第1部 第1章


経済産業省年報 目次
第1部 総説
第1章 2013 年度の経済産業政策の流れ(経済産業大臣就任メッセージより)····················· 1 1第1章 2013 年度の経済産業政策の流れ(経済産業大臣就任メッセージより)
1.新政権の基本方針と緊急経済対策
(1)新政権の基本方針
安倍政権が発足してから、
1ヶ月あまりで、
株価は1万1400円を超えてリーマンショック後の最高値を記録する
までに上昇しました。
円も2年9ヶ月ぶりに一時94円台をつけ、
歴史的な円高によって停滞する日本経済に回復の兆し
が見え始めました。
こういったことは、新政権が経済再生のための基本方針を明確に示すとともに、機動的な財政政策として、緊急経済対
策を決定し、速やかな実行に移そうとしていることに対して、市場が高い評価や期待感を示していることの現れです。
国民が新政権に期待しているのは、何よりも景気の回復、経済の再生です。やるべきことは3つであり、これが日本経
済再生に向けた「三本の矢」です。
第一に、デフレ・円高から早期に脱却するため、明確な物価目標を設定し大胆な金融緩和を行うこと。
第二に、有効需要を創出するための機動的な財政政策として、大型経済対策(補正予算)と本予算の「切れ目ない対策」
により景気底割れを回避し、景気の反転を図ること。
第三に、成長戦略の実現により、民間投資を喚起すること。
(2)緊急経済対策、平成25年度予算、税制改正
今回、緊急経済対策、補正予算を閣議決定いたしました。これまでとは次元の異なる対策であり、経済産業省関係の予
算は、成長戦略として1.2兆円であり、過去最大規模の対策となっています。
この経済産業省関連の平成24年度補正予算には、5つの柱があります。1まず、民間投資を喚起し企業の国際競争力
を強化し、省エネを進めるという観点から最新の設備投資への補助金を計上(3490億円)しております。22つ目に
研究開発、技術開発投資の促進策としてリスクマネー供給の強化などを図ります。33番目に中小企業・小規模事業者支
援として、こうした企業が持つ高度な技術に光を当て、商品化につなげるための試作品作成費用の補助制度(1007億
円、全国約1万社対象)を創設します。4さらにはクールジャパンの海外展開を促進する事業、そして5防災、復興関係
で全国のコンビナート等の耐震性の総点検のための予算も計上しています。
補正予算と合わせて「15ヶ月予算」の考え方のもと、平成25年度予算においても、切れ目のない経済対策を実行
します。
例えば、
産業再興のため、
複合素材技術をはじめ先端技術の開発支援に手厚い予算計上を行っています。
また、
医療・
介護産業やクール・ジャパン戦略など、付加価値の高いサービス産業の育成にも、補正予算に引き続き、重点を置いてい
ます。こうした予算措置によって、景気回復、経済再生の流れをより強固なものとしていきます。
また、税制改正においても、永年の懸案であった自動車取得税の廃止や研究開発税制の大幅拡充、事業承継税制の見直
しなど、需要や民間投資の喚起を促し、経済活性化に資する大胆な措置をとり、予算・税制両面から経済再生に取り組み
ます。
2.経済政策の司令塔と成長戦略
(1)経済政策の司令塔
経済再生に取り組む組織体制も新しくしました。まず、3年半ぶりに復活した「経済財政諮問会議」が今後の経済財政1 2
運営の基本設計を行います。デフレ・円高からの脱却のため、明確な物価目標を2%に設定し、大胆な金融緩和を進めま
す。
もう1つの司令塔として「日本経済再生本部」を新たに創設しました。ここが経済政策の実施設計を行いますが、再生
本部のもとには「産業競争力会議」が置かれ、 関係閣僚に企業経営者や民間有識者も加え、今後の成長戦略とし
て「戦略市場創造プラン」や日本の国際展開戦略などを立案していきます。
(2)戦略市場創造プラン
今後、成長戦略の立案に当たっては、最初にまずどういう社会を作っていくのか、どういう個人のライフスタイルを求
めていくのか、という定義から始まり、それに必要な事業や、それを支えるコア技術を重層的に組み込んでいくという新
しいアプローチで、政策立案を進めたいと考えています。
例えば、目指すべき社会の姿の一つとして、単に長生きではなく、日本が「健康長寿世界一」を目指すとすると、iP
S細胞も研究だけでなく実用化をさらに進めること、先端医療機器、介護ロボットの開発、医療情報の電子化など幅広い
事業分野、技術分野の戦略的育成が必要となってきます。
こうした戦略分野の策定を産業競争力会議の場で行い、
ターゲットを決めたら産官学を挙げてあらゆる政策資源(予算、税制、金融、規制改革)を投入していきたいと思います。これこそが「戦略市場創造プラン」であります。
3.日本企業を取り巻く"企業の4重苦"の解消
このように、最先端の産業を育てていく一方で、既存の産業についても再生に向けた対策が必要です。今、日本企業が
置かれている環境は、国際競争上、非常に不利であることは間違いありません。三重苦であるとか六重苦であるという言
われ方もしますが、日本企業を取り巻く環境は、大きく分ければ"4重苦"と言えます。すなわち、1円高・為替問題、
2関税などの国境措置、3法人税などの税制や国内の規制、4資源・エネルギーや電力価格など国内コストの4つです。
(1)為替
最初にあげられるのが円高・為替問題です。対ドルでの円高は注目されますが、対韓国ウォンでも、昨年までの4年間
でなんと円は2倍の円高になっています。これでは日本企業は、競合相手の韓国企業ととても競争できません。
デフレ・円高からの脱却が新政権の最優先課題です。このため、すでに述べたように明確な物価目標の設定と大胆な金
融緩和を行い、他の主要国と同レベルの物価目標2%を実現していきます。
(2)国境措置(関税、FTA、経済連携)
二つ目は国境措置です。経済、企業活動のグローバル化の中で経済連携の面でも、FTA、EPAの締結など、日本は
主要国に後れを取っています。私が外務副大臣に就任した10年前には、日本が結んでいるFTA、EPAはシンガポー
ルとの間だけでした。
そのため在任中には、
優先順位をつけ経済連携協定を加速化させなければならないと指示を出して
様々な国との交渉を進めました。
アジア太平洋地域の成長を取り込んでいくことが、これからの日本の成長にとって必要不可欠で、より一層、経済連携
の加速化をはからなくてはなりません。こうした意識のもと、日中韓FTA、RCEP、さらに日EU・EPAといった
各地域等との経済連携協定の交渉は、迅速かつ精力的に進めていきます。
TPPについては、自民党の政権公約(
「聖域なき関税撤廃」を前提とする限り交渉参加に反対等)や連立政権合意を
踏まえつつ、まずは、民主党政権の事前協議について検証し、国益にかなう最善の道を求めていくというのが基本スタン
スです。先日、スイスでのダボス会議に出張した際も、米国のカークUSTR代表と会談しました。今後もTPPの国内2 3
への影響の試算や米国との協議を進める中で、国益にかなう最善の方策を検討していきます。
(3)国内制度(規制改革)
三つ目は国内制度です。我が国の産業競争力強化に向け、規制の改革を行うことは待ったなしです。そのポイントは、
1新規参入を促し健全な競争環境を作ること(例えば電力システム改革)
、2事業化までのスピードアップ(例えばiP
S研究の早期の実用化)
、3制度の国際化、日本の制度だけガラパゴスにならないことの3つです。これらについては、
新たに立ち上げた「規制改革会議」が「日本経済再生本部」とも連携して検討していくことになります。
日本の制度が海外の制度と異なっている場合(ガラパゴス化の懸念)には、合理的な理由が無い限り3年以内に国際水
準に合わせる「国際先端テスト」という新たな手法も導入したいと思います。3

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