雇用促進住宅の譲渡・廃止に向けた方針について
本日、(独)雇用・能力開発機構の「雇用促進住宅管理経営評価会議」(民間委員4人と機構理事等計6人で構成)において、別紙のとおり、15年間で雇用促進住宅を譲渡・廃止する旨の方針が決まりましたのでお知らせします。
別 紙
雇用促進住宅の譲渡・廃止について
[これまでの経緯]
「収益を最大化するためには、17年間をかけて雇用促進住宅を売却していくことが適当」
[方針の決定]
最終報告書のポイント
1 売却方策
2 収益最大化のための試算
3 売却プロセス等
雇用・能力開発機構は「総収益の最大化」及び「早期の譲渡」を図るうえで、地方公共団体等に対する売却も引き続き行うものとする。
売却期間にわたって、処分までの運営収支並びに売却収支をあわせた全体収支を最大化させるためには、運営収支の赤字がもっとも大きい住宅から、売却を進めていくことが望ましい。
本調査で検討した売却方策を実行していくためには、売却担当の責任者などに、民間の不動産取引にかかる専門家などを複数含む強固な体制を構築するべきである。
雇用促進住宅の早期事業廃止に向けた方針の
策定支援に係る業務委託
報告書 全体要約
2007年1月31日
目 次
<全体要約>
(1)売却方策住宅の売却形態は、
主な費用 特 徴
諸費用
+立退き費用
+建物取壊し費用
売却 不動産売買に係る
諸費用のみ
(2)収益最大化のための試算
[1] 処分形態別の収支試算結果(総括)
対象住宅の処分形態別の収支試算結果(図中の金額は、金額規模を概算するために、現時点で一括して売却した場合で想定)は下図のとおり。
(現行家賃ベースで20%の期待利回り)
(約4,185万円/住宅)
[2] 目標売却期間に応じたシミュレーション結果
売却完了までの所要年数について、何年を目標とするのが最も売却収支の期待黒字幅が大きくなるのかをシミュレーションした。(前提条件の変更により異なる結果が出る。)
その結果、17年間とするのが最も期待黒字幅が大きく約144億円と算出された。なお、15年間では約141億円、20年間では約125億円と算出された。
なお、本シミュレーションにあたっての主な前提条件は次のとおり。
最大収益を達成する処分完了目標期間において、毎年同数の住宅を売却していくと想定した。例えば20年間で全住宅を売却終了する場合、各年、およそ75住宅ずつ売却することとなる。
売却収入を最大化させるためには、運営支出の赤字がもっとも大きい住宅から、売却を進めていくこととする。
また、入居者の自然減や、普通借家から定期借家への切替えによるコストの低減、建物経年劣化への対応による修繕コストの負担増及び耐震補強工事コスト、地価変動、不動産管理にかかる人件費等の売却進捗による低下などを想定した。
なお、入居者向け売却については、購入率を平均継続入居年数等より32%と推定し、これによる購入者が25戸以上となる住宅のみ入居者向けに売却するものと想定した。購入希望が25戸に満たない住宅は、更地化売却と仮定したため、立退き料や建物取壊し費用が必要となる。
シミュレーションは上記の前提に基づいた場合の試算結果である点、留意が必要である。
収益最大化のためのシミュレーション結果
(3)売却先の可能性検討
[1] 売却先
売却先とその利用イメージについて幅広く検討し、下表のとおり想定した。
・利回りが出せる金額での売却が前提
・一般的には更地化が前提
・市場価格家賃が前提
・市場価格家賃が前提
[2] 地方公共団体等への売却
地方公共団体及びこれに準じる団体(以下、「地方公共団体等」という)は、入居者付売却の有力な売却先であり、売却コスト等の面でも多くの場合有利であることから、雇用・能力開発機構は「総収益の最大化」及び「早期の譲渡」を図るうえで、地方公共団体等に対する売却も引き続き行うものとする。
(4)売却プロセス
ただし、実際の売却順序は、買い手など市場の状況等により、柔軟に決定すべきである。
その場合には、優良物件と売却困難物件でバルクを構成し、売却していくことが考えられる。
想定している売却方策は、高度な専門知識を要する不動産取引になるものと見込まれ、特に入居者への売却については、国内に例のない手法であることから、専門家の知見が不可欠となる。
また、全国で1,500以上もの事業廃止対象住宅があることをふまえると、相応の陣容を擁する必要もあると考えられる。
以上から、本調査で検討した売却方策及び目標売却期間を実行していくためには、法律の専門家としての弁護士の知見を活用するとともに、売却担当の責任者などに、民間の不動産取引にかかる専門家などを複数含む強固な体制を構築するべきである。
バルクとは、大量のものをひとまとめにした固まりのことをいう。不動産取引においては、大量の不動産をひとまとめにして売買する取引をバルクセールという。
(5)譲渡・廃止の実現可能性
投資目的や公的な政策目的などのために、入居者がいる状態で取得を希望する買い手が存在することが、実現の条件となる。
しかしながら、投資目的の場合には、家賃収入が投資に見合う必要があり、雇用促進住宅においては、家賃が低いことがネックとなる。
また、地方公共団体等への売却は、財政等の問題から困難が伴う。
すなわち、住宅市場の形成されている市街地中心部で、ある程度土地が有効に活用されている状況の住宅である必要がある。調査結果によれば、該当する住宅数は1住宅のみで、極めて少ない。
そのためには、更地化の実現可能性とこれに伴う費用・期待収益のバランスが第一に重要になる。しかし雇用促進住宅の場合、更地化の実現は、空家化と同様に現入居者への退去要請が前提となるため、費用と時間を要する。また、必ずしも市場性の高くない住宅を更地化した後の売却先探索など、外部要因においてあらかじめ確定し得ない条件が含まれる。こうした点から、本形態による実際の譲渡・処分のプロセスには困難が伴う。
なお、市場性の見込みにくい物件については、バルクを組成して売却することも有効な手段として念頭におくべきである。
また、入居者への売却価格について、入居者が負担可能な水準での売却価格の柔軟な設定の可否によっても実現可能性が左右される。原則として現入居者に退去を要請する必要がなく、売却形態自体の可能性には期待すべきものがある一方で、実際の譲渡・処分のプロセスには解決すべき課題も多く、更地化や空家での売却形態とは違う形での困難が伴う。
なお、本売却形態については、現行法制度のもとで実現可能と考えられる。
(6)維持・管理方策
今後家賃収入が減少傾向になることが見込まれる中で、計画修繕については、修繕工事の内容やその実施間隔などを工夫し、今後とも費用支出の合理化を図っていく必要がある。
財団法人雇用振興協会が、今後採用する管理人については、非正規職員として採用することを検討すべきである。
民間賃貸住宅の一般的な管理費用水準と現在の管理費用をモデル的に比較したところ、後者の方が年間で約100万円程度低廉な価格となっている。この差は、民間の場合、そもそも適正利益が必要なこと、また、例えば共用部の清掃を住民による自治会に依頼している例があること等が要因として挙げられる。
さらに、今後、入居者向け売却を含め処分を円滑に進めていくためには、既に住民との信頼関係を長年にわたって構築してきた管理主体が管理を続けることで、住民に対していたずらに不信感を与えないことも重要な要素のひとつとして留意すべきである。