数はともに増加傾向にあり、インフラ経営の各
段階を経て、当該エリアの経済活動が活発化していることを確認した。一方、滞留時間については大
きな変動は確認できない。今回は地区全体の傾向分析であったが、公園や川辺など、人の賑わいを
図りたい場所の傾向について、ミクロ的な分析を今後実施する必要がある。また、他エリア在住者の来
訪者数と割合についても変動がなく、地域住民による経済活動が中心となっていることが確認された。
(3) ビッグデータによる分析結果のまとめ
パフォーマンス指標とデータ分析によって得られた結果のまとめは表 5-5 の通り。インフラ経営の取
組を実施後、当該エリアの経済活動の活発化および賑わいの創出の両者にて、一定の成果を確認し
た。これらの結果が、前述の地価データ分析結果(R3 時点で処置群の地価の伸び率が対照群と比較
して 2.46%有意に高い)として現れている可能性がある。35当該エリアに 15 分以上滞留した人物の延べ人数計測値から拡大推計を行ったデータ。
0 500,000 1,000,000 1,500,000 2,000,000 2,500,000 3,000,000 3,500,000R1R3R5北海道 東北 関東 岡崎市
愛知県(岡崎市以外) 中部(愛知県除く) 近畿 中国
四国 九州・沖縄
60% 31%
66% 30%
63% 32%1%1%3%(人)
5-27
一方、「他エリア在住者の来訪者に増加が見えない」、「消費金額、来訪者数ともにパンデミック以前
の水準に達していない」、「滞留時間については大きな変動は確認できない」といった傾向も確認した。
データで得られた細かな指標を元とした対策も有効である。
表 5-5 岡崎市 乙川リバーフロント地区 ビッグデータによる分析のまとめ
視点 内容 パフォーマンス指標 結果
経済活動
活発化
個 人 向 け 商 業 活
動の活発化
エリア内における消費金額 ハード整備途中の段階と比較して増
加。業界別では「飲食料品小売業」・
「娯楽」の伸びが大きい一方、消費の
大半を占める「各種商品小売業」の伸
びは鈍い。
観光業の活発化 他エリア在住者による消費金額 愛知県内、中部地方在住者は増加、
他地方在住者は減少。
他エリア在住者による来訪者数 岡崎市内、愛知県内在住者が大半を
占め、傾向に大きな変動は確認されな
い。
賑わい創出 人流の増加 滞留人口、通行人口 R3.3 全面供用後、滞留者数・歩行者
数ともに増加傾向。
滞留時間の増加 滞留時間別割合 傾向に大きな変動は確認されない。
5-28
5.5 福岡市 市営水上公園・県営天神中央公園
5.5.1 事業概要 36
(1) 背景・経緯
福岡市営水上公園は、明治通り沿いの二つの川に挟まれた水辺の好立地にあり、大規模なモニュメ
ントも配置された都心のシンボル的空間として整備された。しかし、利用者が少なく、こうした立地条件
が十分に活かされていないなどの課題があった。このような中、平成25年に同公園を占用した大規模
な下水道工事が実施されることとなったため、併せて公園の再整備が実施された。
また、福岡県営天神中央公園については、再整備前において、開園から約 30 年が経過し、視線
を遮る樹木が鬱蒼と茂り、施設の更新も必要な時期に差し掛かっていた。多くの人が通行する絶好の
立地にもかかわらず、園内で滞留できる場所は少なく、都心観光や街のにぎわいに十分に寄与できて
いるとは言い難いものだった。このような課題を踏まえ、福岡と博多を結ぶ立地を活かし、誰もが昼夜を
通して安心して利用できる、憩い・にぎわいの空間を創出するため、園内を大幅にリノベーションするこ
ととなった。
(2) コンセプト・インフラ経営のポイント
水上公園の整備にあたっては、「都心部の水辺空間を活用した賑わい・憩い空間の拠点形成」がコ
ンセプトとされた。具体的には、高質な建築物などによる休養機能の向上や賑わいの創出、シンボリッ
クな景観の形成、その他利用者サービスの向上を図るために、民間活力を導入して整備・管理運営を
行うこととされた。また、天神中央公園のリニューアルでは、那珂川側からの眺望を阻害しないよう低く
ボリュームが抑えられた建物、貴賓館を望む観客席のような大階段、開放感のある園路など、このエリ
ア特有の景観資源を活かしたランドスケープ形成をコンセプトとし、各施設が一体的に整備された。民
間活力を活かした整備が念頭に置かれ、Park-PFI の手法が導入されており、民間事業者によるカフェ・
レストランの飲食施設整備と県による公園のリノベーションを一体的に実施された。
これら2つの事業に共通する点は、福岡市の中心街という一等地にありながら、十分な利活用がなさ
れていなかったという点である。このような課題意識を踏まえ、飲食施設や休養施設を設置するなど、
「利活用」が念頭に置かれた再整備となっている点が「インフラ経営」としてのポイントである。また、いず
れの事業も民間活力を活用し、民間ならではのアイデアを積極的に活用しながら公的空間のあり方を
見直しており、多様な主体が参画し再整備がなされたという点でも「インフラ経営」の取組といえる。36参考文献:
【水上公園】
・福岡市「水上公園整備・管理運営事業者の募集について」
https://www.city.fukuoka.lg.jp/jutaku-toshi/ryokkasuishin/business/suijyokouen-1_3.html
・国土交通省「しかく視察事例報告 [都市公園における民間活力の導入事例]」
https://www.mlit.go.jp/common/001265778.pdf
・ミズベリングプロジェクト事務局「天神に新しく生まれた水辺の拠点、リニューアルされた水上公園に行っ
てみた。」 https://mizbering.jp/archives/20279
【天神中央公園】
・一般財団法人 経済調査会(建設マネジメント技術)「ようこそ福岡県営天神中央公園へ官民連携による
都市公園再整備の取り組み」 https://kenmane.kensetsu-plaza.com/bookpdf/289/sgb_02.pdf
5-29
図 5-35 水上公園・天神中央公園の位置関係 37
図 5-36 水上公園・天神中央公園の事業、ソフト施策概要37出典:福岡市「リバーフロント NEXT 〜川に向かって開かれたまちへ〜」
5-30
5.5.2 地価データによる分析
(1) 地価データの整理
「3.4 ストック効果分析のための地価データの整備方法(パネルデータの整備方法)」で示した方法を
基本に事業実施箇所から 100m おきにバッファをとり地価データを整備した。
STEP1:
事業実施箇所を天神公園中央公園西中州エリア・水上公園で設定する。
図 5-37 事業実施箇所
STEP2:
事業実施箇所から 100m ごとのバッファを作成し、距離帯ごとに路線をグループ分け。
図 5-38 事業実施箇所からのバッファ図 図 5-39 距離帯ごとの路線図
STEP3:
H18 から R3 まで継続してデータを取得できているサンプルを対象として、距離帯ごとに平均路線価
(算術平均)の時系列推移を確認。なお、福岡市は H18 から R3 で路線 No の大幅な振替が確認され
なかったことから、路線 No をもとにパネルデータを整備した。
(2) 分析条件
推定式
推定式は、「2.2.3 推定式」で示した通り以下を用いる。
【推定式】
5-31
�������������������� = ���� + � ��������������������
����
+ � ����������������
����
+ � ����������������
����
+ ������������
������������ :時点����の路線����の路線価
���� :事業実施個所〜100m 以内のとき「1」、それ以外のとき「0」をとるダミー
�������� :年次ダミー(���� = H18, H21, H27, H30, R3) (注記)基準年は H24 で設定
�������� :路線ダミー
整備年次の設定
本事業では、水上公園のハード整備が H27.11〜H28.7、天神中央公園のハード整備が H30.11〜
R1.8 であることから整備前の基準年を H24 とし、その後の H27、H30、R3 での地価変化に着目した分
析を行った。
処置群および対照群の設定
「2.2.2 処置群、対照群の設定方法」の考え方に基づいて事業実施箇所から 100m 以内の範囲を処
置群とし、対照群は事業実施箇所から 100〜1,000m の範囲とした。
図 5-40 処置群と対照群の設定
設定した処置群と対照群の平均地価の推移は図 5-41 の通りであり、平行トレンド仮定は満たして
いるものと考える。一方、共通ショック仮定については本ケースのような市街地内の事業については周
辺開発等もあり必ずしも仮定を満たさない可能性があるため結果の考察の仕方には留意が必要とな
る。無論、本事業と関係のない周辺開発を分析対象から除く等の細かな設定を行うことで、より精緻な
効果分析は可能となるため、適宜、有識者に相談する等し、設定方法の検討を行うことが有効である。
処置群
対照群
5-32
図 5-41 処置群および対照群の平均路線価推移
(3) 分析結果
分析結果は表 5-6 の通りである。ここでのβが事業の効果となる。本分析では処置群と対照群 1 ケ
ースを設定している。本事業は市街地中心部の事業であり処置群と対照群の設定判断が難しい。上述
したように、分析対象期間内で周辺開発は様々存在すると考えられるため、詳細な分析をするために
は、そのような開発による影響を受けたリンクを取り除いて分析するなどの工夫が必要である。現地の
詳細な開発状況を把握したうえで複数の処置群・対照群を設定し、推定されるパラメータにどの程度の
幅が存在するかを確認することが有効である。
本ガイダンスでは、簡易的に標準的な処置群・対照群を設定し分析を行った。分析結果から整備前
を H24 とした場合、H27 以降の事業により H30 時点で対照群に対して処置群の地価は 6.16%(パラメ
ータ値:0.0616)有意に高く、R3 時点では 10.3%(パラメータ値 0.103)有意に高い結果となっている。こ
のように地価が有意に高くなる要因として、地域において今後につながるインフラ経営の工夫点等がな
いか考察するとともに、この効果発現の維持もしくは更なる向上に向けた取り組みとして考えられるもの
は無いかについて考察することが重要である。上述したように本事業は、都市部の周辺開発の影響も
介入することから、単一の設定による結果のみで効果を理解・解釈するのではなく、多様な設定・分析
を行い事業の効果を確認する必要がある。 ポイントは、その確認結果を分析担当者が理解・解釈し関
係者に共有するとともにストック効果最大化に資するレッスンを蓄積することにある。このことを念頭に、
分析に取り組んでいただきたい。
表 5-6 分析(推定)結果
H27 H30 R3
case1 β
(t 値)
-0.00225
(-0.47)
0.0616***
(4.31)
0.103***
(5.47)
p<0.1:*,p<0.05:**,p<0.01:***0200,000
400,000
600,000
800,000
1,000,000
1,200,000
H18路線価 H21路線価 H24路線価 H27路線価 H30路線価 R3路線価
(円/m2)
処置群
対照群
基準年:H24
天神中央公園:R1.8
リニューアル
水上公園:H28.7供用
基準年:H24 水上公園:
H28.7 供用
天神中央公園:
R1.8 リニューアル
5-33
図 5-42 分析結果の捉え方
5.5.3 ビッグデータによる分析
前述の地価データ分析を補足することを目的に、ビッグデータを用いた分析の事例を以下に示す。
(1) 経済活動活発化(消費金額)の分析
データ取得対象時点
「5.5.1 事業概要」で示された整備年次およびイベント等の開催状況を考慮し、以下 3 時点の代表月
として選定している。
 第 1 時点:H28.6 供用前(水上公園:整備中、天神中央公園:工事未着手)
 第 2 時点:R1.6 一部供用(水上公園:供用後。天神中央公園:ハード整備中)
 第 3 時点:R5.6 水上公園、天神中央公園ともに供用中。
個人向け商業活動の活発化(エリアにおける消費金額)の確認
図 5-43 に、水上公園・天神中央公園周辺地区における消費統計(クレジットカード決済)の推移を、
H28.6 基準(第 1 時点:H28.6 を 1.00 とした時の相対値)で示している。また、参考として全国の消費
者物価指数(生鮮食品を除く総合)の数値も併記している。全国の物価の上昇以上に、ハード整備前
の第 1 時点と比較して消費統計(クレジットカード決済)が第 2 時点、第 3 時点ともに上昇していること
がわかる。一方、第 2 時点と比較して第 3 時点の決済額が減少しているが、以降で簡単な傾向分析
をしている。
図 5-43 福岡市 水上公園・天神中央公園周辺地区 消費統計(クレジットカード決済)推移(H28.6 基準)
1.83 1.77
1.02 1.070.000.501.001.502.00R1.6 R5.6
決済金額合計 参考:消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)
5-34
次に、インフラ経営による「賑わい創出と関連が深い業種別」の決済額の推移を、H28.6 基準(第 1
時点:H28.6 を 1.00 とした時の相対値)と比較した値を図 5-44 に示す 38
。以下の傾向が確認される。
 「外食」については、第 2 時点、第 3 時点と決済額が増加している。H28 通年に対する全国の
推移値である R1 で 1.07、R5 で 1.6039
と比較しても、当該地区の伸びは大きい。
 「宿泊」については、第 1 時点と比較して第 2 時点、第 3 時点ともにその決済額は増加している
が、第 3 時点では第 2 時点と比較して減少している。
図 5-44 福岡市 水上公園・天神中央公園周辺地区 消費統計(クレジットカード決済) 業種別推移
また、年齢(10 歳階級)別の H28.6 基準(第 1 時点:H28.6 を 1.00 とした時の相対値)と比較した値と
各時点の決済額の年齢(10 歳階級)別割合を図 5-45 に示す。以下の傾向が確認される。
 20 代、50 代については、ハード整備前の第 1 時点と比較して第 2 時点、第 3 時点と決済額が
増加している。特に、20 代の伸びが大きく、図 5-45 右図にて 20 代の割合が上昇していること
がわかる。
 50 代については、図 5-45 左図で上昇傾向にあること、図 5-45 右図でその割合が高いことか
ら、50 代の決済金額の増加が全体の金額増加に寄与していることがわかる。
 他の年代においては、第 1 時点と比較して第 2 時点、第 3 時点ともにその決済額は増加してい
るが、第 3 時点では第 2 時点と比較して減少している。38姫路市、岡崎市においては業種別割合のグラフを載せているが、業種によっては、正常にデータが実
施されなかった可能性があり、福岡市ではこれを控えている。39経済産業省「商業動態統計調査」月報をもとに国土交通省算出
5-35
図 5-45 消費統計(クレジットカード決済) 水上公園・天神中央公園周辺地区
(左:年齢別推移、右:年齢別割合)
観光業の活発化(他エリア在住者による消費金額)の確認
図 5-44 で示される決済額の推移のうち、クレジットカードユーザーの居住地別の推移と各時点の居
住地別割合を図 5-46 に示す。左図は H28.6 基準(第 1 時点:H28.6 を 1.00 とした時の相対値)であ
る。ハード整備前の第 1 時点と比較して第 2 時点、第 3 時点と決済額が増加しているのは、東北、中
部、中国、九州・沖縄(福岡県除く)である。福岡県内(茶色枠)については、第 1 時点と比較して第 2
時点、第 3 時点ともにその決済額は増加しているが、第 3 時点では第 2 時点と比較して減少してい
る。また、本エリアは福岡県内のほか、関東地方の居住者の割合が大きいことがわかる。
図 5-46 消費統計(クレジットカード決済) 水上公園・天神中央公園周辺地区
(左:居住地別推移、右:居住地別割合)
5-36
居住者の割合が大きい関東地方の居住者についての傾向を確認するため、都道府県別 H28.6 基
準の推移と都県別割合を図 5-47 に示す。図 5-47 により、以下が確認できる。
 関東地方居住者に占める割合が大きい東京都について、ハード整備前の第 1 時点と比較し
て第 2 時点、第 3 時点と決済額が増加しており、図 5-42(a), (b)にて関東地方の居住者の金
額の増加、割合の拡大に寄与している。
 東京都のほかには、群馬県在住者が突出して増加している。ただし、関東地方における割合
にて群馬県は 1%程度であり、水上公園・天神中央公園周辺地区の消費統計(クレジットカー
ド決済)の全体の増加には寄与していない。
図 5-47 消費統計(クレジットカード決済) 水上公園・天神中央公園周辺地区
(左:都県別居住地、右:居住地都県別割合(ともに関東地方))
最後に、「他エリア在住者による消費金額」の推移を明確化するために、図 5-46 において福岡県
内および九州・沖縄(福岡県除く)地方以外の地区を「その他」とし、図 5-48 に示す。福岡県内、九
州・沖縄地方(愛知県除く)以外の地区については、ハード整備前の第 1 時点と比較して第 2 時点、
第 3 時点と決済額が増加していることがわかる。
5-37
図 5-48 消費統計(クレジットカード決済) 水上公園・天神中央公園周辺地区
(左:居住地エリア別推移、右:居住地エリア別割合)
消費金額分析のまとめ
特徴として以下が挙げられる。
 水上公園、天神中央公園の供用開始前である H28.6(第 1 時点)と比較して、水上公園のみの
供用が開始された R1.6(第 2 時点)、および、天神中央公園の供用も開始された R5.6(第 3 時
点)において、クレジットカードの決済額が増加していることを確認している。
一方、第 2 時点と比較して、パンデミック後の第 3 時点においては決済額が減少しており、上
記の分析ではその要因となりうる事項をピックアップした。
 20 代、50 代については、ハード整備前の第 1 時点と比較して第 2 時点、第 3 時点と決済額が
増加しており、特に 20 代の伸びが大きい。
50 代については、上昇傾向であること、かつ、消費金額における割合が高いことから、50 代の
増加が全体の金額増加に寄与していることがわかる。
 居住地別の決済額では、割合が大きい福岡県内および、「他エリア在住者」、特に、関東在住
が増加している。また、関東のうち割合の大きい東京都在住者が第 2 時点、第 3 時点と決済額
が増加しており、観光やビジネス出張などの需要を取り込めている。
 業種別消費額では、外食について、第 2 時点、第 3 時点と決済額が増加しており、全国の推
移値と比較してもその伸びは非常に大きいものと言える。
以上より、インフラ経営の供用段階を経て、当該エリアの経済活動が活発化していることを確認した。
なお、今回選定した時点はその代表月の集計データであり、ハード整備後の増加傾向が継続されて
いるかについては、より多くの期間の分析を要する。
(2) 賑わいの創出(滞留者数・通行者数)の分析
推移(H30.1〜R5.12)
地価データ分析で処置群として設定した、福岡市水上公園・天神中央公園周辺地区の滞留者数、
歩行者数(通行者数)について、水上公園の供用が開始され、天神中央公園の整備着手前である
5-38
H30(2018).1 から、全面供用が開始された R1(2019).8 を経て、R5(2023).12 までの 5 年分の推移を
図 5-49 に示す。実線は滞留者数、歩行者数(通行者数)の拡大推計値であり、破線は季節変動を除
去するための 12 か月後方移動平均値(12MA)である。なお、滞留者は「該当エリアに 15 分以上滞留
した人」の延べ人数である。R1(2019).8(グラフ中の赤点線)の天神中央公園の供用後、パンデミック
発生までは滞留者数・歩行者数(通行者数)ともに増加している。ただし、R2 のパンデミックにより減少
した後は、R1 年の水準には至っていない。パンデミック発生後、滞留者は増加傾向の一方、歩行者
数は減少傾向にある。
図 5-49 水上公園・天神中央公園周辺地区 処置群 滞留者推移(左)、歩行者数推移(右)
滞留時間の傾向
福岡市水上公園・天神中央公園周辺地区の滞留時間割合について、3 時点分を図 5-50 に示す。
60 分以上滞留した人口の割合が大きくなっていることから、滞留の長時間化を確認できる。また、水
上公園のリニューアル整備が開始された H27(2015).11 以前のデータが入手されていないことに注意。
 第 1 時点:R1(2019).6 供用前(水上公園:整備中、天神中央公園:工事未着手)
 第 2 時点:R3(2021).6 供用開始後
 第 3 時点:R5(2023).6 供用開始後
滞留者数
(人) (人)
5-39
図 5-50 水上公園・天神中央公園周辺地区 処置群 滞留時間別割合
来訪者の居住地割合
福岡市水上公園・天神中央公園周辺地区を来訪した人物の居住地別延べ人数および割合 40
につ
いて、H30、R3、R5 の 3 年間の通年分を集計した結果を図 5-51 に示す。図中の白抜きの数字は福
岡市、福岡県内(福岡市除く)の 2 地区それぞれが占める割合である。
R3 においてはパンデミックの影響もあるためか、H30 と比較して他エリア在住者の来訪者数が減少
し、福岡市在住者(茶色枠)の割合が若干増加したことを確認できる。しかしながら、割合の傾向につ
いては 3 時点ともに大きな変動は生じていない。また、完全供用後の R5 の滞留者数は、ハード整備
中の H30 の水準に達していない。
図 5-51 水上公園・天神中央公園 処置群 来訪者の居住地別延べ人数および割合40当該エリアに 15 分以上滞留した人物の延べ人数計測値から拡大推計を行ったデータ。
15% 16% 13%
17% 17%14%68% 67% 73%0%20%40%60%80%100%
H31.6 R3.6 R5.6
15分以上30分未満 30分以上60分未満 60分以上
0 500,000 1,000,000 1,500,000 2,000,000 2,500,000 3,000,000 3,500,000 4,000,000 4,500,000H30R3R5北海道 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 福岡市 福岡県(福岡市除く) 九州・沖縄(福岡県除く)63%70%64%14%16%17%
(人)
5-40
滞留者数・通行者数分析のまとめ
R1(2019).8 以降の全面供用後はパンデミックが発生するまでは増加傾向にあることを確認できた。
しかし、パンデミックによる急激な減少後はパンデミック以前の水準に達していない。その一方、滞留
者の長時間化は確認されており、居心地の良さなどの快適性が寄与している可能性はある。
一方、他エリア在住者の来訪者数および割合については、供用開始前と比較して大きな変動を確
認できていない。他エリア在住者の増加を目指す場合、その誘致の対策が必要になる。
(3) ビッグデータによる分析結果のまとめ
パフォーマンス指標とデータ分析によって得られた結果のまとめは以下表 5-7 の通り。インフラ経営
の取組を実施後、当該エリアの経済活動の活発化および賑わいの創出の両者にて、一定の成果を確
認した。これらの結果が、前述の地価データ分析結果(R3 時点で処置群の地価の伸び率が対照群と
比較して 10.26%有意に高い)として現れている可能性がある。特徴として、「外食の伸びが大きい」、
「他エリア在住者による消費金額が上昇」「滞留の長時間化」といった点が挙げられる。
一方、「他エリア在住者の来訪者に増加が見えない」、「消費金額、来訪者数ともにパンデミック以前
の水準に達していない」「歩行者数が減少傾向」といった点も確認した。データを元にした対策も有効
である。
表 5-7 福岡市 水上公園・天神中央公園 ビッグデータによる分析のまとめ
視点 内容 パフォーマンス指標 結果
経済活動
活発化
個 人 向 け 商 業 活
動の活発化
エリア内における消費金額 供用前と比較して上昇。特に「外食」の
伸びが大きい。
観光業の活発化 他エリア在住者による消費金額 福岡県内、九州・沖縄地方(愛知県除
く)以外の在住者の消費金額が上昇。
他エリア在住者による来訪者数 傾向に大きな変動は確認されない。
賑わい創出 人流の増加 滞留人口、通行人口 R1.8 の天神中央公園の供用後、滞留
者数・歩行者数(通行者数)は増加傾
向にあった。パンデミック発生後、滞留
者は増加傾向にあるが、歩行者は減
少傾向にある。
滞留時間の増加 滞留時間別割合 滞留の長時間化を確認。
5-41
5.6 松山市 花園町通り
5.6.1 事業概要 41
(1) 背景・経緯
花園町通りに隣接する城山公園は、戦後、野球場や競輪場、病院などの施設が整備され、花園町
通りはそれら施設へ訪れる人で賑わったが、平成 12 年以降、施設の老朽化に伴う郊外移転や大型
ショッピングモールの郊外立地などにより、空き店舗の増加が進み、通りの自動車交通量は 35 年前
の半分である約 7,500 台 / 日に減少(平成 29 年比)し、2 車線で処理できる交通量になっていた。
また、歩行者通行量も減少し、歩道には放置自転車が大量に並び、歩行者の安全や景観が損なわ
れていった。さらに、花園町通りの東通りのアーケードは老朽化が著しく、暗い歩行環境も課題となっ
ていた。
このような背景を踏まえ、平成 23 年から花園町通りの道路空間再編事業の検討が開始され、平成
26 年から工事に着手した。電線類地中化とともに、6 車線分あった車道を 2 車線に減らし、歩行者
の空間を拡げ、自転車道を新たに設ける道路空間の再配分を行った。これにより、松山市最大の交
通結節点である松山市駅と松山城の史跡景観を眺望できる緑豊かな城山公園を結ぶ花園町通りは
『歩いて暮らせるまち松山』のシンボルロードとして、平成 29 年 9 月にリニューアルされた。
(2) コンセプト・インフラ経営としてのポイント
本事業は、賑わいと交流を育む「広場を備えた道路」をコンセプトとしている。具体的には、「歩行者
や自転車などゆっくりの交通に配慮し、子供からお年寄り、障害者の方まで誰もが笑顔で生き生きと
暮らしやすいまちづくり」、「都市景観の向上や災害に強い道路」、「滞留する憩いの居場所づくりによ
る地域活性化」、「『誇れる地域の宝』を活かした魅力的な空間形成」などを掲げている。実際、拡幅さ
れた歩道では、地元商店街が主催のマルシェイベントが開催されるなど賑わいが創出されている。ま
た、整備にあたっては、地元説明会や商店街が主催する会合に加え、地権者やテナントを戸別訪問
するなど、対話を重ねながら検討を進めている。加えて、有識者、地元代表者、交通事業者、行政な
どが参画する懇談会や、地域住民や学生、公募者などによるワークショップを開催し、空間の活用方
法について意見交換を実施したほか、模型やミクロ交通流シミュレーションなどの様々なツールの活
用社会実験により効果検証を実施している。このように産学官の連携でリニューアルに取り組んでいる
点も本事業の特徴であり、インフラ経営のポイントであると言える。41参考文献:
・松山アーバンデザインセンター「松山の都市形成史 2020」
https://udcm.jp/project/vision/%E9%83%BD%E5%B8%82%E5%BD%A2%E6%88%90%E5%8F%B22020/
・松山市「「歩いて暮らせるまち松山」の新たなシンボルロード 花園町通りリニューアル 賑わいと交流を育
む「広場を備えた道路」」
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/shisei/kakukaichiran/tosiseibibu/dourokensetuka.files/300305hanazon
o_A3panfu.pdf
5-42
図 5-52 花園町通りと松山市内主要施設の位置関係 4242出典:松山市「松山市中心市街地活性化基本計画(第 2 期)第 3 回変更認定」花園町通り 5-43
図 5-53 松山市花園町通りの事業概要 43
図 5-54 松山市花園町通りの整備経緯43出典:「花園町通り」道路空間改変事業の取組(松山市都市整備部)
5-44
5.6.2 地価データによる分析
(1) 地価データの整理
3.4 で示した方法を基本に事業実施箇所から 100m おきにバッファをとり地価データを整備した。
STEP1:
事業実施箇所を松山市花園町通りで設定する。
図 5-55 事業実施箇所
STEP2:
事業実施箇所から 100m ごとのバッファを作成し、距離帯ごとに路線をグループ分け。
図 5-56 事業実施箇所からのバッファ図 図 5-57 距離帯ごとの路線図
STEP3:
H18 から R3 まで継続してデータを取得できているサンプルを対象として、距離帯ごとに平均路線価
(算術平均)の時系列推移を確認。なお、松山市は H24 から H27 で路線 No の大幅な振替が確認され
たことから、H24-H27 については位置情報、その他の年次については路線 No をもとにパネルデータを
整備した。
(2) 分析条件
推定式
推定式は、「2.2.3 推定式」で示した通り以下を用いる。
5-45
【推定式】
�������������������� = ���� + � ��������������������
����
+ � ����������������
����
+ � ����������������
����
+ ������������
������������ :時点����の路線����の路線価
���� :事業実施個所〜100 以内のとき「1」、それ以外のとき「0」をとるダミー
�������� :年次ダミー(���� = H18, H21, H24, H30, R3) (注記)基準年は H27 で設定
�������� :路線ダミー
整備年次の設定
本事業は、H26.8 に工事着手されていることから、H26.1 の公示地価がベースとなっている H27 を
整備前年次とし、その後の H30、R3 の地価変化に着目した分析を行った。
処置群および対照群の設定
事業実施箇所から 100m 以内の範囲を処置群とし、処置群との間に緩衝帯を設けた 300〜1,000m
の範囲を制御群とするケースを検討した。なお、中央商店街、ロープウェイ商店街のリンクについては、
分析期間周辺で大規模な開発があったため分析対象外路線とした。本分析で設定した緩衝帯とは、
「2.2.4 分析結果の取扱いに関する注意点」で示したように事業による影響が処置群を超えて対照群
にまで影響を及ぼしている可能性を判断できない場合、処置群と対照群の間に分析対象外の地域を
設定するものである。なお、本事業については、試行的に緩衝帯の設定を行っている。上記のような
可能性が危惧される場合は緩衝帯の設定が有効となる可能性がある。
図 5-58 処置群および対照群の設定
設定した処置群と対照群の平均地価の推移は図 5-59 の通りである。平行トレンド仮定は満たして
いるものと考える。共通ショック仮定については対照群と処置群の片方についてのみ地価に対して大
きな影響を与えるような事業は無いものと判断した。なお、このような処置群と対照群の設定は、適宜、
処置群
対照群
5-46
有識者に相談することも有効である。
図 5-59 処置群および対照群の平均路線価の推移
(3) 分析結果
分析結果は表 5-8 の通りである。ここでのβが事業の効果となる。本分析では処置群と対照群の間
に緩衝帯を設けている点、分析に影響を及ぼすリンク(中央商店街等)を分析から除いている点が特徴
である。分析ケース 1 ケースのみであるものの、このように地域の状況を踏まえて処置群・対照群を細か
く設定した事例として内容を確認いただきたい。
分析結果からは H30 時点では有意でない値、R3 で正に有意な値となっており、H27 を整備前とした
場合、本事業の整備により R3 時点では対照群に対して処置群は地価が 1.48%(パラメータ値 0.0148)
有意に高くなっている。このように地価が有意に高くなる要因として、地域において今後につながるイン
フラ経営の工夫点等がないか考察するとともに、この効果発現の維持もしくは更なる向上に向けた取り
組みとして考えられるものは無いかについて考察することが重要である。ポイントは、その結果を分析担
当者が理解・解釈し関係者に共有するとともにストック効果最大化に資するレッスンを蓄積することにあ
る。このことを念頭に、分析に取り組んでいただきたい。
表 5-8 分析(推定)結果
H30 R3
case1 β
(t 値)
0.00428
(1.64)
0.0148***
(2.73)
p<0.1:*,p<0.05:**,p<0.01:***050,000
100,000
150,000
200,000
250,000
H18路線価 H21路線価 H24路線価 H27路線価 H30路線価 R3路線価
(円/m2)
処置群
対照群
基準年:H27
花園町通り:H29.9リニューアル
基準年:H27 花園町通り:
H29.9 リニューアル
5-47
図 5-60 分析結果の捉え方
5.6.3 ビッグデータによる分析
前述の地価データ分析を補足することを目的に、ビッグデータを用いた分析の事例を以下に示す。
(1) 賑わいの創出(滞留者数・通行者数)の分析
推移(H30.1〜R5.12)
地価データ分析で処置群として設定した、松山市花園町通り周辺地区の滞留者数、歩行者数(通
行者数)について、花園町通りがリニューアルされた H29. 9 後の H30(2018).1 から R5(2023).12 ま
での 5 年分の推移を図 5-61 に示す。実線は滞留者数、歩行者数(通行者数)の拡大推計値であり、
破線は季節変動を除去するための 12 か月後方移動平均値(12MA)である。なお、滞留者は「該当エ
リアに 15 分以上滞留した人」の延べ人数である。
R2 のパンデミックにより減少した後は、R1 年以前の水準には至っていない。パンデミック発生後、
増加・減少の顕著な傾向は見られない。
5-48
図 5-61 花園町通り 処置群 滞留者推移(左)、歩行者数推移(右)
滞留時間の傾向
松山市花園町通り周辺地区の滞留時間割合について、3 時点分を図 5-62 に示す。60 分以上滞留
した人口の割合が大きくなっていることから、滞留の長時間化を確認できる。また、工事が着手された
H26 以前のデータが入手されていないことに注意が必要である。
図 5-62 花園町通り 処置群 滞留時間別割合
来訪者の居住地割合
松山市花園町通り周辺地区を来訪した人物の居住地別延べ人数および割合 44
について、H30、R3、
R5 の 3 年間の通年分を集計した結果を図 5-63 に示す。図中の白抜きの数字は松山市、愛媛県内44当該エリアに 15 分以上滞留した人物の延べ人数計測値から拡大推計を行ったデータ。
22% 24%14%20% 21%19%58% 56%68%0%20%40%60%80%100%2018.6 2021.6 2023.6
15分以上30分未満 30分以上60分未満 60分以上
滞留者数
(人) (人)
5-49
(松山市除く)の 2 地区それぞれが占める割合である。R3 においてはパンデミックの影響もあるためか、
H30 と比較して他エリア在住者の来訪者数が減少し、松山市在住者(紺色枠)の割合が若干増加した
ことを確認できる。また、R5 においては松山市が占める割合は H30, R3 と比較して減少している。そ
の分、関東地方在住者の割合が 2%⇒2%⇒5%と増加している。
図 5-63 花園町通り 処置群 来訪者の居住地別延べ人数および割合
滞留者数・通行者数分析のまとめ
データの制約上、リニューアル以前と比較することは不可能ではあったが、H30.1以降の供用開始
後の傾向を確認した。滞留者数・通行者数について、R2 のパンデミックで減少した後、増加・減少の
顕著な傾向は見られない。他方、滞留者の長時間化が確認されており、当該エリアの快適性が向上
し、経済活動に寄与していることが推定される。また、他エリア在住者による来訪者数の伸びも確認さ
れ、観光業を中心とした経済活動の活発化に寄与している可能性がある。
一方、「松山市内在住者が増加していない」、「滞留人数、歩行者数に増加傾向が見られない」とい
った点も確認した。データを元にした対策も有効である。
表 5-9 松山市 花園町通り ビッグデータによる分析のまとめ
視点 内容 パフォーマンス指標 結果
経済活動
活発化
観光業の活発化 他エリア在住者による来訪
者数
松山市内在住者の来訪が減少
し、関東地方在住者が増加。
賑わい創出 人流の増加 滞留人口、通行人口 パンデミック発生後、増加・減少の
顕著な傾向は見られない。
滞留時間の増加 滞留時間別割合 滞留の長時間化を確認。
0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000 1,200,000H30R3R5北海道 東北 関東 中部
近畿 中国 松山市 愛媛県(松山市除く)
四国(愛媛県除く) 九州・沖縄
68% 17%76%73% 20%15%5%2%2%
(人)
5-50
5.7 新潟市 信濃川やすらぎ堤(萬代橋〜八千代橋、右岸側)
5.7.1 事業概要 45
(1) 背景・経緯
信濃川やすらぎ堤は、新潟市街地を洪水から守るとともに、都市の貴重な水辺空間として市民にやす
らぎの場を提供することを目的として昭和 62 年より事業が開始された。築堤工事では、全国で初めて傾
斜をほとんど感じない5割勾配の堤防が採用され、また、これに合わせて新潟市の緑地やサイクリングロ
ードが整備されるなど、憩いの場・イベントの場などとして多くの市民に親しまれてきた。平成 27 年には、
「ミズベリングプロジェクト」をやすらぎ堤においても展開させるため、新潟市と信濃川下流河川事務所が
「ミズベリング信濃川やすらぎ堤会議」(キックオフ会議)を開催し、正式にミズベリングプロジェクトに参加
を表明した。また、同年、未整備区間の整備や整備済み区間のリニューアルにあたって市民の方々、新
潟市、国土交通省が、やすらぎ堤の整備とデザインの方向性を共有した「やすらぎ堤の整備とデザイン
方針」がとりまとめられたりするなど、川とまちが一体となった賑わいの創出を更に進めようという機運が高
められてきた。さらに、平成 28 年には、やすらぎ堤のうち萬代橋から上流部の八千代橋に至る区間の水
面域および両岸の約 18ha において、都市・地域再生等利用区域の指定がなされ、企業活動の可能性
が大きく拡がったことから、民間事業者の活動促進による水辺空間の賑わい創出が進められてきた。そ
の後もミズベリング定着のためのイベント開催など、新潟市・民間事業者が一体となったソフト面の取組
や、新潟市と信濃川下流河川事務所によるハード整備等が継続的に実施され、現在に至る。
(2) コンセプト・インフラ経営のポイント
近年の信濃川やすらぎ堤防の整備コンセプトは、「賑わいにあふれたより良い水辺空間を創出するこ
と」であり、前記「やすらぎ堤の整備とデザイン方針」にも副題として掲げられている。例えば、新潟駅・万
代シティに近い右岸側は、春から夏にかけて、「水辺アウトドアラウンジ」なる飲食を中心とした出店企画
が平成 29 年度から毎年行われており、賑わいを見せている。さらに、最近では、市内のトレーニングジ
ムと連携し、緩やかな斜面を活用したウォータースライダーやトランポリンの設置による子ども向けイベン
トが企画されている。他にも、焚火を囲み落ち着いた空間で食事を楽しむ「TAKIBI ラウンジ」や、「盆踊
り」、「SUP(スタンドアップパドルボード)教室」、キャンプ道具フルセットレンタルに設営サポートが付いた
「水辺体験 CAMP プラン」などの多種多様なイベントが開催されている。したがって、本事業におけるイ
ンフラ経営のポイントとしては、公共空間が多面的・効果的に利活用されている点にあると言える。45参考文献:
・やすらぎ堤デザイン検討委員会「やすらぎ堤の整備とデザイン方針<賑わいにあふれたより良い水辺空
間を創出していくための考え方>」 https://www.hrr.mlit.go.jp/shinage/oshirase/design/houshin.pdf
・信濃川下流河川事務所「水辺空間におけるまちなかの賑わいを創出したミズベリング信濃川やすらぎ堤と
その区域の維持管理について」 https://www.hrr.mlit.go.jp/library/happyoukai/R2/b/b-07.pdf
・西野・富山(2019)「水辺空間の創造による新潟市のまちづくり─新しい価値を創造する「ミズベリング信濃
川やすらぎ堤」の官民連携の取り組み─」
https://nsg.repo.nii.ac.jp/record/4876/files/10%E8%A5%BF%E9%87%8E%E5%BB%A3%E8%B2%B4%E
3%83%BB%E5%AF%8C%E5%B1%B1%E6%A0%84%E5%AD%90.pdf
5-51
図 5-64 信濃川やすらぎ堤 かわまちづくりの事業概要
図 5-65 平成 28 年 2 月「都市・地域再生等利用区域」の指定区間
5-52
5.7.2 地価データによる分析
(1) 地価データの整理
3.4 で示した方法を基本に事業実施箇所から 100m おきにバッファをとり地価データを整備した。
STEP1:
事業実施箇所を萬代橋上流右岸側で設定する。
図 5-66 事業実施箇所
STEP2:
事業実施箇所から 100m ごとのバッファを作成し、距離帯ごとに右岸側の路線をグループ分け。
図 5-67 事業実施箇所からのバッファ図 図 5-68 距離帯ごとの路線図
STEP3:
H18 から R3 まで継続してデータを取得できているサンプルを対象として、距離帯ごとに平均路線価
(算術平均)の時系列推移を確認。なお、新潟市は路線 No の大幅な振替は確認されなかったため、路
線 No をもとにパネルデータを整備した。
(2) 分析条件
推定式
推定式は、「2.2.3 推定式」で示した通り以下を用いる。
【推定式】
�������������������� = ���� + � ��������������������
����
+ � ����������������
����
+ � ����������������
����
+ ������������
5-53
������������ :時点����の路線����の路線価
���� :事業実施個所〜100m 以内のとき「1」、それ以外のとき「0」をとるダミー
�������� :年次ダミー(���� = H18, H21, H24, H30, R3) (注記)基準年は H27 で設定
�������� :路線ダミー
整備年次の設定
本事業は、H27.1 にミズベリング信濃川やすらぎ堤会議が開催されて以降、デザイン検討委員会や
研究会が開催され、H28.6 から試行期間が開始されたミズベリング信濃川やすらぎ堤では多くの利用
者・売り上げを記録。また、ミズベリングの開催に合わせて、萬代橋上流右岸を中心に H28 から高水
敷や管理用通路、広場拡大等の事業が実施された。上記の経緯を踏まえ、H27 を整備前年次とし、
その後の H30、R3 の地価変化に着目した分析を行った。
処置群および対照群の設定
事業実施箇所から 100m 以内の範囲を処置群とし、対照群は処置群との間に緩衝帯を設け 300〜
600m の範囲とした。なお、100m 以内バッファと重なる路線においても、橋をまたぐ路線や端部につい
ては一部制御群とした。本分析で設定した緩衝帯とは、「2.2.4 分析結果の取扱いに関する注意点」で
示したように事業による影響が処置群を超えて対照群にまで影響を及ぼしている可能性を判断できな
い場合、処置群と対照群の間に分析対象外の地域を設定するものである。なお、本事業については、
試行的に緩衝帯の設定を行っている。上記のような可能性が危惧される場合は緩衝帯の設定が有効
となる可能性がある。
図 5-69 処置群と対照群の設定
設定した処置群と対照群の平均地価の推移は図 5-70 の通りである。平行トレンド仮定は満たして
いるものと考える。一方、共通ショック仮定については本ケースのような市街地内の事業については周
辺開発等もあり必ずしも仮定を満たさない可能性があるため結果の考察の仕方には留意が必要とな
る。無論、本事業と関係のない周辺開発を分析対象から除く等の細かな設定を行うことで、より精緻な
効果分析は可能となるため、適宜、有識者に相談する等し、設定方法の検討を行うことが有効である。
処置群
対照群
5-54
図 5-70 処置群および対照群の平均路線価の推移
(3) 分析結果
分析結果は表 5-10 の通りである。ここでのβが事業の効果となる。本分析では処置群と対照群の間
に緩衝帯を設け、土地利用特性が大きく異なる左岸側を分析から除いて分析を行った。ただし、本事
業は市街地中心部の事業であり処置群と対照群の設定判断が難しい。上述したように、分析対象期間
内で周辺開発は様々存在すると考えられるため、詳細な分析をするためには、そのような開発による影
響を受けたリンクを取り除いて分析するなどの工夫が必要である。一方で本事業の場合、再開発事業
が対象事業に近接していることから、単純にリンクを取り除くのみでは再開発の影響を分離することは
難しい。そのため、現地の詳細な開発状況を把握したうえで複数の処置群・対照群を設定し、再開発
による影響も含まることを前提に推定されるパラメータにどの程度の幅が存在するかを確認することが
有効である。
分析結果からは H30 および R3 で正に有意な値となっており、H27 を整備前とした場合、本事業およ
び周辺の再開発整備の結果として、H30 時点では対照群に対して処置群の地価は 6.82%(パラメータ
0.0682)、R3 時点では 13.5%(パラメータ値 0.135)有意に高い結果となっている。このように地価が有
意に高くなる要因として、地域において今後につながるインフラ経営の工夫点等がないか考察するとと
もに、この効果発現の維持もしくは更なる向上に向けた取り組みとして考えられるものは無いかについ
て考察することが重要である。ポイントは、その結果を分析担当者が理解・解釈し関係者に共有すると
ともにストック効果最大化に資するレッスンを蓄積することにある。このことを念頭に、分析に取り組んで
いただきたい。
表 5-10 分析(推定)結果
H30 R3
Case1 β
(t 値)
0.0682***
(4.26)
0.135***
(6.05)
p<0.1:*,p<0.05:**,p<0.01:***020,000
40,000
60,000
80,000
100,000
120,000
140,000
160,000
H18路線価 H21路線価 H24路線価 H27路線価 H30路線価 R3路線価
(円/m2)
処置群
対照群
基準年:H27
ミズベリング:
H29.7定着期間開始020,000
40,000
60,000
80,000
100,000
120,000
140,000
160,000
H18路線価 H21路線価 H24路線価 H27路線価 H30路線価 R3路線価
(円/m2)
処置群
対照群
基準年:H27
ミズベリング:
H29.7 定着期間開始
5-55
図 5-71 分析結果の捉え方
5.7.3 ビッグデータによる分析
前述の地価データ分析を補足することを目的に、ビッグデータを用いた分析の事例を以下に示す。
(1) 賑わいの創出(滞留者数・通行者数)の分析
推移(H30.1〜R5.12)
地価データ分析で処置群として設定した、新潟市ミズベリング信濃川やすらぎ堤 萬代橋上流右岸
周辺地区の滞留者数、歩行者数(通行者数)について、高水敷や管理用通路、広場拡大等の事業が
実施された H28 を経た、H30(2018).1 から R5(2023).12 までの 5 年分の推移を図 5-72 に示す。実
線は滞留者数、歩行者数(通行者数)の拡大推計値であり、破線は季節変動を除去するための 12 か
月後方移動平均値(12MA)である。なお、滞留者は「該当エリアに 15 分以上滞留した人」の延べ人数
である。R2 のパンデミックにより減少した後は、R1 年以前の水準には至っていない。パンデミック発生
後、近年は増加・減少の顕著な傾向は見られない。
5-56
図 5-72 やすらぎ堤 処置群 滞留者推移(左)、歩行者数推移(右)
滞留時間の傾向
新潟市ミズベリング信濃川やすらぎ堤 萬代橋上流右岸 周辺地区の滞留時間割合について、3
時点分を図 5-73 に示す。60 分以上滞留した人口の割合が時点を経るごとに若干大きくなっている
が、傾向の大きな変化は確認されない。
図 5-73 やすらぎ堤 処置群 滞留時間別割合
来訪者の居住地割合
新潟市ミズベリング信濃川やすらぎ堤 萬代橋上流右岸 周辺地区を来訪した人物の居住地別延
19% 22% 23%
27% 23% 21%
53% 54% 56%0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%H30.6 R3.6 R5.6
15分以上30分未満 30分以上60分未満 60分以上
滞留者数
(人) (人)
5-57
べ人数および割合 46
について、H30、R3、R5 の 3 年間の通年分を集計した結果を図 5-74 に示す。
図中の白抜きの数字は新潟市、新潟県内(新潟市除く)の 2 地区それぞれが占める割合である。
R3 においてはパンデミックの影響もあるためか、H30 と比較して他エリア在住者の来訪者数が減少
し、新潟市在住者(橙色枠)の割合が若干増加したことを確認できる。その他、大きな傾向の変化は確
認されない。
新潟市を含む、新潟県内の在住者が 9 割ほどを占め、地域住民に根付いたエリアと言える。
図 5-74 やすらぎ堤 処置群 来訪者の居住地別延べ人数および割合
滞留者数・通行者数分析のまとめ
データの制約上、リニューアル以前と比較することは不可能ではあったが、H30.1以降の供用開始
後の傾向を確認した。滞留者数・通行者数について、R2 のパンデミックで減少した後、増加・減少の
顕著な傾向は見られない。また、滞留者の滞留時間もその傾向に変化は見られない。また、来訪者数
および割合について、その傾向において変化は見られない。新潟県内の在住者が 9 割ほどを占め、
地域住民に根付いたエリアと言える。各傾向について、他エリア居住者の誘致、地域住民を含むリピ
ート率の向上などに活用いただければ幸いである。このように、滞留人口、通行人口等の位置情報デ
ータでは地価の上昇を裏付ける結果を得られなかった。地価上昇についてはインフラ経営の実践以
外にも都市部の再開発の状況にも影響をされている可能性があり、位置情報データの結果と地価上
昇の相関が低い状況であった可能性がある。地価上昇のさらなる要因確認としては、消費金額の動
向といった、別視点のデータによる分析を実施されたい。
一方、信濃川やすらぎ堤については、「来訪者数といった数を追いかけるのではなく、来訪者の満
足度を上げることを目指す」旨を新潟市から伺っており、今回の分析結果で政策効果のすべてを把握
できているわけではない。46当該エリアに 15 分以上滞留した人物の延べ人数計測値から拡大推計を行ったデータ。
0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000 1,200,000H30R3R5北海道 東北 関東 新潟市 新潟県内 中部(新潟県除く) 近畿 中国 四国 九州・沖縄
64% 26%
67% 26%
64% 28%
(人)
5-58
表 5-11 新潟市 花園町通り ビッグデータによる分析のまとめ
視点 内容 パフォーマンス指標 結果
経済活動
活発化
観光業の活発化 他エリア在住者による来訪
者数
新潟県内在住者の来訪が 9 割ほど
を占め、傾向の変化は見られない。
賑わい創出 人流の増加 滞留人口、通行人口 増加・減少の顕著な傾向は見られ
ない。
滞留時間の増加 滞留時間別割合 大きな変化は見られない。 6-16. ストック効果最大化のための考察の考え方
本ガイダンスで示す事後的な経済効果の分析手法は、ストック効果最大化の検討のための手段であり、
この結果を踏まえて、実施した施策の社会的意義を関係者で共有し、更なる効果の発現に向けた議論が
必要である。冒頭でも述べたように、本分析の重要な点は、単にプラスの効果を算出することのみが目的で
はない点である。仮に有意に地価が上昇しない場合は、その要因をつきとめ、改善策を検討することに意
義がある。さらには、これらの検討過程を記録に残すことで、新たなソフト施策の企画や投資を行う際のレッ
スンとすることも重要である。また、有意にプラスの効果が算出されていた場合も、地価上昇の程度につい
て正解・合格とされる水準というものはなく 47
、数字自体は参考程度と理解すべきである。重要なことは、地
価上昇の要因を綿密に分析し、目標とした政策目的が真に達成されているのか、あるいは、更なる効果発
現に向けて講じられる施策が無いかといった振り返りがなされ、次のアクションにつなげられることである。
本ガイダンスを踏まえた分析結果を解釈する際には、これらの点を十分に考慮することが望まれる。
なお、分析結果事例の中でも示したように、DID 法による分析では、処置群と対照群の設定方法次第で
結果が変わることから、一つの設定にこだわることなく、想定される複数の設定を行い、推定値にどの程度
の幅が存在するかを確認することも有効である。
以上を踏まえ、分析結果を踏まえた議論の主な方向性を以下に示す。
6.1 対照群に対して処置群の地価が有意に高いケース
ストック効果の分析を行った結果、対照群に対して処置群の地価の上昇・伸び率が有意に高い場合は、
その理由について考察を行う。例えば、「8【参考】ロジックモデルを用いた効果波及過程の確認」で示す
ロジックモデル等を作成し、効果の発現メカニズムを可視化し、地価を押し上げた要因として想定される地
域の変化・取組は何かを関係者で共有し考察することが有効である。例えば、公的支出により整備した事
業(歩道拡幅等)に加えて、民間のどのような投資が有効だったのか、ハード環境の整備後、ソフト施策と
しての誘客の取組の有効性はどうだったのか等について考察することで、インフラ経営として、どのような
事業の組み合わせが地価向上に貢献したかを明確にし、今後のレッスンとして蓄積することが望ましい。
また、時系列的な効果の発現状況を分析した結果、例えば、事業開始の発表後(供用前)に地価上昇
が観察される場合は、アナウンスメント効果の可能性が考えられる。アナウンスメント効果とは、施策の供
用前から施策に対する期待が高まることで効果が発現する現象を示すものである。インフラ経営実践によ
る効果を最大限高めるためには、このようなアナウンスメント効果を有効に発現させるための事前の広報
戦略も重要となる。
昨今、民間企業によるインパクト投資(ESG や SIB 等)と呼ばれる社会課題解決のための投資が増えつ
つある 48
。民間企業は、インパクト投資の効果を数値的に示すことで自身の社会課題解決の貢献を PR し
幅広い投資家からの資金調達を目指していることから、地価上昇効果が民間投資による効果を含めて発
現している場合は、そのことを積極的に発信することで、更なる民間投資を呼び込むことも有効である。47ただし、「施策の評価指標として従前から地価の上昇率を掲げている」などの例外的なケースを除く。48例えば、Vecchi et al、Principes and Practice of Impact Investing: A Catalytic Revolution、Greenleaf
Publishing Limited、 2016(北川哲雄、加藤晃監訳、社会を変えるインパクト投資、同文館出版、2021)など 6-26.2 対照群に対して処置群の地価が有意に高くないケース
ストック効果の分析を行った結果、対照群に対して処置群の地価の上昇・伸び率が有意に高くない場
合、整備したインフラによる影響が波及過程であり最終的な地価の上昇までたどり着いていない可能性、
もしくは整備したインフラが十分に機能していない可能性が考えられる。このような場合、上述同様、例え
ば「8【参考】ロジックモデルを用いた効果波及過程の確認」で示すロジックモデル等を作成し、本ガイダン
スでも実施したようなビッグデータの分析を行い、どのような波及過程までインフラ経営の実践効果が顕在
化しているかを確認することが有効である。例えば、公的支出による整備は行われているものの、民間投
資が不十分である可能性や、ソフト施策としての広報戦略が不十分である等の原因が想定される。公的
支出がインフラ経営実践のトリガーとなりえているかの検証が必要である。これらの検証は当該事業のスト
ック効果最大化検討に活用するのみならず、将来の他事業を展開する際の有益なレッスンとなることから、
形式知として記録に残すことが重要である。 7-17. 今後の本ガイダンスの活用に向けて
7.1 分析補助とその方針
本ガイダンスは、「インフラ経営」の実践に係る政策や事業を所管する組織が、「自主的」にその評価を講
じ、振り返り、そして、より効果的で効率的なインフラの整備・維持管理・利活用につなげてもらうことを目的
としている。これは第 1 章でも述べたとおりである。しかしながら、実際に本ガイダンスを手に取って分析を
完結するまでには、いくつかのハードルが存在する。例えば、解説対象外とした「統計的な解析・検定」や
「プログラミング」を用いた分析は、コストなどの問題から、有識者から助言を得たり外部に業務委託を実施
したりすることが困難なケースもあるだろう。その場合、分析を断念せざるを得ない可能性がある。さらに、こ
れら技術的知見を補うための参考として紹介した文献や書籍も、必ずしも初心者にとって容易に理解でき
るものであるとは限らない。このような状況にあっては、限られたリソースを投じ、本ガイダンスに掲げた理念
を実行に移すことのハードルは依然高いことから、これらのボトルネックを解消するためにも本ガイダンスの
活用・普及が必要であると考える。
このような事情を踏まえ、本省総合政策局社会資本整備政策課では、「インフラ経済分析チーム」を組成
し、利用者に対して、組織的にインフラ経営の実践の効果分析を支援する予定である。分析に際しボトル
ネックとなる課題を解消し、本ガイダンスで示した趣旨・目的がより容易に実践されることを企図するもので
ある。支援の内容としては、ガイダンス内における技術的知見を要する箇所等について、内容の理解に必
要となる基礎的な知識の習得を支援したり、具体的な分析の実施において協力したりすることを予定してい
る。
7.2 ご相談・お問い合わせ先
本ガイダンスについての不明点がある方、または、「7.1」に記載した支援内容にご関心をお寄せの方は、
以下までお問い合わせください。
また、ご希望の場合は、オンラインや現地訪問でのご説明にも応じますのでお申し付けください。
7.3 今後の予定
本ガイダンスは、現時点におけるインフラ経営の実践の効果分析方法を示す骨子であり、今後も継続的
な改訂を実施する予定である。実際に、本ガイダンスが利用され、「インフラ経営」を実践する現場の関係
者や、有識者から、様々なご指摘をいただくことが想定される。今後、種々のご指摘・ご意見を踏まえ、より
利用しやすく、より理解しやすいガイダンスとなるよう改訂を積み重ねていく予定である。
【お問い合わせ先】
国土交通省総合政策局社会資本整備政策課経済政策係
住所 :〒100-8918 東京都千代田区霞が関 2-1-3
電話 :03-5253-8982
メール:hqt-infra-keizaibunseki@gxb.mlit.go.jp 8-18. 【参考】ロジックモデルを用いた効果波及過程の確認
8.1 ロジックモデルの考え方(例)
インフラ経営の実践が地価へどのように影響を及ぼすかを可視化(効果波及過程の可視化)することは、
地域にとっての事業の意義を関係者で共有する際に有効である。加えて、事業がもたらす効果を更に向
上させるために、どのような要素を改善する必要があるかを考える上でも有効となる。
ここでは、そのような効果波及過程の可視化のツールとして、ロジックモデルの作成方法を紹介する。ロ
ジックモデルには、様々な考え方がある 49
ため、事業の特性や可視化しやすい事例を参考に作成するこ
とが望ましい。どのような手法で作成したとしても、ロジックモデルを作成することが目的ではなく、事業の
効果波及過程を可視化し、ストック効果を高めるための方策を検討することが目的であることに留意し作
成する必要がある。
図 8-1 にロジックモデルの考え方の例を示す 50
。図 8-1 の例ではプロジェクトの出発点である「資源・イ
ンプット」を起点に、サービスの提供内容を示す「活動・アウトプット」、サービスによる恩恵とその波及を示
す「アウトカム」、そして最終的な効果の帰着である社会変化を示す「インパクト」で構成した。ロジックモデ
ルは政策評価者自らが作成することが、事業が社会に与える影響を理解するうえでも重要であることから、
図 8-1 に示す各ステップの作業内容を参考に、評価対象とする事業別に作成することを推奨する。
図 8-1 ロジックモデルの考え方(例)49例えば、内閣府:社会的インパクト評価の普及促進に係る調査 最終報告書(抜粋版:ロジック・モデル
作成にあたってのポイントおよび工夫点)、平成 29 年 3 月
(https://www.cao.go.jp/others/kichou/ebpm/h28_si_chousa_11.pdf)50大橋弘編著「EBPM の経済学 エビデンスを重視した政策立案」を元に作成 8-28.2 ロジックモデル作成例
本ガイダンスで対象とした 3 種類のインフラ経営事例別にロジックモデルの作成例を示す。以下の図は
あくまで例であり、すべてのケースで適用できる場合ではないため留意されたい(例えば、「4.4 ビッグデー
タを取り扱う際の基本的な留意事項」で説明した「逆の因果」が発生している場合もある)。本作成例を参
考に、評価対象事業の特性をふまえて事業固有のロジックモデルを作成することが望ましい。
図 8-2 道路空間再編事業のロジックモデル作成の一例
図 8-3 親水空間整備事業のロジックモデル作成の一例
【凡例】赤字:ビッグデータ等により計測可能な要素
【凡例】赤字:ビッグデータ等により計測可能な要素 8-3図 8-4 都市公園整備事業のロジックモデル作成の一例
(注記)上記各事業の内容や背景・地域性等により想定されるアウトプットやアウトカムが異なることに留意
【凡例】赤字:ビッグデータ等により計測可能な要素

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