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ライフサイエンス委員会(第113回)議事録

1.日時

令和6年3月18日(月曜日)16時00分〜17時08分

2.場所

WEB会議

3.出席者

委員

宮園主査、畠主査代理、有田委員、大津委員、大曲委員、岡田委員、加藤委員、金田委員、鎌谷委員、上村委員、木下委員、熊ノ郷委員、桜井委員、澤田委員、杉本委員、鈴木委員、武部委員、辻委員、豊島委員、西田委員、坂内委員、山本委員

外部有識者

須原部門長(国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 量子生命・医学部門)

文部科学省

廣瀨ライフサイエンス課課長補佐

4.議事録

【廣瀨ライフサイエンス課課長補佐】 それでは、定刻になりましたので、ただいまより、第113回ライフサイエンス委員会を開会いたします。
本日は、Web会議システムによる開催とさせていただいております。本審議会は、報道関係者と一般の方にも傍聴いただいております。
金倉委員、鹿野委員、宮田委員より御欠席の連絡をいただいており、熊ノ郷委員からは遅れての御出席、山本委員からは途中の御退席と伺っておりますが、出席委員数が総委員数25名の過半数13名に達しており、定足数を満たしていることを御報告いたします。
会議の円滑な運営のため、ZoomによるWeb会議システムで御参加いただいております皆様にお願いしたいことがございます。委員の先生方、傍聴の皆様におかれましては、表示名は、本名、日本語表記、フルネームとしていただきますよう、お願いします。傍聴の皆様は、表示名冒頭に「傍聴」と御入力ください。傍聴の皆様におかれては、マイクとビデオを常にオフにしてください。委員の先生方におかれましては、回線への負荷軽減のため、通常はマイクとビデオをオフにしていただき、御発言を希望する場合はビデオをオンにしていただきますよう、お願いいたします。また、発言される際のみマイクをオンにしてくださいますよう、お願いいたします。発言が終わられましたら、両方を再度オフにしてください。その他、システムの不備等が発生しましたら、随時お知らせいただきますよう、よろしくお願いいたします。Web会議システムの音声が切れてしまった場合には、事務局より事前にいただいておりますお電話番号に御連絡させていただきます。表示名や音声・映像については、事務局により操作させていただく場合がありますこと、御承知おきください。御不便をおかけすることがあるかもしれませんが、何とぞ御理解いただけますと幸いでございます。
それでは、以降の進行は宮園主査にお願いいたします。
【宮園主査】 どうもありがとうございました。
それでは、本日の議事と配付資料について、事務局から確認をお願いいたします。
【廣瀨ライフサイエンス課課長補佐】 議事次第を御覧くださいませ。本日の議題は、2点ございます。
議題(1)は、インハウス研究機関におけるライフサイエンス研究についてでございます。ライフサイエンス研究においては、国立研究開発法人等におけるインハウス研究が大きな役割を果たしております。本日は、国立研究開発法人理化学研究所及び国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構より御発表いただき、御議論いただきます。
配付資料は、議事次第に記載されているとおりです。前回の委員会までで御議論いただきました、ライフサイエンス研究のこれまでの議論(論点別)素案、論点整理につきましては、更新の上、参考資料として配付させていただいております。資料は、委員の皆様に事前にメールにてお送りさせていただいております。資料番号は議事に対応しております。不足等ございましたら、議事の途中でも構いませんので、事務局にお声がけください。
事務局からの説明は、以上でございます。
【宮園主査】 どうもありがとうございました。
それでは、これより議題に入ります。一つ目の議題は、インハウス研究機関におけるライフサイエンス研究についてです。まず、国立研究開発法人理化学研究所からの説明に基づき、皆様に御議論いただきたいと思います。なお、この発表につきましては、私が発表者となりますため、議事進行を畠主査代理にお願いいたしたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
【畠主査代理】 畠でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは、議事進行をさせていただきます。宮園先生より、国立研究開発法人理化学研究所の御発表をよろしくお願いいたします。
【宮園主査】 どうもありがとうございます。それでは、私のほうから、理化学研究所の説明をさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
私は、理化学研究所に移ってまいりまして、ちょうど2年がたったところでありますが、これからお時間を15分ほどいただいて、御説明をさせていただきたいと思います。
まず、理化学研究所は、皆様、御存じと思いますけれども、1917年に創立しまして約100年もたっておりますが、日本初の自然科学の総合研究機関ということであります。物理、化学、工学からスタートいたしまして、計算科学、生物学、医科学など、特に2000年頃から、生物学、医科学の研究センターが次々にできてまいりまして、生物学、生命科学の研究が大体半分近くを占めているというような状況です。我が国のイノベーションの創出と人類が直面する社会課題等の解決に向けて、研究成果の最大化に向けた取組を実施するということ、そして最高水準の研究基盤の構築と、研究コミュニティーへの利用機会の提供ということです。
職員数は3,200名、当初予算額は1,000億円ですけれども、特定先端大型研究施設関連補助金などがございまして、このような形になっております。国内に10拠点、海外に4拠点があるということで、皆様、御存じと思いますけれども、本部が和光にございまして、横浜、筑波、神戸、播磨、その他、大阪や名古屋、けいはんな、仙台などに拠点があるという状況です。特に、産学に提供している研究基盤といたしまして、和光の重イオンビーム、神戸のスパコン「富岳」、播磨の放射光施設のSPring-8とSACLA、それから、筑波にございますバイオリソース研究センター、皆様、これらについてはよく御存じのことと思います。戦略センターというのがありまして、そのほか、バイオリソースセンターのような研究基盤センター、開拓研究本部と情報統合本部、そして産学連携につなげるということで科技ハブ産連本部というのがございまして、企業との連携をしております。それから、TRIPと呼んでおりますが、最先端研究プラットフォーム連携が昨年からスタートいたしまして、これについても御紹介をさせていただきます。
まず、ライフ系のセンターの概要ということで、ここにお示しさせていただきました。ライフ系センターにはもう一つ、植物学その他で環境資源科学研究センター(CSRS:Center for Sustainable Resource Science)がございますけれども、今回は主に動物関係の生命科学のセンターということで、免疫、がん、ゲノム科学の生命医科学研究センター(IMS:Integrative Medical Sciences)、精神・神経疾患、脳研究を行っております脳神経科学研究センター(CBS:Center for Brain Science)、生命機能科学研究センター(BDR: Biosystems Dynamics Research)、この三つと、それから、筑波にございますバイオリソース研究センター(BRC:BioResource Research Center)、医薬品・医療技術の開発に関わっております創薬・医療技術基盤プログラム(DMP:Drug Discovery and Medical Technology Platform)について、御紹介させていただきます。
理研は現在、第4期中長期計画の途中でありまして、「ヒトの生物学的理解を通した健康長寿の実現」を目指すということで、これらの研究センターが中心となって研究を進めているところです。特にSociety5.0の実現あるいは健康・医療分野の科学技術の社会実装に向けて進めているということと、それから、今は特に、AIやビッグデータ等の利活用を基に、令和6年度は中長期目標の最終年度といたしまして、データ駆動型の手法の構築に向けた研究を行い、次世代の創薬基盤技術とか、あるいは疾患診断基盤技術開発などを推進しているところであります。
理化学研究所の最近の主な研究成果をかいつまんで、多少絞って選んだところがありますのでお許しいただきたいのですが、ヒトの生物学的理解を通して疾患の理解と克服に貢献する研究を強力に推進するということで、例えば、神戸の生命機能科学研究センター(BDR)のほうですけれども、一つの研究として、生命機能維持の原理解明に向けた成果として、冬眠様の状態を誘導することで新規の神経回路の発見と、人工冬眠の可能性といったことで研究を進めております。それから、疾患発症機構の解明に向けた成果ということで、これは脳神経科学研究センター(CBS)ですけれども、アルツハイマー病モデルマウスの開発と治療薬の開発ということで、特にアミロイドβペプチドの蓄積ということを標的として、βセクレターゼ阻害剤の効果を正しく評価できる系を確立するなど、創薬に向けた研究を進めております。また、バイオリソース研究センターのほうでは、患者由来のiPS細胞の肝臓難病モデルの開発と治療技術の開発ということで、バイオリソースセンターは疾患iPS細胞を多く保存しておりまして、例えば、ウィルソン病患者由来のiPS細胞を用いて、この中からウィルソン病の治療技術の開発ということで、創薬に向けた研究を進めているところであります。
次は、疾患の治療、克服に向けた成果ということで、これは横浜の生命医科学研究センター(IMS)ですけれども、人工アジュバントベクター細胞(aAVC)という新しいベクターを使いまして、特にWT1のmRNAを使いました白血病患者に対する医師主導治験の第一相試験が進んでいるということで、こういった新しい、臨床に直接つながるような研究も進めているところであります。それから、研究環境の整備ということで、国内外の他機関との連携を強化しながら、例えば、BDRのほうでは、オルガノイドプロジェクトを戦略的に米国のシンシナティ小児病院と行うなど、伝統のあるオルガノイドプロジェクトの研究を進めております。CBSのほうでは、脳神経医科学に関して、東京大学、順天堂大学、杏林大学との連携、あるいは慶應義塾大学の中に臨床データや臨床病理検体の解析等を行うような環境を整備いたしまして、これらのアカデミアとの連携も進めているところであります。それから、横浜のIMSのほうでは、慶應義塾大学医学部の中に共同研究の拠点をつくりまして、理研は病院がないということで患者さんのサンプルがなかなか集まらないということをよく指摘されておりますけれども、ヒトサンプルを用いた共同研究を実施しているところであります。それから、同じくIMSのゲノムのほうでは、東北メディカル・メガバンク機構に関するデータへのアクセスのためにIMSの中にアクセス専用の環境を整備するなど、データの供用ということでの環境の整備を進めているところであります。
理研の研究基盤をここに挙げさせていただきました。様々な研究リソースや研究成果を幅広く利用していただくための、様々な活動をしております。例えば、筑波のバイオリソース研究センターですけれども、皆様、御利用いただいている方は多いと思いますが、生命科学分野の世界最大級の研究基盤として、実験動物や実験植物、細胞材料、遺伝子材料、微生物材料と、それから、付加情報を収集して保存するということにも注力しておりまして、現在では世界最高水準の品質を確保しており、世界の三大バイオバンクの一つということで高く評価をされております。それから、データベースに関しましては、理研から公開されている生命科学系のデータベースの情報を体系的に整理集約して、広く活用していただくためのポータルサイトを公開しております。それから、NMRの研究基盤ですけれども、こちらはBDRに属しますが、NMR装置やNMRの解析試料の調製からタンパク質の立体構造の決定までのパイプラインを整備いたしまして、利用可能としております。クライオ電子顕微鏡のほうも、生体高分子複合体の3次元構造の解析のためのクライオ電顕を数台整備しておりまして、広く使っていただいているところであります。それから、これは主に植物のホルモンですけれども、ホルモン解析やメタボローム解析につきましても、多様な質量分析計などを整備いたしまして解析を支援しているということで、こうした研究基盤を理研内外の多くの方に広く使ってもらうという体制を整備しているというのが特徴かと思います。
理研のミッションですけれども、1点はボトムアップの卓越した研究を通じて基礎科学の学知を広げるということと、もう1点は、国家戦略に対応しまして、政策的な課題解決など、社会的に貢献するという、この2点をミッションとして進めているところであります。この後、TRIPという新しい構想を御紹介いたしますけれども、ここに、何度かこれは出てまいりますが、良質なデータを集め、それをAIや数理で解析し、そして、量子古典ハイブリッドコンピューティング、量子コンピュータやスーパーコンピュータなどを使ってこれを解析するといったことを行いまして、特にSPring-8や「富岳」などの唯一無二の研究基盤を使いながら、国が取り組むべき課題に対して総合的に支えていきたいと。そして、次に示します理研のTRIP構想の発展につなげていきたいというのが、理研のミッションとして私たちが現在進めているところであります。
TRIPというのは英語で言いますとTransformative Research Innovation Platform of RIKEN platformsで、2年前に五神理事長が着任しまして、最初にこの構想が出てきた一つの要因と申しますのは、理化学研究所の中に非常に優れた研究基盤があり、また、個々の研究者は卓越した研究成果を上げていると、我々、理研の研究者も自負しているところでありましたけれども、せっかくの優れた研究基盤あるいは基礎研究が、理研が持っておりますスパコンとか量子コンピュータなどをこれからどんどん取り入れていくことで、連携をもっと深めることで、もっと高い次元での成果を上げていくことができないかということで、このTRIPという構想を始めたというのがきっかけであります。良質なデータの整備、これをAIや数理で解析して予測の科学を開拓し、計算可能領域を拡張していく。これらの連携をすることによって未来の予測制御の科学を分野の枠を超えて開拓したいということで、TRIPという構想がスタートいたしました。ただ、こうしたAIや数理というのは、基盤モデル、生成AIがスタートいたしまして、1年の間に大きく世の中は変わってきたということで、TRIPは2023年度から準備を始めたのですが、既に次の新しいバージョンの基盤モデル(Foundation Model)を取り入れて、大規模なデータ、エクサスケールの計算資源、先進機械学習アルゴリズムを取り入れて、特に生命・医科学の分野で生成AIの基盤モデルを取り入れることによって、データ解析の自動化、診断支援、治療計画策定、創薬加速とか、基盤モデル向けの低電力LSIの開発、こういったことを開始するということで、これは昨年からまた新たにスタートしたことでありますが、今、こういった動きを活発に行っているところであります。
こういった生成AIに関することを導入するということで、TRIPに加えまして、科学研究向け基盤モデルの開発・共用ということで、TRIP-AGISという取組を行っております。良質なデータの上に、先進モデル、基盤モデルを活用して、特定科学分野(ドメイン)指向の科学基盤モデルを開発・運用・共用して、マルチモーダルデータを読込・学習・生成するために必要な研究開発を行いつつ、TRIP全体をさらに、生成AIが入ってきたことに対する新たな動きに対応して進めていきたいというのが、TRIP-AGISを含めた、新しいTRIP構想ということであります。このTRIPというのは、理研の新しいプロジェクト、イニシアティブということで、理研の中でもかなり議論が進んできたところであります。理研は2025年から次期中長期になりますけれども、これまで十幾つのセンター等がありましたが、これからは、課題を共有しながら、共に課題解決に向けて研究を進めていこうということになります。生命科学は、ここに三つのセンター、それから、創薬に関するDMP、バイオリソース研究センターなどが入る形で検討しておりますけれども、ボトムアップの様々な試み、それから、社会課題、あるいは地球規模の課題解決型の国家戦略に合ったプログラムをどんどん取り入れながら、これらを理化学研究所全体でいろいろ議論しつつ、アカデミア全体の活性化、学知の深化・拡張、それから、課題解決への貢献、そして科学に基づく新たな課題解決策の提案ということで、最終的には最先端科学のエビデンスに基づく提言や、あるいは研究の能動性を確保しつつ、必要なときには国や産業界の政策提言を行いながら社会への貢献も進めていきたいということで、2025年度からこういったことを進めていく予定であります。
実際に、ライフサイエンス系、どういうことをするかということで最後に2枚ほど御紹介いたしますが、最後の3枚に関しましては、お手元資料では、まだ最終段階に入っておりませんので、検討中ということで御紹介させていただきますが、ライフサイエンス系では、生命の誕生から老化まで、心身の健康と疾患の謎に迫るライフサイエンスということを中心に進めていこうと考えております。異なる階層、異なる時間軸、異なる種間を横断して生命科学の研究を行い、それから、データ駆動型かつ、様々なデータがAI等で出てきますので、モデル駆動型研究を実施するということ。それから、特に脳研究で心の研究がこれから活発になっていくと考えられますので、生命現象を横断的に理解して、心身の健康と疾患の謎を解き明かすといったことを目指していきたいということであります。これには、大量の良質なデータ、特に、何度も申し上げておりますが、オルガノイドの技術ですとか、実験自動化の技術、iPS細胞などのバイオリソースなど、こうした大量かつ良質なデータと、それから、スパコン「富岳」や量子コンピュータなどを活用した、AI統計学、数理モデル、シミュレーションなどの数理計算手法を取り入れながら、こういうデータ駆動型モデル研究を行いつつ、予測制御に向けた研究、生命の誕生から老化までを一貫した連続体として捉えるということと、生命の深化を含めた大きなフレームでライフサイエンスを考えたいということです。最終的には、疾患の理解・治療、創薬や医療のパラダイム、少子高齢化等の社会課題に貢献していきたいということであります。
最後になりますけれども、最初に申し上げましたとおり、理化学研究所は、神戸を中心に生命機能科学研究センター、それから、和光で脳神経科学研究センター、そして横浜のほうで生命医科学研究センターがございます。その基盤となりますバイオリソースのセンターが筑波にございまして、非常にたくさんのバイオリソースがあります。まず、生命機能科学研究センターは、様々な生命の階層の技術、オルガノイドを含むアプローチをして、生命現象のメカニズムの解明を中心に行っていく。脳神経科学研究センターでは、神経回路を含めて、こうした脳の研究を、今後はAIを応用したものをぜひ進めていきたい。生命医科学研究センターのほうは、免疫システムやゲノムの研究を含めて、様々な疾患の予防や治療も進めていきたいということであります。それから、理化学研究所で創薬・医療技術基盤プログラム(DMP)というのがありまして、様々な創薬のモダリティの技術などを探索しつつ、こういった基礎研究を社会に実装するためということで整備しているところでありまして、これらの生命科学研究センターが集まって、最終的には生命科学の研究成果を社会への応用も含めて発展させていきたいというのが次期中長期における方向性ということで、現在、議論を進めているところであります。
以上、理化学研究所の現在の取組ということで、紹介させていただきました。
私からは、以上です。よろしくお願いいたします。
【畠主査代理】 宮園先生、どうも、御説明、ありがとうございました。
それでは、質疑応答に移りたいと思います。発表に関する御質問、御意見等ございましたら、ぜひ積極的に頂戴したいと思います。いかがでしょうか。
それでは、加藤委員、お願いできますか。
【加藤委員】 順天堂大学の加藤です。先ほどのお話の中で2025年からの中長期計画の中に三つのセンターが位置づけられていましたが、これまで理化学研究所ではセンターの統廃合というのが中長期計画のたびに繰り返されて様々な大変なこともあったように感じているのですけれども、2025年からの中長期計画においては、そんなに大きなセンターの改編というのは予定していないというふうに理解してよろしいでしょうか。
【宮園主査】 どうもありがとうございます。今、加藤委員から御指摘のあったとおりで、三つのセンターと、バイオリソース研究センターとDMPは現在の状況を続けていくということになります。ただ、例えばアルツハイマー病の研究はCBSで行われていますけれども、ほかの研究センターでもかなり先進的な研究が行われていますので、これらは、情報を統合しながら、連携を取りながら進めていくことは重要ということで、ライフサイエンス系の研究センターがもっと連携を取れるような体制はつくっていくということで進めていきたいと思いますが、センターそのもののつくりは、今、御質問のあったとおりで、現在のものを継続していくということで検討を進めているところです。
【加藤委員】 どうもありがとうございました。
【畠主査代理】 ありがとうございました。
そうしましたら、桜井委員、お願いできますか。
【桜井委員】 宮園先生、御発表、ありがとうございました。私、インダストリーの側にいるので、基礎研究のほうは少し疎いので、教えてください。
これらのエビデンスの基となるデータのソースというのは、どのようなところからの、エビデンスの積み上げというところでは、データソースはどこになりますか。
【宮園主査】 データソースって?
【桜井委員】 例えば、基礎研究のデータの元というか、臨床データだとか、患者さんのデータだとか、いわゆる試験の元になるものというのはどこから取るのかなと思って。
【宮園主査】 ありがとうございます。それぞれの研究センターは基礎研究ということで、動物実験とか、いろいろなモデルを使いながら研究をしていくわけですけれども、確かに、御指摘のとおり、臨床データということに関しましては、理研は病院がありませんので、共同研究ということになります。幸い、ちょっと御紹介しましたとおり、例えば、神戸のBDRは、兵庫の小児病院とか海外との連携をしながら、患者さんの情報との相互の連携を行うとか、それから、最近では、横浜のほうでは、慶應大学や横浜市立大学と連携を取りながら、特に慶應大学の病院の中に理研のラボをつくりまして、連携をしたりしております。脳研究のほうも、東大、慶應大学、杏林大学などと連携を取りながらやっていくということで、臨床データに関しましては、そういった外部のアカデミアの先生方と一緒にやっているというのが現状です。
【桜井委員】 よく理解できました。ありがとうございます。
【畠主査代理】 ありがとうございました。
それでは、大津委員、お願いできますか。
【大津委員】 宮園先生、ありがとうございました。
2点お伺いしたいのですけれども、1点目は、海外拠点というものは理研の中でどのような位置づけで、海外でもリサーチを海外の研究者とやっておられるのか、それとも、いろんな海外と連携するための窓口的な業務なのか、その辺、これからはどうなっていくのかということと、2点目は、創薬については、先ほど臨床検体の件もありましたけれども、そこがかなり鍵になるのかなと思っているのと、プラス、産学連携といいますか、企業の創薬とどのように結びつけていかれるのかというのをお伺いできればと思います。
【宮園主査】 どうもありがとうございます。まず、一つ目の質問ですけれども、米国、中国、シンガポール、ベルギーに海外拠点がございますが、例えばベルギーは、先生が御指摘になった、ヨーロッパ各国との連携ということが中心でありまして、例えば、ヨーロッパのある会社と共同研究をする上での拠点の連携づくりということにもなりますし、それから、理研の場合にはシンガポールとか中国の研究者との連携も非常に多いですので、ラボを持っているというよりは、そういった連携のための一つの拠点ということで位置づけているところであります。
それから、創薬に関しましては、大津先生の御指摘のとおりでありまして、臨床試験に入りますと、もちろん理化学研究所の中ではもちろんできませんので、国立がん研究センターさんなどとも連携をさせていただいていますけど、我々はもう少し前の段階で、例えば低分子化合物ですと、それらの最適化ですとか、抗体医薬ですと、その加工をはじめとした様々な、創薬に関する基盤研究に関しては優れているものがあると自負しております。それから、例えば、SPring-8、SACLAとか、クライオ電顕などの設備もありますので、タンパクの結晶化とか、そういったことは非常に優れていると思いますので、そういったことを含めて、どちらかといいますとアカデミアあるいは病院の先生方と一緒に創薬の開発をしていきたいということであります。どうぞよろしくお願いいたします。
【大津委員】 どうぞよろしくお願いいたします。
【畠主査代理】 ありがとうございました。
そうしましたら、鎌谷委員、お願いできますか。
【鎌谷委員】 東京大学の鎌谷です。非常に現代的な、ライフサイエンスとデータサイエンス、AIなどを統合していこうという、非常に大きなビジョンを見せていただきまして、今後の理化学研究所は非常によい方向に進むんだなというのがとてもよく分かりました。
あまり科学専門委員っぽくはないところをお伺いしたいのですけれども、もともと理化学研究所は、物理、化学などといった、どちらかというと基礎理学的な方向性で当初は非常に名を上げられていたというふうに理解しております。また、物理学とか化学とライフサイエンスの融合というのが、これまで、DNAの二重らせんの発見も含めて、ライフサイエンスを何歩も進めるという発見がよくあったというふうに個人的には思っているところがありまして、理化学研究所の強みである物理や化学といった方向性と生命科学のところとの共同での研究ですとか協働体制、あるいは未来を見据えた動きといったものは何かお考えになるところがあるか、教えていただければと思いました。
【宮園主査】 どうもありがとうございます。正直申しまして、私自身はその辺りのところはあまり強いところではございませんが、TRIPという構想をつくりましたのも、生命科学が、物理、化学もそうですし、それから、AI等を含めまして融合していって、新しい成果を上げていきたいというのがきっかけであります。例えば、いろいろな顕微鏡を開発する上でも、生命科学の研究者が物理学の研究者と連携することで新しいタイプの顕微鏡を開発しようとか、それから、NMRの機械などにおきましても、生命科学の研究者と物理・化学系の研究者が連携するとか、そういったことは、正直申しまして理化学研究所のほうは、研究者同士の場所も近いですので、かなり活発に行われているんじゃないかなという印象を持っておりまして、今後はそういったこともより加速できたらということでこのTRIPという構想をスタートいたしまして、今、鎌谷委員から御指摘があったようなことをぜひ進めていきたいと考えております。どうもありがとうございました。
【鎌谷委員】 ありがとうございました。
【畠主査代理】 ありがとうございました。
ほか、いかがでしょうか。
そうしましたら、宮園先生、私から、1点、よろしいでしょうか。
【宮園主査】 どうぞ。
【畠主査代理】 産業側の立場の話も少しありますが、かなり産学連携というところを推進していく上では、いわゆる知財戦略、特に伴走支援とか、知財に関する人材育成というのも大変重要かと思いますが、その辺り、先生、何かお考えをお聞かせいただければありがたいのですが。知財の件ですね。
【宮園主査】 知財に関しましては、理化学研究所の専門のスタッフがおりますし、それから、産学連携の産連本部というのがあって、理研鼎業という理研の関連団体がありますけど、そういったところと連携を進めながら、理化学研究所で得られた知財をより有効に社会実装へ向けて進めていくということは努力しているところであります。そういった意味では、これは大変重要なミッションですので、今後、さらにブラッシュアップして、成果をより早く社会に出せるようにということで、現在、いろいろと議論をしているところであります。
【畠主査代理】 ありがとうございました。
そうしましたら、有田委員、お願いできますか。
【有田委員】 遺伝研の有田です。今までの理研というのは、ちょうど今、質問とかコメントがあったように、物理とか化学系で強いというイメージが大きいですけれども、今回の話では、ヒトに注目して、ヒトの生命に関わる研究、特に医療との連携を強めようと、理解しています。その際に非常に重要なのは、国民全体の理解を得るという部分なんです。例えばヒトの一生をトレースしようといったときに、そのデータを例えばほかの研究者とシェアするときに、どういうふうな公開の仕方を取るかとか、また、途中で同意撤回があったらどうするかとか、そういうことを考えていかないと、結局、科学者が好きなことをやっているという言われ方をされて、足元をすくわれる可能性があるんですね。ですから、今の段階から、きちんと社会に対して、こういう研究をするとどんなメリットがあるのかということを言っていかないといけないと思うのですけれども、その部分についてはどのような試みをされるのでしょうか。
【宮園主査】 どうもありがとうございます。大変重要な御指摘で、一つは、理化学研究所、もちろん様々な、ELSIに関する倫理の審査とか、あるいは利益相反その他の仕組みについては十分に検討をして進めているところでありますけれども、それに加えまして、新たに倫理に関する研究グループを設立いたしまして、より広く、そういった倫理についての議論を進めていきたいということを考えております。
それからもう一つは、これはまだこれから考えていかなきゃいけませんが、有田委員がおっしゃったのは非常に重要なことで、生成AIができてきて、多分、科学の成果の公表の仕方、取扱いの仕方というのはまた大きく変わっていくということで、それについても議論をしなければいけないところで、まだまだ皆様方に御紹介するところまでは行ってませんけれども、今後の重要な課題になると思います。理化学研究所の広報もかなり活発にやっておりますけれども、有田委員が御指摘されましたとおり、十分に注意して今後対応していきたいと考えておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
【畠主査代理】 ありがとうございました。
いかがでしょうか。よろしいですか。
議論も尽くせたところでございますが、宮園先生、どうもありがとうございました。
それでは、一旦、この議論はここまでとさせていただきます。以降の議事進行は、再び宮園主査にお願いいたします。
【宮園主査】 どうも、畠先生、ありがとうございました。
それでは、議事進行を私のほうで続けさせていただきます。
次は、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構より、御発表をお願いいたします。須原部門長からと聞いております。どうぞよろしくお願いいたします。
【須原部門長】 それでは、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構のライフサイエンス研究について、私、須原のほうから説明させていただきたいと思います。
量子科学技術研究開発機構(QST)に関しては、そんなところは知らないとおっしゃられる方も多いかと思いますけれども、QSTは、2016年に放射線医学総合研究所と日本原子力研究開発機構の一部が統合してできた研究所であります。ですから、もともとのオリジンが違う研究所が並び立っているという感じですけれども、ライフサイエンス研究に関しましては、もともとの放射線医学総合研究所が中心になって進めております。もともとの放射線医学総合研究は、現在、三つの研究所と一つの病院に再編されております。これは千葉にありまして、一番新しい研究所が量子生命科学研究所で、そのほかに、量子医科学研究所、放射線医学研究所、そしてQST病院と、こういうような構成になっております。
千葉地区におけるライフサイエンス研究の大きな流れというのは、まず、千葉地区においては、もともと放射線医学総合研究所であったということから、放射線の医学利用というものが一つの大きな柱になっております。そのためにどういうものがあるかというと、大型のサイクロトロンと、小型のサイクロトロンと、重粒子線を加速するためのHIMACというシンクロトロンがあります。それらの加速器から出てくるものを、主に薬物に標識するということで、GMP準拠のRIの薬剤製造設備を持っております。また、HIMACに関しましては、新しい照射システムとして、回転ガントリー装置というものを持っております。このような大型の設備の背景に、患者さんを病院で、重粒子線治療する体制です。そのほかに、サイクロトロンで標識した薬物を使ったポジトロンCTがイメージング研究の柱となって、そのほかに内用療法も始まってきました。さらに、近年、最も新しく設立された量子生命科学研究所では、ナノ量子センサーという全く新しいセンサーを使った研究も進んでおります。
次に、今日のトピックを簡単に御説明申し上げます。QSTでは、今申し上げました背景に基づいて、アイソトープで標識する分子プローブ作成を極めて強い背景として持っております。そのほかに、先ほど申し上げました新しい領域であります、量子生命科学研究所で開発しておりますナノ量子センサー、さらに、病院の主な柱であります重粒子線治療、これらについて御説明申し上げたいと思います。
まず、分子プローブです。分子プローブでも、主にQSTでは、ポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)の新しい分子プローブを長年にわたって開発してまいりました。特に、脳神経領域とがん領域が、大きな二つの出口であります。脳神経領域では、皆様、御存じのように、認知症あるいは神経変性疾患というものは、脳の中にたまる異常タンパクが原因で起こっております。ただ、これらはこれまで死後脳で主に研究されていたのですけれども、それらに結合する化合物を新しく作ってそれを標識することによって、たまっていくタンパクというものを生前に見ることができています。アミロイドβに関しては新しい認知症の治療薬であるレカネマブの適用を決めるのに非常に大きく報道されておりますが、我々はQSTで独自に開発しましたタウタンパクに対するPETプローブ(PM-PBB3)を持っておりまして、これは非常に幅広い領域のタウ――タウタンパクというのは、分子系がいろいろありますけれども、いろいろな分子系に結合することができる、非常に有効なプローブであります。それによって、アルツハイマー病はもちろん、前頭側頭葉変性症と言われる多様な神経変性疾患を非常に早期にタウタンパクの蓄積で見ることができます。それによって近年分かってきたのは、頭部外傷によって生じる遅発性の脳障害というものはタウの蓄積であるということが非常に明確になってきました。
さらに、我々は新しい化合物の開発というところに非常に大きなアドバンテージを持っておりますので、αシヌクレインに対する化合物も作成してきました。この作成の過程においては、国内の主要な製薬会社と連携して、イメージングバイオマーカーを開発するというシステムを組み込みました。また、これらの成果は、米国のマイクロ・J・フォックス財団との連携というものも生んで、これからこれらのものが国際標準化への道を歩もうとしております。
我々は、こういうイメージングバイオマーカーをベースに、イメージングだけではなく、血液のバイオマーカーというのも開発しております。これら血液のバイオマーカーの開発に当たっては、タウに関してもいろいろな抗体があるわけですけれども、それが実際に有効かどうかというのは、イメージングのデータをスタンダードにして、イメージングとの相関が非常にいいものを選び出そうというような開発しております。そのため、オールジャパンの学学連携体制というものを組みまして、幅広い領域でこういう血液のバイオマーカーの検証を行っております。さらにこれらの成果を、企業との連携という形で、企業が持っているいろいろな計測システムにこのシステムの評価に組み込むということで、例えば、アボットとの連携というのも、現在進んでおります。
もう一つ、我々が大きな力を入れておりますのは、これらのイメージングバイオマーカーを通じた脳機能の根本的な機能メカニズムの解明であります。ここに示しましたのは、化学遺伝学というような方法。これは、脳内に発現させた人工受容体に対してある薬物を投与すると、その人工受容体を発現させた細胞で神経回路がオン・オフということを自在にできるというシステムであります。これらは主にネズミで使われていたのですけれども、我々はこれをサルのような、大型霊長類を使うことによって、より高度な機能、高次の脳機能を見るということを実現してきました。高次の脳機能を見るためには、発現した受容体が本当に脳で発現しているかどうか、すぐに分からないとなかなか評価が難しいわけです。ネズミのように、1匹1匹を殺すことはできないわけです。そうすると、どうやったらその発現した受容体を殺さずに確認できるかということを、我々が得意としておりますイメージング技術を使って可能にしました。発現した受容体に結合する我々が開発したDCZという薬物は非常に高率に脳に移行しますので、これを標識することよって、発現した受容体が脳のどこでどの程度発現しているかということをモニターしながらこの薬物を投与して、実際に脳の回路がどのように働いていくかということを見ることができるようになりました。将来の臨床応用に向けて、霊長類のてんかんモデルを使って、てんかんの焦点にこの人工受容体を発現させることによって、焦点でてんかん波が出たときにDCZを投与することによって、てんかん波を抑えることができるようになりました。これによって、難治性てんかんで切除が難しいようなてんかんであっても、その回路をオフにすることができるということが証明できたわけです。
次に、我々が大きなターゲットとしております分子プローブというのはがんでありまして、もちろん、がんのイメージングの新しい化合物も作っておりますけれども、それと同時に、がんの内用療法、標識してイメージングをするだけではなく、化合物にβ-とかα線を放出する核種を標識することによって、その化合物ががんに到達すると、がんを死滅させるというような性質を持たせることができます。我々は、例えば、ここにお示ししますような、64Cu-ATSMという化合物を作りまして、これは低酸素領域に集まる化合物で β +と-を同時に出すので、PETで見ながら治療することができるわけで、これによる脳腫瘍の治験を国立がんセンターや神奈川県立がんセンターと開始しまして、現在、良好な結果を得ています。
我々はまた新しいα線核種も産生しまして、例えば、ポドプラニンという抗体にこれを結合させることによって、非常に高率に中皮腫を治療することができるようになっております。我々は、こういう分子プローブを合成する高度な治験薬GMP製造装置を持っているだけではなく、サイクロトロンを使って新しいα核種を製造する技術を持っております。それによって、我々は将来、今申し上げましたβ線、α線に続く、新しい治療用核種として、オージェ電子を放出するプラチナや、新しい、パラジウムといった放射性同位元素を製造するということを、現在、トライしているところです。
もう一つ、新しい分子プローブとして、我々は、NMRの技術をさらに高度化するということをしております。NMRの信号というのは非常に微量な信号なんですけれども、偏極率を極めて高く上げることによって、その信号を1万倍以上に拡大するという技術があります。これを超偏極技術と言うのですけれども、この超偏極技術を用いることによって、超偏極化した化合物が生体内でどのように代謝されていくか、または生体内でどのように分布していくかということを見ることができるようになります。現在、ピルビン酸が主にターゲットでありまして、海外ではピルビン酸が臨床使用されておりますが、我々は、ピルビン酸による代謝だけではなく、いろいろな化合物を作ることによって、がん、細胞死、老化、それらに対する各種酵素の活性というものを生体で見ていく、新しい分子プローブをつくろうとしております。
さらに、我々は新しい量子生命研究所で量子センサーというものを開発しております。これは、ダイヤモンドに量子ビームを当てることによって、ダイヤモンドの中に空孔を人工的につくることによって、そのダイヤモンドに二つの性質を持たせることができます。一つは、非常に高感度な、蛍光物質としてのダイヤモンド。もう一つは、ダイヤモンドそのものを、温度や電場や磁場などを検出することができる、センサーとすることができます。非常に高感度な蛍光物質としては、背景光を量子操作によってほとんどゼロにすることができるので、極めて高い検出感度を持った検出システムをつくることができます。
もう一つ、センサーとしては、例えば、これはマクロファージにナノダイヤを取り込ませて、マクロファージの中の温度変化とかpHの変化というものを見ることができますし、それを細胞に入れることによって、iPS細胞の性質の測定などに使うことができます。
一方、重粒子線治療については、QSTが臨床実績を上げることによって、現在、多くのがんが保険適用になってきました。さらに我々は、重粒子線治療を、回転ガントリーという新しい照射システムをつくるだけではなく、炭素イオンが中心になった現在の治療に加えて、ヘリウムとか、酸素とか、ネオンとか、マルチイオンを使って治療をしていく方法を開発しています。
そして重要なのは、巨大な第1世代の重粒子線治療装置比べて現在つくっております第4世代の重粒子線治療装置というのは極めて小さくなっておりまして、もともとの装置の20分の1の大きさです。さらに、これが第5世代になってくると40分の1の大きさになって、病院の治療室に普通に入るような大きさになってまいります。重粒子線治療は、現在、マルチイオンシステムを使うことによって、これまで腫瘍の中心部の治療効果が必ずしも十分でなかったものを、腫瘍の中心部に対しては、炭素よりも重い酸素イオンを使って照射することによって、極めて高い生物学的効果を出すことによって再発率を下げるというようなことを期待して、現在、治験が進んでおります。
もう一つは、これまで、重粒子あるいは放射線というと、がんの治療だったのですけれども、海外では不整脈に対してエックス線治療というものを用いられるようになっています。これは「Nature Communications」に出た海外の例ですけれども、Cardiac radiotherapyというもので、心臓の伝達路がリプログラミングされるというような報告もされております。我々は、ウサギを用いた不整脈の基礎研究で、重粒子線照射により心臓のギャップジャンクションのコネキシン40と43が増加することで伝導路の効率が変わるということを証明した上で、実際の臨床研究というものに着手することによって、まだ1例ですけれども、心室性の不整脈が減少して心拍出量が増加するというような成果も得ております。
QSTは、二つの研究所が統合したことによって、医学・医療だけではなく、先ほど申し上げました新しい領域として、量子技術イノベーション研究分野に、新しいセンシング技術だけではなく、量子論的な生命現象の解明というものも一つの視野に入っております。そのほかにも、核融合を中心としたエネルギー分野、さらに量子ビームを中心とした基礎科学分野を持っておりますので、核融合はさすがにちょっと難しいかもしれませんけれども、量子ビームを中心としたレーザー研究との連携は、ライフサイエンスにとっても極めて重要だと考えております。
今後の方向性として、がん領域では、先ほど申し上げました重粒子線のがん治療の高度化、標的アイソトープ治療に関しては、新たな治療標的を見つけると同時に、それに結合する分子を開発し、新しい治療用の核種の製造を行っていく。さらに、認知症研究では、PET imagingを中心に、産学連携で新しい治療法の評価を進めていきたいというふうに考えております。新しい量子生命科学領域では、超偏極MRIやナノ量子センサーの社会実装を視野に開発していくということを現在進めております。
以上でございます。どうも、御清聴、ありがとうございました。
【宮園主査】 どうもありがとうございました。
それでは、質疑応答に移りたいと思います。ただいま御発表いただきましたけれども、御発表に関する御質問や御意見がございましたら、ぜひお願いいたします。いかがでしょうか。
加藤委員、お願いいたします。
【加藤委員】 順天堂大学の加藤です。御発表、ありがとうございました。
二つ質問があるのですけれども、4大異常タンパクのPETなど、ほかにない技術をどんどん開発されて本当にすばらしいと思うのですが、脳の研究をしようという場合には、ほかの様々な技術と組み合わせて研究していく必要がある中で、先ほど出ました理研のCBSにはPETがなくて、QSTにはそのほかの神経研究の全ての基盤がそろっているわけではないという中で、理研CBSとの連携というものをどのようにお考えなのかというのが一つ目の質問です。
それから、超偏極MRIのお話があったのですが、これはアイソトープを使ったりするわけではないので、MRIを持っている施設に超偏極誘導するような装置を導入すると広く使える可能性もあるかなと思うんですけれども、QSTで技術を開発して、MRIを持っている研究施設に技術移転するとか、そういうような計画はあるのか。その二つについて、教えていただけますでしょうか。
【須原部門長】 CBSとの連携は、今後、どんどん進めていく考えでいます。これまでもCBSの西道先生のところからモデル動物を入れてきましたし、今後は人的な交流も含めて、CBSとは連携していこうと考えております。そこは、今後予算を取る中でも一緒に取っていくということを前提に考えております。
次に、超偏極の研究では超偏極プローブをつくるための超偏極化の装置は、臨床用装置はGEが出しているのですが非常に高価です。現在研究が進んでいるのは極低温の超偏極ですが、Q-LEAPという大型の枠組みの中で、大阪大学と室温の超偏極を目指しています。それが実用化されるとそれほど高価ではなく幅広く使えるだろうと考えています。ただ、超偏極研究では超偏極化するのにいろいろな薬剤を使うので、その後の分離精製が問題となります。そこで将来は偏極のための薬剤を使わない方法が開発できればより普及できるのではないかと考えています。
もう一つの問題は、超偏極プローブは半減期が極端に短いので、我々が開発しているプローブは半減期を長くできるような開発も行っています。
いずれにせよ、先生がおっしゃるように、いろいろなところで普及できるような体制をつくれるような、新しい偏極装置をつくることを前提に動いています。
【加藤委員】 分かりました。現状の超偏極誘導はPETと同じような化学合成技術とか半減期の短さ等で必ずしも汎用性が高くなくて、より汎用性の高い技術を開発してから、幅広くということですね。了解しました。ありがとうございます。
【須原部門長】 弱点を言うとまずいかなとは思うんですけれども、ただ、そこを克服するのがこのプロジェクトの目的ではあります。
【宮園主査】 どうもありがとうございました。
ほか、御意見、御質問等ありますでしょうか。
木下委員、お願いいたします。
【木下委員】 全体にわたるお話、どうもありがとうございました。非常によく分かりました。
1点、スペシフィックな御質問で恐縮なんですが、表紙というか、2枚目のところにNano Terasuに対しての言及がありますけども、後半では生命科学中心の話になったのであんまり触れられなかったのかなと思うのですが、新しくできる放射光施設として、Nano Terasuの展開みたいなことに関して、一言、二言いただけるとうれしいなと思います。
【須原部門長】 量子生命科学領域の中でNano Terasuに駐在している研究員がおりまして、その研究員が東北大学と連携して、生命科学にどの程度応用できるかということを現在調整しているところです。ただ、Nano Terasuの実験ポート、ビームラインが幾つかあるのですが、生物用のビームラインというのがちゃんと準備されていないので、生物用のビームラインをどう整備するかということに対して、どういうようなニーズが現状で高いかとか、先週、まさに東北大学の医学部と議論をしたのですけれども、ニーズを踏まえた、医学系の研究者が使いたいと思うようなプラットフォームをどう整備していくかというのがこれからの課題かなというふうに考えておりまして、Nano Terasuのセンター長ともその辺の話はしているところですが、順番から言うと物性系のほうが先に来ているみたいですけれども、できれば生物系が使えるプラットフォームも整備していきたいというふうに考えて、準備しているところではあります。
【木下委員】 ありがとうございます。ぜひ、生命系にも応用を進めていただければなと思います。ありがとうございます。
【宮園主査】 どうもありがとうございます。
ほか、いかがでしょうか。
それでは、私から一つお聞きしたいのですが、重粒子線、QSTでずっと発展させていただきまして、広く海外への普及等も含めまして大きく貢献していただいているのですけれども、これが小さくできるという話を聞いて大変心強く思っているところですが、治療の価格ですか、そういったものも含めて、これからはもう少し汎用性が高くなるというふうに期待してよろしいのでしょうか。
【須原部門長】 そうですね。現在、重粒子線の第1世代は、決して安くないし、内部的にも維持に相当苦労している大きな理由は、全体を冷やさないといけないということで、空調にお金がかかっています。小さくなるとそこのコストが大分下がってくるということで、一般の病院でもペイできるようになるであろうということなので、もちろん機械そのものの値段というところもありますけれども、メンテナンス費に関しては相当下がるというふうに考えております。
【宮園主査】 どうもありがとうございます。
ほか、いかがでしょうか。
よろしいでしょうか。
それでは、須原先生、どうも、大変ありがとうございました。QSTの御紹介は、ここまでとさせていただきます。
こちらから用意いたしました議題(1)に関しましては以上でありまして、次はその他ということになりますが、事務局、その他に移ってよろしいでしょうか。特に、事務局から追加はないですね。
【廣瀨ライフサイエンス課課長補佐】 大丈夫です。ただ、その他というものも、全体としての質疑応答でございますので、こちらのほうから用意した議題はございません。
【宮園主査】 本日予定しておりました議題は以上ですけれども、皆様から、何か御意見や御質問はございますでしょうか。
よろしいでしょうか。
ほかに御意見等がございませんでしたら、本日のライフサイエンス委員会はここまでとさせていただきたいと思います。
それでは、事務局から連絡事項をお願いいたします。
【廣瀨ライフサイエンス課課長補佐】 事務局でございます。本日は、活発な御議論、誠にありがとうございました。議事録につきましては、事務局作成の案を委員の皆様にお諮りし、主査の御確認を経た後、弊省ホームページにて公開いたします。
次回のライフサイエンス委員会の日程につきましては、また改めて御連絡させていただきます。
事務局からは、以上でございます。
【宮園主査】 どうもありがとうございました。
それでは、これで本日の議事は終了いたしましたので、ライフサイエンス委員会はこれにて閉会とさせていただきます。どうも、皆様、ありがとうございました。

―― 了 ――

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