原子炉容器の照射脆化に対する健全性について
低い
1.概 要
しろまる 監視試験片は、原子炉容器より炉心
(燃料)
に近い位置にあり、
多くの中
性子を受けているため、
原子炉容器の
将来の状態を予測することができます。
しろまる 取出した監視試験片は、専門の調査
機関(注記)
で衝撃試験等を実施し、健全
性の評価を実施します。
しろまる 原子炉容器は、燃料のウランが核分裂する過程で発生する「中性子」を受ける
ことにより、次第に粘り強さが低下する(=脆くなる)ことが知られています
(この現象を「照射脆化」という)。しろまる このため、原子炉と同じ材料でできた「監視試験片」を原子炉容器内にあらか
じめ装着しておき、この試験片を定期的に取り出し、衝撃試験等を行うことに
よって、関連温度の上昇量等を確認し、将来の原子炉容器の健全性を評価して
います。
しろまる 原子力発電所では、確認した関連温度に基づき、1次冷却材の温度と圧力を管理
しながら運転しています。また、仮に、万一の事故において冷却水が注入され
原子炉容器表面が急冷されても、原子炉容器の健全性に問題がないことを確認
しています。
しろまる なお、関連温度は材料の特性(粘り強さの性質)が変わる温度を示すものであ
り、原子炉容器が割れる温度ではありません。
(注記) 照射脆化:中性子は高いエネルギーを持っているため、原子炉容器を構成する鋼材に中性子
が衝突すると、原子の配列に乱れが生じ、この結果、鋼材の破壊に対する粘り強さ
(破壊靱性)が低下するなど特性が変わる現象をいいます。
2.監視試験片
(注記)原子炉容器から取出した監視試験片は、放射線量が高いため、安全に取り
扱える専門の設備を有する機関で、試験を実施する必要があります。
【材料の粘り強さとは】 【照射脆化とは】
粘り強さの性質が
変化する温度
炉心
(燃料)
監視試験片
原子炉容器
(鋼鉄)
中性子
(水により減速)水 プラント評価時期における原子炉容器の健全性を確認するため、以下の評
価を実施しています。
(1)加圧熱衝撃に対する原子炉容器の健全性評価
万一の事故において、原子炉容器内に冷たい水が注入され急冷される事象(加圧熱
衝撃事象)に対する原子炉容器の健全性評価を実施しています。(2)上部棚吸収エネルギー低下に対する評価
上部棚吸収エネルギー(材料の粘り強さ)の測定結果は、JEAC4206(注記)
に規定される
基準値を満足しており、プラント評価時期の原子炉容器の健全性を確認しています。
(注記) 電気技術規程 JEAC4206(
「原子力発電所用機器に対する破壊靱性の確認試験方法」
(社)
日本電気協会)に記載
3.監視試験片による健全性確認
【万一の事故】
・非常用炉心冷却装置が作動することにより、原子炉内に
冷たい水が注入された場合、高温である原子炉容器外側
と、水と接する内側の温度差により、引張応力が発生し
ます。
【評価】
・引張応力などにより材料に作用する力は下図の1(青
線)のようになります。
・監視試験結果に基づき、プラント評価時期における材
料の粘り強さは2(赤線)となります。
・プラント評価時期の原子炉容器の材料の粘り強さは、材
料に作用する力に対して十分な余裕を有していること
を確認しています。
温度分布
外側 内側引張応力
冷却水の
流れ
原子炉容器
【原子炉容器の温度と材料に作用する力、材料の粘り強さの関係】
玄海原子力発電所3,4号機の関連温度について
玄海3号機の関連温度
取出回数 取出時期
中性子照射量
(×ばつ1019
n/cm2)[E>1MeV]
原子炉容器が監視試験片の中性子
照射量に到達する相当運転年数(注記)1(注記)2
監視試験片(母材)
の関連温度(注記)3
(°C)
[実測]
第1回
第2回定検
(1996 年4月)
0.8 約 16EFPY (2019 年頃 ) -24
第2回
第8回定検
(2004 年4月)
2.7 約 49EFPY(2060 年頃(注記)4
) -18
第3回
第 14 回定検
(2019 年 5 月)
4.8 約 85EFPY(2105 年頃(注記)4) 1玄海4号機の関連温度
取出回数 取出時期
中性子照射量
(×ばつ1019
n/cm2)[E>1MeV]
原子炉容器が監視試験片の中性子
照射量に到達する相当運転年数(注記)1
監視試験片(母材)
の関連温度(注記)3
(°C)
[実測]
第1回
第2回定検
(2000 年1月)
0.9 約 19EFPY(2020 年頃(注記)5
) -18
第2回
第7回定検
(2006 年9月)
2.3 約 52EFPY(2060 年頃(注記)5) -7(注記)1 定格負荷相当年数(EFPY)であり、定格出力で連続運転したと仮定して計算し
た年数。なお、定格負荷相当年数は容器内面から板厚 1/4 の位置において算出。
(注記)2 2009 年のプルサーマル運転開始を反映
(注記)3 関連温度は脆化の傾向を示すもので、原子炉容器が割れる温度ではなく、この
値自体が判定の対象となるものではない。
(注記)4 2021 年度から稼働率 0.8 と仮定して算出(0.8EFPY=1 年)
(注記)5 2011 年度から稼働率 0.8 と仮定して算出(0.8EFPY=1 年)
川内原子力発電所1,2号機の関連温度について
川内1号機の関連温度
取出回数 取出時期
中性子照射量
(×ばつ1019
n/cm2)[E>1MeV]
原子炉容器が監視試験片の中性子
照射量に到達する相当運転年数(注記)1
監視試験片(母材)
の関連温度(注記)2
(°C)
[実測]
第1回
第1回定検
(1985 年2月)
0.5 約4EFPY(1988 年頃 ) -4
第2回
第5回定検
(1990 年1月)
3.0 約 28EFPY(2021 年頃(注記)3) 4第3回
第 12 回定検
(1999 年5月)
5.8 約 53EFPY(2053 年頃(注記)3) 21第4回
第 19 回定検
(2008 年8月)
9.2 約 84EFPY(2092 年頃(注記)3) 36第5回
第 24 回定検
(2019 年8月)
12.4 約 114EFPY(2129 年頃(注記)3) 57川内2号機の関連温度
取出回数 取出時期
中性子照射量
(×ばつ1019
n/cm2)[E>1MeV]
原子炉容器が監視試験片の中性子
照射量に到達する相当運転年数(注記)1
監視試験片(母材)
の関連温度(注記)2
(°C)
[実測]
第1回
第1回定検
(1986 年 10 月)
0.5 約5EFPY(1990 年頃) -20
第2回
第8回定検
(1995 年9月)
4.7 約 43EFPY(2042 年頃(注記)4) 6第3回
第 19 回定検
(2010 年4月)
9.5 約 87EFPY(2097 年頃(注記)4) 31第4回
第 24 回定検
(2020 年8月)
12.3 約 113EFPY(2129 年頃(注記)4) 45(注記)1 定格負荷相当年数(EFPY)であり、定格出力で連続運転したと仮定して計算し
た年数。なお、定格負荷相当年数は容器内面から板厚 1/4 の位置において算出。
(注記)2 関連温度は脆化の傾向を示すもので、原子炉容器が割れる温度ではなく、この
値自体が判定の対象となるものではない。
(注記)3 2021 年度から稼働率 0.8 と仮定して算出(0.8EFPY=1 年)
(注記)4 2022 年度から稼働率 0.8 と仮定して算出(0.8EFPY=1 年)
☆ 2022.9 更新情報
しろまる2020年8月に川内2号機の第4回監視試験片を取出し、評価を行って
きました。
しろまるその結果、原子炉容器は十分な粘り強さを有しており、万一の事故時に原子
炉内に冷たい水が注入され急冷された場合でも、健全性に問題がないこと
を確認しました。☆ 鉄などの金属は、元々伸びたりゆがんだりする性質を持っているため、
ガラスのように簡単に割れるものではありません。
ガラスは大きな力が加わると簡単に割れてしまい
ますが、鉄などの金属は簡単には割れません。
これは、金属が伸びたりゆがんだりする「粘り強
さ」を持っているからです。
粘り強さを持っている金属は、壊れるときは伸び
てちぎれますが、ガラスは粘り強さを持っていないた
め伸びずに割れます。
粘り強さを持っている金属ですが、外部からの
様々な影響を受けると、初めに持っていた粘り強さ
が少しずつ低下(脆化)していき、次第に伸び方が
小さくなります。
原子炉容器は厚さ約20cmの分厚い鉄でできています。
Q「原子炉は老朽化して、脆
ぜ い化か
が進む」と
聞きましたが、「脆化」とは何ですか?
「脆化」とは鉄やプラスチックなどの材料が外部からの
様々な影響を受け、その材料が初めに持っていた
粘り強さが少しずつ低下していくことです。A鉄 の 破 壊 の 仕 方
玄海3号機の原子炉容器 玄海3号機の構造
原子炉容器(鋼鉄)
厚さ約20cm
「中
ちゅう性せい子し照しょう射し ゃ脆ぜい化か
」とは、鉄が中性子を受けて、「脆化」することです。
本来、粘り強さを持っている鉄などの金属は、外部からの様々な影響を受けることにより「脆化」しますが、
そのひとつに「中性子照射」があります。
鉄は中性子を受けると粘り強さが低下(脆化)することがわかっています。
これは、鉄を原子レベルで見てみると、鉄原子は粘り強い状態では規則正しく並んでいますが、中性子を
受けると、鉄原子がはじき出されて隙間ができたり、不純物の塊ができたりすることにより、規則正しさが乱
れるためです。
これを「中性子照射脆化」といいます。
原子炉容器は分厚い鉄でできており、容器全体の粘り強さは容器の内側と
外側で同じように低下することはありません。
原子力発電所の原子炉容器は鉄でできており、燃料のウランが核分裂する過程で発生する中性子を受け
るため、その量に応じて少しずつ粘り強さが低下していきます。
ただし、容器は約20cmもある分厚い鉄でできており、中性子を受ける量は容器外側に行くにしたがって少
ないことから、容器全体の粘り強さは、容器の内側と外側で同じように低下することはありません。
中 性 子 照 射 に 伴 う 原 子 構 造 の 変 化 ( イ メ ー ジ )
原子炉容器より多く中性子を受ける場所に試験片を装着することで、
粘り強さの将来の状態を確実に予測できます。
原子炉容器と同じ材料でできた試験片を、あらか
じめ容器内に複数個装着しており、定期的に取り出
して、粘り強さの変化を評価しています。
容器内では、燃料のある中心部は中性子の量が
多く、容器に近づくほど中性子の量は減ります。
試験片は、容器より内側(中性子を出す燃料に近
いところ)に装着しており、容器よりも多く中性子を
受けます。つまり、試験片は容器が将来受ける中性
子の量を常に先取りして受けています。
このため、試験片を取り出して試験を行うことで、
容器の粘り強さの変化をより確実に予測できます。
鉄などの金属が持つ性質のひとつである粘り強さは
「脆
ぜい性せい遷せん移い温おん度ど
」と呼ばれる温度を調べることでわかります。
鉄などの金属は、ある温度以下になると粘り強さが低くなる性質があり、この性質が変わる温度を「脆性遷
移温度」といいます。試験片を使ってこの温度を調べることで粘り強さの変化を確認できます。
具体的には、取り出した試験片の温度を様々に変え、衝撃を加えて壊す試験(注記)
を行い、試験片を壊すのに
必要なエネルギーの量を測定することで確認できます。
Q原子炉容器の中性子照射脆化は
どのように確認しているのですか?
A原子炉容器内に、あらかじめ、容器と同じ材料でできた
試験片を装着し、これを取り出して試験を行うことで
粘り強さの変化を確認します。
試 験 片 の装 着 位 置
衝撃試験のイメージ 衝撃試験から得られた鉄の性質の変化
脆性遷移温度は中性子を多く受けるほど高くなる性質があるため、
粘り強さの変化はこの温度の変化を調べることでわかります。
脆性遷移温度は、中性子を多く受けるほど高くな
る性質があります。このため、原子力発電所を長く
運転するほど、原子炉容器が受ける中性子の量が
増え、脆性遷移温度が徐々に上昇します。
試験片を定期的に取り出して試験を行い、この温
度の変化を調べることで原子炉容器の粘り強さの
変化(脆化)を予測することができます。
中 性 子 照 射 に伴 う脆 性 遷 移 温 度 の変 化
試験片の温度を変えながら、ちぎれるまで引っ張って壊す試験を行うことで
原子炉容器の粘り強さを確認しています。
原子炉容器が温度の変化に耐えることができる
かどうかは、「原子炉容器そのものの粘り強さ」を求
め、「原子炉容器に働く力」と比べることでわかりま
す。
そのため、試験片を色々な温度で引っ張り、どの
くらいの粘り強さがあるかを確認します。
万が一の事故の時に冷たい水が注入された際、原子炉容器に働く力と
その粘り強さを比べた結果、十分耐えることができることを確認しました。
原子炉容器は、運転中、燃料が発生する熱によ
り、約300°Cと高温となっています。事故時に燃料を
冷やすため容器内に冷たい水を注入すると、容器
の温度は約300°Cから約30°Cに下がるため、容器に
最も大きな引っ張りの力が働きます。
試験片を使った衝撃試験や破壊試験などの結果
から、この時に「容器に働く力」よりも、「容器の粘り
強さ」の方が十分に大きいことを確認しました。
なお、前に述べたように、容器の厚さは約20cmと
肉厚で、中性子を受ける量は外側に行くにしたがっ
て少なくなるため、粘り強さが低下していない部分
が多く存在し、実際には十分に丈夫な状態です。
Q万が一の事故の時の原子炉容器の
粘り強さをどのように確認するのですか?
A万が一の事故の時に原子炉容器に冷たい水を注入した際の
粘り強さは、取り出した試験片を引っ張って壊す試験を
行うことで確認しています。
破 壊 試 験 のイメージ
冷たい水が注入された際に、原子炉容器に働く力
約 20cm
原子炉容器の粘り強さを評価する際には、容器に深さ10mmの傷があると仮定しても、
容器に働く力よりも粘り強さが十分大きいことを確認しています。
実際には、原子炉容器製造時や、定期検査時に微細な傷もないことを確認しています。
Q「定期検査で原子炉を停止する時、また
起動する時にも、原子炉容器の温度が
変化して危ない」と聞きますが・・・
原子炉を停止する時や、起動する時は、温度・圧力に
ついて、制限範囲を設定し、しっかりと遵守し、運転して
おり、原子炉容器の健全性は確保されています。AQ原子炉容器に傷があると割れやすいと
聞いたのですが・・・
微細な傷さえもないことを確認しています。A安全への取組みに終わりはなく、九州電力は、皆さまにご理解、ご安心いただけるよう、
今後も原子力発電所の安全確保に向けた取組みを継続して実施してまいります。

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