第 11 回水害サミットの開催について
The 11th round of Mayor’s summit on the flood disasters
―被災地からの情報発信―
-Send out signals of information from disaster areas-
水害サミット実行委員会事務局
The Flood Damage Summit Executive Committee Office
I.はじめに
水害サミットは、平成17年9月に水害経験の少ない他の自治体に情報発信し、防災・
減災意識を高めることを目的として、第1回水害サミットを開催し、その後毎年開催して
います。
近年、雨の降り方が局地化・集中化・激甚化しており、昨年も台風などによる大規模な
水害が全国的に多発しました。我々は毎年のように発生している風水害に対して万全の備
えを行っていかなければなりません。水害サミットを開催し、水害で被災した自治体がそ
の経験を語り合い、全国に向けて対策や今後の課題などについて情報発信することが、各
地において水害に対する対策が進められるきっかけの一つになるものであると考えていま
す。
今回のサミットは、3部構成とし、第1部においては、
「激甚化する水害に対し、
"今"
求められる対策を考える〜『地域を守る』ために必要な取組について〜」をテーマとし、
ハード対策とソフト対策のそれぞれに求められる役割について意見交換を行いました。ま
た、第2部では、「『事後対応』から『事前行動』へ〜水害に備えたタイムライン(防災行
動計画)の策定について〜」をテーマとし、ソフト面での防災・減災対策について互いの
事例を挙げながら意見交換を行いました。第3部では、
「平成の大合併から 10 年を迎える
今、改めて考える〜災害対策支部機能の維持向上への取組について〜」をテーマとし、市
町村合併により「公助」を担う職員の数が減少する中で、広域化した地域を守るための体
制はどうあるべきかについて意見交換を行いました。
II.第11回水害サミットの概要
1.日 時 平成27年6月9日(火)15時〜18時30分
2.場 所 毎日新聞東京本社地下1階「毎日ホール」
(東京都千代田区一ツ橋1-1-1)
3.主 催 ・水害サミット実行委員会
水害サミット実行委員会発起人会
(新潟県見附市長、福井県福井市長、兵庫県豊岡市長、新潟県三条市長)
・毎日新聞社
4.出席者 コーディネーター:松田 喬和(毎日新聞社特別顧問)
挨 拶:太田 昭宏(国土交通大臣・水循環政策担当大臣)
オブザーバー:池内 幸司(国土交通省水管理・国土保全局長)
出 席 者:白岩 孝夫(山形県 南陽市長)
品川 萬里(福島県 郡山市長)
國定 勇人(新潟県 三条市長)
久住 時男(新潟県 見附市長)
大平 悦子(新潟県 魚沼市長)
牧野 百男(福井県 鯖江市長)
奈良 俊幸(福井県 越前市長)
小野登志子(静岡県 伊豆の国市長)
西田 健(三重県 紀宝町長)
松山 正治(京都府 福知山市長)
山本 正(京都府 宇治市長)
中貝 宗治(兵庫県 豊岡市長)
片山 象三(兵庫県 西脇市長)
岩浅 嘉仁(徳島県 阿南市長)
塩田 始(高知県 いの町長)
戸梶 眞幸(高知県 日高村長)
藤田 陽三(福岡県 筑紫野市長)
橋田 和実(宮崎県 西都市長)
(敬称略)
5.会議のテーマ
(1)激甚化する水害に対し、
"今"求められる対策を考える
〜「地域を守る」ために必要な取組について〜(2)「事後対応」から「事前行動」へ
〜水害に備えたタイムライン(防災行動計画)の策定について〜
(3)平成の大合併から10年を迎える今、改めて考える
〜災害対策支部機能の維持向上への取組について〜
6.会議の内容
≪発起人代表挨拶≫
國定三条市長:
太田国土交通大臣から3年連続のご出席をいただき御礼申し上げる。水循環政策担当大臣も兼
ねられ、水害サミットの取り組みに対しても非常に心温かく見守っていただき、大変心強く感じ
ている。
水害サミットも 11 回に回数を重ね、
毎年、
タイムリーな話題や現場に立つ市町村長として共通
の悩みから一つの方向策を見出そうと議論してきた。とりわけ今回は、大臣からも非常に力強く
我々市町村にはっぱをかけていただいたタイムラインの策定について第2部で議論いただく。第
1部では、近年ますます水害が局地化、激甚化している中で、これまでとは違った対応をとって
いく必要があり、その対策について議論いただく。第3部では、前々回にもテーマ設定させてい
ただいたが、
多くの市町村が平成の大合併を迎えて今年でほぼ 10 年になる。
行革で職員数をどん
どん減らしてきている中にあって、合併で広域化した地域をいかに守り抜くのかということが共
通の課題となりつつある。この点についても改めて議論を深めてまいりたい。
今回は、内閣府防災担当、消防庁からも参加いただいている。また NPO 法人気象キャスターネ
ットワークからも会場にお越しいただいた。重ねて感謝を申し上げたい。
≪国土交通大臣・水循環政策担当大臣挨拶≫
太田国土交通大臣:
この1年間も災害が相次いだ。昨年8月に広島で局地的に発生した豪雨では、積乱雲が連続し
て発生するバックビルディング現象が起きた。3年前の九州では、堤防を下から崩す浸透破壊が
起きており、こうした新しい現象への備えが重要になっている。
雨が局地化、集中化、激甚化し、1時間に 100 ミリどころか、数日間で 1000 ミリに及ぶ豪雨が
降るようになっている。昨年の臨時国会では、土砂災害防止法を改正し、今年の通常国会では、
都市部の地下水害を考慮して、水防法、下水道法を改正した。しっかり対応していきたい。
今日の「タイムライン」などのテーマは急所をつくものだ。水害対策で求められることは、ハ
ードとソフトを総動員することだ。主体的行動型の避難で自分の命を守るところに、国民の意識
を変えていかなければならない。東京・荒川の下流域で関係 20 機関、37 部局が 250 項目にわた
るタイムラインを設定し、取り組みをスタートさせた。今年の台風から対応できる。これで避難
勧告など首長が決断しやすくなるのではないか。合併後の市町村は、力が弱くなっており課題は
深刻だ。本日の議論を全国で共有し、防災・減災に力を注ぎたい。
≪コーディネーター挨拶≫
松田特別顧問:
水害サミットも 11 回を数え、かなり定着してきた。いま大臣が指摘されたように、サミットで
の提案がいろいろなところで読まれており、大いに参考になっていると思う。これが水害サミッ
トの大きな目的であり、少しずつ浸透してきているのではないか。
≪治水事業をめぐる最近の話題≫
松田特別顧問:
まず国土交通省から、
「治水事業をめぐる最近の話題」について説明を受けたい。
大西治水課長:
水害は大変だという思いを共有したい。昨年全国で発生した水害を受け、被害を受けた地域の
緊急対策として概ね5年間の集中投資で、再度の災害防止に取り組んでいる。ハードとソフトを
総動員して防災・減災対策を行っていくことが国土交通省の基本的な考え方である。
水防法の改正では、浸水想定区域を想定しうる最大規模に拡充するとともに、洪水だけでなく
内水、高潮も追加した。下水道法の改正では、雨水だけでも下水道整備ができるようになった。
また、維持修繕基準を制定したほか、再生エネルギーの活用促進についても改正した。
防災対策におけるタイムラインは、多くの関係機関が連携して取り組むということが非常に重
要である。東京・荒川の下流域において、地下鉄やJRなども含め 20 機関の参加を得たタイムラ
インを先月に策定した。今年の出水期から具体的な運用を行う。先進事例については、ぜひ参考
にしていただきたい。
国土交通省としても本日の議論を今後の河川行政にしっかり生かしていきたい。
≪初参加市町村長紹介≫
白岩南陽市長:
南陽市は山形市と米沢市の中間にあり交通の要衝となっている。昨年7月、2年連続で水害が
発生した。
昭和 42 年の羽越水害以来大きな被害はなかった。
住民は災害が少ない都市だという認
識があり、ハード・ソフト面共に対応が遅れた。1時間に 52 ミリ、累加雨量が 229 ミリという雨
量でも河川が氾濫する状況であったが、
平成 29 年度までに河川改修を集中して進めている。
対応
マニュアルやタイムラインも未整備だが、様々な知見を参考にしながら対応していきたい。
岩浅阿南市長:
阿南市は今日まで水害よりも渇水に悩まされてきた。
昭和 33 年5月に財政再建団体のまま市制
施行したが、歴代市長が工業開発に力を入れ、今では王子製紙の工場や日亜化学の本社がある徳
島県では最も大きな産業都市、四国でも有数の産業都市になった。このため水が必要で、渇水に
力点をおき、国土交通省で長安口ダムを改造している。昨年8月の水害は初めての体験だった。
無堤地区の中学校は1階を駐輪場にして2階を玄関にしたが、2階以上に浸水した。市長として
一番悩んでいるのは、いかに避難のタイミングを計って住民を避難させるかだ。市民はなかなか
避難しないのが現状だ。いろいろな意見を賜りながら勉強できればありがたい。
戸梶日高村長:
日高村は高知県中央部に位置する人口5千人の村である。村域の東部に仁淀川が流れ、本村は
その中流域にあたる。高糖度トマトの「シュガートマト」は全国に誇れる当村自慢の一品だ。仁
淀川の恩恵を受ける一方で、水との闘い 300 年という歴史もある。昨年8月に台風による甚大な
内水浸水被害を受けた。この災害を受け、国、県、村で「日下川浸水対策調整会議」をつくり、
放水路整備、河川改修、低地部へのハード対策と合わせて、ソフト事業として日高村総合治水条
例の施行に向けて取り組んでいる。これらが進むと、産業振興に貢献できるストック効果が期待
される。避難勧告を出すタイミングが難しいので、タイムラインを勉強し取り組んでいきたい。
藤田筑紫野市長:
筑紫野市は福岡県の中部に位置し、福岡市のベッドタウンとして人口が増加しており、約 10
万2千人である。山間部の雨水が多くの開発の影響を受け中心市街地を貫流する御笠川水系高尾
川に一気に流れ込み、長年にわたって浸水被害が発生している。昨年8月には1時間に 110 ミリ
の大雨が降り、
高尾川周辺の家屋 92 戸が浸水被害を受けた。
国土交通省などの協力で床上浸水対
策特別緊急事業を進めている。初めて水害サミットに参加させていただくが、意見交換を行いな
がら今後の災害に備えていきたい。
(1)激甚化する水害に対し、
"今"求められる対策を考える
〜「地域を守る」ために必要な取組について〜
松田特別顧問:
ハード対策とソフト対策の双方がうまく連携をとることが重要だ。各市町村長が持つ共通の悩
みを顕在化させ、
対応を整理したい。
最初に福知山市長から事例紹介してもらい意見交換したい。
松山福知山市長:
一昨年の台風 18 号災害、さらに昨年8月の豪雨災害では 96 カ所の山崩れが発生した。復旧が
手つかずのところもあるが、国と府、市で治水対策協議会を組織して分担しながら取り組んでい
る。本日は主にソフト対策を紹介させていただくが、市民が安心して暮らしていくためには、や
はりしっかりとした治水対策、ハード対策が必要であり、市民総ぐるみで対応を進めていかなけ
ればならない。
昨年8月の豪雨災害では、由良川下流域で都市排水機能が超過したため、市街地を中心に広範
囲で浸水災害が発生した。由良川の氾濫ではなく内水氾濫である。深夜の災害で、急激な災害進
行による状況把握が難しかった。迅速で機動的に避難所を開設するための体制も課題である。ま
た、深夜の情報伝達の問題もあった。このため、24 時間営業のチェーン店と情報提供の協定を締
結した。
災害対応は、市民の協力を得て初めて動き、解決策も出てくる。改善事業は大きく三つある。
一つ目は、情報収集・伝達機能を強化するためライブカメラを設置する。二つ目は、自主防災組
織の強化と避難所の地元開設などに取り組む。三つ目は、雨水をそのまま流さず、いろいろな形
で貯めて流出を抑制する。家に水害用のドラム缶を置いたり、田んぼダムも有益である。本市で
は 10 年で3回の大きな浸水被害を受けており、
ハード・ソフトのいろいろな面でしっかりと取り
組んでまいりたい。
松田特別顧問:
これから取り組むべき課題などを整理して報告いただいた。ここで意見交換に入りたい。
奈良越前市長:
平成 16 年の福井豪雨、平成 24 年7月の越前市東部集中豪雨と2度にわたり被害を受けた。国
県の協力をいただき吉野瀬川、鞍谷川、岡太川などの河川改修を進め、吉野瀬川ダムの建設を力
強く要望している。
市では橋梁の長寿命化計画をつくり、
平成 24 年度から計画的に橋梁の優先補
修を進めている。河川改修は全て終わっていないので、水田貯留を進めている。防災行政無線や
ライフラインメール、Lアラートといった情報伝達体制の強化にも取り組んでいる。
ソフト対策では、
平成 19 年度から自主防災組織の組織化に取り組み、
98%の組織率になってい
る。自主防災組織に避難マニュアルと防災マップをつくってもらうことに力を入れ、17 の小学校
区ごとに毎年行っている防災訓練の中で、
避難マニュアルや防災マップを確認してもらっている。
平成 25 年度から防災士の育成補助を始め、2年間で 12 人の防災士が増えた。資格者で「防災
士の会」を設置する予定である。また、福井地方気象台や県の河川砂防総合情報、市の避難場所
の情報などのホームページに接続するためのQRコードを付けた「家庭の防災対策ガイド」を全
戸配布したところである。近隣府県の関係のある 12 市と災害時相互応援協定を締結しているが、
住民レベルでの交流にも補助を行い、万が一の時の災害支援を強化する取り組みを行っている。
品川郡山市長:
市内には、
164 の河川の総延長 609 キロメートル、
農業用水の安積疏水が 109 幹線で総延長 239
キロメートル、
計約千キロ近い河川があり、
加えて約 600 の調整池、
農業・灌漑用水などがある。
これらの河川が阿武隈川に流れるが、そこに設けられた樋門・樋管は計 123 あり、この操作如何
によって内水被害が発生する。この治水対策が最大の政策課題である。
災害対策は情報戦争だと思う。いかに早く天災の変化情報を入手し、その情報をきちんとわか
ってもらうということが大事である。それを見える化するため、雨量によってどのように浸水す
るかを示すことができる立体の3次元ハザードマップをつくった。ホームページで見ることがで
きる。
福島県にとって、水害対策は復興対策そのものである。おかげさまで除染が進み、いわゆる放
射線量の内部被ばく、外部被ばく対策も相当進んでいるが、また浸水被害があると元の木阿弥に
なってしまう。放射線物質というのは全部土粒に付着しているので、洪水でその土粒が全部町中
に溢れ床上浸水すると屋内で除染をしなければならなくなる。床上浸水があるかないかというの
は天国と地獄だと。少なくとも床上浸水しないようにというのが今の水防対策のミニマムの政策
である。
阿武隈川は、雨が降ると川が流れるが、雨が降っていないときは草原状態になる。伸び伸びと
草木が生えており、これでは河川の排水機能も非常に劣化するだろうと思っている。阿武隈川の
特性も理解いただき、河道掘削するとか、河川に伸び放題伸びている木を伐採いただいて、円滑
に水が流れるように配慮賜りたい。
牧野鯖江市長:
オープンデータのまちづくりを進めており、SNSによる情報伝達手段を活用している。防災
士と防災リーダー、職員にフェイスブックのアカウント登録をしてもらい、24 時間体制の中でア
プリを使って災害現場や異常現場の写真を瞬時に市役所に送ってもらう。それを親画面で見て迅
速に対応することに取り組んでいる。
また、防災士や防災リーダーと職員の一部に iPad を 40 台、簡易雨量計を 200 個配布した。こ
の簡易雨量計もアプリで送信してもらい状況把握に努めている。避難体制にも活用したい。今後
はこうした登録を増やし、市民総ぐるみでまちを守る体制づくりをしていきたい。
さらに、防災リーダーの養成講座では、これまでに 234 名が終了しているが、防災士を新たに
育てるため、国立高専の協力を得て、昨年から防災士養成講座を行っている。昨年は 87 名が受講
したが、今年もこれくらいの受講者がいると思う。防災士と防災リーダーを増やし、スマホを持
っていない方には iPad を提供して、情報伝達手段を強化していきたい。
もう一つ、
「防育」ということで防災教育による安全安心なまちづくりを進めている。子供たち
から防災に関心を持ってもらい、小学校高学年では避難時にお年寄りや幼児の引率、避難誘導が
できるように、助けられる側から助ける人になれるような人材の育成に今年から取り組みたい。
今後は防育事業を地域の防災士に担ってもらう。
この防育事業により自助・共助の意識を高めて、
災害に強いまちづくりに努めていきたい。
品川郡山市長:
大臣から「主体的行動型の避難で自分の命を守る」という話があったが、我々もウェザーニュ
ースの減災マップをホームページで見られるようにした。携帯電話で「ここの水が溢れた」とい
う情報が送られて、それをマッピングできるようにしたが、一人暮らしの高齢者などの要避難支
援者は、結局消防団に頼ることになる。このため、消防署に水防係をつくった。これから消防署
は水防署だと。火災は人災だ、水防は天災だから、人災は減らせる。火災ゼロを目指そうと。こ
れからは消防署ではなくて水防署だというふうに心構えを変えてもらおうと思う。全国にはそう
いう水防署に変わらざるを得ない町もあり、国交省や消防庁にもいろいろ提携などをお願いした
い。
塩田いの町長:
究極はハード整備をして水害がなくなればよい。しかし、河川整備はどれくらい被害があるか
想定できないので、予防的な整備は難しい。やはり皆さん方全員がストック効果を訴えるべきで
はないかと思う。例えば、日高村さんのようにトマト団地が広がるんだとか、効果予測などを水
害サミットでも訴えていく時期に来たのではないか。
平成 14 年に新宇治川放水路が決定し、5年後の平成 19 年2月に完成した。それに合わせて新
規の量販店が出店したり、それに対抗して既設店舗をリニューアルしたりして、いろいろな店舗
ができた。最終的には通信網と発電所を直す企業が進出した。こうしたストック効果をアピール
すべき時期に来ているのではないかと感じている。
中貝豊岡市長:
品川郡山市長にお聞きしたい。先ほどの3次元ハザードマップは非常に有効だと思う。人は逃
げないので、自分の地域がどうなるかとリアルに想像できれば少なくとも2階以上に逃げること
ができるかどうか判断するという意味で有効だと思うが、ネックはコストがかかる。幾らかかっ
たのかを知りたい。
また、牧野鯖江市長にも簡易雨量計を配った狙いをお聞きしたい。気象台の情報はどんなに頑
張ってもせいぜい1キロメートルメッシュなので役立たないことはあり得る。簡易雨量計を置い
て情報を集めるとメッシュ情報が大きすぎて役に立たないのがフォローできると思ったので、ど
ういう基準や考え方で簡易雨量計を配っているのか教えていただきたい。
品川郡山市長:
公共下水道計画区域の約 5500 ヘクタールが対象で、経費は約4千万円かかった。
また、側溝が道路にとって非常に大事な機能だということを位置付けてほしい。側溝整備は道
路冠水対策には即効性があり重要である。
牧野鯖江市長:
一級河川と準用河川には監視カメラを設置しているが、それでもなかなか避難を推測するには
至らないので、防災士と防災リーダー、市職員に簡易雨量計を 200 個持たせて情報を瞬時にスマ
ホのアプリで送ってもらうことで避難の目安にしたい。局地的な大雨が多く、地域によってバラ
つきがあるので、実験的に行いながら将来的には増やしていきたい。
松田特別顧問:
塩田いの町長から、ソフト面だけではなくハード面の充実を図らないと最終的には減災になら
ないのではないかという指摘があった。国交省の大西課長から、今後のハード面を含めた防災・
減災対策について紹介してもらいたい。
大西治水課長:
ハードとソフトを総動員していくのが、国交省の基本的な考え方である。やはり現在の施設能
力を一気に上げるのは難しいし、施設の能力を超えるような外力に対しては、ソフトで人の命を
救うことが必要だと思っている。
しかし、
ハードも目指すレベルの整備をしっかりとやっていく。
治水というのは予防が基本であるが、どうしても後手に回る部分もある。ハードとソフトの役
割分担をしっかりと説明した上で、予防的な整備を一生懸命進めていきたい。
橋田西都市長:
平成 17 年に初当選した年に台風 14 号による水害の洗礼を受けた。河川が破堤、越水して 600
戸近くが浸水、約 200 戸が床上浸水し、1人が亡くなった。10 年経ったので、またやって来るの
ではないかと思う。
熊本県から流れる二級河川の一ツ瀬川が市内を流れているが、被害を受けてからでないと取り
組んでいただけないということをつくづく感じている。流域には約2万5千人の住民が住んでい
るので、流域市町村で組織をつくり河川整備を要望した。その結果平成 22 年から 20 年間で整備
することに 50 億円の予算がついたが、
堤防の補強や河床整備に年間2、
3億円しか予算がつかな
い。
できれば 10 年間で毎年5億円から6億円の予算で整備してもらうよう国交省や県に毎年要望
しているが、なかなか進まないというのが現状だ。市ではハザードマップや防災組織をつくり、
防災無線を各戸に配布するなど、情報の伝達、避難してもらう体制はできたが、ハード面の整備
が進んでいない状況があり、一級河川と二級河川で整備の差が出ないようにお願いしたい。
大西治水課長:
二級河川の整備は県が担当しているが、その地域を安全にして、発展する絵姿を見せると説得
力が増すと思う。
久住見附市長:
最初の災害を受けた平成 16 年の水害の反省を踏まえて、
二度と同じような対応をしたくないと
いうことから水害サミットを立ち上げた。私の体験から災害時に不足していたものを4段階に整
理した。まず、必要な情報は何か。ダム情報、水位状況、気象情報であり、それがだんだん入る
ようになった。次に、その情報をどう判断するか。その判断の仕方がなかったので体験的に整備
した。三つ目に、その判断したものを住民にどのように伝えるかという情報伝達手段をいろいろ
な仕組みで整備してきた。四つ目に、その情報を得た住民がどのように避難できるか、また要支
援者をどのような形で避難させるか。この四つの段階があるかないかで災害の質と量が違ってく
る。
平成 23 年の災害は平成 16 年の災害に比べ 1.5 倍の雨量が降ったが、ハード対策として遊水池
や田んぼダムなどの活用、内水対策によって被災は最小限に収まった。そういう形のものが整理
できて、毎年少しずつバージョンアップしてきた。
昨年から今年にかけて大きく変わったのは、
緊急情報メールの運用である。
従来は 15 分くらい
かかったものが、山梨大学の鈴木先生に相談して今では3分でできるようになった。三つの携帯
キャリアの緊急速報メールも同時に発信できるようになった。サミットの場でいろいろな首長が
知恵を出しているので、
ぜひそれを吸い取ってほしい。
田んぼダムもサミットからの発信である。
防災・減災をどう維持していくかは、最終的には防災訓練だと思う。今年の防災訓練には市内
中学生の約 83%が参加してくれる。ソフトとして、こういう総合的なものを理解して実際に体験
することは、社会教育の面、防災教育の面でも大変ありがたいと思っている。
松田特別顧問:
第1部はこれにて終了させていただく。(2)「事後対応」から「事前行動」へ
〜水害に備えたタイムライン(防災行動計画)の策定について〜
松田特別顧問:
第2部では、水害に備えたタイムラインをどう策定していくかを中心に議論を深めたい。ハザ
ードマップが広まったようにタイムラインもこれから広まって、ソフト面での防災、減災対策を
進めることができる。ハード面では、経済的に厳しい中でも予防的なものにどう投資していくの
かということがこれからの国に課せられた課題だと思う。最初に、阿南市長から事例紹介いただ
き、そこから議論の糸をほぐしていきたい。
岩浅阿南市長:
四国で初めて那賀川にタイムラインを策定した。河川やダムの治水能力は限界があるので国交
省からハード事業に鋭意取り組んでもらっているが、堤防やダムを実際に住民が目にすることに
よって近い将来の安心感につながるということで、視覚に訴えるということは非常に大切なこと
だと改めて認識している。今後、市民も巻き込んだタイムラインの肉付けをしていきたい。ハザ
ードマップを全戸に配布しているが、市民はほとんど見ていないのが実態だと思う。宝の持ち腐
れというか、それだけ切迫感がない。ハザードマップを各家庭の目につくところに置いておくこ
とまで指導しないとなかなか効果を発揮しない。
また、本市は海岸の延長が 121 キロメートルあるので、津波の水害というものもある。川の水
害だけではなく、内陸と沿岸の両方を抱えて二重苦があることも考えてほしい。
最後に、
津波の場合は垂直避難で高いところへ逃げろということになるが、
「このサイレンが鳴
れば必ず逃げなさい。絶対に逃げないと命が危ないですよ」という、全国で統一したサイレンは
できないものか。それだけのものを国がつくっておかなければいけないのではないかと思うが、
消防庁さんのご見解をいただければありがたい。
加藤消防庁国民保護・防災部防災課災害対策官:
消防庁では、J アラート(全国瞬時警報システム)という仕組みを整備している。例えばミサ
イルの発射事案などの緊急対処事態の際や大津波警報が発令された際に、通信衛星と市町村の同
報系防災行政無線や有線放送電話を利用し、緊急情報を住民へ瞬時に伝達するシステムである。
ミサイルの場合は全国で統一されたサイレンが鳴る仕組みになっている。また、大津波警報が出
た場合についても、統一したサイレンを運用している。
松田特別顧問:
参加市町村の取り組み状況や課題、意見を披露していただき、共通の問題意識を高めていきた
い。タイムラインを策定した市町村から説明をお願いしたい。
國定三条市長:
第1部の内容を簡単に触れてから本題に入りたい。まず、いの町長さんのご指摘は本当にその
通りだ。本市は平成 16 年と平成 23 年に水害があった。平成 16 年の水害で破堤したが、復旧後の
住宅着工件数は破堤したところが多く、10 年間持続的に続いている。それは、堤防がきれいにな
り、安全度が高まるだろうという人々の期待があるからだと思うが、その結果 10 年間で、住宅着
工件数にそのエリアで平均の住宅工事費を乗ずると、ほぼ復旧事業費と同程度のストック効果が
あらわれている。我々水害被害を受けた市町村長それぞれが、それぞれの視点でストック効果を
測ってみると、多分間違いなくその効果は出ていると思う。水害サミットとしてアピールすべき
ことではないか。
二点目は、災害時の避難を考えたとき、一律的な水平避難には限界があり、垂直避難と水平避
難との組み合わせが求められていると思っている。
平成 23 年の水害の半年前に、
水平避難を垂直
避難に変えたハザードマップを全戸配布した。その半年後に水害があったが、群馬大学の片田先
生にご協力をいただき被災世帯対象のアンケートを実施したところ、垂直避難を促すハザードマ
ップを「見たことがある」と答えた方が 81.8%、そのうち「すぐわかる場所に保管してある」は
65.1%であった。さらに浸透させていきたい。
本題のタイムラインを防災会議で決定したが、
やればやるほど難しいと感じている。
「タイムラ
インはだれのものか」
ということが関係者間で意思統一されていないことが問題点の一つにある。
タイムラインは事前対策を万全に行うことが一義的な要素になってくるが、発災した後もタイム
ラインは続く。発災後は公助の世界だけにとどまらず、例えば、電力会社の停電情報や鉄道会社
の運休情報など、住民に知ってもらう様々な情報を各関係機関が出すことになる。本来、タイム
ラインは各関係機関同士が有機的に情報を連動させるところに目的があるとすれば、一義的には
市民にとっても直ちに役立つものでなければならない。つまりワンストップ的な要素としてタイ
ムラインは使えるはずだが、少なくとも本市で策定したタイムラインではまだそこまで意識が届
いていない。
松田特別顧問:
西田紀宝町長から、先駆者としての苦悩を教えていただきたい。
西田紀宝町長:
南海トラフ地震の関係で海ばかりを見ていたが、
平成 23 年に大水害にあった。
ハード対策を予
防法的にするのは予算の都合もあり難しい。自然災害を防ぐことはできないが、被災した中で、
事前・事後対応を含め行政は何をすべきか、その時に何が足りなかったのかを考えた。例えば激
甚災害の中で復旧工事を進めてもらっているが、
その工事を行っている姿を見て町民は安心する。
水害では高いところへの垂直避難になるが、高いところの避難所がなかったのでそれを整備する
と住民は非常に安心するし、避難訓練などの対策をとることにもつながる。
また、
熊野川から水道水を取水しているが、
水害により取水口や器具類が全部壊れ 10 日間断水
した。水道が出ないというのは、今の生活の上では非常に苦しい生活を強いられる。そうした教
訓から町内6カ所に緊急時の 40 トンの貯水タンクを配置した。
また地震対応として、
4千トンと
1千トンの配水池があるが、異常な水の流れや揺れを感じたときに自動的に遮断する遮断弁の設
置もした。それによって、
「皆さん、水はもう大丈夫ですよ」という安心感をつくることも非常に
大事である。
タイムラインについては、
関係機関と常に情報共有しながら進めている。
平成 23 年に起きた水
害の時にそれぞれの機関がどういうふうに対応したのか、何が足りなかったのか、事後も何が必
要なのかということを常に共有しながら、
それに足りないものをしっかりとつくることによって、
タイムラインは防災・減災につながるのだということを町民に情報提供していきたい。
行政がしっかりと対応していくことは大事だが、正直に申し上げて、住民は避難してくれない
ので、いかに避難してもらうかだ。町のタイムラインは一応完成した。今年から、土砂災害や洪
水災害、浸水災害など状況が違うが、それぞれの地域で想定される被害を踏まえて、地域のタイ
ムラインをつくる取り組みを進めている。地域と一緒に取り組むことによって、とにかく避難し
なければいけない、人の命が一番だということをしっかり認識してもらう体制にしていきたい。
松山福知山市長:
策定したタイムラインは台風を前提として、気象情報や由良川の水位などを基準に行動を定め
ている。
しかし、
昨年8月の豪雨による内水氾濫では、
川の水位は行動の基準にはならなかった。
警戒本部を立ち上げて、由良川の水位の状況を関係機関と連携していたが、府の管理河川や市の
下水道の氾濫が主であった。由良川の氾濫の場合とは関係機関も異なり、短時間で起きたため、
内水氾濫に適応するためには、行動基準を市街地の流域雨量とするなどの改良が必要だと考えて
いる。
タイムラインは関係機関との連携がポイントとなるが、
地元にある自衛隊や 24 時間 365 日営業
している全国チェーンとも連携した総合的なタイムラインの策定が重要であり、今後は首長が最
終判断をする上でも必要になると思う。
山本宇治市長:
現在策定中であるが、
本当に難しいテーマだ。
昨年8月の台風 11 号ではタイムラインを意識し
た初動態勢を指示し、台風の本州接近の2日前から災害警戒態勢をとるとともに、各部局にイベ
ント事業の休止などの検討や公共施設の風水害対策の実施、台風の勢力や進路などを適時庁内放
送し、全職員に対して情報共有を図った。台風の被害は発生しなかったが、タイムラインを意識
した一定の事前行動は実施できたと考えている。例えば、台風最接近が深夜から未明であったこ
とから、明るい時間帯での避難所の早期開設を指示した。また、淀川ダム統合管理事務所では天
ヶ瀬ダムの放流判断時期を増やし、予備放流を実施したことや、淀川河川事務所でも早期の段階
で排水機場へのポンプ車派遣など、迅速な初動態勢がなされたこともタイムラインを意識した対
応だと思う。7月には関係機関と共同でタイムラインを踏まえた水防演習を予定している。
大平魚沼市長:
平成 23 年の新潟福島豪雨を想定してタイムラインを策定した。
当然これから見直しするところ
もあると思うが、まずはこれを基本として進めていきたい。
新潟福島豪雨の経験では、各機関からの情報がなかなか伝わってこなかったため、市民に情報
を伝達できない状況があった。どうやって情報を収集し、どう伝達していくかが課題である。今
後はタイムラインを活用し、各機関と情報共有することが必要だと感じている。
また、情報を伝達するため防災行政無線を使ったが、水害時にはほとんどの家庭が戸を閉めて
いたため雨の音で放送が聞こえず、防災行政無線に対する市民の苦情もあった。このため、コミ
ュニティFMを平成 28 年1月の開局予定で整備している。
さらに、
情報を発信すると電源を切っ
ていても最大音量で放送され、地区も限定できる機能がある防災ラジオを全戸配布する。これが
情報伝達の方法としては一番効果的だと思う。
タイムラインについては、今年は水害を想定した防災訓練を各地区で行うので、訓練を行って
いく中で改善していきたい。
小野伊豆の国市長:
タイムラインを暫定版として試行しているが、一番大事なのは避難勧告をいつ出すかである。
これは空振りになっても構わないと思う。
本市は女性職員が多いが、
平成の大合併から 10 年を迎
え職員が減少している中で女性職員にも働いてもらうために託児所を開設したい。災害時にFM
放送で放送する協定も結んだ。また、防災ラジオを配備することもできた。
このタイムラインが不備かどうかということよりも、タイムラインを活用して何度もイメージ
トレーニングをすることが大切だと思う。
片山西脇市長:
平成 16 年に水害があり、150 億円をかけて河川改修された結果、水害時と同じような雨量があ
っても、2メートル近く水位が下がるくらいになった。
しかし、この 10 年間で 10 回の水害にあった地区がある。300 人ほどの地区だが、
「立ち向かう
タイムライン」ということを考え、住民と市が共同して、いかに浸水を起こさないかというため
のタイムラインをつくった。ため池を何時間前には全部抜くとか、こういう樋門の開け方をすれ
ば水害が防げるはずだということをコンピュータでシミュレーションした。ハードに頼らず住民
の創意工夫で立ち向かっていきたい。
白岩南陽市長:
昨年と一昨年の災害では避難勧告のタイミングが遅かった。その反省を踏まえ今年、適時、的
確に避難勧告を出すということが絶対に必要だという考えの下に国交省と連携してタイムライン
を策定した。市内を流れる川は、昨年は 230 ミリほどの累積雨量、一昨年は 130 ミリの少ない雨
量でも氾濫したので、タイムラインも毎年時間を圧縮していかなければならない。小さい河川を
有するところにとっては非常にタイトな中で運用しなければならないことが課題である。
塩田いの町長:
タイムラインは作成していないが、
これまで災害に備え、
その都度早め早めの対応をしてきた。
平成 26 年の台風8号では、米軍の予想や気象庁の予報をもとに、早くから職員を集めて、土木事
業者への工事の安全確認、道路の被災状況の把握、避難所の開設、浸水した場合のごみ対策など
を指示していた。その後の台風 12 号では浸水被害が発生した。12 号は九州のずっと西を北上し
たが、四国山脈で 1000 ミリの雨が降る状態で、台風の勢力が落ちない状況から、この雨は危ない
と判断し、昼間に避難勧告を出した。台風 19 号の場合は、台風通過後の雨域が全くなかった。台
風が過ぎた後は晴れ間が出るという気象庁の予報も見ながら、事前に検証し、雨はもうこれで終
わりということがわかっていたので、避難準備もしなかった。
タイムライン通りにいかないとタイムリスク、行政のリスクになるので、私は一つひとつの台
風をとらえながら、こういう指示をしたということを担当職員にメモしてもらうことが、最終的
にはタイムラインにつながっていくと思う。
橋田西都市長:
今まで取り組んできた経験上、台風の進路とか、河川上流域の雨量予測、ダムの管理などをし
っかりしておけば、かなり水害が防げるのではないかと思う。もう一つは、避難準備情報と避難
勧告の出し方が非常にいい加減なところがあるのではないか。避難準備情報を出しておけばいい
というような、市町村の責任逃れではないかという感じで出しているところもある。しかし、そ
れが慣例になると避難の準備もしなくなり、
大変な被害になるのではないかと思うので、
やはり、
いつ避難準備情報や避難勧告を出せばよいかということはしっかりとらえておかなければならな
い。
松田特別顧問:
第2部はここで終わらせていただく。
(3)平成の大合併から 10 年を迎える今、改めて考える
〜災害対策支部機能の維持向上への取組について〜
松田特別顧問:
平成の大合併で、基礎自治体が主に担うべき公助が減退しているのではないかという危惧を持
っている首長さんが非常に多いと思う。第3部のテーマについては、サミット発起人の一人でも
ある中貝豊岡市長から、豊岡市における取り組みについて紹介いただきたい。
中貝豊岡市長:
1市5町が合併し面積は約 700 平方キロメートルで、
琵琶湖や東京 23 区よりも広い。
合併のメ
リットは、職員数を減らすことで行革を進めてきた。その結果、全体で 1100 人の職員が 877 人ま
で減った。
実際、いざという時には何人の職員が要るか。現場を見に行く、あるいは避難所に職員を張り
付けるにしても人数の勝負であり、ここが決定的に弱まっている。平常時としてはやむを得ない
が、危機管理上は極めて困った状態になっているため、これをどう補うかということになる。
まず、防災支援員制度をつくった。市職員のOBで災害対応のベテランを防災支援員として委
嘱し、いざという時には災害対策本部に詰めてもらうことにしている。現在は各振興局で1名か
ら3名、合計 10 名を委嘱している。
また、職員派遣制度により、非常時には各地域本部の配備態勢に応じて、本庁から各振興局や
旧町に職員を派遣している。以前は現場を一番わかっている旧町出身者を派遣していたが、職種
にバラつきがあり不都合があったため、各部のチーム派遣にし、本庁での所属と、地域本部、振
興局での災害対策本部などの所属を一致させる工夫をした上で派遣している。振興局の地理に職
員が精通していないという課題に対しては、チームリーダーを中心に危険個所の把握や訓練時の
確認などにより、現地にできるだけ精通するための対応を行っている。それでも職員の絶対数が
そもそも不足しており、これをどう補うか。行政の側はより効率的な仕組みやシステムを導入し
たり、自助・共助を強化していくほかはないのだろうと思う。例えば避難所開設の工夫として、
職員を派遣する避難所と派遣しない避難所を明確化し、必要な職員数を確保している。避難が長
期化した場合には、派遣しない避難所を閉鎖して、職員を派遣する避難所へと集約していくルー
ルにして、職員数の減を補っている。
次に、土砂災害の対応である。実はトップとして一番怖いのは内水ではなく、堤防の決壊と土
砂災害だ。
決壊は国交省や県にお願いするほかないが、
土砂災害をなんとかしようと考えている。
市内には土砂災害警戒区域が 1770 カ所あるが、
全ての点検や監視体制をとることは不可能であり、
職員が減ってきた中で効率的な危険度評価をするため、県と協力して土砂災害危険度予測システ
ムを導入した。どのくらいの雨が降るとその斜面が崩れるかということが力学的に予測できるの
で避難勧告などに役立てようとスタートしたが、このシステムの評価としては、リアルタイムで
の活用は困難と判断し、住民の自主避難に利用することにした。本市では雨量が 140 ミリを超え
ると土砂崩れが発生すると判断できたので、特に危険度の高い地区の 25 行政区、142 棟に簡易雨
量計を配布し、避難の目安にしてもらっている。
さらにもう一つ、自助・共助を強化する上での課題としてあるのは、少子高齢化・人口減少に
より集落の活力が低下しており、これをどうするか。小学校区や公民館の単位で、新たな支え合
い、助け合いの仕組みが必要と考え、新しいコミュニティ組織をつくる作業を進めている。公民
館を地域の拠点としてのコミュニティセンターに変えることにしている。単独の行政区で担えな
いことを広域の公民館単位で支え合う。地域福祉、地域振興、地域防災、人づくりの4つの機能
を基本形にして、平成 29 年度に全ての地域でスタートさせたい。平成 29 年度には公民館を制度
上廃止して、コミュニティセンターにする予定である。
最後に、水害サミットとして国に働きかけてうまくいった例を紹介したい。合併で職員は減っ
てきているが、それぞれの旧市町村ごとに支所を残している。支所は防災拠点としての価値があ
るので、その設置に要する費用を普通交付税に算定すべきだということを水害サミットで国に訴
えかけ、合併算定替えによる普通交付税減額の仕方が緩和された。これは全国の合併市町村が訴
えてきたことに加えて、特に水害サミットとしては支所の機能が災害対策上とても大切だと訴え
て成果が出たという一例である。
松田特別顧問:
参考にすべき事柄も多々あったと思う。意見があれば発言願いたい。
久住見附市長:
人口当たりの職員数が県内で2番目に少ない市だが、通常の人事異動のほかに、災害時に緊急
管理する 11 の部門をつくって、
災害時には今の部署ではなく指定された部門で動くようにしてい
る。
今回つくったタイムラインを 11 の部門でどう担当するかを決め、
メーンの部門、
実働の部門、
アドバイザーで関わる部門という形で機能させることにしている。
松田特別顧問:
これで第3部を終わりたい。最後に池内局長から全体を通じての感想と、防災・減災に対する
国の対応をお聞かせ願いたい。
≪オブザーバーコメント≫
池内水管理・国土保全局長:
首長の皆様の現場での取り組みに感銘を受けた。災害は地域によって千差万別だが、この水害
サミットはそれらに対して共通して使える具体的な防災・減災ツールを提案している。
近年、雨の降り方が激しくなってきている中で、水害に対しては、ハード・ソフト両面からの
対策が重要である。
ハード対策では、まずは河川整備が重要だが、流域において水を貯める、しみ込ませる、ある
いはゆっくり流すといった様々な施策を組み合わせることも重要である。ハード整備によって災
害リスクが減った結果、
新たな産業の創出や企業立地が進むなど
「ストック効果」
も報告された。
これも重要な着目点だと感じた。
ソフト対策も非常に重要である。昨年と今年、土砂災害防止法と水防法などが改正されたが、
いずれも的確な情報提供、避難体制の充実・強化、避難訓練の実施の三つが基本となっている。
最大級の大雨や高潮に対する避難対策などを充実していきたい。
タイムラインについては、昨年から大臣のご指示の下、省を挙げて皆様とともに取り組んでき
た。第一段階では避難という観点からタイムラインを策定したが、今回、荒川下流では多くの関
係機関と連携して、鉄道の運行停止や広域避難、高齢者の避難などに着目した、より幅の広いタ
イムラインを策定した。タイムラインという言葉はわかりやすいが、非常に多種多様である。一
つの行政機関のものもあれば、行政機関の間の横串を通すものもあり、鉄道事業者、ライフライ
ン事業者、さらに住民まで広がるということで、今後多様な展開をしていくことになると思う。
さらなるレベルアップを目指したい。
引き続き皆様方からお知恵をいただきながら、ハード・ソフト両面の防災・減災対策を進めて
いきたい。
≪コーディネーターコメント≫
松田特別顧問:
11 回の水害サミットを経験し、災害時にどういうタイミングで避難勧告、避難命令を出してい
ったらよいか、それと同時に、人間は災害を現実に受け止めるまでは逃げないため、それを逃が
すためにはどうしたらよいかということは永遠のテーマとして議論されてきた。いろいろな作業
をしながら、首長は新しい工夫を見出し、国交省でもハード面を含めて新しい試みが出てきてい
る。これまでの水害サミットで情報発信してきた効果が上がってきたのではないかと思う。
予想もつかない災害に共通のコンセンサスを持ちながら、
対応の方向性を生み出していきたい。
今回のサミットでも、その進歩度は着実に前に進んでいる。
≪発起人代表閉会挨拶≫
中貝豊岡市長:
タイムラインの議論はスタートしたばかりだ。一つの時間の流れの中でどう動くかということ
と、もう一つは横にどうつながるかということがある。横にどうつながるかという作業というの
は、実はチームをどうつくり上げていくかということにも関わっている。つくるプロセスこそが
まずは大切なのではないかと思う。同時に、実効性のあるものを考えようとするとどこかで断念
する必要があり、これは大変な勇気が要る。トップというのは勇気を持って、同時に重い責任を
持って歩んでいくほかはないと改めて思ったところである。今回は私自身も大変大きな刺激を受
けたが、そういう場としてこの水害サミットは本当に意義のある場になってきたと喜んでいる。
III.おわりに
今回の水害サミットは、3部構成とし、激甚化する水害への対策やタイムラインの取り組み、
平成の大合併で職員数が減った中で防災体制をどう整えるかなどをテーマに掲げました。どのテ
ーマについても参加市町村長の皆様から活発な意見交換を行っていただき、
情報共有することで、
それぞれの市町村において今後の新たな取り組みへの方向性を検討する一助となったと考えてい
ます。
また、太田国土交通大臣・水循環政策担当大臣を始め、池内水管理・国土保全局長以下、国土
交通省の皆様からも治水事業をめぐる動向として、法改正に関する取組状況や先進事例となるタ
イムラインについてご説明いただくとともに、それぞれのテーマについて貴重なご意見をいただ
き、サミット開催が非常に意義深いものとなりました。
第 11 回の水害サミットを振り返り、
その実施に当たって様々なお力添えをいただいた国土交通
省及び毎日新聞社の関係者の皆様方に対して、改めて深甚なる感謝の意を表するものです。

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