109 九州電力 CSR 報告書 2011
第三者評価
昨年3月11日の福島原発事故により、
全世界の原子力発電事業は
その継続を巡って大きな岐路に立たされている。
此の事故により、東京電力のみならず日本の電力会社は総て自己保有の原発の安全性
を改めて見直すことを求められており、
玄海、
川内2か所の原発を有
する九州電力もこの例外ではない。
加えて九州電力では、その是非
を問う経済産業省主催の
「放送フォーラム in 佐賀県」
(2011年6月
26日)
で、
「意見投稿呼びかけ事象」
(いわゆる
「やらせメール問題」)を引き起こしてしまった。
この二つの問題はいずれもCSRに直結する問題であり、
これらの
問題をどう取り扱うかは本年度CSR報告書の喫緊の課題であった
ことは想像に難くない。
しかしながら、
この問題の原因分析および再
発防止策の深掘りを行う為に、
郷原信郎氏等の有識者で構成される
第三者委員会を設置し意見を聴収しようとしたが、
2011年10月中
旬に出された九州電力からの報告書に対しては監督官庁を始め各
界より、上記委員会の意見を十分に反映していないとの批判が出さ
れてしまった事は非常に残念である。
本報告書はこれらの問題に対応するために、
紙面を昨年度の報告
書から大幅に改訂している。
また2011年12月22日付経済産業大
臣宛て眞部社長の書簡で追加の取り組みについて報告を行ってい
る。
これらを一読する限り、
九州電力は以下に述べるように、
1原発
の安全性、および2やらせメール問題に対して正面から答えるべく
最大限の努力をしているように見受けられる。
意見投稿呼びかけ問題
(P3〜4、
P9〜12)
本件については、
まず本レポート冒頭の社長挨拶でこれを取りあ
げ、
「一連の事象の根本原因は、原子力発電に係る急激な環境変化
への対応の不十分さ
(コンプライアンスセンスの低さ)
、行政機関と
の関係マネジメント上の問題等にある」
と、
眞部社長自ら反省の弁を
述べている。
更に報告書本文では、本件について特集記事を設け
て事件の経緯について詳細な説明を行い、
これらの問題が社内から
の依頼で生じたことを佐賀県行政府との関係も含めて認め、
原因分
析と再発防止策の深掘を行おうとしている等、
失墜した信頼回復に
向けての迅速で真摯な努力がうかがえる。
今後は同社がこの
「第三
者委員会」
の評価と勧告をどのように実行・継続していくかを見守り
たい。
原発の安全対策見直し
(P13〜16)
次に原発の安全対策見直しについてであるが、
これについて本報
告書は
「福島第一原子力発電所事故を踏まえた安全対策について」
と題する新たなページを設けて克明な説明を行っている。
この中で九州電力はまず、
「原子力発電についてその重要性は変
わらない」
との基本姿勢を確認したうえで、
これを実現する大前提と
して経済産業省の指示に基づく以下三項目の安全対策に関して、い
ずれも同省より適切に実施されているとの評価を得ている旨報告
している。
1)緊急安全対策の実施
2)外部電源の信頼性確保
3)シビアアクシデントへの対応
しかしながらこれら経済産業省の指示はいずれも地震・津波に
対する電力確保の対策に関するものであり、福島第一原子力発電所
事故を踏まえたものでしかない。
果たして将来起こるかもしれない
原発事故の対策としてこれだけで十分なのかどうか疑問が残る。例えば、核ジャックのようなテロによる事故、航空機墜落による事故
その他、今回の事故とは全く異質の原因による事故への対策も含
めた、
より大局的な事故対策を官民共同して考える必要があるので
はなかろうか。
こうした対策を行わない限り事故対策は常に事故が
生じた後の後追い対策になりかねないし、国民としても安心できな
いように思われる。
関係者からは、
「これらの対策は無論行っている
が、特にテロ対策等については事の性質上おもてには出せない」との説明も聞いているが、
これについて一切知らされていない一般国
民としては甚だ不安を感じることであろう。
スマートグリッド
(P83)
昨年の第三者評価では、
「太陽光発電による戸別発電についての
取り組みに触れてほしい」
とお願いしたが、本報告書では早速太陽
光発電を含む電力の地域安定供給を実現するスマートグリッ
ドに関
する実証実験の取り組み内容という形で分かりやすいご報告をい
ただいた。
本件は今回の原発事故をきっかけとして見直しを迫られ
た日本のエネルギー政策を論じる際極めて重要な課題と思われる
ので、
今後も是非本件に関する研究を深化させていただきたい。
2010年度CSR報告書との相違
本年度の報告書は冒頭で説明した事由により、その構成を2010
年度の報告書から大幅に変更しているがこれらの点以外で両報告
書を比較したうえで、
気になった相違点を簡単に検証してみたい。
1)玄海原発周辺海域における津波の影響評価
(P16、P61) 玄海原発周辺海域のプレート内にM.8規模の地震による津波
の影響が4.9mとされているが、
M9での東北大震災における津
波の影響が13m以上あったことからして、一般住民としては納
得のいかないところがあるのではないか。
ケース1、2はそれぞ
れ中央防災会議モデル等を計算根拠としているが、玄海原発周
辺海域の地震についてもこれらと同様の根拠を示す必要がある
と思われる。
2)CSR報告書2010
(冊子版)
アンケート結果の概要(冊子版P16) 「1.
報告書に対する評価、(1)わかりやすさ」
の評価で
「大変分
かりやすい、分かりやすい」
が昨年に比べて12.5ポイントも下
がっている点が気になる。
報告書全体は回を重ねるごとに質が
あがってくるが、
その分専門的で詳細になりすぎているためかも
しれない。
注意すべきであろう。
第三者意見を受けて
当社では、
CSR報告書の客観性を確保するため、
有識者
からの第三者意見を頂戴しています。
両氏からご意見をいただいた意見投稿呼びかけ事象等
につきましては、重く受け止めており、真摯に反省しております。
原因分析を踏まえた今後の取組みについては、社長を
本部長とする
「信頼回復推進本部」
のもと、透明性の高い企
業活動の確保やステークホルダーとの対話など、再発防止
と信頼回復に向け、
全社一丸となって取り組んでまいり
ます。
九州国際大学
大学院法学研究科
法学部教授古ふるや
屋 邦
くにひこ
彦氏 110九州電力 CSR 報告書 2011
2011 Corporate Social Responsibility Report
理念はつらぬけるか
九州電力の経営理念は、
「快適で、環境にやさしい」
そんな毎日を
子供たちの未来につなげていきたい...という、希望に満ちたもの
です。しかし、
私たちは2011年3月11日の東日本大震災を起点に、
「日本」
のそして
「己の」
生活基盤を、根本から考え直さなければな
らないと思うようになりました。
被災していない九州に住む私たち
も、生活そのものの価値観が変わりました。
他所の電力会社の問題
としてではなく全ての事業所、
そして、
当然身近な
「九州電力」
はどう
か...。
私は何を為すべきか...もっと関心を持ち、
係わりを持つべきな
のに、
「安全・安心は大前提」
で、
ぬくぬくと、
何も考えず、
便利に甘え
ていなかったか。
そして今、
消費者が知らない・知らされない生活環
境の事実があるのではないか...と、
困惑が重なっている昨今です。
説明と解説、
対応の現状
2011年度報告書の筆頭に
「経済産業省主催の県民説明番組への
意見投稿呼びかけに関する事実関係と、
今後の対応
(再発防止策)について」
と、
「福島第一原子発電所事故を踏まえた安全対策等につい
て」
があります。今年度の
「九州電力」
CSR報告書は、
第三者委員会の
見解に異論が出されたり、経営首脳陣の
「けじめ」
のつけ方・報告書
の再提出など、日々、テレビや新聞等のマスコミで報道されており、
多方面からの強い関心が寄せられる事案であったと思われます。 P9に報告されている
「事実関係」
では、県民説明番組への賛成意
見投稿呼びかけや公開討論会での仕込み質問、
シンポジゥム等への
参加・発言呼びかけに対する事実を明らかにしています。
なぜ、
この
ようなことを改めて報告しなければならなくなったのか...、P10で
「一連の事象の根本的な要因」
として自己分析しています。
その最後
に、
「組織風土分析結果」
で、
全従業員へのアンケート調査
(有効回答
数が9,779名)
の報告がありましたが、回収率が82.3%だった事を
残念に思いました。
数の集積は分析の大きな裏付けとなっており、信頼性の高いものと考えますが、これ程マスコミに大きく取り上げら
れ、社会的に関心の高い出来事であったにも関わらず、当事者とも
言うべき従業員から100%の回収が得られていないことが不思議
でした。
調査結果では、
現場主義重視・命令系統の明確性など
「好ま
しい風土」
に対する値は顕著に高かったということですが、
安定し快
適・順調に働ける職場環境であるが故に、緊張・緊迫した意識を希
薄にしたのかも知れないと思いました。
今後の対応
「再発防止と信頼回復に向けた取り組み」
は、一連の
事象概要の説明や対応を、限られた紙面にどのように説明・報告す
べきか、
大変難しい対応が求められますが、
反省を込めて
「今後の対応(再発防止策)」について具体的に記載し、コンプンイアンスの本
質や重要性に関する意識の徹底を図ったこと、
信頼回復のために全
社を挙げて努力していることを、
分かり易く解説しており高く評価さ
れます。
ただ、
これだけで十分か...と言うとそうではなく、
別冊にて
解説を付けるなどの工夫も必要かと思われました。
福島第一原子力発電所の事故は、今後の日本のエネルギー政策
やセキユリテイのあり方、
「安全対策」
の確保の見直しに大きな警鐘
を鳴らしました。P3・
4に掲載されている眞部利應社長のトップメッ
セージに続き、
P13からの
「安全対策について」
は、
経済産業省から
の指示内容、指示に基づく緊急安全対策・信頼性向上対策・訓練実
施報告、
そして外部電源の信頼性確保、
シビアアクシデント
(過酷事故)への対応が、
簡潔に分かり易く報告されており、
P61からの
「安全
第一主義の徹底」
では、詳しくお伝えしますコーナーで、原子力発電
の安全確保について地震・津波・災害などを報告していますが、
分か
り易いものでした。
なお、P21の
「CRSマネジメント」
では、
アンケート結果が報告さ
れており、
取組みに対する評価では、
「コンプライアンス経営の推進」
で2009年に
「評価できる」
とした83.3%の人が、2010年度では
74.5%に減少しており、
「情報公開の推進」
は81.4%の評価を得て
いたものが、
2010年には68.7%に減少する等、
全取組み項目が大
きなマイナス評価であった事を報告しています。
次回の調査ではど
のような結果になるのか、
少し怖いような気がします。
今回の報告書には津波の影響評価
(P16)
や、将来を見据えた電
力の安定供給と原子力の重要性を示唆しており、
「安全第一主義の
徹底」
を図りながら、
温暖化や代替エネルギーについて、
快適で環境
にやさしい持続可能な社会形成へ向けて企業努力を行い、
未来を担
う子供たちへ安心できる明日を提供するための施策が、分かり易く
説明されています。
この
「CSR報告書」
が多くの場面で活用されることに期待したい
と思います。
また、取組みの実施状況については、今後、当社のホームペー
ジや広報誌等によ
り、
お知らせしてまいり
ます。
また、古屋教授からご提言いただいた、原子力発電所の安全
確保については、発電所の主要建屋のコンクリート壁等の強固
な障壁ならびにフ
ェンスや侵入検知装置等によって、
外部からの
衝撃や不審者の侵入等に備えています。
更に警備当局との連携
のもと警備に万全を期しており
ます。
今後と
も、
核物質防護対策の
検討を含め、原子力発電所の安全対策を徹底し、地域の皆さまのご理解と信頼を得られる
ような情報開示に努めてまいり
ます。
さらに、
両氏からご指摘いただいたアンケートにおける評価の
低下については、昨年から対象者、設問内容を変更したことの
影響もあると考えていますが、
ご意見を踏まえ、従来にも増して
CSRへの取組みを充実させ、CSR報告書において一層わかり
やすくお伝えできるよう工夫してまいり
ます。
今回いただいたご指摘につきま
しては、CSRへの取組みに反
映させ、その内容を次回報告書に掲載し、ステークホルダーの
皆さ
まのご意見を賜りたいと考えています。
NPO法人
ワークショップ
「いふ」
理事長星ほしこ
子 邦
くにこ
子氏
九州電力株式会社
代表取締役副社長
CSR担当役員 日名子 泰通

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