コラム・活動事例・資料 編

戻る

コラム・活動事例・資料 編

<コラム>
コラム1: 電話相談における精神障害者への基本的な対応−うつ病を中心に
コラム2: グリーフ・ワーク(悲嘆作業)

<活動事例>
1. システムの構築:青森県名川町
2. 一次予防:秋田県由利町、青森県鶴田町
3. 二次予防:鹿児島県伊集院保健所
4. 三次予防:岩手県立久慈病院精神科

<資料>
資料1: うつ病について
資料2: 二次スクリーニングの際の面接のポイント
資料3: 対象別にみたうつ対策
資料4: 本人支援のための具体的アプローチ
資料5: スクリーニングの実践例
資料6: うつ対策の評価例
資料7: 自殺未遂者への対応(青森県名川町の例)
資料8: 我が国の1985年以降5年間以上継続された高齢者自殺予防活動の実績



コラム1: 電話相談における精神障害者への基本的な対応−うつ病を中心に
前書き :電話相談はメディアの性格から、海外でも精神疾患に悩む人たちからの相談がかなり高い比率を占めています。日本では精神疾患に対する社会的偏見がいまだに強いためかその傾向が目立ちます。匿名で顔を見られなくてすむためか、不安の強い相談者には相性がよいといえるでしょう。ですから自己開示が容易になるなど、電話ならではの信頼関係を作ることができます。

1 .対応の基本
1) いのちの電話の統計では、電話相談を利用する精神障害者(及びその家族)は、半数が精神科の治療を受けているか過去に治療歴があります。この場合は病院ないしは医師への不満、苦情が多くなります。電話相談員は言葉通りに受けて同調してはいけません。"薬づけ"などという医療批判にしても、たいていは医師が必要と診断して処方しているわけで一概に非難すべきではありません。ただ事実関係は不明であっても、不満な気持ちそのものは事実であって、それを受け止めた上で、基本的には主治医を信頼して続けるよう話します。
2) そうした不満ないしは不安の中で圧倒的に多いのが、薬の副作用とその不快感です。この場合も服用そのものの是非についての議論を避け、不快、不安の気持ちだけを受けとめ、どうしても不安な場合は医師に相談するよう話します。
3) 病識がなく、したがって治療を受けていない人たちもたくさんいます。この場合相談員はかなり異常であると判断しても、診断はできませんし、まして相手に病識を持つことを期待すべきではありません。電話では最終的には精神科に受診をすすめるか、内科などの主治医に相談をするように話します。
4) 精神疾患を病む人たちは周囲から疎外されているので、孤独の不安の中で相談しているのです。相談員の温かい対応が気に入って、依存的な常習的通話者になることがよくあります。この場合「またか」といった対応はすべきではありませんが、かといって依存を助長させてはいけません。相談員は依存されると「自分なら何とかできる」「してあげたい」と思いがちになりますが、そのような気負いは持つべきではありません。
5) 相談員は相談者を分析したり、治療的な対応をしてはいけません。そこで訴えられた孤独、不安、苦痛、悲嘆などをそのまま受けとめ、時間をかけて共有することが大切で、これは電話相談員しかできない貴重な役割と言えます。

2 .うつ病の電話相談
感情が沈み、悲哀感が強くなり、時には死にたい気持ちになるのがこの病気の特徴です。しかも「自分の苦しさは誰にも分かってもらえない」といった孤立感を持っています。これとは逆に躁状態で多弁に話してくるケースは電話相談ではあまりありません。この病気は良くなるという希望を持つことは大切ですが、安易に激励し慰めるような対応はすべきではありません。相談相手や周囲の人たちが元気だとかえって疲れたり、落ち込んだりしてしまうので、相談者の落ち込んでいる調子に合わせ、つまり同じ心の目線で相手になることが基本です。
言葉を交わすだけでなく、黙っていても気を持ち直すまで一緒にいてあげるという相談員のスタンスが大切です。かつて東京いのちの電話で、うつ病を病む女性から真夜中に電話があり、1時間余り苦しい気持ちを訴えたことがありました。やや気持ちが上向いたところで、相談が混んでるからと、相談員が終了をそれとなく告げると、「切らないで、話さなくてもいいから、そこにいてください」と絶叫したことがありました。うつを病む人たちが必要としているのは、情報やアドバイスではなく、理解し共有してくれる人が周囲にいることです。

3 .電話相談におけるセカンドオピニオン(主治医以外の専門家の意見)
医師による電話相談ではセカンドオピニオンを求められることが多いようです。東京いのちの電話では創立直後の1973年以来、一般の電話相談と並行して医師による医療電話相談を実施していますが、この相談の特徴は精神疾患にかかわる訴えが多いことです。一般的に電話による医療相談はセカンドオピニオンを求めているようで、すでに何らかの治療を受けているグループのほうが、未治療群より多いことがそのことを如実に裏づけています。たとえば副作用や今後の治療についての不安があって、現在の治療でよいのかどうかと確かめてみたいのです。
患者は今の自分の診断・治療・予後について知る権利があり、医師側もセカンドオピニオンを求められた場合には、診断書や紹介状を書く義務があります。他の医師による電話相談を利用し、主治医には話しづらいことを相談され場合もあるのでしょう。ことに社会的偏見が強い精神疾患については、電話による相談は安心して相談できます。苦情や不安をていねいに聞くだけで、たいていの利用者は満足し安心するものです。電話による医療相談は、セカンドオピニオンの1つの方法として、その役割を果たしています。

4 .インターネット相談−今後の課題として
最近は若者を中心にネットによる相談が、かなり利用されるようになりました。
若者の「社会的ひきこもり」を対象にメール相談を数年前から実施している医療機関もあります。若者本人からの相談が70%を占め、ドイツのネット相談でも同じ傾向が報告されています。電話は匿名が保証されるとはいえ、声による感情表現は隠せません。ところがそれすら怖れているのか、つまり関係づくりができず、電話ですらリアルタイムで人と関わることが苦手な若者たちがネット相談を利用しています。
うつ病にかかっている人も同じような不安を持っていると思われますので、今後の課題として、うつ病を対象にしたネット相談の可能性の検討もあげられます。

* 上記は東京いのちの電話の「相談員のための手引き」(1997年版.62頁)
8章2項「精神障害者への対応の基本」を要約、加筆したものである。



コラム2: グリーフ・ワーク(悲嘆作業)
自殺の危険因子としてうつ病をはじめ何らかの精神疾患が指摘されますが、人生史的に言えば、そこに何らかの喪失体験があったとも説明できます。あるいは悲嘆に起因する怒りや罪責感が抑圧され、その抑うつ状態が直接動機として自殺の引き金となっていることも推測できます。ことに生別、死別にかかわる大きな喪失経験は、うつ病の発症契機や自殺の直接動機ともなるでしょう。そこで喪失ないしは悲嘆の現実をを辛くとも受容し、それを自分の人生の意味として位置付ける作業が必要になります。これをグリーフ・ワーク(悲嘆作業、grief work)と呼びます。
グリーフ・ワークは、悲しみと痛みを覚えつつも、喪失の事実を認め、その変容した状況に適応できるようになる時に完了します。たいていの場合は葬儀やそれに続くさまざまな法事ないしは宗教的儀礼のなかで、あるいは近親、知人、友人との出会いの中で、悲しみは言語化され受容され慰められ昇華されていくものです。症状が軽度な場合はこのように周囲の支援があれば立ち直れますが、悲嘆が遷延化し重篤な場合は専門的な精神科治療等が必要になります。いずれの場合でもここで大切なことは、喪失体験とこれにともなう悲嘆には必ず特有な悲嘆反応とプロセスがあるという認識です。
グリーフ・ワークではこのようなプロセスに添って適切な対応が望まれます。たとえば援助者(治療者)は性急な激励をしたり、援助者自身の価値観で本人の悲嘆、怒りないしは罪責感を否定したりすることは避けるべきです。 最近はこのような認識に立って、自殺のハイリスク・グループである自殺未遂者や自殺遺児など、いわゆるサバイバー(survivor)へのケアないしはグリーフ・ワークの試みがなされているのは喜ばしいことだと言えます。これは優れて自殺の予防的役割を果たしていると言えるでしょう。
最近、「グリーフ・マネジメント」と称するワークショップを実施している団体もありますが、これはうつ病の予防ともなり得るでしょう。



活動事例
ここでは、うつ対策にたずさわった保健医療従事者からの報告をもとに、保健医療従事者の活動が実際にどのように行われ、どのような成果が見られているかを次に挙げる4つの活動を通して紹介することにします。

1 .システムの構築:うつと自殺の予防と住民の心の健康づくりに平成11年から取り組んでいる青森県名川町の活動事例
「心の健康づくり事業」に町が取り組み始めたのは平成11年のことです。最初は経験もなく手探りの状態でしたが、所轄の保健所や精神保健福祉センター、八戸市の精神科医、大学の協力を得ながら少しずつ活動を開始しました。事業の中心課題は(1)うつスクリーニングの実施、(2)一般住民への啓発・普及活動、(3)高齢者への集団援助活動、の3項目です。
1 )うつスクリーニングの実施
うつのスクリーニングは健康診査の問診票に『心の健康度自己評価票』を組み込むなどして実施しています。スクリーニング陽性者には訪問面接を行い、必要時には受診勧奨を行っています。また、専門家とケースカンファレンスを行うなどして、保健師等の保健医療従事者の能力を高める努力をしていきました。
2 )一般住民への普及啓発活動
事業初年度はうつ対策や自殺活動を公にすることにためらいもありましたが、住民が中心になってうつ対策や自殺予防に取り組んでいくことが重要であることから、町長をはじめ行政が率先して活動の重要性を町民に説明ししながら活動を展開することになりました。これによって住民の活動への抵抗感が減り、住民の協力を得やすくなりました。
2年目からは高齢者サービスを主に行っている社会福祉協議会職員や、町民と行政のパイプ役である民生児童委員や保健推進員に対して、講演会等でうつ病と自殺に関しての理解を深めてもらう活動を行い、活動の幅を広げていきました。また、地区の健康教室や老人クラブの定例会等でうつ病に関する教室を開催したり、町の広報に1年間をとおしてうつ病のコラムをのせたり、うつ病に関するパンフレットを配布したりするなど、啓発普及に心がけました。
3 )高齢者への集団援助活動
活動を行うな中で保健師たちは、「働けなくなったら死んだほうがましだ」という考えが町民の中に根強く存在していること、高齢者が次世代との価値観の違いを嘆いている場合があることに注目しました。町のほとんどの人は、若い頃から農作業に従事し、朝から晩まで働くことを生きがいに感じていて、加齢や疾病によって長年携わった農作業や家事を行えなくなった場合、家庭に居場所を失ったと感じるようでした。三世代家族であっても家族との交流が乏しい高齢者が少なくないことも分かりました。
そこで、地域住民との交流を深めて高齢者の閉じこもりや寝たきりを予防し、住民の心の健康と生きがいづくりを目的とした地域拠点生きがいサロン「よりあいっこ」を、社会福祉協議会、町内会、民生児童委員、保健推進員との協同事業により平成12年度に開設しました。
このほか、町の他部門と連携して、金銭問題の相談の際に心の健康にも目を向けたり、自殺企図(自殺を実行すること)のある住民や家族のサポート、自殺で家族を失った住民の援助なども行っています。
こうした活動の結果、うつ病についての相談件数が少しずつ増えてきました。


2 .一次予防:住民が紙芝居や演劇を使って一次予防としての心の健康づくりに取り組んでいる秋田県由利町や青森県鶴田町の活動事例
秋田県由利町では平成9年から地域内67集落のうち6集落をモデル地区として選び、青森県立精神保健福祉センターの精神科医師と共同でうつと自殺対策の1次予防活動を実施しています。そこでは精神科医師による心の健康づくりに関する講話に加えて、保健師らが配役を担当して「聞き耳ズキン」という紙芝居を上演しています。ある若者が森でズキンを発見し、それを頭に被ったところ鳥や動物の話がわかるようになります。そのなかで鳥やタヌキは、近くのばあ様を最近みかけなくなったことを心配して、タヌキの長老に相談しようと話しています。
また、青森県鶴田町では、地域協力員による鶴亀座という劇団が、演劇を通して住民の心の健康づくりとうつ病の一次予防に取り組んでいます。これは青森県の多くの町で住民が行っている身体疾患に関する健康劇団を、精神疾患の一次予防に活用したものです。
脚本は「人生いろいろ心もいろいろ−できることから始めよう心の健康づくり−」というテーマで町の保健師が書き、津軽弁で演じられます。演劇の内容は、鶴田家の一家の大黒柱である亀太郎さんが経済的にも、年齢的にも苦悩が絶えずうつ病にかかってしまうというもので、劇を通してうつ病の治療や心の健康づくりをみんなで考えようという設定になっています。亀太郎は、りんごや米の収穫も打撃をうけ、一升瓶の酒を朝からのみ、うつうつとしています。その様子を見て心配した家族や近隣の人、地域協力員が病院への受診を説得しますが、亀太郎はガンとして応じようとしません。しかし、いろいろな人と話しているうちに亀太郎の気持が次第に変化して、ついに受診を受け入れ、みなが大喜びするという話で、会場の参加者は笑いながらうつ病の問題や対処の仕方をいつしか身につけてしまえるように構成されています。


3 .二次予防:一次スクリーニングをきっかけに住民の受診とその後の治療を援助した鹿児島県の保健所の活動事例
保健所保健師が、うつスクリーニングを実施することにより、家族や本人も意識していなかった重症のうつ病を発見し、精神科受診勧奨を行い、その後も精神科診療所、保健所、町保健師の連携による継続的な支援により、電話相談や訪問による自殺行動の予防等、治療の成果を上げることができた事例です。
1 )スクリーニングから受診勧奨まで
事例は、夫や子供と一緒に生活している30代の主婦です。町のレディース健診結果報告会で実施したうつ1次スクリーニングで陽性であったことから、結果報告会終了後に会場個室で保健所保健師が面接を実施しました。
その女性は近所に住んでいる姑との関係に悩んでおり、昨年、体調が悪く寝込んだときには自殺や死を考えたこともあり、夫は育児には協力的ではあるが、考えすぎだと言って本人の話を聞こうとしないということがわかりました。
保健師は、充分に時間をかけて本人の話に耳を傾け、つらいときには保健所や町の保健師に相談するように助言しました。そして、保健所、町保健師、看護師によるミーティングでこの事例について報告し、状況によっては保健所と町とで協力連携する必要があることを確認しました。
2週間後、保健師が家庭訪問してうつ2次スクリーニングの面接を実施したところ、抑うつ症状が強いことがわかりました。そのとき、その女性は、「このままではよくない。受診した方がよいと思っている。」と話しました。こうしたことを受けて保健師は女性にうつ病について説明し、精神科診療所を紹介しました。
2 )受診後の経過
女性は夫の了解を得た後に精神科診療所を受診しました。家庭訪問から1ヶ月後のことです。診療所では、重症のうつ病と診断されて治療が開始されました。この経過の中で保健師は、服薬継続の必要性について説明し、困ったときにはいつでも相談するように伝えました。
精神科診療所受診後、症状は若干改善しましたが、2ヶ月後には再び精神的に不安定になり、不眠のために夜中アルコールを飲むようになり、ある日のこと、アルコールと一緒に薬を大量に服用しました。彼女は「死のうとは思わないがつらさを理解してもらいたかった。」と、このときのことについて話しています。
保健師は、主治医と連携をとりながら姑や夫との家族調整を行い、町の保健師とも協力して訪問相談を継続しました。その後、次第に落ち着きを取り戻しています。


4 .三次予防:リエゾンナースを導入して地域と医療機関とが連携している岩手県立久慈病院精神科の活動事例
岩手県立久慈病院精神科では、「自殺多発地域における中高年の自殺予防を目的とした地域と医療機関の連携による大規模研究」(厚生労働科学研究研究費補助金こころの健康科学研究事業)の一環として、リエゾンナース活動を開始しました。総合病院で一般に行われるコンサルテーション・リエゾン精神医療は身体疾患を持つ患者に対する精神医学的援助を目的として行われるものですが、ここではそれに加えて、患者や家族の心の健康問題に対する支援を図るなど、地域との連携も視野に入れて活動しています。
リエゾンナースの導入は、職員への事前アンケートや院内研修会により事前に院内に広報し、さらに精神科医師の病棟回診に同行して病棟スタッフとコンタクトを持って病棟スタッフにリエゾンナースの運用方法を理解してもらいながら、円滑に行われました。実際の業務を次に挙げてみます。
(1) 精神的危機が生じる可能性がある入院中の患者や家族の精神的ケアに携わります。病棟スタッフと協力しながら、病気のために体が思うようにならない患者のもどかしさや、将来への不安や悩みに対して心理的援助を行います。
(2) 患者が地域の社会資源を運用できるように、関係機関と連携をとり援助します。患者や家族は、知識が十分にないために社会資源を有効に利用できていないことがあり、退院後の療養や生活に対する不安を感じている場合があるためです。
(3) 地域で暮らす外来患者の電話相談にも対応します。



資料1:うつ病について

うつ病とは
うつ病というのは、気分がひどく落ち込んだり何事にも興味を持てなくなったり、おっくうだったり、なんとなくだるかったりして強い苦痛を感じ、日常の生活に支障が現れるまでになった状態です。こうしたうつの状態は、日常的な軽度の落ち込みから重篤なものまで連続線上にあるスペクトラムとしてとらえられていて、原因についてはまだはっきりとわかっていません。うつ病のときのつらい気持ちを言葉で表現するのはとても難しいのですが、うつ病にかかっているある女性は、悲しくて苦しくて涙がこぼれ落ちそうになる直前に胸が強く締めつけられるようになる、そうした状態がずっと何日も、場合によっては何ヶ月も続いているようなものだと語ったことがあります。
うつ病は、以前は内因が関与している内因性うつ病と、心因が強く関与している心因性うつ病ないしは神経症性うつ病とに分けて考えられていましたが、現在はそうした原因がはっきりしないことや、内因性うつ病でも発症のきっかけとなる心因があることが多いことから、症状の形で分類されるようになりました。
それには、精神的に活発になりすぎていろいろな問題が出てくる躁の状態を体験したことがある双極性障害(以前の躁うつ病)と、抑うつ症状だけを体験する大うつ病性障害major depressive disorder(中核的なうつ病)、比較的軽い症状が長期間続いている気分変調性障害 dysthymic disorderなどがあり、全体を気分障害と呼びます。

症状
うつ病の基本的な症状は以下のようなものですが、大うつ病性障害と診断されるためには、このなかのうつ気分または興味や喜びの喪失のどちらかの症状を含む5つ以上の症状が存在している必要があります。しかもそれに加えて、期間(ほとんど毎日1日中、2週間以上持続)と障害の強さ(症状のために精神的ないしは社会的な障害が生じている)の基準を満たす必要があります。
また、症状数が2から4の場合に小うつ病性障害、大うつ病性の基準を満たさないうつ病症状が2年以上持続している場合に気分変調性障害と診断することになっています。

気分障害の分類
双極性障害
うつ病性障害
大うつ病性障害
小うつ病性障害
気分変調性障害

うつ病の症状
(1) 強いうつ気分
(2) 興味や喜びの喪失
(3) 食欲の障害
(4) 睡眠の障害
(5) 精神運動の障害(制止または焦燥)
(6) 疲れやすさ、気力の減退
(7) 強い罪責感
(8) 思考力や集中力の低下
(9) 死への思い

この他に、身体の不定愁訴を訴える人も多く、精神病症状が認められることもあります。こうした症状の詳細については資料2:二次スクリーニングの際の面接のポイントを参照してください。

頻度
わが国の地域の住民がうつ病を体験する頻度は、平成14年度に無作為抽出された1,664人の住民を対象に行われた厚生労働省研究班の調査(「こころの健康に関する疫学調査の実施方法に関する研究(主任研究者吉川武彦)及び同特別研究事業「こころの健康問題と対策基盤の実態に関する研究」(主任研究者 川上憲人)」によれば、DSM-IV(米国の診断基準)による大うつ病性障害の12ヶ月有病率(過去12ヶ月間に診断基準を満たした人の割合)は2.2%、生涯有病率(調査時点までに診断基準を満たしたことがある人の割合)は6.5%、ICD-10(世界保健機関の分類)診断によるうつ病の12ヶ月有病率は2.2%、生涯有病率は7.5%であり、これまでにうつ病を経験した人は約15人に1人、過去12ヶ月間にうつ病を経験した人は約50人に1人でした。また、うつ病の平均発症年齢は20歳代でした。

危険因子
うつ病は女性に多くみられますが、これは女性ホルモンの増加、妊娠、出産など女性に特有の危険因子や男女の社会的役割の格差などが男女差の原因として指摘されています。うつ病の平均初発年齢は20-30歳の間で、一般には若年層に高頻度にみられます。また、海外では低学歴、低収入・貧困、無職者にうつ病が多いとされていますが、わが国の調査では社会経済要因との関連ははっきりと証明されていません。
そのほか、海外では、養育体験、最近のライフイベンツ(離婚、死別、その他の喪失体験)、トラウマになるような出来事(虐待、暴力など)、社会的支援、性格傾向(神経症傾向など)がうつ病の危険因子として報告されていますし、急速な都市化が影響するという可能性も指摘されています。

受診行動
平成14年度に上記の研究班が行った大規模疫学調査では、DSM-IVによる大うつ病の生涯経験者のうちこれまでに精神科を受診した者は18%、一般診療科を受診した者は8%、いずれかの医師を受診した者は25%でした。過去12ヶ月間の経験者では、11%が精神科を、3%が一般診療科を過去12ヶ月間に受診していました。

個人及び社会への影響
うつ病にかかると著しい精神的な苦痛を体験しますし、その程度にかかわらず社会的な機能が低下し、日常生活に支障が生じますし、自殺の危険性も高まります。虚血性心疾患、糖尿病、骨粗鬆症などの一般身体疾患にかかる危険性も高まることもわかっています。米国ではうつ病による経済的損失は年間530億円と推定されています。

経過
うつ病にかかっても数ヶ月で症状が治まる人が多いのですが、大うつ病性障害と診断された人の40%が1年後になお大うつ病エピソードの診断基準を満たしており、それ以外でも20%の人が何らかの抑うつ症状を呈していたという報告もあります。いったん改善しても約60%が再発しますし、2回うつ病にかかった人では70%、3回かかった人では90%と再発率は高くなります。
米国では、うつ病にかかった人で完全に症状が消失する人は3分の2、症状が変わらないか軽くなるだけの人は3分の1であると言われています。入院経験のあるうつ病の人を15年間追跡調査をした英国やオーストラリアでの研究では、その後一度も再発しなかった人が2割、症状が変わらない人や自殺で命を落とす人が2割、再発を繰り返す人が残りの6割だと報告されています。
このようにうつ病は長期に持続する疾患であり、早期発見が大切であるだけでなく、長期にわたってのケアが必要な病気でもあり、地域での援助が非常に重要になってきます。例えば、新潟県松之山町ではうつ病のスクリーニング、専門家による診断面接、診療所医師による治療と保健師によるケアを10年間実施し、10万人対自殺率が434.6から123.1に減少しました。岩手県の浄法寺町でも同じような成果が報告されています。

治療
うつ病の治療は、薬物療法などの生物学的治療、精神療法、環境調整の3本柱で行います。
1 )生物学的治療
生物学的治療には薬物療法や電気けいれん療法があります。電気けいれん療法は最近では麻酔下で無けいれんで行う手法が使われることが多く、症例によってはきわめて効果的です。
薬物療法は、これまで使われてきた三環系抗うつ薬や四環系抗うつ薬に加えて選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)が使用可能になり、治療薬の選択の幅が広がりました。薬物療法では次の各点に注意する必要があります。
(1) 服薬を始めてすぐに効果が現れるわけではなく、一般に1週間から3週間の期間が必要です。
(2) 薬物療法の効果を上げるためには十分な量をきちんと服薬することが重要です。慢性化している例ではきちんと服薬していない例が多いと報告されています。SSRIでは急激に中止するとインフルエンザ用の症状がでることがあります。この薬剤に限らず、中止するときには医師と相談しながら徐々に減量していくことが必要です。
(3) 症状が改善した後も服薬を続けることが必要である。前述したようにうつ病の再発率は高いのですが、効果が出たときと同じ量の薬を服薬し続けていると再発率が低くなります。ですから、初発の場合にはうつ病改善後半年から1年、同じ量の抗うつ薬を服用することが勧められます。また、3回以上再発している場合などには、高血圧などと同じように、一生にわたって服薬することが望ましいとされています。
2 )精神療法
精神療法(心理療法)のなかでうつ病に対する有効性が確認されているものに、認知療法と対人関係療法があります。こうした精神療法の具体的な方法の詳細については成書をご参照下さい。認知療法は、認知、つまり現実の受け取り方や考え方が私たちの情緒状態に影響を与えるという理解にもとづいて、悲観的すぎる認知をより現実的なものに修正し、問題解決を手助けすることによってうつ病を治療しようとするものです。とくに、うつ病の場合には、自分自身に対して、周囲との関係に関して、そして将来に対して極端に悲観的になっており、その悲観的な考えがますます気分を沈み込ませることになっていることから、現実的な問題に目を向けながら悲観的すぎる考え方を修正することになります。対人関係療法は、対人関係のつまずきがうつ病の誘因や持続因子になっていることが多いことから、対人関係の問題の解決を通してうつ病の治療を図ろうとするものです。とくに、精神的に重要な位置を占めている親しい人との別れや意見の食い違い、役割の変化に伴う人間関係の変化、対人関係の持ち方のスキルの問題に焦点づけて精神療法が行われます。
3 )環境調整
うつ病の発症に環境要因が影響していることはすでに述べた通りですが、治療に際してはそうした環境のマイナス要因を解決することも重要になります。その場合には、地域や家庭、職場の人間関係やストレスなど総合的な視点から検討する必要があります。また、それとともに、心の健康に関する日常の啓発活動も重要な役割を果たします。

補足:双極性障害
気分障害は、うつ病性障害(単極性うつ病)、双極性障害、一般身体疾患による気分障害と物質誘発性気分障害とに分けられます。このマニュアルで主に挙げたものはうつ病性障害ですが、躁症状がある双極性障害(いわゆる躁うつ病)でもうつ病と同じような抑うつ症状が現れます。
しかし、双極性障害ではうつ病とは違った治療が必要になりますので注意が必要です。とくに重要なのが薬物療法で、双極性障害は気分安定薬(炭酸リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピン)をおもに使って治療します。双極性障害に抗うつ薬を安易に使用すると効果がないばかりか、うつ病相と躁病相を頻繁に(年4回以上)繰り返し治療が困難な急速交代型と呼ばれる状態になる危険性があります。
以下に躁病エピソードの診断基準を示しますが、軽い躁状態の時にはただ元気が良いだけだと受け取られて見落とされがちですので注意しなくてはいけません。いつも以上に元気で、そのために軽いトラブルが続いているようでしたら双極性障害の可能性がありますので、主治医に相談するように勧めてください。


しかく躁病エピソードの特徴的症状
1 )気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的または易怒的ないつもとは異なった期間が、少なくとも1週間持続する(入院治療が必要な場合はいかなる期間でもよい)。
2 )気分の障害の期間中、以下の症状のうち3つ(またはそれ以上)が持続しており(気分が単に易怒的な場合は4つ)、はっきりと認められる程度に存在している。
(1) 自尊心の肥大、または誇大
(2) 睡眠欲求の減少(例えば、3時間眠っただけでよく休めたと感じる)
(3) 普段よりも多弁であるか、喋り続けようとする心迫
(4) 観念奔逸、またはいくつもの考えが競い合っているという主観的な体験
(5) 注意散漫(即ち、注意があまりにも容易に、重要でない関係のない外的刺激に転導される)
(6) 目標志向性の活動(社会的、職場または学校内、性的のいずれか)の増加、または精神運動性の焦燥
(7) まずい結果になる可能性が高い快楽的活動に熱中すること(例えば、制御のきかない買い漁り、性的無分別、馬鹿げた商売への投資などに専念すること)

参考資料
大野裕.「うつ」をなおす.PHP新書.
大野裕.こころが晴れるノート.うつと不安の認知療法自習帳.創元社
大野裕.地域におけるうつ対策検討会第1回資料
川上憲人.地域におけるうつ対策検討会第1回資料



資料2:二次スクリーニングの際の面接のポイント
次に、うつ病の症状の特徴と質問例を挙げてみます。

うつ病の特徴的症状と質問の仕方

しかくうつ病の9つの症状
1) うつ気分
「気持ちが沈み込んだり、憂うつになったりすることがありますか」
「悲しくなったり、落ち込んだりすることがありますか」
「うつ病」の人は、気持ちが沈み込んで憂うつになっていることがよくあります。「憂うつだ」「悲しい」「何の希望もない」「落ち込んでいる」と思い悩んでいるのです。人によってはこうした気持ちを表立って口にしないこともありますが、いまにも泣き出しそうな印象や、憔悴しきった雰囲気から気づかれることもあります。こうした症状は午前中にひどく、午後から夕方にかけて改善してくることがよくあります(後述;症状の日内変動参照)。
このように憂うつな気分を感じているときには、身体の痛みや倦怠感などの身体の不調が出てきたり、イライラ感が強くなって怒りっぽくなったりすることがあり、それが性格の問題と間違われてうつ気分が気づかれにくくなることがあるので注意しなくてはなりません。

2) 興味や喜びの喪失
「仕事や趣味など、普段楽しみにしていることに興味を感じられなくなっていますか」
「今まで好きだったことを、今でも同じように楽しくできていますか」
これまで楽しんでできていた趣味や活動にあまり興味を感じられなくなった状態です。何をしてもおもしろくないし、何かをしようという気持ちさえ起きなくなってきます。友達と会って話すのが好きだったのに、会ってもおもしろくないし、かえってうっとうしくなってきます。運動が好きだったのに熱中できませんし、テレビでスポーツ番組やドラマを見てもおもしろくありません。音楽を聴くのが好きだった人が、好きな音楽を聴いてもちっとも感動しません。性的な関心や欲求も著しく低下してきます。このように何をやってもおもしろくないので、自分の世界に引きこもるようになってきます。その変わりぶりは、まわりの人から見れば、あんなに喜んでやっていたものをなぜやらなくなったんだろうと不思議に思えるほどです。

3) 食欲の減退または増加
「いつもより食欲が落ちていますか」
「減量しようとしていないのに、体重が減っていますか」
「いつもよりずっと食欲が増えていませんか」
「食欲が非常に増進して、体重が増えていませんか」
一般にうつ病では食欲が低下してきます。一方、それとは逆に食欲が亢進することもあり、甘い物など特定の食べ物ばかりほしくなることもあります。食欲がなくなった人は「何を食べても、砂を噛んでいるようだ」「食べなくてはいけないと思うから、口の中に無理に押し込んでいる」と訴えることがよくあります。あまりに食欲がなくなって、一ヶ月に4キロも5キロも体重が減少してしまうこともあります。

4) 睡眠障害(不眠または睡眠過多)
「睡眠の状態はいかがですか」(導入質問)
「ほとんど毎晩眠れないということがありますか。寝つきが悪かったり、夜中に何度も目が覚めたり、非常に朝早く目が覚めたりしますか」
「眠気が強くて、毎日眠りすぎているということがありますか」
うつ病では不眠がよく現れます。寝つきが悪くなるだけでなく、夜中に目が覚めて寝つけなくなったり、朝早く目が覚めてしまったりするのです。悪夢にうなされることもよくあります。
とくに朝早く目が覚めるのはうつ病に特徴的で、「午前三時症候群」と呼ぶ人もいます。いつもよりずっと早く目が覚めてしまうのです。しかも、うつ病にかかっている人は、このように早く目が覚めたからといってすぐに起きあがれるわけではなく、布団のなかで悶々と思い悩んでいることがよくあります。
逆に、夜の睡眠が極端に長くなったり、日中も寝てばかりいるといった過眠症状が現れることもあります。

5) 精神運動の障害(強い焦燥感・運動の制止)
「話し方や動作が普段より遅くなっていて、それを人から指摘されるということがありますか」
「じっとしていられず、動き回っていたり、じっと座っていられなかったりすることが多くなっていますか」
うつ病になると、ほかの人から見てもすぐにわかるほど身体の動きが遅くなったり、口数が少なくなったり、声が小さくなったりすることがよくあります。このような状態を、専門的には精神運動制止と言います。
また、逆に、じっと座っていられないほど焦燥感が強くなったり、イライラして足踏みをしたり、落ち着きなく身体を動かしたりするようになることもあります。このように焦燥感が強くなっているときにはつらさを何とかしたいと焦って話し続けたりしますので、表面的には元気そうに見えてしまい、うつ病だと気づきにくいので注意しなくてはなりません。

6) 疲れやすさ・気力の減退
「いつもより疲れやすくなっているとか、気力が低下しているとか、感じることがありますか」
ほとんど身体を動かしていないのにひどく疲れたり、身体が重く感じられたりすることがあるのもうつ病の症状の一つです。気力が低下して何をする気もおきなくなりますし、洋服を着るといった日常的なことにさえ時間がかかるようになります。何とかしなくてはならないと気持ちだけは焦るのですが、それをするだけのエネルギーがわいてこないのです。

7) 強い罪責感
「自分は価値のない人間だと感じたり、悪いことをしたと罪悪感を感じたりしていますか」
うつ病になると、ほとんど根拠なく自分を責めたり、過去の些細な出来事を思い出しては悩んだりするようになります。一つのことをくよくよ考え込んで、何回も何回もほかの人に確認をしたりするようになることもあります。こうした状態が進むと、会社のプロジェクトがうまく進まないことや、不況のために会社の成績が落ちていることまで自分の責任のように思えたり、不況になったことまで自分のせいだと妄想的に思いこむようになったりもします。

8) 思考力や集中力の低下
「なかなか物事に集中できなくなっている、ということがありますか」
「普段より考えが遅くなったり、考えがまとまらなくなったりしていますか」
「普段なら問題なく決められることが、なかなか決められなくなっていますか」
注意が散漫になって、集中力が低下してくることがあります。そのために仕事が以前のように進まなくなったり、学校の成績が落ちたりするようになります。また、決断力が低下して、大したことでなくてもあれこれ考えて何も決められなくなります。中年の人は、自分がボケてきたのではないかと心配していたりします。また、高齢者の場合には実際に痴呆のように見えることがあります。しかし、真の痴呆と違って、抑うつ状態による痴呆様の症状は治療によって改善するために、仮性痴呆と呼ばれています。
しかし、逆に、痴呆状態がうつ病と間違えられることもあるので注意が必要です。痴呆の場合も、何となく元気がなくなり、記憶力が衰えてくるので、うつ病ではないかと思われるのです。また、高齢者の場合にはうつ病を契機に痴呆を発症してだんだんと症状が進んでくるということがあるので注意が必要です。

9) 自殺への思い
「死について何度も考えるようになっていますか」
「気分がひどく落ち込んで、自殺について考えるということがありますか」
うつ病になると、気持ちが沈み込んでつらくてたまらないために死んだ方がましだと考えるようになってきます。欧米の研究では、入院が必要なほどのうつ病にかかった人の15パーセントが自殺で命を落としていることがわかっています。うつ病のときには自分の気持ちを抑える力が弱くなっていますから、普通のときなら考えられないような思い切った行動をすることが多くなるのです。
一般的には、うつ病が少し良くなったときに自殺の危険性が高くなるといわれています。気分が沈み込んで何をする元気もなくなっているときには、死のうと思ってもそれを実行に移すだけの元気さえ出てきません。しかし、少し症状が良くなると、死にたいと考えれば、その気持ちをすぐに行動に移せるようになります。
しかも、こうしたときには本人の気持ちとまわりの人の考えとが食い違いやすくなっています。症状が良くなってくると、外見上は元気に見えるようになるのでまわりの人は安心してしまうのですが、抑うつ症状が強かったときのつらい記憶は簡単に消えないために、本人は良くなったという自覚をもてないことが多いからです。こうした食い違いがあると、本人は誰にもわかってもらえないと絶望的になり、自殺を考えやすくなります。

しかくその他の抑うつ症状
身体症状
うつ病のために、痛みや倦怠感などの身体の不調が現れたりすることがあります。頭痛や腰痛などの症状は、とくによく見られるものですます。重く締めつけられるような頭の痛みはうつ病の人に特徴的といわれ、教科書的には鉢をかぶったような重さだと表現されることがあります。このほかにも、肩こりや体の節々の痛み、食欲不振や胃の痛み、下痢や便秘などの胃腸症状、発汗、息苦しさなど、さまざまな症状が現れてきます。
こうした身体症状が存在すると、私たちはつい身体のことを心配するために精神的な面を見逃してしまいがちです。身体症状のために、憂うつな気分が目立たなくなるのです。こうした状態は、抑うつ症状が身体症状の仮面に隠れているという意味で「仮面うつ病」と呼ばれることがあります。

症状の日内変動
うつ病の症状は、一般に朝に悪化し、午後から夜にかけて徐々に改善するという日内変動が見られることがよくあります。人によっては夕方から夜にかけて元気になるために、「ずっと落ち込んでいるわけではないから、うつ病じゃなくて、気分の問題なんだ」と考えることもあります。しかし、これはうつ病の日内変動(という特徴)で、気分の問題ではないので、軽く考えすぎないように注意しなくてはなりません。

精神病症状
大部分のうつ病は精神病ではありません。しかし、妄想などの精神病症状を持つ場合などは精神病性うつ病とか妄想性うつ病と呼ばれ、病気の自覚がなくなるため、入院治療が必要になります。
自分が重大な罪を犯したと思い込む罪業妄想、貧乏になったと確信する貧困妄想、がんなどの重い病気になったと信じ、検査結果で心配ないと話しても訂正不能の心気妄想、何をしても無駄だと治療を拒否したり、拒食から衰弱する虚無妄想などがうつ病に特有な妄想で、躁病の誇大妄想に対して、微小妄想と総称されます。それ以外にも被害妄想や自分が周りの人から避けられていると信ずる忌避妄想もあります。幻聴は一般的にはないのですが、時にみられることもあります。
まれに昏迷といって、問いかけや刺激に反応しない、無言で動きの乏しい無反応状態がみられます。意識はあって、その間の記憶もありますが、意思や感情の表出ができなくなっているのです。ぼんやりとして、動きと反応が鈍い程度の軽いものは時々みられます。

しかく 「いつもと違う」状態に気づく
このようにうつ病は自覚しにくいし、まわりで見ていてもわかりにくい病気です。しかし、治療すれば良くなる病気ですので、早めに見つけて治療することが大切になります。早くに見つけるために注意すべき点は、日常生活において、いつもと違う状態が続き、本人か周囲の人の生活に支障がでてくる、ということです。



資料3:対象別にみたうつ対策
対象集団の特性に基づいてうつ対策の特徴を考えてみることも大切です。

1 . 高齢者
わが国の65歳以上の高齢者におけるうつ病の有病率に関しては、時点有病率(調査時点で診断基準を満たしている人の割合)が0.9%、6ヶ月有病率(過去6ヶ月間に診断基準を満たした人の割合)が男性2.1%、女性で3.7%、12ヶ月有病率(過去12ヶ月間に診断基準を満たした人の割合)2.3%〜4.8%と報告されています。また、他の先進国と比べて、わが国の高齢者の自殺率は高い傾向にあり、自殺予防、うつ対策にとって重要と考えられています。
高齢者は、身体面では老化による身体の衰えを感じ、なんらかの病気を患うことも多く、死を差し迫ったものとして意識することもあるでしょう。社会面では退職や老化に伴う仕事の喪失、家族や社会との交流の減少、家族内役割の喪失を経験しています。今までできていたことができなくなり、他人に頼らなければならないことへの自己嫌悪や罪悪感をもつこともあるでしょう。さらに高齢者は、配偶者との死別、友人や近隣者の死といった身近な人や親しい人の喪失を経験しています。このような高齢者の老化やライフイベントに伴う身体的、心理的、社会的体験は、閉じこもりなど社会からの孤立につながり、うつ病の引き金となります。

ハイリスクな高齢者の状況
死にたいと言っている(家族にほのめかしている)
最近、配偶者や親しい人が死亡した
最近、医療機関を退院した
過去にうつ病の既往がある
最近、親族や近隣者が自殺した
家に閉じこもりがち
外出の機会や他者との交流が少ない

死や自殺を考えている高齢者は少なくないと考えられますが、高齢者が他者に相談することは少ないでしょう。うつ病の普及・啓発活動やスクリーニングなどの保健活動は、高齢者自身の抑うつ状態に対する気づきを高めますし、相談や受診しやすい地域づくりのためにも重要です。
とりわけ高齢者の場合には、閉じこもりや社会的な孤立を予防し、気晴らしができたり自身の健康や生きがいづくりにつながるような「人との関係をつなぐ」場づくりが必要です。既存の介護予防事業を継続するだけでなく、介護予防事業の参加条件を緩和したり、身近な地域に誰もが気軽に立ち寄ることができ、他者と交流できるような場づくり検討するなど、高齢者誰もがいつでも社会と「つながる」ことができる機会を考えてみましょう。
高齢者がいつでも相談できる機会も必要です。特にハイリスクな状況にある高齢者については、訪問などを通して状況を把握すると共に、高齢者と家族がいつでも相談できる関係づくりをしていくことも大切です。また、民生委員や保健推進員などによる地域の声かけ、見守りネットワークを活用できますが、この場合、高齢者とその家族のプライバシーの保護には十分留意しましょう。

高齢者に対する特徴的なうつ対策
介護予防、閉じこもり予防、生きがいづくりのためのグループ活動
ハイリスクな高齢者及び家族に対する相談・訪問活動


2 . 中壮年者
近年の経済不況に伴うリストラ、経済苦から中壮年者の自殺は増加しているといわれます。地域での普及・啓発、スクリーニング、相談等活動の充実と共に、職域の産業保健スタッフと連携することも重要です。地域の心の健康に関する相談窓口やうつスクリーニング、及び受診や治療体制について職域の担当者に情報を提供したり、勤労者が職場内での相談やスクリーニングに抵抗がある場合には、地域の相談窓口やスクリーニングの利用を勧めたりすることも考えられるでしょう。また、うつ病あるいはうつ病の可能性のある中壮年者がわかれば、当事者の家族と共に地域で支援することもできるでしょう。


3.女性
1 )更年期
女性の更年期は、身体面では加齢や更年期障害による身体症状が出現し、社会面では子供の自立、老親の介護、仕事の転機などさまざまな変化が起こる時期です。このような身体の変調、喪失体験、ストレスが重なることでうつ病を発生する可能性があります。とくに更年期の女性の場合、典型的な抑うつ症状だけでなく、めまい、耳鳴り、肩こり、便秘など多彩な症状を呈する場合があるといわれます。
更年期の女性の場合はとくに、相談やスクリーニングの場面においてさまざまな症状の訴えがある場合は、その人の最近の生活の変化や出来事などを聞いてみることが大切です。また、婦人科検診や更年期に関する健康教室等で、心の健康やうつについての健康教育を行ったり、ストレス対処能力向上のための教室等を紹介することもできるでしょう。

2 )子育て中の女性
子育てのストレスは非常に大きいものです。子どもは自分の思い通りにはいかず、振り回され、母親である女性自身の生き方、生活ができずに、子ども中心の生活になります。子育てについて家族など周りからのサポートがない場合には、育児ストレスを解消できずうつ傾向になる可能性もあります。また特に働きながら子育てをしているワーキングマザーの場合には、子育ても仕事も完璧にこなそうとして、それができないために抑うつ状態になる場合もあります。
乳幼児健診や乳幼児相談の場で、母親の訴えに耳を傾けるとともに、母親の表情や子供とのかかわりを観察しましょう。心配な場合は、乳幼児健診の事後の相談の場で、また家庭訪問するなどして面接し、心の健康状態を把握すると共に、夫やその他の家族との関係、生活の困難さ、育児の支援状況などの生活状況なども把握し、うつ病の可能性がある場合には早期に受診につなげましょう。育児の負担を軽減し、安心感や楽しみが得られるような働きかけも必要でしょう。

子育て中の女性に対する特徴的なうつ対策
乳幼児健診及び乳幼児相談時のスクリーニング、観察
子育て支援体制、子育てグループづくり

3 )産後うつ病
出産直後はうつ病にかかる女性が多く、日本では出産した女性のうち、軽度なものを含めると13.4%に産後うつ病がみられたとの報告があります。また、何となく涙もろくなったり、気分が沈んだりして、ほぼ一週間以内に改善する一過性の気分の障害であるマタニティーブルーズは周産期の女性の20〜30%にみられます。
産後うつ病は早期に発見し、治療を開始することが大切です。産後うつ病の発見には出産した医療機関での入院期間中や、新生児訪問が最も重要な機会となります。その際、医療機関の医師、助産師等との連携が重要です。産後のメンタルヘルスを評価する能力を養い、異常の早期発見に努めましょう。子どもの乳児健康診査で把握することも大切です。また、母親のうつ病の既往の有無も大切です。うつ病の既往のある場合には、産後うつ病のリスクが高くなりますので出産後、特に注意して関わる必要があり、異常の早期発見に努めます。母親が産後うつ病と診断され、治療を開始している場合には、母親の状態や治療状況、育児や生活状況を把握すると共に、家族に本人への対応の仕方を助言したり、育児の支援体制を整えるなどの関わりが重要になります。

産後うつ病発見の機会
新生児訪問
3〜4ヶ月乳児健診

4 .在宅要介護者及び療養者の家族介護者
在宅要介護者及び療養者の家族介護者もうつ病のハイリスクの一つです。要介護者及び療養者を自宅で24時間介護することは身体的にも精神的にも非常に負担が大きいものです。介護者自身の生活や生き方も制約されます。とくに、痴呆高齢者の介護者の介護負担感は大きいといわれています。
在宅要介護者及び療養者の家庭訪問の際には、当事者だけでなく、その介護者の身体的健康状態や心の健康状態も観察する必要があります。また、介護者に心配事があった場合の相談窓口を紹介すると共に、心配なことがあったらいつでも相談にのることを伝えます。地域で行われる健診や行事で介護者を見かけたときには、心配事がないか、身体の状態に変わったことはないかなど声をかけます。このような日頃の関わりにより、介護者の身体的精神的変化に気づくことができますし、介護者も心配事があった場合には保健師に相談する気持ちになるでしょう。また、介護者のつらい体験を語り合える介護者のセルフヘルプ・グループを紹介したり、介護者のストレスの状況によっては、介護者に自分自身が休養をとることができるような要介護者あるいは療養者に対するサービス利用を勧めてみることも大切です。

5 .小児期・思春期のうつ病
最近は小児でもうつ病にかかることがわかっています。しかも、小児期や思春期のうつ病は、本人が自分の気持ちをうまく表現できなかったり、イライラ感やひきこもりなどの行動上の問題が前面にでたりするために周囲に気づかれにくい場合があります。学校関係者と連携しながら教育場面でストレスやメンタルヘルスについて教育・啓発活動をすることが、精神疾患に悩む子どもたちに対する援助のためにも、またそれ以外の子どもたちの心の健康の向上のためにも役に立ちます。



資料4:本人支援のための具体的アプローチ
1.基本的な対応−信頼関係を築くために
1 )時間も場所もゆとりを持ったところで話を聞く
うつ病にかかっている人の多くは、うつ気分、自責感、焦りなどを感じています。また、疲労感のため口数も少なくなり、集中力も低下しています。あわただしい雰囲気や窮屈な所では、自分の気持ちを話すことが困難になります。時間的にも、空間的にもゆとりのあるところで話を聞きましょう。また、座る椅子の位置にも配慮し、近すぎず、遠すぎず、安心して話ができるように配慮しましょう。真正面ではなく、視線が少し斜めになる方が話しやすい場合もあります。早く何とかしなくてはならないと焦って早口になったり、声が大きくなったりしないように気をつけて、間合いをゆっくりととりながら話すようにしましょう。うつ病にかかっている人は言葉数が少なくなることがありますから、沈黙がちになっても気にしすぎないようにしましょう。

2 )プライバシーには十分配慮する
他人に聞かれるかもしれないところでは安心して話すことができないのは当然のことです。また、精神科や精神疾患については今なお誤解や偏見が根強く残り、隠したいという気持ちが強いことも少なくありません。「ここで話されたことは、あなたのご了解なく他の人に伝えることはありません。安心してお話しください。また、話したくないことは無理にお話しいただく必要はありません」などと説明して、プライバシーに配慮している旨を伝えましょう。

3 )つらい気持ちに共感しながら、話に耳を傾ける
まず、相手の気持ちに寄り添いながら話を十分聞くことに重点をおきましょう。話を聞くうちに、「それは少し違う」「もっとこうした方がよい」「この相談者はうつ病のことがわかっていない」など、様々な気持ちや考えが浮かんでくるかもしれませんが、まず、聞くことに努めましょう。相談者は、他人に相談すべきかどうかとか、こんなこと言ったらどう思われるかなど、悩んだ末に相談している場合もあります。「相談に来ていただいたことそのことがとても大事なことです」など、相談しようと思ったことをポジティブに評価することが重要です。十分に相手の、不安や悩みを受け止めてから、こちらの考えやアドバイスを少しずつ伝えることが大切です。相談者はある程度荷物を軽くしてからでないと、新しい知識を受け入れる余力はないと考えてください。

4 )励まさないで、相手のペースで話を進める
うつ病の場合、自責感や罪責感に苦しんでいることがよくあります。本人の気持ちとしては、「家族に迷惑をかけて申し訳ない」「自分がしっかりしないからだめなんだ」「もっとがんばらないと」などと感じていることになります。そんな状況で、「しっかりしろ、がんばれ」などといわれると、「やはり、がんばりが足りないんだ。もっともっとしっかりしなければ」と自分を追いつめることになります。時には、「これ以上がんばるなんて無理だ、自分はだめな人間なんだ」と思いつめ、「死ぬしかない」と考えてしまう場合さえあります。本人が十分にがんばってきたことを認め、受け入れ、相手の気持ちにより添いながら、「自分自身を責める必要は全くないですよ」という気持ちで接することが大切です。

5 )相手がいろいろな話ができるような形で質問をする
質問の仕方には、「はい」「いいえ」で答えるような質問(クローズド)と、自分の言葉で答えるような質問(オープン)があります。「眠れますか」「落ちこんでいますか」というような聞き方(クローズド)は、どうしても詰問調になりがちですので、「気分はいかがですか」「食欲はどうですか」というような聞き方(オープン)で、できるだけ相手が自分の気持ちを話しやすいように心がけるとよいでしょう。また、すぐに返事が返ってこないこともありますが、少し間をおいて待ってから、次の質問に移るのがよいでしょう。

6 )不明な点を質問しながら、具体的な問題点をはっきりさせて解決方法を一緒に考える
うつ病の症状には「頭が重い、ボーっとする」「考えがまとまらない」など集中力の低下があります。このため、話をしていても要領を得ない、話の内容がはっきりしない、何を伝えたいのかがわかりにくいことがあります。こんな時は、相手の言葉を言い直して「今お話しされたのは、しろまるしろまるということですか」「それは、しろまるしろまるということですね」「今一番困っておられるのは、しろまるしろまるということですね」などと質問したり、確認したりしながら進めるとよいでしょう。抑うつ状態の人はどうしても、過去のことを後悔し続けたり、自分のちょっとした失敗をひどく責めたりしがちなので、できるだけ、過去のことよりも、今後どうしていくのがよいかということを、本人と一緒に考えていく方がよいでしょう。


2 .うつ病についての理解を深める−医療機関への受診の勧め方のポイント−
1 )弱さや怠けではなく病気である
うつ病を「人間的な弱さ」、「気の持ちよう」、「性格的なもの」として捉えるのではなく、病気として捉えることがまず基本です。うつ病は病気であり、有効な治療法があり、治療すれば回復するということを伝えることになります。弱さや怠けと考えている限り、受診にはなかなかつながらないことになります。

2 )脳の神経系の病気で、ストレスなどが関係している
精神疾患というと、遺伝病、治らないというイメージが今なお根強くあります。脳の神経系の病気で、発症には心理社会的なストレスが関係し、薬物療法と精神療法によって神経の調節を図ることで回復するということを理解してもらうことが大切です。精神科の薬というと、特別な薬で、自分の精神を変えられてしまうのではないかという漠然とした不安を持っている方があります。病気のメカニズムと薬の効果を説明することで、病気への正しい理解につながります。
たとえば、人間の感情や思考は脳のなかの神経の働きで起こっていて、うつ病のときにはその神経と神経を結ぶ神経伝達物質と呼ばれる化学物質のバランスが崩れているといった説明をしてもいいでしょう。こうした説明は、「精神的に弱い人間がかかるものだ」といううつ病に対する偏見を和らげることにもなります。また、抗うつ薬などの精神機能に作用する薬剤に対する心配を軽くすることにもなります。
さらに、このような脳内物質の変化がおこるときには、「ストレス因子となるようなきっかけがある場合が多い」という話をします。こうしたストレス因子を理解しておくことは、環境調整などの社会的治療や、気持ちの整理など心理的な治療を行う上で重要です。もちろん、ストレス因子がある場合でも薬物療法は効果的ですから、治療はバランスよく総合的に行う必要があります。また、ときには、こうしたきっかけがない場合もあり、ストレスがないからといってうつ病を否定することはできないことも説明します。

3 )誰でもがかかる可能性のある病気である
うつ病が、心理社会的なストレスによる、脳の神経系の病気であるとすれば、ストレス社会と呼ばれる現代社会においては、誰でもがかかる可能性のある病気だと言えます。最近の疫学調査では、過去にうつ病にかかったことのある人は、15人に1人、過去1年間には、50人に1人がうつ病にかかっていると推定されています。

4 )うつ病のサインとは
うつ病には様々なサインが表れます。主なサインとしては憂うつな気分が続く、何事にも興味や喜びがわかない、疲労感が強くやる気が起こらないなどです。また、自信喪失、罪悪感、不眠などもよくみられます。また、食欲低下、体重減少、頭痛、頭重感、胃部膨満感など身体症状が中心に現れるときもあります。この場合は、内科を受診するものの「異常なし」と言われたまま、精神科受診に結びつかない場合が少なくないので注意が必要です。

5 )休養と治療で楽になる可能性が高い病気である
十分な休養と薬物療法、精神療法、環境調整などで回復する病気であることを伝えましょう。うつ病は治療可能な病気ですから、そのことをきちんと話して受診をすすめるようにしましょう。その際には、うつ病には「有効な治療法がある」し、「たくさんの選択肢のなかから」適切な治療法を選んで治療をすれば気持ちが楽になる可能性が高いと伝えます。
ただ、治療の経過は「人によってさまざま」なので、辛抱強く治療に取り組んでいってほしいということも話しておきます。また、うつ病は再発しやすい病気なので、良くなったからといってすぐに薬をやめたりするなど、「自己判断で薬を調節しない」で、「何でも相談するように」伝えるようにします。一般向けの啓発書を読むように勧めても良いでしょう。


3.精神科医療について説明する
1 )国民約60人に1人が、現在精神疾患で治療を受けている
厚生労働省の患者調査によれば、現在、精神疾患で治療を受けている人は、200万人を超えており、国民約60人に1人が受診していることになります。受診歴のある人を含めるとさらに多くの人が精神科を受診していることになります。「かかりつけの精神科医を持つようにしましょう」と言っても過言ではなく、精神科受診は決して特別のことではありません。

2 )うつ病の場合、ほとんどが通院治療で行われる
精神科の治療は、基本的には通院治療で行われます。ただ、重症で死にたいという気持ちが強い場合や経口摂取が困難な場合、環境を変えて気持ちを切りかえることが望ましい場合、診断や治療方針を再検討したほうが良い場合などには入院を考慮します。

3 )診療所や総合病院精神科など本人が受診しやすいところを気軽に早めに受診する
うつ病の場合も、他の内科疾患と同じように早めに受診することで、早期治療が可能です。本人の希望に応じて、診療所や総合病院精神科などを紹介して早めに受診してもらえれば、早く気持ちが楽になる可能性があります。


4.緊急性が高い場合
1 )自殺念慮(自殺をしたいと思うこと)が強いとき
将来を極端に悲観したり、自責感や罪責感から死について考えたりすることが多くなり、自殺企図(自殺を実行すること)に至る場合です。短期間であれば、家族の見守りなどが可能ですが、続く場合は入院も考慮されます。

2 )ほとんど食べす、衰弱が見られるとき
うつ気分や疲労感のために、極端に食欲が低下し、水分も十分に取れないような場合は緊急な治療が求められることがあります。また、昏迷状態といって、外界を認識しているにもかかわらず(意識障害ではない)ほとんど外界からの刺激に反応しない状態においても、経口摂取が困難となることがあります。この場合は、身体的な管理も含めた入院治療が必要となります。

3 )焦燥感(いらいら感)が激しいとき
うつ病による焦燥感から、いてもたってもおられないようになり、自分自身の行動がコントロールできず、破壊的な行動や暴力的な行動に至ることがあります。この場合も、状態によっては、入院治療が必要です。

4 )外来治療でなかなか良くならないとき
うつ病の治療は、ほとんどが通院治療で行われますが、症状が改善せず、診断や治療方針を再検討する必要がある場合、入院治療が必要です。

5 )自宅ではゆっくりと静養できないとき
うつ病の治療にはゆっくり、安静することが前提にあります。しかし、様々な理由で自宅がそのような環境にない場合、治療に専念するために入院治療が必要となります。


5 .薬の服用を躊躇している人への対応のポイント
1 )うつ病では脳の働きに変調が起きていて、薬が効果があることを説明する
うつ病は、「気の持ちよう」や「弱さ」からではなく、心理社会的なストレスを背景に脳の神経の働きの変調によって起こるものです。したがって、神経の変調を薬で調整することにより改善する可能性が高いことを説明します。

2 )薬の副作用に対する不安を取り除く
精神安定剤を始めとして精神科の薬に対しては、依存性を恐れて「癖になるのではないか」「量が増えて、ボケたようになるのではないか」などの心配を抱くことがあります。そうした人には、医師の指導を受けながら服用すれば癖になったり量が増えてしまう心配はないし、むしろ中途半端な量を飲んだり、飲んだり飲まなかったりすると症状が長引くことになるということを説明するようにしましょう。そして、身体に大きな問題が起こるような副作用はきわめてまれだということを理解してもらうことが大切です。
また、一般には、薬なんかに頼らないでお酒(アルコール)で気分を晴らすという人も少なくありません。しかし、アルコールは一時的に気持ちが晴れたとしても、物質としてはうつ病を引き起こしますし、眠りも浅くします。それに、向精神薬よりもずっと依存になりやすいですし、薬との相互作用で心身両面にいろいろな弊害をもたらします。ですから、けっしてお酒に頼らないように話しましょう。とくにこれは重要なことですが、うつ病とアルコール依存の併存は自殺の危険性を高めます。ですから、そうした依存性物質を用いた自己治療は避けるように指導することは重要です。

3 )薬に頼るのではなく、薬を上手に利用して生活をしやすくするように勧める
うつ病の治療において、薬の役割は大きいですが、決してすべてではありません。認知療法や対人関係療法などの精神療法、環境調整なども大切です。また、精神科の薬をのむと、「自分の考えが変えられてしまうのではないか」と自分の精神機能までがコントロールされるように思われて不安に感じる方もありますが、そのようなことはありません。薬は、骨折した骨を固定して安定させるギプスのようなもので、それをどのように利用するかが大切だと言うような形で助言を行うようにします。薬を上手に利用するつもりで服用し、うつ気分、疲労感、睡眠障害、食思不振などの改善を図ることで、生活がしやすくなります。
もちろん、薬ばかりに頼りすぎると、自分の力で問題を解決できなくなる危険性があり、望ましくありません。薬に対する期待感が強すぎて、薬を飲むとすぐに効果が現れて楽になるのではないかと考え、すぐに効かないとがっかりして飲むのをやめてしまう人もいます。ですから、抗うつ薬は飲んですぐに効果が現れるわけではなく、効果発現までに時間がかかることを伝えることも重要です。



資料5:スクリーニングの実践例

一次スクリーニング

1 .従事者への説明
保健所は、基本健康診査に従事する保健師・看護師・精神保健福祉士・事務職等を対象にうつクリーニング説明会を実施します。

目的: 健診に従事するスタッフに、うつスクリーニングや心の健康づくり対策の必要性・重要性についての理解を深めてもらい、心の健康づくりに対する気運を高めます。

2 .一次スクリーニングテスト「心の健康度自己評価票」の配布
一次スクリーニングテストは、基本健康診査の健診票とともに事前に受診者に配布します。こうすると、受診者が精神面の健診についても、特別のものととらえるのではなく、身体面の健診と同様に受診するという意識が生まれやすくなります(マニュアル本文P10-11参照)。

3 .基本健診時の注意点
基本健診当日は、市町村保健師等が健診の流れについて説明しますが、その中で精神面の健診も身体面の健診と同様に重要だということを住民に周知することが大切です。

説明のポイント
☆ 今回の基本健診は、からだの健診と一緒に心の問診を行います。
☆ からだと心の健康は非常に密接に結びついており、心の問診を受けることは重要です。
☆ 心の問診は非常に簡単で、事前に配布されている「心の健康度自己評価票」も質問に「はい」「いいえ」で答えるだけであり、健診終了時間が従来より大幅に遅れることはありません。
☆ 専門(精神科・心療内科)の医師の診察や脳波などの検査をするということはなく、保健師・看護師による聞き取りの問診です。
☆ 個別に相談のある場合は、心の健康相談コーナーで対応します。
☆ 心の問診については、希望しない人には無理矢理にすすめることは避けましょう。

4. 一次スクリーニングの実際
☆ 健診票は、身体面の問診項目の中に、精神面の問診8項目を組み入れた問診票を使用します。
☆ 健診会場に、身体面の問診コーナーとは別に「心の問診コーナー」を設けるほうがよいでしょう。
☆ 心の問診を「受診しない」人に対して、保健師等が再度心の問診について説明し、受診を促すことも効果的です。

5. 一次スクリーニング問診のポイント
☆ 受診者の「表情や話し方、受け答え方、声の調子等」は重要です。抑うつ症状がないかよく観察します。
☆ 「表情が暗い」「受け答えが鈍い」等保健師の勘を大切にしましょう。受診者のそのような様子を感じたら丁寧に問診をとるようにした方がよいでしょう。
☆ 「最近のあなたの様子」というのは、「最近の2週間」を意味します。
☆ 高齢者の場合「設問5 わけもなく疲れた感じがしますか。」に「はい」と答えがちです。その疲れは最近の様子であるのか、加齢のためか確認しましょう。
☆ 事前に問診票を配布しているので、基本的には受診者が記入してきています。その場合は陽性項目がないかどうか確認します。
☆ 未記入の場合は、受診者に質問していきます。比較的若い年齢の方の場合は、その場で記入してもらってもいいでしょう。
☆ 受診者が、「家族の介護をしている」「最近家族が死亡した」「更年期障害の症状を訴えている」等あれば陽性になる確率が高いため、事前にそのような情報を把握しているときも丁寧な問診が必要です。
☆ 一次スクリーニングの結果が陽性の場合、「簡単な問診の結果、しろまるしろまるさんは少し心が疲れているようです。後ほど、もう少し詳しくお話しをお聞きしたいのですが、お時間を取っていただけませんか?」等説明し、二次スクリーニングを健診の最後に会場内で面接により実施するか、あるいは後日家庭訪問させてもらうか約束します。
☆ 家庭訪問の場合、その場で日程調整する方がよいでしょう。健診結果報告会の時も二次スクリーニング実施の機会になりますので、できるだけ、二次スクリーニングが実施できるように陽性者に働きかけましょう。

二次スクリーニング
一次スクリーニング判定の結果、陽性者に対して保健師の聞き取りによる面接を実施します。二次スクリーニングに要する時間は、人によって異なり、15分で終わる場合も2時間以上かかる場合もあります。
☆ 会場:健診の最後に二次スクリーニングをする場合は、プライバシーが確保されるように配慮しましょう。対象者が、他の受診者の目を気にせずゆっくり落ち着いて話ができるようにしましょう。
☆ 二次スクリーニングは、保健師と住民との信頼関係を築く大切な機会としてとらえましょう。保健師との信頼関係ができることにより、精神科受診に結びつくケースや、面接だけで抑うつ症状が軽減することも少なくありません。

健康教育
基本健診時にうつクリーニングを実施する場合は、健診会場や結果報告会において、うつ病や心の健康づくりについての健康教育を実施します。
☆ 目的:地域におけるうつ病や抑うつ状態になっている者を把握するとともに、医療機関への受診勧奨や保健指導等適切な支援を行うこと、そして、同時に心の健康づくりに関する普及啓発を行い、地域住民のうつ病や心の健康づくりに関する認識を深め、地域住民全体の心の健康づくりに対する気運を高めることです。

結果報告
☆ 精神面の問診結果は、後日身体面の健診結果と同時に、結果説明会あるいは郵送にて紙面で「心の健康度自己評価票の結果のお知らせ」を受診者に報告します。一次スクリーニング陰性者に対しては、精神面の問診の場で、口頭報告してもよいでしょう。
☆ 結果報告会において、二次スクリーニング陽性者(医療機関への受診を勧めるケース)に対して医療機関受診を勧める場合は、慎重に勧めましょう。緊急(自殺や死を考えている)を要しない場合は、陽性者との充分な信頼関係ができてからでも受診勧奨は遅くありません。
☆ 結果報告会のときに、健診当日には相談のなかった受診者から、改めて相談を受ける場合もあります。相談内容は、自分のことはもちろん、家族や身内の相談の場合もあるので、その相談に対応しましょう。

カンファレンス
健診終了後当日、健診従事者でカンファレンスを行います。その際、プライバシー確保、守秘義務を守ることは言うまでもありません。
☆ カンファレンスでは、うつスクリーニング陽性者の家庭状況・生活状況・家族構成等についての情報を共有し、今後の支援方向について確認します。
☆ 今後の支援は、個々の状況によって市町村保健師等が担当する方がよい場合や保健所保健師等が担当した方がよい場合があります。カンファレンスにより、役割分担を決めておきましょう。
☆ うつクリーニングに取り組んだ結果、関係者を対象に事例検討会を持つことも重要で、担当者のスキルアップにもつながります。また、事例検討会をきっかけに、うつクリーニングに取り組んでいない市町村が、前向きに取り組む気運が高まることがあります。

事後フォロー
☆ 健診受診者に対して、健康教室・研修会・市民講座を案内したり、スクリーニング陽性者に対して、電話相談や家庭訪問等の支援が必要となりますので、適宜フォローをしましょう。
☆ 陽性者の支援については、保健・医療・福祉の連携も含め、総合的な支援体制を考えていきましょう。

効果
☆ うつ傾向の強い住民がスクリーニングすることで明らかになり、受診の必要なものに対しては早期に医療機関受診を勧奨することができます。
☆ 一次スクリーニング陽性者の中には、家族の介護をしている人が多く含まれることから、介護負担の心の健康への影響の大きさを再認識し、介護家族のサポートを考えるきっかけになります。
☆ 基本健康診査に心の健康についての問診を導入し、健康教育を実施することにより、一般住民がうつ病や心の健康づくりに関心を持つ機会となります。
☆ 市町村と保健所が協働で取り組むことで、フォロー体制が整備できると同時に、住民の相談先の選択肢が広がります。
☆ 保健所及び市町村の保健師をはじめとする健診にかかわる職員や、市町村の健康づくり担当課の職員の、うつ病や心の健康に対する意識の向上を図ることになります。
☆ 受診者の中には、うつ傾向があり、不眠を訴えている住民もいますが、適切な治療が行われていないこともあります。このことは、一般診療科におけるうつ病診療の重要性と専門医との連携の必要性について検討し、医師会とも協働で取り組んでいくことを説明できるきっかけとなります。

対応のポイント
1. 本人と話すときのポイント
資料4:本人支援のための具体的アプローチ参照

2. うつ病にかかっている人をかかえるご家族と話すときのポイント
マニュアル本文P16-17参照

3. 自殺未遂者の家族への対応のポイント
マニュアル本文P16-17参照

4. 長期のフォローアップ
うつ病が慢性化したり再発したりする可能性があることはすでに説明しました。ですから、うつ病の可能性がある人には時々次のように声をかけると良いでしょう。
「眠られていますか」
「食べられていますか」
「体はだるくないですか」
「気分は重たくないですか」
うつ病の早期発見でも、長期のケアでもいわゆる不定愁訴には注意しましょう。原因がはっきりしない身体的訴えをする人がうつ病である場合が少なくありません。

参考資料
鹿児島県伊集院保健所.地域におけるこころの健康づくり対策マニュアル〜自殺防止対策を展開するために〜,平成15年3月.



資料6 うつ対策の評価例

各地域の特性に応じた「うつ対策」を効果的に推進するためには、各地域で対策のめざす方向が設定され、その達成に向けた長期・中期・短期目標が具体的に立てられることが望まれます。
その目標の達成度を確認し、めざす方向に照らし合わせて活動を評価し、活動を改善していくための「うつ対策の評価」の1例を以下に挙げます。地域の事情にあわせた評価プランを作成する際には、以下の点を参考にしてください。

評価の流れと評価項目
1 .うつ対策のめざす方向を明確にします。
(1) 地域課題の発見:地域の状況を様々な資料から診断し、ニーズを的確にとらえます。
(2) 目標の設定:めざす方向を明らかにします。
(3) 対象と意図の明確化:誰(何・どこ)に対して、どのような状態になることを狙っての活動かを明らかにします。
(4) 結果(成果):どのような成果を実現したいのか、明らかにします。

2 .うつ対策のめざす方向にそって、実施した活動を評価します。
(1) うつ対策で実施した活動(健診前の教室・健診・事後指導のための教室等)ごとに、「活動内容」「連携機関」「所要時間」「参加人数・回数」等を整理します。
(2) 活動の結果が、目標の達成にどれだけ貢献し、成果をあげたかを評価します。
☆ 注力度評価:うつ対策への取組姿勢や度合いを確認します。具体的には、地域診断をして地域の課題を明確にすることができたか、地域の課題をうつ対策に関わる者で共有し、組織あげての活動となっていたか等について評価し、改善策を考えます。
☆ 協働度評価:うつ対策の各活動に関して、関係機関等との課題の共有・協働の度合いを評価し、改善策を考えます。
☆ 組織の成熟度:うつ対策に取り組む自分たちの組織の成熟の度合いを評価し、改善策を考えます。
☆ 地域の定着度:うつ対策が対象地域にどれほど定着しているか、その度合いを評価します。これは、地域のうつ対策実施に対する力量を評価するものです。
☆ 総合評価:注力度・協働度・組織の成熟度・地域の定着度の評価結果をもとに、今後の課題を整理します。
(3) 活動成果の評価結果を踏まえ、次に向けた改善策を提案します。


参考資料
三重県健康福祉部健康づくりチーム.三重の健康づくり総合計画「ヘルシーピープルみえ・21」平成15年度版年次報告書,2003.



資料7:自殺未遂者への対応(青森県名川町の例)
これらは、一例です。プライバシーなどの倫理的側面に充分に配慮しながら、地域の状況や住民の方々の考えに応じて適切なプログラムを作成してください。

1 .ケースの状態を把握します。
情報提供機関(救急隊員等)及び病院と連携できる地域システムを構築します。その際、秘密の保持には十分配慮するようにします。
2 .普段から連携している精神科などの医師に報告、相談します。
ケースの状態を報告して、今後の対応の仕方のアドバイスを得ます。
3 .役職者を含めて看護職でカンファレンスを開きます。
ケースについての情報を持ち寄り、精神科医師のアドバイスを参考に今後の対応策を考えます。
4 .家族を援助します。
(1) 直接訪問して事業について説明して援助します。その際に、情報が漏れないことを伝えます。
(注記) 間接的に介入すると本題に入るタイミングを逃したり、対象者の不信感を招いたりする恐れがあります。
(2) 家族の精神的苦痛を受容します。
(注記) 家族の中で自殺未遂者が出たということで、本人の苦しみに気づいてあげられなかったという思いと、退院して町内に帰ってから近所の方にどう思われるかという不安が存在しているものです。
(3) 自殺未遂をした本人の最近の状況を聞きます。
(4) 精神科の受診を勧めます。
(5) 困ったり悩んだりしたことがあったらいつでも連絡をしてほしいことを伝えます。
5 .民生委員から家族の補助的情報も得ておくようにします。
6 .本人に介入します(主治医と連絡をとり、精神状態・身体状況が安定してから面接します)。
(1) 事業の説明とともに情報入手経緯を話し、情報が漏れないことを伝えます。
(2) 本人の苦痛を受容します。
(3) 主治医とも相談のうえ、必要に応じて精神科の受診を勧めます。
(注記) 家族の時と同様の対応をとるが、本人が拒否する場合は、家族の協力も得て説得します。
(4) 困ったり、悩んだことがあったらいつでも連絡をしてほしいことを伝えます。
7 .環境を整えます。
(1) 本人が退院後周囲の偏見をあまり受けないように、また、住民が影響を受けて同じ行為に走らないように民生委員へ協力を依頼します。
(2) 頻回に地域の巡回をします。

参考文献
・ 小泉毅,高橋邦明,内藤明彦,森田昌宏,須賀良一,小熊隆夫.新潟県東頸城郡松之山町における老人自殺予防活動−老年期うつ病を中心に−.精神神経学雑誌 100:469-485,1998
・ 平成11−12年度厚生科学研究費補助金障害福祉総合事業「抑うつ状態のスクリーニングとその転機としての自殺の予防システム構築に関する研究」総合研究報告書(主任研究者,大野裕)



資料8: 我が国の1985年以降5年間以上継続された高齢者自殺予防活動の実績
(参考資料:大山博史著.高齢者自殺予防マニュアル.診断と治療社.2003)
[画像:我が国の1985年以降5年間以上継続された高齢者自殺予防活動の実績の図]



地域におけるうつ対策検討会 構成員 (五十音順)
平成十五年八月現在
麻原 きよみ 聖路加看護大学 地域看護学 教授
板波 静一 秋田県健康福祉部健康対策課 課長
(北のくに健康づくり推進会議代表幹事 自殺予防対策検討部会 担当)
にじゅうまる 今田 寛睦 国立精神・神経センター 精神保健研究所 所長
宇田 英典 鹿児島県伊集院保健所 所長
大野 裕 慶応義塾大学保健管理センター 教授
川上 憲人 岡山大学大学院医歯科学総合研究科衛生学・予防医学分野 教授
斎藤 友紀雄 日本いのちの電話連盟 常務理事
中村 純 産業医科大学精神医学教室 教授
西島 英利 日本医師会 常任理事
平野 かよ子 国立保健医療科学院 公衆衛生看護学部 部長
広瀬 徹也 (財)神経研究所附属晴和病院 院長
藤臣 柊子 漫画家 エッセイスト
(にじゅうまる 座長)


地域保健従事者向けマニュアル策定グループ 構成員名簿 (五十音順)
平成十五年九月現在
麻原 きよみ 聖路加看護大学 地域看護学 教授
にじゅうまる 大野 裕 慶応義塾大学保健管理センター 教授
斉藤 友紀雄 日本いのちの電話連盟常務理事
野呂 千鶴子 三重県津地方県民局保健福祉部(津保健所)主査
山下 俊幸 京都市こころの健康増進センター センター長
(にじゅうまる グループ長)



地域におけるうつ対策検討会 運営要綱

1. 趣旨
厚生労働省患者調査によると、うつ病を含む気分障害の総患者数は、平成8年の43万人から、平成11年には44万人となっており、複雑な社会構造やそれに伴うストレスの増加等を背景として着実に増加している。また、うつとの関連が深い自殺死亡者についても、その数は、平成10年には3万人を超え、その後も横ばいの状態にある。一方、平成14年12月には、厚生労働省の「自殺防止対策有識者懇談会」の最終報告において、早急に取り組むべき実践的な自殺予防対策として、うつ対策の必要性が指摘された。
こうした状況の下、うつ対策として、保健医療従事者向けのマニュアル等を策定するなどの効果的な方策を検討するための検討会を開催し、もって国民の心の健康の保持・増進を図ることとする。

2. 検討課題
(1) 保健医療従事者向けうつ対応マニュアルについて
(2) 都道府県・市町村向けうつ対策推進方策マニュアルについて 等

3 .座長
検討会に座長を置くものとする。座長は委員の中から互選により選出するものとする。

4. 運営
(1) 検討会は、座長が必要に応じて召集する。
(2) 検討会は、その決定に基づき、必要に応じて作業グループで検討させることができる。

5. その他
(1) 検討会は、原則として公開する。
(2) 検討会の事務局は、障害保健福祉部 精神保健福祉課において行う。
(3) この要綱に定めるものの他、検討会の運営に関し必要な事項は、座長が障害保健福祉部長と協議の上定める。


トップへ
戻る

AltStyle によって変換されたページ (->オリジナル) /