第1部 総説

第1章 2020 年度の経済産業政策の流れ(総論) ····················································· 1 1第1章 2020 年度の経済産業政策の流れ(総論)
(本記述は、2020 年4月時点において、2020 年度(2020 年4月〜2021 年3月)に取り組む経済産業政策の流れを記述す
るものです)
新型コロナウイルス感染症など世界規模の課題への対応
はじめに、新型コロナウイルス感染症については、目下の最重要課題と認識しており、国内の感染拡大防止に政府一丸
となって取り組みます。経済産業省としては、とりわけ影響を受けやすい中小・小規模事業者をはじめ、事業者の現場の
声にしっかりと耳を傾け、必要な対策を、迅速に行ってまいります。
足下の感染症への懸念のみならず、気候変動、世界に広がる保護主義の動きなど、世界規模の課題が日本を取り巻いて
います。また、国内に目を向ければ、デジタル化への対応、少子高齢化による人手不足、エネルギー安全保障の強化、そ
して何よりも原子力災害からの福島復興など、乗り越えるべき課題が山積しております。これらに対して、一つ一つ着実
に成果を出すべく、5つの取組を進めます。
福島復興、廃炉・汚染水対策
第1に、福島の復興は、経済産業省の一丁目一番地の最重要課題です。東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電
所の事故から、9年の月日が経過します。廃炉・汚染水対策について、引き続き、
「中長期ロードマップ」に基づき、安
全確保最優先・リスク低減重視の姿勢を堅持しつつ、地域・社会とのコミュニケーションを一層強化しながら進めていき
ます。
2020 年3月には、双葉町・大熊町・富岡町において、
「帰還困難区域」とされてきた一部地域の避難指示を初めて解除
します。また、双葉町の避難指示解除準備区域も解除します。これにより、全ての居住制限区域と避難指示解除準備区域
が解除されます。引き続き、地元企業の事業再開や新たな事業展開を後押しするとともに、
「福島イノベーション・コー
スト構想」を着実に進めながら、ロボットやドローン、水素を始めとした先駆的な取組を行う地域社会を実現し、福島の
産業復興に取り組みます。
「ソサエティ5.0」の実現
第2に、
「ソサエティ5.0」の実現です。企業価値の源泉ともいえるデジタル技術やデータを、あらゆる産業や社会
生活に取り入れる「ソサエティ5.0」を世界に先駆けて実現することで、社会課題を解決し、新たな価値を生み出しま
す。
「ソサエティ5.0」の基盤となる、セキュリティが確保された5Gやドローンなどの情報通信インフラ整備の促進の
ため、
「特定高度情報通信技術活用システムの開発供給及び導入の促進に関する法律案」を提出しました。予算や税制な
ども含め大胆な支援策により、安全・安心で信頼できる情報通信インフラの整備を強力に後押しします。
また、デジタル技術の進展に伴い、デジタルプラットフォームが中小企業等にとって重要な取引の基盤となっていま
す。オンラインモールやアプリストアにおいて、例えば「取引条件の変更について事前の通知や理由の説明が十分になさ
れていない」など、取引の透明性・公正性が低いという課題に対処し、デジタル市場の健全な発展を促すため、
「特定デ
ジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律案」を提出しました。
更に、ビッグデータなどの活用により、決済をめぐる新たな技術が次々と生まれています。新たな技術やサービスに対
応し、
利用者が安全・安心に多様な決済手段を利用できる環境整備を進めるため、
「割賦販売法の一部を改正する法律案」
を提出しました。
これらのデジタル技術を最大限活用するためには、サイバー攻撃などのリスクに備えることが重要です。オリンピッ 2ク、パラリンピックを控える中で、中小企業を含め、サイバーセキュリティーの確保を推進します。
通商・対外経済
第3に、自由貿易の旗手としての通商政策の推進です。通商国家として発展を遂げてきた日本は、既存の国際秩序が
様々な挑戦を受ける中にあっても、自由で公正なルールに基づく国際経済体制を主導しなければなりません。
2020 年6月の第 12 回WTO閣僚会議に向けて、日米欧の三極貿易大臣会合も活用しながら、WTO改革を進めます。
同時に、大阪トラックのもと、
「データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト」の考えに基づき、電子商取引やデジタル
経済に関する国際的なルール作りを推進します。また、RCEPについては、引き続き交渉をリードしてまいります。
二国間の経済関係強化にも取り組みます。
米国との関係では、
日本企業が日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定の成
果を最大限に活用できるよう促し、日米経済関係を更に深化させます。加えて、英国のEUからの離脱を踏まえ、EUと
の更なる連携強化を進めるとともに、英国との新たな経済的パートナーシップの構築に迅速に取り組みます。中国とは、
第三国市場協力や省エネルギー・環境分野での協力など、経済関係の強化を図ります。日露関係については、ロシア経済
分野協力担当大臣として、8項目の「協力プラン」の更なる具体化を進めてまいります。
中小・小規模事業者
第4に、中小・小規模事業者が直面する課題の克服です。全国各地の中小・小規模事業者は、人手不足など厳しい経営
環境に悩みつつも、必死の思いで地域経済を支えています。しかし、経営者の高齢化が進む中、事業承継は待ったなしの
課題です。次の世代への承継を阻む最大の壁が、経営者保証の慣行です。今の世代で断ち切るとの強い決意を持って、こ
の慣行に立ち向かいます。
経営者保証の解除に向けた支援策など、中小企業の成長促進策を盛り込んだ、
「中小企業の事業承継の促進のための中
小企業における経営の承継の円滑化に関する法律等の一部を改正する法律案」を提出しました。更に、
「第三者承継支援
総合パッケージ」に基づき、後継者不在の事業者の事業承継も後押ししていきます。
事業承継問題が解決した先にも、
高齢化や人手不足といった構造変化に加え、
働き方改革や賃上げなど相次ぐ制度変更
への対応が待ち受けています。中小・小規模事業者がこれらを乗り越えて、躍進できるよう、
「生産性革命推進事業」を
通じて、設備投資やIT導入など生産性向上の取組を継続的に支援します。
エネルギー・環境政策
第5に、国民生活や経済などあらゆる活動の土台となる安定した資源・エネルギー安全保障の強化です。
自然災害の頻発、中東情勢の緊迫化、再生可能エネルギーの主力電源化等、近年の電気供給をめぐる環境変化への対応
が急務となっております。
このため、
「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律案」を提出しま
した。災害時の迅速な復旧や送配電網への円滑な投資、再生可能エネルギーの導入拡大、資源・燃料の安定供給等のため
の措置を講じ、強靱かつ持続可能な電気の供給体制を確保してまいります。
安全・安定・安価なエネルギー供給を実現しつつ、パリ協定を踏まえた脱炭素化の取組を進めることが、責任あるエネ
ルギー政策に取り組む上で極めて重要です。
徹底した省エネルギーと再生可能エネルギーの主力電源化に加え、
CO2を
燃料や原料として再利用する「カーボンリサイクル」や水素社会の実現に向け、世界に先駆けた革新的技術の開発・普及
を促進します。原子力については、安全最優先で、地元の理解を得ながら再稼働を進めるとともに、人材、技術、産業基
盤の維持強化に取り組みます。
また、地球規模の課題である気候変動対策を途上国も含めて実効的な形で進めるには、
「環境と成長の好循環」の実現
が不可欠です。 3国際共同研究等を通じ、
「革新的環境イノベーション戦略」に掲げた、産業革命以来増加を続けてきたCO2を減少へ
と転じさせる「ビヨンド・ゼロ」を可能とするイノベーションを実現します。

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