第4節 貿易経済協力局 ..................................................................... 227
経済協力・貿易投資促進政策 ............................................................... 227
1.2016 年度の経済協力・貿易投資促進政策に関する主な動き(総論) .......................... 227
1.1.経済協力に関する主な動き ......................................................... 227
1.2.貿易投資促進政策に関する主な動き ................................................. 227
2.インフラシステム輸出 .................................................................. 227
3.資金協力政策 .......................................................................... 227
3.1. 円借款及び民活インフラ案件形成等事業 .......................................... 227
3.2. 経済協力ツールを活用した日本企業支援 .......................................... 227
3.3.円借款の継続的制度改善 ......................................................... 228
4.技術協力政策 .......................................................................... 228
4.1.制度・事業環境整備 ............................................................. 228
4.2.産業人材育成 ................................................................... 228
4.3.インフラシステム輸出促進 ....................................................... 228
4.4.国際化促進インターンシップ ..................................................... 229
4.5.共創促進事業 ................................................................... 229
5.貿易保険 .............................................................................. 229
5.1.NEXIの特殊会社化及び貿易再保険特別会計の廃止・移管.......................... 229
5.2.引受実績 ....................................................................... 230
5.3.インフラシステム輸出への取組 ................................................... 230
5.4.キューバに対する債務救済措置 ................................................... 230
5.5. 中小企業支援 ................................................................... 230
5.6.貿易保険の機能強化 ............................................................. 230
6.BOP(Base of the Economic Pyramid)ビジネス........................................ 230
7.貿易投資促進政策 ..................................................................... 230
7.1.対内直接投資の促進 ............................................................. 230
7.2.国際租税制度に係る環境整備 ..................................................... 232 227第4節 貿易経済協力局
経済協力・貿易投資促進政策
1.2016 年度の経済協力・貿易投資促進政策に関する主な
動き(総論)
1.1.経済協力に関する主な動き
新興国を中心とした世界のインフラ需要は高まりを見
せている。
これらの旺盛なインフラ開発需要を取り込むこ
とにより新興国の経済発展と我が国の力強い経済成長の
両方を実現すべく、政府開発援助(ODA:Official
Development Assistance)や公的金融機関による支援を最
大限活用し、
経済協力とインフラシステム輸出の緊密な連
携を図ることは重要である。
ODAには大きく分けて有償
資金協力(円借款や海外投融資)
、無償資金協力、技術協
力があり、経済産業省は我が国産業界、
相手国のニーズを
踏まえ、円借款、海外投融資、技術協力、貿易保険、民間
資金等を有機的に連携させてきた。
膨大な世界全体のインフラ需要等に対応するため、2016年5月、安倍総理が
「質の高いインフラ輸出拡大イニシア
ティブ」を発表した。また、同月、G7伊勢志摩サミット
を開催し、
「質の高いインフラ投資の推進のためのG7伊
勢志摩原則」を取りまとめ、
「質の高いインフラ投資」の
基本的要素を国際社会で共有することが重要との点で一
致した。
1.2.貿易投資促進政策に関する主な動き
対内直接投資の拡大は、
経営ノウハウや技術、
人材など
の経営資源の流入を促し、
我が国の生産性向上や雇用創出
に資するものである。
しかしながら、
我が国の対内直接投
資残高は、2008 年から伸び悩み、主要先進国やアジア新
興国に比べ大きく見劣りしていた。そこで、政府は、2013
年6月に閣議決定された「日本再興戦略」において、
「国
際展開戦略」の重要な柱の一つとして、
対内直接投資の活
性化を掲げた。この成長戦略のもと、2020 年における対
内直接投資残高の倍増(2012 年末時点 17.8 兆円)を目指
すこととし、各種取組を強化しており、2016 年末時点で
対内直接投資残高は過去最高の 27.8 兆円となるなど、安
倍政権成立後、対内直接投資は増加傾向にある。
一方、
日本企業の円滑な海外事業活動を阻害することの
ないよう、タックスヘイブン対策税制に係る改正要望や、
進出先国における課税問題に係る国内企業への注意喚起、
租税条約の新規締結・改正のための分析等を行った。
2.インフラシステム輸出
拡大する世界のインフラ需要に対し、
我が国の質の高い
インフラ輸出を促進することは、
我が国の経済成長にとっ
て重要であるとともに、
相手国の経済発展にも貢献するも
のである。
2016 年5月に、安倍総理大臣が「質の高いインフラ輸
出拡大イニシアティブ」を発表し、今後5年間で約 2,000
億ドルの資金等を世界全体のインフラ分野に供給するこ
とや、インフラ輸出のための制度改善を実施した。
また、
ライフサイクルコストなどの質の高いインフラ投
資の基本的要素を国際社会で共有するべく、2016 年5月
のG7伊勢志摩サミットにおいて
「質の高いインフラ投資
の推進のためのG7伊勢志摩原則」
を取りまとめるととも
に、2016 年9月のG20 杭州サミットにおいても質の高い
インフラ投資の重要性を強調し、概念の普及に努めた。
3.資金協力政策
経済産業省は、外務省、財務省と3省体制で、円借款・
JICA海外投融資に関し、制度創設・改善、個別案件へ
の供与方針決定等を行っている。
3.1. 円借款及び民活インフラ案件形成等事業
2016 年度は、アジアを中心とする旺盛なインフラ需要
を取り込みつつ、
本邦企業の優れた技術を途上国開発に役
立てるため、
個別インフラ整備案件の事業実施可能性調査
(F/S)を実施した。
具体的な案件として、
インド
「インドにおける鉄道事業
調査」
、フィリピン「ミンダナオ島カラガ地域における風
力発電事業調査」
及びミャンマー
「ヤンゴン市下水道設備
改善計画調査」等を実施した。
3.2. 経済協力ツールを活用した日本企業支援
アジアを中心とする新興国の成長を取り込み日本経済
の活性化につなげるため、
円借款、
特に我が国の優れた技
術を途上国開発に活かす本邦技術活用条件(STEP:
Special Terms for Economic Partnership)を効果的に用
いることが重要である。
2016 年度には世界全体で 51 件の円借款を供与している 228が、
そのうちベトナム
「ホーチミン市都市鉄道建設計画(ベンタイン-スオイティエン間(1 号線))(第三期)
」等5
件においてSTEPを適用した。
また、JICA海外投融
資については、モンゴル「ツェツィー風力発電事業」を始
め、本格再開後 16 件の供与実績がある。
特に、フィリピンでは、2017 年1月に安倍総理大臣よ
りODA及び民間投資を含め、
今後5年間で1兆円規模の
支援を行うこと、また、この支援のために「日フィリピン
経済協力インフラ合同委員会」を設置することを表明し、
同年3月に第1回会合を開催した。
また、
ミャンマーのヤ
ンゴン郊外にて開発を行っているティラワ工業団地は、
2017 年2月に Zone B が着工した。
3.3.円借款の継続的制度改善
伊勢志摩サミットにおいて、
安倍総理大臣より世界全体
に対するインフラ案件向けリスクマネー供給拡大
(今後5
年間の目標として約 2,000 億ドルの資金等を供給するこ
と)や質の高いインフラ輸出のための更なる制度改善、関係機関の体制強化と財務基盤確保等からなる
「質の高いイ
ンフライニシアティブ」が表明された。その一環として、
円借款の更なる迅速化の実施に加え、
JICA海外投融資
の出資比率上限規制の柔軟化及びユーロ建て海外投融資
の供与等の検討を行うこととした。
これらの制度改善が実施されることにより、
発展途上国
の多様なニーズに対応し、
日本のインフラ輸出を加速させ
ることが可能になるとともに、
我が国のインフラシステム
輸出の更なる拡大が期待される。
4.技術協力政策
技術協力政策では、
日本の技術や技能、
知識の移転を通
じて、
開発途上国の技術水準の向上と日本企業の海外展開
促進のため、開発途上国の社会・経済の開発の担い手とな
る人材育成支援等を行っている。
2016 年度は、東南アジアを始めとした開発途上国の開
発課題解決と日本企業の海外展開促進のため、
開発途上国
における制度・事業環境整備や産業人材育成、
インフラシ
ステム輸出促進、
国際化促進インターンシップ及び新興国
における共同開発の支援等を実施した。
4.1.制度・事業環境整備
主に開発途上国の業界団体等を対象に指導や啓発を行
うことにより、
開発途上国における貿易投資促進に資する
制度・事業環境整備を行った。
2016 年度は、
サービス政策
(ミャンマー)、流通政策(ミャンマー、インドネシア、ベトナム)
、生産現場安全管理
(タイ)
、インフラ情報セキュリティー強化(ベトナム)、縫製産業人材育成支援
(ミャンマー)、生産性向上支援(ケニア、南アフリカ)等について研修、専門家派遣を実施し
た。
4.2.産業人材育成
開発途上国の産業技術水準の向上や経済発展に寄与す
るとともに、
日本企業の海外展開に必要となる現地拠点を
強化するため、
日本の産業界と連携し、開発途上国におけ
る民間企業等の現地産業人材の育成を行った。
具体的には、
特定の技術や知見を有する日本企業の現役社員や退職者
を専門家として開発途上国の企業に派遣し、
現地人材に対
して技術指導やアドバイスを行う専門家派遣事業を実施
した。
また、
開発途上国から民間企業等の技術者や管理者
を研修生として受入れ、
企業の有する施設等を活用した技
術指導や講義等を実施した。
2016 年度は、タイ、インドネシア及びベトナム等東南
アジアを中心に、主に自動車関連、建設業、電器関係及び
産業機械といった分野を対象に実施した。
4.3.インフラシステム輸出促進
インフラシステムの輸出を促進するため、
開発途上国の
インフラ関係者等のキーパーソンに対し、
我が国インフラ
関連技術の優位性の理解促進やネットワーク強化に向け
た招聘を実施した。
2016 年度は、アフリカ諸国等を中心に、地熱発電、火
力発電、医療といった分野を対象に実施した。
また、
開発途上国の国づくりに必要なセクター・地域等
における経済的・総合的なマスタープランの策定を支援し、
政策提言を実施した。
2016 年度は、2015 年度に引き続き、タンザニア、ケニ
ア及びベトナムに対して、
技術調査団を派遣し、エネルギー・
資源開発及び化学物質管理を通じた産業開発政策等に
かかる支援を行った。 2294.4.国際化促進インターンシップ
日本人若手人材(若手社会人・学生)の開発途上国政府
関係機関・日系企業等へのインターン派遣及び外国人若手
人材の日本企業へのインターン受入れを行い、
日本企業等
の開発途上国における新規ビジネス獲得のために必要と
なる人材育成を実施した。
2016 年度は、日本人派遣については、ベトナム、イン
ド、フィリピン、タイ、ミャンマー等の政府関係機関や民
間企業に若手人材を派遣し、
国際交渉力・コミュニケーシ
ョン能力の養成、
人的コネクション獲得及び現地パートナ
ー探しを行った。外国人受入については、ベトナム、イン
ドネシア、タイ、インド、マレーシア、フィリピン等から
日本企業に受入れ、
日系企業で働くに当たって必要となる
ビジネススキルを得た外国人材の育成及び日本企業にお
ける外国人材の受入体制の整備を行った。
4.5.共創促進事業
新興国の社会課題の解決を目指し、現地の企業・大学・
NGO等と共同で製品・サービス開発等に取り組む中小企
業に対し支援を実施した。
さらに、
これまで形成してきたアジアの知日人材をネッ
トワーク
「親日・知日人材コミュニティ、NIN2(NIppon
New Network for INnovation)
」を活用しビジネスアイデ
ィアのコンテスト及び人材採用イベントを通じ、
現地発案
によるビジネス創出や有能な現地人材確保等の支援を実
施した。
5.貿易保険
貿易保険は、
日本企業の対外取引
(輸出、
投資、
融資等)
に関して、
通常の保険によって救済することができない危
険を、
国の信用力や交渉力に基づき長期間にわたり収支相
償を前提にカバーする保険である。貿易保険では、
「非常
危険」
(戦争、内乱、外貨送金停止等の相手国政府のリス
ク)と「信用危険」
(プロジェクトの破綻等の相手企業の
リスク)を引き受ける。貿易保険業務については、各国と
も国の事業として実施・強化しており、我が国は、独立行
政法人日本貿易保険(NEXI)が保険業務を行い、国が
再保険を実施している。
(参照:(図)
貿易保険の実施体制)
なお、下記5.1.のとおり、NEXIは 2017 年度より
全額政府出資の特殊会社に移行し、国は 2016 年度末で再
保険制度を廃止した。5.1.
NEXIの特殊会社化及び貿易再保険特別会計の
廃止・移管
「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」
(2013 年
12 月 24 日閣議決定)において、NEXIを全額政府出資
の特殊会社に移行し、2016 年度末までに貿易再保険特別
会計を廃止することが決定した。これを踏まえ、2015 年
7月 10 日に「貿易保険法及び特別会計に関する法律の一
部を改正する法律」が成立し、NEXIは 2017 年4月か
ら 100%政府出資の特殊会社となり、貿易再保険特別会計
が廃止され、
その資産及び負債はNEXIに継承されるこ
ととなった。
主な改正点は以下のとおり。
1.NEXIを特殊会社とし、政府は、常時、NEXIの
発行済株式の総数を保有していなければならないもの
とする。
2.貿易再保険特別会計を廃止し、貿易保険に関する経理
をNEXIに一元化するとともに、
保険金の確実な支払
を担保するため、
NEXIの資金調達が困難な場合に政
府が必要な財政上の措置を講ずるものとする。
(履行担保)3.NEXIの保険引受に国の政策を反映させるため、国
が引受基準を定める他、
一定の重要案件について、国が
NEXIに対し意見を述べることを可能とする。
被保険者
(商社、メーカー等の保険利用者) 取引先
1保険料 4保険金支払
1日本貿易保険による保険引受
2政府による再保険引受
3保険事故の発生
4日本貿易保険による保険金支払い
5政府から日本貿易保険への再保険金支
払い
6政府間交渉により、債務国の支払能力も
勘案の上、長期的に債権を回収
6政府間交
渉により長
期的に国と
日本貿易
保険が一
体となって
回収
相手国政府
相手国政府による収用、送金規制等の実施
支払保証等保険引受(元受)3回収、償還不能等の事故発生
(独)日本貿易保険
経済産業省
(保険責任の原則90%をリスク負担)
2再保険料 5再保険金支払再保険引受 230
5.2.引受実績
2016 年度は、インドネシアの「超々臨界圧石炭火力発
電再拡張プロジェクト」やスペインの「Gas Natural 向け
傭船プロジェクトに係る LNG 船の輸出」等、
計約 7 兆円の
貿易保険引受を行った。
5.3.インフラシステム輸出への取組
2013 年5月に閣議決定された「インフラシステム輸出
戦略」に基づき、世界のインフラ需要を積極的に取り込む
ことで、多様なビジネス展開に官民一体で取り組み、
我が
国の力強い経済成長につなげていくという方針の下、NEXIではカンボジアの
「テクノパーク事業プロジェクト」、タイの「バンコク Red Line 建設プロジェクト支援」
、カタ
ールの「Doha Metro 建設・保守プロジェクト支援」
、ウガ
ンダの「建設機械輸出プロジェクト」等、インフラシステ
ムの輸出を積極的に支援した。
5.4.キューバに対する債務救済措置
日本政府は、2015 年 12 月のパリクラブにおけるキュー
バとの合意に基づき、2016 年9月に、キューバ政府との
間で、
政府が保険を引き受けたキューバ政府の商業上の債
務の繰り延べ等、
債務救済措置のための書簡の交換を行っ
た。
5.5. 中小企業支援
2011 年度に「中堅・中小企業海外展開支援ネットワー
ク」を開始し、2016 年度には新たに 9 行の金融機関が参
加した。日本全国 47 都道府県全域に渡り、計 114 の金融
機関との業務提携を行い、規模の拡大を図った。2017 年
2月には、
同ネットワーク会議を開催し、
貿易保険利用者
と中堅・中小企業支援機関相互の情報・意見交換を実施し
た。
また、
2016 年 7 月に、
従来の
「中小企業輸出代金保険」
を「中小企業・農林水産業輸出代金保険」に改定し、利用
対象者を農業協同組合、森林組合、漁業組合、農事組合法
人等の農林水産業従事者に拡大した。
貿易保険商品及び利
用事例をわかりやすくアニメで紹介する動画や、
マンガ形
式のパンフレットを作成し、
貿易保険の周知活動を積極的
に展開するなど、
中堅・中小企業及び農林水産業の輸出者
による利用拡大に取り組んだ。
5.6.貿易保険の機能強化
2016 年5月に安倍総理が発表した「質の高いインフラ
輸出拡大イニシアティブ」
を受け、
NEXIでは貿易保険
に係る機能強化(非常危険のカバー率拡大、ローカル・バ
イヤーズ・クレジットの運用改善)を図った。
6.BOP(Base of the Economic Pyramid)ビジネス
世界経済における新たな市場として、
新興国市場、とり
わけ中間所得層市場(いわゆる「ボリュームゾーン」)の存在が指摘されている。
その中で、
ネクストボリュームゾ
ーンとして途上国の低所得階層(いわゆる「BOP層」)の早期取り込みによるビジネス展開の重要性が唱えられ
ている。
2016 年度は、新興国でのBOPビジネスに取り組む企
業を支援するため、
ジェトロの相談窓口を通じ、事業計画
検討段階から事業拡大段階まで、
企業個別の事業フェーズ
に応じた支援を実施した。
また、今後3年間で、100 の現地企業・機関の招聘、10
か国へのミッション派遣、
延べ 500 社の日本企業のイベン
ト等への参加を実現する旨のアクションプランを策定し
た。
7.貿易投資促進政策
7.1.対内直接投資の促進
(1)対内直接投資の現状
2016 年末の対内直接投資残高は、
前年比
(金額ベース)
で約3兆円増加し 27.8 兆円となったものの
(参照:図 対
日直接投資残高とGDP比率の推移)
、対GDP比率では 231国際的に極めて低い水準にあり、2016 年時点で、イギリ
スの 45.5%、米国の 34.4%、フランスの 28.3%、ドイツ
の 22.2%、韓国の 13.1%に比べ、日本は 5.2%にとどま
っている(参照:図 主要国の対内直接投資残高GDP比
率 (2016 年末))。
図 対日直接投資残高とGDP比率の推移
図 主要国の対内直接投資残高GDP比率(2016 年末)
【出所】
日本:
(残高)財務省「対外資産負債残高統計」、(GDP)内閣府「国民経済計算」
各国:UNCTAD "World Investment Report 2016"
経済産業省が行った調査によれば、
グローバル企業から
見たアジアの魅力的な投資先について、
安倍政権発足前の
2011 年度に実施した調査では全ての拠点タイプで中国が
1位であったが、2012 年度及び 2015 年度の調査では、R
&D拠点及び販売拠点について日本の評価順位が1位と
なった。
近年、
国際的に見て外国企業の誘致競争はより激化して
いることから、
グローバル企業の誘致には、引き続き政府
一丸となって、
グローバル企業向けの投資環境、
外国人向
けの生活環境整備等に取り組み、
諸外国に遜色ないビジネ
ス環境を整備することが必要である。
(2)対内直接投資の促進に向けた動き
海外の優れた人材や技術を日本に呼び込み、
雇用やイノ
ベーションの創出を図るため、政府は「日本再興戦略」に
おいて、2020 年までに対内直接投資残高を 35 兆円に倍増
するという目標を掲げた。
2016 年度の具体的な施策として、経済産業省では、外
国企業誘致体制を強化するため、
産業スペシャリスト事業
を引き続き実施している(2016 年度独立行政法人日本貿
易振興機構
(JETRO)
運営費交付金 238.6 億円の内数)。同事業では、
誘致競争の対象となっているグローバル企業
に対する営業力を強化するため、
個別業種に関する知識・
ノウハウ・ネットワークを有し、
外国企業の経営者と対等
に交渉できる産業スペシャリスト等、
外部専門家を活用し、
JETRO海外事務所との連携による能動的な誘致活動
を展開している。
あわせて、外国企業誘致に係るインセンティブとして、
外国企業が日本企業等と連携するイノベーション拠点の
設立や実証研究、
事業化可能性調査を支援する
「グローバ
ルイノベーション拠点設立等支援事業」
を実施した他、地
方自治体等の誘致担当者向けの研修等を行う
「地方実務担
当者向け外国企業誘致研修等支援事業」
を実施し、
外国企
業の誘致活動を国レベル、
地方自治体レベルにおいても積
極的に展開した。
外国企業に対する広報活動についても、
外国企業誘致に
積極的な地方自治体の首長とともに、
トップセールスを実
出典:欧米アジアの外国企業の対日投資関心度調査(経済産業省:2011 年度、2013 年度、2015 年度)(*)(*)2014 年から統計の計上基準に変更あり。 232施している。2014 年5月にロンドン、9月にニューヨー
ク、
2015 年5月にロサンゼルス、
9月にはニューヨーク、
2016 年5月にブリュッセル、9月には再びニューヨーク
において、安倍総理大臣出席の下、
「対日投資セミナー」
を開催し、日本市場の魅力や政府の取組、
国内各地域の優
位性等に関する情報を発信した。
また、個別の外国企業へ
の誘致活動も強化している。
「外国企業の日本への誘致に
向けた5つの約束」
(2015 年3月 17 日対日直接投資推進
会議決定)に基づき、
外国企業からの相談への対応を強化
するために、副大臣を外国企業の相談相手とする
「企業担
当制」を実施している。
我が国に重要な投資をした外国企
業を公募し、9社を対象企業(うち当省の対象5社)とし
て選定した上で、担当副大臣との面談を実施している。
2016 年5月 20 日には、我が国が貿易・投資の国際中核
拠点「グローバル・ハブ」となることを目指し、我が国の
強みを活かして外国企業を呼び込む方策及び外国企業進
出の障害となっている課題の解決方策を盛り込んだ
「グロ
ーバル・ハブを目指した対日直接投資促進のための政策パ
ッケージ」が対日直接投資推進会議で決定された。また、
外国企業が日本で投資を行うに際して課題となる規制・行
政手続の簡素化について具体的に検討し、
関係府省庁等と
調整することを目的として、2016 年5月には、対日直接
投資推進会議の下に、規制・行政手続見直しワーキング・
グループが設置された。
外国企業や外国企業を支援してい
る専門家等から指摘された規制や行政手続に関する課題
や見直し策について議論を進め、 2017 年4月 24 日に
「規
制・行政手続見直しワーキング・グループとりまとめ」を
取りまとめた。
7.2.国際租税制度に係る環境整備
(1)グローバルな潮流と国内制度整備
米国多国籍企業による過度な節税
(租税回避行為)
が問
題視されたことを契機に、
国際的な制度調和によってこれ
に対応するため、OECDは 2012 年6月に「BEPS
(Base Erosion and Profit Shifting、税源浸食と利益移
転)プロジェクト」を立ち上げた。2015 年 10 月に最終報
告書が公表され、同年 11 月の G20 サミットにて報告され
た。今後、最終報告書の勧告内容を実現するため、同プロ
ジェクト参加各国には所要の制度整備が求められる。
この
流れの中で、今後、
企業としては一層の税務コンプライア
ンスの向上を求められることとなるが、
海外展開を行う日
本企業に無用な課税リスクや負担を生じさせないよう、政府としても適正な国内制度の整備を図る必要がある。
こうした観点から、2016 年度においては我が国企業の
ビジネス実態を踏まえたタックスヘイブン対策税制の見
直し等の税制改正要望を行った。また、
BEPSプロジェ
クト最終報告書の勧告を踏まえ、
今後、
国内において見直
しが検討される見込みの税制に関する調査を実施した。
(2)海外における事業環境整備
昨今、
新興国を中心とした進出先国において日系企業が
不当な課税を受ける事例が増加しており、
現地における事
業環境及び利益の再投資に悪影響を与えている。
現地日系企業が直面する二重課税等の税務上の課題に
関する調査を実施した上で、課題解決に向け、
必要に応じ
政府レベルでのはたらきかけを行うとともに、
産業界への
説明会等を通じて海外展開に係る課税リスクについての
周知活動を行った。
また、
進出先国における事業環境整備を進めるためには、
租税条約ネットワークを拡充し、
海外子会社からの投資所
得(配当・利子・ロイヤルティ)等に対する源泉税率の減
免、
海外での事業活動における課税範囲の明確化、
税務紛
争を解決する仕組みの構築等を図ることが重要である。そのため、
産業界のニーズも踏まえつつ、
新規締結や改正を
進めていく国・地域の選定に向けた分析を行った。
2016 年度における租税条約の交渉状況は以下のとおり。
台湾(新規:2016 年6月発効)、ドイツ(改正:2016 年
10 月発効)、インド
(改正:2016 年 10 月発効)、チリ(新
規:2016 年 12 月発効)、スロベニア(新規:2016 年9月
署名)、ベルギー(改正:2016 年 10 月署名)、ラトビア
(新規:2017 年1月署名)、オーストリア(改正:2017
年1月署名)、リトアニア
(新規:2016 年 12 月実質合意)、エストニア(2016 年8月交渉開始)、ロシア(2017 年3
月交渉開始)。

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