九州電力 総合研究所
Annual Report 2018 目次
総合研究所の将来ビジョン
技術開発の基本方針
技術開発推進プロセスの改革
技術開発の実施状況
表彰実績及び保有特許
知的財産への取組み
九電グループの技術開発の協創強化
組織情報
各研究グループ紹介
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・ ・ ・・・ 04
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・・・ 10
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しかく持続的な成長を支える先進技術開発への挑戦
中長期な観点から、九電グループ事業基盤の維持・強化及び持続的な成長に
繋がる先進技術の開発に挑戦
既存事業領域 成長事業領域
しかく各事業部門の事業基盤を支える
技術ソリューションの推進
しかく九電グループの成長に繋がる
イノベーションの創出
各事業部門・グループ会社との連携を強化し、
エネルギーの安定供給とコスト低減を基軸とし
たソリューションをスピーディーに創出
革新的技術の活用、技術マーケティング等に
より九電グループの成長及び地域社会の発展
に繋がるイノベーションを創出
しかく基盤技術の維持・向上と発展
将来(先進)技術領域
ソリューション提供の源泉となる基盤技術(技術力・設備)の維持・向上と発展
しかく果敢に挑戦し続ける人、成長を実感できる職場づくり
o九電グループの連携を強化し、各事業部門の事業基盤を支える
技術ソリューションのスピーディな創出に取り組む
o革新的技術の活用、技術マーケティング等により、九電グループの
成長に繋がるイノベーションを創出
o九電グループの持続的な成長を支える先進技術の開発に挑戦
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- 02 - 技術開発推進プロセス
スピーディかつ効果的な技術開発を行うために、お客さまニーズ
を的確に捉えた技術開発推進プロセスの再構築をしました。
【技術開発推進プロセスにおけるポイント】
お客さまとの対話
所内ディスカッション
o お客さまとの積極的な対話を通じ、潜在ニーズ発掘から
成果創出に至るプロセスの中で、「お客さまとの対話」、
「所内ディスカッション」、「タイムリーな審議」を
進めていく。
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デザイン思考は、お客さまがまだ認識していないニーズを引き出すために、実際の現場での「観察」を
行い、「お客さまが困っていること」、「なぜ困っているのか」の「問題提起」を検討し、イノベーション
に繋がるようなアイデアを創出していくもので、技術開発推進プロセスに連動している。
<国プロ 代表件名>
共同研究先 テーマ 成 果
エネルギー総合
工学研究所
再生可能エネルギー出力制御量低減のための
技術開発
出力予測が難しく、これまで
電源制限の対象とできなかった
太陽光及び風力発電の電源制限
対象としての効果を分析し、
地理的に離れた複数箇所を対象
とすることで、一定の効果が
期待できることを明らかにした。NEDO石炭火力発電におけるバイオマス利用拡大技術
の先導研究
P18参照
環境共創
イニシアチブ
需要家側エネルギーリソースを活用した
バーチャルパワープラント構築実証事業
(V2G実証事業)
P30参照
2018年度は、 これまでの研究成果を学 会や専門誌等 で40件発表しました。そのうち
6件は、研究内容や成果が主催者から評価され、改善改革表彰を受賞することができました。
また、7件の特許出願と16件の特許を取得しました。避雷器やプラズワイヤー、無停電
工 法など 、こ れ ま でに 得 ら れた 特許 ・ ノ ウハ ウ は 、他 企 業 でも ご活 用 い ただ い て おり 、
ライセンス料として当社収益にも貢献しています。
現在、保有特許の有効活用を目的に、自治体等が主催する「知財マッチング(地場企業への
開放特許の紹介)」へ参加しており、これまでに2件のライセンス契約を締結しました。
<社外公表実績:40件>
<表彰受賞実績:6件>
<特許取得・出願実績>
(取得した特許件名一覧)
〔参考〕2018年度末九州電力特許保有件数:国内192件、海外75件
項 目 主な実績
学会発表
電気学会、電気情報関係学会、日本鉄鋼協会、
日本材料学会、火力・原子力発電大会 など
専門誌執筆 電気評論、電気設備学会 学会誌
項 目 内 容
社外表彰 日本電気協会九州支部 電気関係従業員表彰 2件
社内表彰
平成30年度 業務改革表彰
(優秀賞)2件、(健闘賞)2件
国 内 海 外 国内・海外合計
取得件数 6件 10件 16件
出願件数 4件 3件 7件
特許の名称 共同出願人 登録番号 登録日
国 内
単独系統向け周波数安定化装置 三菱電機(株) 6335641 2018年5月11日
電力輸送部門業務支援システム (株)キューキエンジニアリング 6353149 2018年6月15日
模擬電力供給装置及び正常計量確認装置 当社単独 6373019 2018年7月27日
複合発電システム用電力変換装置 川崎重工業(株) 6371603 2018年7月20日
給電方法及び給電システム 当社単独 6427708 2018年11月2日
余寿命評価方法 当社単独 6448724 2018年12月14日海外
アメリカ 固定炭素製造装置 当社単独 9963639 2018年5月8日
イギリス 電池装置 三菱重工業(株) 2357713 2018年5月2日
ドイツ 電池装置 三菱重工業(株) 602009052154.3 2018年5月2日
フランス 電池装置 三菱重工業(株) 2357713 2018年5月2日
アメリカ 発電システム 当社単独 10138762 2018年11月27日
ポーランド グランドフレア 東京電力(株) 他 2372243 2018年9月12日
インドネシア 固定炭素製造装置 当社単独 IDP000051687 2018年7月9日
ドイツ 蓄電システム 三菱重工業(株) 602008058641.3 2019年1月2日
イギリス 蓄電システム 三菱重工業(株) 2315336 2019年1月2日
フランス 蓄電システム 三菱重工業(株) 2315336 2019年1月2日
当社は大学やグループ会社、メーカーとの共同研究を44件実施し、技術的課題の
迅速な解決に向け、オープンイノベーションを活用した研究開発に取組みました。
総合研究所では2018年度に「69件」の研究に取組みました。
<既存事業領域(47件) >
<成長事業領域(22件) >
事業領域別研究カテゴリー分類
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また、事業活動において他社の知財を侵害していないか確認することは、CSR経営を
行う上で重要と考えております。
総合研究所では、定期的に知的財産に関する研修を実施していきます。
<知的財産における企業価値向上に向けた取組み>
<日常業務における知的財産リスク>
技術開発を効率的・効果的に進めていくためには、お客さまのニーズの把握から、技術
開発成果の活用までのサイクルを回していく知的財産マネジメントが重要になります。
そのため、九電グループの収益拡大や地域貢献に資する技術開発のため、下記の2点を
強化しています。
くろまる 収益拡大や地域貢献に向けた知的財産面からの取組み
1 お客さまのニーズ(潜在的課題)の掘り起こし
2 九電グループ外への積極的活用提案(知的財産マッチングへの参画)
<1 お客さまのニーズの掘り起こし>
<2 知財マッチングへの参画>
知的財産(知財)には、技術開発の成果等を保護する特許権、商品やサービス名称等を
保護する商標権、音楽や絵画、ソフトウェアを保護する著作権などが存在します。
これらの知財は、企業の持続的な価値向上に寄与することから、企業防衛のために適切な
対応を行うことが大切です。(当社の知財は総研で一元管理しています。)
(参考) 知的財産とは
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【組織図】
総合研究所
(福岡市南区塩原二丁目1番47号)
くろまる研究企画グループ
くろまるイノベーション推進グループ
くろまる化学・金属グループ
くろまるエネルギー開発グループ
くろまるネットワーク技術グループ
くろまる系統高度化グループ
くろまる土木グループ
くろまるエネルギー応用技術グループ
生物資源研究センター
(佐賀市高木瀬東一丁目10番1号)
くろまる生物資源グループ
【沿革】
S27/2 技術研究所発足
S31/6 総合研究所へ名称変更
S40/9 中央区薬院から南区塩原へ移転
S61/7 組織改正(研究企画担当+4研究室)
H4/6 現在の本館竣工(旧館は実験棟に改造)
H9/7 組織改正(グループ制導入)
H25/7 組織改正(研究企画・管理+6G・1C)
H29/4 組織改正
(研究企画・イノベーション推進+6G・1C)
o グループ大の多様な人材の技術を結集し、より多角的な活動と
開発スピードの向上を目指し協創体制を強化
【グループ編成】
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o 進行中案件
・ニシム電子工業によるBMCPU(リチウムイオン電池監視制御
ユニット)を活用した製品群の開発
・九電グループ大での電気バス用大型充放電器の開発
<これまで> <現在> <これから>
建設機械への適用等
エネルギーリソース
としての活用
グループ大での研究・技術開発プロジェクト体制の構築
o 具体的な案件毎にグループ会社25社と構想段階から協働できる
プロジェクト体制の構築を検討
運輸部門の電化推進
MEMO MEMO
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九州電力 総合研究所
Annual Report 2018
各研究グループ紹介 目次
くろまる くろまる くろまる くろまる くろまる くろまる くろまる
くろまる 化学・金属グループ
くろまる エネルギー開発グループ
くろまる ネットワーク技術グループ
くろまる 系統高度化グループ
くろまる 土木グループ
くろまる エネルギー応用技術グループ
くろまる 生物資源研究センター 生物資源グループ
【特集】
くろまる 九州V2G実証事業
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・・ 28
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既存試薬
新規試薬1
新規試薬2
トレーサ試薬の濃度推移トレーサ試薬濃度
経 過 日 数01002003004000 100,000 200,000スケール厚み
(μm)
運転時間
スケール成長カーブ020406080100
0 100,000 200,000寿命消費率(%)
運転時間
累積寿命消費率
しろまるしろまるグループ
安価で安定した電気をお届けするため、当社事業基盤を支えるボイラや
タービンなどの電力設備の保全や健全性確認など、運用・保守・検査・
診断技術の高度化に関する研究を中心に取組んでいます。
また、これまで培ってきた金属材料等の診断・解析技術を活用し、現場
設備のトラブルや不具合発生時には、損傷原因の調査や対策の検討など
現場に密着した活動に取組んでいます。
くろまる 主な研究テーマ
・電力品質の維持向上及びコスト抑制に資する電力設備保全技術の高度化
・精密で効率的に発電設備の健全性を確認するための設備診断技術の高度化
・現場設備のトラブルや不具合に対応した原因調査や対策の検討
地熱発電所における新規トレーサ試薬の探索
地熱発電所では、還元井へ戻す熱水が貯留層等へ与える影響を把握するため、
トレーサ試験(注記)を実施しています。本試験をより効率的に行うため、新規トレーサ
試薬の導入検討を行いました。
(注記) 還元井に戻す熱水に試薬を投入し、生産井からの湧出濃度、検出時間を確認することで、
生産井とのつながり、還元熱水の地下における挙動などを評価する試験
くろまる これまでの成果
くろまる 今後の展開
ボイラ管材のスケール厚さによる
健全性診断手法を開発
龍 晃 研究員
:平成20年度入社
化学・金属グループ
くろまる これまでの成果
くろまる 今後の展開
調査及び試験を通じ、「安全性が高い」、「試薬
の分解温度が既存試薬と同程度」、「定量下限値
が低く、既存試薬の分析に影響を与えない」と判断
できたトレーサ候補試薬を抽出しました。その後、
候補試薬の加熱分解試験及び地熱発電所における
実機適用試験を経て、最終的には既存試薬と類似
した濃度推移を示す2種の試薬を選定しました。
今回、試薬が2種加わったことで、「複数か所の
還元井の同時試験」及び「トレーサ試験のインター
バル短縮」につながるため、今後、当社の地熱
発電所で新規試薬を活用していきます。
管内面スケールの厚さは管外面から測定できる
ことから、効率的にボイラ管材の健全性診断が
行えるようになりました。
今後は、ボイラ全体の温度分布の推定により、
より高度なボイラ管材の健全性診断技術を構築し、
適正な設備更新時期の立案や損傷事故の未然防止
に役立てていく予定です。
高温・高圧の環境下では、管内面に水蒸気酸化
スケール(層状の錆)が生成され、時間とともに
成長していきます。その成長速度は使用温度が高い
ほど大きいことから、成長した水蒸気酸化スケール
の厚さと運転時間の相関関係から使用温度を推定し、
簡易的にボイラ管材の健全性を診断する手法を構築
しました。
火力発電ボイラの配管は、高温・高圧の環境で使用されており、ボイラ管材の
経年的な強度低下による損傷事故を未然に防止するため、ボイラ管材の健全性診断
技術の高度化・効率化を目指しています。
ボイラ配管内面の水蒸気酸化スケール
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環境負荷低減と経済性の両立を目指し、化石・代替燃料技術開発及び
新エネルギー・再生可能エネルギー技術実現に向けた取組みを二つの柱
として研究しています。
一つ目の柱、化石・代替燃料技術開発では、経済性に優れるがCO2
排出量が比較的多い石炭火力発電技術について、バイオマスとの混合
燃料など燃料面から環境負荷低減に寄与できる技術の開発に取組んで
います。
二つ目の柱、新エネ・再エネ技術実現に向けた取組みでは、全般的な
技術動向把握から、特に注目される水素エネルギーに関する最新技術
動向の把握と共に、環境性や経済性などを評価検討し、開発ターゲット
探索を行っています。
くろまる 主な研究テーマ
・バイオマス混合新燃料開発研究
・低品位炭利用拡大に伴う貯炭・運炭管理高度化に関する研究
・水素エネルギー開発動向調査
環境負荷低減に寄与する新エネ
・再エネ開発に向けた取組み
バイオマス利用の拡大は、石炭火力発電所のCO2排出量を低減する重要な手法の
一つです。
バイオマス混合新燃料を現地で製造し、安全に日本に運び、発電用燃料として
利用する技術の確立及び実用化を目指します。
くろまる これまでの取組み
くろまる 今後の展開
豪州ビクトリア州におけるバイオマス混合新燃料の開発
エネルギー開発グループ
くろまる これまでの取組み
2018年10月 国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」委託
事業を受託し、バイオマス混合新燃料の実用化に向けた技術開発を開始
(2020年2月まで)
2019年4月 豪州ビクトリア州政府と木質バイオマス資源活用研究に関する覚書を締結
石炭火力発電へのバイオ
マス利用拡大のため、既存
の石炭火力発電に大幅な
改造を施すことなく運用
可能、かつ大幅な利用率
向上が見込めるバイオマス
利用技術について、適用性
調査や経済性調査を進めて
いきます。
日進月歩の進化を続ける新エネルギー・再生可能エネルギー技術について、最新の技術動向を
把握すると共に、技術、経済性や実現可能性評価を通じて、九電グループとして保有すべき技術
を探索すると共に、その技術開発を進めていきます。
新エネルギー・再生可能エネルギー技術として、水素エネルギーなどの最新技術動向把握を
行い技術資料として取りまとめ、社内に向けて情報発信すると共に、バイオ燃料貯蔵性の技術
評価や経済性評価などを行いました。
地球温暖化などの環境問題に寄与でき、環境にやさしいエネルギー源となり得る
再生可能エネルギーや新エネルギーについて、最新の技術開発動向や国等の施策を
ウォッチしています。また、これらの技術的な将来性や可能性を評価し、環境負荷の
低減につながりエネルギー効率向上や経済性の両立が図れるものについての実現
可能性を評価した上で、九電グループとして保有すべき技術を探索しています。
また、近年注目を浴びている水素エネルギーについては、国の施策や技術開発
動向は特に注視しており、開発・構想中の技術について、技術性・経済性等の評価を
実施すると共に、社内向けにこれらの最新技術の情報発信を行っています。
くろまる 今後の展開
犬丸 主幹研究員
安達 副主幹研究員
副島 研究員
江崎 研究員
褐炭プロジェクトチーム
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送電・変電・配電設備技術、雷害対策や絶縁などの高電圧技術、
設備の運用を支える情報通信技術をコア技術として、業務の効率化、
高度化など各設備保有部門の課題解決に向けた研究開発に取組んで
います。また、ディープラーニングや機械学習、画像認識技術など、
新技術の現場業務への適用にも積極的に取組んでいきます。
くろまる 主な研究テーマ
・ケーブル、地中化設備、変電設備の劣化診断に関する研究
・送電鉄塔の劣化診断に関する研究
・効果的な雷被害対策に関する研究
・ICT導入に関する研究
22kV配電線用ポリマーがいしの長期信頼性を検証
22kV配電線用ポリマーがいしの長期信頼性について評価を行うことを目的と
して、当社22kV配電線で20年間フィールドテストを行った各種ポリマーがいし
の調査研究を実施しています。
くろまる これまでの成果
くろまる 今後の展開
中山 聡 副主幹研究員
:平成8年度入社
ネットワーク技術グループ
EDF複合環境試験機による5,000時間
加速劣化試験(フィールド環境の約11年に
相当)や宮崎大学との共同研究(塩霧
試験及び外被材の表面分析)の結果から、
経年20年の各種ポリマーがいし及び韓国・
PYUNGIL社製のポリマーがいしが、十分な
がいし性能を保持しており、実運用に
おいて問題ないことを確認しました。
これらの研究成果や他社の試験導入
実績等も踏まえ、当社は2018年12月に、
22kV 配 電 線 へ の 韓 国 ・ PYUNGIL 社 製
ポリマーがいし(引留タイプ)の導入を
決定しました。
加速劣化試験を行ったポリマーがいしを使用して、電気的・機械的試験による性能確認を
実施するとともに、引き続き宮崎大学との共同研究により、ポリマーがいしの寿命推定の可能性
について検討します。
EDF複合環境試験機(左:外観、右:内部)
導入した22kV配電線用ポリマーがいし
(上:加速劣化試験前、下:試験後)
(図、写真)
電柱上の営巣検出例
変圧器劣化兆候の解析例
設備巡視における画像認識、AI技術の活用
くろまる これまでの成果
くろまる 今後の展開
異常診断精度の向上及び診断対象の拡大を進め、業務
の省力化、点検精度の向上を図っていきます。
画像認識、AI技術を用いた設備の異常診断の高度化
に取組んでおり、電柱上に作られた鳥の営巣の検出や
変圧器の劣化兆候の判別手法を検証しています。
営巣の検出精度は9割程度に向上しており、実運用に
向けた手法の改良、フィールド試験を検討中です。
電気をお届けするために必要な送配電設備は、
約250万本の電柱など、膨大な数が九州内に
点在しており、効率的かつ効果的に保全・運用
することが求められています。
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当社が将来に亘って担う「系統運用」を支える「高度な系統解析技術」
を当グループの共通基盤技術とし、「電力の安定供給」と「電力品質の
維持」に関する技術開発と併せて、部門横断的な課題解決に取組みます。
主な取組み項目は、次の3点です。
1平常時の系統運用はもとより、過酷事故時や将来系統においても
「電力の安定供給」を維持するための技術開発の推進
2再エネの増加など、電源構成が変化する状況下においても経済性と
「電力品質の維持」の両立を図る技術開発の推進
➂電力の安定供給や品質維持の基盤となる「高度な系統解析技術」の
維持・向上の推進
くろまる 主な研究テーマ
・再エネ大量導入時の周波数及び系統安定性の維持に資する研究
【NEDO実証事業】
・太陽光発電の大量連系に伴う配電系統の電力品質維持に関する研究
(以下に成果を紹介)
・風力発電の出力予測精度向上に向けた研究
・V2G実証に関する研究(P28の特集ページ参照)
配電系統の電圧低下メカニズムの解明
太陽光発電(PV)が大量連系すると、一般的には配電系統の電圧が上昇する
が、一部の系統では反対に電圧が低下する現象が発生しており、そのメカニズム
の解明に取組んでいます。
くろまる これまでの成果
くろまる 今後の展開
広範囲の電圧フリッカ現象の解明
田中 俊生 副主幹研究員
:平成15年度入社
系統高度化グループ
くろまる これまでの成果
くろまる 今後の展開
配電系統の電線サイズ等の情報や電圧・
電流等のデータを基にメカニズムを検討
した結果、PVからの逆潮流が小さいと
配電線路の抵抗(R)成分が支配的で電圧が
上昇するが、逆潮流が大きくなるに連れて
リアクタンス(X)成分の影響が大きくなり
電圧が低下することが判明しました。
上述の成果を踏まえ、電圧低下を助長
する可能性のある「PVの力率一定制御」の
影響を評価します。
引き続き、様々な系統条件下におけるフリッカ
の現象解明、STATCOMの効果の確認を行います。
薩 摩 川 内 試 験 場 に て 13 台 の PCS を 用 い た
フリッカ再現試験、STATCOMによるフリッカ
抑制試験を実施し、PCSからの無効電力により
電圧フリッカが発生すること、PCSの設定変更
やSTATCOM により電圧フリッカを低減可能な
ことを確認した。また、STATCOMの補償効果
を高めるための新制御の検証を行いました。
逆潮流が大きい場合の
電圧低下のイメージ
PVが大量連系すると、単独運転防止機能
の能動方式により電圧フリッカが発生
する場合があるため、そのメカニズムの
解明、対策方法の検討を行っています。
STATCOM新制御の検証結果
(a)STATCOM停止時
(b)STATCOM動作時(従来制御)
(c)STATCOM動作時(新制御)
時間[秒]
時間[秒]
時間[秒]電圧変動が減少電圧[Vrms]
電圧[Vrms]
電圧[Vrms]
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しろまるしろまるグループ
1972年の発足当初より、土質、岩盤、コンクリート、耐震や石炭灰
利用技術の研究など、主管部門との連携のもと実用化までに長期間を
要する研究や、専門的知識や経験を醸成するための基礎的研究等、
多種多様な研究・業務を手がけてきました。
さらに近年は、事業環境の変化を踏まえ、AIやIoTを活用した保安
業務の高度化、効率化に資する研究についても取組んでいます。
くろまる 主な研究テーマ
・AI(機械学習)による導水路調査の高度化に関する研究
・高経年水力ダムゲートピアの補強対策に関する研究
・空調を対象とした設備見守り支援技術開発に関する研究
PFBC灰を用いた補修材料の開発
当社が保有する沿岸部や温泉地帯に位置するコンクリート構造物は、塩分や硫黄
成分等により少しずつ劣化が進行するため、必要な都度、高価な補修材料を用いて
補修を行っていました。このため、安価で、高性能な補修材料の開発が求められて
いました。
一方で、当社の加圧流動床複合発電方式の火力発電所から発生する 石炭灰
(PFBC灰)は、すべてセメント原料として処理しており、その他の用途としても
有効に活用する方策が求められていました。
そこで私たちは、PFBC灰には石こう成分が含まれ、耐酸性、自硬性(自ら固まる
性質)という特長があることに着目し、グループ会社の西日本技術開発(株)、大学、
メーカーと共同で、PFBC灰を原料とするモルタル補修材料の開発に取組みました。
くろまる これまでの成果
くろまる 今後の展開
高経年火力発電所土木設備における予防保全の提案
山田 智規 研究員
:平成5年度入社
土木グループ
くろまる これまでの成果
PFBC灰を有効利用して、従来の補修材よりも
安価で、耐酸性・耐塩害性・耐摩耗性に優れ、
また、製造時のCO2排出量が少ない(環境にも
優しい)補修材料を開発しました。
これを当社が保有している温泉地域や沿岸部など
の コ ン ク リ ー ト 構 造 物 の 補 修 に 使 用 し て 、
効果が有効であることを確認しました。(右図)
当社の発電所の補修工事だけではなく、社外の
補修工事でも使用していただけるようPRを行い
ます。
今回選定した対象部位における保全手法については、社内マニュアル等に反映し、適切な
設備保全を実施します。
まずは、発電上のリスク、構造物が置かれている
環境等を考慮して予防保全の対象とする部位を選定
しました。
次に、当該部位における塩害劣化状況について
現地調査及びコア採取による鉄筋位置における塩分
浸透予測を行った結果、当該部位は、供用期間中に
コンクリートのひびわれが発生し剥離・剥落に至る
可能性が高いことが判明しました。
このため、当該部位においては、従来の保全とは
異なり、点検時において目視等によりひびわれの
状態、錆汁の有無を確認し、その状況に応じて補修
(酸素の供給を止める表面処理、断面修復の実施)
を実施することを提案しました。
当社の火力発電所土木構造物は、壊れた後に補修することを基本とした保守管理
を行っていますが、設備の高経年化に伴う塩害劣化を主要因とするコンクリートの
剥落等がありました。このため、今後は、発電所の停止につながるリスクを考慮し、
重要性が高い土木構造物については、予防保全への転換を図る必要があります。
くろまる 今後の展開
特 徴 施工場所
耐 酸 性 温泉施設、下水道施設など
耐塩害性 海洋施設,凍結防止剤散布箇所
耐摩耗性 発電水路,農業用水路など
効果を発揮できる施工場所
同一付近補修後7年経過後の比較
段差と錆汁を伴うひび割れ
(供用開始後、約44年の対象部位)
予防保全対象部位(例)
耐酸性モルタル従来品 今回開発品
一部欠損
収縮ひび割れ(大)
収縮ひび割れ(小)
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しろまるしろまるグループ
電化推進とリソース利活用に資する研究開発を通して、低炭素化社会
の実現及び将来必要となる技術やビジネスに備えるため、以下の
ミッションに則り、成長に繋がる技術開発に取組みます。
・ ヒートポンプ適用拡大に関する技術開発や新たな需要創出機器の開発等により
電力需要創出と電化推進による低炭素化社会実現に貢献します。
・ お客さま満足度向上や提案営業力強化に繋がる技術開発を通して、競争力強化
に貢献します。
・ エネルギー関連技術を活用した新たなサービスを開発し、エネルギーサービス
の付加価値向上を図ります。
・ パワーエレクトロニクス技術や蓄電池技術、各種センシング技術等のエネルギー
マネジメント技術を活用し、電力の安定供給や品質向上に資するとともに
将来へのビジネス展開に備えます。
くろまる 主な研究テーマ
・九州V2G実証事業(主に需要家・リソース側) (P30の特集ページ参照)
・電力使用量の内訳推定(ディスアグリゲーション技術)に関する研究
・非常用蓄電池へのリチウムイオン電池適用に関する研究
ヒートポンプの適用拡大
くろまる これまでの成果
くろまる 今後の展開
MSE型鉛蓄電池の管理運用技術に関する研究
廣田 晃一 研究員
:平成23年度入社
エネルギー応用技術グループ
くろまる これまでの成果
当社通信部門において非常用電源装置用蓄電池の取替判断基準に本手法の
適用を目指します。
1 取替判断基準の精度向上
・より正確に蓄電池の内部状態を診断するため、蓄電池内部抵抗をモデル化
・上記モデルを基に、内部抵抗と蓄電池容量について実測データを収集・分析
・実測データの分析結果、MSE型鉛蓄電池のより高精度な取替判断手法を考案
(注記)本判断手法は特許出願準備中
2 より長く使用するための方策提案
・直流電源装置内蓄電池の設置状況等の周辺環境に応じた最適な使用方法を提案
(多段設置の空調管理方法や多段設置に比べた平置きの劣化抑制の可能性等)
当社では、非常用電源として鉛蓄電池を組み込んだ直流電源装置を
設置・運用しています。安定性と経済性とを考慮し、取替判断基準の
さらなる高精度化によるコスト低減を目的とし研究に取り組みました。
くろまる 今後の展開
パリ協定達成に向けて、2050年までに温室効果ガスの排出量を80%削減するため、
化石燃料から電気への大胆なエネルギーシフトと大幅な省エネが強く求められて
います。特に、業務用・産業分野における電化ポテンシャルは大きく、この分野の
電化推進にはヒートポンプの技術開発が必要不可欠となります。
工場における温排水など未利用
エネルギーの有効活用のため、
設置場所の自由度が高い「3ピース
型ヒートポンプ(排熱回収型の一種)」
に関する研究を行い、実フィールドにおける単体性能において、長距離熱搬送
(冷媒距離105m)時の目標性能を達成しました。
3ピース型ヒートポンプの概略図
熱源(水や空気)
冷却ユニット(蒸発器) 加熱ユニット(凝縮器)
冷媒配管
セントラルユニット
冷媒配管
熱供給
冷熱
利用側
排熱
回収側
圧縮機
温熱
利用側
膨張弁 水配管
水配管PumpPump
更なる業務用・産業分野におけるヒートポンプの適用拡大を図るため、技術営業
のニーズに基づく技術課題を整理し、研究開発を進めていきます。
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しろまるしろまるグループ
生物資源研究センターは、1946年に九州配電(株)農事電化指導農場という
名称で発足し、1951年、電力再編により九州電力 電化試験場として承継し、
その後の変遷を経て現在に至ります。
「食糧増産の一助として農作物の栽培、耕転その他に電力資源を有効に
活用すべく試験研究の用に供する」ことを目的に発足した当センターは、
ヒートポンプの利用技術、省エネ技術、貯蔵技術、植物の機能性等、
時代の要請に対応した技術の改良・開発の研究を推進してきました。
今後も当社ビジョン等を踏まえ、九州における重要な産業である農業
分野の成長・発展に寄与するため、ICTやロボット、AIの先端技術の導入
等について農業者や企業、行政等の関係者と連携し、開発から普及に至る
研究を効率的に進めます。
くろまる 主な研究テーマ
・農業分野の省エネルギー・電化推進技術
・ヒートポンプ利用技術、栽培技術
・環境アセス重要種の保全・増殖技術
・微生物利活用技術
・技術相談、技術コンサルを含む
希少植物の保全技術を開発
国や鹿児島県が保護を要する希少種として指定
する植物等であって、川内原子力発電所(鹿児島県
薩摩川内市)周辺において確認されたものにつき、
保全技術の研究開発を実施しています。
くろまる これまでの成果
くろまる 今後の展開
藤原 亮太
副主幹研究員
:平成7年度入社
生物資源研究センター
生物資源グループ
当センターにおけるハウス栽培による繁殖後、現地へ
の植栽を継続してきました。これにより、4種の希少植物
の自然繁殖に成功し、一部、保全対策を確立しました。
まだ現地での自然繁殖が確実でない希少植物種等につき、
繁殖条件の解明、並びに植栽を進めています。
保全成功の植物種 国、県の希少種指定
フユノハナワラビ
(鹿児島県)準危惧種
ハタザオ
ツルマメ
カワヂシャ
(国)準絶滅危惧種
(鹿児島県)準危惧種
【ショウロ:ショウロ科ショウロ属のキノコ】
海岸林のクロマツの根と共生(栄養をやりとり)して
生息するが、キノコ発現の条件が未解明
【オオバノトントボウ:ラン科ツレサギソウ属の多年草】
菌従属栄養植物であるオオバノトンボソウは、樹木・
外生菌根菌と3者で共生して生息するが、鉢植え等の
人工的栽培環境で共生を構築し繁殖した例がなく、
自然生息においても繁殖条件が未解明
オオバノトンボソウ
ショウロ
ショウロ菌の培養操作の様子
上寺いちご園
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今後の普及拡大が見込まれるEVを電力需給バランスの調整に活用する
ため、EVに蓄電された電力を電力系統に逆潮流させるV2G(Vehicle to
Grid)技術等について検証しています。
具体的には、EVを活用して、太陽光発電出力制御量の低減や、揚水機・
火力機の出力調整の負担軽減を行うため、充放電制御量のポテンシャルを
評価し、需給調整市場等において活用できるかを検証します。
くろまる これまでの成果1 EVの充放電制御ポテンシャルの評価
くろまる これまでの成果2 EV制御システムの開発
【特集】九州V2G実証事業
図1 九州エリアの電力需給の現状 図2 2018年度実証設備の構成イメージ
(当社総合研究所内に設置)
九州エリアのEV導入予測(2030年断面で120万台)と、充放電器への接続率を考慮
したEVの充放電シミュレーションを実施し、ポテンシャルを評価しました。
その結果、V2G充放電器を普及させることで、V1Gに比べてポテンシャルが拡大
することが確認できました。
(注記) EVユーザーを対象としたアンケート結果(クリーンエネルギー自動車普及に関する調査報告書、平成29年3月)により、EVの
充電器への接続率の実態を考慮
ゲートウェイに各EVへのDR指令値の配分制御機能等を付与したV2Gシステムを
開発しました。
当社総合研究所での機能実証の結果、DR指令に対して1分程度で追従可能である
ことが確認できました。
図3 試験結果例(5kW 3時間の放電試験)
くろまる 今後の展開イメージ
2019年度は、外部システムとの連携を行うとともに、充放電ステーションの拡張
に併せて、複数拠点・複数台数のEVを統括制御するシステムの構築を行います。
実証事業概要
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MEMO MEMO
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くろまるJR佐賀駅から佐賀市営バス(32番)乗車、
東高木バス停にて下車、徒歩10分
くろまる佐賀大和インターから6km、車で15分
くろまるJR佐賀駅から3km、車で10分
くろまる福岡空港から地下鉄博多駅にて下車
JR博多駅から西鉄バス(47、48、48-2番)乗車、
清水四丁目バス停にて下車、徒歩1分
くろまる天神から西鉄バス(W1〜4番)乗車、
南市民センター前にて下車、徒歩5分
くろまる西鉄大橋駅から西鉄バス(47、48、48-2、63番)乗車、
清水四丁目にて下車、徒歩1分
くろまるJR竹下駅で下車、徒歩10分
くろまるタクシー JR博多駅から15分、福岡空港から25分
南市民
センター前
バス停
九州電力 総合研究所 Annual Report 2018 2019年10月発行
〔作成部署・お問合せ先〕
九州電力株式会社 テクニカルソリューション統括本部
総合研究所 研究企画グループ
〒815-8520 福岡市南区塩原二丁目1番47号
T E L:092-541-3090(代表)
Email:gyoumukanri_souken@kyuden.co.jp

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