第18 回水害サミットの開催について
水害サミット実行委員会事務局
はじめに
水害サミットは、水害被災地の首長が自らの体験を語り合い、より効果的な防災、減災を
考えるとともに、
それらに関する積極的な情報発信を通して広範な防災、
減災意識を高める
ことを目的に平成 17 年から毎年開催している。
昨年は東北地方と北陸地方に大きな被害をもたらした令和 4 年 8 月豪雨や、大型かつ猛
烈な勢力で九州に上陸した台風 14 号が発生するなど、自然災害と常に隣り合わせであるこ
とを意識する必要があった。各地において、災害に対する万全の備えが求められる中、去る
6 月 6 日に東京都千代田区のパレスサイドビルにおいて、
「第18回水害サミット」
(同実行
委員会、毎日新聞社主催)が開催された。
当日は、
国土交通大臣にご臨席いただくとともに、
国土交通省がオブザーバーとして参加、
流域の多様な主体が関わって行う流域治水を大きなテーマとして掲げ、第1部は「上流・中
流・下流それぞれの流域治水の取組みについて」
、第2部は「上流・中流・下流が連携した
取組みについて」をテーマに、18道県の25自治体(うち初参加8自治体)の首長による
事例発表や熱心な質疑が交わされた。
1 日 時 令和5年6月6日(火)午後3時〜午後6時30分
2 場 所 パレスサイドビル内メディアデゥ「セミナールーム」
3 主 催 水害サミット実行委員会、毎日新聞社
4 コーディネーター
元村 有希子(毎日新聞社論説委員)
5 基調講演 田島 信太郎(田島山業株式会社 代表取締役)
6 事例発表 (テーマ1 上流・中流・下流それぞれの流域治水の取組みについて)
高橋 秀樹(南富良野町長)
松丸 修久(守谷市長)
宮橋 勝栄(小松市長)
片山 象三(西脇市長)
管家 一夫(西予市長)
7 事例発表 (テーマ2 上流・中流・下流が連携した取組みについて)
佐々木 光司(岩手町長)
稲田 亮(見附市長)
8 出 席 者 大鷹 千秋(日高町長)
、高橋 秀樹(南富良野町長)、佐々木 光司(岩手町長)
、白岩 孝夫(南陽市長)、佐藤 俊晴(中山町長)、
須田 博行(伊達市長)、松丸 修久(守谷市長)、早川 尚秀(足利市長)、
滝沢 亮(三条市長)、稲田 亮(見附市長)、宮橋 勝栄(小松市長)、
山下 正行(伊豆の国市長)、前葉 泰幸(津市長)、北川 裕之(名張市長)、
関貫 久仁郎(豊岡市長)、片山 象三(西脇市長)、野坂 一弥(川本町長)、
伊東 香織(倉敷市長)、表原 立磨(阿南市長)、管家 一夫(西予市長)、
大塚 進弘(直方市長)、林 裕二(朝倉市長)、坂井 英隆(佐賀市長)、
小松 政(武雄市長)、原田 啓介(日田市長)
9 テーマ
・上流・中流・下流それぞれの流域治水の取組みについて
・上流・中流・下流が連携した取組みについて
10 内 容
◇開会挨拶
白岩・南陽市長 実行委員会世話人の1人を務めている。
今年も既に早くも大水害が発生
している。そうした中で、関係者が一堂に会し、知恵と創意工夫で被害を少しでも減らすた
めの第 18 回水害サミットである。
◇実行委員会代表の挨拶
原田・日田市長 実行委員会代表世話人を務めている。本日はご多忙中、25 の自治体の
皆さんからご参加をいただいた。
このサミットも 18 回目を迎え、
歴史を積み重ねてきたが、
その間にも全国各地で様々な形で災害が発生しており、皆さん方が知恵を出し合いながら、
新たなまちづくり、また災害に強いまちづくりを進めていければと考えている。また、この
ような現場に即した議論を重く受け止めていただき、水害サミットを高く評価していただ
いている斉藤国土交通大臣も出席いただき、深く御礼申し上げたい。
今年の水害サミットのテーマは、
流域治水という大きなテーマを掲げているが、
年々災害
の激甚化、
甚大化が懸念されている中、
流域全体で対応しなければいけない事態が続いてい
るのではと考える。第 1 部では、九州の大河と言われている筑後川の上流域に位置してい
る日田市の中でも、
更に一番源流域に近いところで、
鎌倉時代から林業経営に尽力されてい
る田島山業の代表取締役田島信太郎様に、山林のあり方から災害ということを考える、
「防
災に向けた森からの提案」
と題し基調講演いただいた後、
5つの自治体に事例発表いただく。
また第 2 部では、この流域治水を効果的に進めていく上で必要になるであろう、上流域
から下流域における自治体関係者の関係作りについて、2つの自治体から事例発表いただ
く。
限られた時間の中であるが、
様々な事例や首長の皆さんから意見をもらいながら、
議論を
深めていきたい。本日が皆さんにとって実のあるサミットになることを心から祈念する。
◇国土交通大臣・水循環政策担当大臣挨拶
斉藤大臣 昨年8月の大雨や台風14号、
15号により、
全国各地で甚大な水害が発生した。
今年も台風2号と前線の活動の活発化により史上記録を塗り替えるような雨量があった。
気候変動の影響により、
激甚化、
頻発化する水害に対応するため、
流域の上流から下流まで、
あらゆる関係者が協働して治水対策を行う流域治水の取り組みを強力に推進することが重
要になる。そのような中、流域治水、上流中流下流の水害対策と相互理解というテーマで、
流域治水の現場の最前線で取り組んでいる市町村長の経験と知恵が全国に発信されること
は大変有意義で、国土交通行政にしっかりと反映していきたい。
また気象業務法と水防法の一部が改正され、国土交通省が本川支川の水位を一体で予測
し、
バックウオーター現象も考慮した水位情報を都道府県に提供する仕組みを構築した。これにより、
都道府県では新たに洪水予防河川の指定を進めることが容易になるとともに、より早く洪水予報を発表し、
早めの防災対応と避難行動を促すことが可能となった。
国土交通
省としても市町村長をあらゆる場面でサポートしていきたい。
だいやまーく第1部・上流・中流・下流それぞれの流域治水の取組みについて
<基調講演・田島山業株式会社>
◇「緑のダム」維持 官主体で
田島信太郎代表取締役 田島山業は大分県日田市、筑後川の最上流にあり、1991年
の台風では100ヘクタール以上で木が倒れた。2020年7月には線状降水帯が発生し、電気や
ネット、携帯電話も全く使えず、都市部につながる道路も全滅。復旧には官民一体となっ
て立ち向かうしかない。
森林には木材生産をはじめ、CO2の吸収など環境保全、水を蓄える「緑のダム」などの
公益的機能があるが、収入が得られるのは林業の部分のみだ。木を植えてから切るまで5
0年以上かかり、その間も下刈りなど、延々とコストがかかる。補助金などを含めても完
全に赤字で、再投資できず、伐採跡地での再造林は全国平均で30%しかできていない。
何世代もかけて育てるので、森そのものの新しい価値を見いだすことが非常に大切だと思
い、田島〝山業〞として山でできることは何でもやってみようと、1200ヘクタールの森を対象
としたJクレジット(CO2の吸収量などを「クレジット=排出権」として認証する国の制
度)などに取り組んでいるが、赤字から脱却できていない。災害は官民一体となった取り
組みが不可欠だが、林業の疲弊に加え、過疎化と高齢化で人材がいないなど非常に厳しい
状況だ。平常時の維持管理も災害時の復旧作業も、すべて公的資金でやってもらうしかな
い。上流域は危機的状況であることを知ってほしい。
<事例1・北海道南富良野町>
◇にぎわいと防災を両立
高橋町長 2016年の台風7号から四つの台風が北海道を通過し、総量888ミリとい
う記録的な大雨となった。
空知川とユクトラシュベツ川の二つの河川が氾濫し、
市街地の3
分の1が浸水し、
住宅、
商業施設、
福祉施設などが甚大な被害を受けた。
被災経験を踏まえ、
水害タイムラインを作成。総合危機管理士資格を有する自衛隊OBを地域防災マネジャー
として配置し、
地域の防災計画と強靱化計画を一体的に運用し、
北海道開発局と陸上自衛隊、
消防、
警察など関係機関も参加した訓練を毎年実施している。
過疎化や少子高齢化という課
題も踏まえ、
地域のレジリエンス(回復力)強化を図る必要がある。
災害時に防災拠点となり、
平時には地域のにぎわいの創出機能を併せ持つMIZBEステーションを整備し、一体的
な運営に取り組んでいきたいと考えている。十勝岳が30年周期で噴火を繰り返しており、
どういう貢献ができるかという観点で地域強靱化計画をまとめている。
ジャパン・レジリエ
ンス・アワード国土強靱化地域計画賞大賞の受賞を励みに地域防災、
強靭化を推進したい。
<事例2・茨城県守谷市>
◇調整池と堤防、一体整備
松丸市長 常磐自動車道守谷サービスエリア周辺地域に着目して、新たなまちづくりを
検討してきた。同地区は浸水想定区域でありながら、守谷市、常総市、取手市、つくばみら
い市の圏内人口約28万人のゴミ処理施設や、市の下水道処理施設、民間企業もあり、治水
対策は喫緊の課題だった。
国も治水安全確保のため、
調整池堤防整備事業を計画的に進めて
いる。
守谷サービスエリアのスマートインター開設を契機に、
隣接地域の区画整理事業と総
合公園の新設を行う計画で、
防災対策の観点から、
既存の一般住宅の高台移転や浸水リスク
軽減のため盛り土による敷地造成を行う。
事業の土砂の取り扱いに着目し、
調整池整備での
掘削土を堤防整備や盛土材に使うなど流域治水事業とパッケージ化することで、各事業の
時間やコストの効率化、周辺交通への影響軽減、CO2 排出負荷の削減効果が期待できる。
また、調整池と堤防が早期に整備されれば、浸水リスクが大幅に削減され、市民生活の安定
と産業立地による経済活力アップが同時に実現する。
調整池は、
グリーンインフラとしての
活用も期待できる。
<事例3・石川県小松市>
◇発災4ヵ月で対策策定
宮橋市長 昨年8月の記録的な豪雨で、
市内を流れる梯川の支川が氾濫し、
被害があった。
本川は国の国土強靱化の緊急対策で河川改修が進み、下流域での氾濫被害を防止すること
ができた。今後の緊急的な治水対策について早期に方針を示すように国、県に要望し、発災
からわずか4カ月という早さで、
梯川水系緊急治水対策プロジェクトが策定された。
市とし
ては、
排水ポンプ場の増強や浸水被害軽減のための助成制度の創設、
逃げ遅れゼロを目指す
などソフト対策に取り組んでいる。国交省の流域タイムラインに連動した市独自の水防タ
イムラインを作成し、5月から運用を開始し、地域防災計画改定の内容を含め、洪水ハザー
ドマップの見直しも行っていく。
ハード整備については、
昨年の大雨と同規模の洪水に対し
て氾濫を防止することを目的に、
10年間で国県合わせて事業費約343億円をかけ、
堤防
や遊水地が整備される予定だ。その他、利水ダムの事前放流と同様に、木場潟での既存のポ
ンプを使った事前排水の取り組みや、まちづくりにおいて立地適正化計画防災指針の検討
を行っている。
<事例4・兵庫県西脇市>
◇国県市で整備協議会
片山市長 2004年の台風23号で加古川の浸水被害を受けた。西脇市から上流は県、
下流は国と管轄が別で、
情報共有や事業の相互理解が困難だったが、
姫路河川国道事務所が
中心となり、県、加東市と共に加古川中流部河川整備推進協議会が設立された。流す能力の
向上のため、
下流の加東市滝野地区で140軒の立ち退きに協力してもらい、
築堤やしゅん
せつを進めた。
西脇市も一体的な工事を市民と情報共有するため、
広報紙などで詳細や進捗
を周知した。整備の結果、18年の大雨では、04年の1.6倍の雨が降ったが、浸水は9
7%減った。また、地域で勉強会を開き、市民によるタイムラインの作成やため池の事前放
流を実施している。農家には非常にリスキーな所もあるが、浸水被害を防げ、住民にも「自
分たちでできる」
ということを感じてもらっている。
市内にはサントリーと50年間の契約
を結んだ「天然水の森」が1056ヘクタールあり、地域とともに森を守ってもらっている。
<事例5・愛媛県西予市>
◇4年で25回の緊急会合
管家市長 2018年の西日本豪雨で大きな被害を出した肱川の上流として何ができる
かということで、流域の緊急対応タイムラインと水田貯留の田んぼダムの実証実験に取り
組んでいる。
20年に肱川流域治水協議会を立ち上げ、
流域治水プロジェクトを策定して、
流域一体となってハード、
ソフトでの取り組みを進めている。
源流直下から田園地帯が広が
っており、
下流全域に効果がある水田貯留の検討を始めた。
20戸の農家の協力で約47ヘクタール
の水田で実施している。
農家にデメリットがないように配慮しており、
参加者からは市内全
域で実施すべきだとの意見があった。肱川流域緊急対応タイムラインは、大洲市、内子町、
西予市と、県、国土交通省四国地方整備局、松山地方気象台、警察、消防と連携を図り、1
9年度から試験的に運用を開始。
台風の影響や早期注意情報などの発表があったとき、
関係
機関が危機感共有会議をオンラインで実施している。4年間でタイムラインを25回運用
し、
高齢者の避難開始など迷うことなく判断できた。
タイムラインの効果を実感している。
◇第1部・意見交換
前葉・津市長 (津市を流れる1級河川)雲出川は、国土交通省三重河川国道事務所で
整備を進めている。「川の上・中流の山を守ることがいかに大切か」を実感している。田
島社長に質問したい。災害が起きてしまったら公共が入り復旧に努めるが、「起きる前に
何とかしたい」という話があった。森林整備について、行政がやることと、山業の会社が
やることを、どう分担するべきか。
田島社長 公的な資金を使える国有林と、民間が資本主義の中で森を作っていくのと
は、立場が違う。私たちは生きていくためにやっているので、どうにもならないことには
手を出せない。民間である以上は、常識に従ってやるしかない。「追加投資できない」と
いう状況でも木を植えるのは、私なりの常識だ。ただ、経営者の立場から言うと、会社が
潰れるようなことはできない。森を守るために林業を黒字化するのは当然だと思う。民間
ではビジネスの力で何とかしようとする。うちは10人ぐらいの小さな会社だが、社員が
食うために森をバカスカ切るんだったら、会社はない方がいい。民間としては限界なの
で、特に資金面はパブリックにお任せするしかない。
伊東・倉敷市長 倉敷市は、2018年7月の豪雨災害から今年の夏で5年になる。全
国の皆さんに助けていただき、約9割が家に戻り、生活できる状況になった。倉敷市でも
流域治水に取り組んでいる。(豪雨災害では)高梁川と小田川の合流点近くが決壊した。
上流から下流までの自治体などが出水期前に集まり、上流のダムや民間、国や県のダムを
含め、事前に放流してもらう、ということなどを話し合っている。田んぼダムは、倉敷市
でも新潟大学の先生の指導で活用している。また降雨時には川からの取水を止め、用水路
の水をなるべく流して用水路に雨水をためている。市独自の条例で2000平方メートル以上
の開発行為などを行う場合、市と協議し2000平方メートルにつき50トンの雨水をためてもら
うなどの対策を講じることを規定した。現在約30件と協議し、店舗や事業所を作る場合
に協力してもらっている。
須田・伊達市長 伊達市には、全国6位の長さを持つ阿武隈川が流れている。最下流に
あるため、水害が多い。19年の東日本台風でも、伊達市では24時間雨量363ミリとい
う過去最高の降雨量があり、河川が氾濫。1130棟の浸水被害があり、そのうち2階ま
で浸水したところを含め178棟が全壊だった。この際、青森河川国道事務所をはじめ、
東北の五つの河川事務所から5台の排水ポンプ車の応援があり、排水作業をしていただい
た。おかげで取り残された市民を救助でき、早期の復旧に着手できた。心から感謝を申し
上げたい。その教訓として、市では1分間に30トンの排水ができるポンプ車を2台購入し
た。浸水のときにいち早く排水ができると、いち早く復旧でき、水位が低くなれば歩いて
避難できる。(災害が起きた際に)他の被災自治体に応援に行くことも考えている。ま
た、大雨や河川氾濫のとき、浸水の状況を確認するのは難しい。そのため、国が進める
「ワンコイン浸水センサ実証実験」に参加している。道路のアンダーパスや、19年の台
風で被害を受けた公共施設(こども園)にセンサーをつけ、リアルタイムで面的に浸水の
状況が把握できる。速やかに道路の通行止めや避難所開設、人員配置が可能になり、被害
を最小限にとどめることができると期待している。
坂井・佐賀市長 佐賀城の堀の事前排水という取り組みを紹介したい。佐賀城は、別名
「沈み城」と言われてきた。敵から侵攻されたときに、本丸以外を水没させ、侵攻を防ぐ
ため、外周に堀を巡らせ、水と共存してきた歴史がある。佐賀市は低平地で有明海の干満
差が6メートルあり、水がはけにくい地形的な特性がある。気候変動の時代に、既存の施設
(堀)を活用することで、災害に強い町を目指している。16年度に起伏堰を設け、9.
1ヘクタールある佐賀城の堀を(大雨時の)調整池として活用し、余計に水をためている。一方
(堀は)農業が発達した下流域で農業用水として利用しているため、水位を下げることは
これまでできなかった。だが、水害サミットや国交省、整備局河川事務所の皆さんの取り
組みのおかげで、流域治水の考え方が少しずつ広まり、理解が得られるようになった。そ
のため、今年度から事前排水が始まり、5万6000トンの貯留容量を確保できた。市民の
シンボル的な、観光資源としても活用されている佐賀城の堀の事前排水を通じ、流域治水
という考え方を広く浸透させたい。
だいやまーく第2部・上流・中流・下流が連携した取組みについて
<事例1・岩手県岩手町>
◇森を育て次世代に継承
佐々木町長 岩手町は、東北で一番大きな川、北上川の最上流部に位置する。年間降水
量が1000ミリを切り、降水量が少ないが、2010年7月にゲリラ豪雨を経験。北上川
の支流の小さく細い横沢川が氾濫し、1集落が壊滅的なダメージを受けた。総被害額は2
9億円に上り、町史に残る大災害となった。町の持続性を高めるため、森林や川を大切に
し、北上川流域の交流に力を注いでいる。内閣府からSDGs未来都市に選定されたこと
を受け、同様に選定された自治体と交流を実施。 「道の駅 石神の丘」のレストランで北
上川河口の町、宮城県石巻市のヒラメを提供している。昨年12月には石巻市で、東北地
方整備局や流域自治体などと「未来の北上川流域を考える自治体連携会議」を共催。気候
変動で激甚化する水害に流域全体で対応することに加え、北上川の自然や文化を生かした
交流を掘り起こしていく。官民連携の「美しい100年の森プロジェクト」では、森林の
価値を発信している。森を育てることで地球温暖化の抑制、土砂災害の予防、生物多様性
の維持・復元などにつなげる。子どもが森づくりに関わる機会を作り、次世代に森を継承
する。北上川を基軸にしたつながりとまちづくりを大事にしていきたい。
<事例2・新潟県見附市>
◇田んぼダム整備を推進
稲田市長 2004年7月、見附市や周辺が大水害に見舞われた。刈谷田川が決壊し、
各地で浸水。被害を教訓に、雨水貯留管や刈谷田川遊水地、田んぼダムの整備などを進め
てきた。田んぼダムは、田んぼの「水をためる能力」を利用。調整管などを設置して、排
水口を小さくし、流出量を抑制。大雨時に一時的に水をため、河川への負担を減らす。新
たな施設整備が不要で、見附市のように田んぼの面積が大きい地域では効果が期待でき
る。刈谷田川と貝喰川は、信濃川に直接流れ込んでいる。刈谷田川は河川改修が進んだ
が、貝喰川流域は浸水を繰り返しており、流域で田んぼダムを広範囲で実施。土地改良区
が一緒である三条市側とも連携した。取り組みを進めるため、農家に負担をかけないよう
にした。調整管設置の初期費用は市が負担。設置や管理は、市が土地改良区の関連組織に
委託。操作が不要で、営農への影響が少ない改良型の調整管を使った。田んぼダムは、上
流で取り組むと下流(の水害軽減)に効果があるとされる。一方で、短時間の降雨では、
上流側に効果がある。農家との丁寧な合意形成が大切で、今後もハード、ソフト両面から
水害対策に力を入れる。
◇第2部・意見交換
山下・伊豆の国市長 伊豆の国市は、狩野川の中流域にある。私たちの地域では、20
19年の台風19号をきっかけに、一体となって流域治水に取り組んでいる。台風19号
では、床上浸水が300棟以上。狩野川本川の氾濫・越水・決壊はなく、放水路のおかげ
で持ちこたえたが、内水による甚大な被害があった。被害を受け、関係市町で協議会を設
けた。流域9市町で「狩野川中流域水災害対策プラン」を作成。22年度からは、国交省
沼津河川国道事務所を中心に内水対策を検討する研究会を行っている。
林・朝倉市長 筑後川の中流域に位置する。17年7月の九州北部豪雨で、大きな被害
を受けた。筑後川本川の水の調整を下筌ダムと松原ダムで実施。しかし、雨の降り方が激
甚化し、それだけでは対応しきれない。筑後川の右岸側にある玖珠川の上流にダムができ
ると、中流域下流域は非常にありがたい。
滝沢・三条市長 三条市には、日本一長い信濃川が流れている。上流の長野県では千曲
川と呼ばれる。1月に「千曲川流域治水サミット」に参加し、三条市の取り組みを紹介し
た。その際、19年の台風19号で甚大な被害を受けた地域の被災現場も視察した。上流
(長野県)の大改修だけでなく、新潟県側(下流)も進めないと、下流域の治水安全度が
下がるという。現在国交省が、信濃川の大河津分水(101年前に開通した人工の川)を
改修している。上流域と下流域が互いに信頼し、情報を共有し、バランスよく改修してい
くことが、全体の安全度を高めると聞き、なるほどと思った。
野坂・川本町長 町は、江の川下流域の島根県の真ん中に位置する。下流域は地形上、
できることは限られており、宅地のかさ上げと、防災集団移転を主力に取り組んでいる。
上流域では昨年の水害サミットで、広島県三次市長から事例発表があったが、貯留施設の
計画がある。こうした取り組みにより、下流域への流出調整や抑制が図られていくことを
期待している。
大鷹・日高町長 日高町は、飛び地合併している。北海道を南北に流れる沙流川は、上
流が日高町、中流が隣町、下流はまた日高町、最後は太平洋に注いでいる。最近は、台風
が勢いの衰えないままで北海道にくる。住民個々が「マイ・タイムライン」をどのように
作っていくか。(スマホの)アプリもあるが、住民の積極的な取り組みをいかに誘導して
いくかが課題だ。
佐藤・中山町長 今年は「ワンコイン浸水センサ」の設置に取り組む。田んぼダムもは
じめた。現場を視察に行ったら、除草剤をまいた畦畔が弱くなっていた。田んぼダムが満
水になったときに崩れてしまうような状態だった。
小松・武雄市長 19年と21年の大水害を受け、国、県、流域市町村長で流域治水プ
ロジェクトを進めている。連携とは、仲良し・お人よしクラブではない。武雄市は(六角
川)上流だが、上流と下流で役割が違う。上流は水をしっかりためる。下流は海にしっか
り流す。流域全体の被害を減らすために、それぞれの強みを生かすことが連携だ。3月に
九州で初めて、六角川が特定都市河川に指定された。土地の利用規制がかかる一方、大規
模な調整池が国の援助で可能になるので、今まで以上に(水を)ためられる。九州でモデ
ルとなるような事業を進めたい。
大塚・直方市長 水は高いところから低いところに流れる。自治体間で意思疎通し、事
業調整することが大事。22市町村で構成する「遠賀川流域リーダーサミット」を隔年で
開き、流域治水について議論を進めている。河川敷ではサイクリングロードの整備が進ん
でいる。治水だけでなく、イベントを共同で実施するなど、さまざまな形で行うことが重
要。大雨のとき、下流部にゴミが集まることが、リーダーサミットで問題提起され、流域
市町村でゴミ(処分)の費用を負担することにつながった。
表原・阿南市長 6月の台風2号で被害にあった。水の流れが利益相反につながること
がある。例えば、ある農業用水に調整樋門がついていて、そこを20センチ開けるのか、30
センチ開けるのか。上流域では水はけが良くなるが、下流域では最終的に漁港に流れていく。
流しすぎると停泊している船が転覆しかねない。オペレーションが難しい。利害を可視化
し、その上で折り合いをつけ、合意形成できる流域治水プロジェクトを目指す必要があ
る。
北川・名張市長 三重県は、大阪湾に流れる淀川流域になる。流域の協議会に参加して
いるが、それぞれ抱えている課題について情報を共有し、住民同士でつながりが持てるよ
うな形も必要だ。
須田・伊達市長 国交省で「阿武隈川緊急治水対策プロジェクト」を実施。上流の三つ
の町村で遊水地などを整備しているが、その恩恵は下流が受ける。下流域である伊達市で
は道の駅で上流側の特産物のフェアを行い、パネルで(治水の取り組みを)紹介。住民同
士で理解し合うことが重要。
◇国土交通省所感
国土交通省水管理・国土保全局・岡村次郎局長 気候変動の影響で水害が激甚化、頻発
化する中で、流域治水にしっかり取り組む必要がある。市町村長の皆さんが主役。それぞ
れの位置から流域全体を見据え、役割を果たしていくことを意識しなければいけない。被
害を少しでも減らすという意味で、自助共助も重要。一人一人が災害に備え、適切な行動
をとること、声を掛け合うことが大切。新潟県村上市では、五十数年前に大水害(羽越水
害)があり、その経験を伝承し、訓練を続けてきた。昨年8月、村上市で災害(豪雨水
害)があったが、声を掛け合って避難し、人的被害はなかった。そういった人と人のつな
がりも含め、さまざまな観点で流域治水を進めたい。市町村長の皆さんが情報共有し、す
てきな取り組みについて理解し、横展開をすることは有意義だ。国交省でも連携を図りた
い。
◇総 括
元村有希子・毎日新聞論説委員 流域治水という考え方がようやく本格化、本格導入さ
れてきたことを今日実感している。仲良しクラブじゃないんだよと、まさにその通りで、上
流、中流、下流で考え方が違い、県境を越えることも要因の一つと考える。その中で利害の
対立をなるべく避けて、不幸になる人が 1 人でも減るような合意を探ることが大切なプロ
セスであると感じた。
その先頭を切って首長の皆さんが、
安全と安心を追いかけている事に
心から敬意を表したい。
今回のサミットでは、
参考になる様々な住民主体の取り組みも多く
紹介されたが、このサミットが、そのような成功事例を共有し、地元で展開するなどの機会
になればと考える。これから本格的な出水期に入るが、1 人でも多くの命が助かる日本にな
ってほしい。最後に、多くの首長の方々にお話を伺えて大変幸せに思う。
◇閉会挨拶
白岩・南陽市長 長時間にわたり真剣で活発な議論いただき感謝申し上げる。
流域治水に
ついても非常に重要な視点が示されたと思う。
山形県では、
令和2年に最上川の氾濫が発生
し、甚大な被害を受けた。その後に山形河川国道事務所が、上流から下流まで、229 キロあ
る最上川のそれぞれの市町村が行っている取り組みを、山形県の地図上に一覧化して見え
る化し、それぞれ上流・中流・下流がどういう取り組みを行っているかの理解促進を図って
おり、素晴らしいことだと思った。小松武雄市長のご指摘を受けて、ぜひそれぞれの河川管
理者、特に河川国道事務所においては、見える化も進めていただきながら、上流・中流・下
流がやるべきことについてもう一度整理をしていただくとともに、市町村も国や県と一緒
になって、
治水をさらに進化させていかなければいけないなと感じた。
今日がその重要な一
歩になればと思い参加者いただいた皆さんに重ねて感謝を申し上げる。
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◇おわりに
水害サミットも 18 回目を迎えることになったが、サミット開催直前の 6 月 2 日から、台
風 2 号の接近による梅雨前線の活発化により、四国から近畿、東海にかけて東西の広い範
囲で線状降水帯が発生し、
大きな被害をもたらした。
6月初旬にこれほどの大雨となるのは
めずらしいとの事であるが、異常気象による災害は年々甚大化、広域化してきており、自然
災害と常に隣り合わせであることを意識する時代となっている。
そのような中、今回の水害サミットでは、流域治水を大きなテーマとした。
流域の多様な主体が関わって行う流域治水対策は、過去の水害サミットにおいても議論
してきたところであるが、今回は上流域から下流域それぞれの地域特性に応じた水害対策
として、
大分県日田市で林業経営に尽力している、
田島山業 代表取締役 田島信太郎様よ
り「防災に向けた森からの提案」と題し、森や山が果たす防災の役割等についてご講演いた
だいたほか、流域それぞれの特性に応じた積極的な取組みを実施している5つの自治体に
取組み事例を発表いただいた。
また、
流域治水を効果的に進めていく上で重要となる、
上流域から下流域の関係者の相互
理解や連携した取組みについて、
2つの自治体からご紹介いただくとともに、
流域治水をは
じめ、
災害の貴重な体験をお持ちである参加各市町村長により、
活発で有意義な意見交換を
行うことができた。
今回の水害サミットが、
今後の流域治水の展望やあり方について、
さらには参加市町村、
全国の市町村における今後の防災、減災の一助となることができれば幸いである。
最後に、斉藤国土交通大臣・水環境政策担当大臣、岡村国土交通省水管理・国土保全局長
を始めとする国土交通省の皆様にご出席いただくとともに、テーマに関する貴重なご意見
等をいただき、
非常に意義深い第 18 回目の水害サミットを開催することができた。
ここで、
改めて開催にあたり様々なお力添えをいただいた多くの関係者に心から感謝したい。

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