電気事業 ··························································································· 387
1.電力システム改革················································································· 387
1.1.電力小売全面自由化の進捗 ·································································· 387
1.2.新市場の整備 ·············································································· 387
2.電力需給························································································· 388
2.1.電力需要 ·················································································· 388
2.2.電力需給対策 ·············································································· 388
2.3.電気事業者別排出係数の算出・公表について ·················································· 389
3.電気料金の推移··················································································· 390
3.1.規制料金の改定············································································· 390
3.2.電気・ガス価格激変緩和対策事業····························································· 390
4.電力系統の取組··················································································· 391
5.審議会の開催状況················································································· 391
6.停電への対応····················································································· 391
7.発電事業の低炭素化に向けた取組··································································· 392
8.その他の動き····················································································· 392
8.1.関西電力の役職員による金品受領等の事案について············································· 392
8.2.送配電システム閲覧事案について····························································· 393
8.3.カルテル関連事案について··································································· 393
ガス事業 ··························································································· 394
1.ガス小売全面自由化とガス事業者数································································· 394
2.ガス需要························································································· 394
3.ガス事業関係の予算事業··········································································· 394
4.審議会等の開催状況··············································································· 394
熱供給······························································································ 395
1.熱供給事業の現状················································································· 395
原子力政策 ························································································· 396
1.原子力発電を巡る環境と政策対応··································································· 396
1.1.原子力発電を巡る内外の情勢 ································································ 396
1.2.国内における原子力政策を巡る動向 ·························································· 396
2.核燃料サイクル··················································································· 398
2.1.使用済燃料対策 ································································· 398
2.2.核燃料サイクル施設······························································ 399
2.3.核燃料サイクル施設に関する広聴・広報活動 ··········································· 400
2.4.再処理等の着実な実施 ···························································· 400
2.5.高レベル放射性廃棄物の最終処分 ··················································· 400 387電気事業
1.電力システム改革
1.1.電力小売全面自由化の進捗
2016 年4月から始まった小売全面自由化に際して、旧
一般電気事業や旧特定規模電気事業といった類型に代わ
る区分として、小売電気事業(登録制)
、送配電事業(許
可制)
、発電事業(届出制)という事業ごとの類型を設け
た。2023 年3月末現在、小売電気事業者 721 者、一般送
配電事業者 10 者、送電事業者3者、特定送配電事業者は
38 者、発電事業者は 1,069 者となっている。
全販売電力量に占める新電力のシェアは、2016 年4月
の小売全面自由化直後は約5%だったが、2017 年5月に
10%を超え、2023 年3月末現在では約 17.7%となってい
る。
(参照:第1図)
第1図:全販売電力量に占める新電力のシェアの推移
(出所)電力調査統計、電力取引報
また、2022 年3月末時点での新電力への切替(スイッ
チング)件数は約 1,649 万件、大手電力(旧一般電気事業
者)の自→内の契約の切替件数(規制→自由)は約 875 万
件であり、合わせて約 2,576 万件となっている。
(参照:
第2図)
第2図:
大手電力から新電力への切替(スイッチング)件数
(出所)電力取引報
卸電力取引所の取引量についても、
小売全面自由化以降
大幅に増加しており、
特に、
足下では全需要に占める取引
量の割合が4割程度で水準で推移している。
(参照:第3図)第3図:
卸電力取引所の取引量・全需要に対するシェアの推移
(出所)JEPX、電力広域的運営推進機関ホームページ
1.2.新市場の整備
2017 年に電力システム改革貫徹のための政策小委員会
中間取りまとめにおいて創設された5つの市場
(ベースロ
ード市場、
間接オークション・間接送電線市場、
容量市場、
需給調整市場、
非化石価値取引市場)
について詳細な制度
設計が進められた。
(参照:第4図)
ベースロード市場については、2019 年度から取引を開
始し、2021 年度からは、7月、9月及び 11 月の開催回に
加え、
1月に大規模事業者等の任意参加によるオークショ 388ンを実施した。なお、2022 年度開催のオークションでは
総量 94.5 億 kWh と過去最大の約定量となった。また、大
規模発電事業者が燃料費の変動リスクを大きく見積もり、
供出上限価格が大幅に上昇した事例や、
長期取引の現状を
踏まえ、
燃料費を事後的に精算する商品及び取引期間1年
超の長期商品等の導入の検討を開始した。
間接オークション・間接送電線市場については、
エリア
間の値差を解消するため、
日本卸電力取引所において、毎月オークションを実施した。なお、2022 年度の約定量は
中部-東京間の東京中部間連系設備(FC)において 116.2
万 kW が最大の約定量となった。
容量市場については、2022 年 11 月に第3回メインオー
クションが実施され、約定総容量は1億 6,271 万 kW とな
った。また、その約定結果の検証を踏まえ、第4回メイン
オークションに向けた制度見直しの検討を開始した。
需給調整市場については、2021 年4月からFITイン
バランス特例制度に起因する再生可能エネルギー予測誤
差に対応する調整力である三次調整力2の取引が開始さ
れ、沖縄を除く9エリアで日平均 266.9 万 kW が落札され
た。また、2022 年4月からは新たに三次調整力1の取引
を開始した。
一方で、
募集量に対し応札量が不足している
状況や、調整力の調達費用が高騰している状況を踏まえ、
調達量や価格規律等の観点から、
より効率的に調整力を調
達する方法について、検討を開始した。
非化石価値取引市場については、2018 年5月からFI
T非化石証書が、2020 年4月からは非FIT電源由来の
証書取引が開始され、11 月には初回オークションが実施
された。
また、
エネルギー供給構造高度化法の 2030 年 44%
の目標達成に向け、
目標到達の状況と到達に向け適切な取
組を行っているかを評価すべく、
中間目標値の仕組みが導
入され、2020 年度から第1フェーズ(2020〜2022 年度)
が開始された。
こうした中、
世界的な脱炭素化の動きの加
速化などにより急速にニーズが増大した電気の再エネ価
値への需要家アクセスの向上を実現するため、2021 年に
制度の抜本的な見直しを実施し、
エネルギー供給構造高度
化法上の義務達成のための市場とは別に、
需要家が直接参
加できる新たな再エネ価値の取引の場として、
FIT非化
石証書を対象とした再エネ価値取引市場を創設した。2021年 11 月から当該市場の取引が開始され、2022 年度分のオ
ークション(計4回)において、合計で約 163 億 kWh 分の
取引がなされた。
第4図:各制度の導入時期
2.電力需給
2.1.電力需要
2022 年度の総需要電力量は、9,354 億 kWh、対前年度比
1.6%減となった。2022 年度の主要な需要電力量は、次表
のとおりである。
(参照:第1表)
第1表:2022 年度の主要な需要電力量
(単位:百万 kWh)
総需要電力量 935,388
自家発自家消費 68,879
電気事業者計 866,509
また、
過去5年間における総需要電力量の推移は、
次表
のとおりである。
(参照:第2表)
第2表:過去5年間における総需要電力量の推移
(単位:百万 kWh、%)
年度 総需要電力量 伸び率
2018 年度 973,376 さんかく1.1
2019 年度 952,757 さんかく2.1
2020 年度 929,503 さんかく2.4
2021 年度 950,204 2.2
2022 年度 935,388 さんかく1.6
2.2.電力需給対策
夏季の電力需給見通しについては、5月 25 日に電力広
域的運営推進機関において、
電力需給検証報告書が取りま
とめられた。その後、5月 27 日に開催した総合資源エネ 389ルギー調査会 電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策
小委員会において、
夏季においては全国で電力の安定供給
に最低限必要とされる予備率3%以上を確保できる見通
しとなることが確認された。ただし、冬季は 10 年に一度
の厳しい寒さを 想定した場合に安定供給に最低限必要な
予備率が確保できていない状況となることが確認された。
こうした状況を踏まえ、
前年度3月の需給のひっ迫を経験
した中で、
安定供給の確保に万全を期す観点から、
2022 年
度夏季については、
最低限必要な予備率3%を確保できて
いるものの、
新型コロナウイルス感染症の影響等により経
済社会構造が変化する中での電力需要の増加、
ウクライナ
情勢等により燃料調達リスクの不確実性が高まること等
の可能性も想定されたことから、
状況推移をモニタリング
しつつ需給両面であらゆる対策を行った。
また、
需給ひっ迫の可能性を事前に幅広く周知する観点
から、
広域予備率が5%を下回る場合には、
需給ひっ迫注
意報を発令することとを決定した。
さらに、
電力需給ひっ
迫の可能性を伝えるため、
前々日の段階で注意喚起を促す
こととし、 注意報の基準を参考に、エリア予備率5%を
下回ると見込まれる場合に一般的な情報提供を行うこと
を決定した。
こうした中で、
6月としては異例の暑さによる電力需要
の大幅な増加により、
電力需給がひっ迫したことから、東京エリアで6月 27 日から 30 日までの4日間において電
力需給ひっ迫注意報を発令するとともに、
火力発電所の出
力増加、
自家発の焚き増し、
補修点検中の発電所の再稼働
や他エリアからの電力融通等の供給力の対策や節電要請
等の需要面での対策を行った。
冬季の電力需給についても、
厳しい見通しであったこと
から、追加供給力公募(kW 公募)を実施し、10 月 26 日に
電力広域的運営推進機関において、
電力需給検証報告書が
取りまとめられた。
その後、
11 月8日に開催した電力・ガ
ス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会において、
安定
供給に必要な供給力はかろうじて確保できるものの、
かな
り厳しい見通しとなっていること、また、世界的に燃料・
電力を取り巻く状況が厳しさを増していることも踏まえ、
状況の推移をきめ細かにモニタリングしつつ、
電力の安定
供給の確保に万全を期すこととし、電気事業者(発電・小
売電気事業者)に対しては、供給対策・市場対策に関する
要請を行った。また、燃料等の追加調達を行うための kWh
公募を行った。需要家に対しては、節電要請は行わず、無
理のない範囲で効率的な電力の使用
(省エネ)
への協力を
呼びかけることとした。
なお、2022 年度冬季においては電力需給は、1月下旬
に 10 年に一度の厳しい寒波に見舞われたものの、安定供
給に大きな支障は生じなかった。
2.3.電気事業者別排出係数の算出・公表について
「地球温暖化対策の推進に関する法律(温対法)
」に基
づき、
一般送配電事業者及び小売電気事業者から報告され
る事業者別排出係数について、
算出根拠及び内容の確認を
行い、公表を行った。 3903.電気料金の推移
3.1.規制料金の改定
2000 年の制度改正以降、
過去6度の料金改定
(2000 年、
2002 年、2004 年、2005 年、2006 年、2008 年)を経て、各
電力会社の電気料金は自由化分野、
非自由化分野問わず低
下傾向にあったが、2010 年度以降燃料価格の影響を受け、
増加傾向にある。
(参照:第5図)
東日本大震災後、
原子力発電所の停止や燃料価格の上昇
に伴い、
火力発電コストが増加し、
電気料金値上げ要因と
なった。2012 年度から 2015 年度にかけて、東京電力、関
西電力、九州電力、東北電力、四国電力、北海道電力、中
部電力の7社から供給約款変更認可申請があり、
料金値上
げを認可した。
その後、
関西電力においては原子力発電所
の再稼働に伴い、2017 年8月に料金値下げを実施した。
また、九州電力も同様に、2019 年4月に料金値下げを実
施した。
2022 年度には、ウクライナ侵略に伴う燃料価格の高騰
等を背景として、北海道電力、東北電力、東京電力エナジ
ーパートナー、北陸電力、中国電力、四国電力、沖縄電力
の7社から特定小売供給約款の変更認可申請があり、2023年6月に料金値上げが実施された。
(参照:第3表)
第3表:震災後のみなし小売電気事業者 10 社の電気料金
(規制料金)改定推移
(注記)1 規制料金原価の改定率。
(注記)2 激変緩和のための段階的値上げ(北海道:2014 年
11 月、関西:2015 年6月)を経た最終的な再値上げ
率。
(注記)3 2023 年度の料金値上げにおいてはレベニューキャ
ップ制度の導入に伴う託送料金の改定影響を除く。
3.2.電気・ガス価格激変緩和対策事業
【令和4年度第2次補正予算:3兆 1,074 億円】
2022 年 10 月 28 日に閣議決定された「物価高克服・経
済再生実現のための総合経済対策」に基づき、電気・都市
ガス料金の値上がりによって影響を受ける家計や企業の
負担を軽減するため、
2023 年1月使用分
(2月請求分)から、
電気・都市ガスの小売事業者等を通じた値引き支援を
実施した。
値上げ↗ 値下げ↘
北海道
2013.9: 7.73%
[2014.11: 12.43%]
2015.4: 15.33%
2023.6: 20.1%ー東 北
2013.9: 8.94%
2023.6: 21.9%ー東 京
2012.9: 8.46%
2023.6: 15.3%ー中 部 2014.5: 3.77% ー
北 陸 2023.6: 39.7% ー
関 ⻄
2013.5: 9.75%
[2015.6: 4.62%]
2015.10: 8.36%
2017.8: さんかく3.15%
2018.7: さんかく4.03%
中 国 2023.6: 26.1% ー
四 国
2013.9: 7.80%
2023.6: 23.0%ー九 州 2013.5: 6.23% 2019.4: さんかく1.09%
沖 縄 2023.6: 36.6% ー 391第5図:2010 年度〜2022 年度の電気料金平均単価の推移(みなし小売電気事業者 10 社の平均)
(注)電灯料金は、主に一般家庭部門における電気料金の平均単価で、電力料金は、主に工場、オフィス等に対する電気料金の平均単
価。平均単価は、電灯料収入、電力料収入をそれぞれ電灯、電力の販売電力量(kWh)で除して算出したもの。
(出所)発受電月報、各電力会社決算資料、電力取引報等を基に作成
4.電力系統の取組
我が国の基幹送電線
(各一般送配電事業者の上位2電圧
の送変電設備等を指す。ただし、沖縄は 132kV とする。)は、
再生可能エネルギーの導入量増加に伴い、
空き容量が
無くなる等の系統制約が顕在化してきた。
そこで基幹送電
線の運用方法を見直し、送電線の「隙間」に注目し既存送
電網を最大限活用する観点から
「日本版コネクト&マネー
ジ」の取組を行ってきた。
(参照:第6図)
このうち、ノンファーム型接続については、2021 年1
月から空き容量のない基幹系統での受付を開始した。
また、
基幹系統より下位のローカル系統においても、2023 年4
月よりノンファーム型接続の受付を開始する予定。2023
年1月末までに、
ノンファーム型接続による契約申込が約
900 万 kW、
その前段階の接続検討が 4,700 万 kW となった。
また、
将来の電源ポテンシャル等を考慮した
「プッシュ型」
による計画的な系統整備のために、
電力広域的運営推進機
関が、
中長期的なエネルギー政策との整合性を確保した系
統の展望として、
マスタープランを 2023 年3月に策定し、
公表した。
また、
ローカル系統の増強規律等について整理し、
発電
設備の設置に伴う電力系統の増強及び事業者の費用負担
等の在り方に関する指針を改正した。
第6図:日本版コネクト&マネージの進捗状況
5.審議会の開催状況
2021 年度には、総合資源エネルギー調査会 電力・ガス
事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会を計 14 回開催
し、
電力小売全面自由化等の進捗状況について計4回、事務局より報告を行った。また、2022 年3月及び6月の需
給ひっ迫を踏まえた対策や、
電力需給見通しを踏まえた供
給力確保策の検討、今後の火力政策、電気・ガス事業政策
の在り方等について議論を行った。
さらに、総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分
科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会を計
13 回開催し、非化石価値取引市場やベースロード市場等
の市場整備の方向性について議論するとともに、
計4回中
間取りまとめを行った。
6.停電への対応 392近年頻発する自然災害による大規模停電や送電線等の
被害により、
安定供給確保のための電力インフラのレジリ
エンス強化の重要性が高まっていることから、
強靱かつ持
続可能な電気の供給体制を確立するため、
災害時の連携強化(災害時連携計画の届出)
や災害等復旧費用の相互扶助、
送電網の強靱化、
災害に強い分散型電力システムなどを含
む「エネルギー供給強靱化法案」を 2020 年2月に閣議決
定し、同法案は6月に成立した。
また、
一般送配電事業者が作成する災害時連携計画(停電の早期復旧に向けた事前の備えと災害発生時の協力、地方自治体や自衛隊といった関係機関との連携に関する計
画)について、2021 年6月 30 日及び 2022年6月6日に
変更を受け付け、
災害が発生する前においても甚大な被害
が想定される場合、
被災が想定される一般送配電事業者が
応援派遣を要請できるように見直すとともに、2022 年4
月1日の改正電気事業法の施行を踏まえ、
各一般送配電事
業者が災害時に復旧要員の派遣など配電事業者への復旧
応援・応援要請を考慮する等の見直しを行った。
7.発電事業の低炭素化に向けた取組
第5次エネルギー基本計画(2018 年7月)に明記され
た非効率石炭のフェードアウトを着実に進めるため、1
2030 年に向けてフェードアウトを確かなものにする新た
な規制的措置の導入や、
2安定供給に必要となる供給力を
確保しつつ、
非効率石炭の退出を誘導するための仕組みの
創設、
3既存の非効率な火力電源を抑制しつつ、
再エネ導
入を加速化するような基幹送電線の利用ルールの抜本見
直しの具体策、について検討を行った。
石炭火力検討ワーキンググループ中間取りまとめ
(2021
年4月)に沿って、
「工場等におけるエネルギーの使用の
合理化に関する事業者の判断の基準」
を改正し、
石炭火力
の発電効率目標を 43%に引上げるとともに、石炭火力電力
供給業単独のベンチマーク指標を新設した。
また、総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科
会 電力・ガス基本政策小委員会において、2050 年カーボ
ンニュートラル実現に向けた火力電源管理の在り方や、各燃料種の特性等を踏まえた適切な火力ポートフォリオの
構築など、
安定供給の確保と脱炭素化の両立に向けた火力
政策の在り方について議論した。
小委員会における議論も踏まえ、
安定供給確保の観点か
ら非効率火力のフェードアウトの進捗を適切に管理する
ため、
大手石炭発電事業者に対して毎年度提出を求めてい
る「非効率石炭フェードアウト計画」について、火力全体
を対象とした
「脱炭素化計画」
として提出を求めることと
した。
送電系統の利用ルールについては、
再エネが石炭火
力等より優先的に系統を利用できるように、
当面はS+3
Eの観点から、CO2対策費用、起動費、系統安定化費用
といったコストや、
運用の容易さを踏まえ、
電源の出力を
制御する再給電方式の検討を進めた。2022 年 12 月下旬か
ら調整電源を出力制御する再給電方式
(調整力)
を開始し、
調整電源以外の電源も含め一定の順序により出力制御す
る再給電方式
(一定の順序)
を 2023 年 12 月末までに導入
する。
8.その他の動き8.1.
関西電力の役職員による金品受領等の事案について2019 年9月 27 日、関西電力の役職員が、福井県高浜町
の元助役から多額の金品を受領していたという事案が報
道により明らかになった。これを踏まえ、同日、経済産業
省は、
同社に対し、
電気事業法第 106 条第3項の規定に基
づき、本件に関する事実関係、原因究明を行った結果、他
の類似の事案の有無について、報告するよう求めた。
同社が設置した第三者委員会による調査の結果、2020
年3月 14 日、
同社から経済産業省に対する回答がなされ、
その内容を検証したところ、(1)役職員による多額の金品
受領、
(2)取引先等への不適切な工事発注・契約、
(3)ガ
バナンスの脆弱性等が認められた。
これを踏まえ、
経済産
業省は、電気事業法第 27 条第1項及び第 27 条の 29 にお
いて準用する同項の規定に基づき、同社に対して、(1)役
職員の責任の所在の明確化、(2)法令等遵守体制の抜本的
な強化、(3)工事の発注・契約に係る業務の適切性及び透
明性の確保、(4)新たな経営管理体制の構築を柱とする業
務改善命令を発出した。これに対し、3月 30 日、同社か
ら経済産業省に対して業務改善計画が提出された。
6月 29 日、同社から、業務改善計画に基づき、役職員
の責任の所在の明確化、法令等遵守体制の抜本的な強化・
健全な組織風土の醸成など再発防止に向けた具体的施策
の決定及びその実行状況について、
1回目の業務改善報告
を受けた。その業務改善に関する進捗に関して、10 月 13 393日に2回目の、
2021 年3月2日に3回目の、
12 月 27 日に
4回目の業務改善報告を受けた。
8.2.送配電システム閲覧事案について
関西電力送配電と関西電力が併用する託送システムに
おいて、
新電力の顧客に係る非公開情報が、
関西電力側か
ら閲覧可能な状態となっており、
関西電力の社員の多数が
情報を閲覧していた事案が発生した。
本事案が、
関西電力
が 2020 年3月 30 日に提出した業務改善計画に基づく具
体的施策を実施している中で発生したことを受け、2023
年1月 16 日、経済産業省は、法令等遵守の観点から、関
西電力に対して報告徴収を実施し、同年2月 17 日に回答
を受領した。
当該回答から、
一般送配電事業者の有する非
公開情報である関西電力以外の小売電気事業者と契約し
ている顧客情報の閲覧及び小売電気事業者間の適正な競
争環境を阻害する情報利用、
業務改善の実施中における法
令等遵守の観点から懸念がある事案の複数発生及び法令
等遵守の観点から懸念がある事案に対する組織、
報告体制、
仕組みの問題が明らかとなった。
法令等遵守体制や、
適正
な競争環境の確保の観点からの取組を一層強化していく
必要があることから、同年2月 21 日、経済産業省は、同
社に対しこれらの取組の強化等の緊急指示を行った。
さらに、2022 年年末から 2023 年初頭に一般送配電事業
者7社
(東北電力ネットワーク、
中部電力パワーグリッド、
関西電力送配電、
中国電力ネットワーク、
四国電力送配電、
九州電力送配電及び沖縄電力(送配電部門)
)による情報
漏えい等の不適切事案が明らかになったことを踏まえ、同年2月 10 日、経済産業省は、各一般送配電事業者 10 社
(北海道電力ネットワーク、
東北電力ネットワーク、
東京
電力パワーグリッド、
中部電力パワーグリッド、
北陸電力
送配電、関西電力送配電、中国電力ネットワーク、四国電
力送配電、九州電力送配電及び沖縄電力)に対し、一般送
配電事業における中立性・信頼性確保のための対応につい
て緊急指示を行った。
8.3.カルテル関連事案について
2023 年3月 30 日、公正取引委員会から、中部電力、中
部電力ミライズ、中国電力、九州電力、九電みらいエナジ
ー及び関西電力に対し私的独占の禁止及び公正取引の確
保に関する法律第3条の規定に違反する不当な取引制限
行為を行った旨の認定及び一部の事業者に対しては同法
第7条第2項の規定に基づく排除措置命令の発出が行わ
れた。
本事案は、
小売電気事業に係る法令等遵守の観点か
ら極めて問題のある事案であり、
小売電気事業の健全性確
保の観点から、同日、経済産業省は、対象事業者6社(中
部電力、中部電力ミライズ、関西電力株式会社、中国電、
九州電力及び九電みらいエナジー)
に対し、
法令等遵守の
ための指示を行った。 394ガス事業
1.ガス小売全面自由化とガス事業者数
2017 年4月のガス小売全面自由化に当たり、旧一般ガ
ス事業や旧簡易ガス事業といった事業類型に代わり、
ガス
小売事業(登録制)
、一般ガス導管事業(許可制)
、特定ガ
ス導管事業(届出制)
、ガス製造事業(届出制)という事
業類型を設けた。
2023 年3月 31 日時点で、ガス小売事業者は 1,360 者、
一般ガス導管事業者は 193 者、特定ガス導管事業者は 31
者、ガス製造事業者は 28 者となった。
2.ガス需要
2022 年度の総需要ガス量は、16,844 億MJ、対前年比
2.2%減となった。過去5年間における総需要ガス量の推
移は、次表のとおりである。
(参照:第4表)
第4表:過去5年間における総需要ガス量の推移
(単位:千MJ、%)
年度 総需要ガス量 伸び率
2018 年度 1,740,380,461 さんかく2.0
2019 年度 1,692,021,148 さんかく2.8
2020 年度 1,653,936,077 さんかく2.3
2021 年度 1,722,518,942 4.1
2022 年度 1,684,442,630 さんかく2.2
(出所)ガス事業生産動態統計調査
3.ガス事業関係の予算事業
2022 年度には以下の予算事業を実施した。
(1)天然ガス等利用設備資金に係る利子補給金
【令和4年度予算:3.5 億円】
地方都市ガス事業者等が天然ガスの安定的な調達に必
要な設備投資等に対して負担軽減のため利子補給を実施
した。
(2)災害時の強靱性向上に資する天然ガス利用設備導入
支援事業費補助金【令和4年度予算:6.7 億円】
【令和3年度補正予算:29.0 億円】
災害時にも対応可能な天然ガス利用設備の導入及び天
然ガスステーションの機能維持・強化を行う事業者に対し
補助することで、
天然ガスシフトの促進及び災害時の強靭
性の向上を図る事業を実施した。
4.審議会等の開催状況
ガス事業制度検討ワーキンググループにおける議論を
踏まえ、2022 年 10 月に「都市ガスの需給対策について」
を取りまとめた。2022 年 11 月には、ガス事業法と独立行
政法人エネルギー・金属鉱物資源機構法の一部を改正し、
供給面では、
民間企業による通常のLNG調達が困難であ
るような状況が発生した場合に備えて、
国が関与する形で
LNG調達の仕組みを整備し、
需要面では、
供給面であら
ゆる対策を講じ、
かつ、
ガスの使用量の節約の協力の呼び
かけ等の取組を講じてもなお、
ガスの需要に比べて供給が
不足する場合に備え、
国による最終的な需給調整の手段を
整備する等、需給両面の対策を講じた。また、ガス小売全
面自由化後のガス事業を取り巻く状況の検証結果、
都市ガ
スのカーボンニュートラル化に向けた検討等についての
審議も行った。
加えて、ガス事業は、2017 年4月の小売全面自由化や
2022 年4月1日の特別一般ガス導管事業者の法的分離等
のガスシステム改革に取り組んでおり、
ガス事業者も様々
な取組を始めている。一方、世界規模でのCO2削減に向
けた取組の強化・脱炭素化の要請、自然災害の頻発化・激
甚化に伴うエネルギー安定供給確保のためのインフラ強
靱化の要請に加え、
国際的なLNG需給構造の変化、
少子
高齢化・人口減少によるガス需要の変化、
デジタル化の進
展など、
ガス事業を取り巻く環境は大きく、
かつ急速に変
化している。我が国が 2050 年カーボンニュートラル、脱
炭素社会を実現するには、産業・民生・運輸(非電力)部
門(燃料利用・熱利用)においても、メタネーション等を
通じた脱炭素化を進めることが必要であり、
技術的・経済
的・制度的課題や、
その解決に向けたタイムラインを官民
で共有し、一体となって取組を進めるため、
「メタネーシ
ョン推進官民協議会」を4回開催した。また、個別に論点
の整理や方策の検討を行うため、
国内メタネーション事業
実現タスクフォースを3回開催し、
国内事業の実現に向け
た類型の整理等を行った。
さらに、
海外メタネーション事
業実現タスクフォースを計4回開催し、
海外事業の実現に
向けて必要となる仕組み等に関する議論を行った。 395熱供給
1.熱供給事業の現状
2016 年4月に実施された熱供給システム改革により、
許可制としていた熱供給事業への参入規制を登録制とし、
料金規制や供給義務などを撤廃し
(ただし、
他の熱源の選
択が困難な地域では、経過措置として料金規制を継続)、熱供給事業者に対し、
需要家保護のための規制
(契約条件
の説明義務等)を課した。
<登録事業者数>
2022 年度末時点 76 社 135 地区
(うち操業中) 73 社 131 地区
<事業主体>
熱供給事業の事業主体は、電力・ガス会社、第三セクタ
ー、不動産会社等が多い。
(参照:第5表)
第5表:熱供給事業の事業主体(事業者数・比率)
事業者数
(社)
比率(%)電力・ガス会社系 19 25%
石油会社系 4 5%
第三セクター 12 16%
不動産会社(デベロッパー)系 15 20%
運輸会社系 9 12%
製造会社系 4 5%
その他 13 17%
合計 76 100%
(注記)2022 年度末時点
<熱供給事業の売上額>
2021 年度:1,430 億円
<需要家の状況(2021 年度末)>
業務・商業施設:1,222 件
住宅:32,232 件 396原子力政策
1.原子力発電を巡る環境と政策対応
1.1.原子力発電を巡る内外の情勢
国内の原子力発電については、2023 年3月 31 日時点で
10 基が再稼働している(定期検査等で一時的に運転を停
止している原子力発電所も含まれる)
。また、設置変更許
可を受けたものの再稼働に至っていない原子力発電所は
7基である。
このうち、
中国電力島根原子力発電所2号機
について、2022 年6月には島根県から再稼働への理解表
明がなされている。
そのほかに、
建設中の原子力発電所も
含め、新規制基準への適合性を審査中の炉が 10 基、適合
性の審査へ未申請の炉が9基となっている。
一方、
廃止措置計画が認可され廃止措置中の実用発電用
原子炉が 18 基あり、特定原子力施設に係る実行計画を基
に廃炉が行われる東京電力福島第一原子力発電所6基と
合わせて、合計 24 基の実用発電用原子炉が運転を終了し
ている。
世界の原子力発電については、2023 年1月1日時点で
431 基
(約 40,928.1 万kW)
の炉が運転中、
72 基
(7,477.1
万 kW)の炉が建設中となっている。
(出典:世界の原子力発電開発の動向 2022(日本原子
力産業協会))。
1.2.国内における原子力政策を巡る動向
(1)政府方針
2021 年秋からの資源価格高騰や 2022 年2月のロシアに
よるウクライナ侵略等により、
我が国を取り巻くエネルギ
ー情勢は一変した。
エネルギー安定供給の確保が世界的に
大きな課題となる中、
GXを通じて脱炭素、
エネルギー安
定供給、
経済成長の3つを同時に実現するべく、
GX実行
会議や各省における審議会等での議論を踏まえ、
「GX実
現に向けた基本方針」が 2023 年2月に閣議決定された。
「GX実現に向けた基本方針」では、原子力について、安
全性の確保を大前提に、既存の原子力発電所の再稼働や、
運転期間の延長、
新たな安全メカニズムを組み込んだ次世
代革新炉の開発・建設、
最終処分を含めたバックエンドに、
政府を挙げて全力で取り組むことなどが盛り込まれた。
加えて、
2023 年2月に内閣府・原子力委員会が
「原子力
利用に関する基本的考え方」を改定し、2月 28 日には政
府としても尊重する旨の閣議決定がなされた。
これは、俯瞰的な立場から今後の原子力利用の在り方を示すもので
あり、
今回の改定では、
原子力のエネルギー利用がエネル
ギー供給における自己決定力の確保のために重要である
ことや、
国は原子力が電力の安定供給やカーボンニュート
ラルの実現に資するといった特性を有することを踏まえ
必要な措置を講ずるべきであること等が盛り込まれた。
これらの方針に基づく施策を具体化するため、
「脱炭素
社会の実現に向けた電気供給体制の確立を図るための電
気事業法等の一部を改正する法律案(GX脱炭素電源法案)」が閣議決定された。
また、これらの検討を踏まえ、2022 年 12 月の原子力関
係閣僚会議においては、
「今後の原子力政策の方向性と行
動指針案(以下、
「行動指針案」)」を取りまとめた。この
行動指針案では、
今後の原子力政策の主要課題への対応の
方向性として、
1再稼働への総力結集、
2既設炉の最大限
活用、3次世代革新炉の開発・建設、4バックエンドプロ
セスの加速化、5サプライチェーンの維持・強化、6国際
的な共通課題の解決への貢献を示した。
(2) 既設炉の最大限活用
第六次エネルギー基本計画(2021 年 10 月閣議決定)で
は、
「東京電力福島第一原子力発電所事故を経験した我が
国としては、
安全を最優先し、
経済的に自立し脱炭素化し
た再生可能エネルギーの拡大を図る中で、
可能な限り原発
依存度を低減する」ことに加え、
「2050 年カーボンニュー
トラルを実現するために、
(中略)原子力については、国
民からの信頼確保に努め、
安全性の確保を大前提に、
必要
な規模を持続的に活用していく。
こうした取組など、
安価
で安定したエネルギー供給によって国際競争力の維持や
国民負担の抑制を図りつつ 2050 年カーボンニュートラル
を実現できるよう、
あらゆる選択肢を追求する」
こととさ
れている。
こうした記載を踏まえつつ、
GX実行会議等における議
論が進められた結果、
「GX実現に向けた基本方針」
では、
「CO2を排出せず、出力が安定的であり自律性が高いと
いう特徴を有する原子力は、
安定供給とカーボンニュート
ラルの実現の両立に向け、
エネルギー基本計画に定められ
ている 2030 年度電源構成に占める原子力比率 20〜22%の
確実な達成に向けて、いかなる事情より安全性を優先し、
原子力規制委員会による安全審査に合格し、
かつ、
地元の 397理解を得た原子炉の再稼働を進める」とされた。加えて、
「既存の原子力発電所を可能な限り活用するため、
現行制
度と同様に、
「運転期間は 40 年、延長を認める期間は 20
年」
との制限を設けた上で、
原子力規制委員会による厳格
な安全審査が行われることを前提に、
一定の停止期間に限
り、
追加的な延長を認めることとする」
ことが盛り込まれ
た。
2023 年2月、こうした運転期間に関する規律の整備に
関する内容を盛り込んだ
「脱炭素社会の実現に向けた電気
供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正
する法律案」が閣議決定された。
(3)次世代革新炉の開発・建設
2050 年カーボンニュートラル実現に向けては、原子力
を含めたあらゆる選択肢を追求することが重要である。欧米では、
既設炉への財政支援等に加え、
革新炉についても、
大規模予算支援の下、イノベーションが加速している。
こうした海外の動向も踏まえつつ、
原子力イノベーショ
ンを通じて、
再エネとの共存、
水素社会への貢献といった
新たな社会デザインを提示するとともに、
革新炉を含めた
原子力全体のサプライチェーンの維持・強化が必要である。
以上を踏まえ、
原子力発電の新たな社会的価値を再定義
し、
我が国の炉型開発に係る道筋を示すため、
総合エネル
ギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会の下に
「革新炉ワーキンググループ」
を設置した。
2022 年4月か
ら6回開催し、原子力の新たな社会的価値を再定義した上
で、
国内の炉型開発に係る課題を整理しつつ、
その戦略を
示した革新炉開発の技術ロードマップの骨子案を取りま
とめた。
高速炉については、2016 年 12 月の「もんじゅ」廃炉決
定の後、
高速炉の研究開発の支援方針を改めて明確化する
ため、2018 年 12 月、原子力関係閣僚会議において、
「戦
略ロードマップ」を決定している。これまでに、複数の高
速炉技術に対する政策支援を継続実施してきたが、
技術間
競争(ステップ1:〜2023 年)から、技術の重点化(ステ
ップ2:2024〜)
への移行に向けて、
2022 年8月までに、
専門家による技術的評価を実施。
技術成熟度や市場性等の
観点から、
常陽やもんじゅ等での蓄積があるナトリウム冷
却が最有望と評価された。
これを踏まえ、
今後の支援方針
の明確化等に向けて、2022 年 12 月の原子力関係閣僚会議
にてロードマップを改訂し、
支援対象・進め方のイメージ
を具体化した。
高温ガス炉については、2020 年 12 月に策定されたグリ
ーン成長戦略における原子力産業分野の実行計画におい
て、
「2030 年までに高温ガス炉における水素製造に係る要
素技術確立」
とされており、
2021 年度より、
超高温を利用
した水素大量製造技術実証事業を開始し、
高温ガス炉試験
炉HTTRを活用した水素製造試験等を実施した。
また、2023 年2月に閣議決定された「GX実現に向け
た基本方針」では、
「エネルギー基本計画を踏まえて原子
力を活用していくため、
原子力の安全性向上を目指し、新たな安全メカニズムを組み込んだ次世代革新炉の開発・建
設に取り組む」ことが盛り込まれた。
(4)廃炉に関する議論
我が国では、既に全国 18 基の実用発電用原子炉の廃止
が決定されており、2020 年代半ば以降には、これまで実
績のない原子炉領域の設備解体等の作業が順次本格化し
ていく見通しである。
現在稼働中の原子炉を含め、
円滑か
つ着実な廃炉に向けた態勢を整備することは、
我が国全体
にとっての大きな課題となっている。
こうした状況の中、
廃止措置を関する課題を更に整理し、
解決に必要な事業体制や資金確保の在り方等を検討する
ため、
2022 年6月、
総合エネルギー調査会電力・ガス事業
分科会原子力小委員会の下に
「廃炉等円滑化ワーキンググ
ループ」
(以下、
「WG」という。
)が設置された。同年 11
月、
WGにおいて、
着実かつ効率的な廃止措置を実現する
ため、国による一定の関与・監督の下、我が国全体の廃止
措置の総合的なマネジメント等を行う認可法人を設置す
るとともに、
我が国全体の原子力発電所の解体等に要する
費用を含め、
認可法人の業務全体に要する費用を、
拠出金
として原子力事業者から当該法人に拠出することを義務
付ける制度を創設することが適当である旨の中間報告が
取りまとめられた。
WG中間報告の内容を踏まえ、
円滑かつ着実な廃炉を推
進するための制度措置を検討し、2023 年2月、この制度
措置も盛り込んだ
「脱炭素社会の実現に向けた電気供給体
制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法
律案」が閣議決定された。 398(5)サプライチェーンの維持・強化
日本国内では、1970 年以降に運転開始した原発の多く
で、原子力技術の国産化比率がほぼ 90%を超えるなど、
国内企業に技術が集積されており、
国内の発電所の安定利
用や経済・雇用等に貢献してきた。一方、東日本大震災以
降では再稼働の遅れや新規建設プロジェクトが途絶し、国内事業者の多くが将来の事業見通しが立たず、
要素技術を
持つ中核サプライヤ等の撤退が相次いでいる。
このため、2023 年2月に閣議決定された「GX実現に
向けた基本方針」では、
「研究開発や人材育成、サプライ
チェーン維持・強化に対する支援を拡充する。また、同志
国との国際連携を通じた研究開発推進、
強靱なサプライチ
ェーン構築、
原子力安全・核セキュリティ確保にも取り組
む」といった旨が盛り込まれた。
こうした状況を踏まえ、2023 年3月には、原子力サプ
ライチェーンシンポジウムの開催を通じて、
地方経済産業
局や日本原子力産業協会等の関係機関と連携し、
「原子力
サプライチェーンプラットフォーム(Nuclear Supply
Chain Platform)
」を設立し、全国約 400 社の原子力関連
企業の個別の実情に応じてハンズオンで積極的にサポー
トを行うために、1戦略的な原子力人材の育成・確保、2
部品・素材の供給途絶対策、事業承継、3海外PJへの参
画支援など、
サプライチェーン全般に対する支援態勢を構
築した。
(6)我が国原子力産業の国際社会への貢献
東京電力福島第一原子力発電所事故の経験と教訓を世
界と共有することが重要であり、
これにより、
世界の原子
力安全の向上に貢献していくことは、
我が国が果たすべき
責務である。
このため、日本が有する人材・技術・知見を以て国際社
会へ貢献するため、国際原子力機関(IAEA)が行う加
盟国への原子力基盤整備支援、
知識継承、
一般理解の促進
支援等の活動を支援した。
また、
原子力安全も含め、
福島第一原子力発電所の廃炉
や研究開発等、
原子力の幅広い分野について原子力利用先
進国との協力を一層強化するため、
各国との対話を行った。
具体的には、
日仏高速炉執行委員会、
日英原子力年次対話
等を開催した。
原子力発電を新たに導入・拡大しようとする国に対して
も、
世界の原子力安全の向上や原子力の平和的利用に貢献
すべく、
我が国の原子力事故から得られた教訓等を共有す
る取組を行っている。2022 年度はフィリピン、インドネ
シア、チェコ、ベトナム、ポーランド、ガーナ、エストニ
ア等について、
WEBセミナーの開催や我が国専門家等の
外国への派遣等を通じて、
原子力発電導入に必要な法制度
整備や人材育成等を中心とした基盤整備の支援を行った。
(7) 立地地域との共生への取組と国民との相互理解を
深めるための取組
原子力を含む我が国のエネルギー原子力政策の理解促
進に関する情報提供・広聴・広報活動を行い、立地地域を
始めとして原子力発電施設に対する国民の理解促進に向
けて様々な機会を設けて取り組んできたところ。
2022 年度における具体的な取組としては、1オンライ
ンメディアでの記事配信、新聞広告、交通広告配信、特設
ウェブサイトへの誘導等複数のメディアを組み合わせた
広報活動、
2次世代層を対象とした地域イベント等の出展
や大学生を対象とした説明会・対話活動、3自治体、民間
団体等が主催する講演会等へエネルギー、
原子力、
放射線
等に関する専門家の派遣、
4地域に根差して活動するNP
O等団体に対するオンライン研修、
5各立地地域のステー
クホルダーを対象とした勉強会や意見交換等を行った。
さらに、
原子力発電施設等の立地地域の実情・ニーズを
踏まえて、地域資源の活用とブランド力の強化を図る産
品・サービスの開発、販路拡大、PR活動等の地域の取組
支援や交付金の交付を行い、
立地地域への集客向上、
雇用
の確保、新たな産業の創出等を目指す取組を行った。
2.核燃料サイクル
使用済燃料を再処理し、
回収されるプルトニウム等を有
効利用する「核燃料サイクル」の推進は、エネルギー基本
計画(2021 年 10 月)において、我が国の基本的方針とさ
れている。
2.1.使用済燃料対策
2015 年 10 月には、最終処分関係閣僚会議において、政
府として使用済燃料対策について積極的に関与し、
使用済
燃料の貯蔵能力拡大を目指す
「使用済燃料対策に関するア
クションプラン」
を策定。
使用済燃料対策に関する具体的 399考え方等を示すとともに、
事業者に対して
「使用済燃料対
策推進計画」
の策定を要請した。
上記アクションプランを
受け、同年 11 月、経済産業省と事業者は「使用済燃料対
策推進協議会」
を設置。
同協議会にて、
電力事業者は、
「使
用済燃料対策推進計画」
を策定し、
貯蔵能力の拡大に取り
組むこととしている。
具体的には、
事業者全体で、
2020 年
代半ばに計 4,000 トン程度、2030 年頃に計 6,000 トン程
度の使用済燃料の貯蔵対策を目指すこととした。
2.2.核燃料サイクル施設
(1)再処理工場
日本原燃株式会社が青森県六ヶ所村に建設中の六ヶ所
再処理工場は、2006 年3月から実際の使用済燃料を用い
た最終的な総合試験
(アクティブ試験)
を開始し、
2013 年
5月に事業者が行う全ての試験を終了した。
また、新規制基準(2013 年 12 月施行)に適合する必要
があることから、日本原燃は 2014 年1月に原子力規制委
員会へ再処理事業の変更許可申請を行い、2020 年7月に
許可を取得。さらに、2022 年 12 月に再処理施設に関する
設計及び工事の計画の変更の認可申請を行い、
同工場のし
ゅん工に向けて、引き続き取組を進めている。
(2)ウラン濃縮工場
青森県六ヶ所村の日本原燃株式会社ウラン濃縮工場に
ついては、新型遠心機への更新工事を 2010 年3月から段
階的に進めている。2012 年3月に初期導入の前半分 37.5
tSWU/年を、2013 年5月に後半分 37.5tSWU/年について
生産運転を開始。また、新規制基準(2013 年 12 月施行)
に適合する必要があることから、
日本原燃は原子力規制委
員会へ 2014 年1月に加工事業の変更許可申請を行い、
2017 年5月に許可を取得した。
2017 年9月から、新規制基準対応工事のため、生産運
転を一時停止中。初期導入の 75tSWU/年から、追加分の
75tSWU/年について 2022 年2月に加工施設に関する設計
及び工事の計画の変更の認可を取得し、
運転再開に向けて
引き続き取組を進めている。
(3)MOX燃料工場
日本原燃株式会社が青森県六ヶ所村に建設中のMOX
燃料工場については、2010 年 10 月に着工した。その後、
東日本大震災の影響により建設工事を一時中断していた
が、
2012 年4月から再開した。
また、
新規制基準
(2013 年
12 月施行)に適合する必要があることから、日本原燃は
2014 年1月に原子力規制委員会へ加工事業の変更許可申
請を行い、2020 年 12 月に許可を取得した。また、2022 年
9月にMOX燃料加工施設に関する設計及び工事の計画
の変更の認可申請を行い、
同工場のしゅん工に向けて、引き続き取組を進めている。
(4)中間貯蔵施設
リサイクル燃料貯蔵株式会社の使用済燃料中間貯蔵施
設については、青森県むつ市において、2010 年8月に着
工した。なお、2011 年3月 11 日の東日本大震災の影響に
より、同施設の貯蔵建屋の建設工事を休止していたが、
2012 年3月から工事を再開し、2013 年8月に工事が終了
した。また、新規制基準(2013 年 12 月施行)に適合する
必要があることから、リサイクル燃料貯蔵株式会社は
2014 年1月に原子力規制委員会へ事業変更許可申請を行
い、2020 年 11 月に許可を取得した。なお、2023 年度に貯
蔵容量 3,000 トン規模での事業開始を見込んでおり、
最終
的に貯蔵容量を 5,000 トンまで拡大する予定。
(5)プルトニウムバランスの確保
我が国は、原子力委員会が 2018 年7月に公表した「我
が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」
に基づ
き、
利用目的のないプルトニウムは持たないとの原則を引
き続き堅持し、
プルトニウム保有量の削減に取り組む方針
である。
再処理によって回収されたプルトニウムを既存の
原子力発電所
(軽水炉)
で利用するプルサーマルについて、
電気事業連合会は、2020 年 12 月に、基本的なプルサーマ
ル導入の方針を示す新たなプルサーマル計画を公表し、地元理解を前提に、
稼働する全ての原子炉を対象に一基でも
多くプルサーマル導入を検討するとともに、2030 年度ま
でに少なくとも 12 基でのプルサーマルの実施を目指す旨
を表明した
(その後、
2021 年2月に、
より具体的なプルト
ニウムの利用見通しを示すプルトニウム利用計画も公表
(2023 年2月改定))。
さらに、
日本原燃からも 2020 年 12
月に六ヶ所再処理工場などの操業計画が示された(2023
年2月改定)。これらを踏まえ、
再処理事業の実施主体である使用済燃 400料再処理機構が中期計画を策定、2023 年3月に経済産業
省が原子力委員会の意見も聴取した上で認可し、
プルトニ
ウムの回収と利用のバランスの確保に向けた具体的な取
組方針が示されている。
2.3.核燃料サイクル施設に関する広聴・広報活動
核燃料サイクル施設に関する広聴・広報活動として、東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえ、
立地地域の住
民の方々との信頼関係を構築するため、
今後の原子力を含
むエネルギー政策等に関する情報提供や、
立地地域の住民
と双方向のコミュニケーションを図り、
核燃料サイクルに
ついて理解促進活動を実施した。
具体的な取組として、2022 年度は、主に青森県民向け
に年間4回の定期刊行物及び次代を担う子どもたち向け
の刊行物の発行、
青森県六ヶ所村、
むつ市及び隣接市町村
等における住民が多く訪れる場所や各種イベントでの広
報展示等を実施した。
また、
原子力・核燃料サイクル政策に対する国民全体の
理解を得られるよう、全国的に広報活動を実施した。
2.4.再処理等の着実な実施
再処理等が将来にわたって着実に実施されるよう、
再処
理等拠出金法に基づき、
使用済燃料再処理機構は拠出金の
収納等を行った。
2.5.高レベル放射性廃棄物の最終処分
(1)科学的特性マップの公表後の対話活動などの取組
2017 年に「科学的特性マップ」
(地層処分に関する地域
の科学的特性マップについて全国地図の形で客観的に色
分けしたもの)
を公表し、
地層処分という処分方法の仕組
みや我が国の地下環境等に関する国民理解・地域理解を深
めていただくため、
最終処分事業の実施主体である原子力
発電環境整備機構
(NUMO)
と共催で全国での対話活動
を行っている。2019 年に総合資源エネルギー調査会 放射
性廃棄物ワーキンググループにおいて取りまとめた
「複数
地域での文献調査に向けた当面の取組方針」
に基づき対話
活動を続ける中で、地層処分事業を「より深く知りたい」
と考える経済団体、大学・教育関係者、NPO等全国で約
160(2022 年 12 月末時点)の関心グループが勉強会や情
報発信などの多様な取組を実施している。
さらに、
2023 年2月には、
資源エネルギー庁主催で、いまわたしたちが直面している地層処分問題にどのように
向き合い、取り組むか、ともに考えるシンポジウム「わた
したちの子どものための街づくり〜地層処分問題と共創
する未来〜」を開催した。
2020 年 11 月に北海道寿都町、神恵内村で文献調査が開
始され、NUMOが両町村に、
「NUMO寿都交流センタ
ー」、「NUMO神恵内交流センター」を 2021 年3月に開
設し、同年4月より、両町村とNUMOで「対話の場」を
立ち上げた。2023 年3月末までに寿都町で 15 回、神恵内
村で 13 回開催した。
「対話の場」は、地元住民をメンバー
として、
中立的な立場のファシリテーターによる進行によ
り、
地層処分の安全性や文献調査の進捗状況などについて
議論を深めている。また、
「対話の場」から派生した取組
として、有志による「まちの将来に向けた勉強会」の立ち
上げや青森県六ヶ所村の核燃料サイクル関連施設や日本
原子力研究開発機構
(JAEA)
幌延深地層研究センター
への視察なども行われた。
なお、
NUMOによる文献調査
では、地域固有の地質や活断層、火山などに関する文献・
データを収集した。
文献調査の取りまとめに向けて、2022年 11 月から総合資源エネルギー調査会地層処分技術ワー
キンググループが評価の考え方について議論を行ってい
る。
こうした中、
最終処分の実現に向け、
政府を挙げて取組
を進める旨の総理の発言を受け、2022 年 12 月に構成員を
拡充した
「最終処分関係閣僚会議」
を開催、
2023 年2月に
は同会議で
「特定放射性廃棄物の最終処分に関する基本方
針」の改定案を取りまとめた。本改定案では、国を挙げた
体制構築、
有望地点の拡大に向けた活動強化、
国の主体的・段階的な対応による自治体の負担軽減、
判断の促進、
国に
よる地域の将来の持続的発展に向けた対策の強化が盛り
込まれた。
(2)放射性廃棄物の処分に関する調査・研究
高レベル放射性廃棄物等の地層処分技術の信頼性・安全
性のより一層の向上に向け、
深地層の研究施設を活用した
試験や解析等の実施により、
岩盤中の地下水の流動を調査
してモデル化する手法の検討や、
ガラス固化体の外側に設
置されるオーバーパックや緩衝材といった人工バリア材
料の長期的な特性の評価技術開発、
坑道の閉鎖技術の実証 401等を進めた。
また、
沿岸部を対象とした地質や地下水流動
の調査手法や、
廃棄体を迅速に回収するための緩衝材の除
去技術の検討や、
回収可能性を維持した場合の処分坑道の
長期的な安定性の検討を進めた。
使用済燃料の再処理施設やMOX燃料工場の操業や解
体に伴って発生するTRU廃棄物の処理・処分技術の高度
化に資するために、
核種の閉じ込め性能を強化した廃棄体
パッケージの製作や、
TRU廃棄物に含まれている岩盤に
吸着しにくい核種を閉じ込めるための技術開発を進めた。
2023 年度からの5箇年の地層処分研究開発に関する全
体的な計画について、
地層処分研究開発調整会議
(第7〜
10 回)における議論を経て、2023 年3月に公表した。
廃炉に伴い発生する低レベル放射性廃棄物の中深度処
分に関する調査研究では、
地下にかかる圧力を三次元的に
測定する機器の開発を進めるとともに、
処分場における地
震動の影響や、処分場の設計概念の検討を進めた。

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