1.審議の経過
生涯学習分科会は,平成15年7月以降,生涯学習の振興方策全般について議論を行ってきた。これまでの振興施策や生涯学習振興の現状等について委員間の自由討議,関係者からのヒアリング等を行いつつ,審議を進め,今回,これまでの審議の経過を審議経過の報告として一旦まとめてみたものである。
2.報告案の概要
1 生涯学習振興施策の経緯
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昭和56年の中教審答申,昭和59〜62年の臨教審答申等を踏まえ,生涯学習の振興に努力。
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平成2年の生涯学習振興法の制定等により,国,都道府県,市町村の生涯学習振興のための体制整備等(生涯学習担当部局,生涯学習審議会の設置等)は一定程度進展。また,平成13年の社会教育法の改正により,家庭教育支援や奉仕活動・体験活動推進のための行政体制の整備などは一定程度進展。
2 施策の課題
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生涯学習が,学校教育,社会教育,家庭教育,民間の行う各種の教育・文化事業・企業内教育等にわたるあらゆる教育活動,及び,スポーツ活動,文化活動,趣味・レクリエーション活動,ボランティア活動などの学習の中で行われるものであることが行政関係者等に浸透していない。生涯学習と社会教育との混同が見られる。
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公民館,図書館等の関係機関の取組が現在の社会の要請に必ずしも適合していない面がある。
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学習機会の提供,関係機関・団体等の間の連携,学習成果の評価・活用についても,様々な課題あり。
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生涯学習振興の基本的考え方が必ずしも明確に示されていない。
3 今後の生涯学習振興方策の基本的方向
1.生涯学習を振興していく上での基本的考え方
人々が,生涯のいつでも,自由に学習機会を選択して学ぶことができ,その成果が適切に評価されるような「生涯学習社会」の実現が目標。
そうした「生涯学習社会」は,
1
「個人の需要」と「社会の要請」のバランスを保つ。
2
生きがい・教養・人間的つながりなどの「人間的価値」の追求と「職業的知識・技術」の習得の調和を図る。
3
これまでの優れた知識・技術や知恵を「継承」しつつ,それを生かした新たな「創造」を目指す。
ことにより、絶えざる発展を目指す社会。
2.生涯学習を振興していく上で今後重視すべき観点
(1)国民全体の人間力の向上
国として,自立した個人の資質・能力の向上を通して,国民全体としての資質・能力の向上を目指すため,生涯学習の振興を図る。
(2)生涯学習における新しい「公共」の視点の重視
個人が社会に主体的に参加・参画することにより,新しい「公共」を形成するという視点に立って,社会をつくり,社会の活性化を図ることを目的とする。
(3)人の成長段階ごとの政策の重点化
人が成長する各段階ごとの課題を明らかにし,実施主体間の役割分担を明確にして連携を図り,緊急かつ重大なものに重点的に対応していく。
(4)国民一人ひとりの学習ニーズを生かした,広い視野に立った多様な学習の展開等
若者を含むあらゆる層の学習者の多様なニーズへの対応やあらゆる資源の把握と有効活用など,多様な学習の展開等により,人間的価値の追求と職業的知識・技術の習得を実現する。
(5)ITの活用
ITの活用を大幅に拡充することにより,時間的・空間的制約を越えた学習機会の提供や,学習資源の蓄積・共有を促進する。
4 近年の社会の変化と今後の重点分野
従来の重点分野
1.
社会人を対象としたリカレント教育の推進
2.
ボランティア活動の支援・推進
3.
青少年の学校外活動の充実
4.
現代的課題に関する学習機会の充実
例.
健康,家庭,まちづくり,高齢化社会,男女共同参画型社会,科学技術,国際貢献,環境等
(平成4年生涯審答申「今後の社会の動向に対応した生涯学習の振興方策について」において指摘。)
近年の社会の変化
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少子高齢化社会の進行
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高度情報化の進展と知識社会への移行
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産業・就業構造の変化
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グローバル化の進展
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科学技術の進歩
・
家庭の教育力・地域の教育力の低下
(中教審答申(平成15年3月20日))
留意すべき点
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景気の低迷等による若者のフリーター・失業者の増加等雇用問題への対応
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近年の都市化,核家族化,少子化等による家庭の教育力の低下への対応
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地縁的なつながりの減少等による地域の教育力の低下への対応
・
団塊の世代の高齢化による高齢者の増加に伴う医療費等の社会保障関係経費の増加等の問題への対応
・
グローバル化による産業の空洞化,少子高齢化等による地域社会の活力の低下への対応
国,地方公共団体,関係機関・団体等は,以下の分野に重点的に取り組むことが必要。
1.職業能力の向上
2.家庭教育への支援
3.地域の教育力の向上
4.健康対策等高齢者への対応
5.地域課題の解決
5 関係機関・団体等の活動の活性化のために
1.公民館,図書館,博物館等の社会教育施設
○しろまる
共
通の課題
・
開館時間の延長等の住民サービスの向上
・
施設の高度情報化
・
広域的な連携のためのネットワークの拡充
○しろまる
公
民館
・
社会の要請に的確に対応し,子どもや若者,働き盛りの世代も含めて,地域住民全体が気軽に集える,人間力の向上等を中心とした,コミュニティーのためのサービスを総合的に提供する拠点へと改善を図る。
○しろまる
図
書館
・
いつでも学習できる,教養の向上や実学のための地域の学習と情報の拠点として,設置数,サービスの質を大幅に向上。
・
レファレンス機能の充実のほか,横断的な蔵書の検索・予約,外部データベースの利用等情報化への対応。
○しろまる
博
物館
・
文化・文明の継承や,自然や環境の保全,知的生産の成果へのアクセス,国民全体の教養の向上,地域への学習資源の提供,郷土の文化の振興,地域の個性の確立,観光の拠点に。
・
子どもや外国人へのサービスの充実のため,例えば,外国語に堪能なボランティアを配置するなど,ボランティアの積極的な活用を促進。
2.大学等
・
社会人の受入れなど生涯学習機能をより一層果たすことが必要。このため,社会の要請にこたえたカリキュラム編成や実践的能力を持つ教員を広く社会から受け入れるなど生涯学習のニーズに対応した効果的な教育を達成することが重要。
3.国・地方公共団体等と関係機関・団体等との関係の見直し
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国・地方公共団体等とNPO・地域住民等との関係を,対等な立場の下に,積極的に協力し合う「協働」へと変えていく。
4.学習成果の評価・活用
・
学習成果を地域社会に還元し,地域の活性化や発展につなげる。
5.生涯学習振興を担う職員等の在り方
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図書館の司書等の生涯学習の振興を担う人材の資質・能力の向上を図る。
6 国・地方公共団体の今後の役割等
【国,都道府県,市町村の現状】
・
地方分権や市町村合併が進展。また,国,都道府県,市町村の財政状況は非常に厳しく,民間の役割の重要性が増大。
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国の情報が市町村に十分に伝わっていない,市町村等の実態が国に十分に伝わっていないとの指摘もある。
・
そこで,今後は,国,都道府県,市町村の役割や関係を以下のように変えていくことが求められる(法制度等の見直しの検討も必要。)。
1.基本的考え方
(1)国,都道府県,市町村の役割等
市町村
○しろまる
住民に最も身近な行政機関として,地域住民等と協力して,
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社会の要請・地域住民全体の多様な需要の双方に対応した学習機会の提供,図書館の整備など地域住民の生涯学習の支援
・
生涯学習を通じた地域づくり
等を主体的に実施。
都道府県
○しろまる
市町村を包括する広域の地方公共団体として,
・
大学,専門学校,民間教育事業者,職業訓練施設,公民館等との広域連携の機能を強化(学習情報の提供,学習成果の評価,関係機関・団体等のコーディネートや学習相談を行う人材の養成等)
○しろまる
市町村を補完する立場で,
・
ITの活用等を支援
国
○しろまる
自立した個人の資質・能力の向上を通して,国民全体としての資質・能力の向上を目指すことをナショナルミニマム(国民の最低限度の生活水準)の確保のために必要不可欠なものとして位置づけることが必要であるとともに,都道府県や市町村を補完する立場から生涯学習の振興を図ることが必要。
以下の施策に重点的に取り組む。
・
大学等における社会人の受入れの促進のための支援
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行政上の喫緊の課題として重点的に取り組むべき課題への対応
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都道府県,市町村では対応が困難な施策の実施(図書館の蔵書,博物館の収蔵品の全国的情報提供システムの構築等)
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ITの活用等についての競争的資金の提供や調査研究
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人材養成(図書館の司書等に対する研修・研修教材の作成等)
・
市町村等の現場の実態把握,先進事例の収集・情報提供,これらに関連しての都道府県や市町村と,大学や民間教育事業者,NPOなどのコーディネート
(2)
国,都道府県,市町村の関係
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国は,補助金の交付やそれに伴う指導・助言を中心とした関係から,対等・双方向の関係へと変える。また,国は,都道府県や市町村の提言を取り入れ,都道府県は,市町村の提言を取り入れるよう努める。このほか,国,都道府県,市町村は,民間の提言を取り入れるよう努める。
(3)
地域の実情に応じた施策の在り方
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地方公共団体の行財政能力や,大学や民間教育事業者,NPOの数などの状況が異なるため,大都市,中小都市,町村など地域の実情に応じた施策の在り方を考える。
2.行政内部の連携の在り方
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特に,職業能力開発分野について,文部科学省と厚生労働省との連携を強化するなど,関係各省との連携を強化する。
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教育委員会と首長部局の人づくり・まちづくりに関する部局等との連携の推進などにより,多角的な行政を展開する。