第5章 2022 年度税制改正の概要 ···································································· 6868第5章 2022 年度税制改正の概要
「令和5年度税制改正大綱」に盛り込まれた、主な経済
産業関係税制改正事項は以下のとおりである。
大きなリスクを取ったエンジェル投資・企業を促進
するためのエンジェル税制の見直し
オープンイノベーション促進税制の拡充
パーシャルスピンオフ税制の創設
ストックオプション税制の拡充
国外転出時課税制度に関する納税猶予の手続き簡素化 暗号資産の保有に係る期末時価評価課税の見直し
企業の教育への積極的な関与を促進するための税制
上の所要の措置
研究開発税制の拡充及び延長
DX (デジタルトランスフォーメーション)投資促
進税制の見直し及び延長
車体課税の見直し及び延長
バイオエタノール等揮発油に係る課税標準の特例の
延長
非製品ガスに係る石油石炭税の還付制度税制の延長
電気・ガス供給業の収入金課税の見直し
特定小型原動機付自転車に係る所用の措置
中小企業経営強化税制の延長
中小企業投資促進税制の延長
生産性向上や賃上げに資する中小企業の設備投資に
関する固定資産税の特例措置の新設
外形標準課税のあり方
中小企業者等の法人税率の特例の延長
中小企業技術基盤強化税制の拡充及び延長
中小企業防災・減災投資促進税制の拡充及び延長
インボイス制度導入に伴う、中小・小規模事業者等
の負担軽減・影響最小化に係る所要の措置
地域未来投資促進税制の拡充及び延長
経済のデジタル化等に対応した新たな国際課税制度
への対応
外国子会社合算税制の見直し
1.経済産業省関連 2022 年度税制改正要望の経緯
2022 年度税制改正は、自民党税制調査会、公明党税制
調査会及び与党税制協議会において議論された。
経済産業省は、経済産業省税制改正要望を取りまとめ、
8月 31 日に財務省及び総務省に提出した。その後、自民
党・公明党の税制調査会での議論を経て、
「令和5年度税
制改正大綱」が 12 月 23 日に決定された。
2.2022 年度経済産業関連税制改正
2022 年度の主な経済産業関連税制改正事項は以下のと
おり。
2.1.スタートアップ・エコシステムの抜本強化
大きなリスクを取ったエンジェル投資・企業を促進
するためのエンジェル税制の見直し
事業化前段階(プレシード・シード期)は、
事業成功の見通
しが不透明でリスクが高い投資領域であるが、
機関投資家
が投資しにくいステージであるため、
個人によるエンジェ
ル投資が重要である。
また、
失敗時のリスクに対する懸念
から、我が国の開業率・企業マインドは低く、起業を促進
する必要がある。このため、エンジェル税制について、20
億円を上限に、
1プレシード・シード期のスタートアップ
への投資を課税の繰延から非課税にするとともに、
2起業
家による会社設立のための出資も非課税措置とする拡充
を行った。また、エンジェル税制の利便性を向上し、エン
ジェル投資の裾野拡大のため、
申請手続きの簡素化を行っ
た。
オープンイノベーション促進税制の拡充
2022 度に拡充・延長されたオープンイノベーション促進
税制について、
スタートアップの成長に資するM&Aを後
押しするため、
特にスタートアップの成長に資するものに
限定し、
M&A時の発行済株式の取得に対しても所得控除
25%を講じる拡充を行った。
パーシャルスピンオフ税制の創設
事業再編を促進し、大企業発のスタートアップの創出や、
事業ポートフォリオの最適化により我が国企業・経済のさ
らなる成長を図ることは喫緊の課題であり、
現在の企業グ
ループに留まっていては成長戦略の実現が難しい事業を
分離・独立させることにより、企業が有する経営資源(人
材、技術等)の潜在力を発揮させることの重要性が一層高69まっている。
このため、
元親会社に一部持分を残すパーシャルスピンオ
フについても、
一定の要件を満たせば再編時の譲渡損益や
配当に対する課税を対象外とする特例措置を創設した。
ストックオプション税制の拡充
ストックオプションは、
手元にキャッシュが乏しいスター
トアップ企業にとって、
有効な人材確保の手段である。ディープテックなど事業化まで時間を要するスタートアッ
プ等を後押しするため、
設立から5年未満の未上場企業に
ついて、
税制適格ストックオプションの行使は、
付与決議
の日後 15 年(改正前:10 年)を経過する日までの間に行
わなければならないこととし、権利行使期間を延長した。
国外転出時課税制度に関する納税猶予の手続き簡素化スタートアップの海外進出を促進するため、
株券不発行で
も、
質権設定による担保提供を可能にするとともに、
持分
会社の持分の担保提供も可能とする等の見直しを行った。
暗号資産の保有に係る期末時価評価課税の見直し
Web3.0 について、新規事業立ち上げ等に支障のない事業
環境を整備するため、
自己が発行した暗号資産でその発行
時から継続して保有し続けているもののうち、
一定の要件
を満たすものについて、
期末時価評価課税の対象外とする
措置を講じた。
2.2.人への投資・イノベーション促進とカーボンニュ
ートラルへの対応のための取組
企業の教育への積極的な関与を促進するための税制
上の所要の措置
大学や高等専門学校等において、
実社会で活躍できる人材
の育成を行っていくことは重要である。
そのため、
私立の
大学・高専・専修学校(大学卒業相当)を設置する学校法人
等の設立のために企業等が支出する寄附金について、
一定
の要件を満たした場合は、
これまで必要とされていた個別
審査を行わずに全額損金算入を可能とする措置を講じた。
研究開発税制の拡充及び延長
民間の研究開発投資の維持・拡大を促し、
メリハリの効い
たインセンティブをより多くの企業に働かせるため、
一般
型の控除上限・控除率の見直しを行うとともに、
スタート
アップとの共同研究や高度研究人材の活用を促進するた
め、
オープンイノベーション型におけるスタートアップの
定義の見直しや博士・外部研究者など高度研究人材の活用
を促す措置を創設した。
さらに、
デジタル化への対応やよ
り質の高い試験研究を後押しする観点から、
試験研究費の
範囲の見直しを行った。
DX(デジタルトランスフォーメーション)投資促
進税制の見直し及び延長
日本企業が、
DX推進において課題となっているデジタル
人材の育成・確保に取り組むとともに、
成長性の高い海外
市場の獲得を含めた売上上昇につながる
「攻め」
のデジタ
ル投資に踏み切ることを後押しするため、
要件を見直した
上で、適用期限を2年間延長した。
車体課税の見直し及び延長
・厳しい物価高と納期長期化に直面する消費者の負担増
を踏まえ、エコカー減税・環境性能割について、異例な措
置として制度を 2023 年末まで据え置くとともに、クリー
ンディーゼル車に対する取扱いについても 2023 年末まで
延長することとした。また、据え置き期間後は、燃費性能
の向上を踏まえつつ、現行の優遇規模を維持する形で
2025 年度までの見直しを実施することとした。
・自動車の枠を超えたモビリティ産業の発展に伴う経済
的・社会的な受益者の広がり等を踏まえつつ、
自動車関係
諸税のあり方を中長期的な視点で検討することとし、
その
際、
電気自動車等の普及や市場の活性化等の観点から、利用に応じた負担の適正化等に向けた具体的な制度の枠組
みについて、
次のエコカー減税の期限到来時までに検討を
進めることとした。
エネルギー安定供給の確保
バイオエタノール等揮発油に係る揮発油税の免税措置や
石油精製時に不可避に発生する非製品ガスに係る石油石
炭税の還付措置を5年間延長することとした。
また、
電気供給業及び一部のガス供給業における法人事業
税については、
一般の企業との課税の公平性確保を図るた
め、
課税方式の更なる見直しを引き続き検討することとさ
れた。
特定小型原動機付自転車に係る所用の措置
特定小型原動機付自転車の税率を、
現行の原動機付自転車
の税率を踏まえ 2,000 円とした。
2.3.中小企業・小規模事業者の設備投資・経営基盤の
強化と地域経済を牽引する企業の成長促進70 中小企業経営強化税制・中小企業投資促進税制の延長さらなる円安・資源高等によるコストプッシュ・インフレ
や引き続く新型コロナ禍において賃上げも求められてい
る中小企業の生産性向上やDXに資する投資を後押しす
るため、
中小企業経営強化税制及び中小企業投資促進税制
の適用期限を2年間延長した。
生産性向上や賃上げに資する中小企業の設備投資に
関する固定資産税の特例措置の新設
赤字企業を含めた中小企業の前向きな投資や賃上げを後
押しするため、
赤字黒字を問わず設備投資に伴う負担を軽
減する固定資産税の特例措置を新設した。
外形標準課税のあり方
賃金への課税である外形標準課税における今後の適用対
象法人のあり方については、
地域経済・企業経営への影響
も踏まえながら引き続き慎重に検討を行うこととした。
中小企業者等の法人税率の特例の延長
年 800 万円以下の所得金額について中小企業者等の法人
税率を 15%まで軽減する租税特別措置について、適用期
限を2年間延長した。
中小企業技術基盤強化税制の拡充及び延長
中小企業の積極的な研究開発を促進する観点から、
増減試
験研究費割合に応じた控除率・控除上限の上乗せ措置を一
部見直した上で、
時限措置の3年間の延長を行った。
また、
スタートアップとの共同研究や高度人材等の活用を促進
するため、
オープンイノベーション型を見直したほか、デジタル化への対応やより質の高い試験研究を後押しする
観点から、試験研究費の範囲の見直しを行った。
中小企業防災・減災投資促進税制の拡充及び延長
事業継続力強化計画を策定し、
自然災害に備える中小企業
の防災・減災設備投資を後押しするため、
耐震装置を対象
設備として追加した上で、適用期限を2年間延長した。
インボイス制度導入に伴う、中小・小規模事業者等
の負担軽減・影響最小化に係る所要の措置
インボイス制度導入にあたって、
中小・小規模事業者の負
担軽減や影響最小化のために、
以下(1)〜(3)の措置を講じた。
(1) 免税事業者がインボイス発行事業者になった場合の納
税額を売上税額の2割に軽減する3年間の負担軽減措置
(2) 一定規模以下の事業者の行う1万円未満の取引につき、
帳簿のみで仕入税額控除を可能とする6年間の負担軽減
措置
(3) 1万円以下の値引きや返品等の少額の返還インボイス
について交付義務を免除
地域未来投資促進税制の拡充及び延長
地域経済がエネルギー価格や原材料費の高騰等の厳しい
経済状況に直面する中、
引き続き、
高い付加価値を生み出
す設備投資を促進する観点から、
地域内企業との取引や雇
用を通じて、
より一層地域経済に波及効果を及ぼす事業に
ついて上乗せ支援の対象に追加した上で、
適用期限を2年
間延長した。2.4.
企業活動のグローバル化に対応した事業環境の整備 経済のデジタル化等に対応した新たな国際課税制度
への対応
2021 年 10 月、OECD/G20 はグローバル・ミニマム課
税の導入に合意した。
それを踏まえ、
令和5年度税制改正
ではグローバル・ミニマム課税の一部(所得合算ルール)
が導入されることとなった。
また、
OECDにおいて 2023
年度以降に議論される論点については、
その進展を踏まえ、
令和6年度税制改正以降に対応する方向で検討を継続す
ることとされた。
外国子会社合算税制の見直し
グローバル・ミニマム課税の導入により、
対象企業に追加
的な事務負担が生じることを踏まえて、
以下の見直しを行
った。
(1) 合算課税の対象となる外国子会社を絞り込むため、特
定外国関係会社の合算課税免除基準を租税負担割合 30%
から 27%に引き下げ
(2) 確定申告時における書類の添付義務を一部緩和