第6節 製造産業局 ··················································································288
1.製造業総論 ····················································································288
1.1.我が国製造業の足下の状況認識 ·····························································288
1.2.我が国の産業構造を支える製造業 ···························································288
1.3.製造業の新たな展開と将来像·······························································289
2. 主要産業に関する主な動き ······································································290
2.1.鉄鋼業 ··················································································290
2.2.非鉄金属産業 ············································································292
2.3.ナノテクノロジー ········································································293
2.4.化学産業 ················································································294
2.5.生物化学産業 ············································································297
2.6.窯業 ····················································································301
2.7.住宅産業 ················································································303
2.8.素形材産業 ··············································································303
2.9.産業機械 ················································································305
2.10.プラント・エンジニアリング産業 ···························································306
2.11.航空機産業 ··············································································307
2.12.宇宙産業 ················································································310
2.13.自動車産業 ··············································································312
2.14.繊維産業 ················································································315
2.15.紙・パルプ産業 ··········································································318
2.16.水ビジネス ··············································································319
3.化学物質管理 ··················································································320
3.1.化学物質管理 ············································································320 288第6節 製造産業局
1.製造業総論
我が国製造業の企業業績は引き続き改善傾向にあり、従業員への利益還元は大企業のみならず、
中小企業において
も進展している。
我が国の経常収支
(暦年ベース)
は 2011
年以降黒字縮小が続いていたが、
5年ぶりに黒字が拡大し
た。内訳をみると、海外直接投資収益拡大に伴い、第一次
所得収支は過去最大の黒字を計上したのに加え、
貿易収支
とサービス収支が大幅に赤字を縮小した。
1.1.我が国製造業の足下の状況認識
我が国製造業の企業実績は引き続き改善している
(図表1-1)。設備投資は中小企業において回復している(図
表1-2)
がリーマンショック前の水準には達していない。
賃上げを始めとする経済の好循環の流れを加速し、
全国に
行き渡らせ、投資を更に活発化させることが重要である。
【図表1-1:製造業の企業業績の推移(営業利益)】出典:財務省「法人企業統計」
【図表1-2:設備投資の伸び率
(製造業、
前年同期比)】出典:法人企業統計
1.2.我が国の産業構造を支える製造業
(1)我が国の産業構造における製造業の重要性
我が国製造業はGDPの約2割を占める
(図表1-3)。製造業は生産波及効果・雇用誘発効果がいずれも大きく、
製造業の活性化は雇用機会の創出につながり、
雇用を通じ
た経済成長の果実の分配といった側面からも重要である
(図表1-4、1-5)。【図表1-3:名目GDPにおける産業別構成比の推移】
資料:内閣府「国民経済計算確報」
【図表1-4:産業別生産波及の大きさ】
資料:総務省「産業連関表」
(平成 23 年)18.811.10.111.2
8.8 8.513.414.3 14.9-505101520
07 08 09 10 11 12 13 14 15
化学工業 鉄鋼業 はん用機械器具製造業
生産用機械器具製造業 業務用機械器具製造業 電気機械器具製造業
情報通信機械器具製造業 輸送用機械器具製造業(集約) その他製造業
製造業(計)
(兆円)
(年)-20-1001020304050
Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4 Q1 Q2 Q3 Q4
2012 2013 2014 2015
中小企業 中堅企業 大企業 全規模(%)22.1 19.7 18.7
15.9 17.3 19.8
14.4 14.6 14.2
10.2 10.8 11.7
8.8 6.2 6.1
18.6 20.3 18.3
8.4 9.2 9.1
1.7 1.8 2.3020406080100
94 04 14
対家計民間非営利サービス生産者 政府サービス生産者
その他産業計 建設業
不動産業 卸売・小売業
サービス業 製造業%年0.001.002.003.00飲食料品繊維製品パルプ・紙・木製品化学製品鉄鋼非鉄金属金属製品はん用機械生産用機械業務用機械電子部品電気機械情報・通信機器輸送機械電力・ガス・熱供給業商業金融・保険不動産運輸・郵便情報通信教育・研究医療・福祉
製造業 289【図表1-5:産業別の他産業における間接的雇用誘発量】
資 料 : 厚 生 労 働 省 「 接 続 産 業 連 関 表 」
( 2010 年 )
(2)事業環境の変化に対応した国内拠点の在り方
いわゆる「六重苦」の解消により、製造業にとって生産
拠点としての日本の事業環境は改善した(図表1-6)。それに伴い、
生産の国内回帰を実施した企業は全体の約1
割に昇り、
引き続き生産の国内回帰の傾向が継続している。
国内生産拠点の役割を、
「海外拠点との差異化を図るため
の拠点」とする企業が多い。国内で生産を行うことは、多
品種少量生産に対応できる、
短納期に対応できるといった
特徴を挙げることができる。
【図表1-6:六重苦の解消】
製造業が今後も我が国の成長を下支えするためには、
「国内に残す」分野と「海外で稼ぐ」分野を明確化し、国
内に残す分野は輸出競争力の維持強化をはかり、
海外で稼
ぐ分野は収益を還流させ国内でイノベーションを産み出
すサイクルを作ることが重要である。
1.3.製造業の新たな展開と将来像
第4次産業革命ともいわれるIoT
(モノのインターネ
ット)やビッグデータ、AIといったデジタル技術の進展
によって、付加価値が「もの」そのものから、
「サービス」
「ソリューション」
へと移る中、
ビジネスモデルの変革に
対する積極的な意識や取組が求められている。
国際的には、
海外プレイヤーが大きく分けて2つのグロ
ーバル戦略を打ち立てて、
この流れに対応している。1つ
目はアメリカを中心に、
サービスを起点とし、
ネット上の
強みをテコにリアルな事業分野へ拡大する、
「ネットから
リアルへ」
といった動きである。
もう1つはドイツを中心
に見られる、現場の生産設備等のリアルの強みをテコに、
新たなプラットフォーマーを目指す、
「リアルからネット
へ」といった動きである。
「IT基盤・ソフトウェア」と
「製造現場・ハードウェア」から、いかに利益の源泉となる「ソリューション」
層のポジションを確保するかのせめ
ぎ合いが起きている。
一方、
国内に目を転じてみると、
日本企業におけるIo
T等の技術の活用度合いは活用分野によって大きな違い
がある(図表1-7)
。分野別に見ると「生産工程の見え
る化」
等に比べ、
付加価値のより大きいアフターサービス
への活用は進んでいない。
ものづくりを通じて価値づくり
を進める「ものづくり+(プラス)企業」になることが期
待される中、
1IoTを活用したユースケースの創出(ス
マート工場実証事業等)
、2規制・制度改革、3サイバー
セキュリティ、4国際標準化への貢献、5中小企業支援、
6人材育成等の分野における取組を進めている。
さらに国
際協力については、2015 年3月の日独首脳会談において、
両国間で製造業におけるIoT等の分野での協力を推進
していくことに合意したことを受け、IoT等に関する
様々な課題解決に向けたドイツ政府との連携・協議を始め
た。
【図表1-7:IoTの実施状況(企業規模別)】資料:経済産業省調べ(2015 年 12 月)0.020.040.060.080.0飲食料品繊維製品パルプ・紙・木製品化学製品鉄鋼非鉄金属金属製品一般機械電子部品電気機械情報・通信機器輸送機械電力・ガス・熱供給業商業金融・保険不動産運輸情報通信教育・研究医療・保健・社会保...
(10億円) 製造業 2902. 主要産業に関する主な動き
2.1.鉄鋼業
(1)現状と課題
鉄鋼業は、自動車、産業機械、電機、造船、建設等の広
範な産業に基礎素材の代表である鉄鋼製品を供給する、日本の基盤的産業であり、
高炉一貫製鉄所に代表されるよう
に、典型的な設備集約型産業である。
鉄鋼生産地域は日本、
米国、
ヨーロッパ等の先進国から、
新興国の経済発展に伴って世界各地に拡大している。
特に中国は、2010 年の6億4千万トンから、2015 年には
8億4百万トンと、
粗鋼生産量を拡大してきた。
(図参照。)欧米等先進国の需要が停滞し、
新興国の需要もが一段落す
る中、中国、韓国等の生産量拡大により、世界的な鉄鋼過
剰供給状況が今後も継続すると見られている。
日本においては、
2015 年度の粗鋼生産量は前年度比 5.2%
減の1億 515 万トンとなった。
国内需要は、
建設・自動車・
産業機械向け需要等が減少し、
国内向け普通鋼鋼材受注量
は前年度比で-2.0%となった。また、日本からの鉄鋼輸出
についても、
アジアでの需要回復の低迷や鉄鋼過剰供給状
況、
国内需要が優先されたこと等を背景に、
全鉄鋼ベース
で 4,145 万トン(前年比さんかく1.9%)と減少した。
また、
震災後の電力料金上昇は、
外部電力依存度の高い
事業者にとって大きな負担となっている。
このような状況下、
内需を確実に取り込み、
海外需要を
開拓していくため、技術力強化、海外供給網構築、省エネ
ルギー対策、事業者間連携、事故防止等により、鉄鋼産業
の経営基盤を強化し、
その国際競争力の維持・強化を図る
ことが求められている。
図:中国の粗鋼生産量の推移(日米 EU との比較)
(ア)国際関係
近年、日本の鉄鋼各社は、中国、インド、東南アジア諸
国連合
(ASEAN)
等における鉄鋼需要の拡大を背景に、
現地企業との合弁事業や提携といった形で、
新興国への進
出を拡大している。
日本の鋼材輸出先は、
アジア諸国が約8割を占めている。
背景には、アジア諸国に進出した日系自動車・家電メーカ
ー等の生産拠点に対し、
日本の鉄鋼各社が高い品質の鋼材
を供給している事情がある。
世界の鉄鋼情勢に目を転じると、
近年の世界的な景気低
迷による鉄鋼需要の減速及び各国における鉄鋼産業の成
長を背景に、
自国産業支援や雇用確保を目的とした保護貿
易的措置を導入する動きが世界的に広まってきている。
2014 年6月にはEUが鉄鋼分野において初めてアンチダ
ンピング調査を申請し、
8月より欧州委員会による調査が
開始された。0246810122007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
中国EU日本
アメリカ
中国(生産能力)
(億トン)
(億トン) 約3億3000万トン
中国:8.0億トン
(15年)
日本:1.1億トン
(15年)
出所:世界鉄鋼協会から作成 291また、
アンチダンピングやセーフガードといった貿易救
済措置の活発化に加え、
2014 年にはベトナム、
台湾等で、
鉄鋼製品に対する強制規格が導入され、
事実上の非関税障
壁を形成している。インド政府は 2015 年9月の熱延鋼板
に対するセーフガード措置、2016 年2月の最低輸入価格
制度の導入を皮切りに鉄鋼製品に対する貿易救済措置の
発動を活発化させており、
こういった動きがベトナム、マレーシア、
南アフリカといった諸国に広がっている。
特に、
これらの措置はWTOルールとの不整合が懸念されてお
り、
ルールとの不整合性の懸念される貿易的措置の蔓延は、
自由貿易体制の維持・拡大に重大な影響を与えかねない。
かかる保護貿易的措置の発動や拡大の背景として、
アジ
ア地域における粗鋼生産量の急速な拡大が指摘されてい
る。
現在中国の粗鋼生産量は全世界の約半分を占めるに至
っており、アジア各国の急速な生産拡大は、
世界各地にお
ける通商摩擦を引き起こす要因となるだけでなく、
鉄鉱石
等の原料価格や海上輸送費の高騰等を招く要因ともなっ
ている。
(イ)資源
世界の鉄鉱石の海上貿易量は、
はヴァーレ
(ブラジル)、リオ・ティント(オーストラリア)
、BHPビリトン(オ
ーストラリア)の3社で世界の 69%、原料炭はオースト
ラリア等の主要4社で世界の 46%を占めている。
資源産出国の中には、輸出の禁止や輸出税の賦課、鉱
山・製錬所への外資排除等の動きをとる国もあり、
我が国
の資源確保上の課題となっている。
(ウ)地球温暖化対策
日本の鉄鋼業の製鉄プロセスにおけるエネルギー原単
位は既に世界最高水準を達成しているが、
現在の高炉法で
は、鉄鉱石の還元剤として石炭、
コークスの使用が不可避
である。この製鉄プロセスにおけるCO2排出を更に削減
することが喫緊の課題となっている。
鉄鋼業界では、温暖化問題について 1997 年から自主行
動計画目標を掲げ、2013 年からは 2020 年に向けた低炭
素社会実行計画フェーズ1を推進している。
また、2030 年に向けても、低炭素社会実行計画フェー
ズ2として、1.国内の事業活動から排出されるCO2 削
減目標の設定、2.消費者・顧客を含めた主体間の連携の
強化、3.途上国への技術移転など国際貢献の推進、4.
革新的技術の開発、の4本柱で、主体的・積極的な取組を
とりまとめ、それらに沿った取組を開始している。
(2)主要な取組
(ア)国際関係
(A) 保護貿易的措置の導入の動き
保護貿易的措置を実施している国々に対し、
鉄鋼対話
等の二国間協議や国際会議等の場を通じて、
撤廃や見直
しを働きかけるなどの対応を行っている。また、2013
年に中国による日本産高性能ステンレス継目無鋼管に
対するアンチダンピング課税措置に係るWTO紛争処
理小委員会
(パネル)
が設置され審理が進められていた
が、2015 年2月、WTOは中国のアンチダンピング課
税措置は協定に整合しないとして日本の主張を概ね認
める報告書を公表したが一部主張が認められない部分
が残ったことから上級委員会への上訴を行った結果、上級委員会は日本の主張を全面的に認める報告書を公表
した。その後、2016 年8月 22 日、中国政府はWTOの
上級委員会の報告書に従い措置の撤廃を発表した。
(B) 過剰生産能力問題への対応
中国等との鉄鋼対話の場で、
過剰生産能力解消に向け
た自主的な取組の促進を働きかけてきている。
また、新
興国を含む主要鉄鋼生産国が参加するOECD鉄鋼委
員会でも、
過剰生産能力問題への取り組みの重要性を各
国間で共有すべく、我が国から問題提起を行ってきた。
2015 年6月の第 78 回OECD鉄鋼委員会では、各国
の問題意識を踏まえ、
ほとんどの時間を過剰供給能力お
よび関連するテーマ(金融措置、貿易措置等)について
の議論に費やした。
多くの国が、
中国の生産能力向上と
国内需要の鈍化に伴う輸出急増に懸念を表明した。11、
12 月の第 79 回OECD鉄鋼委員会においては、2016
年前半に、
過剰能力問題にかかるハイレベル会合を開催
する方向となり、
議長声明に当該会合で過剰供給につな
がる政策措置を特定することが盛り込まれた。
引き続き
我が国においても本件の動向を注視する必要がある。
(イ)資源
鉱山権益確保に対する支援や各国への働きかけなどを
通じて、
鉄鋼原料の安定供給の確保に向けた支援を行った。
(ウ)地球温暖化対策
(A)エネルギー効率向上に関する国際パートナーシップ
(GSEP) 292クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナ
ーシップ(APP)の後継として、2011 年より米国の
主導により、
エネルギー効率向上に関する国際パートナ
ーシップ(GSEP)が設立され、鉄鋼分野については
APPに引き続き、鉄鋼ワーキンググループ(WG)が
設立され、
日本は鉄鋼WGの議長国を務めた。
2016 年、
GSEP鉄鋼WGは各国の実情についての情報を提供
するという冊子を取りまとめ、
5年間の活動を総括して
終了した。
(B)技術開発
高炉法での製鉄プロセスにおけるCO2排出削減の
ため、
現在の技術の延長上にない革新的技術開発の支援
に取り組んだ。
具体的には、
コークス製造時に発生する副生ガスから
水素を増幅し、
コークスの一部代替に水素を用いて鉄鉱
石を還元する技術や、CO2濃度が高い高炉ガスからC
O2を分離するための、未利用低温排熱を利用した新た
なCO2分離・回収技術等からなる水素還元活用製鉄プ
ロセス技術の開発事業
(COURSE50)
に取り組ん
でいる。2030 年頃までの実機化を目指して、平成 20 年
度(2008 年度)より支援を行っている。
また、エネルギー使用量の削減及びCO2排出量の削
減等を図るため、
その効果が大きい自動車等の輸送機器
の抜本的な軽量化に向けた技術開発の支援にも取り組
んだ。具体的には、高強度・高延性な革新的な鋼板を開
発するとともに、
開発した鋼板等を適材適所に使うため
に必要な接合技術の開発等を行う革新的新構造材料等
技術開発に対する支援を 2013 年度より行っている。
2.2.非鉄金属産業
(1)現状と課題
非鉄金属産業は、
暮らしに身近な製品から最新のハイテ
ク産業向け素材の製造まで多岐にわたる産業分野を支え、
日本の製造業全体の発展に大きく貢献してきた産業であ
る。出荷額は約9兆円で、従業員は約 14 万人であり、そ
れぞれ製造業全体の約 3.1%、約 1.9%を占めている(平
成 26 年工業統計調査)。非鉄金属産業は、
これまで要求レ
ベルの高い国内ユーザーへの対応の中で、
研究開発から量
産まで一貫して国内で行うことで技術ノウハウを蓄積し、
我が国製造業の発展を支えてきた。
しかし、
昨今では非鉄
金属産業は国内需要の頭打ち、
ユーザーニーズの高度化・
多様化、
またエネルギーコストの上昇等事業環境の制約と
いった様々な課題に直面している。
(ア)競争力強化と新規需要の拡大
非鉄金属産業では、
国内需要の頭打ちや、
安価な輸入品
の増加により国内外における競争が激化している。
日本の非鉄金属企業の多くは、
賃加工
(ロールマージン)
の業態をとっている。
一方、
海外企業は川上産業を持つ垂
直統合型の業態を取っており、
両者を比較すると、
日本企
業は収益を得にくい構造となっている。
このような背景の
もと、
非鉄金属産業においては、
事業再編を通じた過剰設
備の合理化や、
技術力の向上、
スケールメリットの実現等
により競争力を高め、
海外市場の獲得や収益性の向上にむ
けた競争力強化が課題である。
その一方で、
高度な技術力を有する企業は、
それを活か
した製品開発並びに、
需要先の海外進出や新興国における
需要の増加にあわせて、
国内外において需要を獲得してい
く可能性は大いにあるといえる。
例えば、近年、欧州、米国市場を中心に、環境規制対応
や省資源化の観点から、
自動車等の軽量化に向けた動きが
ある。これに伴い、軽い部素材への需要が高まっている。
自動車へのアルミニウムやマグネシウムの利用や、
航空機
へのチタンの利用などの増加が予測されており、
使用に向
けた研究開発が見込まれている。
電線産業においては、2020 年の東京オリンピックにむ
けた特需に期待がかかるものの、
現状として国内向けの出
荷量はほぼ頭打ちの状態となっており、
新興国のインフラ
需要の取り込みが重要になっている。
また、
アルミ産業においては、
国内の人口減少等でアル
ミ缶の生産量が頭打ちとなっており、
今後の持続的発展の
ためには人口増加が著しい新興国市場の需要の取り込み
が課題となっている。
(イ)希少金属の安定供給・確保
レアアースを含むレアメタルは、
次世代自動車やIT製
品等の多くの高性能製品に必要不可欠な原材料であると
ともに、
高耐熱・高比強度等の特性を材料に付加する添加
剤としての役割もあるといえる。
また、
これらを用いて製
造される中間部品は、
日本の部材産業の高度な技術によっ
て成り立っており、日本の産業競争力の源泉である。
しかし、
一部のレアメタルについては、
日本はその供給 293を特定国に依存しており、
特定国の政策や経済状況等に影
響を受けるリスクや脆弱性を有している。
そうしたリスクを低減すべく、
代替材料・使用量削減技
術開発やリサイクル、
代替鉱山の開発・権益確保等による
原料の安定調達を一体的に実施するとともに、
米国・欧州
等のレアメタル消費国間での連携を強化していくことが
重要である。
(2)主要な取組
前述のような課題のもと、経済産業省では 2015 年度、
主に以下の取組を行った。
(ア)競争力強化と新規需要拡大に向けた取組
競争力強化の一環として、
資源の有効活用や環境負荷低
減、原材料供給リスクへの対応といった観点から、
動脈産
業(製造業)と静脈産業(リサイクル産業)の連携を強化
し、動静脈一体型の産業構造の構築に資する、
非鉄金属資
源循環の推進に係る検討を行った。
さらに、新規需要を獲得することを目的に、
以下の技術
開発支援を実施した。
(A)革新的新構造材料等技術開発
エネルギー使用量の削減やCO2排出量の削減を図
るため、自動車や鉄道車両の軽量化を目指している。抜本的な軽量化に繋がる高強度構造材料を開発するとと
もに、その関連技術(接合技術等)の確立を目指し、高
強度化と軽量化の両立の実現を目指した各種非鉄金属
構造材の適材配置を意識した研究開発を実施している。
具体的には、アルミニウム材、マグネシウム材、チタン
材について、
強度・加工性・耐食性等の複数機能を維持、
向上させることが可能な低コスト製造プロセスを実現
するための研究開発を行っている。
(B)高温超電導ケーブル実証プロジェクト
過密化が進んだ都市部では、電力需要が伸びる一方、
地中送電ルートの確保や地中管路の拡幅が年々困難化
しており、
コンパクトなサイズで大容量送電が可能とな
る高温超電導ケーブルへの期待が高まっている。
超電導ケーブルは、
各国で技術開発が進められている
が、未だ実用化に至っていないのが現状である。
経済産
業省では、他国に先駆けた実用化へのステップとして、
2007 年度から「高温超電導ケーブル実証プロジェクト」
を実施してきた。2015 年度も引き続き、高温超電導ケ
ーブルの技術開発(送電試験)として、実際に変電所の
実系統に高温超電導ケーブルを接続し、
運転監視、運用
方法など、
実用化に向けた総合的なシステム開発を行っ
た。
(イ)希少金属の安定供給にむけた取組
経済産業省では、レアメタル産業の供給安定化にむけ、
以下の取組を行った。
(A)使用量の削減
2007 年度から 2015 年度まで実施した「希少金属代替
材料開発プロジェクト」
では、
民間企業の生産現場にお
ける希少金属の代替・使用量削減技術に対する実用化支
援を行ってきた。2015 年度は白金族及びイットリウム
等について支援を実施した。
2012 年度から革新的な技術開発を推進する未来開拓
プロジェクトのひとつとして
「次世代自動車向け高効率
モーター用磁性材料開発」
を実施しており、
高性能磁石
材料及び低損失軟磁性材料の開発や、
それら新規材料の
性能を最大化するモーター設計を行っている。
(B)消費国間の連携
レアメタル主要消費国である日米欧の政策当局者及
び技術専門家が、
レアメタル供給を取り巻く世界的な問
題について共通理解を深め、
レアメタル代替技術やリサ
イクル技術などといった将来の安定供給を目指した戦
略的な取組についての情報交換を行うため、2011 年か
ら日米欧三極クリティカルマテリアル会合を毎年開催
している。
2015 年は 10 月に東京において第5回目のワ
ークショップを開催した。
2.3.ナノテクノロジー
(1)概要
ナノテクノロジーとは、ナノメートル(10-9
m。原子の
大きさは 10-10
m)のオーダーで原子・分子を操作・制御
する技術の総称である。
ナノテクノロジーは従前の手段で
は達成できない若しくは非常に困難とされた機能、
又は優
れた特性を引き出すための技術であり、
あらゆる産業に変
革をもたらす基盤技術として、情報通信、環境・エネルギ
ー、
ライフサイエンスなど、
広範な分野で活用されている。
(2)官民における取組
ナノテクノロジーは、2000 年代以降、日本、米国、欧 294州で研究開発が盛んとなり、
各国の産業競争力を強化する
上で重要なものとなっている。
我が国では第2期科学技術基本計画 (2001 年)の重点
分野に、また第3期同基本計画(2006 年)の重点推進分野
にそれぞれ指定された。2011 年8月に定められた第4期
同基本計画においても、
引き続きナノテクノロジーに関す
る研究開発を推進することとされており、
産学官挙げてナ
ノテクノロジーの研究開発に取り組んでいる。
経済産業省では、
一層の省エネルギー化と資源リスクの
低減を実現するために、
ナノテクノロジーを活用した新た
な素材・材料の技術開発を進めている。
具体的には、未来開拓研究プロジェクトとして 2012 年
度より
「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術
開発」
、2013 年度より「未利用熱エネルギー革新的活用技
術研究開発」及び「革新的新構造材料技術開発」を開始し
た。
「未利用熱エネルギー革新的活用技術研究開発」
では、
断熱技術、
蓄熱技術、
熱電変換技術等の要素技術を開発し、
システムとしての熱マネジメント手法の提案を目指して
いる。(「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術
開発」及び「革新的新構造材料技術開発」の実施内容につ
いては、非鉄金属産業(2)主要な取組を参照)これら研
究開発では、組織制御、
構造設計等のナノテクノロジーを
駆使している。
さらに、
「ナノ炭素材料実用化プロジェクト」
において、
太陽電池や透明電極への適用を想定したグラフェン多層
膜の高品質化・大面積化に向けた技術開発を進めている。
一方で、
ナノテクノロジーを活用したイノベーションの促
進には国境や業種を越えた最先端の技術交流やビジネス
マッチングが不可欠であることから、
経済産業省では、世界最大規模のナノテクノロジー (材料、加工・評価、計測
等)の国際総合展「nano tech」
(2016 年 1 月に第 15 回開
催)の後援を行った。
2.4.化学産業
(1)現状と課題
化学産業は、
プラスチックや合成ゴム等の石油化学製品、
無機化学品、洗剤、
写真用フィルム等広範な分野にわたっ
ており、自動車産業、
エレクトロニクス産業など他産業へ
汎用品から高付加価値品まで幅広い原料の供給を行う、日本の製造業の競争力を支える重要な基幹産業である。
日本の化学産業の出荷額は、2014 年において、約 43 兆円(全製造業の約 14%)、従業員は約 86 万人
(同約 12%)、営業利益率は約 6.7%(全製造業中1位)となっている。
(ア)国内化学企業の競争力強化
(A)石油化学産業における国際的な供給構造の変化
米国では、
シェール革命により安価な原料を使用した
エチレン増産の動きが活発化している。
中国は、
石炭化
学プラントの新設により化学製品の国内生産の拡大に
動き始めた。
中東における石油化学産業への設備投資は、
今後も継
続的に増加すると見られている。
このような世界の供給
構造の変化は、
我が国石油化学産業の輸出環境に影響を
与え、
結果として我が国石油化学産業の生産体制にも影
響を与える。したがって、我が国石油化学産業は、こう
した各国の状況を十分に把握しながら、
生産拠点の規模
の最適化、
高付加価値化等により競争力強化を図る必要
がある。
(B)機能性化学産業
我が国の機能性化学産業は、
顧客とすり合わせを行い、
新たな付加価値を創造するという一連のサイクルを通
じて、顧客とともに大きく発展してきた。現在では、半
導体材料、
液晶ディスプレイ材料、
リチウムイオン電池
材料など、
日本企業が世界市場で高いシェアを獲得して
いる品目も多数存在する。一方で、近年、機能性化学産
業の主要顧客である我が国エレクトロニクス産業の競
争力の低下・市場シェアの縮小や海外の部材メーカーの
技術力向上により、
機能性化学分野の一部には、
多数の
海外部材メーカーが参入し、
日本企業がシェアを失って
いる市場もある。
このような中、
我が国の機能性化学産
業が将来にわたって優位であり続けるための取組を講
じる必要がある。
(イ)国際化対応
我が国の化学品貿易は、
2015 年の輸出額は約 9.6 兆円、
輸入額は約 9.0兆円と約0.7兆円の貿易黒字を計上してい
る。
日本の化学産業は時々の時代のニーズに応じて原料や
主産品を転換しつつ、石炭化学、石油化学、機能性化学へ
と領域を拡大発展してきた。とりわけ 2000 年代に入り、
液晶・半導体向けの電子材料や自動車用高機能部材を提供
することで発展を持続、
我が国製造業の競争力の源泉とな
っている。 295一方、化学品の貿易取引において、安全、環境等様々な
観点から規制が存在しており、
昨今、
特にアジアを中心と
する諸外国において新たな規制の導入、
法運用の強化等の
動きがみられており、
これらへの的確な対応が重要な課題
となっている。
また、化学品は、
諸外国からアンチダンピングやセーフ
ガードといった貿易救済措置を多く受けていることに加
え、インドをはじめとする新興国では、
タイヤ製品に対す
る強制規格が導入され、
事実上の非関税障壁となっている。
これらの保護貿易的措置は、
自由貿易体制の維持・拡大に
重大な影響を与える可能性もあり、
今後も、
二国間又は多
国間協議を通じて迅速な対応が必要である。
(ウ)予算・税制
(A)技術開発
化学産業が排出するCO2は、2014 年において、日本
の全排出量のうち約6%を占めており、
今後の温暖化対
策の進め方によっては大きな影響を受ける可能性があ
る。化学産業においては、エネルギー環境分野(蓄電池
等)への素材供給の加速化や、
化石資源以外の原料から
化学品を製造する原料の多様化等により、
低炭素社会の
実現に貢献していくとともに、
製造プロセスの省エネの
促進等によりエネルギー制約に対応していく必要があ
る。
(B)天然ゴムの安定供給
天然ゴムは、
自動車や航空機のタイヤ、
医療用手袋等、
各種ゴム製品の原料として使用される。
我が国は、
天然
ゴムの供給を 100%輸入に依存しており、天然ゴムの安
定調達及び市場価格の安定化が、
ゴム・タイヤ業界にと
って重要な課題である。
(C)税制
日本の化学産業における、
製品の低廉かつ安定的な供
給を通じた我が国製造業の国際競争力の維持・強化及び
産業空洞化の防止を実現し、
もって我が国経済の活性化
及び国民生活の質の向上を図るために、
課税環境の国際
的なイコールフッティングを確保する必要がある。
(2)主要な取組
(ア)国内化学企業の競争力強化
(A)石油化学産業の市場構造に関する調査報告
2014 年度に産業競争力強化法第 50 条に基づき、石油
化学産業の市場構造に関する調査を行い、
我が国の石油
化学産業にとって厳しい状況を想定し、
将来の需給動向
の見通しを示した。加えて、厳しい状況においては、生
産量の減少により、
近い将来に設備の集約や事業の再編
が必要となることなど、
石油化学産業の課題及び取組の
方向性を提示した。さらにこれを踏まえ、経済産業省、
石油化学企業及び地方自治体がそれぞれの取組状況を
定期的にフォローアップし、共有するために、
「石油化
学産業における産業競争力強化法第 50 条に基づく調査
報告のフォローアップ会議」を 2015 年度に開催した。
(B)世界の石油化学製品の今後の需給動向
国内外の石油化学製品の需給動向に関して的確な調
査・分析を行い、
国際環境を見据えた政策等の検討につ
なげていくため、
世界の石油化学製品の今後の需給動向
に関する研究会を開催し、
生産、
需要等の動向やプラン
ト稼働等に関する見通しについて調査・集計を行い、そ
の結果を公表した。
(イ)国際化対応
(A)日ASEAN対話
日本、ASEAN経済産業協力委員会の枠組みの下、
化学産業ワーキンググループ(WG)が 1999 年に創設
され、
最近では化学物質安全管理に係るキャパビルの実
施や、
経済産業省化学課が作成した世界の石油化学製品
の今後の需給動向等について情報提供等を行っている。
2015 年度は、6月にカンボジアにおいて第 20 回化学
産業 WG を開催し、日本、ASEAN各国における化学
物質管理の動向等、域内への発展・調和に向けた取組の
具体化を前進させる議論を行った。なお、2016 年度は
カンボジアで開催することとなった。
(B)アジア太平洋経済協力(APEC)化学対話
APEC貿易投資委員会の下に、2000 年に化学品の
貿易投資の促進を目的として化学対話の創設に合意。
2001 年より活動を開始している。
2015 年度は、2015 年8月にセブ(フィリピン)で、
2016 年 2 月にリマ(ペルー)で開催され、戦略的枠組
み、
各エコノミーのGHS対応状況、
海洋ゴミ問題への
取組、
各エコノミー及び欧州における化学物質管理規制
等について意見交換を行った。
(C)ミャンマーゴム品質規格向上支援
ミャンマーは、
将来において新たな天然ゴム供給国の 296一角を担うことが期待される一方、
政府や公的研究機関
による天然ゴム産業育成施策は十分に実施されていな
い。特に、天然ゴムの輸出において、品質を保証する仕
組み(検査機関等)が存在しないことから、国際マーケ
ットに適正価格での流通が行われていない。
このことか
ら、天然ゴムの安定調達のために我が国ゴム・タイヤ産
業が要求する水準の品質を第三者が証明・認証する仕組
みを整備し、
天然ゴムの輸出の拡大を図っていくことが
必要である。
2013 年度から3か年の技術協力を実施中であり、
2015 年度は5回の専門家派遣を行い、1. 加工工場及
び原料生産現場の品質改善指導、2.ミャンマー業界団
体(MRPPA)
のIRA加盟及び検査機関の国際取引
が可能となる認証取得に向けた取組、3.生産性向上に
関する啓蒙活動
(セミナー)
開催、4.加工工場
(タイ)
及び検査機関
(マレーシア)
への第三国研修を実施した。
(ウ)予算・税制
(A)技術開発予算
(a)革新的省エネ化学プロセス技術開発プロジェクト【2015 年度当初予算:25.5 億円】
・二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発
(研究開発期間:2012 年度〜2021 年度)
CO2と水を原料に太陽エネルギーを用いてプラ
スチック原料等の化学品を製造する革新的触媒等の
技術開発を行い、
石油の価格上昇や枯渇リスク等の資
源問題とCO2削減等の環境問題を同時に解決する。
・有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発(研究開発期間:2012 年度〜2021 年度)
砂から有機ケイ素原料を直接合成し、
同原料から高
機能有機ケイ素部材を製造する革新的触媒等の技術
開発を行い、
環境に優しいケイ素を活用した環境調和
型高機能材料の市場拡大を図る。
・非可食性植物由来化学品製造プロセス技術開発(研究開発期間:2013 年度〜2019 年度)
バイオマス原料の成分分離技術等を有する製紙企
業等と、
触媒変換技術等を有する化学企業が垂直連携
し、
非可食性バイオマス原料から機能面及びコスト面
の両面で優位性を持つ化学品を一気通貫で製造する
省エネプロセスを開発する。
・微生物触媒による創電型廃水処理基盤技術開発(研
究開発期間:2012 年度〜2015 年度)
化学工場の排水処理には、
現在、
活性汚泥法という
微生物処理法が広く用いられているが、
曝気や攪拌の
行程に多大なエネルギーを消費する。
加えて、
当該処
理により汚泥が大量に発生するため汚泥の処理にも
多大なエネルギーを要しているという問題を抱えて
いる。
省エネ型の廃水処理を実現するため、
汚濁廃水中の
有機物を微生物が分解する際に生ずる電気エネルギ
ーを効率よく取り出し、
この電気エネルギーを廃水処
理システム自体の運転電力等へ活用し、
併せて汚泥の
大幅削減が図れる微生物燃料電池の実用化に必要な
基盤技術を開発する。
(b)次世代省エネ材料評価基盤技術開発プロジェクト
【2015 年度当初予算:11.0 億円】
・蓄電池材料評価基盤技術開発プロジェクト
(研究開
発期間:2010 年度〜2022 年度)
次世代蓄電池の新材料の共通的な性能評価手法の
基盤技術を確立し、
材料メーカーと電池メーカーとの
間のすり合わせに要する期間の短縮化や開発コスト
の大幅な低減に寄与する他、
アカデミアで研究してい
る材料の産業界への橋渡し促進など、
高性能蓄電池・
材料の開発の効率向上・加速化により、
次世代蓄電池
の早期開発、
早期普及を促し、
蓄電池市場における国
際競争力の強化を図る。
・次世代材料評価基盤技術開発プロジェクト
(研究開
発期間:2010 年度〜2015 年度)
有機ELや有機薄膜太陽電池等の先端機器に使用
される次世代化学材料の性能評価手法の基盤技術を
確立し、
材料メーカーとセットメーカーとのすり合わ
せ時間の短縮、
開発コストの大幅な低減、
革新的な材
料の開発の加速等につなげ、
材料産業の競争力の強化
を目指す。
(c)革新的印刷技術による省エネ型電子デバイス製
造プロセス技術開発
(研究開発期間:2010 年度〜2018
年度)
【2015 年度当初予算:8.3 億円】
真空・高温を必要とすることから多量のエネルギー
を消費する従来の電子デバイスの製造プロセスに替 297わり、
印刷技術を駆使した省エネ型電子デバイスの製
造プロセスを開発し、薄型・軽量・耐衝撃性等などの
特徴を有するフレキシブルデバイスの実用化につな
げ、新たな市場における産業競争力の強化を図る。
(B)国際ゴム研究会分担金(2004 年度〜)
【2015 年度当初予算:0.1 億円】
国際ゴム研究会は、
天然ゴム及び合成ゴムの生産国及
び消費国双方の政府が参加する唯一の国際機関であり、
我が国は 1952 年から加盟している。本分担金は、加盟
国である我が国が活動費として拠出する。
近年天然ゴム
価格が乱高下する中、
生産国と消費国の連携が一層求め
られている中で、
同研究会に参加しゴムに係る国際需給
動向等の適切な把握や生産国と消費国との協力等を進
めるとともに、
ゴム産業の持続的発展をテーマにした国
際基準・認証制度づくりに積極的に参画し、
ゴムの安定
調達及びゴム製品の国際競争力の維持・強化につなげて
いる。
(C)税制
(a)原料用途免税
課税環境における国際的なイコールフッティング
を確保するためのナフサ等の原料用石油製品等に係
る免税・還付措置の本則化については、
引き続き検討
することとなった。
(b)苛性ソーダ免税
苛性ソーダの課税環境における国際的なイコール
フッティングを確保するために苛性ソーダを製造す
る者が自家発電に使用する石炭に係る、
石油石炭税の
うち地球温暖化対策のための課税特例分の免税が
2017 年3月末まで措置されている。
(c)関税要望
石油化学製品の原料となる揮発油等の関税につい
ては、関税暫定措置法に基づき、
国産品とのバランス
を考慮し国産品の関税負担額相当分とされてきたが、
2006 年度以降は、原油関税の無税化に伴い揮発油等
の軽減税率も無税とされてきた。
引き続き原料コスト
を低減し国際的な競争力を確保するため、
輸入揮発油
等にかかる関税を無税とする措置の延長を要望し、関税暫定措置法が改正された(2017 年3月末まで)。2.5.生物化学産業
(1)再生医療の実用化・産業化に関する取組
(ア)現状と課題
再生医療は、
手術・投薬など従来の方法では治療困難と
される疾患の根本治療に途を開くものであり、
世界的にも
高い期待が寄せられている。
将来的には慢性疾患や高齢化
に伴う疾患等の治癒により、
社会保障費の抑制にも貢献す
る可能性がある。
我が国における再生医療への取組は、
研究活動において
はトップレベルにあるものの、
その実用化においては欧米
等との格差が懸念される状況にあった。
2014 年 11 月に、再生医療等安全性確保法及び医薬品医
療機器等法が施行され、
再生医療の研究開発から実用化ま
でを推進する法制度が整えられたが(後述)
、現在、国内
で上市されている再生医療製品は既存の2品目と医薬品
医療機器等法施行後に承認された2品目の計4品目にと
どまる等、未だ実用化は進んでいない。このため、再生医
療の特性を踏まえた安全性等に関する評価手法の確立、周辺産業の技術開発及び国際標準化、
ビジネスモデルが成立
する事業環境整備など、
再生医療の実用化促進のための取
り組みが、引き続き重要である。
(イ)再生医療の特性を踏まえた法制度の整備
2012 年度に行われた「再生医療の実用化・産業化に関
する研究会」において、医師・医療機関から外部の事業者
に細胞加工業務の委託を可能にすることや、
再生医療製品
の早期承認制度を実現することなどを提言するとともに、
事業環境の整備の基礎として、
再生医療及び周辺産業の市
場規模を推計した。
その結果、
国内の再生医療の将来市場
規模は 2020 年 950 億円、2050 年には 2.5 兆円、国内の再
生医療周辺産業の将来市場は 2020 年で 950 億円、2050 年
で 1.3 兆円と予測された。
2013 年3月には、超党派による再生医療を推進する議
員の会での議論を経て、
「再生医療を国民が迅速かつ安全
に受けられるようにするための施策の総合的な推進に関
する法律案(再生医療推進法)
」が提出され、同年5月に
公布された。
これを受けて、
政府において法制度について
検討が進められ、2013 年 11 月の臨時国会において「再生
医療等の安全性の確保等に関する法律
(再生医療等安全性
確保法)
」及び「薬事法改正法(医薬品医療機器等法)
」が
成立した(いずれも一部を除き 2014 年 11 月施行)。再生医療等安全性確保法には、
再生医療をリスクに応じ 298て分類し必要な対応を規定することや再生医療向けの細
胞加工を受託する「特定細胞加工物製造事業者」
の創設な
どが盛り込まれた。
また、
薬事法を全面的に見直した医薬
品医療機器等法では
「再生医療等製品」
を新たに定義する
とともに、
必ずしも均質でない再生医療製品の特性を踏ま
え、条件及び期限付き承認制度が導入された。
これらによ
り、
再生医療の研究開発から実用化までを推進する法制度
が整えられることとなった(図参照)。図 法整備の体系
(ウ)再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業
【2015 年度当初予算:25 億円】
・再生医療製品の開発は、J-TEC(培養軟骨、培養皮
膚)やヘリオス(iPS由来網膜色素上皮細胞)に代表さ
れるベンチャー企業を中心に行われている。
上市されてい
る再生医療製品は4品目に留まり、
安全性、
有効性等の評
価の手法が確立していないことや薬事申請に関する経験
が限られていることが、
円滑な上市を行う上での課題とな
っている。このため、開発中の再生医療製品について、開
発に当たっての課題を収集し、
製品規格の設定方法や製法
変更時の評価方法などの検討を行った。
ここで得られた知
見を後続の企業等と共有することで、
今後の製品開発の円
滑化が期待される。・技術面に関する取組としては、
再生医療の実用化に向け、
再生医療製品の材料となるiPS等幹細胞を安定的に培
養し、
細胞の品質を評価することで安全な細胞を供給する
必要があることから、
iPS等幹細胞の自動大量培養装置
の開発に加え、細胞の培養に必要となる培地、試薬、容器
等の消耗品や細胞の保存、
輸送等の再生医療製品を製造す
るに当たって必要となる周辺産業の技術を同時に開発し、
細胞製造の自動化から再生医療製品の供給までを想定し
たシステムの開発を推進した。
これにより、
世界的にも未
確立である自動大量培養装置の技術を世界に先駆けて開
発し標準化を推進することで我が国企業の国際競争力を
高めることが期待される。
(エ)再生医療の特性を踏まえた標準等の検討
2013 年に取りまとめた報告書(グローバル認証基盤整
備事業)
において、
再生医療の周辺産業の標準化について
は、
国内外の標準化活動の動向や有力企業のビジネスモデ
ル等について調査し、
速度感をもって国内でフォーラム/
コンソーシアム標準を数多く用意すること、
その中から適
当なものについて国際標準化を目指すことが望ましいこ
となどの方針を示している。
日本の優れた技術を世界に普及させるため、
一般社団法
人再生医療イノベーションフォーラムなどの業界団体を
中心として、標準化活動を加速させることとしている。
(オ)その他、再生医療周辺の事業環境整備について
再生医療等製品の製造原料となるヒト他家細胞
(患者本
人以外の細胞)
について、
品質管理やコスト面で自家細胞
(患者本人の細胞)
にない特性、
メリットを有するにも関
わらず、国内で安定的に入手できない現状がある。また、
他家細胞由来製品の開発は、海外が先行している。
このような現状を踏まえ、
他家細胞由来製品の開発や事
業化に資するよう、2014 年度に有識者研究会を設置し、
国内でヒト他家細胞を入手する際の課題を明確化し、
対応
策について考察を行った。
この際、
手術等で摘出されたヒ
ト細胞・組織の利用を想定した。
国内で再生医療製品の原料として、
ヒト他家細胞を入手
する際の課題として、
細胞の入手・提供に関する実務的課題(品質確保、
細胞提供者からの同意取得、
個人情報保護、
医療機関と企業の連携等)
、細胞の入手・提供を円滑に進
めるための社会的認知の向上等が挙げられた。
また、採取
医療機関・再生医療企業等の間に入り、
実務上の課題等に
対応する専門の仲介機関・機能の必要性が指摘された。
これを踏まえ、2015 年度より「再生医療の産業化に向
けた評価基盤技術開発事業」
において、
利用時の問題が比
較的少ない手術摘出物等を対象として、
実際の入手、提供
に向けた実務的な検討及び品質確保のための技術的な検
討等を進めている。
(2)バイオ医薬品関連の取組
(ア)現状と課題 299医薬品産業は、日本を代表する知識集約型・高付加価値
産業の代表格であり、
世界規模での高齢化等により医薬品
需要は大幅に伸びている。特に、今後は、遺伝子組換え技
術、
細胞培養技術等を用いたバイオ医薬品が大幅に伸長す
る見込みである。しかし、
日本の医薬品市場は大幅な輸入
超過となっており、国民の半数が「がん」になる時代であ
るにもかかわらず、
国内でがん治療薬として利用されるバ
イオ医薬品(抗体医薬品)がほとんど生まれず、国内がん
治療薬市場は 2000 年を境に輸入品が急速に増加している
(図参照)
。また、生産拠点が海外にあることから国内で
は製造技術が成熟しておらず、
それを担う人材が育たない
こともあり、
製造を支える装置や部材等の周辺産業も成長
し難い現状にある。
そのため、
国内への資金の還流が少な
く創薬イノベーションが起きにくい状況になり、
結果とし
て医薬品の創出も難しいという悪循環に陥っている。
また、
バイオ医薬品の後発医薬品であるバイオシミラー生産に
おいても、
日本で生産できないことから製造技術の確立等
の対策が急務である。
さらに、近年、生命科学研究の進展により、個人の体質
に基づき薬効が高く副作用の少ない薬を選ぶ個別化医療
が進展し、
薬の開発対象も患者数の少ない疾患へと移行す
る中で、
創薬コストの低減及び新薬創出力の強化が課題で
ある。
また、我が国が高齢化社会を迎え、
老化とともにがんや
認知症などの疾病を抱える患者がより増加することが懸
念されるが、がんは早期に治療するほど生存率が高く、アルツハイマーも早期に治療を開始することで進行を遅ら
せることが期待できるため、
早期発見、
早期治療をするこ
とで、健康寿命の延伸を図り、経済的・社会的負担の軽減
を図る先制医療に取り組む必要がある。
図 がん治療薬の国内売上高(2012 年)
(イ)次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発
【2015 年度当初予算:52.7 億円】
上記現状と課題を踏まえて、
経済産業省では、
解析情報と
計算科学を基にした合理的な創薬手法により創薬コスト
の削減を図るとともに、
我が国が優位性を持つ世界最大の
天然化合物ライブラリー等を活用するための技術基盤の
開発、
及び従来の強みであった化学合成とは全く異なるバ
イオ医薬品の製造技術に関して、
個々の優れた医薬品製造
技術、
部材技術等の周辺技術を有効活用して、
バイオ医薬
品の安定生産・コストダウンに資する製造技術の研究開発
を実施した。
さらに、
我が国の優れた分析技術や合成技術等を結集し、
がん等の疾患に特有の物質
(糖鎖)
のみに反応することに
より、
少ない副作用で治療を実現する糖鎖創薬技術の研究
開発を開始した。
また、乳がんや大腸がんなど 13 種類のがんと認知症の
早期発見マーカーを見出し、
これらのマーカーを検出する
装置等を開発し、
世界に先駆けて実用化を目指す事業を実
施した。
(3)その他バイオ関連の取組
(ア)
革新的バイオマテリアル実現のための高機能ゲノム
デザイン技術開発
【2015 年度当初予算:4.3 億円】
(A)現状と課題
1990 年代以降、多種多様な生物のゲノム情報が解読
され、
遺伝子の機能解明や機能改変技術が進展した。近
年、
これらの技術を応用し遺伝子組換え微生物を設計す
ることで、
様々な高機能材料を微生物に生産させる技術
開発が期待されている。
しかし、
生物内の遺伝子機能は非常に複雑であり、想
定通りの生産を担保できず、
実用化が十分に図られてい
ない。
これらの課題を克服し、
従来技術を用いた合成が
困難だった高機能材料を高効率に生産する革新的なバ
イオ基盤技術の開発が急務となっている。
(B)課題に向けた取組
高機能な素材や画期的な医薬品等の創出、
これらの生
産効率の向上を図るため、
大規模ゲノム情報に基づいた
生合成経路を設計し、
多数の遺伝子を組み込んだ長鎖D 300NAを合成し、
長鎖DNAを微生物に組込む技術を開発
する。
従来技術では合成が困難だった医薬品等の有用物
質の生産やその生産効率を飛躍的に向上させる技術開
発を進めている。
現在、
既にモデル物質の生産では従来
法と比較して 1000 倍近くの生産効率を達成している。
(イ)
密閉型植物工場を活用した遺伝子組換え植物ものづ
くり実証研究開発
【2015 年度当初予算:1.1 億円】
(A)現状と課題
近年、
遺伝子組換え技術を用いた抗体医薬品やワクチ
ンが多数開発され、
疾病治療や予防に大きな効果をもた
らす一方、
これらは動物細胞を利用して生産されるため、
人獣共通感染症などの問題が指摘されている。
また、製造・保存コストが高い、
大量生産が困難などの課題も存
在する。さらに、薬草や、機能性食品などに含まれる植
物由来の有用天然化合物などは、
動物細胞や微生物を利
用した生産は非常に困難である。
(B)課題に向けた取組
遺伝子組換え植物を用いた物質生産を行うため、
生産
量を飛躍的に増加させる基盤技術の開発と製造プロセ
スにおける二酸化炭素排出量の大幅な削減を図る高効
率・省エネ型生産システムの開発を行った。
それら技術
を用いた高付加価値な有用物質
(医薬品原材料、
ワクチ
ン、機能性食品等)生産の実用化と、上市を目指してお
り、イヌ用歯肉炎治療薬については、
世界初の植物生産
由来の動物医薬品として製造と販売を実現した。
(ウ)遺伝子検査ビジネスについて
(A)現状と課題
近年、太りやすさなどの体質、病気のなりやすさ、血
縁判定、更には個人の能力・才能などを判定する名目と
して提供されている消費者向け遺伝子検査ビジネスが
注目を集めるようになった。
このうち体質等に関する検
査は、
生活習慣病予防のための行動変容のきっかけ作り
などの健康増進への寄与が期待されている。
この一方で、
専門家から見てその意義や有用性が十分とは言いがた
い遺伝子検査が提供されているなどの指摘もある。
(B)課題に向けた取組
健康・医療戦略本部の下に設置された
「ゲノム情報を
用いた医療等の実用化推進タスクフォース」において、
消費者向け遺伝子検査ビジネスについて、
課題を整理す
るとともに、
今後必要な取組について検討を行った。本
タスクフォースの意見取りまとめにおいては、
事業者の
自主的な取組を促進すると同時に、
国内外の事業実態・
規制状況を把握し、
分析的妥当性の確保、
科学的根拠の
質の確保、
遺伝カウンセリングへのアクセスの確保に関
して、
実効性のある取組を行う必要があるとされた。こ
れを踏まえ、厚生労働省等の関係省庁と連携し、調査・
検討を進めていくこととしている。
(エ)生物多様性・カルタヘナ法
遺伝子組換え微生物等の産業活用促進基盤整備事業
【2015 年度当初予算:0.2 億円】
生物多様性総合対策事業
【2015 年度当初予算:0.2 億円】
(A)現状と課題
国際条約に則り、
遺伝子組換え生物等が生物の多様性
に及ぼす負の影響を防止するため、
遺伝子組換え生物等
の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律(カルタヘナ法)
の適切な執行が引き続き重要である。
また、
バイオ産業にとって重要な素材である微生物等の
遺伝資源について、
生物多様性が豊かな開発途上国等で
は遺伝資源の入手等に対する規制が設けられつつある
が、
そうした国々から円滑に遺伝資源が入手できるよう
にすることが益々重要となっている。
(B)課題に向けた取組
2015 年度は、カルタヘナ法に基づく申請に対する確
認を 78 件行った。また、確認を受けた企業の拡散防止
措置が適切に実施されているかを確認するための立入
検査を 12 件行い、評価手法の検討等に独立行政法人製
品技術評価基盤機構(NITE)とともに取り組んだ。
また、
企業等がアジア諸国等から遺伝資源を円滑に入手
できるようにするための相談窓口の設置等に引き続き
取り組んだ。
企業等が遺伝資源を円滑に入手できるように、
遺伝資
源に係るアクセス及び利益配分
(ABS)
に関する説明
会等を開催し、
広く普及啓発を図った。
海外の遺伝資源
へのアクセスに関する手引書を関係企業に配布を行い、
国際会議における我が国の取組の紹介等を実施した。
2.6.窯業
(1)ガラス産業 301(ア)現状と課題
ガラス産業は、建築用や自動車用の板ガラスから、
液晶
ディスプレイ用ガラス基板や、
太陽光発電パネル・スマー
トフォンの表面保護材等の高機能材としての用途など広
範な分野に供給される川上産業である。
また、
溶融窯を特
長とする製造工程とノウハウを生かした製造技術を競争
力の源泉とする装置産業である。
世界の板ガラス生産量は、2008 年以降の世界的な景気
悪化による一時的な落ちこみを除き一定の割合で増加し
ている。これは主として中国の成長と相関関係にあり、中国国内の建築需要に比例した建築用ガラス需要が増加し
ていると考えられる。
国内を見ると、2015 年度の板ガラス生産量は前年度比
1.9%増の 25,664 千換算箱、出荷は前年度比 4.5%減の
23,107 千換算箱と前年度とほぼ同水準で堅調に推移して
いる(板ガラスの換算箱は、厚さ2mm、面積 9.29 平方メ
ートル(100 平方フィート)を基準に換算した箱数)。ガラス産業は輸送コスト等の要因により基本的に消費
地生産であり、各企業は世界市場の獲得に向け、
グローバ
ルに事業を展開している。
我が国企業においては、
旭硝子
株式会社が 2002 年にベルギーのグラバーベルを、日本板
硝子株式会社が 2006 年にイギリスのピルキントンを完全
子会社化し、
セントラル硝子株式会社がフランスのサンゴ
バンと自動車用ガラスの合弁会社を設立し協力体制を築
くなど、
各企業が積極的なグローバル化を進めてきた結果、
2013 年の世界シェアのうち板ガラスの約 15%、自動車用
ガラスの約 50%、液晶ディスプレイ用ガラスの約 45%を
我が国企業が占めるに至っている。
こうしたグローバル化による成長の一方で、
最大の市場
である中国において 2000 年以降生産能力が急増したこと
が要因となり、
建築用ガラスを中心に供給過剰状態に陥っ
ている。既に中国国内では値崩れや、
アジア諸国への輸出
拡大が生じているなどの影響を与えており、
我が国企業を
はじめとしたガラスメーカーの価格競争力低下を招いて
いる。
このような環境の中で各企業は、
競争力向上のため高い
製造技術を生かした高付加価値製品の開発に注力してい
る。ガラスの更なる強化や薄板化は、
スマートフォンの薄
型化や太陽光発電パネルの軽量化など最終製品の能力向
上のほか、新たな分野・用途に使用されるポテンシャルを
有しており、今後の成長への寄与が期待されている。
また、
東日本大震災や昨今の自然災害の増加等を契機に、
ガラスの破損や脱落等による被害を抑制する効果を持つ
安全ガラス(合わせガラス)や、高い断熱性能により冷暖
房負荷を低減、
節電に貢献する複層ガラス
(Low―E複
層ガラス等)
といった製品への関心も高まっており、省エ
ネや安心・安全といった時代のニーズに合わせてガラスの
担うべき役割も拡大しつつある。
(イ)主要な取組
エネルギーの使用の合理化等に関する法律(省エネ法)
に基づくトップランナー制度の対象にガラスを追加する
とともに、
既築住宅・建築物の改修に対する一定の省エネ
ルギー性能を満たす高性能なガラスの導入補助、
産業競争
力強化法に基づく生産性向上設備投資促進税制の対象設
備に断熱窓を指定すること等を通じ、
複層ガラスの普及に
向けた支援を行った。
(2)セメント産業
(ア)現状と課題
国内のセメント事業者は 17 社 30 工場あるが、
太平洋セ
メント株式会社、
三菱マテリアル株式会社と宇部興産株式
会社が販売部門を統合した宇部三菱セメント株式会社、住友大阪セメント株式会社の三大グループ体制となってお
り、2015 年度末現在では三大グループだけで国内販売シ
ェアの約8割を占めている。
セメントの国内需要は、1990 年度に 8,629 万トンと過
去最高を記録して以降、
自然災害による復旧需要などの一
時的な増加は見られるものの、
総じて減少傾向で推移して
きた。2015 年度の需給は、国内の官需では、労務費や資
材費の上昇、
建築の工法変化などにより原単位が低下した
こと、また、民需では、住宅投資は消費税増税後の反動減
から回復の兆しも見えたものの、
労務費や資材費の上昇に
より原単位が低下したことや、
設備投資については、消費
税増税後の景気停滞に加え、
世界経済の先行き不透明感も
あり想定ほどには伸びなかったことに加え、
同様に諸費用
の上昇、
工期の長期化、
建築工法の変化により原単位が低
下したことなどから 6.3%減少の 4,267 万トンと2年連続
で前年度を下回った。
輸出については、
国内出荷の減少と東アジア・オセアニ
アを中心とした堅調な需要に円安基調もあり、さらには、 302経済発展が見られるアフリカなどにも輸出しており、2003年度頃からは年間 1,000 万トン程度で推移している。
また、
輸入については、韓国からのみであり、2011 年度からは
80 万トン前後で推移していたが、
3 年連続で前年度を下回
った。
図:セメント国内需要等の推移
出典:一般社団法人セメント協会
日本のセメント産業の省エネ技術は、
世界において最高
水準にあるが、
一方でエネルギー多消費産業として更なる
省エネ等に向けた取組も不可欠である。
日本のセメント産業の特徴として、
他産業や一般家庭か
ら排出される廃棄物及び副産物をセメント原燃料として
積極的に再利用していることが挙げられる。2014 年度で
は 2,921 万トンの廃棄物等を受け入れており、
セメント1
トン当たりの廃棄物等使用量は 479 kg。
近年増加傾向にあ
ったが、2014 年度では高炉スラグの使用量が減少した影
響等により前年比で 1.5%減少した。
海外進出状況については、
現在中国や米国を始めとして
環太平洋地域に進出しており、
今後、
日本のセメント企業
が有する廃棄物等を利用した生産技術や省エネ技術等を
活かし、
新興国など需要拡大が見込める地域への海外展開
が期待される。
また、東日本大震災の被災地域において、
地震や津波に
より倒壊した家屋等の災害廃棄物が大量に発生したが、セメント産業では、
その災害廃棄物についても被災地域の工
場を中心として積極的に受け入れ、
被災地の復旧・復興に
向けて協力を行った。 303(イ)主要な取組
エネルギー・環境分野のイノベーションにより気候変動
問題の解決を図るため経済産業省が開催している Inn
ovation for Cool Earth Forum(ICEF)にセメント部
門を設け、各国の先進的な取り組みの共有を行い、
国際間
の議論と協力を促進するための国際的なプラットフォー
ム作りを推進した。
2.7.住宅産業
(1)現状と課題
新設住宅着工戸数は、
前年の消費増税駆け込みの反動減
からの持ち直しにより、2015 年度は 92.1 万戸(前年度比
4.6%増)となった。プレハブ住宅についても、14.3 万戸
で対前年度比 2.1%増となった。
(2)主要な取組
建築材料の規格化について、
現行JIS規格の改正作業
を行った。
さらに、
住宅システム全体としてエネルギーの有効利用
の促進が求められる中、2012 年からゼロ・エネルギー住
宅(ネット・ゼロ・エネルギーハウス:ZEH)への支援
制度を実施するとともに、
太陽熱等自然エネルギーを効率
良く利用できる住宅システムの開発を推進した。加えて、
既築住宅の抜本的な省エネルギー化を図るため、
住宅の改
修における、
一定の省エネルギー性能を満たす高性能な断
熱材や窓等の導入に対し、補助を実施した。
また、
既存住宅の活用を含め、
今後の住宅関連産業の発
展を見据えてリフォームビジネスの拡大に向け、
「先進的
なリフォーム事業者表彰」
事業を行い、
17 事業者を選定・
表彰した。
2.8.素形材産業
(1)現状と課題
素形材産業は、
「川上から金属材料(鉄鋼、アルミ、合
金等)を調達し、成形加工して、川下の機械組立産業(自
動車、産業機械、電気通信機器等)に供給する」川中産業
であり、
日本の自動車や産業機械などの国際競争力の基盤
をなす存在である。
約9兆円の素形材市場のうち、自動車産業向けが7割、
産業機械向けが2割と自動車依存率が高く、
また、
平均従
業員数が約 13 名と中小企業が非常に多い状況にある。
また、東日本大震災による原子力発電所の停止により、
化石燃料への依存の増大により、
電力料金が上昇したため、
電力多消費産業である素形材産業は、
収益面で大きなマイ
ナスの影響を受けている。
円安により、
一部では国内回帰の動きが見られるものの、
出典:一般社団法人セメント協会 304一方では、中国経済の後退等の影響を受け、
国内生産高は
減少している。
こうした中、日本の素形材産業は、
電力の供給不安や価
格上昇とグローバル展開への対応が急務となっており、企業の経営体力の増強と海外展開や新事業展開といった経
営革新が求められている。中小企業が多く、人的・資金的
体力が限られる中で、
如何に生産性を高め、
高付加価値化、
差別化を図るか、
競争力強化の源泉の確保が課題となって
いる。
(2)主要施策
(ア)海外展開事業
アジアを中心とした新興国市場の急成長に伴い、
主要ユ
ーザーである自動車産業等の海外展開が急速に進展して
いる中、
素形材産業としても海外需要を取り込む生産体制
の構築が急務である。
また、日本とのEPAによる関係強化を契機とし、ASEAN各国も、
経済成長や産業競争力強化を実現すべく日
本との一層の連携に乗り出している。
このような状況を踏まえ、
日本の素形材産業の海外展開
と相手国との連携強化の在り方を検討するため、2006 年
度以降、素形材産業海外ミッションを毎年実施しており、
2015 年度はミャンマーへ海外ミッションを派遣した。
さらに 2015 年度は、これとは別の視点で、相対的に高
付加価値での取引可能性が高いであろう先進国での素形
材産業のビジネス展開の可能性を探るため、ロサンゼル
ス・シリコンバレーを訪問した。
素形材産業を中心に十数
社でミッション派遣団を組成し、
ロサンゼルス・シリコン
バレーに立地する企業やベンチャー・スタートアップ施設
等を訪問し、現地の社長等との意見交換や、自社の製品・
技術等をプレゼンテーションするピッチイベントを開催
した。
(イ)研究開発
経済産業省では、
中小企業のものづくり基盤技術に資す
る研究開発及びその試作等の取組を支援することにより、
日本の製造業の国際競争力の強化と新たな事業の創出を
図ることを目的として、
「戦略的基盤技術高度化支援事業」
(サポイン事業)を実施している。本事業は、
「特定もの
づくり基盤技術」として指定している技術が対象となり、
全 11 技術の内、7の技術分野(精密加工に係る技術、製
造環境に係る技術、接合・実装に係る技術、立体造形に係
る技術、表面処理に係る技術、複合・新機能材料に係る技
術、
材料製造プロセスに係る技術)
が素形材関連分野とな
っている。
事業を開始した 2006 年度から多くの素形材企業が活用
し、2015 年度の採択件数全 143 件中、28 件で素形材分野
が採択された。
本事業は、
研究開発意欲が高い中小・小規模の素形材企
業にとって、技術力向上を図る好機になっている。
また、
日本の強みである素材や機械制御技術等を活かし
て少量多品種で高付加価値の製品・部品の製造に適した世
界最高水準の3Dプリンタの技術開発事業(
「三次元造型
技術を核としたものづくり革命プログラム(2015 年度予
算額 19 億円(うち3Dプリンタ関連は 18.2 億円))」)を開始した。
2014 年度から 2018 年度の5年間で、従来の3Dプリン
タと比較し、高速(従来の約 10 倍)
、高精度(従来の約5倍)、大型(従来の約3倍)な3Dプリンタの開発を進め
る。
これにより、
これまでにない軽量で複雑な高機能製品の
開発を加速するだけでなく、地域、中小企業、個人の知恵
や感性を活かした新たな付加価値を持つ製品の創造、
商品
企画から設計・生産までの時間の大幅な短縮などが実現さ
れ、ものづくりに"革命"をもたらすことが期待される。
(ウ)取引適正化
我が国の素形材産業は中小企業が多く、川上(素材)、川下
(セットメーカー)
という大企業に挟まれた川中産業
であるため取引上の立場が弱い。
従来、
取引先
(親事業者)
との長期的な取引慣行に基づく系列取引が一般的であっ
たが、
国内需要の減少と取引先企業のグローバル調達が進
展する現在は、
系列取引が徐々に崩れ、
取引先企業との取
引上の問題が顕在化してきている。
我が国ものづくり産業の競争力強化を高めるためには、
適正な取引の確保は資源の最適配分を実現し、
強靱なサプ
ライチェーンを長期的・安定的に構築することが不可欠で
ある。
このため、
適正な取引確保と素形材産業及びその取引先
企業の健全な発展の実現を目指すべく、
「素形材産業取引
ガイドライン」
(2007 年策定、2015 年改訂)を 2016 年 5
月に再改訂した。 305再改訂に当たっては、
消費税の転嫁、
エネルギー価格の
コスト増にかかる価格転嫁や型保管費用の負担など引き
続き問題となっている課題に対して、
事例を充実させ、ベストプラクティスを拡充するなど、
素形材企業にわかりや
すく実用的なガイドラインとした。
(エ)エネルギー対策
素形材製品の製造工程においては、
例えば鋳造業を例に
とると、鉄を約 1500°Cの超高温下で熔解するための電気
式工業炉を始め、環境対策のための集塵機、
装置原動力の
ためのコンプレッサーなど、
大量の電気エネルギーを必要
とする機器を使用しており、鋳造業、鍛造業、熱処理業を
含む素形材業界は、
電力多消費型産業と位置づけられてい
る。
一方、
昨今の原発停止による電気エネルギー価格の高騰、
再生可能エネルギー固定価格買取制度
(FIT)
による賦
課金単価の上昇は、
中小企業が大半を占める素形材企業の
脆弱な経営基盤を圧迫しており、
素形材業界におけるエネ
ルギー対策は喫緊の課題となっている。
このような状況を踏まえ、
素形材産業室では、
省エネ補
助金の制度設計やFIT・
賦課金減免措置の見直しの議論
に際して、業界の要望の反映に努め、
省エネ補助金の対象
設備の範囲の見直しや賦課金減免申請手続きの実務上の
課題の整理等につなげた。
2.9.産業機械
建設機械、工作機械、重電機器、半導体製造装置、分析
装置、ロボット、ベアリングなどの産業機械は、ものづく
りに不可欠の機械・製品として、
我が国の製造業の基盤の
一つをなしている。
産業機械業界は、
各産業のグローバル
化を追うように、
国内売り上げ
(内需)
が縮小する一方で、
新興国等の外需を着実に取り込むこと、
及び新たな成長産
業育成が課題であり、
2015 年度は、
以下の取組を行った。
(1)ロボット
(ア)
ロボット革命実現に向けた取組 「
「日本再興戦略」
改訂 2015(2015 年6月 30 日閣議決定)
」において、ロボ
ットは第四次産業革命実現のための柱の一つに位置づけ
られた。2015 年2月に策定された「ロボット新戦略」に
基づき、その具体的な推進母体として産学官から成る
「ロ
ボット革命イニシアティブ協議会」が、2015 年5月に発
足。
同協議会の下に
「IoTによる製造ビジネス変革WG」、「ロボット利活用推進WG」、「ロボットイノベーションWG」を設置し、
解決すべき課題毎に具体的な取組の検討を
進めた。
(イ)分野別
(ものづくり・サービス)
ものづくり、
サービス分野について、
これまでのロボッ
トは製造業等の大企業の個別生産ライン用にカスタマイ
ズされた大型のロボットが中心であり、
ロボット未活用領
域や業種の広がりも限定的であったため、
ものづくり分野
やサービス分野等ロボット未活用領域において導入実証
を実施し、
導入事例の創出や実現可能性調査を行うことで
ロボットの導入を促進する補助事業を実施した。
(予算:
「ロボット導入実証事業」 22.0 億円)
また、
ユーザーニーズに合致したロボットについて、早
期に市場に投入することを目的としたロボットの技術開
発に関する補助事業を実施した。
(予算:「ロボット活用型
市場化適用技術開発プロジェクト」 15.0 億円)
(介護ロボット)
経済産業省と厚生労働省が共同で策定した
「ロボット技
術の介護利用における重点分野」
(2012 年 11 月策定、2014年2月改訂)
に基づき、
5分野8項目においてロボット介
護機器の開発を推進することとしており、2015 年度にお
いては、
「移乗(装着、非装着)」、
「排泄」、「見守り(在宅
介護)」、
「移動(屋内)」、
「入浴」の5分野6項目のロボッ
ト介護機器の開発支援を行うとともに、
ロボット介護機器
の安全・性能・倫理の基準を作成し、効果の高いロボット
介護機器を評価・選抜し、
介護現場での実証試験実施や導
入を促進した。
これについては、
経済産業省が高齢者や介
護現場の具体的なニーズを踏まえた機器の開発支援、
厚生
労働省が現場のニーズの伝達や試作機器について介護現
場での実証を主に担い、
開発・導入を円滑化させる事とし
ている。
(予算:「ロボット介護機器開発・導入促進事業」
8.0 億円(委託)
、16.6 億円(補助))(インフラ維持管理)
経済産業省と国土交通省が共同で策定した
「次世代社会
インフラ用ロボット開発・導入重点分野」
(2013 年 12 月
策定)に基づき、5分野(
「橋梁維持管理」
「トンネル維持
管理」
「水中維持管理」
「災害調査」
「応急復旧」
)において
インフラの点検・調査用ロボットの技術開発を推進するこ 306ととしており、2015 年度には「橋梁維持管理」
「水中維持
管理」
「災害調査」分野のロボット開発を行った。これに
ついては、
経済産業省がインフラ維持管理や災害現場の具
体的なニーズを踏まえた機器の開発支援、
国土交通省が現
場ニーズの伝達や試作機器についてインフラ・災害現場で
の実証を主に担い、
開発・導入を円滑化させることとして
いるものであり、
あわせてロボットに搭載可能な非破壊検
査技術等の開発を行った。
(予算:「インフラ維持管理・更
新等の社会課題対応システム開発プロジェクト」19.2 億
円(うち、ロボット技術 7.4 億円))(ドローン)
「第2回未来投資に向けた官民対話」
(2015 年 11 月)
における、安倍総理の「早ければ3年以内に、ドローンを
使った荷物配送を可能とすることを目指す」
との発言を受
けて、内閣官房を事務局として
「小型無人機に係る環境整
備に向けた官民協議会」が発足。
「空の産業革命」の実現
に向けた更なる安全確保のための制度の具体的な在り方
や利活用・技術開発の促進に関する環境整備について検討
を行い、
経済産業省が担当となって 2020 年代に向けた
「小
型無人機の利活用と技術開発のロードマップ」
を作成した。
(2)建設機械
建設機械から排出されるCO2を抑制するため、環境性
能に優れた省エネルギー型建設機械の導入促進補助事業
を実施した。排ガス四次規制(2011、2014 年)適合車で
あり、
国土交通省策定の燃費基準値を超える燃費性能及び
省エネ技術を有している建設機械を対象とし、
施行事業者、
リース事業者等に導入する計 958 件の建設機械に対して
一部補助事業を実施。
(予算:「省エネルギー型建設機械導
入補助事業」 19.1 億円(補助))(3)海外展開・海外ビジネス拡大支援
中小企業における海外展開支援においては、2015 年 10
月、我が国の縫製機械産業が新興国市場開拓支援事業(補助金)を活用し、海外需要を獲得する取り組みを行った。
我が国の企業4社と関連業界1団体が同事業を活用し、人件費高騰等の影響で中国からの生産シフトが進む東アフ
リカ地域において、
特に縫製産業が急成長を遂げつつある
エチオピアでの見本市に日本ブースとして初めて共同出
展するとともに、現地政府関係者、
商工団体及びユーザー
業界へ向けた大規模なセミナー開催をはじめとする様々
なPR事業を実施した結果、
多くの商談・契約を獲得する
などの成果を得た。
加えて、
出展した日系企業が初のアフ
リカ地域への現地法人設立を行うなど、同事業が目指す、
将来のアフリカ地域での一層の市場獲得を見据えた具体
的な動きが見られるに至った。
2.10.プラント・エンジニアリング産業
(1)概要
プラント・エンジニアリング産業は、多数の部品、装置
などが総合したシステムを構築し供給する産業であり、社会インフラの整備及び各種産業の設備の供給を通じて、国の経済社会活動の根幹を担う基盤的産業である。
事業の性
格上、製造、資金調達、運営など多様な機能を統合するこ
とが求められることから、
幅広い業態の事業者から構成さ
れている。主要な事業者としては、
専業エンジニアリング
事業者、
製造企業系列エンジニアリング事業者のほか、重
電、
重機、
重工、
電機、
鉄道車両、
化学、
鉄鋼、
情報通信、
生活・環境などの分野の各種プラントメーカー、
機器製造
事業者及び商社が挙げられる。
(2)海外展開
プラント・エンジニアリング産業は、
国内需要は概ね横
ばい傾向にあるが、
製品とサービスが融合する産業で、成
熟した産業構造を有する日本が強みを発揮しうる分野で
あり、
ポテンシャルの大きな海外市場への展開の促進を図
っている。
このため、
資材価格の高騰、
人材確保難等によるプロジ
ェクト・リスクの拡大に対処し、
高い基礎技術力や信頼性
などの強みを活かすためには、上流(案件発掘、基本設計
等)及び下流(オペレーション&メンテナンス等)への展
開あるいは事業主体側への出資参加などを含めた事業形
態の深化と事業分野の拡大及びそれに必要な企業連携の
促進を図ることが重要である。
また、
これらのプラントが相手国の重要社会経済インフ
ラであることや本産業の競争力は経験工学的要素に負う
ところが多いことを踏まえ、
積極的に個別案件の受注支援
を行うべく、経済産業省としては、輸出信用、貿易保険等
の政策ツールの活用によるワンストップサービスの提供
や案件発掘・形成、
トップセールスや相手国との政府間で 307の交渉等を通じた積極的な支援を行っている。
図:海外プラント・エンジニアリング地域別成約実績の推移
出典:日本機械輸出組合
(3)海外成約実績
2015 年度の海外プラント・エンジニアリング成約実績
総額は、約 120.5 億ドル(前年度比 58.0%減)と、大幅
な減少となった。また、
成約件数は 483 件となり前年度比
で 5.7%減少した。
地域別では、
シェアの大きい順に、
アジア、
中東、
ロシア・
CIS・その他となり、この3地域で全体の 76.5%を占
めた。
機種別では、シェアの大きい順に、交通インフラ、発電プ
ラント、
化学プラントとなり、
この3機種で全体の 74.2%
を占めた。
(4)日本のプラント・エンジニアリング産業の展望と課題(ア)世界市場の展望
原油価格の高騰や天然ガスの需要拡大を背景とした石
油・天然ガスプラント需要、
アジアを中心とする発展途上
国でのインフラ需要の好調など世界市場の活況がここ数
年間続いてきた。しかしながら、
世界的な金融不安や原油
価格の低下を踏まえ、プラントに関する設備投資の動向、
ファイナンス組成に関するビジネス環境、
資機材価格、プラント建設に動員される工員需要等の動きを、
今後、
注意
深く見守る必要があると思われる。
一方、
活発な事業再編
を進めてきた欧米と低価格を強みとする韓国・中国などが
競争力を増してきており、
今後も激しく競争が続いていく
ものとみられる。
(イ)今後の競争力強化に向けた対応
日本のプラント・エンジニアリング産業が厳しい国際競
争環境の中で今後発展していくためには、案件発掘、F/
S(事業可能性調査)
、基本設計などの上流の業務につい
て、各企業レベルにおける法務・金融・コンサルティング
能力の強化とトップセールス等政策支援を組み合わせた
受注の増加及び運営・保守等下流業務への展開による事業
形態の深化と事業分野の拡大が必要である。
また、
企業レベルや業界レベルで人材育成・確保対策を
進めることが必要である。
(ウ)グローバル戦略
日本企業が大きな市場シェアを有してきた東南アジア
などの地域においても再編を経て競争力を強化した欧州、
米国企業や、
価格競争力を武器とする中国、
韓国等の企業
が進出し競争が激しくなる傾向にある。
日本企業が市場シ
ェアを確保・拡大していくためには、
低コストの人件費を
活用することが目的であった海外拠点を、
利益を上げる拠
点として位置づけ、現地企業の育成・活用や事業の運営・
保守への進出を図ることが求められる。 3082.11.航空機産業
(1)現状
世界の民間航空機市場は、
年率約5%で増加する旅客需
要を背景に、今後 20 年間で市場規模は現在からほぼ倍増
の4〜5兆ドル程度となる見通し。2015 年の我が国の航
空機産業の規模は約2兆円で欧州各国と比較すると小規
模である。そのため、
我が国の民間航空機産業は世界市場
が拡大する中で成長余地が大きい。
また、
航空機は重要な
防衛装備の一つであることから、
航空機産業は我が国安全
保障の基盤を形成している。
我が国においては、
戦後7年間の空白期間を経て航空機
産業の活動が再開され、
以来半世紀余りが経過した。
この
間、我が国航空機産業は、米軍機の修理や技術導入、欧米
各社からのライセンス生産などによって先進諸外国への
キャッチアップに努めた時代に始まり、YS-11 などの国
産旅客機開発に挑戦した時代、
80 年代以降のB767、B777及びB787 やV2500 などの国際共同開発に参画した時代
を経て、
我が国初の国産ジェット旅客機の開発を行う時代
へと着実に発展してきており、2015 年では生産額が1兆
8千億円規模の産業となっている。特に 90 年代以降、防
衛予算が伸び悩む中、
航空機産業の成長は民間部門が牽引
しており、防衛需要比率は 80 年代初頭の約 85%から現在
では 33%にまで低下してきている。
諸外国においては、90 年代以降、防衛予算の削減など
を背景に、民間機市場での競争力強化・防衛部門での生産
性向上のため、
航空機産業の大幅な事業再編が進められて
いる。その結果、100 席クラス以上の中大型機市場はボー
イングとエアバスの2社、100 席以下の小型機市場はカナ
ダのボンバルディアとブラジルのエンブラエルなどによ
る寡占市場となったが、近年、中国・ロシア等において新
規に参入する動きが見られ、
我が国もまた、
参入を図って
いる。
また、
航空機エンジン市場は、
米国のGE
(General
Electric)、P&W
(Pratt & Whitney)、英国のRR
(Rolls
Royce)などによる寡占市場となっている。
(2)我が国航空機産業の強みと弱み
(ア)強み
機体・エンジンの主要部分品やシステムにおける我が国
メーカーの技術力は欧州、
米国完成機メーカーから高く評
価されており、特に、
航空機の軽量化に重要な役割を果た
す炭素繊維複合材料関連技術は世界でもトップレベルに
ある。
航空機の経済性や環境性能に対する要求が強まる中
で、
近年の機体・エンジンの国際共同開発における我が国
メーカーの分担は、
その高い技術力を背景に拡大・高度化
している。我が国機体メーカーが機体構造の 35%を担当
しているB787 は、
機体の 50%に炭素繊維複合材を用いる
こと等により、機体重量を大幅に軽量化し、B767 に比べ
約 20%の燃費向上を実現させている。この炭素繊維複合
材の材料の炭素繊維は株式会社東レ独自のもので独占供
給を行っている。
(イ)弱み
我が国航空機産業においては、民間機の全体を統合設
計・製造する技術の経験が十分ではない。また、マーケテ
ィングやプロダクト・サポート、巨額の開発資金・長期の
投資回収期間に対応したファイナンス・スキームなどの面
においても海外メーカーと比べると十分な経験を有して
いるとは言えない。
さらに、同様に装備品分野においても、Tier1 レベルの
事業参加は内装品や降着装置等の一部に限られている。
(3)世界市場の展望
2008 年のリーマンショックに始まった世界的な景気後
退により航空輸送需要は一時的に冷え込んだが、
世界全体
の航空旅客数の伸び率は、2030 年代まで年平均約5%と
いう予測が一般的であり、
特にアジア・太平洋地域におけ
る需要の伸びが大きいと見込まれている。これらに伴い、
航空機市場は中長期的に着実に拡大すると予想されてい
る。このため、現在、世界の主要メーカーにおいて民間機
の機体・エンジンの開発が活発に行われており、
我が国メ
ーカーも多数参加している。2014 年にボーイングと日本
航空機開発協会(JADC)は、ボーイングの主力機であ
るB777 の後継機、B777Xの共同開発に係わる覚書を締
結、そして 2015 年、開発、製造に関する正式契約に調印
した。またB787 は 2015 年に通算約 360 機を納入された
ところ。
(4)我が国航空機産業の展望と経済産業省の取り組み
(ア)我が国における完成機事業の実現
第一に、
我が国航空機産業の更なる発展のためには、設
計・開発から航空安全当局の型式認証、
国際的なサプライ 309チェーン管理、販売後のプロダクト・サポートに至るまで
の完成機事業遂行能力を獲得することが重要である。2008年3月にはYS-11 以来約半世紀振りとなるMRJ(三菱
リージョナルジェット)が事業化され、現在安全性を証明
するための飛行試験が行われているところだが、
このプロ
ジェクトを先駆とした完成機事業は、
我が国航空機産業の
発展に大きく貢献することになると考えられる。
また、防衛用航空機についても、
開発成果の多面的な活
用を検討しているところであり、
今後、
外国政府等に対す
る民間転用を推進していくため、
防衛省でも、
経済産業省
をはじめとする関係府省との連携を強化していくことと
している。
(イ)装備品分野の参入拡大
第二に、
これまで我が国企業の本格的な参入が進んでこ
なかった装備品分野についても、
装備品が航空機の価値の
大部分を占めていることを踏まえ、
我が国航空機産業の発
展のためには重要となっている。
我が国の装備品企業は、
これまで防衛用航空機向けに技
術を培ってきたものが多いが、
これらの技術を基礎に、民間航空機に参入できるよう、
参入機会の創出や技術レベル
の向上に向けた取組を進めていくことが重要である。
そこ
で、海外貿易会議(官民合同ミッション)及び日仏民間航
空機協力ワークショップにおけるビジネスマッチング等
を通じ、
欧米装備品メーカーとの事業拡大機会を創出を図
った。
(ウ)国際共同開発における役割の拡大
第三に、
材料関連技術など我が国が強みを有する技術を
一層向上させ、国際共同開発において我が国が質・量とも
に高い参画を行うことが重要である。
国際共同開発につい
ては、
中大型機分野においては引き続き欧米の完成機メー
カーを中心に進められていくと考えられる。近年、欧州、
米国の完成機メーカーにおいて、
自らは最終組立とマーケ
ティングに特化する一方で、
主翼・胴体などの部位につい
ては開発から在庫管理に至るまでパートナー企業に分担
させるというサプライチェーンの変革が進められている。
また、
そうしたサプライチェーンの外延も新興国に拡大す
る動きが見られる。
こうした中で、
我が国メーカーがこれ
まで以上の参画を果たすためには、
材料関連技術など我が
国が強みを有する技術を一層向上させることが重要であ
る。
また、
航空機エンジンについても、
各種機体の開発に伴
って幅広いサイズの開発・生産が国際共同事業として行わ
れている。現在、我が国メーカーは、小型機用ではCF
34-10 で 30%、中型機用ではTrent1000 及びGEn
xでそれぞれ 15%の担当比率で参画しているが、今後、
より一層主体的かつ高度な参画を達成し、
新たな技術の吸
収・発展を図ることが必要である。
(エ)航空機部品・素材分野への参入拡大
航空機産業は材料や部品の多様さから、素材メーカー、
加工メーカー、
ソフトウェアまで裾野の広い産業となって
いる。今後、世界の航空機市場の成長を取り込むには、量
産化やコスト競争力強化のための中堅・中小企業の強みの
活用、
素材や工作機械も含めたバリューチェーン全体での
競争力強化、
自動車産業や電機産業等の他産業からの参入
を促進することが重要である。
また、
これまでの単工程の生産から、
複数工程を一括し
て生産する一貫生産体制の構築に際し、
サプライヤーであ
る中堅・中小企業にも高い品質マネジメントシステムの構
築が求められる。航空機産業特有の認証であるJISQ
9100 やNadcap、各OEMメーカーが求める事業者
認証など、
複雑な認証制度を理解した上で各認証を取得・
維持することは、経費・人材等の点において中堅・中小企
業にとって非常に大きな壁となっていることから、2016
年3月に作成・公表した「国際認証(Nadcap)制度
の取得支援ガイドブック」の普及・広報に努めた。
さらに、
航空需要の増大等により製造技術者の不足が見
込まれることから、
国土交通省、
文部科学省及び厚生労働
省との協力の下、
「航空機整備士・製造技術者育成連絡協
議会」及び同ワーキンググループにおいて、
「機体の構造
組立技能に係る技能認定制度新設の検討」、「生産管理・品
質保証等の人材育成」、「非破壊検査員の育成」
などの人材
の確保・育成にかかる諸問題の具体的解決策の検討を継続
した。 310出典:
(一財)日本航空機開発協会(2016)
出典:
(一財)日本航空機開発協会(2014)
2.12.宇宙産業
(1)現状と課題
人工衛星などの宇宙システムは、
衛星放送・通信、
測位、
資源探査、災害監視、農林水産業など、様々な分野で広く
活用されている。
世界の宇宙産業の規模は約 20 兆円/年(2014 年)であり、
過去 10 年間で年平均約 10%増加しており(参照:宇宙産
業の世界市場規模の推移)、今後も拡大が見込まれている。
特に、
通信・放送関係や新興国における地球観測関連の需 311要の伸びが顕著になっている。
主要国は、
宇宙産業が安全保障や社会インフラを支える
重要な産業であり、
最先端の技術を必要とする高付加価値
産業であることに着目し、
国家戦略として宇宙産業の発展
に向けた取組を進めている。
宇宙機器産業の売上規模は、
米国が巨大な官需を背景に
約 4.9 兆円(2014 年)
、商業分野で地位を確立している欧
州が約 9,600 億円(2014 年)であるのに対し、我が国は
約 2,900 億円(2014 年度)にとどまっている。
我が国の宇宙機器産業は、
売上の約9割を政府の需要に
依存しているため、
宇宙産業の産業基盤の維持・確保に向
け、
官民挙げての国際競争力強化や海外需要の獲得の取組
が進められてきた。その結果、2011 年にはベトナムとの
間で小型レーダ衛星2基の調達及び宇宙センターの建設
に関する円借款の交換公文に署名が行われた。
また、
三菱
重工業株式会社がカナダの衛星運用会社から我が国初の
商用衛星の打上げ輸送サービスである通信放送衛星の打
上げに成功するなど、一定の成果があげられている。
このような動きに合わせ、
政府の体制・制度改革も進め
られてきた。
2015 年1月には、
宇宙基本計画が改訂され、
1.宇宙安全保障の確保、
2.民生分野における宇宙利用推
進、3.産業・科学技術基盤の維持・強化、を柱として今
後更に宇宙開発利用に注力していくことが決定された。この中で、
我が国宇宙産業基盤の維持・強化への対応として、
産業界の投資の予見可能性を高めるため今後 10 年の政府
による宇宙開発計画(工程表)が提示されるとともに、宇
宙産業への新規参入を促進するための法整備に取り組む
ことなども明記された。また、2016 年4月には、内閣府
設置法の改正により、
内閣官房宇宙開発戦略本部事務局及
び内閣府宇宙戦略室が内閣府宇宙開発戦略本部事務局に
一元化され、
宇宙政策を政府全体で一体的に推進するため
の機能が強化された。
さらに、
民間事業者などによる宇宙
活動を積極的に促進するための
「宇宙活動法」
及び商業衛
星による画像の利用や管理を規制する
「衛星リモートセン
シング法」が第 190 回通常国会に提出された。
(2)現状を踏まえた検討・主な実行施策
経済産業省では、
宇宙基本法及び宇宙基本計画を踏まえ、
我が国宇宙産業の国際競争力の強化及び海外市場拡大に
向けた取組を進めてきた。
また、
宇宙を利用する新たな市
場の創出に向けた取組も進めてきた。
個々のプロジェクトについては以下に示すとおりであ
る。
(ア)
小型・高性能かつ低価格な先進的人工衛星システム
の開発(ASNAROプロジェクト)
今後需要の拡大が見込まれるリモートセンシング
(地球
観測)
分野などをターゲットとして、
大型衛星に劣らない
性能を有しつつ低コスト・短納期な小型衛星システム(光
学・レーダ衛星)及び、関連の地上システム、アプリケー
ション等の開発を進めた。
光学衛星(ASNARO-1)については、2014 年 11
月に打上げに成功し、
校正など実証運用を行った。
レーダ
衛星(ASNARO-2)については、引き続き主要なコ
ンポーネントの開発等を実施した。
(イ)リモートセンシング技術の研究開発(ASTER・
PALSARプロジェクト、HISUIプロジェクト)
我が国はエネルギーや鉱物資源が乏しく、
資源の大部分
を海外に依存している。
資源の安定供給の確保を図るため
には、
積極的な資源確保政策が重要であり、
海外諸地域の
石油等のデータ取得を効率的に行うリモートセンシング
がますます重要となっている。1992 年2月に打ち上げら
れたJERS-1(1998 年 10 月運用終了)に比べ資源探
査能力を格段に向上させた光学センサ
(資源探査用将来型
センサ(ASTER)
)及び合成開口レーダ(フェーズド
宇宙産業の世界市場規模の推移 312アレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR))の開発を行い、
ASTERは 1999 年 12 月に米国航空宇宙局
(NASA)の衛星に搭載して打ち上げを行った。AST
ERは、機器の設計寿命を大幅に超える 10 年間の運用を
達成し、
引き続き現在も運用中である。
PALSAR
(2011
年5月運用終了)は 2006 年1月にJAXAの衛星だいち
(ALOS)に搭載して打ち上げを行った。ASTER及
びPALSARから取得したデータは資源探査・開発に利
用しやすい形態で解析され、油田・ガス田の発見、鉱区取
得等へ活用されている。
加えて、
ASTERよりも地表面にある物質の波長を詳
細に識別することができ、
資源探査・開発能力を向上させ
たハイパースペクトルセンサの開発を推進し、
本センサを
国際宇宙ステーションに搭載するための研究開発を開始
した。ハイパースペクトルセンサは資源探査・開発だけで
なく、森林観測や環境監視、
農業分野等への活用等につい
て、強力なツールになると期待されており、
利用ニーズに
即した情報を同センサから取得したデータから抽出する
解析技術等の研究開発も併せて実施している。
(ウ)宇宙環境等信頼性実証システム
(SERVISプロ
ジェクト)
衛星等の製造においては信頼性を重視して、
主に宇宙用
に特化した部品が用いられているが、
これらは、
信頼性が
高い一方、高価格・長納期であることが多い。また、宇宙
用部品は製造量が少なく採算が合わないなどの理由から、
近年、部品メーカーの撤退の動きが顕著となっており、今後、
衛星等の製造に必要な部品の調達が困難になる可能性
がある。
こうした背景から、
従来の宇宙機器と比較し、
他分野の
技術等をベースにした低価格・高性能な宇宙用コンポーネ
ント・部品(低毒性衛星推進装置、電力増幅器、宇宙環境
計測装置、
アビオニクス装置)
の開発を行っている。
また、
2016 年3月には、我が国の宇宙活動の自立性の確保及び
宇宙産業基盤の維持・強化の観点から、
宇宙システムの効
率的、迅速、低コストな開発及び製造に資するように、将
来の宇宙システムを見据え、
「宇宙用部品・コンポーネン
トに関する総合的な技術戦略」を策定した。
(エ)宇宙太陽光発電システム
宇宙太陽光発電システム
(SSPS:Space Solar Power
System)は、宇宙空間において太陽エネルギーで発電した
電力を無線などに変換して地上へ伝送し、
地上で電力に変
換して利用する将来の新エネルギーシステムである。
太陽
光発電は、
エネルギーの安定供給の確保、
地球環境問題へ
の対応の観点から導入が進められているが、
昼夜や天候に
左右されることなく、
発電が可能なSSPSは、
将来の革
新的なエネルギーとして期待されている。
経済産業省では、
このSSPSの実現に向け、
その重要
な要素技術であるマイクロ波送受電について、
送受電効率
の改善や送電システムの薄型・軽量化を目標として、研究
開発を進めている。
(オ)日本企業の国際展開支援
2015 年度、経済産業省では、産業界と緊密に連携し、
受注獲得に向けた取組を進めてきた。
具体的な活動として、
日本の宇宙システムや機器の売り
込みの促進と部品の共同開発等の可能性を模索するため、
日本航空宇宙工業会と連携し、
ドイツおよび米国宇宙産業
界と日本企業との交流会を開催した。
また、
三菱重工業が
我が国初の商用衛星の打上げ輸送サービスである通信放
送衛星の打上げに成功。
本打上げに際し、
厚生労働省およ
び鹿児島県と連携し、
労働安全基準法や高圧ガス保安法に
基づく制度の合理化を実現し、
海外衛星の円滑な打上げに
貢献した。
さらに、
ベトナムにおける円借款による宇宙プ
ロジェクトにかかる人工衛星の詳細に関する調整を進め
た。
(カ)宇宙を利用した新たなビジネス創出に向けた取組
準天頂衛星を利用した新たなビジネスの創出を促進す
るため、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機
構(NEDO)がタイにおいて実証実験を実施した。
2.13.自動車産業
(1)自動車産業の概況
2015 年の世界の自動車産業は、中国の緩やかな景気減
速、
資源価格の下落による新興国等の景気下押しがある中、
金融危機後の米国および欧州経済の回復に支えられ、
全体
としては生産台数が 9,228 万台(前年比 1.0%増)、販売台
数は 8,948 万台(同 1.0%増)と前年までと比較して緩や
かな成長となった。
米国では生産台数および販売台数はそ
れぞれ対前年度比 3.8%増、5.9%増であり、リーマンショ
ック後、2010 年から 5 年連続で生産台数および販売台数
が増加している。
欧州も生産台数および販売台数はそれぞ 313れ対前年度比 3.0%増、3.4%増と2年連続での増加となっ
ている。一方、中国では景気減速の影響を受けた結果、自
動車生産台数の伸び率は対前年比 3.3%増、販売台数は
4.7%増と直近2年間で縮小傾向にある。
日本では、
日系完成車メーカーが海外現地生産拠点を増
やす中、国内の生産台数は対前年度比 5.1%減の 9,28 万台
となった。また、2014 年の消費税増税の駆け込み需要の
反動減により、2015 年の国内販売台数は対前年比 9.3%減
の 505 万台となり4年ぶりに 510 万台を下回った。
しかし
ながら、世界における自動車需要の成長に伴い、2015 年
の日本の自動車輸出は対前年度比 2.5%増の 458 万台とな
った。
(2)車体課税について
経済産業省においては、消費税 10%引き上げ時の自動
車の国内需要の落ち込み緩和、
税制のグリーン化、
ユーザ
ー負担の軽減等の観点から、自動車取得税の消費税率
10%への引き上げ時の廃止、
エコカー減税等の対象車の基
準の切り替え、軽減措置の拡充、
自動車税のグリーン化機
能を維持・強化する取得時の課税(環境性能割)の導入、
排気量割の税率の引き下げ等を要望した。2015 年 12 月に
とりまとめられた与党税制改正大綱では、
自動車取得税は、
消費税率 10%への引上げ時である 2017 年4月1日に廃止
するとともに、自動車税及び軽自動車税において、
自動車
取得税のグリーン化機能を維持・強化する環境性能割を
2017 年4月1日に導入、自動車税及び軽自動車税のグリ
ーン化特例(軽課)の1年間の延長等が決定された。
なお、消費税率 10%への引上げの前後における駆け込
み需要及び反動減の動向、
自動車をめぐるグローバルな環
境、登録車と軽自動車との課税のバランス、
自動車に係る
行政サービス等を踏まえ、
簡素化、
自動車ユーザーの負担
の軽減、グリーン化を図る観点から、2017 年度税制改正
において、安定的な財源を確保し、
地方財政に影響を与え
ないよう配慮しつつ、
自動車の保有に係る税負担の軽減に
関し総合的な検討を行い、
必要な措置を講ずることとされ
ている。
(3)通商関係
中国・インドを始めとする新興国の市場拡大などグロー
バルな経済環境の変化とともに、
経済連携協定による地域
統合の促進による貿易・投資の機会拡大が進みつつある。
2005 年以降、マレーシア、タイ、フィリピン、ベトナ
ムといった東南アジア諸国及びASEAN並びにメキシ
コ、チリ、スイス、インド、ペルー、オーストラリアとの
EPAが発効した。
こうしたEPAにより完成車及び自動
車部品関税の撤廃や削減が実現されるとともに、
生産拠点
として特に重要な国とのEPAでは、
相手国の裾野産業の
発展を促し、
日系企業のサプライチェーン構築を支援する
ため産業協力に関する規定が盛り込まれた。
また、
日本の自動車産業が他国に劣後せずに事業展開が
可能となるよう、
通商政策の展開を通じた競争環境の整備
が求められている。
2015 年度は、中国政府との課長級政府間協議、APE
C自動車ダイアログ及びAMEICC自動車 WG といった
官民政策協議に加え、EU、モンゴル、カナダ、トルコ、
コロンビア等とのEPA交渉及びRCEP、
TPP交渉の
協議等に取り組んだ。
(4)環境・エネルギー対策、新技術の開発普及支援
地球環境問題及び資源制約に対するグローバルな関心
の高まりから、自動車分野においても、更なる燃費向上、
CO2の削減、燃料の多様化及び次世代自動車の本格的な
市場導入への要請が強まっている。
また、
世界の自動車市場の多様化も進展しつつある。新
興国においては経済発展により自動車購買人口が増加し、
先進国においては一層環境性能車志向が進むなど、
市場の
特性に応じて、
異なるパワートレインを用いた自動車のニ
ーズが強まっている。
こうした状況を背景に、
ハイブリッド自動車やクリーン
ディーゼル自動車、さらには、電気自動車(EV)やプラ
グインハイブリッド自動車
(PHV)、燃料電池自動車(FCV)
、天然ガス自動車など次世代自動車を巡る競争は国
際的に激化している。
日本の自動車及び関連産業は、これ
まで高い技術力を背景として世界市場に受け入れられ、国内においても経済・雇用等を牽引するリーディング産業と
しての役割を果たしてきた。
しかしながら、
グローバルな
競争が激化していく中で、
今後ともその役割を果たし続け
るためには、
効率的に研究開発を進めていくとともに、世
界の潮流に乗り遅れることなく、
新たな市場を創造し、獲
得していくことが不可欠となっている。 314このため、2015 年度は、世界に先駆け厳しい規制に対
応し、優れた燃費性能のディーゼルエンジンの開発・導入
につなげるため、大学等のシーズを活用しつつ、
研究開発
を行うクリーンディーゼルエンジン技術の高度化に関す
る研究開発事業として5億円計上した。
(ア)次世代自動車の導入促進
「日本再興戦略 改訂 2014」では、次世代自動車等の普
及に向け、2030 年における乗用車の新車販売台数に占め
る次世代自動車の割合を 50〜70%とするなどの普及目標
を掲げている。
一方、同時に、現時点では導入初期段階にあり、コスト
が高い等の問題を抱えている。
このため、
車両購入時の負担軽減による初期需要の創出
と、量産効果による価格低減を促進し、
世界に先駆けて国
内の自立的な市場を確立すべく、
クリーンエネルギー自動
車等導入促進対策費(CEV)補助金を 2015 年度予算と
して 200 億円を計上した。
なお、2015 年3月9日からは、2014 年度補正予算にお
いて措置した 100 億円の申請受付を開始した。
また、
EVやPHVの普及には充電インフラ整備も不可
欠である。そのため、経済産業省としては、購入費及び工
事費の一部補助を通じて、
充電インフラを計画的・効率的
に整備するべく、
次世代自動車充電インフラ整備促進事業
として 2014 年度補正予算に 300 億円を措置し、
2015 年 11
月 30 日まで申請受付を行った。
具体的には、
充電器等の購入費及び工事費を補助するこ
とにより、1.目的地への途中で充電可能な「経路充電」
の充実(高速道路SA/PA、道の駅、コンビニ等)2.
目的地における「目的地充電」の充実(ショッピングセン
ター等)3.マンション・月極駐車場及び従業員駐車場等
の充電設備(
「基礎充電」
)の充実4.自立的なインフラ整
備を推進するため、
充電器課金装置の整備加速を図る。本事業を通じて、
「ガス欠ならぬ『電欠』なき日本」をつく
ることを目標にしている。また、自動車の電動化や、電力
使用の平準化等に貢献する重要技術であるリチウムイオ
ン電池等の蓄電技術に関して、
性能やコスト面での課題に
より、航続距離が十分でなくEV、
PHVの普及が進まな
いことの一因となっていること。
さらに、
蓄電池分野にお
ける国際的な競争も激化しており、
この分野における日本
のトップランナーとしての地位が脅かされている状況に
ある。
こうした状況を踏まえ、2015 年度予算では、2020 年代
前半を目標として、
車載用リチウムイオン電池の性能を限
界まで追求するための、
トップランナー型の技術開発とし
て、
リチウムイオン電池応用・実用化先端技術開発事業を
25 億円計上した。
加えて、
産学連携による集中研究体制の下、
蓄電池の研
究開発を加速するための新たな蓄電池の解析手法の開発
と、
リチウムイオン電池の性能限界を大幅に上回る革新型
蓄電池の 2030 年頃の実用化に向けた基礎的研究開発につ
いて、革新型蓄電池先端科学基礎研究事業として 31 億円
を計上した。
(イ)高度道路交通システム(ITS)の開発普及
ITS(Intelligent Transport-Systems:高度道路交通
システム)とは、道路交通の安全性、輸送効率、快適性の
向上等を目的に、
最先端の情報通信技術等を用いて、人と
道路と車両とを一体のシステムとして構築する新しい道
路交通システムの総称である。
経済産業省としては、
従来から、
関係省庁と連携を取り
つつITSビジネスの振興を図るため、 [1]先導的な
研究開発、
[2]市場化を目的とする国際標準化・規格化、
[3]新規産業創造のための調査事業等を実施しており、
2015 年度予算では、グリーン自動車技術調査研究事業に
1.5 億円、次世代高度運転支援システム研究開発・実証プ
ロジェクトに 4.2 億円を計上した。
これらの事業を通じて、
隊列走行技術等の自動走行シス
テムに関する社会受容性、具体的なニーズ、事業可能性、
海外の研究開発動向等について調査を行い、
適切な研究開
発、
標準化等を推進することで、
自動走行システムの実用
化を促し、燃費改善、CO2排出削減、交通渋滞の緩和等
の課題解決に貢献する。
2015 年度は、隊列走行やコントロールセンター制御に
よる自動走行等の高度な自動走行について、
想定されるア
プリケーション毎の事業性等を調査し、
実現に向けた検討
課題をそれぞれ整理した。
また、
より高度な安全運転支援
の実現に必要な顕在化する前の危険予測技術やセンシン
グ技術、車体制御技術の開発を行った。
(5)自動車リサイクル
2015 年9月 14 日に開催された産業構造審議会自動車リ 315サイクルWG・中央環境審議会自動車リサイクル専門委員
会第 44 回合同会議において、2014 年度の自動車リサイク
ル法施行状況が報告され、有識者による評価が行われた。
(ア) リサイクル率の達成状況
2014 年度は、シュレッダーダスト(ASR)とエアバ
ッグ類それぞれについて、
基準を大きく上回るリサイクル
率を達成した。
基準 実績ASR50(2010 年度〜)
70(2015 年度〜)
96.8〜98.1
エアバッグ 85 94〜95
(イ) リサイクル料金の預託状況
これまで、
リサイクル料金は大きな混乱なく順調に預託
されている。2014 年度の預託台数及び預託金額はそれぞ
れ以下のとおり。
(数字は四捨五入しており、
「新車登録時」
と「引取時」を合わせた値が「合計」に一致しない場合が
ある。)新車登録時 引取時 合計
台数(万台) 530 10 540
金額(億円) 549 5 554
また、2015 年3月末の累計預託台数及び預託金額残高
は、それぞれ以下のとおり。
累計台数(万台) 預託残高(億円)
7,843 8,409
(ウ)自動車リサイクル制度の評価・検討
自動車リサイクル制度の施行状況の評価・検討に関する
報告書」
(2010 年1月)
では、
「自動車リサイクル制度は、
こうした状況変化に遅滞なく柔軟に対応し、
中長期的に適
切に機能するものである必要があり、
そのためには、
今後
とも定期的にフォローアップを行うとともに、
今回の検討
から5年以内を目途に、
改めて制度の在り方について検討
を行うことが適当である。」とされている。
これを受けて、
2014 年8月から 2015 年9月までの間、計 12 回にわたっ
て合同会議を集中開催し、
「自動車リサイクル制度の施行
状況の評価・検討に関する報告書」を取りまとめた。
2.14.繊維産業
(1)概要
(ア)日本の繊維産業の規模
工業統計(2014 年)によれば、繊維工業の事業所数は
13,400 事業所で、製造業全体の 6.6%を占める他、雇用
者数は約 27 万人で同 3.6%を占め、
付加価値額は、約 1.5
兆円で、同 1.6%を占めている
(イ)日本の繊維市場の状況
日本の繊維市場では、
製品の企画やデザインは日本発が
大半を占めるものの、
中国等からの輸入品が多くを占めて
いる。
衣料品における 2013 年の輸入浸透率
(数量ベース)
は 96.8%であり、国内に流通している衣料品のほとんど
は海外からの輸入品となっている。
消費者の多様なニーズ
に沿った小ロット・短サイクルの商品は国内及び中国で生
産し、
定番商品については、
中国及び東南アジア諸国で大
量生産を行うというのが一般的となっている。
衣料品の輸
入額が 2013 年は 2 兆 7,621 億円だったが、2014 年も2兆
7,524 億円とほぼ横ばいであった。また、輸出については
輸入と比べ規模が小さく、2014 年は 290 億円であった。
衣料品の国内生産量の推移を見ると、
海外からの輸入品の
増加に押され、年々減少傾向となっている。 316(2)繊維産業の展望と課題
(ア)アパレル産業の展望
(A)アパレル・サプライチェーン研究会
我が国の衣料品の製造、販売は、90 年以降、デフレ
経済下で厳しい業況が続き、
市場規模の縮小、
事業者数
の減少を経験してきた。しかしながら、最近、海外生産
コストの上昇に伴う国際競争力の回復傾向、
我が国の素
材や製品に対する海外からの高い評価、
品質を求める国
内消費者の嗜好、
IoTの活用による新たな市場の開拓
の取り組みなど、
今までになかった動きがでてきている。
こうした新しい変化に対し、
個別企業の戦略のみなら
ず、取引・流通慣行からグローバルな産業構造を含む、
アパレル・サプライチェーンの再構築を検討すべき時期
に入ってきている。
今、市場で起きつつあること、
これから生じるであろ
う変化について、
認識を共有するとともに、
企業として、
産業としての対応に資する
「アパレル産業ビジョン(仮)」
の取りまとめに向け、2015 年 12 月に有識者から構成さ
れるアパレル・サプライチェーン研究会を設置し、1サプライチェーンの再構築と設備投資、
2オムニチャネル
化と製造・物流の合理化、3輸出拡大と海外拠点の活用
のテーマについて、議論を始めた。
(イ)高付加価値化に向けた取組
(A)J∞QUALITY認証事業
2013 年より、国内アパレル、製造事業者等による高
品質な国産品をアピールするため、
業界団体とともに新
しい表示制度の在り方について検討を開始した。
検討の
結果、2015 年2月に、一般社団法人日本ファッション
産業協議会が主体となり、
純国産ファッション製品の統
一ブランドとして、織り・編み、染色、縫製の3工程を
日本国内で行っているアパレル製品を対象として、
企業
から申請のあった商品に対し認証ラベルを付す
「J∞Q
UALITY認証事業」の運用を開始した。2016 年3
月には、3工程や企画・販売を含めた企業認証は約 500
件、2015 秋冬、2016 春夏の商品認証は約 400 品番とな
った。
2015 年 9 月には、
「日本を纏う」をテーマに、
「J∞
QUALITY認証商品」
や着物商品などの国産衣料品
を試着してもらい、
品質の良さ・工場技術の高さを体験
してもらうことを目的としたギャラリーを、
一般社団法
人日本ファッション産業協議会の協力を得て、
代官山に
おいて1週間開催した。来場者は約 2,000 人であった。
(B)和装振興
ライフスタイルの変化等により、
きものは日常着とし
て着用されなくなり、
きものの出荷額は減少が続いてい
る(昭和 50 年代の 1/6)
。しかし、近年「和女子」とい
う言葉が生まれるなど、きものを含む「和モノ」に興味
をもつ若い女性が増えつつある。また、きものは、海外
からも注目されている日本固有のライフスタイルであ
り、
地域創生・地域振興にも活用できる重要な地域資源
である。
このような、
若い世代のきものへの関心の高まり等を
踏まえ、
新需要の開拓に向けて新たなビジネスモデルを
構築し、
きもの産業の好循環を創出するため、2015 年 1
月 30 日に有識者、若手経営者及びユーザーから構成さ
れる「和装振興研究会(製造産業局長主催の研究会)」を設置し、
(1)きもの産業のビジネスのあり方、(2)きものを活用して日本や地域の魅力向上に繋げていく
ための方策等について検討を行い、6月 16 日に報告書
をまとめた。
本報告書の提言を踏まえ、
経済産業省とし
ても和装振興の取組を継続すべく、11 月 16 日に和装振
興協議会を立ち上げ、
和装にかかる課題を議論するとと
もに、
同日には和装振興にかかる様々なイベントを開催
した。
(ウ)新規市場開拓に向けた取組
(A)技術開発
日本の繊維素材産業の国際競争力を強化するために
は、
先端繊維素材の開発や加工技術の進展にかかる研究
開発や、
性能等の評価方法の標準化等を通じて、
技術力
の強化を図ることが必要である。また、素材メーカー、
加工装置メーカー、
ユーザーメーカーが連携し、
素材開
発から実用化まで一気通貫の出口を見据えた研究開発
を行い、自動車、航空機、土木・建築、環境・エネルギ
ー、医療・福祉分野等において、新たな市場を獲得して
いくことが必要である。
このため、
「革新的新構造材料等技術開発」
において、
炭素繊維と樹脂の複合材料
(CFRP)
の量産車への適
用を目指し、構造設計、成形加工、性能評価、接合等に
係る技術開発を行った。
さらに、
炭素繊維そのものにつ
いても、
製造プロセスにおける電力消費を削減し、生産 317性を大幅に向上する新たな製造技術を開発する
「革新炭
素繊維基盤技術開発」を実施した。
(B)国際標準化の推進
繊維製品生産のグローバル化が進展し、
輸入繊維製品
の割合が 90%を超えている実態を踏まえ、国際標準化
機構 (ISO)の国内審議団体である一般社団法人繊
維評価技術協議会を中心に、
我が国が強みを有する高機
能繊維分野において、試験方法の国際標準化を推進し、
我が国繊維産業の国際競争力強化を図っている。2015
年には、トップスタンダード制度を活用し提案した、高機能ロープの国際標準(TS)が発行された。また同年
に、
新市場創造型標準化制度を活用した繊維ロープの帯
電性試験方法、
繊維製品の防ダニ試験方法の国際標準提
案を行った。
(エ)海外展開の推進
(A)二国間協力
(フランス)
2014 年5月5日に日仏首脳間で、繊維協力に関する
協力覚書(MOC)に署名し、両国は、1日仏間のパー
トナーシップの拡大・深化、
2日仏共同プロジェクトの
奨励、3研究機関・産業界の協力、4ファッション・衣
料分野での日仏協力、
5政府間対話の強化に向けて協力
することを確認した。
2015 年 12 月には、第3回日仏繊維WGを東京で開催
し、協力の進捗をフォローアップした。
(ミャンマー)
2016 年2月にミャンマー工業省をカウンターパート
に、繊維分野における第一回政策対話を開催。
縫製産業
だけでなく繊維産業全体に係る発展の方向性について
議論を行った。
またミャンマー事業展開を検討する日系
企業と共に現地視察をし、
ビジネス環境に関する意見交
換や問題点の改善要望を行った。
(タイ)
2015 年6月に製造産業局長とタイ商業省貿易振興局
は、
互恵原則のもと3年間の産業協力実施の枠組み合意
文書(MOC)に署名。3年間協力事業の1年目プロジ
ェクトとして 2016 年3月に日タイ繊維ワークショップ
をタイにおいて開催。
機能性繊維製品市場に関する情報
共有やビジネス交流を行った。
(B)EPA協力事業
各国とのEPAの発効に伴って、
ASEAN各国(タ
イ、ベトナム等)との繊維協力も進められている。ベト
ナムについては、2015 年 12 月には生産管理に関するセ
ミナーを開催したほか、2016 年3月には染色排水処理、
染色加工に関するセミナーを開催した。
(オ)環境規制への対応
アゾ染料に関して、
EU・中国等の法規制の状況を調査
し、
日本における繊維製品の安心・安全のための業界自主
基準の策定・普及を目的とした検討を行い、2009 年に業
界自主基準を策定した(2012 年3月に一般公表し、2015
年9月に改訂)。2015 年3月に厚生労働省により、規制に向けた新たな
法改正がなされた際には、
業界との調整を行いながら、経
済産業省としても繊維製品の安全性に万全を期すように
周知に努めた。
(カ)情報共有化の推進
垂直分業構造が特徴とされる我が国の繊維企業におい
ては、
工程間取引のパターンが多岐にわたり、
受注側企業
においては複数の発注元企業からの製造指図を輻輳して
管理しなければならない場合が多い。
これらの受発注業務
において、
電子情報及び通信回線を用いたEDI
(電子デ
ータ交換)
システムが用いられ、
企業間における受発注伝
達の電子化が図られている例もあるものの、
業界全体での
標準化には至っていない。
そのため、
発注者毎にデータ項
目や取引のルールが異なっており、
複数の発注者と取引が
ある受注者においては、
取引先の数だけEDIシステムの
開発・運用工数がかかり、生産効率の低下を招いている。
また、
それらのEDIシステムの多くは、
国際標準に対応
していない。
さらに、SPA(Speciality store retailer of Private
label Apparel)と呼ばれる垂直統合型の生産小売アパレ
ル企業が、
国境を越えた事業展開を進めている中で、従来
型の分業構造を担う個別の繊維企業が工程間の受発注管
理に経営資源を割り当てることは、
相対的に競争力を低下
させることにつながっている。
我が国において、今後、繊維企業が生産効率性を高め、
さらに国外を含めたサプライチェーンの中で優位にビジ
ネス展開をしていくためには、
国際標準に適合したEDI
を含め、
業界共通の受発注ビジネスプロトコル
(異なる企
業間での取決め、約束事)を構築するなど、海外市場への 318迅速な反応ができるよう体制を整えていくことが重要で
ある。
2.15.紙・パルプ産業
(1)産業概観
紙・パルプ産業は、
産業活動と国民生活に不可欠な素材
である紙・板紙を供給する基盤産業である。2015 年の日
本の紙・パルプ産業については、
国内需要の縮小が続くも
のの、生産量は紙・板紙合計で 2,622 万トンであり、中国
の 10,700 万トン、米国の 7,167 万トンに次ぐ世界第3位
であった。紙の国内出荷は、新聞情報・印刷用途の落ち込
みにより 1989 年と同様の水準、板紙の国内出荷について
は段ボール原紙を中心に比較的堅調に推移したものの、
紙・板紙全体では対前年比 2.5%の減少となった。紙・板
紙の輸出入は、円安を背景に、
輸入は主力の塗工紙を中心
に対前年比 10.7%の減少、輸出は対前年比 13.1%の増加と
なった。
(2)環境・エネルギー
我が国の製紙業の省エネルギーに対する取組は世界で
もトップレベルである。2012 年度までの取り組みである
「環境に関する自主行動計画」
に続く取り組みとして、
「環
境行動計画」を制定し、
あらたな温暖化対策の取組として
2013 年度から低炭素社会実行計画をスタートした。低炭
素社会実行計画の目標は、1.2005 年度比で 2020 年度ま
でに化石エネルギー由来CO2 排出量を 2020 年度BA
Uに対し 139 万トン/年削減する、2. CO2 の吸収源と
して 2020 年度までに国内外の植林面積を 70 万 ha とす
る、の2項目である。生産量の減少がはじまる中、業界全
体で省エネ設備や最新生産設備の積極的な導入をはじめ
とする省エネ対策やきめ細かな操業努力、
生産体制の見直
しによる生産性向上やエネルギー効率の低い設備の停止
と高生産・高効率設備への集約化、さらには、バイオマス
や廃棄物系の燃料を利用できるボイラを積極的に導入し
て、燃料転換を推進してきた。この結果、2015 年度実績
においてCO2排出量は 1,781 万 t/年であったことから、
対 2005 年度基準でCO2の排出量の削減率はさんかく28.7%
(2,494 万 t/年→1,781 万 t/年)となった。CO2 排
出原単位についてみると、
目標達成のために想定されるC
O2 排出原単位は 0.852 t-CO2 /t であるが、2015 年
度実績は 0.770 t-CO2 /t となった。
また、
国内外における植林事業の進捗については、植林
面積が 2015 年度までに国内・海外合わせ 60.1 万 ha で
あり、2014 年度実績の 62.4 万 ha に対しては、海外分
2.3 万 ha が減少した。理由としては、製品生産量の落ち
込みにより原料調達量が 2008 年度以前と比べ減少して
いることと、
現地事情としては新たな植林適地の減少、地
球温暖化による雨量減少に起因した成長量の低下等によ
り植林事業からの撤退等があり、
予定通り植林面積が増や
せなかったためである。
また、2014 年 12 月には、前述の 2020 年度を目標とし
た低炭素社会実行計画に加え、
2030 年度を目標とした
「低
炭素社会実行計画フェーズ2」を策定した。具体的には、
2005 年度を基準として、2030 年度BAU排出量から 286
万 t-CO2削減することを目指すものとしている。
加えて、
製紙原料の安定的な確保のみならず、CO2吸収源として
の地球温暖化防止を図る観点から、
吸収源造成目標として、
2030 年度までに 1990 年度比で 52.5 万 ha 増の 80 万 ha
とすることを目標としている。
その実施に当たっては、当
該植林適地のCO2吸収量の増大を図るため、持続可能な
森林経営を積極的に推進するとともに、
最適な植栽樹種の
選択、
成長量の大きい種苗の育種開発、
効果的な施肥の実
施等に努めるものとしている。
(3)古紙リサイクル
2015 年度の国内古紙回収量は 2,134 万トンと前年度比
でわずかに減少した。古紙の発生量は、紙・板紙の需要減
に伴い漸減傾向であるため、
古紙の回収率の更なる向上が
課題となっているが、
2015 年度の古紙回収率は 81.3%と、
高い回収率を維持している。
また、
古紙の回収率とともに、
利用率の向上も重要となるが、2015 年の古紙利用率は
64.3%と過去最高を記録した。
経済産業省では、
「資源の有
効な利用の促進に関する法律」
に基づく判断基準省令にて
古紙の利用率の目標値を設定しているが、
「古紙利用率を
2015 年度までに 64%」
という目標を達成する見込みとなっ
たため、2020 年度までの新たな目標値の設定について検
討を行っている。
輸出に目を向けると、2015 年度は 415 万トンもの古紙
が海外に輸出された。
諸外国との安定的な取引関係の構築
のため、経済産業省の委託事業として 2015 年度も引き続 319きアセアン諸国(インドネシア、フィリピン)の古紙リサ
イクルシステム構築を支援する人材育成研修を実施した。
(4)国際関係
国内の紙・板紙市場は成熟化が進み、
需要の減少傾向が
進行しているものの、
世界市場を見ると中国をはじめとす
るアジア市場や新興国市場は今後も成長していくものと
見込まれている。製紙各社は、
これらの需要を取り込むべ
く現地生産・販売を目指した工場建設や企業買収を進めて
いるが、リスクも多くなっている。
(ア)中国
2015 年4月、日本製紙株式会社は、中国の理文造紙有
限公司との業務提携解消及び株式の売却を発表した。
(イ)ベトナム
2015 年4月、レンゴー株式会社は、ベトナムにおける
合弁会社ビナクラフトペーパー社が段ボール原紙の新マ
シンの建設を決定した事を発表した。
(ウ)タイ
2015 年6月、レンゴー株式会社は、タイにおける合弁
会社(TCFP社)が、ベトナムの軟包装メーカーのティ
ン・タイン・パッキング社に出資し、株式の 80%を取得
したことを発表した。
(エ)インドネシア
2015 年8月、大王製紙株式会社インドネシアの紙おむ
つ事業を行う現地 100%子会社2社の合弁会社化を発表
した。
(オ)インド
2015 年2月、インドのニューデリー郊外で、王子ホー
ルディングス株式会社が重量物包装用段ボール会社を設
立すると発表した。
(カ)マレーシア
2015 年9月、王子ホールディングス株式会社がマレー
シアのラベル印刷会社(HRL社)の買収を発表した。
(ク)カナダ
2015 年 10 月、北越紀州製紙株式会社がカナダのパルプ
製造・販売事業を行うアルパック・フォレスト・プロダク
ツの株式を三菱商事及び王子ホールディングス株式会社
から取得し、完全子会社化を発表した。
(5)製紙産業の構造転換
国内市場の縮小傾向の中で製紙産業が持続的な成長を
維持していくためには事業構造の転換が必要である。
そこ
で、
「平成 25 年度製造基盤技術実態調査
(製紙産業の将来
展望と課題に関する調査)」を実施し、
「高度バイオマス産
業創造戦略」を策定した。その中で、製紙産業の将来ビジ
ョンを、
世界に先駆けて低炭素社会、
循環型社会の構築を
目指し、
製紙産業の強みを生かした高度バイオマス産業を
創造することとした。
具体的には、今後、以下の事業の展開を検討していく。
(ア)電力産業への参入
紙・パルプ産業は、自家発電が 75%まで達しており、
発電設備容量も 500 万 kW を有している。 加えて、間伐
材等の発電燃料の調達力を生かした、
カーボンニュートラ
ルであるバイオマス発電等
(新規投資 30 万 kW 予定)にも
取り組んでおり、発電事業に大きなポテンシャルがある。
国内製紙会社は、
再生可能エネルギー固定価格買取(FIT)
制度を使ったバイオマス発電等に積極的な投資計画を
打ち出している。
(イ)セルロースナノファイバー
セルロースナノファイバーは、
鋼鉄の 1/5 ほどの軽さで、
鋼鉄の5倍以上の強度があり、熱膨張はほとんどない。
木質バイオマスから化学的、
機械的処理により取り出すこ
とが可能で、
成形品、
フィルムなどの工業材料に加工でき、
自動車や電気製品など様々な部素材として利用が検討さ
れている。2013 年度からは、国立大学法人京都大学、王
子ホールディングス株式会社、日本製紙株式会社、星光
PMC 株式会社、京都市のグループが中心となって、ナノセ
ルロースへのリグニン被覆により樹脂中への分散性、
耐熱
性、化学修飾性(用途多様性)に優れた、高性能リグノセ
ルロースナノファイバーの一貫製造プロセスと部材化技
術開発事業を独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開
発機構(NEDO)において開始している。
2.16.水ビジネス
(1)水ビジネスの現状と課題
日本の水関連産業は、
スエズ、
ヴェオリアに代表される
海外水メジャーと比較し、
優れた水処理機器や技術力に強
みを有する一方、その事業領域は部材・部品・機器製造分
野に止まる。また、日本は上下水道施設の運営・管理事業
が長らく公営企業として実施されてきた背景から、
その技 320術・ノウハウが民間企業に存在せず、
水事業のバリューチ
ェーンで最も大きなウエイトを占める
「運営・管理サービ
ス分野」
に関与することができない。
このため、
装置設計・
組立・建設から事業運営・保守・管理、さらには、部材・
部品・機器製造に至るまでの一貫したサービス提供が求め
られる海外市場では、
水メジャー等がプライム・コントラ
クター(事業の主契約者)となり事業権を獲得し、日本の
製造業は出資としての参加や、サブ・コントラクター(主
契約者から事業の一部を請け負う事業者)
としての機器納
入や設計・建設での参画が主体となっている。
日本の水関連産業の海外インフラ整備需要の獲得を一
層進めるためには、
海外企業又は地方公共団体と協力して
海外市場に参入し、日本企業に「事業運営・保守・管理」
の実績を補完させることが重要である。
また、
顧客の求め
るニーズに応じて、
必要となる要素・技術を組み合わせて
提供し、ライフサイクルコスト
(生産から消費にわたって
かかるコストの総和)
で収益をあげていくソリューション
型のビジネスに移行するとともに、
新興国企業や現地企業
との競争に打ち勝つための価格競争力を維持・強化するこ
とも重要となる。
(2)水ビジネス国際展開
(ア)
日本の水関連産業が優先して取り組むべき事業分野
世界の水ビジネス市場は、今後、上水(供給)
、造水、
工業用水、再生水、下水(処理)等の各分野に対するニー
ズが拡大し、2025 年には約 87 兆円(2007 年 36 兆円)に
成長すると予想される。
同市場の太宗
(ボリュームゾーン)
は、伝統的な水処理技術(技術による差別化が困難)によ
り行う上下水道分野であるものの、
日本の水関連産業の優
位な水循環技術の活用できる分野は、
市場の成長が著しい。
(イ)日本の水関連産業の課題と対応策
水事業は、
収入が現地通貨となり事業契約が長期に亘る
ため為替リスクが大きいこと、
契約相手が相手国の地方政
府となり契約不履行時のリスク管理が困難であることな
ど、
企業単独では解決できない固有の問題が存在すること
に加えて、
採算性の問題等からリスクを取って中核を担う
プレーヤー及びインテグレーター
(司令塔)
が育ちにくい
環境にある。また、日本の企業には十分な水事業の運営・
管理の経験がないことから、
海外における入札事前資格審
査を通過できず、結果として運営・管理の実績を積む機会
が得られないという悪循環にある。
このため、
入札事前資
格審査を満たす海外企業又は地方公共団体等と協力する
形態を基本として海外市場に参入し、
日本の企業に運営・
管理の実績を段階的に蓄積させた上で、
プライムコントラ
クターとして事業権を確保し、
「運営・管理」を含む事業
の一元管理を行う企業を創出していくことが重要である。
(ウ)日本の水関連産業に求められる企業戦略
日本の水関連企業は、
海水淡水化に用いる水処理膜など
優れた水処理機器・技術を有しているが、
新興国企業との
過酷な価格競争に晒されており、
世界市場において優位な
地位を維持し続けるには限界が生じている。
このためライ
フサイクルコストで収益をあげていくソリューション型
のビジネスモデルに移行するとともに、
新興国企業との価
格競争に晒されている分野については、
生産拠点の海外移
転や技術的仕様のダウングレードを通じた低コスト化に
より価格競争力を維持・強化することが必要である。
また、
水処理システムの鍵となるコア技術を握り、
自社に有利と
なる企業戦略を構築することも重要である。
(エ)行動計画
日本企業が海外企業及び地方公共団体等と協力し、
国内
外での水事業の受注を通じて運営・管理分野に主体的に関
与する取組に対して、
案件発掘・形成から案件獲得に至る
各段階に応じて、
政府及び政府関係機関による支援を重点
化する。
1. 戦略国との政策対話
2. 革新技術の開発及び新たな水循環モデルの開発・実証3. コンソーシアム形成支援、
他インフラ事業との横断
的な連携
4. 国内水道事業の官民連携の推進
5. 官民一体型の人材育成ツールの構築
6. 政策金融支援(JBIC、NEXI、JICA、産
業革新機構)の重点化
7. 国際標準化への取組強化
3.化学物質管理
3.1.化学物質管理
化学物質は産業活動や国民生活に幅広く利用される一
方、
何らかの有害性を有するものが少なくない。
したがっ 321て、化学物質の特性、有害性を把握し、そのライフサイク
ルにわたって、人及び動植物等に対するリスクを評価し、
そのリスク評価に応じて適切に管理する必要がある。
この
ため、2002 年9月の持続可能な開発に関する世界サミッ
ト(WSSD)で合意された「透明性のある科学的根拠に
基づくリスク評価・管理の手法を用いて、2020 年までに
化学物質が人の健康と環境にもたらす悪影響を最小化す
る」
という目標
(WSSD2020 年目標)
の達成に向けて、
化学物質を取り扱う事業者等が、
化学物質のライフサイク
ルの各段階で最も効果的かつ効率的に化学物質の管理を
行うことができるよう、
法的枠組の整備や自主的な取組の
促進を図るとともに、
その基礎となる科学的知見の充実を
図っている。また、
化学物質管理に関する国際的な取組の
状況を踏まえ、国際機関における活動への貢献、
条約等の
国際合意の実施等を着実に推進している。(1)「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」(ア)化審法の概要
2009 年に化審法が改正され、新規化学物質の審査に加
えて、
従前より上市されている化学物質の全てを対象とし
てリスク評価を行う制度が実施されている。
現在の化審法は大きく3つの要素から構成されている。
(図1)
一点目は、
「新規化学物質に関する審査」である。これ
は、新規化学物質を我が国で製造又は輸入する際には、事前に、経済産業大臣、
厚生労働大臣及び環境大臣に対して
届出を行い、
その性状等に関する審査を上記3大臣が行い、
安全が確認された上でないと、
事業者はその新規化学物質
の製造又は輸入ができないという制度
(事前審査制度)である。なお、国内での1年間の製造・輸入予定数量が政令
で定める数量以下の場合は、
事前確認のみで製造・輸入が
できる等の特例が設けられている。
二点目は、
「上市後の化学物質の継続的な管理措置」で
ある。我が国で製造・輸入されている全ての化学物質につ
いて、国がその製造・輸入・用途を把握し、それを基に環
境への排出量を推計し、
リスク評価を優先的に行う物質を
「優先評価化学物質」
として絞り込み、
順次リスク評価を
行う。この際、国は、自ら保有する情報と、事業者から提
出された情報を活用するとともに、
必要に応じ、
事業者に
対して有害性に関する試験の実施等を求めることができ
る。
三点目は、
「化学物質の性状等
(分解性、
蓄積性、
毒性、
環境中での残留状況)
に応じた規制措置」
である。
これは、
化学物質の有害性やリスクに応じて規制を行うというも
のである。
具体的には、
難分解性かつ高蓄積性であること
に加え、
人又は高次捕食動物への長期毒性がある化学物質
は、
第一種特定化学物質に指定され、
必要不可欠な用途向
けを除き、その製造・輸入は許可されない。また、上述の
リスク評価の結果、
リスクがあると判断された化学物質は、
第二種特定化学物質に指定され、
国が製造・輸入数量の調
整や使用について技術上の指針を定めるなど、
環境への排
出量の削減に向けた対策を講じることとしている。
なお、化審法の施行は、経済産業省、厚生労働省及び環
境省の3省が共同で行っている。
(イ) 新規化学物質の事前審査制度 (図2)
2015 年度においても、新規化学物質の事前審査制度を
着実に実施し
(578 件)。少量新規化学物質の確認
(35,364件)や、
中間物等の特定用途向け新規化学物質の確認制度
(206 件)
、少量中間物の確認制度についても、着実に実
施した。また、化審法の合理化措置の1つとして、
「新規
化学物質の製造又は輸入に係る届出等に関する省令の一
部を改正する省令」を改正(2014 年6月公布、2014 年 10
月施行)し、少量中間物等の確認制度を創設、着実に実施
した(192 件)。 322
(ウ)既存化学物質のリスク評価の全体像(図3)
2009 年の化審法改正により、2011 年度からは、化学物
質の「有害性」に加え、
「環境排出量(暴露量)
」も考慮し
た「リスク」の観点で評価を行っており、2015 年度も着
実に評価を実施した。
この、
リスクベースの管理のメリッ
トとしては、
[1]有害性が明確でない化学物質について
も、暴露量が多くなることにより、
人の健康への影響など
が懸念される場合に、
管理対象とすることが可能となるこ
と、
[2]取扱いや使用方法など、暴露量を制御・管理し
てリスクの懸念をなくすことにより、
種々の化学物質の利
用が可能となること、
[3]強い有害性を示す化学物質に
ついて、
厳しい暴露管理を行うことが可能となること等が
挙げられる。
現在の化審法におけるリスク評価のプロセスは、
リスク
がないとは言えない化学物質を絞り込み優先評価化学物
質に指定する「スクリーニング評価」と、指定した優先評
価化学物質について段階的にリスク懸念の程度を評価す
る「リスク評価」との2つから構成される。
まず、スクリーニング評価においては、
人又は生活環境
動植物への長期毒性という有害性の観点と、
製造・輸入数
量等に基づく環境における残留の程度という暴露の観点
から、
人又は生活環境動植物へのリスクがないとは判断で
きないものが絞り込まれ、
優先評価化学物質に指定される。
優先評価化学物質に指定した化学物質については、
環境モ
ニタリングなど各種のデータを活用して精緻な暴露量の
推計を行うとともに、
有害性情報の充実を図り、
精緻なリ
スク評価を行う。
評価の結果、
仮にリスクがあると判断さ
れた場合には、
第二種特定化学物質に指定して規制するこ
ととなる。
(エ)スクリーニング評価について
スクリーニング評価を行うためには、
それぞれの化学物
質の環境への排出量を推計することが必要である。
こうし
たことから、
全ての化学物質について、
製造及び輸入を行
った事業者が毎年度の製造・輸入数量及び用途別出荷量の
実績を届け出る制度が、2010 年度の実績分から開始され
ており、2014 年度実績については、2015 年4月から6月
が届け出期間であったが、1,300 社を超える事業者から、
合計約3万件の届出が提出された。
この届出実績については、
集計の上、
スクリーニング評
価における暴露量の推計に活用するとともに、
経済産業省 323のウェブサイトに公表した。
(http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/
kasinhou/information/volume_index.html)
なお、
自然界に本来大量に存在する化学物質などについて
は、届出が不要な化学物質としてリスト化した。
2015 年度において、スクリーニング評価を行い(2015
年 11 月)
、新たに 21 物質を追加、2物質を取り消し、指
定された優先化学物質は合計 196 物質となった。
(オ)リスク評価について
スクリーニング評価で選定した優先評価化学物質は、リスク評価のプロセスで評価する。リスク評価においては、
事業者に製造・輸入数量の情報をより詳細に求めるととも
に、
有害性情報も評価の段階に応じてより詳細な情報を利
用していくことで、
徐々に評価の精度を高め、
効率的な評
価を行うことを意図している。
このため、優先評価化学物質については、製造・輸入事
業者に対し、毎年度、
詳細な用途別出荷量や都道府県ごと
の製造数量など、
一般化学物質と比べるとより詳細な情報
の届出義務を課している。
2015 年度においても、優先評価化学物質に指定した化
学物質についてのリスク評価を実施し、
製造・輸入事業者
から提出されたデータに加え、PRTR(
「化学物質排出
把握管理促進法」
)のデータや、環境モニタリングデータ
等もできる限り活用し、
より精緻な暴露評価に向けた作業
を着実に行った。
2015 年度には、6物質について評価IIの評価を行い、
1,2-エポキシプロパン、アクリル酸 n-ブチルについて優
先評価化学物質の指定の取消しを行った(2016 年3月)。また、2015 年度製造輸入実績に基づくリスク評価Iを実
施し、14 物質を評価II対象として選定した。
(2015 年 11月)。
(カ)
第一種特定化学物質及び第二種特定化学物質の規制
並びに監視化学物質に関する措置
2015 年度においても、第一種特定化学物質(31 物質)
及び第二種特定化学物質(23 物質)に関する規制並びに
監視化学物質
(37 物質)
に関する措置を着実に実施した。
また、ポリ塩化ナフタレン(塩素数が2のもの)及びペ
ンタクロロフェノール類の2物質については、
残留性有機
汚染物質に関するストックホルム条約
(POPs条約)に
基づき国際的に製造・使用等を原則禁止(廃絶)とするこ
とが決定されたことを受け、
我が国においても、
2物質を
化審法の第一種特定化学物質に指定するため、
「化学物質
の審査及び製造等の規制に関する法律施行令」
を改正した
(物質の指定については 2016 年3月公布、4月施行予定、
ポリ塩化ナフタレン
(塩素数が2のもの)
及びペンタクロ
ロフェノール類が使用されている場合に輸入することが 324できない製品の指定については 2016 年 10 月施行予定)。(2)
「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理
の改善の促進に関する法律(化管法)」事業者による化学物質の自主的な管理の改善を促進し、
環境保全上の支障を未然に防止することを目的として、特定の化学物質の環境への排出量等を把握するための措置
を行う制度(PRTR制度)
及び事業者による特定の化学
物質の性状及び取扱いに関する情報の提供についての措
置を行う制度(SDS制度)を講ずるため、
「化管法」が
1999 年7月に公布された。
PRTR制度においては、
対象となる第一種指定化学物
質の年間取扱量が1トン以上
(特定第一種指定化学物質の
場合は 0.5 トン以上)の事業者に対して、排出量等の把
握・届出を義務づけており、
国は毎年届け出られたデータ
等の集計結果を毎年度公表している。
PRTR制度については、2008 年に「特定化学物質の環
境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法
律施行令」
に規定する対象物質や対象業種等の見直しを行
い、2011 年度の届出から全面施行している。
SDS制度では、
対象となる第一種及び第二種指定化学
物質等の取扱事業者に対して、
安全データシート
(SDS)
の提供を義務づけている。2012 年4月には、GHS
(Globally Harmonized System of Classification and
Labelling of Chemicals:化学品の分類及び表示に関する
世界調和システム)の導入を促進するため、
省令を改正し
た。この改正により、
ラベル表示の努力義務が新たに追加
された。
(3)科学的知見の充実と新たな課題への対応
(ア)ナノ材料の安全性
ナノマテリアルの事業者における安全対策について、安全性に関する科学的知見、
自主管理による安全対策の実施
状況等について、
積極的に情報収集及び発信を行うナノマ
テリアル情報収集・発信プログラムを 2010 年より実施し
ており、
結果を経済産業省ホームページで毎年公表してい
る。
(イ)消費者製品中の化学物質の暴露評価ツールの開発
消費者製品(調剤、成形品)からの化学物質の暴露量を
事業者や国が容易に把握できるように、吸入、経費、経口
暴露評価手法の開発を行った。
(ウ)より効率的かつ効果的な有害性評価手法の開発
化学物質の迅速かつ効率的な安全性評価手法を確立す
るため、
培養細胞や遺伝子解析手法等を用いた簡易な有害
性評価手法の開発を行った。
また、
我が国の国際競争力強
化をはかるため、
ナノ材料の効率的・合理的な安全性評価
技術の開発を行った。
(4)国際的協調による対応
(ア)化学品の分類及び表示に関する世界調和システム
(GHS)
GHSとは、
化学物質の危険有害性の分類基準を国際的
に統一し、
その分類に応じて国際的に調和された適切なラ
ベル表示とSDSによる危険有害性情報の伝達を目指す
制度で、国連の経済社会理事会(ECOSOC)の下にG
HS小委員会が設置され毎年2回開催されている。WSSDで採択した行動計画においては、2008 年までに世界的
なGHSの実施が目標とされている。2002 年 12 月のGH
S小委員会において合意されたGHS国連文書は、2015
年に第6版へ改定された。
日本では、
国内におけるGHS
の導入を促進するため、2012 年4月に化管法の省令を改
正した。
この改正によりGHSに基づく情報伝達に関する
JIS Z 7253 によるSDS作成及びラベル表示が努力
義務となっている。
また、
事業者が混合物に含まれる化学物質を入力するこ
とでGHSに基づく混合物の分類判定、
ラベルの出力等を
行うことができる
「GHS混合物分類判定システム」
(2014
年9月公開)
について、
最新のGHS分類を搭載する等改
訂を行い、2016 年3月にホームページに掲載した。
(イ)
ナノ材料の安全性評価等に関する経済協力開発機構
(OECD)等における国際協調活動
2006 年にOECD化学品委員会の下に設置された工業
ナノ材料作業部会(WPMN)において、日本は副議長を
務めるなど、
工業ナノ材料にかかる安全性評価に関する国
際協調活動に積極的に参加している。
特に、
WPMNの下、
2007 年に開始した代表的なナノ材料の安全性試験データ
を収集する「スポンサーシッププログラム」では、日本は
米国と共にフラーレン、
単層カーボンナノチューブ、多層
カーボンナノチューブのスポンサーを務め、
当該物質の安
全性データ集(2015 年6月9日公開)とその概要版を取 325りまとめた。
また、日本は、WPMNのプロジェクト「規制制度での
ナノ材料のヒト健康・生態系有害性評価のための物理化学
特性に基づいたグルーピング・同等性・類推の概念の使
用・開発に関する調査」を提案・主導し、取りまとめた調
査報告書は 2016 年1月に公開された。
さらに、日本は、国際標準化機構(ISO)第 229(ナ
ノテクノロジー)専門委員会のプロジェクト
「ナノ物体固
有の毒性を評価する in vitro 試験のためのナノ物体の作
業懸濁液の特性」を提案・主導し、その成果は、技術仕様
書ISO/TS 19337 として 2016 年 3 月に発行された。
(ウ)
簡易な有害性試験法の経済協力開発機構
(OECD)
への提案
OECDを通じた試験法の標準化を進めており、
これま
でに開発した内分泌かく乱作用の試験法2件
(エストロゲ
ン受容体結合試験法、
エストロゲン受容体レポーター遺伝
子アッセイ(アンタゴニスト)試験法)が 2015 年7月に
テストガイドラインとして承認され、
発がん性のスクリー
ニング試験法(Bhas42 細胞形質転換試験法)が 2016 年 1
月にガイダンス文書として公開された。
(エ)国際条約への対応
化学物質が国際的に流通し、
また、
物質によっては大気
や水等の自然を通じて長距離移動をすることを踏まえ、国連では条約という形で法的拘束力をもった国際的な有害
化学物質の管理を進めている。
2004 年に発効したストックホルム条約は、環境中での
残留性、生物蓄積性、人や生物への毒性が高く、長距離移
動性が懸念される残留性有機汚染物質(POPs:
Persistent Organic Pollutants)の、製造及び使用の廃
絶・制限、排出の削減、これらの物質を含む廃棄物等の適
正処理等を規定しており、
日本は 2002 年に加盟した。2009年5月の締約国会議において、条約成立当時の 13 物質に
加え、新たに9物質の附属書への追加が決定され、2011
年4月の第5回締約国会合及び 2013 年4月の第6回締約
国会合ではそれぞれ1物質ずつ、2015 年5月の第7回締
約国会合では3物質群の追加が決定された。
条約上の規制
対象物質は、国内では、化審法、外国為替及び外国貿易法
(外為法)等によって規制される。
同じく 2004 年に発効したロッテルダム条約は、化学物
質の危険有害性に関する情報が乏しい国への輸出によっ
て、
その国の人の健康や環境に悪影響が生じることを防止
するため、輸出国は、特定の有害物質の輸出に先立って、
化学物質に関する情報を相手国に通報する等、
輸入国政府
の意思を事前に確認した上で輸出を行うこと等を規定し
ている。
日本では、
2004 年9月の条約の効力発生に際し、
条約対象物質を輸出承認申請の対象とするなどの措置を
講じた。
また、国連環境計画(UNEP)は、2001 年に地球規
模の水銀汚染に係る活動を開始し、2002 年に人への影響
や汚染実態をまとめた報告書
「世界水銀アセスメント」を
公表した。その後作業グループ等における検討を経て、
2009 年2月に開催された第 25 回UNEP管理理事会(閣
僚級)
において、
水銀によるリスク削減のための法的拘束
力のある文書(条約)を制定すること、及びそのための政
府間交渉委員会を設置して 2010 年に交渉を開始し、2013
年までの取りまとめを目指すことに合意した。2013 年1
月の第5回政府間交渉委員会
(INC5)
で水銀に関する
新たな条約の条文案が合意され、2013 年 10 月に熊本県熊
本市及び水俣市にて開催された水銀に関する水俣条約外
交会議では、
約 140か国・地域から 1,000人以上が出席し、
水銀に関する水俣条約の採択・署名が行われた。その後、
政府において法律案の検討が行われ、
「水銀による環境の
汚染の防止に関する法律」等が 2015 年通常国会において
可決・成立し、2015 年6月に公布された。我が国におけ
る今後の水銀対策については、
産業構造審議会製造産業分
科会化学物質政策小委員会制度構築WG及び中央環境審
議会環境保健部会水銀に関する水俣条約対応検討小委員
会の合同会合にて検討し、2015 年8月に報告書「水銀に
関する水俣条約を踏まえた今後の水銀対策に関する技術
的事項について第二次報告書」をとりまとめた。2016 年
2月には我が国は水俣条約を締結した。
(オ)化学物質管理に係るアジア協力
ASEAN各国におけるWSSD目標の実現を支援す
るとともに、
アジア地域の発展に繋がる調和の取れた化学
物質管理体制の構築を推進するため、
「アジアン・サステ
イナブル・ケミカル・セーフティー」構想を 2011 年に提唱・
推進し、
同構想の下で種々の関連施策を実施している。
その一つとして、東アジアASEAN経済研究センター
(ERIA)の「有害性情報をASEAN各国が共有する
情報基盤の構築が重要」
との調査研究報告
(2012 年3月) 326に基づき、
ASEANワイドの化学物質管理データベース
の構築に向けた検討を、
日本・ASEAN経済産業協力委
員会(AMEICC)の枠組みを活用して行った。具体的
には、
定期的に開催されるAMEICCの化学産業ワーキ
ンググループのほか、ASEAN各国の担当者を集めた
「データベース特別ワークショップ」
を 2014 年8月
(於:
ジャカルタ)
及び 2015 年3月
(於:バンコク)
に開催し、
データベースの収載内容や運営に必要な事項について議
論した。2015 年4月より「日ASEANケミカルセーフ
ティデータベース(AJCSD)
」として試行的な運用を
開始し、
2回のAJCSD技術ワーキンググループにおい
て正式版運用に向けて検討を重ね、2016 年4月よりNI
TEにて本格運用を開始予定である。
また、二国間協力の取組として、
新たな化学物質管理制
度の導入を検討しているタイ及びベトナムに対して、
科学
的リスク評価に基づく効率的な化学物質管理制度の構築
を支援するため、
人材育成や技術協力等を内容とする化学
物質管理に関する二国間協力文書(MOC)を 2012 年7
月にベトナム商工省、
同年8月にタイ工業省工場局との間
でそれぞれ合意し署名した。
その後3年間の協力の成果を
受けて 2015年7月及び 12月にそれぞれ第2期MOCを締
結した。当該協力文書に基づき、
両国において政府及び産
業界を対象とした研修を実施するとともに、
両国と政策対
話を実施してきた
(タイ:2012 年 11 月、
2014 年3月、2015年2月 ベトナム:2012 年 12 月、2013 年 11 月、2014 年
11 月、2015 年 11 月)
。2015 年度からはインドネシア及び
マレーシア等とも化学物質管理制度に関する意見交換を
進めている。
(5)製品含有化学物質の情報伝達に関する取組
近年、
EUのRoHS指令・REACH規則を皮切りに、
製品中に含有されている化学物質の規制が中国・インド等
アジア各国で導入されている。
最終製品メーカー(主に大企業)は、川上のサプライヤ
ー(中小企業が多い)から情報を得ない限り、自社製品に
何の化学物質が含まれているか把握できないため、近年、
製造業のサプライチェーン全体で
「川下企業から川中・川
上企業への含有化学物質調査」
という多大な業務が発生し
ている。しかし、伝達フォーマットが各社で異なるため、
要求を受ける川中・
川上企業が過重な負担を強いられてい
る。
そこで 2013 年度に開催した「化学物質規制と我が国企
業のアジア展開に関する研究会」において、2012 年3月
に発効した電気・電子業界における製品含有化学物質の情
報伝達に関する国際規格「IEC62474」に準拠しつつ、
業種横断的にサプライチェーン全体で使える標準フォー
マットを使った情報伝達スキームの構想が取りまとめら
れた。
2015 年度は、新たな製品含有化学物質の情報伝達スキ
ーム(chemSHERPA)を構築し、10 月にデータ
作成の支援ツールの正規版を公開した。また、2016 年 2
月の日EU産業政策対話・第3回化学品WGにおいて、c
hemSHERPAのセミナーを実施した。(6)フロン等に係る地球温暖化防止対策・オゾン層保護
(ア)
地球温暖化防止対策
(代替フロン等4ガスの排出抑制)地球温暖化防止のため、
「京都議定書」
(2005 年発効)
対象の温室効果ガスであるHFC、
PFC、
SF6及びN
F3(以下、
「4ガス」という。
)に関する排出抑制策とし
て、日本においては、1998 年に関係事業者団体(8分野
22 団体)により策定された自主行動計画等に基づき推進
されているところ、京都議定書第一約束期間が終了した
2012 年までに 18 団体が参画し、自主行動計画に基づく対
策が講じられている。2013 年以降も引き続き、自主行動
計画を策定する団体については、新たに 2020 年、2025 年
及び 2030 年を目標年とした自主行動計画の設定を求め、
産業構造審議会において、
その内容の評価・検証を実施し
た(参照表:4ガス推計排出量)
。各団体においては、自
主行動計画に基づく4ガスの排出削減対策として、
フロン
類破壊設備の設置、製造工程の見直しや、回収・再利用プ
ロセスの導入、
漏えい防止対策の徹底を実施・継続してい
る。
しかしながら、
特定フロンから代替フロンへの転換が進
んだことから、
今後、
冷凍空調機器からのHFC等代替フ
ロンを中心としてフロン類の排出が増加する見通しであ
り、
また、
当該機器からの使用時漏えい等への対策の必要
性を踏まえ、
フロン類の製造から廃棄までのライフサイク
ル全体を見据えた包括的な対策を講じるため、
「特定製品
に係るフロン類の回収及び破壊の実施の確保等に関する 327法律(フロン回収・破壊法)
」が改正され、産業構造審議
会における、フロン類製造業者等に対する規制、
フロン類
使用製品の製造業者等に対する規制の詳細検討等を踏ま
え、2015 年4月からフロン排出抑制法が施行された。
また、政府においては、研究開発として「高効率ノンフ
ロン型空調機器技術の開発」(2011 年度から)を独立行政
法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)に
おいて実施し、
省エネかつ地球温暖化係数の低い冷媒を利
用した空調システムの研究開発等を実施し、2015 年度に
は、引き続き低温室効果冷媒のリスク評価や、
高効率ノン
フロン空調システムの試作機の製作・性能評価を行うとと
もに、低温室効果冷媒の開発について一定の成果を得た。
さらに、
先導的な設備の技術実証に関する導入補助を実施
した。
(イ)フロン排出抑制法の施行状況
2015 年4月に施行された、
改正フロン回収・破壊法(フロン排出抑制法)に基づき、フロン類再生・破壊業者に係
る許可等の規制等を実施した。2014 年度の全フロン類の
破壊量は約 4,495 トンと前年に比べて増加しているもの
の、廃棄時回収率は約3割となっている。
(ウ)オゾン層破壊物質の生産・輸出入の規制等
オゾン層保護のため、モントリオール議定書(1999 年
発効)
の国内担保法である
「特定物質の規制等によるオゾ
ン層の保護に関する法律」
(1989 年施行)及び「外国為替
及び外国貿易法(外為法)
」に基づく特定フロンの生産・
消費規制を実施するとともに、
多数国間基金を用いた途上
国支援事業の展開支援などを実施した。
これにより、オゾ
ン層破壊物質の消費量の段階的削減・全廃を引き続き進め
た。
2011 2012 2013 2014
HFCs 25.8 29.0 31.7 35.3
PFCs 3.7 3.4 3.3 3.4
SF6 1.4 1.4 1.2 1.2
NF3 1.6 1.3 1.4 0.8
4ガス計 32.5 35.1 37.6 40.7
表:HFC,PFC,SF6及びNF3の排出量(7)「化学兵器の禁止及び特定物質の規制等に関する法
律(化学兵器禁止法)」1997 年に発効した化学兵器の開発、生産、貯蔵及び使
用の禁止並びに廃棄に関する条約は、
化学兵器の開発、生産、保有及び使用を禁止するとともに、
締約国が国内産業
施設における対象物質の生産量等のデータを化学兵器禁
止機関(OPCW)へ申告し、これら施設に対する同機関
による査察を受け入れることを義務付けている
(産業検証)
ほか、対象物質の貿易規制を規定している。日本からは、
毎年約 450〜500 か所の事業所を申告しているが、2008 年
以降、
化学兵器への転用リスクの高い特定化学物質及び指
定物質以外の対象物質を製造する事業所に対しても、
条約
目的達成の観点から査察を強化する傾向にあり、
日本が受
け入れる査察回数も大幅に増加しているところ、
その適確
かつ円滑な実施の確保に努めている。
日本においては、1995 年に成立した化学兵器禁止法に
より、次のとおり条約上の義務を履行している。
基準 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
HFCs 20.2 24.6 24.4 23.7 24.4 22.8 19.5 16.2 16.2 12.4 12.7 14.5 16.6 19.1 20.7 23.1
PFCs 14.0 18.4 20.1 16.7 13.3 11.9 10.0 9.2 8.9 9.2 8.6 9.0 7.9 5.7 4.1 4.2
SF6 16.9 16.2 13.7 12.4 8.4 6.2 5.3 4.9 4.6 4.4 4.2 4.3 3.9 3.3 1.6 1.6
NF3 0.2 0.2 0.2 0.2 0.3 0.2 0.2 0.3 0.3 0.4 1.2 1.1 1.2 1.2 1.2 1.4
4ガス計 51.2 59.4 58.4 53.0 46.3 41.2 34.9 30.6 30.0 26.4 26.8 29.0 29.6 29.4 27.5 30.3
(単位:百万tCO2) 328[1]化学兵器の製造、所持等の一切を禁止
[2]化学兵器に供されるおそれの高い化学物質
(特定物質)については、
その製造及び使用を許可制とし、
譲渡し、
譲受け、
所持、
運搬、
廃棄等についても規制するとともに、
許可製造者、許可使用者、
廃棄義務者等に対し経済産業省
による立入検査を実施し、厳格な管理を徹底した。
[3]化学兵器にも民生用にも供される化学物質
(指定物質)及び民生用に供されるその他の有機化学物質について
は、
その生産量等について経済産業省への届出を義務付け、
これをOPCWに申告し、
届出を行った事業所に対する同
機関による査察受入れを実施した。
なお、条約の対象物質の貿易規制については、
外為法に
より許可制又は承認制とすることにより、
条約上の義務を
履行している。
(8)麻薬原料等規制対策
麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合
条約上、
国際的な流通管理を実施すべきと定められている
原料物質について、
外為法に基づき、
輸出先において麻薬
等の密造に転用されるおそれがないか等の確認を行い、厳格な輸出審査を実施した。
このほか、産業界に対しては、
新規に乱用リスクがある
ものとして指定された物質に係る情報提供や、
貿易管理の
重要性についての周知等を行うとともに、
条約上の麻薬等
規制に係る国際的議論に際し、
経済活動への影響も考慮し
つつ、参画・注視を行っている。
(9)毒劇物流出事故対応
貯蔵施設等から毒劇物が大量流出し、
その影響が周辺に
及ぶような重大事故が起こった場合、
経済産業省は関係省
庁として政府の初動対処に参画することとなっている。
(10)経済産業省国民保護計画(国民保護計画)
2004 年6月に「武力攻撃事態等における国民の保護の
ための措置に関する法律(国民保護法)
」が成立したこと
を受け、2005 年 10 月、経済産業省の所掌事務に関して、
日本に対する外部からの武力攻撃の事態等における国民
保護措置等の内容等を定めた国民保護計画が策定された。
化学兵器禁止法に規定する毒性物質を扱う化学プラン
ト等の事業所は、
国民保護法における生活関連等施設及び
危険物質等の取扱所に該当するため、
国民保護計画におい
てこれら事業所を生活関連毒性物質取扱所と位置付け、平素から該当施設の管理者、
関係事業者団体、
地方公共団体
などと情報共有を図りながら、
該当施設の安全確保措置の
実施のあり方に関し、必要な助言を行うこととしている。
また、
武力攻撃事態等における災害等の発生を防止するた
め緊急の必要があると認めるときは、
国民保護法に基づき
運転中のプラントに緊急停止を命令する等事態の緊急性
に応じた対処法を定めている。
国民保護計画をより円滑に運用するために、
緊急事態に
おける連絡体制の更新を絶えず行う等、
化学兵器禁止法に
規定する毒性物質を取り扱う化学プラント等に係る武力
攻撃事態等における災害等の発生又は拡大防止のための
体制整備を進めている。

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