Annual Report 2023九州電力株式会社
総合研究所
2023年度 総研アニュアルレポート
ごあいさつ 1
総合研究所のビジョン 2
総合研究所の重点取り組み 3
技術開発の実施状況 4
組織情報 6
トピックス 8
目 次
研究紹介
I 脱炭素社会の牽引 9
II エネルギーサービスの高度化 16
III スマートで活力ある社会の共創 21
社外委員等活動状況 26
社外発表実績、社外表彰実績 27
知的財産の取組み 28
研究設備レンタル及び技術コンサルティング 32
社内外へのお役立てに向けた取組み
Annual Report 2023
ごあいさつ
総合研究所 Annual Report 2023の発刊にあたって
九州電力株式会社
執行役員 テクニカルソリューション統括本部
総合研究所⻑ 松 本 一 道
昨年度はOpenAI社のChatGPTに代表されるように生成AIの活用が一般的になり、大きく
世界を変えました。また、機械学習の様々な分野への適用も進んだ一年でした。
今後は様々な分野で更にデジタル化が進み、半導体製造やハイパースケールデータセンター
向け電力需要は今後ますます増大すると予測されます。また、脱炭素の潮流は若干現実的な
トランジションを意識したものに変わってきています。しかし、エネルギー供給の不安定性は
ウクライナ侵攻、ガザ地区紛争で、緊張感が高いままです。
テクノロジーが今後のエネルギー供給、カーボンニュートラル(脱炭素)、社会課題解決の
キーポイントであるのは間違いないと思います。制度や仕組みが追いつかないほどに、現代
テクノロジーは指数関数的な進歩を遂げている今、電力の安定供給に向けた技術開発、電気を
軸に様々な社会課題解決に向けた技術開発は、スピードが求められており、当社単独でできる
時代ではなく、他者との共同研究や他者技術との組み合わせが最も効果的であると考えます。
総合研究所は、九州電力グループの技術シンクタンクとして、様々な課題解決に応じられる
よう、従来の電力安定供給に加え、「カーボンニュートラル」、「電気を軸にしたエネルギー
サービスの高度化」、「デジタル化に対応したスマートで活力ある社会の共創」に向け、技術
開発・他社とのコラボレーションを幅広くかつ果敢に進めることとしています。
一方で、開発した技術を価値化できるように、昨年策定した「九州電力の知財戦略」に基づ
き、技術起点の事業化も強化する体制を構築していくこととしております。
研究開発の内容は当アニュアルレポートをご一読いただけるとその一端が分ると思います。
当研究所ではここで紹介する以外の研究開発も行っております。
電気、エネルギーにかかる多様な課題の解決に向け、社内外皆さまのご意見、疑問やお申し
出は、歓迎いたします。どうぞ九州電力総合研究所をご活用ください。
2024年7月
Annual Report 2023 1
研究・技術開発を通じ、
『技術』を「きずき」「みがき」「つなぐ」
ことで、お客さまと共に新たな価値を創ります
技術を「きずき」、確固たる基盤をつくりつづけます
技術を「みがき」、変革にも迅速かつ柔軟に対応しつづけます
技術を「つなぎ」、新たな価値を創造しつづけます
総合研究所のビジョン制定の目的
取り巻く環境が大きく変化する中、
「九電グループ経営ビジョン」を踏まえ
総合研究所員・外部パートナーが
同じベクトルで価値共創の実現を
進めていくために、「将来のありたい姿(想い)」
を共有する必要があると考え、
『総合研究所のビジョン』を策定(2019年4月)
総合研究所のビジョン
2 Annual Report 2023
総合研究所の重点取組み
Annual Report 2023 3
近年、IoTやAIなどのデジタル技術をはじめとするテクノロジーの発展は目覚ましく、我々の
生活様式を変化させると共に、これまでにない新たな事業分野が創出されるなど産業・ビジネス
においても大きな変革をもたらしています。
テクノロジーの活用によってさまざまな価値創出が期待でき、九電グループが推進するサステ
ナビリティ経営の実現に大きく貢献できることから、より効果的かつ効率的に技術開発に取り組
むために「九州電力の技術開発戦略」を策定しました(2023年12月)。
〔技術開発戦略〕
くろまる3つのマテリアリティ「脱炭素社会の牽引」、「エネルギーサービスの高度化」、「スマートで
活力ある社会の共創」の解決に必要な技術開発を推進し新たな価値を創出する
くろまる 「技術開発を通じた価値創出」の取組みを下支えする「技術開発の基盤」として、「先進技
術調査」や「社会経済研究」等の強化を図る
九州電力の技術開発戦略
技術開発の重点実施項目
総合研究所は九州電力技術開発戦略における「脱炭素社会の牽引」の解決に資する技術開発、
及び「技術開発の基盤」に関する取組みを重点実施項目に設定し取り組んでいきます。
脱炭素社会の牽引 電源の低・脱炭素化や電化推進などに資する技術開発を推進
先 進 技 術 調 査 新たな取組み領域の開拓に向け、Deep Techについての動向を注視
社 会 経 済 研 究 電力事業制度や経済・金融分野など経営基盤に関する調査研究を強化
「エネルギーサービスの高度化」については、S+3Eの観点から必要な技術開発を継続する
と共に、「スマートで活力ある社会の共創」についてもカーボンニュートラル実現に向けた
取組みを通じて、多様化する地域・社会の課題に対するソリューションを提供し九州の持続
的発展に貢献していきます。
総合研究所では、「九電グループ経営ビジョン2030」に掲げる「2030年のありたい姿」並びに
「九電グループカーボンニュートラルビジョン2050」及び「九電グループカーボンニュートラル
の実現に向けたアクションプラン」に基づき、エネルギーサービス事業における「S+3E」を堅持
しつつ、社会と当社グループのサステナビリティを実現する上で優先的に取り組むべき経営上の
重要課題(マテリアリティ)解決に必要な技術開発に取り組んでいます。
2023年度は44件の研究に取り組みました。主な研究件名は、以下のとおりです。
《件名の末尾に★を付記したものは、「研究紹介」で内容を掲載しています》
I 脱炭素社会の牽引
電源の低・脱炭素化
研究件名
グループ名
ナノカーボン技術を応用した高効率な水電解電極の開発★
低炭素化技術
水素エネルギー技術動向調査
バイオガス燃料電池に関する研究
LNG火力発電所におけるLNG冷熱を利用したCO2回収システムに関する研究
水素燃焼技術に関する基礎研究
再生可能エネルギーアグリゲーション実証事業★
地域エネルギーシステム
技術開発の実施状況
環境負荷の低減
研究件名
グループ名
耐塩害低炭素型コンクリートの開発
社会インフラ 木質バイオマス灰とフライアッシュを用いたジオポリマーの物性に関する
調査研究
カーボンリサイクル技術開発動向調査★
低炭素化技術
電化の推進
研究件名
グループ名
蒸気ボイラ給水予熱特化型CO2ヒートポンプの開発
電化推進技術
産業分野における需要設備の電化メリット訴求方策の検討★
商用EV向けEMSの開発
法人向けEV充電サービスの開発★
トマト栽培におけるヒートポンプ周年利用技術に関する実証研究
農業電化
ナス栽培におけるヒートポンプ周年利用技術に関する実証研究★
4 Annual Report 2023
研究件名
グループ名
AIによる火力発電所ボイラチューブ材余寿命評価技術の開発
化学・金属
高クロム鋼厚肉溶接部の余寿命評価技術の高度化に関する研究フェイズ2
原子力発電所におけるDXを活用した機器点検の効率化及び技術継承支援に
関する研究
電気的パルスによる海水水路への貝類付着防止に関する研究★
火力発電ボイラ低合金鋼のクリープ余寿命評価の高度化に関する研究
1次系水処理技術の最適化及び廃樹脂量低減に向けた研究★
新大分発電所における脱ヒドラジン水処理法の適用化研究
次世代配電ネットワーク構築に関する研究
地域エネルギーシステム
環境アセス重要種の保全・増殖に関する研究
農業電化
II エネルギーサービスの高度化
低廉なエネルギー
研究件名
グループ名
松浦発電所排脱排水設備の運用効率化に関する研究
化学・金属
配電線の事故原因および事故発展リスクの推定精度向上に関する研究
ネットワーク技術
高耐食高分子材料の適用に関する研究
避雷装置の劣化状況把握に関する研究
GIS、画像データ等の活用による配電業務の効率化、高度化に関する研究
部分放電測定手法の高度化に関する調査研究
ダイナミックレーティングを適用した際の変圧器寿命への影響評価に関す
る調査研究★
ケレン管理・検査工程の自動化等に関する調査研究★
ブッシングのアルカリシリカ反応に伴う劣化推定の自動化に関する研究
変電所構内22kV以上のCVケーブルの絶縁劣化診断に関する研究
電気事故現象解析に必要な測定性能に関する研究
スペクトル解析とAIを用いた社会インフラ設備の劣化診断手法の開発
社会インフラ RC(レベニューキャップ)制度第2規制期間に向けたコン柱の劣化評価に関す
る研究
エネルギーサービスを核としたソリューションの提供
研究件名
グループ名
AE法による風車軸受診断技術の適用研究
化学・金属
雷エネルギー測定システムの活用に関する研究
ネットワーク技術
研究件名
グループ名
植物工場におけるイチゴ栽培の高度生産技術に関する実証研究★
農業電化
III スマートで活力ある社会の共創
Annual Report 2023 5
研究件名
グループ名
分散型電源を活用したマイクログリッドの運用技術の検証★
地域エネルギーシステム
実フィールドにおける地域エネルギーシステム構築・運用に関する研究
地域エネルギーシステムに関する制度動向調査
配電系統や小規模系統等におけるGFLの課題把握及びGFMによる改善効果
検討
スマート社会の実現
地域の活性化
エネルギーの安定供給
組織情報(各グループの業務紹介)
総合研究所の組織体制は、研究に関する企画・計画・運営・知財管理等を行う「スタッフ
グループ」と分野毎に研究に取り組む「研究グループ」で構成しています。各グループの主な担当
分野や業務内容は以下のとおりです。
スタッフグループ(2グループ)
知財・共創推進グループ
研究企画グループ
◦研究成果等保有技術活用促進
◦全社の知的財産出願、管理、活用促進
◦研究実績管理
◦研究成果管理
◦他企業連携 など
◦技術開発戦略策定・統括
◦社会経済研究
◦研究所業務運営統括
◦研究企画・計画
◦組織・人事計画、人材育成
◦産学官連携 など
6 Annual Report 2023
研究グループ(7グループ)
社会インフラグループ
化学・金属グループ
◦社会インフラ設備基盤の調査・計測・評
価技術
◦社会インフラ設備の調査・劣化診断・余
寿命評価・耐震性等健全性評価技術
◦社会インフラ設備に関する新技術・新素
材の開発
◦化学分析・評価技術
◦腐食・防食技術
◦環境保全・修復技術
◦設備寿命評価技術
◦非破壊検査技術
◦設備健全性評価技術(水質、金属)
低炭素化技術グループ
ネットワーク技術グループ
◦水素・アンモニア等の脱炭素燃料関連技
術(製造、熱・電気利用、火力混焼他)
◦バイオマス燃料、CCUS技術(CO2分離・
回収・利用・貯蔵など)
◦変電、送電、配電設備保全高度化技術
◦電気絶縁技術
◦雷害対策関連技術
地域エネルギーシステムグループ
電化推進技術グループ
◦エネルギーマネジメント技術(VPP、
xEMS)
◦次世代配電系統関連技術
◦DER活用による次世代エネルギーシステ
ム関連技術
◦地域エネルギーシステム構築コンサル
ティング支援
◦産業部門の電化推進技術(ヒートポンプ、
電気加熱など)
◦運輸部門の電化促進技術(充放電インフ
ラ、電力貯蔵など)
農業電化グループ
◦農業分野の省エネルギー・電化促進技術
(ヒートポンプ利活用、植物工場技術等)
◦ 微生物利活用技術
◦社内外技術支援(ヒートポンプ利用技術、
栽培技術等)
・2019年に農業省力化や生産性向上に
つながるスマート農業の普及を目指
したオール電化栽培ハウスとして開設
・これまで培ってきた農業電化の技術
や知見を活かし、統合環境制御等に
よる年間を通じたイチゴ栽培技術の
確立に向けた実証試験を実施中
・生産したイチゴは地元朝倉市にある
「道の駅」などで販売
・1946年に九州配電(株)農事電化指導
農場として発足
・1951年に九州電力(株)電化試験農場
として承継、現在に至る
・管理棟、ガラスハウス、硬質フィル
ムハウス、ビニールハウスで構成
・ヒートポンプ利用技術や養液栽培技
術に関する施設園芸研究等を実施
・今後も引き続き、九州の主要な産業
である農業分野の成⻑・発展に寄与
する研究を推進
・2013年にスマートグリッド実証試験
のための模擬配電試験設備を構築
・太陽光発電が大量に導入された場合
における配電線の電圧面の課題に対
する対策の導入効果を技術的に検証
・これまでに、電力品質改善のための
電圧調整機器の動作試験等の各種試
験を行い、現場への実装に向けた成
果を供出
・今後は、オフグリッドにおける電力
品質、系統保護等の試験を計画
研究施設のご紹介
管理棟
農業電化試験場(佐賀市)
模擬配電線路
太陽光発電
薩摩川内試験場(薩摩川内市)
Annual Report 2023 7
生産棟
育苗棟
上寺いちご園(朝倉市)
担当研究者からの一言a
今回の受賞にあたり、本研究に携わられた皆様方、試験等の実施にあたり多くの関係
者のご協力が不可欠でした。ご協力に感謝申し上げます。
今後も研究成果の社外発信を続けて技術力向上に努めます。
上野貴行
8 Annual Report 2023
トピックス
総合研究所の研究成果が
電力土木技術協会・土木学会⻄部支部から表彰されました
【社会インフラグループ】
この度、社会インフラグループの研究成果が、電力土木技術協会より「高橋賞」と「技術奨励
賞」を、土木学会⻄部支部より「奨励賞」を受賞いたしました。
受賞した研究の概要
授賞式の様子
 FRP格子筋とポリマーセメントモルタルを用いた導水路補強工法の合理化
(研究期間:2020〜2022年)
経済産業省は、再生可能エネルギーの普及促進を目的
に、固定価格買取(FIT)制度を導入しています。その
内、水力発電においては、「FIT制度での売電にあたり、
水力発電所には発電設備の更新・改良が必要である」と
規定しています。導水路トンネルの改良工法として当社
では、繊維強化プラスチック(FRP)格子筋とポリマー
セメントモルタル(PCM)吹付による補強工法を多数の
現場で採用しています。一方、当社総合研究所では、本
工法で使用する従来品の改良案を整理し、「材料のコス
ト低減を目的としたFRP格子筋」、「施工効率向上及び
PCM表面形状の品質向上に資するアンカー」を開発し、
社内の導水路補強工事へ実装しました。
 AIによる導水路覆工コンクリート背面空洞分析支援システムの開発
(研究期間:2019〜2020年)
導水路覆工コンクリートの背面空洞調査は、一般に電
磁波レーダー探査機が用いられています。しかしながら、
この探査機から得られる情報を用いての背面空洞の有無
の判定は、技術者の経験に基づく分析ノウハウに左右さ
れ、その制度も個人によってばらつきがあります。そこ
で判定精度の高いベテラン技術者のノウハウを整理し、
人工知能(AI)化による背面空洞分析支援システムを開
発しました。
高橋賞、技術奨励賞授賞式 (電力土木技術協会) 奨励賞授賞式 (土木学会⻄部支部)
代表研究者からの一言a
本研究領域はカーボンニュートラルな社会に必要不可欠な技術であるだけではなく、
水素やCNTなど世界最先端の研究を取り扱う面白さもあります。課題を一つずつ着実に
解決し、早期の社会実装につなげます。九州から世界を照らしていきます。
ナノカーボン技術を応用した高効率な水電解電極の開発
【研究期間2022〜2024年、低炭素化技術グループ】
水電解電極触媒の開発
水電解とは、電気エネルギーを使って水を水素と酸素に分解する技術です。水電
解の電極には金属触媒*3として、白金などの貴金属も利用されており、高コスト化
の要因の一つとなっています。また、稼働時間が⻑くなると、この金属触媒が凝集
し効率が低下してしまうことも課題です。
当グループではこれらの課題解決に向けて、東京大学大学院工学系研究科と共同
研究を進めています。本共同研究では、東京大学未来ビジョン研究センター(注記)が保
有するカーボンナノチューブ(CNT)*4関連技術等を応用します。従来の電極と比
較して、高い電解効率で、白金等の貴金属使用量を低減した電極材料を開発し、水
素製造コストの低減を目指します。
現在までに貴金属等の触媒金属使用量低減を可能とし、高効率化のためのキーパ
ラメーターを抽出しました。更なる高効率化のために電極触媒設計から水電解デバ
イス設計まで、それぞれの要素技術を精査していきます。
(注記)東京大学未来ビジョン研究センター研究担当
副センター⻑ 坂田一郎 教授 (東京大学大学院工学系研究科教授、総⻑特別参与)
古月文志 特任教授
政府は、2050年のカーボンニュートラル*1実現を宣言し、第6次エネルギー基本
計画において2030年度の電源構成で水素*2・アンモニアを1%程度とすることを示
しました。当社は、特に火力発電所の低・脱炭素化を一層推進していく必要があり
ます。水電解は火力燃料になる水素を製造する技術です。本研究では、将来の火力
発電所での水素活用を見据えつつ、実用化に向けた技術開発と課題抽出等を実施し
ます。
図1 水電解のイメージ図
<CNTで構成されたフィルム>
電極材料の低コスト化
(貴金属の使用量低減)
<CNTのイメージ図>
目的・背景
成果の概要
*1:カーボンニュート
ラル
温室効果ガス(二酸
化炭素等)の排出を
全体としてゼロにす
ること
*2:水素
炭素を含まないため、
燃料として燃焼した
時に二酸化炭素を排
出しない
*3:触媒
化学反応を促進する
物質
*4:カーボンナノ
チューブ(CNT)
炭素原子のみで構成
される直径が数ナノ
メートル(注)の円筒状
物質。物理的な強度
が高く、導電性に優
れている
Carbon Nanotube の
略称
(注)ナノ= 10億分の1
将来の火力発電所での水素混焼や地域エネルギーシステムでの水素利活用を見
据えて、産官学を巻き込んだネットワークの形成や実用化への課題抽出等を並行
して実施します。
今後の展開顔写真
濱﨑祐樹
Annual Report 2023 9I研 究 紹 介
再生可能エネルギーアグリゲーション実証事業
【研究期間2021〜2023年、地域エネルギーシステムグループ】
目的・背景
成果の概要
10 Annual Report 2023
PV発電量予測の高度化
アグリゲータ*2が九州エリア内のPV発電所(14発電所、40.6MW)を束ねてバラ
ンシンググループ*3を形成し、その発電電力を卸電力市場等に売電することを想定
します。その際、アグリゲータが売電収益を最大化するには、インバランス*4精算
に係るコストを最小化する必要があるため、発電量予測の精度について検証しました。
アグリゲータが、卸電力市場との取引などの各イベントで翌日発電計画を策定、
または修正するタイミングを2日前7時、前日7時、前日17時、当日7時、当日ゲー
トクローズ*5 (以下、GC)1時間前、当日GCとして、予測値と実績をMAPE*6で評
価しました。なお、発電量予測の誤差評価は日射のある時間帯(6〜18時)としま
した。
評価の結果を図1に示します。月毎に予測誤差の大きさは異なる傾向にありまし
たが、総じて予測タイミングが実需給に近いほど精度が向上することを確認しまし
た。しかし、その改善効果は2%程度であり、当日GCの予測誤差(5%程度)の方
が大きいことも分かりました。さらに、7、8月の予測誤差が他月に比べて大きめ
の傾向にあることを⺠間気象会社に確認したところ、「積雲が発生する時期には小
スケール(数十m〜数百m)の雲が発生しやすく、このような雲は予測が難しい傾
向にある」ということがわかりました。
FIP制度*1の導入等を踏まえて、変動性の高い太陽光(以下、PV)発電設備と蓄
電池を組み合わせ、需給バランス確保のための再エネ発電量予測や、リソース制御
に必要となる技術等の技術実証を行いました。
なお、本実証は、経済産業省資源エネルギー庁の「蓄電池等分散型エネルギーリ
ソース次世代技術構築実証事業」の補助金を受けて、東芝ネクストクラフトベルケ
(株)のコンソーシアムの一員として実施しました。
再エネアグリゲーションに必要なDERの最適運用
アグリゲータがPV発電所を束ねて運用する場合(図2)の行動として、表1の8つ
のシナリオを設定しました。同表において、「全量」とはPV発電量予測の全量を
スポット市場に入札すること、「1σ下限」とは日射量予測のブレを考慮し1σ
(68.3%)の信頼区間幅の下限値をスポット市場に入札することを示しており、
「全量」に対して低めのPV発電量予測となります。なお、信頼区間幅の情報につい
ては、日射量予測の付加情報として⺠間気象会社から配信を受けることができます。
図1 PV発電量予測結果(月毎)
*1:FIP制度
固定価格で買い取る
FIT制度と違い、再エ
ネ発電事業者が卸市
場などで売電した時、
その売電価格に対し
て一定のプレミアム
(補助額)を上乗せ
することで再エネ導
入を促進する制度。
なお、再エネ発電事
業者は発電する再エ
ネ電気の見込みであ
る「計画値」をつく
り 、 実 際 の 「 実 績
値」と一致させるこ
とが求められる
Feed In Premium の
略称
*2:アグリゲータ
需要家が持つエネル
ギーリソースを束ね、
需要家と電力会社の
間に立って、電力の
需要と供給のバラン
スコントロールや、
各 需 要 家 の エ ネ ル
ギーリソースの最大
限の活用に取り組む
事業者のこと
*3:バランシング
グループ
インバランスを算定
する対象となる単位。
小 売 電 気 事 業 者 の
「需要バランシング
グループ」と発電事
業者の「発電バラン
シンググループ」が
ある
*4:インバランス
実需給における計画
と実績の差をインバ
ランスといい、イン
バランスは一般送配
電事業者が調整力を
用いて補填・吸収す
る。インバランスを
発生させた者は、イ
ンバランス分の電気
について一般送配電
事業者との間で事後
精算
*5:ゲートクローズ
系統利用者(発電事
業者、小売電気事業
者)から系統運用者
への需給計画の提出
締切。現状、実需給
の1時間前
*6:MAPE
平均絶対パーセント
誤差
Mean Absolute Per-
centage Errorの略称 IAnnual Report 2023 11
図3 アグリゲータの収益最大化のためのシナリオ予測
また、需給計画変更の各タイミングでは、スポット市場約定量とその時点のPV発
電量予測の差分について時間前市場を活用し取引を行います。
現行のインバランス料金制度では、アグリゲータが余剰インバランスを収入源と
誤認し、系統内に多くの余剰インバランスを生み出す虞があります。また、一般送
配電事業者にとっては、余剰吸収と調整力確保に係る費用が膨らみ、ひいてはエネ
ルギー供給強靭化法の再エネ主力電源化(最大限の導入と国⺠負担抑制の両立)に
とって望ましくない状況を生み出す虞があります。本件は、2023年9月に電力・
ガス取引監視等委員会に提言し、重要な示唆として認識いただくことができました。
図2 アグリゲータと各アクターとの関係
表1 アグリゲータの行動シナリオと設定
シナリオ
需給計画 需給計画変更
前日7時 当日7時 GC1時間前 GC1スポット市場(全量)
2 時間前市場(前日差)
3 時間前市場(前日差)
4 時間前市場(前日差)5スポット市場(1σ下限)
6 時間前市場(前日差)
7 時間前市場(前日差)
8 時間前市場(前日差)
設定項目 設定内容
PV発電計画の策定 ・ 日射量予測を基に策定(シナリオ1〜4)
・ 日射量予測(1σ下限)を基に策定(シナリオ5〜8)
スポット市場取引 JEPX 九州エリアスポット市場価格の実績値を使用
時間前市場取引 JEPX 九州エリアスポット市場価格の実績値を使用
・ 時間前市場から電力を調達する場合には、市場価格の高値を使用
・ 時間前市場へ電力を供出する場合には、市場価格の安値を使用
インバランス料金 インバランス料金情報公表ウェブサイトのインバランス料金単価の実績値を使用
プレミアム単価 資源エネルギー庁 再エネ特措法改正関連情報(WEB)の「FIP制度の簡易シミュレーション」を基に算定
環境価値 JEPX 非化石価値取引市場取引結果を使用
バランシングコスト 資源エネルギー庁 再エネ特措法改正関連情報(WEB)の「FIP制度について」を基に2022年度は1.0円/kWh代表研究者からの一言a
電力の安定供給と経済運用を市場原理を用いて両立させ、真に国⺠の利益となるように
制度を構築することは容易でないと思います。一方で、本考察と同様に新たな制度で課題
が見つかる場合もあると思います。今後も電気事業に係る関連制度や国の審議会の内容を
ウオッチして情報をアップデートしつつ、社内外に対し情報発信できるよう努めてまいり
ます。顔写真
鈴木直人
電力・ガス取引監視等委員会への提言
*7:JEPX
日本卸電力取引所
Japan Electric Power
eXchangeの略称
*8:TSO
一般送配電事業者
Transmission
System Operatorの略称*9:OCCTO
電力広域的運営推進
機関
Organization for Cr-
oss-regional Coordi-
nation of Transmiss-
ion Operatorsの略称
検証期間(2022年4月〜
11月)における各シナリオ
の収支結果を図3に示しま
す。同図より、シナリオ5
(日射量予測の1σ下限を
PV発電計画としてスポット
市場取引のみ実施)がアグ
リゲータの収益最大化につ
ながることを確認しました。
また、不足インバランス
料金は、需給ひっ迫時に
200円/kWh(2024年度以降、
600円/kWh)まで上昇する
可能性があるため、現行制
度下においては可能な限り
最小化することが望ましい
と考えると、不足インバラ
ンスが最小となるシナリオ
5が妥当と考えられます。
よって、アグリゲータは
収益最大化のために、シナ
リオ5の需給管理を選択す
ると予測しました。
代表研究者からの一言a
2050年カーボンニュートラル宣言以降、カーボンリサイクルの分野は現在、さまざま
な新規技術が研究されております。有望な技術を見極め、技術開発に繋げることで電力
の低脱炭素化に継続して取り組んでいきます。
カーボンリサイクル技術開発動向調査
【研究期間2022年〜、低炭素化技術グループ】
当社は、2021年4月に「九電グループカーボンニュートラルビジョン2050」を
策定しており、今後カーボンニュートラル実現に向け計画の具現化が必要となっ
ています。本研究のCCUS *1 /カーボンリサイクル*2技術は、カーボンニュートラ
ル実現への寄与が期待される分野です。このため最新技術動向の把握や実現可能
性評価を継続して実施していきます。
カーボンリサイクル技術の前提となる二酸化炭素(CO2)分離回収について、主
に火力発電所に適用可能な化学吸収法に注目し調査を行い、LNG冷熱を利用した
CO2分離回収システムの適用について個別研究を実施しています。
また、排出されたCO2を地下帯水層や鉱物化などを用いた貯留技術について、国
の政策動向や技術実証の動向を確認・調査しています。
(注記)研究担当
総括、バイオマス*3担当:小宮山副主幹研究員
CCUS調査全般:中尾研究員
CO2分離回収担当:谷口研究員
DACCS担当:副島副主幹研究員
今後も新技術開発動向や経済性等を調査し、将来有望な基礎研究について、企
業・大学との共同実施に向けて取り組みます。
*2:カーボンリサイクル
CO2を資源と捉え、こ
れを分離・回収し、
鉱物化や人工光合成、
メタネーション(注)に
よる素材や燃料への
再利用技術とともに、
大気中へのCO2排出を
抑制していくこと
(注) メタネーション
とは、水素とCO2から
都市ガス原料の主成
分であるメタンを合
成すること
*1:CCUS
CO2を分離・回収し、
利用・貯留する技術
Carbon dioxide Cap-
ture, Utilization and
Storageの略称
目的・背景
成果の概要
今後の展開顔写真
小宮山晶子
*5:DAC
大気中のCO2を直接回
収する技術
Direct Air Captureの
略称
*6:SAF
持続可能な航空燃料
Sustainable Aviation
Fuelの略称
*3:バイオマス
動植物などから生まれ
た生物資源の総称
*7:ネガティブエミッ
ション
大気中のCO2を削減す
る技術。
植林や岩石の風化促
進などの自然プロセ
スを人為的に加速さ
せる手法、バイオマ
ス発電と組み合わせ
た手法、DACを利用
した手法など
*4:CCS
排出されたCO2を分離
回収し、安定した地
層に貯留する技術
Carbon dioxide Cap-
ture and Storageの略称図1 火力発電の低・脱炭素化に向けた研究開発マップ(CCUS/カーボンリサイクル)
12 Annual Report 2023
代表研究者からの一言a
これまでのやり方を変えることは、製造業の方々にとっては勇気のいることですが、
電化でしか得られない様々なメリットがあります。これを広く知っていただくことで
電化機器導入を後押し、カーボンニュートラルに貢献していきたいと考えています。
産業分野における需要設備の電化メリット訴求方策の検討
【研究期間2023〜2024年、電化推進技術グループ】
アンケート調査実施
電化メリットを訴求するにあたり、まず
は「工場で働く人々が実際にメリットを
感じているのか実態を知りたい」という
思いから、事業者や作業員の生の声を把
握するため、不特定多数の工場勤務者に
対して匿名によるWEBアンケートを実施
しました。
アンケート調査の評価
自身の工場の電気加熱機器について認
知している人(528人)のうち、76%が「電
化について満足している」という結果が
得られ、導入お客さまの電化に対する評
価が高いことが分かりました。
他にも「作業時の安全性の向上」、
「生産量や生産できる品種の増加」、
「夏季の温度・湿度が快適になった」と
実感している人が多いことを確認できました。
図1 エレクトロヒート*2
技術領域
(出典:日本エレクトロヒートセンター)
幅広い温度帯の熱需要がある産業分野の生産工程におい
ては、ヒートポンプ*1、誘導加熱、赤外線加熱といった
様々な電化技術があり、また、研究開発も日々進められて
います。
一方、産業分野は電化が進んでいるとはいえず、その背
景には、工場毎に生産状況が異なり個別に設計をする必要
があることや、電気加熱機器はイニシャルコストが一般的
に高いこと等が考えられます。
しかし、電化には、作業環境の改善や生産時間の短縮な
ど多くのメリットもあります。このメリットをアピールす
ることができれば、電化を推進する一助となるのではない
かと考えました。
今回のアンケート結果をもとに、引き続き統計的手法を用いた深堀り分析を行い、
需要設備の電化訴求方策について具体的な展開を進めてまいります。
[調査方法] WEBアンケート
[調査対象] 3年以内に燃焼機器から
電気加熱機器に変更した
経験を有する工場勤務者
[有効回答] 757人
【電化機器導入時の課題(主なもの3点)】 【作業環境の重視度(主なもの3点)】
・ 社内調整 ・ 安全性
・ エンジニアリング人材不足 ・ 操作性(温度調整等)
・ イニシャルコスト ・ 環境性(温度・湿度)
目的・背景
成果の概要
今後の展開顔写真
武原理菜
*1:ヒートポンプ
気体は圧縮すると温
度が上がり、膨張さ
せると温度が下がる
性質があり、この性
質を利用して電気を
動力源に加熱や冷却
を行う電気ヒートポ
ンプがある
*2:エレクトロヒート
電気エネルギーを直
接または間接的に利
用した加熱・冷却の
こと
Annual Report 2023 13I *2:エネルギーマネジメ
ントシステム(EMS)
情報通信技術を用い
て、電力使用量の見
える化、節電のため
の機器制御などを行
うエネルギー管理シ
ステム
Energy Management
Systemの略称
代表研究者からの一言a
これまで実施してきた電気バス向け大容量充放電器開発やSOC消費量予測の研究などで
得られた知見を活用し、「売れる」サービスを検討します。
九州の電化の推進、収益向上に貢献できるよう、引き続き研究開発を展開していきます。
法人向けEV充電サービスの開発
【研究期間2023〜2025年、電化推進技術グループ】
図1 大容量充放電器
(九電テクノシステムズ販売)
運輸部門における電化を着実に進めていくため、国では2035年までに乗用車の
新車販売の電動車割合を100%とすることなどを目標に掲げ、各種技術開発、普及
拡大の取り組みが展開されています。
EV*1普及拡大には、充電インフラの整備・拡大も必要不可欠であり、九電グルー
プとして充電インフラや各種サービスの提供に取り組んでいます。
本研究では、乗用車と比較して電動化が遅れており、今後普及が見込まれる法人
向け商用EVをターゲットにした技術開発とサービス実証を行っています。
EV用充放電器の開発
EVは充放電設備やエネルギーマネジメントシステム
(EMS)*2などと組み合わせて、経済性や環境性を高める
ことが可能です。また、EVを非常災害時のバックアップ電
源としての活用など、いわゆるレジリエンス強化対策とし
ても有効です。
本研究では、2023年3月に開発した電気バス向け大容量充
放電器のノウハウを活かし、更なる低コスト・省スペース
化を志向した新たな充放電器の開発に取り組んでいます。
EVバス向けEMSの開発
路線バスは運行計画が定まっていることから、電化し易いモビリティであり、各
種補助金が増額されるなど、本格導入に向けスタートし始めている状況です。路線
バス事業者さまも計画的に導入を進めていますが、充電に伴う電気料金の上昇や電
欠による運行計画への影響等を懸念されております。
稼働率が高くエネルギー消費量も多い路線バスの電動化は、CO2排出量削減に効
果的であることから、上記課題解決の取組みとして、本研究では、事業所のエネル
ギーマネジメント*3のみらなず、EVバスのモビリティマネジメント*4を包含した
EMS開発に取り組んでいます。将来的には、バス事業者以外への展開も視野に検
討しています。
図2 充放電システム、EMS活用イメージ
充放電
充放電
EMSサーバ
充放電器
充放電器
EVバス
社有車EV
コントロール
路線バス事業者
法人事業者
法人事業者
目的・背景
成果の概要顔写真
荒木友徳
*1:EV
電気自動車
Electric Vehicleの略称
*3:エネルギーマネジメ
ント
事業所の電力使用状
況をモニタリングし
ながら、充放電タイ
ミングの自動制御な
ど、EVの効率的な充
電と電気料金のコス
ト抑制(電力ピーク
カット)を両立させ
る機能を実現
*4:モビリティマネジメ
ント
数十台のEVバスの運
行計画を管理しなが
ら電欠しない充電計
画を作成するなど、
EV運行マネジメント
を実現
14 Annual Report 2023
代表研究者からの一言a
世界的に年々気温が上昇する中、施設園芸における夜冷技術は重要度が増すものと
考えられます。外気温度等の環境条件で効果も違ってくるため、技術確立のためには
反復検証が必要で、最適な夜冷温度条件についても今後検証していきたいと考えます。顔写真
ナス栽培におけるヒートポンプ周年利用技術に関する
実証研究
【研究期間2022〜2025年、農業電化グループ】
*2:ハイブリッド運転
エネルギー効率の良
いヒートポンプを優
先して暖房運転し、
ヒートポンプのみで
はハウス内の設定温
度維持が困難となる
低温時に、燃油暖房
機と併用運転する方法目的・背景
成果の概要
8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月
夜冷 昼・夜間の暖房
春季高温期
定植後
夜冷
だいやまーく
定植
収穫
農業分野における脱炭素化及び電化推進の取組みとして、九州において施設園芸
での栽培が盛んな作物を対象に、農業用ヒートポンプ*1の導入促進を目指した研究
を展開しています。本研究では、九州で全国の40%程度の出荷量を占める冬春ナス
栽培(農業ハウスでの加温栽培)を対象に、ヒートポンプ周年利用技術の有効性に
ついて現地実証試験を行っています。
田道和幸
実証試験の方法
福岡県農林業総合試験場筑後分場さま(福岡県は全国有数の冬春ナス「博多な
す」産地を有する)と共同で、同分場内のビニールハウス(1.4a)2棟を用いて、
ナス栽培における高温期の夜間冷房(以下、夜冷)による収量増や品質向上、及び
ヒートポンプと灯油加温機のハイブリッド運転*2による暖房コスト低減効果、CO2
排出量削減効果等について検証しています。
高温期の夜冷による収量増及び品質向上効果
定植*3後の夜冷では、10〜11月の収量が増加する傾向(+4%)、品質はつやなし果*4
が減少し、可販果率が高まる傾向(+2.2ポイント)を確認できました。春季高温期の夜冷
では、夜間の外気温が低く推移したため顕著な効果は確認できませんでした。
暖房コスト低減効果
灯油加温機のみの暖房に対して、ハイブリッド
暖房は灯油消費量さんかく60%程度の削減効果があり、
暖房の運転コストさんかく10%の低減効果を確認できま
した。
CO2排出量削減効果
ハイブリッド暖房は CO2排出量をさんかく33%(1.6t-
CO2/年/1.4a)削減することができました(図4)。
2025年6月までの3か年で計3作の栽培試験を行い、ヒートポンプ周年利用技術の
有効性について検証結果を取りまとめます。最終的には、ヒートポンプ導入に伴
う増分経費に対して、暖房の運転コスト削減と夜冷による増収の効果を見積もり、
収益向上効果を明らかにする計画です。
図1 実証ハウス(外観) 図2 試験ハウス(内部) 図3 栽培状況
試験ハウス
(HP+灯油加温機)
対照ハウス
(灯油加温機)
灯油加温機(既設)
ヒートポンプ
(5馬力1台)
表1 栽培カレンダー
図4 CO2排出量の比較
*3:定植
植物を苗床から、畑や
栽培ハウス等へ場所を
移して植えること
*4:つやなし果
不良果の一種で、果
皮の光沢がなく消し
炭状にぼける果実。
高温下で発生しやす
い。程度の軽いもの
のみ可販果に分類さ
れる
今後の展開
*1:ヒートポンプ
気体は圧縮すると温
度が上がり、膨張さ
せると温度が下がる
性質があり、この性
質を利用して電気を
動力源に加熱や冷却
を行う電気ヒートポ
ンプがある
Annual Report 2023 15I 電気的パルスによる海水水路への貝類付着防止に関する研究
【研究期間2023年、化学・金属グループ】
目的・背景
成果の概要
16 Annual Report 2023
火力発電所では、発電に利用した蒸気を復水器で冷却して液体に戻し再利用する
ために、海水を利用しています。このとき海水とともにイガイやフジツボの幼生が
流入し、水路の壁面に付着・成⻑するため、それらが水路の抵抗となって海水の
流れを阻害したり、復水器の損傷要因となることから、定期的な水路除貝工事を
余儀なくされています(図1)。
当グループでは、このような海水系統の運用コストを低減するため、イガイや
フジツボの壁面への付着を抑制する研究に取組んでいます。本稿では、電気的な
パルスパワーを利用したイガイ幼生の付着抑制技術に関する熊本大学様との共同研
究について紹介します。
貝類幼生が
海水路に流入
幼生の一部が
壁面に着底
折重なって成⻑し
流れ抵抗に
図1 ×ばつ106W(1,000kW)の瞬時大電力を得られます(図2)。
このような原理に基づきパルスパワーは、医療、産業、漁業など様々な分野で活用、
また活用に向けた研究が進められています。
図2 パルスパワーの概念
放電 : ×ばつ1μ秒=1J
蓄電 : ×ばつ1秒=1JW秒
パルス電流による実験
パルス電流法は、電極間にパルスパワーを印加して海水に通電し、その電気的刺
激によってイガイ幼生に一時的な強いストレスを与える方法です。実験は、シャー
レ上に設置した電極間に人工海水を満たしたうえでイガイ幼生を投入して実験環境
を作成。様々な電気的条件でパルス印加してイガイ幼生に電気刺激を与えた後、
30分間のイガイ幼生の壁面付着状況や動作状況を確認しました(図3)。
イガイ幼生
電極
シャーレ
図3 パルス電流による付着抑制実験
代表研究者からの一言a
当社が目指すカーボンマイナス実現に向け、供給力及び調整力面で重要な役割を
担う火力発電の供給信頼度維持向上及びコスト低減に、果敢に取り組みます。
Annual Report 2023 17II実験の結果、電流法及び衝撃法とも
に、一定以上のパルスパワーエネル
ギーを投入すればイガイ幼生の付着を
防止できることを確認しました。また、
投入エネルギーとイガイ幼生の壁面付
着率及び不活化程度との関係が得られ、
同等の投入エネルギーであれば、パル
ス電流法の方が比較的に不活化率が高
く、イガイ幼生に対するパルス電流と
衝撃波それぞれの作用の仕組みが影響
していると考えられました。
パルスパワーによるイガイ幼生の付着抑制効果
イガイ幼生のシャーレ壁面への付着状況は、シャーレを円状に揺らしたときの
イガイ幼生の揺れにより確認しました。また、イガイ幼生は通常は殻の中でのエラ
の動きや、殻の間から出す足を使っての移動を観察できますが、パルスパワーによる
一時的ストレスによりこのような動きが鈍くなります(図5)。このようなイガイ
幼生の不活化状況を顕微鏡にて観察しました。顔写真
渡邉 肇
発電所海水系統のイガイやフジツボ付着防止にパルスパワーを適用するには、運
用コストの観点で投入エネルギーの低減が課題と確認しました。引き続き、より低
い投入エネルギー密度及び低コストでの海生生物付着抑制技術研究に取り組みます。
衝撃波による付着抑制実験
衝撃波法は、海水中に設置した電極間のごく狭い範囲にパルスパワーを作用させ
て、電極間の海水を絶縁破壊することで海水中に衝撃波を発生させ、この衝撃波に
よって海水中のイガイ幼生に一時的なストレスを与える方法です。実験では、海水
及びイガイ幼生を投入した内径50mmのリアクター内で様々な条件で電気パルス印
加をして衝撃波を発生し、その後イガイ幼生をシャーレに移動して、パルス電流法
と同様に30分間の付着状況等を確認しました(図4)。
図4 衝撃波による付着抑制実験
リアクター
衝撃波印加後に
シャーレ上でイガイを観察
イガイ幼生
図5 ×ばつ
くろまるくろまるくろまるくろまるくろまるくろまる
くろまるくろまるくろまるくろまるくろまるくろまる
くろまるくろまるくろまるくろまるくろまるくろまる
くろまるくろまるくろまる
足 足
殻内の動き
今後の展開
1次系水処理技術の最適化及び廃樹脂量低減に向けた研究
【研究期間2023〜2026年、化学・金属グループ】
目的・背景
放射性物質の生成を抑制する水質管理方法の最適化
18 Annual Report 2023
原子力発電所における定期検査の工程最適化や、過去の研究成果を活用した放射
線被ばく低減及びイオン交換樹脂廃棄量低減について検証し、更なる原子力発電所
の安全・安定運転に貢献できるよう水化学の立場から研究を実施しています。
具体的には、1定期検査時の放射性物質除去法の高度化、2放射性物質の生成を
抑制する水質管理方法の最適化、3新たな被ばく低減技術、4廃樹脂量低減に向け
た運用改善評価について実施しています。
原子力発電所では、様々な被ばく低減対策を実施し、定期検査などにおける作業
者の被ばく線量の低減に努めています。しかしながら、被ばく低減対策には終わり
はなく、更なる低減技術の開発が必要と考えており、総合研究所においても積極的
な取組を行っているところです。
本研究では、被ばく低減対策に関する項目として2放射性物質の生成を抑制する
水質管理方法の最適化について紹介いたします。
研究対象
本研究はPWR*1原子力発電所の
1次冷却材系統を研究対象として
います。本系統は、原子炉で発熱
した熱を回収し蒸気発生器で放射
性物質を含まない2次側系統と熱
交換し蒸気を発生させる系統であ
り、放射性物質を含んだ水が1次
冷却材ポンプによって循環してい
ます(図1)。
放射性物質の移動
1次冷却材系統の構成材料が腐
食(溶出)し、 1次冷却材中に放
出され、原子炉内で放射化し、炉
外へ移行・沈着するなど、1次冷
却材系統では、放射性物質の移動
が発生すると考えられています
(図2)。この沈着した放射性物質
が被ばく線量に起因しますので、
腐食(溶出)、移行、沈着につい
て抑制することで被ばく低減対策
に寄与できると考えています。こ
のうち、本研究では腐食(溶出)
の抑制について着目し、研究を実
施いたしました。
図1 PWR原子力発電所系統と研究対象
図2 PWR原子力発電所の放射性物質挙動
研究の考え方
被ばく低減対策として、1次冷却材系統への放射性コバルト取込抑制のために国
内PWRプラントで1次冷却材への亜鉛注入*2適用が進み、当社もすべてのプラント
で適用し、効果が確認されています。しかし、被ばくに寄与する放射能量はプラン
ト毎に相違がありました。その要因として大型機器更新工事により、更新材料から
1次冷却材に鉄が供給され、蒸気発生器の酸化被膜に影響を与えていることが考え
られました。鉄供給が蒸気発生器からのNi溶出を抑制し、主要な放射線源である
コバルト-58*3の生成量が低下したと想定し、その解明のため本研究を実施しました。
1次冷却材系統
(研究範囲)
原子炉
蒸気発生器
(溶出) (溶出)
成果の概要
*1:PWR
加圧水型原子炉の略
で原子炉の一種。核
分裂反応によって生
じた熱エネルギーで、
1次冷却材である加
圧水を300°C以上に熱
し、蒸気発生器に通
して高温高圧蒸気を
得る方式
Pressurized Water
Reactorの略称
*2:亜鉛注入
被ばく低減の観点か
ら、1次冷却材系統
へ亜鉛を2〜8μg/L程
度注入する技術
*3:コバルトー58
放射性同位元素の一つ
で、半減期が70.86日
で質量数58のニッケル
(Ni)の中性子反応で生
成する
代表研究者からの一言a
原子力プラントの安全・安定運転は、何よりも優先すべき永遠のテーマであり、
緊張感とスピード感を持って課題解決を図るため、常に広い視野と柔軟な発想力で
研究に取り組んでいきます。
社外発表
「Nickel (Ni) elution-suppressing effect from 690TT by iron supply to the primary
coolant」原子力構造工学国際会議(SMiRT27)〔2024年3月〕
Annual Report 2023 19II実績(社外発表・投稿・社外表彰など)
本研究の実施により、定検停止工程の最適化、被ばく低減及び廃樹脂量低減対策
を図り、更なる原子力発電所の安全・安定運転に貢献していきたいと考えています。
Fe供給による被ばく低減効果の解明
1次系統内への鉄供給と亜鉛注入を模擬し
た水質環境下におけるラボ試験を実施し、
コバルトー58の生成の元ととなる母材からの
ニッケルの溶出量を比較しました。その結果、
鉄供給を行った方が、ニッケル溶出量が経時
的に低下する傾向を確認できました。これに
より、亜鉛注入実施前に鉄供給が行われたこ
とで、ニッケル溶出抑制に寄与することが示
されました。さらに、亜鉛注入をすでに実施
しているプラントで鉄供給があった場合の
ニッケル溶出量は、亜鉛注入だけ実施した場
合より低減できると評価することができまし
た(図4)。なお、 鉄供給時は、亜鉛注入濃
度を低下させることで初期腐食によるニッケ
ル溶出を抑制できることも確認できました
(図5)。
本研究成果の実機適用性
大型機器更新工事で持ち込まれる鉄供給時
の亜鉛注入濃度を低下させて注入することで
鉄供給の効果を高められるため、本技術につ
いての実機適用を検討していくこととしてい
ます。
図4 ニッケル溶出量の経時変化
図5 鉄供給と亜鉛注入併用条件
によるニッケル溶出量の比較
図3 試験装置外観
今後の展開顔写真
榎薗 豊
ダイナミックレーティングを適用した際の変圧器寿命
への影響評価に関する調査研究
【研究期間2023年、ネットワーク技術グループ】
目的・背景
成果の概要
20 Annual Report 2023
運用継続可能な過負荷限度評価
変圧器24台について、変圧器試験成績書をもとに、変圧器熱回路モデルを用い
て、変圧器材料の温度限度(注記)Bに達する過負荷限度(定格容量基準)を計算しまし
た。その結果、変圧器試験成績書における定格負荷時の巻線平均温度上昇値が高い
ほど過負荷限度は低くなること、耐熱紙*3を用いた変圧器は普通紙を用いた変圧器
より高い温度上昇で設計されているため過負荷限度が低く、普通紙を用いた変圧器
を想定して策定された過負荷運用指針を耐熱紙を用いた変圧器に適用する際は注意
が必要であること(注記)Cが分かりました(図3)。
(注記)B 図4に示すような巻線過熱による絶縁油の気泡発生時は変圧器停止が必要なため、気泡
発生の虞がある巻線温度150°Cを温度限度と設定
(注記)C ただし、現在の過負荷運用指針には抵触しないことを確認済み
再生可能エネルギーの大量普及に伴い、電力系統内の変圧器が過負荷する場合の
対策として、変圧器ダイナミックレーティング*1が注目されていますが、変圧器寿
(注記)A短縮等の懸念もあり、その適切な実施には、定量的な検討が必要です。この
ため、(一財)電力中央研究所が開発した、変圧器の熱回路モデルとそれに基づく
重合度推移計算プログラム(図1、2)を用いて、運用継続可能な過負荷限度評価、
過負荷の変圧器寿命や運用コストへの影響評価を行いました。
(注記)A 変圧器の主な寿命決定要因は巻線絶縁紙の熱劣化による機械的強度の低下とされており、
その指標として絶縁紙の平均重合度*2が用いられる
図1 温度履歴計算のための変圧器熱回路モデル 図2 変圧器巻線平均重合度推移の算出例
図3 巻線温度上昇と過負荷限度の関係 図4 巻線部絶縁油からの気泡発生例
配電用変圧器:21台
系統用変圧器: 3台
普通紙変圧器:19台
耐熱紙変圧器: 5台
電気学会論文
誌B 121巻4号
平成13年「油
入変圧器過負
荷運転時の気
泡発生限界温
度」より引用
電力中央研究
所報告
H11026
「温度履歴解
析に基づいた
66kV〜275kV
油入変圧器の
絶縁紙の劣化
推定手法」
より引用
電力中央研究
所報告
GD22007
「温度履歴解
析に基づく電
力用油入変圧
器絶縁紙劣化
評価手法の耐
熱紙への拡
張」より引用
*1:ダイナミックレー
ティング
設備温度や電流を時々
刻々把握し、潜在的な
設備能力を最大限活用
する運用技術
*2:平均重合度
紙の主要構成物質であ
るセルロース分子のつ
ながり数の平均値。劣
化すると分子は切断さ
れて短くなり、機械的
強度も低下
*3:耐熱紙
繊維の機械的強度低下
を防ぐため、漂白され
ていない普通紙(クラ
フト紙とも呼ばれる)、
に添加物を加え、熱劣
化による機械的強度の
低下をさらに抑制した
もの
代表研究者からの一言a
変圧器のダイナミックレーティングについて、運用継続能力、寿命、運用コストと
いった、様々な観点での評価が必要ということが本研究を通じて理解できました。
今後も広い視野を持って研究に取り組んでいければと思います。IIAnnual Report 2023 21
本研究成果により、変圧器の能力が最大限に活用されることを期待しています。
引き続き、変電設備の効率的な運用・更新に資する研究に取り組む予定です。
過負荷の変圧器運用コストへの影響評価
図2における過負荷限度が平均的である、普通紙を用いた変圧器Bについて、運
用コストを、設置時の変圧器コストと更新までの累計保守コストの合計とし、そ
の年平均値を指標として、過負荷の変圧器運用コストへの影響を評価しました。
その結果、修繕費の増加率*4βが大きい場合は過負荷運用のメリットを得易いこ
と、計算寿命50年以上の変圧器を、高経年設備更新ガイドライン*5に則り50年で
更新する場合はβが0でも過負荷運用のメリットがあること、が分かりました(図
6参照)。
過負荷の変圧器寿命への影響評価
特定の時期の夜間に生じる負荷1(防霜ファンに起因)と通年で生じるマイナス
の負荷2(太陽光発電に起因)を有する、普通紙(注記)Dを用いた変圧器Аについて、実
負荷(図5)を基準として負荷が増大(注記)Eしたと想定した場合の変圧器寿命への影響
を評価しました。その結果、表1に示すように、負荷1のような短期間の過負荷運
用を想定する場合は、寿命への影響が小さいことが分かりました。
(注記)D 耐熱紙を用いた変圧器について
は、図2に示すように普通紙を
用いた変圧器より非常に⻑寿
命のため、検討対象外
(注記)E 負荷1については、3〜4月の夜
間負荷を一定の割合で増加
負荷2については、通年のマイ
ナス負荷を一定の割合で増加
図5 変圧器Aの負荷率と気温(3月〜4月)
表1 過負荷運用した場合の変圧器A の寿命(年)
図6 保守コストを考慮した場合の変圧器Bの年平均運用コスト
寿命:平均重合度450 寿命:平均重合度350
負荷1の例
負荷2の例
寿命(平均重合度)設定根拠
450:JEM規格値
350:JEM規格値と海外で
一般に用いられる値
(250)の中間値
今後の展開
*5:高経年化設備更新
ガイドライン
電力広域的運営推進機
関(OCCTO)によっ
て策定され、送配電設
備の高経年化に伴う設
備更新に関する指針を
提供するもの
*4:修繕費の増加率
電力設備は、一般に経
年により修繕費が増加
する傾向があることが
知られており、経年に
修繕費が比例するとし
た場合の比例係数顔写真
田口 彰
代表研究者からの一言a
鋼構造物への防錆塗装は社内外で広く適用されており、数値データに基づく
検査が確立できれば、検査の精度向上が図られるとともに、検査方法の見直し
など効率化・波及効果は非常に大きいものと想定されます。そのため、今後も
研究協力先と連携して実現に取り組んでいきます。
ケレン管理・検査工程の自動化等に関する調査研究
【研究期間2023〜2024年、ネットワーク技術グループ】
22 Annual Report 2023
ケレンに求められる要件
一般的に素地調整においては、鋼材表面の錆、劣化塗膜、汚れ、粉化物、塩分、
水分等、様々な異物の除去と塗料の密着性を高めるための鋼材表面の目粗しが必要
ですが、当研究においては、錆の除去、密着度の低下した塗膜の除去、表面の目粗
しに着目し自動判定要件(検証の視点)を整理しました。
ケレン検査に適用可能と思われる技術の選定
様々な非破壊検査手法がある中で、各検査法の検査対象や検査原理からケレン後
の鋼材表面の検査に適用できる可能性のある検査手法を絞り込みました。
また、絞り込んだ検査手法に対して、測定精度、定量性、計測範囲、可搬性、検
査時間、コスト等を踏まえ、ハイパースペクトルイメージング*1及び光学画像解析
に着目し検証を進めることとしました。
検証状況
現在、上記「素地調整に求められる要件」に基づきケレン後の残錆量や塗膜の残
り具合の異なる試験サンプルを製作し、実験室内でハイパースペクトル等の技術を
適用し、ケレン状態の違いを識別できるか検証を進めています。
鋼構造物については、防錆塗装を実施し鋼材の延命化を図っています。防錆塗装
においては、特に鋼材表面の素地調整(ケレン)が非常に重要ですが、素地調整の
作業品質については、目視で仕上がりを確認しており、人の主観による判定のため、
判定結果に差異が生じることがあります。
このため、本研究では、目視によらず機器等による測定データに基づき客観的に
評価できる手法の実現を目指し、様々な検査技術の適用可能性を調査しています。
現在、実験室内で検証を進めておりますが、ケレン状態の違いを識別・定量的に
状態把握ができた項目については、今後、屋外環境にて同様の検証を進めていきま
す。一方、ケレン状態が識別できなかった項目等については、別のアプローチ方法
を検討し、再度、実験室内の検証を進めていきます。
測定データに基づく自動判定
(機器やAI等を活用)
将 来施工良現場でカメラ画像等から
ケレン状態を確認
カメラ画像OKNG施工不良
現 在
人の主観による目視判定
*1:ハイパースペクト
ルイメージング
光を非常に細かく分
光することで、人間
の目では評価困難な
物性の違いや、見え
ない現象を可視化す
る技術
目的・背景
成果の概要
今後の展開顔写真
清水俊泰 竹中悠一郎
代表研究者からの一言a
マイクログリッドの研究を通じて、カーボニュートラル実現やレジリエンス
強化などの地域ニーズに貢献します。
*1:分散型電源
太陽光発電設備、風
力発電設備などの再
生可能エネルギーや
蓄電池、EVなど
成果の概要
*3:エネルギーマネジ
メントシステム
(EMS)
エネルギーの使用状
況を可視化・管理し、
各種機器を制御する
ことでエネルギー利
用の最適化を行うシ
ステム
*2:地域マイクログリッド
平常時は電力会社か
らの電気と分散型電
源を効率よく利用し、
災害等の非常時には
エ リ ア 内 で エ ネ ル
ギーの自給自足を行
う仕組み
マイクログリッド導入効果の評価
実地点における電力使用量や太陽光発
電量などを基に、エネルギーマネジメン
トシステム(EMS)*3を模擬したシミュ
レーションを行いました(図1)。
環境性(太陽光発電利用率など)や経
済性(電気料金など)を考慮したエネル
ギーシステム構成や、マイクログリッド
導入効果を評価することができました。
模擬設備による実証試験
鹿児島県薩摩川内市にある実証試験場(図2)にて、オフグリッド*4運用時における
地域マイクログリッドの課題把握を目的に、2023年度より実証試験を行っています。
蓄電池を主電源としたオフグリッド系統で、負荷変動試験や太陽光連系試験などを
行い、蓄電池システムや電力品質への影響や技術的な課題などの把握に取り組んで
います。
2050年のカーボンニュートラルに向けて再生可能エネルギーの導入が進む中、
エネルギーの地産地消や災害時のレジリエンス強化への地域ニーズが高まり、各地
で分散型電源*1を活用した地域マイクログリッド*2の構築及び運用に向けた取り組
みが進められています。
当グループでは、地域マイクログリッドに係るコンサル技術や運用ノウハウの獲
得に向けて、実地点における運用方法の検討や、模擬設備を使用した実証試験を
行っています。
実証試験で把握した地域マイクログリッドの課題については、解決策の検討と
実証による効果の検証を行い、地域の課題解決に向けた技術の確立を目指します。
図1 シミュレーション例
図2 実証試験場
蓄電池設備
模擬負荷設備
太陽光発電
今後の展開
*4:オフグリッド
電力会社からの電気
が切り離され、その
地域内の分散型電源
等で自立的に電力供
給されている状態顔写真
河野修久
上田泰則
Annual Report 2023 23
目的・背景
分散型電源を活用したマイクログリッドの運用技術の検証
【研究期間2021〜2026年、地域エネルギーシステムグループ】III 植物工場におけるイチゴ栽培の高度生産技術に関する
実証研究
【研究期間2018〜2025年、農業電化グループ】
*1:スマート農業
ロボット技術や情報
通信技術(ICT)を活用
して、省力化・精密
化や高品質生産を実
現する等を推進して
いる新たな農業
高齢化や就農人口の減少など農業の抱える課題の解決や、農業分野における脱炭
素化に向けて、総合研究所の強みである農業電化で培った技術・知見を活かし、
農業の省力化や生産性向上に繋がるスマート農業*1の普及を目指した研究に取り組ん
でいます。
本研究では、福岡県朝倉市に2019年開設したイチゴ栽培の実証施設「上寺(かみ
でら)いちご園」において、高度な環境制御技術を用いて、苗の育成から収穫まで
の栽培技術の確立に取り組んでいます。
目的・背景
成果の概要
*2:植物工場
環境及び生育のモニ
タリングを基礎とし
て、高度な環境制御
と生育予測を行うこ
とにより、野菜等の
植物の周年・計画生
産が可能な栽培施設
その形態は、「太陽光
利 用 型」と「完 全 人 工
光型」の2種類に分類
*3:栽培品種
イチゴの品種は収穫
開始時期により早生
型と晩成型の大きく
2つに分かれる。
「かおり野」は収穫開
始が早い早生型であ
り 、「恋 み の り」や 福
岡県の人気の高い品
種「あ ま お う」は 収 穫
開始が遅い晩成型に
分類
24 Annual Report 2023
図1 太陽光利用型植物工場(イメージ)
屋外の気温や日射量などのデータを統合
環境制御に活用1ハウス内の温度、湿度、CO2濃度のデータ
を統合環境制御に活用2ハウス内の温度調節を行う冷暖房機器3ハウス内の空気を循環させ温度を均一化4太陽光に応じて自動開閉し温度調節5冬場の暖房効果を高め自動開閉6生育に最適な湿度を保持7日射量に応じて水、液肥を自動供給8光合成促進のためにCO2供給9栽培システムの概要
オール電化の太陽光利用型植物工場*2において、温湿度や給液(水分と肥料の供
給)管理などを自動化して収穫時期をコントロールし、高収穫量で品質の高いイチ
ゴの栽培検証をしています。
1 周辺環境センサー3ヒートポンプ天窓通気
(開閉)
遠隔監視
クラウド
データ
6 保温カーテン
4 ファン
7 ミスト噴霧
9 二酸化炭素
供給
統合環境
制御装置
2 ハウス内
環境センサー
5 遮光カーテン
花粉交配
(蜂)
8 給水
(肥料分含む)側面通気(開閉)
栽培方法(超促成栽培)
一般農家が行う通常栽培では12月から収穫を開始しますが、本研究では2か月早
い10月から収穫を開始する栽培方法「超促成栽培」の技術を獲得し、高単価販売が
期待できる年内の収穫量を高める取り組みを行っています。
2作目となる2023年作では、1作目の課題に対策を講じ、定植時期の最適化やきめ
細やかな温度・給液管理により、3作目につながる一定の成果を得ることができま
した。
表2 「通常栽培」と「超促成栽培」の栽培スケジュールの比較
図2 上寺いちご園全景 図3 栽培ハウス(内部)
表1 主な機能
(注記)栽培品種*3は「かおり野」、「恋みのり」など
育苗ハウス
栽培ハウス
(2棟)
【参考】イチゴ収穫ロボット開発への協力
地場メーカの(株)アイナックシステムの自動収
穫技術の開発・機能向上に協力し、検証フィー
ルドとして提供しています。
代表研究者からの一言a
栽培時期をコントロールして高単価期にイチゴを出荷する技術を農家の皆さまに
展開するため、データを基にした評価・分析を繰り返しながら、栽培ノウハウの精度
向上に努めています。また温室効果ガスの見える化や省力化対策にも取り組んでい
ます。IIIAnnual Report 2023 25
超促成栽培技術の確立
2022年の超促成栽培(1作目)で発生した課題に対し、2023年作では様々な対策
を講じて栽培検証を行いました。その結果、課題解決の成果が上げられた一方、新
たな課題も発生しており、更なる栽培技術の向上に取り組んでいます。顔写真
 超促成栽培技術の確立に向け、第3作(2024年)の実証を行い技術・ノウハウを蓄積
 農家への提案モデルの作成や実証施設を活用した事業展開について検討
育苗時の給液を自動化し、水
はねによる病害(イチゴ炭疽病*4
等)の抑制と手散水作業の削減
による省力化を達成
高温期における花粉交配用ハチの
種類を工夫した受粉対策により不受
精果*5を低減でき、10月初旬から高
品質なイチゴを多く収穫(百貨店に
て高価格販売)
ハウス有効利用による収穫量増の方策
として多段式栽培があり、日照不足とな
る下段部栽培棚へのLED照明による補光
技術を検証中(電力中央研究所と連携)
事業性評価
スマート農業の一般農家への普及に
向け、家族経営の新規就農者を対象と
した提案モデルを検討しています。
地元の道の駅や⻘果市場での販売検
証結果、初期設備投資方法(補助金活
用など資金調達)や省力化、化学農薬
に頼らない防除技術、脱炭素化への貢
献などを含め、オール電化の植物工場
のメリットを活かした総合的な提案を
目指しています。
定植時期の早期化や最適な環境制御により、
花芽分化を促進させ、高単価期である年内収
穫量の目標を達成(昨年比19%増)。通期
では、最終目標6トンに対して4月末で5トン/10a
を達成
10月 11月 12月 1月
2023年作
2022年作
【収穫量の推移】
早期出荷
クリスマス需要
不受精果
育苗ポットと点滴チューブにより苗に自動給水▼病気の抑制と省力化対策 収穫量の確保
一般農家
出荷開始
高温期の不受精果対策
マルハナバチ
多段式栽培における補光技術
*4:イチゴ炭疽病
イチゴ栽培の重要病
害の一つで、カビ(糸
状菌)により葉柄やラ
ンナー等から病斑が
拡大し最終的に株が
枯れる。高温多湿を
好み、水滴が当たる
と、その跳ね返りに
より被害が拡大
*5:不受精果
受粉用バチの訪花不
足などによるイチゴ
の奇形果のこと
一般的に受粉は⻄洋
ミツバチを利用する
が、人工授粉や無菌
ハエ利用もある
今後の展開顔写真
田川 直
LED照明による補光状況(上棚底部に設置)
社内外へのお役立てに向けた取組み
総合研究所では、九電グループの内外を問わず、他企業・メーカーと連携し共創テーマの
創出や地域課題の解決に取り組んでおります。
社外委員等活動状況
総合研究所では、九州域内外において、様々な産学官連携活動を行っております。
ご興味のある活動がございます場合は、巻末の「お問合せ先」までご連絡ください。
26 Annual Report 2023
(2024年6月現在)
担当グループ
委員等の就任状況
団体・委員会名
分類
研究企画
委員:所⻑
技術開発専門委員会
電気事業連合会
電力大の活動
研究企画
委員:副所⻑
研究企画部会
電化推進技術
委員:グループ⻑
電化推進技術検討会
低炭素化技術
委員:グループ⻑
水素技術検討会
低炭素化技術
委員:グループ⻑
CO2削減技術検討会
研究企画
委員:課⻑
浮体式洋上風力技術検討会
研究企画
委員:所⻑
研究開発委員会
電力中央研究所
研究企画
委員:所⻑
IERE(電力研究国際協力機構) 国内電力連絡会
研究企画
委員:副所⻑
企画委員会
パワーアカデミー
産学連携の活動
研究企画
委員:所⻑
企画委員会
九州パワーアカデミー 研究企画
委員:副所⻑
研究部会
研究企画
委員:副所⻑
教育部会
研究企画
委員:所⻑
企画委員会
九州オープンイノベーションセンター
研究企画
委員:所⻑
人材育成助成対象選考委員会
研究企画
副会⻑:所⻑
九州工学教育協会
研究企画
運営委員:副所⻑
早稲田大学 スマート社会技術融合研究機構(ARCROSS)
研究企画
委員:副所⻑
無線送受電技術委員会
無線送電その他研究企画
委員:副所⻑
無線送電実証衛星技術委員会
研究企画
副支部⻑:副所⻑
低温工学・超電導学会 九州・⻄日本支部
超電導
ネットワーク技術
委員:グループ⻑
電気学会 高電圧技術委員会
高電圧
低炭素化技術
幹事:グループ⻑
日本エネルギー学会 ⻄部支部
新エネルギー
研究企画
(低炭素化技術)
幹事:所⻑
福岡県水素グリーン成⻑戦略会議
水素
低炭素化技術
委員:グループ⻑
水素エネルギー産業化実務者会議
(九州経済連合会 九州地域戦略会議 再生可能エネルギー産業推進委員会傘下)
低炭素化技術
オブザーバー:グループ⻑
「壱岐市におけるRE水素システム実証試験」に係る有識者助言委員会
低炭素化技術
オブザーバー:グループ⻑
大分県エネルギー産業機業会 水素関連産業分科会
低炭素化技術
構成員:グループ⻑
地球温暖化対策(CCS)連絡会
炭素分離・回
収・利用・貯留
低炭素化技術
サポーティングメンバー:
副主幹研究員
アジアCCUSネットワーク
研究企画
委員:副所⻑
カーエレクトロニクス事業運営委員会
電気自動車(EV)研究企画
運営諮問委員:所⻑
ファジイシステム研究所
人工知能(AI)
電化推進技術
委員:グループ⻑
誘導加熱技術部会
日本エレクトロヒートセンター
電気加熱 電化推進技術
委員:主幹研究員
ヒートポンプ技術部会
電化推進技術
委員:副主幹研究員
電磁波加熱技術部会
担当グループ
委員等の就任状況
団体・委員会名
分類
化学・金属
幹事:グループ⻑
表面技術協会 九州支部
金属・材料その他化学・金属
委員:グループ⻑
カーボンニュートラル実現のための耐熱材料委員会
社会インフラ
委員:グループ⻑
土木学会 環境技術小委員会
土木・建築
社会インフラ
委員:グループ⻑
土木学会 ⻄部支部
社会インフラ
委員:グループ⻑
応用地質学会 九州支部・九州応用地質学会
社会インフラ
委員:グループ⻑
地盤工学会 九州支部
社外発表実績
2023年度は、主に以下のような社外発表を行いました。
今後も積極的に研究開発成果など技術開発の活動状況を社外へ情報発信してまいります。
担当グループ
発表件名
方法
発表・投稿先
年月日 論文
投稿
発表
講演
電化推進技術
放電出力を高めたEV用充放電器の開発
しろまる
電気現場
「2023年11月号」
2023年05月01日
社会インフラ
繰り返し載荷を行ったコン柱の物性値の変化とスペクトルの
変化に着目した建替評価に関する実験的検討
しろまる
しろまる
日本コンクリート工学会
年次大会「年次大会論文集Vol.45」
2023年07月06日
低炭素化技術
高効率な水電解触媒の開発 水素製造の研究、東大と
しろまる
電気新聞
2023年08月22日
社会インフラ
導水路トンネル補強工事の施工品質向上とコスト低減効果に
寄与する製品開発
しろまる
電力土木「2023年9月号」
2023年09月01日
地域エネルギー
システム
変動性再エネを需給管理するアグリゲータの行動予測と需給
調整の課題に関する一考察
しろまる
電気学会
電力・エネルギー部門大会
2023年09月06日
地域エネルギー
システム
重回帰分析を用いた実負荷推定手法の検討
しろまる
電気学会
電力・エネルギー部門大会
2023年09月06日
社会インフラ
振動中の加速度に着目した配電柱の劣化評価に関する検討
しろまる
土木学会
令和5年度全国大会
2023年09月15日
低炭素化技術
Layered platinum nanoparticles atomically immobilized on
single-walled carbon nanotubes for long-term electrocatalytic
hydrogen evolution.
しろまる
国際学術誌
Nature Communications
2023年10月13日
知財・共創推進
量子技術を活用した人流の最適化により災害時の被害を抑制
−エネルギー分野における量子技術活用を共同検討−
しろまる
プレスリリース 2023.1030
(九州電力、住友商事、住友商事九州)
2023年10月30日
電化推進技術
商用EV向け大容量充放電器の開発
しろまる
2023年度九州大学オープンイノベー
ションワークショップ
2023年11月15日
化学・金属
火SUS304J1HTB鋼の⻑時間クリープ破断寿命の温度外挿に
よる推定
しろまる
日本材料学会
高温強度・破壊力学合同シンポジウム
第61回 高温強度シンポジウム
2023年11月16日
社会インフラ
AIによる導水路覆工コンクリート背面空洞分析支援システム
の開発
しろまる
土木学会
⻄部支部技術発表会
2023年12月07日
受賞グループ
表彰件名
賞 名
電化推進技術
大容量充放電器の開発
2023年度(第72回)電機工業技術功績者表彰(重電部門) 優良賞
社外表彰実績
2023年度は、これまでの研究の内容や成果が評価され、以下のように受賞しました。
Annual Report 2023 27
知財管理・戦略人材の確保・育成
1 知財戦略
基本方針a
創造・保護・活用の知的創造サイクルを廻すことにより企業価値を向上させ、技術開発
戦略との連携により、経営/事業戦略に知財面から貢献します。
28 Annual Report 2023
【全体像】
2 創造した知的財産の
適切な 保護
1 優れた知的財産の 創造
3 創造した知的財産の
有効 活用
知的創造サイクル技術開発戦略経営/事業戦略・各部門・現場で創造された知的財産の
共有や、産学官との連携によるオープ
ンイノベーションの推進 など
・特許の取得による権利化
など
・知的財産の活用提案の推進に
よる業務の効率化、
収益性の向上 など
九電グループの価値向上
4 知財人材の育成
連携 一体
コーポレートガバナンス・コードの改訂(2021年6月)を踏まえて策定された知財・無形
資産ガバナンスガイドラインにおいて、企業は知財戦略を構築し実行していくことが期待さ
れており、当社では「知財戦略の基本方針」を策定し、知財に関する取り組みを着実に推進
していきます。
(注)経済産業省 戦略的な知的財産管理に向けて(2007.4)を参考に作成
知的財産の取組み
知的財産活動
地域貢献に向けた取組み
各自治体*主催の知財マッチング会への参加や知財コーディネーターを通した地元の中
小企業への当社保有技術の紹介など、自治体との連携により地域への支援を継続します。
* 福岡県、⻑崎県、香川県、鳥取県、神奈川県川崎市 など
自治体主催の知財マッチング会への参加や自治体知財コーディネーターとの意見交換を
実施
高野部⻑
千田常務
松本所⻑ 夏目事務局⻑補
タン事務局⻑
総合研究所担当者
2 世界知的所有権機関(WIPO)
との意見交換、WIPO GREENへの参加
2024年2月19日(月)、国連機関の一つである世界知的所有権機関(WIPO(注記)1)のダレン・
タン事務局⻑他と千田常務(TS統括本部⻑)、松本所⻑(総合研究所)及び高野部⻑(コー
ポレート戦略部門)は、脱炭素などSDGsの取り組みと知的財産活用の関係について、意見
交換を行いました。
(注記)1 WIPO:World Intellectual Property Organizationの略称
特許などの国際出願窓口であり、特許、商標、著作権などの知的財産権の保護と
利用を促進するための国際連合の知財専門機関
今回の意見交換をきっかけとして、WIPOが運営する環境技術の開発と普及を後押しする
「WIPO GREEN」に参加します。総合研究所では、今後もカーボンニュートラルの実現に向
け、新技術の研究開発や、高度化に継続的に取り組んでいきます。
Annual Report 2023 29
2019〜2023年度 特許出願・登録実績
新規特許登録のうち、主な内訳(2件)
特許関連ライセンス新規契約締結実績20232022202120202019年度02230契約
件数
(注記)1「Zero Drive」は、ハミングヘッズ(株)の登録商標です。
(注記)2 「K-hatリーフβ型」は、住友大阪セメント(株)の商品名です。
(注記)3「CertCONNECT」は、Qsol(株)の登録商標です。
登録日
登録番号
共同出願人
特許の名称
2023年12月13日
7402956―診断方法、エッジ装置、部分放
電オンライン診断システム及び
プログラム
国内
2024年3月19日
7457630
⻄技工業(株)、
前田工繊(株)
コンクリート構造物の補強工法
及び補強構造
九州電力の保有特許
はこちら
知的財産の保有と活用
当社では、知的財産権を総合研究所で一元管理しており、2023年度末現在、国内特許
96件、海外特許65件、国内商標111件、海外商標3件、及び国内意匠1件の知的財産権を保
有しています。
なお、特許については、2023年度「1件」の出願と「7件」の登録となりました。
これまでに得られた特許やノウハウは、Zero Drive(注記)1(データ保護システム)、 K-hatリー
フβ型(注記)2(藻場増殖礁) などのように、他企業でも活用いただいています。
また、CertCONNECT(注記)3(電子メールなりすまし対策)は、今後の活用拡大が期待され
ます。
(九州電力ホームページ)
(件)
(件)
5か年
平均20232022202120202019年 度7.41107910
国内
出願 1.400034海外8.811071214計3.671343国内
登録 2.201109海外5.8724412計(注記) 2019年度は九電送配分社化前の数値
30 Annual Report 2023
有効活用されている知的財産の紹介
本技術は、従来のVDI方式(注記)2と同様にパソコンのデータレス環境を提供しながら、VDI方式な
どのような高性能なサーバーやパソコンが不要で、現在使用中のサーバー及びパソコンが利用で
きるため、コストは10分の1程度ですみます。
また、従来のVDI方式と同様に個別パソコン(ローカルドライブ)へのデータ等の保存は禁止さ
れます。
Zero Driveは、特許の共有権利者であるハミングヘッズ(株)より開発・販売されており、当社で
も全社員が使用するパソコンに導入されテレワークの推進に寄与しています。
(注記)1 「Zero Drive」は、本特許の共有権利者であるハミングヘッズ(株)の登録商標です。
(注記)2 Virtual Desktop Infrastructureの略で、デスクトップ仮想化と呼ばれ、サーバ上にあるデスクトップ
環境を遠隔地にある端末に転送して利用することです。
(注記)3 ここで言うポリシーとは、システム管理者が運用方針に基づいて記述した設定ファイルや運用ルール
等です。
(注記)4 上の図はハミングヘッズ(株)のホームページより引用したものを一部加工したものです。
(注記)3
現在使用中のデータ
保存用のサーバー
Zero Drive(注記)1(データ保護システム)
本技術は、従来、手動で実施していた電子証明書の導入における煩雑な手続き(本人確認やPC
への配布・設定など)を自動化し、ヒューマンエラーによる電子証明書の誤発行やパスワードの
漏えい等を防止するためのシステムです。本技術により、当社で全社員が利用する電子メールに
電子証明書が付与され、なりすまし対策に寄与しています。
(注記)1 「CertCONNECT」は、サービスを提供するQsol(株)の登録商標です。
(注記)2 RPA:(Robotic Process Automation)」の略称。従業員に代わって電子証明書のインストール、
メールソフトへのS/MIME設定を行うもの。
(注記)3 本特許の権利者は、九州電力(株)、(一財)日本情報経済社会推進協会、ハミングヘッズ(株)、(株)アシスト
です。
CertCONNECT(注記)1(電子メールに電子証明書を付与するなりすまし対策)
サービスご提供イメージ
(お客さま環境)
パソコン
インターネット回線
OutlookなどS/MIMEに対応した
メールソフト
電子証明書
認証局
従業員情報
管理サーバ
RPAソフト(注記)2
クラウド
環境
(注記) 太字 + 二本下線はサービス提供
電子証明書
管理サーバ
電子証明書
発行サーバ
電子証明書
管理サーバ
クラウド環境
または
お客さま環境に設置
Annual Report 2023 31
総合研究所では、研究設備レンタルを行っています。
(注記)なお、研究設備レンタルの詳細については、下記ホームページをご参照ください。
https://www.kyuden.co.jp/service_tech_rental_index.html
用途
設備・装置名
サンプル表面の細かな凹凸、キズをはっきりと観
察でき、これらの大きさや⻑さを計測できる装置
デジタルマイクロスコープ
サンプル表面を低倍率(広範囲)及び高倍率(狭
範囲)で観察でき、サンプル表面の状態・深度等
データの採取及びデータ解析ができる装置
形状解析レーザ顕微鏡
材料・機材等の温度及び湿度に関する耐候性能を
検証するための加速劣化試験
恒温恒湿槽
32 Annual Report 2023
くろまる 研究設備レンタル
研究設備の例
(HPリンク)
研究設備レンタル及び技術コンサルティング
総合研究所では、保有技術を活用した技術コンサルティングを行っています。
お客さまからのニーズ等がございましたら、ご相談ください。
(注記)なお、技術コンサルティングの詳細については、下記ホームページをご参照ください。
https://www.kyuden.co.jp/service_tech_consulting_index.html
(HPリンク)
くろまる 技術コンサルティング
技術コンサルティング実績の例
内 容
件 名
ボイラー過熱器の材料検査に基づく余寿命評価
火力発電用ボイラーの余寿命
評価
牛糞の発電用燃料としての適用性評価
バイオマス発電燃料への適用
性評価
Annual Report 2023 33
九州電力株式会社 総合研究所
Annual Report 2023
2024年7月発行
〔お問合せ先〕
九州電力株式会社
テクニカルソリューション統括本部
総合研究所 知財・共創推進グループ
〒815-8520 福岡市南区塩原二丁目1番47号
Phone 092-541-3090(代表)
E-mail souken_innov@kyuden.co.jp
主な拠点からのご案内
くろまる福岡空港から
・タクシーにて、約25分
・地下鉄空港線に乗車し、「博多駅」にて下車後、⻄鉄バスに乗換え
くろまるJR博多駅から
・博多駅前A(美野島方面)乗場で⻄鉄バス(47、47-1番)に乗車し、
「清水四丁目」で下車後、徒歩1分
くろまる⻄鉄大橋駅から
・駅東側乗場で⻄鉄バス(47、47-1番)に乗車し、「清水四丁目」にて
下車後、徒歩1分
くろまる弊社本店から
・渡辺通一丁目電気ビル共創館前(大橋方面)乗場から⻄鉄バス(W番)
乗車し、「南市⺠センター前」にて下車後、徒歩5分
周辺拡大図

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