1玄海原子力発電所における負傷者の発生について
1 事象発生の日時
2021年 1月24日(日) 15時30分頃
2 事象発生の場所
玄海原子力発電所 構内(屋外・管理区域外)
3 事象発生の状況
玄海原子力発電所構内で、2021年1月20日より実施している構内
道路舗装工事において、アスファルトを締固めるタイヤローラー(10t)と
請負会社社員1名が接触し、左足を負傷した。
4 負傷者情報
請負会社社員 男性 22歳(経験年数4年)
診断結果:左足開放骨折
5 負傷者発生状況
被災者は、構内道路舗装工事に従事しており、竣工書類に使用する工事の
施工状況写真を撮影する予定であった。事象発生の経緯は以下のとおり。
(1)被災者は、一次締固め用のコンバインドローラー(3t)
(以後、ローラ
ー(3t)
)による締固め作業が完了間際であったため、二次締固め用の
タイヤローラー(10t)
(以後、ローラー(10t)
)後方で、一次締固めの
施工状況写真を撮影しようと路肩で待機していた。
(2)ローラー(10t)の運転手は、一次締固め作業完了後、速やかに作業を
行うため(アスファルトは冷める前に締固める必要あり)
、時折後方の作
業状況を確認しながら、5分以上待機(エンジン稼働状態)していた。
(3)ローラー(10t)の運転手は、一次締固めが完了したことを目視で確認
したことから、二次締固めを行うため所定の位置に移動しようとした。
移動前に、後方をミラーによる確認と半身になって直接目視にて確認し
た後、予め定められた締固めの施工ラインに沿って後進するため、左前
方のミラーで左後方を確認(被災者は写っていなかった)しながら後進
を開始した。
別 添 2(4)被災者は、ローラー(10t)の後進のタイミングとほぼ同時に作業エリア
(道路内)に立ち入り写真撮影を行おうとして、ローラー(10t)と接触
し、左足を挟まれ負傷した。
(5)ローラー(10t)の運転手は、後進直後に大きな声が聞こえたため、即
座にローラー(10t)を停止した。
(添付資料-1)
<時系列(2021 年 1 月 24 日)>
6:00 作業手順の確認、危険予知活動(以後、KY活動)
7:15 当社土木建築課へ作業開始連絡
7:20 作業開始
12:00 昼休み(作業進捗に合わせ、交代で昼休憩)
15:30 頃 災害発生
6 作業状況
(1)作業開始前
・作業打合せ日(2021 年 1 月 20 日)
、当社及び請負会社で作業要領書の読
み合わせを行い、作業手順や注意事項の確認等を行った。
・現場作業着手前(2021 年 1 月 23 日)
、作業員間で作業要領書の読み合わ
せを行い、作業手順や注意事項の確認等を行った。
・作業当日(2021 年 1 月 24 日)の朝、KY活動で危険性として「重機と作
業員の接触事故」を挙げて「作業時重機に近づかない」などの対策を抽出
して認識の共有を行った。
(2)作業時
・作業は作業要領書に基づき、適切に実施されていた。
・ローラー(10t)の運転手への聞き取りの結果、ローラー(10t)の運転
手は後進する前に、
後方をミラーによる確認と半身になって直接目視にて
確認を行ったが、被災者は確認できなかった。その後、ローラー(10t)
の運転手は、予め定められた締固めの施工ラインに沿って後進するため、
左前方のミラーを見ながら後方へ移動したが、
ミラーには被災者は映って
いなかった。
・被災者への聞き取りの結果、被災者はローラー(10t)の運転手が時折、
後方を目視確認していたことから、
自分が後ろにいることを認識しており、
ローラー(10t)は動かさないと思い込んでいた。このため、被災者は、
稼働中の重機に近づく際にローラー
(10t)
の運転手へ声掛け等を行わず、
ローラー(10t)の後方(運転席の真後ろ付近)で立った状態で写真撮影
をしようとした。 3また、
被災者は、
一次締固めの完了状況を写真撮影する必要があったため、
一次締固め直後に、作業エリア(道路内)に入ってしまった。
・作業責任者への聞き取りの結果、
発災前は一次締固め作業の管理業務を道
路上で実施しており、一次締固め作業を完了したローラー(3t)の移動
(退避)に合わせ、次の準備のために道路上から路肩側へ移動中(事故現
場に背中を向けていた)
であったため、
被災状況は見ていなかった。
なお、
作業責任者は監視業務を含む現場管理を実施していた。
7 推定原因(添付資料-2、3)
原因究明にあたっては、工事計画の確認段階から事象に至る(ローラー
(10t)による二次転圧)までの実施内容を洗い出し、被災者本人及びロー
ラー運転手の心理、知識・技量、ハードウェア(ローラー)
、ソフトウェア
(方針・計画等)
、作業環境及び組織としての管理といった様々な側面から
問題となる事実を抽出し、原因分析を行った。
(1)当日のKY活動において、予測される危険性への対策として「作業時重
機に近づかない」ことを挙げていたが、事故につながる可能性のある危
険行為を具体的に、洗い出しておらず、注意喚起が不十分であった。
(2)被災者は、エンジンは動いているが停止している重機については、すぐ
に作業するとは思わず、近づいても問題ないと思い込んだ。
(3)被災者は、ローラー(10t)の運転手が時折、後方を確認していたため、
自分の存在に気付いており、運転手がローラー(10t)を動かすことはな
いと思い込んだ。
(4)ローラー(10t)の運転手は、後進する前に、後方をミラーによる確認
と半身になって直接目視にて確認を行ったが、ローラーの直近にいた被
災者に気づかず、
接触を回避できなかった。
(周囲への十分な確認が不足
していた。)(5)被災者は、若手(22 才)で、現場経験は 4 年あったものの、危険を予測
できず、不安全な行動をとってしまった。
8 再発防止対策(添付資料-3)
(1)当該工事における再発防止対策
a.ローラーに近づかないことの徹底
・いかなる場合でも、
ローラーには近づかないことを徹底する。
特に運
転手が乗っている場合には注意を要し、
そのことの認識を徹底する。
(作業要領書へ明記)
・作業前に行うKY活動における確認の徹底 4事故につながる具体的な危険行為の洗い出しの中に、ローラーに
近づくことによる、起こり得る事故、それに対する対策を明確にす
る。
使用する重機を用いた特性(死角範囲、旋回範囲等)の周知や過去
の事故事例の教訓・反省を活かす。
b.近づかざるを得ない作業が生じた場合の対策の徹底
・やむを得ずローラーに近づいての作業が必要になった場合は、必ず
作業責任者に連絡して、
同責任者はローラー作業を一旦中断させ、ローラーを別の場所に移す、
またはローラーが絶対に動かない処置(エン ジ ン 停 止 、 運 転 手 降 車 、 車 止 め 装 着 な ど ) を 徹 底 す る 。
(作業要領書へ明記)
c.監視員の増置による監視体制の強化
従来は、
作業責任者が全体を俯瞰して、
作業安全の監視を行ってい
たが、以下のとおり監視体制を強化する。
(作業要領書に明記)
・重機運転手はエンジンをかける前に降りた状態で周囲を直接確認し、
始動させる。
発進時はクラクションで周囲に注意喚起し、
監視員と周
囲について相互確認後、合図を送って発進する。
・アスファルトフィニッシャー使用時、フィニッシャー側方でのなら
し作業を実施する場合は、
新たにアスファルトフィニッシャーを専任
で監視する監視員2名(両サイド)を配置する。
・立入制限区画により、確実に入域制限を行う。
さらに監視員がしっか
りと監視・確認を行う。
d.運転手による死角の確認及び立入制限の徹底
・車幅や車高による重機前後の死角がある場合は、
原則作業エリア区画
により立入制限を行うと共に、
運転手による直接の目視確認や誘導員
の配置を行う。更に、ローラー後方の確認ができるモニター搭載仕様
を導入し、死角も含め、後方確認を徹底する。
(作業要領書へ明記)
e.作業前の安全意識の徹底・「自分の身は自分で守る」という安全意識の徹底を図るため、作業
前のKY活動を形骸化させず、考えられる危険要素〔どういうこと
をすると、どう(事故、ケガ)なるか〕を具体的かつ詳細に洗い出
し、対策とともに漏れなく全員で唱和し、作業に携わる個々がしっ
かりと認識した上で作業に臨む。
・作業要領書に記載の手順や内容をしっかりと理解していることを相
互に確認し合う。 5f.当社管理職による現場観察・指導の実施
・作業再開時に、当社管理職による現場観察を実施し、上記対策が適切
に実施・実践されていることの確認・指導を行う。
(2)安全意識の醸成、教育の徹底
a.作業現場におけるOJTの際、熟練者が自らの経験を基に若手メンバ
ーに「危険作業はしてはならない」ことを徹底して教え込む。
(熟練者
が手本となり、若手と十分にコミュニケーションを図り徹底して指
導・継承を図り、若手は先輩からしっかりと学び実践する。)b.当社管理職による現場観察・指導を継続して実施する。
9 添付資料
添付資料-1 事故発生時の作業状況図
添付資料-2 作業体制及び作業ステップ
添付資料-3 M-SHELL手法による問題点と再発防止策の分析
敷均し及び一次締固め状況(基層) 二次締固め状況(基層) 被災状況(再現)(注記)発電所構外にて
事故発生時の作業状況図
コンバインドローラー(3t)
タイヤローラー(10t)
被災者
アスファルトフィニッシャー
3tコンバインドローラー
タイヤローラー(10t)
(砕石)
(砕石)
(アスファルト)締固め作業中
(アスファルト)
表層
基層
上層
下層
アスファルト舗装断面イメージ
現場作業責任者
(注記)監視業務も実施・・・・
・ ・
・ ・・・・・・・ ・
・ ・・被災者
添付資料 1
アスファルトフィニッシャー
タイヤローラー(10t)
コンバインドローラー(3t)
アスファルトフィニッシャー
凡 例
くろまる:作業員(1次請け)
さんかく:作業員(元請)
しかく:被災者(元請)
:基層締固め完了範囲
:基層締固め未完了範囲
作業体制表
元請
1次請け
被災者
ローラー
(10t)
運転手
作業ステップ
作業前打合せ
アスファルト舗装版
切断/堀削
路盤撤去
路盤工
基層工
(ローラー(3t)による
一次締固め)
基層工
(ローラー(10t)による
二次締固め)
表層工
事象発生状況
〇被災者は、ローラー(3t)
後方のアスファルト一次締固
め作業が完了間近であり、そ
の状況の写真撮影のため、路
肩で待機していた。
〇ローラー(10t)運転手は、
一次締固め作業の完了を目視
で確認したことから、後方を
サイドミラー及び目視にて確
認し、二次締固め作業のため、
左前方のミラーで左後方を確
認しながら後進を開始した。
〇被災者は、ローラー(10t)
の後進開始のタイミングとほ
ぼ同時に作業エリアに立ち入
り、ローラー(10t)の後
方で写真撮影しようとしたと
ころ、後進してきたローラー
(10t)に左足を挟まれた。
計11名
作業
責任者
職長
九州電力(発注者)
計3名
作業体制及び作業ステップ
添付資料ー2
記号 内 容
対策
箇所
M3 b.当社管理職による現場観察・指導を継続して実施する。 当 社
M-SHELL手法による問題点と再発防止策の分析
再発防止策
Liveware 1
(本人)
心理的要素
生理的要素
知識・技量
・ローラー(10t)が動くと
思っていなかったため、確
実に待機している事を運転
手に直接確認せず、待機中
の重機(ローラー(10t))
後方の直近に不用意に近づ
いた。
・被災者はローラー(10t)の後方へ移動
する際、運転手がこちらを見ていたの
で、認識されていると思い込んでし
まった。
m-SHELL分析項目
問題となる事実
(確認した事)
原 因
(な ぜ)
記号―L1M2H1
・作業前に行うKY活動における確認の徹底
事故につながる具体的な危険行為の洗い出しの中に、ローラーに近づくこ
とによる、起こり得る事故、それに対する対策を明確にする。
使用する重機を用いた特性(死角範囲、旋回範囲等)の周知や過去の事故
事例の教訓・反省を活かす。
請負先
(1)当該工事における再発防止対策L1a.ローラーに近づかないことの徹底
・いかなる場合でも、ローラーには近づかないことを徹底する。特に運転手が
乗っている場合には注意を要し、そのことの認識を徹底する。(作業要領書
へ明記)
Liveware 1
(ローラー(10t)
運転手)
心理的要素
生理的要素
知識・技量
・後方の被災者に気付かな
かった。
・後方発進時、左前方のミラーで左後
方を確認し、左右後方を顔を向けて確
認したが視認できなかった。L2b.近づかざるを得ない作業が生じた場合の対策の徹底
・やむを得ずローラーに近づいての作業が必要になった場合は、必ず作業責任
者に連絡して、同責任者はローラー作業を一旦中断させ、ローラーを別の場
所に移す、またはローラーが絶対に動かない処置(エンジン停止、運転手降
車、車止め装着など)を徹底する。(作業要領書へ明記)
請負先
・後方確認をしたものの、
ギアをバックに入れると同
時に後退した。
・ローラー(10t)運転手は、重機の後ろ
に被災者がいるとは思わなかった。
(ローラ―(10t)と被災者との距離は1m
程度であったため、センサーは機能し
ていたものの、ほぼ同時に被災し
た。)L2S1E1c.監視員の増置による監視体制の強化
従来は、作業責任者が全体を俯瞰して、作業安全の監視を行っていたが、
以下のとおり監視体制を強化する。(作業要領書に明記)
・重機運転手はエンジンをかける前に降りた状態で周囲を直接確認し、始動さ
せる。発進時はクラクションで周囲に注意喚起し、監視員と周囲について相
互確認後、合図を送って発進する。
請負先L3Liveware 2
(周りの人)
職場的要素
情報伝達
・周囲の作業員が管理撮影
することを認知していな
かった
・重機の稼働範囲に立ち入る際は、重
機を止めるなど施工側と管理側の意思
疎通が不十分だった。L3Management
(管理)L3E1
・アスファルトフィニッシャー使用時、フィニッシャー側方でのならし作業を
実施する場合は、新たにアスファルトフィニッシャーを専任で監視する監視
員2名(両サイド)を配置する。
・立入制限区画により、確実に入域制限を行う。さらに監視員がしっかりと監
視・確認を行う。
請負先
Hardware
(ハードウェア)
機器
設計・機能
品質
物理的・化学的挙動
・後方確認の際に、ロー
ラー運転席から死角があっ
た。
・機械の特性上、死角となる部分があ
る。(接触防止センサー、警告灯等の
装備あり)H1H1
d.運転手による死角の確認及び立入制限の徹底
・車幅や車高による重機前後の死角がある場合は、原則作業エリア区画により
立入制限を行うと共に、運転手による直接の目視確認や誘導員の配置を行う。
更に、ローラー後方の確認ができるモニター搭載仕様を導入し、死角も
含め、後方確認を徹底する。(作業要領書へ明記)
Software
(ソフトウェア)
規程・マニュアル
管理方針・計画
教育・訓練
・被災者は運転手に合図を
送らず、道路内に移動し
た。
・元請では、重機近接時は運転手に合
図を送り作業範囲内に入ることとして
いたが、合図は明確なルールではなく
徹底されていなかった。S1Environment
(環境)
作業環境
・被災者はローラー(10t)
の後進に気付かなかった。
・周囲に重機(アスファルトフィニッ
シャ)が稼働しており、騒音があっ
た。また、当日は風が強く、風の音で
重機の稼働音が聞き取りづらい状況
だった。E1組織
点検・管理
現場状況
・安全意識と基本行動につ
いて、日頃の教育や、現場
でのOJTにより被災者が
十分に理解していると思い
こんでいた。
・教育は全体的評価を行っていたが、
個人評価を行えていなかった。M1M3L1L2L3M2
請負先
当 社
・具体的な作業手順に基づ
いた、危険予知が共有でき
ていなかった。
・過去の同様のKY活動で安全にでき
ていた。M2M1
a.作業現場におけるOJTの際、熟練者が自らの経験を基に若手メンバーに
「危険作業はしてはならない」ことを徹底して教え込む。(熟練者が手本と
なり、若手と十分にコミュニケーションを図り徹底して指導・継承を図り、
若手は先輩からしっかりと学び実践する。)
請負先
・1日で完了する工事に対
して、当社管理職による現
場観察の機会が少なかっ
た。
・原子炉施設や発電設備に関する工事
や建設工事に携わる請負会社の件数が
多く、それ以外の現場観察は少なかっ
た。M3f.当社管理職による現場観察・指導の実施
・作業再開時に、当社管理職による現場観察を実施し、上記対策が適切に実施・
実践されていることの確認・指導を行う。
(2)安全意識の醸成、教育の徹底
請負先
e.作業前の安全意識の徹底
・「自分の身は自分で守る」という安全意識の徹底を図るため、作業前のKY
活動を形骸化させず、考えられる危険要素〔どういうことをすると、
どう(事故、ケガ)なるか〕を具体的かつ詳細に洗い出し、対策とともに漏れ
なく全員で唱和し、作業に携わる個々がしっかりと認識した上で作業に臨む。
・作業要領書に記載の手順や内容をしっかりと理解していることを相互に確認
し合う。
請負先
M-SHELLとは、ヒューマンファクターに起因する災害分析に適した手法であり、人間(Liveware)を中心として、周囲[Software(ソフトウェア)、Hardware(ハードウェア)、Environment(環境)、
management (管理)]との関係性で災害の原因を分析する手法。
添付資料ー3

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