地球温暖化問題がますます深刻化す
る今、
世界中が水素社会の実現に向けて大きく動き
出そうとしています。
水素研究で世界をリー
ドす
る九州大学の実情について
水素エネルギー国際研究センタ
ーの佐々木一成センタ
ー長にお話を伺います。
世界をリー
ドする
水素エネルギー研究
九州大学の公用車である燃料電池自動車
「MIRAI」
と佐々木センター長
水素エネルギー国際研究センター佐々木 一成 センタ
ー長
「水素社会」
の具現化・見える化
●くろまる太陽電池ま
たは風力発電機で、
再エネ発電
●くろまる再エネ電力で水電解
し、
水素で蓄エネ
●くろまる再エネ水素をFC
Vに充填
(ゼロエミッショ
ンモビリティ)モビリティ
実証用の
燃料電池車
水電解装置設置
(水素ステ-ション内、
水素タ
ンク等の付属設備も含む)
太陽光パネルによる再エネ発電と
水電解式水素発生装置
(直流)
への接続
(水素ステーショ
ンおよびHY30棟屋上設置)
エネルギ-可視化システム
(水素ステ-ション前に設置、
水素ステ-ション内部も可視化、
実証燃料電池の発電状況も表示)
風力発電機による再エネ発電と
水電解装置
(交流)
への接続
(水素ステーショ
ン横設置)
表示モニター水素は地球を救う次世代のエネルギー 地球温暖化問題は、年々深刻化しています。大気中の二酸化炭素が増えることで、温室効果が上がり、地球の平均気温は上昇する一方です。 このまま温暖化が進めば、台風などの災害が増え、海面上昇によって低い土地は失われてしまいます。また、異常気象による生態系の破壊や食糧難といったリスクを背負うことになります。二酸化炭素の排出量の削減こそが、これからの地球に必要なのです。 石炭や石油に代表される化石燃料は、世界の産業の発展に大きく貢献してきましたが、同時に多くの二酸化炭素を大気中に排出してきました。そこで次世代のエネルギーとして注目されているのが、水素と空気中の酸素を化学反応させることによって電気と熱を作り出す水素エネルギーです。 長年、水素エネルギーの研究に携わってこられた佐々木センター長は、次のように語ります。 「水素エネルギーに関しては、日本はとても進んでいて、2009年に家庭用燃料電池であるエネファームが発売され、2014年12月には燃料電池自動車の市販が始まりました。2017年には事業所や工場などで使える大型の燃料電池が実用化される予定になっています。いずれはバスなどの公共の乗り物にも水素エネルギーが使われることになるでしょう。化石燃料から水素ガスを作る時には二酸化炭素も発生しますが、水素を介した燃料電池の発電効率が高いので、同じ量の電気を作るために必要な燃料を減らすことができ、結果的に二酸化炭素の排出量を減らすことができます」 また、佐々木センター長は、経済的な観点からも水素エネルギーの必要性を語ってくださいました。 「日本が輸入しているエネルギーの代金は毎年約27兆円もあります。私たちが普段支払っている消費税の1%分が2.7兆円ですから、その10倍もの額を毎年、エネルギーの輸出国、つまり海外に払っていることになります。さらに、国内で電気を作っている発電所では、その際に発生する排熱のほとんどを捨ててしまっているのです。これから大事になってくるのは、いかにエネルギーのムダを減らすかということです」 水素エネルギーの一般普及型でもあるエネファームは、都市ガスのエネルギーの約4割を電気に換えて、同時に発生する熱でお湯を沸かすので「ムダになるものが5%しかない画期的なシステム」だと佐々木センター長は語ります。 「地球温暖化問題は、次の世代、そのまた次の世代に快適な環境を残すためにも、私たちが真剣に取り組まなければならない問題です。太陽光発電や風力発電からの変動しやすい電気を水素ガスにして蓄えることで、再生可能エネルギーを使いやすくすることもできます」
▲さんかく運転時のエネルギー収支を示す
「MIRAI」
の液晶パネル。
「MIRAI」
は排気ガスの代わりに水
しか出しません。
▲さんかく水素エネルギーなどの新しい技術に対して常に新しい芽を出し続けることが大学としての使命。水素社会をリードする九州大学の役割 九州大学伊都キャンパスには、佐々木センター長が所属する水素エネルギー国際研究センターをはじめ、水素材料先端科学研究センター、次世代燃料電池産学連携研究センターなど、世界をリードする研究拠点が揃っています。 「水素社会の実現という大きな目標のためには、やるべきことが本当にたくさんあります。国でも個々のプロジェクトに分かれているので、このキャンパス内の組織は、それぞれのプロジェクトのマネジメントに合うような形にしています。水素エネルギー国際研究センターが全体調整、他のセンターは、会社でいうと事業カンパニーのようなもので、各課題に集中的に取り組んでいます」 水素材料先端科学研究センターは、素材が水素に触れるともろくなる問題を集中して研究する組織で、国家プロジェクトをけん引する重要な役目を担っています。次世代燃料電池産学連携研究センターは、工場や事業所で使う大型の燃料電池の開発研究などを企業と連携しながら進めています。 では、これからの水素社会における大学の役割とは何でしょう。 「エネファームや燃料電池自動車にしても、大学の研究から生まれた技術の芽が形になったものですから、常に新しい芽を出し続けることが大学としての使命だと考えています。いいアイデアが出ても、論文だけでは世の中に出て行くことはありません。そこで大事になってくるのが産学連携です。水素社会をリードしていくために総合大学としての強みをどれだけ活かせるか▼水素エネルギー関連の動画が観
れる水素シアター
▼過去から未来の水素エネルギー
技術がわかる水素社会ショールーム
伊都キャンパスで発電する世界最新型の大型燃料電池大学から生まれた新しい芽、つまりアイデアを民間企業と一緒になって形にしていくことも大学の大きな使命のひとつです。そして、技術開発者の育成や国際連携、将来のサイエンスを作っていくことも大学の役割です」 さらに佐々木センター長は人材育成の大切さを語ります。 「エネルギーの技術開発には、20年、30年といった歳月を要します。トヨタさんでも燃料電池自動車の市販までには23年もの時間がかかりました。言い換えれば、技術開発と並行して人を育てていき、技術をバトンタッチしていきながら初めて製品化されていくものなのです。だからこそ、エネルギー分野での人材育成はとても大事で、それができるのが大学です」 水素エネルギー国際研究センターでは、センター内に水素エネルギーや水素社会をわかりやすく解説するショールームを7月に開設し、九州大学の学生および一般の方々に開放していきます。 「夏休みには、ぜひ水素社会の将来を担う子どもたちや学生さんにたくさん来ていただきたいですね。ここで水素社会の未来に触れることで、いずれ日本や世界を変えていくような人材が生まれることを期待しています。若い皆さんがこれからの主役です」本格的なスマートキャンパスの実現へ最近、スマートハウスという言葉を耳にする機会が増えました。スマートハウスとは、エネファームや太陽光発電などのマイホーム発電設備を備え、エネルギーの自給自足ができる住宅のことです。 実は、伊都キャンパスでもスマート化が進んでいます。 「伊都キャンパスの複数の食堂でエネファームを導入していますし、世界最新型の大型燃料電池も試験的に運用されています。さらに太陽光や風力によって作られた電気も活用していて、それらがどれくらいの電気を作り、キャンパス全体で二酸化炭素をどれくらい削減しているかがひと目でわかるシステムも作っています」 また、九州大学では、市販された燃料電池自動車「MIRAI」を公用車として導入しました。また、その車の給油所代わりとなる水素ステーションもキャンパス内に設置されています。 九州大学は、平成26年度にグリーンアジア国際戦略総合特区における「スマート燃料電池社会実証」事業を実施し、伊都キャンパスは水素エネルギーや再生可能エネルギーの研究の場としてだけではなく、社会実証の場としても活用されているのです。 水素エネルギーの研究は、一部の学部だけのものではありません。水素社会の実現に向けては、九州大学のあらゆる学部との接点が増えてくると、佐々木センター長は語ります。 「冒頭に経済の話をしたように、エネルギーと経済は切っても切れない関係にありますし、新たなエネルギー社会を形成するには、新たなルールづくりも必要になってくるでしょう。そこでは法的なものを整備する必要もあると思います。さらには、それぞれの国や地域の文化や資源も関係してくるでしょう。九州大学がこれからの水素社会をリードし続けていくには、総合大学としての強みをどれだけ活かせるかが大事なのです。これからは、人社系の先生方ともコラボレーションしながら、さまざまな成功事例を作っていきたいですね」 もしも、今回の特集で地球温暖化問題や水素社会に興味がもてたなら、自分の専門分野で何ができるのかを考えてみるのも良いかもしれません。これからの地球のため、これからの世代のために、できることはきっとあるはずです。
佐々木 一成
昭和62年に東京工業大学工学部を卒業後、
スイ
ス連邦工科大学チューリッ
ヒ校
で工学博士号を取得。
平成7年に
ドイツ・マッ
クスプラ
ンク固体研究所の客員研究
員。
10年間の在欧後、
平成11年に九州大学大学院総合理工学研究院 物質科
学部門の助教授となり、
工学研究院機械工学部門の教授を経て平成23年に主
幹教授。
現在、
次世代燃料電池産学連携研究センター長も兼務。
▲さんかく
伊都キャンパス内で作られ、
使われる電気が
ひと
目でわかるエネルギーイ
ンフォメーション