気候変動を踏まえた水災害対策
〜あらゆる関係者により流域全体で行う「流域治水」への転換〜
国土交通省 水管理・国土保全局 河川計画課
河川計画調整室長 森本 輝 1近年、毎年のように全国各地で自然災害が頻発
平成27年9月関東・東北豪雨
1鬼怒川の堤防決壊による浸水被害
(茨城県常総市)
3小本川の氾濫による浸水被害
(岩手県岩泉町)
平成28年8月台風10号 平成29年7月九州北部豪雨
4桂川における浸水被害
(福岡県朝倉市)
7月豪雨
5小田川における浸水被害
(岡山県倉敷市)
台風第21号
6神戸港六甲アイランドにおける浸水被害
(兵庫県神戸市)
北海道胆振東部地震
7土砂災害の状況
(北海道勇払郡厚真町)
8月前線に伴う大雨
8六角川周辺における浸水被害状況
(佐賀県大町町)
平成28年熊本地震
2土砂災害の状況
(熊本県南阿蘇村)
9電柱・倒木倒壊の状況
(千葉県鴨川市)
房総半島台風438175629
東日本台風
10千曲川における浸水被害状況
(長野県長野市)10令和元年平成30年平成27〜29年 国管理河川で約25,000haの浸水
しろまる 令和元年東日本台風の豪雨により、極めて広範囲にわたり、河川の氾濫やがけ崩れ等が発生。これにより、
死者90名、行方不明者9名、住家の全半壊等4,008棟、住家浸水70,341棟の極めて甚大な被害が広範囲で発
生。
北陸新幹線
車両基地
破堤点
(千曲川左岸
58.0k付近)
信濃川水系千曲川(長野県長野市)
久慈川水系久慈川、里川(茨城県常陸大宮市ほか)
阿武隈川系阿武隈川(福島県須賀川市ほか)
破堤点
(久慈川左岸25.5k付近)
(注記)消防庁「令和元年台風第19号による被害及び
消防機関等の対応状況(第32報) 」(令和元年10月28日 6:30現在)
堤防の決壊等により、約1,360haが浸水。市全体で床上浸水
3,305戸,床下浸水1,781戸(11/8(注記))の家屋被害等が発生。
堤防の決壊等により、約2,220haが浸水。市全体で床上浸水
329戸,床下浸水72戸(11/1(注記))の家屋被害等が発生。
堤防の決壊等により、約3,400haが浸水。市全体で床上浸水
868戸,床下浸水208戸(11/5(注記))の家屋被害等が発生。
堤防の決壊等により、約1,650haが浸水。市全体で床上浸
水475戸,床下浸水87戸(10/15(注記))の家屋被害等が発生。
(注記)長野県ウェブサイト
(注記)東松山市ウェブサイト
(注記)須賀川市ウェブサイト
(注記)常陸大宮市ウェブサイト2荒川水系越辺川、都幾川(埼玉県川越市ほか)
令和元年東日本台風の被害
気温
降雨
世界の平均地上気温は1850〜
1900年と2003〜2012年を比較
して0.78°C上昇
気候システムの温暖化につい
ては疑う余地がない
21世紀末までに、世界平均気
温が更に 0.3〜4.8°C上昇
1時間降雨量50mm以上などの短
時間強雨の発生件数が約30年前
の約1.4倍に増加
2012年以降、全国の約3割の地
点で、1時間当たりの降雨量が観
測史上最大を更新
1時間降雨量50mm以上の短時
間強雨の発生回数が2倍以上に
増加
1時間降雨量50mm以上の年間発生回数
(アメダス1,000地点あたり)
出典:気候変動に関する政府間パネル(IPCC):第5次評価報告書、2013
出典:気象庁:地球温暖化予測情報 第9巻、2017
しろまる 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書によると、気候システムの温暖化について
は疑う余地がなく、21世紀末までに、世界平均気温が更に0.3〜4.8°C上昇するとされている。
しろまる また、気象庁によると、このまま温室効果ガスの排出が続いた場合、短時間強雨の発生件数が現在の2
倍以上に増加する可能性があるとされている。
しろまる さらに、今後、降雨強度の更なる増加と、降雨パターンの変化が見込まれている。
既に発生していること 今後、予測されること3顕在化している気候変動の影響と今後の予測(外力の増大)
台風
平成28年8月に、統計開始以来初
めて、 北海道へ3つの台風が上陸
平成25年11月に、中心気圧
895hPa、最大瞬間風速90m/sの
スーパー台風により、フィリピンで
甚大な被害が発生
日本の南海上において、猛烈な
台風の出現頻度が増加(注記)
台風が勢力を維持したまま北
上する
平成28年8月北海道に上陸した台風の経路
【台風 7号経路】
【台風 9号経路】
【台風11号経路】渚滑川湧別川網走川釧路川十勝川沙流川鵡川
天塩川
留萌川
石狩川
尻別川
高瀬川
馬淵川
岩木川
米代川
(注記)出典:気象庁気象研究所:記者発表資料「地球温暖化で猛烈な
熱帯低気圧(台風)の頻度が日本の南海上で高まる」、2017
既に発生していること 今後、予測されること
前線
局所
豪雨
短時間豪雨の発生回数と降水
量がともに増加
停滞する大気のパターンは、増
加する兆候は見られない
流入水蒸気量の増加により、総
降雨量が増加
出典:第2回 異常豪雨の頻発化に備えたダムの洪水調節機能に関する検討会、
第2回 実行性のある避難を確保するための土砂災害対策検討委員会、
中北委員資料
平成30年7月豪雨で発生した前線
平成30年7月豪雨では、梅雨前線
が停滞し、西日本を中心に全国的
に広い範囲で記録的な大雨が発生特に長時間の降水量について多く
の観測地点で観測史上1位を更新
時間雨量50mmを超える短時間
強雨の発生件数が約30年前の
約1.4倍に増加
平成29年7月九州北部豪雨では、
朝倉市から日田市北部において
観測史上最大の雨量を記録
平成29年7月筑後川右岸流域における12時間最大雨量
筑後川右岸流域
出典:第2回 気候変動を踏まえた治水計画に係る技術検討会4顕在化している気候変動の影響と今後の予測(現象の変化)
気候変動等による災害の激化(氾濫危険水位を超過河川の発生状況)24173746
62 60020406080平成26年 平成27年 平成28年 平成29年 平成30年 令和元年
氾濫危険水位を超過した河川数
(国管理河川)59142331409 4123...0100200300400500平成26年 平成27年 平成28年 平成29年 平成30年 令和元年
(都道府県管理河川)
(河川数)
(河川数)
しろまる 気候変動等による豪雨の増加により、相対的に安全度が低下しているおそれがある。
しろまる ダムや遊水地、河道掘削等により、河川水位を低下させる対策を計画的に実施しているものの、氾濫危険水位
(河川が氾濫する恐れのある水位)を超過した河川数は、増加傾向となっている。
(注記)対象は、洪水予報河川及び水位周知河川であり、( )内は各年の指定済み河川数である。
(注記)国土交通省において被害状況等のとりまとめを行った災害での河川数を計上している。
(注記)一連の災害により、1河川で複数回超過した場合は、1回(1河川)として計上している。
(429河川) (429河川) (433河川) (448河川) (448河川)
(1,559河川) (1,562河川) (1,585河川) (1,619河川) (1,627河川)
(448河川)
(1,644河川)5 しろまる2°C上昇した場合の降雨量は1.1倍、河川の流量は1.2倍、洪水の発生頻度は2倍と試算。
しろまる気候変動に伴う影響として考えられる、各地域に災害をもたらすような降雨の気象要因や時空間分布の変化につ
いては、試行的な検討では顕著な影響が確認できておらず、現時点では定量的に考慮することはできない。全国
的な影響の評価手法や治水計画に反映する手法については今後の検討課題である。
気候変動シナリオ 降雨量 流量 洪水発生頻度
RCP2.6(2°C上昇相当) 約1.1倍 約1.2倍 約2倍
RCP8.5(4°C上昇相当) 約1.3倍 約1.4倍 約4倍
(注記) 4°C上昇の降雨量変化倍率のうち、短時間とは、降雨継続時間が3時間以上12時間未満のこと
(注記) 下水道の雨水計画に反映する降雨量変化倍率は別途検討。
<地域区分毎の降雨量変化倍率>
地域区分
2°C上昇 4°C上昇
(暫定値) 短時間
北海道北部、北海道南部、九州北西部 1.15 1.4 1.5
その他12地域 1.1 1.2 1.3
全国平均 1.1 1.3 1.4
<参考>降雨量変化倍率をもとに算出した、流量変化倍率と洪水発生頻度の変化
(注記) 降雨量変化倍率は、20世紀末(過去実験)に対する21世紀末(将来実験)時点の、一級水系の治水計画の目標とする規模(1/100〜1/200)の降雨量の変化倍率の平均値
(注記) RCP8.5(4°C上昇相当)時の降雨量変化倍率は、産業革命以前に比べて全球平均温度が4°C上昇した世界をシミュレーションしたd4PDFデータを活用して試算
(注記) 流量変化倍率は、降雨量変化倍率を乗じた降雨より算出した、一級水系の治水計画の目標とする規模(1/100〜1/200)の流量の変化倍率の平均値
(注記) 洪水発生頻度の変化倍率は、一級水系の治水計画の目標とする規模(1/100〜1/200)の降雨の、現在と将来の発生頻度の変化倍率の平均値
(例えば、ある降雨量の発生頻度が現在は1/100として、将来ではその発生頻度が1/50となる場合は、洪水発生頻度の変化倍率は2倍となる)
気候変動に伴う降雨量や洪水発生頻度の変化6(注記)2°C上昇時の降雨量変化倍
率は暫定値であり、今後変更
になる可能性がある
気候変動に伴い顕在化が懸念される海面水位等の上昇予測7シナリオ
1986〜2005年に対する2100年における
平均海面水位の予測上昇量範囲(m)
第5次評価報告書 SROCC
RCP2.6 0.26-0.55 0.29-0.59
RCP8.5 0.45-0.82 0.61-1.10
しろまる IPCC第51回総会(令和元年9月20日から24日)において、「変化する気候下での海洋・雪氷圏に関するIPCC特別
報告書(海洋・雪氷圏特別報告書)」の政策決定者向け要約が承認されるとともに、報告書本編が受諾された。
しろまる 2100年までの平均海面水位の予測上昇範囲は、RCP2.6シナリオでは0.29-0.59m、RCP8.5シナリオでは
0.61-1.10mと第5次評価報告書から上方修正された。
しろまる 同報告書では、「低緯度の多くの沿岸域では、100年に1度程度の頻度で発生していた高潮災害などが、
2050年には毎年のように起こり、今世紀末までに世界中の沿岸域で発生する可能性がある。」という予測。
図:1986〜2005年に対する2300年までの予測される海面上昇(確信度:低)
(挿入図は、RCP2.6及びRCP8.5の2100までの予測範囲の評価を示す 確信度:中)
出典:SROCC,2019年9月
https://report.ipcc.ch/srocc/pdf/SROCC_FinalDraft_FullReport.pdf
地球温暖化による水災害リスクの変化8地球温暖化に伴う気温・海水温の上昇
蒸発散量の増加 海水の熱膨張・氷の融解
降雨量の増加 台風の強度・経路・速度の変化
前線や局所豪雨の変化
海面水位の上昇
土砂災害の激化
内水氾濫の激化 高潮・高波の激化
大気循環・海流の変化
複合災害の激化
洪水の激化
しろまる 地球温暖化に伴う気温・海水温の上昇によって、様々な水災害リスクの増加が懸念。 9気候変動を踏まえた計画と設計の考え方の見直し 10河川整備計画の目標、整備内容の見直し
しろまる 気候変動による降雨量の増加によって実質的な治水安全度が年々低下しているおそれがあるため、河川整備
計画に基づき整備を加速する必要がある。
しろまる 河川整備計画の目標に関して、整備期間終了時にその安全度を確保するためには、気候変動による治水安全
度の低下を考慮した目標流量に見直し、事業効果の早期発現が可能な施設の整備や既存施設の活用など、
整備メニューの充実を図る必要がある。
しろまる 過去の実績洪水を目標とする現在の河川整備計画の早急な達成を目指すとともに、併せて気候変動による外
力増大を考慮した整備計画の目標設定へ移行する必要。
治水計画の見直し(河川整備計画)
<治水安全度の低下を考慮した整備の加速>
・河川整備計画完了時(概ね30年間)において、気候
変動に対応する治水安全度を保するよう見直す。
<整備計画の目標>
・現在の河川整備計画(20〜30年間の中期的な河川整備)
のほとんどは、戦後最大等の実績洪水を目標としている。
整備計画目標
実績洪水,
108河川,92%年超過確率,
10河川,8% 設計の見直し(予測される外力変化の考慮)11増加外力をあらかじめ見込む設計のイメージ
だいやまーく設計段階で気候変動により増加する外力をあらかじめ見込
んで設計し、施設や設備のライフサイクルコスト等を勘案し
ながら、施工面・経済面での"手戻り"をなるべく抑えた構造・
施工を検討。
将来のゲートの規模を
考慮した門柱の高さ
計画高潮位
計画高水位
ゲートの規模が変わることに
伴う巻き上げ機等の改造
ゲートの規模が変わることに
伴うゲート等の改造
海側 河川側
海面水位の上昇
【将来対応】
【あらかじめ対応】
【あらかじめ対応】
【将来対応】
将来のゲートの規模を
考慮した基礎
気候変動の影響を見込んだ設計・施工の対応イメージ
しろまる 水門のゲートのように、施設の耐用期間とは違って一定の期間で更新が想定される設備がある。
しろまる このような施設については、その設備の更新時期までに予測される外力の変化を見込むことが基本。
しろまる しかし、この他の構造や部材(例えば基礎)については、手戻りが生じないよう、施設の耐用期間を見据えて整
備を行う必要がある。
増加外力をあらかじめ見込む設計の考え方
だいやまーく個別施設の整備にあたっては、少なくとも海岸保全施設
(堤防、護岸、離岸堤等)の更新時期までに予測される海面
上昇量等を見込む。
(注記)潮位偏差、波浪の将来予測については、「気候変動を踏まえた海岸保全のあ
り方検討委員会」において今後、議論を進めていく。 12気候変動による外力増大を前提とした水災害対策への転換 13しろまる これまで治水計画は目標となる洪水を設定し、その被害を防止する対策を中心に取り組んできた
が、今後は、様々な規模の洪水が発生することを前提に、被害の発生を軽減するための対策・手
法の充実を図るとともに、被害からの早期回復まで視野に入れて対策を講じるべきではないか。
しろまる 水災害リスクを構成するハザードや暴露、脆弱性の3要素において、それらを軽減するためには、
対策メニューの充実を図るべきではないか。
【様々な手法を組合せた水災害対策】
災害発生確率
現況
気候
変動
気候変動により被害の増大が懸念される被害規模大小高低
氾濫時の被害 軽減や被災地の早
期復旧・復興のための対策
〜脆弱性への対応〜
氾濫した場合の被害対象を
減らすための対策
〜暴露への対応〜
氾濫をできるだけ防ぐための対策
〜ハザードへの対応〜社会経済活動
時間
社会的影響
発災
• 治水対策の推進
• 既存施設の活用
による流出抑制 等
• 土地利用の規制・誘導
• 氾濫水の制御(二線堤) 等
• 避難体制の構築
• 自治体や企業のBCP
• 水害保険
• 支援体制の強化 等
事前の備えと被災直後の応急対策の充実等により、復旧・復興を迅速化
気候変動による外力増大を前提とした、抜本的な水災害対策への転換
集水域
都道府県・市町村、
企業、住民
河川
国・都道府県・市町村、
利水者
氾濫域
国・都道府県・市町村、
企業、住民
氾濫を防ぐための対策
〜ハザードへの対応〜
被害対象を減少させるための対策
〜暴露への対応〜
被害の軽減・早期復旧・復興のための対策
〜脆弱性への対応〜
二線堤等の整備
⇒ 市町村
(ためる)
雨水貯留施設の整備、
田んぼやため池等の高度利用
⇒ 都道府県・市町村、企業、住民
(氾濫水を早く排除する)
排水門の整備、排水ポンプの設置
⇒ 市町村等
(避難態勢を強化する)
ICTを活用した河川情報の充実
浸水想定等の空白地帯の解消
⇒ 国・都道府県・市町村・企業
(被害範囲を減らす)
土地利用規制、高台まちづくり
⇒ 国・都道府県・市町村、企業、住民
(早期復旧・復興に備える)
BCPの策定、水災害保険の活用
⇒ 市町村、企業、住民
(移転する)
リスクが高いエリアからの移転促進
⇒ 市町村、企業、住民
(支援体制を充実する)
TEC-FORCEの体制強化
⇒ 国・企業
(氾濫水を減らす)
堤防強化等
⇒ 国・都道府県
(安全に流す)
河床掘削、引堤、放水路、砂防堰堤、遊砂地、
雨水排水施設等の整備
⇒ 国・都道府県・市町村
ダム、遊水地等の整備・活用
⇒ 国・都道府県・市町村、利水者
(しみこませる)
雨水浸透施設(浸透ます等)の整備
⇒ 都道府県・市町村、企業、住民
(被害を軽減する)
建築規制・建築構造の工夫
⇒ 市町村、企業、住民
河川での対策 集水域での対策 氾濫域での対策
凡例14あらゆる関係者により流域全体で行う「流域治水」への転換
しろまる 気候変動による水災害リスクの増大に備えるために、これまでの河川管理者等の取組だけでなく、
集水域から氾濫域にわたる流域に関わる関係者が、主体的に取組む社会を構築する必要があ
る。
しろまる 河川・下水道管理者等による治水に加え、あらゆる関係者(国・都道府県・市町村・企業・住民等)
により流域全体で行う治水「流域治水」へ転換することによって、施策や手段を充実し、それらを適
切に組合せ、加速化させることによって効率的・効果的な安全度向上を実現する。 151氾濫をできるだけ防ぐための対策
〜ハザードへの対応〜
利水ダムを含む既存ダムの洪水調節機能の強化
しろまる 関係省庁により策定された「既存ダムの洪水調節機能の強化に向けた基本的な方針」に基づき、関係省庁や
利水者とも調整の上で、利水ダムなどの利水のための貯流水をあらかじめ放流し、洪水調節のための容量を
確保する「事前放流」を抜本的に拡大する。
しろまる 長時間先のダム流入量及び下流河川の水位状況等の予測の精度向上等に向けた技術・システム開発を実施
する。16事前放流の取組の拡大 予測精度向上等に向けた技術・システム開発
全ての既存ダムを最大限活用して有効な洪水調節が可能とな
るよう、ダム周辺の降雨予測等を利用した水系全体における
長時間先のダム流入量及び下流河川の水位状況等の予測の
精度向上等に向けて、技術・システム開発を行う。
河川管理者である国土交通省(地方整備局等)と全てのダム
管理者及び関係利水者との間において、1級水系を対象に、水
系毎に事前放流の実施方針等を含む治水協定を締結し、令和
2年の出水期から新たな運用を開始する。
スーパーコンピュータ
気象衛星ひまわり
等による
気象予測の
持続的な
精度向上
予測降雨量
流入総量
流域面積
予測される
流入総量
利水容量
事前放流により
容量を確保
発電所
洪水吐ゲート
利水容量
洪水吐ゲート
発電所 利水容量
事前放流により洪水調節に
使用できる容量の拡大
事前放流用の放流管
の設置
既設の放流管の改良
<課題>放流設備の
位置や能力の制約
<課題>洪水吐ゲートの
有無や能力・構造の制約
<課題>事前放流により洪水調節
に使用できる容量の制約
既設の洪水吐
ゲートの改良
〇利水ダムは、発電、都市用水等の補給のため、高い貯水位が維持されるよう運用されるものであり、洪水吐ゲート
の有無や能力、放流設備の位置や能力、構造上の理由により事前放流を実施する上での制約があると共に、事前
放流に使用した利水容量が従前と同様に回復しない等の損失リスクがある。
しろまる事前放流にあたり、より早く水位低下させることやより効果的な洪水調節を図るためには、中期的に、緊要度に応じ
て洪水調節機能の強化のための施設改良等(既設の洪水吐ゲートの改良、事前放流用の既設放流管の改良等)
を行っていくことが効果的であり、利水ダムにおいて放流設備等の改造を行う場合に、その費用の一部を補助する
制度を創設する。
〇利水ダムにおいて事前放流による事前放流を促進するため、利水者に対し特別の負担を求める場合における損失
の補填制度を創設する。
利水ダムの事前放流拡大に向けた新規制度【令和2年度より制度創設】17事前放流後に水位が
回復せず、利水者に
特別の負担が生じた
場合の損失を補填
流出抑制対策の拡大
ため池の治水活用
防災調整池
公園貯留
自然地の保全
雨水貯留浸透
施設
河川への流出抑制対策の例
透水性舗装
浸透ます
各戸貯留・浸透
水田貯留
宅地造成等によって、雨水が地下に浸透せず、
河川等に一度に流出して浸水被害をもたらす
地下に浸透
【都市化に伴う河川への流出量の増大】18しろまる 急激な都市化に伴う河川への流出量の増大により治水安全度の低下が著しい都市部の河川流域を対象に、
河川対策、下水道対策に加え、雨水貯留浸透施設の整備などの流出抑制対策等を実施する総合治水対策を
昭和55年より推進
しろまる 気候変動による降雨量の増大を考慮すると、都市開発による流出増を抑制するための貯留施設の整備に加
えて、地域の協力によって更なる貯留施設等の整備により、河川への流出を抑制。
流出抑制対策の更なる推進19しろまる 気候変動による降雨量の増加を考慮し、今後は三大都市圏等に限らず、居住や都市機能が集まる地域を流
れる河川の流域や、地方部の河川においても流出抑制対策を積極的に推進。
〇 また、これまでの流域の協力は、開発による流出増を抑制するための対策が中心だったが、今後の気候変動
による外力増大に備えるためには、更なる民間等の協力によって流域の流出抑制機能を高めることが必要。
大都市部及びその周辺地域の河川
全国の河川へ
流出抑制対策の全国展開
(指定河川以外への拡大)
民間等の更なる協力による
流出抑制機能の拡充 202氾濫した場合の被害対象を減らすための対策
〜暴露への対応〜
水災害対策や避難体制の構築、開発規制・立地誘導、建築物の構造の工夫を組み合わせ、
水災害リスクを軽減させるための具体的な連携方策について検討。
⃝ 近年、各地で水害・土砂災害が発生しており、今後、気候変動の影響により、さらに降雨量が増大し、水害・土
砂災害が頻発化・激甚化することが懸念
⃝ 水災害リスクを低減するためには、治水対策の推進に加えて、まちづくりにおける土地利用の工夫や建築物の
構造の工夫を一体的に推進することが必要。
水災害リスク
の評価
建築物の
構造の工夫
避難体制
の構築
開発規制や
立地誘導
水災害対策
水災害対策とまちづくりの連携の基本的な考え方21 22
〇 頻発・激甚化する自然災害に対応するため、災害ハザードエリアにおける開発抑制、移転の促進、
立地適正化計画と防災との連携強化など、安全なまちづくりのための総合的な対策を講じる。
だいやまーく災害ハザードエリアからの移転の促進
-市町村による防災移転計画
市町村が、移転者等のコーディネートを行い、移転に
関する具体的な計画を作成し、手続きの代行 等
(注記)上記の法制上の措置とは別途、予算措置を拡充
(防災集団移転促進事業の要件緩和
(10戸→5戸 等))
居住誘導区域
市街化調整区域
災害レッドゾーン
市街化区域
浸水ハザードエリア等
だいやまーく災害ハザードエリアにおける開発抑制
(開発許可の見直し)
<災害レッドゾーン>
-都市計画区域全域で、住宅等(自己居住
用を除く)に加え、自己の業務用施設(店舗、
病院、社会福祉施設、旅館・ホテル、工場等)の
開発を原則禁止
<浸水ハザードエリア等>
-市街化調整区域における住宅等の開発許
可を厳格化(安全上及び避難上の対策等を許
可の条件とする)
だいやまーく立地適正化計画の強化
(防災を主流化)
-立地適正化計画の居住誘導区域から災害
レッドゾーンを原則除外
-立地適正化計画の居住誘導区域内で行う
防災対策・安全確保策を定める「防災指
針」の作成
避難路、防災公園等の避難地、
避難施設等の整備、
警戒避難体制の確保等
区 域 対応
災害レッドゾーン
市街化区域
市街化調整区域
非線引き都市計画区域
開発許可を
原則禁止
浸水ハザードエリア等 市街化調整区域
開発許可の
厳格化
開発許可を
原則禁止
開発許可
の厳格化
既存の住宅
・施設の移転
災害レッドゾーン
・災害危険区域(崖崩れ、出水等)
・土砂災害特別警戒区域
・地すべり防止区域
・急傾斜地崩壊危険区域
開発許可を
原則禁止
【都市計画法、都市再生特別措置法】
【都市再生特別措置法】
【都市再生特別措置法】
頻発・激甚化する自然災害に対応した「安全なまちづくり」 23防災まちづくり(水害対策)検討の方向性
主な取り組み方策(案)
しろまる 堤防、調節池・貯留施設、排水施設等の整備・強化の推進
しろまる 高台まちづくりの推進(線的・面的につながった高台・建物群の創出)
・高台まちづくりを推進するための計画策定
・土地区画整理、公園、高規格堤防等の整備による高台づくり
・避難スペースを確保した建築物の整備・確保
・建築物から浸水区域外への移動を可能とする通路の整備
・民間活力を活用した建築物、高台の整備 等
高台まちづくり(高台・建物群)の推進
防災まちづくり(水害対策)の目標像
しろまる 治水安全度を向上させることにより、大規模水害の発生確率を低下し、市街地を少しでも安全にする
しろまる 万が一、大規模水害が発生し、逃げ遅れた場合でも、命の安全が確保され、最低限の避難生活水準を確保できるまち
づくりを進める
しろまる さらに、社会経済活動が長期停止することなく、また迅速に復旧できるまちづくりを進める
高台・建物群のイメージ
(建物群を通路で連結)
デッキ(避難通路)による連結
施工前 施工後 平常時 浸水時
高台づくりのイメージ
江戸川区北小岩地区(江戸川)
避難通路のイメージ
(建築物から浸水区域外への移動が可能)
宮城県石巻市(旧北上川) 足立区北千住
イメージ図
出典:災害に強い首都「東京」の形成に向けた連絡会議(第1回)×ばつ
避難計画・BCP作成 等 復旧・復興対策
避難や被害軽減のための行動 等
想定の把握・認識
情報の
把握・認識
被害の回避
・軽減行動
平時 発災前 発災時 復旧・復興
行動
予測の把握・認識 状況の把握・認識25氾濫時の被害軽減や被災地の早期復旧・復興のための対策の方向性
情報 平時 発災前 発災時 復旧・復興
しろまる ハザードや暴露の対策を進めたとしても水災害が発生することを前提に、国・都道府県・市町村のみならず、企
業・住民も含む社会のあらゆる主体は、復旧・復興までを見据えて、水災害に対する脆弱性を向上させて社会全体
の被害を最小化が必要。
しろまる 発災時の被害が想定する土地の水災害リスクに関する情報や、行動開始のきっかけとなる河川の水位などの
情報に基づき、地域の様々な主体が自らの活動や行動を円滑に進められるような社会の仕組みづくりを推進
経済
浸水エリア予測 等
水位情報 等
浸水解消の見込み 等
発出される場合があるもの
浸水想定区域 等
土地の水災害
リスクに
関する情報
行動の
タイミングに
関する情報 発出が法令に位置づいているもの
平時 発災前 発災時 復旧・復興
経済被害
を減らす
対策前
対策後
人命
命を
守る+ (注記)全国で供用中の新幹線車両基地等28箇所について、各車両基地等に
おける盛土によるかさ上げ等を勘案した上で、浸水被害の有無を検証
博多総合車両所
岡山支所
博多総合車両所
広島支所
新庄運転区
鳥飼車両基地
浜松工場
長野新幹線車両センター
熊本総合車両所
浸水被害が発生しても運行への影響を僅少な範囲に留めるような対
策を講じることを基本とする。
浸水被害が想定される重要施設においては、高所への移設、防水扉
の設置など、運行への影響を僅少な範囲に留めるような対策を検討。
計画規模降雨により車両又は重要施設に
浸水被害が想定される箇所
想定最大規模降雨により車両又は重要施設に
浸水被害が想定される箇所
2箇所 7箇所
従業員等の安全を確保した上で、車両の浸水被害の最小化など社
会経済被害の軽減に努めることとする。
浸水被害が想定される車両の留置場所においては、車両避難計画
の策定など、車両の浸水被害を最小化する対策等を検討。
車両及び重要施設に関する浸水対策の鉄道事業者での検討結果について、次期出水期までにとりまとめる。
避難前後の運転ダイヤへ相当の影響が出ることについての社会的理解の醸成を図る。
浸水被害が想定される新幹線車両基地等
しろまる 令和元年東日本台風(第19号)による被害を踏まえ、新幹線における、浸水被害が発生した場合に運
行への影響が大きい施設の点検及び検証を実施し、高所への移設や車両避難計画の策定等、ハード・ソ
フトの両面から、新幹線における車両及び重要施設に関する浸水対策等の考え方を令和元年12月2
4日にとりまとめた。
今後の対応 <新幹線>
計画規模降雨に対する基本的な考え方と具体的な浸水対策
想定最大規模降雨に対する基本的な考え方と具体的な浸水対策
鉄道における浸水対策26 しろまる 消防庁では、令和2年3月「危険物施設の風水害対策のあり方に関する検討会」の検討結果をとりまとめ「危険
物施設の風水害対策ガイドライン」としてとりまとめ。
しろまる 危険物施設の形態別のポイント及びチェックリスト(例)を整理。
危険物施設の風水害対策ガイドライン27<製造所における風水害対策上のポイント>
<平時からの事前の備え>
• ハザードマップを参照し、浸水想定区域や土砂災害警戒区
域、浸水高さ等を確認しておく。
<風水害の危険性が高まってきた場合の応急対策>
• 土のうや止水板等により施設内への浸水や土砂流入を防止
・低減 (浸水・土砂対策の例)
<浸水防止用設備の例>
浸水想定区域の用途の多様化
しろまる 住民一人ひとりが適切な避難行動を行うためには、平時において、地域特性や家族構成等の各個人が置かれ
ている状況に応じたリスク情報を入手し、それを住民が理解して頂くことが重要。
しろまる 事前の浸水リスク情報は、避難のみならず、各企業の自衛水防としての浸水対策やBCPの作成の観点から、
想定最大規模の浸水想定だけでなく、高頻度、中頻度に発生する水害のリスク情報を発信していくことが重要。
しろまる 不動産取引や水害保険等において、水害のリスクが的確に反映されるよう、様々なリスク評価を進めるととも
に、水災害リスクが明らかにされていない地帯の解消を図ることが重要。
<現在の浸水想定区域の目的>
【円滑かつ迅速な避難の確保】
<近年における浸水想定区域の用途拡大>
【まちづくり(立地誘導)への活用】 【施設整備への活用】 【重要事項説明への活用】
「「水災害対策とまちづくりの連携のあり方」検討会」で検討中(イメージ) 「建築物における電気設備の浸水対策のあり方に関する検討会」で検討(抜粋)
建築物における電気設備の整備に想定
される浸水深を考慮
宅地建物取引業者による重要事項説明において説明
されている例も存在
【浸水の防止】+28 課題これまでの取組自治体への情報発信
(洪水予報,ホットライン等)
緊急速報メールの一部未実施 アクセス集中によるサイト閲覧の不可
緊急速報メールによる情報発信
【氾濫危険情報(警戒レベル4相当)】
公式SNSによる河川水位に応じた注意喚起
【氾濫危険情報(警戒レベル4相当)】
洪水予報(氾濫発生情報)の一部未発表
HPによる氾濫危険情報の発信(警戒レベル4相当)
逃げなきゃコールの普及
洪水予報発表の流れ
ホットライン
洪水時における情報発信の課題29しろまる 令和元年東日本台風においては、同時多発的な氾濫発生などにより、洪水予報・緊急速報メールの一部未実
施やホームページへのアクセス集中により水位情報が閲覧できないなどの課題が生じた。
誤配信を防ぐため、河川事務所が文案作
成後に地方整備局が内容を確認した上
で緊急速報メールを配信していたが、複
数河川の水位上昇により、手続きが重な
り、配信できない場合があった。
「川の防災情報」サイトへのアクセスが集中し、
つながりにくい状態が発生したため、アクセス集
中時にサーバへの負荷を軽減するために情報を
絞った「簡易版」で提供する情報の整理が必要。
ホームページ・公式SNSアカウント
を利用した情報発信
プッシュ型で住民へ情報発信
広域的かつ同時多発的に氾濫が発生したこと
から、洪水予報の発表に時間を要した。
全国からの排水ポンプ車派遣
東北地整へ45台派遣
北海道 :15台
中部地整:20台
中国地整:10台
関東地整へ48台派遣
中部地整:5台
中国地整:12台
四国地整:15台
九州地整:16台
北陸地整へ36台派遣
近畿地整:25台
四国地整: 6台
九州地整: 5台
(注記)他、受援地整が所有する排水ポンプ車も活動
早期復旧に関する課題
しろまる国管理河川14水系29河川では、合計で約25,000haの浸水が発生、都道府県管理河川で59水系252河川で浸水が発生。
しろまる全国から派遣した排水ポンプ車約200台(のべ4,000台超)を派遣し、74市町村で排水活動を実施し、令和元年10月30日
までに、概ね浸水が解消。
しろまる一方、 被災エリアからの人材・資機材の派遣は不可能であるため、より被害が広域に発生した場合には復旧の遅れが懸
念される。30信濃川水系千曲川(長野県長野市穂保地区)における浸水状況
決壊箇所
排水ポンプ車による排水作業 浸水状況(10月13日12時)

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