限定提供データに関する指針
平成31年1月23日
(最終改訂:令和6年2月)
経済産業省
(改訂履歴)
令和4年 5月改訂
令和6年 2月改訂
目次
はじめに ........................................................................................................................................... 1
1.本指針の位置づけ.................................................................................................................. 1
2.改訂の経緯............................................................................................................................. 13.「限定提供データ」に関する検討が行われた委員会等 ......................................................... 3
I.総説 ........................................................................................................................................... 6
1.不正競争防止法の位置づけ ................................................................................................... 6
2.限定提供データに係る不正競争について(平成 30 年改正) .............................................. 6
II.限定提供データについて .......................................................................................................... 91.「業として特定の者に提供する」
(限定提供性)について.................................................... 92.「電磁的方法・・・により相当量蓄積され」
(相当蓄積性)について................................ 103.「電磁的方法により・・・管理され」
(電磁的管理性)について........................................114.「技術上又は営業上の情報」について................................................................................. 145.「営業秘密を除く」について ............................................................................................... 15
6.適用除外の対象となる「無償で公衆に利用可能となっている情報(オープンなデータ)と
同一」の情報について(法第 19 条第1項第9号ロ)............................................................... 15III.「不正競争」の対象となる行為について(総論).................................................................. 19
1.各行為(
「取得」、「使用」、「開示」
)の対象について......................................................... 192.「取得」について.................................................................................................................. 203.「使用」について.................................................................................................................. 204.「開示」について.................................................................................................................. 21
IV.不正取得類型について............................................................................................................ 231.「窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段」について........................................................... 23
2.不正取得類型に該当しないと考えられる事例.................................................................... 24
V.著しい信義則違反類型について ............................................................................................. 26
1.図利加害目的について ........................................................................................................ 272.「限定提供データの管理に係る任務に違反して行う」行為について ................................. 32
VI.転得類型について ................................................................................................................... 36
1.取得時悪意の転得類型 ........................................................................................................ 37
2.取得時善意の転得類型 ........................................................................................................ 41
VII.請求権者について ................................................................................................................... 43
1.概要...................................................................................................................................... 43
2.プラットフォーマーと請求権者.......................................................................................... 43
3.委託と請求権者 ................................................................................................................... 44 1はじめに
1.本指針の位置づけ
本指針は、平成 30 年の不正競争防止法改正において導入された「限定提供デー
タ」に係る「不正競争」について、本制度導入が検討された産業構造審議会不正競
争防止小委員会(以下「不正競争防止小委員会」という。
)における「各要件の考え
方、該当する行為等の具体例を盛り込んだわかりやすいガイドラインを策定すべ
き」との指摘等を踏まえ、策定されたものである。
本指針は、産業界、有識者等から構成された「不正競争防止に関するガイドライ
ン素案策定WG」において原案を策定し、不正競争防止法小委員会の審議を経て策
定されたものであり、限定提供データの定義や不正競争に該当する要件等につい
て、一つの考え方を示すものであるが、法的拘束力を持つものではない。
したがって、当然のことながら、不正競争防止法に関する個別事案の解決は、最
終的には、裁判所において、個別の具体的状況に応じて、他の考慮事項とともに総
合的に判断されるものである。
なお、本指針は、改正法の施行後の運用を見つつ、適時適切に見直しを行ってい
くこととしている。
くろまる産業構造審議会 知的財産分科会 不正競争防止小委員会
「データ利活用促進に向けた検討 中間報告」より抜粋
7.ガイドライン等の策定を通じた予見可能性を高める努力
新たに導入する制度の施行に先立ち、各規定の内容の明確化を図るため、不正競争
防止に関するガイドライン素案策定WGにおいて検討を行い、
技術的管理等の客体の
要件の考え方やその具体例、
著しい信義則違反類型における図利加害目的に該当する
行為・該当しない行為の例などを示す、分かりやすいガイドライン等を、速やかに策
定するべきである。また、制度の施行後においても、その運用状況を見つつ、適時適
切にガイドライン等の見直しを行っていくべきである。
事業者が社内において策定さ
れる各規定を通じて教育・啓発活動を推進することも重要であり、その取組を推進す
る観点からもガイドライン等によって、その容易化を図っていく必要がある。
2.改訂の経緯
(令和4年5月改訂)
限定提供データに係る規律は、国会の附帯決議で施行後3年見直しが要請されて
いた。これを受け、不正競争防止小委員会で、限定提供データに係る規律の創設時
からの実務の進展、近時政府全体で推し進めるデジタル化の進展等を念頭に、主
に、
(i)制度施行後、限定提供データの利活用が進む中で解釈の明確化等の要請が
寄せられた論点、
(ii)データ流通プラットフォームを運営する取引事業者が制度実 2装する際に課題となる論点について検討を行った。当該検討結果を受け、本改訂を
実施した。
(令和6年2月改訂)
知的財産の分野におけるデジタル化や国際化の更なる進展などの環境変化を踏ま
え、限定提供データの保護の強化を含む不正競争防止法の改正が令和5年に行われ
た。この改正を踏まえ、本改訂を実施した。
なお、令和5年改正法については、令和6年4月1日から施行されるところ、本
指針の改訂から施行までの期間が短いことに鑑み、改訂後の指針においては、改正
後の条文に基づいて記載を行っている。 33.
「限定提供データ」に関する検討が行われた委員会等
(注記)令和6年の本指針改訂にあたり、以下の委員会で御議論いただきました。
【産業構造審議会 知的財産分科会 不正競争防止小委員会 委員名簿】
にじゅうまる岡村 久道 国立情報学研究所 客員教授
京都大学大学院 医学研究科 講師、弁護士
河野 智子 ソニーグループ株式会社 知的財産・技術標準化部門 スタンダード
&パートナーシップ部 著作権政策室 国内渉外担当
小松 文子 ノートルダム清心女子大学 特別招聘教授
下川原 郁子 日本知的財産協会 理事長
株式会社東芝 技術企画部 エキスパート
末吉 亙 KTS法律事務所弁護士
杉村 純子 プロメテ国際特許事務所 代表弁理士
田村 善之 東京大学大学院 法学政治学研究科 教授
冨田 珠代 日本労働組合総連合会 総合政策推進局長
長谷川 正憲 日本経済団体連合会 知的財産委員会・企画部会 委員
キヤノン株式会社 知的財産法務本部 知的財産渉外第三部長
畠山 一成 日本商工会議所 常務理事
水野 正則 知的財産高等裁判所 判事
敬称略(50 音順・11 名)
にじゅうまる:委員長 4(注記)平成 31 年の本指針策定にあたり、以下の委員会、WGで御議論いただきました。
【産業構造審議会 知的財産分科会 不正競争防止小委員会 委員名簿】
相澤 英孝 武蔵野大学 法学部 教授
池村 治 日本経済団体連合会 知的財産委員会 企画部会委員
味の素株式会社 理事 知的財産部長
大水 眞己 日本知的財産協会 常務理事
富士通株式会社 法務・コンプライアンス・知的財産本部
本部長代理
にじゅうまる岡村 久道 京都大学大学院 医学研究科 講師、弁護士
久貝 卓 日本商工会議所 常務理事
河野 智子 ソニー株式会社 スタンダード&パートナーシップ部
著作権政策室 著作権政策担当部長
近藤 健治 トヨタ自動車株式会社 知的財産部長
末吉 亙 潮見坂綜合法律事務所 弁護士
杉村 純子 日本弁理士会 第4次産業革命対応ワーキンググループ 座長
プロメテ国際特許事務所 代表弁理士
田村 善之 北海道大学大学院 法学研究科 教授
長澤 健一 キヤノン株式会社 常務執行役員 知的財産法務本部長
野口 祐子 グーグル合同会社 執行役員 法務部長、弁護士
林 いづみ 桜坂法律事務所 弁護士
春田 雄一 日本労働組合総連合会 経済政策局長
水越 尚子 エンデバー法律事務所 弁護士
三井 大有 東京地方裁判所 判事
宮島 香澄 日本テレビ 報道局解説委員
敬称略(50 音順・17 名)
にじゅうまる:委員長 5【不正競争防止に関するガイドライン素案策定WG 委員名簿】
(平成 30 年 11 月時点)
淺井 俊雄 日本電気株式会社 知的財産本部 主席主幹
池村 治 日本経済団体連合会 知的財産委員会 企画部会委員
味の素株式会社 理事 知的財産部長
岡村 久道 不正競争防止小委員会 委員長
京都大学大学院 医学研究科 講師、弁護士
奥邨 弘司 慶應義塾大学大学院 法務研究科 教授
杉村 純子 日本弁理士会 第4次産業革命対応ワーキンググループ 座長
プロメテ国際特許事務所 代表弁理士
竹市 博美 トヨタ自動車株式会社 東京技術部 主幹(知的財産部兼務)
にじゅうまる田村 善之 北海道大学大学院 法学研究科 教授
西田 亮正 株式会社シップデータセンター 事務受託弁護士
渥美坂井法律事務所・外国法共同事業
野口 祐子 グーグル合同会社 執行役員 法務部長、弁護士
春田 雄一 日本労働組合総連合会 経済政策局長
三好 豊 森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士
渡部 俊也 東京大学政策ビジョン研究センター 教授
敬称略(50 音順・12 名)
にじゅうまる:主査 6I.総説
1.不正競争防止法の位置づけ
不正競争防止法(平成5年法律第 47 号。以下「法」という。
)は、他人の技術開
発、商品開発等の成果を冒用する行為等を不正競争として規定している。
具体的には、ブランド表示の盗用、形態模倣、営業秘密の不正取得等の不正競争
に該当する行為を民事上の差止請求(法第3条)等の対象としており、不法行為法
の特則として位置づけられるものである。
また、不正競争のうち、公益の侵害の程度が著しく、当事者間の民事的請求にの
み委ねることが妥当でない行為については刑事罰の対象とされている。
2.限定提供データに係る不正競争について(平成 30 年改正)
IoT、ビッグデータ、AI等の情報技術が進展する第四次産業革命を背景に、
データは企業の競争力の源泉としての価値を増している。気象データ、地図デー
タ、機械稼働データ、消費動向データなどについては、共有・利活用されて新たな
事業が創出され、我が国経済を牽引し得る高い付加価値が生み出されている。この
ような多種多様なデータがつながることにより新たな付加価値が創出される産業社
会「Connected Industries」の実現に向けては、データの創出、収集、分析、管理
等の投資に見合った適正な対価回収が可能な環境が必要である。
しかし、利活用が期待されるデータは複製が容易であり、いったん不正取得され
ると一気に拡散して投資回収の機会を失ってしまうおそれがあり、データを安心し
て提供するために、これらの行為に対する法的措置の導入を求める声があった。
このような状況を受け、商品として広く提供されるデータや、コンソーシアム内
で共有されるデータなど、事業者等が取引等を通じて第三者に提供するデータを念
頭に、
「限定提供データ(法第2条第7項)
」を定義し、
「限定提供データ」に係る不
正取得、使用、開示行為を不正競争として位置づけた(法第2条第1項第 11 号〜第
16 号)。安全なデータ利用のため、利用者側の萎縮効果も配慮して、
「限定提供データ」に
係る不正競争に関して適用除外とする行為も併せて規定した(法第 19 条第1項第9
号1)。限定提供データの不正取得・使用・開示行為等の不正競争は、民事措置(差止請
求、損害賠償請求)の対象であるが、まだ事例の蓄積も少ない中で、事業者に対し
て過度の萎縮効果を生じさせないよう、刑事罰の対象とはなっていない。
(注記) 本指針は、営業秘密に関する規定の解釈には影響を与えるものではない。
1 令和5年改正前の第 19 条第 1 項第 8 号。 7【限定提供データに係る不正競争】
(1) 限定提供データの定義
第二条
7 この法律において「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報と
して電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識すること
ができない方法をいう。次項において同じ。
)により相当量蓄積され、及び管理さ
れている技術上又は営業上の情報(営業秘密を除く。
)をいう。
(2) 限定提供データに係る不正競争
1不正取得類型
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
十一 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により限定提供データを取得する行為
(以下「限定提供データ不正取得行為」という。
)又は限定提供データ不正取得
行為により取得した限定提供データを使用し、若しくは開示する行為
2著しい信義則違反類型
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
十四 限定提供データを保有する事業者(以下「限定提供データ保有者」とい
う。
)からその限定提供データを示された場合において、不正の利益を得る目的
で、又はその限定提供データ保有者に損害を加える目的で、その限定提供データ
を使用する行為(その限定提供データの管理に係る任務に違反して行うものに限
る。
)又は開示する行為 83転得類型
(取得時悪意の転得類型)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
十二 その限定提供データについて限定提供データ不正取得行為が介在したことを
知って限定提供データを取得し、又はその取得した限定提供データを使用し、若
しくは開示する行為
十五 その限定提供データについて限定提供データ不正開示行為(前号に規定する
場合において同号に規定する目的でその限定提供データを開示する行為をいう。
以下同じ。
)であること若しくはその限定提供データについて限定提供データ不
正開示行為が介在したことを知って限定提供データを取得し、又はその取得した
限定提供データを使用し、若しくは開示する行為
(取得時善意の転得類型)
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
十三 その取得した後にその限定提供データについて限定提供データ不正取得行為
が介在したことを知ってその取得した限定提供データを開示する行為
十六 その取得した後にその限定提供データについて限定提供データ不正開示行為
があったこと又はその限定提供データについて限定提供データ不正開示行為が介
在したことを知ってその取得した限定提供データを開示する行為
(3) 適用除外
(適用除外)
第十九条 第三条から第十五条まで、第二十一条及び第二十二条の規定は、次の各号
に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。
九 第二条第一項第十一号から第十六号までに掲げる不正競争 次のいずれかに掲
げる行為
イ 取引によって限定提供データを取得した者(その取得した時にその限定提供
データについて限定提供データ不正開示行為であること又はその限定提供デー
タについて限定提供データ不正取得行為若しくは限定提供データ不正開示行為
が介在したことを知らない者に限る。
)がその取引によって取得した権原の範
囲内においてその限定提供データを開示する行為
ロ その相当量蓄積されている情報が無償で公衆に利用可能となっている情報と
同一の限定提供データを取得し、又はその取得した限定提供データを使用し、
若しくは開示する行為 9II.限定提供データについて
第二条
7 この法律において「限定提供データ」とは、業として特定の者に提供する情報として
電磁的方法(電子的方法、磁気的方法その他人の知覚によっては認識することができな
い方法をいう。次項において同じ。
)により相当量蓄積され、及び管理されている技術
上又は営業上の情報(営業秘密を除く。
)をいう。
(注記)各要件の該当性は、問題となる不正競争が行われた又は行われる時点で判断される。1.「業として特定の者に提供する」
(限定提供性)について
「限定提供データ」は、ビッグデータ等を念頭に、商品として広く提供される
データや、コンソーシアム内で共有されるデータなど、事業者等が取引等を通じ
て特定の者に提供する情報を想定している。
このため、本要件の趣旨は、一定の条件の下で相手方を特定して提供されるデ
ータを保護対象とすることにある。
よって、相手方を特定・限定せずに無償で広く提供されているデータは対象と
ならない(6.において詳述)。(1) 「業として」について
「業として」とは、ある者の行為が、社会通念上、事業の遂行・一環として行
われているといえる程度のものである場合をいう。反復継続的に行われる事業の
一環としてデータを提供している場合、又はまだ実際には提供していない場合で
あっても、データ保有者にそのような事業の一環としてデータを提供する意思が
認められるものであれば、本要件に該当する。事業として提供している場合は基
本的には本要件に該当するものと考えられ、本要件を満たすために、特定のデー
タを反復継続的に提供していることを求めるものではない。
<原則として「業として」に該当すると考えられる具体例>
➢ データ保有者が繰り返しデータ提供を行っている場合
(各人に1回ずつ複数者に提供している場合や、顧客ごとにカスタ
マイズして提供している場合も含む。)➢ データ保有者が翌月からデータ販売を開始する旨をホームページ等で
公表している場合
➢ コンソーシアム内でデータ保有者が、コンソーシアムメンバーに提供
している場合
無償で提供する場合や個人が提供する場合であっても、反復継続的に行われ 10ている行為が、社会通念上、事業の遂行・一環として行われているといえる程度
のものであれば、
「業として」の要件に該当し得る。ただし、差止請求(法第3
条)及び損害賠償請求(法第4条)の請求権者である「営業上の利益を侵害され
た者」や「侵害されるおそれがある者」に該当しない場合もある。
(2) 「特定の者に提供する」について
「特定の者」とは、一定の条件の下でデータ提供を受ける者を指す。特定され
ていれば、実際にデータ提供を受けている者の数の多寡に関係なく本要件を満た
す。
<原則として「特定の者」に該当すると考えられる具体例>
➢ 会費を払えば誰でも提供を受けられるデータについて、会費を払って提
供を受ける者
➢ 資格を満たした者のみが参加する、データを共有するコンソーシアムに
参加する者
「提供する」とは、データを特定の者が利用し得る状態に置くことをいい、前
述のとおり、実際に提供をしている場合だけではなく、提供する意思が認められ
る場合にも、本要件を満たす。
<原則として「提供する」に該当すると考えられる具体例>
➢ 大量に蓄積しているデータについて、各顧客の求めに応じ、顧客毎に一
部のデータを提供している場合には、大量に蓄積しているデータ全体に
ついて、本要件を満たすと考えられる。
➢ クラウド上で保有しているデータについて、顧客が当該クラウドにアク
セスすることを認める場合。2.「電磁的方法・・・により相当量蓄積され」
(相当蓄積性)について
相当蓄積性の要件の趣旨は、ビッグデータ等を念頭に、有用性を有する程度に
蓄積している電子データを保護対象とすることにある。なお、
「電磁的方法」の要
件は、対象とする電子データの特性に鑑み、規定されたものである。
(1) 「相当量」について
「限定提供データ」は業として提供されるデータであり、
「相当量」は、個々
のデータの性質に応じて判断されることとなるが、社会通念上、電磁的方法によ
り蓄積されることによって価値を有するものが該当する。その判断に当たって
は、当該データが電磁的方法により蓄積されることで生み出される付加価値、利
活用の可能性、取引価格、データの創出・収集・解析・管理に当たって投じられ 11た労力・時間・費用等が勘案されるものと考えられる。
なお、保有者が管理しているデータの一部が提供されることがあり得るが、そ
の一部について、蓄積されることで生み出される付加価値、利活用の可能性、取
引価格、データの創出・収集・解析・管理に当たって投じられた労力・時間・費
用等を勘案し、それにより当該一部について蓄積され、価値が生じている場合
は、相当蓄積性があるものと判断される。
<原則として「相当蓄積性」を満たすと考えられる具体例>
➢ 携帯電話の位置情報を全国エリアで蓄積している事業者が、特定エリア
(例:霞ヶ関エリア)単位で抽出し販売している場合、その特定エリア
分のデータについても、電磁的方法により蓄積されていることによって
取引上の価値を有していると考えられるデータ
➢ 自動車の走行履歴に基づいて作られるデータベースについて、実際は当
該データベースを全体として提供しており、そのうちの一部を抽出して
提供することはしていない場合であっても、電磁的方法により蓄積され
ることによって価値が生じている一部分のデータ
➢ 大量に蓄積している過去の気象データから、労力・時間・費用等を投じ
て台風に関するデータを抽出・解析することで、特定地域の台風に関す
る傾向をまとめたデータ
➢ 分析・解析に労力・時間・費用等を投じて作成した、特定のプログラム
を実行させるために必要なデータの集合物3.「電磁的方法により・・・管理され」
(電磁的管理性)について
電磁的管理性要件の趣旨は、法第2条第7項において「特定の者に提供する情
報として電磁的方法により・・・管理され」と規定しているとおり、データ保有
者がデータを提供する際に、特定の者に対して提供するものとして管理する意思
が、外部に対して明確化されることによって、特定の者以外の第三者の予見可能
性や、経済活動の安定性を確保することにある。
(1) 電磁的管理性について
電磁的管理性が満たされるためには、データ提供時に施されている管理措置に
よって、当該データが特定の者に対してのみ提供するものとして管理するという
保有者の意思を第三者が認識できるようにされている必要がある。電磁的管理性
が満たされるか否かは、データ提供時に施されている管理措置によって判断され
るため、社内でのデータの取扱いに際して電磁的管理がなされていなかったとし
ても、同要件が直ちに否定されることはない。なお、実際にデータの提供を開始
していなくても、提供する意思が認められれば、
「提供」要件を満たし、限定提
供データに該当する場合も考えられる。この場合は、客観的に見て、実際に提供 12する際に、電磁的管理を予定しているといえる場合に、本要件を満たすと考えら
れる。
管理措置の具体的な内容・管理の程度は、企業の規模・業態、データの性質や
その他の事情によって異なるが、第三者が一般的にかつ容易に認識できる管理で
ある必要がある。
電磁的管理性要件の趣旨は、前述のとおり、第三者の予見可能性の確保にある
ところ、電磁的管理と認められるためには、当該データ専用の管理がなされてお
り、当該データについて特定の者に対して提供するものとして管理する意思が第
三者から認識できるものである必要がある。
(注記) なお、
「当該データ専用の管理」とは、限定提供データのみのための管理を求める趣
旨ではなく、例えば、
「限定提供データ」と「その他データ」が同一のID・パスワー
ドで管理されている場合であっても、必ずしも、本要件が否定されるものではない。
対応する措置としては、データ保有者と、当該保有者から提供を受けた者(特
定の者)以外の者がデータにアクセスできないようにする措置、つまりアクセス
を制限する技術が施されていることが必要である。
アクセス制限は、通常、ユーザーの認証により行われ、構成要素として、I
D・パスワード(Something You Know)
、ICカード・特定の端末機器・トーク
ン(Something You Have)
、生体情報(Something You Are)などが用いられる
(データを暗号化する場合は、暗号化されたデータがユーザーの認証を行った後
に復号されるというように、特定の者のみがアクセスできる措置として講じられ
ている場合がこれに該当する)
。また、専用回線による伝送も同様にアクセスを
制限する技術に該当するものと考えられる。
1認証に関する技術
下記の認証に関する技術を単独若しくは複数組み合わせて使用することや、
認証に関する技術に暗号化に関する技術を組み合せて使用することが考えられ
る。
<「認証に関する技術」の具体例>
➢ ID・パスワード、ICカード、トークン、生体認証(顔、指紋、静
脈、虹彩、声紋など)
、電子証明書、IPアドレス2
➢ アクティベーション方式(アンロック方式を含む)による制御
<認証技術とともに使用される「暗号化に関する技術」の具体例>
2 コンピュータをネットワークで接続するために、それぞれのコンピュータに割り振られた一意
の数字の組み合わせのこと。
(総務省「国民のためのサイバーセキュリティサイト」
(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/kokumin/index.html)) 13
➢ データに対する暗号化、通信に対する暗号化、ウェブサイトや電子メ
ール通信に対する暗号化
➢ 契約者以外の者による画像の視聴を不可としている暗号化
<原則として「電磁的管理性」を満たすと考えられる具体例>
➢ ID・パスワードを用いたユーザー認証によるアクセス制限
➢ ID・パスワード and/or 指紋認証 and/or 顔認証等の複数の認証技術
を用いたユーザー認証によるアクセス制限
➢ データを暗号化した上で、顔認証技術を用いたユーザー認証によって
アクセスを制限する方法
➢ VPN3を使用し、ID・パスワードによるユーザー認証によってアク
セスを制限する方法
➢ 初期にID・パスワード設定によるアクセス制限が行われたうえ、以
後はセンサー間でリアルタイムにデータの授受が行われる場合
2専用回線
アクセスを制限する技術としては、特定の者以外の第三者の干渉を遮断した
専用回線を用いることも想定される。
3電磁的管理性を満たさない場合
複製ができないような措置がなされているがアクセス制御はされていない場
合は、電磁的管理性は満たさないと考えられる。
<原則として「電磁的管理性」を満たさないと考えられる具体例>
➢ DVDで提供されているデータについて、当該データの閲覧はできる
が、コピーができないような措置が施されている場合
当該データ専用の管理がなされていない場合には、電磁的管理性を満たさな
いと考えられる。
<原則として「電磁的管理性」を満たさないと考えられる具体例>
➢ データの提供を希望する者が当該データを受け取るためには、他の作
業をなすこともある部屋に設置されたPCに物理的にアクセスする必
要がある場合に、データ自体には電磁的な管理がされておらず、当該
部屋への出入りのみを電磁的に管理している場合
3 VPN(Virtual Private Network)
:仮想的な専用ネットワークのこと。一般の公衆回線をあ
たかも専用線として利用する方法として考案された。認証技術や暗号化技術により安全性を保つ
工夫がされている。 144.
「技術上又は営業上の情報」について
法第2条第7項の保護の対象は、
「技術上又は営業上の情報」と規定している。
(1) 「技術上又は営業上の情報」の考え方
「技術上又は営業上の情報」には、利活用されている(又は利活用が期待され
る)情報が広く該当する。具体的には、
「技術上の情報」として、地図データ
((注記))
、機械の稼働データ、AI技術4を利用したソフトウェアの開発(学習)用の
データセット(学習用データセット)5や当該学習から得られる学習済みモデル6
等の情報が、
「営業上の情報」として、消費動向データ、市場調査データ等の情
報があげられる。
(注記) 本指針中における「データ」には、テキスト、画像、音声、映像等が含まれる。
一方、違法な情報や、これと同視し得る公序良俗に反する有害な情報について
は、不正競争防止法上明示されてはいないが、法の目的(
「事業者間の公正な競
争の確保」、「国民経済の健全な発展への寄与」
)を踏まえれば、保護の対象とな
る技術上又は営業上の情報には該当しないものと考えられる。
さらに、差止請求(法第3条)及び損害賠償請求(法第4条)の請求権者は、
「営業上の利益を侵害された者」や「侵害されるおそれがある者」とされている
ことから、公序良俗に反する情報等を提供する者は、不正競争防止法の法目的に
照らし、営業上の利益を侵害された者や侵害されるおそれがある者には該当しな
い。
<原則として違法又は公序良俗に反する情報に該当すると考えられる具体例>
➢ 児童ポルノ画像データ
➢ 麻薬等、違法薬物の販売広告のデータ
➢ 名誉毀損罪に相当する内容のデータ 等
4 「AI・データの利用に関する契約ガイドライン-AI編-(平成30年6月)」(以下「AI
ガイドライン」という。)(https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/connected_industries/sharing_and_utilizat
ion/20180615001-3.pdf)と同様に、本指針における「AI技術」は、機械学習、またはそれに
関連する一連のソフトウェア技術のいずれかを意味するものとする。なお、AIガイドラインで
は、
「機械学習」は、
「あるデータの中から一定の規則を発見し、その規則に基づいて未知のデー
タに対する推測・予測等を実現する学習手法の一つである。
」と説明されている。
5 生データに対して、欠測値や外れ値の除去等の前処理や、ラベル情報(正解データ)等の別個
のデータの付加等、あるいはこれらを組み合わせて、変換・加工処理を施すことによって、対象
とする学習の手法による解析を容易にするために生成された二次的な加工データをいう(AIガ
イドラインより)。6 学習済みパラメータ(学習用データセットを用いた学習の結果、得られたパラメータ(係数)
をいう)が組み込まれた「推論プログラム」をいう(AIガイドラインより)。 155.「営業秘密を除く」について
「営業秘密」に係る規律は、事業者が秘密として管理する情報の不正利用から
の保護を目的とする一方、
「限定提供データ」に係る規律は、一定の条件を満たす
特定の者に提供する情報の不正利用からの保護を目的とする規律である。
本規定の趣旨は、このような「営業秘密」と「限定提供データ」の違いに着目
し、両者の重複を避けるため、
「営業秘密」を「限定提供データ」から除外するこ
とにある。限定提供データの保護対象について、平成 30 年の制度創設時点では、
「秘密として管理されているものを除く」とされていたが、事業者における情報
の管理実態等を踏まえて、令和5年の法改正において事業者による情報の保護と
利活用をさらに前進させるための措置として、
「営業秘密を除く」に拡充された。
もっとも、この趣旨は、法適用の場面において、2つの制度による保護が重複し
て及ばないことを意味するにすぎず、実務上は、両制度による保護の可能性を見
据えた管理を行うことは否定されない。したがって、事業活動における有用な情
報を保有する事業者において、両制度による保護の可能性を見据えた管理を行う
ことが期待される。
「営業秘密」とは、
「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事
業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」
をいう(法第2条第6項)。なお、経済産業省では、本法の「営業秘密」の定義等について、一つの考え方
を示すものとして「営業秘密管理指針7」を策定(平成 27 年1月に全部改訂し、平
成 31 年1月に一部改訂を行っている。
)しているので適宜参照されたい。
6.適用除外の対象となる「無償で公衆に利用可能となっている情報(オープンな
データ)と同一」の情報について(法第 19 条第1項第9号ロ)
(適用除外)
第十九条 第三条から第十五条まで、第二十一条及び第二十二条の規定は、次の各号に
掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為については、適用しない。
九 第二条第一項第十一号から第十六号までに掲げる不正競争 次のいずれかに掲げ
る行為
ロ その相当量蓄積されている情報が無償で公衆に利用可能となっている情報と同
一の限定提供データを取得し、又はその取得した限定提供データを使用し、若し
くは開示する行為
相手を特定・限定せずに無償で広く提供されているデータ(以下「オープンな
データ」という。
)は、誰でも使うことができるものであるため、このようなデー
タと同一の「限定提供データ」を取得し、又はその取得したデータを使用し、若
7 「営業秘密管理指針」
(https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/guideline/h31ts.pdf) 16しくは開示する行為については、法第3条等の適用除外としている。
(1) 「無償で公衆に利用可能となっている情報」について
「無償」とは、データの提供を受けるにあたり、金銭の支払いが必要ない(無
料である)場合を想定しているが、金銭の支払いが不要であっても、データの提
供を受ける見返りとして自らが保有するデータを提供することが求められる場合
や、そのデータが付随する製品を購入した者に限定してデータが提供される場合
等、データの経済価値に対する何らかの反対給付が求められる場合には、
「無
償」には該当しないものと考えられる。
<原則として「無償」に該当すると考えられる具体例>
➢ データ提供の際に、金銭の授受はないが、ライセンス条項において、
「提供を受けたデータを引用する際には、出典を示すこと」が条件とさ
れている場合
➢ データ提供の際に、データ自体に関して金銭の支払いは求められない
が、データを保存するCDの実費やその送料等の実費の支払いが求めら
れる場合
➢ 誰でも無償でアクセスでき、運営者が広告による収入を得ているインタ
ーネット上のデータ
また、
「公衆に利用可能」とは、不特定かつ多数の者が、当該データにアクセ
スできることを指す。例えば、誰でも自由にホームページ上に掲載された当該デ
ータにアクセスできる場合等がこれに当たる。
上記のとおり、
「無償で公衆に利用可能となっている情報」には、全くの無条
件で利用可能となっているものに限らず、利用において一定の義務(例えば、出
典の明示等)は課されるものの、不特定かつ多数の者が当該データにアクセスで
きる場合も、これに当たる。
<原則として「無償で公衆に利用可能となっている情報」に該当すると考えら
れる具体例>
下表の網掛け部分が「無償で公衆に利用可能な情報」に該当する。
外部に提供する情報の
うち、
有償 無償
公衆に利用可能でない
(特定の者しかアクセ
スできない)
・提携企業と共有する顧
客名簿
・船舶データを共有する
コンソーシアム内で有
料提供されるデータ
・有料会員向け自動走行
用地図データ
・業界団体内において、その会員であれば利用で
きるデータ
・専用アドレスを知って
いる者しか閲覧できな
いファイル共有サイト
にアップされている画
像データ 17・有料会員向け裁判判決
例データ
・有料会員専用ニュース
サイトで共有される記事・自らが保存するデータ
を提供することを条件
に参加が認められるコ
ンソーシアムで提供さ
れるデータ
・カーナビを購入したユ
ーザーにのみ追加提供
される地図更新データ
・登録無料の就職活動情
報サイトにおける求人
情報
公衆に利用可能(誰で
もアクセスできる)
・CD-ROMで市販さ
れている産業調査の報
告データ
(データについ
てID・パスワード等に
よるユーザー認証技術
が施されていない。)・政府提供の統計データ
・地図会社の提供する避
難所データ
・インターネット上で自
由に閲覧可能である一
方で、引用する場合に
は、
出典を明示すること
が求められているデータ・要望があれば誰でも提
供を受けられるデータ
であり、
データの送料等
の実費の支払いは必要
だが、
データ自体につい
て金銭の支払いは求め
られないデータ
・インターネット上で誰
でも無償で閲覧可能で
あり、
運営者は、
広告に
よる収入を得ているデ
ータ
・インターネット上で自
由に閲覧・利用可能であ
る一方で、
利用後の成果
も公衆への利用を可能
とすることが求められ
ている学習用データ
(2) 「同一」について
「同一」とは、そのデータが「オープンなデータ」と実質的に同一であること
を意味する。
例えば、
「オープンなデータ」の並びを単純かつ機械的に変更しただけの場合
は、実質的に同一であると考えられる。
なお、
「限定提供データ」の一部が「無償で公衆に利用可能となっている情
報」と実質的に同一である場合は、当該一部が適用除外の対象となる。 18<原則として「同一」と考えられる具体例>
想定するオープンなデータ:政府が提供する統計データ
➢ 統計データの全部について、何ら加工することなく、そのまま提供し
ている場合
➢ 統計データの一部又は全部を単純かつ機械的に並び替え(例えば、年次
順に並んでいるデータを昇順に並び替えるなど)、あるいは、
統計データ
の一部を単純かつ機械的に切り出し(例えば、平成 22 年以降のデータ
のみを抽出するなど)提供している場合
➢ 統計データと政府がホームページで提供する他のオープンなデータを
単純かつ機械的に組み合わせて(例えば、平成 29 年のGDP成長率と
平成 30 年のGDP成長率のデータを時系列で繋げるなど)提供してい
る場合
「オープンなデータ」が、紙媒体によってのみ、無償で公衆に利用可能となっ
ている場合であっても、これと同一の電子データであれば、
「無償で公衆に利用
可能となっている情報と同一の限定提供データ」に該当する。 19III.
「不正競争」の対象となる行為について(総論)
「限定提供データ」に係る行為については、限定提供データ保有者と利用者の保
護のバランスに配慮し、全体としてデータの流通や利活用が促進されるよう、限定
提供データ保有者の利益を直接的に侵害する行為等の悪質性の高い行為を「不正競
争」として規定している(法第2条第1項第 11 号〜第 16 号)
。これらの「不正競
争」においては、
「取得」、「使用」又は「開示」という行為が規定されている。
1.各行為(
「取得」、「使用」、「開示」
)の対象について
法第2条第1項第 11 号ないし第 16 号では、
「限定提供データ」を「取得」、「使
用」又は「開示」する行為のうち「不正競争」となる行為が規定されており、こ
れらの行為の対象は「限定提供データ」であることが必要である。
「限定提供デー
タ」は、
「業として特定の者に提供する情報として電磁的方法(中略)により相当
量蓄積され、及び管理されている」情報である(法第2条第7項)と規定されて
いることから、
「取得」、「使用」、「開示」の対象は、限定提供データ保有者が提供
している「限定提供データ」の全部、又は相当蓄積性を満たす一部(当該一部に
ついて、蓄積されることで生み出される付加価値、利活用の可能性、取引価格、
データの創出・収集・解析・管理に当たって投じられた労力・時間・費用等を勘
案し価値が生じているものと判断される場合)であることが必要である。
なお、
「相当量蓄積」していない一部を、連続的又は断続的に取得等した結果、
全体として相当量を取得等する場合には、一連の行為が一体として評価され「不
正競争」に該当する場合がある。 20(注記) 無償で公衆に利用可能となっている情報と同一の限定提供データについては、取得・使
用・開示を行っても差止めや損害賠償等の対象とはならない(法第 19 条第1項第9号ロ)。
(注記) 以上につき、II.
「限定提供データについて」を参照。2.「取得」について
「取得」とは、データを自己の管理下に置くことをいい、データが記録されて
いる媒体等を介して自己又は第三者がデータ自体を手に入れる行為や、データの
映っているディスプレイを写真に撮る等、データが記録されている媒体等の移動
を伴わない形で、データを自己又は第三者が手に入れる行為が該当する。
<原則として「取得」に該当すると考えられる具体例>
➢ サーバや媒体に保存されているデータを自分のパソコンやUSBメモリに
コピーする行為
➢ 自己のアカウントに係るクラウド上の領域などでデータを利用できる状態
になっている場合(その場合、自己のパソコンやUSBメモリにダウンロ
ードせずとも「取得」に該当しうる。)➢ 社内サーバに保存されているデータを他の媒体にコピーする行為
➢ データが記録された電子ファイルを添付したメールを他者に依頼して送付
させ、受信する行為(当該ファイルにアクセス制限等はかかっておらず、
メールを開封すればデータの中身が分かることが前提)
、又は当該メール
を第三者に転送し、受信させる行為(第三者に「取得」させる行為)
(注記) なお、データにアクセスできるID・パスワードのみを入手した場合(データそ
のものは入手していない場合)は「取得」には該当しないと判断されるが、
「取
得」の蓋然性が高い場合、すなわち「営業上の利益を...侵害されるおそれ」
(法第
3条)がある場合においては、
「取得」に対する予防的差止請求を行うことができ
る。
➢ データを紙にプリントアウトして持ち出す行為
➢ データを開いたパソコンのディスプレイの写真やビデオを撮影する行為3.「使用」について
「使用」とは、データを用いる行為であるが、具体例としては、データの作
成、分析等に用いる行為が該当するものと考えられる。
<原則として「使用」に該当すると考えられる具体例>
➢ 取得したデータを用いて研究・開発する行為
➢ 取得したデータを用いて物品を製造し、又は、プログラムを作成する行為 21➢ 取得したデータからAI技術8を利用したソフトウェアの開発(学習)用
の学習用データセット9を作成するために分析・解析する行為
➢ 取得したデータをAI技術を利用したソフトウェアの開発に利用する行為
➢ 取得したデータを用いて新たにデータベースを作成するべく、検索しやす
いように分類・並び替えを行う行為
➢ 取得したデータに、データクレンジング10等の加工を施す行為
➢ 取得したデータと、別途収集した自己のデータを合わせ整理して、データ
ベースを作成する行為
➢ 取得したデータを用いて営業(販売)活動を行う行為
(注記) なお、取得したデータをそのまま保存しているだけの段階などであっても、その後に本
法に違反する態様で「使用」したり「開示」したりする蓋然性が高い場合、すなわち「営
業上の利益を...侵害されるおそれ」
(法第3条)がある場合においては、
「使用」や「開
示」に対する予防的差止請求が可能となり、その結果、保存しているデータの削除を求め
られる場合もある。
なお、取得したデータを使用して得られる成果物(データを学習させて生成さ
れた学習済みモデル、データを用いて開発された物品等)がもはや元の限定提供
データとは異なるものと評価される場合には、その使用、譲渡等の行為は不正競
争には該当しない。
ただし成果物が、取得したデータをそのまま含むデータベース等、当該成果物
が取得したデータと実質的に等しい場合や実質的に等しいものを含んでいると評
価される場合には、当該成果物を使用する行為は、取得したデータの「使用」に
該当すると考えられる。4.「開示」について
「開示」とは、データを第三者が知ることができる状態に置くことをいう。実
際に第三者が知ることまでは必要がなく、必ずしも「開示」の相手方が「取得」
に至っていることも必要ではないと考えられる((注記))。(注記) 例えば、誰でも閲覧可能なホームページにデータを掲載した場合にも、開示に該当する
ものと考えられる。
なお、取得したデータを用いて生成されたデータベース等の成果物を開示する
行為は、その成果物が元データと実質的に等しい場合や実質的に等しいものを含
んでいると評価される場合には、元データの「開示」に該当することは「使用」
8 II.4.を参照。
9 II.4.を参照。
10 データのクレンジングとは、表記ゆれの補正等によってデータの整合性や質を高めることを
いう。 22の場合と同様である。
<原則として「開示」に該当すると考えられる具体例>
➢ データを記録した媒体(紙媒体を含む)を第三者に手渡す行為
➢ 第三者がアクセス可能なホームページ上にデータを掲載する行為
➢ データが記録された電子ファイルを第三者にメールで送付する行為(メー
ルが開封されるか否かは問わない)
➢ 取得したエクセル形式のデータをPDFに変換して保存しているサーバに
おいて、当該データへの第三者へのアクセス権を設定する行為
➢ データをサーバに保存した上で、当該サーバにアクセスするためのパスワ
ードをそのサーバの所在とともに第三者に書面又は口頭で教示する行為
➢ 大量のデータをタブレットやスマートフォン等のディスプレイやスクリー
ン上に表示させ、それを第三者に閲覧させる行為
なお、取得したデータを使用して得られる成果物(データを学習させて生成さ
れた学習済みモデル、データを用いて開発された物品等)がもはや元の限定提供
データとは異なるものと評価される場合には、その譲渡等の行為は不正競争には
該当しない。 23IV.不正取得類型について
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
十一 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により限定提供データを取得する行為(以
下「限定提供データ不正取得行為」という。
)又は限定提供データ不正取得行為によ
り取得した限定提供データを使用し、若しくは開示する行為
「不正競争」となる行為のうち、法第2条第1項第 11 号は「限定提供データ」の
不正取得に関する類型(以下「不正取得類型」という。
)について規定している。こ
の不正取得類型は、特に悪質性の高い手段(
「窃取、詐欺、強迫その他の不正の手
段」
)による「限定提供データ」の取得等の行為を規律するものである。1.「窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段」について
「窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段」のうち、
「窃取」、「詐欺」、「強迫」
は、不正の手段の例示として挙げたものであり、
「その他の不正の手段」とは、窃
盗罪や詐欺罪等の刑罰法規に該当するような行為のみならず、社会通念上、これ
と同等の違法性を有すると判断される公序良俗に反する手段を用いる場合も含ま
れると考えられる。
すなわち、この「その他の不正の手段」としては、不正アクセス行為の禁止等
に関する法律(以下「不正アクセス禁止法」という。
)に違反する行為、刑法上の
不正指令電磁的記録を用いる行為等の法令違反の行為や、これらの行為に準ずる
公序良俗に反する手段によって、ID・パスワードや暗号化等によるアクセス制
限を施した管理を破ることなどが想定される。 24<原則として「不正」の手段による取得に該当すると考えられる具体例>
➢ データが保存されたUSBメモリを窃取する行為
➢ データ保有者の施設に侵入して、データを紙にプリントアウトして、又
は、自らのUSBメモリにコピーして保存し、持ち去る行為
➢ 正当なデータ受領者を装い、データ保有者に対して、データを自己の管理
するサーバに格納するよう指示するメールを送信し、権原のある者からの
メールであると誤解したデータ保有者に自己のサーバにデータを格納させ
る行為
➢ データ保有者にコンピュータ・ウイルスを送り付けて、同社管理の非公開
のサーバに保存されているデータを抜き取る行為
➢ 他社製品との技術的な相互互換性等を研究する過程で、自社製品の作動を
確認するために当該他社のパソコンにネットワークを介して無断で入り込
んで操作し、パスワードを無効化してデータを取得する行為
➢ データにアクセスする正当な権原があるかのように装い、データのアクセ
スのためのパスワードを無断で入手し、データを取得する行為
(注記) なお、データにアクセスできるID・パスワードのみを入手した場合(データそのもの
は入手していない場合)であって「取得」には該当しないと判断される場合であっても、
「取得」の蓋然性が高く、
「営業上の利益を...侵害されるおそれ」
(法第3条)がある場合
においては、
「取得」に対する予防的差止請求を行うことができる。
2.不正取得類型に該当しないと考えられる事例
例えば他法においてその目的の正当性が認められている場合(著作権法上の権
利制限規定の適用に当たって求められる目的を有している場合など)は(刑法、
不正アクセス禁止法など他の法律に違反するような事情があれば格別、そうでな
い限りは)その正当性を考慮し「窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により限
定提供データを取得する行為」には該当しないと考えられる。
<原則として「その他の不正の手段」による「取得」に該当しないと考えられ
る具体例>
➢ ゲーム機等の修理業者が、ゲーム機や端末の保守・修理・交換の過程でそ
の機器に保存されているプロテクトの施された限定提供データを必要な範
囲でバックアップし、修理等の後にまた元に戻せるように、プロテクトを
(不正アクセス禁止法に抵触しない方法で)解除する行為(ゲーム機の販
売時にプロテクト解除の可否を明示的に定めていないものの、修理業者が
機器の製造者の許諾等を逐一得ていないケース)
➢ 他社製品との技術的な相互互換性等を研究する過程で、市場で購入した当
該他社製品の作動を確認するため、ネットワークにつなぐことなく(不正 25アクセス禁止法に抵触しない方法で)当該製品のプロテクトを解除し、必
要な範囲で限定提供データを取得する行為(製品の販売時にプロテクト解
除の可否を明示的に定めていないものの、相互互換性を取る必要のある企
業全てに承諾を取ることは必ずしも可能ではないケースも想定される)
(注記) なお、電磁的管理を回避するだけで、当該管理のかかったデータを手に入れるわ
けではない場合は、そもそも本号における「取得」には該当しないと考えられる。
(注記) プロテクト解除が明示的に許容されている場合や依頼・承諾に基づいてプロテク
ト解除がなされている場合は、
「限定提供データを示された場合」
(法第2条第1項
第 14 号)のデータの取得に該当する。
➢ 特定者向けに暗号化されたデータが蓄積されているサーバの滅失のおそれ
(ウイルス感染、水没等の危険)が生じ、
(サーバ運営者とデータ保有者
が異なる場合に)サーバ運営者が、データ保有者の事前の承諾なく緊急的
にその暗号鍵を解除し、他のサーバにバックアップを取る行為
➢ ウイルスが混入しているなどデータ自体が有害である可能性が生じた場合
に、その確認及び対策を講じる必要から、データ保有者の許可を得ずに限
定提供データの取得を行う行為
➢ 商品の3D形状に関するデータが限定提供データであるケースにおいて、
そのデータを用いて3Dプリンタで製造した商品が販売されている場合、
その商品を購入した者が3Dスキャナで商品を計測して形状のデータを取
得する行為 26V.著しい信義則違反類型について
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
十四 限定提供データを保有する事業者(以下「限定提供データ保有者」という。)からその限定提供データを示された場合において、不正の利益を得る目的で、又はその
限定提供データ保有者に損害を加える目的で、その限定提供データを使用する行為
(その限定提供データの管理に係る任務に違反して行うものに限る。
)又は開示する
行為
「不正競争」となる行為のうち、法第2条第1項第 14 号は、限定提供データ保有
者が、業務委託先、ライセンシー、コンソーシアムの会員、従業者等に対して限定
提供データを示した場合に、提供を受けた者が不正の利益を得る目的又は保有者に
損害を加える目的(以下「図利加害目的」という。
)で、その限定提供データを保有
者から許されていない態様で使用又は開示する行為は、著しく信義則に違反する悪
質な行為であることから、
「不正競争」と位置づけたものである。
「保有する事業者からその限定提供データを示された」とは、契約に従って限定
提供データを受けるなど不正取得以外の態様で保有者から取得する場合であること
を意味する。
さらに、不正使用行為については、
「その限定提供データの管理に係る任務に違反
して行うものに限る。
」という加重要件を付し、
「不正競争」に該当する場合を限定
している。
つまり、以下「12の要件を満たす使用行為」及び「1の要件を満たす開示行
為」が「不正競争」に該当する。 271不正の利益を得る目的又は保有者に損害を加える目的(図利加害目的)を有する
こと
2限定提供データの管理に係る任務に違反して行う行為であること
1.図利加害目的について
限定提供データ保有者から当該データを示された者(以下「正当取得者」とい
う。
)が、取得したデータを使用又は開示する行為が「不正競争」となるために
は、図利加害目的が備わることが必要である((注記))。図利加害目的は、限定提供データ保有者からライセンス契約や業務委託契約等
に基づき正当に取得したデータを使用又は開示する行為について、適正な行為を
過度に萎縮させることのないよう、単なる契約違反を超えて「不正競争」に該当
する場合を限定する主観的要件である。
したがって、図利加害目的要件の該当性の判断に当たっては、当該使用又は開
示行為が限定提供データ保有者から許されていないことが当事者双方にとって明
らかであって、それを正当取得者が認識していることが前提となる。なお、正当
な目的がある場合には、当該使用又は開示行為が「不正競争」とならないように
解釈されるべきである。
(注記) 正当取得者が使用するにとどまる場合には、さらに「限定提供データの管理に係る任務
に違反して行う」ことも要件とされていることに注意されたい(2.で後述)。(1) 図利加害目的があると判断される場合について
下記(i)及び(ii)の要件を満たす場合、すなわち、保有者から許されてい
ない使用又は開示であることが当事者にとって明らかであり、それを認識してい
るにもかかわらず、自己又は第三者の利益を得る目的又はデータ保有者に損害を
加える目的をもって、取得したデータを使用又は開示する場合は、図利加害目的
があると考えられる。
使用 開示
(i) 契約の内容等から当該態様で使
用してはならない義務が当事者
にとって明らかであり、
契約の内容等から第三者((注記)1)
開示
禁止の義務が当事者にとって明ら
かであり、
それを認識しているにもかかわらず、
(ii) 当該義務に反して、自己又は第三者の利益を得る目的又はデータ保有
者に損害を加える目的をもって、取得したデータを使用又は開示する
行為。((注記)2)
ただし、
(iii)の場合には、図利加害目的は否定されると考えられる。
(iii) 正当な目的がある場合 28(注記)1 開示が禁止される「第三者」の範囲については、子会社・関連会社等が含まれるか
否かを契約上明確化しておくことが望ましい。なお、契約書等においては、
「第三者提
供禁止」等、
「開示」とは異なる用語で規定されている場合もある。
(注記)2 「不正の利益を得る目的(図利目的)
」とは、競争関係にある事業を行う目的のみな
らず、広く公序良俗又は信義則に反する形で不当な利益を図る目的のことをいうとさ
れているので、限定提供データ保有者と競合するサービスを行うことは、図利目的を
肯定する要素となり得るものの、必須の要件とはならないと考えられる。
なお、
「保有者に損害を加える目的(加害目的)
」とは、限定提供データ保有者に対
し、財産上の損害、信用の失墜、その他有形無形の不当な損害を加える目的のことを
指すが、現実に損害が生じることは要しない。
<原則として「図利加害目的」があると判断されると考えられる具体例>
➢ 第三者開示禁止と規定されたライセンス契約に基づいて限定提供データを
取得した者が、
第三者開示禁止であることを認識しつつ、
当該データの相当
蓄積性を充足する一部を自社のサービスに取り込み、顧客に開示する場合
➢ 第三者開示禁止と規定されたライセンス契約に基づいて限定提供データを
取得した者が、
第三者開示禁止であることを認識しつつ、
保有者に損害を加
える目的で当該データをホームページ上に開示する場合
➢ 委託された分析業務のみに使用するという条件で取得した限定提供データ
を、その条件を認識しながら、無断で自社の新製品開発に使用する場合
(2) 図利加害目的がないと判断される場合について
契約上許される行為であると判断される場合には、図利加害目的はないと考え
られる。その上で、契約解釈に争いがあり、裁判等で最終的には契約違反に該当
すると判断される場合であっても、
図利加害目的がないと考えられる場合として、
以下のような類型が挙げられる。
1 「義務の認識」
((1)の表の(i)
)に該当しないと考えられる類型
(a) 目的外使用禁止又は第三者開示禁止の義務の存在が、契約上明らかでな
い場合
(a.1) 使用又は開示が許される範囲について、契約解釈上争いがある場合
使用又は開示が許される範囲が当事者にとって契約上明らかではなく
((注記))
、当該態様での使用又は開示が許されていると考えて使用又は開示を
行った場合には、当該態様が契約で許された範囲を超えていたと認定され
たとしても、原則として図利加害目的ではないと考えられる。
(注記) 保有者としては、このような事態とならないよう、使用や開示が許される範囲に
ついて契約上明記しておくことが望ましい。 29<原則として「図利加害目的ではない」と考えられる具体例>
(注記) 契約書の文言上不明瞭だが、許されていない態様での使用又は開示であると
認定されたことが前提。
➢ 特定のシステム構成で使用する条件で取得した限定提供データ
について、システム更新が頻繁であるとの業界の取引慣行を考
慮し、規定と異なるシステム構成でデータを使用する場合
➢ 第三者開示禁止と規定されたライセンス契約に基づいて限定提供
データを取得した者が、専ら自社のために行わせるのであれば自
己の実施と同視でき許諾の範囲内であると考えて、データ分析・
加工会社にデータを開示し、分析・加工終了後に返還させた場合
(a.2) 契約終了後や契約更新の取扱いについて、
契約解釈上争いがある場合
契約の終了時期、更新の可否や条件等が当事者にとって契約上明らかで
はなく、契約が継続することを予定して従前の使用又は開示を継続してい
た場合には、当該使用又は開示行為の継続中に契約が終了していたと認定
されたとしても、行為者が「不正の利益」を得る目的であったとまでは考え
難く、原則として図利加害目的ではないと考えられる。
<原則として「図利加害目的ではない」と考えられる具体例>
(注記) 契約書の文言上は不明瞭だが、許されていない態様での使用又は開示であ
ると認定されたことが前提。
➢ ライセンス契約上、契約更新の取り扱いが不明確である場合、契
約期間満了後も保有者にロイヤルティの支払いをするつもりで、
限定提供データを使用し続けた場合
➢ 限定提供データ保有者から購入した限定提供データを自社の商品
であるデータベースに既に組み込んで顧客に提供している場合、限
定提供データに係る契約更新の際、取得するデータのグレードを上
げることを希望して保有者と価格交渉を行ったが、交渉が長引いた
ため、契約終了後から契約更新に至るまでの間、顧客に提供して開
示し続けた場合
(a.3) 契約締結交渉中の行為の場合
契約の交渉中であって、当然に契約が成立することが期待される状況下
で事後的に正当化されるという見込みの下で、
もしくは、
黙示的に許されて
いると考えて使用又は開示を行ったところ、
結果的に、
契約が成立しなかっ
たとしても、行為者は最終的には契約の範疇に収まることを予期していた
という点において、原則として図利加害目的ではないと考えられる。 30<原則として「図利加害目的ではない」と考えられる具体例>
(注記) 保有者から許されていない態様での使用又は開示であると認定されたことが
前提。
➢ ライセンスを受けることを検討している段階で、保有者からサン
プルとして取得した限定提供データについて、許諾された使用範
囲だと考えて、自社のビジネスへの活用の可能性判断のために使
用する場合
➢ コンソーシアムのメンバーのみが閲覧できる限定提供データのデ
ータベースを、メンバー外の企業であるがコンソーシアムへの入会
手続を始めた者に対して、入会が見込まれるから問題ないと考えて
開示する場合
(b) 義務の認識を欠く場合
行為者が目的外使用禁止や第三者開示禁止の義務を認識していない場合に
は、契約違反として債務不履行責任が問われる可能性はあるとしても、図利
加害目的はないと考えられる。
ただし、
組織のなかで、
限定提供データを実際
に使用又は開示する従業員等が当該義務についての認識を欠いていたとして
も、使用又は開示の可能な範囲を指示した責任者等に認識がある場合には、
当該責任者等が当該義務を認識した上で使用又は開示を行ったものと評価さ
れ、図利加害目的が肯定されることがありうる。
<原則として「図利加害目的ではない」と考えられる具体例>
(注記) 契約上許されていない態様での使用又は開示であると認定されたことが前提。
➢ ライセンス契約上、使用目的、第三者開示禁止等の取扱いが明記され
て取得した限定提供データにつき、社内の従業員が、そのことの認識
を欠いたまま取引先に開示する行為
2 「義務に反して、
自己又は第三者の利益を得る目的又はデータ保有者に損害
を加える目的」
((1)の表の(ii)
)に該当しないと考えられる類型
(a) 過失によって違反する場合
行為者が目的外使用禁止や第三者開示禁止の義務を認識している場合であ
っても、過失により契約で許された範囲を超えて当該データを使用又は開示
する行為については、契約違反として債務不履行責任は問われる可能性があ
るとしても、図利加害目的ではないと考えられる。
<原則として「図利加害目的ではない」と考えられる具体例>
(注記) 契約上許されていない態様での使用又は開示であると認定されたことが前提。 31➢ AI技術を利用したソフトウェアAの開発に利用させる目的のみ
で使用が許されていた限定提供データについて、そのことを認識
していたにも関わらず、別のソフトウェアBをAと誤認し、Bの
学習用にデータを使用する場合
➢ 第三者開示禁止と規定されたライセンス契約に基づいて限定提供
データを取得した社の従業員が、そのことを認識していたにも関
わらず、事務処理上のミスにより他社に開示してしまう場合
➢ 第三者開示禁止と規定されたライセンス契約に基づいて取得した限
定提供データが、外部から自社サーバへの不正アクセス行為等によ
り漏洩し、第三者に開示する結果となった場合
(b) 限定提供データ保有者のために行う場合
限定提供データ保有者の利益を図るために行う行為であり、民法上も事務
管理(民法第 697 条)として一定の限度で保護を与えているような行為であ
れば、契約を認識しかつそれに反している場合であっても、あえて不正競争
防止法に違反するとまで扱う必要はなく、図利加害目的はないと考えられ
る。
<原則として「図利加害目的ではない」と考えられる具体例>
(注記) 契約上許されていない態様での使用又は開示であると認定されたことが前提。
➢ 委託契約上、第三者への開示が禁止されている限定提供データに
ついて、データ保管の安全性を図るため、当該安全な保管を実施
し得る第三者に預ける場合
➢ 限定提供データ保有者のために加工することを目的として取得した
限定提供データについて、その加工方法が委託契約に規定されてい
るにもかかわらず、契約上決められた方法以外の明らかに効率的な
方法を用いて、限定提供データ保有者のため迅速に加工を行う場合
(c) その他やむを得ないと考えられる場合
限定提供データ保有者と連絡が取れないなど、限定提供データ保有者側に
帰責事由があると認められるような場合において、やむを得ず使用又は開示
を続ける場合には、図利加害目的ではないと考えられる。
<原則として「図利加害目的ではない」と考えられる具体例>
(注記) 契約上許されていない態様での使用又は開示であると認定されたことが前提。
➢ 契約期間満了後、限定提供データ保有者への契約更新の申し入れを
内容証明郵便で送付したにも関わらず、限定提供データ保有者から
の返答が1か月経ってもない場合、事業中断ができないため、取得 32した限定提供データ使用してAI技術を利用したソフトウェアの開
発に利用続ける場合
3 「正当な目的がある場合」
((1)の表の(iii)
)に該当すると考えられる類型
データの保護を目的に緊急的に行われる行為に該当する場合、法令に基づく
場合、犯罪の存否の確認や訴追に必要なものとして提出が求められる場合、そ
の他保有者の保護すべき利益を上回る公益上の理由が認められる場合に、必要
な限度で提供するときには、図利加害目的ではないと考えられる。
<原則として「図利加害目的ではない」と考えられる具体例>
(注記) 契約上許されていない態様での使用又は開示であると認定されたことが前提。
(a) データの保護のために緊急の必要性がある場合
➢ データ保管設備を緊急でメンテナンスする必要が生じたが、自社内
では他のデータ保管設備を有していなかったため、開示が許されて
いない子会社に一時保管目的で限定提供データを開示する場合
➢ ウイルス感染した限定提供データを、第三者への開示が禁止されて
いるが、感染拡散を防止する目的で、感染診断・除染会社等の専門
業者である第三者に開示する場合
(b) 法令に基づく場合
➢ 裁判官の発する令状に基づく捜査に対応するため限定提供データを
開示する場合
➢ 法令に基づく調査に対応するため限定提供データを開示する場合
➢ 法令に基づく通報のために限定提供データを開示する場合
(c) 人命保護その他の公益上の理由等がある場合
➢ 災害時の避難誘導の目的で、交通情報データを開示が許されていな
い自治体に開示する場合
➢ 人命保護の目的で、商業施設における人流データを開示の許されてい
ない第三者に開示する場合2.「限定提供データの管理に係る任務に違反して行う」行為について
正当取得者が、取得したデータを使用するにとどまる場合には(つまり、開示し
ない場合には)、それが
「不正競争」
とされるためには、
前述した図利加害目的(1)に加えて「限定提供データの管理に係る任務に違反して行う」こと(2)も必要と
されている。 33本類型においては、データの取得自体は正当に行われているため、データの流通
を確保する観点から、取得者の事業活動への萎縮効果が及ばないよう配慮する必要
性が高い。そこで、単なる契約違反を超えて「不正競争」とする行為を謙抑的に規
定するため、横領・背任に相当する悪質性の高い行為に限る趣旨で本要件を規定し
たものである。
(1) 「限定提供データの管理に係る任務」があると判断される場合
「限定提供データの管理に係る任務」があると判断されるためには、この要件
が図利加害目的(1)とは別に加重要件とされていることに鑑みれば、単なるデ
ータに関する契約に止まらず、限定提供データ保有者のためにする任務があると
認められることが必要となる。
具体的には、
「管理に係る任務がある」とは、当事者間で保有者のためにする
という委託信任関係がある場合をいい、その有無は実態等を考慮して評価され
る。
例えば、限定提供データ保有者のためにデータの加工を請け負う場合などは委
託信任関係があり、新商品開発などの目的で専らデータ取得者のためにデータを
購入した場合などは委託信任関係がないと考えられる。
なお、限定提供データ保有者のためにする目的と同時に、正当取得者自身のた
めにする目的が併存する場合であっても、保有者のためにする行為であると評価
されれば、
「限定提供データの管理に係る任務」が存在する。
また、
「限定提供データの管理に係る任務」は契約ごとではなく、対象となる
データごとに判断され、あるデータについて限定提供データ保有者のためにする
行為であると評価されれば、他に限定提供データ保有者のために管理していない
データを扱っていたとしても、当該データに関しては「限定提供データの管理に
係る任務」が否定されることはないと考えられる。
<各種契約における「限定提供データの管理に係る任務」の有無の具体例>
「限定提供データ」の提供に係る契約には、以下のようなものが想定さ
れ、その契約の内容によって「限定提供データの管理に係る任務」の有無が
判断されることとなる。本設例においては、図利加害目的で、契約上許され
ていない態様での使用を行っていることが前提となっている。
なお、契約の名称だけで「限定提供データの管理に係る任務」の有無が判
断されるものではない。
また、誰がデータ保有者となるかについては、不正行為の対象とされたデ
ータの管理にかかる具体的ビジネスモデル等によって事案ごとに決まる。 34契約の
種類の例
「限定提供データの管理に係る
任務」
があると考えられる例(「限
定提供データ保有者のためにす
る」行為が認められる場合)
「限定提供データの管理に係る
任務」がないと考えられる例
委託契約 限定提供データ保有者からの委
託を受けて、
限定提供データを用
いて分析を行う場合
(データの分析を委託されてい
るために、
委託者のためにデータ
管理につき善管注意義務が発生
する点で、
「限定提供データの管
理に係る任務」
があると認められ
る例)―(限定提供データに関する委託
契約においては、
通例、
受託者が
委託者のために業務を行うとい
う信任関係が存在すると考えら
れるから、その場合、
「限定提供
データの管理に係る任務」があ
ると認められない例を想定しに
くい)
フランチ
ャイズ契約フランチャイズ契約に基づいて、
フランチャイジーであるととも
にサブ・フランチャイザーでもあ
るフランチャイズ支部が、
フラン
チャイズ本部から取得したデー
タを使用して、
自己のフランチャ
イズ事業に使用している場合
(単なるフランチャイジーとし
てではなく、
フランチャイズ本部
のために自らのフランチャイジ
ーを管理していることから
「限定
提供データの管理に係る任務」があると認められる例)
フランチャイズ契約に基づい
て、フランチャイジーがフラン
チャイザーから取得したデータ
を、フランチャイズ事業に使用
している場合
(単なるフランチャイジーとし
ての地位を越えて、特にフライ
チャイザーのために管理すると
いうことを示すような事情がな
ければ「限定提供データの管理
に係る任務」があるとは認めら
れないという例)
コンソー
シアム契約特定の共同プロジェクトの実施
を目的に組織したコンソーシア
ムで共同で利用しているデータ
について、
当該プロジェクト推進
の目的で使用している場合
(自らのためだけではなく、
コン
ソーシアムを構成する他者のた
めにも使用している点で、
「限定
提供データの管理に係る任務」があると認められる例)
業界団体加盟企業に対して提供
されているデータを、加盟企業
が自身のためにのみ使用してい
るに過ぎない場合
(会員自らのためだけに使用し
ているため、
「限定提供データの
管理に係る任務」があるとは認
められない例) 35ライセン
ス 契 約
(利用許諾)機器ユーザー
(データ保有者=ラ
イセンサー)
が自己の機器の稼働
データを機器メーカー
(データ取
得者=ライセンシー)
にライセン
スしている場合において、
機器メ
ーカーはこの稼働データを自ら
の機器のバージョンアップのた
めに用いることが認められてい
るものの、
機器ユーザーの当該機
器のメンテナンスのために用い
る義務を負っている場合
(データ取得者(機器メーカー)
の業務での使用が認められてい
たとしても、データ保有者(機器
ユーザー)
のメンテナンスのため
に使用することが義務づけられ
ている点で、
「限定提供データの
管理に係る任務」
があると認めら
れる例。)機器ユーザー(データ保有者=
ライセンサー)が自己の機器の
稼働データを機器メーカー(デ
ータ取得者=ライセンシー)に
ライセンスしている場合におい
て、機器メーカーはこの稼働デ
ータを自らの機器のバージョン
アップのために用いるに過ぎな
い場合
(単なるライセンシーとしての
地位を越えて、特にライセンサ
ーのために管理するということ
を示す事情がないため、
「限定提
供データの管理に係る任務」が
あるとは認められない例。もっ
とも、ライセンシーがデータを
利用する過程で取得する情報を
ライセンサーにフィードバック
する義務を負っている等の場合
には、
「限定提供データの管理に
係る任務」が認められる場合が
ある。) 36
VI.転得類型について
【取得時悪意の転得類型】
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
十一 窃取、詐欺、強迫その他の不正の手段により限定提供データを取得
する行為(以下「限定提供データ不正取得行為」という。
)又は限定提供
データ不正取得行為により取得した限定提供データを使用し、若しくは
開示する行為
十二 その限定提供データについて限定提供データ不正取得行為が介在し
たことを知って限定提供データを取得し、又はその取得した限定提供デ
ータを使用し、若しくは開示する行為
十四 限定提供データを保有する事業者(以下「限定提供データ保有者」
という。
)からその限定提供データを示された場合において、不正の利益
を得る目的で、又はその限定提供データ保有者に損害を加える目的で、
その限定提供データを使用する行為(その限定提供データの管理に係る
任務に違反して行うものに限る。
)又は開示する行為
十五 その限定提供データについて限定提供データ不正開示行為(前号に
規定する場合において同号に規定する目的でその限定提供データを開示
する行為をいう。以下同じ。
)であること若しくはその限定提供データに
ついて限定提供データ不正開示行為が介在したことを知って限定提供デ
ータを取得し、又はその取得した限定提供データを使用し、若しくは開
示する行為
【取得時善意の転得類型】
第二条 この法律において「不正競争」とは、次に掲げるものをいう。
十三 その取得した後にその限定提供データについて限定提供データ不正
取得行為が介在したことを知ってその取得した限定提供データを開示す
る行為
十六 その取得した後にその限定提供データについて限定提供データ不正
開示行為があったこと又はその限定提供データについて限定提供データ
不正開示行為が介在したことを知ってその取得した限定提供データを開
示する行為
【適用除外】
第十九条 第三条から第十五条まで、第二十一条及び第二十二条の規定は、
次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為について
は、適用しない。 37九 第二条第一項第十一号から第十六号までに掲げる不正競争 次のいず
れかに掲げる行為
イ 取引によって限定提供データを取得した者(その取得した時にその
限定提供データについて限定提供データ不正開示行為であること又は
その限定提供データについて限定提供データ不正取得行為若しくは限
定提供データ不正開示行為が介在したことを知らない者に限る。
)がそ
の取引によって取得した権原の範囲内においてその限定提供データを
開示する行為
1.取得時悪意の転得類型
(1) 概要
「限定提供データ」は、その性質上、容易に複製し、移転することが可能であ
るため、意図しない第三者に転々流通してしまうとデータが一気に拡散してしま
うおそれがあり、被害拡大防止のための救済措置を設ける必要がある。
特に、不正取得行為や不正開示行為が介在したことを知りながら(悪意)
、デ
ータ保有者と契約関係のない第三者が限定データを取得し、さらに使用・開示す
る行為は、悪質性の高い行為である。したがって「その限定提供データについて
限定提供データ不正取得行為が介在したことを知って」
(法第2条第1項第 12
号)又は「限定提供データ不正開示行為であること若しくはその限定提供データ
について限定提供データ不正開示行為が介在したことを知って」
(法第2条第1
項第 15 号)限定提供データを取得し、又はその取得した限定提供データを使
用・開示する行為を、
「不正競争」と位置づけている。
なお、
「営業秘密」においては、
「悪意」に加え、重大な過失によって不正取得
等が介在したことを知らなかった場合(重過失)も「不正競争」の対象としてい 38るところ、
「限定提供データ」では重過失を対象としていない。したがって、
「限
定提供データ」について、不正の経緯の有無の確認等の注意義務や調査義務を転
得者に課していない。
(2) 「悪意」についての考え方
1「介在」について
(a) 法第2条第1項第 12 号(アクセス権のない者からの取得)
「悪意」の対象となる「限定提供データ不正取得行為」とは、法第2条第
1項第 11 号に規定する不正取得である。
「限定提供データ不正取得行為が介在したこと」の「介在」とは、自らが
取得する前のいずれかの時点で不正取得行為がなされたことを意味する。し
たがって、不正取得行為を行った者から直接取得する場合だけでなく、間接
的に取得する場合であっても、取得時に不正取得行為があったことについて
悪意であるのであれば、その取得行為、取得後の使用・開示行為は不正競争
となる。
(b) 法第2条第1項第 15 号(アクセス権のある者からの取得)
「悪意」の対象となる「限定提供データ不正開示行為」とは、法第2条第
1項第 14 号に規定する、不正の利益を得る目的で、又はその限定提供デー
タ保有者に損害を加える目的(図利加害目的)で、限定提供データ保有者か
ら示された限定提供データを開示する行為である(契約違反による開示を認
識するだけでは足りない。この点は、
「営業秘密」において、悪意の対象と
なる「営業秘密不正開示行為」として、図利加害目的での開示のみならず守
秘義務違反等の契約違反による開示も含まれていることと異なる。)。
「悪意」の対象として、不正開示行為が「介在したこと」の他に、不正開
示行為で「あること」
(法第2条第1項第 15 号)を規定しているが、これ
は、法第2条第1項第 14 号の開示行為の直接の相手方となって限定提供デ
ータを取得する場合は、その行為が不正開示行為を構成することになるため
である。
2「悪意」について
転得するデータについての不正な取得や図利加害目的での不正な開示等の不
正行為の介在等について悪意である状態とは、不正行為の介在等を認識してい
ることである。不正行為の介在等についてその真偽が不明であるにとどまる状
態は悪意とはいえない。
「悪意」であるというためには、以下のように、(a) 限定提供データ不正取
得行為又は限定提供データ不正開示行為の存在と、(b) 限定提供データ不正取
得行為又は限定提供データ不正開示行為が行われたデータと転得した(転得す 39る)データとが同一であること(データの同一性)の両者について認識してい
ることが必要である。
(a) 限定提供データ不正取得行為又は限定提供データ不正開示行為の存在に
対する認識の例
<原則として不正行為の介在の認識があると考えられる例>
➢ 外部への提供が禁じられたデータの提供を受けた正当取得者に対
し、転得者が、それを知りつつ金品を贈与する見返りにデータ提
供を依頼した場合
➢ データ保有者から、不正行為が存在したことが明らかな根拠を伴
った警告書を受領した場合
➢ データ提供者が、不正行為を行ったことを認めていることを知っ
た場合
<原則として不正行為の介在の認識がないと考えられる例>
➢ データの提供について正当な権原があることの根拠がデータ取得
時に示されていた場合
➢ データ保有者から、不正行為が存在したとの主張のみが記載され
た警告書を受領したが、その真偽が不明な場合
➢ データ保有者から、不正取得の存在について相応の根拠を有する警
告書を送付されたが、その後のデータ提供者との協議において、デ
ータ提供者からそれを覆すに足りると考えられる根拠が示されたた
めに、不正行為がなかったとの結論に至った場合
➢ データ流通プラットフォームサービスを介してデータを取得した際
に、当該データに当該サービスを提供するプラットフォーマーによ
る認証のある来歴情報が付されておりこれを信頼した場合
(b) 限定提供データ不正取得行為又は限定提供データ不正開示行為が行われ
たデータと転得した(転得する)データとが同一であることの事実(データ
の同一性)に対する認識の例
<原則としてデータの同一性の認識があると考えられる例>
➢ データ保有者から提示を受けた電子透かし等のトレーサビリティ
に基づく検証の結果により、データが同一である旨が確認された
場合
➢ データ保有者から、データが同一であることが明らかな根拠を伴
った警告書を受領した場合
➢ データ提供者が自ら提供するデータについて、不正な行為が介在し
ていることを認めていることを転得者が知った場合 40<原則としてデータの同一性の認識がないと考えられる例>
➢ データ保有者から提示を受けた電子透かし等のトレーサビリティ
に基づく検証の結果により、データが同一であると立証されなか
った場合
➢ ホームページ上で掲載されている不正取得等が行われたデータの
特徴が転得したデータの特徴(データが創出された時期等)と異
なっている場合。
➢ データ保有者から、データが同一であるとの主張のみが記載された
警告書を受領したが、その真偽が不明な場合
前述の(a)、(b)のそれぞれにおいて、警告書や各種検証結果、報道等の情
報の発信者の信頼性も認識の有無の判断に影響を与えるものと考えられる。
(3) 「取得」についての考え方(悪意と取得とのタイミングとの関係)
「取得」とは、III.2.に記載したとおりであり、データを自己の管理下に置
くことをいい、データが記録されている媒体等を介して自己又は第三者がデータ
自体を手に入れる行為や、データの映っているディスプレイを写真に撮る等、デ
ータが記録されている媒体等の移動を伴わない形で、データを自己又は第三者が
手に入れる行為が該当する。
<具体例>
➢ 送付型のデータ取得
テータ提供者と契約を結ぶと、データ提供者からデータが送信され、転得
者が受信する態様において、以下の行為が行われた場合を想定。この場
合、原則、
「取得」は「3」であり、
「取得時悪意の転得類型」に該当する
と考えられる。
1:データ提供者との契約締結2:「悪意」に転じる
3:送信されたデータを受信
➢ アクセス型のデータ取得
データ提供者と契約を結ぶと、データ提供者からデータ提供サーバにいつ
でもアクセス可能となる認証用のID・パスワードが提供され、転得者自
らがサーバにアクセスしデータを入手する態様において、以下の行為が行
われることを想定。この場合、原則、
「取得」は「4」であり、
「取得時悪
意の転得類型」に該当すると考えられる。
1:データ提供者との契約締結 412:ID・パスワードを入手
(このID・パスワードによりいつでもサーバにアクセス可能)3:「悪意」に転じる
4:ID・パスワードを用いて提供者のサーバにアクセスし、データをダウ
ンロード
(注記) ただし、自己のアカウントに係るクラウド上でデータを利用できる状態になってい
る場合など、データが実質的に自己の管理下にあるものと同義であると考えられる場
合には、
(自社のサーバにダウンロードせずとも)
「取得」に該当する可能性がある
(注記) なお、データを継続的に転得し第三者に開示(提供)するサービスを行う事業者
は、不正行為の介在について悪意となった後に、何ら対応することなく引き続きデー
タの転得や開示を行った場合、当該行為が不正競争に該当することになるため、自ら
のサービスの停止を余儀なくされることにもなりかねない。
そこで、このような事業を営む場合には、例えば以下のような対応が考えられる。
1不正行為の介在について悪意となった場合には、正当なデータ保有者と改めて契約
を行い、引き続きデータの取得・開示を行えるようにする。
2自らのサービスの停止につき提供サービスに関する契約違反として債務不履行責任
が問われることのないよう、あらかじめ、提供サービスに関する契約に「本サービ
スによって提供するデータについて、当社が不正行為の介在等を知った場合には、
当該データの提供を停止できる」旨を規定しておく。
(注記) もっとも、
「限定提供データ」に該当するデータを継続的に転得したうえ、当該デ
ータを用いて統計情報等の加工情報を作成し、当該加工情報を第三者に提供(開示)
するサービスを行う場合には、当該加工情報の提供(開示)が、転得した「限定提供
データ」の提供(開示)と評価される場合でなければ11、不正競争に該当しない。
2.取得時善意の転得類型
(1) 概要
「限定提供データ」の取得時に不正行為の介在等について知らなかった(善
意)としても、その後不正行為の介在等を知った(悪意)場合は、データ保有者
の被害拡大防止のための救済措置が必要である。
一方で、取得時に善意であった者が、その後悪意に転じることにより、差止請
求等によって突然事業活動の停止を余儀なくされるようなことがあれば、データ
を使用する事業活動へ萎縮効果を与え、ひいてはデータ流通や利活用の阻害要因
ともなりかねない。
そこで、データの保有者と利用者の保護のバランスを考慮し、取得後に悪意に
11 III.4では、
「取得したデータを用いて生成されたデータベース等の成果物を開示する行為
は、その成果物が元データと実質的に等しい場合や実質的に等しいものを含んでいると評価され
る場合には、元データの「開示」に該当する」と整理している。 42転じた転得者については、拡散により保有者が甚大な損失を被るおそれがある開
示行為に限定して「不正競争」と位置づけている。
(法第2条第1項第 13 号及び
第 16 号)。なお、
「営業秘密」においては、
「悪意」に加え、重大な過失によって不正取得
等が介在したことを知らなかった場合も「不正競争」の対象としているところ、
「限定提供データ」では重過失を対象としていない。したがって、
「限定提供デ
ータ」について、不正の経緯の有無の確認等の注意義務や調査義務を転得者に課
していない。
「悪意」や「取得」の考え方については、1.(2)や1.(3)をそれぞれ参照さ
れたい。
(2) 適用除外について(法第 19 条第1項第9号イ)
悪意に転じた後の開示行為であっても、取得時において不正な行為の介在を知
らずにデータを取得した転得者は不測の不利益を被り、取引の安全を害されるこ
ととなる。このため、善意でデータを取得した転得者の取引の安全を確保する観
点から、取引によって「限定提供データ」を取得した者が、
「限定提供データ」
の不正行為の介在等に関して悪意に転じる前に契約等に基づき取得した権原の範
囲内での開示行為については不正競争とはしないとの適用除外を設けている。
(法第 19 条第1項第9号イ)。「権原の範囲内」とは、限定提供データを取得した際の取引(売買、ライセン
ス等)において定められた条件(開示の期間、目的、態様に関するもの)の範囲
内という意味である。なお、形式的に契約期間が終了するものの、契約関係の継
続が合理的に期待される契約の場合、継続された契約は「権原の範囲内」である
と考えられる。
<原則として「権原の範囲内」となると考えられる具体例>
➢ 解約の申し出がない限り同一の契約内容で契約が更新され、取得し
たデータの契約期間内における第三者提供が可能とされている自動
更新契約を締結し、悪意に転じた後に自動更新を行い、更新後に悪
意に転じる前に取得したデータを第三者提供する場合
➢ 契約期間は明示されておらず、月額料金を払い続ける限りデータを
第三者提供可能であるとして提供されるサービスにおいて、悪意に
転じた後に料金の支払いを行い、翌月に悪意に転じる前に取得した
データを第三者提供する場合 43VII.請求権者について
(差止請求権)
第三条 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれ
がある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者
に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる。
2 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがあ
る者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物
(侵害の行為により生じた物を含む。
)の廃棄、侵害の行為に供した設備
の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができ
る。
(損害賠償)
第四条 故意又は過失により不正競争を行って他人の営業上の利益を侵害し
た者は、これによって生じた損害を賠償する責めに任ずる。ただし、第十
五条の規定により同条に規定する権利が消滅した後にその営業秘密又は限
定提供データを使用する行為によって生じた損害については、この限りで
ない。
1.概要
限定提供データに係る不正競争(法第2条第1項第 11 号ないし第 16 号)が行
われた場合、
「営業上の利益」を侵害されるなどした者は、不正競争を行った者
に対して差止請求や損害賠償請求を行うことができる(法第3条、法第4条)。限定提供データに係る不正競争によって「営業上の利益」を侵害される者に当
たるのは、原則として、
「限定提供データ保有者」
(法第2条第1項第 14 号、法
第 15 条第2項参照)であると考えられる。
2.プラットフォーマーと請求権者
データ流通プラットフォームサービスを展開するプラットフォーマーは、同プ
ラットフォーム上で流通する限定提供データが同プラットフォーム上から流出す
るなどした場合、一定の場合には、
「営業上の利益」を侵害される者に該当し、
差止請求・損害賠償請求を行うことが可能と考えられる。
この点、データ流通プラットフォームサービスを展開するプラットフォーマー
が担う役割としては、例えば、以下のようなものが考えられる。
1 データを提供したいと考える提供者とデータを取得したいと考える取得者
とをマッチングする役割
2 提供者がデータをアップロードし、取得者がデータをダウンロードできる
環境など、提供者による取得者へのデータの提供を媒介・促進する環境 44(サーバやクラウド等)を提供する役割(データ提供契約は提供者と取得
者との間で締結され、プラットフォーマーはあくまでも両者のデータ取引
を媒介・促進するための環境を提供する役割を担う。)3 2の役割に加え、提供者がアップロードしたデータにアノテーションを付
するなど加工等を行う役割(データ提供契約が提供者と取得者との間で締
結される点は2と同様。)4 提供者から提供を受けたデータに加工等を行い、加工等したデータを取得
者に提供する役割(加工等したデータに係るデータ提供契約はプラットフ
ォーマーと取得者との間で締結される。)この点、プラットフォーマーが、1の役割のみを担う場合には、プラットフォ
ーマーは何らデータを電磁的に蓄積・管理していないため、
「限定提供データ保
有者」
、すなわち、差止請求等の請求権者には該当しないと考えられる。一方、
プラットフォーマーが2や3の役割を担う場合には、同プラットフォーマーにつ
いても、提供データや加工等したデータに係る電磁的な蓄積・管理が想定される
ため、プラットフォーム上からこれらデータが流出するなどした場合には、限定
提供データ保有者として、差止請求権等の請求権者に該当する場合があると考え
られる。また、プラットフォーマーが4の役割を担う場合には、プラットフォー
マーが加工等したデータが限定提供データの要件を満たせば、プラットフォーマ
ーは、当該加工等したデータ(限定提供データ)に対する不正競争に対し、差止
請求権等の行使を行うことができると考えられる。
3.委託と請求権者
限定提供データ保有者が当該限定提供データの管理を受託業者に委託している
場合であっても、当該受託業者を通じた、電磁的な蓄積・管理を行っているとい
えれば、
「営業上の利益」を有するといえる。
また、限定提供データ保有者から当該限定提供データの管理を受託している受
託者についても、当該限定提供データが受託者の管理下から流出する等した場
合、自らの責任で当該データを電磁的に蓄積・管理していると評価できるのであ
れば、
「営業上の利益」を有する場合があると考えられる。

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