流域治水への転換
〜水災害対策における日本の新しい政策〜
日本の新しい政策「流域治水」では、集水域と河川区域のみならず、氾濫域も含めて一
つの流域として捉え、1氾濫をできるだけ防ぐ対策、2被害対象を減少させるための対
策、3被害の軽減、早期復旧・復興のための対策について、総合的かつ多層的に取り 組
んでいきます。
また、国、都道府県、市町村、企業、住民及び利水者など、あらゆる関係者が協働して
対策を実践します。
近年の水災害による甚大な被害を受け、2 0 2 0 年、国土交通省は水災害対策の政策を
新しい「流域治水」へと大きく転換したのです。
背景
I.「流域治水」への転換
II. 治水計画等の「計画の見直し」
新たな政策
倉敷市での洪水
(2018年)
台風19号
(2019年)
5 G やA I技術やビッグデータの活用、情
報通信技術の進展は著しく、これらの技
術を避難行動の支援や防災施策にも活
用していくことが必要。
人口減少や少子高齢化が進む中、「コン
パクト+ ネットワーク」を基本とした国土形
成により地域の活力を維持するためにも、
水災害に強い安全・安心なまちづくりが
必要。
今後も水災害が激化。これまでの
水災害対策では安全度の早期向上
に限界があるため、整備の加速と、
対策手法の充実が必要。
気候変動の影響 社会の動向
技術革新
河川の流域全体のあらゆる関係者が協働して、流域全体で行う
持続可能な治水対策
→ 事前防災対策の加速(流域治水プロジェクト)
気候変動による影響を見越して反映
次ページ以降で詳しく説明します
I. 「流域治水」への転換
「流域治水」施策のイメージ
従来の治水
役割分担を明確化した対策
河川/下水道/砂防/海岸などの管理者主体の
ハード対策
流域治水
1氾濫をできるだけ防ぐ
ための対策
2被害対象を減少させる
ための対策
3被害の軽減、早期復旧・
復興のための対策
あらゆる関係者の協働による対策
国・都道府県・市町村、企業・住民など流域全体の
あらゆる関係者による治水対策
あらゆる場所における対策
河川区域や氾濫域のみならず、集水域含めた流域全体
で対策を実施
転換
1氾濫をできるだけ
防ぐための対策
雨水貯留機能の拡大
< 県/市/企業/住民>
雨水貯留浸透施設の整備、
田んぼやため池等の高度
利用
流水の貯留
< 国/県/市/利水者>
治水ダムの建設・再生、
利水ダム等において貯留水
を事前に放流し洪水調節に
活用
< 国/県/市>
土地利用と一体となった
遊水機能の向上
持続可能な河道の
流下能力の維持・向上
< 国/県/市>
河床掘削、引堤、砂防堰堤、
雨水排水施設等の整備
氾濫水を減らす
< 国/県>
「粘り 強い堤防」を目指した
堤防強化等
集水域
河川区域
2被害対象を減少させるための対策
リスクの低いエリアへ誘導 / 住まい方の工夫
< 市/企業/住民>
土地利用規制、誘導、移転促進、不動産取引時の水害リ スク情報
提供、金融による誘導の検討
浸水範囲を減らす < 国/県/市>
二線堤の整備、自然堤防の保全
氾濫域
< >: 想定される対策実施主体
県:都道府県
市:市町村
3被害の軽減、早期
復旧・復興のため
の対策
土地のリスク情報の
充実 < 国/県>
水害リ スク情報の空白地帯
解消、多段型水害リスク情
報を発信
避難体制を強化する
< 国/県/市>
長期予測の技術開発、リ ア
ルタイム浸水・決壊把握
経済被害の最小化
< 企業/住民>
工場や建築物の浸水対策、
BCPの策定
住まい方の工夫
< 企業/住民>
不動産取引時の水害リスク
情報提供、金融商品を通じ
た浸水対策の促進
被災自治体の支援体制
充実
< 国/企業>
官民連携による
TEC-FOR CEの体制強化
氾濫水を早く排除
する < 国/県/市等>
排水門等の整備、排水強化
氾濫域
集水域
河川区域
利水ダムの活用
治水ダムの
建設・再生
堤防の強化
貯留施設の整備
田んぼやため池等の
治水利用
遊水池の整備
二線堤の整備
移転
氾濫域
1氾濫をできるだけ防ぐための
対策例
2被害対象を減少させるための
対策例
3被害の軽減、早期復旧・復興の
ための対策例
二線堤の整備や自然堤防の保全により 、
浸水範囲を限定
ハザードマップ
• まちづくり
(立地誘導)
• 建築の電気設備
の整備
• 不動産取引での
情報提供
活用
「避難」、「経済被害軽減」のための情報提供の
充実と被災後の早期復旧・復興のための取組の
強化
(例2)既存ダムの事前放流
利水ダムなどの利水のための貯流水を
あらかじめ放流し、洪水調節のための
容量を確保する「事前放流」を実施
利水容量
事前放流によ り
容量を確保
予測される
流入総量
利水容量
(例3)貯留施設の整備
校庭貯留
洪水時、一時的に流域
内で雨水を貯留できる
よう 、既存ストックを活
用した流出抑制対策を
実施
調整池
ため池
二線堤
二線堤
輪中堤
輪中堤
あらゆる関係者の協働
• 国
• 都道府県
• 市町村
• 企業
• 住民
• 利水者
が参画
協議会
(プロジェクト内容の決定)
事前放流により
容量を確保
河川区域や氾濫域が中心の対策
(例1)堤防整備
堤防の嵩上げや強化を実施
II. 治水計画等の「計画の見直し」
よくある質問
問い合わせ先
国土交通省 水管理・国土保全局
〒100-8918 東京都千代田区霞が関2-1-3
Tel:03-5253-8444
E-mail:hqt-kawakeikokusai@gxb.mlit.go.jp (2020年11月時点)
(これまで)
洪水、洪水、内水氾濫、土砂災害、高潮・高波等を防御する計画は、
これまで、過去の降雨、潮位などに基づいて作成してきた。
(今後は)
気候変動による降雨量の増加(注記)
潮位の上昇などを考慮したもの
に計画を見直し
気候変動の影響を考慮した
目標の見直し
外力
気候変動
を考慮し
た目標
現在の
目標
(注記) 世界の平均気温の上昇を2度に抑える
シナリ オ(パリ 協定が目標としているもの)
の場合で降雨量変化倍率は約1.1倍と試算
日本の「河川管理者」って何?
河川の管理は、洪水や高潮などによる災害の発生を防止し、公共の安全を保持するよ
う 適正に行われなければなり ません。日本の河川法では、河川の管理について権限を
も ち、その義務を負う 者を「河川管理者」と定めています。一級河川は国土交通大臣,
二級河川は都道府県知事,準用河川は市町村長が「河川管理者」となり 、川の治水・
利水・環境整備の計画づくり、工事や維持管理を行っています。
日本の「河川整備計画」とは?
河川管理者は、その管理する河川の整備について基本となる方針「河川整備基本方
針」を定め、その後、数十年かけて、同方針に従い計画的に河川の整備を実施すべき
区間において、1目標に関する事項、2河川整備の実施に関する事項を規定する「河
川整備計画」を作成します。作成にあたり ましては、学識経験者や住民の意見を反映
していきます。
これまで行ってきたダム建設を含む河川整備は今後行わないか?
今後も継続的に整備を行っていきます。
水災害対策は、流域全体のあらゆる関係者の合意形成を図り ながら、ダム建設を含め
た従来の施策から革新的な治水対策に至るまで、すべての可能性のある手段を用い
て実施していく必要があります。現在進行中の河川整備計画の進捗を加速化しながら、
可能な限り 効率よく河川整備を推進していくことが重要となってきます。

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